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特開2023-134511揮発性液体の処理方法及び液体処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134511
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】揮発性液体の処理方法及び液体処理装置
(51)【国際特許分類】
   B01L 3/02 20060101AFI20230920BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
B01L3/02 D
G01N1/00 101K
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103924
(22)【出願日】2023-06-26
(62)【分割の表示】P 2021099604の分割
【原出願日】2017-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2017012011
(32)【優先日】2017-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110003993
【氏名又は名称】弁理士法人野口新生特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】金子 直樹
(57)【要約】      (修正有)
【課題】揮発性液体の揮発に起因したピペットからの液漏れが抑制される、ピペットを用いた揮発性液体の処理方法を提供する。
【解決手段】ピペットを用いた揮発性液体の処理方法であって、前記揮発性液体よりも揮発性の低い低揮発性液体を前記吸入・吐出口から吸入する低揮発性液体吸入ステップ、前記低揮発性液体吸入ステップの後で、前記吸入・吐出口から空気を吸入する空気吸入ステップ、及び前記空気吸入ステップの後で、前記吸入・吐出口から前記揮発性液体を吸入する揮発性液体吸入ステップを含む、揮発性液体の処理方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ、前記シリンダ内において摺動するピストン、及び吸入・吐出口をもち前記シリンダの先端に装着されたチップを備え、前記ピストンの動作に応じて前記チップの前記吸入・吐出口からの液の吸入と吐出を行なうピペットを用いた揮発性液体の処理方法であって、
前記揮発性液体よりも揮発性の低い低揮発性液体を前記吸入・吐出口から吸入する低揮発性液体吸入ステップと、
前記低揮発性液体吸入ステップの後で、前記吸入・吐出口から空気を吸入する空気吸入ステップと、
前記空気吸入ステップの後で、前記吸入・吐出口から前記揮発性液体を吸入する揮発性液体吸入ステップと、を含む処理方法。
【請求項2】
前記低揮発性液体は、水、ジメチルスルホキシド、グリセリン又はフェノールのいずれかである請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記揮発性液体は、アセトニトリル、メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、イソプロパノール、ヘキサン、ブタノール、シクロヘキサン、エチレングリコール、ベンゼン、クロロホルム、アセトアルデヒド、トリエチルアミン、フェノール、ナフタレン、ホルムアルデヒド、テトラヒドロフラン又は酢酸エチルのいずれかの液体又はこれらを10%以上含む液体である請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
鉛直向きに配置されたシリンダ、前記シリンダ内において上下方向に摺動するピストン、及び先端に吸入・吐出口をもちその吸入・吐出口が下方を向くように前記シリンダの下端に装着されたチップを備え、前記ピストンの動作に応じて前記チップの前記吸入・吐出口からの液の吸入と吐出を行なうピペットと、
前記ピペットを動作させる駆動機構と、
揮発性液体を収容した揮発性液体容器と、
前記揮発性液体よりも揮発性の低い低揮発性液体を収容した低揮発性液体容器と、
前記駆動機構を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記ピペットによって前記揮発性液体を吸入する過程において、前記低揮発性液体容器から予め設定された量の前記低揮発性液体を吸入する低揮発性液体吸入動作、前記低揮発性液体吸入動作の後で前記吸入・吐出口から予め設定された量の空気を吸入する空気吸入動作、及び前記空気吸入動作の後で前記揮発性液体容器から所定量の前記揮発性液体を吸入する揮発性液体吸入動作が実行されるように前記駆動機構を制御するように構成されている液体処理装置。
【請求項5】
前記低揮発性液体は、水、ジメチルスルホキシド、グリセリン又はフェノールのいずれかである請求項4に記載の液体処理装置。
【請求項6】
前記揮発性液体は、アセトニトリル、メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、イソプロパノール、ヘキサン、ブタノール、シクロヘキサン、エチレングリコール、ベンゼン、クロロホルム、アセトアルデヒド、トリエチルアミン、フェノール、ナフタレン、ホルムアルデヒド、テトラヒドロフラン又は酢酸エチルのいずれかの液体又はこれらを10%以上含む液体である請求項4又は5に記載の液体処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気置換式のピストン式ピペットを用いた揮発性液体の処理方法と、その処理方法を実行する液体処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
理化学実験において液体を測り取って分注するために、空気置換式のピストン式ピペットが汎用されている。ピストン式ピペットは、ピストンをシリンダ内で上下することによってシリンダ内へ空気を出し入れすることができる構造で、ピストンを上下する距離を調節することにより、シリンダの先端に装着されたチップ内に液体を正確に測り採ることができる。
【0003】
ピストン式ピペットを電動で動作させる装置も各社で販売されており、そのような装置は連続吸入や連続吐出が可能である。そのような自動分注装置として、Agilent社のBravo、Affymetrix社のNIMBUS、エッペンドルフ社のepMotion、Hamilton社のMicrolab,
Beckman Coulter社のBiomakなどがある。
【0004】
ピストン式ピペットは、空気を出し入れすることによって液体を計量する仕組みのため、揮発性の低い水などの液体については正確な計量が可能である一方で、アセトニトリル(ACN)やアセトンなどの揮発性の高い液体は、吸入後に吸入・吐出口から液漏れが発生し易く、正確な計量が困難であるという問題があった。その理由としては、揮発性の高い液体を吸入・吐出口から吸入したときに、その揮発性液体の蒸気によってピペットのシリンダ内圧が変化したり、蒸発による気化熱によってシリンダ内の温度が変化したりすることで、シリンダ内に存在する空気が膨張して揮発性液体が押し出されてしまうことが考えられる。このことは、非特許文献1においても発表されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】第82回 日本分析化学会有機微量分析研究懇談会・第98回 計測自動制御学会力学量計測部会 合同シンポジウム(第32回 発表資料) テーマ:マイクロピペットを利用した分注操作について
【非特許文献2】https://ocw.kyoto-u.ac.jp/ja/faculty-of-agriculture-jp/5129000/pdf/03.pdf
【非特許文献3】https://www.aandd.co.jp/adhome/pdf/tech_doc/analytical/pipette_guide.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、ピペットなどで揮発性液体を取り扱う場合、吸入時に液体が揮発することによってチップやシリンダ内の空気層が膨張して圧力が高まり、液体が外に押し出される現象が起きる。この現象は液漏れ、または液だれと呼ばれる。このことにより、液体の正確な計量ができなくなる。
【0007】
揮発性液体の揮発による影響を小さくするため方法として、揮発性液体の計量前にその液体の吸入と吐出を複数回繰り返し、揮発した液体分子で空気層を飽和させることも提案されている(非特許文献2及び3参照。)。しかし、そのような方法を採用した場合、吸入・吐出口からの液漏れ速度を減速させることはできたものの、液漏れを完全になくすことはできていない。
【0008】
また、上記方法は、計量対象の液体をわざと揮発させてシリンダ内の空気層を飽和させるものであるため、計量対象の液体量が蒸発によって減少してしまうという問題がある。例えば、計量対象の液体量が500μL存在する場合であれば、2μL程度が揮発して498μLになったとしても、その減少量は4%程度であり影響は小さいといえる。しかし、計量対象の液体が例えば5μLなど微量しか存在しない場合、5μLのうち2μL程度が揮発して3μLになってしまうと、約40%もの液体が減少してしまったことになり、影響が非常に大きくなる。
【0009】
したがって、特に数μLしかないような微量な揮発性液体を取り扱う場合に、上記の方法は採用することができない。
【0010】
そこで、本発明は、揮発性液体の揮発に起因したピペットからの液漏れを抑制することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る処理方法は、シリンダ、前記シリンダ内において摺動するピストン、及び吸入・吐出口をもち前記シリンダの先端に装着されたチップを備え、前記ピストンの動作に応じて前記チップの前記吸入・吐出口からの液の吸入と吐出を行なうピペットを用いた揮発性液体の処理方法である。この処理方法は、以下のステップを含んでいる。
前記揮発性液体よりも揮発性の低い低揮発性液体を前記吸入・吐出口から吸入する低揮発性液体吸入ステップ、
前記低揮発性液体吸入ステップの後で、前記吸入・吐出口から空気を吸入する空気吸入ステップ、及び
前記空気吸入ステップの後で、前記吸入・吐出口から前記揮発性液体を吸入する揮発性液体吸入ステップ。
【0012】
本発明に係る液体処理装置は、ピペットを用いて上記の処理方法を実行するように構成された装置であり、鉛直向きに配置されたシリンダ、前記シリンダ内において上下方向に摺動するピストン、及び先端に吸入・吐出口をもちその吸入・吐出口が下方を向くように前記シリンダの下端に装着されたチップを備え、前記ピストンの動作に応じて前記チップの前記吸入・吐出口からの液の吸入と吐出を行なうピペットと、前記ピペットを動作させる駆動機構と、揮発性液体を収容した揮発性液体容器と、前記揮発性液体よりも揮発性の低い低揮発性液体を収容した低揮発性液体容器と、前記駆動機構を制御する制御部と、を備えている。前記制御部は、前記ピペットによって前記揮発性液体を吸入する過程において、前記低揮発性液体容器から予め設定された量の前記低揮発性液体を吸入する低揮発性液体吸入動作、前記低揮発性液体吸入動作の後で前記吸入・吐出口から予め設定された量の空気を吸入する空気吸入動作、及び前記空気吸入動作の後で前記揮発性液体容器から所定量の前記揮発性液体を吸入する揮発性液体吸入動作が実行されるように前記駆動機構を制御するように構成されている。
【0013】
本発明における低揮発性液体とは、沸点が95℃以上であり、常温(20℃±15℃)で液体の状態である物質のことを意味する。そのような低揮発性液体として、例えば、水、ジメチルスルホキシド、グリセリン、フェノールが挙げられる。
【0014】
本発明における揮発性液体とは、沸点が50~95℃の範囲内であり、常温(20℃±15℃)で液体の状態である物質、又はそのような物質を10%以上含む液体のことを意味する。沸点が50~95℃の範囲内であり、常温(20℃±15℃)で液体の状態である物質として、例えば、アセトニトリル、メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、イソプロパノール、ヘキサン、ブタノール、シクロヘキサン、エチレングリコール、ベンゼン、クロロホルム、アセトアルデヒド、トリエチルアミン、フェノール、ナフタレン、ホルムアルデヒド、テトラヒドロフラン、酢酸エチルが挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る揮発性液体の処理方法では、揮発性液体よりも揮発性の低い低揮発性液体と空気の吸入(以下、プレ吸入という。)を行なった後で揮発性液体を吸入するので、プレ吸入を行なわない場合に比べて、ピペットに吸入された揮発性液体の上側に存在する空気層の体積が小さくなる。これにより、揮発性液体の揮発に起因して膨張する空気層の膨張体積が小さくなるため、プレ吸入を行なわない場合に比べて、ピペットからの揮発性液体の液漏れが起こりにくくなり、揮発性液体の計量精度が向上する。
【0016】
本発明に係る液体処理装置は、ピペットを駆動する駆動機構の制御を行なう制御部が、ピペットによって揮発性液体を吸入する過程において、上述のプレ吸入を実行した後で揮発性液体の吸入を行なうように構成されているので、ピペットからの揮発性液体の液漏れが起こりにくくなり、揮発性液体の計量精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】液体処理装置の一実施例を示す概略構成図である。
図2】同実施例による液体吸入時の一連の動作の一例を示すフローチャートである。
図3】同実施例による液体吸入後のチップ内の状態を概略的に示す
図4】プレ吸入を行なった場合とプレ吸入を行なわなかった場合のチップ内の液体残量を比較するための画像図であり、(A)はプレ吸入を行なった場合、(B)はプレ吸入を行なわなかった場合である。
図5】プレ吸入を行なった場合とプレ吸入を行なわなかった場合についての段階希釈によるペプチド検量線を示すグラフである。
図6】空気層体積を2μLにしてプレ吸入を行なった場合のチップ内の液体残量を示す画像図である。
図7】空気層体積を3μLにしてプレ吸入を行なった場合のチップ内の液体残量を示す画像図である。
図8】空気層体積を5μLにしてプレ吸入を行なった場合のチップ内の液体残量を示す画像図である。
図9】空気層体積を10μLにしてプレ吸入を行なった場合のチップ内の液体残量を示す画像図である。
図10】空気層体積を50μLにしてプレ吸入を行なった場合のチップ内の液体残量を示す画像図である。
図11】空気層体積を100μLにしてプレ吸入を行なった場合のチップ内の液体残量を示す画像図である。
図12】空気層体積を150μLにしてプレ吸入を行なった場合のチップ内の液体残量を示す画像図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る揮発性液体の処理方法とその処理方法を実行する液体処理装置の一実施例について、図面を用いて説明する。
【0019】
まず、図1を用いて、液体処理装置の一実施例について説明する。
【0020】
この実施例の液体処理装置は、複数のピペット2が一列に並んだ状態でホルダ10によって保持されている。ピペット2は、鉛直向きに配置されたシリンダ4と、シリンダ4内において上下方向へ摺動するピストン6と、シリンダ4の下端に装着されたチップ8を備えている。チップ8は先端に吸入・吐出口を有し、その吸入・吐出口が鉛直下方を向いている。
【0021】
各ピペット2は、ピストン4の上方向への動作に伴ってチップ8の吸入・吐出部から液体や気体を吸入し、ピストン4の下方向への動作に伴ってチップ8の吸入・吐出部から液体や気体を吐出するようになっている。また、ピペット2は水平面内方向と鉛直方向へ移動し、所望の容器に対し液体の吸入と吐出を行なうようになっている。この実施例では、すべてのピペット2が共通のホルダ10によって保持されており、ホルダ10が水平面内方向と鉛直方向へ移動することによって、各ピペット2が水平面内方向と鉛直方向へ移動する。
【0022】
駆動機構12は、ピストン4を動作させるための機構と、ホルダ10を移動させるための機構を含むものである。駆動機構12の動作は制御部14によって制御される。制御部14は、汎用のパーソナルコンピュータ又は専用のコンピュータによって実現されるものである。
【0023】
ピペット2よりも下方の位置に、揮発性液体が収容された複数の揮発性液体容器16と、低揮発性液体が収容された複数の低揮発性液体容器18が、各ピペット2に対応するように設けられている。
【0024】
揮発性液体容器16に収容される揮発性液体としては、アセトニトリル、メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、イソプロパノール、ヘキサン、ブタノール、シクロヘキサン、エチレングリコール、ベンゼン、クロロホルム、アセトアルデヒド、トリエチルアミン、フェノール、ナフタレン、ホルムアルデヒド、テトラヒドロフラン、酢酸エチルなどの液体のほか、そのような液体を10%以上含む液体が挙げられる。
【0025】
低揮発性液体容器18に収容される低揮発性液体としては、水、ジメチルスルホキシド、グリセリン、フェノールが挙げられる。低揮発性液体容器18に収容された低揮発性液体は、ピペット2によって上記の揮発性液体を測り採る際に用いられる。
【0026】
制御部14は、液体を吸入する際に以下の動作が実行されるように駆動機構12を制御するように構成されている。液体を吸入する一連の動作について、図2のフローチャートを図1とともに用いて説明する。
【0027】
液体の吸入動作を開始する際、まず吸入対象の液体が揮発性液体であるか否かを確認する。揮発性液体であるか否かの確認をするために、例えば、制御部14に設けられたデータメモリなどの記憶領域に揮発性液体のリストが記憶されており、吸入対象の液体をそのリストと照合することによって吸入対象の液体が揮発性液体であるか否かを判定する。
【0028】
吸入対象の液体が揮発性液体でなければ、その液体を各ピペット2の先端の吸入・吐出口から所定量だけ吸入する。これにより、各ピペット2の先端に装着されたチップ8内に、吸入対象の液体が所定量だけ測り採られる。各チップ8内に測り採られた液体はその後、所定の分注容器に分注される。
【0029】
他方、吸入対象の液体が揮発性液体である場合は、まず低揮発性液体吸入動作を実行する。低揮発性液体吸入動作では、ピペット2を対応する低揮発性液体容器18の位置へ移動させて各チップ8の先端を低揮発性液体容器18内に挿入し、各低揮発性液体容器18から予め設定された量の低揮発性液体を吸入する。
【0030】
上記の低揮発性液体吸入動作が完了した後、空気吸入動作を実行する。空気吸入動作では、各ピペット2の先端のチップ8を低揮発性液体容器18から引き抜いた状態で各ピペット2を吸入駆動し、各ピペット2に予め設定された量の空気を吸入させる。これにより、ピペット2内の低揮発性液体層の下方に空気層が形成される。以下において、低揮発性液体吸入動作と空気吸入動作を合わせて「プレ吸入」と称する。
【0031】
上記のプレ吸入の後で、揮発性液体吸入動作を実行する。揮発性液体吸入動作では、ピペット2を吸入対象の揮発性液体が収容された揮発性液体容器16の位置へ移動させ、各揮発性液体容器16から所定量の揮発性液体を吸入する。
【0032】
このように、低揮発性液体吸入動作、空気吸入動作及び揮発性液体吸入動作を順に実行することにより、すなわち揮発性液体吸入動作の前にプレ吸入を行なうことにより、図3(A)に示されているように、ピペット2のチップ8内に、チップ8の基端側から低揮発性液体の層、空気層、揮発性液体の層が形成される。
【0033】
上記のプレ吸入を行なわずに揮発性液体をチップ8の先端から吸入すると、図3(B)に示されているように、揮発性液体とピストン6との間に膨大な体積の空気層が存在することになる。揮発性液体とピストン6との間の空気層の体積が大きいと、揮発性液体の揮発の影響によってその空気層が大きく膨張し、それによって揮発性液体が押し出されて液漏れが発生する。
【0034】
この実施例では、揮発性液体吸入動作の前にプレ吸入を行なうことによって、揮発性液体の揮発によって膨張し得る空気層の体積がプレ吸入を行なわない場合よりも小さくなるので、揮発性液体の揮発の影響による空気層の膨張体積も小さくなり、チップ8の先端から液漏れが発生しにくくなる。
【0035】
図4はプレ吸入を行なった場合(A)、プレ吸入を行なわなかった場合(B)のそれぞれの、70%ACN溶液を吸入した直後(0秒)と70%ACN溶液を吸入してから60秒経過後のチップを撮像した画像図である。
【0036】
この検証では、液体処理装置として自動分注装置Bravo(Agilent社の製品)を用い、チップとして2‐250μL用のものを装置のピペット先端に装着した。(A)の「プレ吸入あり」では、まず低揮発性液体としての水を10μL吸入した後で3μLの空気を吸入(プレ吸入)し、その後で、70%ACN溶液(70%ACN/30%HO v/v)を2μL吸入した。(B)の「プレ吸入なし」では、プレ吸入を行なうことなく70%ACN溶液(70%ACN/30%HO v/v)を2μL吸入した。
【0037】
この検証の結果、「プレ吸入あり」の場合も「プレ吸入なし」の場合も、70%ACN溶液の吸入直後(0秒)はチップの先端に同程度の70%ACN溶液が存在している。しかし、70%ACN溶液を吸入してから60秒を経過した後(60秒後)では、「プレ吸入あり」ではチップの先端の70%ACN溶液はほとんど減少しておらず、チップの先端からの液漏れも観察されなかったのに対し、「プレ吸入なし」ではチップの先端の70%ACN溶液が大幅に減少し、チップの先端からの液漏れが確認された。したがって、この検証結果から、プレ吸入を行なうことによって、チップの先端からの液漏れを抑制することができることが確認された。
【0038】
図5は、プレ吸入を行なった場合とプレ吸入を行なわなかった場合の段階希釈によるペプチド検量線の検証結果を示すグラフである。実線がプレ吸入を行なった場合であり、破線がプレ吸入を行なわなかった場合である。
【0039】
この検証では、70%アセトニトリル(ACN)溶液に溶解しているAβ1-38ペプチド(2000amol/μL)を70%ACN溶液で段階希釈した。理論的には、Aβ1-38ペプチドの濃度は1000amol/μL、500amol/μL、250amol/μL、125amol/μL、62,5amol/μLとなる。70%ACN溶液には、質量分析計(MALDI-TOF MS)で計測したAβ1-38シグナルを標準化(Normalize)するための内部標準として、安定同位体標識したAβ1-38ペプチド(SIL-Aβ1-38)250amol/μLを溶解させている。それぞれの方法で希釈した溶液を1μLずつμFocus MALDI plateTM 900μmへ滴下して、乾固させた。各溶液につき3well滴下し、その後、MALDI―TOF MSで計測した。
【0040】
マススペクトルデータはAXIMA Performance (Shimadzu/KRATOS, Manchester, UK)を用いて、ポジティブイオンモードのLinear TOFで取得した。Linear TOFのm/z値はピークのアベレージマスで表示した。m/z値は外部標準としてhuman angiotensin IIとhuman ACTH fragment 18-39、bovine insulin oxidized beta-chain、bovine insulinを用いてキャリブレーションした。
【0041】
得られたAβ1-38の信号をSIL-Aβ1-38の信号で標準化したものを標準化強度(Normalized intensity)とした。Aβ1-38濃度と標準化強度を用いて検量線を作成し、プレ吸入を行なった場合とプレ吸入を行なわなかった場合とで比較した。プレ吸入を行なわなかった場合、濃度を2倍希釈したときの標準化強度が2分の1よりも大きく下がっており、直線性を描けていない。一方、プレ吸入を行なった場合には、濃度を2倍希釈したときに標準化強度も2分の1に減少しており、直線性が描けている。直線回帰式における決定係数(R)は通常法がR=0.9718であるのに対して、プレ吸入を行なった場合にはR=0.9993であることから、プレ吸入を行なうことによって直線にフィッティングすることが示された。この結果は、プレ吸入を行なわない場合には、液漏れによって意図した量よりも少ない量の溶液しか注入されておらず、プレ吸入を行なった場合にはその液漏れが抑制されて、意図した量と同程度の溶液が正確に注入されていることを示している。
【0042】
以上の結果から、プレ吸入を行なうことにより、ピペット2の先端からの液漏れが抑制され、揮発性液体の計量精度を向上させられることが示された。
【0043】
図6図12は、プレ吸入における空気吸入量と液漏れ抑制効果との関係についての検証結果を示す画像図である。これらの画像は、シリンダの下端に取り付けられたチップを斜め下方から撮像したものである。この検証では、プレ吸入として、水を10μL吸入した後で空気を2μL(図6)、3μL(図7)、5μL(図8)、10μL(図9)、50μL(図10)、100μL(図11)、150μL(図12)吸入した後、70%ACN溶液を2μL吸入し、その後60秒が経過したときのチップ内の状態を観察した。
【0044】
この検証では、空気吸入量が10μL以下の場合には、吸入後60秒が経過した後もチップ内の70%ACN溶液にほとんど減少が見られず、液漏れが抑制されていることがわかった。しかし、空気吸入量が50μLや100μLの場合には、吸入後60秒でチップ内の70%ACN溶液の減少が見られ、液漏れが発生していることがわかった。
【0045】
この検証から、プレ吸入を行なうことによって揮発性液体の液漏れを抑制することはできるものの、低揮発性液体と揮発性液体の間の空気層の体積が大きくなると、揮発性液体の揮発の影響による膨張体積が大きくなり、液漏れ抑制効果が低下することが確認された。この検証で用いた条件では、空気吸入量が10μL以下であれば、揮発性液体の減少量が吸入量の10%以内に抑えられ、十分な液漏れ抑制効果を得ることができることが確認された。なお、プレ吸入での空気吸入量は揮発性液体の揮発度や吸入量に応じて適当な量に調整することができる。
【0046】
以上においては、複数のピペット2を備えた液体処理装置を例に挙げて説明しているが、本発明の処理方法及び液体処理装置はこれに限定されず、1つのピペットのみを用いる処理方法及び液体処理装置に対しても適用することができる。
【0047】
また、本発明の処理方法は、上記実施例のような液体処理装置においてのみ実施されるものではなく、ピペットを手作業で扱って液体の処理を行なう場合においても実施することができるものである。
【符号の説明】
【0048】
2 ピペット
4 シリンダ
6 ピストン
8 チップ
10 ホルダ
12 駆動機構
14 制御部
16 揮発性液体容器
18 低揮発性液体容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12