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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134900
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】電力システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/493 20070101AFI20230921BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20230921BHJP
   H02J 3/01 20060101ALI20230921BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20230921BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
H02M7/493
H02M7/48 E
H02M7/48 M
H02J3/01
H02J3/32
H02J3/38 150
H02J3/38 160
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039824
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関口 慧
(72)【発明者】
【氏名】水谷 麻美
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 宏次
(72)【発明者】
【氏名】三ッ本 憲史
(72)【発明者】
【氏名】小林 武則
【テーマコード(参考)】
5G066
5H770
【Fターム(参考)】
5G066EA03
5G066HA13
5G066HB06
5G066HB09
5G066JA01
5G066JB03
5H770AA05
5H770BA11
5H770CA02
5H770CA03
5H770CA04
5H770CA05
5H770CA06
5H770CA10
5H770DA21
5H770DA30
5H770EA01
5H770HA02Y
5H770HA03Y
5H770JA17Y
5H770KA01Y
(57)【要約】
【課題】電力変換装置における高調波共振を抑制する。
【解決手段】実施形態の電力システムは、交流電力と直流電力を変換する複数の電力変換装置を備え、高調波基準超過状態の場合に、複数の電力変換装置に、高調波基準超過状態から高調波通常状態に移行させるための所定の運転状態変更指令を出力し、そのときに、高調波通常状態になるまで、運転状態変更指令を出力する対象の電力変換装置の数を徐々に増加させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電力と直流電力を変換する複数の電力変換装置を備える電力システムであって、
前記電力変換装置は、
交流電源との導通の有無を切り替える開閉器と、
直流電力で動作する装置である直流装置との接続を切り替えるスイッチング素子を含む電力変換器と、
前記スイッチング素子に動作指令を与える変換器制御部と、を備え、
前記電力システムは、
前記電力変換装置に接続され、交流電圧および/または交流電流の所定の周波数範囲の高調波成分が所定基準を超過した状態である高調波基準超過状態、および、前記高調波成分が前記所定基準以下である高調波通常状態のいずれであるかを検知する高調波検知部と、
前記高調波基準超過状態の場合に、複数の前記電力変換装置に、前記高調波基準超過状態から前記高調波通常状態に移行させるための所定の運転状態変更指令を出力し、そのときに、前記高調波通常状態になるまで、前記運転状態変更指令を出力する対象の前記電力変換装置の数を徐々に増加させる指令機能部と、を備える電力システム。
【請求項2】
前記高調波検知部、および、前記指令機能部は、複数の前記電力変換装置を制御する制御システムに設けられている、請求項1に記載の電力システム。
【請求項3】
前記高調波検知部は、前記変換器制御部ごとに設けられ、
前記指令機能部は、複数の前記電力変換装置を制御する制御システムに設けられ、複数の前記高調波検知部から受信した前記高調波基準超過状態、前記高調波通常状態の情報に基づいて、総合的に前記高調波基準超過状態、および、前記高調波通常状態のいずれであるかを判定する、請求項1に記載の電力システム。
【請求項4】
前記指令機能部は、前記高調波基準超過状態の場合に、前記開閉器が導通していて、かつ、前記スイッチング素子のスイッチングによる前記直流装置との接続の切り替え動作が停止している前記電力変換装置に対して、前記運転状態変更指令として、前記スイッチング素子をスイッチングさせるスイッチング運転指令を出力する、請求項1に記載の電力システム。
【請求項5】
前記スイッチング運転指令を受信した前記電力変換装置は実質的に零電力で運転される、請求項4に記載の電力システム。
【請求項6】
前記指令機能部は、前記高調波基準超過状態の場合に、前記開閉器が導通していて、かつ、前記スイッチング素子のスイッチングによる前記直流装置との接続の切り替え動作が停止している前記電力変換装置のうち、接続された前記直流装置の状態に応じた優先度に基づいて選択した前記電力変換装置に対して、前記スイッチング運転指令を出力する、請求項4に記載の電力システム。
【請求項7】
前記直流装置は、蓄電池であり、
前記指令機能部は、接続された前記蓄電池の現在の充電状態と、充電状態に関する劣化特性と、に基づいて充放電ニーズを算出し、前記充放電ニーズが高いほど前記優先度が高いとして前記電力変換装置を選択し、選択した前記電力変換装置に対して、前記スイッチング運転指令を出力する、請求項6に記載の電力システム。
【請求項8】
前記直流装置は、発電機であり、
前記指令機能部は、前記発電機の現在の運転状態から発電効率を算出し、前記発電効率が高いほど前記優先度が高いとして前記電力変換装置を選択し、選択した前記電力変換装置に対して、前記スイッチング運転指令を出力する、請求項6に記載の電力システム。
【請求項9】
前記直流装置は、電力の負荷であり、
前記指令機能部は、前記負荷の現在の運転状態から電力供給ニーズを算出し、前記電力供給ニーズが高いほど前記優先度が高いとして前記電力変換装置を選択し、選択した前記電力変換装置に対して、前記スイッチング運転指令を出力する、請求項6に記載の電力システム。
【請求項10】
前記変換器制御部は、
前記交流電源の電流をフィードバック制御する電流制御モードと、
前記交流電源の電流を直接フィードバック制御せずに前記交流電源の電圧に同期して前記交流電源側に出力する電圧位相を調整する電圧制御モードと、を切り替え可能であり、
前記指令機能部は、前記高調波基準超過状態の場合に、前記電流制御モードで運転中の前記電力変換装置に対して、前記運転状態変更指令として、前記電流制御モードから前記電圧制御モードへの変更指令を出力する、請求項1に記載の電力システム。
【請求項11】
前記指令機能部は、
前記高調波基準超過状態によって前記運転状態変更指令を出力する対象の前記電力変換装置の数が所定閾値以上であり、かつ、所定期間内に前記高調波基準超過状態から前記高調波通常状態に移行しない場合に、前記開閉器を開放する、請求項1に記載の電力システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力システムは、例えば、交流電力と直流電力を変換する複数の電力変換装置を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6157880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
系統連系する電力変換装置では、系統側の配線や電力負荷等による系統インピーダンスと電力変換装置制御の相互作用で高調波共振が発生し、運転が不安定化して、場合によっては保護停止に至る問題がある。例えば、多数の電力変換装置が連係するマイクログリッドや洋上風力発電システムなどの系統では、それらの相互作用によって深刻な共振トラブルに至るリスクが高い。
【0005】
さらに、電力変換装置は、高調波フィルタを備えているが、運転状態が変化すると高調波フィルタの系統作用が変化し、高調波共振を発生する恐れがある。
【0006】
そこで、本実施形態の課題は、電力変換装置における高調波共振を抑制することができる電力システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の電力システムは、交流電力と直流電力を変換する複数の電力変換装置を備える。前記電力変換装置は、交流電源との導通の有無を切り替える開閉器と、直流電力で動作する装置である直流装置との接続を切り替えるスイッチング素子を含む電力変換器と、前記スイッチング素子に動作指令を与える変換器制御部と、を備える。前記電力システムは、前記電力変換装置に接続され、交流電圧および/または交流電流の所定の周波数範囲の高調波成分が所定基準を超過した状態である高調波基準超過状態、および、前記高調波成分が前記所定基準以下である高調波通常状態のいずれであるかを検知する高調波検知部と、前記高調波基準超過状態の場合に、複数の前記電力変換装置に、前記高調波基準超過状態から前記高調波通常状態に移行させるための所定の運転状態変更指令を出力し、そのときに、前記高調波通常状態になるまで、前記運転状態変更指令を出力する対象の前記電力変換装置の数を徐々に増加させる指令機能部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態の電力システムの全体構成図である。
図2図2は、第1実施形態の電力システムによる処理を示すフローチャートである。
図3図3は、第1実施形態におけるスイッチング動作の説明図である。
図4図4は、第1実施形態における電圧制御モードと電流制御モードに関するグラフである。
図5図5は、第1実施形態の高調波検知部の機能構成を示す図である。
図6図6は、第1実施形態の変換器制御部の機能構成を示す図である。
図7図7は、第1実施形態の交流情報算出部の機能構成を示す図である。
図8図8は、第1実施形態における電圧制御モード時の変換器制御部の機能構成を示す図である。
図9図9は、第1実施形態における電圧制御部の機能構成を示す図である。
図10図10は、第2実施形態の電力システムの全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を用いて、本発明の電力システムの実施形態(第1実施形態、第2実施形態)について説明する。なお、以下では、電力負荷のことを単に負荷と称する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の電力システムSの全体構成図である。電力システムSは、交流電源1と、系統構成2と、複数の電力変換装置3と、電力変換装置3ごとに設けられる直流装置4と、制御システム5と、を備える。
【0011】
交流電源1は、交流電力を発生させる。
【0012】
系統構成2は、系統側の配線や負荷等であり、系統インピーダンスを発生させる。
【0013】
電力変換装置3は、交流系統と直流装置4の連系点に設けられ、交流系統が供給する交流電力と、直流装置4が供給する直流電力とを相互に変換する。電力変換装置3は、計器用変圧器VTと、開閉器CBと、連系インダクタIと、高調波フィルタFと、計器用変流器CTと、変換器制御部31と、電力変換器32と、を備える。
【0014】
開閉器CBは、交流電源1との導通の有無を切り替える。
【0015】
変換器制御部31は、電力変換器32のスイッチング素子に動作指令を与えるなどの各種制御を実行する。変換器制御部31は、系統インピーダンスを発生する系統構成2と連系インダクタIの間の系統連系点Pに接続された計器用変圧器VTによって得た交流電圧Vsや、連系インダクタIと電力変換器32の間に設けられた計器用変流器CTによって得た交流電流Isや、制御システム5の指令機能部52からの指令信号を用いて、電力変換器32のスイッチング動作を制御するためのゲート指令gateなどを生成する。
【0016】
変換器制御部31は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサが記憶部(不図示)に記憶されるプログラム(ソフトウェア)を実行することにより、各機能を実現する。また、各機能の一部または全部は、LSI(LargeScaleIntegration)、ASIC(applicationspecificintegratedcircuit)、FPGA(FieldProgrammableGateArray)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。
【0017】
電力変換器32は、直流装置4との接続を切り替えるスイッチング素子を含む。電力変換器32は、変換器制御部31による制御に基づいて、交流電力と直流電力とを相互に変換する。電力変換器32は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラートランジスター)やMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor:金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)などの自己消弧型スイッチング素子を用いて構成した回路である。
【0018】
直流装置4は、直流電力で動作する装置であり、例えば、蓄電池、発電機、負荷などである。
【0019】
制御システム5は、電力変換装置3の制御を実行するシステムであり、高調波検知部51と、指令機能部52と、を備える。
【0020】
高調波検知部51は、系統状態として、電圧、電流、電圧や電流に基づく値などの情報を入力する。これらの情報は、それぞれの電力変換装置3からの通信で得てもよいし、あるいは、別途の検出器から得てもよい。
【0021】
高調波検知部51は、入力情報に基づいて、複数の電力変換装置3について、交流電圧および/または交流電流の所定の周波数範囲の高調波成分が所定基準を超過した状態である高調波基準超過状態、および、高調波成分が所定基準以下である高調波通常状態のいずれであるかを検知する。なお、高調波基準超過状態になったことを判定するための閾値と、高調波通常状態になったことを判定するための閾値は、同じであってもよいし、異なっていてもよい(詳細は後述)。
【0022】
指令機能部52は、高調波基準超過状態の場合に、複数の電力変換装置3に、高調波基準超過状態から高調波通常状態に移行させるための所定の運転状態変更指令を出力し、そのときに、高調波通常状態になるまで、運転状態変更指令を出力する対象の電力変換装置3の数を徐々に増加させる。つまり、運転状態変更指令を出力する対象の電力変換装置3の数は、一度に増加させるのではなく、高調波基準超過状態から高調波通常状態に移行したか否かを逐次判定しながら、移行していない場合に段階的に増加させる。
【0023】
例えば、指令機能部52は、高調波基準超過状態の場合に、開閉器CBが導通していて、かつ、スイッチング素子のスイッチングによる直流装置4との接続の切り替え動作が停止している電力変換装置3に対して、運転状態変更指令として、スイッチング素子をスイッチングさせるスイッチング運転指令を出力する。スイッチング運転指令を受信した電力変換装置3は、例えば、実質的に零電力で運転される。
【0024】
指令機能部52は、高調波基準超過状態の場合に、開閉器CBが導通していて、かつ、スイッチング素子のスイッチングによる直流装置4との接続の切り替え動作が停止している電力変換装置3のうち、接続された直流装置4の状態に応じた優先度に基づいて選択した電力変換装置に対して、スイッチング運転指令を出力する。
【0025】
直流装置4が蓄電池の場合、指令機能部52は、接続された蓄電池の現在の充電状態と、充電状態に関する劣化特性と、に基づいて充放電ニーズを算出し、充放電ニーズが高いほど優先度が高いとして電力変換装置3を選択し、選択した電力変換装置3に対して、スイッチング運転指令を出力し、充放電動作を実行させる。例えば、蓄電池において、充電率80%にて劣化が少ないとすると、充電率が80%より小さいほど充電ニーズ(優先度)が高く、充電率が80%より大きいほど放電ニーズ(優先度)が高い。
【0026】
直流装置4が発電機の場合、指令機能部52は、発電機の現在の運転状態から発電効率を算出し、発電効率が高いほど優先度が高いとして電力変換装置3を選択し、選択した電力変換装置3に対して、スイッチング運転指令を出力する。例えば、PV(Photovoltaic:太陽光発電)や風力発電機の場合、最大効率運転点に近いほど優先度が高い。
【0027】
直流装置が負荷の場合、指令機能部52は、負荷の現在の運転状態から電力供給ニーズを算出し、電力供給ニーズが高いほど優先度が高いとして電力変換装置3を選択し、選択した電力変換装置3に対して、スイッチング運転指令を出力する。例えば、負荷が温度調整装置の場合、現在温度と設定温度との乖離が大きいほど電力供給ニーズ(優先度)が高い。
【0028】
以上、運転状態変更指令がスイッチング運転指令の場合について説明した。次に、運転状態変更指令が電流制御モードから電圧制御モードへの変更指令の場合について説明する。
【0029】
変換器制御部31は、交流電源1の電流をフィードバック制御する電流制御モードと、交流電源1の電流を直接フィードバック制御せずに交流電源1の電圧に同期して交流電源側に出力する電圧位相を調整する電圧制御モードと、を切り替え可能であるものとする。その場合、指令機能部52は、高調波基準超過状態の場合に、電流制御モードで運転中の電力変換装置3に対して、運転状態変更指令として、電流制御モードから電圧制御モードへの変更指令を出力する。
【0030】
また、指令機能部52は、非常用の手段として、高調波基準超過状態によって運転状態変更指令を出力する対象の電力変換装置3の数が所定閾値以上であり、かつ、所定期間内に高調波基準超過状態から高調波通常状態に移行しない場合に、開閉器CBを開放するようにしてもよい。つまり、ある程度の数の電力変換装置3の運転状態を変化させても高調波共振が継続する場合は、不安定状態の継続を防止するため、複数の開閉器CBの一部または全部を開放する。これによって、例えば高調波フィルタFが系統側に作用しなくなり、系統の高調波安定性を回復できる。
【0031】
図2は、第1実施形態の電力システムSによる処理を示すフローチャートである。ステップS1において、制御システム5の高調波検知部51は、高調波基準超過状態であるか否かを判定し、Yesの場合はステップS2に進み、Noの場合はステップS1に戻る。
【0032】
ステップS2において、指令機能部52は、1つの電力変換装置3に対して、運転状態変更指令を出力する。その場合、例えば、対象の電力変換装置3は、上述の各種の優先度に応じて選択する。
【0033】
次に、ステップS3において、指令機能部52は、所定時間が経過したか否かを判定し、Yesの場合はステップS4に進み、Noの場合はステップS3に戻る。
【0034】
ステップS4において、高調波検知部51は、高調波通常状態になったか否かを判定し、Yesの場合は処理を終了し、Noの場合はステップS2に戻る。
【0035】
処理を終了した後は、再びスタート、ステップS1に戻り、高調波基準超過状態であるか否かを継続的に監視する。
【0036】
図3は、第1実施形態におけるスイッチング動作の説明図で、電力変換装置3や系統インピーダンスなどの等価回路図である。図3に示すように、交流系統は、例えば、交流電源1から系統連系点Pまでの等価インダクタンスLgridから構成される。また、系統連系点Pから交流電源1側をみた場合のインピーダンスを系統インピーダンスZgridと称する。
【0037】
また、系統連系点Pから電力変換器32側をみた場合のインピーダンスを変換器インピーダンスZvscと称する。Zvscは、連系インダクタI(Lvsc)や、高調波フィルタF、変換器制御の特性などに基づくインピーダンスである。
【0038】
例えば、開閉器CBが導通していて、かつ、電力変換器32がスイッチング(Zsw)停止状態の場合、電力変換器32の電流Is=0となり、Lgridと高調波フィルタFによって共振が発生する。
【0039】
一方、開閉器CBが導通していて、かつ、電力変換器32がスイッチング(Zsw)運転状態の場合、電力変換器32の電流Is≠0となり、電力変換器32側の抵抗作用(-90度<Zvscの位相<+90度)で、Lgridと高調波フィルタFによる共振が緩和する。
【0040】
なお、電力変換装置3が実質的に零電力運転の場合でも、電力変換器32側の抵抗作用が得られる。
【0041】
次に、図4は、第1実施形態における電圧制御モードと電流制御モードに関するグラフである。電流制御モードにおける変換器インピーダンスZvscは、位相が±90度以内(-90度~90度)から外れ、その負性抵抗によって高調波共振が増幅する。
【0042】
一方、電圧制御モードにおける変換器インピーダンスZvsc’は、位相が±90度以内(-90度~90度)から外れず、負性抵抗を小さくできるので、高調波共振が増幅しにくい。
【0043】
つまり、電流制御モードでは、主に高ゲインや制御遅延の影響で負性抵抗を示す周波数域が生じ得る。一方、電圧制御モードは電流を直接制御しないため、負性抵抗を小さくできる。
【0044】
したがって、運転状態変更指令として、電流制御モードから電圧制御モードへの変更指令を用いることで、高調波共振を抑制できる。
【0045】
次に、図5は、第1実施形態の高調波検知部51の機能構成を示す図である。変換部511は、系統状態として、三相(R相、S相、T相)の電圧または電流の情報を入力する。また、変換部511は、交流系統の基準位相theta=2πf×t(fは系統周波数、tは時間)を入力する。変換部511は、系統周波数成分を直流量に変換し、有効軸成分Dと無効軸成分Qを出力する。
【0046】
ディジタルフィルタ512は、例えば高域通過フィルタであり、直流量を除去することで、高調波成分のみを出力する。ディジタルフィルタ512の特性を工夫することで任意の周波数範囲の信号を検出できる。
【0047】
ディジタルフィルタ512の出力の平方和を取る(符号513)ことで、所定の周波数範囲の高調波の合計が得られる。これを基準(符号514)の同じく平方値(符号515)と比較器516で比較することで高調波基準超過状態、高調波通常状態を判定する。
【0048】
なお、高調波基準は図示のように1つでもよいし、比較器516にヒステリシス特性を持たせて高調波通常状態から高調波基準超過状態の判定に用いる第1の閾値と、高調波基準超過状態から高調波通常状態の判定に用いる第2の閾値が異なっていてもよい。
【0049】
また、図5に示す例に限らず、フーリエ変換などを用いて所定周波数の振幅を計算して比較するなど、他の高調波検知の方法を採用してもよい。
【0050】
図6は、第1実施形態の変換器制御部31の機能構成を示す図である。この図6を用いて、電流制御モードの一例について説明する。まず、交流情報算出部311は、交流系統電圧位相(系統連系点電圧)を取得する。これにより、交流系統に高速同期した演算制御を実行できる。
【0051】
電流制御部312は、例えば一般的な非干渉電流制御を実行する。例えば、交流系統電圧位相に同期した制御演算で交流電流をフィードバック制御する。
【0052】
電流制御部312は、交流電流を有効電力・無効電力指令値に基づく交流電流指令値と比較し、その偏差に交流電流制御ゲインを乗じた値に基づき電圧指令値を出力する。
【0053】
このように、交流電流の制御によって有効電力と無効電力を調整する。なお、交流電流制御ゲインの設計や電流制御演算の遅延時間による制御誤差によっては変換器インピーダンスに負性抵抗が生じ、高周波共振につながる。
【0054】
ゲート信号生成部313は、電圧指令値に基づいて、例えば三角波キャリア比較方式などによってスイッチング素子を制御するゲート信号を生成する。
【0055】
次に、図7は、第1実施形態の交流情報算出部311(図6)の機能構成を示す図である。まず、変換部81は、電圧検出器によって検出された系統連系点電圧(R相電圧Vsr、S相電圧Vss、及びT相電圧Vst)を示す情報を取得する。変換部81は、取得したR相電圧Vsr、S相電圧Vss、及びT相電圧Vstを、式(1)を用いて、交流系統有効電圧Vsd、及び交流系統無効電圧Vsqに変換(算出)する。なお、交流系統電圧位相thetaは、後述する発振器85によって出力される値であり、交流系統のある基準相(この一例では、R相)の電圧位相を示す値である。
【0056】
【数1】
【0057】
PI演算部82は、変換部81によって変換された交流系統無効電圧Vsqに基づいて、電力変換器32が連系する交流系統電圧の周波数と、基準交流系統周波数fs0(符号83)との周波数差(以下、周波数差Δfpll)を算出する。周波数差Δfpllは、交流系統電圧の周波数が基準交流系統周波数fs0より高い場合、プラスの値をとり、基準交流系統周波数fs0より低い場合、マイナスの値をとる。基準交流系統周波数fs0は、連系する交流系統の定格周波数であり、例えば、50[Hz]、又は60[Hz]の定数である。周波数差Δfpllは、PI演算部82に入力される交流系統無効電圧Vsqの算出値が零になるまで、増加、又は減少を続け、実際の交流系統周波数と基準交流系統周波数fs0との差の値に収束する。
【0058】
加算部84は、PI演算部82によって算出された周波数差Δfpllを、基準交流系統周波数fs0に加算する。以降の説明において、基準交流系統周波数fs0に周波数差Δfpllを加算した周波数を、交流周波数fpllと記載する。
【0059】
発振器85は、加算部84によって算出された交流周波数fpllの周波数に基づいて、最小値0から最大値2πまでの間を繰り返し単調増加する交流系統電圧位相thetaを出力する。なお、上述したように、交流系統電圧位相thetaは、変換部81の交流系統有効電圧Vsd、及び交流系統無効電圧Vsqの変換と、交流電流制御とに用いられる。交流電流制御では、一般的な回転座標上の変数に基づく非干渉電流制御を適用する場合には、電圧・電流値に対する回転座標変換、あるいは逆変換(固定座標変換)等に交流系統電圧位相thetaが利用される。上述の処理によって、交流情報算出部311は、変換部81における交流系統無効電圧Vsqの算出値が零になるように、交流系統電圧位相thetaの算出を繰り返すことで、交流系統電圧位相thetaを得る。
【0060】
次に、図8は、第1実施形態における電圧制御モード(仮想発電機制御)時の変換器制御部31(図1)の機能構成を示す図である。
【0061】
電力算出部314は、電力変換器32に流入出する有効電力と無効電力を演算する。
【0062】
電圧制御部315は、例えば同期発電機の特性を模擬した疑似慣性制御を行う。有効電力指令値と有効電力との差に疑似慣性特性を乗じた周波数偏差から電圧指令値の発振周波数が演算される。
【0063】
電圧指令値の振幅は無効電力指令値、無効電力、電圧振幅指令値から演算される。電流制御のフィードバック制御は行わない。
【0064】
交流電流の制御でなく電圧指令値の位相・振幅制御によって有効電力と無効電力を調整する。交流系統への同期は有効電力指令値と有効電力との差に基づきゆるやかになり、同期発電機のような動特性になる。
【0065】
ゲート電圧生成部316は、電圧制御部315からの電圧指令値に基づいてゲート信号を生成し、出力する。
【0066】
このように、電圧制御モードでは、交流電流のフィードバック制御がなく、ゆるやかに交流系統に同期するため電流制御演算の遅延時間等に起因した負性抵抗特性を発生しにくい。これにより、高調波共振を抑制できる。
【0067】
次に、図9は、第1実施形態における電圧制御部315(図8)の機能構成を示す図である。計算器901は、有効電力指令値pを減算し、有効電力pを加算する。
【0068】
計算器901からの出力に基づいて関数を用いて擬似慣性Δfを出力する(符号902)。加算器904は、Δfと基準交流系統周波数(定数)f0(符号903)を加算し、発振周波数fを出力する。
【0069】
発振器905は、発振周波数fに基づいて電圧指令値位相thetaを出力する。
【0070】
計算器906は、無効電力指令値qを加算し、無効電力qを減算する。
【0071】
計算器906からの出力に基づいて関数を用いて垂下特性の値を出力する(符号907)。加算器909は、垂下特性の値と交流系統電圧指令値Vsを加算する。PI制御911は、計算器910からの出力を用いてPI(Proportional Integral)制御を行う。加算器912は電圧指令値振幅Vを出力する。
【0072】
正弦波演算913は、電圧指令値位相thetaおよび電圧指令値振幅Vに基づく正弦波演算を行い、電圧指令値を出力する。
【0073】
なお、上述の計算において、有効電力の正極性を系統から電力変換器32に流入する向きとする。その場合、例えば、有効電力指令値>有効電力になると疑似慣性出力Δf<0となり、発振周波数fが小さくなる。
【0074】
また、電圧指令値Vr、Vs、Vtの位相は系統に対して遅れるため、有効電力が電力変換器32に流入する。
【0075】
また、無効電力の正極性を電力変換器32が容量性運転する向きとする。その場合、例えば、交流系統電圧指令値>交流系統電圧になるとPI制御によって電圧指令値振幅Vが増加し、交流系統電圧を上昇させる効果のある容量性無効電力が出力される。
【0076】
このようにして、第1実施形態の電力システムSによれば、高調波基準超過状態の場合に、複数の電力変換装置3に運転状態変更指令を出力するときに、対象の電力変換装置3の数を徐々に増加させることで、電力変換装置3における高調波共振を抑制しつつ、かつ、不要な運転変更を行う電力変換装置3の発生を回避できる。
【0077】
また、高調波検知部51が制御システム5に設けられていることで、電力変換装置3を改造する必要がない。
【0078】
また、運転状態変更指令として、具体的に、電力変換器32のスイッチング素子をスイッチングさせるスイッチング運転指令を用いることができる。ここで、必要以上の数の電力変換装置3が運転変更されると、スイッチングによる電力損失増加を招くが、これを回避できる。また、直流装置4が蓄電池、発電機、負荷の場合に、それぞれについての優先度に基づいて運転変更に適した電力変換装置3を選択して運転変更させることで、電力システム運用上必要な動作と高調波共振の抑制を両立でき、効率がよい。
【0079】
また、運転状態変更指令として、電流制御モードから電圧制御モードへの変更指令を用いるようにすれば、より効果的に高調波共振を抑制できる。ここで、必要以上の数の電力変換装置3が運転変更されると、ゆるやかに交流系統に同期する電圧制御モードの特性による電力システムの応答性低下を招くが、これを回避できる。
【0080】
また、高調波基準超過状態が継続してしまう非常時には、電力変換装置3の開閉器CBの一部または全部を開放することで、高調波共振のさらなる拡大を防止することができる。
【0081】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第1実施形態と同様の事項については、同様の説明を適宜省略する。
【0082】
図10は、第2実施形態の電力システムSの全体構成図である。第1実施形態(図1)と比較して、制御システム5に高調波検知部51が設けられておらず、変換器制御部31ごとに高調波検知部319が設けられている点で相違する。複数の高調波検知部319は、それぞれ、高調波検知部51と同様の機能を有する。
【0083】
その場合、制御システム5の指令機能部52は、複数の高調波検知部319から受信した高調波基準超過状態、高調波通常状態の情報に基づいて、総合的に高調波基準超過状態、および、高調波通常状態のいずれであるかを判定する。
【0084】
例えば、指令機能部52は、電力変換装置3が1台でも高調波基準超過状態と判定した場合は、運転状態変更指令を出力するなど高調波状態を集約して判定する。
【0085】
このようにして、第2実施形態によれば、変換器制御部31ごとに高調波検知部319を有する場合でも、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。この第2実施形態の手法は、例えば、変換器制御部31の機能を活用することで、計器用変圧器VTや計器用変流器CTとのインターフェースを含めて制御システム5の構成を簡略化するのに有効である。
【0086】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0087】
また、本実施形態の電力システムSで実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD(Compact Disc)-ROM(Read Only Memory)、フレキシブルディスク(FD)、CD-R(Recordable)、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータ装置で読み取り可能な記録媒体に記録して提供することができる。また、当該プログラムを、インターネット等のネットワーク経由で提供または配布するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0088】
1…交流電源、2…系統構成、3…電力変換装置、4…直流装置、5…制御システム、31…変換器制御部、32…電力変換器、51…高調波検知部、52…指令機能部、S…電力システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10