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特開2023-134936切削工具用超硬合金および該合金を用いた切削工具基体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134936
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】切削工具用超硬合金および該合金を用いた切削工具基体
(51)【国際特許分類】
   C22C 29/08 20060101AFI20230921BHJP
   C22C 1/051 20230101ALI20230921BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
C22C29/08
C22C1/05 H
B23B27/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039877
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 誠
(72)【発明者】
【氏名】河原 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】市川 龍
(72)【発明者】
【氏名】岡田 一樹
【テーマコード(参考)】
3C046
4K018
【Fターム(参考)】
3C046FF32
3C046FF39
3C046FF53
4K018AB02
4K018AC01
4K018AD06
4K018BA04
4K018BB04
4K018BC01
4K018BC12
4K018CA02
4K018DA22
4K018DA32
4K018FA06
4K018KA15
(57)【要約】
【課題】切削工具として用いたときに耐塑性変形性が向上する超硬合金、および、該切削工具用超硬合金を用いた切削工具基体の提供
【解決手段】CoとNiの1種以上を合計で4.0質量%以上、10.0質量%未満、
M(MはTi、Ta、Nb、Zr、Hf、Vから選ばれる1種以上)をMCとして4.0質量%以上、12.0質量%未満、および、
CrをCrとして0.5質量%未満含有し、
残部がWCおよび不可避的不純物からなり、
主硬質相は前記WCを有し、
副硬質相は前記MCを有し、
前記副硬質相の平均粒径は、1.0μm以上、3.0μm以下であって、
L1/L2が0.3以上、0.5以下
(ただし、
L1は、前記主硬質相と前記副硬質相との接触界面の長さ
L2は、前記主硬質相同士の接触界面の長さ)
であることを特徴とする切削工具用超硬合金と、該合金を使った切削工具基体
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CoとNiの1種以上を合計で4.0質量%以上、10.0質量%未満、
M(MはTi、Ta、Nb、Zr、Hf、Vから選ばれる1種以上)をMCとして4.0質量%以上、12.0質量%未満、および、
CrをCrとして0.5質量%未満含有し、
残部がWCおよび不可避的不純物からなり、
主硬質相は前記WCを有し、
副硬質相は前記MCを有し、
前記副硬質相の平均粒径は、1.0μm以上、3.0μm以下であって、
L1/L2が0.3以上、0.5以下
(ただし、
L1は、前記主硬質相と前記副硬質相との接触界面の長さ
L2は、前記主硬質相同士の接触界面の長さ)
であることを特徴とする切削工具用超硬合金。
【請求項2】
請求項1に記載の切削工具用超硬合金を用いたことを特徴とする切削工具基体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具用超硬合金と該切削工具用超硬合金を用いた切削工具基体(基体ということもある)に関する。
【背景技術】
【0002】
超硬合金は硬く、靭性を備えるため、切削工具として用いられている。そして、切削工具に求められる厳しい切削条件に対応すべく、切削工具用超硬合金およびこの超硬合金を用いた切削工具基体を改良する提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、炭化タングステンを主成分とする硬質相と、鉄族元素を主成分とする結合相とを備え、前記炭化タングステンの粒子数をA、他の炭化タングステン粒子との接触点の点数が1点以下の炭化タングステン粒子の粒子数をBとするとき、B/A≦0.05を満たす超硬合金が記載され、該超硬合金は耐塑性変形性に優れるとされている。
【0004】
また、特許文献2には、Co量が10~13質量%、Co量に対するCr量の比が2~8%、TaCとNbCの少なくとも1種を合計で0.2~0.5質量%で含有し、残部がWCからなり、硬さが88.6~89.5HRAであって、研磨面上の面積比におけるWC積算粒度80%径D80と積算粒度20%径D20の比D80/D20が2.0≦D80/D20≦4.0の範囲にあり、上記D80が4.0~7.0μmの範囲にあり、かつWC接着度cが0.36≦c≦0.43にある超硬合金が記載され、該超硬合金は、切削工具基体に用いたとき耐溶着性が向上しているとされている。
【0005】
加えて、特許文献3には、Crまたは/およびCr化合物:0~4質量%(Cr換算で)、Vまたは/およびV化合物:0~4質量%(V換算で)、TaC:0~2質量%、TiC:0~2質量%、Nまたは/およびN化合物:0~1質量%(N換算で)、Co:0.1~10質量%、残部WCおよび不可避不純物からなり、Co平均厚み:0.06~30ナノメータ(前記Co平均厚み(nm)は0.58*A/(100-A)*R、A:Co(質量%)、2R:WC平均粒径(nm))である超硬合金を焼結の昇温途中900~1600℃の温度において3~200気圧の圧力となるよう気体を圧力媒体として負荷して密度を高めた超硬合金が記載され、該超硬合金は高靱性、高耐摩耗性であるとされている。
【0006】
さらに、特許文献4には、WC相と、WC以外の周期表第4、5、6族金属の1種以上の炭化物または炭窒化物からなるB1型固溶相と、鉄族金属の1種以上よりなる結合相との超硬合金を基体とし、この基体の表面からの深さが5~100μmまでの領域に前記B1型固溶相が存在しない表面領域が存在し、該表面領域の直下における前記B1型固溶相の平均粒径が前記基体の内部における前記B1型固溶相の平均粒径よりも大きくした切削工具基体が記載され、該切削工具基体は高温強度、耐熱衝撃性に優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-20541号公報
【特許文献2】特開2017-88999号公報
【特許文献3】特開平7-305136号公報
【特許文献4】特開2011-131318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記事情や提案を鑑みてなされたものであって、切削工具基体として用いたときに耐塑性変形性が向上する切削加工用超硬合金、および、該切削加工用超硬合金を用いた切削工具基体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態に係る切削工具用超硬合金は、
CoとNiの1種以上を合計で4.0質量%以上、10.0質量%未満、
M(MはTi、Ta、Nb、Zr、Hf、Vから選ばれる1種以上)をMCとして4.0質量%以上、12.0質量%未満、および、
CrをCrとして0.5質量%未満含有し、
残部がWCおよび不可避的不純物からなり、
主硬質相は前記WCを有し、
副硬質相は前記MCを有し、
前記副硬質相の平均粒径は、1.0μm以上、3.0μm以下であって、
L1/L2が0.30以上、0.50以下
(ただし、
L1は、前記主硬質相と前記副硬質相との接触界面の長さ
L2は、前記主硬質相同士の接触界面の長さ)
である。
【0010】
本発明の実施形態に係る切削工具基体は、前記切削工具用超硬合金を用いたものである。
【発明の効果】
【0011】
前記切削工具用超硬合金は耐塑性変形性に優れ、前記切削工具基体は耐塑性変形性が向上するため耐久性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は、前記目的を達成する超硬合金を得るために鋭意検討を行った。その結果、組成を所定のものとし、副硬質相の大きさを最適化し、かつ、主硬質相と副硬質相との接触界面の長さと主硬質相同士の接触界面の長さとの間に所定の関係が成り立つ切削工具用超硬合金であれば、前記目的を達成できるという知見を得た。
【0013】
以下、本発明の切削工具用超硬合金および該合金を用いた切削工具基体、特に、切削工具基体としてインサートとして用いられる実施形態を中心にして、説明する。
【0014】
なお、本明細書、特許請求の範囲において、数値範囲を「M~N」(M、Nは共に数値)を用いて表現する場合、「M以上、N以下」と同義であって、その範囲は上限(N)および下限(M)の数値を含むものとし、上限値(N)のみに単位が記載されているときは、下限値(M)の単位も上限値(N)と同じ単位である。
【0015】
1.切削工具用超硬合金の組成と組織
本実施形態に係る切削工具用超硬合金の組成と組織の詳細は、次のとおりである。
【0016】
(1)CoとNi
CoとNiは、一方または両方が含有されていることが好ましい。そして、CoとNiの1種以上の合計含有量は、4.0質量%以上、10.0質量%未満であることが好ましい。
その理由は、この含有量を満足すると切削工具基体として使用した際に、耐塑性変形性が優れるためである。
【0017】
ここで、CoとNiは、主に結合相(FCC構造を有する結晶粒を有する)に存在し、結合相の主成分、すなわち、結合相を構成する全ての成分に対して、CoとNiの合計が50原子%以上を占めている。
【0018】
結合相中には、硬質相の成分であるWやC、その他の不可避的不純物が含まれていてもよい。さらに、結合相は、Cr、MCとして含有量を規定したMであるTi、Ta、Nb、Zr、Hf、Vの1種以上を含んでいてもよい。これら元素が結合相中に存在するときは、結合相に固溶した状態であると推定される。
なお、結合相の鑑別方法は後述する。
【0019】
(2)MC
M(MはTi、Ta、Nb、Zr、Hf、Vから選ばれる1種以上)をMCとして4.0質量%以上、12.0質量%未満で含有することが好ましい。MをMCとして4.0質量%未満含有する場合、耐酸化性が十分ではなく、切削時に硬質相の酸化により大きな摩耗を生じ、寿命に至り、MをMCとして12.0質量%以上含有する場合、靭性が不足し、欠損を生じやすくなることから、MをMCとして4.0質量%以上、12.0質量%未満で含有することが好ましい。
【0020】
これらの炭化物が存在する場合の含有量は、M(金属原子)とCが、1:1にて結合した炭化物と仮定して規定しているが、合金中に存在するこれらの炭化物は化学量論的な原子比で結合した炭化物に限定されず、MとCが結合した複合炭化物を含む炭化物であり、また、この炭化物の結晶構造は立方晶構造である。
【0021】
Mの炭化物、すなわち、MCは、副硬質相(FCC構造を有する結晶粒を有する)の主成分、すなわち、副硬質相を構成する全ての成分に対して50原子%以上を占めている。副硬質相には、MCの他に、硬質相に含まれるWC、Co、Niや不可避的不純物を含んでいてもよい。
なお、副硬質相の鑑別方法は後述する。
【0022】
副硬質相の平均粒径は、1.0μm以上、3.0μm以下が好ましい。
その理由は、平均粒径が1.0μm未満では、切削加工中に副硬質相同士の滑りが生じやすく、耐塑性変形性や耐欠損性が十分ではなくなり、一方、平均粒径が3.0μmを超えると、十分な耐摩耗性が得られなくなるためである。
なお、副硬質相の平均粒径の測定方法は、後述する。
【0023】
(3)Cr
Crはその含有量をCrの含有量と換算して0.5質量%未満で含有してもよい。すなわち、Crの含有は必須ではない(含有しなくてもよい)。
Crは結合相中にCrに固溶し、主硬質相に含まれるWCの成長を抑制し、WCを微細化させ、超硬合金を微粒・均粒組織とし、靭性を高め、耐塑性変形性を向上させる働きがある。この働きは、Crの含有量をCr含有量と換算して0.5質量%を超えると損なわれ、CrとWの複合炭化物を結合相に析出させ、靭性を低下させ、また、欠損の発生の起点となるおそれがある。
【0024】
(4)WC
WCは主硬質相の主成分、すなわち、主硬質相を構成する全ての成分に対してWCが50原子%以上を占めている。主硬質相には、結合相成分、副硬質相成分、Cr、製造過程で不可避的に混入する不可避的不純物が含まれていてもよい。また、主硬質相の結晶構造はHCP構造であるため、副硬質相とは結晶構造が異なる。
なお、主硬質相の鑑別方法は後述する。
【0025】
(5)不可避的不純物
前記のように、主硬質相、副硬質相、および、結合相は、製造工程で不可避的(意図せずに)に混入する不純物を含んでいてもよく、その量は超硬合金全体を100質量%として外数として0.3質量%以下が好ましい。
【0026】
2.結合相、副硬質相、主硬質相の鑑別方法と副硬質相の平均粒径の測定
以下のようにして、結合相、副硬質相、主硬質相の鑑別後、副硬質相の平均粒径を測定する。
(1)超硬合金の任意の表面または断面をEBSD測定に支障とならないよう微細な凹凸を削って平滑になるように加工し、その加工面に1視野が、例えば、24μm(縦)×72μm(横)、測定点間隔を100nmとして、複数視野(例えば、5視野)を、エネルギー分散型X線分光器(EDS)と後方散乱電子回折装置(EBSD測定装置(例えば、EDAX/TSL社(現AMETEK社)製OIM Data Collection))を搭載したフィールドエミッション走査型電子顕微鏡(SEM)で加速電圧15kVにて観察し、EBSDパターンの取込みとEDSデータの同時取込みを行う。
【0027】
観察視野の大きさ、観察する相の個数は、結合相、副硬質相、主硬質相の鑑別において同じであってもよい。
また、表面または断面の加工は、例えば、集束イオンビーム装置(FIB装置)、クロスセクションポリッシャー装置(CP装置)等を用いる。
【0028】
(2)続いて、例えば、EDAX/TSL社製OIM Analysis ver.7.3.1にて測定データを読み込み、各結晶粒について、各元素に対応する結晶粒内部の各測定点から得られたEDSカウント値を平均し、各結晶粒の各元素EDS測定値とし、得られた測定値から各結晶粒の組成を導出する。
【0029】
(3)前記した各相の定義に従って、各相を同定する。すなわち、EBSDパターンからWCと同定された結晶粒をWC粒とする。続いて、FCC相と同定された全ての測定点から、検出されたCoおよびNiのEDSカウント値の平均値を算出し、平均値より高いCoとNiのEDSカウント値を有するFCC相と同定された測定点を結合相とし、FCC相の残部を副硬質相とする。
【0030】
(4)隣接する測定点が同一の相であった場合、互いの測定点から得られた方位の差が5度以上であったときに、それら測定点2点の間の境界を相の界面とする。
(5)副硬質相の平均粒径は、少なくとも300個(300~1000個が好ましい)の副硬質相の面積を求め、その面積に等しい円の直径を算出して平均することにより行う。
【0031】
(6)前記(3)において主硬質相、副硬質相、結合相と同定された各相について、改めてEDS測定を行い、主硬質相と同定された粒子はWCが50原子%以上を占めていること、副硬質相と同定された粒子はMCが50質量%以上を占めていること、結合相と同定された粒子はCoとNiの合計が50原子%以上を占めていることを確認する。
【0032】
3.各成分の含有量の測定
W、Co、Ni、Ti、Ta、Nb、Zr、Hf、V、CrおよびC等の含有量は、鏡面加工面(蛍光X線測定に支障がないように微細な凹凸を削って平滑になるように加工した面)に蛍光X線測定を行うことにより測定することができる。
【0033】
4.削工具用超硬合金の主硬質相および副硬質相の接触界面の長さ
主硬質相と副硬質相との接触界面の長さ(L1)と主硬質相同士の接触界面の長さ(L2)について、L1/L2が0.30以上、0.50以下であることが好ましい。
その理由は、L1/L2が0.30未満であると、キャビティ(主硬質相と副硬質相の変形特性が異なるために切削加工時に生じる空隙)が発生しやすい主硬質相と副硬質相との界面存在割合を抑えることができ、一方、0.50を超えるとキャビティが優先的に発生して耐塑性変形性を損なうためである。L1/L2は0.30以上0.40以下がより好ましい。
【0034】
ここで、主硬質相と副硬質相との接触界面の長さ(L1)とは、隣接して互いに接する主硬質相と副硬質相との界面の長さの合計値であり、
主硬質相同士の接触界面の長さ(L2)とは、隣接して互いに接する主硬質相同士の接触界面の長さの合計値である。
【0035】
L1、L2の導出については、例えば、OIM(OIM Data Collection)結晶方位解析装置を用いて、前述の手順にて各相の同定を行ったEBSDデータを用い、OIM Analysisのソフトウェア上で同じ相の中の接触界面の長さや、異なる相間の接触界面の長さを計算することにより算出することができる。なお、OIMでは測定点の形状は正六角形であるが、測定点形状が正方形や正三角形であっても原理的には同等の結果が得られる。
【0036】
このように、OIM Analysisを用いて、前述のとおり同定された主硬質相、副硬質相に基づいて、主硬質相と副硬質相との接触界面の長さ(L1)、および、主硬質相同士の接触界面の長さ(L2)を解析する。
ここで、観察視野としては、結合相を鑑別する観察視野と同様の24μm(縦)×72μm(横)、EBSDのピクセルサイズとして、100nm×100nmを例示できる。
【実施例0037】
本発明の切削工具用超硬合金を切削工具基体として用いた場合について実施例により具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0038】
1.実施例の製造
(1)原料粉末と配合工程
まず、焼結用の粉末として、表1に示すWC粉末、Co粉末、Ni粉末、Cr粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、ZrC粉末、HfC粉末、および、VC粉末を用意した。
【0039】
これらの粉末のうち、副硬質相に含まれる炭化物の原料となるTiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、ZrC粉末、HfC粉末、および、VC粉末を所定の配合組成となるよう秤りとり、ボールミルにて24時間の混合を行い、続けて真空下1800℃×4時間の熱処理を行い、続けてボールミルにて1時間の解砕を行い、固溶体粉末を製造した(表1を参照。表1では、固溶体粉末の配合量は、全ての基体原料の質量%の和を100質量%としたときの質量%として示されている)。
【0040】
次いで、得られた固溶体粉末を、前記WC粉末、Co粉末、Ni粉末およびCr粉末とあわせ、ボールミルを用い、表3に示す条件により回転数20~30rpmで30~40時間混合し、100MPaの圧力にてプレス成形し成形体を作製した。
【0041】
(2)焼結工程
得られた成形体を表3に示す条件により焼結し焼結体を作製した。表3における昇温速度とは、1000℃から焼結温度までの昇温速度をいう。
なお、この焼結工程によって、所定の平均粒径の副硬質相が焼結体中に分散性良く配置されることにより、主硬質相と副硬質相との接触界面の長さ(L1)を硬質相同士の接触界面の長(L2)さで除した値(L1/L2)が所定の値になり、結果として、主硬質相と副硬質相との接触界面で発生するキャビティの発生を低減でき、優れた耐塑性変形性を実現することができる。
【0042】
(3)切削工程
焼結工程に続いて、焼結体を機械加工、研削加工し、CNMG432MMの形状に整え、表4に示す実施例の超硬合金製切削基体1~10(以下、実施例工具基体1~10という)を作製した。
【0043】
2.比較例の製造
これに対して、比較のために比較例の超硬合金製切削基体1~8(以下、比較例工具基体1~8という)を以下の手順にて作製した。
【0044】
(1)原料粉末と配合工程
原料粉末として、WC粉末、Co粉末、Ni粉末、Cr粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、ZrC粉末、HfC粉末、および、VC粉末を用意した。
【0045】
次いで、表2に示す配合組成となるようにこれらの粉末を同時に混合し、焼結用粉末とし、ボールミルを用い、表3に示す条件で混合し、乾燥後、100MPaの圧力にてプレス成形し成形体を作製した。
【0046】
(2)焼結工程
得られた成形体を表3に示す条件により焼結し焼結体を作製した。比較例工程においても表3における昇温速度とは、1000℃から焼結温度までの昇温速度をいう。
【0047】
(3)切削工程
焼結工程に続いて、焼結体を機械加工、研削加工し、CNMG432MMの形状に整え、表5に示す比較例工具基体1~8を作製した。
【0048】
このようにして作成した実施例工具基体1~10および比較例工具基体1~8の断面を前述の方法で観察して成分の含有量、副硬質相の平均粒径、主硬質相と副硬質相との接触界面の長さ(L1)を硬質相同士の接触界面の長(L2)さで除した値(L1/L2)を求め、その結果を表4(実施例工具基体)、表5(比較例工具基体)に示す。ここで、隣接するピクセル同士の境界は正六角形であった。
なお、実施例工具基体1~10および比較例工具基体1~8において、不可避的不純物の含有量はいずれも前述の好ましい範囲にあった。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
実施例工具基体1~10および比較例工具基体1~8に対し、以下の切削試験を行った。
切削試験:ステンレス鋼の連続旋削加工
被削材:JIS・SUS304(HB170)の丸棒
切削速度:110m/min
切り込み:2.0mm
送り:0.6mm/rev
切削時間:4分
【0055】
前記切削加工試験後の切れ刃の逃げ面塑性変形量を測定するとともに、切れ刃の損耗状態を観察した。なお、切れ刃の逃げ面塑性変形量は、切削工具の主切れ刃側逃げ面について、切れ刃から十分離れた位置で主切れ刃側逃げ面とすくい面が交差する稜線上に線分を引き、同線分を切れ刃部方向に延伸し、延伸した線分と切れ刃部稜線間の距離(延伸した線分の垂直方向)が最も離れている部分を測定し、切れ刃の逃げ面塑性変形量とした。また、逃げ面塑性変形量が0.04mm以上であったとき、損耗状態を刃先変形とした。
表6に、この試験結果を示す。
【0056】
【表6】
【0057】
表6の「※軽度のチッピング」とは、工具寿命に至ったとはいえないチッピングをいう。
【0058】
表6に示される切削試験結果によれば、実施例工具基体は、いずれも、欠損を発生することなく、優れた耐塑性変形性を発揮するのに対して、比較例工具基体は、いずれも、欠損の発生もしくは塑性変形により工具寿命が短命であることがわかる。