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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135038
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】転舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20230921BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20230921BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20230921BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20230921BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20230921BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040047
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】安樂 厚二
(72)【発明者】
【氏名】矢島 周
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC08
3D232DA03
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA63
3D232DA64
3D232DC08
3D232DC33
3D232DC34
3D232DD01
3D232DD02
3D232DD03
3D232DD06
3D232DD17
3D232EB04
3D232EB11
3D232EC23
3D232EC37
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB31
3D333CB46
3D333CE52
(57)【要約】
【課題】モード変数の変化に起因して制御装置が扱う角度変数の値が急変することを抑制できるようにした転舵制御装置を提供する。
【解決手段】PU72は、操舵トルクThから算出されるねじれ量と、ステアリングホイール12の回転角との和を制御用舵角として転舵ECU90に出力する。転舵ECU90は、制御用舵角を、車速Vに応じて補正することによって目標転舵角を算出する。PU72は、ユーザインターフェース86の操作によって指示されるモードに応じてねじれ量を異なる値に算出する。PU72は、モードが切り替えられる場合、ねじれ量の変化を徐変する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵角と転舵角との関係を変更可能な操舵系を備える車両に適用され、
前記操舵角は、ステアリングホイールの回転角度であり、
前記転舵角は、前記車両の転舵輪の切れ角であり、
角度変数算出処理、操作処理、および徐変処理を実行するように構成され、
前記角度変数算出処理は、モード変数の値に応じて角度変数の値を算出する処理であり、
前記モード変数は、運転者が前記車両の操作感に対する好みを示す変数であり、
前記角度変数は、前記転舵角を示す変数であり、
前記操作処理は、前記角度変数の値を入力として前記操舵系を操作する処理であり、
前記徐変処理は、前記モード変数の値が変更される場合、前記操作処理の入力となる前記角度変数の値を、変更前の前記モード変数の値に応じた前記角度変数の値から前記変更後の前記モード変数の値に応じた前記角度変数の値へと徐々に移行させる処理である転舵制御装置。
【請求項2】
前記角度変数は、前記転舵角の目標値を示す変数である目標転舵角変数である請求項1記載の転舵制御装置。
【請求項3】
前記角度変数算出処理は、前記操舵角が示す基本となる転舵角に対して前記目標転舵角変数の値を所定量だけずらすことによって前記目標転舵角変数の値を算出する処理であって且つ、前記所定量を前記モード変数の値に応じて可変設定する処理であり、
前記徐変処理は、前記変更前の前記モード変数の値に応じた前記所定量から前記変更後の前記モード変数の値に応じた前記所定量へと徐々に移行させることによって、前記変更前の前記モード変数の値に応じた前記目標転舵角変数の値から前記変更後の前記モード変数の値に応じた前記目標転舵角変数の値へと徐々に移行させる処理である請求項2記載の転舵制御装置。
【請求項4】
前記角度変数算出処理は、ねじれ角算出処理、およびゲイン乗算処理を含み、
前記ねじれ角算出処理は、前記ステアリングホイールに入力されるトルクの検出値に応じてねじれ角を算出する処理であり、
前記ゲイン乗算処理は、前記ねじれ角にゲインを乗算することによって前記所定量を算出する処理であって且つ、前記ゲインを前記モード変数の値に応じて可変設定する処理であり、
前記徐変処理は、前記変更前の前記モード変数の値に応じた前記ゲインから前記変更後の前記モード変数の値に応じた前記ゲインへと徐々に移行させることによって、前記変更前の前記モード変数の値に応じた前記所定量から前記変更後の前記モード変数の値に応じた前記所定量へと徐々に移行させる処理である請求項3記載の転舵制御装置。
【請求項5】
前記ゲイン乗算処理は、車速に応じて前記ゲインを可変設定する処理であって且つ、前記車速が同一であっても前記モード変数の値に応じて前記ゲインを異なる大きさに設定する処理を含む請求項4記載の転舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、下記特許文献1には、ステアリングホイールと車両の転舵輪とが機械的に切り離されている装置が記載されている。また、同文献には、ステアリングホイールの回転角である操舵角に応じて、目標転舵角を設定することが記載されている。
【0003】
また、下記特許文献2には、ステアリングホイールの操作によって転舵輪を転舵させる際にモータによってアシストトルクを生成する装置を搭載した車両が記載されている。同文献には、スポーツモードと、ノーマルモードとの2つの走行モードで、ステアリングホイールの操作をアシストするトルクを変更することによって、操舵感を変更する装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-30838号公報
【特許文献2】国際公開第2011/48772号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者は、ステアリングホイールと車両の転舵輪とが機械的に切り離されている装置において、スポーツモードおよびノーマルモードを設けることを検討した。その場合、モードの切り替え時に制御装置が扱う角度変数の値が急変するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.操舵角と転舵角との関係を変更可能な操舵系を備える車両に適用され、前記操舵角は、ステアリングホイールの回転角度であり、前記転舵角は、前記車両の転舵輪の切れ角であり、角度変数算出処理、操作処理、および徐変処理を実行するように構成され、前記角度変数算出処理は、モード変数の値に応じて角度変数の値を算出する処理であり、前記モード変数は、運転者が前記車両の操作感に対する好みを示す変数であり、前記角度変数は、前記転舵角を示す変数であり、前記操作処理は、前記角度変数の値を入力として前記操舵系を操作する処理であり、前記徐変処理は、前記モード変数の値が変更される場合、前記操作処理の入力となる前記角度変数の値を、変更前の前記モード変数の値に応じた前記角度変数の値から前記変更後の前記モード変数の値に応じた前記角度変数の値へと徐々に移行させる処理である転舵制御装置である。
【0007】
上記構成では、モード変数の値に応じて角度変数の値が算出される。モード変数は、運転者の車両の操作感に関する好みを示す変数であることから、モード変数に応じて、角度変数の値が運転者の好みに応じた値に算出される。ここで、モード変数の値が変更される場合、角度変数の値が急激に変化して、操舵系の意図しない動作を生じるおそれがある。そこで、上記構成では、徐変処理によって角度変数の値を徐変させる。これにより、制御装置が扱う角度変数の値が急変することを抑制できる。
【0008】
2.前記角度変数は、前記転舵角の目標値を示す変数である目標転舵角変数である上記1記載の転舵制御装置である。
上記構成では、モード変数の値に応じて目標転舵角変数の値が算出される。そのため、モード変数の値が変更されると、目標転舵角変数の値が急変するおそれがある。目標転舵角変数の値が急変すると、実際の転舵角が急変するおそれがある。これに対し、上記構成では、徐変処理によって目標転舵角変数の値を徐変させることにより、実際の転舵角が急変することを抑制できる。
【0009】
3.前記角度変数算出処理は、前記操舵角が示す基本となる転舵角に対して前記目標転舵角変数の値を所定量だけずらすことによって前記目標転舵角変数の値を算出する処理であって且つ、前記所定量を前記モード変数の値に応じて可変設定する処理であり、前記徐変処理は、前記変更前の前記モード変数の値に応じた前記所定量から前記変更後の前記モード変数の値に応じた前記所定量へと徐々に移行させることによって、前記変更前の前記モード変数の値に応じた前記目標転舵角変数の値から前記変更後の前記モード変数の値に応じた前記目標転舵角変数の値へと徐々に移行させる処理である上記2記載の転舵制御装置である。
【0010】
上記構成では、所定量をモード変数の値に応じて定めることにより、運転者の好みを目標転舵角変数の値に反映させることができる。
4.前記角度変数算出処理は、ねじれ角算出処理、およびゲイン乗算処理を含み、前記ねじれ角算出処理は、前記ステアリングホイールに入力されるトルクの検出値に応じてねじれ角を算出する処理であり、前記ゲイン乗算処理は、前記ねじれ角にゲインを乗算することによって前記所定量を算出する処理であって且つ、前記ゲインを前記モード変数の値に応じて可変設定する処理であり、前記徐変処理は、前記変更前の前記モード変数の値に応じた前記ゲインから前記変更後の前記モード変数の値に応じた前記ゲインへと徐々に移行させることによって、前記変更前の前記モード変数の値に応じた前記所定量から前記変更後の前記モード変数の値に応じた前記所定量へと徐々に移行させる処理である上記3記載の転舵制御装置である。
【0011】
上記構成では、ねじれ角にゲインが乗算された量に応じて所定量が定まる。ここで、ゲインは、モード変数の値に応じて設定される。したがって、ゲインの変化を徐変処理の対象とすることにより、所定量または目標転舵角変数の値自体を徐変処理の対象とする場合と比較して、モード変数の変化に直接的に対処することができる。
【0012】
5.前記ゲイン乗算処理は、車速に応じて前記ゲインを可変設定する処理であって且つ、前記車速が同一であっても前記モード変数の値に応じて前記ゲインを異なる大きさに設定する処理を含む上記4記載の転舵制御装置である。
【0013】
上記構成では、ゲインをモード変数と車速とに応じて設定することから、目標転舵角変数の値を車速に応じてより適切な値とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1の実施形態にかかる車両の構成を示す図である。
図2】同実施形態にかかる転舵ECUが実行する処理の一部を示すブロック図である。
図3】同実施形態にかかる転舵ECUが実行する処理の手順を示す流れ図である。
図4】第2の実施形態にかかる転舵ECUが実行する処理の手順を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1の実施形態>
以下、転舵制御装置の第1実施形態を図面に従って説明する。
「前提構成」
図1に示すように、車両の操舵装置10は、ステアバイワイヤ式の操舵装置である。操舵装置10は、反力アクチュエータArと、転舵アクチュエータAtとを備えている。本実施形態の操舵装置10は、ステアリングホイール12と、転舵輪44との間の動力伝達路が機械的に常時遮断された構造を有している。
【0016】
ステアリングホイール12には、ステアリングシャフト14が連結されている。反力アクチュエータArは、ステアリングホイール12に操舵反力を付与するためのアクチュエータである。操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール12の操作方向と反対方向へ向けて作用する力をいう。操舵反力をステアリングホイール12に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。反力アクチュエータArは、減速機構16、反力モータ20、および反力用インバータ22を備えている。
【0017】
反力モータ20は、3相のブラシレスモータである。反力モータ20の回転軸は、減速機構16を介して、ステアリングシャフト14に連結されている。
一方、転舵シャフト40は、図1中の左右方向である車幅方向に沿って延びる。転舵シャフト40の両端には、それぞれタイロッド42を介して左右の転舵輪44が連結されている。転舵シャフト40が直線運動することにより、転舵輪44の転舵角が変更される。
【0018】
転舵アクチュエータAtは、減速機構56、転舵モータ60、および転舵用インバータ62を備えている。転舵モータ60は、3相のブラシレスモータである。転舵モータ60の回転軸は、減速機構56を介してピニオンシャフト52に連結されている。ピニオンシャフト52のピニオン歯は、転舵シャフト40のラック歯54に噛み合わされている。ピニオンシャフト52およびラック歯54が形成された転舵シャフト40は、ラックアンドピニオン機構50を構成している。転舵モータ60のトルクは、転舵力としてピニオンシャフト52を介して転舵シャフト40に付与される。転舵モータ60の回転に応じて、転舵シャフト40は図1中の左右方向である車幅方向に沿って移動する。
【0019】
操舵装置10は、反力ECU70および転舵ECU90を備えている。
反力ECU70は、ステアリングホイール12を制御対象とする。反力ECU70は、制御対象の制御量としての操舵反力を制御すべく、反力アクチュエータArを操作する。図1には、反力用インバータ22への操作信号MSsを記載している。
【0020】
反力ECU70は、制御量を制御すべく、トルクセンサ80によって検出される、ステアリングシャフト14への入力トルクである操舵トルクThを参照する。また、反力ECU70は、回転角センサ82によって検出される反力モータ20の回転軸の回転角θaを参照する。また、反力ECU70は、車速センサ84によって検出される車速Vを参照する。また、反力ECU70は、ユーザインターフェース86の操作状態を参照する。ユーザインターフェース86は、運転者が好む車両の操作感を指示する入力を可能とする。本実施形態では、ノーマルモードとスポーツモードとの2つのモードが運転者によって選択可能となっている。スポーツモードは、ノーマルモードと比較して、ステアリングホイール12の操作に対する転舵輪44の応答性が高いモードである。また、反力ECU70は、反力モータ20に流れる電流iu1,iv1,iw1を参照する。電流iu1,iv1,iw1は、反力用インバータ22の各レッグに設けられたシャント抵抗の電圧降下量として定量化されている。
【0021】
反力ECU70は、PU72、記憶装置74および周辺回路76を備えている。PU72は、CPU、GPU、およびTPU等のソフトウェア処理装置である。ここで、周辺回路76は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路、電源回路、およびリセット回路等を含む。反力ECU70は、記憶装置74に記憶されたプログラムをPU72が実行することにより制御量を制御する。
【0022】
転舵ECU90は、転舵輪44を制御対象とする。転舵ECU90は、制御対象の制御量としての転舵輪44の転舵角を制御すべく、転舵アクチュエータAtを操作する。図1には、転舵用インバータ62への操作信号MStを記載している。
【0023】
転舵ECU90は、制御量を制御すべく、回転角センサ83によって検出される転舵モータ60の回転軸の回転角θbを参照する。また、転舵ECU90は、転舵モータ60に流れる電流iu2,iv2,iw2を参照する。電流iu2,iv2,iw2は、転舵用インバータ62の各レッグに設けられたシャント抵抗の電圧降下量として定量化されている。
【0024】
転舵ECU90は、PU92、記憶装置94および周辺回路96を備えている。PU92は、CPU、GPU、およびTPU等のソフトウェア処理装置である。転舵ECU90は、記憶装置94に記憶されたプログラムをPU92が実行することにより制御量を制御する。
【0025】
「制御」
図2に、反力ECU70および転舵ECU90によって実行される処理の一部を示す。
ピニオン角算出処理M8は、回転角θbを入力として、ピニオンシャフト52の回転角度であるピニオン角θpを算出する処理である。ピニオン角算出処理M8は、たとえば、車両が直進しているときの転舵シャフト40の位置であるラック中立位置からの転舵モータ60の回転数をカウントすることにより、360°を超える範囲を含む積算角に換算する処理を含む。ピニオン角算出処理M8は、換算して得られた積算角に減速機構56の回転速度比に基づく換算係数を乗算することで、ピニオンシャフト52の実際の回転角であるピニオン角θpを演算する処理を含む。なお、ピニオン角θpは、ラック中立位置よりも、たとえば右側の角度である場合に正、左側の角度である場合に負とする。転舵モータ60と、ピニオンシャフト52とは、減速機構56を介して連動する。このため、転舵モータ60の回転角θbと、ピニオン角θpとの間には相関関係がある。この相関関係を利用して転舵モータ60の回転角θbからピニオン角θpを求めることができる。また、ピニオンシャフト52は、転舵シャフト40に噛合されている。このため、ピニオン角θpと転舵シャフト40の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θpは、転舵輪44の転舵角を反映する値である。なお、ピニオン角算出処理M8は、転舵ECU90において実行される処理である。
【0026】
操舵反力指令値演算処理M10は、操舵トルクTh、車速V、およびピニオン角θpを入力として、ステアリングホイール12に加えるべき操舵反力に応じた、操舵反力指令値Tr*を算出する処理である。操舵反力指令値Tr*は、実際には反力モータ20に対する指令値である。操舵反力指令値Tr*に減速機構16による減速比に応じた係数を乗算した値が、操舵反力となる。操舵反力指令値演算処理M10は、反力ECU70において実行される処理である。
【0027】
反力用操作処理M12は、操舵反力指令値Tr*、電流iu1,iv1,iw1、および回転角θaを入力として、反力用インバータ22に対する操作信号MSsを出力する処理である。反力用操作処理M12は、操舵反力指令値Tr*に基づきdq軸の電流指令値を算出する処理を含む。また、反力用操作処理M12は、電流iu1,iv1,iw1および回転角θaに基づき、dq軸の電流を算出する処理を含む。そして、反力用操作処理M12は、dq軸の電流が指令値となるように、反力用インバータ22を操作すべく操作信号MSsを算出する処理を含む。反力用操作処理M12は、反力ECU70において実行される処理である。
【0028】
操舵角算出処理M14は、回転角θaを入力として、ステアリングホイール12の回転角である操舵角θhを算出する処理である。操舵角算出処理M14は、回転角θaを、たとえば、車両が直進しているときのステアリングホイール12の位置であるステアリング中立位置からの反力モータ20の回転数をカウントすることにより、360°を超える範囲を含む積算角に換算する処理を含む。操舵角算出処理M14は、換算して得られた積算角に減速機構16の回転速度比に基づく換算係数を乗算することで、操舵角θhを演算する処理を含む。なお、操舵角θhは、たとえば、ステアリング中立位置よりも右側の角度である場合に正、左側の角度である場合に負とする。操舵角算出処理M14は、反力ECU70において実行される処理である。
【0029】
ねじれ角算出処理M16は、操舵トルクThを入力としてトルクセンサ80のねじれ角Δθhを算出する処理である。ねじれ角算出処理M16は、記憶装置74にマップデータが記憶された状態で、PU72によってねじれ角Δθhをマップ演算する処理である。ここで、マップデータは、操舵トルクThを入力変数として且つ、ねじれ角Δθhを出力変数とするデータである。なお、マップデータとは、入力変数の離散的な値と、入力変数の値のそれぞれに対応する出力変数の値と、の組データである。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれかに一致する場合、対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とする処理とすればよい。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値の補間によって得られる値を演算結果とする処理とすればよい。また、これに代えて、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値のうちの最も近い値に対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とする処理としてもよい。
【0030】
ねじれ角算出処理M16は、反力ECU70において実行される処理である。
ノーマルゲイン算出処理M18は、車速Vに基づき、ノーマルモードのゲインを算出する処理である。ゲインは、ねじれ角Δθhに乗算されることによって、ねじれ角Δθhの大きさを調整する係数である。ノーマルゲイン算出処理M18は、記憶装置74にマップデータが記憶された状態で、PU72によってゲインをマップ演算する処理である。ノーマルゲイン算出処理M18は、反力ECU70において実行される処理である。
【0031】
スポーツゲイン算出処理M20は、車速Vに基づき、スポーツモードのゲインを算出する処理である。ゲインは、ねじれ角Δθhに乗算されることによって、ねじれ角Δθhの大きさを調整する係数である。スポーツゲイン算出処理M20は、記憶装置74にマップデータが記憶された状態で、PU72によってゲインをマップ演算する処理である。スポーツゲイン算出処理M20は、反力ECU70において実行される処理である。
【0032】
ここで、スポーツゲイン算出処理M20が出力するゲインと、ノーマルゲイン算出処理M18が出力するゲインとは、同一の車速Vに対して異なる値となる。たとえば、車速Vが同一の場合、スポーツゲイン算出処理M20が出力するゲインを、ノーマルゲイン算出処理M18が出力するゲインよりも大きい値としてもよい。
【0033】
ゲイン選択処理M22は、ユーザインターフェース86の操作状態に応じて、ノーマルゲイン算出処理M18の出力と、スポーツゲイン算出処理M20の出力との2つのうちの1つを選択する処理である。ゲイン選択処理M22は、反力ECU70において実行される処理である。
【0034】
変化量ガード処理M24は、ゲイン選択処理M22の出力するゲインGの変化を緩和する処理である。変化量ガード処理M24は、反力ECU70において実行される処理である。
【0035】
乗算処理M26は、ねじれ角Δθhに変化量ガード処理M24が出力するゲインGを乗算する処理である。乗算処理M26は、反力ECU70において実行される処理である。
加算処理M28は、操舵角θhに、乗算処理M26の出力値を加算することによって、制御用舵角θhcを算出する処理である。加算処理M28は、反力ECU70において実行される処理である。
【0036】
目標ピニオン角算出処理M30は、制御用舵角θhcおよび車速Vを入力として、目標ピニオン角θp*を算出する処理である。制御用舵角θhcは、操舵角θhに対応するピニオン角θpである。換言すれば、所定の舵角比とした場合に、操舵角θhに対応するピニオン角θpである。目標ピニオン角算出処理M30では、車速Vに応じて舵角比を可変とする。そのため、目標ピニオン角θp*は、制御用舵角θhcと異なり得る。目標ピニオン角算出処理M30は、転舵ECU90において実行される処理である。
【0037】
ピニオン角フィードバック処理M34は、ピニオン角θpを目標ピニオン角θp*にフィードバック制御すべく、転舵モータ60のトルクの指令値である転舵トルク指令値Tt*を算出する処理である。ピニオン角フィードバック処理M34は、転舵ECU90において実行される処理である。
【0038】
転舵用操作処理M36は、転舵トルク指令値Tt*、電流iu2,iv2,iw2、および回転角θbを入力として、転舵用インバータ62に対する操作信号MStを出力する処理である。転舵用操作処理M36は、転舵トルク指令値Tt*に基づきdq軸の電流指令値を算出する処理を含む。また、転舵用操作処理M36は、電流iu2,iv2,iw2および回転角θbに基づき、dq軸の電流を算出する処理を含む。そして、dq軸の電流が指令値となるように、転舵用インバータ62を操作すべく操作信号MStを算出する処理を含む。転舵用操作処理M36は、転舵ECU90において実行される処理である。
【0039】
図3に、変化量ガード処理M24の手順を示す。図3に示す処理は、記憶装置74に記憶されたプログラムをPU72がたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって、各処理のステップ番号を表現する。
【0040】
図3に示す一連の処理において、PU72は、まず、ゲインGを取得する(S10)。なお、図3には、「G(n)」と記載している。ここでゲインGの後のカッコ内の数字はサンプリング番号を示す。以下では、より新しくサンプリングされたゲインGほど、サンプリング番号が大きいとする。次にPU72は、モード変数の値が切り替えられたか否かを判定する(S12)。モード変数は、ノーマルモードとスポーツモードとを識別する変数である。すなわち、S12の処理は、ユーザインターフェース86の操作によって、ノーマルモードとスポーツモードとの2つのモードのうちのいずれか一方から他方へ切り替えられたか否かを判定する処理である。PU72は、モード変数の値が切り替えられたと判定する場合(S12:YES)、S14の処理に移行する。PU72は、S14の処理において、ゲインGの今回値「G(n)」から前回値「G(n-1)」を減算した値をオフセット量初期値ΔGbに代入するとともに、オフセット量ΔGにオフセット量初期値ΔGbを代入する。
【0041】
PU72は、S14の処理を完了する場合と、S12の処理において否定判定する場合と、には、オフセット量初期値ΔGbが正であるか否かを判定する(S16)。PU72は、正であると判定する場合(S16:YES)、オフセット量ΔGから「ΔGb/N」を減算した値とゼロとのうちの大きい方を、オフセット量ΔGに代入する(S18)。ここで、「N」は、「2」以上の整数である。一方、PU72は、オフセット量初期値ΔGbがゼロ以下であると判定する場合(S16:NO)、オフセット量ΔGから「ΔGb/N」を減算した値とゼロとのうちの小さい方を、オフセット量ΔGに代入する(S20)。
【0042】
PU72は、S18,S20の処理を完了する場合、ゲインGからオフセット量ΔGを減算した値を、ゲインGに代入する(S22)。
なお、PU72は、S22の処理を完了する場合、図3に示す一連の処理を一旦終了する。
【0043】
「本実施形態の作用および効果」
PU72は、運転者がスポーツモードとノーマルモードとの2つのモードのうちのいずれか一方から他方に切り替える場合、ゲインGの変化を徐変する。これにより、上記切替に起因して目標ピニオン角θp*が急変することを抑制できる。
【0044】
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0045】
上記第1の実施形態では、ゲインGの徐変速度を、オフセット量初期値ΔGbの大きさに応じて設定することを例示した。これに対し、本実施形態では、徐変速度を固定値とする。
【0046】
図4に、本実施形態にかかる変化量ガード処理M24の手順を示す。図4に示す処理は、記憶装置74に記憶されたプログラムをPU72がたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。なお、図4において、図3に示した処理に対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付してその説明を省略する。
【0047】
図4に示す一連の処理において、PU72は、S10の処理を完了する場合、ゲインGの今回値「G(n)」から前回値「G(n-1)」を減算した値の絶対値が閾値Δthよりも大きいか否かを判定する(S12a)。閾値Δthは、図4の処理の実行周期においてモードが一定の場合に生じうるゲインGの変化の上限値よりも大きい値に設定されている。PU72は、閾値Δthよりも大きいと判定する場合(S12a:YES)、S14の処理に移行する。一方、PU72は、閾値Δth以下であると判定する場合(S12a:NO)、S16の処理に移行する。
【0048】
また、PU72は、S16の処理において肯定判定する場合、オフセット量ΔGから規定値Δを減算した値とゼロとのうちの大きい方を、オフセット量ΔGに代入する(S18a)。規定値Δは、上記閾値Δthよりも小さい値とすることが望ましい。一方、PU72は、オフセット量初期値ΔGbがゼロ以下であると判定する場合(S16:NO)、オフセット量ΔGから規定値Δを減算した値とゼロとのうちの小さい方を、オフセット量ΔGに代入する(S20a)。
【0049】
なお、PU72は、S18a,S20aの処理を完了する場合、S22の処理に移行する。
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1]角度変数は、目標ピニオン角θp*に対応する。角度変数算出処理は、ねじれ角算出処理M16、ノーマルゲイン算出処理M18、スポーツゲイン算出処理M20、ゲイン選択処理M22、変化量ガード処理M24、乗算処理M26、加算処理M28、および目標ピニオン角算出処理M30に対応する。操作処理は、ピニオン角フィードバック処理M34、および転舵用操作処理M36に対応する。徐変処理は、図3のS16~S22の処理と、図4のS16,S18a,S20a,S22の処理に対応する。[2]目標転舵角変数は、目標ピニオン角θp*に対応する。[3]操舵角が示す基本となる転舵角は、操舵角θhに対応する。所定量は、操舵角θhと目標ピニオン角θp*との差に対応する。[4,5]ねじれ角算出処理は、ねじれ角算出処理M16に対応する。ゲイン乗算処理は、ノーマルゲイン算出処理M18、スポーツゲイン算出処理M20、ゲイン選択処理M22、および乗算処理M26に対応する。
【0050】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0051】
「徐変処理について」
図3および図4には、モード変数の切り替え直後において、ゲインGをS10の処理によって取得したゲインから「|ΔGb/N|」の大きさまたは規定値Δの大きさだけずらしたが、これに限らない。たとえば、モード変数の切り替え直後においては、ゲインGを前回値「G(n-1)」と等しい値にしてもよい。
【0052】
・徐変処理としては、ゲインの変化をガードする処理に限らない。たとえば、下記「角度変数算出処理について」の欄に記載したように、ねじれ角Δθhをモード変数の値に応じて算出する場合、ねじれ角Δθhの変化を徐変させる処理としてもよい。これは、図3または図4の処理において、ゲインGを、ねじれ角Δθhに読み替えることにより実現できる。
【0053】
・徐変処理としては、制御用舵角θhcの変化を徐変させることによって、目標ピニオン角θp*の変化を徐変する処理に限らない。たとえば、目標ピニオン角算出処理M30が出力する目標ピニオン角θp*自体を補正する処理としてもよい。これは、たとえば、図3または図4の処理において、ゲインGを、目標ピニオン角算出処理M30が出力する目標ピニオン角θp*に読み替えることにより実現できる。
【0054】
図3には、徐変処理の徐変速度を、オフセット量初期値ΔGbの大きさに応じて設定することを例示した。また図4には、徐変処理の徐変速度を、一定値とすることを例示した。しかし、これらのいずれかであることは必須ではない。たとえば、徐変速度を、操舵角の変化速度である操舵角速度に応じて可変設定してもよい。ここでは、たとえば、操舵角速度の大きさが大きい場合に小さい場合よりも徐変速度を大きくしてもよい。なお、操舵角速度は、操舵角θhの変化速度でもよいが、これに限らない。たとえば、ピニオン角θpの時間変化、または目標ピニオン角θp*の時間変化であってもよい。またたとえば徐変速度を、車速に応じて可変設定してもよい。
【0055】
「操作処理について」
・ピニオン角フィードバック処理M34によって、転舵角をフィードバック制御することは必須ではない。たとえば、転舵角の目標値としての目標ピニオン角θp*に基づく開ループ制御の操作量を転舵トルク指令値Tt*としてもよい。またたとえば、転舵トルク指令値Tt*を、フィードバック操作量と開ループ制御の操作量との和としてもよい。
【0056】
・転舵モータ60の制御手法としては、dq軸の電流フィードバック処理に限らない。たとえば、転舵モータ60として直流モータを採用して且つ、駆動回路をHブリッジ回路とする場合、単に転舵モータ60を流れる電流を制御すればよい。
【0057】
・下記「角度変数について」の欄に例示したように、操作処理が、目標転舵角変数の値を入力とすることは必須ではない。
「角度変数算出処理について」
・車速Vに応じて制御用舵角θhcを算出することは必須ではない。たとえば、図2に例示した処理において、ノーマルモードであるかスポーツモードであるかに応じた互いに異なる固定値のゲインGを用いてもよい。
【0058】
・ねじれ角Δθhとしては、操舵トルクThを入力変数としてマップ演算されるものに限らない。たとえば、操舵トルクThと、モード変数の値と、車速と、を入力変数とし、ねじれ角Δθhを出力変数とするマップデータを用いてねじれ角Δθhをマップ演算してもよい。その場合、ノーマルゲイン算出処理M18、スポーツゲイン算出処理M20、ゲイン選択処理M22、変化量ガード処理M24、乗算処理M26を削除すればよい。
【0059】
・目標ピニオン角算出処理M30を、車速Vに加えて、ヨーレートセンサの検出値に応じて舵角比を可変設定する処理としてもよい。
・目標ピニオン角算出処理M30を備えることは必須ではない。換言すれば、制御用舵角θhcを目標ピニオン角θp*としてもよい。
【0060】
「目標転舵角変数について」
目標転舵角変数としては、目標ピニオン角θp*に限らない。たとえば、転舵輪44の転舵角、すなわちタイヤの切れ角自体の目標値であってもよい。またたとえば、転舵シャフト40の変位量の目標値であってもよい。
【0061】
「角度変数について」
・角度変数としては、目標転舵角変数に限らない。たとえば、ピニオン角フィードバック処理M34に代えて、制御用舵角θhcおよび車速Vに応じて開ループ操作量としての転舵トルク指令値Tt*を出力する処理を採用する場合、角度変数は、制御用舵角θhcとなる。
【0062】
「モード変数について」
・モード変数としては、スポーツモードとノーマルモードとの2つの値を識別する変数に限らない。
【0063】
「転舵ECUについて」
・転舵ECUとしては、反力ECU70および転舵ECU90に限らない。たとえば、それらが一体的に形成されているものであってもよい。
【0064】
・転舵ECUとしては、PUと記憶装置とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶する記憶装置等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0065】
「転舵アクチュエータについて」
・転舵アクチュエータAtとして、たとえば、転舵シャフト40の同軸上に転舵モータ60を配置するものを採用してもよい。またたとえば、ボールねじ機構を用いたベルト式減速機を介して転舵シャフト40に連結するものを採用してもよい。
【0066】
「操舵系について」
・操舵角と転舵角との関係を変更可能な操舵系としては、ステアリングホイール12と転舵輪44との動力の伝達が遮断された操舵系に限らない。たとえば、ステアリングホイール12と転舵輪44との動力伝達を可能とするギアを、可変ギアとすることによって、操舵角と転舵角との関係を変更可能な操舵系を構成してもよい。
【符号の説明】
【0067】
10…操舵装置
12…ステアリングホイール
14…ステアリングシャフト
16…減速機構
20…反力モータ
22…反力用インバータ
40…転舵シャフト
42…タイロッド
44…転舵輪
50…ラックアンドピニオン機構
52…ピニオンシャフト
54…ラック歯
56…減速機構
60…転舵モータ
62…転舵用インバータ
70…反力ECU
90…転舵ECU
図1
図2
図3
図4