(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135007
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】空調システム及び空調方法
(51)【国際特許分類】
F24F 5/00 20060101AFI20230921BHJP
F24F 11/74 20180101ALI20230921BHJP
【FI】
F24F5/00 K
F24F11/74
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039999
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 剛
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260AB07
3L260BA45
3L260CA03
3L260CA25
3L260CB44
3L260FB12
(57)【要約】
【課題】効率的な空調を実現するための空調システム及び空調方法を提供する。
【解決手段】空調システムA1は、スラブ100によって形成される室内S1を空調対象空間とする。空調システムA1は、スラブ100の表面から離れた位置に、スラブ100の表面の少なくとも一部を覆うように設けられ、通気口221が形成された放射パネル220と、放射パネル220に接して、並設され、温度調節された流体を流す配管222と、放射パネル220に支持されて、通気口221を通じてスラブ100に向かう第1気流を形成する第1駆動状態と、通気口221を通じて室内S1に向かう第2気流を形成する第2駆動状態と、停止状態とを切り替えて制御されるファン223と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント組成物製の躯体によって形成される空間を空調対象空間とする空調システムであって、
前記躯体の表面から離れた位置に、前記躯体の表面の少なくとも一部を覆うように設けられ、開口部が形成された放射パネルと、
前記放射パネルに接して並設されて、温度調節された流体を流す配管と、
前記放射パネルに支持されて、前記開口部を通じて前記躯体に向かう第1気流を形成する第1駆動状態と、前記開口部を通じて前記空調対象空間に向かう第2気流を形成する第2駆動状態と、停止状態とを切り替えて制御されるファンと、を備えることを特徴とする空調システム。
【請求項2】
前記ファンは、前記配管の間に位置するように前記放射パネルに、着脱可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の空調システム。
【請求項3】
前記配管および前記ファンは、前記躯体の表面と前記放射パネルとの間に位置していることを特徴とする請求項1又は2に記載の空調システム。
【請求項4】
前記ファンの駆動を制御する制御装置を更に備え、
前記制御装置は、切替条件に応じて、前記ファンの正反転及び停止の駆動を制御することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の空調システム。
【請求項5】
前記切替条件には時間的条件が含まれており、予め定められたスケジュールに基づいて、前記ファンの正反転及び停止の駆動を制御することを特徴とする請求項4に記載の空調システム。
【請求項6】
前記制御装置は、センサから前記空調対象空間の状態情報を取得し、前記状態情報及び前記切替条件に基づいて、前記ファンの正反転及び停止の駆動を制御することを特徴とする請求項4又は5に記載の空調システム。
【請求項7】
前記センサは、前記空調対象空間の温度、前記空調対象空間の人の所在の少なくとも1つを計測することを特徴とする請求項6に記載の空調システム。
【請求項8】
セメント組成物製の躯体によって形成される空間を空調対象空間とする空調方法であって、
前記躯体の表面から離れた位置に、前記躯体の表面の少なくとも一部を覆うように設けられ、開口部が形成された放射パネルと、
前記放射パネルに接して並設されて、温度調節された流体を流す配管と、
前記放射パネルに支持されたファンと、を備え、
前記ファンを、前記開口部を通じて前記躯体に向かう第1気流を形成する第1駆動状態と、前記開口部を通じて前記空調対象空間に向かう第2気流を形成する第2駆動状態と、停止状態とを切り替えて制御することを特徴とする空調方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温冷水配管を用いた空調システム及び空調方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射空調方式は、遠赤外線を介して、天井などに設置の放射源と室内対象との間で直接エネルギーを授受する。空気を介する対流空調に比べて、省エネルギー性と、不快な気流感や室内上下温度差が少ないという快適性との両立が可能である。
【0003】
天井放射空調により、天井全域にわたり略一様な放射面を形成可能な空調システムも検討されている(例えば、特許文献1を参照)。この文献に記載された技術では、天井板の天井面及びベーンの上面に挟まれて形成されるスリット状の吹出口は、流路からの気流を空調対象空間に向けて吹き出す。
【0004】
また、放射空調システムのパイプを天井に取り付けるための取付構造も検討されている(例えば、特許文献2を参照)。この文献に記載された取付構造では、建物内の天井スラブの下方に設けられる平面状のプレートと、プレートに取り付けられてパイプを保持するパイプ保持具とを備える。プレートを固定する取付構造により、パイプ保持具が取り付けられた逆面が天井スラブに対向かつ離隔させて、プレートが天井スラブに取り付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-90034号公報
【特許文献2】特開2019-113297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、室内機を設ける必要がある。また、特許文献2に記載された技術では、温度調節はパイプに流される温冷水によって行なっている。この場合、効率的な空調を期待できない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する空調システムは、セメント組成物製の躯体によって形成される空間を空調対象空間とする。そして、前記躯体の表面から離れた位置に、前記躯体の表面の少なくとも一部を覆うように設けられ、開口部が形成された放射パネルと、前記放射パネルに接して、並設され、温度調節された流体を流す配管と、前記放射パネルに支持されて、前記開口部を通じて前記躯体に向かう第1気流を形成する第1駆動状態と、前記開口部を通じて前記空調対象空間に向かう第2気流を形成する第2駆動状態と、停止状態とを切り替えて制御されるファンと、を備える。この第1駆動状態により、躯体蓄熱を期待できる。また、第2駆動状態により、放射空調の補完や促進を期待できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、効率的な空調を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態における空調システムの説明図である。
【
図2】実施形態におけるシステム構成の説明図である。
【
図3】実施形態におけるハードウェア構成の説明図である。
【
図4】実施形態における第1モードの説明図である。
【
図5】実施形態における第2モードの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1~
図5を用いて、空調対象空間としての室内S1の温度を調節する空調システムA1及び空調方法を説明する。
図1に示すように、空調システムA1には、スラブ100(セメント組成物製の躯体)が用いられる。スラブ100は、コンクリート材101とデッキプレート102により構成される。コンクリート材101は、鋼製のデッキプレート102を型枠として打設されたコンクリートである。
【0011】
(放射パネルの構成)
デッキプレート102には、デッキプレート102の表面から離れた位置に、吊りボルト211を介して、放射パネル220が吊り下げられる。この放射パネル220は、スラブ100の表面の少なくとも一部を覆うように並設される。放射パネル220は、後述するファン223の風が、デッキプレート102に到達可能な距離で配置される。この距離は、後述するファン223の送風性能に応じて決定すればよく、例えば、10cm程度である。具体的には、吊りボルト211にナットで固定したり、放射パネル220を把持するハンガーを用いたりして、放射パネル220を吊り下げる。
【0012】
放射パネル220のサイズは、搬入や取付等を考慮して、例えば、幅(短手)60cm程度、長さ(長手)1.5~3m程度である。放射パネル220の下面の全部又は一部には、複数の孔(開口部)が形成されたメッシュにより通気口221が設けられている。
【0013】
更に、放射パネル220の上面には、所定の間隔で並設された配管222が、直接またはヒートシンクを介して接触するようにして延在される。この配管222は、隣接する放射パネル220間で相互に接続される。そして、冷房の場合には、配管222には、温度調節された流体を、常時流す。流体としては、例えば、冷房の場合には、空調冷却水として、比較的にポテンシャルが低い15~20℃の冷水(例えば地下水等)を用いることができる。なお、流体はヒートポンプ等を用いて、結露しない程度に温度調節してもよい。
【0014】
また、隣接する配管222の間には、放射パネル220に支持されたファン223が、所定距離(例えば、数10cm)の間隔で設けられる。例えば、幅(短手)方向に、2つのファン223を設ける。ファン223は、放射パネル220に着脱機構(例えば、クランプや面ファスナ、磁石等)により着脱可能に取り付けられる。ファン223は、厚みが薄いファン、例えば、USB(Universal Serial Bus)規格(定格電圧:DC5V)で駆動可能なDC冷却ファンを用いる。このファン223は、ケーブルラック(図示せず)からのケーブルで、USBジャックから電力が供給されて、電圧に応じて正反転の切替可能である。
【0015】
図4に示すように、コンクリート材101に蓄熱する場合には、ファン223を正転させて、コンクリート材101側への上方送風(第1気流)を行なう(第1駆動状態として、蓄熱のための第1モード)。
【0016】
一方、
図5に示すように、コンクリート材101の蓄熱を、室内S1に放熱する場合には、ファン223を反転させて、コンクリート材101側から室内S1側への下方送風(第2気流)を行なう(第2駆動状態としての放熱のための第2モード)。
図2に示すように、ファン223は、制御装置231によって駆動制御される。制御装置231は、切替条件に応じて、正反転の駆動を制御する。なお、制御方法は、環境に応じて任意に設定可能である。例えば、ファン223を停止状態にして、放射パネル220からの放射空調を行なう第3モード(放射モード)を用いてもよい。
【0017】
(ハードウェア構成)
次に、
図3を用いて、制御装置231を構成する情報処理装置H10のハードウェア構成を説明する。情報処理装置H10は、通信装置H11、入力装置H12、表示装置H13、記憶装置H14、プロセッサH15を備える。なお、このハードウェア構成は一例であり、他のハードウェアにより実現することも可能である。
【0018】
通信装置H11は、他の装置との間で通信経路を確立して、データの送受信を実行するインタフェースであり、例えばネットワークインタフェースや無線インタフェース等である。
【0019】
入力装置H12は、ユーザ等からの入力を受け付ける装置であり、例えばマウスやキーボード等である。例えば、ユーザによる設定温度、寒暖の申告、ファンの風向き又は稼働の要否を受け付ける。表示装置H13は、各種情報を表示するディスプレイ等である。記憶装置H14は、制御装置231の各種機能を実行するためのデータや各種プログラムを格納する。記憶装置H14の一例としては、ROM、RAM、ハードディスク等がある。
【0020】
プロセッサH15は、記憶装置H14に記憶されるプログラムやデータを用いて制御装置231における各処理を制御する。プロセッサH15の一例としては、例えばCPUやMPU等がある。このプロセッサH15は、ROM等に記憶されるプログラムをRAMに展開して、各処理のための各種プロセスを実行する。
【0021】
(ファンの制御)
この制御装置231は、現在日時を出力するタイマを備える。そして、制御装置231は、記憶装置H14に記録されたスケジュール(時間的条件)に基づいて、ファン223のスケジュール駆動(正転または反転)を行なう。スケジュールには、例えば、第1モード時間帯(夜間)や第2モード時間帯(昼間)を記録しておく。
【0022】
更に、制御装置231は、室内S1(空調対象空間)の状態情報を取得するセンサ232が接続されている。このセンサ232は、室内S1の状態情報として温度(室温)を計測する。更に、躯体(コンクリート材101)の放射温度を計測してもよい。そして、室内S1の室温が目標温度になるように、ファン223の強制駆動を行なう。例えば、室内S1の室温が目標温度より許容範囲を超えて高く、コンクリート材101の温度が目標温度より低い場合には、下方送風による第2モードを強制実行する。更に、室内S1の室温が目標温度より許容範囲を超えて低く、コンクリート材101の温度が目標温度より高い場合には、上方送風による第1モードを強制実行する。なお、室温が安定している場合には、ファン223を停止する停止モードを実行する。
【0023】
(作用)
ファン223の駆動により、放射パネル220や室内S1の熱が処理されてコンクリート材101に蓄熱される。更に、コンクリート材101の蓄熱は、ファン223の反転駆動や輻射により、室内S1に放熱される。
【0024】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、スラブ100から離間した位置に放射パネル220を設ける。これにより、スラブ100を蓄熱材として利用して、室内S1の放射空調を行なうことができる。例えば、室内S1の負荷が変動する場合にも、負荷が小さい場合にはコンクリート材101に蓄熱し、負荷が大きい場合には放熱する。これにより、負荷のバランスを取ることができる。
【0025】
(2)本実施形態では、放射パネル220の上面には、所定の間隔で並設された配管222が、直接またはヒートシンクを介して接触するようにして延在される。配管222をコンクリートスラブ等の躯体に埋め込む場合と異なり、工事が簡易である。
【0026】
(3)本実施形態では、放射パネル220に支持されたファン223が、所定距離(例えば、数10cm)の間隔で設けられる。これにより、スラブ100と放射パネル220とが離れている場合にも、ファン223によるスラブ100への送風を用いて、蓄熱を促進することができる。また、ファン223による室内S1への送風を用いて、強制対流空調、放熱を促進することができる。また、USB規格で駆動可能なDC冷却ファンを用いることにより、省電力の汎用品で送風を実現できる。
また、ファン223は、放射パネル220に着脱機構(例えば、クランプ機構や面ファスナ、磁石等)により取り付けられる。これにより、ファン223の配置変更やメンテナンスが容易である。
また、放射パネル220の上面に配管222、ファン223を設けることにより、室内側の下面の自由度を確保できる。
【0027】
(4)本実施形態では、制御装置231は、ファン223のスケジュール駆動(正転、反転又は停止)を行なう。これにより、室内S1の熱負荷が周期的に変化する場合にも、この周期性を利用して、第1モード、第2モードの駆動モードを切り替えることができる。例えば、夜間電力を利用して、ヒートポンプにより温度調節した生成した温冷水を配管222に流して、スラブ100を蓄熱や冷却するようにしてもよい。
【0028】
また、制御装置231は、センサ232が接続されている。そして、制御装置231は、このセンサ232での計測情報を用いて、駆動モードを切り替える。これにより、空調対象空間や躯体の状況に応じて、ファン223の駆動モードを切り替えることができる。
【0029】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態においては、放射パネル220の上面に、配管222、ファン223を設けた。配管222、ファン223の配置は、放射パネル220の上面に限定されるものではない。
【0030】
図6に示すように、ファン223を放射パネル220の下面に設けてもよい。これにより、ファン223のメンテナンスを容易にすることができる。
また、
図7に示すように、配管222を放射パネル220の下面に設けてもよい。これにより、配管222をフィンとして機能させることにより、放射面積を稼ぐことができる。
また、
図8に示すように、配管222、ファン223を放射パネル220の下面に設けてもよい。これにより、ファン223のメンテナンスの利便性や放射面積の拡大を図ることができる。
【0031】
・上記実施形態においては、空調対象空間や躯体の温度(室温又は放射温度)を計測するセンサ232を用いる。センサ232による空調対象区間の状態の計測は温度に限定されるものではない。例えば、人感センサ等のセンサ232を用いて、人の所在を検知してもよい。空調対象空間内に人を検知した場合には、制御装置231は、早く目標温度になるように調整する空調制御を強制的に行なう。一方、人を検知しない場合には、制御装置231は、省電力を考慮して、空調対象空間の他の状態(例えば、温度)に応じて、目標温度になるように調整する各モードを実行する。
【0032】
・上記実施形態においては、蓄熱先として、デッキプレート102を用いたスラブ100を用いる。ここで、デッキプレート102は必須でない。また、デッキプレート102の形状は限定されるものではない。また、蓄熱を行なう構造体もスラブ100に限定されるものではない。例えば、プレキャストコンクリート床版や、型枠を用いて形成したコンクリートスラブを用いてもよい。また、蓄熱できる構造体(躯体)であれば、コンクリート壁を用いてもよい。
【0033】
・上記実施形態においては、蓄熱を行なう構造体として、スラブ100を用いる。構造体の下面に、蓄熱材を配置してもよい。例えば、潜熱蓄熱材(エコジュール(登録商標))を配置してもよい。
【0034】
・上記実施形態においては、放射パネル220の下面の一部には、複数の孔が形成された通気口221が設けられている。ファン223を配置する領域に通気性があれば、メッシュに限定されるものではない。例えば、スリットでもよい。
【符号の説明】
【0035】
A1…空調システム、100…スラブ、101…コンクリート材、102…デッキプレート、211…吊りボルト、220…放射パネル、221…通気口、222…配管、223…ファン。