(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134358
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】診断支援システム及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20230920BHJP
【FI】
A61B5/055 380
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009387
(22)【出願日】2023-01-25
(31)【優先権主張番号】63/319,481
(32)【優先日】2022-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(71)【出願人】
【識別番号】305054418
【氏名又は名称】ザ ファインスタイン インスティチューツ フォー メディカル リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】アイデルバーグ,デイビッド
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AA17
4C096AB36
4C096AC03
4C096AD14
4C096DC35
(57)【要約】
【課題】ジストニアの診断を支援する技術を提供する。
【解決手段】診断支援システムは、ジストニアの診断を支援するために利用される。当該システムは、演算回路と、記憶装置と、入力インタフェースとを備えている。記憶装置は、白質マスクの画像データと、ジストニア微細構造パターンのデータと、発現スコアに関する閾値とを予め格納している。入力インタフェースは、被験者の脳のMRI拡散テンソル画像を受け取る。演算回路は、(a)MRI拡散テンソル画像から拡散異方性を示す異方性比率(FA)マップ画像を生成し、(b)FAマップ画像に白質マスクを適用して、マスク化FAマップ画像を生成し、(c)ジストニア微細構造パターン及びマスク化FAマップ画像に基づいて、ジストニア微細構造パターンの発現の程度を示す発現スコアを算出し、(d)発現スコアと閾値との関係に基づいて、被験者がジストニアに罹患しているか否かの推定結果を出力する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
演算回路と、記憶装置と、入力インタフェースとを備えた、ジストニアの診断を支援する診断支援システムであって、
前記記憶装置は、
白質マスクの画像データと、
ジストニア微細構造パターンのデータと、
発現スコアに関する閾値と
を予め格納しており、
前記入力インタフェースは、被験者の脳のMRI拡散テンソル画像を受け取り、
前記演算回路は、
(a)前記MRI拡散テンソル画像から拡散異方性を示す異方性比率(FA)マップ画像を生成し、
(b)前記FAマップ画像に前記白質マスクを適用して、マスク化FAマップ画像を生成し、
(c)前記ジストニア微細構造パターン及び前記マスク化FAマップ画像に基づいて、前記ジストニア微細構造パターンの発現の程度を示す発現スコアを算出し、
(d)前記発現スコアと前記閾値との関係に基づいて、前記被験者が前記ジストニアに罹患しているか否かの推定結果を出力する
診断支援システム。
【請求項2】
複数の健常者の各々の脳のMRI拡散テンソル画像を用いて前記処理(a)~(c)が実行されることにより、各健常者の発現スコアが予め算出されており、
前記被験者の発現スコアは、前記各健常者の発現スコアに基づいて決定されている、請求項1に記載の診断支援システム。
【請求項3】
前記各健常者の発現スコアは、前記複数の健常者の発現スコアの平均値が0、及び標準偏差が1になるよう正規化されており、
前記被験者の発現スコアは、前記各健常者の発現スコアに基づいて決定されたZスコアである、請求項2に記載の診断支援システム。
【請求項4】
前記記憶装置は、
パーキンソン病微細構造パターンのデータ、及び
ジストニアとパーキンソン病とを鑑別するための鑑別閾値
をさらに格納しており、
前記演算回路は、
前記処理(c)において、さらに、前記パーキンソン病微細構造パターン及び前記マスク化FAマップ画像に基づいて、前記パーキンソン病微細構造パターンの発現の程度を示す追加の発現スコアをさらに算出し、前記発現スコアと、前記追加の発現スコアとを所定の線形結合式に代入して得られる結合発現スコアをさらに算出し、
前記処理(d)において、前記結合発現スコアと前記鑑別閾値との関係に基づいて、前記被験者が前記ジストニアに罹患しているか、前記パーキンソン病に罹患しているかの推定結果を出力する、
請求項1に記載の診断支援システム。
【請求項5】
前記記憶装置は、前記発現スコアと前記ジストニアの症状の重症度との関係を示す重症度判定データをさらに格納しており、
処理(d)において、前記被験者が前記ジストニアに罹患している可能性があることを示す推定結果を出力した場合、前記演算回路はさらに、前記重症度判定データ、及び前記被験者の前記発現スコアに基づいて、前記ジストニアの症状の重症度をさらに出力する、請求項3に記載の診断支援システム。
【請求項6】
前記重症度判定データは、前記発現度が大きいほど、前記重症度が小さくなる関係を有している、請求項5に記載の診断支援システム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の診断支援システムの前記演算回路に、前記処理(a)から処理(d)を実行させる、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、診断支援システム及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ジストニアはパーキンソン病などに次ぐ主要な運動異常症であり、骨格筋の不随意収縮を生じ、異常姿勢を呈したり不随意運動を呈したりして、目的とする運動が妨げられる状態を指す。ジストニアの病態機序として脳ネットワークの異常が考えられている。
【0003】
ジストニアは、原因が明らかでないものは「一次性」、他疾患などに続発するものは「二次性(症候性)」に分類され、一次性はさらに遺伝性、非遺伝性(特発性)に分類される。これらのうち、非遺伝性の一次性ジストニアが多数を占める。
【0004】
特許文献1及び2は、パーキンソン病、アルツハイマー病、捻転ジストニアなどの神経系の障害のためのマーカーに関する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5632276号
【特許文献2】米国特許第5873823号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非遺伝性の一次性ジストニアには診断マーカーが存在せず、診断が症候学に依るため臨床医によるばらつきが大きい。この診断の不確実さは、現存治療による適切な介入や臨床試験実施の妨げとなっている。そのため、ジストニアの診断を支援する客観的なツールが求められている。
本開示の目的の一つは、ジストニアの診断を支援する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の例示的なシステムは、ジストニアの診断を支援する診断支援システムである。診断支援システムは、演算回路と、記憶装置と、入力インタフェースとを備えている。記憶装置は、白質マスクの画像データと、ジストニア微細構造パターンのデータと、発現スコアに関する閾値とを予め格納している。入力インタフェースは、被験者の脳のMRI拡散テンソル画像を受け取る。演算回路は、(a)前記MRI拡散テンソル画像から拡散異方性を示す異方性比率(FA)マップ画像を生成し、(b)前記FAマップ画像に前記白質マスクを適用して、マスク化FAマップ画像を生成する。さらに演算回路は、(c)前記ジストニア微細構造パターン及び前記マスク化FAマップ画像に基づいて、前記ジストニア微細構造パターンの発現の程度を示す発現スコアを算出し、(d)前記発現スコアと前記閾値との関係に基づいて、前記被験者が前記ジストニアに罹患しているか否かの推定結果を出力する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の例示的な実施形態によれば、ジストニアの診断を支援する技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の例示的な診断支援システムの構成例を示している。
【
図2】本開示の例示的なコンピュータプログラムによって実現される処理のフローチャートである。
【
図3A】健常者(HC)及びジストニア患者ごとの、ジストニア微細構造パターン(DMP)に関するZスコアの分布を示している。
【
図3B】健常者とジストニア患者との間の感度と特異度との関係を示している。
【
図4A】健常者(HC)及びパーキンソン病患者ごとの、パーキンソン病微細構造パターン(PDMP)に関するZスコアの分布を示している。
【
図4B】健常者とパーキンソン病患者との間の感度と特異度との関係を示している。
【
図5A】ジストニア患者及びパーキンソン病患者ごとの、線形結合によるZスコアの分布を示している。
【
図5B】ジストニア患者とパーキンソン病患者との間の感度と特異度との関係を示している。
【
図6】Zスコア及びジストニアの症状の重症度の組をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題は限定されることはない。
【0011】
図1は、本開示の例示的な診断支援システム100の構成例を示している。診断支援システム100は、例えば1台のPCを用いて構成され、被験者がジストニアに罹患しているか否かの推定結果を出力する。医師は、出力された推定結果と、他の検査結果等とを総合して、その被験者がジストニアに罹患していると言えるかどうかについての診断を下す。すなわち診断支援システム100が出力した推定結果は、ジストニアの罹患の診断を支援するために利用される。
【0012】
診断支援システム100は、演算回路102と、記憶装置104と、入力インタフェース(I/F)106と、出力インタフェース(I/F)108とを有する。
【0013】
演算回路102は、例えばCPU、マイクロコントローラ(マイコン)などの信号処理回路であり、後述の処理を実行することが可能である。
【0014】
記憶部104は、データの書き込み及び読み出しが可能な、1または複数の記憶装置である。そのような記憶装置の一例は、ROM、RAM、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ、SSDである。本実施形態では、記憶部104は、RAM104a及びフラッシュメモリ104bを含む。
【0015】
入力I/F106及び出力I/F108は、診断支援システム100であるPCの内部データバス(図示せず)に接続されている。入力I/F106は、例えば映像入力端子、USB端子、ネットワーク端子である。出力I/F108は、例えば映像出力端子、USB端子、ネットワーク端子である。本実施形態においては、入力I/F106は、MRI拡散テンソル画像を受け取ることが可能なインタフェースであればよい。また出力I/F108は、後述の処理によって推定されたジストニアの罹患に関する結果を出力することが可能なインタフェースであればよい。なお、診断支援システム100が外部出力端子としての出力I/F108を有することは必須ではない。例えば診断支援システム100がノートPCを用いて実現されている場合、ノートPCは、自身が備える表示装置にジストニアの罹患に関する推定結果を出力することができる。このとき、外部出力端子としての出力I/F108は存在しなくてもよい。
【0016】
以下、記憶装置104をより詳細に説明する。
RAM104aは、ジストニアの罹患に関する推定に用いる鑑別閾値110と、演算回路102によって実行されるコンピュータプログラム112(以下「プログラム112」と略記する。)を記憶している。プログラム112は、コンピュータである演算回路102が実行可能な命令の集合である。フラッシュメモリ104bは、予め白質マスク114aの画像データ及びジストニア微細構造パターン114bのデータを記憶している。
【0017】
図2は、プログラム112によって実現される処理のフローチャートである。図示された処理は、演算回路102がプログラム112を実行することによって実現される。
【0018】
演算回路102は、入力I/F106を介して、被験者の脳のMRI拡散テンソル画像を受け取る(S10)。演算回路102は、MRI拡散テンソル画像から拡散異方性を示す異方性比率(FA)マップ画像を生成する(S12)。演算回路102は、FAマップ画像に白質マスクを適用してマスク化FAマップ画像を生成する(S14)。演算回路102は、ジストニア微細構造パターン及びマスク化FAマップ画像に基づいて、ジストニア微細構造パターンの発現スコアを算出する(S16)。演算回路102は、発現スコアと鑑別閾値との関係に基づいて、被験者がジストニアに罹患しているか否かの推定結果を出力する(S18)。
【0019】
以上の処理によって得られた、被験者がジストニアに罹患しているか否かの推定結果は、医師がジストニア罹患の判断を行うに当たって参考にされる。
【0020】
図2の処理を具体的に説明する。
まずステップS10における「MRI拡散テンソル画像(Diffusion Tensor Image;DTI)」を説明する。以下、MRI拡散テンソル画像を単に「拡散テンソル画像」と呼ぶことがある。「第3版 MRIデータブック 最新用語辞典」によれば、MRIにおける拡散テンソルは、拡散異方性、すなわち水分子が特定の方向にのみよく拡散するという性質、を複数のベクトルで表したものと定義される。水分子の拡散は神経線維に沿った方向では大きく、神経線維と直交する方向では小さくなる。拡散テンソル画像はこの性質を表現し得る。すなわち拡散テンソル画像は、神経線維の微細な変化を描出することができる。拡散テンソル画像は、神経線維の集合体である白質の病変検出に好適である。本実施形態では、3TeslaMRI装置(Discovery MR750(GEヘルスケア社製))を用いて被験者の頭部の磁気共鳴画像(MRI)を撮影する。撮像パラメータの記載は省略するが、所定の標準プロトコルガイドラインに沿って、またはそれらに基づいて最適化を行って取得し得る。ボクセルサイズは、例えば2×2×2.5mm
3である。なお、上述の3TeslaMRI装置は一例である。他のメーカの3TeslaMRI装置を用いてもよい。なお、3Teslaは例示である。3Tesla以外の磁場、例えば3Teslaよりも小さい磁場の例として1.5TeslaのMRI装置、3Teslaよりも大きい磁場の例として7TeslaのMRI装置を用いてもよい。
【0021】
次のステップS12において、演算回路102は、拡散テンソル画像から異方性比率(Fractional Anisotropy; FA)の分布を示すマップ(FAマップ)を生成する。異方性比率は、異方性の大きさによって0から1の間の値を取る。拡散テンソル画像からFAマップを生成する処理は公知である。または、"BrainSuite19a"等のソフトウェアを用いると容易にFAマップを生成し得る。
【0022】
ステップS14において用いる「白質マスク」とは、全対象者の平均FAマップにおいてFA値が例えば0.2以上の領域をいい、解析対象となる脳領域を指定するための画像データである。全対象者の平均FAマップを求める際に、本発明者らは各対象者のFAマップの標準化を行った。具体的には、各対象者のFAマップを、1×1×1mm3の標準空間(例えば“HCP1065 Standard-space FA templates”)に非線形的に揃え標準化を行う。本発明者らは、標準化されたFAマップを、半値全幅3×3×3mm3のGaussianカーネルで平滑化した。その後、演算回路102は、FAマップ画像に白質マスクを適用して、解析対象の脳領域が指定されたマスク化FAマップ画像を生成する。
【0023】
ステップS16では、ジストニアに関する脳パターンと、ステップS14で求められたマスク化FAマップ画像とが用いられる。ここで、ジストニアに関する脳パターンを、本明細書では「ジストニア微細構造パターン(DMP)」と呼ぶことがある。
【0024】
ジストニア微細構造パターン(DMP)は、
図2の処理が実行される前に、予め用意されている。説明の便宜上、演算回路102が以下の手順でジストニア微細構造パターン(DMP)を求める例を説明するが、診断支援システム100とは異なるシステムの演算回路が実行し得る。
【0025】
まず、演算回路102は、用意された、複数の健常者(健常者群)の各々から取得されたFAマップ画像、及び複数のジストニア患者(ジストニア患者群)の各々から取得されたFAマップ画像を取得する。演算回路102は、各FAマップ画像に上述の白質マスクを適用する。
【0026】
演算回路102は、白質マスクが適用された、健常者群の各FAマップ画像及びジストニア患者群のFAマップ画像に、多変量共分散分析を行う。多変量共分散分析の一例は、主成分分析である。このとき、健常者群及びジストニア患者群の鑑別を最適化するために、主成分の被験者スカラー因子に、ロジスティック回帰が実行される。その結果、ジストニア患者をよく表すジストニア微細構造パターン(DMP)が得られる。
【0027】
次に、ステップS16における発現スコアとは、本実施形態では「Zスコア」である。「Zスコア」とは、分布の平均値からのずれを示す値であり、注目している標本値と分布の平均値の差を分布の標準偏差で割った値で定義される。Zスコアの絶対値が大きければ大きい程、分布の平均値からのずれが大きいことを示している。
【0028】
本発明者らは、予め用意されたジストニア微細構造パターンと、ステップS14で求められた被験者のマスク化FAマップ画像とを利用して、被験者の発現スコアを算出する解析方法であるTPR(Topographic profile rating)を行った。
【0029】
TPR算出の具体的な手法は、被験者のマスク化FAマップ画像の各ボクセルの値を並べたベクトルと、ジストニア微細構造パターンの各ボクセルの値を並べたベクトルとの内積演算である。
【0030】
例えば、ある被験者のマスク化FAマップ画像のボクセルの成分の数がN個(N:正の整数)であるとする。すると、当該画像のボクセル毎の値を並べたベクトルaは以下のように定義される。
a=[a1, a2, ..., aN]
また、ジストニア微細構造パターンのボクセル毎の値を並べたベクトルbは以下のように定義される。
b=[b1, b2, ..., bN]
【0031】
内積演算を「・」と表すと、発現スコアであるTPR値は以下の計算によって求められる。
TPR=a・b
=Σai×bi (i=1,2,・・・,N)
【0032】
被験者の発現スコアは、パターンを識別するために使用された患者とコントロールの元のグループに関してz変換される。元の健常者の平均値がゼロ、標準偏差が1になるように、zスコアがオフセットされる。この処理を「標準化」という。なお、本実施形態では、参考のためパーキンソン病患者も含めた。
【0033】
ステップS18において、本実施形態では、発現スコアと鑑別閾値との関係とを利用する。例えば健常者とジストニア患者とを鑑別するために、本実施形態ではZスコアに関する鑑別閾値(以下単に「閾値」と記述する。)を設けている。
【0034】
上述の閾値の求め方の概要は以下の通りである。まず被験者として、すでにジストニアまたはパーキンソン病であることが判明している患者を選出する。ジストニア患者のFAマップ画像を利用してステップS16までの処理を行うと、健常者に対するジストニア患者のZスコアの分布を求めることができ、健常者とジストニア患者とを鑑別可能なZスコアを決定することができる。
【0035】
同様に、パーキンソン病患者のFAマップ画像を利用してステップS16までの処理を行うと、健常者に対するパーキンソン病患者のZスコアの分布を求めることができる。その結果、健常者とパーキンソン病患者とを鑑別可能なZスコアを決定することができる。
【0036】
以下、閾値の求め方をより具体的に説明する。
図3Aは、健常者(HC)及びジストニア患者ごとの、ジストニア微細構造パターン(DMP)に関するZスコアの分布を示している。参考のため、
図3Aにはパーキンソン病(PD)の患者についてのジストニア微細構造パターン(DMP)に関するZスコアの分布も示している。縦軸はZスコアであり、後述の
図4A及び
図5Aも同様である。
【0037】
図3Aによれば、健常者(HC)及びジストニア患者の各被験者のZスコアの分布は、Zスコアに設定したカットオフ値TH
DMPにおいて分離することができる。つまり、Zスコアのカットオフ値TH
DMPを閾値として、その閾値以上のZスコアを示す被験者はジストニアに罹患している可能性が相対的に高いと言える。また、その閾値未満のZスコアを示す被験者はジストニアに罹患している可能性が相対的に低い、すなわち健常者である可能性が高いと言える。なお、ジストニア及びパーキンソン病(PD)の各患者のZスコアの分布を見ると、閾値TH
DMPによっては、両者を鑑別することは困難である。
【0038】
図3Bは、健常者とジストニア患者との間の感度と特異度との関係を示している。縦軸が感度を示し、横軸は特異度を示している。いずれも後述の
図4B及び
図5Bでも同様である。
【0039】
感度は、閾値THDMPを用いて正しく疾患を選び出すことができる確率を意味する。特異度は、閾値THDMPを用いて、正しく健常者を選び出すことができる確率を意味する。
【0040】
感度をより詳細に説明する。ジストニア患者に注目すると、閾値THDMP以上のZスコアを有する被験者は、疾患があり、かつ判定結果も陽性を示しており正しい結果であるから「真の陽性(A)」である。ジストニア患者群には閾値THDMPより小さいZスコアを有する被験者(B)も存在する。これらの被験者は、疾患があるのに陰性と判定されることになるため「偽陰性(B)」である。このとき、疾患群の総数(A+B)を用いて、「感度」はA/(A+B)と定義される。なお、疾患群の総数(A+B)は固定値である。
閾値THDMPが小さくなるほど「真の陽性者(A)」が増加し、間違って陰性と判定してしまう「偽陰性(B)」は減少する。すると、感度A/(A+B)は増加する。つまり、閾値THDMPを小さくすると、疾患を見出しやすくなり、疾患を見落とす確率が小さくなる。
【0041】
特異度は、感度とトレードオフの関係を有する評価指標である。健常者に注目すると、閾値THDMP以上のZスコアを有する健常者は、疾患がなく、かつ判定結果が陽性を示しており誤った結果であるから「偽の陽性(C)」である。健常者群には閾値THDMPより小さいZスコアを有する被験者(D)も存在する。これらの被験者は、疾患がなく陰性と判定されることになるため「真の陰性(D)」である。このとき、健常者群の総数(C+D)を用いて、「特異度」はD/(C+D)と定義される。健常者の群の総数(C+D)は固定値である。
【0042】
閾値THDMPが小さくなるほど「真の陰性(D)」が減少する。すると、特異度D/(C+D)は減少する。つまり、閾値THDMPを小さくすると、健常者を誤って陽性と判定する確率が増加する。
【0043】
本発明者らは、健常者群とジストニア患者群とを鑑別するために、感度と特異度とを指標として閾値を設定することが有効であると考えた。感度と特異度とはトレードオフの関係にあるものの、いずれも、より高いほど、判定精度が高いと言える。
図3Bの例に示すように、適切な閾値TH
DMPを設定することにより、感度93.8%、特異度90.0%を実現できた。
【0044】
本発明者らはさらに、健常者群とパーキンソン病患者群とについても、感度と特異度とを指標として閾値を設定することが有効であると考え、検証を行った。
【0045】
図4Aは、健常者(HC)及びパーキンソン病患者ごとの、パーキンソン病微細構造パターン(PDMP)に関するZスコアの分布を示している。参考のため、
図4Aにはジストニア患者についてのパーキンソン病微細構造パターン(PDMP)に関するZスコアの分布も示している。図示されるように閾値TH
PDMPを設定すると、健常者(HC)とパーキンソン病患者とを鑑別することができる。
図4Bは、健常者とパーキンソン病患者との間の感度と特異度との関係を示している。感度及び特異度はいずれも100%であり、健常者とパーキンソン病患者とを完全に鑑別できる閾値TH
PDMPを設定できることが確認された。
【0046】
一方、
図4Aによれば、閾値TH
PDMPでは、ジストニア患者を完全に鑑別できていないことが確認される。本願発明者は、ジストニア患者とパーキンソン病患者とを鑑別する閾値を設定できるか否か、検討を進めた。そして、ジストニア微細構造パターン(DMP)に関するZスコアと、パーキンソン病微細構造パターン(PDMP)に関するZスコアとの線形結合を用いて両者を鑑別する手法を得るに至った。以下では、線形結合によって得られたZスコアを「線形結合によるZスコア」と記述する。
【0047】
図5Aは、ジストニア患者及びパーキンソン病患者ごとの、線形結合によるZスコアの分布を示している。線形結合は、具体的には、0.718*DMP-0.696*PDMPによって算出した。感度及び特異度を指標とすると、ジストニア患者及びパーキンソン病患者を完全に分離する閾値の設定はできない。しかしながら図示されるように閾値TH
Lを設定した場合には、線形結合によるZスコアと鑑別閾値TH
Lとの関係に基づいて、被験者がジストニアに罹患しているか、パーキンソン病に罹患しているかを鑑別することができる。
【0048】
図5Bは、ジストニア患者とパーキンソン病患者との間の感度と特異度との関係を示している。感度及び特異度はいずれも81.3%であり、比較的精度よい鑑別ができることが確認された。なお、上述の線形結合式は一例である。線形結合の係数(0.718,-0.696)は適宜変更し得る。
【0049】
以上説明したように、感度及び特異度を指標としてZスコアに閾値を設定すると、2つの疾患群を比較的精度よく鑑別することが可能になる。そのような閾値は、鑑別したい2つの疾患群の組み合わせに応じて予め算出しておくことが可能である。
図1に示す鑑別閾値110は複数設けられていてもよい。
【0050】
本発明者らはさらに、Zスコアとジストニアの症状の重症度との間の関係を評価した。その結果、Zスコアからジストニアの症状の重症度を推測することが可能であることが分かった。
【0051】
図6は、Zスコア及びジストニアの症状の重症度の組をプロットしたグラフである。横軸はZスコアであり、ジストニア微細構造パターンの発現度を示している。縦軸は、医師による診断の結果によるジストニアの症状の重症度の値を示している。複数人の各々について、Zスコア及び重症度の組が「●」としてプロットされている。
【0052】
これらのプロットの結果から、本発明者らは単回帰分析を行って、Zスコアと重症度との関係を求めた。
図6にはZスコアと重症度との関係を示す単回帰直線120が例示されている。なお、直線は一例であり、曲線を求めてもよい。単回帰直線120は、発現度であるZスコアが大きいほど、重症度が小さくなる関係を示している。
【0053】
本明細書では、単回帰直線120または単回帰直線120に代えて求められる単回帰曲線を規定するデータを、「重症度判定データ」と呼ぶ。例えば単回帰直線120については、重症度判定データは傾き及び重症度の切片の各値である。単回帰直線120を表す重症度判定データは、傾きが負であることにより、上述した、発現度であるZスコアが大きいほど重症度が小さくなる関係を示していると言える。重症度判定データは、例えば診断支援システム100の記憶装置104に格納され得る。
【0054】
単回帰曲線が、ak・xk (k = 0, …, n)の和で定義される多項式である場合には、重症度判定データは多項式を規定する各項の係数akである。なお、回帰曲線は多項式以外の曲線で表されることもある。例えば回帰曲線が三角関数を用いて表現される場合には、重症度判定データはそのような三角関数を規定する振幅、角周波数及び初期位相であり得る。
【0055】
重症度判定データから単回帰直線120または単回帰曲線を求めることで、ジストニア患者のZスコアからその重症度を推定することが可能になる。例えば、診断支援システム100の演算回路102がある被験者のZスコアを算出し、閾値TH
DMP(
図3A)を利用してその被験者がジストニアに罹患している可能性があることを示す推定結果を出力したとする。このとき演算回路102はさらに、重症度判定データを記憶装置104から読み出し、その被験者のZスコアに基づいてジストニアの症状の重症度をさらに出力してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の例示的な実施形態にかかる診断支援システムは、被験者がジストニアに罹患しているか否かの推定結果を出力することが可能であり、医師が被験者を診断する際に医師を支援することが可能である。