IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ピラー工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-メカニカルシール 図1
  • 特開-メカニカルシール 図2
  • 特開-メカニカルシール 図3
  • 特開-メカニカルシール 図4
  • 特開-メカニカルシール 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134993
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20230921BHJP
【FI】
F16J15/34 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039982
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 良太
(72)【発明者】
【氏名】福村 太希
(72)【発明者】
【氏名】林 将史
【テーマコード(参考)】
3J041
【Fターム(参考)】
3J041AA02
3J041BA03
3J041DA05
(57)【要約】
【課題】メカニカルシールにおいて、機内空間の密封流体の圧力によって静止密封環を回転密封環側へ押す力が得られる構成でありながら、背圧室の構造が複雑であっても、その背圧室に密封流体または洗浄液を残留させない。
【解決手段】メカニカルシール10は、回転密封環11と、静止密封環12とを備え、機内空間A1と機外空間A2とを区画する。メカニカルシール10は、静止密封環12の機外空間A2側とケース13の一部との間に設けられシールされている背圧室K1と、機内空間A1と背圧室K1とを繋ぐ接続路40とを備える。接続路40は、キャビティ43が形成されているブロック部42と、キャビティ43内を移動可能であってキャビティ43を第一空間Q1と第二空間Q2とに区画するピストン44とを有し、第一空間Q1は機内空間A1と繋がり、第二空間Q2は背圧室K1と繋がり、第二空間Q2および背圧室K1に作動用流体Wが設けられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と一体回転する回転密封環と、
前記回転密封環との間でシールするための静止密封環と、
前記静止密封環を支持すると共に回転機器に取り付けられるケースと、
を備え、前記回転機器の内部の機内空間と前記回転機器の外部の機外空間とを区画するメカニカルシールであって、
前記静止密封環の機外空間側と前記ケースの一部との間に設けられシールされている背圧室と、
前記機内空間と前記背圧室とを繋ぐ接続路と、
を備え、
前記接続路は、キャビティが形成されているブロック部と、前記キャビティ内を移動可能であって前記キャビティを第一空間と第二空間とに区画するピストンと、を有し、
前記第一空間は前記機内空間と繋がり、前記第二空間は前記背圧室と繋がり、
前記第二空間および前記背圧室に作動用流体が設けられる、
メカニカルシール。
【請求項2】
前記キャビティにおける前記ピストンの受圧面積が前記第一空間側と前記第二空間側とで異なる、請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記ピストン及び前記キャビティは前記ケースに設けられていて、
前記ケースに、当該ケースの外部と前記第一空間とを繋ぐための外部接続口が設けられている、請求項1または請求項2に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記接続路は、前記機内空間と前記第一空間とを繋ぐ中間流路を有し、
前記ピストンは前記キャビティのうち前記機内空間側に寄って位置し、
前記中間流路の流路長は、前記キャビティの軸長よりも短い、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
各種回転機器において、その機器ケーシングと回転軸との間で内部の流体をシールする装置として、メカニカルシールが知られている(例えば、特許文献1参照)。メカニカルシールは、回転軸と一体回転する回転密封環と、機器ケーシング側に設けられ回転密封環との間でシールするための静止密封環とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-205508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図5は、従来のメカニカルシールの断面図である。このメカニカルシール90は、回転軸99と一体回転する回転密封環91と、回転密封環91との間でシールするための静止密封環92と、静止密封環92を支持すると共に回転機器100に取り付けられるケース93とを備える。メカニカルシール90は、回転機器100の内部の機内空間A1と、回転機器100の外部の機外空間A2とを区画する。
【0005】
静止密封環92の機外側(図5では左側)とケース93の一部93aとの間に、背圧室K1が設けられている。背圧室K1は、静止密封環92とケース93との間に設けられているOリング94,95によってシールされている。静止密封環92に、機内空間A1と背圧室K1とを繋ぐ流路96が設けられている。機内空間A1の密封流体は流路96を通じて背圧室K1に入り、機内空間A1と背圧室K1とは同じ圧力(内圧)となる。
【0006】
機内空間A1の密封流体の圧力が機外空間A2の圧力(例えば大気圧)よりも高くなることで、その密封流体の圧力によって、静止密封環92を回転密封環91に押し付けることができる。これにより、静止密封環92と回転密封環91との間のシール性能を確保することが可能となる。
【0007】
背圧室K1の形状が複雑になると、例えば回転機器において密封流体の変更またはメンテナンスの際、背圧室K1の密封流体を外部へ排出することが困難となり、密封流体が残留することがある。また、背圧室K1に洗浄液を供給して洗浄作業を行う場合、その洗浄液の排出も困難となる。背圧室K1に、古い密封流体または洗浄液が残留すると、その残留した液が、新たな密封流体に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0008】
そこで、本開示は、機内空間の密封流体の圧力によって静止密封環を回転密封環側へ押す力が得られる構成でありながら、背圧室の構造が複雑であっても、その背圧室に密封流体または洗浄液が残留しないメカニカルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本開示のメカニカルシールは、回転軸と一体回転する回転密封環と、前記回転密封環との間でシールするための静止密封環と、前記静止密封環を支持すると共に回転機器に取り付けられるケースと、を備え、前記回転機器の内部の機内空間と前記回転機器の外部の機外空間とを区画するメカニカルシールであって、前記静止密封環の機外空間側と前記ケースの一部との間に設けられシールされている背圧室と、前記機内空間と前記背圧室とを繋ぐ接続路と、を備え、前記接続路は、キャビティが形成されているブロック部と、前記キャビティ内を移動可能であって前記キャビティを第一空間と第二空間とに区画するピストンと、を有し、前記第一空間は前記機内空間と繋がり、前記第二空間は前記背圧室と繋がり、前記第二空間および前記背圧室に作動用流体が設けられる。
【0010】
本開示のメカニカルシールによれば、機内空間の密封流体の圧力によってピストンが押されることで、作動用流体を介して、静止密封環を回転密封環側へ押す力が得られる。密封流体が接する範囲は、キャビティのうち第一空間側である。このため、背圧室に密封流体または洗浄液が残留しない。
【0011】
(2)好ましくは、前記キャビティにおける前記ピストンの受圧面積が前記第一空間側と前記第二空間側とで異なる。この場合、機内空間の密封流体の圧力に対して所定の割合の圧力に基づく力を静止密封環に与えることが可能となる。例えば、密封流体の圧力よりも大きな圧力に基づく力を静止密封環に与えることが可能となる。このため、密封流体が低圧の場合であっても、比較的大きな力で静止密封環を回転密封環側へ押すことが可能となる。
【0012】
(3)好ましくは、前記ピストン及び前記キャビティは前記ケースに設けられていて、前記ケースに、当該ケースの外部と前記第一空間とを繋ぐための外部接続口が設けられている。この場合、外部接続口を通じて、密封流体の洗浄、滅菌などの処理を行うことが可能となる。
【0013】
(4)好ましくは、前記接続路は、前記機内空間と前記第一空間とを繋ぐ中間流路を有し、前記ピストンは前記キャビティのうち前記機内空間側に寄って位置し、前記中間流路の流路長は、前記キャビティの軸長よりも短い。この場合、機内空間とキャビティの第一空間とを繋ぐ中間流路が短くなり、密封流体の接液範囲が狭くなる。接続路において、密封流体を洗浄すべき範囲が狭くなり、また、洗浄液の残留防止にも貢献する。
【発明の効果】
【0014】
本開示のメカニカルシールによれば、機内空間の密封流体の圧力によって静止密封環を回転密封環側へ押す力が得られる構成でありながら、背圧室の構造が複雑であっても、その背圧室に密封流体または洗浄液が残留しない構成を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】メカニカルシールの断面図である。
図2図1と異なる面におけるメカニカルシールの断面図である。
図3】接続路及びその周囲を示す断面図である。
図4】メカニカルシールの変形例を示す断面図である。
図5】従来のメカニカルシールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔メカニカルシール全体について〕
図1は、メカニカルシール10の断面図である。このメカニカルシール10は、例えば撹拌機またはコンプレッサ等の回転機器7に用いられる。回転機器7は、回転軸8と、その回転軸8を包囲する機器ケーシング9とを備える。メカニカルシール10は、回転軸8と機器ケーシング9との間において、回転機器7の内部の密封流体をシールする。回転軸8は、回転機器7が有する図外の軸受によって回転可能に支持されている。
【0017】
本開示の発明における方向について定義する。回転軸8の軸線Lに沿った方向及びその軸線Lに平行な方向を「軸方向」と定義する。その軸方向に関して、回転機器7の外部側(図1の左側)が軸方向一方側であり、これを「機外側」と称する。これに対して、回転機器7の内部側(図1の右側)が軸方向他方側であり、これを「機内側」と称する。機器ケーシング9と回転軸8との間となる回転機器7の内部の空間を「機内空間A1」と称し、回転機器7の外部の空間を「機外空間A2」と称する。前記軸線Lに直交する方向を「径方向」と定義する。前記軸線Lを中心とする円に沿った方向を「周方向」と定義する。つまり、回転軸8の回転方向が周方向となる。
【0018】
メカニカルシール10は、機内空間A1と機外空間A2とを区画する。本実施形態では、機外空間A2に大気が存在していて、機外空間A2は大気圧にある。機内空間A1に、密封流体が存在し、機内空間A1の密封流体の圧力(内圧)は、機外空間A2の圧力(大気圧)よりも高くなることがある。メカニカルシール10は、機内空間A1側の密封流体が機外空間A2側へ流出するのを防ぐ。
【0019】
そのために、メカニカルシール10は、一つの回転密封環11と、一つの静止密封環12とを備える。回転密封環11と静止密封環12との間が、密封流体の流出を防ぐシール部Sとなる。回転密封環11は機外側に環状のシール面11aを有する。静止密封環12は機内側に、前記シール面11aと対向する環状のシール面12aを有する。シール部Sの径方向内側及び軸方向一方側が、機外空間A2と繋がる。シール部Sの径方向外側及び軸方向他方側が、機内空間A1と繋がる。後にも説明するが、本実施形態では、対向するシール面11a,12a間にシールガスが供給される。
【0020】
メカニカルシール10は、回転機器7に取り付けられるケース13を備える。ケース13は、機器ケーシング9に取り付けられる環状の第一ケース14と、第一ケース14の機外側に取り付けられる環状の第二ケース15とを有する。第二ケース15は、第一ケース14よりも内径が小さい。第二ケース15は、径方向外側の外周部16と、外周部16から径方向内方に延びて設けられている内周部17と、内周部17の径方向内側部から機内側に延びて設けられている筒部18とを有する。第一ケース14と第二ケース15との間はOリングなどのシール部材33によってシールされている。
【0021】
メカニカルシール10は、回転密封環11を含む回転ユニット21を備える。回転ユニット21は、回転密封環11の他に、スリーブ22、及び円筒状の固定部材23を有する。固定部材23は、スリーブ22を回転軸8と一体とするための部材である。固定部材23は、回転軸8の一部に外嵌した状態となり、セットスクリュ24によって回転軸8に固定される。
【0022】
スリーブ22は、円筒状であり、回転軸8の他部に外嵌して設けられている。スリーブ22は、固定部材23と回転軸8との間で径方向について挟まれた状態となる円筒部22aと、円筒部22aの機内側の端部から径方向に延びて設けられている円環部22bとを有する。回転密封環11は、円筒部22aに外嵌して設けられている。回転密封環11は、スリーブ22にピン等(図示せず)によって回り止めされていて、スリーブ22と一体回転可能である。以上より、回転密封環11は、回転軸8と一体回転する。回転密封環11とスリーブ22との間はOリング25によってシールされている。スリーブ22と回転軸8との間はOリング26によってシールされている。
【0023】
静止密封環12は、環状の部材であり、回転密封環11との間でシールするための部材である。静止密封環12は、第二ケース15が有する筒部18の外周側に設けられており、ケース13によって支持される。静止密封環12は軸方向に変位可能となってケース13に支持されている。静止密封環12と筒部18との間は、Oリング27によってシールされている。第二ケース15が有する内周部17は、機内側に突出するピン30を有する。静止密封環12に穴31が設けられている。ピン30が穴31に挿入した状態となることで、ケース13に対して静止密封環12は回転不能となる。
【0024】
図2は、図1と異なる面におけるメカニカルシール10の断面図である。第二ケース15の内周部17と静止密封環12との間に弾性部材34が設けられている。弾性部材34は、圧縮コイルばねであり、静止密封環12を回転密封環11側に押す力を発生させる。
【0025】
静止密封環12にシール用流路32が形成されている。シール用流路32は、静止密封環12の外周面12bとシール面12aとを繋ぐ。静止密封環12の外周面12bと、ケース13(第一ケース14)の内周面13aとの間に、機内側のOリング28、および機外側のOリング29が設けられている。静止密封環12の外周面12bと、ケース13の内周面13aとの間であって、二つのOリング28,29の間に、環状の密閉空間K2が形成されている。
【0026】
ケース13(第一ケース14)に、図示しないが、シールガス(例えば窒素ガス)が供給されるシールガス流路が設けられている。そのシールガス流路は、密閉空間K2で開口し、シールガスが密閉空間K2に供給される。密閉空間K2に供給されたシールガスは、シール用流路32を通じて、回転密封環11のシール面11aと静止密封環12のシール面12aとの間、つまり、シール部Sに供給される。シール部Sに供給されたシールガスによって、シール面11a,12a間に静圧の流体膜が形成される。
【0027】
図1及び図2に示すように、静止密封環12の機外側(機外空間A2側)と、ケース13の一部との間に、環状の背圧室K1が設けられている。背圧室K1は、静止密封環12の外周側のOリング29と静止密封環12の内周側のOリング27とによって、シールされている。背圧室K1は、後述する接続路40(図1参照)と繋がっているが、閉じた空間である。後に説明するが、背圧室K1には、作動用流体Wが充填され、その作動用流体Wの圧力によって、静止密封環12を回転密封環11に押し付ける推力が発生する。
【0028】
静止密封環12において、背圧室K1の内圧を受ける受圧領域は、機外空間A2の圧力(大気圧)を受ける受圧領域よりも広くなっている。背圧室K1が機外空間A2よりも高圧となる条件で、静止密封環12を回転密封環11に押し付ける力が作用するように、背圧室K1は構成されている。
【0029】
メカニカルシール10は、機内空間A1と背圧室K1とを繋ぐ接続路40を備える。図1に示す形態では、接続路40はケース13に設けられている。接続路40は、キャビティ43が形成されているブロック部42と、キャビティ43に設けられているピストン44と、第一の中間流路45と、第二の中間流路46とを有する。前記ブロック部42は、ケース13の一部により構成されている。第一の中間流路45及び第二の中間流路46それぞれは、ケース13の各部に形成されている孔により構成されている。
【0030】
ピストン44は、キャビティ43内を移動可能である。ピストン44は、キャビティ43を、機内空間A1側の第一空間Q1と背圧室K1側の第二空間Q2とに区画する。第一の中間流路45は、機内空間A1と第一空間Q1とを繋ぐ。第二の中間流路46は、背圧室K1と第二空間Q2とを繋ぐ。第二空間Q2、第二の中間流路46、および背圧室K1に作動用流体Wが充満状態となって設けられる。
【0031】
本実施形態では、作動用流体Wは非圧縮性の流体である。具体的に説明すると、作動用流体Wは、水(清水)または油(食品用油)などの液体である。図3は、接続路40及びその周囲を示す断面図である。第二の中間流路46は、径方向内側に位置する背圧室K1と径方向外側に位置する第二空間Q2とを繋ぐ。第二の中間流路46をケース13の一部に形成するために、第二ケース15に、外部に開口する孔15aが形成される。その孔15aは栓部材19によって封止される。このため、第二空間Q2、第二の中間流路46及び背圧室K1は、閉じた空間となり、この空間において、作動用流体Wは充満状態にある。
【0032】
第一の中間流路45によって、機内空間A1とキャビティ43の第一空間Q1とは繋がっており、機内空間A1の密封流体は第一の中間流路45を通じて第一空間Q1に侵入する。後にも説明するが、第一空間Q1の密封流体の圧力によって、ピストン44が機外側に押され、作動用流体Wを介して静止密封環12が回転密封環11側に押される。第一空間Q1において、ピストン44の受圧面積を確保するために、ピストン44は突起49を有する。突起49が、キャビティ43の機内側の端面43aに接触することで、ピストン44が最も機内側に位置していても、第一空間Q1が確保され、ピストン44における受圧面(第一受圧面51)が得られる。
【0033】
キャビティ43は、一方向(本実施形態では軸方向)に沿って長く形成されている。これに対して、ピストン44の軸長J3(突起49を含まず)は、キャビティ43の軸長J2に比べて十分に短い。例えば、前記軸長J3は、前記軸長J2の1/4以下である。回転機器7の運転時、ピストン44はキャビティ43のうち機内空間A1側に寄って(偏って)位置する。なお、図3は、ピストン44がキャビティ43の機内側の端面43aに接触している状態を示しているが、ピストン44が端面43aに接触している必要はない。
【0034】
キャビティ43が一方向に長く形成されているのに対して、第一の中間流路45の長さは短い。第一の中間流路45は、ケース13の一部に設けられた直線状の孔により構成されている。第一の中間流路45の流路長J1は、キャビティ43の軸長J2よりも短い(J1<J2)。例えば、流路長J1は軸長J2の1/2以下である。
【0035】
ピストン44及びキャビティ43はケース13に設けられている。ケース13に外部接続口47が設けられている。ケース13の外部とキャビティ43の第一空間Q1とを繋ぐために、ケース13の外部に開口する孔14aが形成されている。その孔14aの開口側の部分が外部接続口47となる。回転機器7の運転時、外部接続口47を密閉するための蓋20が設けられる。回転機器7またはメカニカルシール10のメンテナンスの際、または、回転機器7の密封流体の変更が行われる際、外部接続口47を通じて、密封流体の洗浄、滅菌などの処理を行うことが可能となる。つまり、蓋20を外し、外部接続口47を通じて洗浄液の注入または排出が行われる。
【0036】
〔メカニカルシール10の変形例〕
図4は、メカニカルシール10の変形例を示す断面図である。図4に示す形態は、図1に示す形態と比較して、ピストン44の形態が異なる。図4において、図1に示す形態と同じ構成については、同じ符号を付しており、同じ構成についての説明をここでは省略する。
【0037】
ピストン44は、機外側に延びる軸部55を有する。軸部55は、キャビティ43の長手方向に沿って設けられていて、ケース13を貫通している。ケース13の一部(第二ケース15)に、軸部55を貫通させるガイド孔56が設けられている。軸部55とガイド孔56との間にOリング57が設けられている。ピストン44がキャビティ43を移動しても、Oリング57によって、キャビティ43の第二空間Q2を含む空間はシールされる。
【0038】
ピストン44は、機内側に突起49を有する。ピストン44の機内側の第一受圧面51は、機内側のピストン端面のうち突起49以外の面により構成される。ピストン44の機外側の第二受圧面52は、機外側のピストン端面のうち軸部55以外の面により構成される。図4に示す形態では、軸部55の断面積が突起49の断面積よりも大きく、第二受圧面52が第一受圧面51よりも狭くなる。
【0039】
このように、キャビティ43におけるピストン44の受圧面積が第一空間Q1側と第二空間Q2側とで異なる。図4に示す形態では、第二空間Q2側の受圧面積(第二受圧面52)が、第一空間Q1側の受圧面積(第一受圧面51)よりも小さい。なお、図示しないが、反対に、第二空間Q2側の受圧面積(第二受圧面52)が、第一空間Q1側の受圧面積(第一受圧面51)よりも大きくてもよい。
【0040】
〔各形態のメカニカルシール10について〕
図1に示す形態、及び、図4に示す形態それぞれにおいて、メカニカルシール10は、回転軸8と一体回転する回転密封環11と、回転密封環11との間でシールするための静止密封環12と、静止密封環12を支持すると共に回転機器7に取り付けられるケース13とを備える。メカニカルシール10は、機内空間A1と機外空間A2とを区画する。メカニカルシール10は、背圧室K1と接続路40とを備える。背圧室K1は、静止密封環12の機外空間A2側とケース13の一部との間に設けられており、Oリング27,29などのシール部材によってシールされている。
【0041】
接続路40は、機内空間A1と背圧室K1とを繋ぐ構成を有する。接続路40は、キャビティ43が形成されているブロック部42と、ピストン44とを有する。ピストン44は、キャビティ43内を移動可能であって、キャビティ43を第一空間Q1と第二空間Q2とに区画する。第一空間Q1は機内空間A1と繋がり、第二空間Q2は背圧室K1と繋がる。第二空間Q2および背圧室K1に作動用流体Wが設けられる。
【0042】
前記構成を備えるメカニカルシール10によれば、機内空間A1の密封流体の圧力によってピストン44が押されることで、作動用流体Wを介して、静止密封環12を回転密封環11側に押す力が得られる。密封流体が接する範囲は、キャビティ43のうち第一空間Q1側である。このため、背圧室K1に密封流体または洗浄液が残留しない。
【0043】
このように、前記各形態のメカニカルシール10によれば、機内空間A1の密封流体の圧力によって静止密封環12を回転密封環11側へ押す力が得られる構成でありながら、背圧室K1の構造が複雑であっても、その背圧室K1に密封流体または洗浄液が残留しない。その結果、例えば回転機器7の密封流体の種類を変更する場合に、残留した液体が新たな密封流体に及ぼす影響を低減することが可能となる。
【0044】
作動用流体Wは例えば窒素ガスなどの圧縮性の流体であってもよいが、前記各形態では、作動用流体Wは非圧縮性の流体(液体)である。このため、ピストン44が作動用流体Wを押す力が、効率よく静止密封環12に伝わる。
【0045】
ケース13に、ケース13の外部と第一空間Q1とを繋ぐための外部接続口47が設けられている。このため、外部接続口47を通じて、密封流体の洗浄、滅菌などの処理を行うことが可能となる。
【0046】
前記各形態では、キャビティ43が長く構成されていて、第一の中間流路45が短く構成されている。つまり、図3に示すように、第一の中間流路45の流路長J1は、キャビティ43の軸長J2よりも短い。ピストン44はキャビティ43のうち機内空間A1側に寄って位置している。このように、第一の中間流路45が短くなることで、密封流体の接液範囲が狭くなる。接続路40において、密封流体を洗浄すべき範囲が狭くなり、また、洗浄液の残留防止にも貢献する。
【0047】
また、キャビティ43が長く構成されることで、ピストン44のストロークを大きく設定することが可能となる。例えば、作動用流体Wが例えば窒素ガスなどの圧縮性流体(気体)である場合、密封流体の圧力によってピストン44が移動すると作動用流体Wの体積が大きく減少し、ピストン44のストロークが大きくなる。キャビティ43の軸長J2が長く設定されることで、ピストン44のストロークが大きくなることに対応可能となる。
【0048】
図4に示す形態では、キャビティ43におけるピストン44の受圧面積が第一空間Q1側と第二空間Q2側とで異なる。ピストン44の第一空間Q1側の受圧面積(第一受圧面51の面積)を「S1」とし、ピストン44の第二空間Q2側の受圧面積(第二受圧面52の面積)を「S2」とする。そして、機内空間A1と同圧となる第一空間Q1の圧力を「P1」とし、背圧室K1と同圧となる第二空間Q2の圧力を「P2」とした場合、「P2=P1×S1/S2」の関係式が成立する。このように、機内空間A1の密封流体の圧力P1に対して所定の割合の圧力P2に基づく力を静止密封環12に与えることが可能となる。
【0049】
図4に示す形態の場合、ピストン44の第一空間Q1側の受圧面積S1よりも、ピストン44の第二空間Q2側の受圧面積S2が小さい。このため、密封流体の圧力P1よりも大きな圧力に基づく力を静止密封環12に与えることが可能となる。密封流体が低圧の場合であっても、比較的大きな力で静止密封環12を回転密封環11側に押すことが可能となる。
【0050】
〔その他〕
図1に示す形態では、接続路40の全体がケース13内に設けられているが、その一部が、配管により構成されていて、ケース13外に設けられていてもよい。
回転ユニット21は、図示する形態以外であってもよい。静止密封環12及びケース13を備える静止ユニットについても、図示する形態以外であってもよい。
ケース13に設けられている外部接続口47は、省略されていてもよい。
【0051】
前記実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、前記実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0052】
7 回転機器
8 回転軸
9 機器ケーシング
10 メカニカルシール
11 回転密封環
12 静止密封環
13 ケース
40 接続路
42 ブロック部
43 キャビティ
44 ピストン
45 第一の中間流路(中間流路)
47 外部接続口
A1 機内空間
A2 機外空間
J1 流路長
J2 軸長
K1 背圧室
Q1 第一空間
Q2 第二空間
W 作動用流体
図1
図2
図3
図4
図5