(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134513
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】線維組織除去のための超音波チップを有する外科器具
(51)【国際特許分類】
A61B 17/32 20060101AFI20230920BHJP
【FI】
A61B17/32 510
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023104336
(22)【出願日】2023-06-26
(62)【分割の表示】P 2021126504の分割
【原出願日】2016-06-15
(31)【優先権主張番号】62/180,656
(32)【優先日】2015-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514318275
【氏名又は名称】ストライカー・ユーロピアン・ホールディングス・I,リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(72)【発明者】
【氏名】ヘヴェイ,カハル
(57)【要約】 (修正有)
【課題】超音波チップ及び患者に用いられる線維組織除去のための該超音波チップを有する外科器具を提供する。
【解決手段】超音波チップ(16)及び患者に用いられる該超音波チップ(16)を有する外科器具は、患者の外科部位に適用されるためにシャフトの遠位部分(22)に連結されるように適合されたヘッド部分(32)を備え、ヘッド部分(32)は、遠位端(38)に向かって長軸に沿って軸方向に延在し、遠位端(38)は、患者の外科部位において組織を切除するために長軸に対して正のすくい角を備える切刃を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外科器具(10,110)用の超音波チップ(16,116)であって、
シャフト(12,112)に連結されるように適合され、遠位端(38,138)に向
かい長軸(37,137)に沿って軸方向に延在し、かつ、切除のために前記遠位端(3
8,138)に前記長軸(37,137)に対する正のすくい角の切刃を有するヘッド部
分(32,132)を備える、超音波チップ。
【請求項2】
前記ヘッド部分(32,132)は、複数の歯(34,134)及び前記歯(34,1
34)を互いに分離する複数の溝(36,136)を備えている、請求項1に記載の超音
波チップ。
【請求項3】
前記歯(34,134)の各々は、前記切刃を備える前記遠位端(38,138)を有
しており、前記切刃は、遠位切刃(44,144)である、請求項2に記載の超音波チッ
プ。
【請求項4】
前記歯(34,134)の各々は、前記切刃に対して角度をなす側切刃(40,140
)を備えている、請求項2~3の何れか一項に記載の超音波チップ。
【請求項5】
前記歯(34,134)の各々は、前記切刃に対して角度をなす内切刃(42,142
)を備えている、請求項2~4の何れか一項に記載の超音波チップ。
【請求項6】
前記複数の溝(36)は、何れも前記長軸(37)の軸方向に沿って延在している、請
求項2~5の何れか一項に記載の超音波チップ(16)。
【請求項7】
前記複数の溝(136)は、前記長軸(137)に対してオフセット角をなしているる
、請求項2~5の何れか一項に記載の超音波チップ(116)。
【請求項8】
前記溝(36,136)は、前記正のすくい角をなす傾斜面を有している、請求項2~
7の何れか一項に記載の超音波チップ。
【請求項9】
前記超音波チップ(16,116)の外径における前記溝(36,136)の深さは、
前記超音波チップ(16、116)の内径における前記溝(36,136)の深さと異な
る、請求項2~8の何れか一項に記載の超音波チップ。
【請求項10】
前記ヘッド部分(32,132)の表面にコーティングを備える、請求項1~9の何れ
か一項に記載の超音波チップ。
【請求項11】
外科器具(10,110)であって、
近位端と遠位端との間に軸方向に延在するシャフト(12,112)と、
前記シャフト(12,112)の前記遠位端に連結された超音波チップ(16,116
)であって、前記超音波チップ(16,116)は、遠位端(38,138)に向かって
長軸(37,137)に沿って軸方向に延在するヘッド部分(32,132)を有してお
り、前記超音波チップ(16,116)の前記遠位端(38,138)は、前記長軸(3
7,137)に対して正のすくい角を備える切刃を有している、超音波チップ(16,1
16)と、
を備える、外科器具。
【請求項12】
前記ヘッド部分(32,132)は、複数の歯(34,134)及び前記歯(34,1
34)を互いに分離する複数の溝(36,136)を備えている、請求項11に記載の外
科器具。
【請求項13】
前記歯(34,134)の各々は、前記切刃を備える前記遠位端(38,138)を有
しており、前記切刃は、遠位切刃(44,144)である、請求項12に記載の外科器具
。
【請求項14】
前記溝(36)は、前記長軸(37)に対して軸方向に沿ってのみ軸方向に延在してい
るか、又は前記長軸(137)に対してオフセット角をなしているかのいずれかである、
請求項12~14の何れか一項に記載の外科器具(10)。
【請求項15】
超音波チップ(16,116)を有する外科器具(10,110)を操作する方法であ
って、
信号を前記外科器具(10,110)に印加し、前記外科器具(10,110)の前記
超音波チップ(16,116)を超音波励起するステップと、
前記超音波チップ(16,116)を患者の外科部位において組織に接触するように移
動させるステップであって、前記超音波チップ(16,116)は、遠位端に向かって長
軸(37,137)に沿って軸方向に延在するヘッド部分(32,132)を有しており
、前記超音波チップ(16,116)の前記遠位端は、前記軸(37,137)に対して
正のすくい角を備える切刃(44,144)を有している、ステップと、
前記超音波チップ(16,116)の前記ヘッド部分(32,132)の前記切刃(4
4,144)の前記正のすくい角に対向する組織の線維を切除するステップと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2015年6月17日に出願された米国仮特許出願第62/180,656号
の利得を主張するものであり、その開示内容の全体が、参照することによって、ここに含
まれるものとする。
【0002】
[発明の分野]
本発明は、一般的に、外科器具に関し、さらに詳細には、超音波チップ及び患者に用い
られる線維組織除去のための該超音波チップを有する外科器具に関する。
【背景技術】
【0003】
医療施術者は、ある特定の外科処置の遂行を助長するために超音波外科器具を用いるの
が有用であることを見出している。超音波外科器具は、患者の外科部位に適用されるよう
に設計されている。施術者は、超音波外科器具を該器具が医療又は外科処置を行うべき患
者の部位に位置決めすることになる。一般的に、超音波外科器具は、少なくとも1つの圧
電ドライバを含む超音波ハンドピースを備えている。超音波チップは、現在利用可能な外
科器具によって除去することが困難な組織、特に、線維性、弾性、粘性、及び靭性を有す
る腫瘍組織を除去するために、超音波ハンドピースと併せて用いられている。少なくとも
一形式の外科処置において、外科医は、腫瘍組織を正確に除去するために超音波外科器具
を用いている。
【0004】
周知の超音波チップは、典型的には、ネジ接続端及び接触端を有している。ネジ接続端
が超音波ハンドピースに取り付けられ、該超音波ハンドピースが超音波振動をチップに供
給するようになっている。超音波ハンドピースは、チップを介する吸引(aspiration)を
さらに可能にする。超音波工具システムは、通常、制御コンソールを備えている。制御コ
ンソールは、駆動信号を超音波ハンドピースに供給する。駆動信号がドライバに印加され
ると、該ドライバは、周期的に伸縮する。ドライバのこの伸縮は、チップ、さらに具体的
には、チップのヘッドに同様の運動を生じさせる。このエネルギーによって、チップが運
動し、これによって、チップが振動すると考えられる。特定の外科又は医療処置を行うた
めに、チップの振動するヘッドが組織に押し付けられる。例えば、チップヘッドの内には
、硬質組織に対して適用されるものがある。硬質組織の1つの形態は、骨である。この種
のチップヘッドが振動すると、チップ、すなわち、鋸の歯の前後振動が、隣接する硬質組
織を除去することになる。さらに他のチップは、軟質組織を焼灼かつ除去するように設計
されている。このようなチップは、多くの場合、キャビテーションを軟質組織内に引き起
こし、及び/又は軟質組織を機械的に切除するように設計されている。
【0005】
ハンドピース又は工具とも呼ばれることがある超音波外科器具を効果的に機能させるた
めに、適切な特性を有する駆動信号が工具に印加されるべきである。もし駆動信号が適切
な特性を有していなかったなら、チップのヘッドは、最適ではない振幅の振動を生じるこ
とがあり、及び/又は可能な最大振幅で振動しないことがある。もしハンドピースがこれ
らのいずれかの状態にあるなら、所定の瞬間において組織を除去するハンドピースの能力
が、明らかに低下するだろう。超音波ハンドピースの効率的な操作を確実にする1つの方
法として、ハンドピースの共鳴周波数にある駆動信号をハンドピースに印加することが挙
げられる。この周波数の駆動信号の印加は、最大振幅の振動をチップに生じさせることに
なる。
【0006】
使用時に、外科医又は助手は、最初、チップを超音波ハンドピースの超音波ドライバの
音響ホーンの嵌合端内に取り付ける。これは、チップを嵌合端内にねじ込み、適切なトル
クを加えることによって達成される。いったん取り付けたなら、外科医は、必要に応じて
、すなわち、手術の必要性に応じて、手術が始まる前に、灌注スリーブ又は灌注送管を接
触端の後方のチップの周りに配置する。灌注スリーブによって、超音波ハンドピースは、
灌注流体を該ハンドピースを通して外科部位に供給することができる。外科処置中、外科
医は、除去することが望まれる組織又は腫瘍の近くに接触端を配置する。いったん配置し
たなら、外科医は、必要に応じて、超音波ハンドピース及び真空吸引システムに通電する
ことになる。これによって、接触端に伝達された超音波エネルギーがチップの軸に対して
超音波場を生成する。この超音波場は、その周囲の液体又は組織に対してキャビテーショ
ン及び/又は破壊をもたらすようなエネルギー場である。また、チップは、線維組織を切
除する。これによって、真空吸引を介するチップの内側チューブ部分を通る材料の除去が
可能になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
外科医は、現在利用可能な超音波チップ及び装置の線維組織除去率が、いくつかの用途
に対して適切であるが、一部の腫瘍を含むある特定の組織に対して不十分であることを見
出している。また、標準的な超音波チップを用いることによって、線維性かつ強靭な組織
は、より強靭になり、さらに除去し難くなることも見出されている。概して、現在用いら
れている装置は、除去制御及び除去時間に関して、ある特定の線維性腫瘍を除去するのに
不十分である。それ故、当技術分野において、新規の超音波チップ及び患者に用いられる
線維組織除去のための該超音波チップを有する超音波外科器具を提供することが必要とさ
れている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、本発明は、患者に用いられる外科器具用の超音波チップを提供する。超音波チ
ップは、患者の外科部位に適用されるためにシャフトに連結されるように適合されたヘッ
ド部分を備えており、ヘッド部分は、遠位端に向かって長軸に沿って軸方向に延在してお
り、遠位端は、患者の外科部位において組織を切除するために長軸に対して正のすくい角
を備える切刃を有している。
【0009】
また、本発明は、患者に用いられる外科器具を提供する。外科器具は、近位端と遠位端
との間に軸方向に延在するシャフトを備えている。外科器具は、患者の外科部位に適用さ
れるためにシャフトの遠位端に連結された超音波チップも備えている。超音波チップは、
遠位端に向かって長軸に沿って軸方向に延在するヘッド部分を有しており、超音波チップ
の遠位端は、患者の外科部位において組織を切除するために長軸に対して正のすくい角を
備える切刃を有している。
【0010】
さらに、本発明は、超音波チップを有する外科器具を操作する方法を提供する。本方法
は、信号を外科器具に印加し、外科器具の超音波チップを超音波励起させるステップと、
超音波チップを患者の外科部位において組織と接触するように移動させるステップであっ
て、超音波チップは、遠位端に向かって長軸に沿って軸方向に延在するヘッド部分を有し
ており、超音波チップの遠位端は、長軸に対して正のすくい角を備える切刃を有している
、ステップと、超音波チップのヘッド部分の切刃の正にのすくい角に対向する組織の線維
を切除するステップと、を含んでいる。
【0011】
本発明の1つの利点は、患者に用いられる線維組織除去のための外科器具用の新規の超
音波チップが提供されることにある。本発明の他の利点は、超音波チップを有する外科器
具が、線維組織、主として、安全に除去することが困難又は不可能な線維性の強靭な腫瘍
組織の除去を可能にすることにある。本発明のさらに他の利点は、超音波チップを有する
外科器具が、組織を効率的に切断かつ切除することによって、著しく向上した切除率で線
維組織の制御された除去を可能にすることにある。本発明のさらに他の利点は、超音波チ
ップを有する外科器具が適用された時、線維組織がより堅くならず、従って、切除し難く
ならないことにある。
【0012】
本発明のさらなる利点は、超音波チップが正のすくい角の切刃を利用する遠位端を有し
、これによって、線維組織の効率的な切除を達成することにある。本発明のさらに他の利
点は、超音波チップが、効率的な線維切除を可能にする遠位端形状を有する外刃を備える
遠位端を有することにある。本発明のさらに他の利点は、超音波チップが、切除能力を高
めることができる捻れ運動又は縦運動と捻れ運動との合成運動を行う遠位端を有すること
にある。本発明のさらに他の利点は、超音波チップが内径に正のすくい角の切刃を有し、
組織が中心管腔内に引き込まれた時に該組織を薄切りし、これによって、切除された組織
の大きさをチップの内径よりも小さくし、その結果、吸引経路を詰まらせるおそれを低減
させることにある。
【0013】
本発明の他の利点は、超音波チップが、互いに異なる面に配向された遠位端面を有し、
チップの遠位部分の側面が垂直面をなしていないことにある。本発明のさらに他の利点は
、超音波チップが、チップと組織との間の摩擦を低減させて鋭利な切刃を維持するために
、コーティングによって被覆されることにある。本発明のさらに他の利点は、超音波チッ
プを有する外科部位が、腫瘍組織を迅速に除去し、これに応じて、手術時間を短縮するこ
とを可能にすることにある。
【0014】
本発明の他の特徴及び利点は、後述の説明を読むことによってよく理解されたなら、容
易に分かるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明による線維組織除去のための超音波チップを有する外科器具の一実施形態の斜視図である。
【
図5】
図1~4の外科器具用の本発明による超音波チップの拡大斜視図である。
【
図7】
図5の超音波チップの遠位側の端面図である・
【
図8】本発明による線維組織除去のための超音波チップを有する外科器具の他の実施形態の斜視図である。
【
図12】
図8~11の外科器具用の本発明による超音波チップの拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1,2を参照すると、患者(不図示)に対する医療処置に用いられる本発明による外
科器具10の一実施形態が示されている。図示されるように、外科器具10は、近位端と
遠位端との間に延在する12で総称的に示されるホーン又はシャフトと、近位端における
超音波振動機構14と、遠位端における患者の線維組織除去のための16で総称的に示さ
れる本発明による超音波チップと、を備えている。線維組織の例として、脳の腫瘍部、脊
髄、又は患者の他の重篤な生体構造、例えば、神経外科において除去される腫瘍が挙げら
れる。超音波振動機構14が超音波チップ16に対して超音波振動を生じることを理解さ
れたい。また、このような超音波振動機構の例は、佐藤等に付与された米国特許第6,9
55,680号に開示されていることを理解されたい。この開示内容は、参照することに
よって、その全体がここに含まれるものとする。さらに、外科器具10は、(図示されな
い)ユーザー、例えば、外科医によって操作されることを理解されたい。
【0017】
図1~4を参照すると、シャフト12は、略中空円筒であり、略円断面形状を有してい
る。シャフト12は、近位端から遠位端に中心軸に沿って軸方向に延在し、それぞれ、近
位部分18、中間部分20、及び遠位部分22を有している。近位部分18は、中間部分
20の直径よりも大きい直径を有し、中間部分20は、遠位部分22の直径よりも大きい
直径を有している。この実施形態では、遠位部分22は、超音波チップ16に向かってテ
ーパが付されている。シャフト12は、近位端から超音波チップ16に向かって該シャフ
トを軸方向に貫通する通路又は中心管腔24を有している。近位部分18は、超音波振動
機構14に接続するために軸方向に延在する接続部分25を有している。超音波振動機構
14は、シャフト12の近位部分18の接続部分25に接続されることを理解されたい。
また、シャフト12は、超音波チップ16までのシャフトの長さに沿って振幅ゲインをも
たらす幾何学的外部輪郭を有することを理解されたい。さらに、シャフトは、線状であっ
てもよいし、又は円弧状であってもよいことを理解されたい。
【0018】
シャフト12は、用途に応じて、チタン合金、ステンレス鋼、等の金属材料、又は複合
材のような非金属材料から作製されている。シャフト12は、一体化された単一片である
。一実施形態では、シャフト12及びチップ16は、一体化された単一片であるとよい。
他の実施形態では、チップ16の遠位端が、(図示されない)ネジのような適切な機構に
よってシャフト12に取り付けられていてもよい。高出力超音波成分に関して金属が当技
術分野において知られていることを理解されたい。また、シャフト12の遠位部分22及
び超音波チップ16は、それぞれ、患者の小切開口内において作用するために比較的小径
、例えば、1cm未満の直径を有することを理解されたい。シャフト12及び超音波チッ
プ16は、用途に応じて、より大きくされてもよいし、又はより小さくされてもよいこと
をさらに理解されたい。
【0019】
また、外科器具10は、26で総称的に示される振動変換機構をシャフト12の中間部
分20に備えている。振動変換機構26は、超音波振動機構14から伝達された振動を、
シャフト12の中心軸方向の縦振動と遠位部分22の近傍の支点としてシャフト12の中
心軸を有する捻れ振動とから構成される(縦振動―捻れ振動)の合成振動に変換するため
のものである。一実施形態では、振動変換機構26は、シャフト12の中間部分20の周
面に巻かれるように形成された複数の溝28を備えている。振動変換機構26は、シャフ
ト12の他の部分に配置されてもよいし、他の設計を有してもよいことを理解されたい。
【0020】
図5~7を参照すると、超音波チップ16は、接続部分又は移行部分30と、移行部分
30から軸方向に延在するヘッド部分又は接触部分32とを備えている。移行部分30は
、軸方向において半径方向外方にテーパが付されている。移行部分30は、中空であり、
通路24に連通している。ヘッド部分32は、軸方向に延在している。ヘッド部分32は
、略中空であり、円断面形状を有している。ヘッド部分32は、開いており、移行部分3
0及び通路24に連通している。ヘッド部分32は、シャフト12の遠位部分22の端の
直径よりも大きい一定直径を有している。
【0021】
また、超音波チップ16は、ヘッド部分32の遠位端に形成された複数の歯34を備え
ている。歯34は、以下に述べる機能を果たすために、ヘッド部分32の壁内に延在する
切込み又は溝36によって、ヘッド部分32の周りに周方向において互いに離間するよう
に形成されている。超音波チップ16のヘッド部分32の外面における溝36の深さは、
内面における溝36の深さよりも大きく、その結果、内面に正のすくい角の切刃をもたら
す傾斜面が生じることになる。
【0022】
この実施形態では、これらの溝36は、いずれも、チップ軸又は長軸37の方向に延在
するように、軸方向に沿って形成されている。ヘッド部分32は、どのような数の歯34
を備えていてもよい。遠位端の幾何学構造を形成する1つの方法として、(図示されない
)回転切断ディスクを用いる方法が挙げられる。幾何学的切断構造は、正のすくい角が外
面と溝36を画定する側面との間に生じるような溝36の軸方向パターンを超音波チップ
16の遠位端に組み入れていることを理解されたい。また、超音波チップ16は、超音波
振動と組合せて線維組織の切除率の著しい向上をもたらす遠位端形状を有していることを
理解されたい。
【0023】
図5~7に示されるように、歯34は、遠位端38,側切刃40,内切刃42、及び遠
位刃44を有している。歯34の遠位端38は、正方形と対照的な略三角形であり、その
結果、外面の鋭利な切断点及び単一内切刃42が生じることになる。遠位切刃44は、正
のすくい角を有している。図示される実施形態では、歯34は、切刃40,42,44の
全てが同一方向かつ同一軸方向パターンにあるように、配置されている。図示される実施
形態では、多数の遠位端38の表面は、平面的であり、又は同一面に配向されている。ま
た、遠位部分32の側面は、垂直面をなしている。溝36は、一直線状の軸方向区域を有
する側切刃40と円弧区域及び逃げ縁45とによって、外面上に画定されている。溝36
は、一直線状の軸方向逃げ縁47と結合する円弧区域を有する内切刃42によって、内面
上に画定されている。逃げ縁45,47間に逃げ面が画定されることを理解されたい。ま
た、遠位切刃44が
図7において矢印50によって示されるような捻れ運動を受けた時、
該遠位切刃44は、鈍角で腫瘍と交差し、これによって、正のすくい角をもたらし、切断
が生じることを理解されたい。
【0024】
超音波チップ16は、適切なコーティング、例えば、窒化チタン(TiN)又はダイヤ
モンド状コーティング(DLC)によって被覆されるとよい。超音波チップ16は、ヘッ
ド部分32の歯34の遠位端38が捻れ運動又は縦運動と捻れ運動との組合せで振動する
時、最大切除率を達成することを理解されたい。さらに、外科器具10の最大切除率は、
振動が超音波チップ16の正のすくい角の切刃と直交する時に生じることを理解されたい
。
【0025】
(図示されない)制御コンソールもシステムの一部である。制御コンソールは、駆動信
号を(図示されない)ケーブルを通して外科器具10に供給する。駆動信号は、(図示さ
れない)ドライバに印加される。所定の瞬間に、同一の駆動信号が各ドライバに印加され
る。駆動信号の印加によって、ドライバは、同時に周期的に伸縮する。重ねられた多数の
ドライバは、多くの場合、1cmから5cmの間の長さを有している。ドライバの単一伸
縮サイクル当たりの移動距離、すなわち、振幅は、1μmから10μmの間であるとよい
。シャフト12は、この運動を増幅する。その結果、チタン合金から作製された超音波チ
ップ16の場合、シャフト12の遠位端、従って、該チップ16のヘッド部分32は、完
全な収縮位置から完全な伸張位置に移動する時、典型的には、最大500μm、多くの場
合、350μm未満にわたって移動する。チップ16は、チップステムの長手方向の伸張
/後退がヘド部分32の回転運動も生じさせるようにさらに設計されてもよいことを理解
されたい。また、多くの場合、シャフト12がチップ16の周期的な運動を生じさせるた
めの周期的運動にある時、ヘッド部分32は、振動していると見なされることも理解され
たい。
【0026】
操作時に、超音波チップ16は、超音波振動機構14及び振動変換機構26によって超
音波励起される。超音波チップ16の端における振幅は、最大400μmの範囲内とする
ことができる。中心管腔24を通して、組織を超音波チップ16に当接させるのを促進す
る吸引を行うことができる。超音波チップ16のヘッド部分32の歯34の遠位端38が
、組織に接触する。組織の焼灼(ablation)が、標準的な超音波吸入器に共通の方法(キ
ャビテーション、圧力波、機械的衝撃)によって部分的に生じる。これは、組織が振動す
る表面に最近接した時に生じる。超音波チップ16の振動するヘッド部分32の溝36内
に、高強度超音波場が存在する。
図6において、歯34の遠位端38の最適な運動が矢印
A(実線)によって示されており、歯34の底の運動が矢印B(点線)によって示されて
いる。本発明の超音波チップ16の切除機構は、歯34の正のすくい角の切刃に対向する
組織の線維の機械的切除であることを理解されたい。また、歯34の超音波振動する縁が
組織線維に衝撃及び応力を与え、その結果、線維の切除をもたらすことを理解されたい。
さらに、超音波チップ16の切刃40,42,44は、線維組織の効率的な切除を可能に
し、通常の超音波焼灼機構及び制御された吸引との組合せによって、組織の制御された切
除をもたらすことを理解されたい。
【0027】
超音波チップ16の外面における溝36の深さが内面における溝36の深さよりも大き
く、その結果、傾斜面をもたらすことによって、組織がシャフト12の中心管腔24内に
引き込まれたとき、内面の振動する鋭利な刃が該組織を薄切りする。切除された組織の大
きさは、超音波チップ16の内径よりも小さく、その結果、吸引経路の詰まりの可能性が
低減する。超音波振動によって、組織は、超音波チップの周りに巻き付かれず、組織の塊
に望ましくない歪をもたらすことなく、制御された切除が生じることになる。歯34の鋭
利な切刃40,42,44は、清浄な切除を確実なものとし、嵩張る組織の引込みを最小
限に抑えることを理解されたい。
【0028】
超音波チップ16の外面における溝36の深さが内面における溝36の深さよりも大き
く、その結果、傾斜面をもたらすことによって、チップ16の両側を通る空気流れが、吸
引がなされた時に低減する。これは、吸引損失を低減させ、組織に対する超音波チップ1
6の良好な当接をもたらすことになる。超音波チップ16の外面における溝36の深さが
内面における溝36の深さよりも大きく、その結果、傾斜面をもたらすことによって、内
切刃42による組織の薄切りの前にチップ16が組織内に押し入る深さを制御することが
できる。この特徴によって、組織の塊への望ましくない応力が最小限に抑えられることを
理解されたい。
【0029】
図8~11を参照すると、本発明による外科器具10の他の実施形態が示されている。
外科器具10の部品と同様の部品に100を加えた同様の参照番号が付されている。この
実施形態では、外科器具110は、近位端と遠位端との間に延在するシャフト112と、
近位端における超音波振動機構114と、遠位端における患者の線維組織除去のための超
音波チップ116とを備えている。シャフト112は、近位部分118と、中間部分12
0と、遠位部分122とを備えている。シャフト112は、近位端から超音波チップ11
6に向かって該シャフトを軸方向に貫通する通路124も備えている。また、外科器具1
10は、超音波振動機構114から伝達された振動を変換するための振動変換機構126
をシャフト112の中間部分120に備えていることを理解されたい。
【0030】
図12~14を参照すると、超音波チップ116は、移行部分130と、移行部分13
0から軸方向に延在するヘッド部分132とを備えている。超音波チップ116は、ヘッ
ド部分132の遠位端に形成された複数の歯134を備えている。歯134は、ヘッド部
分132の壁内に延在する切込み又は溝136によって、ヘッド部分132の周りに周方
向において互いに離間するように形成されている。超音波チップ116の外面における溝
136の深さが内面における溝136の深さよりも大きく、その結果、内面に正のすくい
角の切刃をもたらす傾斜面が生じている。この実施形態では、多数の溝136は、互いに
ずれた角度で形成されている(この場合、外面における切刃は、チップ軸137と平行の
外面に沿って鋭角をなしている)。ヘッド部分132は、どのような数の歯134を備え
ていてもよい。幾何学的切断構造は、正のすくい角が外面と溝136の側面との間に生じ
るような溝136の軸方向パターンを超音波チップ116の遠位端に組み入れていること
を理解されたい。
【0031】
図10~12に示されるように、歯134は、遠位端138、側切刃140、内切刃1
42、及び遠位切刃144を有している。遠位端138は、正方形と対照的な略三角形で
あり、その結果、外径の鋭利な切除点及び単一の遠位側内切刃が生じることになる。この
実施形態では、歯134は、切刃140,142,144の方向が異なり、切刃140,
142,144の全てが同一の軸方向パターンにないように、配置されている。図示され
る実施形態では、多数の遠位端138のそれぞれの表面は、互いに異なる平面上に配向さ
れている。図示される実施形態では、遠位部分132の側面は、垂直面をなしておらず、
これによって、効率的な切除及び下側組織の捕捉が確実なものになる。また、遠位切刃1
44が
図14に矢印150によって示される捻れ運動を受けたとき、遠位切刃144は、
鈍角で腫瘍と交差し、これによって、正のすくい角をもたらし、切除が行われることを理
解されたい。
【0032】
超音波チップ116は、適切な機能コーティング、例えば、窒化チタン(TiN)又は
ダイヤモンド状コーティング(DLC)によって被覆されるとよい。
図13において、歯
134の遠位端138の最適な運動が矢印A(実線)よって示され、歯134の底の運動
が矢印B(点線)によって示されている。遠位部分132が捻れ運動又は縦運動と捻れ運
動との組合せで振動する時、最大切除率を達成することを理解されたい。振動の成分が超
音波チップ116の正のすくい角の切刃と直交する時、外科器具110の最大切除率が生
じることをさらに理解されたい。さらに、外科器具110の操作は、外科器具10の操作
と同様であることを理解されたい。
【0033】
加えて、本発明は、超音波チップ16,116を有する外科器具10,110を操作す
る方法を開示している。この方法は、信号を外科器具10,110に印加し、外科器具1
0,110の超音波チップ16,116を超音波励起させるステップと、超音波チップ1
6,116を患者の外科部位において組織に接触するように移動させるステップと、を含
んでいる。超音波チップ16,116は、遠位端に向かって長軸37,137に沿って軸
方向に延在するヘッド部分32,132を有しており、超音波チップ16,116の遠位
端は、軸37,137に対して正のすくい角を備える切刃44,144を有している。ま
た、本方法は、超音波チップ16,116のヘッド部分32,132の切刃44,144
の正のすくい角に対向する組織の線維を切除することを含んでいる。本方法は、他のステ
ップを含むことを理解されたい。
【0034】
従って、本発明の外科器具10,110は、正のすくい角の歯34,134を有する超
音波チップ16,116を組み入れている。溝36,136が超音波チップ16,116
の振動の方向と直交する時、より大きい切除を得ることができる。超音波チップ16,1
16の歯34,134の遠位端38,138の表面が互いに異なる面上に配向されている
時、組織に対する接触面及び圧力を低減させることができる。これによって、チップ面と
組織との間の摩擦熱が低下する。超音波チップ16,116の遠位部分32,132の側
面が垂直面をなしていない時、組織に対する接触面積及び圧力の低減を達成することがで
きる。その結果、チップ面と組織との間の摩擦熱が低下することになる。
【0035】
本発明の以上の説明は、例示的なものである。用いられた専門用語は、制限のための用
語というよりもむしろ、説明のための用語であることが意図されていることを理解された
い。本発明の多くの修正及び変更が、前述の示唆に照らして可能である。それ故、本発明
は、具体的に記載されている方法以外の方法によって実施されてもよい。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波外科器具であって、
近位端と遠位端との間に軸方向に延在し、組織に吸引を適用するように構成された中心管腔を画定するシャフト、および、
前記シャフトの遠位端から軸方向に延在するヘッド部分であって、内周面、外周面、および、前記ヘッド部分の遠位端から前記内周面と前記外周面との間に延在して複数の歯を形成する複数の溝を備えるヘッド部分を備え、
前記シャフトは、前記ヘッド部分に捻れ振動と縦振動の合成振動を生成するように構成された振動変換機構を含み、
前記歯の各々は、遠位端と、前記歯の1つの遠位端において前記内周面と前記外周面との間に延在する遠位切刃と、前記外周面と前記溝の1つの側面との間に画定される側切刃とを備え、前記遠位切刃および前記側切刃の各々は、前記捻れ振動の第1の方向に正のすくい角で組織に接触するように構成されている、超音波外科器具。
【請求項2】
超音波外科器具であって、
近位端と遠位端との間に軸方向に延在するシャフト、および、
前記シャフトの遠位端に結合された超音波チップであって、内周面、外周面、および、前記内周面と前記外周面との間に延在する複数の溝を画定する複数の歯を含んで軸方向に延在するヘッド部分を有する超音波チップを備え、
前記歯の各々は、遠位端と、前記歯の1つの遠位端において前記内周面と前記外周面との間に延在する遠位切刃と、前記外周面と前記溝の1つの側面との間に画定される側切刃とを備え、前記遠位切刃および前記側切刃の各々は、前記超音波チップの捻れ振動中に第1の方向に正のすくい角で組織に接触するように構成されている、超音波外科器具。
【請求項3】
前記溝の各々は、前記シャフトの遠位端から延在する前記ヘッド部分の軸線に対してオフセット角をなしている、請求項1または2に記載の超音波外科用器具。
【請求項4】
前記各歯の前記側切刃が画定される前記溝の1つの前記側面は、前記歯の1つの前記遠位切刃と、前記歯の1つの前記側切刃と、前記溝の1つの円弧状部分との間に画定される三角形状の面を備える、請求項1~3の何れか一項に記載の超音波外科器具。
【請求項5】
前記歯の各々は、前記歯の遠位端における前記遠位切刃と前記側切刃との交点によって画定される鋭利な刃先を外周面に備える、請求項1~4の何れか一項に記載の超音波外科器具。
【請求項6】
前記歯のそれぞれの遠位端の形状が三角形状である、請求項1~5の何れか一項に記載の超音波外科器具。
【請求項7】
前記歯の各々は、前記歯の1つの前記遠位端と前記内周面との間に画定される内縁と、前記歯の1つの前記遠位端と前記外周面との間に画定される外縁とを含み、前記内縁は、前記外縁よりも長さが短い、請求項1~6の何れか一項に記載の超音波外科器具。
【請求項8】
前記歯の各々は、前記外周面と前記溝の他の側面との間に画定される逃げ縁を備える、請求項1~7の何れか一項に記載の超音波外科器具。
【請求項9】
前記歯の各々の前記遠位端が、異なる平面上に配向された三角形状の遠位面を備える、請求項1~8の何れか一項に記載の超音波外科器具。
【請求項10】
前記シャフトの遠位端から延びるテーパ状の移行部分を備え、前記ヘッド部分は、前記移行部分から延在し、かつ、前記シャフトの前記遠位端の直径よりも大きい外径を有しており、前記シャフト、前記移行部分、および、前記ヘッド部分は、一体であるかまたは一体化された単一片である、請求項1~9の何れか一項に記載の超音波外科器具。
【外国語明細書】