(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134994
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】車両パラメータの演算装置および演算方法
(51)【国際特許分類】
G01L 3/14 20060101AFI20230921BHJP
G01G 19/03 20060101ALI20230921BHJP
F16H 59/70 20060101ALI20230921BHJP
F16H 59/14 20060101ALI20230921BHJP
F16H 59/42 20060101ALI20230921BHJP
F16H 63/40 20060101ALI20230921BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
G01L3/14 Z
G01G19/03
F16H59/70
F16H59/14
F16H59/42
F16H63/40
F02D29/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039983
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 由多
(72)【発明者】
【氏名】矢作 修一
【テーマコード(参考)】
3G093
3J552
【Fターム(参考)】
3G093AA05
3G093BA14
3G093DB01
3G093EB03
3J552MA12
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA54
3J552TA10
3J552UA02
3J552UA07
3J552VA32W
3J552VA43W
3J552VA74W
3J552VB08W
3J552VC02W
(57)【要約】
【課題】誤差の要因を少なくして、駆動トルクや車両の重量をより高精度に推定する車両パラメータの演算装置および演算方法を提供する。
【解決手段】エンジン2とトランスミッション4との間にトルクコンバータ3が介在する車両1の走行中に、駆動輪7に伝達される駆動トルクTwを推定する車両パラメータの演算装置10は、トルクコンバータ3がロックアップ機構によるロックアップが解除された状態で、エンジン回転速度取得装置21が取得したエンジン回転速度Ne、および、タービン回転速度取得装置22が取得したトルクコンバータ3のタービン回転速度Ntに基づいて、トルクコンバータ3のタービントルクTtを推定するデータ処理と、推定したタービントルクTtに基づいて、駆動トルクTwを推定するデータ処理と、を実行する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとトランスミッションとの間にトルクコンバータが介在する車両の走行中に、駆動輪に伝達される駆動トルクを推定する車両パラメータの演算装置において、
前記トルクコンバータのロックアップが解除された状態で、エンジン回転速度取得装置が取得した前記エンジンのエンジン回転速度、および、タービン回転速度取得装置が取得した前記トルクコンバータのタービン回転速度に基づいて、前記トルクコンバータのタービントルクを推定するデータ処理と、推定した前記タービントルクに基づいて、前記駆動トルクを推定するデータ処理と、を実行することを特徴とする車両パラメータの演算装置。
【請求項2】
前記タービントルクを推定するデータ処理では、前記エンジン回転速度および前記タービン回転速度の速度比に基づいて前記トルクコンバータのトルク比および容量係数の各々が推定され、推定された前記トルク比および前記容量係数に基づいて前記タービントルクが推定される請求項1に記載の車両パラメータの演算装置。
【請求項3】
前記エンジン回転速度および前記速度比の各々と前記トルク比との予め把握されている相関関係を示すルックアップテーブルと、前記エンジン回転速度および前記速度比の各々と前記容量係数との予め把握されている相関関係を示すルックアップテーブルと、の二つのルックアップテーブルを有していて、前記タービントルクを推定するデータ処理では、前記エンジン回転速度および前記速度比と前記二つのルックアップテーブルとが用いられて、前記トルク比および前記容量係数が推定される請求項2に記載の車両パラメータの演算装置。
【請求項4】
推定した前記駆動トルクを含むパラメータに基づいて、前記車両の重量を推定するデータ処理を実行する請求項1~3のいずれか1項に記載の車両パラメータの演算装置。
【請求項5】
前記車両の重量を推定するデータ処理では、前記パラメータに基づいて前記車両の重量を仮推定した仮推定値を出力するデータ処理と、前記車両の重量として前記仮推定値を平準化した値を算出するデータ処理と、を実行する請求項4に記載の車両パラメータの演算装置。
【請求項6】
前記仮推定値は、前記車両の前後方向の運動方程式を変形して得られた第一変数と第二変数との比で表されており、前記平準化した値を算出するデータ処理では、前記第一変数の平均値と前記第二変数の平均値との比の値として前記車両の重量が算出される請求項5に記載の車両パラメータの演算装置。
【請求項7】
エンジンとトランスミッションとの間にトルクコンバータが介在する車両の走行中に、前記トルクコンバータのロックアップが解除された状態で、前記エンジンのエンジン回転速度および前記トルクコンバータのタービン回転速度を取得し、
取得した前記エンジン回転速度および前記タービン回転速度に基づいて、前記トルクコンバータのタービントルクを推定し、
推定した前記タービントルクに基づいて、前記車両の走行中に駆動輪に伝達される駆動トルクを推定することを特徴とする車両パラメータの演算方法。
【請求項8】
推定した前記駆動トルクを含むパラメータに基づいて、前記車両の重量を推定する請求項7に記載の車両パラメータの演算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両パラメータの演算装置および演算方法に関し、より詳細には、車両パラメータとして、車両の走行中に駆動輪に伝達される駆動トルクおよび車両の重量を推定する車両パラメータの演算装置および演算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に作用する抵抗に基づいた暫定トルク値をトルクコンバータの特性に基づいて補正することにより、エンジンへの指示トルク値を決定する車両制御装置が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の発明は、トルクコンバータの特性を考慮することで指示トルク値をより適切な値にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の走行中での様々な制御には、駆動輪に伝達される駆動トルクや、車両の重量などの車両パラメータの推定が必須となっている。例えば、駆動トルクは、エンジンの目標燃料噴射量およびエンジン回転速度に応じたエンジンからの出力トルクと車輪に伝達されるまでの損失トルクとに基づいて推定されている。また、車両の重量は、駆動トルクを含む種々のパラメータと車両の前後の運動方程式とを用いて推定されている。
【0005】
しかしながら、目標燃料噴射量と実際の実燃料噴射量との間の乖離を無くすことは難しく、推定された出力トルクは、その乖離により誤差が大きくなっている。また、損失トルクは、様々な機器の機械損失が関与しており、誤差の要因が多くなっている。それ故、それらをパラメータとする駆動トルクの推定の精度は低く、その駆動トルクがパラメータの一つである車両の重量の推定の精度も低くなっていた。
【0006】
このように、車両パラメータの推定に車両の制御で使用する目標値や指示値を用いた手法では、推定結果に含まれる誤差が大きくなっている。仮に、特許文献1に記載の発明のように、車両の制御で使用する目標値や指示値をより適切な値にしたとしても、目標値や指示値と実際の値との乖離を無くすことはできず、誤差を解消するには至らない。それ故、車両の制御で用いられている目標値や指示値を用いずに、より高精度に駆動トルクや車両の重量などの車両パラメータを推定するには改善の余地があった。
【0007】
本開示の目的は、誤差の要因を少なくして、駆動トルクや車両の重量をより高精度に推定する車両パラメータの演算装置および演算方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成する本発明の一態様の車両パラメータの演算装置は、エンジンとトランスミッションとの間にトルクコンバータが介在する車両の走行中に、駆動輪に伝達される駆動トルクを推定する車両パラメータの演算装置において、前記トルクコンバータのロックアップが解除された状態で、エンジン回転速度取得装置が取得した前記エンジンのエンジン回転速度、および、タービン回転速度取得装置が取得した前記トルクコンバータのタービン回転速度に基づいて、前記トルクコンバータのタービントルクを推定するデータ処理と、推定した前記タービントルクに基づいて、前記駆動トルクを推定するデータ処理と、を実行することを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様の車両パラメータの演算方法は、エンジンとトランスミッションとの間にトルクコンバータが介在する車両の走行中に、前記トルクコンバータのロックアップが解除された状態で、前記エンジンのエンジン回転速度および前記トルクコンバータのタービン回転速度を取得し、取得した前記エンジン回転速度および前記タービン回転速度に基づいて、前記トルクコンバータのタービントルクを推定し、推定した前記タービントルクに基づいて、前記車両の走行中に駆動輪に伝達される駆動トルクを推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、推定された駆動トルクが、車両の走行中に取得可能な実測値であるエンジン回転速度とタービン回転速度とを用いて推定されたタービントルクを用いて推定されている。それ故、車両の制御に使用される目標値や指示値を用いる構成に比して、誤差の要因を少なくすることができる。これにより、駆動トルクを高精度に推定することができ、その駆動トルクをパラメータの一つとして用いる車両の重量も高精度に推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】車両パラメータの演算装置の実施形態を例示する説明図である。
【
図3】車両パラメータの演算方法の実施形態として、駆動トルクの演算方法を例示するフロー図である。
【
図4】トルクコンバータのタービントルクを推定するブロック図である。
【
図5】
図4のトルク比ルックアップテーブルを例示する説明図である。
【
図6】
図4の容量係数ルックアップテーブルを例示する説明図である。
【
図7】車両パラメータの演算方法の実施形態として、車両の重量の演算方法を例示するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、車両パラメータの演算装置および演算方法を、図に示す実施形態に基づいて説明する。
【0013】
図1に例示する車両1は、エンジン2とトランスミッション4との間にトルクコンバータ3が介在する公知の車両を用いることができ、トラックなどの大型車両に限定されるものではない。トルクコンバータ3は、公知のトルクコンバータを用いることができる。トルクコンバータ3は、図示しないロックアップ機構を有しており、ロックアップ機構によりロックアップされた状態とロックアップが解除された状態とのどちらか一方の状態に切り替えられている。
【0014】
車両1の走行中には、演算装置10により、駆動トルクTw、路面勾配β、および、重量mなどの車両パラメータが推定されている。エンジン2から出力された出力トルクが、トルクコンバータ3、トランスミッション4、プロペラシャフト5、および、ディファレンシャルギア6の順に伝達されて、駆動輪7に伝達されており、この駆動輪7に伝達されるトルクが駆動トルクTwである。路面勾配βは、車両1が走行している路面の勾配である。重量mは、走行中の車両1の総重量であり、車両重量と乗車定員の重量と荷物などの積載物の重量とを含んでいる。
【0015】
車両1は、演算装置10と各種のパラメータ取得装置とを備えている。各種のパラメータ取得装置としては、エンジン回転速度取得装置21、タービン回転速度取得装置22、速度取得装置23、加速度取得装置24、変速ギア段取得装置25、ブレーキ取得装置26、および、操舵角取得装置27などが例示される。
【0016】
図2に例示する演算装置10の実施形態は、公知のコンピュータを用いることができる。演算装置10は、中央演算処理部(CPU)11、主記憶部(メモリ)12、補助記憶部(例えば、HDD)13、入出力部(各種のパラメータ取得装置との接続やエンジン2、トルクコンバータ3、および、トランスミッション4との接続)を有している。演算装置10は、入出力部を介して入力されたパラメータに基づいて、補助記憶部13に記憶されているプログラムが起動されて実行されると、プログラムにより指示された各データ処理や各制御処理を実行する。詳述すると、演算装置10は、駆動トルクTwを推定するデータ処理を実行する。また、演算装置10は、駆動トルクTwを推定するデータ処理を実行した後に、重量mを推定するデータ処理を実行する。また、演算装置10は、入出力部を介して入力されたパラメータに基づいて、エンジン2の燃料噴射量、ロックアップ機構によるロックアップまたはロックアップの解除、および、トランスミッション4の変速などの制御処理を実行する。演算装置10は、各制御処理を実行する演算装置と、データ処理を実行する演算装置と、を別体としてもよく、各制御処理を実行する演算装置としては、ECU(ElectronicControl Unit)が例示される。
【0017】
エンジン回転速度取得装置21は、エンジン回転速度Neを取得している。エンジン回転速度取得装置21は、エンジン回転速度Neとして図示しないクランクシャフトの回転速度を検出する公知の回転速度センサを用いることができる。タービン回転速度取得装置22は、トルクコンバータ3の図示しないタービンのタービン回転速度Ntを取得している。タービン回転速度取得装置22は、タービン回転速度Ntとしてトランスミッション4の図示しないインプットシャフトの回転速度を検知する公知の回転速度センサを用いることができる。なお、タービン回転速度取得装置22は、タービン回転速度Ntとしてトルクコンバータ3のタービンの回転軸の回転速度を直に検知するものでもよい。
【0018】
速度取得装置23は、車両1の前後方向の速度Vxを取得している。速度取得装置23は、プロペラシャフト5や駆動輪7などの回転速度から速度Vxを検知する公知の速度センサを用いることができる。加速度取得装置24は、車両1の前後方向に作用する加速度Gx(路面に平行な加速度)を取得している。加速度取得装置24は、公知のGセンサを用いることができる。車両1の前後方向に作用する加速度Gxは、車両1の前後方向での速度変化に伴う加速度成分と車両1の姿勢変化に伴う重力加速度成分とが含まれる。
【0019】
変速ギア段取得装置25は、トランスミッション4の変速ギア段Ngを取得している。変速ギア段取得装置25は、車両1のシフトレバーの位置からレバーポジションを取得する公知のポジションセンサを用いることができる。変速ギア段Ngは、トランスミッション4がオートマチックトランスミッションで構成される場合には、演算装置10からトランスミッション4へ送信される変速指令信号から取得することもできる。ブレーキ取得装置26は、フットブレーキや排気ブレーキなどのブレーキ装置の作動の有無を示すブレーキ信号Sbrを取得している。ブレーキ取得装置26は、フットブレーキペダルや排気ブレーキレバーなどのブレーキ操作装置の作動を検知する公知のセンサを用いることができる。なお、ブレーキ信号Sbrは、二値信号であり、ブレーキ装置が作動した場合が「1」、ブレーキ装置が作動していない場合が「0」となっている。操舵角取得装置27は、車両1のステアリングホイールなどの舵取り装置の操舵角δhを取得している。操舵角取得装置27は、公知の操舵角センサを用いることができる。
【0020】
図3に車両パラメータの演算方法として駆動トルクTwの演算方法の一例を示す。まず、駆動トルクTwを推定する条件が成立したか否かを判定する(S110、S120)。ついで、条件が成立したと判定した場合に、エンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとに基づいてトルクコンバータ3のタービントルクTtを推定する(S130、S140)。ついで、推定したタービントルクTtに基づいて駆動トルクTwを推定する(S150)。駆動トルクTwの演算方法は、車両1の走行中に所定のサンプリング周期で繰り返し行われる。以下に、(S110)~(S150)の各ステップの内容を詳述する。
【0021】
車両1が走行中か否かを判定するステップ(S110)では、演算装置10により、各種のパラメータ取得装置の取得値に基づいて車両1が走行中か否かを判定するデータ処理が実行される。このステップでは、速度取得装置23が取得した車両1の速度Vxが正か否かを判定し、速度Vxが正であれば、車両1が走行中と判定する手法が例示される。なお、速度取得装置23が取得する速度Vxは、車両1の走行が後退であっても、正の値となる。
【0022】
ロックアップが解除されたか否かを判定するステップ(S120)では、演算装置10により、トルクコンバータ3がロックアップ機構によるロックアップが解除された状態か否かを判定するデータ処理が実行される。トルクコンバータ3のロックアップ状態は、演算装置10が公知のロックアップ機構の制御方法を用いて制御している。この制御によるトルクコンバータ3のロックアップ状態は、ロックアップ信号Sluにより判定できる。ロックアップ信号Sluは、二値信号であり、トルクコンバータ3がロックアップ機構によりロックアップされた状態を「1」で示し、ロックアップが解除された状態を「0」で示している。
【0023】
エンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとを取得するステップ(S130)では、エンジン回転速度取得装置21により取得したエンジン回転速度Neと、タービン回転速度取得装置22により取得したタービン回転速度Ntとが、入出力部を介して、演算装置10に入力される。エンジン回転速度Neおよびタービン回転速度Ntは、トルクコンバータ3がロックアップ機構8によるロックアップが解除された状態(S120:YES以後)で取得されたものとする。エンジン回転速度取得装置21およびタービン回転速度取得装置22の各々は、所定のサンプリング周期で繰り返しエンジン回転速度Neやタービン回転速度Ntを取得している。そこで、このステップでは、ロックアップ信号Sluが「0」になった時刻以降に取得されたエンジン回転速度Neおよびタービン回転速度Ntが対象となっている。
【0024】
タービントルクTtを推定するステップ(S140)では、演算装置10により、エンジン回転速度Neおよびタービン回転速度Ntに基づいて、タービントルクTtを推定するデータ処理が実行される。より具体的に説明すると、まず、演算装置10は、エンジン回転速度Neおよびタービン回転速度Ntに基づいて、トルクコンバータ3のトルク比tと容量係数Cpとを推定する。ついで、演算装置10は、推定したトルク比tと容量係数Cpとエンジン回転速度Neとを下記の数式(1)に代入して、タービントルクTtを推定する。トルク比tと容量係数Cpとの推定には、エンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとの回転速度の比である速度比e(=Ne/Nt)を用いることが望ましく、速度比eとエンジン回転速度Neとの二つのパラメータを用いることがより望ましい。
【0025】
【0026】
図4に例示するブロック図は、タービントルクTtを推定するステップ(S140)を示している。トルク比tは、トルク比ルックアップテーブル14を用いて推定されている。容量係数Cpは、容量係数ルックアップテーブル15を用いて推定されている。
【0027】
図5に例示するトルク比ルックアップテーブル14は、速度比eおよびエンジン回転速度Neの各々とトルク比tとの予め把握されている相関関係を示している。トルク比ルックアップテーブル14は、三次元のテーブルであり、X軸(または、ロウ)が速度比eであり、Y軸(または、カラム)がエンジン回転速度Neであり、Z軸(または、フィールド)がトルク比tである。トルク比ルックアップテーブル14は、演算装置10の補助記憶部13に記憶されている。速度比eおよびエンジン回転数Neの各々とトルク比tとの相関関係は、予め実験や試験、あるいは、コンピュータシミュレーションにより把握されている。トルク比tと速度比eとの相関関係は、強い負の相関であり、速度比eが大きくなるにつれてトルク比tが小さくなっている。また、トルク比tとエンジン回転速度Neとの相関関係は、トルク比tと速度比eとの相関関係における変化量よりも乏しい変化量ではあるが、同じ速度比eでもエンジン回転速度Neが異なればトルク比tも異なっており、強い相関がある。トルク比tとエンジン回転数Neとの相関関係は、概ね正の相関である。
【0028】
図6に例示する容量係数ルックアップテーブル15は、速度比eおよびエンジン回転速度Neの各々と容量係数Cpとの予め把握されている相関関係を示している。容量係数ルックアップテーブル15は、三次元のテーブルであり、X軸(または、ロウ)が速度比eであり、Y軸(または、カラム)がエンジン回転速度Neであり、Z軸(または、フィールド)が容量係数Cpである。容量係数ルックアップテーブル15は、演算装置10の補助記憶部13に記憶されている。速度比eおよびエンジン回転速度Neの各々と容量係数Cpとの相関関係は、予め実験や試験、あるいは、コンピュータシミュレーションにより把握されている。容量係数Cpと速度比eとの相関関係は、図中の下方から上方に向かって凸の曲線となる強い相関がある。容量係数Cpと速度比eとの相関関係は、曲線の極点までは正の相関があり、極点を超えると負の相関がある。極点は、トルクコンバータ3の仕様により異なる。曲線の極点までは速度比eが大きくなるにつれて容量係数Cpが大きくなっており、極点を超えると速度比eが大きくなるにつれて容量係数Cpが小さくなっている。また、容量係数Cpとエンジン回転速度Neの相関関係は、容量係数Cpと速度比eとの相関関係における変化量よりも乏しい変化量ではあるが、同じ速度比eでもエンジン回転速度Neが異なれば容量係数Cpも異なっており、強い相関がある。容量係数Cpとエンジン回転数Neとの相関関係は、概ね正の相関である。
【0029】
トルク比ルックアップテーブル14および容量係数ルックアップテーブル15は、速度比eに比して変化量が乏しいエンジン回転速度Neを用いずに、速度比eとの相関関係のみを示す二次元のテーブルでもよい。ただし、トルク比tや容量係数Cpはエンジン回転速度Neに対しても相関があることから、それらのルックアップテーブルは、速度比eおよびエンジン回転速度Neの各々との相関関係を示す三次元のテーブルが望ましい。それらのルックアップテーブルが三次元のテーブルで構成されることで、容量係数Cpと速度比eとの相関関係を示す二次元のテーブルよりもトルク比tや容量係数Cpの推定の精度の向上には有利になる。なお、それらのルックアップテーブルは、三次元マップあるいは三次元グラフの形式に限定されずに、速度比e、エンジン回転速度Ne、および、トルク比tや容量係数Cpの各々を数値で示す表の形式でもよい。
【0030】
図3の駆動トルクTwを推定するステップ(S150)では、演算装置10により、推定したタービントルクTtに基づいて、駆動トルクTwを推定するデータ処理が実行される。より具体的に説明すると、演算装置10は、推定したタービントルクTtと、トランスミッション4の変速ギア比Grと、ディファレンシャルギア6の終段ギア比Gfと、トルクコンバータ3から駆動輪7までのトルクの伝達効率teと、を下記の数式(2)に代入して、駆動トルクTwを推定する。
【0031】
【0032】
変速ギア比Grは、変速ギア段取得装置25により取得されたトランスミッション4の変速ギア段Ngに応じたギア比であり、変速ギア段Ngごとに異なる固定値であり、演算装置10の補助記憶部13に記憶されている。終段ギア比Gfは、ディファレンシャルギア6の仕様に応じた固定値であり、演算装置10の補助記憶部13に予め記憶されている。伝達効率teは、公知の推定手法を用いて推定することができる。推定手法としては、トランスミッション4での伝達効率とディファレンシャルギア6での伝達効率とに基づいて推定する手法が例示される。トランスミッション4での伝達効率は、変速ギア段Ngごとに異なっていて、エンジン回転速度NeおよびタービントルクTtの各々に対して相関関係がある。そこで、トランスミッション4での伝達効率は、変速ギア段Ngごとに設定されていて、フィールドが伝達効率、ロウがエンジン回転速度Ne、カラムがタービントルクTtの三次元のルックアップテーブルを用いて推定するとよい。トランスミッション4での伝達効率の推定にも用いるルックアップテーブルは、予め実験や試験、あるいは、コンピュータシミュレーションにより作成されて、演算装置10の補助記憶部13に記憶されている。
【0033】
上記の(S110)~(S150)の各ステップにより推定された駆動トルクTwは、演算装置10の補助記憶部13に記憶される。これで、駆動トルクTwの演算方法が完了する。なお、駆動トルクTwは時々刻々と変化する車両パラメータであり、全てを補助記憶部13に保存すると、補助記憶部13の記憶領域を圧迫することになる。そこで、駆動トルクTwの補助記憶部13に記憶される期間を設定して、その期間の経過後に削除したり、後述する重量mの演算方法での重量mの推定が完了した後に削除したりするとよい。
【0034】
以上のように、本実施形態によれば、推定された駆動トルクTwが、車両1の走行中に取得可能な実測値であるエンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとを用いて推定されたタービントルクTtを用いて推定されている。エンジン回転速度Neやタービン回転速度Ntは、分解能が高く、計測精度も高い回転速度センサを用いて取得されており、誤差が小さい変数となっている。それ故、誤差が小さい変数に基づいて推定されたタービントルクTtも、誤差が小さくなる。このように、本実施形態は、車両1の制御に使用される目標値や指示値を用いる手法に比して、誤差の要因をより少なくすることで、駆動トルクTwを高精度に推定することができる。
【0035】
図7に車両パラメータの演算方法として車両1の重量mの演算方法の一例を示す。まず、推定に要するパラメータを取得または推定する(S210)。ついで、各種のパラメータに基づいて仮推定値Mxを仮推定する(S220)。ついで、推定条件が成立するか否かを判定して(S230)、推定条件が成立したと判定した場合に(S230:YES)、重量mを推定する(S240)。以下に、(S210)~(S240)の各ステップの内容を詳述する。
【0036】
パラメータを取得するステップ(S210)では、演算装置10による推定や各種のパラメータ取得装置による取得により、重量mの推定に要するパラメータが取得される。重量mの推定に要するパラメータは、変数が、速度Vx、加速度Gx、駆動トルクTw、路面勾配β、および、回転部分相当量Δmであり、固定値が、転がり抵抗係数μr、駆動輪7の車輪径rw、空気密度ρ、車両1の前面投影面積Af、および、空気抵抗係数Cdである。
【0037】
速度Vxは、速度取得装置23により取得される。加速度Gxは、加速度取得装置24により取得される。駆動トルクTwは、
図3の各ステップ(S110~S150)で示されるデータ処理が演算装置10により実行されることにより、推定される。
【0038】
路面勾配βは、演算装置10により取得した速度Vxおよび加速度Gxに基づいたデータ処理が実行されることにより、推定される。路面勾配βを推定するデータ処理では、公知の路面勾配の推定手法を用いることができる。公知の推定手法としては、取得した加速度Gxと取得した速度Vxの微分値Vx’と重力加速度gとを以下の数式(3)に代入して、路面勾配βを推定する手法が例示される。
【0039】
【0040】
加速度取得装置24として、百分率で表される勾配を出力するGセンサを用いる場合には、その百分率で表される勾配から換算した車両1の前後方向の加速度Gxが用いられる。また、取得した加速度Gxや速度Vx、あるいは、推定された路面勾配βに対して、一次遅れのローパスフィルタなどの公知のフィルタにより、センサの機械誤差、路面表面の段差や凹凸、障害物などの影響によるノイズを除去してもよい。加えて、車両1にピッチング運動が生じる場合には、システム同定により作成したピッチングモデルを用いてピッチ角を算出し、そのピッチ角で推定した路面勾配βを補正してもよい。なお、路面勾配βが十分に小さい場合には、逆正弦関数を用いずに、加速度Gxから微分値Vx’を減算した値を重力加速度gで除算した値を路面勾配βとしてもよい。
【0041】
回転部分相当量Δmは、トランスミッション4の変速ギア段Ngに基づいたデータ処理が演算装置10により実行されることにより、推定される。回転部分相当質量Δmは、車両1の走行中に回転する質量を表しており、トランスミッション4の変速ギア段Ngに応じて変動する値である。回転部分相当質量Δmの推定には、公知の推定手法を用いることができる。推定手法としては、フィールドが回転部分相当質量Δm、ロウが変速ギア段Ngの二次元のルックアップテーブルを用いる手法が例示される。
【0042】
固定値である、転がり抵抗係数μr、駆動輪7の車輪径rw、空気密度ρ、車両1の前面投影面積Af、および、空気抵抗係数Cdの各々は、演算装置10の補助記憶部13に記憶されている。転がり抵抗係数μr、空気密度ρ、および、空気抵抗係数Cdの各々は公知の数値を用いることができる。車輪径rw、および、前面投影面積Agは、車両1の固有のパラメータであり、車両1ごとに異なる。
【0043】
仮推定値Mnを仮推定するステップ(S220)では、演算装置10により、取得したパラメータに基づいて、仮推定Mnを仮推定するデータ処理が実行される。より具体的に説明すると、演算装置10は、取得したパラメータを下記の数式(4)~(6)に代入して、仮推定値Mnを仮推定する。なお、下記の数式(4)~(6)は、公知の車両1の前後方向の運動方程式を、重量mについて整理したものである。車両1の前後方向の運動方程式とは、車両1の運動量と、
図1に示す駆動力Fwから空気抵抗力Fa、転がり抵抗力Fμ、および、勾配抵抗力Fgを減算した値とが、等しくなることを示したものである。仮推定値Mnは、第一変数φxと第二変数φyとの比として表されている。
【0044】
【0045】
このステップでは、仮推定値Mnの第一変数φxと第二変数φyとが数値化されていれば、仮推定値Mnが数値化されていなくてもよい。そのため、このステップでは、データ処理結果として、第一変数φxと第二変数φyとが補助記憶部13に記憶されていればよい。なお、場合に応じて、仮推定値Mnも数値化して補助記憶部13に記憶させてもよい。
【0046】
推定条件が成立したか否かを判定するステップ(S230)では、演算装置10により、パラメータの値で変化する予め把握している推定への影響度に基づいて、パラメータの値の影響度が基準よりも低くなる値になったか否かを判定するデータ処理が実行される。なお、このステップでの複数のパラメータは、重量mの推定に要するパラメータと同一のものも存在するが、異なるものも含んでいる。より具体的に説明すると、演算装置10は、下記の数式(7)~(17)で表される複数の判定式を用いて推定条件が成立したか否かを判定する。
【0047】
推定への影響度は、推定した重量mに含まれる誤差の大きさや推定のデータ処理に影響を及ぼす度合いを示す。パラメータの値の影響度が基準より低くなる条件で推定された重量mに含まれる誤差は小さくなり、推定のデータ処理も完了する。一方で、パラメータの値の影響度が基準より高くなる条件で推定された重量mに含まれる誤差は大きくなるか、推定のデータ処理が中断して完了しない。推定のデータ処理の中断は、必要なパラメータが取得できない場合などに生じる。この影響度の程度は、当業者であれば、公知の種々の文献、多数の実験や試験データの蓄積やコンピュータシミュレーション結果の蓄積などに基づいて概ね把握されている。下記の数式(7)~(17)の判定式はこのような当業者の知見を利用している。影響度の基準は任意に設定することができ、推定した重量mに求められる精度に応じて設定すればよい。
【0048】
【0049】
数式(7)の判定式は、ブレーキ信号Sbrをパラメータとし、ブレーキ装置が作動して(Sbr=1)、ブレーキ装置による制動力が車両1に付与された場合を影響度が高いと見做し、ブレーキ装置が作動しておらず(Sbr=0)、制動力が車両1に付与されていない場合を影響度が基準よりも低いと見做している。数式(8)の判定式は、ロックアップ信号Sluをパラメータとし、ロックアップ状態(Slu=1)を影響度が高いと見做し、ロックアップが解除された状態(Slu=0)を影響度が基準よりも低いと見做している。より詳細には、ロックアップ状態ではタービントルクTtを推定することが不可能であり、重量mも推定することが不可能な状態である。
【0050】
数式(9)は、トランスミッション4の変速ギア段Ngが、車両1の発進時に使用される2速であることを示している。数式(9)の判定式は、変速ギア段Ngをパラメータとし、変速ギア段Ngが2速以外で、車両1が発進時以外の走行状態である場合を影響度が高いと見做し、変速ギア段Ngが2速で車両1が発進時の走行状態を含む走行状態である場合を影響度が基準よりも低いと見做している。数式(9)の判定式のみでは、車両1が発進時の走行状態であるかを判定することはできない。そこで、数式(9)と他の判定式を用いて車両1が発進時の走行状態であることを特定してもよい。他の判定式としては、速度Vxが所定の閾値以下であることを示す判定式が例示される。なお、車両1の発進時に使用される変速ギア段Ngは2速に限定されるものではなく、他の変速ギア段(例えば、1速)を使用してもよい。
【0051】
数式(10)の速度閾値Vminは、速度取得装置23により取得可能な速度Vxの下限値を示している。数式(10)の判定式は、速度Vxをパラメータとし、速度Vxが速度閾値Vmin以下の場合を影響度が高いと見做し、速度Vxが速度閾値Vminよりも速い場合を影響度が基準よりも低いと見做している。数式(11)の駆動力閾値Fmaxは、予め実験や試験、コンピュータシミュレーションにより求められている。数式(11)の判定式は、駆動力Fw(駆動トルクTw/車輪径rw)をパラメータとし、駆動力Fwが駆動力閾値Fmax以下の場合を影響度が高いと見做し、駆動力Fwが駆動力閾値Fmaxよりも大きい場合を影響度が基準よりも低いと見做している。数式(12)の判定式は、駆動力Fwの単位時間あたりの変位ΔFwをパラメータとして、その変位ΔFwが負である場合(駆動力Fwが減少傾向の場合)に影響度が高いと見做して、その変位ΔFwがゼロあるいは正である場合に影響度が基準よりも低いと見做している。
【0052】
数式(13)の範囲(最小値Mmin~最大値Mmax)は、最小値Mminが車両1の最小積載時の重量を示し、最大値Mmaxが車両1の最大積載時の重量を示している。なお、最小値Mminおよび最大値Mmaxの各々は、計測誤差を考慮して、最小積載時の重量から計測誤差分を減らし、最大積載時の重量に計測誤差分を加えて範囲を広げてもよい。数式(13)の判定式は、仮推定値Mn(第二変数φy/第一変数φx)をパラメータとし、仮推定値Mnが範囲から外れた場合を影響度が高いと見做して、仮推定値Mnが範囲に収まった場合を影響度が基準よりも低いと見做している。
【0053】
数式(14)の範囲(0.0~0.95)は、予め実験や試験、コンピュータシミュレーションにより求められている。数式(14)の判定式は、速度比eをパラメータとして、速度比eが範囲(0~0.95)から外れた場合を影響度が高いと見做して、速度比eが範囲に収まった場合を影響度が基準よりも低いと見做している。数式(15)の判定式は、速度比eの単位時間あたりの変位Δeをパラメータとして、その変位Δeが負である場合(速度比eが減少傾向の場合)に影響度が高いと見做して、その変位Δeがゼロあるいは正である場合に影響度が基準よりも低いと見做している。
【0054】
数式(16)の操舵角閾値δmaxは、駆動輪7に作用する横力の前後方向成分が大きく影響する操舵角を示している。数式(16)の判定式は、操舵角δhの絶対値をパラメータとして、操舵角δhの絶対値が操舵角閾値δmax以上の場合を影響度が高いと見做して、操舵角δhの絶対値が操舵角閾値δmaxよりも小さい場合を影響度が基準よりも低いと見做している。数式(17)の勾配閾値Δβmaxは、路面勾配βの推定精度が低下する路面勾配βの単位時間あたりの変位Δβを示している。数式(17)の判定式は、その変位Δβの絶対値をパラメータとして、その変位Δβの絶対値が勾配閾値Δβmax以上の場合に影響度が高いと見做して、その変位Δβの絶対値が勾配閾値Δβmaxよりも小さい場合に影響度が基準よりも低いと見做している。
【0055】
推定条件が成立したか否かの判定は、上記の数式(7)~(17)の判定式に限定されるものでは無く、推定への影響度に基づいて、他の判定式を追加してもよい。また、状況に応じて、上記の数式(7)~(17)の判定式のうちからいくつかの判定式を削除してもよい。ただし、推定条件は少なくとも上記の数式(13)の判定式を含むことが望ましい。
【0056】
重量mを推定するステップ(S240)では、演算装置10により、上記の推定条件が成立したときの仮推定値Mnに基づいて、重量mを推定するデータ処理が実行される。このステップでは、上記の推定条件が成立したときの仮推定値Mnを重量mとして出力してもよいが、仮推定値Mnの仮推定で用いた各パラメータ(速度Vx、加速度Gx、駆動トルクTw、および、路面勾配β)に、計測誤差が含まれている可能性がある。そこで、このステップでは、重量mを推定するデータ処理として、平準化処理を用いることが望ましい。
【0057】
平準化処理では、演算装置10により、重量mとして推定条件が成立したときの仮推定値Mnを平準化した値を算出するデータ処理が実行される。平準化処理は、各パラメータ取得装置のサンプリング周期での平準化(対象を一つの仮推定値Mnとした平準化)でもよく、上記の(S210~S230)の各ステップが複数回繰り返される所定の期間(サンプリング周期×繰り返しの回数)での平準化(対象を複数の仮推定値Mnとした平準化)でもよい。所定の期間としては、推定条件が成立してから(S230:YES)、複数回の(S210~S230)の各ステップが複数回繰り返された後に推定条件が不成立になるまで(S230:NO)の期間が例示される。このように、推定条件が成立してから推定条件が不成立になるまでの期間を用いることで、平準化の対象となる複数の仮推定値Mnが時間的に連続したものになる。平準化処理では、公知の平準化の手法を用いることができる。平準化の手法としては、サンプリング周期や所定の期間での平均値、中央値、あるいは、中間値などを用いる手法、RLS(再帰的最小二乗)アルゴリズムやLMS(最小平均二乗)アルゴリズムなどの適応アルゴリズムを利用した適応フィルタを用いる手法が例示される。
【0058】
本実施形態では、一例として仮推定値Mnの第一変数φxの平均値と第二変数φyの平均値と比の値を重量mとして算出する手法を用いている。この手法では、仮推定値Mnの第一変数φxおよび第二変数φyの各々が独立変数を時間とする関数であることから、第一変数φxを時間で積分した積分値と第二変数φyを時間で積分した積分値とを使用した下記の数式(18)を用いている。下記の数式(18)では、sをサンプリング周期または所定の期間(サンプリング周期×繰り返しの回数)とする。
【0059】
【0060】
以上のように、本実施形態によれば、前述した駆動トルクTwの演算方法により推定された高精度の駆動トルクTwを重量mの推定に用いることで、重量mも高精度に推定することが可能となる。このような高精度に推定された駆動トルクTwや重量mを用いることで、より高精度の車両1の制御が具現化される。
【0061】
本実施形態は、重量mとして、仮推定値Mnを平準化した値を出力している。それ故、推定に要するパラメータ(速度Vx、加速度Gx、駆動トルクTw、路面勾配β)に計測誤差が含まれていたとしても、その計測誤差の影響を低減することができる。
【0062】
また、本実施形態は、重量mを推定する前提として、推定条件が成立したか否かを判定し、推定した重量mに含まれる誤差の大きさに影響を及ぼす度合いが高い状況では、重量mの推定が許可されない。このように、重量mの推定を許可する条件を設けることで、より適した推定条件下で重量mが推定されることになり、重量mの推定の精度の向上には有利になる。
【0063】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示の車両パラメータの演算装置および演算方法は特定の実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 車両
2 エンジン
3 トルクコンバータ
4 トランスミッション
5 プロペラシャフト
6 ディファレンシャルギア
7 駆動輪
10 演算装置
21 エンジン回転速度取得装置
22 タービン回転速度取得装置
23 速度取得装置
24 加速度取得装置
【手続補正書】
【提出日】2023-08-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとトランスミッションとの間にトルクコンバータが介在する車両の走行中に、駆動輪に伝達される駆動トルクを推定する車両パラメータの演算装置において、
前記トルクコンバータのロックアップが解除された状態で、エンジン回転速度取得装置が取得した前記エンジンのエンジン回転速度、および、タービン回転速度取得装置が取得した前記トルクコンバータのタービン回転速度に基づいて、前記トルクコンバータのタービントルクを推定するデータ処理と、推定した前記タービントルクに基づいて、前記駆動トルクを推定するデータ処理と、を実行する構成であり、
前記エンジン回転速度、前記エンジン回転数および前記タービン回転速度の速度比の各々と前記トルクコンバータのトルク比との予め把握されている相関関係を示すルックアップテーブルと、前記エンジン回転速度、前記速度比の各々と前記トルクコンバータの容量係数との予め把握されている相関関係を示すルックアップテーブルと、の二つのルックアップテーブルを有していて、
前記タービントルクを推定するデータ処理では、前記エンジン回転速度および前記速度比と前記二つのルックアップテーブルとが用いられて、前記トルク比および前記容量係数の各々が推定され、推定された前記トルク比および前記容量係数に基づいて前記タービントルクが推定されることを特徴とする車両パラメータの演算装置。
【請求項2】
推定した前記駆動トルクを含むパラメータに基づいて、前記車両の重量を推定するデータ処理を実行する請求項1に記載の車両パラメータの演算装置。
【請求項3】
前記車両の重量を推定するデータ処理では、前記パラメータに基づいて前記車両の重量を仮推定した仮推定値を出力するデータ処理と、前記車両の重量として前記仮推定値を平準化した値を算出するデータ処理と、を実行する請求項2に記載の車両パラメータの演算装置。
【請求項4】
前記仮推定値は、前記車両の前後方向の運動方程式を変形して得られた第一変数と第二変数との比で表されており、前記平準化した値を算出するデータ処理では、前記第一変数の平均値と前記第二変数の平均値との比の値として前記車両の重量が算出される請求項3に記載の車両パラメータの演算装置。
【請求項5】
エンジンとトランスミッションとの間にトルクコンバータが介在する車両の走行中に、前記トルクコンバータのロックアップが解除された状態で、前記エンジンのエンジン回転速度および前記トルクコンバータのタービン回転速度を取得し、
取得した前記エンジン回転速度、前記エンジン回転数および前記タービン回転速度の速度比、前記エンジン回転速度および前記速度比の各々と前記トルクコンバータのトルク比との予め把握されている相関関係を示すルックアップテーブル、前記エンジン回転速度および前記速度比の各々と前記トルクコンバータの容量係数との予め把握されている相関関係を示すルックアップテーブル、を用いて、前記トルク比および前記容量係数の各々を推定し、
推定した前記トルク比および前記容量係数に基づいて、前記トルクコンバータのタービントルクを推定し、
推定した前記タービントルクに基づいて、前記車両の走行中に駆動輪に伝達される駆動トルクを推定することを特徴とする車両パラメータの演算方法。
【請求項6】
推定した前記駆動トルクを含むパラメータに基づいて、前記車両の重量を推定する請求項5に記載の車両パラメータの演算方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
上記の目的を達成する本発明の一態様の車両パラメータの演算装置は、エンジンとトランスミッションとの間にトルクコンバータが介在する車両の走行中に、駆動輪に伝達される駆動トルクを推定する車両パラメータの演算装置において、前記トルクコンバータのロックアップが解除された状態で、エンジン回転速度取得装置が取得した前記エンジンのエンジン回転速度、および、タービン回転速度取得装置が取得した前記トルクコンバータのタービン回転速度に基づいて、前記トルクコンバータのタービントルクを推定するデータ処理と、推定した前記タービントルクに基づいて、前記駆動トルクを推定するデータ処理と、を実行する構成であり、前記エンジン回転速度、前記エンジン回転数および前記タービン回転速度の速度比の各々と前記トルクコンバータのトルク比との予め把握されている相関関係を示すルックアップテーブルと、前記エンジン回転速度、前記速度比の各々と前記トルクコンバータの容量係数との予め把握されている相関関係を示すルックアップテーブルと、の二つのルックアップテーブルを有していて、前記タービントルクを推定するデータ処理では、前記エンジン回転速度および前記速度比と前記二つのルックアップテーブルとが用いられて、前記トルク比および前記容量係数の各々が推定され、推定された前記トルク比および前記容量係数に基づいて前記タービントルクが推定されることを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
本発明の一態様の車両パラメータの演算方法は、エンジンとトランスミッションとの間にトルクコンバータが介在する車両の走行中に、前記トルクコンバータのロックアップが解除された状態で、前記エンジンのエンジン回転速度および前記トルクコンバータのタービン回転速度を取得し、取得した前記エンジン回転速度、前記エンジン回転数および前記タービン回転速度の速度比、前記エンジン回転速度および前記速度比の各々と前記トルクコンバータのトルク比との予め把握されている相関関係を示すルックアップテーブル、前記エンジン回転速度および前記速度比の各々と前記トルクコンバータの容量係数との予め把握されている相関関係を示すルックアップテーブル、を用いて、前記トルク比および前記容量係数の各々を推定し、推定した前記トルク比および前記容量係数に基づいて、前記トルクコンバータのタービントルクを推定し、推定した前記タービントルクに基づいて、前記車両の走行中に駆動輪に伝達される駆動トルクを推定することを特徴とする。