(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134293
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】アスファルト乳剤
(51)【国際特許分類】
C08L 95/00 20060101AFI20230920BHJP
C08L 101/06 20060101ALI20230920BHJP
C09K 23/52 20220101ALI20230920BHJP
【FI】
C08L95/00
C08L101/06
C09K23/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039745
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(71)【出願人】
【識別番号】590002482
【氏名又は名称】株式会社NIPPO
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 和夫
(72)【発明者】
【氏名】今井 洋子
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 佳那
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雅義
(72)【発明者】
【氏名】菊池 玲児
(72)【発明者】
【氏名】門田 誠也
(72)【発明者】
【氏名】横溝 克美
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA053
4J002AB013
4J002AB043
4J002AB053
4J002AG001
4J002CH052
4J002EN136
4J002EW046
4J002FD312
4J002FD313
4J002FD316
4J002GL00
4J002HA07
(57)【要約】
【課題】良好な乳化性および施工性を有するアスファルト乳剤を提供する。
【解決手段】アスファルト乳剤は、エマルション粒子を水相中に含み、前記エマルション粒子は、アスファルト粒子と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体および/または水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子とを有し、前記アスファルト粒子の表面は、前記閉鎖小胞体および/または前記重縮合ポリマーの粒子で覆われ、前記アスファルト粒子の160℃における粘度は、20mPa・s以上1580mPa・s以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エマルション粒子を水相中に含み、
前記エマルション粒子は、アスファルト粒子と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体および/または水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子とを有し、
前記アスファルト粒子の表面は、前記閉鎖小胞体および/または前記重縮合ポリマーの粒子で覆われ、
前記アスファルト粒子の160℃における粘度は、20mPa・s以上1580mPa・s以下である、
アスファルト乳剤。
【請求項2】
前記アスファルト乳剤の25℃におけるエングラー度は1以上60以下である、請求項1に記載のアスファルト乳剤。
【請求項3】
前記アスファルト乳剤は飽和脂肪酸をさらに含む、請求項1または2に記載のアスファルト乳剤。
【請求項4】
前記アスファルト粒子は軟質アスファルト粒子である、請求項1~3のいずれか1項に記載のアスファルト乳剤。
【請求項5】
前記アスファルト乳剤に含まれる前記エマルション粒子の含有割合は1%以上80%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のアスファルト乳剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト乳剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アスファルト乳剤について、界面活性剤をアスファルトに添加することで、アスファルトを乳化させている。しかしながら、油相であるアスファルトの種類に応じて、アスファルトの乳化に適する界面活性剤の種類が異なる。そのため、このような界面活性剤で乳化したアスファルト乳剤(以下、界面活性剤型のアスファルト乳剤ともいう)では、アスファルトや製造する乳剤種の種類に応じて、界面活性剤を選択する必要がある。さらに、界面活性剤型のアスファルト乳剤では、時間の経過と共に、界面活性剤の乳化の効果が低下し、乳化していたアスファルトが水相と分離することがある。
【0003】
近年では、このような問題を解決した三相乳化法を用いた乳化方法が特許文献1に記載されている。特許文献1に記載されているO/W型エマルションでは、25℃における粘度が3000mPa・s以上である液体および/または25℃において半固体および/または25℃において固体である油相と、水相と、水酸基を有する重縮合ポリマー粒子および/または閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体とを含む。そして、重縮合ポリマーの粒子および/または閉鎖小胞体は、油相および水相の界面に介在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、三相乳化法を用いた乳化方法によって製造したアスファルト乳剤が記載されている。但し、特許文献1では、室温で高粘度の液体、半固体または固体の油剤を含みながらも、室温で流動性のあるエマルションを提供することを目的としている。そのため、特許文献1のアスファルト乳剤では、散布や塗布などの施工時の施工性について改善の余地がある。
【0006】
本発明の目的は、良好な乳化性および施工性を有するアスファルト乳剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] エマルション粒子を水相中に含み、前記エマルション粒子は、アスファルト粒子と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体および/または水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子とを有し、前記アスファルト粒子の表面は、前記閉鎖小胞体および/または前記重縮合ポリマーの粒子で覆われ、前記アスファルト粒子の160℃における粘度は、20mPa・s以上1580mPa・s以下である、アスファルト乳剤。
[2] 前記アスファルト乳剤の25℃におけるエングラー度は1以上60以下である、上記[1]に記載のアスファルト乳剤。
[3] 前記アスファルト乳剤は飽和脂肪酸をさらに含む、上記[1]または[2]に記載のアスファルト乳剤。
[4] 前記アスファルト粒子は軟質アスファルト粒子である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のアスファルト乳剤。
[5] 前記アスファルト乳剤に含まれる前記エマルション粒子の含有割合は1%以上80%以下である、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載のアスファルト乳剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、良好な乳化性および施工性を有するアスファルト乳剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0010】
実施形態のアスファルト乳剤は、エマルション粒子を水相中に含み、前記エマルション粒子は、アスファルト粒子と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体および/または水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子とを有し、前記アスファルト粒子の表面は、前記閉鎖小胞体および/または前記重縮合ポリマーの粒子で覆われ、前記アスファルト粒子の160℃における粘度は、20mPa・s以上1580mPa・s以下である。
【0011】
実施形態のアスファルト乳剤では、乳化しているエマルション粒子が水相中に含まれる。エマルション粒子は、アスファルト乳剤の油相であるアスファルト粒子と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体(以下、単に閉鎖小胞体ともいう)および/または水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子(以下、単に重縮合ポリマーの粒子ともいう)とを有する。このように、アスファルト乳剤は、エマルション粒子が水相に分散しているO/W型エマルションである。
【0012】
アスファルト粒子の表面は、閉鎖小胞体および/または重縮合ポリマーの粒子で覆われている。アスファルト粒子の表面が閉鎖小胞体のみで覆われても、アスファルト粒子の表面が重縮合ポリマーの粒子のみで覆われても、アスファルト粒子の表面が閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子で覆われても、エマルション粒子の乳化性は同様である。そのため、エマルション粒子は、閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子について、閉鎖小胞体のみを有してもよいし、重縮合ポリマーの粒子のみを有してもよいし、閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子を有してもよい。
【0013】
閉鎖小胞体および/または重縮合ポリマーの粒子がアスファルト粒子の表面を覆うと、以下のような機構によって、アスファルト乳剤の乳化性が維持される。
【0014】
自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体は、水中で自発的に閉鎖小胞体の形成能を有する。閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子は、いわゆる三相乳化能を有する粒子として知られている。閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の表面は親水性であるため、閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子は、互いに斥力が発生する。閉鎖小胞体や重縮合ポリマーの粒子をアスファルト粒子の表面に配置、すなわちアスファルト粒子の表面が閉鎖小胞体や重縮合ポリマーの粒子で覆われることで、アスファルト粒子間に斥力が発生する。このようなアスファルト粒子間の斥力は、アスファルト粒子間に発生する引力よりも大きいため、水相中でのアスファルト粒子同士の凝集が抑制され、エマルション粒子の分散性が維持および向上する。
【0015】
三相乳化法は、閉鎖小胞体や重縮合ポリマーの粒子が、油相と水相との界面に介在して、ファンデルワールス力により油相に付着することで、乳化を可能とするものである。この三相乳化機構は、親水性部分および疎水性部分をそれぞれ水相および油相に向け、油水界面張力を下げることで乳化状態を維持する、界面活性剤による乳化機構とは全く異なる(例えば特許3855203号公報参照)。実施形態のアスファルト乳剤では、上記のように、閉鎖小胞体や重縮合ポリマーの粒子がアスファルト粒子を乳化している。
【0016】
両親媒性物質は、水中において閉鎖小胞体の形成能を有する両親媒性物質であり、例えば、水中で二分子膜を形成可能な(つまり、水中でベシクルを形成可能な)ものである。閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質としては、下記式(1)で表されるポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体、または下記式(2)で表されるジアルキルアンモニウム誘導体、トリアルキルアンモニウム誘導体、テトラアルキルアンモニウム誘導体、ジアルケニルアンモニウム誘導体、トリアルケニルアンモニウム誘導体、もしくはテトラアルケニルアンモニウム誘導体のハロゲン塩の誘導体が好適である。その中でも、ポリオキシエチレン硬化ひまし油が好ましい。
【0017】
【0018】
式(1)中、エチレンオキシドの平均付加モル数であるE(E=L+M+N+X+Y+Z)は、好ましくは3以上100以下である。
【0019】
【0020】
式(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、炭素数8以上22以下のアルキル基またはアルケニル基であり、R3およびR4は、それぞれ独立に、水素または炭素数1以上4以下のアルキル基であり、Xは、F、Cl、BrまたはIであることが好ましい。
【0021】
両親媒性物質の好適例としては、上記の他に、リン脂質やリン脂質誘導体など、特に疎水基と親水基とがエステル結合したものが挙げられる。
【0022】
リン脂質としては、下記式(3)で表される構成のうち、炭素鎖長12のDLPC(1,2-Dilauroyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-choline)、炭素鎖長14のDMPC(1,2-Dimyristoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-choline)、炭素鎖長16のDPPC(1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-choline)が好適である。
【0023】
【0024】
また、下記式(4)で表される構成のうち、炭素鎖長12のDLPG(1,2-Dilauroyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-glycerol)のNa塩またはNH4塩、炭素鎖長14のDMPG(1,2-Dimyristoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-glycerol)のNa塩またはNH4塩、炭素鎖長16のDPPG(1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-glycerol)のNa塩またはNH4塩が好適である。
【0025】
【0026】
さらに、リン脂質の好適例としては、卵黄レシチンまたは大豆レシチンなどのレシチンが挙げられる。
【0027】
また、両親媒性物質の他の好適例としては、脂肪酸エステルが挙げられる。脂肪酸エステルとしては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが好適である。
【0028】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、脂肪酸が飽和不飽和を問わず、直鎖脂肪酸または分岐脂肪酸であり、その脂肪酸とポリグリセリンとのエステルであることが好ましく、その中でも、モノミリスチン酸ポリグリセリル、ジミリスチン酸ポリグリセリル、トリミリスチン酸ポリグリセリル、モノパルミチン酸ポリグリセリル、ジパルミチン酸ポリグリセリル、トリパルミチン酸ポリグリセリル、モノステアリン酸ポリグリセリル、ジステアリン酸ポリグリセリル、トリステアリン酸ポリグリセリル、モノイソステアリン酸ポリグリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル、トリイソステアリン酸ポリグリセリル、モノオレイン酸ポリグリセリル、ジモノオレイン酸ポリグリセリル、トリモノオレイン酸ポリグリセリルがより好ましく、ミリスチン酸デカグリセリルがさらに好ましい。
【0029】
ショ糖脂肪酸エステルとしては、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステルが好ましい。
【0030】
重縮合ポリマーの粒子を構成する重縮合ポリマーは、天然高分子または合成高分子が好適であり、アスファルト乳剤の用途に応じて適宜選択される。安全性に優れ、一般的に安価である点で、天然高分子が好ましく、乳化機能に優れる点で、糖ポリマーがより好ましい。
【0031】
重縮合ポリマーの粒子とは、重縮合ポリマーの単粒子、および重縮合ポリマーの単粒子同士が連なったものを包含する一方、単粒子化される前の重縮合ポリマーの凝集体(網目構造を有する)は包含しない。
【0032】
糖ポリマーは、セルロース、デンプンなどのグルコシド構造を有するポリマーである。例えば、リボース、キシロース、ラムノース、フコース、グルコース、マンノース、グルクロン酸、グルコン酸などの単糖類の中からいくつかの糖を構成要素として微生物が産生するもの、キサンタンガム、アラビアゴム、グアーガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、フコイダン、クインシードガム、トラントガム、ローカストビーンガム、ガラクトマンナン、カードラン、ジェランガム、フコゲル、カゼイン、ゼラチン、デンプン、コラーゲン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸誘導体、シロキクラゲ多糖体などの天然高分子およびそれらの誘導体、メチルセルロース、エチルセルロース、カチオン化セルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、セルロース結晶体、デンプン・アクリル酸ナトリウムグラフト重合体、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの半合成高分子、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸塩、ポリエチレンオキシドなどの合成高分子が好ましい。その中でも、カルボキシメチルセルロース、カチオン化セルロース、ヒドロキシエチルセルロースがより好ましい。
【0033】
閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の総量は、アスファルト乳剤の総量に対して、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上、さらに好ましくは0.30質量%以上である。また、閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の総量は、アスファルト乳剤の総量に対して、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の総量がアスファルト乳剤の総量に対して0.01質量%以上であると、アスファルト乳剤の乳化性が良好であり、閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の総量が増加するほど、乳化性が向上する。また、閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の総量が高濃度であると、アスファルト乳剤を舗装へ散布した後のアスファルト乳剤が自動車のタイヤに付着することを抑制できる。すなわち、アスファルト乳剤のタイヤ付着率を低下できる。一方で、閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の総量がアスファルト乳剤の総量に対して30質量%程度であれば、アスファルト乳剤の乳化性は十分に良好である。
【0034】
閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の総量とは、エマルション粒子を構成する閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の総量であり、エマルション粒子を構成しない閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子を含まない。
【0035】
閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の平均粒子径は、エマルション粒子を形成する前では8nm以上800nm以下であるが、アスファルト乳剤では8nm以上500nm以下である。閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の平均粒子径は、粒度分布測定装置FPAR(大塚電子(株)社製)を用いて動的光散乱法により測定し、Contin解析により求められる値である。上記範囲内の平均粒子径を有する閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の調製方法は、特許第3855203号などに開示されている通り、三相乳化能を有する粒子の調製方法として従来公知であるため、ここでは便宜上省略する。
【0036】
なお、油性成分の乳化に用いる後述の混合溶液に対して光散乱測定を行い、混合溶液中に存在する閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の平均粒子径が、例えば、8nm以上800nm以下であると、閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子は三相乳化可能であると判断できる。さらに、アスファルト乳剤に含まれるエマルション粒子に対して原子間力顕微鏡(AFM)観察を行い、閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の少なくとも一方がアスファルト粒子の表面に付着していることを確認することで、エマルション粒子を確認することができる。
【0037】
アスファルト乳剤に含まれるエマルション粒子の含有割合は、好ましくは1%以上、より好ましくは25%以上、さらに好ましくは40%以上である。また、アスファルト乳剤に含まれるエマルション粒子の含有割合は、好ましくは80%以下、より好ましくは75%以下、さらに好ましくは70%以下である。アスファルト乳剤に含まれるエマルション粒子の含有割合が上記範囲内であると、舗装用乳剤としての規格を十分に満足するアスファルト乳剤を製造可能であり、アスファルト乳剤の施工性を向上できる。
【0038】
アスファルト粒子の平均粒子径は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.10μm以上、さらに好ましくは1.00μm以上である。また、アスファルト粒子の平均粒子径は、好ましくは1180μm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。アスファルト粒子の平均粒子径が上記範囲内であると、アスファルト乳剤の乳化性は良好である。アスファルト粒子の平均粒子径は、粒度分布測定装置FPAR(大塚電子(株)社製)を用いて動的光散乱法により測定し、Contin解析により求められる値である。
【0039】
アスファルト乳剤において、水相はエマルション粒子を分散する媒体である。
【0040】
水相の総量は、アスファルト乳剤の総量に対して、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは35質量%以上である。また、水相の総量は、アスファルト乳剤の総量に対して、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。水相の総量が上記範囲内であると、アスファルト乳剤の乳化性が良好である。
【0041】
アスファルト乳剤に含まれるアスファルト粒子の160℃における粘度(以下、単にアスファルト粒子の粘度ともいう)は、20mPa・s以上1580mPa・s以下である。アスファルト粒子の上記粘度が上記範囲内であると、日本工業規格 JIS K 22082009および日本アスファルト乳剤協会規格 JEAAS2020に定めるエングラー度規格を満足することができる。
【0042】
また、アスファルト粒子の上記粘度が20mPa・s以上であると、舗装用乳剤としての規格を満足するアスファルト乳剤を製造でき、アスファルト乳剤の散布や塗布などの施工時の施工性が良好である。また、アスファルト粒子の上記粘度が1580mPa・s以下であると、アスファルト乳剤の乳化性が良好である。このような観点から、アスファルト乳剤に含まれるアスファルト粒子の160℃における粘度について、下限値は、20mPa・s以上であり、好ましくは40mPa・s以上、より好ましくは50mPa・s以上であり、上限値は、1580mPa・s以下であり、好ましくは500mPa・s以下、より好ましくは300mPa・s以下である。
【0043】
また、アスファルト乳剤の25℃におけるエングラー度(以下、単にアスファルト乳剤のエングラー度ともいう)は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上である。アスファルト乳剤のエングラー度が1以上であると、アスファルト乳剤の低粘度による散布後の流出を抑制できる。また、アスファルト乳剤のエングラー度は、好ましくは60以下、より好ましくは15以下、さらに好ましくは6以下である。アスファルト乳剤のエングラー度が60以下であると、アスファルト乳剤の過剰な粘度による散布ムラや散布ノズルの目詰まりを抑制できる。また、アスファルト乳剤のエングラー度が上記範囲内であると、アスファルト乳剤の散布や塗布などの施工時の施工性が良好である。
【0044】
また、アスファルト乳剤は飽和脂肪酸をさらに含むことが好ましい。飽和脂肪酸としては、ギ酸、酢酸、ポロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、べヘン酸、トリコシル酸、リグノセリン酸が好適である。アスファルト乳剤が飽和脂肪酸を含むと、舗装へ散布した後のアスファルト乳剤が自動車のタイヤに付着することを抑制できる。すなわち、アスファルト乳剤のタイヤ付着率を低下できる。
【0045】
飽和脂肪酸の総量は、アスファルト乳剤の総量に対して、0.01質量%以上10.00質量%以下であることが好ましい。飽和脂肪酸の上記総量が上記範囲内であると、アスファルト乳剤のタイヤ付着率を十分に低下できる。
【0046】
アスファルト粒子を構成するアスファルトとしては、石油から製造される石油アスファルトが好適である。石油アスファルトとしては、軟質アスファルトや硬質アスファルトが挙げられる。また、アスファルトは、脱色アスファルトでもよい。脱色アスファルトには、ポリマー粒子(脱色乳剤)が含まれている。アスファルト粒子を構成するアスファルトの種類は、アスファルト乳剤の用途に応じて、適宜選択される。
【0047】
また、従来のタイヤ付着抑制型アスファルト乳剤(界面活性剤型のアスファルト乳剤)では、主に硬質アスファルトが用いられており、軟質アスファルトを用いたアスファルト乳剤では、タイヤ付着率が悪かった。一方で、実施形態のアスファルト乳剤は、三相乳化法を用いていることから、アスファルト粒子を構成するアスファルトが軟質アスファルト、すなわち、アスファルト粒子が軟質アスファルト粒子であっても、良好な乳化性、施工性、タイヤ低付着率などの特性を有する。
【0048】
また、アスファルト乳剤はpH調整剤をさらに含んでもよい。酸性のpH調整剤としては、酢酸および塩酸が好適である。アルカリ性のpH調整剤としては、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)が好適である。
【0049】
実施形態では、ノニオン系のアスファルト乳剤を製造できる。アスファルト乳剤の用途に応じて、各種のpH調整剤をアスファルト乳剤に含有することによって、カチオン系のアスファルト乳剤またはアニオン系のアスファルト乳剤を容易に調製できる。一方で、従来のアスファルト乳剤(界面活性剤型のアスファルト乳剤)はカチオン系が広く使用されているので、アルカリ性のpH調整剤を従来のアスファルト乳剤に添加すると、アスファルト乳剤が変質する。そのため、従来のアスファルト乳剤では、アニオン系のアスファルト乳剤を調整することが容易ではない。
【0050】
また、アスファルト乳剤は、乳化性および施工性を低下しない程度に、任意成分を含んでもよい。このような任意成分としては、多価アルコール、グリコールエーテル類、界面活性剤、液状油、防腐成分、その他の添加剤などが挙げられる。アスファルト乳剤は、1種の任意成分を含んでもよいし、2種以上の任意成分を組み合わせて含んでもよい。アスファルト乳剤に含まれる任意成分の総量は、アスファルト乳剤の用途に応じて、適宜設定される。
【0051】
このようなアスファルト乳剤は、高い施工性が求められている舗装用のアスファルト乳剤に好適である。
【0052】
次に、上記のアスファルト乳剤の製造方法について説明する。
【0053】
アスファルト乳剤の製造方法は、混合工程と乳化工程とを有する。
【0054】
混合工程では、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体および/または水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子と水とを混合して混合溶液を得る。混合溶液では、複数の閉鎖小胞体および/または複数の重縮合ポリマーの粒子が水中に分散している。
【0055】
混合工程において、水を撹拌機で撹拌しながら、複数の閉鎖小胞体および/または複数の重縮合ポリマーの粒子を水に添加することによって、閉鎖小胞体および/または重縮合ポリマーの粒子と水とが混合される。水の温度が60℃以上であると、閉鎖小胞体および/または重縮合ポリマーの粒子が良好に撹拌されやすい。
【0056】
閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子を用いる場合、閉鎖小胞体を水に添加して得られた溶液と重縮合ポリマーの粒子を水に添加して得られた溶液とを混合して混合溶液を製造してもよいし、閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子を同じ水に添加して混合溶液を製造してもよい。
【0057】
混合工程における水の撹拌速度は1000rpm以上18000rpm以下であることが好ましい。撹拌速度が1000rpm以上であると、閉鎖小胞体および/または重縮合ポリマーの粒子は水中に十分に撹拌される。また、攪拌速度が18000rpm以下であると、閉鎖小胞体および/または重縮合ポリマーの粒子が過剰に細かくせん断されることによるアスファルト乳剤の乳化性の低下を抑制できる。
【0058】
混合工程によって得られた混合溶液を乳化工程に用いるまで、閉鎖小胞体および/または重縮合ポリマーの粒子の分散性を維持するために、混合工程の撹拌速度よりも低速で混合溶液を撹拌し続けてもよい。
【0059】
混合工程の後に行われる乳化工程では、アスファルトと混合工程で得た混合溶液とを混合し、アスファルト粒子の表面が閉鎖小胞体および/または重縮合ポリマーの粒子で覆われているエマルション粒子を含むアスファルト乳剤を得ることができる。混合溶液に混合するアスファルトの160℃における粘度は、20mPa・s以上1580mPa・s以下である。アスファルト乳剤では、複数のエマルション粒子が水に分散している。
【0060】
乳化工程において、アスファルトと混合溶液とを混合することによって、エマルション粒子が形成され、エマルション粒子を分散しているアスファルト乳剤が得られる。混合溶液と混合するアスファルトは、軟化点以上に加熱した液体状態のものでもよいし、溶剤状態のものでもよい。アスファルトを軟化点以上に加熱する場合、アスファルトの温度は好適には100℃以上200℃以下である。
【0061】
アスファルト乳剤の乳化性の向上の観点から、アスファルトと混合溶液とを混合する撹拌機は、ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミルであることが好ましい。
【0062】
また、アスファルト乳剤の製造方法は、乳化工程の前に、アスファルトに飽和脂肪酸を添加する第1添加工程をさらに有することが好ましい。第1添加工程では、アスファルトに飽和脂肪酸を添加する。そして、第1添加工程の後に実施する乳化工程では、飽和脂肪酸を含有するアスファルトと混合溶液とを混合する。アスファルト乳剤の製造方法が第1添加工程を有することによって、得られるアスファルト乳剤のタイヤ付着率をさらに低下できる。
【0063】
また、アスファルト乳剤の製造方法は、乳化工程の後に、アスファルト乳剤を冷却する冷却工程をさらに有することが好ましい。冷却工程は、空冷や水冷などによって、放冷時の冷却速度よりも速い冷却速度でアスファルト乳剤を冷却する。冷却工程では、冷却後のアスファルト乳剤の温度は、好ましくは100℃以下、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは25℃以下である。冷却後のアスファルト乳剤が100℃以下であると、アスファルト粒子の凝集を防ぐことができる。また、冷却後のアスファルト乳剤の温度は、好ましくは1℃以上、より好ましくは5℃以上、さらに好ましくは10℃以上である。冷却後のアスファルト乳剤が1℃以上であると、アスファルト乳剤の分離を抑制できる。
【0064】
また、アスファルト乳剤の製造方法は、混合工程の前に、閉鎖小胞体および/または重縮合ポリマーの粒子にpH調整剤を添加する第2添加工程をさらに有することが好ましい。第2添加工程では、pH調整剤が閉鎖小胞体および/または重縮合ポリマーの粒子に添加される。そして、第2添加工程の後に実施する混合工程では、pH調整剤を含有する閉鎖小胞体および/または重縮合ポリマーの粒子と水とを混合する。アスファルト乳剤の製造方法が第2添加工程を有することによって、カチオン系のアスファルト乳剤やアニオン系のアスファルト乳剤を容易に調製できる。
【0065】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0066】
次に、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
まず、水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子と水とを混合して、表1に示す混合溶液を得た。続いて、混合溶液と表1に示すアスファルトとを混合して、アスファルト乳剤を製造した。
【0068】
(実施例2)
表1に示す混合溶液およびアスファルトを用いたこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト乳剤を製造した。
【0069】
(実施例3)
表1に示す混合溶液およびアスファルトを用いたこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト乳剤を製造した。
【0070】
(実施例4)
表1に示す混合溶液およびアスファルトを用いたこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト乳剤を製造した。
【0071】
(実施例5)
表1に示す混合溶液およびアスファルトを用いたこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト乳剤を製造した。
【0072】
(実施例6)
まず、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体と水とを混合して、表1に示す混合溶液を得た。続いて、混合溶液と表1に示すアスファルトとを混合して、アスファルト乳剤を製造した。
【0073】
(実施例7)
表1に示す混合溶液およびアスファルトを用いたこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト乳剤を製造した。
【0074】
(実施例8)
表1に示す混合溶液およびアスファルトを用いたこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト乳剤を製造した。
【0075】
(実施例9)
表1に示す混合溶液およびアスファルトを用いたこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト乳剤を製造した。
【0076】
(実施例10)
表1に示す混合溶液およびアスファルトを用いたこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト乳剤を製造した。
【0077】
(実施例11)
まず、水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子と水とを混合して、表1に示す混合溶液を得た。続いて、軟化点以上に加熱している表1に示すアスファルトに飽和脂肪酸として牛脂硬化脂肪酸(日油株式会社製:ニッポST)を添加した。続いて、混合溶液と飽和脂肪酸を添加したアスファルトとを混合して、アスファルト乳剤を製造した。
【0078】
(実施例12)
表1に示すアスファルトを用いたこと以外は実施例11と同様にして、アスファルト乳剤を製造した。
【0079】
(比較例1)
表2に示す混合溶液およびアスファルトを用いたこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト乳剤を製造した。
【0080】
(比較例2)
表2に示す混合溶液およびアスファルトを用いたこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト乳剤を製造した。
【0081】
[評価]
上記実施例および比較例で得られたアスファルト乳剤について、以下の評価を行った。結果を表1~2に示す。
【0082】
[1] エングラー度
JIS K 2208に準拠して、アスファルト乳剤のエングラー度を測定した。
【0083】
[2] 乳化
製造直後のアスファルト乳剤を目視で観察し、以下のランク付けをした。
○:乳化していた。
×:乳化していなかった。
【0084】
【0085】
【0086】
表1に示すように、実施例1~12では、アスファルト乳剤に含まれるアスファルト粒子の160℃における粘度が20mPa・s以上1580mPa・s以下であったことから、アスファルト乳剤は良好な乳化性を示すため、施工性についても良好であることが示唆された。一方で、表2に示すように、比較例1~2では、アスファルト乳剤に含まれるアスファルト粒子の160℃における粘度が20mPa・s以上1580mPa・s以下の範囲外であったことから、アスファルト乳剤の乳化性は不良であり、施工性についても不良であることが示唆された。