(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134397
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】脱脂大豆発酵食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 11/50 20210101AFI20230920BHJP
A23L 27/24 20160101ALI20230920BHJP
A23L 11/00 20210101ALI20230920BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20230920BHJP
A23L 7/126 20160101ALN20230920BHJP
【FI】
A23L11/50
A23L27/24
A23L11/00 E
A23L27/00 C
A23L7/126
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038277
(22)【出願日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2022039642
(32)【優先日】2022-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591183625
【氏名又は名称】フジッコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】中林 麗奈
(72)【発明者】
【氏名】後藤 弥生
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利雄
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝重
(72)【発明者】
【氏名】原 好裕
(72)【発明者】
【氏名】飯田 秀喜
【テーマコード(参考)】
4B020
4B025
4B047
【Fターム(参考)】
4B020LB27
4B020LC02
4B020LG03
4B020LK17
4B020LP03
4B020LP06
4B020LP08
4B020LP09
4B020LP18
4B020LP20
4B020LP30
4B025LB01
4B025LG04
4B025LG14
4B025LG18
4B025LG42
4B025LG58
4B025LP01
4B025LP08
4B025LP09
4B025LP10
4B047LB07
4B047LE06
4B047LG40
4B047LP05
4B047LP07
4B047LP08
4B047LP19
(57)【要約】
【課題】脱脂大豆のタンパク質含有量の高さに注目し、脱脂大豆を食品として有効利用すること。
【解決手段】菌糸体を脱脂大豆に植菌し、発酵させた後、加熱処理することを特徴とする、脱脂大豆発酵食品の製造方法等が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エリンギ、ヒラタケ、ブナシメジ、マイタケ、マンネンタケ、スエヒロタケ、カワラタケ、ヤマブシタケおよび黒酵母からなる群から選択される1以上の菌糸体を脱脂大豆に植菌し、発酵させた後、加熱処理することを特徴とする、脱脂大豆発酵食品の製造方法。
【請求項2】
前記菌糸体が、エリンギ、マイタケ、ヤマブシタケおよび黒酵母からなる群から選択される1以上である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
エリンギ、ヒラタケ、ブナシメジ、マイタケ、マンネンタケ、スエヒロタケ、カワラタケ、ヤマブシタケおよび黒酵母からなる群から選択される1以上の菌糸体で脱脂大豆を発酵させた後、加熱してなる、脱脂大豆発酵食品。
【請求項4】
前記菌糸体が、エリンギ、マイタケ、ヤマブシタケおよび黒酵母からなる群から選択される1以上である、請求項3記載の食品。
【請求項5】
請求項3または4記載の脱脂大豆発酵食品を調味料または風味改良剤として使用する方法。
【請求項6】
請求項3または4記載の脱脂大豆発酵食品を含む調味料または風味改良剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱脂大豆発酵食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脱脂大豆は、大豆に含まれる脂肪を取り除いたものであり、大豆油製造の際に副産物として得られる。脱脂大豆は、主に飼料として利用されている。また、食用としては、醤油、味噌、大豆タンパクなどの原料として用いられている。
【0003】
一方、大豆発酵食品は、栄養学的にも機能的にも評価が高い日本の伝統的食品である。大豆発酵食品には、醤油や味噌のような調味料のほか、納豆のように直接食用可能な食品があるが、後者はその独特な風味のため嫌厭されることも多い。そこで、納豆菌以外の菌を用いて大豆を発酵させることも研究されている(特許文献1)。しかしながら、今までに、脱脂大豆を発酵させた直接食用可能な食品は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、脱脂大豆のタンパク質含有量の高さに注目し、脱脂大豆そのものを高タンパク質かつ風味に優れた食品として有効利用することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、脱脂大豆を菌糸体で発酵させた後、加熱処理することによって、風味良好な食品が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は以下を提供する。
[1]エリンギ、ヒラタケ、ブナシメジ、マイタケ、マンネンタケ、スエヒロタケ、カワラタケ、ヤマブシタケおよび黒酵母からなる群から選択される1以上の菌糸体を脱脂大豆に植菌し、発酵させた後、加熱処理することを特徴とする、脱脂大豆発酵食品の製造方法。
[2]前記菌糸体が、エリンギ、マイタケ、ヤマブシタケおよび黒酵母からなる群から選択される1以上である、[1]記載の方法。
[3]エリンギ、ヒラタケ、ブナシメジ、マイタケ、マンネンタケ、スエヒロタケ、カワラタケ、ヤマブシタケおよび黒酵母からなる群から選択される1以上の菌糸体で脱脂大豆を発酵させた後、加熱してなる、脱脂大豆発酵食品。
[4]前記菌糸体が、エリンギ、マイタケ、ヤマブシタケおよび黒酵母からなる群から選択される1以上である、[3]記載の食品。
[5][3]または[4]記載の脱脂大豆発酵食品を調味料または風味改良剤として使用する方法。
[6][3]または[4]記載の脱脂大豆発酵食品を含む調味料または風味改良剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によって製造された脱脂大豆発酵食品は、脱脂大豆から製造されるため、栄養価に優れ、かつ、低コストである。また、本発明によれば、従来にない良好なチーズ風味および旨味を有し、かつ、豆臭さが低減された、風味良好な脱脂大豆発酵食品が得られる。さらに、脱脂大豆は植物性タンパク質を多く含むため、本発明の方法によって製造された脱脂大豆発酵食品は、健康食品や機能的ダイエット食品としても有用であり、また、風味良好な健康食品素材として様々な食品に添加して利用することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(菌糸体)
菌糸体は菌糸の集合体であり、子実体以外の真菌の栄養体を構成するものである。本発明では、例えば、担子菌および黒酵母の菌糸体が使用される。好ましくは、きのこ担子菌のうち、エリンギダケ(Pleurotus eryngii,プレロトス エリンギ)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus,プレロトス オストレタス)、マイタケ(Grifola frandosa,グリフォラ フランドサ)、マンネンタケ(Ganoderma lucidum,ガノデルマ ルシダム)、スエヒロタケ(Schizophyllum commune,シゾフィラム コムネ)、カワラタケ(Coriolus versicolor,コリオルス ヴャジカラア)、ヤマブシタケ(Hericium erinaceum,ヘリシウム エリナセム)、または黒酵母菌(Aureobasidium pullulans,アウレオバシジウム・プルランス)が使用される。本発明では、これらの菌糸体を単独であるいは組み合わせて使用することができるが、通常は、単独で使用する。また、本発明では、上記した担子菌および黒酵母菌のいずれの菌株を使用してもよい。
【0010】
(前培養)
菌糸体は、前培養した後、本発明の方法に用いてもよいが、前培養は必須ではない。前培養は、脱脂大豆原料に接種する菌糸体の前培養液を調製する工程であり、前培養液を用いることにより、後述する発酵工程において脱脂大豆原料を均一に発酵させることができる。前培養は、殺菌処理された液体培地に菌糸体組織を接種し培養する。液体培地は、炭素源、窒素源、リン、カリウム、マグネシウム等の通常微生物の培養に必要な栄養成分を含むものであれば特に限定されず用いることができる。前培養の培養温度および培養時間は、菌糸体が十分に増殖する温度および時間であればよく、特に限定されないが、例えば培養温度は20~30℃程度、好ましくは25℃前後、培養時間は、菌種にもよるが、3日間~7日間程度であってもよい。かくして得られた前培養液は、後述する発酵工程に用いられる。
【0011】
(脱脂大豆)
脱脂大豆は、大豆を搾油した後に得られる残渣であり、通常、フレーク状や粉末状に成形されている。本発明に用いる脱脂大豆は、大豆を搾油した後に加熱乾燥した大豆粕(大豆ミール)、これを挽き割りした大豆グリッツ、または粉末化した脱脂大豆粉など、脱脂大豆であれば何れであっても良く、特に限定されない。
【0012】
脱脂大豆は、本発明の方法に用いる前に、加水した後、または加水と同時に加熱処理してもよい。該加熱処理により、脱脂大豆中のリポキシゲナーゼやトリプシンインヒビター、レクチンなどを失活、不活性化させるだけでなく、後述する発酵工程において菌糸体の増殖を阻害する汚染菌を殺菌することができる。該加熱処理は、加圧加熱処理であってもよく、オートクレーブ等の装置を用いてもよい。該加熱処理の方法、温度および時間は、当業者によって適宜設定することができる。
【0013】
加水方法は、用いられる脱脂大豆の形態に応じて適宜設定すればよい。吸水後の水分値は54%(w/w)~65%(w/w)とするのが、菌糸体の増殖には好適である。加水方法は、例えば、脱脂大豆粉にそのまま加水すればよく、大豆ミールや大豆グリッツを用いる場合は水に短時間浸漬するか、蒸煮加熱により加水してもよく、特に限定されない。
【0014】
また、加水する際に、水中に乳酸、グルコン酸、酒石酸、酢酸、クエン酸などの有機酸を添加してpHを4.0~6.5に調整することが好ましく、pHを酸性から弱酸性に調整することにより菌糸体の発酵に好適であり、また、雑菌汚染を抑えることができる。
【0015】
上記加熱処理の条件は、約85℃で約30分間の加熱処理する方法、またはこれと同等以上の効力を有す加熱方法であればよく、特に限定されない。好ましくは90℃以上であり、より好ましくは100℃以上とすることで、リポキシゲナーゼやトリプシンインヒビター、レクチンなどをより短時間で失活、不活性化することができる。また、該加熱処理の方法は、脱脂大豆を加熱殺菌でき、発酵に必要な水分を保持することができればいずれの方法であってもよく、例えば、蒸煮処理、加圧加熱処理または過熱水蒸気加熱処理が挙げられる。
【0016】
(発酵工程)
菌糸体の脱脂大豆への植菌は、脱脂大豆原料、好ましくは上記のように加熱殺菌処理した脱脂大豆原料に、菌糸体、好ましくは上記の前培養液を添加することによって行う。前培養液の代替として、菌糸体の固体培養物またはその子実体を粉砕して液体に懸濁したものを用いることができる。例えば、大豆(大豆粉や脱脂大豆も含む)に菌糸体を植菌し培養したものから菌糸体を収集し、そのまま、あるいは液体に懸濁して用いることも可能であるが、前培養液を使用する方がより均一に混合でき、かつ高活性(対数増殖期)の菌体を接種できることから、前培養液を使用することが好ましい。
【0017】
菌糸体(例えば、前培養液、菌糸体の懸濁液、または菌糸体そのもの)の接種(添加)量は、適宜決定すればよく、特に限定されないが、例えば、脱脂大豆原料に対して1%(w/w)~30%(w/w)程度、好ましくは5%(w/w)~10%(w/w)程度であってもよい。かくして植菌された脱脂大豆を適当な温度で適当な時間維持することによって固体発酵を行う。発酵温度は、脱脂大豆が発酵可能な温度であればよく特に限定されないが、例えば、15℃以上が好ましく、より好ましくは菌糸体の至適温度である20~30℃が例示される。発酵時間は、発酵温度、菌糸体の接種量、菌種、脱脂大豆原料の形態、および所望する発酵物の風味等に応じて適宜調整すればよく、特に限定されないが、通常3~10日間、好ましくは5~7日間程度である。
【0018】
発酵工程は、加湿条件下で行うことが好ましく、たとえば超音波加湿器などを用いて70~90%RH程度の加湿条件で培養を行ってもよい。原料となる脱脂大豆は油脂分が少ないことから、発酵が促進される。特に、担子菌及び黒酵母菌はリパーゼ活性を有さないか、あるいはリパーゼ活性が低いことから、油脂分が少ない脱脂大豆は、例えば油脂分が多い全脂大豆と比べて、発酵が促進される。
【0019】
かくして得られた脱脂大豆発酵物は、生来の脱脂大豆や担子菌の子実体とは匂いや味が全く異なった新規な風味を有しており、生来の菌糸体、例えば担子菌や黒酵母菌の匂いや味と全く異なった新規な風味を有している。
【0020】
(加熱処理)
上記の発酵工程で得られた脱脂大豆発酵物は、加熱することにより豆臭さ(青臭さ)をさらに低減させるだけでなく、香ばしい匂いと美味な味が発現し、風味良好な脱脂大豆発酵食品が得られる。加熱処理は、脱脂大豆発酵物の発酵を停止させるとともに、脱脂大豆発酵物の風味を向上させる。加熱処理の温度は、例えば約80~250℃であり、100℃以上が好ましく、より好ましくはメイラード反応の進行が促進される150℃~200℃である。加熱処理の時間は、脱脂大豆発酵物が焦げすぎない程度に適宜設定すればよく、特に限定されない。加熱温度や加熱方法にもよるが、例えば、ドライオーブンで200℃約3~10分、好ましくは約5~7分が挙げられる。
【0021】
加熱方法は特に限定されないが、例えば、焼成、焙煎、熱風乾燥、フライ、過熱水蒸気などが挙げられる。
【0022】
また、脱脂大豆発酵物は、加熱処理の前に粉砕処理に付してもよい。粉砕した脱脂大豆発酵物を加熱した場合、加熱処理が均一になり、色むらや焦げの発生を抑えることができる。さらに、粉砕した脱脂大豆発酵物は、加水後に混錬し、所望の形に成型することもできる。また、脱脂大豆発酵物は乾燥した後に粉砕してもよい。乾燥方法は特に限定されないが、例えば凍結乾燥が挙げられる。
【0023】
(脱脂大豆発酵食品の使用方法)
かくして得られた脱脂大豆発酵食品はそのまま食することもできるが、高タンパク質かつ風味に優れた食品であることから、タンパク質強化用食品(素材)や調味料、風味改良剤としても使用することができ、例えば、チーズ風味と旨味を付与する調味料または風味改良剤として使用することがきる。
【0024】
脱脂大豆発酵食品を調味料や風味改良剤として使用する場合は、脱脂大豆発酵食品を粉状、顆粒状にしてもよく、加水して液状、ペースト状としてもよい。また、必要に応じて脱脂大豆発酵食品に添加物を加えてもよい。添加物としては、例えば、水等の水性媒体、食塩、糖類、酢、香辛料、ソース、醤油、野菜エキス、水産物エキス、畜産エキス、酵母エキス等の調味料や、有機酸、アミノ酸、油脂、風味料、香料、酒精、酸味料、うま味調味料、乳化剤等が挙げられる。
【0025】
脱脂大豆発酵食品の使用対象としては、チーズ風味や旨味の付与または風味改良が望まれる飲食品、特にチーズ風味の付与や旨味強化が望まれる飲食品に使用することが好適であるが、特に限定されない。飲食品としては、例えば、限定するものではないが、パン製品、菓子製品、オーブン料理(例えば、グラタン)、パスタ、ピザ、シチュー、ドリアなどの米飯料理、ソーセージやハム、スープ、ポタージュ等が挙げられる。
【0026】
脱脂大豆発酵食品の使用方法は、飲食品に望まれる風味や旨味の付与または風味改良がもたらされるいずれの方法であってもよく、特に限定されない。飲食品の形態または種類にもよるが、例えば、飲食品への添加、飲食品との混合または混錬等が挙げられる。飲食品の調理前の材料や飲食品の調理中の材料に、脱脂大豆発酵食品を加えてもよい。脱脂大豆発酵食品の使用量は、特に限定されず、飲食品に望まれる風味や旨味の付与または風味改良がもたらされる量を適宜決定すればよい。
【0027】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「重量%」、「部」は「重量部」を意味する。
【実施例0028】
〔実施例1:脱脂大豆発酵食品の製造〕
下記の実施例および比較例は、特記しない限り、下記の材料および条件を用いて行った。原料大豆として脱脂大豆(トーステッドソイグリッツ:ADM社製)を用いた。脱脂大豆100gに対し、乳酸にてpH4.5に調整した脱イオン水を100mL添加し、4℃で一晩浸漬した後、121℃で15分間、加圧加熱処理して発酵前の脱脂大豆原料を得た。
【0029】
担子菌[エリンギ 市販分離株(ホクト株式会社)、ヒラタケ 市販分離株(ホクト株式会社)、ブナシメジ 市販分離株(ホクト株式会社)、マイタケ 市販分離株(一正蒲鉾株式会社)、マンネンタケ 市販分離株(加川椎茸株式会社)、スエヒロタケ NBRC4928株(独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンターから入手)、カワラタケMAFF420002株(農業生物資源ジーンバンクから入手)、ヤマブシタケ 市販分離株(有限会社振興園)]、黒酵母TS-1株(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託し、2022年2月3日に受領された。受託番号NITE P-03601)の各試験菌株について、発酵前の脱脂大豆原料に対して、担子菌は10mLを植菌して25℃7日間、黒酵母は1mLを植菌して25℃3日間培養して発酵させた。
【0030】
なお、担子菌は、市販の菌床種菌または子実体から5mm程度の組織を採取し、これをPDA培地(Potato Dextrose Agar:日本製薬社製、pH5.6)で組織培養(無菌培養)し、次いで、プレートに広がったコロニーの外側の菌糸体組織をコルクボーラーで3片(φ7mm)打ち抜き、炭素源、窒素源、リン、カリウム、マグネシウム等の通常微生物の培養に必要な栄養成分を含む液体培地に植菌し、菌株に応じて3日~10日間培養したものを用いた。この液体培地による培養は、回転式シェーカー(回転数:110~125rpm)により、25℃の好気条件下にて行った。
【0031】
黒酵母TS-1株は、PDA培地10mLに対し、10%グリセロールストック溶液0.1mLを植菌し、25℃で72時間、静置で前培養を行ったのち、炭素源、窒素源、リン、カリウム、マグネシウム等の通常微生物の培養に必要な栄養成分を含む液体培地で3~4日間培養した(菌体濃度がおよそ105CFU/mL程度)ものを用いた。この液体培地による培養は、回転式シェーカー(回転数:110~125rpm)により、25℃の好気条件下にて行った。
【0032】
発酵させた脱脂大豆を凍結乾燥後、ミルで粉砕して粉末化した。その後、同量の水を加えて薄く延ばし、200℃のドライオーブンにて6~10分間加熱し、焼き目が付いたところで取り出した。なお、加水は必須ではないが、焦げが生じないように均一に加熱するために加水した。
【0033】
〔実施例2:官能評価試験〕
実施例1で製造した脱脂大豆発酵食品の官能評価を行った。比較例として、実施例1に記載のようにして得られた発酵前の脱脂大豆原料にいずれの菌糸体も植菌せずに凍結乾燥後、粉砕したもの(「未発酵物 焼成なし」)、該粉砕物に加水し、加熱したもの(「未発酵物 焼成あり」)、および実施例1に記載のようにして得られた脱脂大豆発酵物の粉砕物を加熱処理しなかったもの(「発酵物 焼成なし」)を用いた。実施例、各比較例の調製方法の概要を表1に示す。なお、植菌、発酵、凍結乾燥、粉砕、加水および加熱処理は実施例1の記載と同様の方法で行った。
【0034】
【0035】
官能評価は、発酵大豆について食経験があり、かつ五味識別検査において味覚優良者として選抜され訓練された嗜好性官能評価パネラー4名によって行った。各パネラーが約1gのサンプルを舌下で10秒間含み、風味(チーズ風味、香ばしさ、豆臭さ(青臭さ))と味(うま味)の有無および強弱について、表2に定める基準に基づき4段階で(1から4点)評価した。各評価のスコアは、各パネラーの評点の平均値を算出し、その平均値を◎:3.5以上~4点、〇:2.5以上~3.5未満、△:1.5以上~2.5未満、×:1~1.5未満として評価した。評価基準を表2に示す。官能評価の結果を表3(菌株間での比較)に示す。
【0036】
【0037】
【0038】
表3から明らかなように、発酵および加熱処理(焼成)により、得られる脱脂大豆発酵食品の風味および味が向上した。なかでも、エリンギ、ヒラタケ、マイタケ、マンネンタケ、スエヒロタケ、カワラタケ、ヤマブシタケまたは黒酵母で発酵させ加熱処理した場合に、特に良好な風味および味を呈した。また、ブナシメジを用いた場合であっても、チーズ風味については変化が見られなかったものの、その他の評価項目では発酵および加熱処理により風味および旨味が向上していた。したがって、本発明により、脱脂大豆を高タンパク質かつ風味に優れた食品として有効に利用できることが分かった。
【0039】
〔実施例3:脱脂大豆発酵食品による風味改良試験〕
実施例1で得られた脱脂大豆発酵食品15重量部、小麦粉(薄力粉)45重量部、水30重量部、食用サラダ油7重量部、食塩0.4重量部を混錬した後、約1mm厚に薄く延ばして型抜きし、200℃のドライオーブンにて6分間加熱して、小麦チップスを得た。得られた小麦チップスを、実施例2の官能評価試験と同一の基準で、実施例2と同一のパネラー4名により官能評価した。なお、比較対象(未発酵物)は、脱脂大豆発酵食品を添加しない小麦チップスを同様にして作製して評価した。官能評価の結果を表4に示す。
【0040】
【0041】
表4から明らかなように、本発明の脱脂大豆発酵食品を食品に添加することにより、チーズ風味の付与や旨味増強させることが確認できた。したがって、本発明により、脱脂大豆発酵食品を調味料、風味改良剤として有効に利用できることが分かった。