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特開2023-13470表面修飾金属部材およびその製造方法、ならびに機能性ブロック共重合体
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  • 特開-表面修飾金属部材およびその製造方法、ならびに機能性ブロック共重合体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013470
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】表面修飾金属部材およびその製造方法、ならびに機能性ブロック共重合体
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20230119BHJP
   C08F 20/28 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
C23C26/00 A
C08F20/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117679
(22)【出願日】2021-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】八尾 滋
(72)【発明者】
【氏名】平井 翔
【テーマコード(参考)】
4J100
4K044
【Fターム(参考)】
4J100AJ02Q
4J100AL08P
4J100BA02P
4J100CA04
4J100JA51
4K044AA03
4K044AB02
4K044BA21
4K044BB01
4K044CA53
4K044CA60
(57)【要約】
【課題】親水性や疎水性等の任意の機能が付与された表面修飾金属部材を提供する。
【解決手段】金属部材と、前記金属部材の表面の少なくとも一部を修飾する機能性ブロック共重合体と、を有する表面修飾金属部材であり、前記機能性ブロック共重合体が、ヒドロキシル基と反応し得る官能基(G)を有するアクリル系モノマー(a)に由来する構造単位を含むブロック(A)と、オキシアルキレン基またはアルキル基を側鎖に有するアクリルエステル系モノマー(b)に由来する構造単位を含むブロック(B)と、を含む、表面修飾金属部材。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と、前記金属部材の表面の少なくとも一部を修飾する機能性ブロック共重合体と、を有する表面修飾金属部材であり、
前記機能性ブロック共重合体が、ヒドロキシル基と反応し得る官能基(G)を有するアクリル系モノマー(a)に由来する構造単位を含むブロック(A)と、オキシアルキレン基またはアルキル基を側鎖に有するアクリルエステル系モノマー(b)に由来する構造単位を含むブロック(B)と、を含む、表面修飾金属部材。
【請求項2】
前記ヒドロキシル基と反応し得る官能基(G)が、カルボキシル基またはグリシジル基である、請求項1に記載の表面修飾金属部材。
【請求項3】
前記アクリル系モノマー(a)が、アクリル酸またはメタアクリル酸である、請求項1または2に記載の表面修飾金属部材。
【請求項4】
前記アクリルエステル系モノマー(b)が、下記式(I)で表される官能基、無置換のアルキル基、および、少なくとも一部がフッ素に置換されたアルキル基からなる群から選択されるいずれかの官能基を有する、請求項1~3のいずれかに記載の表面修飾金属部材。
-(Cp2p-O)q-R1 ・・・・(I)
(式(I)において、pは1~10の整数、qは1~10の整数、R1は水素原子または炭素数1~10のアルキル基を表す。)
【請求項5】
前記金属部材が、ステンレス鋼を含む、請求項1~4のいずれかに記載の表面修飾金属部材。
【請求項6】
表面が活性化された金属部材と、機能性ブロック共重合体及び溶媒を含む表面改質剤と、を接触させる接触工程と、
前記金属部材の表面から前記溶媒を除去する溶媒除去工程と、を有し、
前記機能性ブロック共重合体が、ヒドロキシル基と反応し得る官能基(G)を有するアクリル系モノマー(a)に由来する構造単位を含むブロック(A)と、オキシアルキレン基またはアルキル基を側鎖に有するアクリルエステル系モノマー(b)に由来する構造単位を含むブロック(B)と、を含む共重合体である、表面修飾金属部材の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒除去工程において、真空乾燥を行う、請求項6に記載の表面修飾金属部材の製造方法。
【請求項8】
前記真空乾燥の温度が、100℃以上である、請求項7に記載の表面修飾金属部材の製造方法。
【請求項9】
前記接触工程の前に、金属部材の表面を活性化させる表面活性化工程を行う、請求項6~8のいずれかに記載の表面修飾金属部材の製造方法。
【請求項10】
前記表面活性化工程は、前記金属部材の表面を研磨する研磨工程である、請求項9に記載の表面修飾金属部材の製造方法。
【請求項11】
ヒドロキシル基と反応し得る官能基(G)を有するアクリル系モノマー(a)に由来する構造単位を含むブロック(A)と、オキシアルキレン基またはアルキル基を側鎖に有するアクリルエステル系モノマー(b)に由来する構造単位を含むブロック(B)とを含む、金属部材の表面改質用機能性ブロック共重合体。
【請求項12】
ヒドロキシル基と反応し得る官能基(G)を有するアクリル系モノマー(a)に由来する構造単位を含むブロック(A)と、オキシアルキレン基を側鎖に有するアクリルエステル系モノマー(b)に由来する構造単位を含むブロック(B)とを含む、機能性ブロック共重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面修飾金属部材およびその製造方法、ならびに機能性ブロック共重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステンレス等の材料は防食性に優れているために、ステントなどのバイオマテリアル用途にも多く用いられている。用途によって、ステンレス等の材料の表面を改質することが求められている。例えば、ステンレス製のステントは、その表面で血栓が生じ、梗塞を引き起こすこともあり、その表面特性の改質が望まれていた。
【0003】
金属表面の改質方法として、例えば、特許文献1には、熱重合開始剤の存在下でモノマーを重合することにより処理された表面を少なくとも一部に有することを特徴とする表面改質金属が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-123491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ステンレス等の材料は、非常に安定な表面構造を持つため、その表面改質は容易ではなかった。特許文献1に記載の方法は、金属の表面でモノマーの重合反応を行うものであるため、大面積や複雑形状、閉鎖系などの金属の表面には適用することが困難であり、改良の余地があった。
【0006】
本発明の目的は、親水性や疎水性等の任意の機能が付与された表面修飾金属部材および当該表面修飾金属部材を簡単に製造することができる製造方法を提供することである。また、本発明の目的は、金属部材の表面を修飾するために用いられる機能性ブロック共重合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 金属部材と、前記金属部材の表面の少なくとも一部を修飾する機能性ブロック共重合体と、を有する表面修飾金属部材であり、前記機能性ブロック共重合体が、ヒドロキシル基と反応し得る官能基(G)を有するアクリル系モノマー(a)に由来する構造単位を含むブロック(A)と、オキシアルキレン基またはアルキル基を側鎖に有するアクリルエステル系モノマー(b)に由来する構造単位を含むブロック(B)と、を含む、表面修飾金属部材。
<2> 前記ヒドロキシル基と反応し得る官能基(G)が、カルボキシル基またはグリシジル基である、前記<1>に記載の表面修飾金属部材。
<3> 前記アクリル系モノマー(a)が、アクリル酸またはメタアクリル酸である、前記<1>または<2>に記載の表面修飾金属部材。
<4> 前記アクリルエステル系モノマー(b)が、下記式(I)で表される官能基、無置換のアルキル基、および、少なくとも一部がフッ素に置換されたアルキル基からなる群から選択されるいずれかの官能基を有する、前記<1>から<3>のいずれかに記載の表面修飾金属部材。
-(Cp2p-O)q-R1 ・・・・(I)
(式(I)において、pは1~10の整数、qは1~10の整数、R1は水素原子または炭素数1~10のアルキル基を表す。)
<5> 前記金属部材が、ステンレス鋼を含む、前記<1>から<4>のいずれかに記載の表面修飾金属部材。
【0009】
<6> 表面が活性化された金属部材と、機能性ブロック共重合体及び溶媒を含む表面改質剤と、を接触させる接触工程と、前記金属部材の表面から前記溶媒を除去する溶媒除去工程と、を有し、前記機能性ブロック共重合体が、ヒドロキシル基と反応し得る官能基(G)を有するアクリル系モノマー(a)に由来する構造単位を含むブロック(A)と、オキシアルキレン基またはアルキル基を側鎖に有するアクリルエステル系モノマー(b)に由来する構造単位を含むブロック(B)と、を含む共重合体である、表面修飾金属部材の製造方法。
<7> 前記溶媒除去工程において、真空乾燥を行う、前記<6>に記載の表面修飾金属部材の製造方法。
<8> 前記真空乾燥の温度が、100℃以上である、前記<7>に記載の表面修飾金属部材の製造方法。
<9> 前記接触工程の前に、金属部材の表面を活性化させる表面活性化工程を行う、前記<6>から<8>のいずれかに記載の表面修飾金属部材の製造方法。
<10> 前記表面活性化工程は、前記金属部材の表面を研磨する研磨工程である、前記<9>に記載の表面修飾金属部材の製造方法。
【0010】
<11> ヒドロキシル基と反応し得る官能基(G)を有するアクリル系モノマー(a)に由来する構造単位を含むブロック(A)と、オキシアルキレン基またはアルキル基を側鎖に有するアクリルエステル系モノマー(b)に由来する構造単位を含むブロック(B)とを含む、金属部材の表面改質用機能性ブロック共重合体。
<12> ヒドロキシル基と反応し得る官能基(G)を有するアクリル系モノマー(a)に由来する構造単位を含むブロック(A)と、オキシアルキレン基を側鎖に有するアクリルエステル系モノマー(b)に由来する構造単位を含むブロック(B)とを含む、機能性ブロック共重合体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、親水性や疎水性等の任意の機能が付与された表面修飾金属部材および当該表面修飾金属部材を簡単に製造することができる製造方法が提供される。また、本発明によれば、金属部材の表面を修飾するために用いられる機能性ブロック共重合体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の表面修飾金属部材を説明するための図である。
図2】本発明の製造方法の例を示すフロー図である。
図3】本発明の製造方法の別の例を示すフロー図である。
図4】実施例で合成した機能性ブロック共重合体の合成スキームである。
図5】実施例の機能性ブロック共重合体の合成に用いたモノマーおよび合成した機能性ブロック共重合体のIRスペクトルである。
図6】比較例2(未処理ステンレス板、乾燥温度200℃)と実施例7(研磨ステンレス板、乾燥温度200℃)のFTIRスペクトルである。
図7】比較例3(研磨ステンレス板、未改質)と、実施例1~実施例7(研磨ステンレス板、乾燥温度15℃~200℃)のFTIRスペクトルである。
図8】実施例4(研磨ステンレス板、乾燥温度100℃)の表面観察とEDXマッピングとEDXスペクトルの結果である。
図9】比較例3(研磨ステンレス板、未改質)の表面観察とEDXマッピングとEDXスペクトルの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0014】
<表面修飾金属部材>
本発明は、金属部材と、前記金属部材の表面の少なくとも一部を修飾する機能性ブロック共重合体と、を有する表面修飾金属部材であり、前記機能性ブロック共重合体が、ヒドロキシル基と反応し得る官能基(G)を有するアクリル系モノマー(a)に由来する構造単位を含むブロック(A)と、オキシアルキレン基またはアルキル基を側鎖に有するアクリルエステル系モノマー(b)に由来する構造単位を含むブロック(B)と、を含む、表面修飾金属部材(以下、「本発明の部材」と記載する場合がある。)に関するものである。
【0015】
ヒドロキシル基と反応し得る官能基(G)を有するアクリル系モノマー(a)に由来する構造単位を含むブロック(A)と、オキシアルキレン基またはアルキル基を側鎖に有するアクリルエステル系モノマー(b)に由来する構造単位を含むブロック(B)と、を含む機能性ブロック共重合体は、金属部材の表面を改質するための表面改質用樹脂として好適である。このような機能性ブロック共重合体を用いることで、金属部材の表面に機能性ブロック共重合体を強固に接着させることができる。また、機能性ブロック共重合体が金属部材の表面に修飾された構成とすることで、耐久性にも優れ、ブロック(B)に起因する機能性を有するものとできる。このような本発明の部材は、本発明の部材の製造方法により好適に製造することができる。
【0016】
<表面修飾金属部材の製造方法>
本発明は、表面が活性化された金属部材と、機能性ブロック共重合体及び溶媒を含む表面改質剤と、を接触させる接触工程を有し、前記機能性ブロック共重合体が、ヒドロキシル基と反応し得る官能基(G)を有するアクリル系モノマー(a)に由来する構造単位からなるブロック(A)と、オキシアルキレン基またはアルキル基を側鎖に有するアクリルエステル系モノマー(b)に由来する構造単位からなるブロック(B)とを含む共重合体である、表面修飾金属部材の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と記載する場合がある。)に関するものである。
【0017】
本発明者らは、ステンレスの表面構造を詳細に調査した結果、酸化による不働態層がその安定性に寄与していることに着目し、金属表面のヒドロキシ基との反応性を持つアクリル系モノマー由来のユニットと親水性を示すアクリル系モノマー由来のユニットからなる機能性ブロック共重合体を新たに設計し、重合した。そして、表面を研磨処理し被酸化膜を除去し、活性化したステンレスを、この機能性ブロック共重合体の希薄溶液で処理することで、親水性改質を実現できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0018】
ヒドロキシル基と反応し得る官能基(G)(単に「官能基(G)」と記載する場合もある。)を有するアクリル系モノマー(a)に由来する構造単位を含むブロック(A)と、オキシアルキレン基またはアルキル基を側鎖に有するアクリルエステル系モノマー(b)に由来する構造単位を含むブロック(B)とを含む機能性ブロック共重合体を用いることで、金属部材の表面のヒドロキシル基(OH基)と、機能性ブロック共重合体のブロック(A)の官能基(G)とが反応を起こし、化学結合を介して吸着し、ブロック(B)の部位で金属部材の表面が覆われると考えられる(図1参照)。これにより、耐久性があり、ブロック(B)の構造に寄与した機能性を有する表面に改質できると考えられる。
【0019】
また、多くのヒドロキシル基が表面に露出した状態である、表面が活性化された金属部材と、機能性ブロック共重合体及び溶媒を含む表面改質剤とを接触させることで、機能性ブロック共重合体が効果的に金属部材に吸着できると考えられる。
【0020】
以下、図2に基づいて、本発明の製造方法について詳しく説明する。図2は、本発明の製造方法の例を示すフロー図である。図2に示すように、本発明の製造方法は、接触工程と、溶媒除去工程とを有する。
【0021】
[接触工程]
接触工程は、表面が活性化された金属部材と、機能性ブロック共重合体及び溶媒を含む表面改質剤と、を接触させる工程である。
【0022】
[表面改質剤]
本発明の製造方法では、金属部材の表面を改質するために表面改質剤を用いる。接触工程に用いられる表面改質剤は、機能性ブロック共重合体及び溶媒を含む。溶媒を含む液状材料とすることで、表面改質剤の粘度や機能性ブロック共重合体の濃度を任意に調整しやすく、金属部材の所望の範囲に、所望の機能性を付与しやすくなる。
【0023】
本願において、表面改質剤は、機能性ブロック共重合体が溶媒に完全に溶解した均一溶液だけでなく、懸濁液・分散液も含む概念である。機能性ブロック共重合体の構造によっては、溶媒に完全に機能性ブロック共重合体を溶解させることが困難な場合もあるため、機能性ブロック共重合体が溶媒に分散・懸濁した、懸濁液や分散液としてもよい。
【0024】
(機能性ブロック共重合体)
表面改質剤に含まれる機能性ブロック共重合体は、ヒドロキシル基と反応し得る官能基を有するアクリル系モノマー(a)に由来する構造単位を含むブロック(A)と、オキシアルキレン基またはアルキル基を側鎖に有するアクリルエステル系モノマー(b)に由来する構造単位を含むブロック(B)とを含む共重合体である。このような機能性ブロック共重合体は、金属部材の表面改質用として好適である。
【0025】
機能性ブロック共重合体は、ブロック(A)とブロック(B)とからなるものであってもよいし、本発明の目的を損なわない範囲でさらにその他のブロックや重合部位を含んでいてもよい。
【0026】
ここで、「アクリル系モノマー」とは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、およびメタクリル酸エステルからなる群から選択される1以上のモノマーを意味する。「アクリルエステル系モノマー」とは、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルを意味する。アクリル系モノマーやアクリルエステル系モノマーは、重合特性を損なうことなく様々な特性をモノマーに導入することができ、市販のモノマー種も多く、入手もしやすい。そのため、様々な特性を機能性ブロック共重合体に取り入れることができる。
【0027】
機能性ブロック共重合体は、実質的にブロック(A)およびブロック(B)から構成されるものであることが好ましく、機能性ブロック共重合体において、ブロック(A)とブロック(B)の合計の含有量が95質量%以上や98質量%以上などとすることができる。また、ブロック共重合体は、ジブロック共重合体やトリブロック共重合体等のいずれであってもよい。
【0028】
(ブロック(A))
機能性ブロック共重合体を構成するブロック(A)は、ヒドロキシル基と反応し得る官能基(G)を有するアクリル系モノマー(a)に由来する構造単位を含む。ヒドロキシ基と反応し得る官能基(G)としては、カルボキシル基、グリシジル基等が挙げられ、カルボキシル基が好ましい。
【0029】
アクリル系モノマー(a)を具体的に例示すると、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。
【0030】
ブロック(A)の重合度は、5~1,000であることが好ましい。ブロック(A)の重合度は、大きすぎると、溶媒に分散・溶解しにくくなったり、粘度が高くなるという問題がある。また、重合度が小さすぎると、機能性ブロック共重合体の金属部材への吸着力が低下する傾向にある。ブロック(A)の重合度は、10以上や、25以上、50以上であってもよい。また、その上限は、750以下や、500以下であってもよい。
【0031】
ブロック(A)に対応する分子量は、500~50,000であることが好ましい。ブロック(A)に対応する分子量が大きすぎると、溶媒に分散・溶解しにくくなったり、粘度が高くなるという問題がある。また、ブロック(A)に対応する分子量が小さすぎると機能性ブロック共重合体の金属部材への吸着力が低下する傾向にある。ブロック(A)の分子量は、1,000以上や、2,000以上、3,000以上であってもよい。また、その上限は、40,000以下や、25,000以下、10,000以下であってもよい。
【0032】
なお、これらの分子量は、GPCにより得られる結果から、ポリスチレン換算で求めることができる値「Mw:重量平均分子量」である。また、機能性ブロック共重合体が溶媒に溶けにくく分子量を測定しにくい場合がある。そのような場合には、元素分析、IR、NMRなどの手法により各々の分子量を算出することができる。
【0033】
(ブロック(B))
機能性ブロック共重合体を構成するブロック(B)は、オキシアルキレン基またはアルキル基を側鎖に有するアクリルエステル系モノマー(b)に由来する構造単位を含む。
【0034】
「オキシアルキレン基」
オキシアルキレン基は、「-(Cp2p-O)-」(pは1以上の整数である)で表される2価の基である。オキシアルキレン基を有する官能基としては、例えば、下記一般式(I)で表される基が挙げられる。
【0035】
-(Cp2p-O)q-R1 ・・・・(I)
(一般式(I)において、pは1~10の整数、qは1~10の整数、R1は水素原子または炭素数1~10のアルキル基を表す。)
【0036】
一般式(I)において、R1で表されるアルキル基は、直鎖状であっても、分岐状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。また、無置換であっても、フッ素原子などの置換基を有してもよいが、無置換のアルキル基が好ましい。
【0037】
より好ましくは、一般式(I)において、pが1~5の整数、qが2~10の整数、R1が水素原子または炭素数1~5のアルキル基である。さらに好ましくは、pが1~2の整数、qが2~10の整数、R1が水素原子または炭素数1~2のアルキル基である。
【0038】
「アルキル基」
アクリルエステル系モノマー(b)の側鎖のアルキル基は、直鎖状であっても、分岐状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。また、無置換であっても、フッ素原子などの置換基を有してもよい。
【0039】
アクリルエステル系モノマー(b)の側鎖のアルキル基は、無置換のアルキル基であることが好ましい、または、少なくとも一部がフッ素に置換されたアルキル基であることが好ましい。
【0040】
無置換のアルキル基の炭素数は、8以上が好ましく、10以上がより好ましく、12以上がさらに好ましい。その上限は、共重合体として重合することができる範囲で適宜設定することができる。具体的な上限としては、現実的には、炭素数50以下が好ましく、40以下がより好ましい。また、炭素数は30以下や25以下としてもよい。アルキル基の炭素数が大きすぎると共重合体として適当な立体構造がとれなかったり、重合条件の設定が難しくなったりする場合がある。
【0041】
無置換の炭素数8以上のアルキル基としては、具体的には、オクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、イソドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基(ステアリル基)、ドコシル基(ベヘニル基)等が挙げられる。
【0042】
少なくとも一部がフッ素に置換されたアルキル基の炭素数は、3以上が好ましく、7以上がより好ましい。その上限は、共重合体として重合することができる範囲で適宜設定することができる。具体的な上限としては、現実的には、炭素数23以下や、20以下、15以下とすることができる。
【0043】
少なくとも一部がフッ素に置換されたアルキル基のフッ素の数は、3以上や、5以上、10以上などとすることができる。また、その上限は、47以下や、30以下や、25以下、20以下などとすることができる。
【0044】
少なくとも一部がフッ素に置換されたアルキル基としては、例えば、以下の一般式(II-1)~一般式(II-5)で表される基が挙げられ、一般式(II-1)で表される基が好ましい。
【0045】
【化1】
【0046】
ここで、一般式(II-1)~一般式(II-5)において、rは、1以上14以下の整数であり、sは、1以上4以下の整数である。また、Xは、H、F、CH2F、CHF2、およびCF3からなる群から選択されるいずれかである。
【0047】
アクリルエステル系モノマー(b)は、改質目的に応じて適宜選択されるものであるが、式(I)で表される官能基、無置換のアルキル基、および、少なくとも一部がフッ素に置換されたアルキル基からなる群から選択されるいずれかの官能基を側鎖に有することが好ましい。
【0048】
より好適なアクリルエステル系モノマー(b)として、下記モノマー(b1)~モノマー(b3)が挙げられる。
モノマー(b1):式(I)で表される官能基を有するアクリルエステル系モノマー
モノマー(b2):無置換の炭素数8以上のアルキル基を有するアクリルエステル系モノマー
モノマー(b3):少なくとも一部がフッ素に置換された直鎖状のアルキル基を有するアクリルエステル系モノマー
【0049】
モノマー(b1)に由来する構造単位からなるブロック(B)を含む機能性ブロック共重合体は、親水性を付与するために好適なブロック共重合体である。また、モノマー(b2)またはモノマー(b3)に由来する構造単位からなるブロック(B)を含む機能性ブロック共重合体は、疎水性を付与するために好適なブロック共重合体である。
【0050】
モノマー(b1)を具体的に例示すると、メトキシ-ポリエチレングリコール-アクリレート(CH2=CH(CO)O(CH2-CH2-O-)qCH3)(q=2~10)、エトキシ-ポリエチレングリコール-アクリレート(CH2=CH(CO)O(CH2-CH2-O-)q25)(q=2~10)、ポリエチレングリコール-モノアクリレート(CH2=CH(CO)O(CH2-CH2-O-)qH)(q=2~10)などのオキシアルキレン基を有するモノマーが挙げられる。より具体的には、ジ(エチレングリコール)エチルエーテルアクリレート(CH2=CH(CO)O(CH2-CH2-O-)225、Diethylen Glycol Monoethyl Ether Acrylate、DEEA)や、デカ(エチレングリコール)エチルエーテルアクリレート(CH2=CH(CO)O(CH2-CH2-O-)1025)等が挙げられる。
【0051】
モノマー(b2)を具体的に例示すると、ドデシルアクリレート(ラウリルアクリレート)、オクタデシルアクリレート(ステアリルアクリレート)、ドコシルアクリレート(ベヘニルアクリレート)等が挙げられる。
【0052】
モノマー(b3)を具体的に例示すると、1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルアクリレート(1H,1H,2H,2H-Heptadecafluorodecyl acrylate、HDFA)や、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,-ドデカフルオロへプチルアクリレート(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7-Dodecafluorohepthyl Acrylate、DDFA)等が挙げられる
【0053】
ブロック(B)の重合度は、10~500であることが好ましい。ブロック(B)の重合度は、大きすぎると溶媒に分散・溶解しにくくなったり、粘度が高くなるという問題がある。また、重合度が小さすぎると、ブロック(B)の機能性を発揮しにくく改質効果が低下する傾向にある。ブロック(B)の重合度は、20以上や、30以上であってもよい。また、その上限は、400以下や、300以下であってもよい。
【0054】
ブロック(B)に対応する分子量は、3,000~50,000であることが好ましい。ブロック(B)に対応する分子量が大きすぎると溶媒に分散・溶解しにくくなったり、粘度が高くなるという問題がある。また、ブロック(B)に対応する分子量が小さすぎるとブロック(B)の機能性を発揮しにくく改質効果が低下するという問題がある。ブロック(B)の分子量は、4,000以上や、5,000以上、6,000以上であってもよい。また、その上限は、40,000以下や、25,000以下、10,000以下であってもよい。
【0055】
また、ブロック(A)とブロック(B)の重合比は、ブロック(A)/ブロック(B)=80/20~20/80や、70/30~30/70、60/40~40/60などとすることができる。
【0056】
好ましい機能性ブロック共重合体としては、例えば、下記一般式(1)や下記一般式(2)のブロック共重合体が挙げられる。
【0057】
【化2】
【0058】
一般式(1)および(2)において、Ra1およびRb1はそれぞれ独立に、水素原子またはメチル基である。
【0059】
一般式(1)および(2)において、Rb2は、上記式(I)で表される官能基またはアルキル基である。Rb2がアルキル基である場合、好適な態様は、上記アクリルエステル系モノマー(b)の側鎖のアルキル基と同様である。
【0060】
一般式(1)および(2)において、mは、5~1,000である。mの好適な範囲は上記ブロック(A)の重合度と同様である。nは、10~500である。nの好適な範囲は上記のブロック(B)の重合度と同様である。
【0061】
機能性ブロック共重合体は、各種リビング重合法(ラジカル、アニオン、カチオン)等の公知の技術により重合し、得ることができる。リビングラジカル重合法としては、NMP法やATRP法、RAFT法などを用いることができる。
【0062】
例えば、アクリル系モノマー(a)を重合溶媒に開始剤と共に混合して、アクリル系モノマー(a)混合溶液を調製する混合溶液調製工程を行う。次に、この混合溶液調製工程で調製されたアクリル系モノマー(a)混合溶液を、適当な重合温度(例えば約90~120℃)で、リアクター内で適宜撹拌しながら、窒素雰囲気等の下でリビングラジカル重合等の開始剤の重合機構に基づくモノマー(a)重合工程を行い、アクリル系モノマー(a)重合体を得る。さらに、このアクリル系モノマー(a)重合体を混合させている溶液に、アクリルエステル系モノマー(b)を混合して、溶液中のラジカル等によってさらにアクリルエステル系モノマー(b)を重合させるモノマー(b)重合工程を行う。これにより、アクリル系モノマー(a)に由来するブロック(A)とアクリルエステル系モノマー(b)に由来するブロック(B)を含む機能性ブロック共重合体を得ることができる。アクリル系モノマー(a)とアクリルエステル系モノマー(b)との重合を行う順序は、重合させようとするモノマー種や分子量、それぞれの重合条件等に応じて変更することもできる。
【0063】
その他のモノマーを含むときには、重合させたモノマーを第3のモノマーとして用いて重合させればよい。
【0064】
(溶媒)
表面改質剤に含まれる溶媒は、機能性ブロック共重合体を溶解または分散させることができればよく、機能性ブロック共重合体の構造等に応じて適宜選択することができる。溶媒は1種のみ、あるいは2種以上の溶媒を適宜混合して用いることができる。好ましくは、エタノール、イソプロピルアルコール、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドンなどの極性有機溶媒が挙げられる。
【0065】
(濃度)
表面改質剤中の機能性ブロック共重合体の濃度は、機能性ブロック共重合体の種類や処理温度、共重合体の接着量や接着膜厚、改質目的等に応じて適宜設定することができる。表面改質剤中の機能性ブロック共重合体の濃度は、0.01~2.0質量%であることが好ましい。機能性ブロック共重合体の濃度の下限は、0.02質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。機能性ブロック共重合体の濃度が低すぎる場合、改質効果が不足する場合がある。ブロック共重合体の濃度の上限は、1.5質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましい。0.8質量%以下や0.6質量%以下、0.5質量%以下とすることもできる。機能性ブロック共重合体の濃度を高くしても改質効果は飽和する場合がある。また、機能性ブロック共重合体の濃度が高すぎると、機能性ブロック共重合体自体の自己集合によるミセル化が生じてしまい改質効果を十分に発揮できない場合がある。
【0066】
[表面が活性化された金属部材]
接触工程で用いられる金属部材は、表面が活性化されたものである。金属部材は、大気中の酸素と反応し、その表面が酸化膜で被覆されているものもある。このような表面が酸化膜で被覆された状態では、機能性ブロック共重合体が接着しにくく、改質効果を十分に得ることができなかったり、安定した機能性の付与が困難である。そこで、本発明の製造方法の接触工程では、表面が活性化され、表面の少なくとも一部にヒドロキシル基が存在する金属部材が用いられる。
【0067】
金属部材の材質としては、鉄、鉄合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、ニッケル-チタン合金、チタン、アルミニウム、スズ、亜鉛-タングステン合金などが挙げられる。好ましくは、鉄、鉄合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金であり、より好ましくは、鉄または鉄合金である。鉄合金としては、ステンレス鋼や炭素鋼などが挙げられる。中でも、金属部材は、ステンレス鋼を含むことが好ましく、ステンレス鋼であることがより好ましい。
【0068】
その形状は、特に限定されるものではなく、板状や、メッシュ状、ワイヤ状、球状、各種部材に応じた複雑な形状などとすることができる。
【0069】
なお、本発明で用いられる金属部材は、機能性ブロック共重合体と接触させるときに、活性な表面が露出していればよいので、接触工程の前に、表面を活性化する表面活性化工程を行うことで、表面が不活性な金属部材であっても用いることができる。表面活性化工程については、後述する。
【0070】
[接触方法]
金属部材と表面改質剤との接触方法は、金属部材の改質しようとする部分に表面改質剤を接触させることができれば特に限定されない。接触方法としては、ディップコート、スピンコート、アプリケーター塗布、スリットコート、ダイコート、バーコート、スクリーン印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷、スプレーコート、かけ流しなどの手法が挙げられる。表面改質剤を所定の温度で管理しやすいことから、好適な接触方法のひとつは、金属部材を表面改質剤へ浸漬させる方法である。
【0071】
機能性ブロック共重合体と金属部材とを接触させる温度(処理温度)は、表面改質剤の溶媒の種類や金属部材の形状、接触時間等に応じて適宜決定できる。処理温度は、特に限定されず、例えば、15℃~35℃の常温付近で接触させることができる。
【0072】
上記所定の温度での接触にあたっては、予め表面改質剤を所定の温度にしてから金属部材と接触させてよい。また、常温程度の表面改質剤に金属部材を接触させてから加熱し、所定の温度に昇温してもよい。また、所定の温度で接触させた後に速やかに表面改質剤を除去してもよいし、表面改質剤と金属部材とを接触させたまま冷却や徐冷をしてもよい。
【0073】
表面改質剤と金属部材とを接触させる処理時間は、その接触方法や表面改質剤の組成、金属部材の形状等に応じて適宜決定することができる。例えば、処理温度を高めるなど機能性ブロック共重合体と金属部材との反応性を高めた状態で行う場合には、処理時間は1秒以上や10秒以上、30秒以上と比較的短めにしてもよい。また、処理時間は1分以上や5分以上としてもよい。処理時間は長くてもよく、60分以下や40分以下としてもよい。また、機能性ブロック共重合体と金属部材の接触は、ある一定時間以上となると改質効果は飽和するため、処理温度などの条件に応じて、30分以下や20分以下としてもよい。
【0074】
[溶媒除去工程]
溶媒除去工程は、接触工程の後に行われる工程であり、金属部材の表面から溶媒を除去する工程である。溶媒除去は、従来公知の方法で行えばよく、通気性のよい環境下、常温付近で乾燥させたり、適宜、減圧や加熱された環境下で乾燥を行ってもよい。中でも、溶媒除去工程では、真空乾燥を行うことが好ましい。これにより、金属部材の表面のヒドロキシル基と機能性ブロック共重合体のブロック(A)の官能基が反応し結合を形成する方向に平衡が傾き、より強固に吸着されると考えられる。
【0075】
真空乾燥は、従来公知の方法で行うことができる。真空乾燥は、常温で行っても、加熱しながら行ってもよいが、加熱しながら行うことが好ましい。真空乾燥の温度は、機能性ブロック共重合体の分解温度より低ければ特に限定されない。機能性ブロック共重合体を金属部材の表面に効率的に吸着させるためには、真空乾燥の温度は、40℃以上が好ましく、60℃以上、80℃以上、100℃以上、120℃以上の順で高い程より好ましい。また、機能性ブロック共重合体の吸着を促進させる効果はある温度以上では飽和するため、200℃以下や、180℃以下、160℃以下などと上限を設定してもよい。
【0076】
真空乾燥の時間は、例えば、真空乾燥の時間は10分以上や、20分以上、30分以上などとすることができる。真空乾燥の時間は、真空乾燥の温度等により適宜決定することができるが、真空乾燥の時間が短すぎると改質効果が不十分となる場合がある。また、真空乾燥の時間は、120分以下や60分以下などとすることができる。
【0077】
図3は、本発明の製造方法の別の例を示すフロー図である。図3に示す本発明の製造方法は、金属部材の表面を活性化する表面活性化工程を行った後、接触工程を行うものである。これにより、表面が不活性な金属部材であっても用いることができる。また、機能性ブロック共重合体の接着性の向上を目的に、活性な表面を有する金属部材に対して表面活性化工程を行ってもよい。
【0078】
[表面活性化工程]
表面活性化工程は、金属部材の表面を活性化させる工程である。例えば、金属部材の表面に形成された酸化膜の少なくとも一部を除去する工程とできる。これにより、表面が活性化され、少なくとも一部にヒドロキシル基が露出した表面を有する金属部材が得られる。金属部材の表面活性化は、表面全体の活性化(酸化膜の除去)をするものとしもよいし、改質したい部分の表面のみ活性化するものとしてもよい。表面活性化の方法は特に限定されない。表面活性化の方法として、例えば、金属部材の表面を研磨する工程であってもよい。研磨では、金属部材の改質したい部分を研磨できればよく、金属部材の表面全体を研磨してもよいし、改質したい部分のみを研磨してもよい。研磨方法としては、サンドペーパー、ブラスト研磨、バル研磨、バレル研磨など任意の方法を用いることができる。
【0079】
[表面修飾金属部材]
本発明の部材は、上記の通り、金属部材と、金属部材の表面の少なくとも一部を修飾する機能性ブロック共重合体と、を有する。本発明の部材において、金属部材と前記機能性ブロック共重合体とは、機能性ブロック共重合体のブロック(A)の官能基(G)の少なくとも一部と、金属部材の表面との化学結合により結合している。本発明の部材を構成する機能性ブロック共重合体は、ブロック(A)の官能基(G)の少なくとも一部が金属部材の表面との間で化学結合を形成していること以外は、上記本発明の製造方法で用いられる表面改質剤に含まれる機能性ブロック共重合体の構成と同じであり、好適な態様も同じである。
【0080】
機能性ブロック共重合体のブロック(A)の官能基(G)の少なくとも一部と、金属部材の表面との間で形成される化学結合は、機能性ブロック共重合体のブロック(A)の官能基(G)と金属部材の表面のOH基との反応によって形成される結合である。官能基(G)の構造に応じて、例えば、エステル結合やエーテル結合を介し結合したものとできる。
【0081】
また、金属部材の表面に機能性ブロック共重合体が表面修飾されていることは、赤外吸収スペクトル(FTIR)や、表面修飾金属部材の表面の成分をEDX分析などにより分析することで確認することができる。例えば、本発明の表面修飾金属部材の表面は、赤外吸収スペクトル(ATR法)において、1600~1800cm-1の範囲にC=Oに由来する吸収ピークを有し、2500~3100cm-1の範囲にOHに由来する吸収ピークを有するものとできる。
【0082】
例えば、本発明の部材は、金属部材と、金属部材の表面の少なくとも一部を修飾する、アクリル酸またはメタクリル酸に由来する構造単位を含むブロック(A)と、ブロック(B)を含む機能性ブロック共重合体と、を有するものとできる。このとき、機能性ブロック共重合体のブロック(A)のカルボキシル基の一部が、金属部材の表面のOH基とエステル結合を形成することで、機能性ブロック共重合体は金属部材の表面に固定される。
【0083】
また、グリシジル基を有するアクリル系モノマー(a)に由来する構造単位を含むブロック(A)とブロック(B)を含む機能性ブロック共重合体を用い、金属部材の表面を基質させた場合には、機能性ブロック共重合体のブロック(A)のグリシジル基の一部が、金属部材の表面のOH基と反応し、エーテル結合を形成することで、金属部材の表面に接着する。
【0084】
本発明の部材は、オキシアルキレン基を側鎖に有するアクリルエステル系モノマー(b)に由来する構造単位を含むブロック(B)を含む機能性ブロック共重合体により修飾された表面修飾金属部材とすることで、親水性の表面を有するものとすることができる。具体的には、機能性ブロック共重合体が修飾された表面の接触角が70度以下や60度以下であるものとすることができる。
【0085】
また、オキシアルキレン基を側鎖に有するアクリルエステル系モノマー(b)に由来する構造単位を含むブロック(B)を含む機能性ブロック共重合体により修飾された表面修飾金属部材とすることで、抗血栓性を付与することが期待できる。そのため、ステントなどのバイオマテリアル用途に好適に利用できる。
【0086】
また、無置換の炭素数8以上の直鎖状のアルキル基、または、少なくとも一部がフッ素に置換された直鎖状のアルキル基を側鎖に有するアクリルエステル系モノマー(b)に由来する構造単位を含むブロック(B)を含む機能性ブロック共重合体により修飾された表面修飾金属部材とすることで、疎水性の表面を有するものとすることができる。
【実施例0087】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
<機能性ブロック共重合体(FBC)の合成>
[試薬]
アクリル系モノマー(a)として、2-2(エトキシエトキシ)エチルアクリレート(DEEA)を用い、アクリルエステル系モノマー(b)として、アクリル酸(AA)を用いた。重合開始剤としてBloc Builder(登録商標)MA(Arkema社製)を用いた。溶媒として、酢酸ブチルを用いた。
【0089】
[製造]
図4に示す重合スキームに従い、リビングラジカル重合(NMP法)により、2-2(エトキシエトキシ)エチルアクリレートとアクリル酸とを重合させ、FBC(1)(AA-DEEA)を得た。
【0090】
得られたFBC(1)のFTIRスペクトルを測定した。IRスペクトルの測定には、Spectrum Two(株式会社パーキンエルマージャパン製)を用いた。図5に示すように、FBC(1)のFTIRスペクトルには、エステルのC=O伸縮振動のピーク、カルボン酸のC=O伸縮振動のピーク、カルボン酸のO-H伸縮振動のピークが観測された一方で、C=C(ビニル結合)伸縮振動の吸収ピークは観測されなかった。また、FBC(1)と、AA:DEEA=1:1のピーク(2500~3100cm-1)が類似していることから、重合比(m:n)はほぼ1:1であると考えられる。
【0091】
<ステンレス板の表面改質>
[比較例1]:ステンレス板の前処理
金属部材として、株式会社ゴク・テン製のステンレス板(0.5×25×100mm)を用いた。ステンレス板のトルエンへの浸漬と拭き取りを3回繰り返した。次いで、ステンレス板をアセトンへ一晩浸漬させ、取り出し、キムワイプ(登録商標)で拭き取り、風乾した。これを、表面活性化処理されていない、未処理ステンレス板とした。
【0092】
[比較例2]:未処理ステンレス板の表面改質
1)FBC(1)の0.1wt%エタノール溶液を調製し、それを改質溶液(1)とした。
2)改質溶液(1)に、比較例1の未処理ステンレス板を室温で10分間浸漬した。
3)未処理ステンレス板を改質溶液(1)から取り出し、真空乾燥機で、200℃で30分間乾燥した。
4)エタノールを含ませたキムワイプ(登録商標)で5回拭き取り1日風乾した。
【0093】
[比較例3]:ステンレス板の前処理(表面活性化工程)
金属部材として、株式会社ゴク・テン製のステンレス板(0.5×25×100mm)を用い、トルエンへの浸漬と拭き取りを3回繰り返した。次いで、ステンレス板をアセトンへ一晩浸漬させ、取り出し、キムワイプ(登録商標)で拭き取り、風乾した。さらに、ステンレス板に形成された不働態を不安定化、また表面積を大きくするために片面を耐水ペーパー#2000で格子状に縦横各3分ずつ研磨した。水、アセトンで洗い、風乾した。これを、表面活性化処理を行った、研磨ステンレス板とした。
【0094】
[実施例1]:研磨ステンレス板の表面改質
比較例1の未処理ステンレス板に変えて、比較例3の研磨ステンレス板を用い、真空乾燥の温度を15℃とした以外は、比較例2と同様にし、実施例1の表面改質ステンレス板を得た。
【0095】
[実施例2~実施例7]
真空乾燥の乾燥温度を表1に示す温度とした以外は、実施例1と同様にし、実施例2~7の表面改質ステンレス板を得た。
【0096】
【表1】
【0097】
<表面改質ステンレス板の評価>
[表面改質ステンレス板のFTIR-1]
比較例2(未処理ステンレス板、乾燥温度200℃)、実施例7(研磨ステンレス板、乾燥温度200℃)のFTIRスペクトルを測定した。IRスペクトルの測定には、Spectrum Two(株式会社パーキンエルマージャパン製)を用いた。図6に示すように、研磨ステンレス板では、FBC(1)がよく残ることがわかる。
【0098】
[表面改質ステンレス板のFTIR-2]
実施例1~実施例7(研磨ステンレス板、乾燥温度15℃~200℃)のFTIRスペクトルを測定した。IRスペクトルの測定には、Spectrum Two(株式会社パーキンエルマージャパン製)を用いた。図7に示すように、100℃以上でピークが強く表れ、FBC(1)が表面により多く残っていることがわかる。
【0099】
[表面改質ステンレス板のSEM-EDX]
SEM(Microscope(登録商標)TM4000Plus(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)、EDS(QUANTAX 75(Bruker製))を用いて、実施例4(研磨ステンレス板、乾燥温度100℃)と、未改質研磨ステンレス板の表面観察とEDXマッピングを行った。図8に、実施例4のSEM画像とEDXマッピングとEDXスペクトルの結果を、図9に、未改質研磨ステンレス板のSEM画像とEDXマッピングとEDXスペクトルの結果を示す。図8図9のEDXマッピングを比較すると、図9の未改質研磨ステンレス板に比べて、図8で示す実施例4の方が炭素(C)を示す黄色の面積が多く、鉄(Fe)を示す水色およびニッケル(Ni)を示す青色の面積が少なかった。EDXによる元素分析からもFBC(1)がステンレス板に存在していることが確認できた。
【0100】
[表面改質ステンレス板の接触角]
比較例1の未処理未改質のステンレス板、比較例3の研磨ステンレス板、実施例1~7の表面改質ステンレス板の接触角を測定した。表2に結果を示す。表2に示すように、FBC(1)で処理することで、全体的に接触角が低下し、表面を改質できていることがわかる。
【0101】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、様々な分野で利用されている金属部材の表面の性質を簡単に改質することができ、性能の向上や新たな用途へ利用できるため、産業上有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9