(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135037
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】大型血管炎の検査方法、及び大型血管炎の改善剤
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20230921BHJP
C12Q 1/689 20180101ALI20230921BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230921BHJP
A61P 9/14 20060101ALI20230921BHJP
A61K 31/7036 20060101ALI20230921BHJP
A61K 31/43 20060101ALI20230921BHJP
A61K 31/4164 20060101ALI20230921BHJP
A61K 38/14 20060101ALI20230921BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230921BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20230921BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
C12Q1/06 ZNA
C12Q1/689 Z
A61K45/00
A61P9/14
A61K31/7036
A61K31/43
A61K31/4164
A61K38/14
G01N33/50 Z
G01N33/569 F
G01N33/53 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040046
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】中岡 良和
(72)【発明者】
【氏名】石橋 知彦
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 侑資
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
2G045AA22
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4C086MA52
4C086NA05
4C086ZA36
4C086ZB35
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】本開示の一つの目的は、大型血管炎の罹患の有無を検査する方法を提供することである。
【解決手段】被験者から採取された腸内細菌叢において、ラクノスピラ・UCG-004属細菌、ロゼブリア属細菌、ストレプトコッカス科細菌、ストレプトコッカス属細菌、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属細菌、ビフィドバクテリア科細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、ラクノスピラ科細菌、アナエロスティペス属細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ)細菌、ブラウティア属細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ細菌等から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を測定する工程を含む、大型血管炎の罹患の有無を検査する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型血管炎の罹患の有無を検査する方法であって、
被験者から採取された腸内細菌叢において、ラクトバシラス科(Lactobacillaceae)細菌、パスツレラ科(Pasteurellaceae)細菌、ストレプトコッカス科(Streptococcuceae)細菌、ラクトバシラス属(Lactobacillus)細菌、デスルフォビブリオ属(Desulfovibrio)細菌、ラクノスピラ・UCG-004属(Lachnospiraceae_UCG-004)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、ヘモフィルス属(Haemophilus)細菌、ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ファスコラークトバクテリウム属(Phascolarctobacterium)細菌、ストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、ビフィドバクテリア科(Bifidobacteriaceae)細菌、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属(Ruminococcaceae_Incertae_Sedis)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、クロストリジウム・レプタム([Clostridium] leptum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ユーバクテリウム科(Eubacteriaceae)細菌、フラボニフラクター属(Flavonifractor)細菌、エリシペラトクロストリジウム属(Erysipelatoclostridium)細菌、フンガテラ属(Hungatella)細菌、ティザレラ属(Tyzzerella)細菌、ユーバクテリウム属(Eubacterium)細菌、フェカリタレア属(Faecalitalea)細菌、クロストリジウム・ボルテアエ([Clostridium]_bolteae)、エリシペラトクロストリジウム・ラモスム(Erysipelatoclostridium_ramosum)、ティゼレラ属未分類細菌(Tyzzerella_sp.)、シャアリア・オドントリティカス(Schaalia_odontolytica)、クロストリジウム科(Clostridiaceae)細菌、オシロスピラ科UCG-005属(Oscillospiraceae UCG-005)細菌、フィーカリバクテリウム属(Faecalibacterium)細菌、アドレクルーツィア属(Adlercreutzia)細菌、オシロスピラ科UCG-003属(Oscillospiraceae UCG-003)細菌、クロストリジウムセンスストリクト1属(Clostridium_Sensu_Stricto_1)細菌、ラクノスピラ属(Lachnospira)細菌、ユーバクテリウム・ハリイ([Eubacterium]_hallii)、アエロボカセア科ファミリーXIII UCG-001・アンカルチャードバクテリウム(Anaerovoracaceae;g_Family_XIII_UCG-001;s_uncultured_bacterium)、ラクノクロストリジウム・メタゲノム(Lachnoclostridium metagenome)、オドリバクター・ラネウス(Odoribacter_laneus)、オシロスピラ科UCG-005・アンカルチャードバクテリウム(Oscillospiraceae;g_UCG-005;s_uncultured_bacterium)、ラクノクロストリジウム・アンカルチャードオーガニズム(Lachnoclostridium;s_uncultured_organism)、ラクノクロストリジウム・ガットメタゲノム(Lachnoclostridium;s_gut_metagenome)、アリスティペス・オブゼイ(Alistipes_obsei)、ロゼブリア・イヌリニボランス(Roseburia_inulinivorans)、オシロスピラ科UCG-005・ガットメタゲノム(Oscillospiraceae;g_UCG-005;s_gut_metagenome)、ルミノコッカス科アンカルチャード・ヒューマンガット(Ruminococcaceae;g_uncultured;s_human_gut)、ユーバクテリウム・ベントリオサムグループ・アンカルチャードラクノスピラ([Eubacterium]_ventriosum_group;s_uncultured_Lachnospiraceae)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌、アナエロスティペス属(Anaerostipes)細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ([Eubacterium]_hallii_group)細菌、ブラウティア属(Blautia)細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ([Ruminococcus]_torques_group)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を測定する工程を含む、前記方法。
【請求項2】
前記大型血管炎が高安動脈炎であり、
前記腸内細菌が、ラクトバシラス科(Lactobacillaceae)細菌、パスツレラ科(Pasteurellaceae)細菌、ストレプトコッカス科(Streptococcuceae)細菌、ラクトバシラス属(Lactobacillus)細菌、デスルフォビブリオ属(Desulfovibrio)細菌、ラクノスピラ・UCG-004属(Lachnospiraceae_UCG-004)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、ヘモフィルス属(Haemophilus)細菌、ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ファスコラークトバクテリウム属(Phascolarctobacterium)細菌、及びストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、ビフィドバクテリア科(Bifidobacteriaceae)細菌、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属(Ruminococcaceae_Incertae_Sedis)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、クロストリジウム・レプタム([Clostridium] leptum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌、アナエロスティペス属(Anaerostipes)細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ([Eubacterium]_hallii_group)細菌、ブラウティア属(Blautia)細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ([Ruminococcus]_torques_group)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記大型血管炎が巨細胞性動脈炎であり、
前記腸内細菌が、ユーバクテリウム科(Eubacteriaceae)細菌、フラボニフラクター属(Flavonifractor)細菌、エリシペラトクロストリジウム属(Erysipelatoclostridium)細菌、フンガテラ属(Hungatella)細菌、ティザレラ属(Tyzzerella)細菌、ユーバクテリウム属(Eubacterium)細菌、フェカリタレア属(Faecalitalea)細菌、クロストリジウム・ボルテアエ([Clostridium]_bolteae)、エリシペラトクロストリジウム・ラモスム(Erysipelatoclostridium_ramosum)、クロストリジウム・レプタム([Clostridium]_leptum)、ティゼレラ属未分類細菌(Tyzzerella_sp.)、シャアリア・オドントリティカス(Schaalia_odontolytica)、クロストリジウム科(Clostridiaceae)細菌、オシロスピラ科UCG-005属(Oscillospiraceae UCG-005)細菌、ヘモフィルス属(Haemophilus)細菌、フィーカリバクテリウム属(Faecalibacterium)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、アドレクルーツィア属(Adlercreutzia)細菌、オシロスピラ科UCG-003属(Oscillospiraceae UCG-003)細菌、クロストリジウムセンスストリクト1属(Clostridium_Sensu_Stricto_1)細菌、ラクノスピラ属(Lachnospira)細菌、ユーバクテリウム・ハリイ([Eubacterium]_hallii)、アエロボカセア科ファミリーXIII UCG-001・アンカルチャードバクテリウム(Anaerovoracaceae;g_Family_XIII_UCG-001;s_uncultured_bacterium)、ラクノクロストリジウム・メタゲノム(Lachnoclostridium metagenome)、オドリバクター・ラネウス(Odoribacter_laneus)、オシロスピラ科UCG-005・アンカルチャードバクテリウム(Oscillospiraceae;g_UCG-005;s_uncultured_bacterium)、ラクノクロストリジウム・アンカルチャードオーガニズム(Lachnoclostridium;s_uncultured_organism)、ラクノクロストリジウム・ガットメタゲノム(Lachnoclostridium;s_gut_metagenome)、アリスティペス・オブゼイ(Alistipes_obsei)、ロゼブリア・イヌリニボランス(Roseburia_inulinivorans)、オシロスピラ科UCG-005・ガットメタゲノム(Oscillospiraceae;g_UCG-005;s_gut_metagenome)、ルミノコッカス科アンカルチャード・ヒューマンガット(Ruminococcaceae;g_uncultured;s_human_gut)、及びユーバクテリウム・ベントリオサムグループ・アンカルチャードラクノスピラ([Eubacterium]_ventriosum_group;s_uncultured_Lachnospiraceae)よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
大型血管炎の罹患の有無の検査用キットであって、
ラクトバシラス科(Lactobacillaceae)細菌、パスツレラ科(Pasteurellaceae)細菌、ストレプトコッカス科(Streptococcuceae)細菌、ラクトバシラス属(Lactobacillus)細菌、デスルフォビブリオ属(Desulfovibrio)細菌、ラクノスピラ・UCG-004属(Lachnospiraceae_UCG-004)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、ヘモフィルス属(Haemophilus)細菌、ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ファスコラークトバクテリウム属(Phascolarctobacterium)細菌、ストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、ビフィドバクテリア科(Bifidobacteriaceae)細菌、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属(Ruminococcaceae_Incertae_Sedis)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、クロストリジウム・レプタム([Clostridium] leptum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ユーバクテリウム科(Eubacteriaceae)細菌、フラボニフラクター属(Flavonifractor)細菌、エリシペラトクロストリジウム属(Erysipelatoclostridium)細菌、フンガテラ属(Hungatella)細菌、ティザレラ属(Tyzzerella)細菌、ユーバクテリウム属(Eubacterium)細菌、フェカリタレア属(Faecalitalea)細菌、クロストリジウム・ボルテアエ([Clostridium]_bolteae)、エリシペラトクロストリジウム・ラモスム(Erysipelatoclostridium_ramosum)、ティゼレラ属未分類細菌(Tyzzerella_sp.)、シャアリア・オドントリティカス(Schaalia_odontolytica)、クロストリジウム科(Clostridiaceae)細菌、オシロスピラ科UCG-005属(Oscillospiraceae UCG-005)細菌、フィーカリバクテリウム属(Faecalibacterium)細菌、アドレクルーツィア属(Adlercreutzia)細菌、オシロスピラ科UCG-003属(Oscillospiraceae UCG-003)細菌、クロストリジウムセンスストリクト1属(Clostridium_Sensu_Stricto_1)細菌、ラクノスピラ属(Lachnospira)細菌、ユーバクテリウム・ハリイ([Eubacterium]_hallii)、アエロボカセア科ファミリーXIII UCG-001・アンカルチャードバクテリウム(Anaerovoracaceae;g_Family_XIII_UCG-001;s_uncultured_bacterium)、ラクノクロストリジウム・メタゲノム(Lachnoclostridium metagenome)、オドリバクター・ラネウス(Odoribacter_laneus)、オシロスピラ科UCG-005・アンカルチャードバクテリウム(Oscillospiraceae;g_UCG-005;s_uncultured_bacterium)、ラクノクロストリジウム・アンカルチャードオーガニズム(Lachnoclostridium;s_uncultured_organism)、ラクノクロストリジウム・ガットメタゲノム(Lachnoclostridium;s_gut_metagenome)、アリスティペス・オブゼイ(Alistipes_obsei)、ロゼブリア・イヌリニボランス(Roseburia_inulinivorans)、オシロスピラ科UCG-005・ガットメタゲノム(Oscillospiraceae;g_UCG-005;s_gut_metagenome)、ルミノコッカス科アンカルチャード・ヒューマンガット(Ruminococcaceae;g_uncultured;s_human_gut)、ユーバクテリウム・ベントリオサムグループ・アンカルチャードラクノスピラ([Eubacterium]_ventriosum_group;s_uncultured_Lachnospiraceae)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌、アナエロスティペス属(Anaerostipes)細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ([Eubacterium]_hallii_group)細菌、ブラウティア属(Blautia)細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ([Ruminococcus]_torques_group)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌を特異的に検出可能なプライマーを含む、前記キット。
【請求項5】
高安動脈炎の疾患活動性を検査する方法であって、
被験者から採取された腸内細菌叢において、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌、ビフィドバクテリア科(Bifidobacteriaceae)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、アナエロスティペス属(Anaerostipes)細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ([Eubacterium]_hallii_group)細菌、ブラウティア属(Blautia)細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ([Ruminococcus]_torques_group)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を測定する工程を含む、前記方法。
【請求項6】
高安動脈炎の疾患活動性の検査用キットであって、
ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌、ビフィドバクテリア科(Bifidobacteriaceae)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、アナエロスティペス属(Anaerostipes)細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ([Eubacterium]_hallii_group)細菌、ブラウティア属(Blautia)細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ([Ruminococcus]_torques_group)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌を特異的に検出可能なプライマーを含む、前記キット。
【請求項7】
高安動脈炎患者の合併症の有無又はその発症リスクを検査する方法であって、
高安動脈炎患者から採取された腸内細菌叢において、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属(Ruminococcaceae_Incertae_Sedis)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、コリセンラ属(Collinsella)細菌、パラバクテロイデス属(Parabacteroides)細菌、及びモノグロブス属(Monoglobus)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を測定する工程を含む、前記方法。
【請求項8】
前記合併症が肺動脈病変であり、
前記の腸内細菌が、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属(Ruminococcaceae_Incertae_Sedis)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、及びロゼブリア属(Roseburia)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記合併症が炎症性腸疾患であり、
前記の腸内細菌が、コリセンラ属(Collinsella)細菌、パラバクテロイデス属(Parabacteroides)細菌、及びモノグロブス属(Monoglobus)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
高安動脈炎患者の合併症の有無又はその発症リスクの検査用キットであって、
ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属(Ruminococcaceae_Incertae_Sedis)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、コリセンラ属(Collinsella)細菌、パラバクテロイデス属(Parabacteroides)細菌、及びモノグロブス属(Monoglobus)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌を特異的に検出可能なプライマーを含む、前記キット。
【請求項11】
高安動脈炎患者の予後予測のための検査方法であって、
高安動脈炎患者から採取された腸内細菌叢において、ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ストレプトコッカス・ベスティブラリス(Streptococcus vestibularis)、ストレプトコッカス・パスツーリアヌス(Streptococcus pasteurianus)、ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)、及びビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌よりなる群から選択される1種の腸内細菌の相対的存在量を測定する工程を含む、前記方法。
【請求項12】
高安動脈炎患者において、手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併、又はそれに伴う大動脈置換術を経験し、予後不良になる可能性を検査するために行われ、
前記の腸内細菌が、ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ストレプトコッカス・ベスティブラリス(Streptococcus vestibularis)、ストレプトコッカス・パスツーリアヌス(Streptococcus pasteurianus)、ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、及びストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)よりなる群から選択される1種である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
高安動脈炎患者において、手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併を含む血管拡張病変、及び血管狭窄病変の内、いずれか1つ以上が生じることにより外科的治療および血管内治療を経験し、予後不良になる可能性を検査するために行われ、
前記の腸内細菌が、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
高安動脈炎の予後予測のための検査用キットであって、
ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ストレプトコッカス・ベスティブラリス(Streptococcus vestibularis)、ストレプトコッカス・パスツーリアヌス(Streptococcus pasteurianus)、ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)、及びビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌よりなる群から選択される1種の腸内細菌を特異的に検出可能なプライマーを含む、前記キット。
【請求項15】
大型血管炎患者の腸内細菌叢を正常化させる物質を有効成分として含む、大型血管炎の改善剤。
【請求項16】
前記物質が抗生物質である、請求項15に記載の大型血管炎の改善剤。
【請求項17】
前記物質が、腸内細菌叢において、ラクトバシラス科(Lactobacillaceae)細菌、パスツレラ科(Pasteurellaceae)細菌、ストレプトコッカス科(Streptococcuceae)細菌、ラクトバシラス属(Lactobacillus)細菌、デスルフォビブリオ属(Desulfovibrio)細菌ラクノスピラ・UCG-004属(Lachnospiraceae_UCG-004)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、ヘモフィルス属(Haemophilus)細菌、ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ファスコラークトバクテリウム属(Phascolarctobacterium)細菌、及びストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を低下させる物質であり、
高安動脈炎の予防又は治療のために使用される、請求項15又は16に記載の大型血管炎の改善剤。
【請求項18】
前記物質が、腸内細菌叢においてロゼブリア属(Roseburia)細菌の相対的存在量を低下させる物質であり、
高安動脈炎患者で合併する肺動脈病変の予防又は治療に使用される、請求項15又は16に記載の大型血管炎の改善剤。
【請求項19】
前記物質が、腸内細菌叢においてコリセンラ属(Collinsella)細菌、及びパラバクテロイデス属(Parabacteroides)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を低下させる物質であり、
高安動脈炎患者で合併する炎症性腸疾患の予防又は治療に使用される、請求項15又は16に記載の大型血管炎の改善剤。
【請求項20】
前記物質が、腸内細菌叢において、ユーバクテリウム科(Eubacteriaceae)細菌、フラボニフラクター属(Flavonifractor)細菌、エリシペラトクロストリジウム属(Erysipelatoclostridium)細菌、フンガテラ属(Hungatella)細菌、ティザレラ属(Tyzzerella)細菌、ユーバクテリウム属(Eubacterium)細菌、フェカリタレア属(Faecalitalea)細菌、クロストリジウム・ボルテアエ([Clostridium]_bolteae)、エリシペラトクロストリジウム・ラモスム(Erysipelatoclostridium_ramosum)、クロストリジウム・レプタム([Clostridium]_leptum)、ティゼレラ属未分類細菌(Tyzzerella_sp.)、シャアリア・オドントリティカス(Schaalia_odontolytica)よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を低下させる物質であり、
巨細胞性動脈炎患者の予後不良を改善するために使用される、請求項15又は16に記載の大型血管炎の改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、大型血管炎の罹患の有無を検査する方法、大型血管炎の疾患活動性を検査する方法、大型血管炎患者の合併症の有無又はその発症リスクを検査する方法、及び大型血管炎患者の予後予測のための検査方法に関する。また、本開示は、大型血管炎の改善剤、大型血管炎の予防又は治療剤、及びこれらのスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高安動脈炎(Takayasu arteritis ; TAK)は、胸部大動脈及びその主要分枝や肺動脈、冠動脈に閉塞性又は拡張性病変を来す原因不明の血管炎であり、日本の眼科医であった高安右人氏が初めて日本国で報告した疾患であり、発見者の名前がそのまま疾患名にもなっている数少ない疾患の1つである。高安動脈炎は、特にアジアや中東の若年女性に多いが、一部中高年以降や男性にも見られる。高安動脈炎の疾患感受性遺伝子として、HLA B52やB67との関連が指摘されている。
【0003】
一方、巨細胞性動脈炎(Giant cell arteritis ; GCA)は、側頭動脈等の外頸動脈及びその分枝に好発する肉芽種性動脈炎であり、高齢者に多く発症する。以前より、GCAの中にも古典的な側頭動脈病変を有するCranial-GCAに対して、胸部大動脈及びその第1分枝に血管炎を合併、又は単独で有する症例(Large Vessel GCA; LV-GCA)がいることがわかってきており、高安動脈炎との異同が論じられている。2012年Chapel Hill Consensus Conferenceで定められた国際分類基準では、高安動脈炎と巨細胞性動脈炎は大型血管炎に分類されており、その希少性からどちらの疾患も日本国厚生労働省の指定難病となっている。
【0004】
発明者の一人である中岡は、治療抵抗性の高安動脈炎に対してインターロイキン-6 (IL-6)受容体抗体であるトシリズマブ(TCZ)の第3相二重盲検試験を実施した。また、欧米でも巨細胞性動脈炎に対して同様の試験が行われ、その結果から2017年8月には日本国が世界に先駆けて大型血管炎に対してトシリズマブの薬事承認を得ている(非特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nakaoka Y, et al. Annals Rheum Dis. 2018: 77; 348-354.
【非特許文献2】John H. Stone, et al. NEJM. 2017; 377:317-328.
【非特許文献3】Watanabe Y, et al. Circulation 2015;132:1701-1709.
【非特許文献4】Sharma BK, et al. Int J Cardiol 1998;66 Supp1:S85-90.
【非特許文献5】Hotchi M, et al. Heart Vessels Suppl. 1992;7:11-7.
【非特許文献6】Mukoyama H, et al. Arthritis Res. Ther. 2021;23:293.
【非特許文献7】He Y, et al. J. Rheumatol. 2020;47:264-72.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
免疫抑制剤を中心とした治療の進歩や近年の画像診療進歩に伴う早期診断技術の向上により、大型血管炎の予後やQOLは改善しつつある。一方で、大型血管炎の症例の中には、CRPや赤沈等に代表される炎症マーカーが鎮静化していても血管病変が進行する症例も見られ、本疾患の病態メカニズム解明や新規治療開発、そして適切な病勢を評価するバイオマーカーの同定が望まれている。
【0007】
また、高安動脈炎における肺動脈病変の合併率は、およそ1割とされているが(非特許文献3)、病理解剖のデータでは最大50%という報告もある(非特許文献4及び5)。肺動脈病変を合併している高安動脈炎患者は、呼吸器感染症合併や虚血性心疾患のリスクが非合併患者よりも高いことが報告されている(非特許文献6)。肺動脈病変は、が進展すると、肺高血圧症を発症し予後不良となるため(非特許文献7)、早期の診断が必要になるが、肺動脈病変は、CT検査等の画像診断では見落とされることも多く、高安動脈炎患者の肺動脈病変の合併リスクを検査する手法の開発が望まれている。また、高安動脈炎患者では、炎症性腸疾患の合併の有無によって投与される製剤が異なり、高安動脈炎の治療薬には、炎症性腸疾患に悪影響を及ぼす可能性がある成分が含まれていることもあり、高安動脈炎患者の治療方針を決定する際には、炎症性腸疾患の合併の有無又はその発症リスクを的確に判定することが重要である。このように、大型血管炎患者における合併症の有無又は発症リスクを検査する手法の開発も望まれている。
【0008】
そこで、本開示の一つの目的は、大型血管炎の罹患の有無を検査する方法を提供することである。また、本開示の他の目的は、大型血管炎の増悪傾向を検査する方法を提供することである。また、本開示の他の目的は、大型血管炎患者の合併症の有無又は発症リスクを検査する方法を提供することである。また、本開示の他の目的は、大型血管炎患者の予後予測のための検査方法を提供することを課題とする。更に、本開示の他の目的は、大型血管炎の改善に用いられる組成物を提供することである。そして、更に、本開示の他の目的は、大型血管炎の改善に有効な成分をスクリーニングする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記課題を解決すべく、大型血管炎患者の腸内細菌叢に着目し、種々検討を行ったところ、以下の知見を得た。
(1)高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない高安動脈炎患者は、健常者に比べて、腸内細菌叢におけるラクトバシラス科(Lactobacillaceae)細菌、パスツレラ科(Pasteurellaceae)細菌、ストレプトコッカス科(Streptococcuceae)細菌、ラクトバシラス属(Lactobacillus)細菌、デスルフォビブリオ属(Desulfovibrio)細菌ラクノスピラ・UCG-004属(Lachnospiraceae_UCG-004)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、ヘモフィルス属(Haemophilus)細菌、ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ファスコラークトバクテリウム属(Phascolarctobacterium)細菌、及びストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)の相対的存在量が増加している。
(2)高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない高安動脈炎患者は、健常者に比べて、腸内細菌叢におけるビフィドバクテリア科(Bifidobacteriaceae)細菌、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属(Ruminococcaceae_Incertae_Sedis)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、クロストリジウム・レプタム([Clostridium] leptum)、及びビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)の相対的存在量が低下している。
(3)高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている高安動脈炎患者は、健常者に比べて、腸内細菌叢におけるストレプトコッカス科(Streptococcuceae)細菌、ラクトバシラス科(Lactobacillaceae)細菌、アクチノマイセス科(Actinomycetaceae)細菌、パスツレラ科(Pasteurellaceae)細菌、ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ラクトバシラス属(Lactobacillus)細菌、ヘモフィルス属(Haemophilus)細菌、アクチノマイセス属(Actinomyces)細菌、エンテロコッカス属(Enterococcus)細菌、コリデクストリバクター属細菌(Colidextribacter)、ストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、ストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)、ストレプトコッカス・アンギノサス(Streptococcus anginosus)、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、及びコリデクストリバクター・ガットメタゲノム(Colidextribacter;s_gut_metagenom)の相対的存在量が増加している。
(4)高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている高安動脈炎患者は、健常者に比べて、腸内細菌叢におけるサテレラ科(Sutterellaceae)細菌、ブチリシコッカス科(Butyricicoccaceae)細菌、ブチリシコッカス科(Butyricicoccus)細菌、ツリシバクター属(Turicibacter)細菌、アナエロスティペス属(Anaerostipes)細菌、ブチリシコッカス属(Butyricicoccus)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、ルミノコッカス属(Ruminococcus)細菌、フシカテニバクター属(Fusicatenibacter)細菌、ユウバクテリウム・ハリイ([Eubacterium] hallii)、アナエロスティペス・ハドラス(Anaerostipes hadrus)、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)、及びアリスティペス・プトレディニス(Alistipes putredinis)の相対的存在量が低下している。
(5) 高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている高安動脈炎患者は、健常者に比べて、腸内細菌叢におけるストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、ストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)、ストレプトコッカス属未分類細菌、及びラクトバシラス属未分類細菌の相対的存在量が増加している。
(6)疾患高活動性の高安動脈炎患者は、疾患低活動性の高安動脈炎患者及び健常者に比べて、腸内細菌叢におけるラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌、ビフィドバクテリア科(Bifidobacteriaceae)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、アナエロスティペス属(Anaerostipes)細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ([Eubacterium]_hallii_group)細菌、ブラウティア属(Blautia)細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ([Ruminococcus]_torques_group)細菌の相対的存在量が低下している。
(7)肺動脈病変を合併している高安動脈炎患者は、肺動脈病変を合併していない高安動脈炎患者に比べて、腸内細菌叢におけるロゼブリア属(Roseburia)細菌の相対的存在量が増加している。
(8)肺動脈病変を合併している高安動脈炎患者は、肺動脈病変を合併していない高安動脈炎患者に比べて、腸内細菌叢におけるルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属(Ruminococcaceae_Incertae_Sedis)細菌、及びビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌の相対的存在量が低下している。
(9)炎症性腸疾患を合併している高安動脈炎患者は、炎症性腸疾患を合併していない高安動脈炎患者に比べて、腸内細菌叢におけるコリセンラ属(Collinsella)細菌、及びパラバクテロイデス属(Parabacteroides)細菌の相対的存在量が増加している。
(10)炎症性腸疾患を合併している高安動脈炎患者は、炎症性腸疾患を合併していない高安動脈炎患者に比べて、腸内細菌叢におけるモノグロブス属(Monoglobus)細菌の相対的存在量が低下している。
(11)高安動脈炎患者において、腸内細菌叢におけるストレプトコッカス属細菌の相対的存在量が高い程、手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併を含む血管拡張病変、及び血管狭窄病変に関するイベントが多く、予後不良になり易い。腸内細菌叢におけるストレプトコッカス属細菌の相対的存在量が高い高安動脈炎患者では、ストレプトコッカス属細菌の中でも、ストレプトコッカス・ベスティブラリス(Streptococcus vestibularis)、ストレプトコッカス・パスツーリアヌス(Streptococcus pasteurianus)、ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、及びストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)の相対的存在量が高い。
(12)高安動脈炎患者において、腸内細菌叢におけるビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量が少ない程、胸部大動脈瘤合併に関するイベントが多く、予後不良になり易い。
(13)高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている高安動脈炎患者では、健常者に比べて、ゲラニルゲラニル二リン酸生合成経路、メチルグリオキサ―ルの解毒経路、硫化水素産生経路、L-システイン合成経路、L-メチオニン合成経路、ホルムアルデヒド合成経路、セリン合成経路、及び2,3-ブタンジオール合成経路の活性が亢進している。
(14)高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている高安動脈炎患者では、健常者に比べて、3-メチルブト-3-エン-1-イル二リン酸合成経路、ヒスチジン合成経路、リジン合成経路、及びL-イソロイシン合成経路の活性が低下している。
(15)巨細胞性動脈炎患者は、健常者に比べて、腸内細菌叢におけるユーバクテリウム科(Eubacteriaceae)細菌、フラボニフラクター属(Flavonifractor)細菌、エリシペラトクロストリジウム属(Erysipelatoclostridium)細菌、フンガテラ属(Hungatella)細菌、ティザレラ属(Tyzzerella)細菌、ユーバクテリウム属(Eubacterium)細菌、フェカリタレア属(Faecalitalea)細菌、クロストリジウム・ボルテアエ([Clostridium]_bolteae)、エリシペラトクロストリジウム・ラモスム(Erysipelatoclostridium_ramosum)、クロストリジウム・レプタム([Clostridium]_leptum)、ティゼレラ属未分類細菌(Tyzzerella_sp.)、シャアリア・オドントリティカス(Schaalia_odontolytica)の相対的存在量が増加している。
(16)巨細胞性動脈炎患者は、健常者に比べて、腸内細菌叢におけるクロストリジウム科(Clostridiaceae)細菌、オシロスピラ科UCG-005属(Oscillospiraceae UCG-005)細菌、ヘモフィルス属(Haemophilus)細菌、フィーカリバクテリウム属(Faecalibacterium)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、アドレクルーツィア属(Adlercreutzia)細菌、オシロスピラ科UCG-003属(Oscillospiraceae UCG-003)細菌、クロストリジウムセンスストリクト1属(Clostridium_Sensu_Stricto_1)細菌、ラクノスピラ属(Lachnospira)細菌、ユーバクテリウム・ハリイ([Eubacterium]_hallii)、アエロボカセア科ファミリーXIII UCG-001・アンカルチャードバクテリウム(Anaerovoracaceae;g_Family_XIII_UCG-001;s_uncultured_bacterium)、ラクノクロストリジウム・メタゲノム(Lachnoclostridium metagenome)、オドリバクター・ラネウス(Odoribacter_laneus)、オシロスピラ科UCG-005・アンカルチャードバクテリウム(Oscillospiraceae;g_UCG-005;s_uncultured_bacterium)、ラクノクロストリジウム・アンカルチャードオーガニズム(Lachnoclostridium;s_uncultured_organism)、ラクノクロストリジウム・ガットメタゲノム(Lachnoclostridium;s_gut_metagenome)、アリスティペス・オブゼイ(Alistipes_obsei)、ロゼブリア・イヌリニボランス(Roseburia_inulinivorans)、オシロスピラ科UCG-005・ガットメタゲノム(Oscillospiraceae;g_UCG-005;s_gut_metagenome)、ルミノコッカス科アンカルチャード・ヒューマンガット(Ruminococcaceae;g_uncultured;s_human_gut)、及びユーバクテリウム・ベントリオサムグループ・アンカルチャードラクノスピラ([Eubacterium]_ventriosum_group;s_uncultured_Lachnospiraceae)の相対的存在量が低下している。
(17)巨細胞性動脈炎患者の腸内細菌叢では、高安動脈炎患者に比べて、クロストリジウム・ボルテアエ([Clostridium] bolteae)、エリシペラトクロストリジウム・ラモスム(Erysipelatoclostridium ramosum)、及びクロストリジウム・レプタム(Erysipelatoclostridium ramosum)の相対的存在量が特に高くなっている
(18)巨細胞性動脈炎患者では、健常者に比べて、ペプチドグリカン生合成II経路、ホルムアルデヒド資化II経路、及びホルムアルデヒド酸化I経路の活性が亢進している。
(19)巨細胞性動脈炎患者では、健常者に比べて、シュクロース生合成III経路、シュクロース生合成II経路、NAD de novo生合成II経路、及びイソプロパノール生合成経路の活性が低下している。
(20)動脈基部の炎症を自然発症するIL-1Raノックアウトマウスに抗生剤を投与することにより、大動脈基部の線維化を抑制できる。
【0010】
本開示は、これらの知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。即ち、本開示は、以下に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 大型血管炎の罹患の有無を検査する方法であって、
被験者から採取された腸内細菌叢において、ラクトバシラス科(Lactobacillaceae)細菌、パスツレラ科(Pasteurellaceae)細菌、ストレプトコッカス科(Streptococcuceae)細菌、ラクトバシラス属(Lactobacillus)細菌、デスルフォビブリオ属(Desulfovibrio)細菌、ラクノスピラ・UCG-004属(Lachnospiraceae_UCG-004)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、ヘモフィルス属(Haemophilus)細菌、ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ファスコラークトバクテリウム属(Phascolarctobacterium)細菌、ストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、ビフィドバクテリア科(Bifidobacteriaceae)細菌、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属(Ruminococcaceae_Incertae_Sedis)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、クロストリジウム・レプタム([Clostridium] leptum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ユーバクテリウム科(Eubacteriaceae)細菌、フラボニフラクター属(Flavonifractor)細菌、エリシペラトクロストリジウム属(Erysipelatoclostridium)細菌、フンガテラ属(Hungatella)細菌、ティザレラ属(Tyzzerella)細菌、ユーバクテリウム属(Eubacterium)細菌、フェカリタレア属(Faecalitalea)細菌、クロストリジウム・ボルテアエ([Clostridium]_bolteae)、エリシペラトクロストリジウム・ラモスム(Erysipelatoclostridium_ramosum)、ティゼレラ属未分類細菌(Tyzzerella_sp.)、シャアリア・オドントリティカス(Schaalia_odontolytica)、クロストリジウム科(Clostridiaceae)細菌、オシロスピラ科UCG-005属(Oscillospiraceae UCG-005)細菌、フィーカリバクテリウム属(Faecalibacterium)細菌、アドレクルーツィア属(Adlercreutzia)細菌、オシロスピラ科UCG-003属(Oscillospiraceae UCG-003)細菌、クロストリジウムセンスストリクト1属(Clostridium_Sensu_Stricto_1)細菌、ラクノスピラ属(Lachnospira)細菌、ユーバクテリウム・ハリイ([Eubacterium]_hallii)、アエロボカセア科ファミリーXIII UCG-001・アンカルチャードバクテリウム(Anaerovoracaceae;g_Family_XIII_UCG-001;s_uncultured_bacterium)、ラクノクロストリジウム・メタゲノム(Lachnoclostridium metagenome)、オドリバクター・ラネウス(Odoribacter_laneus)、オシロスピラ科UCG-005・アンカルチャードバクテリウム(Oscillospiraceae;g_UCG-005;s_uncultured_bacterium)、ラクノクロストリジウム・アンカルチャードオーガニズム(Lachnoclostridium;s_uncultured_organism)、ラクノクロストリジウム・ガットメタゲノム(Lachnoclostridium;s_gut_metagenome)、アリスティペス・オブゼイ(Alistipes_obsei)、ロゼブリア・イヌリニボランス(Roseburia_inulinivorans)、オシロスピラ科UCG-005・ガットメタゲノム(Oscillospiraceae;g_UCG-005;s_gut_metagenome)、ルミノコッカス科アンカルチャード・ヒューマンガット(Ruminococcaceae;g_uncultured;s_human_gut)、ユーバクテリウム・ベントリオサムグループ・アンカルチャードラクノスピラ([Eubacterium]_ventriosum_group;s_uncultured_Lachnospiraceae)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌、アナエロスティペス属(Anaerostipes)細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ([Eubacterium]_hallii_group)細菌、ブラウティア属(Blautia)細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ([Ruminococcus]_torques_group)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を測定する工程を含む、前記方法。
項2. 前記大型血管炎が高安動脈炎であり、
前記腸内細菌が、ラクトバシラス科(Lactobacillaceae)細菌、パスツレラ科(Pasteurellaceae)細菌、ストレプトコッカス科(Streptococcuceae)細菌、ラクトバシラス属(Lactobacillus)細菌、デスルフォビブリオ属(Desulfovibrio)細菌、ラクノスピラ・UCG-004属(Lachnospiraceae_UCG-004)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、ヘモフィルス属(Haemophilus)細菌、ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ファスコラークトバクテリウム属(Phascolarctobacterium)細菌、及びストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、ビフィドバクテリア科(Bifidobacteriaceae)細菌、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属(Ruminococcaceae_Incertae_Sedis)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、クロストリジウム・レプタム([Clostridium] leptum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌、アナエロスティペス属(Anaerostipes)細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ([Eubacterium]_hallii_group)細菌、ブラウティア属(Blautia)細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ([Ruminococcus]_torques_group)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種である、項1に記載の方法。
項3. 前記大型血管炎が巨細胞性動脈炎であり、
前記腸内細菌が、ユーバクテリウム科(Eubacteriaceae)細菌、フラボニフラクター属(Flavonifractor)細菌、エリシペラトクロストリジウム属(Erysipelatoclostridium)細菌、フンガテラ属(Hungatella)細菌、ティザレラ属(Tyzzerella)細菌、ユーバクテリウム属(Eubacterium)細菌、フェカリタレア属(Faecalitalea)細菌、クロストリジウム・ボルテアエ([Clostridium]_bolteae)、エリシペラトクロストリジウム・ラモスム(Erysipelatoclostridium_ramosum)、クロストリジウム・レプタム([Clostridium]_leptum)、ティゼレラ属未分類細菌(Tyzzerella_sp.)、シャアリア・オドントリティカス(Schaalia_odontolytica)、クロストリジウム科(Clostridiaceae)細菌、オシロスピラ科UCG-005属(Oscillospiraceae UCG-005)細菌、ヘモフィルス属(Haemophilus)細菌、フィーカリバクテリウム属(Faecalibacterium)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、アドレクルーツィア属(Adlercreutzia)細菌、オシロスピラ科UCG-003属(Oscillospiraceae UCG-003)細菌、クロストリジウムセンスストリクト1属(Clostridium_Sensu_Stricto_1)細菌、ラクノスピラ属(Lachnospira)細菌、ユーバクテリウム・ハリイ([Eubacterium]_hallii)、アエロボカセア科ファミリーXIII UCG-001・アンカルチャードバクテリウム(Anaerovoracaceae;g_Family_XIII_UCG-001;s_uncultured_bacterium)、ラクノクロストリジウム・メタゲノム(Lachnoclostridium metagenome)、オドリバクター・ラネウス(Odoribacter_laneus)、オシロスピラ科UCG-005・アンカルチャードバクテリウム(Oscillospiraceae;g_UCG-005;s_uncultured_bacterium)、ラクノクロストリジウム・アンカルチャードオーガニズム(Lachnoclostridium;s_uncultured_organism)、ラクノクロストリジウム・ガットメタゲノム(Lachnoclostridium;s_gut_metagenome)、アリスティペス・オブゼイ(Alistipes_obsei)、ロゼブリア・イヌリニボランス(Roseburia_inulinivorans)、オシロスピラ科UCG-005・ガットメタゲノム(Oscillospiraceae;g_UCG-005;s_gut_metagenome)、ルミノコッカス科アンカルチャード・ヒューマンガット(Ruminococcaceae;g_uncultured;s_human_gut)、及びユーバクテリウム・ベントリオサムグループ・アンカルチャードラクノスピラ([Eubacterium]_ventriosum_group;s_uncultured_Lachnospiraceae)よりなる群から選択される少なくとも1種である、項1に記載の方法。
項4. 大型血管炎の罹患の有無の検査用キットであって、
ラクトバシラス科(Lactobacillaceae)細菌、パスツレラ科(Pasteurellaceae)細菌、ストレプトコッカス科(Streptococcuceae)細菌、ラクトバシラス属(Lactobacillus)細菌、デスルフォビブリオ属(Desulfovibrio)細菌、ラクノスピラ・UCG-004属(Lachnospiraceae_UCG-004)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、ヘモフィルス属(Haemophilus)細菌、ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ファスコラークトバクテリウム属(Phascolarctobacterium)細菌、ストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、ビフィドバクテリア科(Bifidobacteriaceae)細菌、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属(Ruminococcaceae_Incertae_Sedis)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、クロストリジウム・レプタム([Clostridium] leptum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ユーバクテリウム科(Eubacteriaceae)細菌、フラボニフラクター属(Flavonifractor)細菌、エリシペラトクロストリジウム属(Erysipelatoclostridium)細菌、フンガテラ属(Hungatella)細菌、ティザレラ属(Tyzzerella)細菌、ユーバクテリウム属(Eubacterium)細菌、フェカリタレア属(Faecalitalea)細菌、クロストリジウム・ボルテアエ([Clostridium]_bolteae)、エリシペラトクロストリジウム・ラモスム(Erysipelatoclostridium_ramosum)、ティゼレラ属未分類細菌(Tyzzerella_sp.)、シャアリア・オドントリティカス(Schaalia_odontolytica)、クロストリジウム科(Clostridiaceae)細菌、オシロスピラ科UCG-005属(Oscillospiraceae UCG-005)細菌、フィーカリバクテリウム属(Faecalibacterium)細菌、アドレクルーツィア属(Adlercreutzia)細菌、オシロスピラ科UCG-003属(Oscillospiraceae UCG-003)細菌、クロストリジウムセンスストリクト1属(Clostridium_Sensu_Stricto_1)細菌、ラクノスピラ属(Lachnospira)細菌、ユーバクテリウム・ハリイ([Eubacterium]_hallii)、アエロボカセア科ファミリーXIII UCG-001・アンカルチャードバクテリウム(Anaerovoracaceae;g_Family_XIII_UCG-001;s_uncultured_bacterium)、ラクノクロストリジウム・メタゲノム(Lachnoclostridium metagenome)、オドリバクター・ラネウス(Odoribacter_laneus)、オシロスピラ科UCG-005・アンカルチャードバクテリウム(Oscillospiraceae;g_UCG-005;s_uncultured_bacterium)、ラクノクロストリジウム・アンカルチャードオーガニズム(Lachnoclostridium;s_uncultured_organism)、ラクノクロストリジウム・ガットメタゲノム(Lachnoclostridium;s_gut_metagenome)、アリスティペス・オブゼイ(Alistipes_obsei)、ロゼブリア・イヌリニボランス(Roseburia_inulinivorans)、オシロスピラ科UCG-005・ガットメタゲノム(Oscillospiraceae;g_UCG-005;s_gut_metagenome)、ルミノコッカス科アンカルチャード・ヒューマンガット(Ruminococcaceae;g_uncultured;s_human_gut)、ユーバクテリウム・ベントリオサムグループ・アンカルチャードラクノスピラ([Eubacterium]_ventriosum_group;s_uncultured_Lachnospiraceae)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌、アナエロスティペス属(Anaerostipes)細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ([Eubacterium]_hallii_group)細菌、ブラウティア属(Blautia)細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ([Ruminococcus]_torques_group)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌を特異的に検出可能なプライマーを含む、前記キット。
項5. 高安動脈炎の疾患活動性を検査する方法であって、
被験者から採取された腸内細菌叢において、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌、ビフィドバクテリア科(Bifidobacteriaceae)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、アナエロスティペス属(Anaerostipes)細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ([Eubacterium]_hallii_group)細菌、ブラウティア属(Blautia)細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ([Ruminococcus]_torques_group)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を測定する工程を含む、前記方法。
項6. 高安動脈炎の疾患活動性の検査用キットであって、
ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌、ビフィドバクテリア科(Bifidobacteriaceae)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、アナエロスティペス属(Anaerostipes)細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ([Eubacterium]_hallii_group)細菌、ブラウティア属(Blautia)細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ([Ruminococcus]_torques_group)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌を特異的に検出可能なプライマーを含む、前記キット。
項7. 高安動脈炎患者の合併症の有無又はその発症リスクを検査する方法であって、
高安動脈炎患者から採取された腸内細菌叢において、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属(Ruminococcaceae_Incertae_Sedis)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、コリセンラ属(Collinsella)細菌、パラバクテロイデス属(Parabacteroides)細菌、及びモノグロブス属(Monoglobus)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を測定する工程を含む、前記方法。
項8. 前記合併症が肺動脈病変であり、
前記の腸内細菌が、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属(Ruminococcaceae_Incertae_Sedis)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、及びロゼブリア属(Roseburia)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種である、項7に記載の方法。
項9. 前記合併症が炎症性腸疾患であり、
前記の腸内細菌が、コリセンラ属(Collinsella)細菌、パラバクテロイデス属(Parabacteroides)細菌、及びモノグロブス属(Monoglobus)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種である、項7に記載の方法。
項10. 高安動脈炎患者の合併症の有無又はその発症リスクの検査用キットであって、
ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属(Ruminococcaceae_Incertae_Sedis)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、コリセンラ属(Collinsella)細菌、パラバクテロイデス属(Parabacteroides)細菌、及びモノグロブス属(Monoglobus)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌を特異的に検出可能なプライマーを含む、前記キット。
項11. 高安動脈炎患者の予後予測のための検査方法であって、
高安動脈炎患者から採取された腸内細菌叢において、ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ストレプトコッカス・ベスティブラリス(Streptococcus vestibularis)、ストレプトコッカス・パスツーリアヌス(Streptococcus pasteurianus)、ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)、及びビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌よりなる群から選択される1種の腸内細菌の相対的存在量を測定する工程を含む、前記方法。
項12. 高安動脈炎患者において、手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併、又はそれに伴う大動脈置換術を経験し、予後不良になる可能性を検査するために行われ、
前記の腸内細菌が、ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ストレプトコッカス・ベスティブラリス(Streptococcus vestibularis)、ストレプトコッカス・パスツーリアヌス(Streptococcus pasteurianus)、ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、及びストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)よりなる群から選択される1種である、項11に記載の方法。
項13. 高安動脈炎患者において、手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併を含む血管拡張病変、及び血管狭窄病変の内、いずれか1つ以上が生じることにより外科的治療および血管内治療を経験し、予後不良になる可能性を検査するために行われ、
前記の腸内細菌が、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌である、項11に記載の方法。
項14. 高安動脈炎の予後予測のための検査用キットであって、
ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ストレプトコッカス・ベスティブラリス(Streptococcus vestibularis)、ストレプトコッカス・パスツーリアヌス(Streptococcus pasteurianus)、ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)、及びビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌よりなる群から選択される1種の腸内細菌を特異的に検出可能なプライマーを含む、前記キット。
項15. 大型血管炎患者の腸内細菌叢を正常化させる物質を有効成分として含む、大型血管炎の改善剤。
項16. 前記物質が、抗生物質である、項15に記載の大型血管炎の改善剤。
項17. 前記物質が、内菌叢において、ラクトバシラス科(Lactobacillaceae)細菌、パスツレラ科(Pasteurellaceae)細菌、ストレプトコッカス科(Streptococcuceae)細菌、ラクトバシラス属(Lactobacillus)細菌、デスルフォビブリオ属(Desulfovibrio)細菌ラクノスピラ・UCG-004属(Lachnospiraceae_UCG-004)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、ヘモフィルス属(Haemophilus)細菌、ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ファスコラークトバクテリウム属(Phascolarctobacterium)細菌、及びストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を低下させる物質であり、
高安動脈炎の予防又は治療のために使用される、項15又は16に記載の大型血管炎の改善剤。
項18. 前記物質が、腸内細菌叢においてロゼブリア属(Roseburia)細菌の相対的存在量を低下させる物質であり、
高安動脈炎患者で合併する肺動脈病変の予防又は治療に使用される、項15又は16に記載の大型血管炎の改善剤。
項19. 前記物質が、腸内細菌叢においてコリセンラ属(Collinsella)細菌、及びパラバクテロイデス属(Parabacteroides)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を低下させる物質であり、
高安動脈炎患者で合併する炎症性腸疾患の予防又は治療に使用される、項15又は16に記載の大型血管炎の改善剤。
項20. 前記物質が、腸内細菌叢において、ユーバクテリウム科(Eubacteriaceae)細菌、フラボニフラクター属(Flavonifractor)細菌、エリシペラトクロストリジウム属(Erysipelatoclostridium)細菌、フンガテラ属(Hungatella)細菌、ティザレラ属(Tyzzerella)細菌、ユーバクテリウム属(Eubacterium)細菌、フェカリタレア属(Faecalitalea)細菌、クロストリジウム・ボルテアエ([Clostridium]_bolteae)、エリシペラトクロストリジウム・ラモスム(Erysipelatoclostridium_ramosum)、クロストリジウム・レプタム([Clostridium]_leptum)、ティゼレラ属未分類細菌(Tyzzerella_sp.)、シャアリア・オドントリティカス(Schaalia_odontolytica)よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を低下させる物質であり、
巨細胞性動脈炎患者の予後不良を改善するために使用される、項15又は16に記載の大型血管炎の改善剤。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、腸内細菌叢中の腸内細菌を測定するという簡易な手法で、大型血管炎の罹患の有無、大型血管炎の疾患活動性、大型血管炎患者の合併症の有無又はその発症リスク、或は大型血管炎患者の予後予測を検査することが可能になる。また、本開示によれば、大型血管炎の改善剤、大型血管炎の予防又は治療剤、及びこれらのスクリーニング方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】高安動脈炎患者と健常者の登録から腸内細菌叢の分析までのプロトコールを示す図である。
【
図2】腸内細菌叢中での相対的存在量が群間で有意に変化している腸内細菌を抽出した手順を示す図である。
【
図3】高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない高安動脈炎患者の腸内細菌叢において有意に増加した細菌について、腸内細菌叢内での相対的存在量(Relative abundance)を示す図である。図中、「Pt」は高安動脈炎患者、「HV」は健常者を示す。
【
図4】高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない高安動脈炎患者の腸内細菌叢において有意に低下した細菌について、腸内細菌叢内での相対的存在量(Relative abundance)を示す図である。図中、「Pt」は高安動脈炎患者、「HV」は健常者を示す。
【
図5】高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている高安動脈炎患者の腸内細菌叢において有意に増加した細菌について、腸内細菌叢内での相対的存在量(Relative abundance)を示す図である。図中、「Pt」は高安動脈炎患者、「HV」は健常者を示す。
【
図6】高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている高安動脈炎患者の腸内細菌叢において有意に低下した細菌について、腸内細菌叢内での相対的存在量(Relative abundance)を示す図である。図中、「Pt」は高安動脈炎患者、「HV」は健常者を示す。
【
図7】高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている患者の腸内細菌叢組成において、健常者に比べて特に増加していたストレプトコッカス属細菌及びラクトバシラス属細菌について、ANCOM(Analysis of composition of microbiomes)解析を行った結果である。縦軸Wは、両群の細菌に違いがないという帰無仮説を棄却した個数(大きいほど差が大きい)を示す。横軸は、CLR(Centered log-ratio transformation)により導かれた値であり、左に行くほど患者群で有意に多い菌種、右に行くほど健常者群に多い菌種になっている。患者群と健常者群との差が小さい場合にはCLRは0に近づく。
【
図8】高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない疾患高活動性の高安動脈炎患者(active)の腸内細菌叢組成において、高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない疾患低活動性の高安動脈炎患者(inactive)及び健常者(HV)と比較して、腸内細菌叢内での相対的存在量(Relative abundance)が低下した細菌を示す図である。
【
図9】高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けておらず且つ肺動脈病変を合併している高安動脈炎患者(PAI+)の腸内細菌叢組成において、高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けておらず且つ肺動脈病変を合併していない高安動脈炎患者(PAI-)及び健常者(HV)と比較して、腸内細菌叢内での相対的存在量(Relative abundance)が低下又は増大した細菌を示す図である。
【
図10】高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けておらず且つ炎症性腸疾患を合併している高安動脈炎患者(IBD+)の腸内細菌叢組成において、高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けておらず且つ炎症性腸疾患を合併していない高安動脈炎患者(IBD-)及び健常者(HV)と比較して、腸内細菌叢内での相対的存在量(Relative abundance)が低下又は増大した細菌を示す図である。
【
図11】高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている高安動脈炎患者において、腸内細菌叢におけるストレプトコッカス属細菌又はビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量と、臨床イベント発生との相関を調べた結果である。aにおいて、左図は、腸内細菌叢におけるストレプトコッカス属細菌の相対的存在量(Relative abundance)と胸部大動脈瘤合併に関するイベント(手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併、又はそれに伴う大動脈置換術)の有無との関係を示す;中図は、腸内細菌叢におけるストレプトコッカス属細菌の相対的存在量(Relative abundance)に応じて四分位法にてQuantile 1-4(Q1~Q4)に群分けした各群と胸部大動脈瘤合併に関するイベント数との関係を示す図;並びに、右図は、腸内細菌叢におけるストレプトコッカス属細菌の相対的存在量(Relative abundance)に応じて四分位法にてQuantile 1-4(Q1~Q4)に群分けした各群と血管狭窄病変及び血管拡張病変に関する合計イベント数との関係を示す図である。bにおいて、左図は、腸内細菌叢におけるビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量(Relative abundance)と胸部大動脈瘤合併に関するイベント(手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併、又はそれに伴う大動脈置換術)の有無との関係を示す図;中図は、腸内細菌叢におけるビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量(Relative abundance)に応じて四分位法にてQuantile 1-4(Q1~Q4)に群分けした各群と胸部大動脈瘤合併に関するイベント数との関係を示す図;並びに、右図は、腸内細菌叢におけるビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量(Relative abundance)に応じて四分位法にてQuantile 1-4(Q1~Q4)に群分けした各群と血管狭窄病変及び血管拡張病変に関する合計イベント数との関係を示す図である。cにおいて、上図は、HLA-B52又はHLA-B67の保有の有無と胸部大動脈瘤合併に関するイベント(手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併、又はそれに伴う大動脈置換術)との関係を示す図;下図はHLA-B52又はHLA-B67の保有の有無と管狭窄病変及び血管拡張病変に関するイベントとの関係を示す図である。
【
図12】高安動脈炎患者を、ストレプトコッカス属細菌の相対的存在量(Relative abundance)が中央値より低い群(Q1 + Q2)及び中央値より高い群(Q3 + Q4)に分け、フルメタゲノム解析により細菌の種を同定し、有意に頻度が変化していた細菌の上位30種のヒートマップを示す図である。
【
図13】巨細胞性動脈炎患者の腸内細菌叢において有意に増加した細菌について、腸内細菌叢内での相対的存在量(Relative abundance)を示す図である。図中、「Pt」は巨細胞性動脈炎患者、「HV」は健常者を示す。
【
図14】巨細胞性動脈炎患者の腸内細菌叢において有意に低下した細菌について、腸内細菌叢内での相対的存在量(Relative abundance)を示す図である。図中、「Pt」は巨細胞性動脈炎患者、「HV」は健常者を示す。
【
図15】巨細胞性動脈炎患者と高安動脈炎患者の腸内細菌叢内でのクロストリジウム・ボルテアエ([Clostridium] bolteae)、エリシペラトクロストリジウム・ラモスム(Erysipelatoclostridium ramosum)、及びクロストリジウム・レプタム([Clostridium] leptum)の相対的存在量(Relative abundance)を示す図である。図中、「GCA」は巨細胞性動脈炎患者、「TAK without IT」は高安動脈炎に対して免疫抑制療法(Immunosuppressive Treatment)を受けていない患者、「PostTx TAK」は高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている患者を示す。
【
図16】Interleukin1 receptor antagonist (IL-1Ra)ノックアウトマウスを用いて抗生剤の投与試験を行い、腸内細菌と大動脈炎の病態との関連性を確認した結果を示す図である。aは、実験プロトコールを示す図である。bは、抗生剤カクテル投与群(Abx)及びコントロール群(Veh)について、8週齢の時点でHematoxylin-Eosin 染色によって大動脈炎の発症頻度を調べた結果を示す図である。cは、抗生剤カクテル投与群(Abx)及びコントロール群(Vehicle)について、Masson-Trichrome染色によって大動脈基部の線維化の割合を調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.用語
本明細書で使用される用語は、特に具体的な定めのない限り、医学、薬学、分子生物学、微生物学、有機化学等の分野における当業者に一般に理解される通りの意味を有する。本明細書において定義された用語は、一般的に理解されるのと同じ意味を有していない場合、本明細書の記載内容が優先する。
【0014】
本開示において、「被験者」とは、大型血管炎の罹患の有無、大型血管炎の疾患活動性、大型血管炎患者の合併症の有無又はその発症リスク、或は大型血管炎患者の予後予測の検査対象となるヒト又は非ヒト動物である。非ヒト動物としては、例えば、霊長類動物、ラット、マウス、スナネズミ、モルモット、ハムスター、フェレット、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、イヌ、ネコ等の非ヒト哺乳動物が挙げられる。
【0015】
本開示において、「腸内細菌叢における特定の科、属又は種の腸内細菌の相対的存在量」は、腸内細菌叢に存在する全腸内細菌数を100%とした場合の、腸内細菌叢に存在する特定の科、属又は種に含まれる全腸内細菌数の相対比率(%)である。例えば、腸内細菌叢におけるビフィドバクテリア科細菌の相対的存在量は、腸内細菌叢に存在する全腸内細菌数を1とした場合の、腸内細菌叢に存在するビフィドバクテリア科に含まれる全細菌数の相対比率である。また、例えば、腸内細菌叢におけるビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量は、腸内細菌叢に存在する全腸内細菌数を1とした場合の、腸内細菌叢に存在するビフィドバクテリウム属に含まれる全細菌数の相対比率である。また、例えば、腸内細菌叢におけるビフィドバクテリウム・ロンガムの相対的存在量は、腸内細菌叢に存在する全腸内細菌数を1とした場合の、腸内細菌叢に存在するビフィドバクテリウム・ロンガムに含まれる全細菌数の相対比率である。
【0016】
本開示において、大型血管炎の疾患活動性とは、大型血管炎の症状の程度である。大型血管炎の疾患活動性は、全身症状、炎症反応上昇(赤沈又はCRP)の上昇、血管炎に起因する虚血症状、及び血管炎に特徴的な画像所見に基づいて判断される。本開示において、大型血管炎の症状として、炎症反応上昇(赤沈又はCRP)の上昇が認められ、且つ全身症状、血管炎に起因する虚血症状、及び血管炎に特徴的な画像所見の中の少なくとも1項目が認められる場合には「疾患高活動性」であると定義され、赤沈又はCRPの上昇を認めない、且つ全身症状、血管炎に起因する虚血症状、及び血管炎に特徴的な画像所見の中で1項目以下が認められる場合には「疾患低活動性」であると定義される。これらの項目は、未診断症例において新規に出現、又は既存の疾患が悪化したものに限る。また、前記項目の判定基準は、以下の表1に示す通りである。
【表1】
【0017】
本開示において、「大型血管炎の予後不良」とは、予後に、手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併を含む血管拡張病変、又は血管狭窄病変により、外科的治療又は血管内治療のいずれか1つ以上が必要になることを指す。
【0018】
本開示において、「大型血管炎の改善剤」とは、大型血管炎の発症抑制;大型血管炎の病態の治癒、緩和又は増悪抑制;大型血管炎患者の合併症の予防、治癒、緩和又は増悪抑制;或は、大型血管炎患者の予後不良の改善の目的で使用される薬剤である。大型血管炎の改善剤には、後記する、大型血管炎の予防又は治療剤、大型血管炎の疾患活動性の抑制剤、大型血管炎患者で合併する肺動脈病変の予防又は治療剤、大型血管炎患者で合併する炎症性腸疾患の予防又は治療剤、及び大型血管炎患者の予後不良の改善剤が包含される。
【0019】
本開示において、「大型血管炎の予防又は治療剤」とは、大型血管炎の発症抑制、或は大型血管炎の病態の治癒、緩和又は増悪抑制の目的で使用される薬剤である。
【0020】
本開示において、「大型血管炎の疾患活動性の抑制剤」とは、大型血管炎の疾患活動性の低下又は上昇抑制のために使用される薬剤である。大型血管炎の疾患活動性の抑制には、疾患高活動性の大型血管炎を疾患低活動性に移行させる目的、又は疾患低活動性の大型血管炎が疾患高活動性に移行するのを抑制する目的で使用される薬剤が包含される。
【0021】
本開示において、「大型血管炎患者で合併する肺動脈病変の予防又は治療剤」とは、大型血管炎患者において、肺動脈病変の合併リスクを低減する目的、或は合併した肺動脈病変の病態の治癒、緩和又は進行抑制する目的で使用される薬剤である。
【0022】
本開示において、「大型血管炎患者で合併する炎症性腸疾患の予防又は治療剤」とは、大型血管炎患者において、炎症性腸疾患の合併リスクを低減する目的、或は合併した炎症性腸疾患の病態の治癒、緩和又は進行抑制する目的で使用される薬剤である。
【0023】
本開示において、「大型血管炎患者の予後不良の改善剤」とは、手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併を含む血管拡張病変、又は血管狭窄病変により、外科的治療又は血管内治療のいずれか1つ以上が必要になることを抑制する目的で使用される薬剤である。
【0024】
本開示において、「被験物質」とは、スクリーニング方法において、所望の作用の存否の確認対象となる物質である。
【0025】
2.大型血管炎の罹患の有無を検査する方法
本開示の一実施形態では、大型血管炎の罹患の有無を検査する方法(以下、「検査方法1」と表記することもある)が提供される。本開示の検査方法1では、被験者から採取された腸内細菌叢において、ラクトバシラス科(Lactobacillaceae)細菌、パスツレラ科(Pasteurellaceae)細菌、ストレプトコッカス科(Streptococcuceae)細菌、ラクトバシラス属(Lactobacillus)細菌、デスルフォビブリオ属(Desulfovibrio)細菌、ラクノスピラ・UCG-004属(Lachnospiraceae_UCG-004)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、ヘモフィルス属(Haemophilus)細菌、ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ファスコラークトバクテリウム属(Phascolarctobacterium)細菌、ストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、ビフィドバクテリア科(Bifidobacteriaceae)細菌、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属(Ruminococcaceae_Incertae_Sedis)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、クロストリジウム・レプタム([Clostridium] leptum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ユーバクテリウム科(Eubacteriaceae)細菌、フラボニフラクター属(Flavonifractor)細菌、エリシペラトクロストリジウム属(Erysipelatoclostridium)細菌、フンガテラ属(Hungatella)細菌、ティザレラ属(Tyzzerella)細菌、ユーバクテリウム属(Eubacterium)細菌、フェカリタレア属(Faecalitalea)細菌、クロストリジウム・ボルテアエ([Clostridium]_bolteae)、エリシペラトクロストリジウム・ラモスム(Erysipelatoclostridium_ramosum)、ティゼレラ属未分類細菌(Tyzzerella_sp.)、シャアリア・オドントリティカス(Schaalia_odontolytica)、クロストリジウム科(Clostridiaceae)細菌、オシロスピラ科UCG-005属(Oscillospiraceae UCG-005)細菌、フィーカリバクテリウム属(Faecalibacterium)細菌、アドレクルーツィア属(Adlercreutzia)細菌、オシロスピラ科UCG-003属(Oscillospiraceae UCG-003)細菌、クロストリジウムセンスストリクト1属(Clostridium_Sensu_Stricto_1)細菌、ラクノスピラ属(Lachnospira)細菌、ユーバクテリウム・ハリイ([Eubacterium]_hallii)、アエロボカセア科ファミリーXIII UCG-001・アンカルチャードバクテリウム(Anaerovoracaceae;g_Family_XIII_UCG-001;s_uncultured_bacterium)、ラクノクロストリジウム・メタゲノム(Lachnoclostridium metagenome)、オドリバクター・ラネウス(Odoribacter_laneus)、オシロスピラ科UCG-005・アンカルチャードバクテリウム(Oscillospiraceae;g_UCG-005;s_uncultured_bacterium)、ラクノクロストリジウム・アンカルチャードオーガニズム(Lachnoclostridium;s_uncultured_organism)、ラクノクロストリジウム・ガットメタゲノム(Lachnoclostridium;s_gut_metagenome)、アリスティペス・オブゼイ(Alistipes_obsei)、ロゼブリア・イヌリニボランス(Roseburia_inulinivorans)、オシロスピラ科UCG-005・ガットメタゲノム(Oscillospiraceae;g_UCG-005;s_gut_metagenome)、ルミノコッカス科アンカルチャード・ヒューマンガット(Ruminococcaceae;g_uncultured;s_human_gut)、ユーバクテリウム・ベントリオサムグループ・アンカルチャードラクノスピラ([Eubacterium]_ventriosum_group;s_uncultured_Lachnospiraceae)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌、アナエロスティペス属(Anaerostipes)細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ([Eubacterium]_hallii_group)細菌、ブラウティア属(Blautia)細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ([Ruminococcus]_torques_group)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を測定する工程を含む。
【0026】
本開示の検査方法1において、腸内細菌叢における相対的存在量の測定対象は、前記腸内細菌の中の1種又は2種以上であればよい。
【0027】
腸内細菌叢における前記特定の科、属又は種の腸内細菌の相対的存在量を測定するには、腸内細菌叢を含むサンプルからDNAを抽出し、当該DNAをメタゲノム解析又はPCR分析に供すればよい。
【0028】
腸内細菌叢を含むサンプルとしては、糞便、消化管から採取した消化管内容物等であればよいが、糞便は非侵襲的に採取可能であることから好ましい。腸内細菌叢を含むサンプルからDNAの抽出は、公知の方法で行うことができる。
【0029】
メタゲノム解析は、16SrRNAメタゲノム解析又はフルメタゲノム解析のいずれであってもよく、公知の方法で行うことができる。
【0030】
また、PCR分析は、全ての細菌を検出可能なプライマー及び前記特定の科、属又は種の腸内細菌を特異的に検出可能なプライマーを用いて、腸内細菌叢を含むサンプルから抽出されたDNAを鋳型として公知の方法で行うことができる。全ての細菌を検出可能なプライマー及び前記特定の科、属又は種の腸内細菌を特異的に検出可能なプライマーは、公知又は当業者が通常の創作能力の発揮により設計可能であるが、例えば、以下のプライマーが挙げられる。
・全ての細菌を検出可能なプライマー
F:GTGSTGCAYGGYTGTCGTCA(配列番号1)
R:ACGTCRTCCMCACCTTCCTC(配列番号2)
・ストレプトコッカス属細菌全体を特異的に検出可能なプライマー
Str1_F:GTACAGTTGCTTCAGGACGTATC(配列番号3)
Str2_R:ACGTTCGATTTCATCACGTTG(配列番号4)
・ラクトバシラス属細菌全体を特異的に検出可能なプライマー
F:TGCCTAATACATGCAAGTCGA(配列番号5)
R:GTTTGGGCCGTGTCTCAGT(配列番号6)
・ロゼブリア属細菌全体を特異的に検出可能なプライマー
F:AAATACCCGTGGTGTTACCG(配列番号7)
R:GTGTCTCCCTCTGTAAAGTCA(配列番号8)
・ストレプトコッカス属細菌全体を特異的に検出可能なプライマー
F:GTACAGTTGCTTCAGGACGTATC(配列番号9)
R:ACGTTCGATTTCATCACGTTG(配列番号10)
・ストレプトコッカス・パラサングイニス全体を特異的に検出可能なプライマー
F:AACAATGCGATYCCAGTATCRAG(配列番号11)
R:CTACGACATTAAAGGTACCDCGG(配列番号12)
・ビフィドバクテリウム属細菌全体を特異的に検出可能なプライマー
F:CTCCTGGAAACGGGTGG(配列番号13)
R:GGTGTTCTTCCCGATATCTACA(配列番号14)
・ビフィドバクテリウム・ロンガム全体を特異的に検出可能なプライマー
F:GTTCCCGACGGTCGTAGAG(配列番号15)
R:GTGAGTTCCCGGCATAATCC(配列番号16)
・ユーバクテリウム・ハリイ全体を特異的に検出可能なプライマー
F:GTGTCGGGGCCGTATAGG(配列番号17)
R:GTTCGCCTCACTCTGTGAC(配列番号18)
・ブラウティア属細菌全体を特異的に検出可能なプライマー
F:GTGAAGGAAGAAGTATCTCGG(配列番号19)
R:TTGGTAAGGTTCTTCGCGTT(配列番号20)
・ルミノコッカス・トルキース・グループ細菌全体を特異的に検出可能なプライマー
F:CGAAGCACTTTGCTTAGA(配列番号21)
R:ACATCAGACTTGCCCATC(配列番号22)
【0031】
本開示の検査方法1において、腸内細菌叢におけるラクトバシラス科細菌、パスツレラ科細菌、ストレプトコッカス科細菌、ラクトバシラス属細菌、デスルフォビブリオ属細菌ラクノスピラ・UCG-004属細菌、ロゼブリア属細菌、ヘモフィルス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、ファスコラークトバクテリウム属細菌、及びストレプトコッカス・パラサングイニスよりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量が高い被験者は、高安動脈炎を罹患している可能性が高いと判断される。腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量の高低は、具体的には、予め健常者及び/又は高安動脈炎患者の腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量(参照値)を求めておき、当該参照値との比較で判定することができる。例えば、健常者における前記腸内細菌の相対的存在量と比較して、被験者における前記腸内細菌の相対的存在量が高い場合には、高安動脈炎を罹患している可能性が高いと判断できる。具体的には、実施例の欄に示す試験データから得られたカットオフ値から、以下の基準で、被験者の高安動脈炎を罹患している可能性を判定することもできる。被験者の腸内細菌叢において、ラクトバシラス科細菌の相対的存在量が0.01035%(カットオフ値)超の場合、パスツレラ科細菌の相対的存在量が0.00504%(カットオフ値)超の場合、ストレプトコッカス科細菌の相対的存在量が0.6302%(カットオフ値)超の場合、ラクトバシラス属細菌の相対的存在量が0.01035%(カットオフ値)超の場合、デスルフォビブリオ属細菌の相対的存在量が0.004665%(カットオフ値)超の場合、ラクノスピラ・UCG-004属細菌の相対的存在量が0.09095%(カットオフ値)超の場合、ロゼブリア属細菌の相対的存在量が0.4285%(カットオフ値)超の場合、ヘモフィルス属細菌の相対的存在量が0.005045%(カットオフ値)超の場合、ストレプトコッカス属細菌の相対的存在量が0.5570%(カットオフ値)超の場合、ファスコラークトバクテリウム属細菌の相対的存在量が0.3938%(カットオフ値)超の場合、又は、ストレプトコッカス・パラサングイニスの相対的存在量が0.02265%(カットオフ値)超の場合には、高安動脈炎を罹患している可能性が高いと判断できる。なお、上記のカットオフ値は一例であり、検体、検査条件等に応じて適宜設定することが可能である。
【0032】
また、本開示の検査方法1において、腸内細菌叢におけるビフィドバクテリア科細菌、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、クロストリジウム・レプタム、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ラクノスピラ科細菌、アナエロスティペス属細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ細菌、ブラウティア属細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量が低い被験者は、高安動脈炎を罹患している可能性が高いと判断される。特に、後述するように、腸内細菌叢におけるビフィドバクテリア科細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、ラクノスピラ科細菌、アナエロスティペス属細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ細菌、ブラウティア属細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量が低い被験者は、疾患高活動性の高安動脈炎を罹患している可能性が高いと判断される。腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量の高低は、具体的には、予め健常者及び/又は高安動脈炎患者の腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量(参照値)を求めておき、当該参照値との比較で判定することができる。例えば、健常者における前記腸内細菌の相対的存在量と比較して、被験者における前記腸内細菌の相対的存在量が低い場合には、高安動脈炎を罹患している可能性が高いと判断できる。また、実施例の欄に示す試験データから得られたカットオフ値から、以下の基準で、被験者の高安動脈炎を罹患している可能性を判定することもできる。被験者の腸内細菌叢において、ビフィドバクテリア科細菌の相対的存在量が0.6173%(カットオフ値)未満の場合、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属細菌の相対的存在量が0.1374%(カットオフ値)未満の場合、ビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量が0.6173%(カットオフ値)未満の場合、クロストリジウム・レプタムの相対的存在量が0.006520%(カットオフ値)未満の場合、ビフィドバクテリウム・ロンガムの相対的存在量が0.06615%(カットオフ値)未満の場合、ラクノスピラ科細菌の相対的存在量が14.56%(カットオフ値)未満の場合、アナエロスティペス属細菌の相対的存在量が0.8099%(カットオフ値)未満の場合、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ細菌の相対的存在量が0.3719%(カットオフ値)未満の場合、ブラウティア属細菌の相対的存在量が4.788%(カットオフ値)未満の場合、又は、ルミノコッカス・トルキース・グループ細菌の相対的存在量が0.6344%(カットオフ値)未満の場合には、高安動脈炎を罹患している可能性が高いと判断できる。なお、上記のカットオフ値は一例であり、検体、検査条件等に応じて適宜設定することが可能である。
【0033】
また、本開示の検査方法1において、腸内細菌叢におけるユーバクテリウム科細菌、フラボニフラクター属細菌、エリシペラトクロストリジウム属細菌、フンガテラ属細菌、ティザレラ属細菌、ユーバクテリウム属細菌、フェカリタレア属細菌、クロストリジウム・ボルテアエ、エリシペラトクロストリジウム・ラモスム、クロストリジウム・レプタム、ティゼレラ属未分類細菌、シャアリア・オドントリティカスよりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量が高い被験者は、巨細胞性動脈炎を罹患している可能性が高いと判断される。腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量の高低は、具体的には、予め健常者及び/又は巨細胞性動脈炎患者の腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量(参照値)を求めておき、当該参照値との比較で判定することができる。例えば、健常者における前記腸内細菌の相対的存在量と比較して、被験者における前記腸内細菌の相対的存在量が高い場合には、巨細胞性動脈炎を罹患している可能性が高いと判断できる。また、実施例の欄に示す試験データから得られたカットオフ値から、以下の基準で、被験者の巨細胞性動脈炎を罹患している可能性を判定することもできる。被験者の腸内細菌叢において、ユーバクテリウム科細菌の相対的存在量が0.03155%(カットオフ値)超の場合、フラボニフラクター属細菌の相対的存在量が0.4379(カットオフ値)%超の場合、エリシペラトクロストリジウム属細菌の相対的存在量が0.1307%(カットオフ値)超の場合、フンガテラ属細菌の相対的存在量が0.01306%(カットオフ値)超の場合、ティザレラ属細菌の相対的存在量が0.02987%(カットオフ値)超の場合、ユーバクテリウム属細菌の相対的存在量が0.03155%(カットオフ値)超の場合、フェカリタレア属細菌の相対的存在量が0.004030%(カットオフ値)超の場合、クロストリジウム・ボルテアエの相対的存在量が0.08272%(カットオフ値)超の場合、エリシペラトクロストリジウム・ラモスムの相対的存在量が0.03155%(カットオフ値)超の場合、クロストリジウム・レプタムの相対的存在量が0.04978%(カットオフ値)超の場合、ティゼレラ属未分類細菌の相対的存在量が0.09023%(カットオフ値)超の場合、又は、シャアリア・オドントリティカスの相対的存在量が0.02424%(カットオフ値)超の場合には、巨細胞性動脈炎を罹患している可能性が高いと判断できる。なお、上記のカットオフ値は一例であり、検体、検査条件等に応じて適宜設定することが可能である。
【0034】
また、本開示の検査方法1において、腸内細菌叢におけるクロストリジウム科細菌、オシロスピラ科UCG-005属細菌、ヘモフィルス属細菌、フィーカリバクテリウム属細菌、ロゼブリア属細菌、アドレクルーツィア属細菌、オシロスピラ科UCG-003属細菌、クロストリジウムセンスストリクト1属細菌、ラクノスピラ属細菌、ユーバクテリウム・ハリイ([Eubacterium] hallii)、アエロボカセア科ファミリーXIII UCG-001・アンカルチャードバクテリウム、ラクノクロストリジウム・メタゲノム、オドリバクター・ラネウス、オシロスピラ科UCG-005・アンカルチャードバクテリウム、ラクノクロストリジウム・アンカルチャードオーガニズム、ラクノクロストリジウム・ガットメタゲノム、アリスティペス・オブゼイ、ロゼブリア・イヌリニボランス、オシロスピラ科UCG-005・ガットメタゲノム、ルミノコッカス科アンカルチャード・ヒューマンガット、及びユーバクテリウム・ベントリオサムグループ・アンカルチャードラクノスピラよりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量が低い被験者は、巨細胞性動脈炎を罹患している可能性が高いと判断される。腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量の高低は、具体的には、予め健常者及び/又は巨細胞性動脈炎患者の腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量(参照値)を求めておき、当該参照値との比較で判定することができる。例えば、健常者における前記腸内細菌の相対的存在量と比較して、被験者における前記腸内細菌の相対的存在量が低い場合には、巨細胞性動脈炎を罹患している可能性が高いと判断できる。また、実施例の欄に示す試験データから得られたカットオフ値から、以下の基準で、被験者の巨細胞性動脈炎を罹患している可能性を判定することもできる。被験者の腸内細菌叢において、クロストリジウム科細菌の相対的存在量が0.006902%(カットオフ値)未満の場合、オシロスピラ科UCG-005属細菌の相対的存在量が0.007858%(カットオフ値)未満の場合、ヘモフィルス属細菌の相対的存在量が0.005808%(カットオフ値)未満の場合、フィーカリバクテリウム属細菌の相対的存在量が3.447%(カットオフ値)未満の場合、ロゼブリア属細菌の相対的存在量が2.083%(カットオフ値)未満の場合、アドレクルーツィア属細菌の相対的存在量が0.01604%(カットオフ値)未満の場合、オシロスピラ科UCG-003属細菌の相対的存在量が0.06265%(カットオフ値)未満の場合、クロストリジウムセンスストリクト1属細菌の相対的存在量が0.006902%(カットオフ値)未満の場合、ラクノスピラ属細菌の相対的存在量が0.5715%(カットオフ値)未満の場合、ユーバクテリウム・ハリイの相対的存在量が0.02488%(カットオフ値)未満の場合、アエロボカセア科ファミリーXIII UCG-001・アンカルチャードバクテリウムの相対的存在量が0.008704%(カットオフ値)未満の場合、ラクノクロストリジウム・メタゲノムの相対的存在量が0.04504%(カットオフ値)未満、オドリバクター・ラネウスの相対的存在量が0.01050%(カットオフ値)未満の場合、オシロスピラ科UCG-005・アンカルチャードバクテリウムの相対的存在量が0.02852%(カットオフ値)未満の場合、ラクノクロストリジウム・アンカルチャードオーガニズムの相対的存在量が0.03274%(カットオフ値)未満の場合、ラクノクロストリジウム・ヒューマンガットの相対的存在量が0.01051%(カットオフ値)未満の場合、アリスティペス・オブゼイの相対的存在量が0.006597%(カットオフ値)未満の場合、ロゼブリア・イヌリニボランスの相対的存在量が0.02702%(カットオフ値)未満の場合、オシロスピラ科UCG-005・ガットメタゲノムの相対的存在量が0.03580%(カットオフ値)未満の場合、ルミノコッカス科アンカルチャード・ヒューマンガットの相対的存在量が0.02065%(カットオフ値)未満の場合、又は、ユーバクテリウム・ベントリオサムグループ・アンカルチャードラクノスピラの相対的存在量が0.01802%(カットオフ値)未満の場合には、巨細胞性動脈炎を罹患している可能性が高いと判断できる。なお、上記のカットオフ値は一例であり、検体、検査条件等に応じて適宜設定することが可能である。
【0035】
本開示の検査方法1は、大型血管炎の診断補助のための検査として行うことができるので、本開示の検査方法1によって大型血管炎を罹患している可能性が高いと判断された被験者は対しては、画像診断、血液診断等の更なる診断を行うことができる。
【0036】
また、本開示の一態様では、本開示の検査方法1の実施に使用される検査キットが提供される。当該検査キットには、前記腸内細菌を特異的に検出可能なプライマーが含まれていればよい。また、当該検査キットには、更に、必要に応じて、腸内細菌叢中の全ての細菌を検出可能なプライマー、及び/又は腸内細菌叢を含むサンプルからDNAを抽出するための試薬が含まれていてもよい。
【0037】
3.高安動脈炎の疾患活動性を検査する方法
本開示の他の一実施形態では、高安動脈炎の疾患活動性を検査する方法(以下、「検査方法2」と表記することもある)が提供される。本開示の検査方法2では、被験者から採取された腸内細菌叢において、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌、ビフィドバクテリア科(Bifidobacteriaceae)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、アナエロスティペス属(Anaerostipes)細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ([Eubacterium]_hallii_group)細菌、ブラウティア属(Blautia)細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ([Ruminococcus]_torques_group)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を測定する工程を含む。
【0038】
本開示の検査方法2において、被験者は、高安動脈炎が確定診断されている患者であってもよく、高安動脈炎が確定診断されていない者であってもよい。本開示の検査方法2において、高安動脈炎が確定診断されている患者を被験者とする場合、当該被験者が罹患している高安動脈炎の疾患活動性を検査することができる。また、本開示の検査方法2において、高安動脈炎が確定診断されていない者を被験者とする場合、当該被験者が疾患高活動性の高安動脈炎を罹患しているか否か検査することができる。
【0039】
本開示の検査方法2において、腸内細菌叢における相対的存在量の測定対象は、ラクノスピラ科細菌、ビフィドバクテリア科細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、アナエロスティペス属細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ細菌、ブラウティア属細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ細菌の中の1種又は2種以上であればよい。特に、ラクノスピラ科細菌を測定対象にすると、高安動脈炎の疾患活動性の検査をより高精度に行うことが可能になる。
【0040】
腸内細菌叢における前記特定の科又は属の腸内細菌の相対的存在量を測定するには、腸内細菌叢を含むサンプルからDNAを抽出し、当該DNAをメタゲノム解析又はPCR分析に供すればよい。
【0041】
腸内細菌叢を含むサンプルとしては、糞便、消化管から採取した消化管内容物等であればよいが、糞便は非侵襲的に採取可能であることから好ましい。腸内細菌叢を含むサンプルからDNAの抽出は、公知の方法で行うことができる。
【0042】
メタゲノム解析は、16SrRNAメタゲノム解析又はフルメタゲノム解析のいずれであってもよく、公知の方法で行うことができる。
【0043】
また、PCR分析は、全ての細菌を検出可能なプライマー及び前記特定の科又は属の腸内細菌を特異的に検出可能なプライマーを用いて、腸内細菌叢を含むサンプルから抽出されたDNAを鋳型として公知の方法で行うことができる。全ての細菌を検出可能なプライマー及び前記特定の科又は属の腸内細菌を特異的に検出可能なプライマーは、公知又は当業者が通常の創作能力の発揮により設計可能である。全ての細菌を検出可能なプライマー、及び前記特定の科又は属の腸内細菌を特異的に検出可能なプライマーの具体例については、前記「2.大型血管炎の罹患の有無を検査する方法」の欄に記載の通りである。
【0044】
本開示の検査方法2において、腸内細菌叢におけるラクノスピラ科細菌、ビフィドバクテリア科細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、アナエロスティペス属細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ細菌、ブラウティア属細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量が低い被験者は、疾患高活動性の高安動脈炎を罹患している可能性が高いと判断される。腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量の高低は、具体的には、予め健常者、疾患低活動性の高安動脈炎患者、及び疾患高活動性の高安動脈炎患者の少なくとも1つの腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量(参照値)を求めておき、当該参照値との比較で判定することができる。例えば、健常者又は疾患低活動性の高安動脈炎患者における前記腸内細菌の相対的存在量と比較して、被験者における前記腸内細菌の相対的存在量が低い場合には、疾患高活動性の高安動脈炎を罹患している可能性が高いと判断できる。また、実施例の欄に示す試験データから得られたカットオフ値から、以下の基準で、被験者の疾患高活動性の高安動脈炎を罹患している可能性を判定することもできる。被験者の腸内細菌叢において、ラクノスピラ科細菌の相対的存在量が14.56%(カットオフ値)未満の場合、ビフィドバクテリア科細菌の相対的存在量が0.6076%(カットオフ値)未満の場合、ビフィドバクテリア属細菌の相対的存在量が0.5804%(カットオフ値)未満の場合、アナエロスティペス属細菌の相対的存在量が0.8099%(カットオフ値)未満の場合、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ細菌の相対的存在量が0.03719%(カットオフ値)未満の場合、ブラウティア属細菌の相対的存在量が4.788%(カットオフ値)未満の場合、又は、ユウバクテリウム・トルキース・グループの相対的存在量が0.6344%(カットオフ値)未満の場合には、疾患高活動性の高安動脈炎を罹患している可能性が高いと判断できる。なお、上記のカットオフ値は一例であり、検体、検査条件等に応じて適宜設定することが可能である。
【0045】
本開示の検査方法2は、高安動脈炎の疾患活動性の診断補助のための検査として行うことができるので、本開示の検査方法2によって疾患高活動性の高安動脈炎を罹患している可能性が高いと判断された被験者は対しては、画像診断、血液診断等の更なる診断を行うことができる。
【0046】
また、本開示の一態様では、本開示の検査方法2の実施に使用される検査キットが提供される。当該検査キットには、ラクノスピラ科細菌、ビフィドバクテリア科細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、アナエロスティペス属細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ細菌、ブラウティア属細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌を特異的に検出可能なプライマーが含まれていればよい。また、当該検査キットには、更に、必要に応じて、腸内細菌叢中の全ての細菌を検出可能なプライマー、及び/又は腸内細菌叢を含むサンプルからDNAを抽出するための試薬が含まれていてもよい。
【0047】
4.高安動脈炎患者の合併症の有無又は発症リスクを検査する方法
本開示の他の一実施形態では、高安動脈炎患者の合併症の有無又はその発症リスクを検査する方法(以下、「検査方法3」と表記することもある)が提供される。本開示の検査方法3では、高安動脈炎患者から採取された腸内細菌叢において、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属(Ruminococcaceae_Incertae_Sedis)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、コリセンラ属(Collinsella)細菌、パラバクテロイデス属(Parabacteroides)細菌、及びモノグロブス属(Monoglobus)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を測定する工程を含む。
【0048】
本開示の検査方法3において、検査対象となる合併症については、特に限定されないが、具体的には、肺動脈病変(Pulmonary artery involvement)、炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease)が挙げられる。また、本開示の検査方法3において、被験者は、大型血管炎患者である。
【0049】
本開示の検査方法3において、腸内細菌叢における相対的存在量の測定対象は、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、ロゼブリア属細菌、コリセンラ属細菌、パラバクテロイデス属細菌、及びモノグロブス属細菌の中の1種又は2種以上であればよい。本開示の検査方法3において、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、及びロゼブリア属細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌を測定対象にする場合には、肺動脈病変を合併している可能性又はその合併リスクを検査することができる。また、本開示の検査方法3において、コリセンラ属細菌、パラバクテロイデス属細菌、及びモノグロブス属細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌を測定対象にする場合には、炎症性腸疾患を合併している可能性又はその合併リスクを検査することができる。
【0050】
腸内細菌叢における前記特定の属の腸内細菌の相対的存在量を測定するには、腸内細菌叢を含むサンプルからDNAを抽出し、当該DNAをメタゲノム解析又はPCR分析に供すればよい。
【0051】
腸内細菌叢を含むサンプルとしては、糞便、消化管から採取した消化管内容物等であればよいが、糞便は非侵襲的に採取可能であることから好ましい。腸内細菌叢を含むサンプルからDNAの抽出は、公知の方法で行うことができる。
【0052】
メタゲノム解析は、16SrRNAメタゲノム解析又はフルメタゲノム解析のいずれであってもよく、公知の方法で行うことができる。
【0053】
また、PCR分析は、全ての細菌を検出可能なプライマー及び前記特定の属の腸内細菌を特異的に検出可能なプライマーを用いて、腸内細菌叢を含むサンプルから抽出されたDNAを鋳型として公知の方法で行うことができる。全ての細菌を検出可能なプライマー及び前記特定の属の腸内細菌を特異的に検出可能なプライマーは、公知又は当業者が通常の創作能力の発揮により設計可能である。全ての細菌を検出可能なプライマー、並びにルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、及びロゼブリア属細菌を特異的に検出可能なプライマーの具体例については、前記「2.大型血管炎の罹患の有無を検査する方法」の欄に記載の通りである。
【0054】
本開示の検査方法3において、腸内細菌叢におけるルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属細菌、及びビフィドバクテリウム属細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量が低い高安動脈炎患者は、肺動脈病変を合併している可能性が高い又は肺動脈病変の合併リスクが高いと判断される。腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量の高低は、具体的には、予め健常者、肺動脈病変を合併していない高安動脈炎患者、及び肺動脈病変を合併している高安動脈炎患者の少なくとも1つの腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量(参照値)を求めておき、当該参照値との比較で判定することができる。例えば、健常者又は肺動脈病変を合併していない高安動脈炎患者における前記腸内細菌の相対的存在量と比較して、被験者(高安動脈炎患者)における前記腸内細菌の相対的存在量が低い場合には、肺動脈病変を合併している可能性が高い又は肺動脈病変の合併リスクが高いと判断できる。また、実施例の欄に示す試験データから得られたカットオフ値から、以下の基準で、肺動脈病変を合併している可能性又はその発症リスクを判定することもできる。被験者(高安動脈炎患者)の腸内細菌叢において、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属細菌の相対的存在量が0.1157%(カットオフ値)未満の場合、又は、ビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量が0.3673%(カットオフ値)未満の場合には、肺動脈病変を合併している可能性が高い又は肺動脈病変の合併リスクが高いと判断できる。なお、上記のカットオフ値は一例であり、検体、検査条件等に応じて適宜設定することが可能である。
【0055】
また、本開示の検査方法3において、腸内細菌叢におけるロゼブリア属細菌の相対的存在量が高い高安動脈炎患者は、肺動脈病変を合併している可能性が高い又は肺動脈病変の合併リスクが高いと判断される。腸内細菌叢におけるロゼブリア属細菌の相対的存在量の高低は、具体的には、予め健常者、肺動脈病変を合併していない高安動脈炎患者、及び肺動脈病変を合併している高安動脈炎患者の少なくとも1つの腸内細菌叢におけるロゼブリア属細菌の相対的存在量(参照値)を求めておき、当該参照値との比較で判定することができる。例えば、健常者又は肺動脈病変を合併していない高安動脈炎患者におけるロゼブリア属細菌の相対的存在量と比較して、被験者(高安動脈炎患者)におけるロゼブリア属細菌の相対的存在量が高い場合には、肺動脈病変を合併している可能性が高い又は肺動脈病変の合併リスクが高いと判断できる。また、実施例の欄に示す試験データから得られたカットオフ値から、以下の基準で、肺動脈病変を合併している可能性又はその発症リスクを判定することもできる。被験者(高安動脈炎患者)の腸内細菌叢において、ロゼブリア属細菌の相対的存在量が1.014%(カットオフ値)超の場合、肺動脈病変を合併している可能性が高い又は肺動脈病変の合併リスクが高いと判断できる。なお、上記のカットオフ値は一例であり、検体、検査条件等に応じて適宜設定することが可能である。
【0056】
本開示の検査方法3において、腸内細菌叢におけるコリセンラ属細菌、及びパラバクテロイデス属細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量が高い高安動脈炎患者は、炎症性腸疾患を合併している可能性が高い又は炎症性腸疾患の合併リスクが高いと判断される。腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量の高低は、具体的には、予め健常者、炎症性腸疾患を合併していない高安動脈炎患者、及び炎症性腸疾患を合併している高安動脈炎患者の少なくとも1つの腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量(参照値)を求めておき、当該参照値との比較で判定することができる。例えば、健常者又は炎症性腸疾患を合併していない高安動脈炎患者における前記腸内細菌の相対的存在量と比較して、被験者(高安動脈炎患者)における前記腸内細菌の相対的存在量が高い場合には、炎症性腸疾患を合併している可能性が高い又は炎症性腸疾患の合併リスクが高いと判断できる。また、実施例の欄に示す試験データから得られたカットオフ値から、以下の基準で、症性腸疾患を合併している可能性又はその発症リスクを判定することもできる。被験者(高安動脈炎患者)の腸内細菌叢において、コリセンラ属細菌の相対的存在量が0.2653%(カットオフ値)超の場合、又は、パラバクテロイデス属細菌の相対的存在量が3.780%(カットオフ値)超の場合には、炎症性腸疾患を合併している可能性が高い又は炎症性腸疾患の合併リスクが高いと判断できる。なお、上記のカットオフ値は一例であり、検体、検査条件等に応じて適宜設定することが可能である。
【0057】
また、本開示の検査方法3において、腸内細菌叢におけるモノグロブス属細菌の相対的存在量が低い高安動脈炎患者は、炎症性腸疾患を合併している可能性が高い又は炎症性腸疾患の合併リスクが高いと判断される。腸内細菌叢におけるモノグロブス属細菌の相対的存在量の高低は、具体的には、予め健常者、炎症性腸疾患を合併していない高安動脈炎患者、及び炎症性腸疾患を合併している高安動脈炎患者の少なくとも1つの腸内細菌叢におけるモノグロブス属細菌の相対的存在量(参照値)を求めておき、当該参照値との比較で判定することができる。例えば、健常者又は炎症性腸疾患を合併していない高安動脈炎患者におけるモノグロブス属細菌の相対的存在量と比較して、被験者(高安動脈炎患者)におけるモノグロブス属細菌の相対的存在量が低い場合には、炎症性腸疾患を合併している可能性が高い又は炎症性腸疾患の合併リスクが高いと判断できる。また、実施例の欄に示す試験データから得られたカットオフ値から、以下の基準で、症性腸疾患を合併している可能性又はその発症リスクを判定することもできる。被験者(高安動脈炎患者)の腸内細菌叢において、モノグロブス属細菌の相対的存在量が0.1606%(カットオフ値)未満の場合には、炎症性腸疾患を合併している可能性が高い又は炎症性腸疾患の合併リスクが高いと判断できる。なお、上記のカットオフ値は一例であり、検体、検査条件等に応じて適宜設定することが可能である。
【0058】
本開示の検査方法3は、高安動脈炎患者の合併症の有無又は発症リスクの診断補助のための検査として行うことができるので、本開示の検査方法3によって合併症を罹患している可能性が高い又は合併症の発症リスクが高いと判断された被験者は対しては、画像診断、血液診断等の更なる診断を行うことができる。
【0059】
また、本開示の一態様では、本開示の検査方法3の実施に使用される検査キットが提供される。当該検査キットには、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、ロゼブリア属細菌、コリセンラ属細菌、パラバクテロイデス属細菌、及びモノグロブス属細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌を特異的に検出可能なプライマーが含まれていればよい。また、当該検査キットには、更に、必要に応じて、腸内細菌叢中の全ての細菌を検出可能なプライマー、及び/又は腸内細菌叢を含むサンプルからDNAを抽出するための試薬が含まれていてもよい。
【0060】
5.高安動脈炎患者の予後予測のための検査方法
本開示の他の一実施形態では、高安動脈炎患者の予後予測のための検査方法(以下、「検査方法4」と表記することもある)が提供される。本開示の検査方法4では、大型血管炎患者から採取された腸内細菌叢において、ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ストレプトコッカス・ベスティブラリス(Streptococcus vestibularis)、ストレプトコッカス・パスツーリアヌス(Streptococcus pasteurianus)、ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)、及びビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌よりなる群から選択される1種の腸内細菌の相対的存在量を測定する工程を含む。
【0061】
本開示の検査方法4では、高安動脈炎の予後不良になる可能性を検査することができる。
【0062】
本開示の検査方法4において、腸内細菌叢における相対的存在量の測定対象は、前記属又は種の腸内細菌のいずれか1以上であればよい。本開示の検査方法4において、ストレプトコッカス属細菌、ストレプトコッカス・ベスティブラリス、ストレプトコッカス・パスツーリアヌス、ストレプトコッカス・サングイニス、ストレプトコッカス・ミティス、ストレプトコッカス・オラリス、ストレプトコッカス・ニューモニエ、ストレプトコッカス・サーモフィラス、ストレプトコッカス・パラサングイニス、及びストレプトコッカス・サリバリウスの中の少なくとも1種を測定対象にする場合には、胸部大動脈瘤合併により予後不良になる可能性を検査することができる。また、本開示の検査方法4において、ビフィドバクテリウム属細菌を測定対象にする場合には、高安動脈炎患者において、手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併を含む血管拡張病変、及び血管狭窄病変の内、いずれか1つ以上が生じることにより外科的治療および血管内治療を経験し、予後不良になる可能性を検査することができる。
【0063】
腸内細菌叢における前記特定の属又は種の腸内細菌の相対的存在量を測定するには、腸内細菌叢を含むサンプルからDNAを抽出し、当該DNAをメタゲノム解析又はPCR分析に供すればよい。
【0064】
腸内細菌叢を含むサンプルとしては、糞便、消化管から採取した消化管内容物等であればよいが、糞便は非侵襲的に採取可能であることから好ましい。腸内細菌叢を含むサンプルからDNAの抽出は、公知の方法で行うことができる。
【0065】
メタゲノム解析は、16SrRNAメタゲノム解析又はフルメタゲノム解析のいずれであってもよく、公知の方法で行うことができる。
【0066】
また、PCR分析は、腸内細菌叢中の全ての細菌を検出可能なプライマー及び前記特定の属の腸内細菌を特異的に検出可能なプライマーを用いて、腸内細菌叢を含むサンプルから抽出されたDNAを鋳型として公知の方法で行うことができる。全ての細菌を検出可能なプライマー及び前記特定の属の腸内細菌を特異的に検出可能なプライマーは、公知又は当業者が通常の創作能力の発揮により設計可能である。全ての細菌を検出可能なプライマー、並びにストレプトコッカス属細菌及びビフィドバクテリウム属細菌を特異的に検出可能なプライマーの具体例については、前記「2.大型血管炎の罹患の有無を検査する方法」の欄に記載の通りである。また、ストレプトコッカス・サングイニス、ストレプトコッカス・オラリス、ストレプトコッカス・ニューモニエ、及びストレプトコッカス・サリバリウスを特異的に検出可能なプライマーの具体例は以下の通りである。
・ストレプトコッカス・サングイニスを特異的に検出可能なプライマー
F:CACACGGAATGCACTTGAGTC(配列番号23)
R:CTAGTCAAACTAGATAATGGAGCCT(配列番号24)
・ストレプトコッカス・オラリスを特異的に検出可能なプライマー
F:AGGATAAGGAACTGCACATTGGTC(配列番号25)
R:TGCATTACTTGGTGATCTCTCACC(配列番号26)
・ストレプトコッカス・ニューモニエを特異的に検出可能なプライマー
F:ACGCAATCTAGCAGATGAAGCA(配列番号27)
R:TCGTGCGTTTTAATTCCAGCT(配列番号28)
・ストレプトコッカス・サリバリウスを特異的に検出可能なプライマー
F:AACGTTGACCTTACGCTAGC(配列番号29)
R:GATTCTGTCAAAGAAGCCAC(配列番号30)
【0067】
本開示の検査方法4において、腸内細菌叢におけるストレプトコッカス属細菌、ストレプトコッカス・ベスティブラリス、ストレプトコッカス・パスツーリアヌス、ストレプトコッカス・サングイニス、ストレプトコッカス・ミティス、ストレプトコッカス・オラリス、ストレプトコッカス・ニューモニエ、ストレプトコッカス・サーモフィラス、ストレプトコッカス・パラサングイニス、及びストレプトコッカス・サリバリウスよりなる群から選択される少なくとも1種の相対的存在量が高い程、高安動脈炎患者において、手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併を含む血管拡張病変、及び血管狭窄病変の内、いずれか1つ以上が生じることにより外科的治療および血管内治療を経験し、予後不良になる可能性が高いと判断される。腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量の高低は、具体的には、予め、予後不良を伴わない高安動脈炎患者及び/又は前記予後不良の高安動脈炎患者の腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量(参照値)を求めておき、当該参照値との比較で判定することができる。具体的には、予後不良を伴わない高安動脈炎患者における前記腸内細菌の相対的存在量と比較して、被験者(高安動脈炎患者)における前記腸内細菌の相対的存在量が高い場合には、高安動脈炎患者において、手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併を含む血管拡張病変、及び血管狭窄病変の内、いずれか1つ以上が生じることにより外科的治療および血管内治療を経験し、予後不良になる可能性が高いと判断できる。また、実施例の欄に示す試験データから得られたカットオフ値から、以下の基準で、高安動脈炎患者において、手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併を含む血管拡張病変、及び血管狭窄病変の内、いずれか1つ以上が生じることにより外科的治療および血管内治療を経験し、予後不良になる可能性を判定することもできる。また、実施例の欄に示す試験データから得られたカットオフ値から、以下の基準で、前記予後不良になる可能性を判定することもできる。具体的には、被験者(高安動脈炎患者)の腸内細菌叢において、ストレプトコッカス属細菌の相対的存在量が3.704%(カットオフ値)超の場合、高安動脈炎患者において、手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併を含む血管拡張病変、及び血管狭窄病変の内、いずれか1つ以上が生じることにより外科的治療および血管内治療を経験し、予後不良になる可能性が高いと判断できる。その中でも特に、被験者(高安動脈炎患者)の腸内細菌叢において、ストレプトコッカス属細菌の相対的存在量が5.968%超の場合には、手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併、又はそれに伴う大動脈置換術を経験し、予後不良になる可能性がより高いと判断できる。なお、上記のカットオフ値は一例であり、検体、検査条件等に応じて適宜設定することが可能である。
【0068】
また、本開示の検査方法4において、腸内細菌叢におけるビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量が低い程、手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併、又はそれに伴う大動脈置換術を経験し、予後不良になる可能性が高いと判断される。腸内細菌叢におけるビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量の高低は、例えば、予め、予後不良を伴わない高安動脈炎患者及び/又は前記予後不良の高安動脈炎患者の腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量(参照値)を求めておき、当該参照値との比較で判定することができる。具体的には、予後不良を伴わない高安動脈炎患者におけるビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量と比較して、被験者(高安動脈炎患者)におけるビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量が低い場合には、手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併、又はそれに伴う大動脈置換術を経験し、予後不良になる可能性が高いと判断できる。また、実施例の欄に示す試験データから得られたカットオフ値から、以下の基準で、前記予後不良になる可能性を判定することもできる。具体的には、被験者(高安動脈炎患者)の腸内細菌叢において、ビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量0.210%(カットオフ値)未満の場合には、手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併、又はそれに伴う大動脈置換術を経験し、予後不良になる可能性が高いと判断できる。なお、上記のカットオフ値は一例であり、検体、検査条件等に応じて適宜設定することが可能である。
【0069】
本開示の検査方法4は、高安動脈炎患者の予後不良を予測するための検査として行うことができるので、本開示の検査方法4によって予後不良になる可能性が高いと判断された高安動脈炎患者は対しては、内科的治療の要となるステロイドの減量速度を慎重に行ったり、血管病変の画像診断の頻度を増やしたりすることで、予測される予後不良に対して早期介入及び早期治療を行えるように予後観察すればよい。
【0070】
また、本開示の一態様では、本開示の検査方法4の実施に使用される検査キットが提供される。当該検査キットには、ストレプトコッカス属細菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌を特異的に検出可能なプライマーが含まれていればよい。また、当該検査キットには、更に、必要に応じて、腸内細菌叢中の全ての細菌を検出可能なプライマー、及び/又は腸内細菌叢を含むサンプルからDNAを抽出するための試薬が含まれていてもよい。
【0071】
6.大型血管炎の改善剤
本開示の別の一実施形態では、大型血管炎患者の腸内細菌叢を正常化させる物質を有効成分として含む大型血管炎の改善剤を提供する。前述の通り、本発明者等によって、大型血管炎患者と健常者との間、巨細胞性動脈炎患者と健常者との間、疾患高活動性の高安動脈炎患者と疾患低活動性の高安動脈炎患者との間、合併症を有する高安動脈炎患者とそうでない高安動脈炎患者との間、並びに予後不良の高安動脈炎患者とそうでない高安動脈炎患者との間、腸内細菌叢における腸内細菌組成が変化していることが見出されている。従って、腸内細菌叢を正常化させることにより、大型血管炎の発症抑制;大型血管炎の病態の治癒、緩和又は増悪抑制;高安動脈炎患者の合併症の予防、治癒、緩和又は増悪抑制;或は、高安動脈炎患者の予後不良の改善が可能になる。
【0072】
大型血管炎患者の腸内細菌叢を正常化させる物質の一態様として、腸内細菌叢において、ラクトバシラス科(Lactobacillaceae)細菌、パスツレラ科(Pasteurellaceae)細菌、ストレプトコッカス科(Streptococcuceae)細菌、ラクトバシラス属(Lactobacillus)細菌、デスルフォビブリオ属(Desulfovibrio)細菌、ラクノスピラ・UCG-004属(Lachnospiraceae_UCG-004)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、ヘモフィルス属(Haemophilus)細菌、ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ファスコラークトバクテリウム属(Phascolarctobacterium)細菌、ストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、コリセンラ属(Collinsella)細菌、パラバクテロイデス属(Parabacteroides)細菌、ストレプトコッカス・ベスティブラリス(Streptococcus vestibularis)、ストレプトコッカス・パスツーリアヌス(Streptococcus pasteurianus)、ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、及びストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)、ユーバクテリウム科(Eubacteriaceae)細菌、フラボニフラクター属(Flavonifractor)細菌、エリシペラトクロストリジウム属(Erysipelatoclostridium)細菌、フンガテラ属(Hungatella)細菌、ティザレラ属(Tyzzerella)細菌、ユーバクテリウム属(Eubacterium)細菌、フェカリタレア属(Faecalitalea)細菌、クロストリジウム・ボルテアエ([Clostridium]_bolteae)、エリシペラトクロストリジウム・ラモスム(Erysipelatoclostridium_ramosum)、クロストリジウム・レプタム([Clostridium]_leptum)、ティゼレラ属未分類細菌(Tyzzerella_sp.)、及びシャアリア・オドントリティカス(Schaalia_odontolytica)よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を低下させる物質が挙げられる。
【0073】
高安動脈炎患者の腸内細菌叢におけるラクトバシラス科細菌、パスツレラ科細菌、ストレプトコッカス科細菌、ラクトバシラス属細菌、デスルフォビブリオ属細菌、ラクノスピラ・UCG-004属細菌、ロゼブリア属細菌、ヘモフィルス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、ファスコラークトバクテリウム属細菌、及びストレプトコッカス・パラサングイニスの相対的存在量は、健常者に比べて増加しているので、これらの腸内細菌の少なくとも1種の相対的存在量を低下させることにより、高安動脈炎の予防又は治療が可能になる。
【0074】
また、肺動脈病変を合併している高安動脈炎患者の腸内細菌叢におけるロゼブリア属細菌の相対的存在量は、肺動脈病変を合併していない高安動脈炎患者に比べて増加しているので、ロゼブリア属細菌の相対的存在量を低下させることにより、高安動脈炎患者が肺動脈病変を合併するリスクを低減したり、高安動脈炎患者で合併している肺動脈病変を治癒、緩和又は増悪抑制したりすることができる。
【0075】
また、炎症性腸疾患を合併している高安動脈炎患者の腸内細菌叢におけるコリセンラ属細菌及びパラバクテロイデス属細菌の相対的存在量は、炎症性腸疾患を合併していない高安動脈炎患者に比べて増加しているので、これらの腸内細菌の少なくとも1種の相対的存在量を低下させることにより、高安動脈炎患者が炎症性腸疾患を合併するリスクを低減したり、高安動脈炎患者で合併している炎症性腸疾患を治癒、緩和又は増悪抑制したりすることができる。
【0076】
また、手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併を含む血管拡張病変、及び血管狭窄病変により、外科的治療及び血管内治療の内、いずれか1つ以上が生じた高安動脈炎患者の腸内細菌叢におけるストレプトコッカス属細菌、ストレプトコッカス・ベスティブラリス、ストレプトコッカス・パスツーリアヌス、ストレプトコッカス・サングイニス、ストレプトコッカス・ミティス、ストレプトコッカス・オラリス、ストレプトコッカス・ニューモニエ、ストレプトコッカス・サーモフィラス、ストレプトコッカス・パラサングイニス、及びストレプトコッカス・サリバリウスの相対的存在量は、そうでない高安動脈炎患者に比べて増加しているので、これらの腸内細菌の少なくとも1つの相対的存在量を低下させることにより、高安動脈炎患者の予後不良を改善することができる。
【0077】
巨細胞性動脈炎患者の腸内細菌叢におけるユーバクテリウム科細菌、フラボニフラクター属細菌、エリシペラトクロストリジウム属細菌、フンガテラ属細菌、ティザレラ属細菌、ユーバクテリウム属細菌、フェカリタレア属細菌、クロストリジウム・ボルテアエ、エリシペラトクロストリジウム・ラモスム、クロストリジウム・レプタム、ティゼレラ属未分類細菌、シャアリア・オドントリティカスの相対的存在量は、健常者に比べて増加しているので、これらの腸内細菌の少なくとも1種の相対的存在量を低下させることにより、巨細胞性動脈炎の予防又は治療が可能になる。
【0078】
大型血管炎患者の腸内細菌叢を正常化させる物質の他の一態様として、腸内細菌叢において、ストレプトコッカス科(Streptococcuceae)細菌、ラクトバシラス科(Lactobacillaceae)細菌、アクチノマイセス科(Actinomycetaceae)細菌、パスツレラ科(Pasteurellaceae)細菌、ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ラクトバシラス属(Lactobacillus)細菌、ヘモフィルス属(Haemophilus)細菌、アクチノマイセス属(Actinomyces)細菌、エンテロコッカス属(Enterococcus)細菌、コリデクストリバクター属細菌(Colidextribacter)、ストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、ストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)、ストレプトコッカス・アンギノサス(Streptococcus anginosus)、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、コリデクストリバクター・ガットメタゲノム(Colidextribacter;s_gut_metagenom)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌、ビフィドバクテリア科(Bifidobacteriaceae)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、アナエロスティペス属(Anaerostipes)細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ([Eubacterium]_hallii_group)細菌、ブラウティア属(Blautia)細菌、ルミノコッカス・トルキース・グループ([Ruminococcus]_torques_group)細菌、クロストリジウム科(Clostridiaceae)細菌、オシロスピラ科UCG-005属(Oscillospiraceae UCG-005)細菌、ヘモフィルス属(Haemophilus)細菌、フィーカリバクテリウム属(Faecalibacterium)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、アドレクルーツィア属(Adlercreutzia)細菌、オシロスピラ科UCG-003属(Oscillospiraceae UCG-003)細菌、クロストリジウムセンスストリクト1属(Clostridium_Sensu_Stricto_1)細菌、ラクノスピラ属(Lachnospira)細菌、ユーバクテリウム・ハリイ([Eubacterium]_hallii)、アエロボカセア科ファミリーXIII UCG-001・アンカルチャードバクテリウム(Anaerovoracaceae;g_Family_XIII_UCG-001;s_uncultured_bacterium)、ラクノクロストリジウム・メタゲノム(Lachnoclostridium metagenome)、オドリバクター・ラネウス(Odoribacter_laneus)、オシロスピラ科UCG-005・アンカルチャードバクテリウム(Oscillospiraceae;g_UCG-005;s_uncultured_bacterium)、ラクノクロストリジウム・アンカルチャードオーガニズム(Lachnoclostridium;s_uncultured_organism)、ラクノクロストリジウム・ガットメタゲノム(Lachnoclostridium;s_gut_metagenome)、アリスティペス・オブゼイ(Alistipes_obsei)、ロゼブリア・イヌリニボランス(Roseburia_inulinivorans)、オシロスピラ科UCG-005・ガットメタゲノム(Oscillospiraceae;g_UCG-005;s_gut_metagenome)、ルミノコッカス科アンカルチャード・ヒューマンガット(Ruminococcaceae;g_uncultured;s_human_gut)、及びユーバクテリウム・ベントリオサムグループ・アンカルチャードラクノスピラ([Eubacterium]_ventriosum_group;s_uncultured_Lachnospiraceae)よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を増加させる物質が挙げられる。
【0079】
高安動脈炎患者の腸内細菌叢におけるビフィドバクテリア科細菌、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、クロストリジウム・レプタム、及びビフィドバクテリウム・ロンガムの相対的存在量は、健常者に比べて低下しているので、これらの腸内細菌の少なくとも1種の相対的存在量を増加させることにより、高安動脈炎の予防、高安動脈炎の病態の緩和又は進行抑制が可能になる。
【0080】
疾患高活動性の高安動脈炎患者の腸内細菌叢におけるラクノスピラ科細菌、ビフィドバクテリア科細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、アナエロスティペス属細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ細菌、ブラウティア属細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ細菌の相対的存在量は、疾患低活動性の高安動脈炎患者に比べて低下しているので、これらの腸内細菌の少なくとも1種の相対的存在量を増加させることにより、疾患高活動性の高安動脈炎患者の病態の緩和又は進行抑制が可能になり、また疾患低活動性の高安動脈炎患者が疾患高活動性に移行するのを抑制することが可能になる。
【0081】
また、肺動脈病変を合併している高安動脈炎患者の腸内細菌叢におけるルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属細菌及びビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量は、肺動脈病変を合併していない高安動脈炎患者に比べて低下しているので、これらの腸内細菌の少なくとも1種の相対的存在量を増加させることにより、高安動脈炎患者において、肺動脈病変の合併リスクを低減したり、合併した肺動脈病変の病態の緩和又は増悪抑制したりすることができる。
【0082】
また、炎症性腸疾患を合併している高安動脈炎患者の腸内細菌叢におけるモノグロブス属細菌の相対的存在量は、炎症性腸疾患を合併していない高安動脈炎患者に比べて低下しているので、モノグロブス属細菌の相対的存在量を増加させることにより、高安動脈炎患者において、炎症性腸疾患の合併リスクを低減したり、合併した炎症性腸疾患の病態の緩和又は増悪抑制したりすることができる。
【0083】
また、胸部大動脈瘤合併により予後不良であった高安動脈炎患者の腸内細菌叢におけるビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量は、そうでない高安動脈炎患者に比べて低下しているので、ビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量を増加させることにより、高安動脈炎患者の予後不良を改善することができる。
【0084】
また、巨細胞性動脈炎患者の腸内細菌叢におけるクロストリジウム科細菌、オシロスピラ科UCG-005属細菌、ヘモフィルス属細菌、フィーカリバクテリウム属細菌、ロゼブリア属細菌、アドレクルーツィア属細菌、オシロスピラ科UCG-003属細菌、クロストリジウムセンスストリクト1属細菌、ラクノスピラ属細菌、ユーバクテリウム・ハリイ、アエロボカセア科ファミリーXIII UCG-001・アンカルチャードバクテリウム、ラクノクロストリジウム・メタゲノム、オドリバクター・ラネウス、オシロスピラ科UCG-005・アンカルチャードバクテリウム、ラクノクロストリジウム・アンカルチャードオーガニズム、ラクノクロストリジウム・ガットメタゲノム、アリスティペス・オブゼイ、ロゼブリア・イヌリニボランス、オシロスピラ科UCG-005・ガットメタゲノム、ルミノコッカス科アンカルチャード・ヒューマンガット、及びユーバクテリウム・ベントリオサムグループ・アンカルチャードラクノスピラの相対的存在量は、健常者に比べて低下しているので、これらの腸内細菌の少なくとも1種の相対的存在量を増加させることにより、巨細胞性動脈炎の予防、巨細胞性動脈炎の病態の緩和又は進行抑制が可能になる。
【0085】
本開示の改善剤において、有効成分として使用される「大型血管炎患者の腸内細菌叢を正常化させる物質」としては、腸内細菌叢における相対的存在量を増加又は低下させる対象となる腸内細菌の種類に応じて適宜選定すればよいが、例えば、抗生物質、ファージ、腸内細菌等が挙げられる。
【0086】
有効成分として使用される抗生物質としては、例えば、ペニシリン系抗生物質(例えばメチシリン、オキサシリン、ナフシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、チモシリン、アモキシシリン、ピペラシリン、タランピシリン、バカンピシリン、アンピシリン、チカルシリン、ベンジルペニシリン、カルベニシリン等)、セフェム系抗生物質(例えばセファロチン、セファゾリン、セフォチアム、セフメタゾール、セフォタキシム、セフメノキシム、セフォジジム、セフトリアキソン、セフタジジム、セフォペラゾン、セフミノクス、ラタモキセフ、フロモキセフ、セフピロム、セフェピム、セフォゾプラン、セファレキシン等)、ペネム系抗菌化合物(例えばファロペネム等)、カルバペネム系抗生物質(例えばイミペネム、パニペネム、メロペネム、ビアペネム、ドリペネム、エルタペネム、テビペネム等)、マクロライド系抗生物質(例えばアジスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、エリスロマイシン、トロレアンドマイシン等)、リンコマイシン系抗生物質(例えばリンコマイシン、クリンダマイシン、ピルリマイシン等)、ケトライド系抗生物質(例えばテリスロマイシン等)、ニューキノロン系抗生物質(例えばシプロフロキサシン、オフロキサシン、シタフロキサシン等)、グリコペプチド系抗生物質(例えばバンコマイシン、テイコプラニン等)、ストレプトグラミン系抗生物質(例えばキヌプリスチン、ダルホプリスチン)、テトラサイクリン系抗菌化合物(例えばデメクロサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリン等)、クロラムフェニコール系抗生物質(例えばクロラムフェニコール等)、キノロン系抗生物質(例えばシプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフロキサシン、モキシフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、トロバフロキサシン等)、ペプチド系抗生物質(例えばバシトラシン、コリスチン、ポリミキシンB等)、アミノグリコシド系抗菌化合物(例えばアミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、カプレオマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン等)、モノバクタム系抗生物質(例えばアズトレオナム等)、ニトロイミダゾール系抗生物質(例えばメトロニダゾール等)、ホスホマイシン系抗生物質(例えばホスホマイシン等)等が挙げられる。これらの抗生物質は、1種単独で使用してもよく、また2種以上組み合わせて使用してもよい。これらの抗生物質の中でも、好適な一例として、ペニシリン系抗生物質、グリコペプチド系抗生物質、アミノグリコシド系抗菌化合物、及びニトロイミダゾール系抗菌化合物の組み合わせ;より好ましくはバンコマイシン、ネオマイシン、アンピシリン及びメトロニダゾールの組み合わせが挙げられる。
【0087】
有効成分として使用されるファージとしては、腸内細菌叢における相対的存在量を低下させる対象となる腸内細菌に対して溶菌活性を示すものであればよい。特定の細菌に対して溶菌活性を示すファージは、遺伝子工学的手法又は環境より単離培養する手法により得られることが知られており(Trends Biotechnol. 2010 Dec;28(12):591-595. doi: 10.1016/j.tibtech.2010.08.001. Epub 2010 Aug 31、Bacteriophage. 2011 Mar-Apr; 1(2): 111-114. doi: 10.4161/bact.1.2.14590)、本開示の改善剤では、公知の手法で作製又は取得したファージを使用することができる。
【0088】
有効成分として使用される腸内細菌としては、腸内細菌叢における相対的存在量を増加させる対象となる腸内細菌であればよい。また、当該腸内細菌は、生菌であってもよく、弱毒化または不活化された細菌であってもよい。また、有効成分として使用される腸内細菌は、健常人から採取した腸内細菌叢(例えば、糞便)であってもよく、健常人から採取した腸内細菌叢を投与する手法(例えば、糞便移植法)について、公知又は当業者が公知技術より容易に想到できる手法を用いることができる。
【0089】
本開示の改善剤は、医薬品又は食品の形態で提供することができる。
【0090】
本開示の改善剤を医薬品として提供する場合、前記有効成分と薬学的に許容される担体や添加剤等を配合して、所望の剤型に調製すればよい。薬学的に許容される担体又は添加剤としては、例えば、滅菌水、生理食塩水、安定剤、賦形剤、酸化防止剤、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤、結合剤等が挙げられる。医薬品の剤型としては、例えば、カプセル剤、タブレット剤、丸剤、サシェ剤、液剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、トローチ剤、舌下剤、チュアブル剤、バッカル剤、ペースト剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤またはエマルション剤等の経口投与製剤;坐剤、かん腸剤等が挙げられる。医薬品にける前記有効成分の含有量は、投与量、剤型等に応じて適宜設定すればよい。
【0091】
本開示の改善剤を食品として提供する場合、前記有効成分と食品素材とを配合して所望の形態に調製すればよい。食品の形態としては、サプリメント、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、病者用食品等が挙げられるが、その他一般食品であってもよい。食品にける前記有効成分の含有量は、摂取量、形態等に応じて適宜設定すればよい。
【0092】
また、本開示の改善剤の対象者は、大型血管炎の予防が求められる者又は大型血管炎患者である。本開示の改善剤を大型血管炎の予防が求められる者に使用することにより、大型血管炎の罹患リスクを低減することが可能になる。また、開示の予改善剤を大型血管炎患者に使用すると、使用する有効成分の種類に応じて、大型血管炎の病態の治癒、緩和又は増悪抑制;大型血管炎患者の合併症の予防、治癒、緩和又は増悪抑制;或は、大型血管炎患者の予後不良の改善等が可能になる。
【0093】
本開示の改善剤は、経口投与、経直腸投与、経口摂取等によって使用されるが、経口投与又は経口摂取が好適である。
【0094】
本開示の改善剤の投与量については、大型血管炎の予防又は治療に有効な量であればよく、使用する有効成分の種類、投与対象の年齢、体重、症状の程度等に応じて適宜設定すればよい。
【0095】
7.高安動脈炎の予防又は治療剤(1)
本開示の更に別の一実施形態では、腸内細菌叢における、ゲラニルゲラニル二リン酸生合成経路、メチルグリオキサ―ルの解毒経路、硫化水素産生経路、L-システイン合成経路、L-メチオニン合成経路、ホルムアルデヒド合成経路、セリン合成経路、及び2,3-ブタンジオール合成経路よりなる群から選択される少なくとも1種の経路を阻害する物質を有効成分として含む高安動脈炎の予防又は治療剤(以下、「予防又は治療剤1」と表記することもある)を提供する。前述の通り、本発明者等によって、高安動脈炎患者と健常者の腸内細菌叢のデータを用いて腸内細菌叢のもつ機能的代謝プロファイルを解析したところ、高安動脈炎患者の腸内細菌叢では、ゲラニルゲラニル二リン酸生合成経路、メチルグリオキサ―ルの解毒経路、硫化水素産生経路、L-システイン合成経路、L-メチオニン合成経路、ホルムアルデヒド合成経路、セリン合成経路、及び2,3-ブタンジオール合成経路に関連する機能が上昇していることが見出されている。従って、腸内細菌叢における前記経路の少なくとも1つを阻害することより、高安動脈炎の発症を予防したり、高安動脈炎の病態を治癒、緩和又は増悪抑制したりすることができると考えられる。
【0096】
有効成分として使用される前記経路を阻害する物質については、公知のもの又は当業者の通常の創作能力に基づいて取得されるものを使用することができる。
【0097】
本開示の予防又は治療剤1は、医薬品又は食品の形態で提供することができる。本開示の予防又は治療剤1を医薬品又は食品の形態で提供する場合、その剤型、形態等については、前記改善剤の場合と同様である。
【0098】
また、本開示の予防又は治療剤1の対象者、投与方法等については、前記改善剤の場合と同様である。
【0099】
8.高安動脈炎の予防又は治療剤(2)
本開示の更に別の一実施形態では、腸内細菌叢における、3-メチルブト-3-エン-1-イル二リン酸合成経路、ヒスチジン合成経路、リジン合成経路、及びL-イソロイシン合成経路よりなる群から選択される少なくとも1種の経路を活性化する物質を有効成分として含む高安動脈炎の予防又は治療剤(以下、「予防又は治療剤2」と表記することもある)を提供する。前述の通り、本発明者等によって、高安動脈炎患者と健常者の腸内細菌叢のデータを用いて腸内細菌叢のもつ機能的代謝プロファイルを解析したところ、高安動脈炎患者の腸内細菌叢では、3-メチルブト-3-エン-1-イル二リン酸合成経路、ヒスチジン合成経路、リジン合成経路、及びL-イソロイシン合成経路に関連する機能が低下していることが見出されている。従って、腸内細菌叢における前記経路の少なくとも1つを活性化することより、高安動脈炎の発症を予防したり、高安動脈炎の病態を治癒、緩和又は増悪抑制したりすることができると考えられる。
【0100】
有効成分として使用される前記経路を活性化する物質については、公知のもの又は当業者の通常の創作能力に基づいて取得されるものを使用することができる。
【0101】
本開示の予防又は治療剤2は、医薬品又は食品の形態で提供することができる。本開示の予防又は治療剤2を医薬品又は食品の形態で提供する場合、その剤型、形態等については、前記改善剤の場合と同様である。
【0102】
また、本開示の予防又は治療剤2の対象者、投与方法等については、前記改善剤の場合と同様である。
【0103】
9.巨細胞性動脈炎の予防又は治療剤(1)
本開示の更に別の一実施形態では、腸内細菌叢における、ペプチドグリカン生合成II経路、ホルムアルデヒド資化II経路、及びホルムアルデヒド酸化I経路よりなる群から選択される少なくとも1種の経路を阻害する物質を有効成分として含む巨細胞性動脈炎の予防又は治療剤(以下、「予防又は治療剤3」と表記することもある)を提供する。前述の通り、本発明者等によって、巨細胞性動脈炎患者と健常者の腸内細菌叢のデータを用いて腸内細菌叢のもつ機能的代謝プロファイルを解析したところ、巨細胞性動脈炎患者の腸内細菌叢では、ペプチドグリカン生合成II経路、ホルムアルデヒド資化II経路、及びホルムアルデヒド酸化I経路に関連する機能が上昇していることが見出されている。従って、腸内細菌叢における前記経路の少なくとも1つを阻害することより、巨細胞性動脈炎の発症を予防したり、巨細胞性動脈炎の病態を治癒、緩和又は増悪抑制したりすることができると考えられる。
【0104】
有効成分として使用される前記経路を阻害する物質については、公知のもの又は当業者の通常の創作能力に基づいて取得されるものを使用することができる。
【0105】
本開示の予防又は治療剤3は、医薬品又は食品の形態で提供することができる。本開示の予防又は治療剤3を医薬品又は食品の形態で提供する場合、その剤型、形態等については、前記改善剤の場合と同様である。
【0106】
また、本開示の予防又は治療剤3の対象者、投与方法等については、前記改善剤の場合と同様である。
【0107】
10.巨細胞性動脈炎の予防又は治療剤(2)
本開示の更に別の一実施形態では、腸内細菌叢における、シュクロース生合成III経路、シュクロース生合成II経路、NAD de novo生合成II経路、及びイソプロパノール生合成経路よりなる群から選択される少なくとも1種の経路を活性化する物質を有効成分として含む巨細胞性動脈炎の予防又は治療剤(以下、「予防又は治療剤4」と表記することもある)を提供する。前述の通り、本発明者等によって、巨細胞性動脈炎患者と健常者の腸内細菌叢のデータを用いて腸内細菌叢のもつ機能的代謝プロファイルを解析したところ、巨細胞性動脈炎患者の腸内細菌叢では、シュクロース生合成III経路、シュクロース生合成II経路、NAD de novo生合成II経路、及びイソプロパノール生合成経路に関連する機能が低下していることが見出されている。従って、腸内細菌叢における前記経路の少なくとも1つを活性化することより、巨細胞性動脈炎の発症を予防したり、巨細胞性動脈炎の病態を治癒、緩和又は増悪抑制したりすることができると考えられる。
【0108】
有効成分として使用される前記経路を活性化する物質については、公知のもの又は当業者の通常の創作能力に基づいて取得されるものを使用することができる。
【0109】
本開示の予防又は治療剤4は、医薬品又は食品の形態で提供することができる。本開示の予防又は治療剤4を医薬品又は食品の形態で提供する場合、その剤型、形態等については、前記改善剤の場合と同様である。
【0110】
また、本開示の予防又は治療剤4の対象者、投与方法等については、前記改善剤の場合と同様である。
【0111】
11.高安動脈炎の予防又は治療剤のスクリーニング方法(1)
本開示の他の一実施形態では、被験物質の中から、高安動脈炎の予防又は治療に有効である可能性がある候補物質をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含むスクリーニング方法(以下、「スクリーニング方法1」と表記することもある)を提供する:
被験物質について、腸内細菌叢におけるラクトバシラス科(Lactobacillaceae)細菌、パスツレラ科(Pasteurellaceae)細菌、ストレプトコッカス科(Streptococcuceae)細菌、ラクトバシラス属(Lactobacillus)細菌、デスルフォビブリオ属(Desulfovibrio)細菌ラクノスピラ・UCG-004属(Lachnospiraceae_UCG-004)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、ヘモフィルス属(Haemophilus)細菌、ストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ファスコラークトバクテリウム属(Phascolarctobacterium)細菌、及びストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を低下させる作用を評価する工程;及び
前記作用を有する被験物質を、前記候補物質として選択する工程。
【0112】
被験物質としては、具体的には、抗生物質、ファージ、細菌、ペプチド、タンパク質、有機化合物、無機化合物、細胞抽出物、細胞培養上清、植物抽出物、培養産物、これらの混合物等が挙げられる。
【0113】
本開示のスクリーニング方法1において、腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量を低下させる作用の評価手法については、特に制限されず、当業者であれば、通常の創作能力の範囲内で適切に条件設定が可能であるが、例えば、in vivo又はin vitroにおいて、腸内細菌叢を含むサンプルに、適量の被験物質を添加し、前記腸内細菌の相対的存在量の変化を測定する方法によって行うことができる。
【0114】
本開示のスクリーニング方法1において、前記作用を有すると評価された被験物質は、高安動脈炎の予防又は治療剤の候補物質として選択される。
【0115】
また、本開示のスクリーニング方法1で選択された候補物質は、動物試験等によって高安動脈炎の予防又は治療剤としての有効性に関する検証に供し、臨床上の実用可能性を確認することが望ましい。
【0116】
12.高安動脈炎の予防又は治療剤のスクリーニング方法(2)
本開示の他の一実施形態では、被験物質の中から、高安動脈炎の予防又は治療に有効である可能性がある候補物質をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含むスクリーニング方法(以下、「スクリーニング方法2」と表記することもある)を提供する:
被験物質について、腸内細菌叢におけるビフィドバクテリア科(Bifidobacteriaceae)細菌、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属(Ruminococcaceae_Incertae_Sedis)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、クロストリジウム・レプタム([Clostridium] leptum)、及びビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を増加させる作用を評価する工程;及び
前記作用を有する被験物質を、前記候補物質として選択する工程。
【0117】
本開示のスクリーニング方法2において、使用される被験物質については、前記スクリーニング方法1の欄に記載の通りである。
【0118】
本開示のスクリーニング方法2において、腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量を増加させる作用の評価手法については、特に制限されず、当業者であれば、通常の創作能力の範囲内で適切に条件設定が可能であるが、例えば、in vivo又はin vitroにおいて、腸内細菌叢を含むサンプルに、適量の被験物質を添加し、前記腸内細菌の相対的存在量の変化を測定する方法によって行うことができる。
【0119】
本開示のスクリーニング方法2において、前記作用を有すると評価された被験物質は、高安動脈炎の予防又は治療剤の候補物質として選択される。また、本開示のスクリーニング方法2で選択された候補物質は、動物試験等によって高安動脈炎の予防又は治療剤としての有効性に関する検証に供し、臨床上の実用可能性を確認することが望ましい。
【0120】
13.高安動脈炎の疾患活動性の抑制剤のスクリーニング方法
本開示の他の一実施形態では、被験物質の中から、高安動脈炎の疾患活動性の抑制に有効である可能性がある候補物質をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含むスクリーニング方法(以下、「スクリーニング方法3」と表記することもある)を提供する:
被験物質について、腸内細菌叢におけるラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌、ビフィドバクテリア科(Bifidobacteriaceae)細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌、アナエロスティペス属(Anaerostipes)細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ([Eubacterium]_hallii_group)細菌、ブラウティア属(Blautia)細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ([Ruminococcus]_torques_group)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を増加させる作用を評価する工程;及び
前記作用を有する被験物質を、前記候補物質として選択する工程。
【0121】
本開示のスクリーニング方法3において、使用される被験物質については、前記スクリーニング方法1の欄に記載の通りである。
【0122】
本開示のスクリーニング方法3において、腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量を増加させる作用の評価手法については、特に制限されず、当業者であれば、通常の創作能力の範囲内で適切に条件設定が可能であるが、例えば、in vivo又はin vitroにおいて、腸内細菌叢を含むサンプルに、適量の被験物質を添加し、前記腸内細菌の相対的存在量の変化を測定する方法によって行うことができる。
【0123】
本開示のスクリーニング方法3において、前記作用が高いと評価された被験物質は、高安動脈炎の疾患活動性の抑制剤の候補物質として選択される。また、本開示のスクリーニング方法3で選択された候補物質は、動物試験等によって高安動脈炎の疾患活動性の抑制剤としての有効性に関する検証に供し、臨床上の実用可能性を確認することが望ましい。
【0124】
14.高安動脈炎患者で合併する肺動脈病変の予防又は治療剤のスクリーニング方法(1)
本開示の他の一実施形態では、被験物質の中から、高安動脈炎患者で合併する肺動脈病変の予防又は治療に有効である可能性がある候補物質をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含むクリーニング方法(以下、「スクリーニング方法4」と表記することもある)を提供する:
被験物質について、腸内細菌叢におけるロゼブリア属(Roseburia)細菌の相対的存在量を低下させる作用を評価する工程;及び
前記作用を有する被験物質を、前記候補物質として選択する工程。
【0125】
本開示のスクリーニング方法4において、使用される被験物質については、前記スクリーニング方法1の欄に記載の通りである。
【0126】
本開示のスクリーニング方法4において、腸内細菌叢におけるロゼブリア属細菌の相対的存在量を低下させる作用の評価手法については、特に制限されず、当業者であれば、通常の創作能力の範囲内で適切に条件設定が可能であるが、例えば、in vivo又はin vitroにおいて、腸内細菌叢を含むサンプルに、適量の被験物質を添加し、ロゼブリア属細菌の相対的存在量の変化を測定する方法によって行うことができる。
【0127】
本開示のスクリーニング方法4において、前記作用を有すると評価された被験物質は、高安動脈炎患者で合併する肺動脈病変の予防又は治療剤の候補物質として選択される。また、本開示のスクリーニング方法4で選択された候補物質は、動物試験等によって高安動脈炎患者で合併する肺動脈病変の予防又は治療剤としての有効性に関する検証に供し、臨床上の実用可能性を確認することが望ましい。
【0128】
15.高安動脈炎患者で合併する肺動脈病変の予防又は治療剤のスクリーニング方法(2)
本開示の他の一実施形態では、被験物質の中から、高安動脈炎患者で合併する肺動脈病変の予防又は治療に有効である可能性がある候補物質をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含むスクリーニング方法(以下、「スクリーニング方法5」と表記することもある)を提供する:
被験物質について、腸内細菌叢におけるルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属(Ruminococcaceae_Incertae_Sedis)細菌及びビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を増加させる作用を評価する工程;及び
前記作用を有する被験物質を、前記候補物質として選択する工程。
【0129】
本開示のスクリーニング方法5において、使用される被験物質については、前記スクリーニング方法1の欄に記載の通りである
【0130】
本開示のスクリーニング方法5において、腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量を増加させる作用の評価手法については、特に制限されず、当業者であれば、通常の創作能力の範囲内で適切に条件設定が可能であるが、例えば、in vivo又はin vitroにおいて、腸内細菌叢を含むサンプルに、適量の被験物質を添加し、前記腸内細菌の相対的存在量の変化を測定する方法によって行うことができる。
【0131】
本開示のスクリーニング方法5において、前記作用が高いと評価された被験物質は、高安動脈炎患者で合併する肺動脈病変の予防又は治療剤の候補物質として選択される。また、本開示のスクリーニング方法5で選択された候補物質は、動物試験等によって高安動脈炎患者で合併する肺動脈病変の予防又は治療剤としての有効性に関する検証に供し、臨床上の実用可能性を確認することが望ましい。
【0132】
16.高安動脈炎患者で合併する炎症性腸疾患の予防又は治療剤のスクリーニング方法(1)
本開示の他の一実施形態では、被験物質の中から、高安動脈炎患者で合併する炎症性腸疾患の予防又は治療に有効である可能性がある候補物質をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含むスクリーニング方法(以下、「スクリーニング方法6」と表記することもある)を提供する:
被験物質について、腸内細菌叢におけるコリセンラ属(Collinsella)細菌、及びパラバクテロイデス属(Parabacteroides)細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を低下させる作用を評価する工程;及び
前記作用を有する被験物質を、前記候補物質として選択する工程。
【0133】
本開示のスクリーニング方法6において、使用される被験物質については、前記スクリーニング方法1の欄に記載の通りである。
【0134】
本開示のスクリーニング方法6において、腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量を低下させる作用の評価手法については、特に制限されず、当業者であれば、通常の創作能力の範囲内で適切に条件設定が可能であるが、例えば、in vivo又はin vitroにおいて、腸内細菌叢を含むサンプルに、適量の被験物質を添加し、前記腸内細菌の相対的存在量の変化を測定する方法によって行うことができる。
【0135】
本開示のスクリーニング方法6において、前記作用を有すると評価された被験物質は、高安動脈炎患者で合併する炎症性腸疾患の予防又は治療剤の候補物質として選択される。また、本開示のスクリーニング方法6で選択された候補物質は、動物試験等によって高安動脈炎患者で合併する炎症性腸疾患の予防又は治療剤としての有効性に関する検証に供し、臨床上の実用可能性を確認することが望ましい。
【0136】
17.高安動脈炎患者で合併する炎症性腸疾患の予防又は治療剤のスクリーニング方法(2)
本開示の他の一実施形態では、被験物質の中から、高安動脈炎患者で合併する炎症性腸疾患の予防又は治療に有効である可能性がある候補物質をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含むスクリーニング方法(以下、「スクリーニング方法7」と表記することもある)を提供する:
被験物質について、腸内細菌叢におけるモノグロブス属(Monoglobus)細菌の相対的存在量を増加させる作用を評価する工程;及び
前記作用を有する被験物質を、前記候補物質として選択する工程。
【0137】
本開示のスクリーニング方法7において、使用される被験物質については、前記スクリーニング方法1の欄に記載の通りである。
【0138】
本開示のスクリーニング方法7において、腸内細菌叢におけるモノグロブス属の相対的存在量を増加させる作用の評価手法については、特に制限されず、当業者であれば、通常の創作能力の範囲内で適切に条件設定が可能であるが、例えば、in vivo又はin vitroにおいて、腸内細菌叢を含むサンプルに、適量の被験物質を添加し、モノグロブス属の相対的存在量の変化を測定する方法によって行うことができる。
【0139】
本開示のスクリーニング方法7において、前記作用を有すると評価された被験物質は、高安動脈炎患者で合併する炎症性腸疾患の予防又は治療剤の候補物質として選択される。また、本開示のスクリーニング方法7で選択された候補物質は、動物試験等によって高安動脈炎患者で合併する炎症性腸疾患の予防又は治療剤としての有効性に関する検証に供し、臨床上の実用可能性を確認することが望ましい。
【0140】
18.高安動脈炎患者の予後不良の改善剤のスクリーニング方法(1)
本開示の他の一実施形態では、被験物質の中から、高安動脈炎患者の予後不良の改善に有効である可能性がある候補物質をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含むスクリーニング方法(以下、「スクリーニング方法8」と表記することもある)を提供する:
被験物質について、腸内細菌叢におけるストレプトコッカス属(Streptococcus)細菌、ストレプトコッカス・ベスティブラリス(Streptococcus vestibularis)、ストレプトコッカス・パスツーリアヌス(Streptococcus pasteurianus)、ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、及びストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を低下させる作用を評価する工程;及び
前記作用を有する被験物質を、前記候補物質として選択する工程。
【0141】
本開示のスクリーニング方法8において、使用される被験物質については、前記スクリーニング方法1の欄に記載の通りである。
【0142】
本開示のスクリーニング方法8において、腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量を低下させる作用の評価手法については、特に制限されず、当業者であれば、通常の創作能力の範囲内で適切に条件設定が可能であるが、例えば、in vivo又はin vitroにおいて、腸内細菌叢を含むサンプルに、適量の被験物質を添加し、ストレプトコッカス属細菌の相対的存在量の変化を測定する方法によって行うことができる。
【0143】
本開示のスクリーニング方法8において、前記作用を有すると評価された被験物質は、高安動脈炎患者の予後不良の改善剤の候補物質として選択される。また、本開示のスクリーニング方法8で選択された候補物質は、動物試験等によって高安動脈炎患者の予後不良の改善剤としての有効性に関する検証に供し、臨床上の実用可能性を確認することが望ましい。
【0144】
19.高安動脈炎患者の予後不良の改善剤のスクリーニング方法(2)
本開示の他の一実施形態では、被験物質の中から、高安動脈炎患者の予後不良の改善に有効である可能性がある候補物質をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含むスクリーニング方法(以下、「スクリーニング方法9」と表記することもある)を提供する:
被験物質について、腸内細菌叢におけるビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌の相対的存在量を増加させる作用を評価する工程;及び
前記作用を有する被験物質を、前記候補物質として選択する工程。
【0145】
本開示のスクリーニング方法9において、使用される被験物質については、前記スクリーニング方法1の欄に記載の通りである。
【0146】
本開示のスクリーニング方法9において、腸内細菌叢におけるビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量を増加させる作用の評価手法については、特に制限されず、当業者であれば、通常の創作能力の範囲内で適切に条件設定が可能であるが、例えば、in vivo又はin vitroにおいて、腸内細菌叢を含むサンプルに、適量の被験物質を添加し、ビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量の変化を測定する方法によって行うことができる。
【0147】
本開示のスクリーニング方法9において、前記作用を有すると評価された被験物質は、高安動脈炎患者の予後不良の改善剤の候補物質として選択される。また、本開示のスクリーニング方法9で選択された候補物質は、動物試験等によって高安動脈炎患者の予後不良の改善剤としての有効性に関する検証に供し、臨床上の実用可能性を確認することが望ましい。
【0148】
20.巨細胞性動脈炎の予防又は治療剤のスクリーニング方法(1)
本開示の他の一実施形態では、被験物質の中から、巨細胞性動脈炎の予防又は治療に有効である可能性がある候補物質をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含むスクリーニング方法(以下、「スクリーニング方法10」と表記することもある)を提供する:
被験物質について、腸内細菌叢におけるユーバクテリウム科(Eubacteriaceae)細菌、フラボニフラクター属(Flavonifractor)細菌、エリシペラトクロストリジウム属(Erysipelatoclostridium)細菌、フンガテラ属(Hungatella)細菌、ティザレラ属(Tyzzerella)細菌、ユーバクテリウム属(Eubacterium)細菌、フェカリタレア属(Faecalitalea)細菌、クロストリジウム・ボルテアエ([Clostridium]_bolteae)、エリシペラトクロストリジウム・ラモスム(Erysipelatoclostridium_ramosum)、クロストリジウム・レプタム([Clostridium]_leptum)、ティゼレラ属未分類細菌(Tyzzerella_sp.)、シャアリア・オドントリティカス(Schaalia_odontolytica)よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を低下させる作用を評価する工程;及び
前記作用を有する被験物質を、前記候補物質として選択する工程。
【0149】
本開示のスクリーニング方法10において、使用される被験物質については、前記スクリーニング方法1の欄に記載の通りである。
【0150】
本開示のスクリーニング方法10において、腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量を低下させる作用の評価手法については、特に制限されず、当業者であれば、通常の創作能力の範囲内で適切に条件設定が可能であるが、例えば、in vivo又はin vitroにおいて、腸内細菌叢を含むサンプルに、適量の被験物質を添加し、前記腸内細菌の相対的存在量の変化を測定する方法によって行うことができる。
【0151】
本開示のスクリーニング方法10において、前記作用を有すると評価された被験物質は、巨細胞性動脈炎の予防又は治療剤の候補物質として選択される。また、本開示のスクリーニング方法10で選択された候補物質は、動物試験等によって巨細胞性動脈炎の予防又は治療剤としての有効性に関する検証に供し、臨床上の実用可能性を確認することが望ましい。
【0152】
21.巨細胞性動脈炎の予防又は治療剤のスクリーニング方法(2)
本開示の他の一実施形態では、被験物質の中から、巨細胞性動脈炎の予防又は治療に有効である可能性がある候補物質をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含むスクリーニング方法(以下、「スクリーニング方法11」と表記することもある)を提供する:
被験物質について、腸内細菌叢におけるクロストリジウム科(Clostridiaceae)細菌、オシロスピラ科UCG-005属(Oscillospiraceae UCG-005)細菌、ヘモフィルス属(Haemophilus)細菌、フィーカリバクテリウム属(Faecalibacterium)細菌、ロゼブリア属(Roseburia)細菌、アドレクルーツィア属(Adlercreutzia)細菌、オシロスピラ科UCG-003属(Oscillospiraceae UCG-003)細菌、クロストリジウムセンスストリクト1属(Clostridium_Sensu_Stricto_1)細菌、ラクノスピラ属(Lachnospira)細菌、ユーバクテリウム・ハリイ([Eubacterium]_hallii)、アエロボカセア科ファミリーXIII UCG-001・アンカルチャードバクテリウム(Anaerovoracaceae;g_Family_XIII_UCG-001;s_uncultured_bacterium)、ラクノクロストリジウム・メタゲノム(Lachnoclostridium metagenome)、オドリバクター・ラネウス(Odoribacter_laneus)、オシロスピラ科UCG-005・アンカルチャードバクテリウム(Oscillospiraceae;g_UCG-005;s_uncultured_bacterium)、ラクノクロストリジウム・アンカルチャードオーガニズム(Lachnoclostridium;s_uncultured_organism)、ラクノクロストリジウム・ガットメタゲノム(Lachnoclostridium;s_gut_metagenome)、アリスティペス・オブゼイ(Alistipes_obsei)、ロゼブリア・イヌリニボランス(Roseburia_inulinivorans)、オシロスピラ科UCG-005・ガットメタゲノム(Oscillospiraceae;g_UCG-005;s_gut_metagenome)、ルミノコッカス科アンカルチャード・ヒューマンガット(Ruminococcaceae;g_uncultured;s_human_gut)、及びユーバクテリウム・ベントリオサムグループ・アンカルチャードラクノスピラ([Eubacterium]_ventriosum_group;s_uncultured_Lachnospiraceae)よりなる群から選択される少なくとも1種の腸内細菌の相対的存在量を増加させる作用を評価する工程;及び
前記作用を有する被験物質を、前記候補物質として選択する工程。
【0153】
本開示のスクリーニング方法11において、使用される被験物質については、前記スクリーニング方法1の欄に記載の通りである。
【0154】
本開示のスクリーニング方法11において、腸内細菌叢における前記腸内細菌の相対的存在量を増加させる作用の評価手法については、特に制限されず、当業者であれば、通常の創作能力の範囲内で適切に条件設定が可能であるが、例えば、in vivo又はin vitroにおいて、腸内細菌叢を含むサンプルに、適量の被験物質を添加し、前記腸内細菌の相対的存在量の変化を測定する方法によって行うことができる。
【0155】
本開示のスクリーニング方法11において、前記作用を有すると評価された被験物質は、巨細胞性動脈炎の予防又は治療剤の候補物質として選択される。また、本開示のスクリーニング方法11で選択された候補物質は、動物試験等によって巨細胞性動脈炎の予防又は治療剤としての有効性に関する検証に供し、臨床上の実用可能性を確認することが望ましい。
【0156】
22.高安動脈炎の予防又は治療剤のスクリーニング方法(3)
本開示の他の一実施形態では、被験物質の中から、高安動脈炎の予防又は治療に有効である可能性がある候補物質をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含むスクリーニング方法(以下、「スクリーニング方法12」と表記することもある)を提供する:
被験物質について、腸内細菌叢における、ゲラニルゲラニル二リン酸生合成経路、メチルグリオキサ―ルの解毒経路、硫化水素産生経路、L-システイン合成経路、L-メチオニン合成経路、ホルムアルデヒド合成経路、セリン合成経路、及び2,3-ブタンジオール合成経路よりなる群から選択される少なくとも1種の経路を阻害する作用を評価する工程。
前記作用を有する被験物質を、前記候補物質として選択する工程。
【0157】
本開示のスクリーニング方法12において、使用される被験物質については、前記スクリーニング方法1の欄に記載の通りである。
【0158】
本開示のスクリーニング方法12において、腸内細菌叢における前記経路を阻害する作用の評価手法については、特に制限されず、当業者であれば、通常の創作能力の範囲内で適切に条件設定が可能であるが、例えば、in vivo又はin vitroにおいて、腸内細菌叢を含むサンプルに適量の被験物質を添加して飼育又はインキュベートした後に、腸内細菌叢が有する機能的代謝プロファイルを予測メタゲノム解析することによって行うことができる。
【0159】
本開示のスクリーニング方法12において、前記作用を有すると評価された被験物質は、高安動脈炎の予防又は治療剤の候補物質として選択される。また、本開示のスクリーニング方法12で選択された候補物質は、動物試験等によって高安動脈炎の予防又は治療剤としての有効性に関する検証に供し、臨床上の実用可能性を確認することが望ましい。
【0160】
23.高安動脈炎の予防又は治療剤のスクリーニング方法(4)
本開示の他の一実施形態では、被験物質の中から、高安動脈炎の予防又は治療に有効である可能性がある候補物質をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含むスクリーニング方法(以下、「スクリーニング方法13」と表記することもある)を提供する:
被験物質について、腸内細菌叢における、3-メチルブト-3-エン-1-イル二リン酸合成経路、ヒスチジン合成経路、リジン合成経路、及びL-イソロイシン合成経路よりなる群から選択される少なくとも1種の経路を活性化する作用を評価する工程;及び
前記作用を有する被験物質を、前記候補物質として選択する工程。
【0161】
本開示のスクリーニング方法13において、使用される被験物質については、前記スクリーニング方法1の欄に記載の通りである。
【0162】
本開示のスクリーニング方法13において、腸内細菌叢における前記経路を活性化する作用の評価手法については、特に制限されず、当業者であれば、通常の創作能力の範囲内で適切に条件設定が可能であるが、例えば、in vivo又はin vitroにおいて、腸内細菌叢を含むサンプルに適量の被験物質を添加して飼育又はインキュベートした後に、腸内細菌叢が有する機能的代謝プロファイルを予測メタゲノム解析することによって行うことができる。
【0163】
本開示のスクリーニング方法13において、前記作用を有すると評価された被験物質は、高安動脈炎の予防又は治療剤の候補物質として選択される。また、本開示のスクリーニング方法13で選択された候補物質は、動物試験等によって高安動脈炎の予防又は治療剤としての有効性に関する検証に供し、臨床上の実用可能性を確認することが望ましい。
【0164】
24.巨細胞性動脈炎の予防又は治療剤のスクリーニング方法(3)
本開示の他の一実施形態では、被験物質の中から、巨細胞性動脈炎の予防又は治療に有効である可能性がある候補物質をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含むスクリーニング方法(以下、「スクリーニング方法14」と表記することもある)を提供する:
被験物質について、腸内細菌叢における、ペプチドグリカン生合成II経路、ホルムアルデヒド資化II経路、及びホルムアルデヒド酸化I経路よりなる群から選択される少なくとも1種の経路を阻害する作用を評価する工程。
前記作用を有する被験物質を、前記候補物質として選択する工程。
【0165】
本開示のスクリーニング方法14において、使用される被験物質については、前記スクリーニング方法1の欄に記載の通りである。
【0166】
本開示のスクリーニング方法14において、腸内細菌叢における前記経路を阻害する作用の評価手法については、特に制限されず、当業者であれば、通常の創作能力の範囲内で適切に条件設定が可能であるが、例えば、in vivo又はin vitroにおいて、腸内細菌叢を含むサンプルに適量の被験物質を添加して飼育又はインキュベートした後に、腸内細菌叢が有する機能的代謝プロファイルを予測メタゲノム解析することによって行うことができる。
【0167】
本開示のスクリーニング方法14において、前記作用を有すると評価された被験物質は、巨細胞性動脈炎の予防又は治療剤の候補物質として選択される。また、本開示のスクリーニング方法14で選択された候補物質は、動物試験等によって巨細胞性動脈炎の予防又は治療剤としての有効性に関する検証に供し、臨床上の実用可能性を確認することが望ましい。
【0168】
25.巨細胞性動脈炎の予防又は治療剤のスクリーニング方法(4)
本開示の他の一実施形態では、被験物質の中から、巨細胞性動脈炎の予防又は治療に有効である可能性がある候補物質をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含むスクリーニング方法(以下、「スクリーニング方法15」と表記することもある)を提供する:
被験物質について、腸内細菌叢における、シュクロース生合成III経路、シュクロース生合成II経路、NAD de novo生合成II経路、及びイソプロパノール生合成経路よりなる群から選択される少なくとも1種の経路を活性化する作用を評価する工程;及び
前記作用を有する被験物質を、前記候補物質として選択する工程。
【0169】
本開示のスクリーニング方法15において、使用される被験物質については、前記スクリーニング方法1の欄に記載の通りである。
【0170】
本開示のスクリーニング方法15において、腸内細菌叢における前記経路を活性化する作用の評価手法については、特に制限されず、当業者であれば、通常の創作能力の範囲内で適切に条件設定が可能であるが、例えば、in vivo又はin vitroにおいて、腸内細菌叢を含むサンプルに適量の被験物質を添加して飼育又はインキュベートした後に、腸内細菌叢が有する機能的代謝プロファイルを予測メタゲノム解析することによって行うことができる。
【0171】
本開示のスクリーニング方法15において、前記作用を有すると評価された被験物質は、巨細胞性動脈炎の予防又は治療剤の候補物質として選択される。また、本開示のスクリーニング方法15で選択された候補物質は、動物試験等によって巨細胞性動脈炎の予防又は治療剤としての有効性に関する検証に供し、臨床上の実用可能性を確認することが望ましい。
【実施例0172】
以下に実施例を示してより具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。
【0173】
1. 高安動脈炎患者における腸内細菌叢の細菌組成の特徴
1-1.実験方法
(1)研究デザイン及び被験者
高安動脈炎患者と健常者との間で腸内細菌叢違いを調べ、腸内細菌叢と臨床的特徴の関係を評価した。2020年2月から2021年12月までの間に、国立循環器病研究センター(吹田市、日本)、大阪大学医学部付属病院(吹田市、日本)、及び吹田市立吹田市民病院(吹田市、日本)に通院した合計81名の患者を登録した。当該患者は、免疫治抑制治療を受けていない高安動脈炎患者21名、及び免疫治抑制治療後の患者60名で構成されている。高安動脈炎患者の選定基準は、1990年の米国リウマチ学会の分類基準(W. P. Arend et al., Arthritis Rheum. 1990 Aug;33(8):1129-34; doi: 10.1002/art.1780330811.)又は日本循環器学会の診断基準(Isobe M. et al., Circ J . 2020; 84: 299-359; doi:10.1253/circj.CJ-19-0773)に従った。対照被験者は、国立循環器病研究センター研究倫理審査委員会(M30-060-7)によって承認された研究に登録されている健常者の中から、年齢及び性別が一致している健常者を選択した。健常者は、以下の(1)~(3)を満たすものを選定した:(1)糞便を採取してから1カ月以内に抗菌薬を投与されていない、(2)自己免疫疾患又は未治療の悪性腫瘍がない、(3)厳格な菜食主義者のような極端に偏った食事をとっていない。最終的に、56名の健常者を登録した。
【0174】
巨細胞性動脈炎患者と健常者との間で腸内細菌叢違いを調べ、腸内細菌叢と臨床的特徴の関係を評価した。2020年8月から2021年12月までの間に、国立循環器病研究センター(吹田市、日本)、および大阪大学(吹田市、日本)、及び吹田市民病院(吹田市、日本)に通院した合計11名の巨細胞性動脈炎患者を登録した。また、対照被験者は、国立循環器病研究センター研究倫理審査委員会(M30-060-7)によって承認された研究に登録されている健常者の中から、年齢及び性別が一致している健常者を選択した。健常者は、前記(1)~(3)を満たすものを選定し、最終的に10名の健常者を登録した。
【0175】
本研究は、ヘルシンキ宣言の原則に則り、国立循環器病研究センター、大阪大学医学部付属病院、及び吹田市立吹田市民病院の各研究倫理審査委員会の承認の下で行った(承認番号は前記の順でR19060-4、19317、2020-ken 30)。また、本研究は、全ての被験者から書面でのインフォームド・コンセントを得て行った。
【0176】
(2)患者データの取得
以下の情報は、医療記録と個別診断によって収集した:年齢、性別、伸長、体重、肥満度指数(BMI)、病気の期間、血管炎病変の分布、血液検査、病歴、治療歴、及びデモグラフィックスプロファイル。
【0177】
HLA遺伝子座データは、医療記録から取得できたものを除き、WAKflow(Wakunaga Pharmaceutical, 広島、日本)及びBio-plex 200 system(Bio-Rad, Hercules, CA)を使用して取得した。
【0178】
血液検査のデータ、並びに磁気共鳴画像診断(MRI)、コンピューター断層撮影(CT)、超音波検査、及びフルオロデオキシグルコース-陽電子放出断層撮影((FDG-PET)の画像データは、糞便を採取した日から最も近い日付のものを使用した。
【0179】
胸部大動脈瘤の直径は、CTの5スライス(5mmスライス厚)の画像から最大短径を求め、その平均値を求めることによって算出した。
【0180】
(3)糞便サンプルの取得及びDNA抽出
糞便サンプルは、グアニジン溶液を含む採便容器(TechnoSuruga Laboratory、静岡、日本)に入れた状態で、DNA抽出するまで4℃で保管した。NucleoSpin DNA Stool kit (Machery-Nagel, Duren, Germany)を用いて、製品のプロトコールに従って糞便サンプルからDNAを抽出した。得られたDNAは、16SリボゾームRNA(rRNA)メタゲノム解析を行うまで、-20℃で保管した。
【0181】
(4)16S rRNAメタゲノム解析
16S Metagenomic Sequencing Library Preparation(Illumina)及び16S rRNAのV1-V2をターゲットとしたプライマーセット(27Fmod: 5’-AGRGTTTGATCMTGGCTCAG-3’(配列番号31)及び 338R: 5’-TGCTGCCTCCCGTAGGAGT-3’(配列番号32))を用いて、製品のプロトコールに従ってライブラリーを作製した。MiSeq 500-cycle v2 kit を使用したMiSeq system (Illumina, San Diego, CA)にて、251塩基のアンプリコンをシークエンシングした。得られたペアエンドリードを、Qiime2 (version 2021.2)パイプラインを用いて解析し、更にDADA2パイプラインで逆多重化して解析した。次いで、SILVA v138 99% operational taxonomic units (OTUs) databaseを使用して、分類学的に分けた菌叢解析を行った。
【0182】
(5)群間で有意に相対的存在量が変化している腸内細菌の抽出
図2に示す手順で、群間で有意に相対的存在量が変化している腸内細菌の抽出を行った。具体的には、先ず、16S rRNAメタゲノム解析で検出された細菌をQiime2により抽出し、CORE MICrobiome解析(Rodrigues RR, et al. Peer J. 2018;6:e4395)により、患者群又は健常者群のいずれかの保有率(全体人数に対して該当する腸内細菌が検出された人数の割合)が50%以上の腸内細菌を抽出した。次いで、抽出された腸内細菌について、ANCOM(Analysis of composition of microbiomes)解析(Mandal S, et al. Microbial Ecology in Health & Disease.2015;26:27663. )により、腸内細菌の相対存在量(%)に着目して群間で有意な差がある腸内細菌を抽出した。比較する群における分布の正規性をShapiro-WilkのW検定を使用して確認した。また、正規分布の場合にはWhelchのt検定、非正規分布の場合にはMann Whitneyの検定を用いて両群の比較を行った。なお、MICrobiome解析は、ある微生物集団において、その集団の核となる微生物をその細菌の保有率に着目して解析する多変量解析手法の1つであり、ANCOM解析は、細菌の相対存在量に対する多変量解析手法の1つである。
【0183】
(6)フルメタゲノム解析
糞便サンプルに含まれるDNAの全ゲノムシークエンシングをDNBSEQ-G400(MGI Tech)にて行い、150塩基のペアエンドリードを生成した。fastp version 0.20.0を用いて低クオリティリードを除外し、bowtie2 version 2.3.5を用いてヒトリファレンスゲノムデータ(GRCh38)と一致する宿主由来リードを除外した。次いで、MetaPhlAn2 version 2.6.0を用いて構成細菌種を同定し、hclust2.pyを用いてヒートマップを作成した。
【0184】
(7)腸内細菌叢の機能解析
腸内細菌叢のもつ機能的代謝プロファイルは、16S rRNA遺伝子解析データを用いてPICRUSt2(Gavin M. Douglas, et al. Nature Biotechnology. 2020; 38:685-688.参照)によるメタゲノム解析によって取得した。
【0185】
(8)統計解析
患者のデモグラフィックス情報及び臨床情報は、chi-square testにより比較した。また、平均値の比較は、Welch's t test(正規分布の場合)及びMann-Whitney U test(非正規分布の場合)を用いて行った。臨床イベントと特定の細菌の相対的存在量との関連性を評価する際に、細菌の相対的存在量をQ1~Q4として4つに分類した。そして、Cochran-Armitage testにより、臨床イベントと特定の細菌との関連性を検証した。全ての検定は、両側検定を行った。p値が< 0.05である場合に統計学的に有意であると判定した。全ての分析は、Prism (v9.3.1)及びJMP (v14.2.0)を用いて実施した。
【0186】
1-2. 結果
(1)高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない高安動脈炎患者と健常者との間での腸内細菌叢組成の対比
高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない患者(n=21)と健常者(n=56)の腸内細菌叢組成の比較において、有意な変化が認められた腸内細菌を表2、
図3及び4に示す。
【0187】
高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない高安動脈炎患者群では、ラクトバシラス科細菌、ストレプトコッカス科細菌、パスツレラ科細菌、ラクトバシラス属細菌、デスルフォビブリオ属細菌、ラクノスピラ・UCG-004属細菌、ロゼブリア属細菌、ヘモフィルス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、ファスコラークトバクテリウム属細菌、及びストレプトコッカス・パラサングイニスの相対的存在量が、健常者群に比べて有意に増加していた。一方、高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない高安動脈炎患者群は、ビフィドバクテリア科細菌、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、クロストリジウム・レプタム、及びビフィドバクテリウム・ロンガムの相対的存在量が、健常者群に比べて有意に低下していた。
【0188】
【0189】
以上の結果から、腸内細菌叢中のラクトバシラス科細菌、ストレプトコッカス科細菌、パスツレラ科細菌、ラクトバシラス属細菌、デスルフォビブリオ属細菌、ラクノスピラ・UCG-004属細菌、ロゼブリア属細菌、ヘモフィルス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、ファスコラークトバクテリウム属細菌、ストレプトコッカス・パラサングイニス、ビフィドバクテリア科細菌、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、クロストリジウム・レプタム、及びビフィドバクテリウム・ロンガムの相対的存在量は、高安動脈炎の罹患の有無の検査の指標に使用できることが確認された。また、ビフィドバクテリウム属細菌は、アクチノバクテリア門(Actinobacteria)に属し、糖を資化して乳酸と酢酸を生成する偏性嫌気性グラム陽性杆菌であり、ビフィズス菌と呼ばれ、腸内細菌叢を整える代表的なプロバイオティクスの一つであるため、高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない患者群において、ビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量が低下したことは注目すべき点である。また、ビフィドバクテリウム・ロンガムは、幅広い年齢層で検出され、個人差はあるものの、20代~70代までは腸内細菌叢中での相対的存在量及び検出率共にあまり変化しないと報告されている(Kato K, et al. Curr Microbiol. 2017;74:987-995)が、高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない患者群の相対的存在量は、明らかに健常者に比べて低下していることも、注目すべき点である。
【0190】
(2) 高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている患者と健常者との間での腸内細菌叢組成の対比
高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている患者(n=21)と健常者(n=56)の腸内細菌叢組成の比較において、有意な変化が認められた腸内細菌を表3、
図5及び6に示す。
【0191】
高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている高安動脈炎患者群では、ストレプトコッカス科細菌、ラクトバシラス科細菌、アクチノマイセス科細菌、パスツレラ科細菌、ストレプトコッカス属細菌、ラクトバシラス属細菌、ヘモフィルス属細菌、アクチノマイセス属細菌、エンテロコッカス属細菌、コリデクストリバクター属細菌、ストレプトコッカス・パラサングイニス、ストレプトコッカス・ゴルドニ、ストレプトコッカス・アンギノサス、バクテロイデス・フラジリス、及びコリデクストリバクター・ガットメタゲノムの相対的存在量が、健常者群に比べて有意に増加していた。一方、高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている高安動脈炎患者群は、サテレラ科細菌、ブチリシコッカス科細菌、ツリシバクター属細菌、アナエロスティペス属細菌、ブチリシコッカス属細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、ルミノコッカス属細菌、フシカテニバクター属細菌、ユウバクテリウム・ハリイ、アナエロスティペス・ハドラス、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタム、及びアリスティペス・プトレディニスの相対的存在量が、健常者群に比べて有意に低下していた。
【0192】
【0193】
本結果から、高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている患者群において、健常者群に比べて有意に増加した細菌は、口腔内細菌が多数を占めていることが分かった。また、高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている患者群において、健常者群に比べて有意に低下した細菌は、酢酸性生菌であった。腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸の1種である酪酸は、IL-10等の抗炎症性サイトカインを産生する制御性T細胞への強い誘導活性を有するため(Furusawa Y, et al. Nature. 2013;504(7480):446-50.)、高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている患者群では、腸内環境が悪化していることが示唆された。
【0194】
(3) 高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている患者の腸内細菌叢で有意な増加が認められたストレプトコッカス属細菌及びラクトバシラス属細菌の種レベルでの解析
細菌の相対的存在量に対する多変量解析手法の一つであるANCOM(Analysis of composition of microbiomes)解析により、高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている患者(n=60)と健常者(n=56)の腸内細菌叢組成の比較において特に増加していたストレプトコッカス属細菌及びラクトバシラス属細菌について、種レベルで解析した。その結果、高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている患者群では、ストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、ストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)、ストレプトコッカス属未分類細菌、及びラクトバシラス属未分類細菌が有意に増加していた(
図7)。
【0195】
高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている患者群で有意な増加が認められたストレプトコッカス・パラサングイニスは、歯周炎や感染性心内膜炎の原因になり得ることが知られている(Fujitani S, et al. CLin Infect Dis. 2008; 46(7):1064-6.; Mosailova N, et al. Case Rep Infect Dis. 2019;2019:7127848)。即ち、本結果から、高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている患者群では、病原性が高い細菌が増大し、腸内環境に悪影響を及ぼしている可能性があることが示唆された。
【0196】
(4) 疾患高活動性の高安動脈炎患者と疾患低活動性の高安動脈炎患者の間での腸内細菌叢組成の対比
高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない高安動脈炎患者(n=21)を、疾患高活動性の患者(n=5)と疾患低活動性の患者(n=16)に分けた。具体的には、全身症状、赤沈(又はCRP)の上昇、血管炎に起因する症状、血管炎に特徴的な画像所見の4項目の内、2項目以上が認められる場合を疾患高活動性(但し、赤沈又はCRPの上昇は必ず含まれることとした)に分類し、それ以外の場合を疾患低活動性に分類した。高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない疾患高活動性の高安動脈炎患者(n=5)、高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない疾患低活動性の高安動脈炎患(n=16)、及び健常者(n=56)の3群で、腸内細菌叢組成の比較を行った。
【0197】
疾患高活動性の高安動脈炎患者群では、疾患低活動性の高安動脈炎患者群及び健常者群に比べて、酪酸生成菌であるラクノスピラ科細菌の相対的存在量が有意に低下していた(
図8)。一方、疾患低活動性の高安動脈炎患者群において、酪酸生成菌であるラクノスピラ科細菌は、健常者群と比較して同程度又はやや高い傾向が認められた。これらのことから、高安動脈炎患者の腸内細菌叢中のラクノスピラ科細菌の相対的存在量は、炎症の状態を反映しており、高安動脈炎の疾患活動性のバイオマーカーとして有用であることが明らかとなった。更に、腸内細菌叢における酪酸産生菌の低下が高安動脈炎の発症に関与している可能性が示唆された。
【0198】
更に、疾患高活動性の高安動脈炎患者群では、疾患低活動性の高安動脈炎患者群及び健常者群に比べて、ビフィドバクテリア科細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、アナエロスティペス属細菌、ユウバクテリウム・ハリイ・グループ細菌、ブラウティア属細菌、及びルミノコッカス・トルキース・グループ細菌の相対的存在量も低下傾向が認められた(
図8)。ビフィドバクテリウム属細菌は、抗炎症サイトカインIL-10の産生促進(Viera AT, et al. Microbes Infect. 2016; 18(3):180-9.)、大腸菌やサルモネラ菌等の有害細菌の増殖抑制(Inturri R, et al. Eur Rev. Med. Pharmacol. Sci.2016;23:4943-4949.)等が知られており、腸管免疫に有益な細菌である。疾患高活動性の高安動脈炎患者群において、ビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量が低下していたことは、当該患者の体内での炎症の増悪に関連している可能性があることを示唆している。
【0199】
(5) 肺動脈病変を合併する高安動脈炎患者とそうでない高安動脈炎患者の間での腸内細菌叢組成の対比
高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない高安動脈炎患者(n=21)を、肺動脈病変(Pulmonary artery involvement; PAI)を合併している患者(n=5)と、肺動脈病変を合併していない患者(n=16)に分け、これらの両群及び健常者(n=56)の3群で、腸内細菌叢組成の比較を行った。
【0200】
肺動脈病変を合併している高安動脈炎患者群では、肺動脈病変を合併していない患者群及び健常者群に比べて、ルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属細菌及びビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量が有意に低下していた(
図9)。一方、肺動脈病変を合併している高安動脈炎患者群では、肺動脈病変を合併していない患者群及び健常者群に比べて、ロゼブリア属細菌の増加が認められた(
図9)。
【0201】
以上の結果から、腸内細菌叢中のルミノコッカス科・インケルタエ・セディス属細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、及びロゼブリア属細菌の相対的存在量は、高安動脈炎において肺動脈病変の合併の有無の検査の指標に使用できることが確認された。
【0202】
(6) 炎症性腸疾患を合併する高安動脈炎患者とそうでない高安動脈炎患者の間での腸内細菌叢組成の対比
高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている高安動脈炎患者(n=60)を、炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease; IBD)を合併している患者(n=9)と、炎症性腸疾患を合併していない患者(n=51)名に分け、これらの両群及び健常者(n=56)の3群で、腸内細菌叢組成の比較を行った。
【0203】
炎症性腸疾患を合併している高安動脈炎患者群では、炎症性腸疾患を合併していない患者群及び健常者群に比べて、コリセンラ属細菌及びパラバクテロイデス属細菌の相対的存在量が有意に増加していた(
図10)。一方、炎症性腸疾患を合併している高安動脈炎患者群では、炎症性腸疾患を合併していない患者群及び健常者群に比べて、モノグロブス属(Monoglobus)細菌の相対的存在量の低下傾向が認められた(
図10)。
【0204】
以上の結果から、腸内細菌叢におけるコリセンラ属細菌、パラバクテロイデス属細菌、及びモノグロブス属細菌の相対的存在量は、高安動脈炎において炎症性腸疾患の合併の有無の検査の指標に使用できることが確認された。
【0205】
(7) 高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない高安動脈炎患者と健常者における予測メタゲノム解析
高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない高安動脈炎患者(n=21)名と健常者(n=56)に対して、PICRUSt2(Gavin M. Douglas, et al. Nature Biotechnology. 2020; 38:685-688.参照)による予測メタゲノム解析を行い、2群比較にて有意に変化しているパスウェイについてMetaCYCデータベースを用いて検討した。
【0206】
結果を表4に示す。高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない高安動脈炎患者群では、健常者群に比べて、PWY-1622、PWY-5345、SULFATE-CYS-PWY、SO4ASSIMPWY、PWY-6396、METHGLYUT-PWY、及びPWY-5910に関するパスウェイが有意に上昇していた。硫化水素、L-システイン、L-メチオニン等は、動脈硬化に関わることが知られており(Mani S, et al. Circulation. 2013;127:2523-2534.; Iwama Y, et al. Geriatric Medicine. 2001; 39(6):917-923.)、これらの生合成に関わるパスウェイが、高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない高安動脈炎患者群で上昇していることは、血管への何らかの影響を反映している可能性がある。また、腸管接着性侵入性大腸菌(AIEC)の栄養源となるセリン合成(Kitamoto S, et al. Nature Microbiology.2020;5:116-125.)や、有害物質であるホルムアルデヒド合成に関わるパスウェイが、高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない高安動脈炎患者群で上昇していることは、高安動脈炎患者では腸内環境の悪化が生じている可能性があることを示唆している。
【0207】
一方、高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない高安動脈炎患者群では、健常者群に比べて、NONMEVIPP-PWY、PWY7560、PWY-6163、PWY-2942、PWY-3001、及びHISTSYN-PWYに関するパスウェイが有意に低下していた。
【0208】
【0209】
(8) 高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない高安動脈炎患者と健常者における予測メタゲノム解析
高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている高安動脈炎患者(n=60)名と健常者(n=56)に対して、PICRUSt2による予測メタゲノム解析を行い、2群比較にて有意に変化しているパスウェイについてMetaCYCデータベースを用いて検討した。
【0210】
結果を表5に示す。高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている高安動脈炎患者群では、健常者群に比べて、PWY-5910、PWY-922、PWY-7392、P23-PWY、PWY-5180、PWY-5182、PWY6396、PWY6470、及びPWY-638に関するパスウェイが有意に上昇していた。高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている高安動脈炎患者群で、グラム陽性菌の細胞壁であるペプチドグリカンの合成経路(PWY6470)が亢進していることは、腸内細菌叢におけるストレプトコッカス属細菌やラクトバシラス属細菌の増加を反映していると考えられ、腸内でToll-like receptor 2に認識されることにより、炎症を誘発し、疾患に悪影響を与えている可能性があることが示唆される。
【0211】
一方、高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている高安動脈炎患者群では、健常者群に比べて、PWY-5097、NONMEVIPP-PWY、PWY-7560、PWY5121、及びPYRIDNUCSYNPWYに関するパスウェイが有意に低下していた。
【0212】
【0213】
(9) 高安動脈炎患者の予後と相関する腸内細菌の特定
高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている高安動脈炎患者(n=60)を、腸内細菌叢におけるストレプトコッカス属細菌又はビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量に応じて四分位法を用いてQuantile 1-4(Q1~Q4)に分類し、それぞれの群において臨床イベントの発生件数を調べた。なお、臨床イベントは、以下の(1)及び(2)として定義した:(1)手術適応となる最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤合併、又はそれに伴う大動脈置換術を経験している、(2)血管狭窄病変によるイベント(血管内治療、血管バイパス手術、及び冠動脈バイパス術)又は血管拡張病変によるイベント(最大短径55mm以上の胸部大動脈瘤若しくはそれに伴う大動脈置換術、大動脈弁形成術/置換術を経験)。前記(2)のイベントについては、血管狭窄病変又は血管拡張病変のいずれか1つのイベントに該当する場合は1、血管狭窄病変及び血管拡張病変の双方に該当する場合は2として、合計イベント数を集計した。
【0214】
その結果、腸内細菌叢におけるストレプトコッカス属細菌の相対的存在量が高い群ほど、胸部大動脈瘤合併に関するイベント及び外科的治療全体のイベントの双方で有意に多いことが分かった(
図11a)。また、腸内細菌叢におけるビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量が少ない群ほど、胸部大動脈瘤合併に関するイベントが多いことが分かった(
図11b)。また、HLA-B52を保有する高安動脈炎患者では疾患活動性が高いことが報告されているが(Takamura, C., Ohhigashi, H., Ebana, Y. & Isobe, M. Circ. J. 2012; 76:1697-1702.)、HLA-B52又はHLA-B67の保有の有無と臨床イベントとの関係を調べたところ、両者の間で有意な関係は認められなかった(
図11c)。
【0215】
以上の結果から、高安動脈炎患者において、腸内細菌叢におけるストレプトコッカス属細菌又はビフィドバクテリウム属細菌の相対的存在量は、高安動脈炎の予後を予測するための指標になり得ることが明らかとなった。
【0216】
(10) 高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けていない高安動脈炎患者の腸内細菌叢において相対的存在量が増加しているストレプトコッカス属細菌の種の特定
高安動脈炎に対して免疫抑制療法を受けている高安動脈炎患者(n=60)を、腸内細菌叢におけるストレプトコッカス属細菌の相対的存在量に応じて四分位法を用いてQuantile 1-4(Q1~Q4)に分類し、ストレプトコッカス属細菌の相対的存在量に応じて、当該相対的存在量が中央値より低い群(Q1 + Q2)及び当該相対的存在量が中央値より高い群(Q3 + Q4)をそれぞれ10例及び9例抽出し、フルメタゲノム解析を行った。hclust2.pyを用いて両群で有意に頻度が変化していた細菌の上位30種のヒートマップを、hclust2.pyを用いて作成した(
図12)。
【0217】
Q3 + Q4群の腸内細菌叢に含まれるストレプトコッカス属細菌として、ストレプトコッカス・ベスティブラリス、ストレプトコッカス・パスツーリアヌス、ストレプトコッカス・サングイニス、ストレプトコッカス・ミティス、ストレプトコッカス・オラリス、ストレプトコッカス・ニューモニエ、ストレプトコッカス・サーモフィラス、ストレプトコッカス・パラサングイニス、及びストレプトコッカス・サリバリウスが同定された。即ち、これらのストレプトコッカス属細菌の相対的存在量は、血管狭窄病変又は血管拡張病変による予後悪化を予測するための指標になり得ることが明らかとなった。
【0218】
(11) 巨細胞性動脈炎患者と健常者との間での腸内細菌叢組成の対比
巨細胞性動脈炎患者(n=11)と健常者(n=10)の腸内細菌叢組成の比較において、有意な変化が認められた腸内細菌を表6、
図13及び14に示す。
【0219】
腸内細菌の科レベルでは、巨細胞性動脈炎患者群は、健常者群に比べて、ユーバクテリウム科細菌の相対的存在量が有意に増加し、クロストリジウム科の相対的存在量が有意に低下していた。また、腸内細菌の属レベルでは、巨細胞性動脈炎患者群は、健常者群に比べて、フラボニフラクター属細菌、エリシペラトクロストリジウム属細菌、フンガテラ属細菌、ティザレラ属細菌、ユーバクテリウム属細菌、及びフェカリタレア属細菌の相対的存在量が有意に増加し、オシロスピラ科UCG-005属細菌、ヘモフィルス属細菌、フィーカリバクテリウム属細菌、ロゼブリア属細菌、アドレクルーツィア属細菌、オシロスピラ科UCG-003属細菌、クロストリジウムセンスストリクト1属(Clostridium_Sensu_Stricto_1)細菌、及びラクノスピラ属細菌の相対的存在量が有意に低下していた。また、腸内細菌の種レベルでは、巨細胞性動脈炎患者群は、健常者群に比べて、クロストリジウム・ボルテアエ、エリシペラトクロストリジウム・ラモスム、クロストリジウム・レプタム、ティゼレラ属未分類細菌、シャアリア・オドントリティカスの相対的存在量が有意に増加し、ユーバクテリウム・ハリイ、アエロボカセア科ファミリーXIII UCG-001・アンカルチャードバクテリウム、ラクノクロストリジウム・メタゲノム、オドリバクター・ラネウス、オシロスピラ科UCG-005・アンカルチャードバクテリウム、ラクノクロストリジウム・アンカルチャードオーガニズム、ラクノクロストリジウム・ガットメタゲノム、アリスティペス・オブゼイ、ロゼブリア・イヌリニボランス、オシロスピラ科UCG-005・ガットメタゲノム、ルミノコッカス科アンカルチャード・ヒューマンガット、及びユーバクテリウム・ベントリオサムグループ・アンカルチャードラクノスピラの相対的存在量が有意に低下していた。
【0220】
巨細胞性動脈炎患者群と健常者群との間で、相対的存在量の有意な差が認められた腸内細菌の内、ユーバクテリウム科細菌、フラボニフラクター属細菌、エリシペラトクロストリジウム属細菌、フンガテラ属細菌、ティザレラ属細菌、ユーバクテリウム属細菌、フェカリタレア属細菌、クロストリジウム・ボルテアエ、エリシペラトクロストリジウム・ラモスム、クロストリジウム・レプタム、及びシャアリア・オドントリティカスについては、高安動脈炎患者では健常者に比べて相対的存在量の増加が認められず、巨細胞性動脈炎患者のみで増加していた。一方、クロストリジウム科細菌、オシロスピラ科UCG-005属細菌、フィーカリバクテリウム属細菌、アドレクルーツィア属細菌、オシロスピラ科UCG-003属細菌、クロストリジウムセンスストリクト1属細菌、ラクノスピラ属細菌、オドリバクター・ラネウス、アリスティペス・オブゼイ、及びロゼブリア・イヌリニボランスいついては、高安動脈炎患者では健常者に比べて相対的存在量の低下が認められず、巨細胞性動脈炎患者のみで低下していた。即ち、これらの腸内細菌の相対的存在量は、巨細胞性動脈炎と高安動脈炎を見分ける指標になり得ることが分かった。
【0221】
【0222】
(12) 巨細胞性動脈炎患者の腸内細菌叢において相対的存在量が増加していた腸内細菌について、巨細胞性動脈炎患者と高安動脈炎患者との比較
巨細胞性動脈炎患者の腸内細菌叢において増加していた腸内細菌の相対的存在量について、巨細胞性動脈炎患者と高安動脈炎患者との間で比較した。その結果、巨細胞性動脈炎患者の腸内細菌叢では、高安動脈炎患者に比べて、クロストリジウム・ボルテアエ、エリシペラトクロストリジウム・ラモスム、及びクロストリジウム・レプタムの相対的存在量が特に高くなっていることが分かった(
図15)。高安動脈炎患者の腸内細菌叢におけるクロストリジウム・レプタムの相対的存在量は、健常者よりも低下しており、クロストリジウム・レプタムの相対的存在量は巨細胞性動脈炎の罹患の有無の指標として特に有用であることが確認された。
【0223】
(13) 巨細胞性動脈炎患者と健常者における予測メタゲノム解析
巨細胞性動脈炎患者(n=11)名と健常者(n=10)に対して、PICRUSt2(Gavin M. Douglas, et al. Nature Biotechnology. 2020; 38:685-688.参照)による予測メタゲノム解析を行い、2群比較にて有意に変化しているパスウェイについてMetaCYCデータベースを用いて検討した。結果を表7に示す。巨細胞性動脈炎患者群では、健常者群に比べて、PWY-5265、PWY-1861、及びRUMP-PWYに関するパスウェイが有意に上昇しており、一方で、PWY-7347、SUCSYN-PWY、PWY-4722、NADSYN-PWY、及びPWY-6876に関するパスウェイは、有意に低下していた。
【0224】
【0225】
2. 大動脈炎病態マウスを用いた大動脈炎の改善効果の検証
2-1.実験方法
Interleukin1 receptor antagonist (IL-1Ra)は、IL-1αやIL-1βが結合するIL-1受容体1に競合的に結合することにより、IL-1シグナルの活性を阻害することが知られている内因性タンパク質であり(Kaneko N, et al. Inflammation and Regeneration.2019;39(12).)、このタンパク質のリコンビナント型が川崎病や家族性地中海熱等に用いられるアナキンラである。そして、IL-1Raのノックアウトマウスは、動脈基部の炎症を自然発症することが報告されている(Iwakura Y, et al. J Exp. Med. 2000; 19(2):313-320.)。そこで、IL-1Raノックアウトマウスを用いて抗生剤の投与試験を行い、腸内細菌と大動脈炎の病態との関連性を確認した。
【0226】
具体的には、4週齢のIL-1Raノックアウトマウス(雌、BALB/c)を抗生剤カクテル投与群(n=8)及びコントロール群(n=8)に群分けした。抗生剤カクテル投与群では、SPF飼育環境下にて、4週齢から8週齢までの間、抗生剤カクテル(バンコマイシン0.5g/L、ネオマイシン1.0g/L、アンピシリン1.0g/L、及びメトロニダゾール1.0g/L含有)を含む0.6%ショ糖液を自由摂取させた。コントロール群では、4週齢から8週齢までの間、0.6%ショ糖液を自由摂取させた。その後、マウスを解剖して、Hematoxylin-Eosin 染色によって大動脈炎の発症頻度を調べた。更に、Masson-Trichrome染色によって大動脈基部の線維化の割合を調べた。
【0227】
2-2.実験結果
抗生剤カクテル投与群とコントロール群では、Hematoxylin-Eosin 染色による大動脈炎の発症頻度の点では大きな差は認められなかったが(
図16b)、Hematoxylin-Eosin 染色による大動脈基部の線維化の割合は、抗生剤カクテル投与群は、コントロール群に比べて有意に小さくなっていた(
図16c)。即ち、本結果から、腸内細菌叢が腸管免疫を介して、大動脈基部の炎症に何らかの影響を与えている可能性が示唆された。