(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135028
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】プレキャスト部材
(51)【国際特許分類】
E04C 5/18 20060101AFI20230921BHJP
E04B 1/32 20060101ALI20230921BHJP
E02D 5/30 20060101ALI20230921BHJP
E02D 23/00 20060101ALI20230921BHJP
E21D 11/04 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
E04C5/18
E04B1/32 102G
E02D5/30
E02D23/00 Z
E21D11/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040031
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000229667
【氏名又は名称】日本ヒューム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】田口 拓望
(72)【発明者】
【氏名】上山 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】山下 聡史
(72)【発明者】
【氏名】田中 敏嗣
(72)【発明者】
【氏名】三木 朋広
【テーマコード(参考)】
2D041
2D155
2E164
【Fターム(参考)】
2D041BA03
2D041CA01
2D041DB09
2D041DB16
2D155KA01
2D155KA02
2E164AA02
2E164AA05
2E164AA25
(57)【要約】
【課題】高い強度をもち容易に製造が可能な大型のプレキャスト部材を得る。
【解決手段】このプレキャスト部材1は、超高性能繊維補強コンクリート(UFC)を主成分として構成され、略円筒形状の外面と、この外面と同心となる略円筒形状の内面を有する外壁部10を具備する。外壁部10は、z方向における下側の領域R1では一様に薄く形成された薄肉部10Aとなっているが、上側の領域R2では、これよりも中心軸C1側に向けて厚くされた厚肉部10Bとなっている。これに加え、下側の領域R1では、鉛直方向に沿って内面が中心軸C1側に向かって局所的に突出したリブ11A~11Fが、円周方向において等間隔で形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプレキャスト部材を積層して構造物を構築するプレキャストコンクリート(プレキャスト)工法に用いられる、外面が略円筒形状であるプレキャスト部材であって、
前記外面と、前記略円筒形状の中心軸からみて内側において前記外面と同心の略円筒形状を有する内面と、を有する外壁部を具備し、
前記外壁部が、超高性能繊維補強コンクリート(Ultra High Strength Fiber Reinforced Concrete:UFC)を主成分として構成されたことを特徴とするプレキャスト部材。
【請求項2】
前記超高性能繊維補強コンクリートには複数の金属繊維が含有され、
前記金属繊維の各々が延伸する方向の度数分布が、前記略円筒形状の周方向に沿う方向において最大となることを特徴とする請求項1に記載のプレキャスト部材。
【請求項3】
前記外壁部は、
前記中心軸方向における一方の側において前記中心軸からみた厚さが薄く設定された薄肉部と、
前記中心軸方向における他方の側において前記中心軸からみた厚さが厚く設定された厚肉部と、
を具備することを特徴とする請求項1又は2に記載のプレキャスト部材。
【請求項4】
前記薄肉部において、前記中心軸に向けて局所的に突出するように前記中心軸からみた厚さが周方向において局所的に厚く形成された領域が前記中心軸方向に沿って延伸するように形成されたリブが、前記外壁部と一体化されて周方向において複数形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のプレキャスト部材。
【請求項5】
前記外壁部は、
前記中心軸方向における一方の側において前記中心軸からみた厚さが薄く設定された薄肉部と、
前記中心軸方向における他方の側において前記中心軸からみた厚さが厚く設定された厚肉部と、
を具備し、
前記リブは、前記他方における端部側において、前記厚肉部と一体化されたことを特徴とする請求項4に記載のプレキャスト部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物を構築するために用いられるプレキャスト部材(プレキャストコンクリート部材)に関する。
【背景技術】
【0002】
住居等の構造物を構築する工法としてプレキャストコンクリート(プレキャスト)工法が知られている。プレキャスト工法においては、現場とは異なる場所で予めコンクリートで成形されたプレキャストコンクリートブロック(プレキャスト部材)が現場に搬入され、このプレキャスト部材を現場で組み合わせた構造に対してコンクリートを打設すること等によって、構造体が構築される。この工法によれば、現場でコンクリートの養生を行う必要がない。また、構築現場とは異なる場所において、その生産に適した環境で多数のプレキャスト部材を高精度、高品質で生産することができる。このため、施工期間を短くすることができると共に、信頼性も高めることができる。
【0003】
同様に、プレキャスト部材を用いて橋脚基礎工等の大型の構造物を構築するPCウェル工法も知られている。PCウェル工法においては、短尺の円筒形状とされたプレキャストブロックを中心軸に沿って順次圧入して沈設して長尺の円筒形状の構造物が形成される。この際、この構造物をPC鋼材を用いて緊張させて圧縮応力を付与することによって、完成後の構造物の強度を高めることができる。この工法においても、上記と同様のメリットが得られる。
【0004】
プレキャスト工法、PCウェル工法の特性は、特に使用されるプレキャスト部材の構成によって大きく左右され、特に構築される構造物が大型となる場合には、これに応じた構成の大型のプレキャスト部材が使用される。このような大型のプレキャスト部材を高精度で製造することは容易ではないため、例えば特許文献1には、2ピース構造として形成され、接続部材によって接続されて一体化されるプレキャスト部材が記載されている。また、大型のプレキャスト部材の内部に鉄筋を設けることによって強度を高めることも知られている。
【0005】
また、特許文献2に記載されるように、プレキャスト部材の中に、これをPC鋼棒(鋼材)が貫通させるようなシースを設け、このシースの中に設けられたPC鋼棒にアンカープレートとナットを装着してナットを締め込むことによってPC鋼棒にストレスを導入し、プレキャスト部材(コンクリート)にストレスを導入して、このプレキャスト部材、構造物の強度を高める技術が知られている。このようにプレキャスト部材にストレスを導入する方式として、プレキャスト部材を組み合わせる前にストレスを導入するプリテンション方式、プレキャスト部材を用いて構造物を構築する際に、このプレキャスト部材の内部にコンクリートを打設した後でこのようにストレスを導入するポストテンション方式、が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-143785号公報
【特許文献2】特開2008-285976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特にプレキャスト部材が大型化、薄肉化した場合においては、プレキャスト部材にひび割れ等が発生しやすくなるという問題があった。特に、ポストテンション方式においては、シースの周囲にひび割れが発生しやすくなった。
【0008】
また、このような大型のプレキャスト部材の強度を確保するためには、内部に鉄筋を導入することが有効であるが、この場合には、特に構造が複雑となり、プレキャスト部材の製造が容易ではなかった。プレキャスト部材が大型化したために相対的にプレキャスト部材が薄肉化した場合には、特にこのようなプレキャスト部材の強度の確保は重要となった。
【0009】
このため、高い強度をもち容易に製造が可能な大型のプレキャスト部材が求められた。
【0010】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明のプレキャスト部材は、複数のプレキャスト部材を積層して構造物を構築するプレキャストコンクリート(プレキャスト)工法に用いられる、外面が略円筒形状であるプレキャスト部材であって、前記外面と、前記略円筒形状の中心軸からみて内側において前記外面と同心の略円筒形状を有する内面と、を有する外壁部を具備し、前記外壁部が、超高性能繊維補強コンクリート(Ultra High Strength Fiber Reinforced Concrete:UFC)を主成分として構成されたことを特徴とする。
本発明のプレキャスト部材において、前記超高性能繊維補強コンクリートには複数の金属繊維が含有され、前記金属繊維の各々が延伸する方向の度数分布が、前記略円筒形状の周方向に沿う方向において最大となることを特徴とする。
本発明のプレキャスト部材において、前記外壁部は、前記中心軸方向における一方の側において前記中心軸からみた厚さが薄く設定された薄肉部と、前記中心軸方向における他方の側において前記中心軸からみた厚さが厚く設定された厚肉部と、を具備することを特徴とする。
本発明のプレキャスト部材は、前記薄肉部において、前記中心軸に向けて局所的に突出するように前記中心軸からみた厚さが周方向において局所的に厚く形成された領域が前記中心軸方向に沿って延伸するように形成されたリブが、前記外壁部と一体化されて周方向において複数形成されたことを特徴とする。
本発明のプレキャスト部材において、前記外壁部は、前記中心軸方向における一方の側において前記中心軸からみた厚さが薄く設定された薄肉部と、前記中心軸方向における他方の側において前記中心軸からみた厚さが厚く設定された厚肉部と、を具備し、前記リブは、前記他方における端部側において、前記厚肉部と一体化されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は以上のように構成されているので、高い強度をもち容易に製造が可能な大型のプレキャスト部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係るプレキャスト部材の斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るプレキャスト部材の、中心軸に沿った断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係るプレキャスト部材の、中心軸に垂直な断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係るプレキャスト部材の製造方法を模式的に示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係るプレキャスト部材の製造方法における、UFCとUFC中の金属繊維の流れを模式的に示す図である。
【
図6】実施例として作成された構造体を製造する際の形態を示す斜視図である。
【
図7】実施例として作成された構造体における金属繊維をX線CT画像として観察した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態に係るプレキャスト部材について説明する。このプレキャスト部材1は、超高性能繊維補強コンクリート(Ultra High Strength Fiber Reinforced Concrete:UFC:例えばダクタル(登録商標))を主成分として構成される。UFCは、例えば金属製の繊維を含有するものはWO95/01316号公報に、有機繊維を含有するものはWO99/58468号公報に記載されている。UFCは、通常のコンクリートと比べて、強度、耐久性、靭性に優れていると共に、施工時における流動性が高い。このため、これらの特徴を生かして、UFCは、例えば特開2021-25241号公報に記載されるように床版の接合等に用いられている。
【0015】
UFCの圧縮強度は例えば180N/mm2、引張強度が5N/mm2程度であり、これらの値は繊維材料が添加されない通常のコンクリートの5倍程度であるため、UFCを用いてプレキャスト部材を製造した場合には、UFC自身の強度に起因してプレキャスト部材が高強度となる。しかしながら、これに加えて、UFC自身の性質によって、特に円環状の構成を具備するプレキャスト部材においては、これを構造的に高強度としたものを特に容易に製造できる。このため、UFCを主材料として用いることにより、特に高強度のプレキャスト部材を得ることができる。以下にこの点について説明する。
【0016】
ここで用いられるUFCにおいては、W/B(水結合材比(重量比))が10%~20%、JISA6204に規定された高性能減水剤の結合材に対する比率が1%~2%、JISR5201に規定されたフロー値が240mm~320mmの範囲とされる。このフロー値は、従来プレキャスト部材で用いられたコンクリートの値よりも大きい。すなわち、このUFCは流動性が高い。
【0017】
図1は、このUFCを用いて製造されるプレキャスト部材1を上方側からみた斜視図(a)、下方側からみた斜視図(b)である。ここに示されるように、このプレキャスト部材1は、中心軸付近が空洞とされた略円筒形状の外形を有し、積層後において、この空洞中にコンクリートが打設される。このため、このプレキャスト部材1は、略円筒形状の外面と、この外面と同心となる略円筒形状の内面を有する外壁部10を具備する。図示されるように、円筒形状の中心軸方向を鉛直方向(z軸方向)とし、水平方向にx軸、y軸があるものとする。このプレキャスト部材1を円筒形状のz軸方向に沿って複数積層し、内部の空間にコンクリートを打設することによって構造物を構築することができる。なお、
図1では、後述するリブの一部の記載が便宜上省略されている。
【0018】
また、
図2は、円筒形状の中心軸C1に沿ったプレキャスト部材1の断面図であり、
図3は、
図2におけるA-A方向の断面図(a)、同じくB-B方向の断面図(b)である。なお、
図2においては、後述するリブ、シースの記載が省略されている。
図2に示されるように、外壁部10の外面(中心軸C1からみた外側の表面)には段差は形成されず、この面により単一の円筒形状が形成される。一方、外壁部10の内面(中心軸C1側の表面)は、外壁部10の中心軸C1周りの径方向に沿った厚さが異なり、外面のように一様な構造を具備しない。
【0019】
まず、
図2に示されるように、リブ等を省略した場合において、外壁部10は、z方向における下側の領域R1では一様に薄く形成された薄肉部10Aとなっているが、上側の領域R2では、これよりも中心軸C1側に向けて厚くされた厚肉部10Bとなっている。これに加え、
図3(b)に示されるように、下側の領域R1では、鉛直方向に沿って内面が中心軸C1側に向かって局所的に突出したリブ11A~11F(6つ)が、円周方向において等間隔で形成されている。
図1(a)(b)においては、便宜上紙面手前側にあるリブ11D~11Fの記載が省略されている。
【0020】
また、
図3に示されるように、周方向で隣接する2つのリブの間には、3つずつ(合計18個)のシース12が形成されている。シース12は、厚肉部10Bをz方向で貫通する小さな開口部であり、敷設時にPC鋼棒がここに設けられる。また、実際にはシース12内にグラウトを注入するための構造も設けられるが、これは本願発明とは無関係であるため、その記載は省略されている。また、シース12の記載は
図1では省略されている。
【0021】
薄肉部10Aの水平方向における外径(
図2における水平方向の幅)は厚肉部10Bにおける外径と等しく、薄肉部10Aに対応した領域R1は、厚肉部R2に対応した領域R2よりもz方向において長い。このため、このプレキャスト部材1における主たる部分は薄肉部10Aとなり、厚肉部10B、リブ11A~11Fは、薄肉部10A(プレキャスト部材1)の機械的強度を高める補強部として機能する。このため、これらの補強部が薄肉部10Aと一体化されたプレキャスト部材1は、これらが設けられない場合と比べて高い強度を有する。
【0022】
上記のプレキャスト部材1における、水平方向における外径(
図2における全体の水平方向の幅)は、例えば1m~20mの範囲であり、z軸方向の高さ(領域R1の高さと領域R2の高さの和)は、例えば1m~20mの範囲である。この高さに対する領域R2の高さの比率は、例えば0.01~0.5の範囲である。薄肉部10Aの厚さ(
図2における水平方向の幅)は、例えば5cm~50cmの範囲であり、厚肉部10Bの厚さは、例えば10cm~100cmの範囲である。
【0023】
また、各リブの薄肉部10Aから中心軸C1側へ向けての突出量は、例えば10cm~100cmの範囲であり、リブの本数は上記の例では6本とされたが、例えば4~30本とすることができる。この際、プレキャスト部材1の強度を一様に高めるためには各リブは円周方向で等間隔に設けることが好ましいが、構築される構造物の形状に応じて、例えば特定の部分でこの間隔を他よりも小さくしてもよい。
【0024】
前記のように、UFCを用いることによって、特にこのような形状のプレキャスト部材1を高い強度で容易に製造することができる。このプレキャスト部材1を製造する工程について説明する。
図4は、この状況を模式化して示す図である。ここで、このプレキャスト部材1は、内部にプレキャスト部材1の形状に対応した空洞を有する型枠100中に流動性の高いUFCが充填された上で固化することによって製造される。流動状態のUFCは、ホッパ110内からトレミー管120によって型枠100内の空洞に供給される。なお、前記のようにこのプレキャスト部材1にはリブ11A~11Fが設けられているが、これに対応した型枠の構造は
図4においては記載が省略されており、実際には型枠100の内部の空洞には各リブに対応した構造も設けられている。このため、
図4においては、この空洞は、薄肉部10Aに対応した下側の第1空洞部100A、厚肉部10Bに対応した上側の第2空洞部100Bで構成される。このため、トレミー管120から供給された流動状態のUFCは、重力によって第1空洞部100Aの下側から充填される。
図3におけるシース12やこれに関わる構造は、この状態で設ける必要はなく、UFCの固化後の加工によって形成してもよい。
【0025】
図5は、
図4における領域Wの第1空洞部100A中においてUFCが充填される際の水平方向からみた状況を、経過時間毎に順次(a)~(d)として模式的に示す。実際は第1空洞部100Aは円筒形状であるが、ここではこの空洞は紙面方向に広がる薄板形状であるものとして記載されている。
【0026】
流動状態のUFC200は、領域Wよりも十分に小さなトレミー管120の開口から下方に投入される。ここではUFC200に添加される繊維材料は金属繊維210であるものとし、この金属繊維210が
図5においては模式的に短い線分として記載されている。
【0027】
図5(a)において、投入された時点でのUFC200中における金属繊維210の長さ方向の向き(配向)はランダムであり、各金属繊維210は紙面内の様々な方向に沿って配向する。ただし、このようにUFC200の供給箇所を水平方向において限定した範囲とした場合、UFC200の流動性は高いため、投入されたUFC200は重力によって直下に溜まった後に
図5(b)~(d)中の白矢印で示されるように、水平方向に沿って流れる。この流れに際して、金属繊維210はこの流れ方向に配向する割合が高まる。このため、粘性によって金属繊維210が沈降することが抑制されれば、
図4(d)に示されるように、多くの金属繊維210は水平方向(円筒形状の円周方向)に沿って配向する。
【0028】
このように、UFC200を円筒形状における円周方向に沿って流すことによって、金属繊維210を円周方向に沿って配向させることができ、これによって円筒形状の外周壁、特に薄肉部10Aの強度を高めることができる。一般的には、外壁部が薄いほど機械的強度は低くなる。しかしながら、外壁部10(空洞)が薄いほど、UFC200が流れる方向が制限されるため、このような金属繊維210が配向する効果は大きくなる。このため、上記のようにUFCを用いた構成は、薄い外壁部(あるいは薄肉部)を有するプレキャスト部材において、特に好ましい。
【0029】
このような金属繊維210の配向性の定義、評価方法については、例えば佐々木一成、野村敏雄、「短繊維補強コンクリートの構造性能推定に関する研究」、大林組技術研究所報、No.81、p1、(2017年)に記載されている。すなわち、X線画像等から、金属繊維210の配向が最も支配的となる(度数分布において度数が最大となる)方向が、上記のように円周方向に沿った方向となる。
【0030】
また、
図4においては各リブの記載は省略されているが、従来のプレキャスト部材を構成する材料であった通常のコンクリートと比べて前記のようにUFC200の流動性は高いために、型枠100における幅の狭い領域である第1空洞部100Aや、リブに対応した領域をUFC200で充填することも容易である。このため、各リブ、薄肉部10A、厚肉部10Bが一体化されたプレキャスト部材1を型枠100に忠実に製造することができる。また、上記のような金属繊維210の配向もUFC200の流動に起因するため、この点からもUFC200の流動性が高いことが好ましい。
【0031】
図1等の構造においては、各リブは上側で厚肉部10Bと連結して形成されているが、これらが連結されている必要はなく、かつ厚肉部10Bが設けられずにリブのみが設けられていてもよい。ただし、これらを共に設け、かつこれらを連結させた場合には、下側の薄肉部10A、各リブに対応した部分において特に空洞にUFC200を充填させやすくなり、プレキャスト部材1を特に型枠100に忠実に製造しやすくなる。
【0032】
また、上記のプレキャスト部材1においては、厚肉部10B、各リブを設けたことによって、薄肉部10Aの厚さを薄くした場合でも、固化後の強度を高くすることができるため、補強のための鉄筋を薄肉部10A等の内部に設ける必要がなく、このプレキャスト部材の製造が容易となる。あるいは、鉄筋を設けなくとも、薄肉部10A中の円周方向に沿って配向した金属繊維210が鉄筋と同様に機能する。
【0033】
特に上記のようにUFC200の流動性を高くしつつ固化後の強度を高く維持するためには、
図5の状態において、例えば単位水量を200kg/m
3程度として、W/B(水結合材比(重量比))を10%~20%、JISA6204に規定された高性能減水剤の結合材に対する比率を1%~2%とし、JISR5201に規定されたフロー値を240mm~320mmの範囲とすることが好ましい。フロー値が240mm未満の場合には、流動性が低いために上記のような形状を型枠100に忠実に製造することが困難になり、かつUFCの打設に時間を要する。一方、フロー値が320mmを超えると、流動性が高いという観点からは好ましいが、金属繊維210が沈降しやすくなり一様に金属繊維210を分散させることが困難となるため、金属繊維210による補強の効果が得られにくくなる。
【0034】
実際に、UFCにおける上記のような金属繊維の配向について観察した結果について説明する。ここでは、
図1等に示された形状ではなく、
図6に示されたような薄い矩形体形状の構造体が製造された。すなわち、
図6に示された形状の矩形体形状の空洞300中に、ホッパ110、トレミー管120(45mmΦ)を介して流動状態のUFC200が投入された。前記の外壁部10(特に薄肉部10A)はこのような薄い矩形体形状で近似できることは、前記のように明らかである。ここでは、シース12に対応した構造として、内径26mmΦの円筒形状のチューブ12Aが鉛直方向に沿って並行に10本配置された。ここでは、全高900mmを4段階に分けてUFC200で打設した。
【0035】
図7は、250mmの高さ(前記の4段階における1段目)まで打設をした際の、幅方向の中央付近において隣接するチューブ12A間での金属繊維をX線CT画像として観察した結果であり、
図7(a)はこれを
図6における高さ方向からみた場合、
図7(b)はこれを幅方向からみた場合、をそれぞれ示す。
【0036】
図7(a)においては、金属繊維が特に厚さ方向の両端側において幅方向(水平方向)に配向していることが顕著である。幅方向からみた
図7(b)においては、厚さ方向の両端側で金属繊維が疎になっている(密度が低くなっている)ようにみえることも、紙面と垂直方向(幅方向)に金属繊維が配向していることを示唆する。すなわち、この結果から、金属繊維が幅方向(水平方向)に配向しやすくなることが確認できる。
【0037】
上記の例においては、チューブ12A間においてもこのような配向性が確認できたため、このような配向性は、幅方向、高さ方向の全体にわたり達成されると考えられる。また、
図7より、この配向性は厚さ方向の両端側(型枠の壁面に近い側)で特に顕著となる。このため、このような配向性は、外壁部が薄い場合において特に顕著となることが明らかである。すなわち、金属繊維の配向による補強効果は、外壁部が薄い場合において特に顕著となる。
【0038】
上記のプレキャスト部材1を中心軸C1方向に沿って積層し、内部にコンクリートを打設して、従来と同様のプレキャスト工法で構造物を構築することができる。この際、シース12が設けられているために、PC鋼棒を用いて従来と同様にポストテンション方式でストレスを導入することによって、プレキャスト部材1やこの構造物の強度を高くすることができる。この際、上記のようにプレキャスト部材1自身の機械的強度が高められているため、クラックが発生しにくい。このような効果は、プレキャスト部材1が大型化、薄肉化した場合において特に顕著である。
【0039】
ただし、この際に積層されるプレキャスト部材の全てが上記の構造を具備する必要はなく、特に強度の要求される層においてのみ上記のプレキャスト部材を用いてもよい。これによって、全体の費用を低く抑えることができる。また、使用される全てのプレキャスト部材が同一の形状、寸法を具備する必要もない。
【0040】
以上、本発明を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0041】
1 プレキャスト部材
10 外壁部
10A 薄肉部
10B 厚肉部
11A~11F リブ
12 シース
12A チューブ
100 型枠
100A 第1空洞部
100B 第2空洞部
110 ホッパ
120 トレミー管
200 UFC
210 金属繊維
300 空洞
C1 中心軸