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特開2023-134574メタクリル酸およびその誘導体の生物学的製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134574
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】メタクリル酸およびその誘導体の生物学的製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/64 20220101AFI20230920BHJP
   C12P 7/40 20060101ALI20230920BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20230920BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20230920BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
C12P7/64 ZNA
C12P7/40
C12N15/54
C12N15/53
C12N1/21
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023111287
(22)【出願日】2023-07-06
(62)【分割の表示】P 2021129068の分割
【原出願日】2016-05-18
(31)【優先権主張番号】1508582.2
(32)【優先日】2015-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1517545.8
(32)【優先日】2015-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】500460209
【氏名又は名称】ミツビシ ケミカル ユーケー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MITSUBISHI CHEMICAL UK LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】イーストハム グラハム ロナルド
(72)【発明者】
【氏名】ステファンズ ジル
(72)【発明者】
【氏名】イアコウメッティ アンドリュー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】メタクリル酸の製造のための生物学的または部分的に生物学的方法、メタクリル酸の改善された製造方法、並びに工業的方法で使用することができ、イソブチリルCoAをメタクリリルCoAに変換するために作用するいずれの酵素からも独立して使用することができる、メタクリリル-CoAからメタクリル酸への実行可能な酵素的変換方法を提供する。
【解決手段】(a)オキシダーゼの作用により、イソブチリル-CoAをメタクリリル-CoAへ生物学的に変換するステップと;(b)メタクリリル-CoAをメタクリル酸および/またはその誘導体へ変換するステップとを含む方法、並びにこの方法のステップを実行するように適応された微生物も提供する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸および/またはその誘導体を製造する方法であって、
(a)オキシダーゼの作用により、イソブチリル-CoAをメタクリリル-CoAへ生物学的に変換するステップと;
(b)メタクリリル-CoAをメタクリル酸および/またはその誘導体へ変換するステップと
を含む方法。
【請求項2】
ステップ(b)が生物学的にまたは化学的に実行され得る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記メタクリル酸のその誘導体がメタクリル酸エステル、より好ましくはC1~C20アルキルエステル、最も好ましくはC1~C12アルキルエステル、特にC1~C4アルキルエステルまたはC4~C12アルキルエステルである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記メタクリル酸エステルがメタクリル酸ブチル、例えばメタクリル酸n-ブチルである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記メタクリル酸エステルがトランスフェラーゼの作用によって生物学的に形成される、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記トランスエステラーゼが、好適にはECグループ番号2.3.1.84のアルコールアシルトランスフェラーゼである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記アルコールアシルトランスフェラーゼがリンゴ、メロンまたはトマト起源などの果物起源から誘導される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アルコールアシルトランスフェラーゼがアルコール、例えば、C1~C4アルコールまたはC4~C12アルコールなどのC1~C12アルコールの存在下で作用して、対応するアルキルエステルを形成する、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記アルコールがブタノールである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(b)で形成されたメタクリル酸をメタクリル酸エステルへ変換するステップ(c)をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(c)が生物学的にまたは化学的に実行され得る、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(c)がエステラーゼまたはヒドロラーゼの作用によって生物学的に実行される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記オキシダーゼが、好適にはECグループ番号1.3.3.6のアシル-CoAオキシダーゼである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記アシル-CoAオキシダーゼが以下の酵素:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からのACX4、アルスロバクター・ニコチアナ(Arthrobacter Nicotianae)からの短鎖アシル-CoAオキシダーゼ、リョクトウ(Vigna radiata)からのペルオキシソームアシル-CoAオキシダーゼ、カンジダ属(Candida sp.)からのアシル-CoAオキシダーゼおよびカンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)からのアシル-CoAオキシダーゼ4のいずれかから選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記アシル-CoAオキシダーゼがシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からのACX4である、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
メタクリリル-CoAが、チオエステラーゼ、トランスフェラーゼ、シンテターゼ、ならびに/またはホスホトランスアシラーゼおよび短鎖脂肪酸キナーゼの作用によってメタクリル酸に変換される、請求項1、2または10~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
メタクリリル-CoAがチオエステラーゼの作用によってメタクリル酸に変換される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記チオエステラーゼが、好適にはECグループ番号3.1.2.23の4-ヒドロキシベンゾイル-CoAチオエステラーゼである、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記チオエステラーゼがECグループ番号3.1.2.Xのものであり、前記トランスフェラーゼがECグループ番号2.8.3.XのCoAトランスフェラーゼであり、前記シンテターゼがECグループ番号6.2.1.Xの酸-チオールシンテターゼであり、前記ホスホトランスアシラーゼがECグループ番号2.3.1.Xのものであり、かつ前記短鎖脂肪酸キナーゼがECグループ番号2.7.2.Xのものである、請求項16または17に記載の方法。
【請求項20】
前記チオエステラーゼが以下の酵素:アルスロバクター属(Arthrobacter sp.)からのアシル-CoAチオエステラーゼ4HBT、アルスロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)からのアシル-CoAチオエステラーゼ4HBT、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)CBS-3株からの4HBT、大腸菌(Escherichia coli)からのEntH、大腸菌(Escherichia coli)またはインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)からのYciA、大腸菌(Escherichia coli)からのTesAまたはTesB、およびマイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)からのFcoTのいずれかから選択され、前記CoAトランスフェラーゼが以下の酵素:クロストリジウム属(Clostridium sp.)SB4からのブチリル-CoA:アセトアセテートCoAトランスフェラーゼ、クロストリジウム・スティックランディ(Clostridium sticklandii)からのブチリル-CoA:アセトアセテートCoAトランスフェラーゼ、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)ATCC824からのブチレート:アセトアセテートCoA-トランスフェラーゼ、および大腸菌(Escherichia coli)からのアセテート補酵素AトランスフェラーゼydiFのいずれかから選択され、前記ホスホトランスアシラーゼが以下の酵素:クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)ATCC824からのホスホトランスブチリラーゼのいずれかから選択され、かつ前記短鎖脂肪酸キナーゼが以下の酵素:スピロヘータ(Spirochete)MA-2からの分枝鎖脂肪酸キナーゼ、サーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima)からのブチレートキナーゼ、および酪酸菌(Clostridium butyricum)からのブチレートキナーゼのいずれかから選択される、請求項16~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
メタクリリル-CoAがチオエステラーゼの作用によってメタクリル酸に変換され、かつ前記チオエステラーゼがアルスロバクター属(Arthrobacter sp.)SU株からのアシル-CoAチオエステラーゼ4HBTである、請求項16~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記方法の前記生物学的変換が1種以上の宿主微生物において酵素によって実行される、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
請求項1~22のいずれか一項に記載の方法によるメタクリル酸および/またはその誘導体の製造における使用のための微生物。
【請求項24】
(a)オキシダーゼの発現により、イソブチリル-CoAをメタクリリル-CoAへ生物学的に変換するステップと;
(b)メタクリリル-CoAをメタクリル酸へ生物学的に変換するステップと
を実行するように適応された組換型微生物であって、大腸菌(Escherichia coli)である組換型微生物。
【請求項25】
(a)オキシダーゼの発現により、イソブチリル-CoAをメタクリリル-CoAへ生物学的に変換するステップと;
(b)メタクリリル-CoAをメタクリル酸へ生物学的に変換するステップと
を実行するように1種以上の異種核酸によって改質された微生物。
【請求項26】
(a)オキシダーゼの発現により、イソブチリル-CoAをメタクリリル-CoAへ生物学的に変換するステップと;
(b)メタクリリル-CoAをメタクリル酸および/またはその誘導体へ生物学的に変換するステップと
を実行するように適応された微生物。
【請求項27】
前記メタクリル酸のその誘導体がメタクリル酸エステル、より好ましくはC1~C20アルキルエステル、最も好ましくはC1~C12アルキルエステル、特にC1~C4アルキルエステルまたはC4~C12アルキルエステルである、請求項23または26に記載の微生物。
【請求項28】
請求項23~27のいずれか一項に記載の微生物を使用してメタクリル酸を製造する方法。
【請求項29】
以下の酵素:
(a)(i)アシル-CoAオキシダーゼと;
(b)(i)アシル-CoAチオエステラーゼ;
(ii)CoAトランスフェラーゼ;
(iii)酸-チオールシンテターゼ;
(iv)ホスホトランスアシラーゼおよび短鎖脂肪酸キナーゼ;
(v)アルコールアシルトランスフェラーゼ
の1種以上と
を発現する、請求項23~27のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項30】
以下の酵素:
(a)ACX4などのアシル-CoAオキシダーゼと;
(b)4HBTなどのアシル-CoAチオエステラーゼと
を発現する、請求項23~27または29のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項31】
以下の酵素:
(a)好適にはシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からのACX4と;
(b)好適にはアルスロバクター属(Arthrobacter sp.)からの4HBTと
を発現する、請求項23~27、29または30のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項32】
前記1種以上の酵素を内在的に発現するか、または前記1種以上の酵素を異種的に発現するか、または内在性および異種酵素の組合せを発現する、請求項23~27または29~31のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項33】
野生型または組換型微生物、例えば、細菌、古細菌、酵母、真菌、藻類または発酵プロセスに適用可能な種々の他の微生物のいずれかから選択され得る、請求項23~27または29~32のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項34】
エシェリヒア属(Escherichia)、エンテロバクター属(Enterobacter)、パントエア属(Pantoea)、クレブシエラ属(Klebsiella)、セラチア属(Serratia)、エルウィニア属(Erwinia)、サルモネラ属(Salmonella)、モルガネラ属(Morganella)などのプロテオバクテリアに属する腸内細菌、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)またはミクロバクテリウム属(Microbacterium)に属するいわゆるコリネ型細菌、およびアリサイクロバチルス属(Alicyclobacillus)、桿菌属(Bacillus)、ハイドロゲノバクター属(Hydrogenobacter)、メタノコックス属(Methanococcus)、アセトバクター属(Acetobacter)、アシネトバクター属(Acinetobacter)、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)、アクソリゾビウム属(Axorhizobium)、アゾトバクター属(Azotobacter)、アナプラスマ属(Anaplasma)、バクテロイデス属(Bacteroides)、バルトネラ属(Bartonella)、ボルデテラ属(Bordetella)、ボレリア属(Borrelia)、ブルセラ属(Brucella)、バークホルデリア属(Burkholderia)、カリマトバクテリウム属(Calymmatobacterium)、カンピロバクター属(Campylobacter)、クラミジア属(Chlamydia)、クラミドフィラ属(Chlamydophila)、クロストリジウム属(Clostridium)、コクシエラ属(Coxiella)、エールリキア属(Ehrlichia)、腸球菌属(Enterococcus)、フランシセラ属(Francisella)、フゾバクテリウム属(Fusobacterium)、ガードネレラ属(Gardnerella)、ヘモフィルス属(Haemophilus)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、クレブシエラ属(Kelbsiella)、メタノバクテリウム属(Methanobacterium)、ミクロコッカス属(Micrococcus)、モラクセラ属(Moraxella)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)、マイコプラズマ属(Mycoplasma)、ナイセリア属(Neisseria)、パスツレラ属(Pasteurella)、ペプトストレプトコッカス属(Peptostreptococcus)、ポルフィロモナス属(Porphyromonas)、プレボテーラ属(Prevotella)、シュードモナス属(Pseudomonas)、根粒菌属(Rhizobium)、リケッチア属(Rickettsia)、ロシャリメア属(Rochalimaea)、ロティア属(Rothia)、赤痢菌属(Shigella)、ブドウ球菌属(Staphylococcus)、ステノトロホモナス属(Stenotrophomonas)、連鎖球菌属(Streptococcus)、トレポネーマ属(Treponema)、ビブリオ属(Vibrio)、ボルバキア属(Wolbachia)、エルシニア属(Yersinia)に属する細菌から選択される細菌である、請求項33に記載の微生物。
【請求項35】
(a)アシル-CoAオキシダーゼの発現により、イソブチリル-CoAをメタクリリル-CoAへ生物学的に変換するステップと;
(b)アルコールアシルトランスフェラーゼの発現により、メタクリリル-CoAをC1~C20メタクリル酸エステル、好適にはC1~C4またはC4~C12メタクリル酸エステルなどのC1~C12メタクリル酸エステルへ生物学的に変換するステップと
を実行するように適応された微生物。
【請求項36】
大腸菌(Escherichia coli)である、請求項35に記載の微生物。
【請求項37】
前記アシル-CoAオキシダーゼがシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からのACX4である、請求項35または36に記載の微生物。
【請求項38】
前記アルコールアシルトランスフェラーゼがリンゴ、メロンまたはトマト起源などの果物起源からのものである、請求項35~37のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項39】
組換型微生物である、請求項35~38のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項40】
メタクリル酸および/またはその誘導体の製造を増強するように遺伝的に改質されている、請求項23~27または29~39のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項41】
同じ基質および/もしくは中間体に対して競合することにより、メタクリル酸および/もしくはその誘導体以外の化合物の合成に触媒作用を引き起こす酵素の活性を減少させるかもしくは排除する改質、メタクリル酸を代謝させるか、もしくはメタクリル酸の製造における中間体を代謝させる酵素の活性を減少させるかもしくは排除する改質、ならびに/またはメタクリル酸および/もしくはその誘導体の製造における中間体を除去する他の細胞機能に関与するタンパク質の活性を減少させるかもしくは排除する改質により、遺伝的に改質され得る、請求項23~27または29~40のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項42】
前記メタクリル酸のその誘導体がメタクリル酸エステル、より好ましくはC1~C20アルキルエステル、最も好ましくはC1~C12アルキルエステル、特にC1~C4アルキルエステルまたはC4~C12アルキルエステルである、請求項40または41に記載の微生物。
【請求項43】
発酵培地において請求項23~27または29~42のいずれか一項に記載の1種以上の微生物を培養して、メタクリル酸および/またはその誘導体を製造するステップを含む、発酵の方法。
【請求項44】
前記メタクリル酸のその誘導体がメタクリル酸エステル、より好ましくはC1~C20アルキルエステル、最も好ましくはC1~C12アルキルエステル、特にC1~C4アルキルエステルまたはC4~C12アルキルエステルである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
請求項23~27または29~42のいずれか一項に記載の1種以上の微生物を含む発酵培地。
【請求項46】
メタクリル酸および/またはその誘導体をさらに含む、請求項45に記載の発酵培地。
【請求項47】
前記メタクリル酸のその誘導体がメタクリル酸エステル、より好ましくはC1~C20アルキルエステル、最も好ましくはC1~C12アルキルエステル、特にC1~C4アルキルエステルまたはC4~C12アルキルエステルである、請求項46に記載の発酵培地。
【請求項48】
請求項23~27もしくは29~42のいずれか一項に記載の1種以上の微生物および/または請求項45~47のいずれか一項に記載の発酵培地を含むバイオリアクター。
【請求項49】
メタクリル酸またはメタクリル酸エステルのポリマーまたはコポリマーを調製する方法であって、
(i)請求項1~22または28のいずれか一項に従ってメタクリル酸および/またはその誘導体を調製するステップと;
(ii)(i)において調製された前記メタクリル酸をエステル化して、前記メタクリル酸エステルを製造する任意選択的なステップと;
(iii)(i)において調製された前記メタクリル酸および/もしくはその誘導体、ならびに/または存在する場合には(ii)において調製された前記エステルを任意選択的に1種以上のコモノマーと重合させて、そのポリマーまたはコポリマーを製造するステップと
を含む方法。
【請求項50】
前記メタクリル酸のその誘導体がメタクリル酸エステル、より好ましくはC1~C20アルキルエステル、最も好ましくはC1~C12アルキルエステル、特にC1~C4アルキルエステルまたはC4~C12アルキルエステルである、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
請求項49または50に記載の方法から形成されたポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)およびポリメタクリル酸ブチルホモポリマーまたはコポリマー。
【請求項52】
メタクリル酸を製造する方法であって、
(a)イソブチリル-CoAをメタクリリル-CoAへ変換するステップと;
(b)チオエステラーゼ、好適には4-ヒドロキシベンゾイル-CoAチオエステラーゼ(4HBT)、トランスフェラーゼ、シンテターゼ、ならびに/またはホスホトランスアシラーゼおよび短鎖脂肪酸キナーゼの作用により、メタクリリル-CoAをメタクリル酸へ生物学的に変換するステップと
を含む方法。
【請求項53】
請求項52に記載の方法によるメタクリル酸および/またはその誘導体の製造における使用のための微生物。
【請求項54】
(a)イソブチリル-CoAをメタクリリル-CoAへ生物学的に変換するステップと;
(b)チオエステラーゼ、好適には4-ヒドロキシベンゾイル-CoAチオエステラーゼ(4HBT)、トランスフェラーゼ、シンテターゼ、ならびに/またはホスホトランスアシラーゼおよび短鎖脂肪酸キナーゼの作用により、メタクリリル-CoAをメタクリル酸へ生物学的に変換するステップと
を実行するように適応された微生物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル酸およびその誘導体の生物学的製造方法に関する。特に、この方法は、メタクリリル-CoAを介してイソブチリル-CoAからメタクリル酸を形成するために特定の酵素的変換を使用することと、それから製造されたポリマーまたはコポリマーとに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸およびそれらのアルキルエステル、特にメタクリル酸(MAA)およびそのメチルエステル、メタクリル酸メチル(MMA)は、化学工業において重要なモノマーである。それらの主な用途は、様々な用途のプラスチックの製造である。最も重要な重合用途は、高い光学的透明度のプラスチックを製造するためのポリメタクリル酸メチル(PMMA)のキャスティング、成形または押出である。加えて、多くのコポリマーが使用され、重要なコポリマーは、メタクリル酸メチル、ならびにメタクリル酸エチルと、α-メチルスチレン、アクリル酸エチルおよびアクリル酸ブチルとのコポリマーである。さらに、単純なエステル交換反応により、MMAは、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ラウリルなどの他のエステルに変換されてもよい。
【0003】
現在、MMA(およびMAA)は、多くの化学的手順によって製造されており、その1つは、MMAがホルムアルデヒドとの無水反応によってエステル、プロピオン酸メチルから得られる良好な「アルファ法」である。アルファ法において、プロピオン酸メチルは、エチレンのカルボニル化によって製造される。このエチレン供給原料は化石燃料から誘導される。近年、化学工業に関しても持続可能なバイオマス原料を入手することが望ましくなっている。したがって、アルファ法を使用する代わりに、MMAの代替のバイオマス経路が有利となるであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、上記課題に取り組み、かつメタクリル酸の製造のための生物学的または部分的に生物学的方法を提供することが本発明の1つの目的である。
【0005】
驚くべきことに、本発明者らは、工業的に適用可能なレベルでのメタクリル酸の形成に関して、以前に考えられなかった新規な酵素基質の組合せを用いる方法を見出した。それにより、MMAなどの重要なモノマーへの新規かつ実行可能なバイオベースの経路が提供される。
【0006】
メタクリリル-CoAへのイソブチリル-CoAの酸化は、バリン分解I経路において自然発生し、この変換を実行する酵素はいくつかの細胞で観察されることが知られている。これらの系において、この変換は、典型的に、基質の酸化をその後再生されるユビキノンの還元と組み合わせる、対応する電子伝達系を必要とするアシル-CoAデヒドロゲナーゼ酵素を使用する。
【0007】
国際公開第201438216号パンフレットは、微生物からのメタクリル酸の製造方法、およびアルコールアシルトランスフェラーゼを使用するエステルへのメタクリリルCoA変換を記載する。上記文献は、2-オキソイソ吉草酸からイソブチリルCoAへ、かつイソブチリルCoAからメタクリリルCoAへの少量の変換を示す。また、それは、生体内でのメタクリリル-CoAからのメタクリル酸の理論的な製造を論議するが、これは良好に製造されない。
【0008】
しかしながら、国際公開第201438216号パンフレットにおいて、メタクリル酸の生体内製造の唯一の例は、同属の宿主;ロドコッカス属(Rhodococcus)細菌において組換え的に発現されたロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)誘導アシル-CoAデヒドロゲナーゼを使用する。異なる宿主生物の緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)において発見された同様のアシル-CoAデヒドロゲナーゼを異種的に発現することを試みる他の例では、メタクリル酸は製造されなかった。宿主生物における異種アシル-CoAデヒドロゲナーゼの発現上昇または発現は達成することが困難であり、依然として報告されていない。
【0009】
したがって、メタクリル酸の改善された製造を提供することが本発明のさらなる目的である。
【0010】
生成物または中間体として、メタクリル酸の製造が生じる周知の代謝経路はない。アシル-CoAチオエステラーゼ酵素は、構造的に関連する基質の加水分解に触媒作用を引き起こすことが知られているが、これらの酵素は、非常に狭い基質特異性を有する傾向があり、いずれもメタクリリル-CoAの加水分解に関して試験されていないか、またはメタクリリル-CoAの加水分解に触媒作用を引き起こさない。さらに、広い基質特異性を有するそれらのより希な変種は、必須細胞チオエステルの非特異的な加水分解のため、発現宿主細胞などの生物系において問題となる可能性が高い。繰り返すが、メタクリリル-CoAの加水分解に触媒作用を引き起こすものは知られていない。したがって、これらの酵素は、これまでのところ、メタクリル酸の生物学的製造を伴う工業的応用における使用のために実行可能なものとして実証されていない。
【0011】
したがって、上記課題に取り組み、かつ工業的方法で使用することができ、およびイソブチリルCoAをメタクリリルCoAに変換するために作用するいずれの酵素からも独立して使用することができる、メタクリリル-CoAからメタクリル酸への実行可能な酵素的変換を提供することが本発明のさらなる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様によると、メタクリル酸および/またはその誘導体を製造する方法であって、
(a)オキシダーゼの作用により、イソブチリル-CoAをメタクリリル-CoAへ生物学的に変換するステップと;
(b)メタクリリル-CoAをメタクリル酸および/またはその誘導体へ変換するステップと
を含む方法が提供される。
【0013】
本発明の第2の態様によると、メタクリル酸を製造する方法であって、
(a)イソブチリル-CoAをメタクリリル-CoAへ変換するステップと;
(b)チオエステラーゼ、好適には4-ヒドロキシベンゾイル-CoAチオエステラーゼ(4HBT)、トランスフェラーゼ、シンテターゼ、ならびに/またはホスホトランスアシラーゼおよび短鎖脂肪酸キナーゼの作用により、メタクリリル-CoAをメタクリル酸へ生物学的に変換するステップと
を含む方法が提供される。
【0014】
好ましくは、本発明の第2の態様の方法において、メタクリリル-CoAは、チオエステラーゼ、より好ましくは、好適にはEC3.1.2.23の4-ヒドロキシベンゾイル-CoAチオエステラーゼ(4HBT)の作用により、メタクリル酸に変換される。最も好ましくは、メタクリリル-CoAは、アルスロバクター属(Arthrobacter sp.)SU株からのアシル-CoAチオエステラーゼ4HBTの作用によってメタクリル酸に変換される。
【0015】
有利には、本発明の方法は、化石燃料への工業的依存を減少させ、かつ持続可能性を増加する、重要な化学物質であるメタクリル酸およびその周知の誘導体を製造するためのさらなる生物学的経路を提供する。
【0016】
この方法により、微生物発酵による再生可能な原料からイソブチリル-CoAへの容易な変換が可能となり、かつステップ(a)および(b)に触媒作用を引き起こす酵素の同時発現により、MAAへの直接的な微生物発酵経路が提供されるであろう。
【0017】
なおさらに、この方法は、メタクリル酸の製造のためには、以前に考えられず、また自然発生バリン経路において見出されなかったステップ(a)または(b)のいずれかに関する酵素を使用する。特に、ステップ(a)のための酵素は、関連する電子伝達系を必要とせずにイソブチリルCoAをメタクリリルCoAに変換するように作用し、かつステップ(b)のための酵素は、メタクリリルCoAに対して高い基質特異性を有し、宿主生物におけるこの中間体の蓄積の問題が回避される。したがって、ステップ(a)または(b)の酵素のいずれも、メタクリル酸を形成するための部分的な化学的手順を改善するため、またはメタクリル酸を形成するための生物学的方法を改善するために単独で使用され得る。あるいは、ステップ(a)および(b)の両方の酵素は、異種宿主生物において機能的である、工業的に適用可能なレベルまでメタクリル酸を製造するための独立型の生物学的方法を形成するために一緒に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】基質としてメタクリリルCoAを用いた、アルスロバクター属(Arthrobacter sp.)SUからのカルボキシ末端ヘキサヒスチジンタグ付け4-ヒドロキシベンゾイル-CoAチオエステラーゼ(75μg.ml-1)の動力学的特徴に関するラインウィーバー=バーク(Lineweaver-Burke)プロットを示す。
図2】基板としてイソブチリルCoAを用いた、アルスロバクター属(Arthrobacter sp.)SUからのカルボキシ末端ヘキサヒスチジンタグ付け4-ヒドロキシベンゾイル-CoAチオエステラーゼ(1mg.ml-1)の動力学的特徴に関するラインウィーバー=バーク(Lineweaver-Burke)プロットを示す。
図3】イソブチリル-CoAからメタクリリル-CoAへの酸化に関して、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からの短鎖アシル-CoAオキシダーゼ(ACX4)の生体外活性を決定するためにHPLC方法を使用する、標準イソブチリル-CoA(32.2分に主要ピークおよび32.9分にマイナーピーク)、メタクリリル-CoA(30.8分に主要ピークおよび31.6分にマイナーピーク)、メタクリル酸(13.5分にピーク)および補酵素A(11分に主要ピークおよび12分にマイナーピーク)のオーバーレイドHPLCトレースを示す。フラビンアデニンジヌクレオチドを27.8分において溶出し、かつイソブチリル-CoAおよびメタクリリル-CoAの内標準として使用した。
図4】HEPESアッセイ緩衝液中にACX4無細胞抽出液、カルボキシ末端ヘキサヒスチジンタグ付け4HBTおよびフラビンアデニンジヌクレオチドを含有するが、基質は添加されていない、陰性対照としてのアッセイ混合物のHPLCトレースを示す。
図5】フラビンアデニンジヌクレオチドを含有するHEPESアッセイ緩衝液中での、イソブチリル-CoAと一緒のACX4の無細胞抽出液の30分インキュベーション後のアッセイ混合物のHPLC分析を示す。
図6】反応混合物が酸性化によって停止された後、追加のイソブチリル-CoAが添加された、フラビンアデニンジヌクレオチドを含有するHEPESアッセイ緩衝液中での、イソブチリル-CoAと一緒のACX4の無細胞抽出液の30分インキュベーション後のアッセイ混合物のHPLC分析を示す。
図7】ACX4無細胞抽出液および精製されたカルボキシ末端Hisタグ付け4HBTによる、イソブチリルCoAからメタクリル酸および補酵素Aへの変換に関する酵素結合反応のHPLC分析を示す。
図8】pET20b(+)::4HBT-ACX-AcsAプラスミドを示す。pET20b(+)プラスミドは、全て単一T7促進因子の制御下で4HBT遺伝子、ACX4遺伝子およびAcsA遺伝子を含有する。
図9】大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT-ACX4-AcsA4によるHBT、ACX4およびAcsA同時発現のSDS-PAGE分析を示す。
図10】20.5時間の誘導後のイソ酪酸からメタクリル酸への生体内変換および全ての関連する対照の分析のために実行されたHPLCトレースを示す。 図10Aは、イソ酪酸が添加されない、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT-ACX4-AcsAの培養のために実行されたトレースを示す。 図10Bは、イソ酪酸が添加されない、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)の培養を示す。 図10Cは、イソ酪酸の5mM標準のHPLCトレースを示す。 図10Dは、組換型タンパク質発現の誘導の1時間後にイソ酪酸(5mM)が補充された、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)の培養のHPLCトレースを示す。 図10Eは、イソ酪酸(5mM)およびメタクリル酸(200μM)標準のカクテルのHPLCトレースを示す。 図10Fは、組換型タンパク質発現の誘導の1時間後にイソ酪酸(5mM)が添加された、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT-ACX4-AcsA培養のHPLCトレースを示す。
図11】イソ酪酸が補充された、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT-ACX4-AcsA培養における経時的なメタクリル酸濃度の変化(底部ライン)、ならびにイソ酪酸が培養物に添加されたときからの経時的な培養物のln(OD600)(上部ライン)を示す。
図12】pET20b(+)::4HBT-ACX4-ppBCKDプラスミドを示す。pET20b(+)プラスミドは、全て単一T7促進因子の制御下でアルスロバクター属(Arthrobacter sp.)SU株からの4HBT、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からのACX4をコード化する最適化遺伝子、ならびにシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KT2440からのbkdA1、bkdA2、bkdBおよびlpdV遺伝子を有する。
図13】2-ケトイソ吉草酸(5mM)、イソ酪酸(5mM)およびメタクリル酸(200μM)標準のカクテルのHPLC分析を示す。それにより、成分は、1ml.分-1の流速において、HClによってpH2.5に酸化された50mM KHPO中14%のアセトニトリルを使用して定組成溶出によって分離された。
図14】大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)陰性対照株の培養のHPLC分析を示す。それにより、成分は、1ml.分-1の流速において、HClによってpH2.5に酸化された50mM KHPO中14%のアセトニトリルを使用して定組成溶出によって分離された。
図15】大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+):4HBT-ACX4-ppBCKDの培養のHPLC分析を示す。それにより、成分は、1ml.分-1の流速において、HClによってpH2.5に酸化された50mM KHPO中14%のアセトニトリルを使用して定組成溶出によって分離された。グルコースからのメタクリル酸の製造を実証する。
図16】追加的な0.24mM標準メタクリル酸が添加された、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT-ACX4-ppBCKDの培養の試料のHPLC分析を示す。それにより、成分は、1ml.分-1の流速において、HClによってpH2.5に酸化された50mM KHPO中14%のアセトニトリルを使用して定組成溶出によって分離された。
図17】2-ケトイソ吉草酸が補充された、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)陰性対照株の培養のHPLC分析を示す。それにより、成分は、1ml.分-1の流速において、HClによってpH2.5に酸化された50mM KHPO中14%のアセトニトリルを使用して定組成溶出によって分離された。
図18】2-ケトイソ吉草酸(5mM)が補充された、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT-ACX4-ppBCKDの培養のHPLC分析を示す。それにより、成分は、1ml.分-1の流速において、HClによってpH2.5に酸化された50mM KHPO中14%のアセトニトリルを使用して定組成溶出によって分離された。2-ケトイソ吉草酸を培養物に補充することにより、この株によるメタクリル酸の製造が上昇することを実証する。
図19】2-ケトイソ吉草酸(5mM)が補充され、追加的な0.24mM標準メタクリル酸が添加された、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT-ACX4-ppBCKDの培養の試料のHPLC分析を示す。それにより、成分は、1ml.分-1の流速において、HClによってpH2.5に酸化された50mM KHPO中14%のアセトニトリルを使用して定組成溶出によって分離された。
図20】大腸菌(E.coli)におけるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)ACX4タンパク質の発現のためのプラスミドpMMA121の構造を示す。
図21】実施例5の組換型大腸菌(E.coli)から製造されたシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)ACX4タンパク質を使用する、イソブチリル-CoAからのメタクリリル-CoAの製造を示す。
図22】シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)ACX4タンパク質を含有する、実施例5の組換型大腸菌(E.coli)のフラクションのSDS-PAGE分析を示す。
図23】組換型大腸菌(E.coli)におけるリンゴAAT(MpAAT1)、アラビドプシス(Arabidopsis)からのACX4、ならびに緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)PA01株からのbkdA1、bkdA2、bkdBおよびlpdV:BCKAD複合遺伝子の発現のためのプラスミドpWA008、pMMA133およびpMMA134の構造を示す。
図24】プラスミドpMMA134を発現する組換型大腸菌(E.coli)製造の培養の試料のHPLC分析による、2-ケトイソバレレートおよびブタノールからメタクリル酸ブチルの製造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
酵素
本発明に関連して、「生物学的に」とは、生物学的触媒を使用することを意味する。好ましくは、生物学的触媒は酵素であるが、生物学的供給源から誘導されたいずれの触媒的構造も含まれ得る。
【0020】
本発明に関連して、「化学的に」とは、酵素などの生物学的触媒を使用すること以外に化学的手段を使用することを意味する。
【0021】
第1の態様に関して、ステップ(b)は、生物学的にまたは化学的に、好ましくは生物学的に実行され得る。
【0022】
第2の態様に関して、ステップ(a)は、生物学的にまたは化学的に、好ましくは生物学的に実行され得る。
【0023】
好ましくは、ステップ(a)およびステップ(b)は、生物学的触媒として作用する1種以上の酵素を使用して酵素的に実行される。
【0024】
好ましくは、オキシダーゼは、EC番号1.3.x.xのCH-CH結合において作用するオキシダーゼであり、より好ましくはEC番号EC1.3.3.xの、電子受容体として酸素を使用する、CH-CH結合において作用するオキシダーゼである。更により好ましくは、オキシダーゼは、好適にはEC番号EC1.3.3.6のアシル-CoAオキシダーゼである。より好ましくは、アシル-CoAオキシダーゼは、以下の酵素のいずれかから選択される:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からのACX4、アルスロバクター・ニコチアナ(Arthrobacter Nicotianae)からの短鎖アシル-CoAオキシダーゼ、リョクトウ(Vigna radiata)からのペルオキシソームアシル-CoAオキシダーゼ、カンジダ属(Candida sp.)からのアシル-CoAオキシダーゼおよびカンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)からのアシル-CoAオキシダーゼ4。最も好ましくは、アシル-CoAオキシダーゼは、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からのACX4である。
【0025】
あるいは、イソブチリル-CoAは、好適にはECグループ番号1.X.X.Xのオキシドレダクターゼの作用によってメタクリリル-CoAに変換され得る。好ましくは、オキシドレダクターゼは、好適にはEC1.3.X.Xの、電子供与体のCH-CH基において作用するオキシドレダクターゼである。より好ましくは、供与体のCH-CH基に作用するオキシドレダクターゼは、FAD依存型オキシドレダクターゼであり、更により好ましくは、オキシドレダクターゼは、EC1.3.8.XのCoAデヒドロゲナーゼである。更により好ましくは、オキシドレダクターゼは、好適にはEC1.3.8.1の短鎖アシル-CoAデヒドロゲナーゼ、EC1.3.8.4のイソバレリル-CoAデヒドロゲナーゼ、好適にはEC1.3.8.5の2-メチル-分枝鎖アシル-CoAデヒドロゲナーゼ、またはイソブチリル-CoAデヒドロゲナーゼなど、好適にはECグループ1.3.8.-のアシル-CoAデヒドロゲナーゼである。最も好ましくは、オキシドレダクターゼは、以下の酵素のいずれかから選択される:シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)からの短鎖/分枝鎖アシル-CoAデヒドロゲナーゼ、ヒト(Homo sapiens)からのイソブチリル-CoAデヒドロゲナーゼ、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からのイソバレリル-CoAデヒドロゲナーゼ。
【0026】
CoAデヒドロゲナーゼ酵素は、一般に、基質の酸化をその後再生されるユビキノンの還元と組み合わせる、対応する電子伝達系を必要とするであろう。そのような電子伝達系は、電子伝達フラビンタンパク質(ETF)および電子伝達フラビンタンパク質ユビキノンオキシドレダクターゼ(ETFQO)からなる。ETFは、アシル-CoAデヒドロゲナーゼ酵素およびETFQOの両方と共存可能でなければならない。したがって、アシル-CoAデヒドロゲナーゼが使用さる実施形態において、以下の再生系の1つが好ましく利用される。
【0027】
一実施形態において、例えば、イソブチリル-CoAは、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)の場合など、イソブチリル-CoAおよびその関連する電子伝達系において活性を有する、内在性CoAデヒドロゲナーゼを含む宿主微生物を使用してメタクリリル-CoAに変換される。
【0028】
第2の実施形態において、イソブチリル-CoAは、異種CoAデヒドロゲナーゼと同じ生物からの電子伝達系のタンパク質を伴う異種CoAデヒドロゲナーゼ酵素の作用により、宿主生物においてメタクリリル-CoAに変換される。例えば、ヒト(Homo sapiens)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、パラコッカス・デニトリフィカンス(Paracoccus denitrificans)またはシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からのCoAデヒドロゲナーゼおよび電子伝達系成分は、全て大腸菌(Escherichia coli)(または別の宿主生物)で発現した。
【0029】
第3の実施形態において、イソブチリル-CoAは、また異なる微生物からの電子伝達系成分を伴う異種CoAデヒドロゲナーゼ酵素の作用により、宿主生物においてメタクリリル-CoAに変換され、それにより、それらの成分は互いにかつCoAデヒドロゲナーゼと共存可能である。例えば、ヒト(Homo sapiens)からのCoAデヒドロゲナーゼは、イノシシ(Sus scrofa)の電子伝達フラビンタンパク質と共存可能であり、これは、次にロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)からの電子伝達フラビンタンパク質ユビキノンオキシドレダクターゼと共存可能である。あるいは、シロイヌナズナ(A.thaliana)のETF-ユビキノンオキシドレダクターゼは、R.スフェロイデス(R.sphaeroides)のETF-ユビキノンオキシドレダクターゼとの良好な配列同族体を有するため、シロイヌナズナ(A.thaliana)のイソバレリル-CoAデヒドロゲナーゼおよびETFは、イソブチリル-CoAの酸化に関して、R.スフェロイデス(R.sphaeroides)からのETF-ユビキノンオキシドレダクターゼとの機能系を形成することが可能であろう。最終的に、ヒトまたはブタETFとのP.デニトリフィカンス(P.denitrificans)ETFの類似性のため、パラコッカス・デニトリフィカンス(Paracoccus denitrificans)からのETFおよびETF-ユビキノンオキシドレダクターゼは、ヒトなどの別の供給源からのイソブチリル-CoAデヒドロゲナーゼまたは異なる生物からの相同体と共存可能であることが予想される。
【0030】
好ましくは、メタクリリル-CoAは、好適にはEC3.1.2.Xの(チオエステラーゼとしても知られている)チオエステルヒドロラーゼの作用によってメタクリル酸に変換される。更により好ましくは、酵素は、好適にはEC3.1.2.20のアシルCoAチオエステラーゼ、好適にはEC3.1.2.4の3-ヒドロキシイソブチル-CoAヒドロラーゼ、好適にはEC3.1.2.18のADP依存アシル-CoAチオエステラーゼ、好適にはEC3.1.2.23の4-ヒドロキシベンゾイル-CoAチオエステラーゼ、または例えば、サリシロイル-CoAチオエステラーゼなど、好適にはEC3.1.2.-のチオエステラーゼである。より好ましくは、チオエステラーゼは、以下の酵素のいずれかから選択される:アルスロバクター属(Arthrobacter sp.)SU株からの4HBT、アルスロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)からの4HBT、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)CBS-3株からの4HBT、大腸菌(Escherichia coli)からのEntH、大腸菌(E.coli)からのYciA、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)からのYciA、大腸菌(Escherichia coli)からのTesAまたは大腸菌(Escherichia coli)からのTesB、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)からのFcoT。更により好ましくは、チオエステラーゼは、アシル-CoAチオエステラーゼである。更により好ましくは、チオエステラーゼは、好適にはEC3.1.2.23の4-ヒドロキシベンゾイル-CoAのチオエステラーゼである。最も好ましくは、アシル-CoAチオエステラーゼは、アルスロバクター属(Arthrobacter sp.)SU株からの4HBTである。
【0031】
したがって、一実施形態において、イソブチリル-CoAは、オキシダーゼの作用によってメタクリリル-CoAに変換され得、かつメタクリリル-CoAは、好適にはEC3.1.2.23の4-ヒドロキシベンゾイル-CoAのチオエステラーゼ、より好ましくはアルスロバクター属(Arthrobacter sp.)SU株からのアシル-CoAチオエステラーゼ4HBTの作用によってメタクリル酸に変換され得る。
【0032】
一実施形態において、イソブチリル-CoAは、好適にはECグループ番号1.3.3.6のアシル-CoAオキシダーゼ、より好ましくはシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からのACX4の作用によってメタクリリル-CoAに変換され得、かつメタクリリル-CoAは、好適にはEC3.1.2.23の4-ヒドロキシベンゾイル-CoAチオエステラーゼ、より好ましくはアルスロバクター属(Arthrobacter sp.)SU株からのアシル-CoAチオエステラーゼ4HBTの作用によってメタクリル酸に変換され得る。
【0033】
あるいは、メタクリリル-CoAは、以下の酵素的経路の1つの作用によってメタクリル酸に変換され得る。
【0034】
一実施形態において、メタクリリル-CoAは、好適にはECグループ番号2.X.X.Xのトランスフェラーゼの作用によってメタクリル酸に変換される。好ましくは、トランスフェラーゼは、好適にはECグループ番号2.8.X.Xの、硫黄含有基を転移するトランスフェラーゼである。より好ましくは、トランスフェラーゼは、好適にはECグループ番号2.8.3.XのCoA-トランスフェラーゼである。更により好ましくは、トランスフェラーゼは、それぞれ好適にはECグループ番号2.8.3.8および2.8.3.9のアセテート依存アシル-CoAトランスフェラーゼまたはアセトアセテート依存ブチリック-CoAトランスフェラーゼである。最も好ましくは、トランスフェラーゼは以下の酵素のいずれかから選択される:クロストリジウム属(Clostridium sp.)SB4からのブチリル-CoA:アセトアセテートCoAトランスフェラーゼ、クロストリジウム・スティックランディ(Clostridium sticklandii)からのブチリル-CoA:アセトアセテートCoAトランスフェラーゼ、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)ATCC824からのブチレート:アセトアセテートCoA-トランスフェラーゼ、大腸菌(Escherichia coli)からのアセテート補酵素AトランスフェラーゼydiF。
【0035】
当該技術分野において理解されるように、本明細書で使用される場合、リガーゼ、シンテターゼおよびシンターゼという用語は互換的に使用される。
【0036】
第2の実施形態において、メタクリリル-CoAは、好適にはECグループ番号6.X.X.Xの、逆方向に作用するシンテターゼの作用によってメタクリル酸に変換される。好ましくは、シンテターゼは、好適にはECグループ番号6.2.X.Xの炭素-硫黄結合形成シンテターゼである。より好ましくは、シンテターゼは、好適にはECグループ番号6.2.1.Xの酸-チオールリガーゼである。最も好ましくは、シンテターゼは、好適にはEC6.2.1.4のGDP形成スクシネート-CoAシンテターゼ、EC6.2.1.5のADP形成スクシネート-CoAシンテターゼ、EC6.2.1.6のADP形成グルタレート-CoAシンテターゼ、EC6.2.1.9のADP形成マレエート-CoAシンテターゼ、EC6.2.1.10のGDP形成カルボン酸-CoAシンテターゼ、EC6.2.1.13のADP形成アセテート-CoAシンテターゼ、またはEC6.2.1.18のADP形成シトレート-CoAシンテターゼなどの可逆性ADPまたはGDP形成アシル-CoAリガーゼである。
【0037】
第3の実施形態において、メタクリリル-CoAは、ECグループ番号EC2.X.X.X、より好ましくはECグループ番号EC2.3.X.X、更により好ましくはEC2.3.1.X、最も好ましくはECグループ番号2.3.1.8または2.3.1.19のホスホトランスアシラーゼまたはホスホトランスブチリラーゼと同種であるホスホトランスアシラーゼと、ECグループ番号EC2.X.X.X、好ましくはEC2.7.X.X、より好ましくはEC2.7.2.Xの短鎖脂肪酸キナーゼ、最も好ましくはEC2.7.2.1のアセテートキナーゼ、EC2.7.2.6のホルメートキナーゼ、EC2.7.2.7のブチレートキナーゼ、EC2.7.2.14の分枝鎖脂肪酸キナーゼまたはEC2.7.2.15のプロピオネートキナーゼとの組み合わせた作用によってメタクリル酸に変換される。好ましくは、ホスホトランスアシラーゼは、メタクリリル-CoAホスホトランスアシラーゼである。好ましくは、短鎖脂肪酸キナーゼは、可逆性メタクリル酸キナーゼである。最も好ましくは、ホスホトランスアシラーゼは、以下の酵素のいずれかから選択される:クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)ATCC824からのホスホトランスブチリラーゼ。最も好ましくは、短鎖脂肪酸キナーゼは、以下の酵素のいずれかから選択される:スピロヘータ(Spirochete)MA-2からの分枝鎖脂肪酸キナーゼ、サーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima)からのブチレートキナーゼ、酪酸菌(Clostridium butyricum)からのブチレートキナーゼ。
【0038】
本発明に関連して、「その誘導体」という用語は、そのエステル、そのアシルハライド、その無水物、そのアミド、そのニトリル、そのラクトン、その塩、その複合体、その異性体、そのオリゴマーもしくはポリマー、およびさらにこれらのいずれかの置換体など、メタクリリルCoAまたはメタクリル酸のいずれかに直接関連するか、またはそれを含むいずれかの化学物質を意味し、より好ましくは、それはエステルまたはその塩を意味する。
【0039】
好ましくは、メタクリル酸のその誘導体は、メタクリル酸エステルである。好ましくは、メタクリル酸エステルは、メタクリル酸アルキル、より好ましくはメタクリル酸低級アルキル(C1~C20)、更により好ましくはメタクリル酸C1~C12アルキル、特にメタクリル酸メチル、エチルまたはブチルなどのメタクリル酸C1~C4アルキルまたはメタクリル酸C4~C12アルキルである。最も好ましくは、メタクリル酸エステルは、メタクリル酸ブチル、例えばメタクリル酸n-ブチルである。
【0040】
メタクリル酸エステルは、好ましくは、ECグループ番号EC2.X.X.Xのトランスフェラーゼ酵素、より好ましくはECグループ番号2.3.X.Xのアシルトランスフェラーゼ、更により好ましくはECグループ番号EC2.3.1.84のアルコールアシルトランスフェラーゼの作用により、メタクリリル-CoAから生物学的に形成され得る。
【0041】
好ましくは、メタクリル酸エステルがメタクリリル-CoAから生物学的に形成される場合、メタクリリル-CoAは、オキシダーゼの作用によってイソブチリル-CoAから生物学的に形成される。
【0042】
したがって、本発明の第3の態様によると、メタクリル酸エステルを製造する方法であって、
(a)オキシダーゼの作用により、イソブチリル-CoAをメタクリリル-CoAへ生物学的に変換するステップと;
(b)アルコールアシルトランスフェラーゼの作用により、メタクリリル-CoAをメタクリル酸エステルへ変換するステップと
を含む方法が提供される。
【0043】
好ましくは、第3の態様のオキシダーゼは、EC番号1.3.x.xのCH-CH結合において作用するオキシダーゼであり、より好ましくはEC番号EC1.3.3.xの、電子受容体として酸素を使用する、CH-CH結合において作用するオキシダーゼである。更により好ましくは、オキシダーゼは、好適にはEC番号EC1.3.3.6のアシル-CoAオキシダーゼである。より好ましくは、アシル-CoAオキシダーゼは、以下の酵素のいずれかから選択される:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からのACX4、アルスロバクター・ニコチアナ(Arthrobacter nicotianae)からの短鎖アシル-CoAオキシダーゼ、リョクトウ(Vigna radiata)からのペルオキシソームアシル-CoAオキシダーゼ、カンジダ属(Candida sp.)からのアシル-CoAオキシダーゼおよびカンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)からのアシル-CoAオキシダーゼ4。最も好ましくは、アシル-CoAオキシダーゼは、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からのACX4である。
【0044】
好ましくは、第3の態様のメタクリル酸エステルは、メタクリル酸アルキル、より好ましくはメタクリル酸低級アルキル(C1~C20)、更により好ましくはメタクリル酸C1~C12アルキル、特にメタクリル酸メチル、エチルまたはブチルなどのメタクリル酸C1~C4アルキルまたはメタクリル酸C4~C12アルキルである。最も好ましくは、メタクリル酸エステルは、メタクリル酸ブチル、例えばメタクリル酸n-ブチルである。
【0045】
好適には、アルコールアシルトランスフェラーゼは、アルコールまたはフェノール、好ましくは直鎖または分枝鎖C1~20未置換アルコール、アラルキルアルコールまたはフェノール、特に好ましくはメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、tert-ペンチルアルコール、n-ヘキシルアルコール、イソヘキシルアルコール、2-ヘキシルアルコール、ジメチルブチルアルコール、エチルブチルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコールなどのC1~8またはC1~4アルキルアルコール;ベンジルアルコールまたはフェノールの存在下で作用する。好ましくは、アルコールアシルトランスフェラーゼは、アルコール、より好ましくはC1~C12アルコール、より好ましくはC1~C4またはC4~C12アルコールの存在下で、更により好ましくはn-ブタノール、イソブチルアルコール、sec-ブタノールまたはtert-ブタノールなどのブタノールの存在下で作用する。最も好ましくは、アルコールアシルトランスフェラーゼはn-ブタノールの存在下で作用する。
【0046】
本明細書中、アルコールという用語は、ヒドロキシル基(-OH基)を有し、メタクリレートとエステル基を形成することができる種を意味する。好ましくは、アルコールは、C1~C20アルカノール、より好ましくはC1~C12アルカノール、更により好ましくはC1~C4アルカノールまたはC4~C12アルカノール、最も好ましくはC4アルカノールであり得る。
【0047】
好ましくは、アルコールアシルトランスフェラーゼは、植物起源から誘導され、より好ましくは、植物は、ショウガ目(Zingiberales)、バラ目(Rosales)、ツツジ目(Ericales)、ウリ目(Cucurbitales)、アブラナ目(Brassicales)およびクスノキ目(Laurales)からなる群から選択されるいずれかの目に属し;更により好ましくは、植物は、バショウ科(Musaceae)、バラ科(Rosaceae)、ツツジ科(Ericaceae)、マタタビ科(Actinidiaceae)、ウリ科(Cucurbitaceae)、パパイヤ科(Caricaceae)およびクスノキ科(Lauraceae)からなる群から選択されるいずれかの科に属し;更により好ましくは、植物は、バショウ属(Musa)、オランダイチゴ属(Fragaria)、リンゴ属(Malus)、サクラ属(Prunus)、ナシ属(Pyrus)、スノキ属(Vaccinium)、マタタビ属(Actinidia)、キュウリ属(Cucumis)、パパイヤ属(Carica)およびワニナシ属(Persea)からなる群から選択されるいずれかの属に属し;更により好ましくは、植物は、バナナ、イチゴ、リンゴ、ウメ(Prunus mume)、セイヨウナシ(Pyrus communis)、ブルーベリー、キウィ、メロン、パパイヤおよびアボカドからなる群から選択されるいずれか1つである。最も好ましくは、アルコールアシルトランスフェラーゼは、リンゴ、メロンまたはトマト起源などの果物起源、好適にはリンゴ起源から誘導される。
【0048】
アルコールアシルトランスフェラーゼが存在する生物学的組織または加工されたその製品、例えば、果物、葉、花弁、茎、種、果皮、果肉などが使用され得る。あるいは、これらの生物学的組織から抽出された粗酵素液、精製された酵素などが使用され得る。あるいは、アルコールアシルトランスフェラーゼに関する遺伝子が単離され得、かつその中での発現のための宿主微生物に導入され得る。
【0049】
メタクリリルCoAをメタクリル酸エステルに変換するためのアルコールアシルトランスフェラーゼの使用、特にアルコールアシルトランスフェラーゼ遺伝子およびその配列、ならびに前記配列を含むベクトルプラスミドは、参照によりその開示が本明細書に組み込まれる国際公開第2014/038214号パンフレットに詳細に記載されている。
【0050】
さらなる方法ステップ
任意選択的に、本発明の第1または第2の態様は、ステップ(b)で形成されたいずれかのメタクリル酸をメタクリル酸エステルへ変換するステップ(c)をさらに含み得る。
【0051】
好ましくは、メタクリル酸エステルは、メタクリル酸アルキル、より好ましくはメタクリル酸低級アルキル(C1~C20)、より好ましくはメタクリル酸C1~C12アルキル、更により好ましくはメタクリル酸C1~C4またはC4~C12アルキルである。最も好ましくは、メタクリル酸エステルは、メタクリル酸ブチルである。
【0052】
ステップ(c)で形成されたメタクリル酸エステルは、生物学的にまたは化学的に形成され得、好ましくは、それらは生物学的に形成される。
【0053】
任意選択的に、ステップ(c)は、適切なアルコールとのエステル化反応によって化学的に実行され得る。エステル化が実行される反応条件は非常に様々であり得る。反応は、室温で非常にゆっくり進むが、高温で非常に急速に進む。典型的に、反応物の1つは、反応を促進するために化学量論的過剰量で使用される。他の反応物は限界試薬と呼ばれる。約99%の限界試薬、例えば、酸、アルコールまたはポリオールは、数時間以内にエステルに変換され得る。限界試薬は、典型的に、化学量論的過剰量で存在しない試薬であり、例えば、ポリオールエステルを製造するために使用される限界試薬はポリオールである。
【0054】
エチルアルコールおよび有機酸のエステル化は可逆反応であるため、エステル化反応は、通常、完了しない。しかしながら、エステル化生成物の少なくとも1つ、典型的に水を除去することにより、99%超の変換を達成することができる。生成物の1つが他のものおよび試薬より低い温度で沸騰する場合、この除去は典型的に蒸留によって達成される。製造された水を反応ゾーンから除去するための種々の蒸留技術が当該技術分野において知られている。水の除去方法の1つは、反応のいずれかまたはそれぞれの成分の沸点より低い沸点を有する共沸混合物を形成し得る液体媒体中で反応を実行することを含む。試薬および得られるエステルが大気圧において100℃より高い沸点を有する場合、水を除去するために反応温度を単純に調節することができ、かつ水と共沸混合物を形成することができる液体媒体は必要とされない。加えて、反応混合物からの水の蒸留を補助するために共沸剤が使用され得る。シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエンまたはキシレンなどの不活性材料は、エステルの製造において共沸剤として使用され得る。加えて、より低い沸点を有する反応物も共沸剤として利用され得る。この後者の場合、共沸剤として使用される反応物は、典型的に、反応のために必要とされる理論量よりも過剰に反応混合物中に装填される。水除去の利用を含むエステル化方法は、バッチまたは連続モードの操作において実行され得る。種々のエステル化方法は、参照により内容が本明細書に組み込まれるVolume 9 of the Kirk-Othmer Encyclopaedia of Chemical Technology,Fourth Edition(1994),pp.762-768に開示されている。
【0055】
従来のバッチエステル化手順は、反応サイクルの開始時に反応器中に反応物の全てを装填するステップを含む。触媒的エステル化方法において、バッチが目標温度に達した後、触媒を典型的に反応混合物に添加する。次いで、反応混合物はさらに加熱されてよい。反応混合物温度は、反応混合物の沸点に達するまで上昇し、その時点において、使用する場合には共沸剤および水副産物は、反応混合物から沸騰して除去される。典型的に、オーバーヘッド蒸気は濃縮され、水は共沸剤から分離され、かつ共沸剤は反応容器にリサイクルされる。反応温度と、したがって反応速度とは、反応混合物の沸点のみによって制限される。より低い沸点を有する反応物が共沸剤としても使用される場合、反応が進むにつれて、その濃度は徐々に減少する。また、反応物の濃度は反応中に減少し、これは反応速度に悪影響を及ぼす。したがって、反応温度と、したがって反応速度定数とは、共沸剤が使用されるかどうかに無関係に、特に入熱が反応過程で継続される場合に反応が進むにつれて増加する。
【0056】
好ましくは、ステップ(c)は、ECグループ番号EC3.1.x.x.のエステル結合と関連して作用するエステラーゼまたはヒドロラーゼ酵素の作用によって生物学的に実行され、より好ましくは、酵素はEC3.1.1.Xのものであり、かつエステル結合の分裂および形成の触媒作用に関与するヒドロラーゼ類の酵素である。微生物エステラーゼの最近の概説は、Int.J.Curr.Microbiol.App.Sci(2013)2(7):135-146である。
【0057】
好ましくは、この方法は、イソブチリル-CoAを製造する、より好ましくは2-ケトイソ吉草酸および/またはイソ酪酸からイソブチリル-CoAを製造する1つ以上のステップをさらに含む。
【0058】
一実施形態において、この方法は、2-ケトイソ吉草酸からイソブチリル-CoAを製造する、以下のいずれかである1つ以上のさらなるステップをさらに含む。
【0059】
好ましくは、この方法は、2-ケトイソ吉草酸をイソブチリル-CoAに変換するステップをさらに含む。より好ましくは、2-ケトイソ吉草酸は、アルファサブユニット成分、リポアミドアシルトランスフェラーゼ成分およびリポアミドデヒドロゲナーゼ成分からなる分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ酵素複合体によってイソブチリル-CoAに変換される。最も好ましくは、デヒドロゲナーゼは、以下の酵素のいずれかから選択される:P.プチダ(P.putida)からの分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ(BCKD)、枯草菌(Bacillus subtilis)からのBCKD、緑膿菌(P.aeuruginosa)からのBCKD、シロイヌナズナ(A.thaliana)からのBCKD、ストレプトミセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)からのBCKDおよびサーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)からのBCKD。
【0060】
あるいは、イソブチリル-CoAへの2-ケトイソ吉草酸の変換は、好適にはEC1.X.X.Xのオキシドレダクターゼ酵素、好ましくはEC1.2.X.Xの供与体のアルデヒドまたはオキソ基において作用するオキシドレダクターゼ、より好ましくは、好適にはEC1.2.7.Xの電子受容体として鉄-硫黄タンパク質を使用して供与体のアルデヒドまたはオキソ基において作用するオキシドレダクターゼ酵素、最も好ましくは、好適にはECグループ番号1.2.7.7の、アルファ、ベータ、ガンマおよびデルタサブユニットからなる四量体である2-ケトイソバレレートフェレドキシンレダクターゼ(ケトバリンフェレドキシンオキシドレダクターゼとしても知られている)によって触媒作用を引き起こされ得る。そのような酵素の例は、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosis)からの2-ケトイソバレレートフェレドキシンレダクタ-ゼ;パイロコッカス属(Pyrococcus sp.)からの2-ケトイソバレレートフェレドキシンレダクタ-ゼ;サーモコッカス属(Thermococcus sp)からの2-ケトイソバレレートフェレドキシンレダクタ-ゼ;サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)からの2-ケトイソバレレートフェレドキシンレダクタ-ゼ;サーモコッカス・プロファンダス(Thermococcus profundus)からの2-ケトイソバレレートフェレドキシンレダクタ-ゼおよびメタノバクテリウム・サーモオートトロピカム(Methanobacterium thermoautotrophicum)からの2-ケトイソバレレートフェレドキシンレダクタ-ゼである。
【0061】
第2の実施形態において、この方法は、イソ酪酸からイソブチリル-CoAを製造する、以下のいずれかである1つ以上のさらなるステップをさらに含む。
【0062】
好ましくは、この方法は、イソ酪酸をイソブチリル-CoAに変換するステップをさらに含む。
【0063】
任意選択的に、イソ酪酸は、好適にはECグループ番号6.X.X.Xのリガーゼ酵素、好ましくはEC6.2.X.Xの炭素-硫黄結合形成リガーゼ、より好ましくはEC6.2.1.Xの酸-チオール形成リガーゼ、より好ましくはGDP-形成、ADP形成またはAMP形成リガーゼ、例えば、好適にはEC6.2.1.1のAMP形成アセテート-CoAリガーゼ、好適にはEC6.2.1.2のブチレート-CoAリガーゼ、好適にはEC6.2.1.10のカルボン酸-CoAリガーゼ、好適にはEC6.2.1.13のADP形成アセテート-CoAリガーゼ、好適にはEC6.2.1.17のプロピオネート-CoAリガーゼ、またはEC6.2.1.Xの酸-チオールリガーゼの作用によってイソブチリル-CoAに変換される。最も好ましくは、リガーゼは、以下の酵素のいずれかから選択される:シュードモナス・クロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)からのAcsA、ペシロミセス・バリオチ(Paecilomyces varioti)からのブチリル-CoAシンテターゼ、ウシ心臓ミトコンドリアからのブチリル-CoAシンテターゼ。
【0064】
第3の実施形態において、この方法は、イソブチレートからイソブチリル-CoAを製造する、以下のいずれかである1つ以上のさらなるステップをさらに含む。
【0065】
好ましくは、この方法は、イソブチレートをイソブチリル-ホスフェートに変換するステップと、イソブチリル-ホスフェートをイソブチリル-CoAに変換するステップとをさらに含む。
【0066】
好ましくは、イソブチレートは、好適にはECグループ番号EC2.X.X.X、好ましくはEC2.7.X.X、より好ましくはECグループ番号EC2.7.2.Xのキナーゼ酵素、最も好ましくは、好適にはEC2.7.2.1のアセテートキナーゼ、EC2.7.2.6のホルメートキナーゼ、EC2.7.2.7のブチレートキナーゼ、EC2.7.2.14の分枝鎖脂肪酸キナーゼまたはEC2.7.2.15のプロピオネートキナーゼによってイソブチリル-ホスフェートに変換される。最も好ましくは、キナーゼは、以下の酵素のいずれかから選択される:スピロヘータ(Spirochete)MA-2からの分枝鎖脂肪酸キナーゼ、酪酸菌(C.butyricum)からのブチレートキナーゼ。
【0067】
好ましくは、イソブチリル-ホスフェートは、ECグループ番号2.X.X.Xのトランスフェラーゼ酵素の作用により、より好ましくはECグループ番号2.3.X.Xのアシルトランスフェラーゼの作用により、更により好ましくはECグループ番号2.3.1.Xのアミノ-アシル基以外の基を転移するアシルトランスフェラーゼの作用により、イソブチリル-CoAに変換される。更により好ましくは、それぞれECグループ番号2.3.1.8および2.3.1.19のホスフェートアセチルトランスフェラーゼまたはホスフェートブチリルトランスフェラーゼである。より好ましくは、トランスフェラーゼは、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)ATCC824からのホスフェートブチリルトランスフェラーゼ、または枯草菌(Bacillus subtilis)、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032、サーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima)およびクロストリジウム・クライベリ(Clostridium kluyveri)からのホスフェートアセチルトランスフェラーゼである。これらの酵素の他の供給源としては、他の嫌気性細菌、特にクロストリジウム・パストゥリアヌム(Clostridium pasteurianum)またはクロストリジウム・ベイジェリンキ(Clostridium beijerinckii)などのクロストリジウム(Clostridium)種を含む。
【0068】
最も好ましくは、この方法は、シンテターゼ酵素、好ましくはイソブチリル-CoAシンテターゼ、最も好ましくはP.クロロラフィス(P.chloraphis)B23からのイソブチリル-CoAシンテターゼ(AcsA)の作用によってイソ酪酸からイソブチリル-CoAを製造するステップをさらに含む。
【0069】
任意選択的に、第1および/または第2および/または第3の実施形態に関連して上記されたさらなる方法ステップのいずれも組み合わされてよい。
【0070】
微生物
上記方法の酵素は、1種以上の微生物に含まれ得るか、または無微生物で、例えば、反応容器中の無細胞抽出液または精製酵素として存在し得るか、またはカラムに保持され得る。
【0071】
好ましくは、この方法の生物学的変換は、1種以上の宿主微生物中で実行される。より好ましくは、生物学的変換を実行するための1種以上の酵素は、1種以上の微生物に含まれる。
【0072】
好ましくは1種以上の微生物は、関連するステップに触媒作用を引き起こすために必要な1種以上の酵素を発現する。より好ましくは、関連するステップおよびいずれのさらなる酵素的ステップも1種以上の微生物中において生体内で実行される。
【0073】
本発明の第4の態様によれば、第1、第2または第3の態様のいずれかの方法に従ってメタクリル酸および/またはその誘導体を製造する用途の微生物が提供される。
【0074】
1種以上の微生物は、1種以上の酵素を自然に発現し得るか、または1種以上の酵素を発現するように遺伝子組み換えされ得るか、または野生型および遺伝子組み換えされた酵素の両方の組合せを発現し得る。そのような遺伝子組み換えされた生物は、組換型生物と記載されてもよい。
【0075】
1種以上の微生物は、1種以上の酵素を内在的もしくは異種的に、または内在性および異種酵素の組合せを発現し得る。
【0076】
本発明に関連して、「組換型生物」という用語は、人工的に組み立てられ、生物に挿入された遺伝材料を含む、遺伝子が改質されたかまたは組み換えられた生物を意味する。遺伝材料は、さらに遺伝的に改質されても、または改質されなくてもよい内在性または異種核酸を含み得る。
【0077】
本発明に関連して、「内在性」という用語は、同種の生物に由来することを意味する。
【0078】
本発明に関連して、「異種」という用語は、異なる種の生物に由来することを意味する。
【0079】
本発明に関連して、「適応された」という用語は、微生物に関して使用される場合、上記で定義されるように、遺伝子が改質されたかまたは組み換えられた生物を意味するか、または例えば1種以上の酵素を自然に発現することに基づき選択された生物の変異株を意味する。
【0080】
上記方法のいずれかにおいて使用するための上記のように遺伝子組み換えされたかまたは改質された微生物は、自然発生野生型または非自然発生組換型微生物、例えば、細菌、古細菌、酵母、真菌、藻類もしくは発酵プロセスに適用可能な種々の他の微生物のいずれかから選択され得る。
【0081】
したがって、本発明の第5の態様によると、
(a)オキシダーゼの発現により、イソブチリル-CoAをメタクリリル-CoAへ生物学的に変換するステップと;
(b)メタクリリル-CoAをメタクリル酸へ生物学的に変換するステップと
を実行するように適応されている、メタクリル酸を製造する方法において使用するための組換型微生物であって、大腸菌(Escherichia coli)である組換型微生物が提供される。
【0082】
本発明の第6の態様によると、
(a)オキシダーゼの発現により、イソブチリル-CoAをメタクリリル-CoAへ生物学的に変換するステップと;
(b)メタクリリル-CoAをメタクリル酸へ生物学的に変換するステップと
を実行するように1種以上の異種核酸によって改質されている、メタクリル酸を製造する方法において使用するための微生物が提供される。
【0083】
本発明の第7の態様によると、
(a)オキシダーゼの発現により、イソブチリル-CoAをメタクリリル-CoAへ生物学的に変換するステップと;
(b)メタクリリル-CoAをメタクリル酸および/またはその誘導体へ生物学的に変換するステップと
を実行するように適応された微生物が提供される。
【0084】
本発明の第8の態様によると、
(a)イソブチリル-CoAをメタクリリル-CoAへ生物学的に変換するステップと;
(b)チオエステラーゼ、好適には4-ヒドロキシベンゾイル-CoAチオエステラーゼ(4HBT)、トランスフェラーゼ、シンテターゼ、ならびに/またはホスホトランスアシラーゼおよび短鎖脂肪酸キナーゼの発現により、メタクリリル-CoAをメタクリル酸へ生物学的に変換するステップと
を実行するように適応された微生物が提供される。
【0085】
本発明のさらなる態様によれば、好適には4-ヒドロキシベンゾイル-CoAチオエステラーゼ(4HBT)、トランスフェラーゼ、シンテターゼ、ならびに/またはホスホトランスアシラーゼおよび短鎖脂肪酸キナーゼの発現により、メタクリリル-CoAをメタクリル酸へ変換するように適応された微生物が提供される。
【0086】
本発明のさらなる態様によれば、メタクリリル-CoAをメタクリル酸へ変換する1種以上の酵素をコード化する、1種以上の組換型核酸によって改質された微生物が提供される。
【0087】
本発明のさらなる態様によれば、メタクリリル-CoAをメタクリル酸エステルへ変換する1種以上の酵素をコード化する、1種以上の組換型核酸によって改質された微生物が提供される。
【0088】
本発明のさらなる態様によれば、さらなる態様に従って1種以上の酵素を使用する、メタクリル酸を製造する方法が提供される。
【0089】
本発明のさらなる態様によれば、さらなる態様に従って1種以上の酵素を使用する、メタクリル酸エステルを製造する方法が提供される。
【0090】
第1、第2または第3の態様の方法のさらなる好ましい特徴は、上記の第4、第5、第6、第7、第8またはさらなる態様の微生物と組み合わせられてもよい。
【0091】
一実施形態において、微生物は、少なくとも以下の酵素:
(a)(i)アシル-CoAオキシダーゼ;および/または
(ii)CoAデヒドロゲナーゼと;任意選択的に、
(b)(i)アシル-CoAチオエステラーゼ、好適には4-ヒドロキシベンゾイル-CoAチオエステラーゼ(4HBT);および/または
(ii)アシル-CoAトランスフェラーゼ;および/または
(iii)アシル-CoAシンテターゼ;および/または
(iv)ホスホトランスアシラーゼおよび短鎖脂肪酸キナーゼ;ならびに任意選択的に、
(v)アルコールアシルトランスフェラーゼ
の1種以上と
を発現する。
【0092】
一実施形態において、微生物は、少なくとも以下の酵素:
(a)(i)アシル-CoAオキシダーゼと;任意選択的に、
(b)(i)アシル-CoAチオエステラーゼ;および/または
(ii)アシル-CoAトランスフェラーゼ;および/または
(iii)アシル-CoAシンテターゼ;および/または
(iv)ホスホトランスアシラーゼおよび短鎖脂肪酸キナーゼ;ならびに任意選択的に、
(v)アルコールアシルトランスフェラーゼ
の1種以上と
を発現する。
【0093】
第4、第5または第8の態様の一実施形態において、微生物は、少なくとも以下の酵素:
(a)(i)アシル-CoAチオエステラーゼ、好適には4-ヒドロキシベンゾイル-CoAチオエステラーゼ(4HBT);および/または
(ii)アシル-CoAトランスフェラーゼ;および/または
(iii)アシル-CoAシンテターゼ;および/または
(iv)ホスホトランスアシラーゼおよび短鎖脂肪酸キナーゼと;任意選択的に、
(b)(i)アシル-CoAオキシダーゼ;および/または
(ii)アシル-CoAデヒドロゲナーゼ
の1種以上と、さらに任意選択的に、
(c)(i)アルコールアシルトランスフェラーゼと
を発現する。
【0094】
好ましくは、存在する場合、CoAデヒドロゲナーゼは補足的な電子伝達系を伴う。
【0095】
好ましい実施形態において、微生物は、以下の酵素:
(a)ACX4などのアシル-CoAオキシダーゼと;
(b)4HBTなどのアシル-CoAチオエステラーゼと
の少なくとも1種を発現する。
【0096】
より好ましい実施形態において、微生物は、以下の酵素:
(a)好適にはシロイヌナズナ(A.thaliana)からのACX4と;
(b)好適にはアルスロバクター属(Arthrobacter sp.)からの4HBTと
の少なくとも1種を発現する。
【0097】
いくつかの実施形態において、微生物は、
(a)アシル-CoAオキシダーゼの発現により、イソブチリル-CoAをメタクリリル-CoAへ生物学的に変換するステップと;
(b)アルコールアシルトランスフェラーゼの発現により、メタクリリル-CoAをC1~C20メタクリル酸エステル、好適にはC1~C12メタクリル酸エステル、例えば、C1~C4またはC4~C12メタクリル酸エステルへ生物学的に変換するステップと
を実行するように適応される。
【0098】
好ましくは、メタクリル酸エステルは、C1~C20メタクリル酸エステル、より好ましくはC1~C12メタクリル酸エステル、更により好ましくはC1~C4またはC4~C12メタクリル酸エステル、最も好ましくはメタクリル酸ブチルである。
【0099】
これらの実施形態において、微生物は、大腸菌(Escherichia coli)であってよく、かつ/またはアシル-CoAオキシダーゼは、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からのACX4であり、かつ/またはアルコールアシルトランスフェラーゼは、本明細書に明示された植物起源、例えば、リンゴなどの果物から誘導され、かつ/または微生物は、組換型微生物である。好ましくは、微生物は、大腸菌(Escherichia coli)であってよく、アシル-CoAオキシダーゼは、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からのACX4であってよく、アルコールアシルトランスフェラーゼは、リンゴ、メロンまたはトマト起源から誘導されてもよく、かつ微生物は組換型生物であってよい。
【0100】
好ましくは、微生物は、前記好ましいまたはいくつかの実施形態の前記酵素(a)および(b)の両方を発現する。
【0101】
好ましくは、微生物は、以下の酵素:分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ酵素、またはADP形成、GDP形成もしくはAMP形成アシル-CoAシンテターゼ/シンターゼ/リガーゼ;あるいは短鎖脂肪酸キナーゼおよびホスホトランスアシラーゼの1種以上をさらに発現する。
【0102】
より好ましくは、微生物は、以下の酵素:2-ケトイソバレレートデヒドロゲナーゼ、イソブチレート-CoAリガーゼ、ADP形成、GDP形成もしくはAMP形成アシル-CoAシンテターゼ/シンターゼ/リガーゼ、または短鎖脂肪酸キナーゼおよびホスホトランスアシラーゼの1種以上をさらに発現する。
【0103】
最も好ましくは、微生物は、イソブチリル-CoAシンテターゼ、特にシュードモナス・クロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)、特にシュードモナス・クロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)B23をさらに発現する。
【0104】
第4、第6、第7、第8およびさらなる態様に関連して、好ましくは、宿主微生物は細菌であり、適切な細菌の例としては、エシェリヒア属(Escherichia)、エンテロバクター属(Enterobacter)、パントエア属(Pantoea)、クレブシエラ属(Klebsiella)、セラチア属(Serratia)、エルウィニア属(Erwinia)、サルモネラ属(Salmonella)、モルガネラ属(Morganella)などのプロテオバクテリアに属する腸内細菌、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)またはミクロバクテリウム属(Microbacterium)に属するいわゆるコリネ型細菌、およびアリサイクロバチルス属(Alicyclobacillus)、桿菌属(Bacillus)、ハイドロゲノバクター属(Hydrogenobacter)、メタノコックス属(Methanococcus)、アセトバクター属(Acetobacter)、アシネトバクター属(Acinetobacter)、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)、アクソリゾビウム属(Axorhizobium)、アゾトバクター属(Azotobacter)、アナプラスマ属(Anaplasma)、バクテロイデス属(Bacteroides)、バルトネラ属(Bartonella)、ボルデテラ属(Bordetella)、ボレリア属(Borrelia)、ブルセラ属(Brucella)、バークホルデリア属(Burkholderia)、カリマトバクテリウム属(Calymmatobacterium)、カンピロバクター属(Campylobacter)、クラミジア属(Chlamydia)、クラミドフィラ属(Chlamydophila)、クロストリジウム属(Clostridium)、コクシエラ属(Coxiella)、エールリキア属(Ehrlichia)、腸球菌属(Enterococcus)、フランシセラ属(Francisella)、フゾバクテリウム属(Fusobacterium)、ガードネレラ属(Gardnerella)、ヘモフィルス属(Haemophilus)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、クレブシエラ属(Kelbsiella)、メタノバクテリウム属(Methanobacterium)、ミクロコッカス属(Micrococcus)、モラクセラ属(Moraxella)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)、マイコプラズマ属(Mycoplasma)、ナイセリア属(Neisseria)、パスツレラ属(Pasteurella)、ペプトストレプトコッカス属(Peptostreptococcus)、ポルフィロモナス属(Porphyromonas)、プレボテーラ属(Prevotella)、シュードモナス属(Pseudomonas)、根粒菌属(Rhizobium)、リケッチア属(Rickettsia)、ロシャリメア属(Rochalimaea)、ロティア属(Rothia)、赤痢菌属(Shigella)、ブドウ球菌属(Staphylococcus)、ステノトロホモナス属(Stenotrophomonas)、連鎖球菌属(Streptococcus)、トレポネーマ属(Treponema)、ビブリオ属(Vibrio)、ボルバキア属(Wolbachia)、エルシニア属(Yersinia)に属する細菌などが含まれる。
【0105】
例示的な細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、アネロビオスピリウム・サクシニシプロデュセンス(Anaerobiospirillum succiniciproducens)、アクチノバチルス・サクシノゲネス(Actinobacillus succinogenes)、バスフィア・サクシニシプロデュセンス(Mannheimia succiniciproducens)、リゾビウム・エトリ(Rhizobium etli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)、ジモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ストレプトミセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、ハイドロゲノバクター・サーモフィラス(Hydrogenobacter thermophilus)、メタノコックス・ヤンナスキイ(Methanococcus jannaschii)およびシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)から選択される種が含まれる。
【0106】
第4、第6、第7、第8およびさらなる態様に関連して、好ましくは、細菌は大腸菌(Escherichia coli)である。
【0107】
例示的な酵母または真菌としては、サッカロミセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロミケス属(Schizosaccharomyces)、カンジダ属(Candida)、クルイベロミセス属(Kluyveromyces)、アスペルギルス属(Aspergillus)、ピキア属(Pichia)、クリプトコッカス属(Crytpococcus)などに属するものが含まれる。例示的な酵母または真菌の種としては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クリベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クリベロミセス・マルキシアナス(Kluyveromyces marxianus)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などから選択されるものが含まれる。
【0108】
第4、第6、第7、第8またはさらなる態様のいずれかの微生物は、1種以上の上記天然または遺伝子組み換えされた酵素の活性を増強するか、または減少させるように遺伝的に改質されてもよい。
【0109】
好ましくは、微生物は、メタクリル酸および/またはその誘導体の製造を増強するように遺伝子組み換えされている。
【0110】
メタクリル酸および/またはその誘導体の製造を増強することは、当該技術分野において既知の種々の遺伝子工学技術の使用により、既存の細胞代謝プロセス、核酸および/またはタンパク質を改質することを含み得る。メタクリル酸および/またはその誘導体の製造を増強することは、微生物中で1種以上の異種遺伝子を発現するように微生物を改質することも含み得る。これらは、本明細書に開示されたものなどの炭素ベースの工業原料からのメタクリル酸までの望ましい経路の酵素をコート化する遺伝子を含み得るか、または以下に詳細に議論されるように、直接的または間接的にそのような経路における酵素の機能および発現を促進するために作用する他の補助遺伝子を含み得る。
【0111】
したがって、微生物は、メタクリル酸および/またはその誘導体の製造のための1種以上の遺伝子を発現するように改質され得、かつ好ましくは、微生物は、メタクリル酸および/またはその誘導体の製造を増強するようにさらに改質される。
【0112】
それがメタクリル酸および/またはその誘導体を製造するように改質されるように微生物中で発現され得る1種以上の遺伝子としては、以下の酵素:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からのACX4、アルスロバクター・ニコチアナ(Arthrobacter nicotianae)からの短鎖アシル-CoAオキシダーゼ、リョクトウ(Vigna radiata)からのペルオキシソームアシル-CoAオキシダーゼ、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)からのアシル-CoAオキシダーゼ4、カンジダ属(Candida sp.)からのアシル-CoAオキシダーゼおよび広い基質範囲を有する関連するオキシダーゼ、アルスロバクター属(Arthrobacter sp)からの4-ヒドロキシベンゾイル-CoAチオエステラーゼ、大腸菌(Escherichia coli)からのYciA、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)からのYciA、大腸菌(Escherichia coli)からのTesA、大腸菌(Escherichia coli)からのTesB、アルスロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)からの4HBT、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)CBS-3株からの4HBT、大腸菌(Escherichia coli)からのEntH、クロストリジウム属(Clostridium sp.)SB4からのブチリル-CoAアセトアセテートCoAトランスフェラーゼ、クロストリジウム・スティックランディ(Clostridium sticklandii)からのブチリル-CoAアセトアセテートCoAトランスフェラーゼ、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)ATCC824からのブチレート-アセトアセテートCoA-トランスフェラーゼ、大腸菌(Escherichia coli)からのアセテート補酵素AトランスフェラーゼydiF、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)ATCC824からのホスホトランスブチリラーゼ、スピロヘータ(Spirochete)MA-2からの分枝鎖脂肪酸キナーゼ、サーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima)からのブチレートキナーゼ、酪酸菌(Clostridium butyricum)からのブチレートキナーゼ、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)からの分枝鎖アシル-CoAデヒドロゲナーゼ、ヒト(Homo sapiens)からのイソブチリル-CoAデヒドロゲナーゼ、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からのイソバレリル-CoAデヒドロゲナーゼ、ヒト(H.sapiens)から電子伝達フラビンタンパク質、イノシシ(Sus scrofa)からの電子伝達フラビンタンパク質、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からの電子伝達フラビンタンパク質、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)からの電子伝達フラビンタンパク質、パラコッカス・デニトリフィカンス(Paracoccus denitrificans)からの電子伝達フラビンタンパク質、ヒト(H.sapiens)からの電子伝達フラビンタンパク質ユビキノンオキシドレダクターゼ、イノシシ(Sus scrofa)からの電子伝達フラビンタンパク質ユビキノンオキシドレダクターゼ、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)からの電子伝達フラビンタンパク質ユビキノンオキシドレダクターゼ、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からの電子伝達フラビンタンパク質ユビキノンオキシドレダクターゼ、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)からの電子伝達フラビンタンパク質ユビキノンオキシドレダクターゼ、パラコッカス・デニトリフィカンス(Paracoccus denitrificans)からの電子伝達フラビンタンパク質ユビキノンオキシドレダクターゼのいずれかをコード化するものが含まれる。
【0113】
それがメタクリル酸および/またはその誘導体の製造を増強するように改質されるように微生物中で発現され得る1種以上の遺伝子としては、以下の酵素:シュードモナス・クロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)からのAcsA;枯草菌(Bacillus subtilis)からのbkdA1、bkdA2、bkdBおよびlpdV;シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)からのbkdA1、bkdA2、bkdBおよびlpdV;枯草菌(Bacillus subtilis)からのalsS、大腸菌(Escherichia coli)からのilvD、大腸菌(Escherichia coli)からのilvC、大腸菌(Escherichia coli)からのilvB、大腸菌(Escherichia coli)からのilvN、大腸菌(Escherichia coli)からのilvI、大腸菌(Escherichia coli)からのilvG、大腸菌(Escherichia coli)からのilvM、大腸菌(Escherichia coli)からのilvH、ならびにG14DおよびS17F突然変異を有する大腸菌(Escherichia coli)からのilvH、S34G、L48EおよびR49F突然変異を有するコリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)RからのilvC、コリネバクテリウム(Corynebacterium)RからのilvBおよびilvN、ならびにG156E突然変異を有するコリネバクテリウム(Corynebacterium)RからのilvN、ならびに酵素のフィードバック阻害を軽減するため、かつ適切である場合には補因子依存を変更するための上記と同様の突然変異を有する他の生物からの相同体のいずれかをコード化するものが含まれる。
【0114】
本発明は、上記生合成経路において、同じ基質および/もしくは中間体に対して競合することによってメタクリル酸および/もしくはその誘導体以外の化合物の合成に触媒作用を引き起こす酵素の活性を減少させるか、もしくは排除する改質をさらに含み得る。そのような酵素の例としては、大腸菌(Escherichia coli)からのYciA、TesA、TesB、ならびに大腸菌(Escherichia coli)においてfadB、ilvA、panB、leuA、ygaZ、ygaH、aceF、aceE、lpdA、tpiA、pfkA、pfkB、mdh、poxB、ilvE、ldhAおよびlldDによってコード化されたもの、ならびに本明細書に記載の他の宿主株における相同体を含む。
【0115】
本発明は、メタクリル酸および/もしくはその誘導体を代謝させるか、もしくは上記生合成経路において中間体を代謝させる酵素の活性を減少させるかもしくは排除する改質をさらに含み得る。代謝と関連するそのような酵素の例は、大腸菌(E.coli)における固有のバリン分解経路の酵素、または設計された経路のチオエステル中間体を消費し得る他のチオエステラーゼである。
【0116】
本発明は、上記の生合成経路において中間体を除去する他の細胞機能に関与するタンパク質の活性を減少させるかもしくは排除する改質もさらに含み得る。そのような細胞機能の例としては、蓄積型液胞(例えば、酵母において)または代謝産物を蓄積することができる他の細胞内構造体(例えば、細菌の極小コンパートメント)などの蓄積機構、代謝産物を輸送することができる膜内外ポンプまたはポリンなどの細菌周辺質または搬送機構が含まれ得る。
【0117】
タンパク質、特に本発明に従って微生物において発現した酵素をコード化する遺伝子のための核酸の供給源としては、例えば、コード化された遺伝子産物が参照された反応に触媒作用を引き起こすことができるいずれの種も含むことができる。そのような種としては、限定されないが、古細胞および真性細菌を含む細菌、酵母、植物、昆虫、動物およびヒトを含む哺乳動物を含む真核生物を含む、原核および真核生物の両方を含む。そのような供給源のための例示的な種としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)、ヒト(Homo sapiens)、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium fredenreichii)、メチロバクテリウム・エキストロクエンス(Methylobacterium extorquens)、シゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)、エルシニア・フレデリクセニイ(Yersinia frederiksenii)、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)、ドブネズミ(Rattus norvegicus)、エレガンス線虫(Caenorhabditis elegans)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、アシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)、アシネトバクター・ベイリイ(Acinetobacter baylyi)、アシネトバクター属(Acinetobacter sp.)、クロストリジウム・クライベリ(Clostridium kluyveri)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、カイウサギ(Oryctolagus cuniculus)、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)、リゥコノストック・メゼンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、ユーバクテリウム・バーケリ(Eubacterium barkeri)、バクテロイデス・カピロスス(Bacteroides capillosus)、アナエロツルンカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)、ナトラナエロビウス・サーモフィラス(Natranaerobius thermophilus)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、イノシシ(Sus scrofa)、桿菌菌(Bacillus subtilis)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)、ストレプトミセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)、メチリビウム・ペトロレイフィルム(Methylibium petroleiphilum)、ストレプトミセス・シンナモネンシス(Streptomyces cinnamonensis)、ストレプトミセス・アベルミチリス(Streptomyces avermitilis)、アルカエオグロブス・フルギダス(Archaeoglobus fulgidus)、ハロアーキュラ・マリスモルツイ(Haloarcula marismortui)、ピロバクルム・アエロフィルム(Pyrobaculum aerophilum)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、クロストリジウム・コクレアリウム(Clostridium cochlearium)、破傷風様菌(Clostridium tetanomorphum)、破傷風菌(Clostridium tetani)、シトロバクター・アマロナチクス(Citrobacter amalonaticus)、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)、ハツカネズミ(Mus musculus)、ウシ(Bos taurus)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、モルガネラ・モルガニー(Morganella morganii)、クロストリジウム・パストゥリアヌム(Clostridium pasteurianum)、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、キサントバクター・オートトロフィカス(Xanthobacter autotrophicus)、クロストリジウム・プロピオニカム(Clostridium propionicum)、メガスファエラ・エルスデニイ(Megasphaera elsdenii)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、カンジダ(Candida)、スルフォロブス・トコダイイ(Sulfolobus tokodaii)、メタロスファエラ・セデュラ(Metallosphaera sedula)、クロロフレクサス・アウランチアカス(Chloroflexus aurantiacus)、クロストリジウム・サッカロペルブチルアセトニカム(Clostridium saccharoperbutylacetonicum)、アシドアミノコックス・フェルメンタンス(Acidaminococcus fermentans)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、ならびに本明細書に開示されたまたは対応する遺伝子のための供給源生物として利用可能な他の例示的な種が含まれる。
【0118】
本発明の微生物において発現され得る酵素をコード化する1種以上の遺伝子は、前記酵素の変異体、例えば、前記ポリペプチドが未改質酵素の活性を維持するポリペプチド配列における1つまたはいくつかのアミノ酸の置換、欠損、挿入または付加を含む変異酵素をコード化する遺伝子も含むことに留意すべきである。そのような変異酵素は、未改質酵素および改質されたアロステリック制御を有する酵素、例えば、G14DおよびS17F突然変異を有する大腸菌(Escherichia coli)からのilvH、S34G、L48EおよびR49F突然変異を有するコリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)RからのilvC、コリネバクテリウム(Corynebacterium)RからのilvBおよびilvN、ならびにG156E突然変異を有するコリネバクテリウム(Corynebacterium)RからのilvNと比較した場合、減少した酵素活性を有する変異酵素も含む。
【0119】
非自然発生メタクリル酸を製造する微生物中のタンパク質の発現を構成および試験するための方法は、例えば、当該技術分野において周知の組換技術および検出方法によって実行することができる。そのような方法は、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Third Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(2001);およびAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley and Sons,Baltimore,Md.(1999)に見出すことができる。
【0120】
メタクリル酸および/もしくはその誘導体、またはその形成における中間体の製造に関する経路に関与する外来性核酸配列は、限定されないが、接合、電気穿孔、化学的転換、導入、移入および超音波転換を含む、当該技術分野において周知の技術を使用して、微生物細胞中に安定してまたは一時的に導入することができる。
【0121】
転換方法の例は、DNAの浸透性を増加させるために塩化カルシウムで受容体微生物/細胞を処理すること、および増殖期にある細胞からコンピテント細胞を調製し、続いてDNAによって転換することを含むことができる。あるいは、DNA-受容細胞から組換型DNAを容易に取り込むことができるプロトプラストまたはスフェロプラストを製造し、続いて、枯草菌(Bacillus subtili)、放線菌(actinomycetes)および酵母に適用可能であることが知られている細胞に組換型DNAを導入する方法も使用可能である。加えて、微生物の転換は、電気穿孔によっても実行可能である。そのような方法は当該技術分野において周知である。
【0122】
大腸菌(E.coli)または他の原核微生物細胞における外来性発現に関して、真核性核酸の遺伝子またはcDNAにおけるいくつかの核酸配列は、必要に応じて、原核微生物細胞への転換前に除去が可能なN末端ミトコンドリアなどの標的シグナルまたは他の標的シグナルをコード化することができる。例えば、ミトコンドリアリーダー配列の除去により、大腸菌(E.coli)における発現の増加が導かれた(Hoffmeister et al.,J.Biol.Chem.280:4329-4338(2005))。酵母または他の真核微生物細胞における外来性発現に関して、遺伝子は、リーダー配列を添加させずに、細胞質ゾル中で発現可能であるか、または標的細胞器官に適切なミトコンドリア標的もしくは分泌物シグナルなどの適切な標的シーケンスを添加することにより、ミトコンドリアもしくは他の細胞器官を標的にすること、または分泌物に関して標的にすることが可能である。したがって、標的配列を除去するかまたは含む核酸配列への適切な改質が、所望の特性を付与するために外来性核酸配列に組み込まれ得ることは理解される。さらに、遺伝子は、微生物内のタンパク質の最適化された発現を達成するため、当該技術分野において周知の技術によってコドン最適化を受けさせることができる。
【0123】
発現ベクターは、微生物中の発現制御配列機能と作動可能に関連する、本明細書に例示される核酸をコード化する1種以上の生合成経路酵素を含むように構成可能である。本発明の微生物における使用のために適用可能な発現ベクターとしては、例えば、プラスミド、コスミド、ファージベクター、ウィルスベクター、エピソームおよび人工染色体が含まれ、ベクターおよび選別配列または宿主染色体への安定した組み込みのために作動可能なマーカーを含む。
【0124】
さらに、発現ベクターは、1種以上の選択可能なマーカー遺伝子および適切な発現制御配列を含むことができる。例えば、抗生物質もしくは毒素に対する耐性、補体栄養要求性欠損を提供するか、または培地においてではなく不可欠の栄養を供給する選択可能なマーカー遺伝子も含まれ得る。発現制御配列は、当該技術分野において周知の構成的、誘導性または抑制性促進因子、転写促進因子、転写終結因子、翻訳シグナルなどを含むことが可能である。2種以上の外来性コード化核酸配列が同時発現可能である場合、両核酸配列は、例えば、単一発現ベクター中に、または個々の発現ベクター中に挿入可能である。単一ベクター発現に関して、コード化核酸は、作動上、1つの共通発現制御配列に関連付けられ得るか、または誘導性促進因子および構成的促進因子などの異なる発現制御配列に関連付けられ得る。いくつかの実施形態において、ベクターは、同義遺伝子またはオペロンの同時発現のために2種以上の促進因子を有していてもよい。いくつかの実施形態において、遺伝子/オペロンは、1種以上の対応する促進因子により、1種以上の異なるベクター上で発現されてもよい。
【0125】
転換のために使用されるベクターは、微生物の細胞中で自律複製可能なベクターであり得る。大腸菌(E.coli)などの腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の細菌において自律複製可能なベクターの例としては、プラスミドベクターpUC19、pUC18、pBR322、RSF1010、pHSG299、pHSG298、pHSG399、pHSG398、pSTV28、pSTV29、pET20b(+)、pET28b(+)(pETベクターは、Novagenから入手可能である)、pLysS、(pHSGおよびpSTVベクターは、Takara Bio Inc.から入手可能である)、pMW119、pMW118、pMW219、pMW218(pMWベクターは、Nippon Gene Co.,Ltd.から入手可能である)などおよびそれらの誘導体を含むことができる。さらに、コリネ型細菌に関するベクターとしては、pAM330(特開昭58-67699号公報)、pHM1519(特開昭58-77895号公報)、pSFK6(特開2000-262288号公報)、pVK7(米国特許出願公開第2003-0175912A号明細書)、pAJ655、pAJ611、pAJ1844(特開昭58-192900号公報)、pCG1(特開昭57-134500号公報)、pCG2(特開昭58-35197号公報)、pCG4、pCG11(特開昭57-183799号公報)、pHK4(特開平5-7491号公報)などを含むことができる。さらに、酵母に関するベクターとしては、酵母プラスミド、例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)に関するpD902またはpD905など、またはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に関するpD1201、pD1204、pD1205、pD1207、pD1211、pD1214 pD1215、pD1217、pD1218、pD1221、pD1224、pD1225、pD1227、pD1231、pD1234、pD1235、pD1237などを含むことができる。遺伝子は、周知の方法を使用して宿主染色体にも組み込まれ得る(例えば、Datensko and Wanner(Datsenko,K.A.and Wanner,B.L.2000,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97:6640-6645))。
【0126】
酵素の活性の増強は、ゲノムDNAまたはプラスミド上の促進因子などの標的遺伝子の発現調節配列を、適切な強度を有する促進因子で置き換えることにより、標的遺伝子の発現を増強することを含むことができる。例えば、thr促進因子、ラック促進因子、trp促進因子、trc促進因子、pL促進因子、tac促進因子などは、頻繁に使用される促進因子として知られている。細菌などの微生物において高い発現活性を有する促進因子の例としては、伸長因子Tu(EF-Tu)遺伝子の促進因子、tuf、コシャペロニンGroES/ELをコード化する遺伝子の促進因子、チオレドキシンレダクタ-ゼ、ホスホグリセレートムターゼ、グリセルアルデヒド-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼなど(国際公開第2006/028063号パンフレット、欧州特許第1697525号明細書)を含むことができる。強い促進因子の例および促進因子の強度を評価するための方法は、当該技術分野において周知である。
【0127】
さらに、国際公開第2000/18935号パンフレットに開示されるように、促進因子が適切な強度を有するように、遺伝子の促進因子領域におけるいくつかのヌクレオチドを置換することも可能である。発現調節配列の置換は、例えば、温度に感応性であるプラスミドを使用する遺伝子置換と同じ方法で実行することができる。大腸菌(Escherichia coli)またはパントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)のために使用することが可能である、温度に感応性の複製開始点を有するベクターの例としては、例えば、国際公開第1999/03988号パンフレットに記載されるプラスミドpMAN997およびその誘導体などを含むことができる。さらに、発現調節配列の置換は、λ-ファージのRedレコンビナーゼを使用する、「Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)」と呼ばれる直鎖DNAを利用する方法(Datsenko,K.A.and Wanner,B.L.2000,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97:6640-6645)、およびRedドリブンインテグレーション法とλファージ切り出しシステム(Cho,E.H.et al.2002.J.Bacteriol.184:5200-5203)とを組み合わせた方法(国際公開第2005/010175号パンフレット)によっても実行可能である。発現調節配列の改質は、遺伝子複写数の増加と組み合わせることができる。
【0128】
さらに、リボソーム結合部位(RBS)と開始コドンとの間のスペーサーにおけるいくつかのヌクレオチドの置換、特に開始コドンの直接上流の配列がmRNAの翻訳性能に非常に影響を与えることが知られている。翻訳は、これらの配列を改質することによって増強することができる。
【0129】
標的遺伝子が上記プラスミドまたは染色体中に導入される場合、使用される微生物中で作用する促進因子が選択される限り、いずれの促進因子も遺伝子の発現のために使用することができる。促進因子は、遺伝子の固有の促進因子または改質された促進因子であり得る。遺伝子の発現は、選択された微生物において強力に作用する促進因子を適切に選択することにより、またはコンセンサス配列に近い促進因子の-35およびー10領域を近似することによっても制御可能である。
【0130】
代謝または合成経路に関与する外来性核酸配列の転換、導入、接合または染色体挿入は、当該技術分野において周知の方法を使用して確認される。そのような方法は、例えば、プラスミドまたは染色体DNAの抽出、それに続く特定の標的配列のポリメラーゼ鎖増幅、または制限マッピング、さらなる核酸分析、例えば、ノーザンブロット、もしくはmRNAのポリメラーゼ鎖反応(PCR)増幅、またはポリアクリルアミドゲル電気泳動、または酵素活性測定、遺伝子産物の発現に関するイムノブロット、または導入された核酸配列あるいはその対応する遺伝子産物の発現を試験するための他の適切な分析法が含まれる。外来性核酸が所望の遺伝子産物を製造するために十分な量で発現されることは当業者によって理解され、発現レベルは、当該技術分野において周知の方法を使用して十分な発現を得るために最適化され得ることもさらに理解される。
【0131】
任意選択的に、本発明の上記方法のいずれかにおける使用のための第4、第6、第7、第8またはさらなる態様の微生物は、
(i)メタクリル酸製造経路から材料の方向を転換し;かつ/または
(ii)メタクリル酸および/またはその誘導体を代謝させる、
細胞機能に関与する酵素またはタンパク質の活性を減少させるか、または排除するためにさらに改質されてもよい。
【0132】
上記酵素またはタンパク質の活性を減少させるか、または排除するため、酵素またはタンパク質の細胞内活性を減少させるか、または排除するための突然変異を、従来のランダムもしくは定方向突然変異誘発または遺伝子工学技術により、上記酵素またはタンパク質の遺伝子中に導入することができる。突然変異誘発の例としては、例えば、エックス線または紫外線照射、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジンなどの変異原物質による処理、それぞれ高忠実度またはエラープローンポリメラーゼ鎖反応による生体外での定方向またはランダム突然変異誘発などを含むことができる。突然変異が導入される遺伝子上の部位は、酵素またはタンパク質または促進因子などの発現制御領域をコード化するコーディング領域にあることが可能である。遺伝子工学技術の例としては、遺伝的組換え、導入、細胞融合、遺伝子ノックアウトなどを含むことができる。
【0133】
目標酵素またはタンパク質の細胞内活性の減少および排除ならびに減少度は、候補株から得られた細胞抽出液またはその精製フラクション中の酵素またはタンパク質活性を測定し、かつそれを野生型株のものと比較することにより、または細胞全体による目標産物の形成を測定することにより確認することができる。
【0134】
メタクリル酸および/またはその誘導体および/またはその中間体の製造能力を付与または増強するための他の方法の例としては、メタクリル酸または有機酸類似体、呼吸阻害因子などに対する耐性を付与すること、および細胞壁体合成阻害因子に対する感応性を付与することを含むことができる。これらの方法としては、例えば、有毒物質の濃度増加による成長による耐性細胞のための選択、モノフルオロ酢酸耐性の付与、アデニン耐性またはチミン耐性の付与、ウレアーゼの軽減、マロン酸耐性の付与、ベンゾピロンまたはナフトキノン耐性の付与、HOQNO耐性の付与、アルファ-ケトマロン酸耐性の付与、グアニジン耐性の付与、ペニシリンに対する感応性の付与などの当該技術分野において既知のものを含むことができる。
【0135】
そのような耐性細菌の例としては、以下の菌株:ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)AJ3949 FERM BP-2632;コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)AJ11628 FERM P-5736;ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)AJ11355 FERM P-5007;コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)AJ11368 FERM P-5020;ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)AJ11217 FERM P-4318;コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)AJ11218 FERM P-4319;ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)AJ11564 FERM P-5472;ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)AJ11439 FERM P-5136;コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)H7684 FERM BP-3004;ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンツム(Brevibacterium lactofermentum)AJ11426 FERM P-5123;コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)AJ11440 FERM P-5137;およびブレビバクテリウム・ラクトフェルメンツム(Brevibacterium lactofermentum)AJ11796 FERM P-6402を含むことができる。
【0136】
メタクリル酸ならびに/またはその誘導体および/もしくはその中間体の製造能力を付与または増強するためのさらなる方法としては、下方調節因子/阻害因子への耐性付与、上方調節因子/阻害因子への感応性付与、または他の化合物による酵素のアロステリック活性化の要求の軽減を含むことができる。例えば、バリンによるシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)からの分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼのアロステリック活性化の要求の軽減、または大腸菌(Escherichia coli)からのアセトラクターゼシンターゼのアロステリック阻害の軽減である。
【0137】
発酵
したがって、本発明の上記方法は、好適には培地中でメタクリリル-CoA中間体および/またはメタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体を製造することが可能な本発明の第4、第6、第7、第8またはさらなる態様の微生物の培養によって実行され得る。
【0138】
したがって、好適には、本発明の第1、第2または第3の態様の方法は、1種以上の微生物を培養して、メタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体を製造するステップをさらに含み得る。
【0139】
好ましくは、前記培養ステップは、発酵培地で実行される。
【0140】
したがって、本発明の第9の態様によれば、発酵培地において第4、第5、第6、第7、第8またはさらなる態様の1種以上の微生物を培養して、メタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体を製造するステップを含む、発酵の方法が提供される。
【0141】
メタクリル酸および/またはその誘導体は、発酵培地中または微生物の細胞中に存在し得る。
【0142】
したがって、好適には、本発明の第1、第2または第3の態様の方法は、発酵培地または微生物細胞から、メタクリル酸および/またはその形成における中間体および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体を回収するステップをさらに含み得る。
【0143】
メタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体は、上記のとおり、メタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体を分泌する微生物により、発酵培地中に存在し得る。
【0144】
メタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体は、上記のとおり、メタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体を蓄積する微生物により、微生物の細胞中に存在し得る。
【0145】
したがって、好適には、細胞は、ろ過、遠心分離などの当該技術分野において既知のいずれかの手段によって発酵培地から除去され、かつメタクリル酸またはその塩および/またはメタクリル酸エステルは、蒸留、液体-液体抽出法などの当該技術分野において既知のいずれかの手段によって発酵培地から回収される。したがって、好適には、本発明の方法は、周囲培地からメタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体を回収するステップをさらに含み得、これは、最初にろ過または遠心分離によって細胞を培地から除去し、次いで蒸留、液体-液体抽出法により、純化された培地からメタクリル酸および/またはその誘導体を抽出することによって実行され得る。
【0146】
任意選択的に、メタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体を回収するステップは、当該技術分野において既知のいずれかの手段によって実行され得、好ましくは、細胞が溶解して所望の産物が放出される、超音波処理、均質化、酵素的処理、ビード-ミリング、浸透圧衝撃、凍結融解、酸/塩基処理、ファージ溶解など、細胞からメタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体を放出させるステップと、それに続いて発酵培地からの上記と同様の回収ステップとをさらに含み得る。したがって、好適には、本発明の方法は、細胞からメタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体を回収するさらなるステップを含み得、細胞の溶解と、その後の細胞細片のろ過と、それに続くメタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体の抽出とによって実行され得る。
【0147】
好適には、微生物の培養には、微生物がエネルギーを得ることができかつ増殖することができる炭素ベースの供給原料が必要とされる。したがって、好ましくは、微生物は、炭素ベースの供給原料上で培養され、本発明の第1または第2の態様の方法は、炭素ベースの供給原料からメタクリル酸および/またはその誘導体を製造することが可能な1種以上の微生物培養するステップをさらに含み得る。
【0148】
好ましくは、培養は、発酵培地、好適には微生物を包囲する周囲培地において実行され、炭素ベースの供給原料は、培地中に存在し、任意選択的に培地中に溶解または懸濁され、培地を通してバブリングされ、かつ/または培地と混合される。したがって、好ましくは、培地は、いずれかの緩衝液および塩と一緒に微生物および炭素ベースの供給原料を含む。
【0149】
したがって、本発明の第10の態様によれば、第4、第5、第6、第7、第8またはさらなる態様の1種以上の微生物を含む発酵培地が提供される。
【0150】
好ましくは、発酵培地は、メタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体をさらに含む。
【0151】
好ましくは、微生物は、好ましくは、直接分泌または細胞の溶解のいずれかから培地中に存在するメタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体の濃度が高滴定値にあるように、上記で説明された基礎速度よりも高い速度でメタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体を製造する。
【0152】
好ましくは、発酵培地に存在するメタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体の滴定値は、少なくとも5mg/lである。例えば、5、15、25、35、45、55、65、75、85、95、105、115、125、135、145、155mg/l、好ましくは少なくとも130mg/lより高い。
【0153】
好ましくは、メタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体が微生物中で蓄積する実施形態において、細胞中に存在するメタクリル酸および/またはその中間体および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体の濃度は、少なくとも0.05mM、より好ましくは少なくとも0.1mM、より好ましくは少なくとも1mM、より好ましくは少なくとも2mM、より好ましくは少なくとも5mM、より好ましくは少なくとも10mMである。好ましくは、細胞中のメタクリル酸またはその中間体および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体の濃度は、10mM~約300mM、より好ましくは約20mM~約200mM、更により好ましくは約30mM~約100mM、最も好ましくは約40mM~約70mMの範囲である。
【0154】
本発明の微生物は、バッチ、繰り返しバッチ、フェド-バッチ、繰り返しフェド-バッチまたは連続培養プロセスとして培養され得る。
【0155】
好適には、培養プロセスは、他には本明細書中で周囲培地または発酵培地として知られている培養培地で実行される。好ましくは、フェド-バッチまたは繰り返しフェド-バッチが適用され、そこでは炭素源および/または窒素源および/または追加化合物が培養プロセスに供給される。より好ましくは、炭素および/または窒素源が培養プロセスに供給される。
【0156】
本発明の微生物培養される発酵培地は、生物によって必要とされる適切な栄養が制限するという条件で、対象の生物の要求に適切である、いずれの市販品として入手可能な培地であってもよい。培養は、好気性であってもまたは嫌気性であってもよいが、オキシダーゼ酵素が利用される本発明に関して、培養は、好ましくは好気性である。
【0157】
発酵培地は、上記の炭素ベースの供給原料、窒素源、ならびに微生物の増殖および/またはメタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルの形成に必要とされる追加化合物を好適に含有する。
【0158】
当該技術分野において既知の適切な炭素ベースの供給原料の例には、グルコース、バルトース、マルトデキストリン、スクロース、加水分解でんぷん、でんぷん、リグニン、芳香族、合成ガスまたはその成分、メタン、エタン、プロパン、ブタン、糖蜜およびオイルが含まれる。好ましくは、炭素ベースの供給原料は、バイオマスから誘導される。混合物ならびに地方自治体の廃棄物などの廃棄物、食品加工業、林業または農業からの食品廃棄物およびリグノセルロース系廃棄物も使用され得る。
【0159】
当該技術分野において既知の適切な窒素源の例には、大豆ミール、コーンスチープリカー、酵母抽出液、アンモニア、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、窒素ガスまたは他の窒素源が含まれる。
【0160】
微生物の増殖のために必要とされる追加化合物の例としては、抗生物質、抗真菌薬、酸化防止剤、緩衝液、ホスフェート、スルフェート、マグネシウム塩、微量元素および/またはビタミンが含まれる。
【0161】
培地に添加される炭素ベースの供給原料および窒素源の総量は、微生物の必要および/または培養プロセスの長さ次第で変更され得る。
【0162】
培地中の炭素ベースの供給原料および窒素源間の比率は大幅に変動し得る。
【0163】
微生物の増殖のため、かつメタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルなどその誘導体の製造のために必要とされるホスフェート、スルフェートまたは微量元素などの追加化合物は、微生物の、すなわち真菌、酵母および細菌間の種々の分類間で変更され得る。加えて、追加される追加化合物の量は、メタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルなどのその誘導体が形成されるかどうか、かつそれらを形成するためにいずれの経路が使用されるかによって決定され得る。
【0164】
典型的に、微生物の増殖のために必要なそれぞれの発酵培地成分の量は、養分上の増殖収率を測定することによって決定され、かつさらに形成されたバイオマスの量が主に使用された炭素ベースの供給原料の量および任意の供給レジーム中に課せられた栄養制限によって測定されるため、培養プロセスにおいて使用された炭素ベースの供給原料の量に関連して評価される。
【0165】
本発明による培養プロセスは、好ましくは、工業規模で実行される。工業規模プロセスは、好ましくは≧0.01m、好ましくは≧0.1m、好ましくは≧0.5m、好ましくは≧5m、好ましくは≧10m、より好ましくは≧25m、より好ましくは≧50m、より好ましくは≧100m、最も好ましくは≧200mである体積規模の1つ以上の発酵器における培養プロセスを含むと理解される。
【0166】
好ましくは、本発明の微生物の培養は、一般に、バイオリアクターで実行される。「バイオリアクター」は、一般に、微生物が工業的に培養される容器を意味するものとして理解される。バイオリアクターは、いずれのサイズ、数および形状でもあり得、かつ栄養、増殖のための追加化合物、新しい培地、炭素ベースの供給原料、限定されないが、空気、窒素、酸素または二酸化炭素などのガスの添加を供給するための注入口を含むことができる。バイオリアクターは、発酵培地自体または微生物中からメタクリル酸および/またはメタクリル酸エステルを回収するために、培養培地の体積を除去するための排出口も含み得る。バイオリアクターは、好ましくは、培養物をサンプリングするための排出口も有する。バイオリアクターは、一般に、例えば、撹拌、ロッキング、振とう、裏返し、培養物を通してガスのバブリングなどにより、発酵培地を混合するように構成され得る。あるいは、いくつかの連続培養は混合を必要とせず、例えば、プラグフローシステムを使用する極小リアクターシステムである。バイオリアクターは、当該技術分野において一般的かつ周知であり、‘Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology,Second Edition’(1989)Authors:Wulf Cruegar and Annelise Crueger,translated by Thomas D.Brock Sinauer Associates,Inc.,Sunderland,MAなどの標準的なテキストに見られ得る。
【0167】
したがって、本発明の第11の態様によれば、第4、第5、第6、第7、第8またはさらなる態様の1種以上の微生物および/または第10の態様の発酵培地を含むバイオリアクターが提供される。
【0168】
任意選択的に、バイオリアクターは、本発明の複数の異なる微生物を含み得る。
【0169】
好ましくは、バイオリアクターは、本発明の方法を実行することが可能な微生物のみを含む。
【0170】
より好ましくは、全体的に同じ培養条件が使用され得るように、バイオリアクターは同じ種の微生物のみを含む。
【0171】
バイオマス供給原料
好ましくは、使用されるバイオマスは、高い量の炭水化物を含み、特に好ましくはC5またはC6糖類、炭素ベースガスまたは芳香族、好ましくはC5またはC6糖類、より好ましくはグルコースの供給源である炭水化物、例えば、限定されないが、でんぷん、リグニン、セルロース、グリコーゲン、アラビノキシラン、キチンまたはペクチンである。
【0172】
あるいは、使用されるバイオマスは、高い量の脂肪を含み、特に好ましくはグリセロールおよび脂肪酸の供給源である脂肪または油、特にトリグリセリドである。適切なトリグリセリドとしては、植物または動物源から容易に入手可能ないずれの油または脂肪も含まれる。油および脂肪の例としては、パーム油、アマニ油、ナタネ油、ラード、バター、ニシン油、ココナッツ油、植物油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ダイズ油、オリーブ油、カカオバター、牛酪油、鯨脂などが含まれる。
【0173】
バイオマスは、1種以上の異なるバイオマス供給源から構成されてもよい。適切なバイオマス供給源の例は、原木、エネルギー作物、農業廃棄物、食品廃棄物、地方自治体の廃棄物および産業廃棄物または連結製品である。
【0174】
原木バイオマス供給源としては、限定されないが、砕木片、バーク、ブラッシュ、ログ、のこ屑、木材タブレットまたはブリケットが含まれ得る。
【0175】
エネルギー作物バイオマス供給源としては、限定されないが、短期輪作雑木林もしくは森林;ススキ、麻スイッチグラス、アシもしくはライ麦などの非林草;糖、でんぷんもしくは油作物などの農業作物;または小型もしくは大型藻類などの水生植物ならびに雑草が含まれ得る。
【0176】
農業廃棄物としては、限定されないが、外皮、わら、コーンストーバー、小麦粉、穀物、家禽放棄物、堆肥、スラリー、合成ガスまたはサイレージが含まれ得る。
【0177】
食品廃棄物としては、限定されないが、皮/表皮、シェル、外皮、コア、種子/種、動物もしくは魚の不可食部分、ジュースおよび油抽出からのパルプ、醸造からの穀物もしくはホップ、家庭内台所廃棄物、ラード、または油もしくは脂肪が含まれ得る。
【0178】
工業廃棄物としては、限定されないが、パレットを含む未処理木材、処理木材、シェールガス、MDF/OSDを含む木材複合材料、木材ラミネート、紙パルプ/シュレッダーくず/廃棄物、繊維/ヤーン/溶出物を含む織物、または下水スラッジが含まれ得る。
【0179】
さらなる生成物
さらに、他の有用な有機化合物、例えば、種々のエステルなどのメタクリル酸の誘導体の製造も考えられる。したがって、メタクリル酸生成物は、エステルを製造するためにエステル化されてもよい。可能なエステルは、C~C20アルキルまたはC~C12ヒドロキシアルキル、グリシジル、イソボルニル、ジメチルエアミノエチル、トリプロピレングリコースエステルから選択されてよい。最も好ましくは、エステルを形成するために使用されるアルコールまたはアルケンは、バイオ供給源、例えば、バイオメタノール、バイオエタノール、バイオブタノールから誘導され得る。好ましいエステルは、メタクリル酸エチル、n-ブチル、i-ブチル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシプロピルまたはメチルであり、最も好ましくはメタクリル酸メチルまたはメタクリル酸ブチルである。
【0180】
好ましくは、メタクリル酸は、エステル化反応により、メタクリル酸アルキルまたはヒドロキシアルキルに変換される。そのような変換のための適切な反応条件は、当該技術分野において周知であり、かつ国際公開第2012/069813号パンフレット中にメタクリル酸の製造に関連して記載されている。
【0181】
本発明の第12の態様によれば、メタクリル酸またはメタクリル酸エステルのポリマーまたはコポリマーを調製する方法であって、
(i)本発明の第1、第2もしくは第3の態様またはさらなる態様に従ってメタクリル酸および/またはその誘導体を調製するステップと;
(ii)(i)において調製されたメタクリル酸をエステル化して、メタクリル酸エステルを製造する任意選択的なステップと;
(iii)(i)において調製されたメタクリル酸および/もしくはその誘導体ならびに/または存在する場合には(ii)において調製されたエステルを任意選択的に1種以上のコモノマーと重合させて、そのポリマーまたはコポリマーを製造するステップと
を含む方法が提供される。
【0182】
ステップ(i)は、第12の態様の特徴と組み合わせて、上記の第1、第2および第3の態様に関連して概説されたさらなる特徴のいずれかを含み得る。
【0183】
好ましくは、上記(ii)のメタクリル酸エステルは、C~C20アルキルまたはC~C12ヒドロキシアルキル、グリシジル、イソブロニル、ジメチルアミノエチル、トリプロピレングリコールエステル、より好ましくはエチル、n-ブチル、i-ブチル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシプロピルまたはメチルメタクリレート、最も好ましくはメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレートまたはブチルメタクリレートである。
【0184】
したがって、本発明のさらなる態様によれば、メタクリル酸エステルのポリマーまたはコポリマーを調製する方法であって、
(i)本発明の第3の態様またはさらなる態様に従ってメタクリル酸エステルを調製するステップと;
(ii)(i)において調製されたメタクリル酸および/またはその誘導体を任意選択的に1種以上のコモノマーと重合させて、そのポリマーまたはコポリマーを製造するステップと
を含む方法が提供される。
【0185】
ステップ(i)は、第12の態様の特徴と組み合わせて、上記の第3の態様に関連して概説されたさらなる特徴のいずれかを含み得る。
【0186】
有利には、モノマー残基の全てが化石燃料以外の供給源から誘導されない場合、そのようなポリマーは相当な部分を有するであろう。
【0187】
いずれにしても、好ましいコモノマーとしては、例えば、モノエチレン性不飽和カルボン酸およびジカルボン酸、ならびにエステル、アミドおよび無水物などのそれらの誘導体が含まれる。
【0188】
特に好ましいコモノマーは、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソ-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸イソ-ボルニル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソ-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸イソ-ボルニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、ジアクリル酸トリプロピレングリコール、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、ジイソシアン酸トルエンおよびジイソシアン酸p,p’-メチレンジフェニルを含むイソシアネート、アクリロニトリル、ブタジエン、ブタジエンおよびスチレン(MBS)ならびにABSであるが、ただし、(i)の前記酸モノマーもしくはエステルまたは(ii)の前記エステルモノマーと、1種以上のコモノマーとのいずれかの所与の共重合において、上記コモノマーのいずれも上記(i)または(ii)のメタクリル酸またはメタクリル酸エステルから選択されるモノマー以外であることを条件とする。
【0189】
当然のことながら、異なるコモノマーの混合物を使用することも可能である。コモノマー自体は、上記(i)または(ii)からのモノマーと同じ方法によって調製されてもよく、または調製されなくてもよい。
【0190】
本発明の第12の態様によれば、本発明の第11の態様の方法から形成されたポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)およびポリメタクリル酸ブチルホモポリマーまたはコポリマーが提供される。
【実施例0191】
ここで、本発明が以下の非限定的な実施例および図面を参照して説明される。
【0192】
実施例1:メタクリリル-CoAの選択的加水分解
実施例2:酵素結合反応におけるイソブチリル-CoAからメタクリリル-CoAへの酸化およびイソブチリル-CoAからメタクリル酸および補酵素Aへの生体外変換
実施例3:イソ酪酸からメタクリル酸への全細胞生体内変換
実施例4:2-ケトイソバレレート中間体を介したグルコースからのメタクリル酸の全細胞製造
実施例5:組換型大腸菌(Escherichia coli)による2-ケトイソバレレートからのメタクリル酸ブチルの全細胞製造
【0193】
1.1 実施例1~4のための材料
実施例1~4を通して使用された細菌株、ならびに実験を通して使用された増殖培地および寒天板を列挙する。プライマーの表に本研究で使用される全てのプライマーを列挙し、かつプラスミドの表に、本研究中に使用されかつ構成される全てのプラスミドを列挙する。
【0194】
1.1.1 細菌株
大腸菌(E.coli)JM107がプラスミドクローニング宿主として使用され、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysSが遺伝子発現宿主として使用された。
【0195】
1.1.2 細菌増殖培地および寒天板
1.1.2.1 ルリア・ベルターニ(Luria Bertani)ブロス(LB培地)
LB培地が示される場合には常に、ルリア・ベルターニ(Luria Bertani)高塩濃度培地(Melford)(25g.L-1)が使用された。それにより、1リットル中25gのLB高塩濃度培地は、カゼイン消化物からのペプトン(10g.L-1)、酵母抽出液(5g.L-1)および塩化ナトリウム(10g.L-1)からなる。LB培地には、多くの場合、カルベニシリン(50μg.ml-1)、クロラムフェニコール(34μg.ml-1)および/またはグルコース(1%w/v)が補充された。LB培地はオートクレーブによって滅菌されたが、水中グルコース(20%w/v)、水中カルベニシリン(100mg.ml-1)およびエタノール中クロラムフェニコール(34mg.ml-1)の貯蔵溶液は、別々にろ過滅菌されかつ添加された。
【0196】
1.1.2.2 MSX最少培地
MSX培地は、室温でMSA培地(760ml.L-1)、MSB培地(200ml.L-1)および12.5%(w/v)グルコース貯蔵溶液(40ml.L-1)を組み合わせることによって調製された。MSB培地は、NHCl(15g.L-1)およびMgSO4.7HO(2.0g.L-1)から構成されており、かつオートクレーブによって滅菌された。MSA培地は、KHPO(7.89g.L-1)から構成されており、MSAがオートクレーブによって滅菌される前に、pHが7.0に達するまでヴィシュニアック(vishniac)微量元素(2.63ml.L-1)およびKOH溶液が添加された。ヴィシュニアック微量元素は、以前に記載されたとおり(Vishniac W,Santer M.THE THIOBACILLI,Bacteriological Reviews1957;21(3):195-213)調製されたが、3.9g.L-1のみのZnSO4.7HOを使用した。グルコースは、0.22μm滅菌フィルターを使用してろ過滅菌された。MSX培地には、リボフラビン(1mg.l-1)が補充されることもあり、これは、リボフラビンを最初にMSB培地(5mg.l-1)に溶解することによって達成された。次いで、この溶液をろ過滅菌し、次いでMSB+リボフラビン溶液を、MSX培地が単独の場合と同体積でMSAおよびグルコースと混合し、リボフラビンで補充されたMSXを形成した。MSXおよびリボフラビンで補充されたMSXは、両方ともLB培地に関して上記されたとおり、常にカルベニシリン(50μg.ml-1)およびクロラムフェニコール(34μg.ml-1)で補充された。
【0197】
1.1.2.3 ルリア・ベルターニ(Luria Bertani)寒天板
ルリア・ベルターニ(Luria Bertani)寒天板は、ルリア・ベルターニ(Luria Bertani)高塩濃度培地(Melford)(25g.L-1)および寒天(20g.L-1)を使用して調製された。LBおよび寒天混合物をオートクレーブによって滅菌し、かつ注入前に50℃の水浴で1時間冷却した。LB寒天板には、多くの場合、カルベニシリン(50μg.ml-1)、クロラムフェニコール(34μg.ml-1)および/またはグルコース(1%w/v)が補充された。カルベニシリン、クロラムフェニコールおよびグルコース貯蔵溶液は、ルリア・ベルターニ(Luria Bertani)液体ブロスに関して上記のとおりに調製され、かつ注入直前にLB寒天溶液に添加された。グルコース貯蔵溶液は、LB寒天への添加前に1時間、50℃の水浴で事前に加温された。
【0198】
【表1】
【0199】
配列番号1 - 大腸菌(Escherichia coli)における発現に関する、アルスロバクター属(Arthrobacter sp.)SU株からの4-ヒドロキシベンゾイル-CoAチオエステラーゼ(4HBT)のコドン最適化遺伝子配列。
【0200】
配列番号4 - PCR生成物からpET20b(+)プラスミドへのサブクローニングによってpET20b(+)::CtHis-4HBTプラスミドが形成するように4HBT遺伝子を改質するために実行されたポリメラーゼ鎖反応の生成物。
【0201】
配列番号5 - pET20b(+)::CtHis-4HBTプラスミドにおいてカルボキシ末端ヒスチジンタグ付け4HBT酵素をコード化する遺伝子。
【0202】
配列番号6 - 大腸菌(Escherichia coli)における発現に関する、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からの短鎖アシル-CoAオキシダーゼ(ACX4)をコード化するコドン最適化遺伝子配列。
【0203】
配列番号11 - 4HBTおよびACX4を1つのポリヌクレオチド中に連結するオーバーラップ伸長ポリメラーゼ鎖反応の生成物。
【0204】
配列番号12 -大腸菌(Escherichia coli)における発現に関する、シュードモナス・クロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)B23からのアシル-CoAシンテターゼ(AcsA)をコード化するコドン最適化遺伝子配列。
【0205】
配列番号13 - pET20b(+)::4HBT-ACX4-AcsAにおけるNdeIおよびXhoI制限部位間であり、かつそれらを含む配列。
【0206】
配列番号14 - pBSK::ppBCKDにおいて送達されるシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KT2440分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼのサブユニットをコード化する4種の遺伝子を含有する、Biomatikによって合成された「ppBCKD」ポリヌクレオチド。
【0207】
配列番号15 - pET20b(+)::4HBT-ACX4-ppBCKDプラスミドにおけるNdeIおよびXhoI制限部位間であり、かつそれらを含む配列。
【0208】
配列番号22 - 改質されたSse8387I制限部位を含有するpET16b(Sse)発現ベクターの配列。
【0209】
配列番号23 - pET16b(Sse)発現ベクターにおける発現に関する、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からの短鎖アシル-CoAオキシダーゼ(ACX4)をコード化するコドン最適化遺伝子配列。
【0210】
配列番号24 - pET16b(Sse)発現ベクターにおける発現に関する、リンゴからのアルコールアシルトランスフェラーゼ(AAT)をコード化するコドン最適化遺伝子配列。
【0211】
【表2】
【0212】
【表3】
【0213】
【表4】
【0214】
【表5】
【0215】
1.2 実施例1~4のための一般的方法
1.2.1 大腸菌(E.coli)JM107クローニング宿主中へのプラスミドの転換
プラスミド(1ng)は、Fermentas TransformAid(商標)細菌転換キットを使用してコンピテントにされた大腸菌JM107(50μl)に転換された。新たに転換された細胞を氷上で5分間インキュベーションし、次いでカルベニシリン(50ng.μl-1)が補充された、事前に加温されたLB寒天板に蒔いた。寒天板は、16時間、37℃でインキュベーションした。
【0216】
1.2.2 プラスミドの制限消化
プラスミドから遺伝子またはポリヌクレオチド挿入を単利するため、制限エンドヌクレアーゼのFermentas FastDigest(登録商標)シリーズを使用して、提供された使用説明書に従ってプラスミドの制限消化を実行した。全ての制限消化反応は、37℃の水浴中、3時間実行された。
【0217】
1.2.3 線形発現ベクターの調製
プラスミドは、プラスミドDNA(100ng.μl-1)、Fermentas FastDigest(登録商標)Green緩衝液(1倍)およびFermentas FastDigest(登録商標)制限エンドヌクレアーゼを含有する制限消化反応(100μl)において上記のとおり線形化された。線形化ベクターは、制限エンドヌクレアーゼを最初に熱非活性化することなく、アガロースゲル電気泳動およびゲル抽出によって精製された。次いで、線形化ベクターの5’ホスフェートにより、提供された使用説明書に従ってAntarctic phosphatase(New England Biolabs)によって加水分解された。脱リン酸化ベクターをエタノール沈殿によって濃縮したが、これには、試料への3M酢酸ナトリウム(pH5.2)の添加(添加された体積:最初の試料体積の1/10)と、それに続く無水エタノールの添加(添加された体積:新たな試料体積の2倍)とが必要とされた。沈殿混合物を一晩、-20℃でインキュベーションした。次いで、沈殿したDNAは、30分間、13400rpmにおいてEppendorf miniSpin F-45-12-11ローター中で遠心分離機にかけられた。上清は廃棄し、かつ細胞ペレットを70%(v/v)エタノールで洗浄した。次いで、DNAペレットは、10分間、上記と同じローター中において同じ速度で遠心分離機にかけられた。上清を除去し、DNAペレットを20分間、換気フード中で風乾し、その後、ヌクレアーゼ水(50μl)中で再び懸濁させた。線形化ベクターの濃度は、分析的アガロースゲル電気泳動によって決定された。
【0218】
1.2.4 アガロースゲル電気泳動およびゲル抽出
プラスミド消化またはPCR増幅からの線形DNAフラグメントは、アガロースゲル電気泳動によって精製された。消化またはPCR生成物をアガロース(1%(w/v))、臭化エチジウム(1.78μM)、トリスアセテート(4mM)およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)(1mM)からなるアガロースゲル上に添加した。ゲル長さ1センチメートルあたり7Vの電位差をゲル全体に適用し、ポリヌクレオチドを溶解した。DNAを、トランスルミネーターを有するゲル上に視覚化し、かつ興味深いポリヌクレオチドを含有するゲルスライスをメスで削除した。ポリヌクレオチドは、QIAquick(登録商標)Gel抽出キットを用いてゲルスライスから精製された。ポリヌクレオチドの濃度は、分析的アガロースゲル電気泳動によって決定された。
【0219】
1.2.5 線形化プラスミド中への挿入の結合
遺伝子挿入は、結合反応において線形化プラスミド中へ結合された(20μl)。結合反応は、T4 DNAリガーゼ(1ユニット)およびT4 DNAリガーゼのためのFermentas緩衝液(1倍)と一緒に、3kb未満の長さの遺伝子挿入に関してモル比3:1、または3kbより長い長さの遺伝子挿入に関してモル比1:1における遺伝子挿入および線形ベクター(50ng)からなった。結合は、20分間、室温で実行され、かつ結合混合物(2.5μl)が大腸菌(E.coli)JM107への転換のためのプラスミドの供給源として使用され、これは、上記のとおりFermentas TransformAid細菌転換キットを使用して実行された。転換された細胞は、カルベニシリンで補充された、事前に加温されたLB寒天板上に蒔かれ、かつ16時間、37℃でインキュベーションされた。
【0220】
1.2.6 発現ベクターへのポリヌクレオチドのサブクローニング
新たなベクターへのポリヌクレオチドのサブクローン化のため、供給源ベクターを、最初にFermentas TransformAid(商標)細菌転換キットを使用して、それ(1ng)を大腸菌(E.coli)JM107中に転換することによって増幅して、次いで寒天板上でそれぞれ5つの固有のコロニーに対し、カルベニシリンで補充されたLB培養物(5ml)を調製した。5×5mlのLB+カルベニシリン培養物を16時間、250rpmにおいて振とうしながら37℃でインキュベーションし、次いでマニュアルに記載されるようにQIAGEN QIAprep(登録商標)Spinミニプレップキットを使用してプラスミドを培養物から精製した。興味深いポリヌクレオチドは、所望の5’および3’クローニング部位のそれぞれに対して必要とされる制限エンドヌクレアーゼの1μlを使用して、制限消化反応(20μl)においてそれぞれのプラスミド調製物から消化された。制限消化は一緒にプールされ、かつ新たなベクター中にサブクローン化されるポリヌクレオチドは、アガロースゲル電気泳動およびゲル抽出によって供給源ベクターの残余から精製された。結合反応は、挿入に対する補足的な粘着末端を有するように事前に調製された、線形化発現ベクターへのポリヌクレオチド挿入の結合のために確立された。結合反応(2.5μl)は、上記のとおり大腸菌(E.coli)JM107への転換のためのプラスミドの供給源として使用された。発現プラスミドは、転換体のプレートから単一コロニーをLB+カルベニシリン培養物(100ml)に接種して、16時間、200rpmにおいて振とうしながら37℃において培養物をインキュベーションし、かつQIAGENプラスミドMidiPrepキットを使用して培養物からプラスミドを精製することによって増幅された。
【0221】
1.2.7 発現ベクターを有する大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysSの転換
発現ベクター(1ng)は、大腸菌BL21(DE3)pLysS発現宿主に転換された。コンピテント細胞をNovagenから購入し、かつ氷冷された円形プラスミド(1ng)を氷冷されたコンピテント細胞(20μl)に添加した。転換混合物を42℃で30秒の熱ショック前に5分間、氷上でインキュベーションした。熱ショック後、細胞をさらに2分間、氷上でインキュベーションした。SOC培地(Novagen)(80μl)を転換された細胞に添加し、かつ細胞をカルベニシリン(50μg.ml-1)、クロラムフェニコール(34μg.ml-1)およびグルコース(1%、w/v)で補充されたLB寒天板に蒔く前に、60分間、250rpmにおいて振とうしながら37℃でインキュベーションした。寒天板を16時間、37℃でインキュベーションした。
【0222】
1.2.8 分析的アガロースゲル電気泳動
線形DNA同種性および濃度は、分析的アガロースゲル電気泳動によって決定した。アガロースゲルは、アガロース(1%(w/v))、臭化エチジウム(1.78μM)、トリスアセテート(4mM)およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)(1mM)からなった。DNA試料の固定体積(5μl)を、GeneRuler(商標)1kb Plus DNAラダー(Thermo Scientific)(5μl)と一緒にゲル上に装填した。試料の濃度を推測するため、GeneRuler(商標)1kb Plus DNAラダーのマニュアルに記載のとおり、試料バンドの強度をラダーの類似の径および既知の質量のバンドの強度と視覚的に比較した。
【0223】
1.2.9 ナトリウム-ドデシル-スルフェートポリアクリルアミドゲル電気泳動
試料(1.5ml)を細胞培養物から採取し、かつ細胞を10分間、5000gにおける遠心分離によってペレット化した。試料が採取されたときの各OD600ユニットの細胞培養物に対して100μlを使用して、細胞ペレットを細胞溶解緩衝液に再び懸濁させた。細胞溶解緩衝液は、リン酸カリウム緩衝液(100mM、pH7.5)、BugBuster細胞溶解清浄剤(Merck-Millipore)(1倍)、Benzonaseヌクレアーゼ(Sigma Aldrich)(0.01%、v/v)およびプロテアーゼ阻害薬カクテル(Roche)を含有した。再懸濁させた細胞を250rpmで振とうしながら20分間インキュベーションし、かつ4℃で20分間、18,000gにおいて遠心分離機にかけた。細胞ペレットを再懸濁させたときに使用したものと同じ体積を使用して、不溶性フラクションをリン酸カリウム緩衝液(100mM、pH7.5)中に再懸濁した。可溶性および不溶解性フラクションを、β-メルカプトエタノール(5%、v/v)を含有する2倍量Laemmli試料緩衝液(Bio-Rad)と混合した。試料を5分間、100℃で沸騰し、かつBio-Rad AnyKD TGXプレキャストゲル上に装填した。Tris/Glycine/SDSランニング緩衝液(Bio-Rad)中、200Vで電気泳動を実行した。5分間、緩やかに振とう(50rpm)しながら、室温で再蒸留水中にそれらを浸漬することによってゲルを洗浄した。水は除去され、かつ洗浄手順をさらに4回繰り返した。次いで、16時間、緩やかに振とうしながら、室温でEZBlue(商標)ゲル染色試薬(Sigma Aldrich)中に一晩(16時間)浸漬することによって染色した。
【0224】
1.3 実施例1 - メタクリリル-CoAからのメタクリル酸の製造:
アルスロバクター属(Arthrobacter sp.)SU株(Genbank受託番号AAC80224.1、Uniprot受託番号Q04416、EC番号3.1.2.23)からの酵素、4-ヒドロキシベンゾイル-CoAチオエステラーゼ(4HBT)は、構造上メタクリリル-CoAと関連する基質における既知の活性を有するチオエステラーゼに関するデータベースおよび文献調査後、メタクリリル-CoAの加水分解のための候補者チオエステラーゼとして識別された。
【0225】
4HBTに関してアミノ酸配列をコード化する遺伝子は、NotI制限部位が5’末端に組み込まれ、かつNdeI制限部位が3’末端に付加された状態で、Biomatik Corporationにより、大腸菌(E.coli)における発現のためにコドン最適化および合成された。
【0226】
合成されたポリヌクレオチド(配列番号1)は、pBMH::4HBTクローニングベクターに送達され、かつ4HBT遺伝子挿入は、NdeIおよびNotI制限部位において、事前に線形化されたpET20b(+)発現ベクター中にサブクローン化され、pET20b(+)::4HBTが形成した。次いで、新たに構成されたpET20b(+)::4HBTは、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLys中に転換され、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBTが形成した。
【0227】
4-ヒドロキシベンゾイル-CoAチオエステラーゼ酵素を発現するため、ブルコース、カルベニシリンおよびクロラムフェニコールで補充されたLB培地の発端培養物(20ml)を最初にグルコース、クロラムフェニコールおよびカルベニシリンで補充されたLB寒天板からの大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBTの単一コロニーで接種した。培養物が1.0のOD600に達するまで200rpmで振とうしながら37℃で発端培養物をインキュベーションした。次いで、細胞を4℃で15分間、5000gにおける遠心分離によって回収して、同じくグルコース、カルベニシリンおよびクロラムフェニコールで補充されたLB培地の中間培養物(100ml)に接種するために使用した。中間培養物も1.0のOD600まで200rpmにおいて振とうしながら37℃でインキュベーションされた。次いで、中間培養物中の細胞を4℃で15分間、5000gにおける遠心分離によって回収して、その後、2.5Lバッフル付き振とうフラスコ中で再びグルコース、カルベニシリンおよびクロラムフェニコールで補充された新しいLB培地(1L)中で再懸濁した。この培養物は、1.0のOD600まで200rpmにおいて振とうしながら37℃でインキュベーションされ、次いで0.4mMの最終濃度までイソプロプル-β-D-チオガラクトピランノシド(IPTG)の添加により、4HBTの発現が誘導された。培養物をさらに5.5時間、同じ条件下でインキュベーションした。培養物を均等に3本の遠心分離管に分割し、次いで細胞を4℃において20分間、5000gにおける遠心分離によって回収した。細胞が回収される前に採取された培養物の試料をSDS-PAGEによって分析したところ、タンパク質が非常に溶解性であり、良好に発現されていることが示された。各遠心分離管の細胞ペレットをアッセイ緩衝液(50ml)で3回洗浄した。このアッセイ緩衝液は、水酸化カリウムでpH7.5に調節された、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル])エタンスルホン酸(HEPES)(50mM)から構成されていた。細胞ペレットは、溶解するまで-80℃で冷凍した。このプロセスを大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)、空pET20b(+)ベクター陰性対照株で繰り返した。
【0228】
4HBT酵素の無細胞抽出液を調整するため、以前に調製された大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBTの細胞ペレットの1つをHEPES(50mM、pH7.5)アッセイ緩衝液に再懸濁させ、かつConstant Systems One Shot細胞破壊器中で溶解させた。細胞溶解物を4℃で15分間、18,000gにおいて遠心分離機にかけ、かつその上清を4℃でさらに60分間、57,750gにおいて遠心分離機にかけた。この上清を、VivaSpin Viva6 10,000 Molecular Weight Cut Off遠心分離濃縮装置を使用して、体積が1/6に減少するまで18℃で10,000gにおいて遠心分離機にかけ、続いてHEPESアッセイ緩衝液中で6倍に再希釈し、さらに遠心分離濃縮装置において体積を1/6に減少させて洗浄した。大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT過剰発現培養からの無細胞抽出液の合計タンパク質濃度は、BioRad DCアッセイキットを使用して、ウシ血清アルブミンをタンパク質標準として使用して実行された。大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)、陰性対照株の細胞ペレットからの無細胞抽出液を調製するために同じ手順を実行した。
【0229】
メタクリリル-CoAにおける活性に関して4HBT酵素を分析するため、メタクリリル-CoAを最初に調製した。メタクリリル-CoAの合成は、補酵素Aとメタクリル酸無水物との反応によって実行された。この反応は、リン酸ナトリウム緩衝液(100mM、pH8.5)中での補酵素A(20mM)およびメタクリル酸無水物(40mM)からなった。この反応物を氷上でインキュベーションし、かつ30分間、2分ごとにボルテックスし、最終反応混合を塩酸でpH3.5まで酸性化した。メタクリル酸副産物および未反応のメタクリル酸無水物を10mlの水飽和ジエチルエーテルでの4回の抽出によって除去した。メタクリリル-CoAが分析規模のカラム(Agilent Zorbax Eclipse XDB C18カラム、4.6mm×150mm)上での逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)によって精製された。試料(75μl)をC18カラム上に注入し、かつ1ml.分-1の流速で0.1%のトリフルオロ酢酸(TFA)中線形アセトニトリル勾配(1.8%~13.5%)によって40分間かけて溶出させた。主要ピークは、メタクリリル-CoA含有ピークであり、かつメタクリリル-CoA含有フラクションを回収し、プールした。アセトニトリルをロータリーエバポレーション(21℃、3kPa)によって除去し、メタクリリル-CoAおよびトリフルオロ酢酸の水溶液が残った。このメタクリリルCoAおよびトリフルオロ酢酸の溶液は、水酸化ナトリウムによってpH7にされ、かつ凍結乾燥前に液体窒素で急速冷凍された。TFAは、フリーズドライされた試料を無ヌクレアーゼ水(nuclease free water,10ml)に再溶解し、かつ一度は5ml、最終的に1mlの無ヌクレアーゼ水中でさらに2回凍結乾燥-再溶解サイクルを繰り返すことによって除去された。メタクリリル-CoAの濃度は、16800M1.cm-1のモル吸光係数で260nmにおける吸光度によって決定された。
【0230】
4HBTの粗酵素的アッセイを、無細胞タンパク質抽出液(1mg.ml-1)、メタクリリル-CoA(約100μM)、5’,5-ジチオビス-(2-ニトロベンゼン)酸(DTNB)(500μM)を含有するキュベット(1ml)中で実行した。反応は基質の添加によって開始され、かつ412nmで監視された。酵素的アッセイは、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)の無細胞抽出液に関して繰り返した。4HBT過剰発現株および空ベクター対照株の両方の無細胞抽出液に関する酵素アッセイも基質としてイソブチリル-CoAに対して繰り返した。
【0231】
4HBTの粗酵素アッセイは、4HBTがメタクリリル-CoAの加水分解に触媒作用を引き起こし、かつ基質としてイソブチリル-CoAを上回ってメタクリリル-CoAに対して選別性を示したことを明示した。
【0232】
4-ヒドロキシベンゾイル-CoAのチオエステラーゼをより良好に特徴付けるため、それが無細胞抽出液の一部である場合とは対照的に純粋な酵素として分析され得るように、酵素はHisタグ付けされた。酵素をHisタグ付けするため、ポリメラーゼ鎖反応が確立された。4HBTのHisタグ付けのためのフォワードプライマーおよびリバースプライマー、HHT.F(配列番号2)およびHHT.R(配列番号3)は、(5’-GGA-3’)配列を有する4HBTをコード化する遺伝子からの(5’-TAA-3’)停止コドンを置き換え、かつその直後に3’XhoI制限部位を導入するよう設計された。したがって、NdeIおよびXhoI制限部位間にpET20b(+)に戻るPCR生成物をクローン化するとき、グリシン-ロイシン-グルタメートスペーサー配列およびカルボキシ末端ヘキサヒスチジン(His)タグを有する4HBTをコード化するオープンリーディングフレームが作成された。
【0233】
ポリメラーゼ鎖反応混合物は、鋳型DNAとしてのpET20b(+)::4HBTプラスミド(50pg.μl-1)、KOD DNAポリメラーゼ(1ユニット)、プライマーHHT.F(0.4μM)、プライマーHHT.R(0.4μM)、デオキシアデノシン三リン酸(dATP)(0.2mM)、デオキシチミジン三リン酸(dTTP)(0.2mM)、デオキシシチジン三リン酸(dCTP)(0.2mM)、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)(0.2mM)、MgCl(1mM)およびKOD DNAポリメラーゼ用のNovagen緩衝液#1(1倍)を含有した。PCR混合物を、3分間の94℃で開始し、次いで94℃での30秒の融解、55℃での30秒の焼き鈍し、72℃での80秒の伸長の30回の反復を通してサイクルし、その後、5分間72℃で終了するようにプログラムされたサーモサイクラーに装填した。
【0234】
PCR生成物(配列番号4)は、アガロースゲル電気泳動、それに続くゲル抽出によって精製され、かつpJET1.2クローニングベクター中に平滑断端結合され、pJET1.2::CtHis-4HBTを形成した。次いで、挿入は、NdeIおよびXhoI制限部位間でpJET1.2::CtHis-4HBTからpET20b(+)へサブクローン化され、pET20b(+)を形成した。次いで、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS発現宿主は、pET20b(+)::CtHis-4HBTによって転換され、C末端ヘキサヒスチジンタグ付け4HBT発現宿主、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::CtHis-4HBTを形成した。
【0235】
次いで、純粋なカルボキシ末端Hisタグ付け4HBT酵素は、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBTと正確に同じ方法において、最初に大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::CtHis-4HBTの培養物を増殖させ、発現を誘発することによって調製された。発現の5.5時間後に採取された培養物からの試料は、カルボキシ末端Hisタグ付け4HBT酵素も非常に溶解性であり、かつ高レベルで発現されたことを示した。細胞は、細胞培養物を3本の遠心分離管に分割し、かつ4℃で20分間、5000gにおいて遠心分離にかけることによって回収された。細胞ペレットは洗浄されなかったが、代わりに直接-80℃において貯蔵された。カルボキシ末端ヘキサヒスチジンタグ付け4HBTの無細胞抽出液は、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::CtHis-4HBT細胞ペレットの1つをニッケル-セファローズ(Nickel-sepharose)FPLCカラム用の結合緩衝液(6ml)中で再懸濁することによって調製された。結合緩衝液は、NaHPO(10mM)、NaHPO(10mM)、NaCl(500mM)、イミダゾール(30mM)からなり、かつ塩酸(HCl)でpH7.4に調整された。それらをConstant Systems One Shot細胞破壊器中で溶解させる前に、再懸濁された細胞にBenzonase(登録商標)ヌクレアーゼ(0.6μl)を添加した。細胞溶解物を4℃で15分間、18,000gにおいて遠心分離機にかけ、かつその上清を4℃で60分間、57,750gにおいて遠心分離機にかけることによって浄化した。次いで、この上清を結合緩衝液で均衡化されたGE Healthcare HisTrap(商標)FF Crudeカラム(1ml)上に装填した。未結合タンパク質は、5カラム床体積の結合緩衝液でカラムから洗浄除去され、かつHisタグ付けタンパク質は、20カラムにわたる30mMから500mMまでの線形イミダゾール濃度勾配で溶出された。タンパク質溶出を280nmで監視し、かつSDS-PAGEにより、カルボキシ末端Hisタグ付け4HBTの存在および純度に関してフラクションをチェックした。純粋なCtHis-4HBTタンパク質を含有するフラクションをプールし、かつ溶出緩衝液をリン酸カリウムアッセイ緩衝液(100mM、pH7.5)で置き換える緩衝液交換は、VivaSpin Viva6 10,000 Molecular Weight Cut-Off遠心分離濃縮装置において実行された。緩衝液交換を実行するため、プールされたフラクションの量が1mlまで低下するまで、プールされたフラクションを18℃で10,000gにおいて遠心分離濃縮装置の限外ろ過膜を通して遠心分離機にかけた。残りのタンパク質フラクションは、リン酸カリウムアッセイ緩衝液で6倍に希釈し、1/6までの体積減少が達成されるまで、試料を同じ条件下で限外ろ過膜を通してさらなる遠心分離によって濃縮した。リン酸カリウムアッセイ緩衝液での後の希釈および再濃縮を再度実行し、かつCtHIS-4HBTタンパク質の濃度は、カルボキシ末端Hisタグ付け4HBT酵素に関して、20970M1.cm-1のモル吸光係数および17516.5mg.mmol-1の分子量を使用して、NanoDrop ND1000分光測光器においてUV280吸光度によって決定した。モル吸光係数および分子量の値は、Expasy ProtParamツールを使用し、pET20b(+)::CtHis-4HBTプラスミド中でカルボキシ末端Hisタグ付け4HBT酵素をコード化する遺伝子配列(配列番号5)のアミノ酸翻訳を使用して決定された。
【0236】
精製されたカルボキシ末端ヘキサヒスチジンタグ付け4HBT酵素の動力学的特徴決定は、以前に調製されたメタクリリル-CoAに対して、および(Sigma Aldrichからイソブチリル-CoAリチウム塩として購入された)イソブチリル-CoAに対して実行された。
【0237】
メタクリリル-CoA加水分解反応(200μl)は、精製されたCtHis-4HBTタンパク質(0.075mg.ml-1)および反応を監視するためのDTNB(0.5mM)を使用して、Nunc 96ウェルプレートにおいて実行された。最初の速度は、0.375mM、0.3mM、0.225mM、0.15mMおよび0.075mMのメタクリリル-CoA開始濃度に対して決定された。反応は酵素の添加によって開始した。
【0238】
イソブチリル-CoA加水分解反応(200μl)も、精製されたCtHIS-4HBTタンパク質(1mg.ml-1)および反応を監視するためのDTNB(0.5mM)を使用して、Nunc 96ウェルプレートにおいて実行された。最初の速度は、0.5mM、0.4mM、0.3mM、0.2mMおよび0.1mMのイソブチリル-CoA開始濃度に対して決定された。反応は酵素の添加によって開始した。
【0239】
Lineweaver-Burkeプロットをメタクリリル-CoA(図1)およびイソブチリル-CoA(図2)の両方の動力学的特徴決定のためにプロットした。メタクリリル-CoAに関するカルボキシ末端ヘキサヒスチジンタグ付け4HBTの速度定数は、1.6mMのKおよび470nmols.mg-1.分-1のVmaxであったのに対し、イソブチリル-CoAに関して、それらは3mMのKおよび16.7nmols.mg-1.分-1のVmaxであった。
【0240】
したがって、4HBTがメタクリリル-CoAの加水分解に触媒作用を引き起こし、かつメタクリル酸を製造するために使用可能であることが明示された。4HBTは、イソブチリル-CoAに関するよりも低いK値および高いVmax値でメタクリリル-CoAを加水分解するため、メタクリリル-CoAの加水分解は、有利に非常に選択的である。
【0241】
1.4 実施例2 - イソブチリル-CoAからのメタクリリル-CoAおよびメタクリル酸の形成
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)(Genbank受託番号AB017643.1、Uniprot受託番号Q96329、EC番号1.3.3.6)からの酵素短鎖アシル-CoAオキシダーゼ(ACX4)は、文献調査後、昆虫細胞株において発現する場合、基質としてイソブチリルCoAにおいて検出可能な活性を有するアシル-CoAオキシダーゼ酵素として識別された。
【0242】
このオキシダーゼが、代謝経路へのその組み込みのために基質としてのイソブチリル-CoAにおいて有用なレベルの活性で大腸菌(Escherichia coli)において機能的に発現できるかどうかを決定するため、ACX4に関してアミノ酸配列をコード化する遺伝子は、NdeI制限部位が5’末端で組み込まれ、かつXhoI制限部位が3’末端で組み込まれた状態で、Life Technologiesにより、大腸菌(E.coli)における発現のためにコドン最適化された。
【0243】
合成されたポリヌクレオチド(配列番号6)は、pMA-RQ::ACX4プラスミドに送達され、かつ遺伝子挿入は、NdeIおよびNotI制限部位において、事前に線形化されたpET20b(+)ベクター中にサブクローン化され、pET20b(+)::ACX4が形成した。次いで、新たに構成されたpET20b(+)::ACX4は、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLys中に転換され、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::ACX4が形成した。
【0244】
ACX4の発現を試験するため、カルベニシリンおよびクロラムフェニコールで補充されたMSX発端培養物をグルコース、クロラムフェニコールおよびカルベニシリンで補充されたLB寒天板からの大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::ACX4の単一コロニーで接種した。16時間、200rpmで振とうしながら37℃で発端培養物(20ml)をインキュベーションした。細胞を4℃で15分間、5000gにおける遠心分離によって発端培養物から回収し、かつ同じくクロラムフェニコールおよびカルベニシリンで補充されたMSX培地中間培養物(100ml)中に再懸濁させた。中間培養物は、1.0のOD600まで200rpmにおいて振とうしながら37℃でインキュベーションされた。次いで、4℃で15分間、5000gにおける遠心分離によって細胞を中間培養物から回収し、かつ2.5Lバッフル付き振とうフラスコ中でクロラムフェニコール、カルベニシリンおよびリボフラビンで補充された新しいMSX培地(1L)中で再懸濁した。この培養物は、0.7のOD600まで200rpmにおいて振とうしながら37℃でインキュベーションされ、次いで0.4mMの最終濃度までIPTGの添加によって発現が誘導された。培養物をさらに7時間、同じ条件下でインキュベーションし、その後、細胞を3本の遠心分離管に分割し、次いで4℃において20分間、5000gにおける遠心分離によって回収した。細胞が回収される前に採取された培養物の試料をSDS-PAGEによって分析したところ、ACX4タンパク質が良好に発現され、かつACX4タンパク質の1/3が可溶性フラクションに存在し、かつ2/3が不溶性フラクションに存在することが示された。細胞ペレットをKOHでpH7.5に調節されたHEPES緩衝液(50mM)で3回洗浄した。細胞ペレットは、溶解するまで-80℃で冷凍した。このプロセスを大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)陰性対照株で繰り返した。
【0245】
4HBT酵素の無細胞抽出液を調整するため、以前に調製された細胞ペレットの1つを10μMの最終濃度でフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)が補充されたHEPES(50mM、pH7.5)緩衝液(6ml)に再懸濁させた。次いで、再懸濁された細胞をConstant Systems One Shot細胞破壊器中で溶解させた。この溶解物を4℃で15分間、18,000gにおいて遠心分離機にかけ、かつその上清を4℃でさらに60分間、57,750rpmにおいて遠心分離機にかけた。この上清をVivaSpin Viva6 10,000 Molecular Weight Cut Off遠心分離濃縮装置において、残余物の体積が1/6に減少するまで18℃で10,000gにおいて遠心分離機にかけて濃縮した。残余物を再びFAD(10μM)ga補充されたHEPES緩衝液(50mM、pH7.5)中で6倍に再希釈することによって一度洗浄し、続いて遠心分離濃縮装置において1/6の体積減少による第2の濃縮ステップを行った。残余物における合計タンパク質濃度は、BioRad DCタンパク質アッセイキットを使用して、ウシ血清アルブミンをタンパク質標準として使用して決定された。
【0246】
イソブチリル-CoA(IB-CoA)、メタクリリル-CoA(MAA-CoA)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、メタクリル酸(MAA)および補酵素A(CoA-SH)を確認するため、分析的HPLC法が展開された。補酵素A、メタクリリル-CoAおよびイソブチリル-CoAは、それぞれ11.0分、30.8分および32.2分で溶出した。補酵素A、メタクリリル-CoAおよびイソブチリル-CoAは、それぞれ12分、31.6分および32.9分における主要ピークと関連する小テーリング(マイナー)ピークをそれぞれ有した(図3)。メタクリル酸は13.5分で溶出し、ACX4の粗分析において、かつイソブチリル-CoAおよびメタクリリル-Coa標準のための内標準として使用されるFADは27.8分で溶出した。
【0247】
補酵素A、メタクリル酸、イソブチリル-CoAおよびメタクリリル-CoAが無細胞抽出液からのピークと混同されなかったことを保証するため、HEPES緩衝液中の無ACX4細胞抽出液(0.8mg.ml-1)、精製されたCtHis-4HBT(0.6mg.ml-1)およびFAD(10μM)を使用して非基質対照を実行した。補酵素A、メタクリル酸、メタクリリルCoAまたはイソブチリル-CoA溶出時間においてピークは観察されなかった(図4)。
【0248】
ACX4の活性試験は、1.5mlの極小遠心分離管で実行された。粗酵素反応は、HEPES緩衝液(50mM、pH7.5)中の無細胞ACX4タンパク質抽出液(0.8mg.ml-1)、イソブチリル-CoA(500μM)およびフラビンアデニンジヌクレオチド(10μM)からなった。反応物は、30分間、250rpmにおいて振とうしながら1.5mlの極小遠心分離管中で30℃においてインキュベーションされ、最終反応生成物は、分析的HPLCによって分析された(図5)。メタクリリル-CoAが、30.7分においてピークを有する主生成物であった。粗酵素アッセイ中に形成されたメタクリル酸の濃度は74μMであった。
【0249】
メタクリリル-CoAのピークが本物であることと、それが、溶出時間がシフトしたイソブチリル-CoAのピークではないこととを確認するため、試料にイソブチリル-CoAを添加し、再びHPLCによって分析した。試料が酸性化されたときにACX4は非活性化され、かつこれによりいずれの追加のイソブチリル-CoAもメタクリリル-CoAに変換されないであろうことを保証した。実際、イソブチリル-CoAを添加した試料は、最初のメタクリリル-CoAピークのみではなく、イソブチリル-CoAの特徴的テールピークを有する32分における追加のピークも示した(図6)。
【0250】
メタクリル酸は、酵素結合反応においてイソ酪酸から製造され得るかどうかを決定するため、それによって粗ACX4が精製されたCtHis-4HBT酵素とインキュベーションされる実験が確立された。ACX4の同じ無細胞抽出液がACX4のためのタンパク質供給源として使用されたが、純粋なCtHis-4HBTは、実施例1の動力学的特徴決定に関するものと同じであるが、以前に使用されたホスフェート緩衝液の代わりに、最後にHEPES緩衝液(50mM、pH7.5)への緩衝液変更が実行される方法で再び調製された。したがって、粗ACX4(0.8mg.ml-1)は、HEPES緩衝液中のFAD(10μM)およびイソブチリル-CoA(500μM)と一緒に純粋なCtHis-4HBT(0.6mg.ml-1)と同時インキュベーションされた。試料を30分間250rpmにおいて振とうしながら30℃においてインキュベーションし、かつHPLCによって分析した。メタクリル酸および補酵素Aが主生成物であった。メタクリル酸のピークは13.45分で観察されたが、補酵素Aの主要およびマイナーピークは、それぞれ11.1分および12.1分で観察された。結合酵素反応(図7)中に生成されたメタクリル酸の濃度は、粗ACX4アッセイ中のみのものより4.7倍高く、かつ345μMであった。
【0251】
これにより、ACX4がイソブチリル-CoAを酸化させることが確認される。生体外でのACX4と4HBTとの組合せがイソブチリル-CoAからメタクリル酸への変換を工業的に適用可能なレベルまで可能にすることがさらに実証された。
【0252】
1.5 実施例3 - イソ酪酸からメタクリル酸への全細胞生体内変換
補酵素Aによってイソ酪酸を活性化して、イソブチリル-CoAを形成するためのアシル-CoAシンテターゼを使用する、イソ酪酸からメタクリル酸へのさらなる生体内変換が本実施例において示され、かつイソブチリル-CoAをメタクリリル-CoAへ酸化させるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からのアシル-CoAオキシダーゼACX4、ならびにメタクリリル-CoAをメタクリル酸へ加水分解するアルスロバクター属(Arthrobacter sp.)SU株からのアシルCoAチオエステラーゼ4HBTおよび補酵素Aも示される。
【0253】
シュードモナス・クロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)B23(Genbank受託番号:BAD90933.1、uniprot受託番号:Q5CD72)からのアシル-CoAシンテターゼAcsAは、データベースおよび文献調査から、0.14mMの発表されたミカエリス(Michaelis)定数(k)および10.6秒-1のターンオーバー数(kcat)でイソ酪酸をイソブチリル-CoAへ活性化することができるAMP形成アシル-CoAシンテターゼとして識別された。
【0254】
本実施例において、本発明者らは、pET20b(+)のT7促進因子の制御下での単一操作から、4HBT、ACX4およびAcsAをコード化する遺伝子の同時発現のためのpET20b(+)ベースのベクター、pET20b(+)::4HBT-ACX4-AcsAの構成、ならびにイソ酪酸からメタクリル酸への全細胞生体内変換のための代謝経路をコード化するためのその使用を実証する。
【0255】
オペロンの構成は2段階で実行された。第1段階は、4HBTおよびACX4のみをコード化する遺伝子の同時発現のためのpET20b(+)ベースのベクター、pET20b(+)::4HBT-ACX4の構成を含み、一方、第2段階は、最終的なpET20b(+)::4HBT-ACX4-AcsAプラスミドを構成するための、適所にそのリボソーム結合部位を有するpET20b(+)::4HBT-ACX4ベクターへのAcsAをコード化する遺伝子のサブクローン化が関与した。
【0256】
pET20b(+)::4HBT-ACX4ベクターを構成するため、4HBTおよびACX4をコード化する遺伝子が最初に単一ポリヌクレオチド中に結合し、かつ後者の効率的な翻訳を保証するため、4HBTをコード化する遺伝子およびACX4をコード化する遺伝子間に新たなリボソーム結合部位があった。2つの遺伝子を一緒に結合させるため、オーバーラップ伸長ポリメラーゼ鎖反応が実行された。オーバーラップ伸長ポリメラーゼ鎖反応は、それ自体、2ステップで実行された。最初に、4HBTをコード化する遺伝子およびACX4をコード化する遺伝子は、2つの別個のポリメラーゼ鎖反応、反応「A」および「B」において、それらのそれぞれの発現ベクター、pET20b(+)::4HBTおよびpET20b(+)::ACX4から増幅された。
【0257】
オーバーラップ伸長ポリメラーゼ鎖反応のために使用されるプライマーは、プライマーOE.A.F(配列番号7)、オーバーラップ伸長ポリメラーゼ鎖反応Aのためのフォワードプライマー;プライマーOE.A.R(配列番号8)、ポリメラーゼ鎖反応Aのリバースプライマー;プライマーOE.B.F(配列番号9)、オーバーラップ伸長ポリメラーゼ鎖反応Aのためのフォワードプライマー、および最終的にOE.B.R(配列番号10)、オーバーラップ伸長ポリメラーゼ鎖反応Aのためのリバースプライマーであった。プライマーOE.A.Fの突出部は、新たなポリヌクレオチドの5’末端においてNdeI制限部位を維持するよう設計された。プライマーOE.A.RおよびOE.B.Fの突出部は、反応AおよびBからの2種のPCR生成物の連結を可能にするために、互いに補足的配列を含有するよう設計された。補足的配列は、2種のPCR生成物の連結において、4HBT遺伝子およびACX4遺伝子間の遺伝子間配列が、後者の遺伝子のための新たなリボソーム結合部位を含有するように導入されるように設計された。最終的に、プライマーOE.B.Rの突出部は、2種の制限部位、NheI制限部位およびXhoI制限部位を含有するように設計された。これにより、4HBTおよびACX4遺伝子を含有する連結されたポリヌクレオチドが、そのNdeIおよびXhoI制限部位においてpET20b(+)プラスミド中にクローン化され、pET20b(+)::4HBT-ACX4を形成することが可能となり、かつAcsA遺伝子が、NheIおよびXhoI制限部位間でpET20b(+)::4HBT-ACX4プラスミド中にクローン化されて、pET20b(+)::4HBT-ACX4-AcsAプラスミドを形成することが可能となった。アデニンおよびチミンリッチスペーサー配列は、それが他のプライマーの焼き鈍し温度とより近く一致するようにプライマーの焼き鈍し温度を低下するため、かつ隣接するNheIおよびXhoI制限部位における効率的な二重消化を可能にするため、プライマーOE.B.RにおいてNheIおよびXhoI制限部位間に含まれた。
【0258】
ポリメラーゼ鎖反応物A(50μl)は、鋳型DNAとしてのpET20b(+)::4HBT(10pg.μl-1)、KOD DNAポリメラーゼ(1ユニット)、プライマーOE.A.F(0.4μM)、プライマーOE.A.R(0.4μM)、デオキシアデノシン三リン酸(dATP)(0.2mM)、デオキシチミジン三リン酸(dTTP)(0.2mM)、デオキシシチジン三リン酸(dCTP)(0.2mM)、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)(0.2mM)、MgCl(1mM)およびKOD DNAポリメラーゼ用のNovagen緩衝液(1倍)を含有した。
【0259】
ポリメラーゼ鎖反応物A(50μl)は、鋳型DNAとしてのpET20b(+)::ACX4(20pg.μl-1)、KOD DNAポリメラーゼ(1ユニット)、プライマーOE.B.F(0.4μM)、プライマーOE.B.R(0.4μM)、dATP(0.2mM)、dTTP(0.2mM)、dCTP(0.2mM)、dGTP(0.2mM)、MgCl(1mM)およびKOD DNAポリメラーゼ用のNovagen緩衝液(1倍)を含有した。
【0260】
両PCR反応は、平行に同じ条件下で実行され、3分間の95℃における最初の変性ステップで開始して、続いて15秒の98℃における変性ステップ、2秒の50℃における焼き鈍しステップおよび20秒の72℃における伸長ステップからなる25回のサイクルが実行された。これらの25回のサイクルに続いて、さらに5分間の72℃における伸長ステップが実行された。2種の二重鎖PCR生成物、生成物Aおよび生成物Bは、アガロースゲル電気泳動およびゲル抽出によって精製され、かつそれらの濃度は、分析的アガロースゲル電気泳動によって決定された。
【0261】
次いで、PCR生成物AおよびBは、PCR生成物A(15nM)、PCR生成物B(15nM)、dATP(0.2mM)、dTTP(0.2mM)、dCTP(0.2mM)、dGTP(0.2mM)、MgCl(1mM)、KOD DNAポリメラーゼ用Novagen緩衝液#1(1倍)、ジメチルスルホキシド(5%(v/v))およびKOD DNAポリメラーゼ(8nl/μl)からなる第2のポリメラーゼ連鎖反応において連結された。この反応は、3分間95℃において開始し、かつ15秒の98℃における変性ステップ、2秒の50℃での焼き鈍しステップおよび20秒の72℃における伸長ステップの15回のサイクルが続けられ、最終的に72℃において5分間続くさらなる伸長ステップによって終了するようにプログラムされたサーモサイクラーにおいて実行された。
【0262】
このPCRプログラム後、AおよびBの増幅において使用されたアウターフォワードプライマーおよびアウターリバースプライマーは、それぞれ濃縮原料(50μM)から0.5μMの最終濃度まで直接添加された。次いで、変性PCR反応混合物は、95℃における最初の3分間の融解ステップで開始され、かつ98℃における15秒間続く融解ステップ、55℃における2秒間続く焼き鈍しステップおよび72℃における20秒間続く伸長ステップからなる15回のサイクルが続き、その後、72℃における5分間続くさらなる伸長ステップで終了するようにプログラムされたサーモサイクラーを用いて別のPCRを受けさせた。
【0263】
この連結ステップの生成物(配列番号11)は、アガロースゲル電気泳動およびゲル抽出によって精製され、かつpJET1.2クローニングベクター中に平滑断端結合され、pJET1.2::4HBT-ACX4を形成した。連結された4HBTおよびACX4遺伝子を含有するポリヌクレオチドは、次いでpET20b(+)中にサブクローン化され、pET20b(+):4HBT-ACX4が形成された。pET20b(+)::4HBT-ACX4プラスミドは、次いでNheIおよびXhoI制限部位における制限消化によって線形化された。
【0264】
pET20b(+)::4HBT-ACX4-AcsAプラスミドの構成の次の段階のために、AcsAのアミノ酸配列をコード化する遺伝子は、大腸菌(E.coli)における発現のためにコドン最適化され、かつ3’末端に付加されたXho制限部位および5’末端に付加された短い配列を有するようにBiomatik corporationによって合成された。この配列は、NheI制限部位、リボソーム結合部位、およびAcsAの開始コドンと一緒にNdeI制限部位をコード化したシトシン-アデニン-チミントリヌクレオチドで終了するスペーサー配列を含有した。
【0265】
合成されたコドン最適化AcsAポリヌクレオチド(配列番号12)は、ppBMH::AcsAクローニグプラスミドに送達され、かつAcsA遺伝子は、その5’リボソーム結合部位と一緒に線形化pET20b(+)::4HBT-ACX4ベクター中にNheIおよびXhoI制限部位間でサブクローン化されて、pET20b(+)::4HBT-ACX4-AcsAプラスミドが形成された(図8)。このプラスミドは、次いで大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS中に転換され、大腸菌(E.coli)(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT-ACX4-AcsAが形成された。pET20b(+)::4HBT-ACX4-AcsAプラスミド中のNdeIおよびXhoI制限部位間であり、かつそれらを含む配列は配列番号13に示される。
【0266】
AcsA遺伝子のみの発現のための株を構成するため、AcsA遺伝子は、単独でpBMH::AcsAクローニングベクターからpET20b(+)中にNdeIおよびXhoI制限部位間でサブクローン化されて、pET20b(+)::AcsAが形成された。pET20b(+)::AcsAプラスミドは、次いで大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysSに転換され、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::AcsAが形成された。
【0267】
大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT-ACX4-AcsAによる4HBT、ACX4およびAcsAの同時発現は、リボフラビン(1mg.l-1)が補充されたMSX培地中、2つの異なる試験温度、37℃および28℃において大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT-ACX4-AcsAの培養液(100ml)をインキュベーションすることによって確認された。培養物は、0.5のOD600まで培養され、発現はIPTG(0.4mM)の添加によって誘導された。試料を、発現誘導の直前ならびに発現後1時間、3時間、5時間および20時間において採取した。実施例2において調製された対照株大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::ACX4および大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::AcsAも同じ条件下で培養した。大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT-ACX4-AcsAにおける4HBT、ACX4およびAcsAの同時発現中に採取された試料、ならびに大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::ACX4におけるACX4のみ、および大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::AcsAにおけるAcsAのみの発現中に採取された試料をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって分析した。
【0268】
SDS-PAGEによる分析(図9)は、発現が37℃において実行された場合、誘導から5時間後、不溶性タンパク質の検出が非常に低い状態で高レベルの可溶性4HBT(左側底部のバンド)および良好なレベルのACX4(左側上部のバンド)が検出されるが、可溶性フラクションAcsAタンパク質が見られない状態で高レベルの不溶性AcsA(右側上部のバンド)が検出される。レーン1)空pET20b(+)ベクター陰性対照。2)スペクトルBRタンパク質ラダー。3)pET20b(+)::4HBT-ACX4-AcsA発現、0時間、可溶性。3)3時間、可溶性。4)5時間、可溶性。5)0時間、不溶性。6)pET20b(+)::AcsA発現、5時間、可溶性。7)pET20b(+)::ACX4、可溶性。8)pET20b(+)::4HBT、可溶性。9)pET20b(+):4HBT-ACX4-AcsA、0時間、不溶性。10)pET20b(+):4HBT-ACX4-AcsA、3時間、不溶性。11)pET20b(+):4HBT-ACX4-AcsA、5時間、不溶性。12)pET20b(+)::AcsA、5時間、不溶性。
【0269】
イソブチル酸をメタクリル酸へ変換する大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT-ACX4-AcsAの能力を試験するため、カルベニシリンおよびクロラムフェニコールで補充されたMSXプレ培養物(20ml)をグルコース、クロラムフェニコールおよびカルベニシリンで補充されたLB寒天板において大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysSpET20b(+)::4HBT-ACX4-AcsAの単一コロニーから接種し、かつ16時間、200rpmで振とうしながら37℃においてインキュベーションした。細胞を4℃で15分間、5000gにおける遠心分離によって回収し、かつ250ml振とうフラスコ中でカルベニシリン、クロラムフェニコールおよびリボフラビンで補充されたMSX培地(100ml)中に再懸濁させ、この培養物を200rpmにおいて振とうしながら37℃でインキュベーションした。遺伝子の同時発現は、0.5のOD600においてIPTG(0.4mM)の添加によって誘導された。培養物をさらに1時間インキュベーションし、その後、500mMの濃縮原料濃度から培養培地中での5mMの最終濃度までイソ酪酸カリウム(pH7.0)の添加を実行した。試料は、イソ酪酸の添加の直後(0時間試料)、次いで添加後1時間、2時間、4時間、6時間、8時間および19.5時間において採取された。
【0270】
イソ酪酸からメタクリル酸への全生体内変換において採取された試料は、6000rpmにおいて5分間、Eppendorf miniSpin F-45-12-11ローター中で遠心分離機にかけられた。上澄みは、0.2μm Sartorius RC 4mmフィルターを通してろ過されて、次いで5M HClでpH2.5に酸性化された。酸性化された上清をAgilent Zorbax Eclipse XDB C18カラム(4.6mm×150mm)に注入した。HPLCを0.4ml.分-1で実行し、かつメタクリル酸は、HClでpH2.5に調節されたKHPO中14%のアセトニトリルによる定組成溶出により、イソ酪酸から溶解された。条件が次の試料のための0.4ml.分-1の流速および14%のアセトニトリルに戻される前に、15分間、流速を1ml.分-1にかつアセトニトリル濃度を75%に増加させることによってカラムを運転間に洗浄した。カラムは、次の試料の注入前に20分間、均衡化することが可能であった。
【0271】
3種の陰性対照も実行および分析した。第1の対照は、陰性対照株、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)であり、これは4HBT-ACX4-AcsA同時発現オペロンを含まず、かつIPTGが培養培地に添加された後、イソ酪酸が培地に添加されない状態で培養された。第2の対照は、第1の対照において使用されたものと同じ株を使用したが、培養培地へのIPTGの添加から1時間後にイソ酪酸(5mM)が添加された。第3の対照は、主要生体内変換培養で使用されたものと同じ大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT-ACX4-AcsAを使用したが、4HBT、ACX4およびAcsAの同時発現の誘導後、イソ酪酸が培養培地に添加されなかった。
【0272】
HPLCトレースの要約は図10に観察され、これは、試験された全4種の培養物から誘導後20.5時間で採取された試料のトレースである(19.5時間の生体内変換時間)。図10Cは、イソ酪酸の標準(5mM)であり、かつ図10Eは、メタクリル酸の標準(200μM)と混合されたイソ酪酸の標準(5mM)である。図10A、10Bおよび10Dは、メタクリル酸がいずれの対照においても形成されなかったことを示し、かつ図10Fは、生体内変換中にメタクリル酸が実際に形成されたことを示す。
【0273】
図11は、経時的なメタクリル酸の製造、ならびにメタクリル酸の所望の生成物の最終濃度が約0.25mMである生体内変換中の大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT-ACX4-AcsAの増殖を要約する。
【0274】
本実施例において、工業的に適用可能なレベルでイソ酪酸供給原料をメタクリル酸に変換するための全細胞プロセスが、組換型大腸菌中で、生体外において、4HBT、ACX4およびAcsAの同時発現によって実証された。
【0275】
1.6 実施例4 - グルコースからのメタクリル酸の形成
シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KT2440からの分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ複合体は、以前に大腸菌(E.coli)におけるイソ酪酸の製造のための組換型代謝経路における2-ケトイソ吉草酸からイソブチリル-CoAへの酸化性脱炭酸に触媒作用を引き起こすことが示された(Zhang,K.,Xiong,M.and Woodruff,A.P.2012,Cells and methods for producing isobutyric acid、国際公開第2012/109534A2号パンフレット)。分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ複合体の分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼアルファサブユニット(bkdA1)、分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼベータサブユニット(bkdA2)、リポアミドアシルトランスフェラーゼ成分(bkdB)およびリポアミドデヒドロゲナーゼ成分(lpdV)をコード化している遺伝子は、互いに隣接してグループ化し、かつ全てシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KT2440ゲノムDNA(genbank受託番号AE015451.1)における単一促進因子の制御下で見出される。
【0276】
bkdA1、bkdA2、bkdVおよびlpdV遺伝子をコード化する全野生型配列は、それらがヌクレオチド4992042および4996988間でシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KT2440ゲノムDNAに出現するように、単一、ppBCKD、ポリヌクレオチド(配列番号14)としてBiomatik corporationによって合成された。ppBCKDポリヌクレオチドは、3’末端においてXhoI制限部位と、bkdA1遺伝子の開始コドンの直前に5’末端において短配列とを含有した。この5’付加配列は、XbaI制限部位、スペーサー配列、NheI制限部位、リボソーム結合部位および第2のスペーサー配列を含有した。XbaI部位は、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KT2550分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼの4種の遺伝子を発現することができるpET20b(+)::ppBCKDの構成のためのpET20b(+)プラスミドへのppBCKDポリヌクレオチドの挿入を可能にするために含まれていた。第1のスペーサー配列は、リボソーム結合部位の直前にNheI部位をコード化する6つのヌクレオチドを例外として、pET20b(+)プラスミドに存在するように、pET20b(+)::ppBCKDプラスミドにおけるT7促進因子およびリボソーム結合部位間に同数の塩基対を維持するために含まれ、かつスペーサー配列は、pET20b(+)プラスミドにおけるXbaI部位およびリボソーム結合部位間のものと同じである。NheI制限部位は、pET20b(+)::4HBT-ACX4-ppBCKDを構成するために、pET20b(+)::4HBT-ACX4中にppBCKDポリヌクレオチドの挿入を可能にするために含まれた。リボソーム結合部位およびスペーサー配列は、BCKD遺伝子が以前に報告されたイソ酪酸の製造のために発現する場合、bkdA1遺伝子の直前に使用されたものと同じであった(Zhang,K.,Xiong,M.and Woodruff,A.P.2012,Cells and methods for producing isobutyric acid、国際公開第2012/109534A2号パンフレット)。
【0277】
シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KT2440分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼの4種の遺伝子を含有する単一ポリヌクレオチドは、pBSKプラスミド(pBSK::ppBCKD)に送達された。4種の遺伝子は、pBSK::ppBCKDプラスミドから、実施例2からのpET20b(+)::4HBT-ACX4プラスミドへNheIおよびXhoI制限部位間でサブクローン化され、pET20b(+)::4HBT-ACX4-ppBCKDが形成された(図12)。配列番号15は、ET20b(+)::4HBT-ACX4-ppBCKDプラスミドにおけるNdeIおよびXhoI制限部位間の配列を示す。pET20b(+)::4HBT-ACX4-ppBCKDプラスミドは、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT-ACX4-ppBCKDを形成するため、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysSに変換された。同様に、4種の遺伝子は、NheIおよびXhoI制限部位間でpET20b(+)プラスミド中にサブクローン化され、pET20b(+)::ppBCKDが形成し、かつこのプラスミドは、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::ppBCKDを形成するため、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysSに変換された。この後者の株は、発現研究(示されない)中、bkdA1、bkdA2、bkdBおよびlpdV遺伝子に対応するSDS-PAGEゲルにおけるバンドを識別するために有用となるように使用された。
【0278】
カルベニシリンおよびクロラムフェニコールで補充されたMSXプレ培養物(10ml)は、グルコース、カルベニシリンおよびクロラムフェニコールで補充されたLB寒天板上の単一コロニーからの大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT-ACX4-ppBCKDで接種された。培養物は、16時間、250rpmにおいて振とうしながら37℃においてインキュベーションした。細胞を4℃で15分間、5000gにおける遠心分離によって回収し、かつ500ml振とうフラスコ中でリボフラビンならびにカルベニシリンおよびクロラムフェニコールで補充された新しいMSX培地(100ml)中に再懸濁させた。この新たな培養物を250rpmにおいて振とうしながら37℃でインキュベーションし、かつ発現は、0.5のOD600において、IPTG(0.4mM)の添加によって誘導された。培養物をさらに17時間インキュベーションし、その後、試料を逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)による分析のために採取した。大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)陰性対照培養物のために繰り返しの培養を実行した。
【0279】
試料は、6000rpmにおいて5分間、Eppendorf miniSpin F-45-12-11ローター中で遠心分離機にかけられた。上澄みは、0.2ミクロンSartorius RC 4mmフィルターを通してろ過されて、次いで5M HClでpH2.5に酸性化された。酸性化された上清をAgilent Zorbax Eclipse XDB C18カラム(4.6mm×250mm)に注入した。HPLCを1ml.分-1で実行し、かつ分析物は、HClでpH2.5に調節された50mM KHPO中14%のアセトニトリルによる定組成溶出によって溶解された。20分間の再均衡化ステップのための14%のアセトニトリルに戻される前に、15分間、アセトニトリル濃度を75%に増加させることによってカラムを運転間に洗浄した。
【0280】
メタクリル酸(0.2mM)、イソ酪酸(5mM)および2-ケトイソ吉草酸(5mM)の標準は、それぞれ3.6分、8.3分および8.6分において、かつそれぞれ5980mAU.分、330mAU.分および1580mAU.分のピーク面積で溶出した。2-ケトイソ吉草酸(5mM)、イソ酪酸(5mM)およびメタクリル酸(200μM)のカクテルのHPLC分析を図13に示す。
【0281】
大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)陰性対照培養物から採取した試料のHPLC分析を図14に示す。これによると、メタクリル酸に対して予測される領域においてピークは示されなかった。一方、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT-ACX4-ppBCKD培養物から採取した試料の分析では、8.6分において、0.88AU.分のピーク面積を有するピークが示され、これは0.11mMのメタクリル酸濃度に対応する(図15)。
【0282】
ピークが実際にメタクリル酸を表していることを確認するため、試料に10mM貯蔵溶液からの追加の0.24mMメタクリル酸を添加し、かつこの追加試料もHPLCによって分析した。これを図16に示す。0.34mMのメタクリル酸濃度に対応する2.7AU.分の面積を有する単一ピークが8.5分において観察され、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT-ACX4-ppBCKD株がグルコースからメタクリル酸を直接製造することが裏付けられた。
【0283】
培養物に2-ケトイソ吉草酸を補充することにより、メタクリル酸製造を増強することができるかどうかを決定するため、カルベニシリンおよびクロラムフェニコールが補充された2種のMSXプレ培養物(10ml)を再び調製し、一方では大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT-ACX4-ppBCKDを接種し、他方では上記のとおり大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)を接種した。プレ培養物を16時間、250rpmにおいて振とうしながら37℃においてインキュベーションし、その後、細胞をペレット化し、かつ500ml振とうフラスコ中でリボフラビン、クロラムフェニコールおよびカルベニシリンで補充された新しいMSX培地(100ml)中に再懸濁させた。発現は、各培養物中、0.5のOD600においてIPTG(0.4mM)の添加によって誘導され、かつ培養物をさらに3時間インキュベーションし、その後、各培養物中、5mMの最終濃度まで2-ケトイソ吉草酸(pH7.0)を添加した。培養物をさらに14時間インキュベーションした。2-ケトイソ吉草酸が補充されていない培養物に関して記載されたとおり、培養物試料を採取し、かつ定組成溶出によって高速液体クロマトグラフィーによって分析した。
【0284】
空大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)陰性対照培養物に2-ケトイソ吉草酸が添加された14時間後に採取された試料のHPLC分析を図17に示す。これによると、メタクリル酸は、通常、予測されたように観察される領域においてピークを示さなかった。しかしながら、これには、いくらかの2-ケトイソ吉草酸のバックグラウンド消費(図6)が示された。この培養物中の2-ケトイソ吉草酸のピーク面積は、3353mAU.分であり、最初に5mMであったのに対し、2.8mMの2-ケトイソ吉草酸が残留することに対応した。
【0285】
2-ケトイソ吉草酸からメタクリル酸への転換のための遺伝子を発現する培養物、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)pLysS pET20b(+)::4HBT-ACX4-ppBCKD培養物に2-ケトイソ吉草酸が添加された14時間後に採取された試料の場合、HPLCトレース上、8.4分において1890mAU.分のピーク面積を有するピークが出現し(図18)、メタクリル酸が0.24mMの濃度まで製造されたことを示した。この試料では、2-ケトイソ吉草酸は検出されず、これは2-ケトイソ吉草酸からメタクリル酸への転換中に完全に消費されたことを示す。
【0286】
試料に追加の0.24mMメタクリル酸を添加し、かつこの追加試料の分析(図19)によると、3.4AU.分のピーク面積を有するピークが示され、これは0.44mMのメタクリル酸濃度に対応し、したがって最初のメタクリル酸ピークは本物であった。
【0287】
本実施例において、分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ、すなわちシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KT2440からのBCKDは、細胞系においてアシル-CoAオキシダーゼ、すなわちシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からのACX4、およびチオエステラーゼ酵素、すなわちアルスロバクター属(Arthrobacter sp.)SU株からの4HBTと同時発現した。組換型大腸菌(E.coli)を使用してバイオマスから容易に入手可能なグルコースなどの重要な供給原料からのメタクリル酸の製造が可能であることと、さらに前記メタクリル酸の製造が2-ケトイソ吉草酸で培地を補充することによって増強可能であることとが実証された。
【0288】
1.7 実施例5:組換型大腸菌(Escherichia coli)による2-ケトイソバレレートからのメタクリル酸ブチルの全細胞製造
シロイヌナズナ(A.thaliana)からのACX4遺伝子は、大腸菌(E.coli)に対してコドン最適化および合成され、かつpET16b(Sse)ベクター中にクローン化された。遺伝子は、NheI/Sse8387Iによって消化され、かつXbaI/Sse8387Iによって消化されたpET16b(Sse)中に結合された。得られたプラスミド、pMMA121(図20を参照されたい)は、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)中に導入され、かつ組換型大腸菌(E.coli)(BL21(DE3)/pMMA121)を以下のように培養した;BL21(DE3)/pET16b(ベクター対照)またはBL21(DE3)/pMMA121をアンピシリン(0.1mg/ml)が補充されたLB培地に接種し、かつ37℃において試験管中で一晩増殖させた。一晩培養物のアリコートをフラスコ中で100mlの同じ媒体中に移し、かつ2~3時間、37℃で振とうした。IPTG(最終1mM)をフラスコに添加し、かつ培養物を一晩、20℃で振とうしながらインキュベーションした。
【0289】
細胞を遠心分離機によって回収し、かつ0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)中に懸濁させ、次いで超音波処理によって破壊させた。破壊された大腸菌(E.coli)細胞は、上清およびペレットフラクションに遠心分離され、かつベクター対照およびpMMA121を含有する細胞の両方を、SDS-PAGEにより、ACO(アシル-CoAオキシダーゼ)活性(図21を参照されたい)およびACX4タンパク質の発現に関して分析した(図22を参照されたい)。図21は、緩衝液中ではIBA-CoAのみが存在すること、未変化のプラスミドpET16bのみを含む細胞を含有する試料中ではIBA-CoAおよび少量のCoAが存在することと、プラスミドpMMA121を含む細胞を含有する試料中ではMAA-CoAならびにより小量のIBA-CoAおよび未知の化合物が存在することとを示す。したがって、BL21/pMMA121の上清フラクションにおいて高いACO活性が検出され、これはメタクリリルCoAの製造を示しており、図22のSDS-PAGEによって検出された40kDaのタンパク質がACX4タンパク質であることが示された。SDS-PAGE)は、レーン1-BL21/pET16b(ベクター)SF(可溶性フラクション);レーン2-BL21/pMMA121 SF;レーン3-BL21/pET16b IF(不溶性フラクション);レーン4-BL21/pMMA121 IF;およびレーン5-分子量マーカーを示す。約40kDaの(ブラックボックスによってハイライトされた)バンドは、BL21/pET16b(ベクター)レーンではなく、BL21/pMMA121レーンでのみ観察された。
【0290】
BCKAD複合体遺伝子は、以下のように緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)PA01株からクローン化された。BCKAD複合体遺伝子をコード化する全遺伝子オペロンを含有するDNA断片は、鋳型としてゲノムDNAを使用する、プライマーBCKAD.FおよびBCKAD.R(1.1.3の表)によるPCR法によって得られた。得られた断片は、制限酵素BspHIおよびSse8387Iによって消化され、かつNcoI/Sse8387I間でベクターpET16b(Sse)に挿入された(pET16bのBamH部位は、Sse8387I部位に変換された)。得られたプラスミドは、pWA008と命名された(図23を参照されたい)。
【0291】
リンゴAATおよびシロイヌナズナ(A.thaliana)ACX4を発現するためのプラスミドは、以下のように構成された。AATまたはACX4遺伝子を含有するDNA断片は、それぞれ鋳型としてコドン最適化AAT遺伝子またはpMMA121を含有するプラスミドを使用して、プライマーAAT.FおよびAAT.RまたはACX4.FおよびACX4.R(1.1.3の表)によるPCR法によって増幅された。pET(Sse)ベクターは、制限酵素NcoIおよびSse8387Iによって消化され、かつIn-Fusion HD Cloning Kit(Takara Bio)を使用することにより、AAT遺伝子を含有するDNA断片に結合させた。得られたプラスミド、pAAT212は、制限酵素SpeIによって消化され、かつIn-Fusion HD Cloning Kitを使用することにより、ACX4遺伝子を含有するDNA断片に結合させた。得られたプラスミド、pMMA133は、T7促進因子制御を有するAATおよびACX4遺伝子を含有した(図23を参照されたい)。
【0292】
BCKAD、AATおよびACX4を発現するためのプラスミドは、以下のように構成された。プラスミドpMMA133は、制限酵素SpeIおよびSse8387Iによって消化され、かつ線形化DNA断片が得られた。プラスミドpWA008は、制限酵素XbaIおよびSse8387Iによって消化され、かつBCKAD複合体遺伝子を含有する5.0kb断片が分離された。両断片は、DNA結合キット「Mighty Mix」(Takara Bio Inc.製)を使用して結合された。得られたプラスミドpMMA134(図23を参照されたい)は、メタクリル酸ブチル製造実験のために大腸菌(E.coli)BL21(DE3)中に導入された。
【0293】
大腸菌(E.coli)BL21(DE3)/pMMA134は、ACX4の発現と関連して上記されたものと本質的に同じ方法で培養された。細胞は、遠心分離機によって回収され、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で洗浄し、かつ同じ緩衝液中で懸濁させて細胞懸濁液を得た。細胞懸濁液を使用することにより、約1mlの休止細胞反応溶液を、40mMの2-ケトイソバレレート(2-オキソイソバレレート)、60mMのブタノール、0.05Mのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)および細胞(OD650=12.5)を含有するそれぞれのバイアルで調製した。反応は、30℃、180rpmにおいて3~44時間実行し、かつ反応を停止するため、1mlのアセトニトリルをバイアルに添加し、十分に混合した。シリンジフィルター、DISMIC/ホール直径0.45ミクロン(ADVANTEC製)を使用するろ過後、ODSカラム上でのHPLCによって分析を行った。HPLC条件は以下のとおりであった:装置:Waters 2695、カラム:CAPCELL PAK C18 UG120、内径2.0mm×250mm、移動相:0.1%リン酸/65%メタノール、流量:0.25ml/分、実行時間:12分、カラム温度:35℃および検出:UV210nm。図24は、発酵の経時的な以下の化学物質の濃度を示す:■、2-ケトイソバレレート(2-OIV);▲、イソ酪酸(IBA);◆、メタクリル酸ブチル(BMA):および×、メタクリル酸(MAA)。2-ケトイソバレレート(2-オキソイソバレレート)の供給原料の濃度が低下すると、経路の中間体であるイソ酪酸の製造が増加し、最終エステル生成物のメタクリル酸ブチルの製造も増加する。
【0294】
本実施例は、グルコースおよび一般的な供給原料である試薬ブタノールから直接製造される生化学的中間体の2-ケトイソバレレート(2-オキソイソバレレート)からのメタクリル酸の誘導体であるメタクリル酸エステル、メタクリル酸ブチルの実行可能な生体内製造を実証する。メタクリル酸ブチルの製造は、2-ケトイソバレレートをイソブチリルCoAへと変換するBCKADオペロン、イソブチリルcoAをメタクリリルcoAへ変換するACX4オキシダーゼ、およびメタクリリルCoAをブタノールとの反応によってメタクリル酸ブチルへ変換するAATを発現する組換型大腸菌(E.coli)の培養から工業的に適用可能なレベルで実証される。
【0295】
本出願と関連して、本明細書と同時にまたはそれより以前に提出され、かつ本明細書による縦覧のために公開され、かつその内容が参照により本明細書に組み込まれる全ての論文および文献に注意が向けられる。
【0296】
(いずれの添付の請求項、要約および図面も含む)本明細書において開示された特徴の全て、および/またはそのように開示されたいずれの方法もしくはプロセスのステップの全ては、そのような特徴および/またはステップの少なくともいくつかが相互に排他的である組合せを除き、いずれの組合せにおいても組み合わせられ得る。
【0297】
(いずれの添付の請求項、要約および図面も含む)本明細書において開示されたそれぞれの特徴は、他に特別に記載されない限り、同じ、均等な、または類似の目的を果たす他の特徴によって置き換えられてもよい。したがって、他に特別に記載されない限り、開示されたそれぞれの特徴は、均等なまたは類似の特徴の一般的系列の一例である。
【0298】
本発明は、上記実施形態の詳細に限定されない。本発明は、(いずれの添付の請求項、要約および図面も含む)本明細書において開示された特徴のいずれかの新規のもの、またはいずれかの新規の組合せに及ぶか、またはそのように開示されたいずれの方法もしくはプロセスのステップのいずれかの新規のもの、またはいずれかの新規の組合せに及ぶ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
【配列表】
2023134574000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-08-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
2023134574000001.xml
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸および/またはその誘導体を製造する方法であって、
(a)リョクトウ(Vigna radiata)からのペルオキシソームアシル-CoAオキシダーゼ及び/又はアルスロバクター・ニコチアナ(Arthrobacter Nicotianae)からの短鎖アシル-CoAオキシダーゼの作用により、イソブチリル-CoAをメタクリリル-CoAへ生物学的に変換するステップと;
(b)メタクリリル-CoAをメタクリル酸および/またはその誘導体へ変換するステップと
を含む方法。
【外国語明細書】