(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134364
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】脈波センサ
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20230920BHJP
【FI】
A61B5/02 310M
A61B5/02 310P
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015162
(22)【出願日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2022039239
(32)【優先日】2022-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小笠 洋介
(72)【発明者】
【氏名】浅川 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】足立 重之
(72)【発明者】
【氏名】北村 厚
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA09
4C017AB02
4C017AC03
4C017FF15
(57)【要約】
【課題】被験者の皮膚との密着性を向上すると共に、ひずみの伝達性が良好な脈波センサを提供する。
【解決手段】本脈波センサは、被験者に装着可能な脈波センサであって、支持体と、前記脈波センサを前記被験者が装着した際に、前記被験者の身体に接する面である第1面と、前記第1面と反対側の第2面と、を備え、前記第1面が前記支持体から露出するように前記支持体に固定された起歪体と、前記第2面に固定されたひずみゲージと、を有し、前記第1面には、複数の突起部が設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に装着可能な脈波センサであって、
支持体と、
前記脈波センサを前記被験者が装着した際に、前記被験者の身体に接する面である第1面と、前記第1面と反対側の第2面と、を備え、前記第1面が前記支持体から露出するように前記支持体に固定された起歪体と、
前記第2面に固定されたひずみゲージと、を有し、
前記第1面には、複数の突起部が設けられている、脈波センサ。
【請求項2】
複数の前記突起部は、前記第1面の全体に一定の規則性を持って配置されている、請求項1に記載の脈波センサ。
【請求項3】
各々の前記突起部は、前記第1面を平面視した場合に直線または長方形の形状であり、長手方向を同一方向に向けて配置されている、請求項1又は2に記載の脈波センサ。
【請求項4】
前記支持体は、細長状であり、
各々の前記突起部の長手方向は、前記支持体の長手方向に対して略垂直である、請求項3に記載の脈波センサ。
【請求項5】
前記突起部は、柱状である、請求項1又は2に記載の脈波センサ。
【請求項6】
前記支持体は、前記被験者の身体に接する側の面において、凹んだ部分である凹部を有しており、
前記起歪体は、前記凹部を封鎖するように設けられており、
前記ひずみゲージは、前記凹部と前記起歪体の前記第2面とで形成される空間に、前記支持体と離隔して配置されている、請求項1乃至5の何れか一項に記載の脈波センサ。
【請求項7】
前記ひずみゲージは、抵抗体を有し、前記第1面に垂直な方向から視たとき、前記抵抗体が前記突起部と重複しないように配置されている、請求項1乃至6の何れか一項に記載の脈波センサ。
【請求項8】
前記支持体の前記被験者の身体に接する面において、前記第1面が露出する領域を除く少なくとも一部の領域に粘着層が設けられている、請求項1乃至7の何れか一項に記載の脈波センサ。
【請求項9】
前記粘着層の前記被験者の身体に接する側の面には、剥離シートが貼り合わされている、請求項8に記載の脈波センサ。
【請求項10】
前記ひずみゲージは、Cr、CrN、及びCr2Nを含む膜から形成された抵抗体を備えている、請求項1乃至9の何れか一項に記載の脈波センサ。
【請求項11】
被験者に装着可能な脈波センサであって、
支持体と、
前記脈波センサを前記被験者が装着した際に、前記被験者の身体に接する面である第1面と、前記第1面と反対側の第2面と、を備え、前記第1面が前記支持体から露出するように前記支持体に固定された起歪体と、
前記第2面に固定された検出部と、を有し、
前記検出部は、前記起歪体の変形及び/又は前記起歪体にかかる圧力を検出し、
前記第1面には、複数の突起部が設けられており、
前記検出部が検出した前記変形及び/又は前記圧力の変化に基づいて脈波を検出する、脈波センサ。
【請求項12】
複数の前記突起部は、前記第1面の全体に一定の規則性を持って配置されている、請求項11に記載の脈波センサ。
【請求項13】
各々の前記突起部は、前記第1面を平面視した場合に直線または長方形の形状であり、長手方向を同一方向に向けて配置されている、請求項11又は12に記載の脈波センサ。
【請求項14】
前記支持体は、細長状であり、
各々の前記突起部の長手方向は、前記支持体の長手方向に対して略垂直である、請求項13に記載の脈波センサ。
【請求項15】
前記突起部は、柱状である、請求項11又は12に記載の脈波センサ。
【請求項16】
前記支持体は、前記被験者の身体に接する側の面において、凹んだ部分である凹部を有しており、
前記起歪体は、前記凹部を封鎖するように設けられており、
前記検出部は、前記凹部と前記起歪体の前記第2面とで形成される空間に、前記支持体と離隔して配置されている、請求項11乃至15の何れか一項に記載の脈波センサ。
【請求項17】
前記支持体の前記被験者の身体に接する面において、前記第1面が露出する領域を除く少なくとも一部の領域に粘着層が設けられている、請求項11乃至16の何れか一項に記載の脈波センサ。
【請求項18】
前記粘着層の前記被験者の身体に接する側の面には、剥離シートが貼り合わされている、請求項17に記載の脈波センサ。
【請求項19】
前記検出部は、前記起歪体の変形によって生じる磁気変化を検出する検出素子を有する、請求項11乃至18の何れか一項に記載の脈波センサ。
【請求項20】
前記検出素子は磁性体を含み、
前記検出素子は、前記起歪体の変形によって前記磁性体に圧力が加わったときの前記磁性体の磁化の強さの変化を検出する検出素子である、請求項19に記載の脈波センサ。
【請求項21】
前記検出素子は、磁性膜で絶縁膜を挟んだ磁気トンネル接合の構造を含んでおり、
前記検出素子は、前記起歪体の変形によって前記構造で発生する磁気変化を検出する検出素子である、請求項19に記載の脈波センサ。
【請求項22】
前記検出部は半導体式のひずみゲージである、請求項11乃至18の何れか一項に記載の脈波センサ。
【請求項23】
前記検出部は静電容量式の圧力センサである、請求項11乃至18の何れか一項に記載の脈波センサ。
【請求項24】
前記検出部は光ファイバ式のひずみゲージである、請求項11乃至18の何れか一項に記載の脈波センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈波センサに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓が血液を送り出すことに伴い発生する脈波を検出する脈波センサが知られている。一例として、外力の作用により撓み可能に支持されている起歪体となる受圧板と、その受圧板の撓みを電気信号に変換する圧電変換手段とが設けられた脈波センサが挙げられる。この脈波センサは、受圧板の可撓領域が外方に向かって凸曲面となるドーム状に形成されており、圧電変換手段として受圧板における頂部の内面に圧力検出素子を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脈波センサは、微小な信号を検出する必要があるため、測定精度を向上するために、脈波センサを被験者に適度に密着させる必要がある。また、脈波センサには、効率的にひずみを伝達できる起歪体が必要である。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、被験者の皮膚との密着性を向上すると共に、ひずみの伝達性が良好な脈波センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態に係る脈波センサは、被験者に装着可能な脈波センサであって、支持体と、前記脈波センサを前記被験者が装着した際に、前記被験者の身体に接する面である第1面と、前記第1面と反対側の第2面と、を備え、前記第1面が前記支持体から露出するように前記支持体に固定された起歪体と、前記第2面に固定されたひずみゲージと、を有し、前記第1面には、複数の突起部が設けられている。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、被験者の皮膚との密着性を向上すると共に、ひずみの伝達性が良好な脈波センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る脈波センサを例示する平面図である。
【
図2】第1実施形態に係る脈波センサを例示する部分断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る脈波センサの起歪体を例示する底面図である。
【
図4】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
【
図5】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)である。
【
図6】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)である。
【
図7】第1実施形態の変形例1に係る脈波センサを例示する平面図である。
【
図8】第1実施形態の変形例2に係る脈波センサの起歪体を例示する底面図(その1)である。
【
図9】第1実施形態の変形例2に係る脈波センサの起歪体を例示する底面図(その2)である。
【
図10】第2実施形態に係る脈波センサを例示する平面図である。
【
図11】第2実施形態に係る脈波センサを例示する部分断面図である。
【
図12】第3実施形態に係るひずみゲージに含まれる検出素子の一例を示す平面図および断面図である。
【
図13】第4実施形態に係るひずみゲージに含まれる検出素子の一例を示す斜視図、平面図、および断面図である。
【
図14】第4実施形態に係るひずみゲージに含まれる検出素子の他の一例を示す斜視図、平面図、および断面図である。
【
図15】第4実施形態に係るひずみゲージに含まれる検出素子の、更に他の一例を示す斜視図、平面図、および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一の構成部には同一の符号を付す場合がある。また、各図面において、互いに直交するX方向、Y方向、及びZ方向を規定する場合がある。この場合、X方向において、矢印の始点(根元)側をX-側、矢印の終点(矢尻)側をX+側と称する場合がある。Y方向及びZ方向についても同様である。また、各図面の説明において、既に説明した構成部と同一の構成部についての説明は省略する場合がある。
【0010】
〈第1実施形態〉
[脈波センサ1]
図1は、第1実施形態に係る脈波センサを例示する平面図である。
図2は、第1実施形態に係る脈波センサを例示する部分断面図であり、
図1のA-A線に沿う断面を示している。
【0011】
図1及び
図2を参照すると、脈波センサ1は、被験者に装着可能なウェアラブルデバイスであり、主に、支持体10と、起歪体20と、ひずみゲージ100と、ハウジング200とを有している。
【0012】
脈波センサ1は、例えば、起歪体20が被験者の橈骨動脈の近くに配置されるように、被験者の手首に装着される。脈波は、心臓が血液を送り出すことに伴い発生する血管の容積変化を波形としてとらえたもので、脈波センサ1は、血管の容積変化をモニターすることができる。
【0013】
脈波センサ1において、支持体10は、被験者の手首に装着される細長状のベルトであり、被験者の手首に巻き付けることができる。なお、細長状とは、長手方向と短手方向を明確に区別できる形状を指す。支持体10は、例えば、樹脂やゴム等の湾曲しやすい材料により形成することができる。支持体10は、被験者に容易にかつ確実に装着するために、伸縮性を有することが好ましい。なお、
図1及び
図2では、支持体10の長手方向がX方向である。
【0014】
支持体10は、裏面10mと表面10nとを備えている。例えば、支持体10の一端の裏面10m側と、支持体10の他端の表面10n側に一対の面ファスナーが設けられており、この面ファスナーにより支持体10を被験者の手首に取り外し自在に装着することができる。支持体10を被験者の手首に装着する際には、裏面10mが被験者の身体に接する(例えば、被験者の手首の肌に接する)ように装着する。
【0015】
図2に示すように、支持体10の裏面10mは、Z+方向に凹んでいる。この部分を便宜上、取付部10xと称する。また、取付部10xの一部分は、Z+方向に更に凹んだ部分を有する。この更に凹んだ部分を、凹部10yと称する。取付部10xおよび凹部10yは、支持体10にひずみゲージ100および起歪体20を取り付けるための部位である。
【0016】
取付部10xの底面(
図2では、XY平面上の面)には、接着層30が設けられている。この接着層30によって、支持体10に起歪体20が固定される。起歪体20は、脈波センサ1を被験者が腕に装着した際に、被験者の身体に接する面である第1面20mと、第1面20mと反対側の面である第2面20nとを備える。起歪体20は、第1面20mが支持体10の裏面10mから露出するように、取付部10xに取り付けられている。また、起歪体20は、第2面20nで凹部10yを封鎖するように設けられることが望ましい。
【0017】
接着層30の材料は、支持体10と起歪体20とを接着する機能を有する材料であれば、特に制限されない。例えば、接着層30として、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、変性ウレタン樹脂等を用いることができる。又、接着層30として、ボンディングシート等を用いても良い。接着層30の厚さは、特に制限されない。例えば、接着層30の厚さは、0.1μm~50μm程度とすることができる。
【0018】
起歪体20は、荷重を受けることによりひずみを発生させる部材である。起歪体20に荷重が加わると、起歪体20にひずみが生じ、起歪体20に接着されたひずみゲージ100の抵抗値が変化する。起歪体20の形状は特に限定されない。例えば、起歪体20は平板状の矩形であってよい。起歪体20の材料としては、例えば、SUS(ステンレス鋼)、銅、アルミニウム等を用いることができる。起歪体20が平板状である場合、プレス加工法等により起歪体20を形成することができる。起歪体20の厚さtは、例えば、0.01mm以上0.25mm以下である。なお、起歪体20の厚さtは、後述の突起部21を含まない厚さを示す。
【0019】
起歪体20の第1面20mには、複数の突起部が設けられる。本実施形態では、一例として、起歪体20の第1面20mに、6つの突起部21が設けられている。突起部21は、第1面20mを平面視した場合に、図示のようにY軸方向に延びる直線または長方形の形状をしている。各々の突起部21の第1面20mからの突起量pは、例えば、0.01mm以上0.25mm以下である。各々の突起部21は、幅w及び間隔iが一定となるように設けられてもよい。この場合、各々の突起部21の幅wは、例えば、0.5mm~1mm程度である。各々の突起部21の間隔iは、例えば、1mm~2mm程度である。
【0020】
起歪体20の第2面20nには、接着層40により、ひずみゲージ100が固定されている。ひずみゲージ100は、本開示において検出部の一例である。
図2に示す通り、ひずみゲージ100は例えば、凹部10yと起歪体20の第2面20nとで形成される空間に収容されている。ひずみゲージ100は、起歪体20のひずみにより生じる抵抗体130の抵抗値の変化に基づいて脈波を検出するセンサである。
【0021】
なお、ひずみゲージ100は、凹部10y内において、支持体10と離隔して配置されることが好ましい。ひずみゲージ100を支持体10と離隔して配置すると、ひずみゲージ100の抵抗体130が伸縮するときに、支持体10がその伸縮を妨げることがない。そのため、当該配置によれば、ひずみゲージ100のひずみの検出精度が向上する。したがって、脈波センサ1は脈波を高精度で検出することができる。
【0022】
接着層40の材料は、起歪体20とひずみゲージ100とを接着する機能を有する材料であれば、特に制限されない。例えば、接着層40として、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、変性ウレタン樹脂等を用いることができる。又、接着層40として、ボンディングシート等を用いても良い。接着層40の厚さは、特に制限されない。例えば、接着層40の厚さは、0.1μm~50μm程度とすることができる。
【0023】
ハウジング200は、例えば、支持体10の表面10nに固定されている。ひずみゲージ100の出力は、例えば、線材やフレキシブル基板等により、ハウジング200内に配置された回路と電気的に接続されている。ハウジング200内には、例えば、ブリッジ回路、A/D変換回路、記憶部、通信部、電池等が配置される。
【0024】
ひずみゲージ100の出力は、例えば、ハウジング200内のブリッジ回路に接続され、ブリッジ回路の出力として、抵抗体130の抵抗値に対応した周期的な電圧の変化であるアナログの脈波信号が得られる。アナログの脈波信号はA/D変換回路でデジタル信号に変化された後、記憶部に記憶される。記憶部は、例えば、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリである。記憶部に記憶されたデータは、例えば、通信部により脈波センサ1の外部に送信される。ハウジング200内に通信部を配置せず、記憶部に記憶されたデータを線材等により脈波センサ1の外部に伝送してもよい。
【0025】
図3は、第1実施形態に係る脈波センサの起歪体を例示する底面図である。
図3に示すように、脈波センサ1の起歪体20において、各々の突起部21の長手方向は、支持体10の長手方向に対して略垂直である。すなわち、支持体10の長手方向がX軸方向であるのに対し、各々の突起部21の長手方向はY軸方向である。なお、ここでいう「略垂直」とは、突起部21の長手方向が支持体10の長手方向に対して90度±5度程度の角度である場合を示す。
【0026】
起歪体20に少なくとも2つの突起部21を設けることにより、起歪体20全体としての必要な剛性を確保しつつ、突起部21が設けられていない領域(例えば、突起部21と突起部21との間の領域)の、起歪体20の厚みを薄くすることができる。そのため、支持体10を被験者の手首に装着したときに、起歪体20のうち、突起部21と突起部21との間の部分が曲がりやすくなるので、起歪体20を被験者の手首の形状に沿って柔軟に湾曲させることができる。ゆえに、被験者が脈波センサ1を装着した場合に、
図2に示した突起部21の先端面21aを、被験者の橈骨動脈に密着させることができる。これにより、脈波センサ1は被験者の橈骨動脈に生じるひずみを高精度で検出することができる。
【0027】
突起部21は、第1面20mに最低2つ配置されればよいが、より多くの突起部21が第1面20mの全体に一定の規則性を持って配置されていることが好ましい。これにより、起歪体20全体を被験者の手首の形状に沿って湾曲させることがさらに容易となる。なお、一定の規則性を持つとは、ランダムな状態ではなく、何らかの規則性を持っていればよく、その規則性の態様については限定されない。一定の規則性の例としては、同一形状の突起部21を一方向に等間隔に並べる、同一形状の突起部21を行列状に並べる、同じ配置の態様が繰り返し反復される等が挙げられる。
【0028】
また、脈波センサ1では、起歪体20の第1面20mに複数の突起部21が設けられており、突起部21の先端面21aが被験者の皮膚に接する。これにより、突起部21を設けない場合、すなわち、起歪体20の第1面20mの全体が被験者の皮膚に接する場合と比べて、起歪体20と被験者の皮膚との接触面積を減らすことができる。その結果、起歪体20が橈骨動脈から受ける圧力がより大きくなるため、脈波センサ1は被験者の橈骨動脈に生じる微小なひずみを高精度で検出することができる。
【0029】
また、ひずみゲージ100は、起歪体20の第1面20mに垂直な方向から視たとき(Z-側からZ+側に見たとき)、抵抗体130が突起部21と重複しないように配置することが好ましい。起歪体20のうち、突起部21と突起部21との間の部分は、突起部21よりも厚みが薄いためひずみが生じやすい。そのため、この部分のひずみを抵抗体130が受けられるようにひずみゲージ100を配置することで、起歪体20に生じるひずみを高精度で検出することができる。
【0030】
[ひずみゲージ100]
図4は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図5は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)であり、
図4のB-B線に沿う断面を示している。
【0031】
図4及び
図5を参照すると、ひずみゲージ100は、基材110と、抵抗体130と、配線140と、電極150と、カバー層160とを有している。カバー層160は、必要に応じて設けることができる。なお、
図4及び
図5では、便宜上、カバー層160の外縁のみを破線で示している。まずは、ひずみゲージ100を構成する各部について詳細に説明する。
【0032】
なお、本実施形態では、便宜上、ひずみゲージ100において、基材110の抵抗体130が設けられている側を「上側」と称し、抵抗体130が設けられていない側を「下側」と称する。又、各部位の上側に位置する面を「上面」と称し、各部位の下側に位置する面を「下面」と称する。ただし、ひずみゲージ100は天地逆の状態で用いることもできる。又、ひずみゲージ100は任意の角度で配置することもできる。又、平面視とは、基材110の上面110aに対する上側から下側への法線方向で対象物を視ることを指すものとする。そして、平面形状とは、前記法線方向で対象物を視たときの、対象物の形状を指すものとする。
【0033】
基材110は、抵抗体130等を形成するためのベース層となる部材である。基材110は可撓性を有する。基材110の厚さは特に限定されず、ひずみゲージ100の使用目的等に応じて適宜決定されてよい。例えば、基材110の厚さは5μm~500μm程度であってよい。なお、起歪体20の第2面20nから受感部へのひずみの伝達性、及び、環境変化に対する寸法安定性の観点から考えると、基材110の厚さは5μm~200μmの範囲内であることが好ましい。また、絶縁性の観点から考えると、基材110の厚さは10μm以上であることが好ましい。
【0034】
基材110は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、LCP(液晶ポリマー)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成される。なお、フィルムとは、厚さが500μm以下程度であり、かつ可撓性を有する部材を指す。
【0035】
基材110が絶縁樹脂フィルムから形成される場合、当該絶縁樹脂フィルムには、フィラーや不純物等が含まれていてもよい。例えば、基材110は、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成されてもよい。
【0036】
基材110の樹脂以外の材料としては、例えば、SiO2、ZrO2(YSZも含む)、Si、Si2N3、Al2O3(サファイヤも含む)、ZnO、ペロブスカイト系セラミックス(CaTiO3、BaTiO3)等の結晶性材料が挙げられる。又、前述の結晶性材料以外に非晶質のガラス等を基材110の材料としてもよい。又、基材110の材料として、アルミニウム、アルミニウム合金(ジュラルミン)、チタン等の金属を用いてもよい。金属製の基材110を用いる場合、上面110aを被覆するように絶縁膜が設けられる。
【0037】
抵抗体130は、基材110の上側に所定のパターンで形成された薄膜である。ひずみゲージ100において、抵抗体130は、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。抵抗体130は、基材110の上面110aに直接形成されてもよいし、基材110の上面110aに他の層を介して形成されてもよい。なお、
図4では、便宜上、抵抗体130を密度の高い梨地模様で示している。
【0038】
抵抗体130は、複数の細長状部が長手方向を同一方向(
図4の例ではX方向)に向けて所定間隔で配置され、隣接する細長状部の端部が互い違いに連結されて、全体としてジグザグに折り返す構造である。複数の細長状部の長手方向がグリッド方向となり、グリッド方向と垂直な方向がグリッド幅方向(
図4の例ではY方向)となる。
【0039】
抵抗体130において、最もY+側に位置する細長状部のX-側の端部は、Y+方向に屈曲し、抵抗体130のグリッド幅方向の一方の終端130e1に達する。また、最もY-側に位置する細長状部のX-側の端部は、Y-方向に屈曲し、抵抗体130のグリッド方向の他方の終端130e2に達する。各々の終端130e1及び130e2は、配線140を介して、電極150と電気的に接続されている。言い換えれば、配線140は、抵抗体130のグリッド幅方向の各々の終端130e1及び130e2と各々の電極150とを電気的に接続している。
【0040】
抵抗体130は、例えば、Cr(クロム)を含む材料、Ni(ニッケル)を含む材料、又はCrとNiの両方を含む材料から形成することができる。すなわち、抵抗体130は、CrとNiの少なくとも一方を含む材料から形成することができる。Crを含む材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Niを含む材料としては、例えば、Cu-Ni(銅ニッケル)が挙げられる。CrとNiの両方を含む材料としては、例えば、Ni-Cr(ニッケルクロム)が挙げられる。
【0041】
ここで、Cr混相膜とは、Cr、CrN、及びCr2N等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでいてもよい。
【0042】
抵抗体130の厚さは特に限定されず、ひずみゲージ100の使用目的等に応じて適宜決定されてよい。例えば、抵抗体130の厚さは0.05μm~2μm程度であってよい。特に、抵抗体130の厚さが0.1μm以上である場合、抵抗体130を構成する結晶の結晶性(例えば、α-Crの結晶性)が向上する。また、抵抗体130の厚さが1μm以下である場合、抵抗体130を構成する膜の内部応力に起因する、(i)膜のクラック及び(ii)膜の基材110からの反りが、低減される。
【0043】
横感度を生じ難くすることと、断線対策とを考慮すると、抵抗体130の幅は10μm以上100μm以下であることが好ましい。更に言えば、抵抗体130の幅は10μm以上70μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であるとより好ましい。
【0044】
例えば、抵抗体130がCr混相膜である場合、安定な結晶相であるα-Cr(アルファクロム)を主成分とすることで、ゲージ特性の安定性を向上させることができる。又例えば、抵抗体130がCr混相膜である場合、抵抗体130がα-Crを主成分とすることで、ひずみゲージ100のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。ここで、「主成分」とは、抵抗体を構成する全物質の50重量%以上を占める成分のことを意味する。ゲージ特性を向上させるという観点から考えると、抵抗体130はα-Crを80重量%以上含むことが好ましい。更に言えば、同観点から考えると、抵抗体130はα-Crを90重量%以上含むことがより好ましい。なお、α-Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
【0045】
又、抵抗体130がCr混相膜である場合、Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nは20重量%以下であることが好ましい。Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nが20重量%以下であることで、ひずみゲージ100のゲージ率の低下を抑制することができる。
【0046】
又、Cr混相膜におけるCrNとCr2Nとの比率は、CrNとCr2Nの重量の合計に対し、Cr2Nの割合が80重量%以上90重量%未満となるようにすることが好ましい。更に言えば、同比率は、CrNとCr2Nの重量の合計に対し、Cr2Nの割合が90重量%以上95重量%未満となるようにすることがより好ましい。Cr2Nは半導体的な性質を有する。そのため、前述のCr2Nの割合を90重量%以上95重量%未満とすることで、TCRの低下(負のTCR)が一層顕著となる。更に、前述のCr2Nの割合を90重量%以上95重量%未満とすることで抵抗体130のセラミックス化を低減し、抵抗体130の脆性破壊が起こりにくくすることができる。
【0047】
一方で、CrNは化学的に安定であるという利点を有する。Cr混相膜にCrNをより多く含むことで、不安定なNが発生する可能性を低減することができるため、安定なひずみゲージを得ることができる。ここで「不安定なN」とは、Cr混相膜の膜中に存在し得る、微量のN2もしくは原子状のNのことを意味する。これらの不安定なNは、外的環境(例えば高温環境)によっては膜外へ抜け出ることがある。不安定なNが膜外へ抜け出るときに、Cr混相膜の膜応力が変化し得る。
【0048】
ひずみゲージ100において、抵抗体130の材料としてCr混相膜を用いた場合、高感度化かつ、小型化を実現することができる。例えば、従来のひずみゲージの出力が0.04mV/2V程度であったのに対して、抵抗体130の材料としてCr混相膜を用いた場合は0.3mV/2V以上の出力を得ることができる。また、従来のひずみゲージの大きさ(ゲージ長×ゲージ幅)が3mm×3mm程度であったのに対して、抵抗体130の材料としてCr混相膜を用いた場合の大きさ(ゲージ長×ゲージ幅)は0.3mm×0.3mm程度に小型化することができる。
【0049】
配線140は、基材110上に設けられている。配線140は、抵抗体130及び電極150と電気的に接続されている。配線140は、直線状には限定されず、任意のパターンとすることができる。また、配線140は、任意の幅及び任意の長さとすることができる。なお、
図4では、便宜上、配線140を抵抗体130よりも密度の低い梨地模様で示している。
【0050】
電極150は、基材110上に設けられている。電極150は、配線140を介して抵抗体130と電気的に接続されている。電極150は、平面視において、配線140よりも拡幅して略矩形状に形成されている。電極150は、ひずみにより生じる抵抗体130の抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極である。電極150には、例えば外部接続用のリード線等が接合される。電極150の上面に、銅等の抵抗の低い金属層、または、金等のはんだ付け性が良好な金属層を積層してもよい。抵抗体130と配線140と電極150とは便宜上別符号としているが、両者は同一工程において同一材料により一体に形成することができる。なお、
図4では、便宜上、電極150を配線140と同じ密度の梨地模様で示している。
【0051】
カバー層160(保護層)は、必要に応じ、基材110の上面110aに、抵抗体130及び配線140を被覆し電極150を露出するように設けられる。カバー層160の材料としては、例えば、PI樹脂、エポキシ樹脂、PEEK樹脂、PEN樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、複合樹脂(例えば、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂)等の絶縁樹脂が挙げられる。なお、カバー層160は、フィラーや顔料を含有しても構わない。カバー層160の厚さは、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、カバー層160の厚さは2μm~30μm程度とすることができる。カバー層160を設けることで、抵抗体130に機械的な損傷等が生じることを抑制することができる。又、カバー層160を設けることで、抵抗体130を湿気等から保護することができる。
【0052】
[ひずみゲージ100の製造方法]
本実施形態に係るひずみゲージ100では、基材110上に、抵抗体130と、配線140と、電極150と、カバー層160とが形成される。なお、基材110とこれらの部材の層の間に別の層(後述する機能層等)が形成されてもよい。
【0053】
以下、ひずみゲージ100の製造方法について説明する。ひずみゲージ100を製造するためには、まず、基材110を準備し、基材110の上面110aに金属層(便宜上、金属層Aとする)を形成する。金属層Aは、最終的にパターニングされて抵抗体130、配線140、及び電極150となる層である。従って、金属層Aの材料や厚さは、前述の抵抗体130、配線140、及び電極150の材料や厚さと同様である。
【0054】
金属層Aは、例えば、金属層Aを形成可能な原料をターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により成膜することができる。金属層Aは、マグネトロンスパッタ法に代えて、反応性スパッタ法、蒸着法、アークイオンプレーティング法、またはパルスレーザー堆積法等を用いて成膜されてもよい。基材110の上面110aに金属層Aを成膜後、周知のフォトリソグラフィ法により、金属層Aを
図4の抵抗体130、配線140、及び電極150と同様の平面形状にパターニングする。
【0055】
なお、基材110の上面110aに下地層を形成してから金属層Aを形成してもよい。例えば、基材110の上面110aに、所定の膜厚の機能層をコンベンショナルスパッタ法により真空成膜してもよい。このように下地層を設けることによって、ひずみゲージ100のゲージ特性を安定化させることができる。
【0056】
本願において、機能層とは、少なくとも上層である金属層A(抵抗体130)の結晶成長を促進する機能を有する層を指す。機能層は、更に、基材110に含まれる酸素または水分による金属層Aの酸化を防止する機能、および/または、基材110と金属層Aとの密着性を向上する機能を備えていることが好ましい。機能層は、更に、他の機能を備えていてもよい。
【0057】
基材110を構成する絶縁樹脂フィルムは酸素や水分を含むことがあり、また、Crは自己酸化膜を形成することがある。そのため、特に金属層AがCrを含む場合、金属層Aの酸化を防止する機能を有する機能層を成膜することが好ましい。
【0058】
このように、金属層Aの下層に機能層を設けることにより、金属層Aの結晶成長を促進可能となり、安定な結晶相からなる金属層Aを作製することができる。その結果、ひずみゲージ100において、ゲージ特性の安定性が向上する。又、機能層を構成する材料が金属層Aに拡散することにより、ひずみゲージ100において、ゲージ特性が向上する。
【0059】
機能層の材料としては、例えば、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ni(ニッケル)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Si(シリコン)、C(炭素)、Zn(亜鉛)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Fe(鉄)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)からなる群から選択される1種又は複数種の金属、この群の何れかの金属の合金、又は、この群の何れかの金属の化合物が挙げられる。
【0060】
図6は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)である。
図6は、抵抗体130、配線140、及び電極150の下地層として機能層120を設けた場合のひずみゲージ100の断面形状を示している。
【0061】
機能層120の平面形状は、例えば抵抗体130、配線140、及び電極150の平面形状と略同一にパターニングされてよい。しかしながら、機能層120と抵抗体130、配線140、及び電極150との平面形状は略同一でなくてもよい。例えば、機能層120が絶縁材料から形成される場合には、機能層120を抵抗体130、配線140、及び電極150の平面形状と異なる形状にパターニングしてもよい。この場合、機能層120は例えば抵抗体130、配線140、及び電極150が形成されている領域にベタ状に形成されてもよい。或いは、機能層120は、基材110の上面全体にベタ状に形成されてもよい。
【0062】
抵抗体130、配線140、及び電極150を形成した後、必要に応じ、基材110の上面110aにカバー層160を形成する。カバー層160は抵抗体130及び配線140を被覆するが、電極150はカバー層160から露出していてよい。例えば、基材110の上面110aに、抵抗体130及び配線140を被覆し電極150を露出するように、半硬化状態の熱硬化性の絶縁樹脂フィルムをラミネートして、その後に当該絶縁樹脂フィルムを加熱して硬化させることにより、カバー層160を形成することができる。以上の工程により、ひずみゲージ100が完成する。
【0063】
〈第1実施形態の変形例1〉
第1実施形態の変形例1では、支持体10上にハウジング200が設けられていない脈波センサの例を示す。なお、第1実施形態の変形例1では、既に説明した実施形態と同一の構成部についての説明は省略する場合がある。
【0064】
図7は、第1実施形態の変形例1に係る脈波センサを例示する平面図である。
図7を参照すると、脈波センサ1Aは、ハウジング200を有していない点が、
図1に示した脈波センサ1と相違する。
【0065】
脈波センサ1Aは、ハウジング200を有していないため、ひずみゲージ100の出力は、線材等により、脈波センサ1Aとは離れたところに配置された記憶部等に接続される。例えば、ひずみゲージ100の電極150には外部接続用のリード線等が接合され、記憶部等に接続される。
【0066】
このように、記憶部等を含むハウジング200は、支持体10上に配置されてもよいし、支持体10とは離れたところに配置されてもよい。なお、記憶部の種類、大きさ、および形状は特に限定されない。例えば、脈波センサ1Aは、被験者のポケット等に収まる程度の大きさの携帯可能な記録媒体(すなわち、記憶部)と接続するための配線を有していてもよい。そして、本発明は、脈波センサ1の検出した脈波のデータが、当該記録媒体に記憶される構成であってもよい。
【0067】
また、本変形例において、脈波センサ1Aと記憶部は無線接続されてもよい。すなわち、脈波センサ1Aは、ひずみゲージ100の測定データを、自身に備えた通信部を介して外部の記憶装置に送信してもよい。
【0068】
〈第1実施形態の変形例2〉
第1実施形態の変形例2では、突起部の形状、及び起歪体の形状の他の例を示す。なお、第1実施形態の変形例2では、既に説明した実施形態と同一の構成部についての説明は省略する場合がある。
【0069】
図8は、第1実施形態の変形例2に係る脈波センサの起歪体を例示する底面図(その1)である。
図9は、第1実施形態の変形例2に係る脈波センサの起歪体を例示する底面図(その2)である。
【0070】
図8の例では、起歪体20Aは、矩形かつ平板状の構造をしている。そして、起歪体20Aの第1面20mに、矩形の突起部22が形成されている。ここで、突起部22は、第1面20mからZ-方向に突起した構造である。したがって、立体的に見れば、突起部22は四角柱の形状をしているといえる。突起部22は、第1面20mにおいて、X軸方向及びY軸方向に等間隔で配置されている。
図9の例では、起歪体20Bは、円形かつ平板状の構造をしている。そして、起歪体20Bの第1面20mにおいて、四角柱の突起部22がX軸方向及びY軸方向に等間隔で配置されている。なお、突起部22の形状は、四角柱には限定されない。例えば、突起部22は三角柱、円柱、および楕円柱等の種々の柱状であってもよい。
【0071】
また、起歪体の第1面20mの形状も、特に限定されない。例えば、第1面20mは、
図8に示した矩形であってもよいし、
図9に示した円形であってもよいし、三角形または楕円形等のその他の形状であってもよい。また、起歪体の第1面20mには、細長状の直方体の突起部(例えば、
図3の突起部21)が配置されてもよいし、柱状の突起部(例えば、
図8および
図9の突起部22)が配置されてもよい。起歪体に少なくとも2以上の突起部を設けることで、起歪体全体としての必要な剛性を確保しつつ、突起部と突起部との間の部分の起歪体を薄くすることができる。
【0072】
〈第2実施形態〉
第2実施形態では、絆創膏型の脈波センサの例を示す。なお、第2実施形態では、既に説明した実施形態と同一の構成部についての説明は省略する場合がある。
【0073】
図10は、第2実施形態に係る脈波センサを例示する平面図である。
図11は、第2実施形態に係る脈波センサを例示する部分断面図であり、
図10のC-C線に沿う断面を示している。
【0074】
図10及び
図11を参照すると、脈波センサ2は、被験者に装着可能なウェアラブルデバイスであり、主に、支持体50と、起歪体20と、ひずみゲージ100とを有している。脈波センサ2は、脈波センサ1と同様に、ハウジング200を有してもよい。
【0075】
脈波センサ2において、支持体50は、被験者の手首に装着される円形状のパッチであり、被験者の皮膚に貼り付けることができる。支持体50は、例えば、樹脂、紙、布、不織布等、およびこれらの組み合わせから形成することができる。支持体50は、例えば、絆創膏のように肌色と近い色味であってもよい。
図10の例では、支持体50は平面視で円形であるが、これには限定されず、楕円形、正方形、長方形等であってもよい。
【0076】
支持体50の、起歪体20やひずみゲージ100の周辺の構造は、支持体10と同様である。すなわち、支持体50は、裏面50mと表面50nとを備えており、被験者が脈波センサ2を装着したとき、支持体50の裏面50mが被験者の肌に接する。支持体50の裏面50mには、取付部10xと同様の構成である取付部50xが設けられている。また、取付部50xは、Z+方向に更に凹んだ部分である凹部50yを有する。支持体50には、接着層30を介して起歪体20が固定されている。起歪体20は、第1面20mが支持体50の裏面50mから露出するように、取付部50xに取り付けられている。ひずみゲージ100は、凹部50yと第2面20nとで形成される空間に収容されている。
【0077】
支持体50は、裏面50mに粘着層60が設けられている点で、支持体10と異なる。より詳しくは、支持体50の裏面50mの、起歪体20の第1面20mが露出する領域を除く少なくとも一部の領域に、粘着剤が付着した粘着層60が設けられている。粘着層60は、人間の肌に張り付く性質を有している。粘着層60は、例えば支持体50に粘着剤を塗布することで形成される。もしくは、粘着層60は、支持体50に粘着層60を貼り合わせることで形成されてもよい。粘着層60を形成する粘着剤の具体例としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を挙げることができる。粘着層60の、被験者の身体(被験者の肌)に接する側の面には、剥離シート70が貼り合わされていてもよい。剥離シート70は、例えば、剥離処理がなされた紙や、剥離処理なされた樹脂シート等である。
【0078】
脈波センサ2を使用する場合、脈波センサ2の使用者は、剥離シート70を剥離した後、露出した粘着層60を、脈波を測りたい対象の人間の橈骨動脈付近の皮膚に直接貼り付ける。支持体50には、第1実施形態と同様の2つ以上の突起部21を有する起歪体20が設けられている。そのため、脈波センサ2は、脈波センサ1と同様に、起歪体20を被験者の手首の形状に沿って湾曲させ、突起部21の先端面21aを被験者の橈骨動脈に密着させることができる。その結果、脈波センサ2は、脈波センサ1と同様に、被験者の橈骨動脈に生じるひずみを高精度で検出することができる。
【0079】
なお、脈波センサ2において、直線状の突起部21の代わりに、柱状の突起部22を設けてもよい。
【0080】
〈第3実施形態〉
上述した各実施形態およびその変形例では、本開示に係る検出部が抵抗体を用いたひずみゲージである例について説明した。すなわち、前記各実施形態では、本開示に係る検出部が電気抵抗式の金属ひずみゲージである場合について説明した。しかしながら、本開示に係る検出部は金属ひずみゲージに限定されない。例えば、本開示に係る検出部は、当該ひずみゲージに含まれる検出素子によって、起歪体(または、起歪体に相当する構造物)のひずみによって引き起こされる磁気変化を検出するひずみゲージであってもよい。
【0081】
具体的には、本開示に係る検出部は、ビラリ現象(後述)を利用した検出素子を含んだひずみゲージであってもよい。また、本開示に係る検出部は、磁気トンネル接合(後述)の構造を有する検出素子を含んだひずみゲージであってもよい。以下、第3実施形態では、ビラリ現象を利用した検出素子を含むひずみゲージについて説明する。また、第4実施形態では、磁気トンネル接合の構造を有する検出素子を含んだひずみゲージについて説明する。
【0082】
なお、本明細書の各実施形態では、同様の機能を有する部材には同様の名称および部材番号を付し、説明を繰り返さないこととする。また、以降の各実施形態に係る各図面(
図12以降の図面)におけるx軸、y軸、およびz軸の方向は、
図1~
図11で示したx軸、y軸、およびz軸の方向と同一である。また、以降の説明では、z軸の正方向を「上」、z軸の負方向を「下」と称する。すなわち、以降の説明において「上側」とはz軸の正方向側であり、「上面」はz軸の正方向側にある面を示す。また、「下側」とはz軸の負方向側であり、「下面」とはz軸の負方向側にある面を示す。
【0083】
図12は、第3実施形態に係るひずみゲージに含まれる検出素子300の一例を示す図である。
図12の(a)は検出素子300をz軸の正方向から負方向(すなわち、上面から下面側)に見下ろしたときの平面図である。一方、
図12の(b)は、
図12の(a)に示す検出素子300のα-α´直線での断面図を示している。なお、
図12の(a)および(b)では、検出素子300から延びる配線は図示していない。しかしながら、検出素子300には、後述する駆動コイル320と電源とを接続する配線と、感知コイル380によって検出された電流を伝達するための配線が接続されていてもよい。
【0084】
図12の(a)に示す通り、検出素子300は、駆動コイル320と、感知コイル380と、ベース層310とを含む。ベース層310は駆動コイル320および感知コイル380の芯材となる層である。感知コイル380は、ベース層310(より厳密には、後述するベース金属370)の磁化の強さを検出するためのコイルである。駆動コイル320は、磁界を発生させるためのコイルである。検出素子300は、ベース層310を芯材として、感知コイル380が内側、そして駆動コイル320が外側に巻かれた2重構造を有している。なお、駆動コイル320および感知コイル380の材料は、Cu、Ag、Al、およびAu等の導電性金属、ならびに、これらの金属の合金であることが望ましい。また、駆動コイル320および感知コイル380の巻き数および断面積の大きさは、検出素子300に要求されるひずみの検知感度に応じて適宜設計されてよい。
【0085】
後で詳述するが、ベース層310に応力が加わると、ベース層310に含まれるベース金属370(後述)の磁化の強さが変化する。検出素子300は、感知コイル380でこの磁化の強さの変化を検出することによって、ベース層310にかかる応力の強さ(すなわち、ひずみ度合)を特定することができる。
【0086】
図12の(b)の断面図を参照して、検出素子300の構成について更に説明する。なお、
図12の(b)において、駆動コイル320、感知コイル380、および3つの絶縁層340、350、および360はそれぞれ、芯材であるベース金属370を取り囲むように形成されている。すなわち、
図12の(b)において同じ部材番号を付した層は、ベース金属370を取り囲んで繋がっている。
【0087】
ベース金属370は、各種コイルおよび絶縁層の芯材となる部材である。ベース金属370は、例えば略平板状の金属板であってよい。ベース金属370は絶縁層360で取り囲むように被覆されている。ベース金属370は、例えば、センダスト等のFe-Si-Al系合金、および、パーマロイ等のNi-Fe系合金等の軟磁性体材料で構成されることが望ましい。前述のベース層310は、
図12の(b)に示す通り、このベース金属370と絶縁層360から成る。
【0088】
絶縁層360の外側には、絶縁層360を取り囲むように絶縁層350が形成される。そして、絶縁層350の外側には、更に絶縁層340が形成されている。絶縁層350は、感知コイル380を含む層であり、感知コイル380の間隙を絶縁材料で充填した層である。絶縁層340は、駆動コイル320を含む層であり、駆動コイル320の間隙を絶縁材料で充填した層である。絶縁層340、350、および360は、磁界に影響しないドライフィルムまたは感光性ポリイミド等のレジスト硬化物から成ることが望ましい。
【0089】
検出素子300の一面は、
図12の(b)に示すように、基材110に貼り付けられていてよい。基材110は、検出素子300を固定する部材である。例えば、基材110は、プラスチックフィルム等で構成されるフレキシブル基板であってよい。検出素子300は基材110を介して起歪体20、20A、又は20Bに貼り付けられる。なお、検出素子300は、全体として平板または薄膜状の検出素子であってもよい。検出素子300が平板または薄膜状である場合、検出素子300を基材110により容易に貼り付けることができる。また、検出素子300において基材110は必須の構成ではない。例えば、検出素子300に基材110を設けず、検出素子300の下面を起歪体20、20A、又は20Bに直接貼り付けて使用してもよい。
【0090】
本実施形態に係る起歪体20、20A、及び20Bは、基本的には第1実施形態及び第2実施形態に係る起歪体20、20A、及び20Bと同様の構成および材料であってよい。しかしながら、本実施形態において、起歪体20、20A、及び20Bは、非磁性体から成ることがより望ましい。本実施形態に係る起歪体20、20A、及び20Bは、例えば、非磁性ステンレスを材料として作製することができる。
【0091】
次に、検出素子300を用いてひずみを検出する原理を概説する。検出素子300は、磁性体であるベース金属370を含んでいる。電源から駆動コイル320に交流電流が供給されると、駆動コイル320はその周囲に交番磁界を生じさせる。これにより磁界が発生し、ベース金属370は磁化される。この状態で起歪体20、20A、又は20Bが変形すると、ひずみが生じる。ひずみは基材110を伝わり、ベース金属370に応力が加わる。なお、検出素子300を、基材110を介さずに起歪体20、20A、又は20Bに貼り付けている場合は、起歪体20、20A、又は20Bからベース金属370(およびそれを被覆する絶縁層340~360)に直接応力が伝わる。
【0092】
ベース金属370に応力が加わると、その応力に応じてベース金属370の透磁率が変化する。したがって、ベース金属370の磁化の強さ(磁化の程度)が変化する。このように、磁性体に応力がかかると磁性体の透磁率および磁化の強さが変化する現象のことを「ビラリ現象」という。検出素子300の構成によれば、ピックアップコイルである感知コイル380には、ベース金属370の磁化の強さに応じた交流電圧が誘起される。したがって、ビラリ現象の原理に基づけば、この交流電圧の値から、ベース金属370にかかる応力を算出することができる。そして、当該算出した応力から、起歪体20、20A、及び20Bのひずみ度合を特定することができる。なお、検出素子300が
図12の(a)および(b)に示す形状である場合、検出素子300のグリッド方向は、
図12の(a)におけるα-α´方向に等しい。以上説明した原理に基づいて、検出素子300は、起歪体20、20A、及び20Bのひずみを検出することができる。すなわち、検出素子300は、ひずみゲージの検出素子として機能する。
【0093】
なお、駆動コイル320は、感知コイル380の外側、かつ当該感知コイル380が存在している領域全体に、できる限り均一に巻き付けられることが望ましい。これにより、ベース金属370の、感知コイル380が存在する領域全体に、より均一に交番磁界を加えることができる。これにより、ビラリ現象によるベース金属370の磁化の強さの変化をより精密に検出することができる。したがって、検出素子300の性能が向上する。
【0094】
また、絶縁層360は、ベース金属370の全部ではなく一部に形成されていてもよい。例えば、ベース金属370のうち、感知コイル380および駆動コイル320を巻き付ける領域の部分を絶縁層360で覆い、絶縁層360の上から感知コイル380を含む絶縁層350で覆い、更に、絶縁層350の上から駆動コイル320を含む絶縁層340で覆うような構成であってもよい。
【0095】
また、ベース金属370が略平板状である場合、絶縁層360はベース金属370の、コイルを巻く方向のみ取り囲んで形成されていてもよい。すなわち、
図12の(b)において、ベース金属370のx方向の両端部は絶縁層360で覆われていなくてもよい。
【0096】
本実施形態に係る脈波センサにおいて、起歪体20、20A、又は20Bが変形する(すなわち、起歪体にひずみが生じる)と、ひずみゲージの基材110(または、検出素子300自体)がひずむ。検出素子300は、このひずみによって生じる磁性変化を、前述のビラリ現象の原理に基づき検出することができる。
【0097】
本実施形態に係る検出素子300を含んだひずみゲージは、第1~第2実施形態及びこれらの変形例で示したあらゆる配置パターンで起歪体20、20A、及び20Bに配置可能である。すなわち、本実施形態に係る検出素子300を用いて、電気抵抗式のひずみゲージを用いたときと同様に起歪体20、20A、及び20Bのひずみを検出することができる。したがって、本実施形態に係るひずみゲージは、第1~第2実施形態及びこれらの変形例に係るひずみゲージ100と同様の効果を奏する。
【0098】
〈第4実施形態〉
図13は、第4実施形態に係るひずみゲージに含まれる検出素子の一例である検出素子500を示す図である。
図14は、第4実施形態に係る検出素子の他の一例である検出素子600を示す図である。また、
図15は、第4実施形態に係る検出素子の更に他の一例である検出素子700を示す図である。
図13~15の(a)はそれぞれ、検出素子500、600、および700の斜視図である。
図13~15の(b)はそれぞれ、検出素子500、600、および700をz軸の正方向から負方向に見下ろしたときの平面図である。
図13~15の(c)は、検出素子500、600、および700の、zx平面に平行な面での断面図である。なお、
図13~15のいずれの図も、検出素子から延びる配線は図示していない。しかしながら、これらの検出素子500、600、および700には、後述する上流電極510と電源とを接続する配線と、下流電極520と電源とを接続する配線とが接続されていてもよい。
【0099】
図13~15の(a)に示す通り、検出素子500、600、および700は、上流電極510と、下流電極520と、磁性膜530と、絶縁膜540と、を含む。絶縁膜540は、図示のように磁性膜530で挟まれている。この磁性膜530と絶縁膜540によって、磁気トンネル接合が形成される。すなわち、検出素子500、600、および700は、磁気トンネル接合の構造に電極を接続した構造である。
【0100】
なお、検出素子500、600、および700の下面は、第1及び第2実施形態に係る基材110と同様の基材に貼り付けられていてもよい。そして、検出素子500は基材を介して起歪体20、20A、又は20Bに貼り付けられてよい。また、検出素子500、600、および700は、全体として平板または薄膜状の検出素子であってもよい。検出素子500、600、および700が平板または薄膜状である場合、検出素子500、600、および700を基材または起歪体20、20A、又は20Bにより容易に貼り付けることができる。また例えば、検出素子500、600、および700の下面を起歪体20、20A、又は20Bに直接貼り付けて使用してもよい。
【0101】
磁性膜530は磁性ナノ薄膜である。絶縁膜540は絶縁体のナノ薄膜である。磁気トンネル接合の構造が形成可能であれば、磁性膜530と、絶縁膜540の材料は特に限定されない。例えば、磁性膜530としてコバルト鉄ボロン、または、Fe、Co、Niなどの3d遷移金属強磁性体及びそれらを含む合金等を用いることができる。また、絶縁膜540として、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウムや酸化マグネシウム等を用いることができる。
【0102】
上流電極510および下流電極520は、磁気トンネル接合の構造に対し電圧を印加するための電極である。
図13~15の例では、電流は上流電極510から下流電極520へと流れる。例えば
図13の(c)の場合、上流電極510と下流電極520の間に電圧を印加すると、電子は上側(z軸正方向側)の磁性膜530から、絶縁膜540を超えて下側(z軸負方向側)の磁性膜530に流れ込む。これは「トンネル効果」と呼ばれている現象であり、電子が絶縁膜540を通過するときの電気抵抗は、「トンネル抵抗」と呼ばれている。なお、
図13~15の例では、電極の各部の接合部は、磁気トンネル接合の構造をショートパスする電流が流れない様に端部が処理された構造となっている。
【0103】
ところで、基材110等を介して検出素子500にひずみがかかると、トンネル接合の構造において、磁気変化が起こる。より具体的には、上側と下側の磁性膜530の磁化方向がずれる。このように、上下の磁性膜530の磁化方向がずれると、磁化方向が平行な場合に比べて、トンネル抵抗が大きくなる(トンネル磁気抵抗効果)。したがって、前述の構成を備えた検出素子500では、検出素子500(より厳密には、磁気トンネル接合の部分)のひずみの大きさに応じて、電極間を流れる電流が小さくなる。すなわち、ひずみが大きくなるにつれ、電気抵抗が大きくなる。検出素子500は、このように、印加した電圧に対する電流値に基づきひずみを検出することができる。したがって、検出素子500を起歪体20、20A、又は20Bに貼り付けることによって、起歪体20、20A、又は20Bにかかるひずみを測定することができる。
【0104】
磁気トンネル接合の構造を有する検出素子は、
図13に示した例に限定されない。例えば、
図14および
図15に示すような検出素子600および700を採用することも可能である。
図14に示す検出素子600も、
図15に示す検出素子700も、上流電極510、下流電極520、磁性膜530、および絶縁膜540で構成されること、および、これらの構成によってひずみを検出する原理については、検出素子500と同様である。また、検出素子600および700の基本的な動作についても、検出素子500と同様である。なお、検出素子500、600、および700のグリッド方向は、それぞれ
図13~
図15におけるx軸方向(x軸の正方向およびx軸の負方向)に相当する。
図14に示す検出素子600は図示の通り、上側の磁性膜530と下側の磁性膜530が、一部繋がった構造をしている。すなわち、磁性膜530の一部の領域においてのみ、磁気トンネル接合の構造が形成されており、当該構造においてトンネル磁気抵抗効果が生じる。一方、
図15に示す検出素子700は、基板710を介して基材110に貼り付けられる。
図13~
図15に示すように、検出素子は前述の原理を超えない範囲であれば、要求されるサイズ、耐久性、および検出すべき応力の大きさ等に応じて、適宜その設計が変更されてよい。
【0105】
なお、本実施形態に係る起歪体20、20A、及び20Bは、基本的には第1実施形態に係る起歪体20、20A、及び20Bと同様の構成および材料であってよい。しかしながら、本実施形態において、起歪体20、20A、及び20Bは、非磁性体から成ることがより望ましい。本実施形態に係る起歪体20、20A、及び20Bは、例えば、非磁性ステンレスを材料として作製することができる。また、検出素子500、600、および700は素子全体として、フィルム型などの略平板状の形状であってよい。これにより、起歪体20、20A、及び20Bに、検出素子500を容易に貼り付けることができる。また、検出素子500、600、および700は、駆動コイル等、磁気トンネル接合の構造部分に対して、微弱な磁界を印加するための構造を有していてもよい。磁気トンネル接合の構造部分に対して磁界を印加することにより、前述のトンネル磁気抵抗効果をより安定して測定することができるため、安定してひずみを検出することができる。
【0106】
また、検出素子500、600、および700における「上流電極」および「下流電極」は便宜上の名称であり、電流の流れる方向は逆であってもよい。つまり、
図13~
図15で示した検出素子500、600、および700において、下流電極520の方から、上流電極510の方へと電流が流れる設計であってもよい。
【0107】
本実施形態に係る脈波センサにおいて、起歪体20、20A、又は20Bが変形する(すなわち、起歪体にひずみが生じる)と、ひずみゲージの基材(または、検出素子500、600、または700自体)がひずむ。検出素子500、600、または700は、このひずみによって生じる磁性変化を、前述のトンネル磁気抵抗効果の原理に基づき検出することができる。
【0108】
本実施形態に係る検出素子500、600、および700を含んだひずみゲージは、第1~第2実施形態及びこれらの変形例に示したあらゆる配置位置で起歪体20、20A、及び20Bに配置可能である。すなわち、本実施形態に係る検出素子500、600、および700を用いて、電気抵抗式のひずみゲージを用いたときと同様に起歪体20、20A、及び20Bのひずみを検出することができる。したがって、本実施形態に係るひずみゲージは、第1~第2実施形態及びこれらの変形例に係るひずみゲージ100と同様の効果を奏する。
【0109】
〈第5実施形態〉
本開示に係る検出部は、半導体式のひずみゲージ、静電容量式の圧力センサ、または光ファイバ式のひずみゲージであってもよい。また、本開示に係る検出部は、機械式圧力センサ、振動式圧力センサ、または圧電式圧力センサであってもよい。以下、各種ひずみゲージ及び圧力センサの原理を説明する。
【0110】
(半導体式のひずみゲージ)
半導体式のひずみゲージは、半導体の圧抵抗効果を利用してひずみを検出するひずみゲージである。すなわち、半導体式のひずみゲージは、半導体をひずみの検出素子として用いるひずみゲージである。
【0111】
半導体に応力が印加されると、半導体の結晶格子にひずみが生じて半導体中のキャリアの数及び移動度が変化するため、結果として電気抵抗が変化することが知られている。半導体式のひずみゲージは、電気抵抗式の金属ひずみゲージと同様、起歪体20、20A、又は20Bに直接貼り付けて使用することができる。この場合、起歪体20、20A、又は20Bが伸縮すると、貼り付けられた半導体(より詳しくは、半導体の結晶格子)がひずみ電気抵抗が変化する。そのため、当該電気抵抗を測定することで起歪体20、20A、又は20Bのひずみ量を特定することができる。
【0112】
また、半導体式のひずみゲージは、ダイアフラム構造を備えたひずみセンサとして構成することもできる。この場合、ひずみセンサは例えば、非金属のダイアフラム(又は、金属ダイアフラム上に電気絶縁層を形成したもの)と、当該ダイアフラムの上に形成された半導体(例えば、シリコン薄膜の半導体)と、を有する。そして、この様にダイアフラムを含む構造において、ダイアフラムに印加された垂直応力によりダイアフラムがひずむと、半導体の電気抵抗が変化する。そのため、当該電気抵抗を測定することでダイアフラムのひずみ量(ひいては、起歪体20、20A、又は20Bのひずみ量)を特定することができる。
【0113】
(静電容量式の圧力センサ)
静電容量式の圧力センサは、ダイアフラムにかかる圧力を一対の電極の静電容量の変化として計測する圧力センサである。すなわち、静電容量式の圧力センサは、一対の電極を検出素子として用いる圧力センサである。静電容量式の圧力センサは例えば、可動電極としてのダイアフラムと、1つ以上の固定電極と、を備える。ダイアフラムは例えば不純物を含んだシリコン(すなわち、導体として機能するシリコン)等で形成される。
【0114】
ダイアフラムに圧力が印加されると、当該ダイアフラムが変位し、固定電極と可動電極との間の距離が変化する。電極間の静電容量は、電極間媒質の誘電率と電極の面積が一定ならば、電極間の距離に応じて定まることが知られている。したがって、静電容量を計測することで、ダイアフラムの変位量(すなわち、圧力の大きさ)を特定することができる。
【0115】
(光ファイバ式のひずみゲージ)
光ファイバ式のひずみゲージとは、ファイバ・ブラッグ・グレーティング(FBG)が形成されている光ファイバを用いてひずみを検出するひずみゲージである。すなわち、光ファイバ式のひずみゲージは、光ファイバをひずみの検出素子として用いるひずみゲージである。FBGは光ファイバの他の部分とは異なる光の反射を起こす回折格子であり、この格子の一つ一つは一定間隔で形成されている。光ファイバがひずんで伸びると、FBGの格子間隔が広がるため、光ファイバに入射した光(例えば、レーザ光)の反射光の波長が変化する。また、光ファイバがひずんで縮むと、FBGの格子間隔は狭くなるため、ファイバに入射した光(例えば、レーザ光)の反射光の波長が変化する。
【0116】
このような特性を有する光ファイバを起歪体20、20A、又は20Bに貼り付けておき、光ファイバの反射光の波長スペクトルを計測することで、光ファイバのひずみ量(すなわち、起歪体20、20A、又は20Bのひずみ量)を特定することができる。なお、光ファイバ式のひずみゲージは、光ファイバ内で生じるブリルアン散乱光の周波数の変化から当該光ファイバのひずみ量を特定するひずみゲージであってもよい。
【0117】
(機械式圧力センサ)
機械式圧力センサは機械的構造物の変位量を計測することで、当該構造物にかかる圧力を特定するセンサである。機械式圧力センサは、例えば、ばね又は曲げた管を備えており、このばねの伸縮量又は曲げた管の伸縮量を計測する。これらの伸縮量(すなわち、変位量)は、ばね又は曲げた管にかかる圧力の大きさに応じて変化する。したがって、当該伸縮量を計測することで、ばね又は曲げた管にかかる圧力を特定することができる。なお、ばね又は曲げた管の形状や大きさは、機械式圧力センサの取り付け対象の大きさ及び形状に応じて適宜定められてよい。
【0118】
(振動式圧力センサ)
振動式圧力センサは、弾性梁の固有振動数が、当該弾性梁の軸に沿って生じる圧力(すなわち、軸力)によって変化するという現象を利用して圧力を検出するセンサである。振動式圧力センサは、電気抵抗式の金属ひずみゲージと同様、起歪体20、20A、及び20Bに直接貼り付けて使用することができる。また例えば、振動式圧力センサは、基板上に形成されたダイアフラムと、当該ダイアフラムの表面に形成された梁状の振動子と、で構成される圧力センサであってもよい。
【0119】
いずれの場合でも、起歪体20、20A、又は20Bがひずむと、その圧力は直接または間接的に振動子に伝わり、振動子に軸力が生じる。振動子の固有振動数は、軸力に応じて変化する。したがって、振動子の固有振動数を計測することで、起歪体20、20A、又は20Bに対する圧力の大きさを特定することができる。
【0120】
(圧電式圧力センサ)
圧電式圧力センサとは、圧電素子(ピエゾ素子とも称する)を含んでおり、この圧電素子の特性を用いて圧力を検出するセンサである。圧電素子は、力が加わり変形する(ひずむ)と、その力に応じた起電力を発生する特性を持っている。また、圧電素子は、電圧をかけると、その電圧に応じた力を発生させて伸縮する特性を持っている。
【0121】
圧電式圧力センサは、圧電素子の起電力を測定することで、圧電素子にかかった力(すなわち、圧電素子のひずみ量)を特定することができる。したがって、圧電式圧力センサを起歪体20、20A、又は20Bに貼り付けておくことで、起歪体20、20A、又は20Bのひずみ量を特定することができる。
【0122】
以上の説明の通り、半導体式のひずみゲージ、静電容量式の圧力センサ、光ファイバ式のひずみゲージ、機械式圧力センサ、振動式圧力センサ、および圧電式圧力センサを用いた場合でも、第1~第2実施形態及びこれらの変形例に係るひずみゲージ100と同様の効果を得ることができる。
【0123】
以上、好ましい実施形態等について詳説した。しかしながら、本開示に係る脈波センサは、上述した実施形態および変形例等に限定されない。例えば、上述した実施形態等に係る脈波センサについて、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0124】
1,1A,2 脈波センサ、10,50 支持体、10m,50m 裏面、10n,50n 表面、10x,50x 取付部、10y,50y 凹部、20,20A,20B 起歪体、20m 第1面、20n 第2面、21,22 突起部、21a 先端面、30,40 接着層、60 粘着層、70 剥離シート、100 ひずみゲージ、110 基材、110a 上面、120 機能層、130 抵抗体、130e1,130e2 終端、140 配線、150 電極、160 カバー層、200 ハウジング、300,500,600,700 検出素子、310 ベース層、320 駆動コイル、340,350,360 絶縁層、370 ベース金属、380 感知コイル、510 上流電極、520 下流電極、530 磁性膜、540 絶縁膜、710 基板