(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134864
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】粉体塗料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 167/00 20060101AFI20230921BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20230921BHJP
C09D 5/03 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
C09D167/00
C09D133/04
C09D5/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039775
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(72)【発明者】
【氏名】後藤 宏之
(72)【発明者】
【氏名】津田 裕久
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG142
4J038DD071
4J038GA06
4J038GA07
4J038KA08
4J038NA26
4J038NA27
4J038PA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】粉体塗料製造後、貯蔵期間中の固相反応を抑制することができ、得られる塗膜の仕上り外観及び塗膜性能にも優れた粉体塗料の製造方法を提供すること。
【解決手段】カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)、顔料(C)及び添加剤(D)からなり、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基1当量あたり、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)が0.5~0.9当量のエポキシ基を有する量で配合されている溶融混練物である中間組成物(X)に対し、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基1当量あたり0.1~1.0当量のエポキシ基を有する量のグリシジル基含有アクリル樹脂(B)を添加して混合、共粉砕することを特徴とする粉体塗料の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)、顔料(C)及び添加剤(D)からなる粉体塗料の製造方法であって、
カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)、顔料(C)及び添加剤(D)からなり、
カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基1当量あたり、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)が0.5~0.9当量のエポキシ基を有する量で配合されている溶融混練物である中間組成物(X)に対し、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基1当量あたり0.1~1.0当量のエポキシ基を有する量のグリシジル基含有アクリル樹脂(B)を添加して混合、共粉砕することを特徴とする粉体塗料の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の粉体塗料の製造方法により、製造された粉体塗料。
【請求項3】
請求項2に記載の粉体塗料の塗膜が形成された塗装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料製造後、貯蔵期間中の固相反応を抑制することができ、仕上り外観及び塗膜性能にも優れた粉体塗料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体塗料は、一般的に、バインダー樹脂及び硬化剤、並びに、所望により顔料、添加剤等を混合機により均一に混合し、得られた混合物を混練機により溶融混練した後、粗粉砕、微粉砕、分級工程を経て得ることができる。
【0003】
環境負荷軽減の観点から、比較的低温で硬化する粉体塗料が求められており、その一つとして、酸/エポキシ硬化系があり、例えば、バインダー樹脂と硬化剤の組合せとして、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂とグリシジル基含有アクリル樹脂が知られている。
【0004】
例えば特許文献1には、エポキシ樹脂粉体塗料と、その製造方法において、(a)前記第1のエポキシ樹脂と第2のエポキシ樹脂とを含有し、かつ、硬化剤を含有しない原料混合物を溶融混合する工程と、(b)前記溶融混合物に、硬化剤を含有する残りの原料混合物を溶融混合する工程と、を有することを特徴とする、エポキシ樹脂粉体塗料の製造方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1等のエポキシ樹脂粉体塗料の製造方法は、粉体塗料製造後、貯蔵期間中の固相反応の抑制が不十分で、塗膜の光沢不良や付着性の低下等、塗膜性能が不良となる問題が発生する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、粉体塗料製造後、貯蔵期間中の固相反応を制することができ、得られる塗膜の仕上り外観及び塗膜性能にも優れた粉体塗料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、
項1. カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)、顔料(C)及び添加剤(D)からなる粉体塗料の製造方法であって、
カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)、顔料(C)及び添加剤(D)からなり、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基1当量あたり、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)が0.5~0.9当量のエポキシ基を有する量で配合されている溶融混練物である中間組成物(X)に対し、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基1当量あたり、0.1~1.0当量のエポキシ基を有する量のグリシジル基含有アクリル樹脂(B)を添加して混合、共粉砕することを特徴とする粉体塗料の製造方法、
項2. 上記項1に記載の粉体塗料の製造方法により、製造された粉体塗料、
項3. 上記項2に記載の粉体塗料の塗膜が形成された塗装物品、
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の粉体塗料の製造方法によれば、粉体塗料製造後、貯蔵期間中の固相反応を抑制することができ、得られる塗膜の仕上り外観及び塗膜性能にも優れた粉体塗料の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の粉体塗料の製造方法は、
カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)、顔料(C)及び添加剤(D)からなる粉体塗料の製造方法であって、
カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)、顔料(C)及び添加剤(D)からなり、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基1当量あたり、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)が0.5~0.9当量のエポキシ基を有する量で配合されている溶融混練物である中間組成物(X)に対し、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基1当量あたり、0.1~1.0当量のエポキシ基を有する量のグリシジル基含有アクリル樹脂(B)を添加して混合、共粉砕することを特徴とする粉体塗料の製造方法、である。
【0011】
<カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)>
カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)は、カルボキシ基を有するポリエステル樹脂であり、例えば、多価カルボン酸を主成分とした酸成分と、多価アルコールを主成分としたアルコール成分とを原料として通常の方法により縮重合することにより得ることができる。
【0012】
上記酸成分としては、例えば、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸、イソフタル酸ジメチル、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類及びこれらの無水物、トリメリット酸等の3価以上の芳香族多価カルボン酸類及びこれらの無水物、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸類及びこれらの無水物、γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトン等のラクトン類、p-オキシエトキシ安息香酸等の芳香族オキシモノカルボン酸類等を挙げることができる。
【0013】
上記のうち、テレフタル酸、イソフタル酸等を好適に使用することができる。上記酸成分は1種又は2種以上を使用することができる。
【0014】
上記アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,3-ペンタンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2-ドデカンジオール、1,2-オクタデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAアルキレンオキシド付加物、ビスフェノールSアルキレンオキシド付加物等の直鎖状又は分枝状の脂肪族グリコール類、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール類等を挙げることができる。
【0015】
上記のうち、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール等を好適に使用することができる。上記アルコール成分は1種又は2種以上を使用することができる。
【0016】
カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)の酸価は、10~50mgKOH/g、特に15~45mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。
【0017】
カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)の水酸基価は、0~15mgKOH/g、特に0~10mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。
【0018】
カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量は、5000~15000、特に7500~12500の範囲内であることが好ましい。
【0019】
本明細書において、重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定した保持時間(保持容量)を、同一条件で測定した分子量既知の標準ポリスチレンの保持時間(保持容量)によりポリスチレンの分子量に換算して求めた値である。カラムは、「TSKgel G-4000H×L」、「TSKgel G-3000H×L」、「TSKgel G-2500H×L」、「TSKgel G-2000H×L」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1ml/分、検出器;RIの条件で行ったものである。
【0020】
カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度は、40~80℃、特に50~70℃の範囲内であることが好ましい。ガラス転移温度は、JIS K 7121に準拠して、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。
【0021】
また、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)の軟化温度は90~130℃、特に100~120℃の範囲内であることが好ましい。
【0022】
<グリシジル基含有アクリル樹脂(B)>
グリシジル基含有アクリル樹脂(B)は、少なくとも1つのグリシジル基を有する重合性単量体と、共重合可能な他のビニル系単量体と共重合させることによって、得ることができる。
【0023】
グリシジル基を有する重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸β-メチルグリシジル等を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を使用することができる。
【0024】
前記グリシジル基を有する重合性単量体と共重合可能な他のビニル系単量体は、分子中にビニル基等の不飽和結合を少なくとも1つ有するものであり、アクリル酸及びメタクリル酸の誘導体を含む。
【0025】
ビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等のエチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等のシクロアルキル基含有重合性単量体;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルとε-カプロラクトンとの反応物等のヒドロキシル基含有エチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、メトキシブチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のその他のアミド基含有エチレン系不飽和カルボン酸単量体;(メタ)アクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の飽和脂肪族カルボン酸ビニルエステル単量体;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系単量体等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を使用することができる。 尚、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。また、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル又はメタクリロイルを意味し、「(メタ)アクリルアミド」は、アクリルアミド又はメタクリルアミドを意味する。
【0026】
グリシジル基含有アクリル樹脂(B)におけるエポキシ当量は、200g/eq以上500g/eq以下であることが好ましい。なお、エポキシ当量は、JIS K 7236に準拠した方法により測定することができる。
【0027】
グリシジル基含有アクリル樹脂(B)は、塗膜形成時における仕上り性や硬度、耐衝撃性、加工性の観点から、ガラス転移温度が、50℃~80℃、特に55℃~75℃、さらに特に60℃~70℃の範囲内であることが好ましい。
【0028】
尚、本明細書において、アクリル樹脂のガラス転移温度Tgは、下記式により算出される値である。
1/Tg(K)=W1/T1+W2/T2+・・・Wn/Tn (1)
Tg(℃)=Tg(K)-273 (2)
式中、W1、W2、・・・Wnは各モノマーの質量分率であり、T1、T2、・・Tnは各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度Tg(K)である。
【0029】
尚、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度は、POLYMER HANDBOOK Fourth Edition,J.Brandrup,E.h.Immergut,E.A.Grulke編(1999年)による値であり、該文献に記載されていないモノマーのガラス転移温度は、該モノマーのホモポリマーを重量平均分子量が50000程度になるようにして合成し、そのガラス転移温度を示差走査型熱分析により測定したときの値を使用する。
【0030】
グリシジル基含有アクリル樹脂(B)の重量平均分子量は、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)との相溶性や塗膜形成時における表面平滑性の観点から、2000~10000、特に4000~8000の範囲内であることが好ましい。
【0031】
グリシジル基含有アクリル樹脂(B)が水酸基価を有する場合、水酸基価は、硬化性及び耐水性の観点から、0~30mgKOH/g、特に0~20mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。
【0032】
グリシジル基含有アクリル樹脂(B)の合成方法としては、上記少なくとも1つのグリシジル基を有する単量体を、これらと共重合可能な他のビニル系単量体と共重合させる方法であれば、特に制限はない。例えば、公知の種々の方法により行うことができ、例えば、上記の種々の単量体を、溶液中でラジカル重合反応させた後に、脱溶剤することにより、目的とする重合体を得る方法が、分子量の調節が容易であるという点で好ましい。
【0033】
最終的に製造された粉体塗料において、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)とグリシジル基含有アクリル樹脂(B)の量比は、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基1当量に対して、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)のエポキシ当量が、0.70~1.70当量、特に0.85~1.50当量、さらに特に1.00~1.40当量の範囲内となる量比とすることが好ましい。
【0034】
<顔料(C)>
顔料(C)としては、例えば、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム等の防錆顔料、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ、マイカ等の体質顔料;二酸化チタン、べんがら、黄色酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン系赤色顔料等の着色顔料等を挙げることができる。
【0035】
上記顔料(C)は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0036】
<添加剤(D)>
本発明において、添加剤(D)は、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)及び顔料(C)以外の粉体塗料中で含有されるすべての成分のことをいう。
【0037】
添加剤(D)としては、表面調整剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ワキ防止剤、顔料分散剤等を挙げることができ、これらは粉体塗料に通常使用されるものを使用することができる。
【0038】
また、添加剤(D)として、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)及びグリシジル基含有アクリル樹脂(B)以外の、樹脂、硬化剤も必要に応じて使用することができる。
上記添加剤(D)は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0039】
さらにまた、添加剤(D)として、硬化触媒も必要に応じて使用することができる。
【0040】
硬化触媒としては、例えば、イミダゾール類化合物、イミダゾリン類化合物及びこれらの金属塩複合体、3級ホスフィン類化合物、4級ホスホニウム塩類化合物及び4級アンモニウム塩類化合物等を挙げることができる。
【0041】
硬化触媒の量は、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)及びグリシジル基含有アクリル樹脂(B)の固形分総量に対して、0~5質量%の範囲内であることが好ましい。
【0042】
<粉体塗料の製造方法>
本発明の粉体塗料の製造方法は、前記溶融混練物である中間組成物(X)の粉砕物に対し、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基1当量に対して、0.1~1.0当量のエポキシ基を有する量のグリシジル基含有アクリル樹脂(B)を添加して混合し、共粉砕することを特徴とする粉体塗料の製造方法である。
【0043】
<中間組成物(X)>
中間組成物(X)は、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)、顔料(C)及び添加剤(D)からなり、
グリシジル基含有アクリル樹脂(B)が、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基1当量あたり、0.5~0.9当量のエポキシ基を有するように選択される量で配合されていることを組成上の特徴とするものである。
【0044】
得られる塗膜の仕上り外観及び耐候性等の塗膜性能の観点から、中間組成物(X)において、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)は、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基1当量あたり、0.5~0.9当量、特に0.7~0.9当量のエポキシ基を有するように選択される量で配合されていることが好ましい。
【0045】
顔料(C)の含有量は、使用する顔料の種類等により異なるが、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)及びグリシジル基含有アクリル樹脂(B)の固形分総量に対して、40~120質量%、特に60~100質量%であることが得られる塗膜の仕上り外観等の観点から好ましい。
【0046】
添加剤(D)の含有量は、使用する添加剤の種類等により異なるが、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)及びグリシジル基含有アクリル樹脂(B)の固形分総量に対して、0.1~15質量%、特に0.50~10質量%であることが好ましい。
【0047】
中間組成物(X)において、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)が、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基1当量に対して、0.5当量未満に相当する量であると、中間組成物(X)中において、樹脂量が少なくなることにより溶融混練性が低下する場合があり、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)が、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基1当量に対して、0.9当量を超える量に相当する量であると、粉体塗料製造後、貯蔵期間中の固相反応を抑制することが不十分となり、得られる粉体塗料の塗膜の表面平滑性や光沢が低下する場合がある。
【0048】
最終的に得られる粉体塗料中のグリシジル基含有アクリル樹脂(B)のうち、中間組成物(X)中の含有量を除く量は、その後の工程で添加される。
【0049】
中間組成物(X)において、必要に応じて、顔料(C)又は添加剤(D)の少なくとも一方を、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)に対して、最終配合量より少ない量で配合することもできる。
【0050】
中間組成物(X)の溶融混練は、少なくとも原料の一部が溶融し全体を混練することができる方法であれば特に限定されることなく、通常の粉体塗料の製造において使用されている方法により行うことができる。
【0051】
溶融混練時の温度は、通常、80~130℃(特に80~120℃)程度の範囲で行うことができる。
【0052】
具体的には例えば、上記カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)、顔料(C)、及び添加剤(D)をヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の混合機を使用して均一に混合し、次に、得られた混合物を、コニーダー、エクストルーダーや熱ロール等の混練機により溶融混練することにより溶融混練物とすることができる。
【0053】
得られた溶融混練物は通常、冷却ロール、冷却コンベヤー等で冷却して固化し、粉砕の工程を経て所望の粒径に粉砕されることにより、溶融混練物である中間組成物(X)は粉砕物の形態とすることができる。
【0054】
中間組成物(X)の粉砕は、通常の粉体塗料の製造において使用されている方法により行うことができ、具体的には、例えば、ハンマーミル等の衝撃型粉砕機、ジェットミル等の気流粉砕機等によって粉砕することにより行うことができる。
【0055】
上述の方法以外に、例えば、上記各成分を溶剤中で混合し、得られた混合物を乾燥、粉砕するか、又は、スプレードライ法により粉末にする方法を採用することもできる。得られた粉末は必要に応じて、上述の粉砕に供することができる。
【0056】
中間組成物(X)の粉砕物の体積平均粒子径は、30~50μm、特に30~45μm、さらに特に30~40μmの範囲内であることが好ましい。体積平均粒子径が30μm未満であると、粉砕工程において粉砕不良となる場合があり、50μmを超えると、各成分の混合が不充分となり、得られる粉体塗料の塗膜の仕上り外観や塗膜性能が低下する場合がある。
【0057】
なお、本明細書において、特に言及の無い限り平均粒子径は、体積平均粒子径(D50)を意味する。体積平均粒子径(D50)は、例えば、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(日機装社製、マイクロトラック)等の粒度測定装置を用いて測定することができる。具体的には、測定装置として「マイクロトラックMT3000II」(日機装社製)を用いて測定した値をいう。
【0058】
上記中間組成物(X)の粉砕物に対し、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基1当量に対して0.1~1.0当量のエポキシ基を有する量のグリシジル基含有アクリル樹脂(B)を添加して混合し、共粉砕することにより最終的に粉体塗料が製造される。
【0059】
上記グリシジル基含有アクリル樹脂(B)の添加において、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)は、粉砕物、未粉砕物のいずれの状態であってもよい。
【0060】
グリシジル基含有アクリル樹脂(B)の粉砕は、前記中間組成物(X)の粉砕と同様に、通常の粉体塗料の製造において使用されている方法、具体的には、例えば、ハンマーミル等の衝撃型粉砕機、ジェットミル等の気流粉砕機等によって粉砕することにより行うことができる。
【0061】
中間組成物(X)製造時のグリシジル基含有アクリル樹脂(B)が、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基1当量に対してより少ないエポキシ当量に相当する配合量であるほど、最終的に、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基1当量に対してより多いエポキシ当量に相当する配合量となるようグリシジル基含有アクリル樹脂(B)の配合量を調整することが、表面光沢や耐衝撃性等の塗膜性能の観点から好ましい。
【0062】
上記において、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)の量を、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基1当量に対してより多いエポキシ当量に相当する量とする場合、最終的に、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基1当量に対して、エポキシ当量が1.05~1.80当量、特に1.1~1.7当量に相当する量となるよう調整することが好ましい。
【0063】
グリシジル基含有アクリル樹脂(B)を粉砕物として添加する場合、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)の粉砕物は、体積平均粒子径が10~50μm、特に10~45μm、さらに特に10~40μmの範囲内であることが好ましい。
【0064】
体積平均粒子径が10μm未満であると、生産性や塗装作業性の面で劣る場合があり、50μmを超えると、中間組成物(X)の粉砕物との混合が不充分となり、得られる粉体塗料の塗膜の仕上り外観や塗膜性能が低下する場合がある。
【0065】
中間組成物(X)が、顔料(C)又は添加剤(D)の少なくとも一方も、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)に対して、最終配合量より少ない量で配合されている場合には、下記中間組成物(Y)が添加される。
【0066】
中間組成物(Y)は、追加分量のグリシジル基含有アクリル樹脂(B)と、不足分量の、顔料(C)又は添加剤(D)の少なくとも一方とからなる。
【0067】
中間組成物(Y)の組成中の各成分の配合量は、中間組成物(X)の配合に対応して少なくとも各成分の最終配合量に対する不足分を補う量となる。
【0068】
中間組成物(Y)の溶融混練は、中間組成物(X)の溶融混練と同様に、少なくとも原料の一部が溶融し全体を混練することができる方法であれば特に限定されることなく、通常の粉体塗料の製造において使用されている方法により行うことができる。
【0069】
中間組成物(Y)の粉砕は、前記中間組成物(X)と同様の方法で行うことができる。
上記中間組成物(X)の粉砕物の製造、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)の粉砕物の製造及び上記中間組成物(Y)の粉砕物の製造は、何れを先に行ってもよく、また、並行して行ってもよい。
【0070】
本発明の粉体塗料の製造方法は、中間組成物(X)に対して、少なくともカルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基1当量に対して追加分量である0.1~1.0当量のエポキシ基を有する量のグリシジル基含有アクリル樹脂(B)を添加し、混合して、共粉砕することにより、製造する方法である。
【0071】
上記の工程において、混合は通常の回転や高剪断作用による発熱がなく均一に粉体混合することができる方法であれば特に制限なく採用することができる。
【0072】
具体的には例えば、Vブレンダー、コニカルスクリューミキサー等の一般的なミキサーを使用して混合する方法を挙げることができる。
【0073】
上記の工程において、共粉砕は、例えば、ハンマーミル等の衝撃型粉砕機、ジェットミル等の気流粉砕機等を使用して行うことができる。
【0074】
本発明の粉体塗料の製造方法により、最終的に製造される粉体塗料の体積平均粒子径は、30~50μm、特に30~45μm、さらに特に30~40μmの範囲内であることが好ましい。
【0075】
平均体積粒子径が30μm未満であると、塗着効率が悪くなる場合があり、50μmを超えると、得られる粉体塗料の塗膜の仕上り外観や塗膜性能が低下する場合がある。
【0076】
また、上記共粉砕後、必要に応じて分級を行うこともできる。分級により、巨大粒子及び微小粒子を除去し粒度分布を調整することができる。分級は、例えば、空気分級機、振動ふるい、超音波ふるい等を使用して行うことができる。
【0077】
本発明の粉体塗料の製造方法は、中間組成物(X)においてカルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A)に対して、溶融混練するグリシジル基含有アクリル樹脂(B)の量が最終的に配合される量よりも少ない量となっているので、粉体塗料製造後、貯蔵期間中の固相反応を抑制することができる。
【0078】
その結果、仕上り外観に優れ、付着性等の塗膜性能にも優れた、酸/エポキシ硬化型の粉体塗料を製造することができる。
【0079】
本発明の粉体塗料の製造方法により製造される粉体塗料の適用対象としては、特に限定されず、例えば、鉄鋼、亜鉛、アルミニウム、銅、スズ等の金属素材、これらの金属に表面処理を施したもの、これらの金属素材に必要に応じてプライマーや中塗り塗装を施した下地塗装膜等を挙げることができる。
【0080】
本発明の粉体塗料の製造方法により製造される粉体塗料の塗装は、例えば、静電スプレー法、流動浸漬法等の従来の方法により、粉体塗料を被塗物の表面に所望の膜厚(通常、約30~200μm 、好ましくは約40~100μm)となるように塗装し、その後、焼付け乾燥(通常、被塗物温度約160~210℃で約30~60分間)することにより行うことができる。
【0081】
また、予熱された被塗物に上記従来の方法により塗装することも可能である。
【実施例0082】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」はいずれも質量基準によるものである。
【0083】
実施例1
カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A1)(ネオペンチルグリコール/テレフタル酸/イソフタル酸=38.8/5.7/55.5 質量比、水酸基価 8mgKOH/g、酸価 35mgKOH/g、重量平均分子量10,500、ガラス転移温度60℃)45.6部、グリシジル基含有アクリル樹脂(B1)(グリシジルメタクリレート/メチルメタクリレート/スチレン/n-ブチルメタクリレート=20/60/10/10 質量比、エポキシ当量350g/eq、重量平均分子量6500、ガラス転移温度65℃)3.65部、JR605 (テイカ(株)製、酸化チタン)47部、及びC17Z(四国化成(株)製、イミダゾール系エポキシ樹脂硬化促進剤)0.1部を調合して混合し、エクストルーダーで溶融混練し、冷却後、アトマイザーによって微粉砕することにより中間組成物(X1)(体積平均粒子径35μm)を得た。
【0084】
その後、上記グリシジル基含有アクリル樹脂(B1)3.65部添加した後、再びアトマイザーによって微粉砕し、150Meshでろ過することにより粉体塗料No.1(体積平均粒子径33μm)を得た。
【0085】
実施例2
実施例1において後添加するグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)の添加量を7.30部とする以外は実施例1と同様にして粉体塗料No.2を得た。
【0086】
実施例3
実施例1において中間組成物(X1)中のグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)を4.38部、後添加するグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)の添加量を5.84部とする以外は実施例1と同様にして粉体塗料No.3を得た。
【0087】
実施例4
実施例1において中間組成物(X1)中のグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)を5.11部とする以外は実施例1と同様にして粉体塗料No.4を得た。
【0088】
実施例5
実施例1において中間組成物(X1)中のグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)を5.84部、後添加するグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)の添加量を5.11部とする以外は実施例1と同様にして粉体塗料No.5を得た。
【0089】
実施例6
実施例1において中間組成物(X1)中のグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)を6.57部、後添加するグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)の添加量を0.73部とする以外は実施例1と同様にして粉体塗料No.6を得た。
【0090】
実施例7
実施例1において中間組成物(X1)中のグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)を6.57部とする以外は実施例1と同様にして粉体塗料No.7を得た。
【0091】
比較例1
実施例1において中間組成物(X1)中のグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)を2.19部、後添加するグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)の添加量を7.30部とする以外は実施例1と同様にして粉体塗料No.8を得た。
【0092】
比較例2
実施例1において中間組成物(X1)中のグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)を2.92部、後添加するグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)の添加量を0.73部とする以外は実施例1と同様にして粉体塗料No.9を得た。
【0093】
比較例3
実施例1において後添加するグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)の添加量を0部とする以外は実施例1と同様にして粉体塗料No.10を得た。
【0094】
比較例4
実施例1において中間組成物(X1)中のグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)を6.57部、後添加するグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)の添加量を8.03部とする以外は実施例1と同様にして粉体塗料No.11を得た。
【0095】
比較例5
実施例1において中間組成物(X1)中のグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)を7.30部、後添加するグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)の添加量を7.30部とする以外は実施例1と同様にして粉体塗料No.12を得た。
【0096】
なお、粉体塗料No.1~12の体積平均粒子径はすべて33μm、また、各粉体塗料No.1~12において、対応する中間組成物の体積平均粒子径はすべて35μmであった。
【0097】
実施例1~7及び比較例1~5で得られた各粉体塗料No.1~12につき、以下の性能試験及び評価を行った。
【0098】
なお、試験板は各粉体塗料No.1~12につき、冷延鋼板上に静電塗装機PG-1(旭サナック社製、商品名)を使用し、乾燥膜厚が70μmになるように静電粉体塗装し、180℃で30分間硬化させすることにより作成した。
【0099】
表1に各粉体塗料No.1~12の配合組成及び性能試験結果を併せて示す。
【0100】
なお、表中の配合当量はそれぞれ以下のとおりである。
【0101】
当量(全体);最終的に製造された粉体塗料中のカルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A1)のカルボキシ基1当量に対するグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)のエポキシ当量
当量(中間組成物(X)中);中間組成物(X)中のカルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A1)のカルボキシ基1当量に対するグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)のエポキシ当量
当量(後添加分);カルボキシ基含有ポリエステル樹脂(A1)のカルボキシ基1当量に対する後添加分のグリシジル基含有アクリル樹脂(B1)のエポキシ当量
【0102】
【0103】
塗料の貯蔵安定性:各粉体塗料を密閉容器中、30℃で1ヶ月貯蔵する。その後、該粉体塗料を使用して試験板を作成し、仕上り外観を以下の基準で評価した。
○:貯蔵前の粉体塗料で作成した試験板と比較してほとんど変化がない。
△:貯蔵前の粉体塗料で作成した試験板と比較して少し平滑性が劣っている。
×:貯蔵前の粉体塗料で作成した試験板と比較して著しく平滑性が劣化している。あるいは全くフローしない。
【0104】
碁盤目付着性:試験板にカッターナイフで2mmマス目50個を作りその表面にセロハン粘着テープを強く押しつけたのち短時間でテープを塗膜から剥離し、以下の基準で評価した。
○は剥離面積割合1~2%ではがれが認められる
△は剥離面積割合3~5%ではがれが認められる
×は剥離面積割合6%以上ではがれが認められる
耐おもり落下性(耐衝撃試験):JIS K 5600-5-3(1999)に準じて、おもり重量500g、撃心の尖端直径1/2インチ、高さ50cmの条件にて、-30℃において、試験板の塗面に衝撃を加えた。ついで衝撃を加えた部分にセロハン粘着テ-プを貼着させ瞬時にテ-プを剥がしたときの塗膜の剥がれ程度を以下の基準で評価した。
○:塗面に剥がれが認められない
△:塗面にわずかの剥がれが認められる
×:塗面にかなりの剥がれが認められる
ペレットフロー性:粉体塗料約0.8gを直径13mm、高さ約4mmの円筒状になるように20Kg/mm2で加圧成型したものを,傾斜角度45度に保ったアルミニウム板の上に両面テープで貼り付け、 170℃で10分間加熱してフロ-させた時の垂れ長さを測定した。
○:垂れ長さ30mm以上
△:垂れ長さ20mm以上、かつ30mm未満
×:垂れ長さ20mm未満