(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134325
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】水処理装置及び水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/70 20230101AFI20230920BHJP
C02F 1/32 20230101ALI20230920BHJP
【FI】
C02F1/70 Z
C02F1/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126268
(22)【出願日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2022039136
(32)【優先日】2022-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】近藤 司
(72)【発明者】
【氏名】市原 史貴
【テーマコード(参考)】
4D037
4D050
【Fターム(参考)】
4D037AA03
4D037AB01
4D037BA18
4D037CA03
4D037CA09
4D037CA15
4D050AA05
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4D050BC06
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4D050BD06
4D050BD08
4D050CA03
4D050CA07
4D050CA08
(57)【要約】
【課題】例えば溶存水素濃度、溶存酸素濃度及び過酸化水素濃度が極小にまで低減された高品質の超純水を低コストで製造することが可能な水処理装置を提供する。
【解決手段】被処理水から酸化性物質(例えば溶存酸素及び過酸化水素の少なくとも一方)を除去する酸化性物質除去装置10を設ける。酸化性物質除去装置10は、被処理水に水素を添加する水素添加手段(水素源12)と、白金族金属担持触媒が層高10cm以上で充填され、水素が添加された被処理水が通水する触媒塔11と、触媒塔11の出口水における溶存水素濃度を測定する溶存水素計14と、溶存水素計14での測定値が第1の範囲となるように水素添加手段による水素の添加量を制御する制御部16とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水から酸化性物質を除去する酸化性物質除去装置を有し、
前記酸化性物質除去装置は、
前記被処理水に水素を添加する水素添加手段と、
白金族金属担持触媒を備え、水素が添加された前記被処理水が通水する触媒塔と、
前記水素添加手段による水素の添加量を制御する制御部と、
前記触媒塔の出口水における溶存水素濃度を測定する第1の測定手段と、
を有し、
前記触媒塔において、前記白金族金属担持触媒を含めて前記触媒塔に充填されている充填物の層高が10cm以上であり、
前記制御部は、前記第1の測定手段による測定値が第1の所定の範囲となるように前記水素添加手段による水素の添加量を制御する第1の添加量制御を行なう、水処理装置。
【請求項2】
紫外線酸化装置をさらに備え、
前記被処理水は前記紫外線酸化装置の出口水である、請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
前記白金族金属担持触媒は、アニオン交換樹脂に少なくとも白金族金属を担持させたものであって、前記白金族金属担持触媒が前記触媒塔に充填されている、請求項1または2に記載の水処理装置。
【請求項4】
白金族金属担持触媒を備える触媒塔に通水される被処理水に水素を添加する水処理装置であって、
前記被処理水に水素を添加する水素添加手段と、
前記水素添加手段による水素の添加量を制御する制御部と、
前記触媒塔の出口水における溶存水素濃度を測定する第1の測定手段と、
を有し、
前記触媒塔において、前記白金族金属担持触媒を含めて前記触媒塔に充填されている充填物の層高が10cm以上であり、
前記制御部は、前記第1の測定手段による測定値が第1の範囲となるように前記水素添加手段による水素の添加量を制御する第1の添加量制御を行なう、水処理装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1の添加量制御を行なわずに過剰に水素を添加するように前記水素添加手段を制御し、所定のタイミングで、前記第1の添加量制御を開始する、請求項1、2及び4のいずれか1項に記載の水処理装置。
【請求項6】
前記触媒塔の出口水またはユースポイントにおける水の溶存酸素濃度を測定する第2の測定手段をさらに備え、
前記制御部は、前記第2の測定手段による測定値が第2の範囲となるように前記水素添加手段による水素の添加量を制御する第2の添加量制御を行ない、前記第2の測定手段による測定値が前記第2の範囲となった後、前記第2の添加量制御を停止して前記第1の添加量制御を開始する、請求項1、2及び4のいずれか1項に記載の水処理装置。
【請求項7】
被処理水から酸化性物質を除去する酸化性物質除去工程を有し、
前記酸化性物質除去工程は、前記被処理水に水素を添加する工程と、水素が添加された前記被処理水を白金族金属担持触媒を備えた触媒塔に通水する工程と、を有し、前記水素を添加する工程において、前記触媒塔の出口水における溶存水素濃度が第1の範囲となるように前記被処理水に添加される水素の量を制御する第1の添加量制御を行ない、
前記触媒塔において、前記白金族金属担持触媒を含めて前記触媒塔に充填されている充填物の層高が10cm以上である、水処理方法。
【請求項8】
前記第1の添加量制御を行う前に前記被処理水に過剰に水素を添加して前記触媒塔に通水し、所定のタイミングで前記第1の添加量制御を開始する、請求項7に記載の水処理方法。
【請求項9】
前記触媒塔の出口水における溶存酸素濃度が第2の範囲となるように前記被処理水に添加される水素の量を制御する第2の添加量制御を行ない、前記触媒塔の出口水における溶存酸素濃度が前記第2の範囲となった後、前記第2の添加量制御を停止して前記第1の添加量制御を開始する、請求項7に記載の水処理方法。
【請求項10】
前記白金族金属担持触媒に対する空間速度が30h-1以上となるように、水素が添加された前記被処理水を前記触媒塔に通水する、請求項7乃至9のいずれか1項に記載の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超純水の製造などのための水処理装置及び水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不純物が高度に除去された超純水は、例えば半導体製造プロセスにおけるシリコンウエハの洗浄用水などとして、多くの分野で用いられている。超純水をシリコンウエハの洗浄用水として使用する場合、超純水中に溶存する酸素(O2)や過酸化水素(H2O2)などの酸化性物質は、シリコンウエハの表面に自然酸化膜を形成する要因となってしまう。そこで、超純水の製造に際し、パラジウム(Pd)や白金(Pt)に代表される白金族金属を担体に担持させた白金族金属担持触媒を利用して酸化性物質を除去する方法が提案されている。白金族金属担持触媒を用いることにより、2H2O2→2H2O+O2で表される反応によって過酸化水素を分解除去できるだけでなく、水素(H2)の共存下で酸素と反応することで(2H2+O2→2H2O)、被処理水に含まれる酸素も除去することができる。白金族金属担持触媒が過酸化水素を分解する際に酸素が発生するが、この酸素も、白金族金属担持触媒の存在下で水素と反応することで除去することができる。白金族金属担持触媒を用いて被処理水中の酸素や過酸化水素を除去するときは、被処理水に水素が含まれている必要があり、必要に応じて被処理水に水素が添加される。
【0003】
特許文献1は、超純水製造装置においてTOC(全有機炭素;Total Organic Carbon)成分を分解除去する紫外線酸化装置に供給される被処理水における溶存酸素(DO)濃度を低下させるために、脱塩装置と紫外線酸化装置との間に白金族金属担持触媒を有する脱酸素装置を設け、脱塩装置から脱酸素装置に供給される被処理水に当量以上の水素を添加することを開示している。さらに脱酸素装置からの水素を含む出口水が紫外線酸化装置に供給されたときに溶存水素(DH)によって紫外線酸化装置でのTOC除去効率が低下することを抑制するために、脱酸素装置の出口水の溶存水素濃度を測定して溶存水素濃度が15μg/L以下となるように、脱酸素装置の入口側での水素の添加量を制御することを開示している。
【0004】
超純水の製造において、TOC成分を分解する紫外線酸化装置の出口水には、酸素や過酸化水素などの酸化性物質が含まれる。そして酸化性物質、特に過酸化水素は、紫外線酸化装置の後段に設けられているイオン交換装置内のイオン交換樹脂の劣化を促進する。そこで特許文献2は、紫外線酸化装置の出口水に対して水素を添加してから白金族金属担持触媒で処理し、処理後の水に含まれる溶存酸素濃度が1~10μg/Lであるように水素の添加量を制御することを開示している。白金族金属担持触媒で処理された水は、イオン交換装置での処理後、さらに溶存酸素を除去するために膜脱気装置に供給される。
【0005】
特許文献3は、溶存窒素(DN)濃度を所定値に管理しながら溶存酸素(DO)濃度を低減させた超純水を得るために、紫外線酸化装置の出口水に対して溶存窒素濃度を測定しつつ窒素を添加し、その後、水素を添加して白金族金属担持触媒で処理することを開示している。白金族金属担持触媒で処理された水に対しては、その後、イオン交換処理が行われる。
【0006】
特許文献4は、超純水の製造において紫外線酸化装置の出口水から酸化性物質を除去するためにこの出口水に水素を添加してから白金族金属担持触媒で処理するときに、白金族金属担持触媒を通過途中あるいは通過後の水の溶存水素濃度を測定してその測定値に応じて水素の添加量を制御することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-167593号公報
【特許文献2】特開2016-215150号公報
【特許文献3】特開2012-254428号公報
【特許文献4】特開2015-166064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
被処理水中の酸化性物質の除去のために被処理水に水素を添加してから白金族金属担持触媒によって処理する場合、水素の添加量は、被処理水にもともと含まれている酸素と過酸化水素の分解によって生じる酸素との両方の酸素に反応して水を生成させる理論値(すなわち当量)以上であることが好ましい。その一方で、水素の添加量が過剰になって白金族金属担持触媒で処理された水に対してある量以上の水素が含まれることは、得られる超純水の水質の観点からは好ましくない。良好な水質の超純水を得るためには、白金族金属担持触媒で処理された水における溶存酸素濃度だけでなく、溶存水素濃度も低い値に管理することが求められる。
【0009】
特許文献1に記載された超純水製造装置では、白金族金属担持触媒で処理された水の溶存水素濃度に応じて水素の添加量を制御しているが、溶存水素濃度の管理値は上限を15μg/Lとするものであって超純水の用途によっては溶存水素濃度が高すぎる、という課題がある。また、白金族金属担持触媒の後段に紫外線酸化装置を配置しており、紫外線酸化装置で発生した過酸化水素などの酸化性物質を除去できない、という課題がある。特許文献2に記載されたものでは、溶存酸素濃度に基づいて水素の添加量を制御しているので、溶存水素濃度を極限まで低下させることが難しい。また、白金族金属担持触媒の後段に膜脱気装置を設けており、装置コストやメンテナンスコストが上昇する。特許文献3に記載されたものも同様に、溶存水素濃度を極限まで低下させることが難しく、かつ、膜脱気装置を設けることによるコストの上昇の問題がある。特許文献4に記載のものでは、白金族金属担持触媒で処理された水において具体的にどの程度まで溶存酸素濃度や溶存水素濃度を低減できるかが明らかでなく、溶存酸素濃度及び溶存水素濃度が例えば0.1μg/L以下、過酸化水素濃度が例えば1.0μg/L以下といった高品質の超純水を得るためにはなお検討を要する。
【0010】
ここでは、超純水製造における酸化性物質の除去についての課題を説明したが、被処理水から超純水以外の水、例えば各種の機能水などを製造するときにおいても、溶存水素濃度の上昇を伴なわずに酸化性物質を除去したいという要望や、被処理水への水素の添加を行うが溶存水素濃度の制御を行ないたいという要望がある。以下では、超純水も含めて各種の特性や機能を有する水を被処理水から得るために用いられるプロセスを、総称して水処理と呼ぶことにする。
【0011】
本発明の目的は、高品質の超純水を低コストで製造するためなどに用いられて酸化性物質の除去と溶存水素濃度の管理とを行うことができる水処理装置及び水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の水処理装置は、被処理水から酸化性物質を除去する酸化性物質除去装置を有し、酸化性物質除去装置は、被処理水に水素を添加する水素添加手段と、白金族金属担持触媒を備え、水素が添加された被処理水が通水する触媒塔と、水素添加手段による水素の添加量を制御する制御部と、触媒塔の出口水における溶存水素濃度を測定する第1の測定手段と、を有し、触媒塔において、白金族金属担持触媒を含めて触媒塔に充填されている充填物の層高が10cm以上であり、制御部は、第1の測定手段による測定値が第1の範囲となるように水素添加手段による水素の添加量を制御する第1の添加量制御を行なう。
【0013】
本発明の超純水の製造方法は、被処理水から酸化性物質を除去する酸化性物質除去工程を有し、酸化性物質除去工程は、被処理水に水素を添加する工程と、水素が添加された被処理水を白金族金属担持触媒を備えた触媒塔に通水する工程とを有し、水素を添加する工程において、触媒塔の出口水における溶存水素濃度が第1の範囲となるように被処理水に添加される水素の量を制御する第1の添加量制御を行ない、触媒塔において、白金族金属担持触媒を含めて触媒塔に充填されている充填物の層高が10cm以上である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸化性物質の除去と溶存水素濃度の管理とを低コストで行うことができ、超純水の製造に本発明を適用した場合であれば、例えば溶存酸素濃度と溶存水素濃度がいずれも0.1μg/L以下であって過酸化水素濃度が1μg/L以下であるような高品質の超純水を低コストで製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の一形態の超純水製造装置を示す図である。
【
図2】実施例及び比較例で用いた装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。ここでは本発明に基づく水処理方法について、超純水の製造に適用した例を説明する。
図1は、本発明の実施の一形態の超純水製造装置を示している。
図1に示す超純水製造装置は、特に酸化性物質除去装置10を備えており、純水製造装置(一次純水システム)から一次純水が供給されるサブシステム(二次純水システム)として構成されている。この超純水製造装置は、例えば溶存酸素(DO)濃度と溶存水素(DH)濃度がいずれも0.1μg/L以下であり過酸化水素濃度が1.0μg/L以下である高品質の超純水をユースポイント(POU)30に供給する。
【0017】
超純水製造装置は、被処理水として一次純水を貯えるタンク20と、タンク20内の被処理水を給送するポンプ21を備えており、ポンプ21の出口すなわち二次側には、熱交換器(HE)22、紫外線酸化装置(UV)23、酸化性物質除去装置10、カートリッジポリッシャーとも呼ばれる非再生型混床式イオン交換装置(CP)24及び限外ろ過膜装置(UF)25がこの順で接続している。この超純水製造装置では、タンク20に貯留された被処理水は、ポンプ21により送出され、熱交換器22に供給される。熱交換器22を通過して温度調節された被処理水は、紫外線酸化装置23に供給される。紫外線酸化装置23では、被処理水に紫外線が照射され、被処理水中の全有機炭素(TOC)成分が分解される。紫外線酸化装置23の出口水である被処理水は、溶存酸素と過酸化水素を含んでいる。溶存酸素や過酸化水素などの酸化性物質を含む被処理水は、次に、酸化性物質除去装置10に供給され、被処理水に含まれる酸化性物質が除去される。酸化性物質が除去された被処理水は、非再生型混床式イオン交換装置24においてイオン交換処理により金属成分などが除去され、さらに、限外ろ過膜装置25において微細な不純物が除去される。限外ろ過膜装置25の出口水である超純水は、その一部がユースポイント30に供給され、ユースポイント30に供給されなかった残りの超純水は、循環配管26を介してタンク20に還流する。この超純水製造装置では、ユースポイント30に供給されなかった超純水が循環しながらさらに精製されることとなり、運転開始からの時間が経過するにつれて得られる超純水の純度が向上し、やがて、一定の純度に到達する。
【0018】
タンク20、ポンプ21、熱交換器22、紫外線酸化装置23、非再生型混床式イオン交換装置24及び限外ろ過膜装置25としては、サブシステムである超純水製造装置において一般的に用いられているものを使用することができる。そのため、これらの詳細な構成の説明は省略し、以下では、酸化性物質除去装置10の詳細な構成について説明する。なお本実施形態の超純水製造装置では、溶存する気体を除去するための膜脱気装置は設けられていないが、必要に応じて、あるいはバックアップのために、膜脱気装置を設けてもよい。
【0019】
酸化性物質除去装置10は、紫外線酸化装置23の出口水が被処理水として供給されるものであり、その被処理水には酸化性物質が含まれている。ここで酸化性物質には、溶存酸素及び過酸化水素の少なくとも一方が含まれる。酸化性物質除去装置10は、被処理水が供給される触媒塔(Pd)11と、触媒塔11に供給される被処理水に対して水素を添加するために水素を含有する水を生成する水素(H2)源12とを備えている。水素源12としては水素を含有する水を生成できるものであればよく、例えば、ガス溶解膜を用いたガス溶解方式を利用したものや、電解セルを用いた直接電解方式を利用したものを用いことができる。水素ガスを扱うことが好ましくない環境においては、直接電解方式の水素源12を用いることが好ましい。水素源12からの水素含有水は、触媒塔11の入口側で被処理水に注入される。水素源12と水素含有水の被処理水への注入点とによって、被処理水に水素を添加する水素添加手段が構成される。水素含有水と被処理水との混合を確実にするために、被処理水への水素含有水の注入点と触媒塔11との間に、混合カラムや混合タンクといった混合部13を設けてもよい。
【0020】
触媒塔11は、被処理水が通過できるように白金族金属担持触媒が充填されている。触媒塔11に白金族金属担持触媒以外の物体、例えば触媒を担持しない通常のイオン交換樹脂などの粒状物体が充填されていてもよい。白金族金属担持触媒とその他の粒状物体とを充填物として触媒塔11に充填するときは、白金族金属担持触媒と粒状物体とを混合して混床として充填してよいし、それらの各々が層をなすように複床で充填してもよい。混床の場合には、例えば、白金族金属担持触媒とカチオン交換樹脂とを混合したものを触媒塔11に充填してもよく、白金族金属担持触媒とアニオン交換樹脂とを混合したものを触媒塔11に充填してもよく、白金族金属担持触媒とカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とを混合したものを触媒塔11に充填してもよい。複床の場合には、白金族金属担持触媒以外の物体で構成される層を非触媒層と呼ぶこととすると、触媒塔11における白金族金属担持触媒の層と非触媒祖との配置の順番に限定はない。非触媒層をイオン交換樹脂を構成する場合、カチオン交換樹脂で構成しても、アニオン交換樹脂で構成しても、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とを混合したもので構成してもよい。一例として、触媒塔11において上流側に白金族金属担持触媒の層が設けられ、下流側に非触媒層が設けられる。白金族金属担持触媒の層の上流側にさらに非触媒層を設けてもよい。
【0021】
白金族金属担持触媒(以下、単に「触媒」ともいう)は、白金族金属が担体に担持されたものであり、過酸化水素を含有する被処理水と接触することで、過酸化水素を水と酸素とに分解する機能を有している(2H2O2→2H2O+O2)。それとともにこの触媒は、水素添加装置11により被処理水に添加された水素、すなわち被処理水に溶解した水素(溶存水素)と、被処理水に溶解した酸素(溶存酸素)とを反応させて、水を生成する機能を有している(2H2+O2→2H2O)。このとき触媒が除去する溶存酸素は、触媒塔11に供給される被処理水にもともと溶解していた酸素に由来する溶存酸素と、過酸化水素の分解により生じた酸素に由来する溶存酸素との両方である。以下、「被処理水中の溶存酸素」という場合、上記2種類の溶存酸素の少なくとも一方を含むものとする。これにより、触媒塔11は、水素を含有する被処理水が触媒と接触することで、被処理水中の酸化性物質を除去することができる。こうして触媒塔11により酸化性物質が除去された被処理水は、非再生型混床式イオン交換装置24に供給される。
【0022】
白金族金属担持触媒において担体としては、触媒の調製および反応性の観点から、アニオン交換樹脂やアニオン交換体を用いることが好ましい。白金族金属は、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)及び白金(Pt)の総称であるが、本発明においてはパラジウムまたは白金を用いることが好ましく、触媒活性などを考慮してパラジウムを用いることが特に好ましい。以下の説明では、白金族金属としてパラジウムが用いられているものとする。触媒塔11に充填された触媒の層高を大きくすると、反応が行われる空間が大きくなって処理能力も大きくなり、安定して高品質の超純水を製造できるようになる。白金族金属をアニオン交換樹脂に担持させて白金族金属担持触媒を構成した場合、得られる超純水における過酸化水素濃度を1μg/L以下とするために、触媒の層高を例えば10cm以上とすることが好ましく、30cm以上とすることがより好ましく、70cm以上とすることがさらに好ましい。触媒塔11において下向流で被処理水が触媒を通過するとして、触媒の層高とは、高さ方向における被処理水が有効に通過する部分の触媒の厚さのことである。白金族金属担持触媒以外の物体、例えば通常のイオン交換樹脂が、白金族金属担持触媒とともに混床あるいは複床で触媒塔11に充填されるときは、ここでいう触媒の層高とは、触媒以外のそれらの物体を含んだ層高、すなわち、白金族金属担持触媒を含めて触媒塔11に充填されている充填物の層高のことである。触媒と溶存酸素や溶存水素の接触効率を高めて効率よく反応を進行させるために、触媒塔11に充填された触媒に被処理水を通水させるときの空間速度(SV)は、例えば30h-1以上とすることができる。なお、過度に空間速度を大きくすると完全に反応する前に被処理水が触媒塔11から排出される恐れが生じる。得られる超純水における過酸化水素濃度を1μg/L以下とするためには、空間速度を例えば1000h-1以下とすることが好ましい。
【0023】
触媒塔11では、上述のように、被処理水に添加された水素(溶存水素)と被処理水中の溶存酸素とが反応して水が生成することで、被処理水中の酸化性物質を除去することができる。超純水製造装置では、製造される超純水に溶解している酸素すなわち溶存酸素の量をできるだけ低減することが強く求められている。したがって被処理水に添加される水素の量は、被処理水中の溶存酸素と反応して水を生成させる理論値以上であることが好ましい。しかしながら、水素の添加量が過剰であると、製造される超純水に多量の溶存水素が含まれてしまい、水質の観点からは好ましくない。そこで本実施形態において酸化性物質除去装置10は、触媒塔11の出口水における溶存水素濃度を測定する溶存水素(DH)計14を備えている。後述するように超純水製造装置の立ち上げ時間を短縮する制御を行なうためには、触媒塔11の出口水あるいはユースポイント30付近の水における溶存酸素濃度を測定する溶存酸素(DO)計15も備えていることが好ましい。溶存水素計14及び溶存酸素計15は、それぞれ、第1の測定手段及び第2の測定手段に該当する。さらに酸化性物質除去装置10は、溶存水素計14及び溶存酸素計15での測定値に基づいて水素源12での水素含有水の発生量を制御する制御部16を備えている。具体的には制御部16は、触媒塔11の出口水の溶存水素濃度が所定の濃度範囲に収まるように、水素源12での水素含有水の発生量を制御し、それにより被処理水に添加される水素の量を制御する。この制御を第1の添加量制御と呼ぶ。得られる超純水における溶存水素濃度を0.1μg/L以下としたいときは、制御部16は、触媒塔11の出口水における溶存水素濃度も0.1μg/L以下となるように制御を行なう。これにより、酸化性物質除去装置10から流出する被処理水の溶存水素を極力減らすことができ、超純水製造装置によって溶存水素濃度が極低濃度の超純水を製造することができるようになる。
【0024】
ところで超純水製造装置の運転開始時には、装置内の水に大量の溶存酸素が含まれていることが考えられる。そこで、超純水製造装置の立ち上げの初期には、第1の添加量制御を行なわずに(第1の添加量制御を開始する前に)被処理水に対して過剰に水素を添加し、その後、溶存水素濃度に基づく制御すなわち第1の添加量制御に移行することが好ましい。過剰に水素を添加するときは、触媒塔11の出口水における溶存酸素濃度に基づいて水素添加量を制御する第2の添加量制御を行なってもよく、溶存酸素濃度が所定値以下となったら第2の添加量制御を停止して溶存水素濃度に基づく第1の添加量制御を開始するようにしてもよい。あるいは、運転開始時に過剰に添加する水素の量を予め定めておいて、運転開始からの所定時間が経過してから第1の添加量制御を開始するようにしてもよい。このように立ち上げ時には過剰に水素を添加することにより、装置内の溶存酸素を速やかに除去でき、その後、溶存水素濃度による制御(第1の添加量制御)に移行することで、得られる超純水が所定の水質に達するまでの時間を短縮することができる。また、白金族金属、特にパラジウムは水素を吸蔵する性質を有し、立ち上げの初期には酸素との反応に水素が消費されることよりも水素が吸蔵されることの方が卓越する。触媒塔11への通水の初期から第1の添加量制御を行なった場合、酸素との反応に使用される水素量が減少するので、酸素を除去する能力が低下するおそれがある。この点でも、超純水製造装置の立ち上げ時には酸化性物質除去装置10において第2の添加量制御を行なうことが好ましいと言える。このような超純水製造装置の立ち上げ時における水素添加量の制御も制御部16が実行する。
【0025】
以上では、サブシステムとして構成された超純水製造装置に対して本発明を適用した場合を説明したが、本発明に基づく水処理方法及び装置は、上記の実施形態に示されたものに限定されない。溶存水素濃度を管理しつつ酸化性物質の除去を行うことが必要な分野であれば、本発明に基づく水処理方法を幅広く適用することができる。例えば、市水や河川水、さらには、各種の工程から回収された回収水を被処理水として、それらの被処理水から酸化性物質を除去するときに本発明に基づく水処理方法を適用することができる。この場合、紫外線酸化処理は必ずしも実行する必要はない。すなわち
図1に示された構成のうち酸化性物質除去装置10は、それ単独で、本発明に基づく水処理装置として機能する。さらに、酸化性物質除去装置10から触媒塔11を取り除いたものを水素添加制御装置と呼ぶこととすると、触媒塔を有する既設の水処理プラントに対して水素添加制御装置を追加することによって、溶存水素濃度の管理を行いつつ酸化性物質の除去を行うことができるので、この水素添加制御装置自体も本発明に基づく水処理装置の範疇に含まれる。
【実施例0026】
次に、実施例及び比較例に基づき、本発明をさらに説明する。実施例及び比較例のために、酸化性物質除去装置に相当する
図2に示す装置を組み立てた。この装置は、水素源として水素含有水を発生する溶存水素発生装置41と、混合用カラム43と、パラジウムをアニオン交換樹脂に担持させた白金族金属担持触媒が充填されている触媒塔45とを備えている。溶存水素発生装置41としては、直接電解方式により水素含有水を発生するオルガノ株式会社製の酸還王(登録商標)を用いた。特記する場合を除き、溶存酸素濃度が0.1μg/Lより大きくて10μg/L程度以下であり、過酸化水素濃度が1μg/Lより大きくて45μg/L程度以下であり、溶存酸素と過酸化水素を合わせた全体としての溶存酸素負荷量が20~35μg/Lである被処理水が、流量計42を経て、混合用カラム43に流入し、混合用カラム43からの出口水が触媒塔45に流入するようにした。触媒塔45では下向流で水が流れるようにした。溶存水素発生装置41からの水素含有水は、ポンプ44を経て、混合用カラム43の入口の位置で被処理水に注入される。また、溶存水素発生装置41とポンプ44の間には、水素含有水の排水のための弁49が設けられている。
【0027】
触媒塔45の出口水の溶存水素濃度及び溶存酸素濃度を測定するために、触媒塔45の出口には、弁50を介していずれも隔膜電極法による溶存水素計46及び溶存酸素計47取り付けられている。弁50の出口には、触媒塔45の出口水の排水のための弁51も設けられている。溶存水素計46及び溶存酸素計47での測定値は制御部48に入力し、制御部48は、これらの測定値に基づいてポンプ44を制御し、被処理水に対する水素含有水の注入量を制御する。各実施例及び比較例において、触媒塔45の出口水に関し、溶存水素濃度と溶存酸素濃度がいずれも0.1μg/L以下であり、過酸化水素濃度が1μg/L以下であることを目標とした。
【0028】
[実施例1]
図2に示す装置において、触媒塔45の出口水の溶存水素(DH)濃度が0.1μg/L以下となるように制御部48によって制御を行ない、触媒塔45の出口水における溶存水素(DH)濃度及び溶存酸素(DO)濃度の時間変化を調べた。結果を
図3に示す。また、触媒塔45の出口水の過酸化水素(H
2O
2)濃度を調べたところ、1.0μg/L以下であった。
【0029】
[比較例1]
図2に示す装置において、触媒塔45の出口水の溶存酸素濃度が0.1μg/L以下であるように制御部48によって制御を行ない、触媒塔45の出口水における溶存水素濃度(出口DH濃度)及び溶存酸素濃度(出口DO濃度)の時間変化を調べた。結果を
図4に示す。また、触媒塔45の出口水の過酸化水素(H
2O
2)濃度を調べたところ、1.0μg/L以下であった。
【0030】
溶存水素濃度に基づく制御を行なった実施例1と溶存酸素濃度に基づく制御を行なった比較例1を比較すると、いずれの場合も過酸化水素濃度を1.0μg/L以下とすることができ、目標値を達成できた。実施例1では、溶存水素濃度と溶存酸素濃度についても0.1μg/L以下という目標値を達成できたが、比較例1では溶存酸素濃度しか目標値を達成できず、溶存水素濃度について目標値を達成できず、4μg/L程度以上という大きな値に落ち着いた。
【0031】
[実施例2]
図2に示す装置を用い、装置の立ち上げの初期に、溶存酸素濃度が0.1μg/L以下となるようにする制御(第2の添加量制御)を行なって過剰に水素含有水を添加し、その後、溶存水素濃度が0.1μg/L以下となるようにする制御(第1の添加量制御)に切り替えた。このときの触媒塔45の出口水における溶存水素濃度(出口DH濃度)及び溶存酸素濃度(出口DO濃度)の時間変化を調べた。結果を
図5に示す。初期に水素を過剰に添加したときは、通水開始から半日程度で装置を完全に立ち上げることができた。
【0032】
[実施例3]
図2に示す装置において装置の立ち上げの初期から、溶存水素濃度が0.1μg/L以下となるように制御(第1の添加量制御)を行なった。このときの触媒塔45の出口水における溶存水素濃度(出口DH濃度)及び溶存酸素濃度(出口DO濃度)の時間変化を調べた。結果を
図6に示す。通水初期から第1の添加量制御を行なった場合には、装置の立ち上がりに長期間(数日以上)を要した。
【0033】
[実施例4]
図2に示す装置において、触媒塔45での白金族金属担持触媒の層高と触媒塔45の出口水における過酸化水素濃度(出口H
2O
2濃度)との関係を調べた。触媒塔45における触媒の層高は50mmと100mmとした。被処理水としては過酸化水素濃度が15~20μg/Lのものを使用し、触媒塔45の出口水における溶存水素濃度を0.1μg/L以下とするような制御を行なって、被処理水に対する水素の添加を行った。触媒塔45における被処理水の通水の空間速度は500h
-1であった。結果を
図7に示す。触媒塔45における触媒の層高が少なくとも100mm以上であれば、1.0μg/L以下という過酸化水素濃度の目標値が満たされることが分かった。
【0034】
[実施例5]
図2に示す装置において、触媒塔45での白金族金属担持触媒の層高を70、90、120、150、180及び240cmと変えながら触媒塔45に通水して、触媒塔45の出口水における溶存水素濃度(出口DH濃度)と溶存酸素濃度(出口DO濃度)の変化を調べた。触媒塔45の出口水における溶存水素濃度を0.1μg/L以下とするような制御を行なって、被処理水に対する水素の添加を行った。触媒塔45における被処理水の通水の空間速度は80h
-1であった。結果を
図8に示す。いずれの層高においても、立ち上げ時や層高の切り替え時などを除き、溶存水素濃度及び溶存酸素濃度の各々について0.1μg/L以下という目標値を達成することができた。
【0035】
[実施例6]
図2に示す装置において、触媒塔45での白金族金属担持触媒の層高を50、30及び20cmと変えながら触媒塔45に通水して、触媒塔45の出口水における溶存水素濃度(出口DH濃度)と溶存酸素濃度(出口DO濃度)の変化を調べた。被処理水としては溶存酸素濃度が10μg/L程度であって過酸化水素濃度が30~60μg/Lのものを使用し、触媒塔45の出口水における溶存水素濃度を0.1μg/L以下とするような制御を行なって、被処理水に対する水素の添加を行った。触媒塔45における被処理水の通水の空間速度は100h
-1であった。結果を
図9に示す。装置の立ち上げ時や層高の切り替え時などを除いて出口濃度が安定したときで比較すると、白金族金属担持触媒の層高が30cm以上であれば、触媒塔45の出口水における溶存水素濃度及び溶存酸素濃度の各々について0.1μg/L以下という目標値を達成することができたが、層高が20cmであるときは、溶存酸素濃度については目標値を達成することができなかった。またいずれの層高においても、触媒塔45の出口水の過酸化水素濃度が1μg/L以下であるという目標は達成された。実施例4,5,6の結果から、触媒塔45での触媒の層高は、10cm以上とすることが好ましく、30cm以上とすることがより好ましく、70cm以上とすることがさらに好ましいことが分かった。
【0036】
[実施例7]
図2に示す装置において、溶存水素濃度を0.1μg/L以下とするような制御を行ないながら、通水の空間速度が30h
-1であるように被処理水を触媒塔45に通水し、触媒塔45の出口水での溶存水素濃度(出口DH濃度)及び溶存酸素濃度(出口DO濃度)の変化を調べた。結果を
図10に示す。空間速度が30h
-1であるときも溶存水素濃度及び溶存酸素濃度をいずれも0.1μg/L以下とすることができた。