(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134925
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】地盤改良材およびそれを用いた地盤改良方法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/10 20060101AFI20230921BHJP
C09K 17/06 20060101ALI20230921BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20230921BHJP
C04B 14/34 20060101ALI20230921BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20230921BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20230921BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20230921BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
C09K17/10 P
C09K17/06 P
C09K17/02 P
C04B14/34
C04B22/14 B
C04B18/14 A
C04B28/02
E02D3/12 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039864
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 翔
(72)【発明者】
【氏名】森 喜彦
(72)【発明者】
【氏名】野崎 隆人
(72)【発明者】
【氏名】早川 隆之
【テーマコード(参考)】
2D040
4G112
4H026
【Fターム(参考)】
2D040AA01
2D040AB03
2D040CA01
2D040CA03
2D040CA04
2D040CA10
4G112MB23
4G112PA13
4G112PA29
4G112PB11
4H026CA01
4H026CA04
4H026CB07
4H026CC02
4H026CC05
(57)【要約】
【課題】改良後の地盤からの六価クロムの溶出量を抑制することができ、かつ、強度発現性に優れた地盤改良材、及び、それを用いた地盤改良方法を提供する。
【解決手段】セメント系固化材及びモリブデンを含む地盤改良材。セメント系固化材100質量部に対するモリブデンの量は、好ましくは0.01~5.0質量部である。セメント系固化材は、好ましくは石膏を含み、かつ、セメント系固化材中の石膏の割合は、好ましくは無水物換算で2~20質量部である。セメント系固化材及びモリブデンを含む地盤改良材を地盤に供給して、撹拌混合し、改良地盤を得る地盤改良方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系固化材及びモリブデンを含むことを特徴とする地盤改良材。
【請求項2】
上記セメント系固化材100質量部に対して、上記モリブデンの量が0.01~5.0質量部である請求項1に記載の地盤改良材。
【請求項3】
上記セメント系固化材がセメント及び石膏を含み、かつ、上記セメント系固化材中の上記石膏の割合が、無水物換算で2~20質量%である請求項1又は2に記載の地盤改良材。
【請求項4】
上記モリブデンは、粉末状で、かつ、メジアン径(D50)が5.00μm以下のものである請求項1~3のいずれか1項に記載の地盤改良材。
【請求項5】
上記セメント系固化材が高炉スラグ微粉末を含み、上記セメント系固化材中の上記高炉スラグ微粉末の割合が5~40質量%である請求項1~4のいずれか1項に記載の地盤改良材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の地盤改良材を用いた地盤の改良方法であって、
上記地盤改良材を地盤に供給して、撹拌混合し、改良地盤を得ることを特徴とする地盤改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良材およびそれを用いた地盤改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤の改良方法として、地盤にセメント系固化材等を供給して、撹拌混合することで地盤の強度(例えば、一軸圧縮強さ)を高める方法が知られている。
一方、セメントの主原料であるセメントクリンカーは、石灰石、粘土、珪石、鉄原料等の各種原料を、ロータリーキルン等を用いて高温で焼成することで製造されている。このような方法で製造されたセメントクリンカーには、上記原料に不可避的に含まれるクロムが、有害な六価クロムの形態で存在する場合がある。
通常、セメントに含まれている六価クロムは、該セメントを含むセメント組成物(例えば、コンクリート)が硬化する過程において、セメント水和物として固定されるため、六価クロムが溶出することはない。しかし、セメントを地盤改良材として使用する場合には、地盤改良の対象となる土壌によっては、六価クロムが固定化されるのに十分なセメント水和物が生成されず、改良後の地盤から六価クロムが溶出するという問題がある。
【0003】
従来、この問題を解決するための方法などが提案されている。
例えば、特許文献1には、セメントを用いた六価クロムを含む固化物から六価クロムの溶出を防止する方法において、該セメントがC3SとC3Aとの総量が70重量%以上に調整されたセメントであり、加えてスラグをセメント100重量部に対し、25~80重量部配合した後、固化させることを特徴とする、該固化物から六価クロムの溶出を防止する方法が記載されている。
また、特許文献2には、水硬性材料、高炉スラグ及び石膏を含んでなる地盤改良材であって、高炉スラグの作用により6価クロムの溶出を低減することを特徴とする地盤改良材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-308863号公報
【特許文献2】特開2001-348571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、改良後の地盤からの六価クロムの溶出量を抑制することができ、かつ、強度発現性に優れた地盤改良材、及び、それを用いた地盤改良方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメント系固化材及びモリブデンを含む地盤改良材によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]を提供するものである。
[1] セメント系固化材及びモリブデンを含むことを特徴とする地盤改良材。
[2] 上記セメント系固化材100質量部に対して、上記モリブデンの量が0.01~5.0質量部である前記[1]に記載の地盤改良材。
[3] 上記セメント系固化材がセメント及び石膏を含み、かつ、上記セメント系固化材中の上記石膏の割合が、無水物換算で2~20質量%である前記[1]又は[2]に記載の地盤改良材。
[4] 上記モリブデンは、粉末状で、かつ、メジアン径(D50)が5.00μm以下のものである前記[1]~[3]のいずれかに記載の地盤改良材。
[5] 上記セメント系固化材が高炉スラグ微粉末を含み、上記セメント系固化材中の上記高炉スラグ微粉末の割合が5~40質量%である前記[1]~[4]のいずれかに記載の地盤改良材。
[6] 前記[1]~[5]のいずれかに記載の地盤改良材を用いた地盤の改良方法であって、上記地盤改良材を地盤に供給して、撹拌混合し、改良地盤を得ることを特徴とする地盤改良方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の地盤改良材及びそれを用いた地盤改良方法によれば、改良後の地盤からの六価クロムの溶出量を抑制することができ、改良後の地盤の強度(例えば、一軸圧縮強さ)を大きくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の地盤改良材は、セメント系固化材及びモリブデンを含むものである。
本発明で用いられるセメント系固化材とは、セメントを主な材料(通常、40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上)として含み、かつ、任意に配合可能な混和材を含む、粉末状のものをいう。
セメント系固化材に用いられるセメントの例としては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等の混合セメントや、エコセメントや、白色セメントや、超速硬セメント等が挙げられる。
中でも、入手の容易性等の観点から、各種ポルトランドセメントが好ましい。
地盤改良材中のセメントの割合は、強度発現性の向上の観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。
【0009】
セメント系固化材は、混和材を含むことができる。混和材の例としては、高炉スラグ微粉末、石膏、生石灰、消石灰、フライアッシュ、石灰石微粉末、及びシリカフューム等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、モリブデンにかかるコストを抑える目的でモリブデンの量を少なくしても、六価クロムの溶出量を十分に抑制することができる観点から、セメント系固化材は、セメント混和材として高炉スラグ微粉末を含むことが好ましい。
セメント系固化材が、高炉スラグ微粉末を含む場合、セメント系固化材中の高炉スラグ微粉末の割合は、好ましくは5~40質量%、より好ましくは6~30質量%、さらに好ましくは8~25質量%、特に好ましくは10~15質量%である。上記割合が5質量%以上であれば、六価クロムの溶出量を十分に抑制しつつ、モリブデンの量を少なくすることができる。上記割合が30質量%以下であれば、相対的にセメントの量が多くなるため、改良土壌の強度(例えば、一軸圧縮強さ)をより大きくすることができる。
なお、セメント系固化材に含まれるセメントが高炉セメントである場合、上記高炉スラグ微粉末の割合には、高炉セメントに含まれる高炉スラグ微粉末が含まれるものとする。
【0010】
また、強度発現性の向上の観点から、セメント系固化材は、セメントに含まれている石膏に加えて、追加で添加される石膏(以下、「追加の石膏」という。)を含むものが好ましい。
セメント系固化材中の追加の石膏の割合は、無水物換算で、好ましくは2~ 20 質量%、より好ましくは3~18質量%、さらに好ましくは4~16質量%、特に好ましくは8~12質量%である。
追加の石膏の例としては、無水石膏、半水石膏、二水石膏、又はこれらの混合物等が挙げられる。
セメント系固化材中の混和材の割合(二種以上の混和材を含む場合、その合計の割合)は、相対的にセメントの割合が多くなり、強度発現性が向上する観点から、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。
【0011】
セメント系固化材100質量部に対するモリブデンの量は、六価クロムの溶出量をより抑制する観点からは、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上、さらに好ましくは0.8質量部以上、特に好ましくは1.2質量部以上である。また、コストが過度に増大することを防ぐ観点からは、上記量は、好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは4.0質量部以下、さらに好ましくは3.0質量部以下、特に好ましくは2.5質量部以下である。
【0012】
モリブデンは、地盤改良材を地盤に供給し、撹拌混合する際に、モリブデンを改良地盤中に均一に混合することができ、六価クロムの溶出をより抑制することができる観点から、粉末状のものが好ましい。
粉末状のモリブデンのメジアン径(D50)は、好ましくは5.00μm以下、より好ましくは3.00μm以下、特に好ましくは2.20μm以下である。メジアン径(D50)が5.00μm以下であれば、六価クロムの溶出をより抑制することができる。上記メジアン径は、粉末状のモリブデンの入手の容易性等の観点から、好ましくは1.00μ以上、より好ましくは1.50μm以上である。
なお、本明細書中、「メジアン径(D50)」とは、粉末を、特定の粒度を境にして、該粒度よりも小さな粒度のもの(小さな粒度の集合体)と、該粒度より大きな粒度のもの(大きな粒度の集合体)に分けた場合に、これら小さな粒度の集合体と大きな粒度の集合体とが同量(各々、50質量%ずつ)になるときの特定の粒度をいう。
また、メジアン径(D50)は、レーザー回折散乱粒度分布測定装置または「JIS
Z 8815-1994(ふるい分け試験方法通則)」に準拠したふるい分け法を用いて、質量累積分布を作成することで得ることができる。
【0013】
本発明の地盤改良材によれば、地盤の強度(例えば、一軸圧縮強さ)を大きくすることができ、かつ、地盤からの六価クロムの溶出量を抑制することができる。
上記地盤改良材を用いた地盤の改良方法の一例としては、地盤改良材を改良の対象となる地盤に供給して、撹拌混合し、改良地盤を得る方法が挙げられる。
地盤に、地盤改良材を供給し、撹拌混合する方法の例としては、地盤に地盤改良材を粉体のまま供給して、撹拌混合するドライ添加方法や、地盤改良材に水を加えてスラリーとした後に、該スラリーを地盤に供給し、撹拌混合するスラリー添加方法等が挙げられる。
改良の対象となる地盤としては特に限定されないが、例えば、火山灰質粘性土、砂質土、粘性土、有機質土(例えば、有機物の含有率が5質量%以上の腐植土)等が挙げられる。
【0014】
改良の対象となる地盤1m3当たりの地盤改良材の供給量は、対象となる地盤の性状、地盤に含まれている六価クロムの量、施工条件、並びに、処理後に得られる改良地盤に求められる強度等によっても異なるが、改良処理の対象となる地盤1m3当たり、好ましくは50~450kg、より好ましくは100~400kg、特に好ましくは150~380kgである。
該量が50kg以上であれば、改良地盤の強度をより大きくし、六価クロムの溶出をより抑制することができる。該量が450kg以下であれば、コストの過度な増加を防ぐことができる。
【実施例0015】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)セメント;太平洋セメント社製、普通ポルトランドセメント
(2)石膏;無水石膏
(3)高炉スラグ微粉末(表2中、「高炉スラグ」と示す。);デイ・シイ社製、商品名「セラメント」
(4)モリブデン粉末A;アライドマテリアル社製、試薬、純度:99質量%、メジアン径:1.99μm
(5)モリブデン粉末B;関東化学社製、試薬、純度:98質量%、メジアン径:2.50μm
(6)土壌A;火山灰質粘性土(ローム)
(7)土壌B;砂質土
【0016】
[実施例1~3、比較例1~4]
セメント系固化材中、セメント、高炉スラグ微粉末、無水石膏の各割合が表1に示す割合となるセメント系固化材と、表1に示す量となるモリブデン粉末Aを混合して地盤改良材を得た。
上記地盤改良材と、土壌A(火山灰質粘性土)を、土壌1m3当たりの地盤改良材の添加量が200kgとなる量で混合し、地盤改良土を得た。なお、添加量を200kgと一般的な添加量(通常、350kg/m3)と比較して低くしたのは、六価クロムの溶出量の傾向を確認しやすくするためである。
得られた地盤改良土の材齢7日、28日の一軸圧縮強さを、「JIS A 1216:2020(土の一軸圧縮試験方法)」に準拠して測定した。
また、一軸圧縮強さ測定後の地盤改良土について、環境庁告示46号に準拠して六価クロムの溶出試験を行ない、「JIS K 0102:2016(工場排水試験方法)」に準拠して、材齢7日、材齢28日の地盤改良土からの六価クロムの溶出量を測定した。結果を表1に示す。
【0017】
【0018】
[実施例4、比較例5]
セメント系固化材に含まれる各材料の割合が表2に示す割合となり、表2に示す量となるモリブデン粉末Aを混合し、かつ、土壌Aの代わりに土壌Bを用いた以外は実施例1と同様にして地盤改良土を得た。
得られた地盤改良土の一軸圧縮強さ等を実施例1と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0019】
【0020】
[実施例5]
セメント系固化材に含まれる各材料の割合が表3に示す割合となり、表3に示す種類及び量となるモリブデン粉末を混合し、かつ、土壌Aの代わりに土壌Bを用いた以外は実施例1と同様にして地盤改良土を得た。
得られた地盤改良土の一軸圧縮強さ等を実施例1と同様にして測定した。
[実施例6]
モリブデン粉末Aの代わりにモリブデン粉末Bを使用した以外は実施例5と同様にして地盤改良土を得た。
得られた地盤改良土の一軸圧縮強さ等を実施例1と同様にして測定した。
結果を表3に示す。
【0021】
【0022】
表1から、実施例1~3と比較例1~4を比較すると、モリブデンを含む地盤改良材を用いた場合(実施例1~3)の六価クロムの溶出量(7日:0.04~0.05mg/リットル、28日:0.01~0.03mg/リットル)は、モリブデンを含まない地盤改良材を用いた場合(比較例1~4)の六価クロムの溶出量(7日:0.05~0.23mg/リットル、28日:0.04~0.16mg/リットル)よりも小さいことがわかる。このことから、モリブデンを含む地盤改良材を用いた場合、六価クロムの溶出量をより小さくすることができることがわかる。
同様の傾向は、表2の実施例4と比較例5の比較(砂質土を対象としたもの)でも見られた。
また、表3から、実施例5(モリブデン粉末のメジアン径が1.99μmmであるもの)と、実施例6(モリブデン粉末のメジアン径が2.50μmmであるもの)の比較から、実施例5の材齢7日における六価クロムの溶出量(0.03mg/リットル)は、実施例6の材齢7日における六価クロムの溶出量(0.04mg/リットル)よりも小さいことがわかる。