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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134599
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/03 20060101AFI20230920BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20230920BHJP
   H01Q 1/42 20060101ALI20230920BHJP
   H01Q 1/32 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
G01S7/03 246
G01S13/931
H01Q1/42
H01Q1/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113028
(22)【出願日】2023-07-10
(62)【分割の表示】P 2020192516の分割
【原出願日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2019230693
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金近 正之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】山口 実
(57)【要約】      (修正有)
【課題】レーダ波の減衰や反射及び多重反射を効果的に抑制でき、ノイズが小さく、ダイナミックレンジが大きい、高精度のレーダ機能を有するレーダ装置を提供する。
【解決手段】アンテナを有するレーダユニットと、アンテナが設けられたレーダユニットの前面の少なくとも一部を覆い、発泡樹脂からなる遮蔽部材18と、を有し、遮蔽部材は、重量比で3%以下のカーボンを含有している。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナを有するレーダユニットと、
前記アンテナが設けられた前記レーダユニットの前面の少なくとも一部を覆い、発泡樹脂からなる遮蔽部材と、を有し、
前記遮蔽部材は重量比で3%以下のカーボンを含有するレーダ装置。
【請求項2】
前記遮蔽部材は、車両において外部から視認できる箇所に設置され、前記レーダユニットは、前記遮蔽部材によって外部から視認できない箇所に設置される請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記遮蔽部材と前記レーダユニットは、基体と、基体に保持された透明カバーとによって構成されたランプ筐体を含むランプ装置の内部に設置された請求項1または請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記遮蔽部材の外観色は黒色である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
アンテナを有するレーダユニットと、
前記アンテナが設けられた前記レーダユニットの前面の少なくとも一部を覆い、発泡樹脂からなる遮蔽部材と、を有し、
前記遮蔽部材は、黒色系の顔料として鉄の酸化物、銅とクロムの複合酸化物、銅とクロムと亜鉛の複合酸化物の少なくともいずれか一種を含有する、レーダ装置。
【請求項6】
前記遮蔽部材は、車両において外部から視認できる箇所に設置され、前記レーダユニットは、前記遮蔽部材によって外部から視認できない箇所に設置される請求項5記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記遮蔽部材と前記レーダユニットは、基体と、基体に保持された透明カバーとによって構成されたランプ筐体を含むランプ装置の内部に設置された請求項5または請求項6に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記遮蔽部材の外観色は黒色である請求項5から請求項7のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置、特に車両に搭載されるレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転支援及び自動運転のために、加速度センサやGPSセンサに加え、カメラ、LiDAR(Light Detection and Ranging)、ミリ波センサなど様々なセンサが用いられる。
【0003】
特に、ミリ波レーダは、夜間や逆光などの環境、濃霧、降雨及び降雪などの悪天候の影響を受けず、対象物の高い検出性能を維持する。また、対象物までの距離や方向、対象物との相対速度を直接検出できる。従って、近距離の対象物であっても高速かつ高精度に検出できるという特徴を有している。
【0004】
ミリ波レーダを灯室内に搭載し、前面カバーとミリ波レーダとの間にミリ波を透過させる導光部材を設けた車両用灯具が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4842161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ミリ波レーダの前面に導光部材を配置すると、導光部材の誘電率や誘電正接の影響によりミリ波レーダから放出される電磁波が導光部材によって反射及び吸収され、放射電磁波の放射電力低下が発生し、ミリ波レーダの探知性能を大きく低下させる原因となっている。
【0007】
そのため、通常、自動車の前照灯に用いられる導光部材(導光棒等)の使用によって、ミリ波レーダを外部から見えなくするためなどの外観上の見栄えを良くすることは可能であるが、レーダ機能を損失させる要因であった。
【0008】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、レーダ波の減衰や反射及び多重反射を効果的に抑制でき、ノイズが小さく、ダイナミックレンジが大きいなど高精度のレーダ機能を有するレーダ装置を提供することを目的としている。
【0009】
またレーダ波の放射パターンを変化させることがなく、外部からレーダユニットを視認し難くするエクステンションを有するレーダ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1実施態様によるレーダ装置は、
アンテナを有するレーダユニットと、
前記アンテナが設けられた前記レーダユニットの前面の少なくとも一部を覆い、発泡樹脂からなる遮蔽部材と、を有し、
前記遮蔽部材は、重量比で3%以下のカーボンを含有している。
【0011】
本発明の他の実施態様によるレーダ装置は、
アンテナを有するレーダユニットと、
前記アンテナが設けられた前記レーダユニットの前面の少なくとも一部を覆い、発泡樹脂からなる遮蔽部材と、を有し、
前記遮蔽部材は、黒色系の顔料として鉄の酸化物、銅とクロムの複合酸化物、銅とクロムと亜鉛の複合酸化物の少なくともいずれか一種を含有している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の1実施形態のランプ装置の内部構造の一例を模式的に示す図である。
図2】ミリ波レーダユニット15及び遮蔽部材18の配置を示す斜視図である。
図3A】ミリ波レーダユニット15のアンテナ面15S側から遮蔽部材18を見た場合を示す図である。
図3B】ミリ波レーダユニット15及び遮蔽部材18の断面を模式的に示す図である。
図3C】ミリ波レーダユニット15の前面の一部領域である電磁波送受信領域15Rの全体を覆う遮蔽部材18を示す図である。
図4】ミリ波レーダ15のアンテナ面15Sの前方に遮蔽部材が配された場合を示す断面図である。
図5】本実施形態の遮蔽部材18の断面の一部を拡大して示す部分拡大断面図である。
図6】本実施形態の改変例である遮蔽部材18を模式的に示す斜視図である。
図7】本実施形態の遮蔽部材18による反射抑制効果について説明する図である。
図8A】本発明の他の実施形態におけるミリ波レーダユニット15、遮蔽部材18及び透明カバー12の配置構成を模式的に示す平面図である。
図8B図8AのW-W線から見た、ミリ波レーダユニット15、遮蔽部材18及び透明カバー12の配置構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下においては、本発明の好適な実施形態について説明するが、これらを適宜改変し、あるいは組合せて適用してもよい。また、以下の説明及び添付図面において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
【0014】
図1は、本発明の1実施形態のランプ装置10の内部構造の一例を模式的に示す図である。ランプ装置10は、自動車などの車両(Vehicle)に搭載される、例えば前照灯である。図1は、車両の左前方に搭載された状態のランプ装置10(左前照灯)を上面から見た場合の、水平面(又は路面に平行な面)における断面を模式的に示している。
【0015】
ランプ装置10において、基体11と基体11に保持された透明カバー12とによってランプ筐体(ハウジング)が構成されている。ランプ筐体内には、ランプユニット(光源部)である前照灯ユニット14、レーダユニットであるミリ波レーダユニット15、発光ユニット16、遮蔽部材18及びエクステンション19が内蔵されている。遮蔽部材18は、ミリ波レーダユニット15が外部から視認し難くするためのエクステンション部材の一種である。なお、本明細書において、レーダユニット15及び遮蔽部材18からなる装置をレーダ装置と称する。
【0016】
なお、本明細書において、ランプユニットは、前照灯光源に限らず、テールランプ、バックライトなどの外部に向けて光を発する目的、機能を有する発光源をいう。
【0017】
前照灯ユニット14は、LED(Light Emitting Diode)等の光源と、当該光源からの光を配光及び照射するためのレンズ又はリフレクタを有している。前照灯ユニット14は、光軸AX1に沿って配され、ロービーム(すれ違い用ビーム)及びハイビーム(走行用ビーム)の照射光LBを前方(図中、FRONT)方向に照射するように設けられている。
【0018】
ミリ波レーダユニット15は、その前面にミリ波の送受信アンテナが設けられた送受信面を有する。本明細書においては、ミリ波レーダユニット15の送受信面(ミリ波レーダユニット15の前方の面)をアンテナ面とも称する。
【0019】
より詳細には、ミリ波レーダユニット15は、その送受信面(電磁波放射面)15Sに送信アンテナ及び受信アンテナを有する(図2参照)。ミリ波レーダユニット15は、送信アンテナから電磁波(ミリ波)を放射し、対象物によって反射された反射波を受信アンテナによって受信する。受信された信号は制御装置、例えば、図示しないECU(Electronic Control Unit) によって信号処理が行われ、対象物との間の距離、角度、速度が検出される。ミリ波レーダユニット15では、例えば76-81GHz帯のミリ波、特に79GHz帯のミリ波が用いられるが、この周波数帯に限定されない。また、アンテナは送信および受信の双方の機能を兼ねたものであってもよい。
【0020】
発光ユニット16は、光源16Aと、光源16Aからの光を導光する少なくとも1つの導光部材とからなる導光体16Bとを有している。発光ユニット16は、DRL(Daytime Running Lights)又はターンランプ(TURNランプ)として機能する。光源16Aは、例えばLED、白熱電球などを有し、その光を導光体16Bに供給する。
【0021】
ミリ波レーダユニット15のアンテナ面15Sの法線方向AX2は、前照灯ユニット14の光軸AX1に対して車両の外側方向(すなわち、左前照灯の場合には左方向)に角度θ(本実施形態では45°)だけ傾くように配されている。
【0022】
ミリ波レーダユニット15のアンテナ面15S側には、アンテナ面15Sとは間隙を空けて配置され、アンテナ面15Sを覆う遮蔽部材18が設けられている。また、ランプ筐体内には、少なくとも1つのエクステンション19が設けられている。エクステンション19は、光を反射し、又は光を導光し、あるいは内部の構造物等を外部から視認し難くするために設けられている意匠部品である。
【0023】
図2は、ミリ波レーダユニット15及び遮蔽部材18の配置を示す斜視図である。図3Aは、ミリ波レーダユニット15のアンテナ面15S側から遮蔽部材18を見た場合を示す図である。また、図3Bは、ミリ波レーダユニット15及び遮蔽部材18の断面を模式的に示す図である。
【0024】
本実施形態において、ミリ波レーダユニット15の前面側に、ミリ波レーダユニット15のアンテナ面15Sとは間隙を空けて配置され、アンテナ面15Sの法線方向AX2から見たときにアンテナ面15Sの全面を覆う遮蔽部材18が設けられている。好ましくは、アンテナ面15Sの法線方向から見て、遮蔽部材18はアンテナ面15Sより大きい。
【0025】
より好ましくは、アンテナ面15S全面と、アンテナ面15Sの法線方向から傾いた方向、例えば80°の方向に放射された電磁波が遮蔽部材18中を透過するような位置関係になるように、遮蔽部材18の大きさと位置が設定されている。このようにすることにより、アンテナ面15Sの法線方向へ放出された電磁波と、例えば80°の方向に放射された電磁波との間で位相差や強度の食い違いが発生せず、対象物の位置等の情報を精度良く検出できる。なお、遮蔽部材18はアンテナ面15Sに接するように設けられていてもよい。
【0026】
遮蔽部材18は、例えば、厚さが一定の平行平板状に構成され、その法線がアンテナの放射パターンの角度範囲に応じて配置されている。平行平板状の遮蔽部材18は、アンテナの放射パターンの中心軸又は基準軸に垂直であるように配置されていることが好ましい。あるいは、アンテナの放射面に垂直であるように配置されていることが好ましい。
【0027】
なお、ここで言うアンテナの放射パターンとは、ミリ波レーダユニット15のアンテナ面15Sから送信される電磁波強度の角度分布を言い、一般的にはアンテナ面15Sの法線方向が最大の強度を有し、法線方向からの角度が大きくなるに従って電磁波強度が減少していく分布を備える。最大の強度から-3dBの強度となる角度をアンテナパターンの半値幅と言い、例えば80°である。
【0028】
なお、図3Cに示すように、ミリ波レーダユニット15のアンテナがミリ波レーダユニット15の前面の一部の領域に設けられ、当該領域でミリ波の放射及び受信が行われる場合には、少なくとも当該一部領域である電磁波送受信領域(以下、アンテナビーム領域という。)15Rの全体を覆うように遮蔽部材18が設けられていればよい。
【0029】
この場合、ミリ波レーダユニット15の前面(アンテナ面15S)のアンテナビーム領域15R以外の領域(すなわち、遮蔽部材18によって遮蔽されない領域)は他のエクステンションによって覆うことが好適である。あるいは、遮蔽部材18によって遮蔽されない領域を、発光ユニット16の導光体16B自体によって、又は導光体16BからのDRL又はターンランプの発光を利用して外部から視認し難くすることができる。
【0030】
ミリ波レーダユニット15の前面におけるアンテナビーム領域15R以外の領域を他のエクステンションによって覆うことによって、効果的な遮蔽、意匠的に優れた遮蔽を行うことができる。
【0031】
図4は、ミリ波レーダ15のアンテナ面15Sの前方に遮蔽部材が配された場合を示す断面図である。より詳細には、ミリ波レーダユニット15から放射されたミリ波MW(波長λ)が、樹脂等からなる遮蔽部材21(厚さTG)を透過した場合を模式的に示している。ミリ波MWは遮蔽部材21によって一部が反射され(反射波WR)、遮蔽部材21内を通過するミリ波は遮蔽部材21によって吸収されて減衰し、外部に放射される(透過ミリ波WA)。
【0032】
図5は、本実施形態の遮蔽部材18の断面の一部を拡大して示す部分拡大断面図である。遮蔽部材18が発泡樹脂で構成されていることを模式的に示している。
【0033】
遮蔽部材18は発泡樹脂からなる。遮蔽部材18は、ポリーカボネート、アクリル、ポリイミド、エボキシ等の透明樹脂中に炭酸ガス等を封入し、樹脂中に気泡18Aを作ることで形成されている。樹脂中に気体が封入されているため、誘電率を低下させ電磁波への影響を大きく減少させることが可能となる。発泡樹脂の気泡率(全体積に占める気泡の割合)は50%以上であると樹脂の影響をほぼ無視することが可能となる。
【0034】
発泡樹脂の比誘電率及び誘電体損失は、導波管Sパラメータ法やフリースペースSパラメータ法等の測定方法を用いて測定を行うことができる。測定により実測するのが正確で良いが、簡易的に推測する場合、比誘電率及び誘電体損失はそれぞれ以下の式で表すことができる。なお、A.S.Windelerの式より空気の比誘電率を1とした。
(εr-εa)/(εr-1)=F/100×3εa/(2εa+1)
tanδ'=tanδ×F/100
【0035】
ここで、εaは発泡樹脂の比誘電率、εrは樹脂の比誘電率、Fは気泡率(%)、tanδ' は発泡樹脂の誘電正接、tanδは樹脂の誘電正接である。
【0036】
ミリ波レーダから放射された放射電磁波は、遮蔽部材と空気との誘電率差が大きいと、遮蔽部材によって反射される。また、遮蔽部材の誘電体損失の影響によって、遮蔽部材内において、ミリ波レーダからの放射電磁波が吸収され熱に変わってしまう。これらにより、ミリ波レーダのアンテナ面の前面に遮蔽部材が配されると、放射電磁波強度が低下したり、遮蔽部材と空気の誘電率差によって放射電磁波の放射方向(アンテナパターン)が変わってしまうという問題が発生する。
【0037】
ミリ波レーダに使用するミリ波の周波数をf(Hz)とすると、その周波数の空間での波長λ(m)は以下のようになる。
λ=c/f (cは光速)
【0038】
例えば周波数fが79GHzであれば波長λは、3.8mmである。樹脂(誘電体)中の波長をλd、樹脂の比誘電率をεrとすると、樹脂中の波長は以下で表される。
λd=λ/εr1/2
【0039】
また、空間における波長が3.8mmで、樹脂の比誘電率を2.74とすると樹脂中の波長は、2.3mmとなる。
【0040】
発泡樹脂に照射された電磁波の電力密度が半減する距離D(電力半減深度)は、発泡樹脂の誘電正接をtanδ'とすると、簡易的に以下で表される。
D(m)=3.32×10/(f×εa 1/2×tanδ')
【0041】
例えば、比誘電率が2.74、誘電正接が0.026の樹脂を発泡させ、気泡率の容積比が50%になった場合、上記の式から発泡樹脂の比誘電率εaは1.73、誘電正接tanδ'は0.013となる。例えば、周波数79GHzの電磁波の電力半減深度は以下となる。
D(m)=3.32×107/(79×109×1.731/2×0.013)
=24.5(mm)
【0042】
一方、樹脂を発泡させない場合は、電力が半減する厚さは以下となる。
D(m)=3.32×107/(79×109×2.741/2×0.026)
=9.8(mm)
【0043】
すなわち、樹脂を気泡率の容積比が50%で発泡させると電力半減深度は約2.5倍の厚さとなる。
【0044】
また、樹脂にカーボン等の炭素系黒色顔料を含有させると電磁波の吸収が大きい。従って、遮蔽部材18に含有させる遮蔽材としての黒色系の顔料は、鉄の酸化物(例えば、マグネタイト型四酸化三鉄)、銅とクロムの複合酸化物、銅とクロムと亜鉛の複合酸化物が好ましい。炭素系黒色顔料よりも電磁波吸収が低減される。一方で、遮蔽部材18以外のエクステンション部はカーボンの含有率を高めることで電磁波の吸収を大きくすることができ、多重反射を抑えることが可能である。遮蔽部材18にデザイン上の要請からカーボンを使用せざるを得ない場合は、カーボンの含有率を重量比3%以下にすれば電磁波の吸収を低減することが可能である。
【0045】
また、本実施形態の遮蔽部材18は発泡樹脂であって気泡を含んでいるので、内部での光散乱が大きく、気泡を含まない樹脂に比べてそれ自体で遮蔽効果が大きい。従って、上記の電磁波吸収が少ない遮蔽材を用いることにより、より少ない黒色系顔料で大きな遮蔽効果及び電磁波吸収低減効果が得られる。
【0046】
ここで、遮蔽部材18等の誘電体の厚さについては、以下の様に選択する。すなわち、電磁波が通過する誘電体の厚さをTGとすると、反射損失が通過損失以上の場合(反射損失≧通過損失)では、
TG=n×λd/2 (nは自然数)
とするのが好適である。なお、厚さTGをλd/2の整数倍にすると通過損失も増えるため、反射損失≧通過損失を満足する整数値を用いることが好ましい。
【0047】
なお、TGをn×λd/2(nは自然数)に完全に合わせなくても、周波数fに対して電力の反射損失が例えば-10dB以下(反射電力が10%以下)となる周波数帯域に入るように厚さを設定することで実際上の問題は起きない。このような厚みTGの範囲は、例えばSパラメータ法を用いることで、反射損失S11の値が-10dB以下となるような条件式を設定し、厚みTGについて解くことで導出することができる。
【0048】
【数1】

ここで、
【0049】
【数2】
【0050】
【数3】
【0051】
【数4】
【0052】
【数5】
【0053】
(cair:空気中の光速、cvac:真空中の光速、ω:電磁波の角周波数(=2×π×f[Hz])、ε:誘電体の複素誘電率、λ:カットオフ波長(基本モードが伝搬する波長の上限であり、伝送線路の最低動作周波数を決定する。同軸線路においてはλ=∞))
【0054】
また、許容される厚さTGの範囲は、実験的に厚みTGに対する反射損失の依存性を評価して適切な値(例えば反射損失が-10dB以下となるような値)を決定してもよい。なお、反射損失が-10dB以上となると、機器に不具合を生じる場合がある。
【0055】
また、反射損失が通過損失未満の場合(反射損失<通過損失)では、誘電体の厚さTGは電力半減深度以下の厚さに設定することによって、問題なくミリ波レーダを使用することができる。
【0056】
以上、説明したように、遮蔽部材として発泡樹脂をミリ波レーダの前面(アンテナ面)に使用することにより、ミリ波レーダを灯具前方から視認できなくするとともにミリ波レーダの電磁波の減衰を抑えることが可能となる。
【0057】
[改変例]
図6は、本実施形態の改変例である遮蔽部材18を模式的に示す斜視図である。遮蔽部材18の一方の面には矩形の溝18Gが形成されている。
【0058】
より詳細には、ミリ波レーダユニット15のアンテナ面15Sに対向する遮蔽部材18の面(遮蔽部材18の裏面)18Rには断面形状が矩形の複数の溝18Gが一定の間隔で互いに平行に設けられている。
【0059】
溝18Gの深さDGはミリ波レーダユニット15からのミリ波の波長(空気中)をλ0とすると、DG=k×λ0/4(kは自然数)であるように形成されている。また、溝18Gはミリ波レーダユニット15からのミリ波の偏波面PDに平行であるように形成されている。あるいは、ミリ波の偏波面PDに平行であるように遮蔽部材18が配置される。
【0060】
このように遮蔽部材18を構成することで、ミリ波レーダユニット15からのミリ波は遮蔽部材18の裏面18Rにおいて反射波と入射波とで相殺し、反射が大きく低減される。従って、本改変例によれば、さらにレーダ波の反射を抑えることが可能で、レーダの機能損失が少ない高精度のランプ装置を提供することができる。
【0061】
図7は、本実施形態及び改変例(以下、本実施形態という)の遮蔽部材18によれば反射抑制効果が大きいことを説明する図である。
【0062】
より詳細には、ミリ波レーダユニット15から放射され、遮蔽部材18を透過したミリ波は、透明カバー12で一部が反射される。透明カバー12で反射された電磁波は、遮蔽部材18、発光ユニット16の導光体16B及び他のエクステンション19により反射され、多重反射波MRを生じる。このような多重反射波MRは送信信号のみならず受信信号にも擾乱を与え、ノイズを生じ、ダイナミックレンジ及び精度を劣化させる。
【0063】
しかし、本実施形態の遮蔽部材18は、比誘電率が小さいため遮蔽部材18の前面18Fにおけるミリ波の反射率が低く反射が抑制される。これにより多重反射による影響は累積的に低減される。また、遮蔽部材18の吸収損失も低減されるので、ノイズが小さく、ダイナミックレンジが大きく、高精度のレーダ機能を有するランプ装置を提供することができる。
【0064】
図8Aは、本発明の他の実施形態におけるミリ波レーダユニット15、遮蔽部材18及び透明カバー12の配置構成を模式的に示す図である。なお、ミリ波レーダユニット15の送受信アンテナ15Aのアンテナ面(レーダ波放射面)15Sの正面側(垂直方向)から見た図である。
【0065】
図8Bは、図8AのW-W線から見た、ミリ波レーダユニット15、遮蔽部材18及び透明カバー12の配置構成を模式的に示す断面図である。
【0066】
図8Bに示すように、ミリ波レーダユニット15のアンテナ面15Sの前方に一定の間隔C2をおいて平行平板状の遮蔽部材18が配置されている。遮蔽部材18は厚さTGを有している。
【0067】
例えば、遮蔽部材18は、平行平板状で層厚が略一定の板状体として構成され、両表面がミリ波レーダユニット15のアンテナ面15Sに平行に配されている。遮蔽部材18は、例えばボリカボネート、アクリル、エボキシ、ボリイミド等の樹脂を板状にして形成されている。
【0068】
また、遮蔽部材18及びミリ波レーダユニット15は、遮蔽部材18と透明カバー12との間隔が一定の間隔C1であるように配されている。透明カバー12は、透明な樹脂などの透光性のカバーとして形成されている。なお、透光性であれば、色が付いているなど、反透明性であってもよい。
【0069】
透明カバー12は、全体としては湾曲した形状を有し、あるいは厚さの異なる部分を有していてもよい。しかしながら、アンテナ面15Sに垂直な方向から見たとき(以下、垂直視ともいう)に、アンテナ面15S(電磁波放射面)に重なる透明カバー12の領域(以下、放射面対応領域ともいう。)12Sは、厚さが一定の平行平板形状を有することが好ましい。
【0070】
遮蔽部材18は、ミリ波レーダユニット15のアンテナ面15Sに垂直な方向から見たときに、アンテナ面15Sの全体を覆うようなサイズ及び配置で構成されている。
【0071】
図8A及び図8Bに示すように、透明カバー12の前方領域12S、遮蔽部材18及びアンテナ面15Sは互いに平行であるように配置されている。
【0072】
透明カバー12は、アンテナ面15Sに垂直な方向から見たとき、アンテナ面15Sに重なる透明カバー12の領域(放射面対応領域)12Sが、アンテナ面15Sの全体を覆うようなサイズ及び配置で構成されていることが好ましい。
【0073】
[遮蔽部材18及び透明カバー12の間隔及び厚さ]
ミリ波レーダユニット15の前面側(アンテナ面15S側)に配された遮蔽部材18及び透明カバー12は、上記したように、例えば樹脂製であり、それぞれの誘電率によって、樹脂と空間の界面における樹脂と空気との誘電率差で電磁波の反射が生じる。
【0074】
そのとき、透過電磁波の位相と反射電磁波の位相が打ち消しあう方向にある場合、透過電磁波は反射電磁波との合成で減衰が起きる。
【0075】
より詳細には、本明細書において、ミリ波レーダの周波数f(Hz)は、例えば76GHz~81GHzである。周波数f(Hz)が、例えば79GHzのとき、波長λ0(空気中)は、3.8mmである。
【0076】
例えば、透明カバー12(誘電体)の比誘電率εr1=2.4のとき、透明カバー12中の波長λdは2.45mmであり、遮蔽部材18の比誘電率εr2=1.73のとき、遮蔽部材18中の波長λdは2.89mmである。
【0077】
透明カバー12の放射面対応領域12Sの厚さをTK、比誘電率εr1、樹脂(媒体)中の波長(実効波長)をλd1とし、遮蔽部材18の厚さをTG、比誘電率εr2、樹脂(媒体)中の実効波長をλd2としたとき、以下の関係を満たすように透明カバー12の放射面対応領域12S、遮蔽部材18及びミリ波レーダユニット15のアンテナ面15Sが設けられている。なお、以下の式において、C1は放射面対応領域12Sと遮蔽部材18との間の間隔、C2は遮蔽部材18とアンテナ面15S(電磁波放射面)との間の間隔、n1,n2,m1,m2は自然数である。
TK=n1×λd1/2 ・・・(6)
TG=n2×λd2/2 ・・・(7)
C1=m1×λ/2 ・・・(8)
C2=m2×λ/2 ・・・(9)
【0078】
従って、放射面対応領域12Sの厚さTK及び遮蔽部材18の厚さTGを適宜選択することで、透明カバー12と空間との界面及び遮蔽部材18と空間との界面で起きる電磁波の反射損失を低減することができる。すなわち、遮蔽部材18とアンテナ面15S(電磁波放射面)との間での多重反射のみならず、透明カバー12の放射面対応領域12Sと遮蔽部材18との間での多重反射を抑制することができる。従って、これらの相乗的な多重反射を効果的に抑制することができる。また、電磁波放射パターンの変化を低減することができる。
【0079】
すなわち、上記したように、本実施例のランプ装置によれば、透明カバー12及び遮蔽部材18間の反射電磁波が、透明カバー12及び遮蔽部材18間において、さらに多重反射してノイズを増大させるという課題を解決することができる。
【0080】
また、透明カバー12及び遮蔽部材18間の空間中に迷い込んだ反射電磁波が、透明カバー12及び遮蔽部材18間において多重反射してノイズを増大させるという課題を解決することができる。
【0081】
なお、厚さTK及びTGを大きくすると、樹脂の誘電正接により透過損失が増加するため、厚さTKに関しては、n1=2~4、厚さTGに関しては、n2=2又は3とすることが好ましい。
【0082】
また、透明カバー12の放射面対応領域12S及び遮蔽部材18はランプ装置10の使用中の振動及び環境温度などにより僅かに撓み得る。当該撓みにより透過及び反射特性も僅かに変化するが、放射面対応領域12S及び遮蔽部材18の面全体における平均的な特性変化を抑制するために、間隔C1及びC2は小さ過ぎないことが好ましい。なお、放射面対応領域12S及び遮蔽部材18の両者が撓み得るので、間隔C1は間隔C2よりも大きい(m1<m2)ことが好ましい。
【0083】
また、これらの間隔C1及びC2の空間中には、ランプ装置内の他の部材(エクステンション等)からの反射電磁波が迷い込みノイズとなるため、間隔C1及びC2は大き過ぎないことが好ましい。
【0084】
以上を考慮すると、m1≧4、m2≧2が好ましく、4≦m1≦8、2≦m2≦4であることがさらに好ましい。
【0085】
なお、TK、TG、C1、C2を上記の関係式に完全に合わせなくても、周波数fに対して電力の反射損失が-10dB以下(反射電力が10%以下)となる周波数帯域に入るように設定することで極めて効果的に多重反射を抑制できる。
【0086】
このようなTK、TG、C1、C2の範囲は、例えば前述のSパラメータ法を用いることで、反射損失S11の値が-10dB以下となるような条件式を設定し、TK、TG、C1、C2について解くことで導出することができる。TK、TGについては各材料の誘電率を、C1、C2については空気の誘電率を参照して計算することができる。また、実験的にTK、TG、C1、C2に対する反射損失の依存性を評価して適切な値(例えば反射損失が-10dB以下となるような値)を決定してもよい。
【符号の説明】
【0087】
10:ランプ装置
11:基体
12:透明カバー
14:ランプユニット
15:ミリ波レーダユニット
15S:アンテナ面
15R:電磁波送受信領域
16:発光ユニット
16A:光源
16B:導光体
18:遮蔽部材
18A:気泡
19:エクステンション

図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B