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特開2023-134604FcRnに対する増大した親和性および少なくとも1つのFcフラグメント受容体に対する増大した親和性を有するFcフラグメントを伴う変異体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134604
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】FcRnに対する増大した親和性および少なくとも1つのFcフラグメント受容体に対する増大した親和性を有するFcフラグメントを伴う変異体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/00 20060101AFI20230920BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230920BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20230920BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230920BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230920BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230920BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230920BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230920BHJP
   C07K 14/735 20060101ALN20230920BHJP
【FI】
C07K16/00 ZNA
C12N15/13
A61P7/00
A61P27/02
A61P25/00
A61P37/02
A61P29/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
C07K14/735
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113380
(22)【出願日】2023-07-11
(62)【分割の表示】P 2020532813の分割
【原出願日】2018-12-14
(31)【優先権主張番号】1762217
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】504177572
【氏名又は名称】ラボラトワール フランセ デュ フラクシオヌマン エ デ ビオテクノロジ
【氏名又は名称原語表記】LABORATOIRE FRANCAIS DU FRACTIONNEMENT ET DES BIOTECHNOLOGIES
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】ミード,ハリー
(72)【発明者】
【氏名】モネ,セリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】モンドン,フィリップ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】Fc領域により媒介される機能的活性に関して最適化された特性を有する親ポリペプチドの変異体を提供する。
【解決手段】Fcフラグメントを含む親ポリペプチドの変異体において、親ポリペプチドの親和性と比べ、FcRn受容体に対する増大した親和性、ならびにFcγRI受容体(CD64)、FcγRIIIa受容体(CD16a)およびFcγRIIa受容体(CD32a)の中から選択された少なくとも1つのFcフラグメントの受容体(FcR)に対する増大した親和性を有する変異体であって、(i)4つの突然変異334N、352S、378Vおよび397Mと、(ii)434Y、434S、226G、P228L、P228R、230S、230T、230L、241L、264E、307P、315D、330V、362R、389Tおよび389Kの中から選択された少なくとも1つの突然変異を含む、変異体に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fcフラグメントを含む親ポリペプチドの変異体において、親ポリペプチドの親和性と比べ、FcRn受容体に対する増大した親和性、ならびにFcγRI受容体(CD64)、FcγRIIIa受容体(CD16a)およびFcγRIIa受容体(CD32a)の中から選択された少なくとも1つのFcフラグメントの受容体(FcR)に対する増大した親和性を有する変異体であって、
(i)4つの突然変異334N、352S、378Vおよび397Mと、
(ii)434Y 434S、226G、P228L、P228R、230S、230T、230L、241L、264E、307P、315D、330V、362R、389Tおよび389Kの中から選択された少なくとも1つの突然変異と
を含み、
付番がKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番であること、
を特徴とする変異体。
【請求項2】
Y296W、K290G、V240H、V240I、V240M、V240N、V240S、F241H、F241Y、L242A、L242F、L242G、L242H、L242I、L242K、L242P、L242S、L242T、L242V、F243L、F243S、E258G、E258I、E258R、E258M、E258Q、E258Y、V259C、V259I、V259L、T260A、T260H、T260I、T260M、T260N、T260R、T260S、T260W、V262S、V263T、V264L、V264S、V264T、V266L、S267A、S267Q、S267V、K290D、K290E、K290H、K290L、K290N、K290Q、K290R、K290S、K290Y、P291G、P291Q、P291R、R292I、R292L、E293A、E293D、E293G、E293M、E293Q、E293S、E293T、E294A、E294G、E294P、E294Q、E294R、E294T、E294V、Q295I、Q295M、Y296H、S298A、S298R、Y300I、Y300V、Y300W、R301A、R301M、R301P、R301S、V302F、V302L、V302M、V302R、V302S、V303S、V303Y、S304T、V305A、V305F、V305I、V305L、V305RおよびV305Sの中から選択されたFcフラグメント内の少なくとも1つの突然変異(iii)をさらに含み、
付番がKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番である、請求項1に記載の変異体。
【請求項3】
(i)4つの突然変異334N、352S、378Vおよび397Mと、
(ii)434Y 434S、226G、P228L、P228R、230S、230T、230L、241L、264E、307P、315D、330V、362R、389Tおよび389Kの中から選択された少なくとも1つの突然変異と、
(iii)K290GおよびY296Wの中から選択された少なくとも1つの突然変異と
を含み、
付番がKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番であること、
を特徴とする、請求項1または2に記載の変異体。
【請求項4】
親ポリペプチドの親和性に比べ、少なくとも2の比率に等しい、好ましくは5超、好ましくは10超、好ましくは15超、好ましくは20超、好ましくは25超、好ましくは30超の比率で増大した、FcRn受容体に対する親和性を有する、請求項1から3のいずれか一つに記載の変異体。
【請求項5】
親ポリペプチドの親和性に比べ、少なくとも2の比率に等しい、好ましくは5超、好ましくは10超、好ましくは15超、好ましくは20超、好ましくは25超、好ましくは30超の比率で増大した、FcγRI受容体(CD64)、FcγRIIIa受容体(CD16a)およびFcγRIIa受容体(IC32a)の中から選択された少なくとも1つのFcフラグメントの受容体(FcR)に対する親和性を有する、請求項1から4のいずれか一つに記載の変異体。
【請求項6】
トランスジェニック非ヒト哺乳動物の乳房上皮細胞内で産生されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一つに記載の変異体。
【請求項7】
非ヒトトランスジェニック動物において、好ましくは、トランスジェニック非ヒト哺乳動物において産生されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一つに記載の変異体。
【請求項8】
非ヒトトランスジェニック動物がトランスジェニックヤギであることを特徴とする、請求項7に記載の変異体。
【請求項9】
親ポリペプチドが、ヒトFcフラグメント、好ましくはヒトIgG1またはヒトIgG2のFcフラグメントであるか、より優先的には配列番号1~10および14の配列の中から選択される親Fcフラグメントを含むことを特徴とする、請求項1から8のいずれか一つに記載の変異体。
【請求項10】
単離Fcフラグメント、単離Fcフラグメントから誘導された配列、抗体、Fcフラグメントを含む抗体フラグメント、およびFcフラグメントを含む融合タンパク質の中から選択されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一つに記載の変異体。
【請求項11】
腫瘍抗原、ウィルス抗原、細菌抗原、真菌抗原、毒素、膜サイトカインまたは循環サイトカイン、膜受容体の中から選択された抗原に対して向けられた、請求項1から10のいずれか一つに記載の変異体。
【請求項12】
薬剤として使用するための請求項1から11のいずれか一つに記載の変異体。
【請求項13】
好ましくは、免疫性血小板減少性紫斑病、視神経脊髄炎またはデビック病および多発性硬化症の中から選択された、自己免疫性または炎症性病理の治療において使用するための、請求項1から11のいずれか一つに記載の変異体。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一つに記載の変異体、および医薬的に許容可能な少なくとも1つの賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項15】
Fcフラグメントを含む親ポリペプチドの変異体の産生方法において、前記変異体が親ポリペプチドの親和性と比べ、FcRn受容体に対する増大した親和性、ならびにFcγRI受容体(CD64)、FcγRIIIa受容体(CD16a)およびFcγRIIa受容体(CD32a)の中から選択された少なくとも1つのFcフラグメントの受容体(FcR)に対する増大した親和性を有し、
(i)4つの突然変異334N、352S、378Vおよび397Mと、
(ii)434Y 434S、226G、P228L、P228R、230S、230T、230L、241L、264E、307P、315D、330V、362R、389Tおよび389Kの中から選択された少なくとも1つの突然変異と、
を含み、
付番がKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番であること、を特徴とし、
トランスジェニック非ヒト哺乳動物の乳房上皮細胞内での前記変異体の発現を含むか、または
培養中の哺乳動物細胞内での前記変異体の発現を含む、
方法。
【請求項16】
前記変異体が、Y296W、K290G、V240H、V240I、V240M、V240N、V240S、F241H、F241Y、L242A、L242F、L242G、L242H、L242I、L242K、L242P、L242S、L242T、L242V、F243L、F243S、E258G、E258I、E258R、E258M、E258Q、E258Y、V259C、V259I、V259L、T260A、T260H、T260I、T260M、T260N、T260R、T260S、T260W、V262S、V263T、V264L、V264S、V264T、V266L、S267A、S267Q、S267V、K290D、K290E、K290H、K290L、K290N、K290Q、K290R、K290S、K290Y、P291G、P291Q、P291R、R292I、R292L、E293A、E293D、E293G、E293M、E293Q、E293S、E293T、E294A、E294G、E294P、E294Q、E294R、E294T、E294V、Q295I、Q295M、Y296H、S298A、S298R、Y300I、Y300V、Y300W、R301A、R301M、R301P、R301S、V302F、V302L、V302M、V302R、V302S、V303S、V303Y、S304T、V305A、V305F、V305I、V305L、V305RおよびV305Sの中から選択されたFcフラグメント内の少なくとも1つの突然変異(iii)をさらに含み、
付番がKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番であること、
を特徴とする、請求項15に記載のFcフラグメントを含む親ポリペプチドの変異体の産生方法。
【請求項17】
a)変異体についてコードする配列、哺乳動物のカゼインプロモーターまたは哺乳動物の乳清プロモーターについてコードする配列、および前記変異体の分泌を可能にするシグナルペプチドについてコードする配列を含むDNA配列を調製するステップと、
b)a)で得たDNA配列を非ヒト哺乳動物の胚中に導入して、乳腺内でa)において得られた前記DNA配列によりコードされた変異体を発現するトランスジェニック非ヒト哺乳動物を得るステップと、および
c)b)で得られたトランスジェニック非ヒト哺乳動物によって産生された乳中の変異体を回収するステップと
を含む、請求項15または16に記載のFcフラグメントを含むポリペプチドの変異体の産生方法。
【請求項18】
トランスジェニック非ヒト哺乳動物が、ウシ類、ブタ類、ヤギ類、ヒツジ類、およびゲッ歯類の中から、好ましくはヤギ、マウス、雌ブタ、雌ウサギ、雌ヒツジおよび雌ウシの中から選択される、請求項15から17のいずれか一つに記載のFcフラグメントを含むポリペプチドの変異体の産生方法。
【請求項19】
a)変異体についてコードするDNA配列を調製するステップと、
b)過渡的または安定的に、培養中の哺乳動物細胞内にa)で得たDNA配列を導入するステップと、
c)b)で得た細胞から変異体を発現するステップと、そして
d)培地内で変異体を回収するステップと
を含む、請求項15または16に記載のFcフラグメントを含むポリペプチドの変異体の産生方法。
【請求項20】
Fcフラグメントを含む親ポリペプチドの変異体をコードする遺伝子を含むDNA配列において、前記変異体が、親ポリペプチドの親和性と比べ、FcRn受容体に対する増大した親和性、ならびにFcγRI受容体(CD64)、FcγRIIIa受容体(CD16a)およびFcγRIIa受容体(CD32a)の中から選択された少なくとも1つのFcフラグメントの受容体(FcR)に対する増大した親和性を有し、
(i)4つの突然変異334N、352S、378Vおよび397Mと、
(ii)434Y 434S、226G、P228L、P228R、230S、230T、230L、241L、264E、307P、315D、330V、362R、389Tおよび389Kの中から選択された少なくとも1つの突然変異と
を含み、
付番がKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番であること、を特徴とし、
任意には、前記変異体の分泌を可能にするシグナルペプチドについてコードする配列を含むDNA配列。
【請求項21】
前記変異体がY296W、K290G、V240H、V240I、V240M、V240N、V240S、F241H、F241Y、L242A、L242F、L242G、L242H、L242I、L242K、L242P、L242S、L242T、L242V、F243L、F243S、E258G、E258I、E258R、E258M、E258Q、E258Y、V259C、V259I、V259L、T260A、T260H、T260I、T260M、T260N、T260R、T260S、T260W、V262S、V263T、V264L、V264S、V264T、V266L、S267A、S267Q、S267V、K290D、K290E、K290H、K290L、K290N、K290Q、K290R、K290S、K290Y、P291G、P291Q、P291R、R292I、R292L、E293A、E293D、E293G、E293M、E293Q、E293S、E293T、E294A、E294G、E294P、E294Q、E294R、E294T、E294V、Q295I、Q295M、Y296H、S298A、S298R、Y300I、Y300V、Y300W、R301A、R301M、R301P、R301S、V302F、V302L、V302M、V302R、V302S、V303S、V303Y、S304T、V305A、V305F、V305I、V305L、V305RおよびV305Sの中から選択されたFcフラグメント内の少なくとも1つの突然変異(iii)をさらに含み、
付番がKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番である、請求項20に記載のFcフラグメントを含む親ポリペプチドの変異体をコードする遺伝子を含むDNA配列。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親ポリペプチドと比べ、FcRn受容体に対する増大した親和性ならびに少なくとも1つのFcフラグメント受容体(FcR)に対する増大した親和性を有する、突然変異したFc領域を含むポリペプチド(変異体とも呼ばれる)に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、重鎖と軽鎖の四量体で構成される。2つの軽鎖は互いに同一であり、2つの重鎖は同一で、ジスルフィド架橋により連結されている。免疫グロブリンクラス(IgA、IgG、IgD、IgE、IgM)を決定する5タイプの重鎖(アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン、ミュー)が存在する。軽鎖の群には、ラムダおよびカッパの2つのサブタイプが含まれる。
【0003】
IgGは、血液および他の体液中に見出すことのできる可溶性抗体である。IgGは、2つの重鎖と2つの軽鎖で構成された、150kDaの近似的分子量を有するY字糖タンパク質である。各鎖は、定常領域と可変領域に区別される。重鎖の2つのカルボキシ末端ドメインはFcフラグメントを形成し、一方、重鎖および軽鎖のアミノ末端ドメインは抗原を認識し、Fabフラグメントと命名される。
【0004】
Fc融合タンパク質は、抗体のFcフラグメントと、所与の治療標的に対する特異性を提供するタンパク質ドメインとの組合せによって創出される。例としては、あらゆるタイプの治療用タンパク質またはそれらのフラグメントとFcフラグメントの組合せがある。
【0005】
Fcポリペプチド、特にFcフラグメント、治療用抗体およびFc融合タンパク質は、今日、リウマチ性多発性関節炎、乾癬、多発性硬化症および多くの形態の癌といったさまざまな疾病を治療するために使用されている。治療用抗体は、モノクローナルまたはポリクローナル抗体であり得る。モノクローナル抗体は、唯一の抗原に対して同一の特異性を示す、単一の抗体産生細胞系統から得られる。治療用Fc融合タンパク質は、エタネルセプト(Enbrel d’Amgen、これはFcフラグメントに結合されたTNF受容体である)またはアレファセプト(Amevive de Biogen Idec、これはヒトIgG1のFc部分に結合されたLFA-3である)のように、炎症性要素を有しかつ/または自己免疫性の疾患に対する薬剤として使用または開発されている。
【0006】
Fcフラグメント、Fc抗体および融合タンパク質などのFcポリペプチドは、特に、その受容体すなわちFcRnおよびFcフラグメント受容体(FcR)、例えばFcγRI受容体(CD64)、FcγRIIIa受容体(CD16a)およびFcγRIIa受容体(CD32a)などに対する、そのFc部分の結合に依存する活性を有する。
【0007】
FcポリペプチドとFcフラグメント受容体(FcR)の相互作用を介入させる療法において求められる効果の1つは、エフェクター細胞の表面に存在するFc受容体に対する結合による免疫系の活性化の阻害である。特に、自己抗体および/またはサイトカインが関与する炎症性および/または自己免疫性疾患の治療の一環として、Fcフラグメントに基づく療法は、Fc受容体の遮断によって、したがってこれらの受容体へのアクセスのための自己抗体との競合によって作用し得る。これにより、通常自己抗体によって媒介される直接的活性(例えば抗体依存性細胞毒性、補体依存性細胞毒性または抗体依存性細胞食作用)の阻害、および免疫系の活性化、特にサイトカイン放出の減少がひき起こされる。その上、FcRn受容体は抗体のリサイクリングに関与することから、Fcポリペプチドによるこれらの遮断は、自己抗体のより急速な除去を可能にし、こうしてその半減期の短縮がひき起こされる。このような理由から、Fcフラグメントに基づく治療は、免疫系の細胞の無制御刺激によって、特に自己抗体および/またはサイトカインによってひき起こされた自己免疫および/または炎症性疾患にとりわけ適応している。
【0008】
これらの疾患の治療のために提案されている基本的療法は、ヒトの血漿の献血プールに由来する免疫グロブリン(最も多くはIgG)を静脈内投与により患者に投与することからなる静脈内免疫グロブリン(IgIV)に基づく療法である。これらのIgIVは特にFc受容体を遮断し、こうしてこれらの受容体へのアクセスのために自己抗体との競合に入ることにより作用する、ということが一般に認められている。より最近では、Fcフラグメントは、Fc受容体に対するその結合特性を修飾する目的で開発されてきた。しかしながら、その効能については、今後の実証が待たれる。
【0009】
特にその半減期時間および/またはその治療効能を増大させるように、これらのFcフラグメントを最適化する必要性が、なおも存在する。
【0010】
出願人は今や、特に、改善されたFcRnに対する結合親和性によって、改善された活性を有する特殊なFcフラグメントを開発した。これらのFcフラグメントは、療法において使用することができ、特に、それらを含有する製品に、より優れた効能をもたらす目的で、炎症性および/または自己免疫性の疾患の治療に特に適応している。
【0011】
詳細には、これらのフラグメントは、免疫系の細胞上に存在するFc受容体のより効果的な遮断を提示することができ、このときこれらのFc受容体は、その時点で活性が阻害されている自己抗体の結合のためのアクセス性が低くなっているか、またはもはやアクセス不可能である。
【0012】
その上、FcフラグメントはFcRn受容体をより効果的に遮断することができ、こうして自己抗体をより急速に除去することを可能にする。
【0013】
さらに、これらの特殊なFcフラグメントのいくつかは、実施例で実証される通り、IgIVよりも優れた補体依存性細胞毒性(CDC)の阻害を提示する。したがって、これらのFcフラグメントは、炎症性および/または自己免疫性の疾患に関与するものなどの病原性自己抗体の毒性を減少させることができると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって本発明は、Fc領域により媒介される機能的活性に関して最適化された特性を有する親ポリペプチドの変異体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって本発明は、Fcフラグメントを含む親ポリペプチドの変異体において、親ポリペプチドの親和性と比べ、FcRn受容体に対する増大した親和性、ならびにFcγRI受容体(CD64)、FcγRIIIa受容体(CD16a)およびFcγRIIa受容体(CD32a)の中から選択された少なくとも1つのFcフラグメントの受容体(FcR)に対する増大した親和性を有する変異体であって、
(i)4つの突然変異334N、352S、378Vおよび397Mと、
(ii)434Y、434S、226G、P228L、P228R、230S、230T、230L、241L、264E、307P、315D、330V、362R、389Tおよび389Kの中から選択された少なくとも1つの突然変異と、
を含み、
付番がKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番であること、を特徴とする変異体に関する。
【0016】
一実施形態によると、本発明に係る変異体は、Y296W、K290G、V240H、V240I、V240M、V240N、V240S、F241H、F241Y、L242A、L242F、L242G、L242H、L242I、L242K、L242P、L242S、L242T、L242V、F243L、F243S、E258G、E258I、E258R、E258M、E258Q、E258Y、V259C、V259I、V259L、T260A、T260H、T260I、T260M、T260N、T260R、T260S、T260W、V262S、V263T、V264L、V264S、V264T、V266L、S267A、S267Q、S267V、K290D、K290E、K290H、K290L、K290N、K290Q、K290R、K290S、K290Y、P291G、P291Q、P291R、R292I、R292L、E293A、E293D、E293G、E293M、E293Q、E293S、E293T、E294A、E294G、E294P、E294Q、E294R、E294T、E294V、Q295I、Q295M、Y296H、S298A、S298R、Y300I、Y300V、Y300W、R301A、R301M、R301P、R301S、V302F、V302L、V302M、V302R、V302S、V303S、V303Y、S304T、V305A、V305F、V305I、V305L、V305RおよびV305Sの中から選択されたFcフラグメント内の少なくとも1つの突然変異(iii)をさらに含み、
付番はKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番である。
【0017】
このような変異体は、「本発明に係る変異体」、「本発明に係る突然変異体」または「本発明に係るポリペプチド」と呼ばれる。
【0018】
好ましくは、本発明に係る変異体は、FcRn受容体に対する増大した親和性と、全てのFcγRI受容体(CD64)、FcγRIIIa受容体(CD16a)およびFcγRIIa受容体(CD32a)に対する増大した親和性を同時に有する。
【0019】
好ましくは、さらに、本発明に係る変異体は、補体、特にC1qのタンパク質に対する結合の修飾のせいである補体依存性細胞毒性(CDC)を阻害する能力をもつ。この阻害は、IgIVにより付与される阻害に比べ、著しく改善されている。
【0020】
好ましくは、本発明に係る変異体は、付番がKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番であるものとして、5つの突然変異N434Y、K334N、P352S、V397MおよびA378Vを有し、HEK293細胞で産生される、特にIgG1のFcフラグメントからなる変異体とは異なる。したがって、好ましくは、本発明に係る変異体は、付番がKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番であるものとして、細胞HEK293で産生された、特にIgG1のFcフラグメント、N434Y/K334N/P352S/V397M/A378Vとは異なる。
【0021】
本出願全体にわたり、Fc領域内の残基の付番は、Kabatら、(Sequences of Proteins of Immunological Interest、5e ed.Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、dans le Maryland、1991)中のEUインデックスまたは等価物にしたがった免疫グロブリンの重鎖の付番である。「Kabat中のEUインデックスまたは等価物」なる表現は、ヒト抗体IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4の残基のEU付番を意味する。このことはIMGTのサイト(http://www.imgt.org/IMGTScientificChart/Numbering/Hu IGHGnber.html)で例示されている。
【0022】
「ポリペプチド」または「タンパク質」とは、共有結合によって結合された少なくとも100個のアミノ酸を含む配列を意味する。
【0023】
「アミノ酸」とは、20種の天然アミノ酸または非天然類似体のうちの1つを意味する。
【0024】
「位置」なる用語は、1つのポリペプチドの配列中の位置を意味する。Fc領域については、位置は、Kabat中のEUインデックスまたは等価物にしたがって付番される。
【0025】
「抗体」なる用語は、一般的な意味で使用される。これは、少なくとも1つのFc領域および2つの可変領域を含む四量体に対応する。抗体は特に、全長免疫グロブリン、モノクローナル抗体、多特異的抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体および完全ヒト抗体を含む。各重鎖のアミノ末端部分は、抗原の認識を担う約100~110個のアミノ酸の可変領域を含む。各可変領域内で、3つの環が結集されて、抗原に対する結合部位を形成する。各々の環は、相補性決定領域(以下「CDR」と呼称)と呼ばれる。各重鎖のカルボキシ末端部分は、主としてエフェクター機能を担う定常領域を画定する。
【0026】
IgGは、複数のサブクラス、特にIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を有する。IgMのサブクラスは、特にIgM1およびIgM2である。したがって、「アイソタイプ」とは、その定常領域の化学的および抗原的特性によって定義される免疫グロブリンのサブクラスの1つを意味する。ヒト免疫グロブリンの公知のアイソタイプは、lgG1、lgG2、lgG3、lgG4、lgA1、lgA2、lgM1、lgM2、IgDおよびIgEである。
【0027】
全長IgGは四量体であり、2つの免疫グロブリン鎖の2つの同一対で構成されており、各対は1つの軽鎖と1つの重鎖を有し、各軽鎖はVLドメインおよびCLドメインを含み、各重鎖は、VHドメイン、Cγ1(CH1とも呼ばれる)、Cy2(CH2とも呼ばれる)およびCy3(CH3とも呼ばれる)を含む。ヒトIgG1の枠内で、「CH1」は、Kabat中のEuインデックスまたは等価物にしたがって、位置118~215を意味し、「CH2」は、位置231~340を指し示し、「CH3」は位置341~447を意味する。IgGの重鎖は、同様に、IgG1の場合位置216~230を意味するN末端フレキシブルヒンジドメインも含んでいる。下部ヒンジドメインは、Kabat中のEuインデックスまたは等価物にしたがって位置226~230を意味する。
【0028】
「可変領域」とは、それぞれ免疫グロブリンのカッパ鎖、ラムダ鎖および重鎖を構成する遺伝子VK、Vλおよび/またはVHのいずれか1つにより実質的にコードされる単数または複数のIgドメインを含む免疫グロブリンの領域を意味する。可変領域は、相補性決定領域(CDR)およびフレームワーク領域(FR)を含む。
【0029】
「Fc」または「Fc領域」なる用語は、免疫グロブリンの定常領域の最初のドメイン(CH1)を除く、抗体の定常領域を表わす。したがって、Fcは、IgG1の定常領域の最後の2つのドメイン(CH2およびCH3)、およびこれらのドメインのN末端フレキシブルヒンジを意味する。ヒトIgG1について、Fc領域は、そのカルボキシ末端端部に至るまでの残基C226、つまり、付番がKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番であるものとして、位置226~447の残基に対応する。使用されるFc領域は、さらに、Kabat中のEUインデックスまたは等価物にしたがって位置216~226の間に位置する上部ヒンジ領域部分を含むことができる。この場合、使用されるFc領域は、付番がKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番であるものとして、位置216~447、217~447、218~447、219~447、220~447、221~447、222~447、223~447、224~447または225~447の残基に対応する。好ましくはこの場合、使用されるFc領域は、付番がKabat中のEuインデックスまたは等価物にしたがったものとして、位置216~447の残基に対応する。
【0030】
好ましくは、使用されるFc領域は、配列番号1~10および14の配列の中から選択される。
【0031】
「親ポリペプチド」とは、基準の親ポリペプチドを意味する。この親ポリペプチドは、天然または合成由来のものであり得る。本発明に関連して、親ポリペプチドは、「親Fc領域」と呼ばれるFc領域を含む。このFc領域は、野生型Fc領域、それらのフラグメントおよびそれらの突然変異体の群から選択され得る。好ましくは、親ポリペプチドは、ヒトFcフラグメント、好ましくはヒトIgG1またはヒトIgG2のFcフラグメントを含む。親ポリペプチドは、野生型のFc領域との関係におけるFc領域内に予め存在するアミノ酸の修飾(例えばFc突然変異体)を含むことができる。
【0032】
有利には、親ポリペプチドは、単離Fc領域(すなわちそのままのFcフラグメント)、単離Fc領域から誘導された配列、抗体、Fc領域を含む抗体フラグメント、Fc領域を含む融合タンパク質またはFcコンジュゲートであるが、このリストは限定的ではない。
【0033】
「単離Fc領域から誘導された配列」とは、scFc(単鎖Fc)またはFc多量体などの、互いに結合した少なくとも2つの単離Fc領域を含む配列を意味する。「Fc領域を含む融合タンパク質」とは、Fc領域に融合したポリペプチド配列を意味し、このポリペプチド配列は、好ましくは、あらゆる抗体の可変領域、受容体とそのリガンドの結合配列、接着分子、リガンド、酵素、サイトカインおよびケモカインの中から選択される。「Fcコンジュゲート」とは、Fc領域とコンジュゲーションパートナーの化学的カップリングの結果である化合物を意味する。コンジュゲーションパートナーは、タンパク質または非タンパク質であり得る。カップリング反応は概して、Fc領域上の官能基およびコンジュゲーションパートナーを使用する。先行技術においては、さまざまな結合基が、コンジュゲートの合成にとって適切なものとして知られている。例えば、ホモまたはヘテロ2官能性結合基が周知である(Pierce Chemical Companyカタログ、2005~2006、架橋化剤についての技術的セクション、P321~350を参照のこと)。適切なコンジュゲーションパートナーとしては、治療用タンパク質、標識、細胞毒性薬、例えば化学療法薬、毒素およびそれらの活性フラグメントを挙げることができる。適切な毒素およびそれらのフラグメントには特に、ジフテリア毒素、外毒素A、リシン、アブリン、サポリン、ゲロニン、カリケオリン、アウリスタチンEおよびF、およびメルタンシンが含まれる。
【0034】
有利には、親ポリペプチド、したがって本発明に係るポリペプチドは、Fc領域からなる。
【0035】
有利には、親ポリペプチド、したがって本発明に係るポリペプチドは、抗体である。
【0036】
「突然変異」とは、1つのポリペプチドの配列の少なくとも1つのアミノ酸の変化、特に親ポリペプチドのFc領域の少なくとも1つのアミノ酸の変化を意味する。こうして得られた突然変異したポリペプチドは、変異体ポリペプチドであり、これが本発明に係るポリペプチドである。このようなポリペプチドは、親ポリペプチドに比較して突然変異したFc領域を含む。好ましくは、突然変異は、少なくとも1つのアミノ酸の置換、挿入または欠失である。
【0037】
「置換」とは、親ポリペプチド配列内の特定の位置にあるアミノ酸を他のアミノ酸で置き換えることを意味する。例えば、置換N434Sは、変異体ポリペプチド、この場合、位置434にあるアスパラギンがセリンによって置き換えられている変異体を意味する。
【0038】
「アミノ酸の挿入」または「挿入」とは、親ポリペプチド配列内の特定の位置におけるアミノ酸の追加を意味する。例えば、挿入G>235~236は、位置235と236の間のグリシンの挿入を表わす。
【0039】
「アミノ酸の欠失」または「欠失」とは、親ポリペプチド配列内の特定の位置におけるアミノ酸の除去を意味する。例えばE294delは、位置294におけるグルタミン酸の除去を表わす。
【0040】
好ましくは、「434S」または「N434S」という突然変異ラベルが使用され、親ポリペプチドが位置434にアスパラギンを含み、これは変異体においてはセリンにより置き換えられる、ということを意味している。置換の組合せの場合、好ましいフォーマットは以下のものである:「259I/315D/434Y」または「V259I/N315D/N434Y」。このことは、変異体の中には位置259、315および434に3つの置換が存在すること、そして親ポリペプチドの位置259のアミノ酸、つまりバリンがイソロイシンによって置き換えられていること、親ポリペプチドの位置315のアミノ酸、つまりアスパラギンがアスパラギン酸によって置き換えられていること、そして親ポリペプチドの位置434のアミノ酸、つまりアスパラギンがチロシンによって置き換えられていることを意味している。
【0041】
ここで使用されている「FcRn」または「新生児Fc受容体」とは、IgGのFc領域に結合し、少なくとも部分的にFcRn遺伝子によってコードされるタンパク質を意味する。当該技術分野において公知である通り、機能性FcRnタンパク質は、多くの場合重鎖および軽鎖の名前で呼称される2つのポリペプチドを含む。軽鎖はベータ-2-マイクログロブリンであり、重鎖はFcRn遺伝子によりコードされる。ここで相反する指示のないかぎり、FcRnまたはFcRnタンパク質は、ベータ-2-マイクログロブリンとα鎖の複合体を意味する。ヒトの場合、FcRnについてコードする遺伝子はFCGRTと呼ばれる。
【0042】
好ましくは、本発明に係る変異体は、親ポリペプチドの親和性に比べ、少なくとも2の比率に等しい、好ましくは5超、好ましくは10超、好ましくは15超、好ましくは20超、好ましくは25超、好ましくは30超の比率で増大した、FcRn受容体に対する親和性を有する。
【0043】
好ましくは、本発明に係る変異体は、親ポリペプチドの半減期に比べて増大した半減期を有する。好ましくは、本発明に係る変異体は、親ポリペプチドの半減期に比べ、少なくとも2の比率に等しい、好ましくは5超、好ましくは10超、好ましくは15超、好ましくは20超、好ましくは25超、好ましくは30超の比率で増大した半減期を有する。
【0044】
FcRnの主要な機能の1つは、IgGのリサイクリングという名前で知られている。これは、血漿タンパク質の内皮異化作用の経路からIgGを抽出して、これらのIgGをインタクトの状態で循環内に復元することからなる。血漿濃度を高く維持することを可能にしながら、通常の生理学的条件下でのこれらのIgGの半減期が長いこと(IgGについては3週間)は、このリサイクリングにより説明される。上皮または内皮の一方の極から他方の極へのIgGのトランスサイトーシスは、FcRnの第2の主要な機能であり、生命体におけるそれらの生体内分布を可能にしている。
【0045】
好ましくは、本発明に係る変異体は、親ポリペプチドの親和性に比べ、少なくとも2の比率に等しい、好ましくは5超、好ましくは10超、好ましくは15超、好ましくは20超、好ましくは25超、好ましくは30超の比率で増大した、FcγRI受容体(CD64)、FcγRIIIa受容体(CD16a)およびFcγRIIa受容体(IC32a)の中から選択された少なくとも1つのFcフラグメントの受容体(FcR)に対する親和性を有する。
【0046】
FcγRI受容体(CD64)は、食作用および細胞活性化に関与する。FcγRIIIa受容体(CD16a)は、同様に、Fcフラグメントに依存する活性、特にADCCおよび食作用に関与する。この受容体は、位置158に多型性V/Fを有する。FcγRIIa受容体(CD32a)はというと、これは血小板活性および食作用に関与する。この受容体は位置131に多型性H/Rを有する。
【0047】
好ましくは、本発明に係る変異体は、FcRn受容体に対する増大した親和性と、FcγRI受容体(CD64)、FcγRIIIa受容体(CD16a)およびFcγRIIa受容体(CD32a)全てに対する増大した親和性を同時に有する。
【0048】
FcRに対するFc領域を含むポリペプチドの親和性は、先行技術の周知の方法によって評価され得る。例えば、当業者であれば、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して、親和性(Kd)を決定することができる。代替的には、当業者であれば、適切なELISA試験を行なうことができる。適切なELISA検定により、親Fcおよび突然変異したFcの結合力を比較することが可能になる。突然変異したFcおよび親Fcに特異的な検出されたシグナルが比較される。結合親和性は、全ポリペプチドを評価することによってか、または全ポリペプチドから単離されたFc領域を評価することによって、無差別に決定され得る。代替的には、当業者は、適切な競合試験を実施することができる。適切な競合試験により、それらが受容体を発現する細胞と同時にインキュベートされた場合に、FcR標識リガンドの結合を阻害する突然変異したFcの能力を決定することが可能になる。FcRに対する標識リガンドの結合は、例えば、フローサイトメトリーにより評価される。FcRに対する突然変異したFcの結合親和性はこのとき、FcRに結合した標識リガンドが発出する蛍光の平均強度の可変性を評価することによって決定される。
【0049】
好ましくは、本発明に係るポリペプチドの突然変異したFc領域は、親ポリペプチドに比べ3~20個の突然変異、好ましくは4~20個の突然変異を含む。「3~20個のアミノ酸修飾」には、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19および20個のアミノ酸突然変異が包含される。好ましくは、この領域は、親ポリペプチドに比べて4~15個の突然変異、好ましくは4~10個の突然変異を含む。
【0050】
より優先的には、本発明に係るポリペプチドの突然変異したFc領域は、5個の突然変異の組合せを少なくとも1つ含み、前記組合せは、上述の通りの4つの突然変異(i)、および上述の通りの少なくとも1つの突然変異(ii)を含み、ここで付番はKabat中のEuインデックスまたは等価物の付番である。
【0051】
より優先的には、本発明に係るポリペプチドの突然変異したFc領域は、6個の突然変異の組合せ1つを含み、この組合せは、上述の通りの4つの突然変異(i)、上述の通りの少なくとも1つの突然変異(ii)、および上述の通りの少なくとも1つの突然変異(iii)を含み、ここで付番はKabat中のEuインデックスまたは等価物の付番である。
【0052】
好ましくは、本発明に係るポリペプチドの突然変異したFc領域は、
(i)4つの突然変異334N、352S、378Vおよび397Mと、
(ii)434Y 434S、226G、P228L、P228R、230S、230T、230L、241L、264E、307P、315D、330V、362R、389Tおよび389Kの中から選択された少なくとも1つの突然変異と、
を含み、
突然変異(iii)が存在する場合には、この突然変異は、K290GおよびY296Wの中から選択され、
ここで付番はKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番である。
【0053】
好ましくは、本発明に係るポリペプチドの突然変異したFc領域は、
(i)4つの突然変異334N、352S、378Vおよび397Mと、
(ii)434Y 434S、226G、P228L、P228R、230S、230T、230L、241L、264E、307P、315D、330V、362R、389Tおよび389Kの中から選択された少なくとも1つの突然変異と、
(iii)K290GおよびY296Wの中から選択された少なくとも1つの突然変異と、
を含み、
ここで付番はKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番である。
【0054】
好ましくは、本発明に係るポリペプチドの突然変異したFc領域は、N434Y/K334N/P352S/V397M/A378VおよびN434Y/K334N/P352S/V397M/A378V/Y296Wという組合せの中から選択された突然変異の組合せを含む。
【0055】
好ましくは、本発明に係るポリペプチドは、トランスジェニック非ヒト哺乳動物の乳房上皮細胞内で産生される。
【0056】
好ましくは、本発明に係るポリペプチドは、非ヒトトランスジェニック動物において、好ましくはトランスジェニック非ヒト哺乳動物において、より優先的にはそれらの乳房上皮細胞内で産生される。
【0057】
「トランスジェニック非ヒト哺乳動物」とは、特にウシ類、ブタ類、ヤギ類、ヒツジ類、およびゲッ歯類の中から、好ましくは、ヤギ、マウス、雌ブタ、雌ウサギ、雌ヒツジおよび雌ウシの中から選択される哺乳動物を意味する。好ましくは、非ヒトトランスジェニック動物またはトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、トランスジェニックヤギである。
【0058】
好ましくは、本発明に係る変異体は、そのFcフラグメント内に少なくとも5つの突然変異N434Y、K334N、P352S、V397MおよびA378Vを含み、トランスジェニック非ヒト哺乳動物の乳房上皮細胞内、または非ヒトトランスジェニック動物において、好ましくは、ヤギなどのトランスジェニック非ヒト哺乳動物において産生される。このような変異体は、FcRn受容体に対する増大した親和性、およびFcγRI受容体(CD64)、FcγRIIIa受容体(CD16a)およびFcγRIIa受容体(CD32a)全てに対する増大した親和性を同時に有する。
【0059】
したがって、好ましくは、本発明に係る変異体は、トランスジェニック非ヒト哺乳動物の乳房上皮細胞内で産生されるFc変異体N434Y/K334N/P352S/V397M/A378Vである。代替的には、好ましくは、本発明に係る変異体は、非ヒトトランスジェニック動物において、好ましくはヤギなどのトランスジェニック非ヒト哺乳動物において産生されるFc変異体N434Y/K334N/P352S/V397M/A378Vである。このような変異体は、FcRn受容体に対する増大した親和性、およびFcγRI受容体(CD64)、FcγRIIIa受容体(CD16a)および、FcγRIIa受容体(CD32a)全てに対する増大した親和性を同時に有する。好ましくは、本発明に係る変異体は、配列番号11の配列、または配列番号15の配列を含む。
【0060】
代替的には、好ましくは、本発明に係る変異体は、トランスジェニック非ヒト哺乳動物の乳房上皮細胞内で産生されるFc変異体N434Y/K334N/P352S/V397M/A378V/Y296Wである。代替的には、好ましくは、本発明に係る変異体は、非ヒトトランスジェニック動物において、好ましくはヤギなどのトランスジェニック非ヒト哺乳動物において産生されるFc変異体N434Y/K334N/P352S/V397M/A378V/Y296Wである。このような変異体は、FcRn受容体に対する増大した親和性、およびFcγRI受容体(CD64)、FcγRIIIa受容体(CD16a)および、FcγRIIa受容体(CD32a)全てに対する増大した親和性を同時に有する。
【0061】
好ましくは、本発明に係る変異体の産生方法は、トランスジェニック非ヒト哺乳動物の乳房上皮細胞内での前記変異体の発現を含む。
【0062】
したがって、本発明は同様に、Fcフラグメントを含む親ポリペプチドの変異体の産生方法において、前記変異体が親ポリペプチドの親和性と比べ、FcRn受容体に対する増大した親和性、ならびにFcγRI受容体(CD64)、FcγRIIIa受容体(CD16a)およびFcγRIIa受容体(CD32a)の中から選択された少なくとも1つのFcフラグメントの受容体(FcR)に対する増大した親和性を有し、前記変異体が、
(i)4つの突然変異334N、352S、378Vおよび397Mと、
(ii)434Y、434S、226G、P228L、P228R、230S、230T、230L、241L、264E、307P、315D、330V、362R、389Tおよび389Kの中から選択された少なくとも1つの突然変異と
を含み、
ここで付番はKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番であり、
トランスジェニック非ヒト哺乳動物の乳房上皮細胞内での前記変異体の発現を含む方法も、本発明の対象としている。
【0063】
好ましくは、前記変異体は、Y296W、K290G、V240H、V240I、V240M、V240N、V240S、F241H、F241Y、L242A、L242F、L242G、L242H、L242I、L242K、L242P、L242S、L242T、L242V、F243L、F243S、E258G、E258I、E258R、E258M、E258Q、E258Y、V259C、V259I、V259L、T260A、T260H、T260I、T260M、T260N、T260R、T260S、T260W、V262S、V263T、V264L、V264S、V264T、V266L、S267A、S267Q、S267V、K290D、K290E、K290H、K290L、K290N、K290Q、K290R、K290S、K290Y、P291G、P291Q、P291R、R292I、R292L、E293A、E293D、E293G、E293M、E293Q、E293S、E293T、E294A、E294G、E294P、E294Q、E294R、E294T、E294V、Q295I、Q295M、Y296H、S298A、S298R、Y300I、Y300V、Y300W、R301A、R301M、R301P、R301S、V302F、V302L、V302M、V302R、V302S、V303S、V303Y、S304T、V305A、V305F、V305I、V305L、V305RおよびV305Sの中から選択されたFcフラグメント内の少なくとも1つの突然変異(iii)をさらに含み、
付番はKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番である。
【0064】
詳細には、このような方法は、以下のステップを含む。
a)変異体についてコードする配列、哺乳動物のカゼインプロモーターまたは哺乳動物の乳清プロモーターについてコードする配列、および前記変異体の分泌を可能にするシグナルペプチドについてコードする配列を含むDNA配列を調製するステップ、
b)a)で得たDNA配列を非ヒト哺乳動物の胚中に導入して、乳腺内でa)において得られた前記DNA配列によりコードされた変異体を発現するトランスジェニック非ヒト哺乳動物を得るステップ、および
c)b)で得られたトランスジェニック非ヒト哺乳動物によって産生された乳中の変異体を回収するステップ。
【0065】
したがって、ステップa)は、変異体についてコードする配列、哺乳動物のカゼインプロモーターまたは哺乳動物の乳清プロモーターについてコードする配列、および前記変異体の分泌を可能にするシグナルペプチドについてコードする配列を含むDNA配列の調製を含む。このようなステップが図1に例示されている。
【0066】
変異体をコードする配列は、本発明に係る変異体についてコードするDNA配列である。
【0067】
例えば、この変異体は、配列番号11を配列として有する。シグナルペプチドと共に、対応する配列は、配列番号13の配列である。
【0068】
別の例によると、この変異体は、配列番号15を配列として有する。シグナルペプチドと共に、対応する配列は、配列番号16の配列である。
【0069】
哺乳動物のカゼインプロモーター、または哺乳動物の乳清プロモーターについてコードする配列は、乳中の変異体発現を可能にする。当業者であれば、このようなプロモーターを選択できる。
【0070】
本出願の枠内で、シグナルペプチドは、哺乳類宿主の乳中にFcポリペプチド変異体を差し向けるのに役立つ、Fcポリペプチド変異体のN末端端部に位置する、好ましくは2~30個のアミノ酸のアミノ酸配列である。好ましくはシグナルペプチドについてコードする配列は、変異体についてコードする配列とプロモーターの間に配置される。このような配列が無いと、変異体は乳房組織内にとどまり、精製は困難になり、哺乳類宿主の犠牲が求められることになると思われる。シグナルペプチドは、分泌の際に開裂され得る。シグナルペプチドについてコードする配列は、本発明に係る親ポリペプチドに天然に会合する配列であり得る。代替的に、シグナルペプチドについてコードする配列は、プロモーターが由来する乳タンパク質の配列であり得、つまり、プロモーターを単離する目的で乳タンパク質の遺伝子が消化される場合、プロモーターおよびこのプロモーターの直ぐ下流側でシグナルペプチドをコードする配列を同時に含むDNAフラグメントが選択される。別の選択肢は、プロモーターから通常発現される乳タンパク質でもなく、本発明に係るポリペプチドでもない、別の分泌されたタンパク質から誘導されたシグナル配列を使用することからなる。
【0071】
好ましくは、シグナルペプチドは、配列番号12を配列として有する。
【0072】
使用されるDNA配列は、最適化されたコドンを含むことができる。
【0073】
コドン最適化の目的は、天然コドンを、アミノ酸を担持するトランスファーRNA(tRNA)が、対象の細胞型において最も頻度の高いものであるコドンで置き換えることにある。頻繁に遭遇するtRNAを動員することのもつ主要な利点は、メッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳速度を加速し、したがって最終力価を増大させることにある(Carton JMら、Protein Expr Purif、2007年)。配列の最適化は同様に、リボソーム複合体による読取りを減速させ得ると考えられるmRNAの二次構造の予測にも作用する。配列の最適化は同様に、mRNAの半減期、したがってその翻訳される可能性に直接関係するG/C百分率に対しても影響を及ぼす(Chechetkin、J.of theoretical biology 242、2006年 922~934)。
【0074】
コドンの最適化は、哺乳動物そしてより詳細にはホモサピエンスについてのコドン使用頻度テーブル(codon Usage Table)を使用することによる天然コドンの置換によって行なうことができる。インターネット上にあり、合成遺伝子の供給業者(DNA2.0、GeneArt,MWG,Genscript)によって提供されている、この配列最適化を可能にするアルゴリズムが存在する。
【0075】
好ましくは、ステップa)は以下のステップを含む。
(a1)本発明に係る変異体の分泌を可能にするシグナルペプチドについてコードする配列にN末端端部において直接融合された、本発明に係る変異体についてコードする配列を含むDNA配列を調製するステップ、
(a2)哺乳動物カゼインプロモーターまたは哺乳動物乳清プロモーターについてコードする配列を含むベクター内に、(a1)で得たDNA配列を導入するステップ、および
(a3)哺乳動物カゼインプロモーターまたは哺乳動物乳清プロモーターについてコードする配列、および、シグナルペプチドについてコードする配列にN末端端部において直接融合された本発明に係る変異体についてコードする配列を含むDNA配列を含むDNA配列を得るために、(a2)で得た前記ベクターを消化するステップ。
【0076】
換言すると、好ましくは、ステップa)の終りで、それ自体本発明に係る変異体についてコードする配列に融合されている、シグナルペプチドについてコードする配列に融合された、哺乳動物カゼインプロモーターまたは哺乳動物乳清プロモーターについてコードする配列をN末端端部からC末端端部まで含む、DNA配列が得られる。
【0077】
次に、本発明に係る方法は、乳腺内でa)で得たDNA配列によりコードされた変異体を発現するトランスジェニック非ヒト哺乳動物を得るために、非ヒト哺乳動物の胚中に、a)で得た前記DNA配列を導入するステップb)を含む。
【0078】
最後に、本発明に係る方法は、b)で得たトランスジェニック非ヒト哺乳動物により産生された乳中の変異体を回収するステップc)を含む。
【0079】
ステップb)およびc)は、先行技術、特に欧州特許第0264166号明細書から公知である。
【0080】
好ましくは、このような方法は、ステップc)の後に、回収された乳を精製するステップd)を含む。精製ステップd)は、先行技術の既知のあらゆる方法、特にプロテインA上での精製によって実現可能である。ここでもまた、このようなステップは特に、欧州特許第0264166号明細書中に記載されている。
【0081】
本発明は同様に、Fcフラグメントを含む親ポリペプチドの変異体をコードする遺伝子を含むDNA配列において、前記変異体が、親ポリペプチドの親和性と比べ、FcRn受容体に対する増大した親和性、ならびにFcγRI受容体(CD64)、FcγRIIIa受容体(CD16a)およびFcγRIIa受容体(CD32a)の中から選択された少なくとも1つのFcフラグメントの受容体(FcR)に対する増大した親和性を有し、前記変異体が、
(i)4つの突然変異334N、352S、378Vおよび397Mと、
(ii)434Y 434S、226G、P228L、P228R、230S、230T、230L、241L、264E、307P、315D、330V、362R、389Tおよび389Kの中から選択された少なくとも1つの突然変異と、
を含み、
付番がKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番であり、
前記遺伝子が、この遺伝子の転写を自然に制御しない哺乳動物の乳清またはカゼインの転写プロモーターの制御下にあり、
変異体についてコードする配列とプロモーターの間に配置されて、前記変異体の分泌を可能にするシグナルペプチドについてコードする配列をさらに含む、
DNA配列をも本発明の対象とする。
【0082】
特定の一実施形態において、前記変異体はY296W、K290G、V240H、V240I、V240M、V240N、V240S、F241H、F241Y、L242A、L242F、L242G、L242H、L242I、L242K、L242P、L242S、L242T、L242V、F243L、F243S、E258G、E258I、E258R、E258M、E258Q、E258Y、V259C、V259I、V259L、T260A、T260H、T260I、T260M、T260N、T260R、T260S、T260W、V262S、V263T、V264L、V264S、V264T、V266L、S267A、S267Q、S267V、K290D、K290E、K290H、K290L、K290N、K290Q、K290R、K290S、K290Y、P291G、P291Q、P291R、R292I、R292L、E293A、E293D、E293G、E293M、E293Q、E293S、E293T、E294A、E294G、E294P、E294Q、E294R、E294T、E294V、Q295I、Q295M、Y296H、S298A、S298R、Y300I、Y300V、Y300W、R301A、R301M、R301P、R301S、V302F、V302L、V302M、V302R、V302S、V303S、V303Y、S304T、V305A、V305F、V305I、V305L、V305RおよびV305Sの中から選択されたFcフラグメント内の少なくとも1つの突然変異(iii)をさらに含み、付番はKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番である。
【0083】
本発明は同様に、Fcフラグメントを含む親ポリペプチドの変異体をコードする遺伝子を含むDNA配列において、前記変異体が、親ポリペプチドの親和性と比べ、FcRn受容体に対する増大した親和性、ならびにFcγRI受容体(CD64)、FcγRIIIa受容体(CD16a)およびFcγRIIa受容体(CD32a)の中から選択された少なくとも1つのFcフラグメントの受容体(FcR)に対する増大した親和性を有し、前記変異体が、
(i)4つの突然変異334N、352S、378Vおよび397Mと、
(ii)434Y、434S、226G、P228L、P228R、230S、230T、230L、241L、264E、307P、315D、330V、362R、389Tおよび389Kの中から選択された少なくとも1つの突然変異と、
を含み、
付番がKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番であり、
任意には、前記変異体の分泌を可能にするシグナルペプチドについてコードする配列を含む、
DNA配列をも本発明の対象とする。
【0084】
特定の一実施形態において、前記変異体はY296W、K290G、V240H、V240I、V240M、V240N、V240S、F241H、F241Y、L242A、L242F、L242G、L242H、L242I、L242K、L242P、L242S、L242T、L242V、F243L、F243S、E258G、E258I、E258R、E258M、E258Q、E258Y、V259C、V259I、V259L、T260A、T260H、T260I、T260M、T260N、T260R、T260S、T260W、V262S、V263T、V264L、V264S、V264T、V266L、S267A、S267Q、S267V、K290D、K290E、K290H、K290L、K290N、K290Q、K290R、K290S、K290Y、P291G、P291Q、P291R、R292I、R292L、E293A、E293D、E293G、E293M、E293Q、E293S、E293T、E294A、E294G、E294P、E294Q、E294R、E294T、E294V、Q295I、Q295M、Y296H、S298A、S298R、Y300I、Y300V、Y300W、R301A、R301M、R301P、R301S、V302F、V302L、V302M、V302R、V302S、V303S、V303Y、S304T、V305A、V305F、V305I、V305L、V305RおよびV305Sの中から選択されたFcフラグメント内の少なくとも1つの突然変異(iii)をさらに含み、付番はKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番である。
【0085】
代替的には、本発明に係るポリペプチドは、培養中の哺乳動物の細胞内で産生され得る。好ましい細胞は、ラット系統YB2/0、ハムスター系統CHO、詳細にはCHO dhfr-およびCHO Lec13系統、PER.C6(商標)細胞(Crucell)、NS0、SP2/0、HeLa、BHKまたはCOS細胞、HEK293細胞である。好ましくは、ハムスター系統CHOが使用される。
【0086】
したがって、本発明は同様に、Fcフラグメントを含む親ポリペプチドの変異体の産生方法において、前記変異体が親ポリペプチドの親和性と比べ、FcRn受容体に対する増大した親和性、ならびにFcγRI受容体(CD64)、FcγRIIIa受容体(CD16a)およびFcγRIIa受容体(CD32a)の中から選択された少なくとも1つのFcフラグメントの受容体(FcR)に対する増大した親和性を有し、
(i)4つの突然変異334N、352S、378Vおよび397Mと、
(ii)434Y 434S、226G、P228L、P228R、230S、230T、230L、241L、264E、307P、315D、330V、362R、389Tおよび389Kの中から選択された少なくとも1つの突然変異と、
を含み、
付番がKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番であり、
培養中の哺乳動物細胞内での前記変異体の発現を含む、
方法を対象とする。
【0087】
特定の一実施形態において、前記変異体は、Y296W、K290G、V240H、V240I、V240M、V240N、V240S、F241H、F241Y、L242A、L242F、L242G、L242H、L242I、L242K、L242P、L242S、L242T、L242V、F243L、F243S、E258G、E258I、E258R、E258M、E258Q、E258Y、V259C、V259I、V259L、T260A、T260H、T260I、T260M、T260N、T260R、T260S、T260W、V262S、V263T、V264L、V264S、V264T、V266L、S267A、S267Q、S267V、K290D、K290E、K290H、K290L、K290N、K290Q、K290R、K290S、K290Y、P291G、P291Q、P291R、R292I、R292L、E293A、E293D、E293G、E293M、E293Q、E293S、E293T、E294A、E294G、E294P、E294Q、E294R、E294T、E294V、Q295I、Q295M、Y296H、S298A、S298R、Y300I、Y300V、Y300W、R301A、R301M、R301P、R301S、V302F、V302L、V302M、V302R、V302S、V303S、V303Y、S304T、V305A、V305F、V305I、V305L、V305RおよびV305Sの中から選択されたFcフラグメント内の少なくとも1つの突然変異(iii)をさらに含み、
付番はKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番である。
【0088】
詳細には、このような方法は、以下のステップを含む。
a)変異体についてコードするDNA配列を調製するステップと、
b)培養中の哺乳動物細胞内にa)で得たDNA配列を導入するステップ(この導入は過渡的または安定的に実現可能である(すなわち細胞のゲノム内へのa)で得たDNA配列の組込み))、および
c)b)で得た細胞から変異体を発現するステップ、そして
d)任意には、培地内で変異体を回収するステップ。
【0089】
本発明は同様に、(i)本発明に係るポリペプチド、および(ii)医薬的に許容可能な少なくとも1つの賦形剤を含む医薬組成物をも対象とする。
【0090】
本発明は同様に、(i)付番がKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番であるものとして、5つの突然変異N434Y、K334N、P352S、V397MおよびA378Vを有する特にIgG1のFcフラグメントからなる変異体、および(ii)医薬的に許容可能な少なくとも1つの賦形剤を含む医薬組成物をも対象とする。好ましくは、本発明の組成物は、(i)付番がKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番であるものとして、6つの突然変異N434Y、K334N、P352S、V397MおよびA378V、Y296Wを有する特にIgG1のFcフラグメントからなる変異体、およびii)医薬的に許容可能な少なくとも1つの賦形剤を含む。
【0091】
本発明は同様に、薬剤として使用するための本発明に係るポリペプチドまたは上述の通りの組成物をも対象とする。
【0092】
本発明は同様に、付番がKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番であるものとして(すなわち変異体N434Y/K334N/P352S/V397M/A378V)5つの突然変異N434Y、K334N、P352S、V397MおよびA378Vを有する特にIgG1のFcフラグメントからなる変異体の、薬剤としての使用をも対象とする。特定の一実施形態において、本発明は同様に、付番がKabat中のEUインデックスまたは等価物の付番であるものとして(すなわち変異体N434Y/K334N/P352S/V397M/A378V/Y296W)6つの突然変異N434Y、Y296W、K334N、P352S、V397M、A378VおよびY296Wを有する特にIgG1のFcフラグメントからなる変異体の、薬剤としての使用をも対象とする。
【0093】
前述の通り、有利には、親ポリペプチド、したがって本発明のポリペプチドは、抗体である。この場合、抗体は、腫瘍抗原、ウィルス抗原、細菌抗原、真菌抗原、毒素、膜サイトカインまたは循環サイトカイン、膜受容体の中から選択された抗原に対して向けられ得る。
【0094】
抗体が腫瘍抗原に対して向けられる場合、その使用は、癌治療において特に適切である。「癌」とは、細胞の異常増殖により特徴付けられるあらゆる生理学的条件を意味する。癌の例には、特に上皮腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫(脂肪肉腫を含む)、神経内分泌腫瘍、中皮腫、髄膜腫、腺癌、黒色腫、白血病、および悪性リンパ様病理が含まれるが、このリストは網羅的なものではない。
【0095】
抗体がウィルス抗原に対して向けられる場合、その使用は、ウィルス感染症の治療において特に適切である。ウィルス感染症は、特に、HIV、レトロウィルス、コクサッキーウィルス、天然痘ウィルス、インフルエンザウィルス、黄熱病ウィルス、ウエストナイル熱ウィルス、サイトメガロウィルス、ロタウィルスまたはB型もしくはC型肝炎ウィルスに起因する感染症であるが、このリストは網羅的なものではない。
【0096】
抗体が毒素に対して向けられる場合、その使用は細菌感染症、例えば破傷風毒素、ジフテリア毒素、炭疽菌毒素による感染症の治療において、さらにはボツリヌス菌毒素、リシン毒素、志賀毒素による感染症の治療において特に適切であるが、このリストは網羅的なものではない。
【0097】
抗体がサイトカインに対して向けられる場合、その使用は、炎症性および/または自己免疫性疾患の治療において特に適切である。炎症性および/または自己免疫性疾患には特に、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、移植片または器官の拒絶反応、移植片対宿主病、リウマチ性多発性関節炎、全身性エリテマトーデス、さまざまなタイプの硬化症、初発性シェーグレン症候群(またはGougerot-Sjogren症候群)、多発性硬化症などの自己免疫性多発ニューロパシー、I型糖尿病、自己免疫性肝炎、強直性脊椎関節炎、ライター症候群、痛風関節炎、腹腔疾患、クローン病、橋本慢性甲状腺炎(甲状腺機能低下症)、アジソン病、自己免疫性肝炎、バセドー氏病(甲状腺機能亢進症)、潰瘍性大腸炎、ANCA(好中球の抗細胞質抗体)に結び付けられる全身性血管炎のような血管炎、成人および小児の自己免疫性血球減少症および他の血液系の合併症、例えば、急性または慢性自己免疫性血小板減少症、自己免疫性溶血性貧血、新生児溶血性疾患(MHN)、寒冷凝集素疾患、自己免疫性後天性血友病;グッドパスチャー症候群、膜外腎症、自己免疫性水疱性皮膚疾患、難治性筋無力症、混合性クリオグロブリン血症、乾癬、若年性慢性関節炎、炎症性筋炎、皮膚筋炎および抗リン脂質症候群を含めた小児の自己免疫性全身性疾患、結合組織疾患、自己免疫性肺炎、ギランバレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、自己免疫性甲状腺炎、糖尿病、重症筋無力症、自己免疫性炎症性眼疾患、視神経脊髄炎(デビック病)、強皮症、天疱瘡、インスリン抵抗性糖尿病、多発性筋炎、ボーマー貧血、糸球体腎炎、ウェゲナー病、ホートン病、結節性関節周囲炎およびチャーグ・ストラウス症候群、スティル病、萎縮性多発性軟骨炎、ベーチェット病、単クローン性免疫グロブリン血症、ウェグナー肉芽腫症、狼瘡、出血性直腸結腸炎、乾癬性関節炎、サルコイドーシス、膠原線維性大腸炎、疱疹状皮膚炎、家族性地中海熱、IgA沈着性糸球体腎炎、ランバート・イートン型筋無力症候群、交感性眼炎、Fiessinger-Leroy-Reiter症候群およびブドウ膜髄膜脳炎症候群が含まれる。
【0098】
例えば、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、急性敗血症性関節炎、アジュバント関節炎、アレルギー性脳脊髄炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性血管炎、アレルギー、ぜんそく、アテローム性動脈硬化症、慢性細菌またはウィルス感染症に起因する慢性炎症、慢性閉塞性気管支肺疾患(COPD)、冠動脈疾患、脳炎、炎症性腸疾患、炎症性骨溶解、急性および遅発性感覚過敏反応関連炎症、腫瘍関連炎症、末梢神経病巣または脱髄性疾患、火傷および虚血などの組織の外傷性傷害に関連する炎症、髄膜炎に起因する炎症、多臓器機能不全症候群(multiple organ dysfunction syndrome、MODS)、肺線維症、敗血症および敗血症性ショック、スティーブンス-ジョンソン症候群、未分化関節炎、および未分化脊椎関節症などの他の炎症性疾患も同様に含まれる。本発明の特定の実施形態において、自己免疫性疾患は、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)および慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)である。
【0099】
好ましくは、自己免疫性または炎症性病理は、免疫性血小板減少性紫斑病(特発性血小板減少性紫斑病、またはITPとも呼ばれる)、視神経脊髄炎またはデビック病(NMO)および多発性硬化症の中から選択される。多発性硬化症は、特に、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルにより研究されている。
【0100】
本出願中に記載されている配列は、以下のように要約することができる。
【0101】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0102】
本発明は、以下の実施例を読むことでより良く理解されるものである。
【0103】
図の凡例は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0104】
図1】ベクターBc451を用いた、ヤギおよびマウスの乳中における変異体A3A-184AYの産生
【0105】
A)ベータカゼインベクターBc451をXhoIにより消化した。
ベクターBc451中、NotI-NotIフラグメントは原核生物フラグメントである。NotI(15370)-Xholフラグメントは、polyAシグナルを含むゲノム配列3’である。BamHI-Xholフラグメントは、ベータカゼインのプロモーター領域である。
【0106】
B)Fc変異体A3A-184AYのコーディング領域(すなわちFC3179 A3A-184AY 884 bp)を含むSallフラグメントをベクター内に挿入して、遺伝的構造BC3180 FC A3A-184AY(C)を生成した。
【0107】
D)次に、原核生物ベクターから、マイクロインジェクション用のDNAフラグメントを単離した。このために、NotlおよびNru1によってBC3180を消化した。ベータカゼインのプロモーターの制御下で(変異体A3A-184AYをコードする)Fc遺伝子を含む16.4kb遊離フラグメントを、その後ゲル溶出により精製した。
【0108】
図2】K/BxNマウス血清のトランスファーにより誘発された関節炎の予防モデルにおける試験結果
【0109】
C57/BI/6Jマウスに対して0日目に静脈内投与によりK/BxNマウス血清10μlをトランスファーすることによって、疾病を誘発した。0日目、K/BxNマウス血清の注射より2時間前に一回、被験分子を腹腔内投与した。
【0110】
4肢の指数を加算して、以下の臨床スコア(「clinical score」)を得た。0=正常、1=1つの関節の膨れ、2=2つ以上の関節の膨れ、および3=全関節の重度の膨れ(任意単位)。
【0111】
図3】K/BxNマウス血清のトランスファーにより誘発された関節炎の治療モデルにおける試験結果
【0112】
C57/BI/6Jマウスに対して0日目に静脈内投与によりK/BxNマウス血清10μlをトランスファーすることによって、疾病を誘発した。0日目、K/BxNマウス血清の注射から72時間後に、一回、被験分子を腹腔内投与した(点線で表示)。
【0113】
4肢の指数を加算して、以下の臨床スコア(「clinical score」)を得た。0=正常、1=1つの関節の膨れ、2=2つ以上の関節の膨れ、および3=全関節の重度の膨れ(任意単位)。
【0114】
図4】血液細胞に対するFcおよびIgIVの結合試験の結果
【0115】
Alexaで標識された本発明に係るFc変異体またはIgIVを、氷上で20分間、標的細胞と共に65nM(CSF2%のPBS中でFcについて10μg/ml)でインキュベートした。CSF2%のPBS中で2回洗浄した後、フローサイトメトリーによる分析の前に500μlのIsoflow中で細胞を懸濁させた。
【0116】
結果は以下の通りである。
A)抗CD19で標識されたB細胞(「%陽性B細胞」)、
B)抗CD56で標識されたNK細胞(「%陽性NK細胞」)、
C)IgIVの存在下で、抗CD14で標識された単球(「%陽性細胞+IgIV」)、
D)IgIVの存在下で、抗CD14および抗CD16抗体3G8で標識されたCD16+単球(「%陽性細胞+IgIV」)、
E)IgIVの存在下で、抗CD15で標識された好中球(「%陽性細胞+IgIV」)、
F)IgIVまたはWT Fcの存在下で、抗CD56で標識されたNK細胞(「%細胞陽性」)。
【0117】
図5】Jurkat CD64細胞およびCDCの活性化の、ADCC試験結果
【0118】
A)Jurkat CD64細胞の活性化の阻害
Raji細胞(5×10細胞/mlで50μl)を、リツキサン(Rituxan)(2μg/mlで50μl)、ヒトCD64を発現するJurkat細胞(Jurkat-H-CD64)(5×10細胞/mlで25μl)、PMA(40ng/mlで50μl)と混合し、その後1950nMで、本発明に係る変異体(RFC A3A-184AY)またはIgIVと共にインキュベートした。
一晩インキュベートした後、プレートを遠心分離し(1分間125g)、上清に含まれたIL2をELISAにより評価した。
結果は、以下の式により、IgIVとの関係における百分率として表されている:(IL-2 IgIV/試料のIL-2)×100
【0119】
B)ADCCの阻害
エフェクター細胞(単核細胞)(8×10細胞/mlで25μl)およびRh(Rhesus)陽性赤血球細胞(最終4×10細胞/mlで25μl)を、異なる濃度(0~75ng/ml)の抗RhD抗体と、2/1のエフェクター/標的比でインキュベートした。16時間のインキュベーション後、特異的基質(DAF)を用いて上清中に遊離したへモグロビンを定量することによって溶解を推定した。
結果は、抗体数量に応じた特異的溶解百分率で表されている。ADCCの阻害は、33nMで添加した本発明に係るFc変異体(RFC A3A-184AY)またはIgIVによって誘発された。
結果を百分率で表し、100%と0%は、以下の式によってそれぞれ650nMおよび0nMでIgIVを用いて得られた値である。
[(33nMで試料を伴うADCC-IVIg無しのADCC)/(33nMでIgIVを伴うADCC-IVIg無しのADCC)×100]
【0120】
C)CDCの阻害活性:
Raji細胞を30分間、最終濃度50ng/mlのリツキシマブ(rituximab)と共にインキュベートした。1/10に希釈し、予め本発明のFc変異体(rFc A3A-184AY)またはIgIV(vol/vol)と共に37℃で1時間インキュベートした子ウサギの血清溶液を添加した。37℃で1時間のインキュベーションの後、プレートを遠心分離(1分間125g)し、培地中に遊離した細胞内LDHを測定することによってCDCを推定した。
結果を阻害百分率で表し、IgIVおよび負の対照群(Fc機能の無いFc、すなわちrFc neg)と比較し、100%は溶解活性の完全な阻害に対応し、0%はFcまたはIgIV無しで得た対照値に対応していた。
【0121】
図6】血液細胞に対する結合の試験結果
【0122】
Alexa-Fluor(登録商標)で標識されたIgIV、Fc-Rec(野生Fc)、Fc MST-HNまたは本発明に係るFc変異体(A3A-184AY_CHO、A3A-184EY_CHO)を、氷上で20分間、標的細胞と共に65nM(CSF(Colony Stimulating Factor)2%のPBS中でFcについて10μg/ml)でインキュベートした。CSF2%のPBS中で2回洗浄した後、フローサイトメトリーによる分析の前に500μlのIsoflow中に細胞を懸濁させた。試験は、以下の標的細胞について実施される。
- 抗CD56で標識されたナチュラルキラー(NK)細胞、
- 抗CD14で標識された単球、
- 抗CD14および抗CD16 3G8抗体で標識された単球CD16+、
- 抗CD15で標識された好中球。
【0123】
図7】特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の生体モデルにおける試験結果
【0124】
マウスのスロンボサイト(thrombocyte)とも呼ばれる血小板を枯渇させるために静脈内投与により抗血小板抗体6A6-hlgG1(体重1gあたり0.3μg)を注射することによってヒト化されたFcRnを発現するマウスにおいて、疾病を誘発した。負の対照(「CTL PBS」)、IgIV(1000mg/kg)、Fc-Recフラグメント(野生のFc)(380および750mg/kg)、FcフラグメントMST-HN(190mg/kg)および本発明のFc変異体A3A-184AY_CHO(190mg/kgおよび380mg/kg)を、血小板枯渇の2時間前に腹腔内投与した。血小板数値表現は、Advia Hematology(Bayer)システムを用いて決定した。抗体注入前の血小板の数を100%と定めた。
【発明を実施するための形態】
【実施例0125】
実施例1:トランスジェニック動物の乳中で産生された本発明に係る変異体(突然変異したFcフラグメント)の調製、およびこの変異体の特徴付け
I. 材料と方法
原理:
本発明に係るFcフラグメントは、乳の特異的発現ベクター内にFcフラグメントのコード配列を置くことによって、トランスジェニック動物の乳中で産生させることができる。ベクターは、マイクロインジェクションによりトランスジェニックヤギまたはマウスのゲノム内に導入可能である。トランス遺伝子を有する動物のスクリーニングおよび同定の後、雌を繁殖させる。分娩の後、雌を搾乳することで、乳の特異的プロモーターの発現後にFcが分泌された可能性のあるその乳を回収することができる。
【0126】
【表2】
【0127】
配列番号13の配列を得る目的で、タンパク質配列のN末端端部にシグナルペプチド(MRWSWIFLLLLSITSANA、配列番号12)を結合させる。これにより、ひとたび発現された時点で、乳中のタンパク質の分泌が可能になる。
【0128】
ヌクレオチド配列の最適化
ヤギの乳腺内での発現のために、ヌクレオチド配列を最適化した。そのために、合成遺伝子供給業者(GeneArtなど)のアルゴリズムによりBos taurus(ウシ)種について配列を最適化した。
【0129】
発現ベクター
マウスおよびヤギの乳中における変異体A3A-184AYの産生のためには、ヤギのベータカゼイン(Bc451)の発現ベクターを使用した。(図1参照)
ベータカゼインベクターBc451をXholで消化させた(図1A)。Fc変異体A3A-184AYのコード領域を含むSallフラグメントを挿入して、遺伝構造BC3180 FC A3A-184AYを生成した(図1Bおよび1C)。
【0130】
次に、マイクロインジェクション用のDNAフラグメントを、原核生物ベクターから単離した。
【0131】
NotIおよびNruIにより、BC3180を消化させた(図1D)。次に、ベータカゼインのプロモーターの制御下でFc遺伝子を含む16.4kbの遊離フラグメントを、ゲル溶出によって精製した。このDNAを次にマイクロインジェクションステップにおいて使用した。
【0132】
マウスにおける産生
着床前のマウスの胚中にマイクロインジェクションによりDNAフラグメントを挿入した。次に、擬妊娠状態の雌の体内に、胚を移植した。生まれた後世代を、PCR分析によってトランス遺伝子の存在についてスクリーニングした。
【0133】
ヤギにおける発現
マイクロインジェクションのために調製したDNAフラグメントは同様に、ヤギの乳中でのFc変異体A3A-184AYの産生のためにも使用することができる。
【0134】
実施例2:HEK細胞内で産生された本発明に係る変異体(突然変異したFcフラグメント)の調製、およびこの変異体の特徴付け
I.産生のための材料および方法
所望のアミノ酸をコードするコドンで標的化された単数または複数の突然変異を組込むために適応された2つのプライマーセットを用いて、オーバーラップPCRにより、配列番号14の配列のFcフラグメント内の各々の対象突然変異を挿入した。有利には、挿入すべき突然変異がFcの配列上に近い場合、これらの突然変異は同じオリゴヌクレオチドを介して付加される。このようにしてPCRによって得られたフラグメントを会合させ、結果として得たフラグメントを、標準的プロトコールを用いてPCRによって増幅した。PCR生成物を1%(w/v)のアガロースゲル上で精製し、適切な制限酵素を用いて消化させ、クローン化した。
【0135】
ベクターpCEP4を使用することにより、L-グルタミンが追加されたF17媒質中のHEK293細胞(293-F細胞、freestyle InvitroGen)中で、一過性トランスフェクション(リポフェクションによる)により、組換え型Fcフラグメントを産生した。8日間培養した後、遠心分離によって上清を清澄化させ、0.2μmのフィルター上で濾過する。その後、FcフラグメントをプロテインA Hi-Trap上で精製し、pH=3.0の25mMのクエン酸塩緩衝液を用いて溶出を行ない、PBS中での中和および透析の後に濾過(0.2μm)による滅菌を行なう。
【0136】
II. Octet(登録商標)上の結合試験(BLI「Bio-Layer Interferometry」技術、Octet RED96機器、Fortebio,Pall)
プロトコール:
ヒトFcRn(hFcRn)に対する結合:
ビオチン化hFcRn受容体を、ランニング緩衝液(0.1Mのリン酸緩衝液、NaCl 150mM、Tween20 0.05%、pH6)中0.7μg/mlで希釈した状態で、ストレプトアビジンバイオセンサー上で固定化する。本発明に係る変異体、WTおよびIgIVを、ランニング緩衝液中で200、100、50、25、12.5、6.25、3.125および0nM(200nM=Fcについて10μg/ml)で試験した。
【0137】
-試験の設計:
ベースライン1×120秒、ランニング緩衝液中、
ローディング300秒:バイオセンサ上に受容体を投入する、
ベースライン2×60秒、ランニング緩衝液中、
会合60秒:hFcRnが投入されたバイオセンサに対して試料(FcまたはIVIg)を添加する、
解離30秒、ランニング緩衝液中、
再生120秒、再生緩衝液中(リン酸緩衝液0.1M、NaCl 150mM、Tween20 0.05%、pH7.8)。
【0138】
-結果の解釈:
会合および解離曲線(最初の10秒)を使用して、会合モデル1/1を用いて会合速度定数(kon)および解離速度定数(koff)を計算する。その後、KD(nM)を計算する(kon/koff)。
【0139】
hCD16aVおよびhCD32aH受容体に対する結合:
hCD16aV受容体(R&D system)またはhCD32aH受容体(PX therapeutics)His Tagを、速度論的緩衝液(Pall)中1μ/mlに希釈された状態で、抗Penta-HISバイオセンサー(HIS 1K)上で固定化する。本発明に係るFc変異体、WTおよびIgIVを、速度論的緩衝液中で1000、500、250、125、62.5、31.25、15および0nMで試験した。
【0140】
-各試料の前のローディング、
-試験の設計:全ステップを、速度論的緩衝液(Pall)中で実施する。
ベースライン 1×60秒
ローディング 400秒
ベースライン 2×60秒
会合 60秒
解離 30秒
再生 再生緩衝液(グリシン10mM pH1.5/中和:PBS)中で5秒。
【0141】
-結果の解釈:
会合および解離曲線(最初の5秒)を使用して、会合モデル1/1を用いて会合速度定数(kon)および解離速度定数(koff)を計算する。その後、KD(nM)を計算する(kon/koff)。
【0142】
結果:
結果を、下表1で提示した:
【0143】
【表3】
【0144】
結果は、本発明に係るFc変異体A3A_184AY(HEK)が、突然変異していない親Fc(Fc-WT)のみならずIgIVと比べても、hFcRn受容体に対する増大した親和性、ならびにFcγRIIIa受容体(CD16a)およびFcγRIIa受容体(CD32a)に対する増大した親和性を同時に示している、ということを明らかにしている。
【0145】
III. K/BxNマウス血清のトランスファーによって誘発された関節炎モデルに対する試験
プロトコール:
T細胞受容体KRNについてのトランスジェニックマウスをNODマウス株に交雑させることによって、K/BxNモデルを生成した。K/BxN F1マウスは、生後3~5週で自発的に疾病を発生させ、ヒトリウマチ性関節炎と多くの臨床的特徴を共有する。
【0146】
C57/BI/6Jマウスに対して0日目に静脈内投与によりK/BxNマウス血清10μlをトランスファーすることによって、疾病を誘発した。0日目、K/BxNマウス血清の注射より2時間前またはその72時間後に、一回、被験分子を腹腔内投与した。
【0147】
4肢の指数を足して、罹患率及び重症度を評価する目的で関節炎の兆候を追求し同定するために、毎日マウスを監視した:0=正常、1=1つの関節の膨れ、2=2つ以上の関節の膨れ、および3=全関節の重度の膨れ。
【0148】
結果
K/BxN血清を受けたマウスは、関節内部に関節炎を発生させた。疾病は、踝のサイズ増大によって特徴付けられ、臨床スコアの増加を誘発した。これらのマウスは、生理学的血清で治療された対照マウスに比べて、臨床スコアおよび踝の厚みの有意な増大を示した。
【0149】
1-予防モデル
K/BxNマウス血清の注射の2時間前に投与された、野生型のFcフラグメント(Fc WT)750mg/kgによる治療は、K/BxNマウス血清によって治療された群に比べて、臨床スコアを有意に低下させた。
【0150】
本発明に係るFc変異体A3A-184AY(HEK)による治療は、Fc WTに類似する形で臨床スコアを有意に低下させたが、この場合、用量は15分の1(50mg/kg)であった(図2)。
【0151】
2-治療モデル
K/BxNマウス血清注射の72時間後、2g/kgで投与したIgIVは、K/BxNマウス血清により治療された群と比べて、臨床スコアを有意に低下させない。
【0152】
しかしながら、750mg/kg(2g/kgのIVIgと等価の分子用量)でのFcフラグメントWTによる治療は、K/BxNマウス血清により治療された群に比べ、臨床スコアを有意に低下させた。その上、本発明に係るFc変異体A3A-184AY(HEK)による治療は、Fc-WTフラグメントに類似する形で臨床スコアを有意に低下させたが、この場合、用量は4分の1(190mg/kg)であった(図3)。
【0153】
IV. 細胞に対するインビトロ試験
プロトコール:
血液細胞に対するFcフラグメントおよびIgIVの結合の評価
Alexaで標識付された本発明に係るFc変異体またはIgIVを、氷上で20分間、標的細胞と共に65nM(CSF2%のPBS中でFcについて10μg/ml)でインキュベートした。CSF2%のPBS中で2回洗浄した後、フローサイトメトリーによる分析の前に500μlのIsoflow中で細胞を懸濁させた。B細胞、NK細胞、単球および好中球を、それぞれ抗CD19、抗CD56、抗CD14および抗CD15抗体で特異的に標識した。抗CD16 3G8抗体を用いて、FcγRIII受容体(CD16)を明らかにした。
【0154】
ADCCの阻害:
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)に罹患した患者の自己抗体が関与する、ITPで見られる赤血球溶解状況を模倣するため、抗RhesusD(RhD)モノクローナル抗体の存在下でエフェクター細胞により媒介される赤血球溶解を行ない、例えばエフェクター細胞の表面におけるFc受容体の固定のための抗RhDとの競合により、この溶解を阻害する異なる数量の多価免疫グロブリン(IVIg)または突然変異したまたは突然変異していない組換え型Fcフラグメントの能力を評価した。
【0155】
ADCC技術によって、抗RhD抗体の細胞毒性を研究した。簡単に言うと、異なる濃度(0~75ng/ml)の抗RhD抗体と共に、エフェクター細胞(単核細胞)(8×10細胞/mlで25μl)およびRh陽性赤血球(最終4×10細胞/mlで25μl)を、2/1のエフェクター/標的比でインキュベートした。16時間のインキュベーションの後、特異的気質(DAF)を使用して上清中に遊離したヘモグロビンを定量することによって、溶解を推定した。
【0156】
結果を、抗体数量に応じた特異的溶解百分率の形で表した。33nMで添加された本発明に係るFc変異体(RFC A3A-184AY)またはIgIVによって誘発されたADCCの阻害を評価した。
【0157】
結果を百分率で表し、100%と0%は、以下の式によってそれぞれ650nMおよび0nMでIgIVを用いて得られた値である。
[(33nMで試料を伴うADCC-IVIg無しのADCC)/(33nMでIgIVを伴うADCC-IVIg無しのADCC)×100]
【0158】
Jurkat細胞CD64の活性化阻害:
この試験は、リツキサンを用いてRajiセルラインにより誘発されたヒトCD64を発現するJurkat細胞(Jurkat-H-CD64)によるIL2分泌を阻害する、本発明に係るFc変異体またはIgIVの能力(合計IgG)を推定する。
【0159】
簡単に言うと、Raji細胞(5×10細胞/mlで50μl)を、リツキサン(2μg/mlで50μl)、Jurkat細胞H-CD64(5×10細胞/mlで25μl)、ホルボールエステル(PMA、40ng/mlで50μl)と混合し、その後1950nMで本発明に係るFc変異体またはIgIVと共にインキュベートした。
【0160】
一晩のインキュベーションの後、プレートを遠心分離し(1分間125g)、上清中に含まれているIL2を、ELISAにより評価した。
【0161】
結果を、以下の式により、IgIVとの関係における百分率で表した:
(IL-2IgIV/試料のIL-2)×100
【0162】
CDCの阻害活性:
この試験は、補体源としての子ウサギの血清の存在下でのRajiセルラインでリツキシマブにより媒介されるCDC活性を阻害する、本発明に係るFc変異体またはIgIVの能力を推定する。簡単に言うと、Raji細胞を、50ng/mlの最終濃度のリツキシマブと共に30分間インキュベートした。1/10に希釈し、37℃で1時間、本発明に係る変異体またはIgIV(vol/vol)と共に予めインキュベートした子ウサギの血清溶液を、添加した。37℃で1時間のインキュベーションの後、プレートを遠心分離し(1分間125g)、培地中に遊離した細胞内LDHを測定することによって、CDCを推定した。
【0163】
結果を阻害百分率で表し、IgIVおよび負の対照群(Fc機能の無いFc)と比較し、100%は溶解活性の完全な阻害に対応し、0%はIgIVまたはFc無しで得られた対照値に対応していた。
【0164】
結果:
結果を、図4および5で示している。
【0165】
図5に示したように、本発明に係るFc変異体(A3A-184AY(HEK))は、IgIVに比べて、CD64を発現するJurkat細胞の、ADCCおよびCDCの活性のより優れた阻害を提示している。これらの結果は、A3A-184AYなどの本発明に係る変異体が、特に患者のエフェクター細胞上でのFc受容体の遮断によって、患者の自己抗体が関与する病理の治療に有効であり得る、ということを示している(図4参照)
【0166】
実施例3:CHO細胞中で産生される本発明に係る変異体(突然変異したFcフラグメント)の調製
実施例2で説明したものと同じ要領で配列番号14から、組換え型Fcフラグメントを得ることができる。この突然変異したFcフラグメントは、CHO-Sセルラインでの発現のために最適化されたベクターを使用して、Freestyle Max Reagent(Thermofisher)などのリポフェクション試薬を用いてこのCHO-S細胞内でトランスフェクションにより産生可能である。CHO-S細胞を、37℃で制御された雰囲気(CO 8%)中において135rpmで撹拌された条件の下で、CDFortiCHO+8mMのグルタミンの培地内で培養する。トランスフェクション日の前日に、6×10細胞/mlの密度で細胞を播種する。
【0167】
トランスフェクションの当日、直線化DNA(50μg)およびトランスフェクション試薬(TA)50μlを、Opti-Pro SFM培地内で別個に予備インキュベートし、その後混合し、20分間インキュベートして、DNA/AT複合体の形成を可能にする。次に、全体を、30mlの体積で1×10細胞/mlの細胞調製物に添加する。48時間のインキュベーションの後、トランスフェクション試薬(ネオマイシン1g/L、およびメトトレキサート200nM)を細胞に添加する。3~4日毎に細胞密度と生存率を決定し、細胞密度を6×10細胞/ml超に維持するために培養体積を適応させる。生存率が90%を超えた場合、得られた安定プールを低温凍結により保存し、産生中4g/Lまたは6g/Lのグルコースを添加しながら10日間「Fedbatch」モードで撹拌条件下の産生を実施する。産生の終了時点で、遠心分離により、細胞と上清を分離する。細胞を除去し、上清aを収穫し、濃縮し、0.22μmで濾過する。
【0168】
その後、FcフラグメントをプロテインA樹脂(HiTrapプロテインA、GE Healthcare)上で親和性クロマトグラフィーにより精製する。PBS緩衝液中で平衡化された樹脂上に捕捉した後、Fcフラグメントをクエン酸塩緩衝液25mM pH=3.0で溶出し、その後Tris 1Mを用いてpHを急速に中和させ、次にPBS緩衝液中で透析してから、濾過(0.2μm)により滅菌する。
【0169】
実施例4:CHO細胞中およびトランスジェニックヤギの乳中で産生された変異体の、FcRn、CD16aH、CD16aV、CD64およびCD32a受容体に対する結合試験
Fc受容体に対する結合試験を、以下の分子を用いて実施する。
-本発明の変異体、実施例3に記された方法にしたがってCHO細胞内で産生されたA3A-184AY_CHO(K334N/P352S/A378V/V397M/N434Y)、A3A-184EY_CHO(Y296W/K334N/P352S/A378V/V397M/N434Y)、実施例1中で説明された方法にしたがってトランスジェニックヤギにおいて産生されたA3A-184AY_TGg、
- FcRn受容体に対してのみ最適化された結合を有するものとして文献中(Ulrichtsら、JCI、2018)に記載されている突然変異M252Y/S254T/T256E/H433K/N434Fを含むFcフラグメントMST-HNは、HEK-293細胞(293-F細胞、freestyle Invitro Gen)中で産生された、
-トランスジェニックヤギの乳中で産生されたIgG1をパパインで消化することによって得られる、野生Fcフラグメント「Fc-WT」または「Fc-Rec」、
-IgIV。
【0170】
ヒトFcRn(hFcRn)に対する結合:
A488マーカーで標識されたリツキサン(Rituxan-A488)およびFcRn受容体を発現するJurkat細胞(Jurkat-FcRn)を使用して、競合試験によりFcRnに対する結合を研究する。
【0171】
1ウェルあたり2×10細胞の濃度で、96ウェルプレート(V字形底面)中に、Jurkat-FcRn細胞を播種する。その後、167μg/ml;83μg/ml;42μg/ml;21μg/ml;10μg/ml;5μg/ml;3μg/ml;1μg/ml;0μg/mlという最終濃度で緩衝液内に希釈された被験分子と、同時に25μg/mLのRituxan-A488と共に、4℃で20分間、細胞をインキュベートする。
【0172】
その後、pH6のPBS100μLを添加して細胞を洗浄し、4℃で3分間1700rpmで遠心分離する。その後、上清を取り出し、低温PBS300μLをpH6で添加する。
【0173】
Jurkat-FcRn細胞により発現されたFcRnに対するRituxan-A488の結合を、フローサイトメトリーによって評価する。観察された平均蛍光強度(MFI)を百分率で表現し、ここで100%は、Rituxan-A488単独で得た値であり、0%は、Rituxan-A488不在下での値である。Jurkat-FcRn細胞のFcRnに対するRituxan-A488の結合の50%阻害を誘発するために必要とされる分子濃度は、ソフトウェア「Prism Software」を用いて計算される。
【0174】
結果は、下表2に記されている。
【0175】
【表4】
【0176】
結果は、Fc変異体A3A-184AY_CHO、Fc変異体A3A-184EY_CHOおよびA3A-184AY-TGgが、Rituxan-A488の結合の阻害の増大(IVIgに比べて100倍)を示すことを明らかにしている。本発明の変異体は、FcRnについてのみ最適化されている結合親和性として文献中(Ulrichtsら、JCI、2018)に記載されているFcフラグメントMST-HNで観察される結合親和性と等価のFcRnに対する結合親和性を示す。
【0177】
hCD64およびhCD16aH、hCD16aV、hCD32aH、hCD32aR受容体に対する結合:
ヒトCD64(hCD64)に対する結合
Rituxan-A488およびCD64受容体を発現するJurkat細胞(Jurkat-CD64)を使用して、競合試験によりヒトCD64に対する結合を研究する。
【0178】
1ウェルあたり2×10細胞の濃度で、96ウェルプレート(V字形底面)中に、Jurkat-CD64細胞を播種する。その後、167μg/ml;83μg/ml;42μg/ml;21μg/ml;10μg/ml;5μg/ml;3μg/ml;1μg/ml;0μg/mlという最終濃度で緩衝液内に希釈された被験分子と、同時に25μg/mLのRituxan-A488と共に、4℃で20分間、細胞をインキュベートする。
【0179】
その後、pH6のPBS100μLを添加して細胞を洗浄し、4℃で3分間1700rpmで遠心分離する。その後、上清を取り出し、低温PBS300μLをpH6で添加する。
【0180】
Jurkat-CD64細胞により発現されたCD64に対するRituxan-A488の結合を、フローサイトメトリーによって評価する。観察された平均蛍光強度(MFI)を百分率で表現し、ここで100%は、Rituxan-A488単独で得た値であり、0%は、Rituxan-A488不在下での値である。Jurkat-CD64細胞のCD64に対するRituxan-A488の結合の50%阻害を誘発するために必要とされる分子濃度は、ソフトウェア「Prism Software」を用いて計算される。
【0181】
CD32aHおよびCD32aRに対する結合
CD32aHおよびCD32aR受容体(HEK-CD32)を用いてトランスフェクトされたHEK細胞およびRituxan-A488を使用して、競合試験によりヒトCD32受容体に対する結合を研究する。
【0182】
1ウェルあたり2×10細胞の濃度で、96ウェルプレート(V字形底面)中に、HEK-CD32細胞を播種する。その後、333μg/ml;167μg/ml;83μg/ml;42μg/ml;21μg/ml;10μg/ml;5μg/ml;3μg/ml;1μg/ml;0μg/mlという最終濃度で緩衝液内に希釈された被験分子と、同時に30μg/mLのRituxan-A488と共に、4℃で20分間、細胞をインキュベートする。
【0183】
その後、pH6のPBS100μLを添加して細胞を洗浄し、4℃で3分間1700rpmで遠心分離する。その後、上清を取り出し、低温PBS300μLをpH6で添加する。
【0184】
HEK-CD32細胞により発現されたCD32aHおよびCD32aRに対するRituxan-A488_の結合を、フローサイトメトリーによって評価する。観察された平均蛍光強度(MFI)を百分率で表わし、ここで100%は、Rituxan-A488単独で得た値であり、0%は、Rituxan-A488不在下での値である。HEK-CD32細胞のCD32aHおよびCD32aRに対するRituxan-A488の結合の50%阻害を誘発するために必要とされる分子濃度は、ソフトウェア「Prism Software」を用いて計算される。
【0185】
hCD16aHに対する結合
フィコエルスリン(3G8-PE)で標識されたマウス抗CD16 3G8抗体、およびヒトCD16aH受容体を用いてトランスフェクトされたJurkat細胞(Jurkat-CD16aH)を使用して、競合試験によりヒトCD16aHに対する結合を研究する。
【0186】
1ウェルあたり2×10細胞の濃度で、96ウェルプレート(V字形底面)中に、Jurkat-CD16aH細胞を播種する。その後、83μg/ml;42μg/ml;21μg/ml;10μg/ml;5μg/ml;3μg/ml;1μg/ml;0μg/mlという最終濃度で緩衝液内に希釈された被験分子と、同時に0.5μg/mLのmAb 3G8-PEと共に、4℃で20分間、細胞をインキュベートする。
【0187】
その後、pH6のPBS100μLを添加して細胞を洗浄し、4℃で3分間1700rpmで遠心分離する。その後、上清を取り出し、低温PBS300μLをpH6で添加する。
【0188】
Jurkat-CD16aH細胞により発現されたCD16aHに対するmAb 3G8-PEの結合を、フローサイトメトリーによって評価する。観察された平均蛍光強度(MFI)を百分率で表わし、ここで100%は、mAb 3G8-PE単独で得た値であり、0%はmAb 3G8-PE不在下での値である。Jurkat-CD16aH細胞のCD16aHに対するmAb 3G8-PEの結合の50%阻害を誘発するために必要とされる分子濃度は、ソフトウェア「Prism Software」を用いて計算される。
【0189】
結果は、下表3に記されている。
【0190】
【表5】
【0191】
結果は、Fc変異体A3A-184AY_CHO、Fc変異体A3A-184EY_CHOおよびA3A-184AY_TGgが、突然変異していないFc(Fc-WT)のみならずIgIVと比較しても、FcγRIIIa受容体(CD16a)、FcγRI受容体(CD64)およびFcγRIIa受容体(CD32a)に対する増大した親和性を有することを示している。
【0192】
本発明の突然変異体は、MST-HNに比べてFcγRIIIa受容体(CD16a)、FcγRI受容体(CD64)およびFcγRIIa受容体(CD32a)に対し非常に増大した親和性を示している。
【0193】
ヒトCD16aVに対する結合:
hCD16aV受容体(R&D system)His Tagを、速度論的緩衝液(Pall)中1μ/mlに希釈された状態で、抗Penta-HISバイオセンサ(HIS 1K)上で固定化させる。分子を、速度論的緩衝液中で1000、500、250、125、62.5、31.25、15および0nMの濃度で試験した。
【0194】
-各試料の前のローディング、
-試験の設計:全ステップを、速度論的緩衝液(Pall)中で実施する。
ベースライン 1×60秒
ローディング 400秒
ベースライン 2×60秒
会合 60秒
解離 30秒
再生 再生緩衝液(グリシン10mM pH1.5/中和:PBS)中で5秒
【0195】
-結果の解釈:
会合および解離曲線(最初の5秒)を使用して、会合モデル1/1を用いて会合速度定数(kon)および解離速度定数(koff)を計算する。その後、KD(nM)を計算する(kon/koff)。
【0196】
結果は、下表4に記されている。
【0197】
【表6】
【0198】
結果は、Fc変異体A3A-184AY_CHO、Fc変異体A3A-184EY_CHOおよびA3A-184AY_TGgが、突然変異していないFc(Fc-WT)のみならずIgIV、および突然変異M252Y/S254T/T256E/H433K/N434Fを含むFcフラグメントMST-HNと比較しても、ヒトFcγRIIIa-V受容体(CD16a-V)に対する結合の増大を示すことを明らかにしている。
【0199】
実施例5:CHO細胞中およびトランスジェニックヤギの乳中で産生された変異体のADCC阻害およびJurkat細胞活性化の試験
ADCC阻害およびJurkat細胞活性化試験を、以下の分子を用いて実施する:
-本発明の変異体、実施例3に記された方法にしたがってCHO細胞内で産生されたA3A-184AY_CHO(K334N/P352S/A378V/V397M/N434Y)、A3A-184EY_CHO(Y296W/K334N/P352S/A378V/V397M/N434Y)、
-FcRn受容体に対してのみ最適化された結合を有するものとして文献中(Ulrichtsら、JCI、2018)に記載されている突然変異M252Y/S254T/T256E/H433K/N434Fを含むFcフラグメントMST-HNは、HEK-293細胞(293-F細胞、freestyle Invitro Gen)中で産生された、
-トランスジェニックヤギの乳中で産生されたIgG1をパパインで消化することによって得られる、野生Fcフラグメント「Fc-Rec」または「Fc-WT」、
-IgIV。
【0200】
ADCCの阻害試験:
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)に罹患した患者の自己抗体が関与する、ITPで見られる赤血球溶解状況を模倣するため、抗RhesusD(RhD)モノクローナル抗体の存在下でエフェクター細胞により媒介される赤血球溶解を行ない、例えばエフェクター細胞の表面におけるFc受容体の固定のための抗RhDとの競合により、この溶解を阻害すべき異なる数量の多価免疫グロブリン(IVIg)または突然変異したまたは突然変異していない組換え型Fcフラグメントの能力を評価した。
【0201】
ADCC技術によって、抗RhD抗体の細胞毒性を研究した。簡単に言うと、異なる濃度(0~75ng/ml)の抗RhD抗体と共に、エフェクター細胞(単核細胞)(8×10細胞/mlで25μl)およびRh陽性赤血球(最終4×10細胞/mlで25μl)を、2/1のエフェクター/標的比でインキュベートした。16時間のインキュベーションの後、特異的気質(DAF)を使用して上清中に遊離したヘモグロビンを定量することによって、溶解を推定した。
【0202】
結果を、抗体数量に応じた特異的溶解百分率の形で表した。ADCC阻害は、MST-HN、Fc-WT A3A-184AY_CHO、A3A-184EY_CHOについては500μg/ml、50μg/ml、5μg/ml、0.5μg/ml、そしてIgIVについては1500μg/ml、150μg/ml、15μg/ml、1.5μg/mlの濃度で、被験分子(IgIV、MST-HN、Fc-WT A3A-184AY_CHO、A3A-184EY_CHO)によって誘発される。25%または50%の阻害を誘発するための分子濃度を、ソフトウェア「Prism Software」を用いて計算した。
【0203】
結果は、下表5に記されている。
【0204】
【表7】
【0205】
結果は、Fc変異体A3A-184AY_CHOおよびA3A-184EY_CHOが、突然変異していないFc(Fc-WT)のみならずIgIVと比較しても増大した、抗RhesusD抗体による赤血球溶解の阻害を示すことを明らかにしている。
【0206】
その上、A3A-184AY_CHOまたはA3A-184EY_CHOの阻害は、突然変異M252Y/S254T/T256E/H433K/N434Fを含むFcフラグメントMST-HNに比較して、非常に増大している。
【0207】
Jurkat細胞CD64の活性化阻害:
この試験は、リツキサンを用いてRaji細胞系統により誘発されたヒトCD64を発現するJurkat細胞(Jurkat-H-CD64)によるIL2分泌を阻害する、本発明に係るFc変異体またはIgIVの能力(合計IgG)を推定する。
【0208】
簡単に言うと、Raji細胞(5×10細胞/mlで50μl)を、リツキサン(2μg/mlで50μl)、Jurkat細胞H-CD64(5×10細胞/mlで25μl)、ホルボールエステル(PMA、40ng/mlで50μl)と混合し、その後1950nMで本発明に係るFc変異体またはIgIVと共にインキュベートした。
【0209】
一晩のインキュベーションの後、プレートを遠心分離し(1分間125g)、上清中に含まれているIL2を、ELISAにより評価した。
【0210】
IL2分泌の阻害は、フラグメントFc-WT、MST-HNまたは本発明に係るFc変異体(A3A-184AY_CHOまたはA3A-184EY_CHO)については50および100μg/ml、そしてIgVについては150および300μg/mlで添加されて、IgIV、Fc-WT、MST-HN、または本発明に係るFc変異体(A3A-184AY_CHOまたはA3A-184EY_CHO)によって誘発された。
【0211】
25%または50%の阻害を誘発するための分子濃度を、ソフトウェア「prism Software」を用いて計算した。
【0212】
結果は、下表6に記されている。
【0213】
【表8】
【0214】
結果は、Fc変異体A3A-184AY_CHOおよびA3A-184EY_CHOが、突然変異していないFc(Fc-WT)のみならずIgIVと比較しても増大した、IL2分泌の阻害を示すことを明らかにしている。
【0215】
その上、RFC A3A-184AY_CHOまたはA3A-184EY_CHOの阻害は、突然変異M252Y/S254T/T256E/H433K/N434Fを含むFcフラグメントMST-HNに比較して、非常に増大している。
【0216】
実施例6:血液細胞に対するFc変異体の結合試験
血液細胞に対する結合試験を、以下の分子を用いて実施する:
-本発明の変異体、実施例3に記された方法にしたがってCHO細胞内で産生されたA3A-184AY_CHO(K334N/P352S/A378V/V397M/N434Y)、A3A-184EY_CHO(Y296W/K334N/P352S/A378V/V397M/N434Y)、実施例1中で説明された方法にしたがってトランスジェニックヤギにおいて産生されたA3A-184AY_TGg、
-FcRn受容体に対してのみ最適化された結合を有するものとして文献中(Ulrichtsら、JCI、2018)に記載されている突然変異M252Y/S254T/T256E/H433K/N434Fを含むFcフラグメントMST-HNは、HEK-293細胞(293-F細胞、freestyle Invitro Gen)中で産生された、
-トランスジェニックヤギの乳中で産生されたIgG1をパパインで消化することによって得られる、野生Fcフラグメント「Fc-Rec」または「Fc-WT」、
-IgIV。
【0217】
マーカーAlexa Fluor(登録商標)(蛍光性の高いタンパク質マーカー)で標識された被験分子を、氷上で20分間、標的細胞と共に65nM(CSF2%のPBS中でFcについて10μg/ml)でインキュベートした。
【0218】
CSF2%のPBS中で2回洗浄した後、フローサイトメトリーによる分析の前に500μlのIsoflow中に細胞を懸濁させた。試験は、以下の細胞について実施される。
-抗CD56で標識されたナチュラルキラー(NK)細胞(「%陽性NK細胞」)、
-抗CD14で標識された単球(「%陽性細胞」)、
-抗CD14および抗CD16 3G8抗体で標識された単球CD16+(「%陽性細胞」)、
-抗CD15で標識された好中球(「%陽性細胞」)。
【0219】
抗-CD16 3G8抗体を使用して、FcγRIII受容体(CD16)を明らかにした。
【0220】
結果は、Fc変異体A3A-184AY_CHO、A3A-184EY_CHOおよびA3A-184AY_TGgが、産生様式の如何に関わらず、突然変異していないFc(Fc-Rec)のみならずIgIVに比べても増大した結合を示すことを明らかにしている。その上、A3A-184AYまたはA3A-184EYの結合は、NK細胞、単球CD16+および好中球について、フラグメントMST-HNに比べ非常に増大している(図6参照)
【0221】
実施例7:特発性血小板減少症紫斑病(ITP)の生体モデルについての試験
マウスの血小板を枯渇させるために静脈内投与により抗血小板抗体6A6-hlgG1(体重1gあたり0.3μg)を注射することによってヒト化されたFcRn(遺伝子的背景B6のヘテロ接合体mFcRn-/-hFcRnTg 276、The Jackson Laboratory)を発現するマウスにおいて、疾病を誘発した。疾病の誘発から4時間後、6A6-hlgG1の注入24時間前に血液分析(血小板数)を実施した。IgIV(1000mg/kg)、Fc-Rec(380および750mg/kg)、Fc MST-HN(190mg/kg)およびFc A3A-184AY_CHO(190mg/kgおよび380mg/kg)を、血小板の枯渇の2時間前に腹腔内投与した。
【0222】
血小板数値表現は、Advia Hematology(Bayer)システムを用いて決定した。抗体注入前の血小板数を100%と定めた。
【0223】
抗血小板抗体6A6-hlgG1(0.3μg/g)は、90%の血小板を枯渇させることを可能にする。
【0224】
血小板の枯渇の2時間前に候補薬剤を投与することによって、以下の通りの回復が可能となる(図7)。
・380mg/kgの用量のA3A 184AY_CHOの場合100%の血小板、
・190mg/kgの用量のA3A-184AY_CHOの場合106%の血小板、
・1000mg/kgの用量のIgIVの場合90%の血小板、
・750g/kgの用量のFc-WTの場合64%の血小板、
・380mg/kgの用量のFc-WTの場合75%の血小板、
・190mg/kgの用量の変異体MST-HNの場合61%の血小板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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