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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135039
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】転舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20230921BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20230921BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20230921BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20230921BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20230921BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040048
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】三宅 純也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 創
(72)【発明者】
【氏名】柿本 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】外山 英次
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC08
3D232DA03
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA63
3D232DA64
3D232DC02
3D232DC08
3D232DC33
3D232DC34
3D232DD01
3D232DD02
3D232DD03
3D232DD06
3D232DD17
3D232EB04
3D232EB11
3D232EC23
3D232EC37
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB31
3D333CB46
3D333CE52
(57)【要約】
【課題】制御用車速の変更に起因して運転者に違和感を与えることを抑制できるようにした転舵制御装置を提供する。
【解決手段】PU72は、ステアリングホイール12の回転角である操舵角と車速とに基づき、転舵輪44の転舵角の目標値を算出する。PU72は、操舵角の変化がない場合、保舵状態であるとして、転舵角の目標値の算出に用いる車速を固定車速に切り替える。PU72は、操舵角が変化する場合、目標値の算出に用いる車速を固定車速から都度更新される車速に切り替える。PU72は、切り替えがなされる場合、目標値を徐変させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵角と転舵角との関係を変更可能な操舵系を備える車両に適用され、
前記操舵角は、ステアリングホイールの回転角度であり、
前記転舵角は、前記車両の転舵輪の切れ角であり、
操作変数算出処理、選択処理、操作処理、徐変処理、および操作量算出処理を実行するように構成され、
前記操作変数算出処理は、制御用車速を入力として、前記操舵系の操作量を定めるための操作変数の値を可変設定する処理であり、
前記操作量は、前記転舵角を制御するための量であり、
前記選択処理は、複数の制御用車速のうちの前記操作変数算出処理の入力となる前記制御用車速を選択する処理であり、
前記操作処理は、前記操作量に応じて前記操舵系を操作する処理であり、
前記徐変処理は、前記選択処理によって選択される前記制御用車速が変更される場合、前記変更に伴う前記制御用車速の値の変化に起因した前記操作変数の値の変化を徐変する処理であり、
前記操作量算出処理は、前記徐変処理によって徐変された前記操作変数の値を入力として前記操作量を算出する処理である転舵制御装置。
【請求項2】
前記選択処理によって選択される前記制御用車速が変更されることを検知する変更検知処理を実行するように構成され、
前記徐変処理は、前記変更検知処理によって前記変更が検知されることをトリガとして前記操作変数の値の変化を徐変する処理である請求項1記載の転舵制御装置。
【請求項3】
前記操舵角の変化速度を示す変数である角速度変数の値を取得する角速度取得処理を実行するように構成され、
前記徐変処理は、前記変更前の前記制御用車速に応じた前記操作変数の値から前記変更後の前記制御用車速に応じた前記操作変数の値への徐変速度を、前記角速度変数の値に応じて可変設定する処理であって且つ、前記角速度変数の値の大きさが大きい場合の前記徐変速度を前記角速度変数の値の大きさが小さい場合の前記徐変速度以上とする処理を含む請求項1または2記載の転舵制御装置。
【請求項4】
前記車両の走行速度である車速を取得する車速取得処理を実行するように構成され、
前記徐変処理は、変更前の前記制御用車速に応じた前記操作変数の値から前記変更後の前記制御用車速に応じた前記操作変数の値への徐変速度を、前記車速に応じて可変設定する処理であって且つ、前記車速が大きい場合の前記徐変速度を前記車速が小さい場合の前記徐変速度以上とする処理を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の転舵制御装置。
【請求項5】
前記車両の走行速度である車速を取得する車速取得処理と、
前記車速取得処理によって所定のタイミングで取得された前記車速を固定車速として記憶保持する記憶処理と、を実行するように構成され、
複数の前記制御用車速は、前記車速取得処理によって都度取得される前記車速と、前記固定車速とを含み、
前記徐変処理は、前記選択処理によって選択された車速が前記固定車速から都度取得される前記車速へと変更される場合に前記変更前の前記制御用車速に応じた前記操作変数の値から前記変更後の前記制御用車速に応じた前記操作変数の値へと徐変する処理を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の転舵制御装置。
【請求項6】
前記操舵角を保持する保舵状態であるか否かを判定する保舵判定処理を実行するように構成され、
前記選択処理は、前記保舵判定処理によって前記保舵状態ではないと判定されている状態から前記保舵状態であると判定される状態へ移行するタイミングを前記所定のタイミングとして、前記制御用車速を都度取得される前記車速から前記固定車速へと変更する保舵時処理と、
前記保舵時処理を実行しているときに前記保舵判定処理によって前記保舵状態であると判定されている状態から前記保舵状態でないと判定される状態へ移行する場合に、前記制御用車速を前記固定車速から都度取得される前記車速へと変更する保舵解除処理と、を含む請求項5記載の転舵制御装置。
【請求項7】
舵角変数の値の大きさと上限値との差が所定以下の状態である境界状態であるか否かを判定する境界判定処理を実行するように構成され、
前記舵角変数は、前記転舵角を示す変数であり、
前記選択処理は、前記境界判定処理によって前記境界状態ではないと判定されている状態から前記境界状態であると判定される状態へ移行するタイミングを前記所定のタイミングとして、前記制御用車速を都度取得される前記車速から前記固定車速へと変更するエンド用処理と、
前記エンド用処理を実行しているときに前記境界判定処理によって前記境界状態であると判定される状態から前記境界状態ではないと判定されている状態へ移行する場合に、前記制御用車速を前記固定車速から都度取得される前記車速へと変更するエンド解除処理を含む請求項5または6記載の転舵制御装置。
【請求項8】
複数の前記制御用車速は、前記車両の第1の車輪の速度である第1車輪速度、および前記車両の第2の車輪の速度である第2車輪速度を含み、
前記選択処理は、前記第1車輪速度を前記制御用車速として選択している状態で前記車両の車輪速度のいずれかに異常が検知される場合、前記第2車輪速度を前記制御用車速として選択する処理を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の転舵制御装置。
【請求項9】
前記操舵系は、前記転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータを含み、
前記操作量は、前記転舵アクチュエータの操作量であり、
前記操作変数は、前記転舵角の目標値である目標転舵角である請求項1~8のいずれか1項に記載の転舵制御装置。
【請求項10】
前記徐変処理は、前記変更後の前記制御用車速に応じて前記操作変数算出処理が出力する前記目標転舵角を補正する処理を含む請求項9記載の転舵制御装置。
【請求項11】
前記徐変処理は、前記選択処理によって前記制御用車速が変更される場合、前記操作変数算出処理が前記目標転舵角を算出するために用いる前記制御用車速を前記変更前の前記制御用車速から前記変更後の前記制御用車速へと徐々に変化させる処理を含む請求項9記載の転舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、転舵角を目標転舵角にフィードバック制御する転舵制御装置が記載されている。同装置は、操舵角に応じて目標転舵角を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-30838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、たとえば上記目標転舵角のように操舵系の操作量を定めるための変数である操作変数の算出には、制御用車速が入力とされることがある。また、制御用車速は、いくつかの変数が選択的に用いられることがある。ここで、制御用車速として採用される変数が変更される場合、制御用車速が急激に変化することがある。その場合、操舵系の操作量が急激に変化し、運転者に違和感を与えるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.操舵角と転舵角との関係を変更可能な操舵系を備える車両に適用され、前記操舵角は、ステアリングホイールの回転角度であり、前記転舵角は、前記車両の転舵輪の切れ角であり、操作変数算出処理、選択処理、操作処理、徐変処理、および操作量算出処理を実行するように構成され、前記操作変数算出処理は、制御用車速を入力として、前記操舵系の操作量を定めるための操作変数の値を可変設定する処理であり、前記操作量は、前記転舵角を制御するための量であり、前記選択処理は、複数の制御用車速のうちの前記操作変数算出処理の入力となる制御用車速を選択する処理であり、前記操作処理は、前記操作量に応じて前記操舵系を操作する処理であり、前記徐変処理は、前記選択処理によって選択される前記制御用車速が変更される場合、前記変更に伴う前記制御用車速の値の変化に起因した前記操作変数の値の変化を徐変する処理であり、前記操作量算出処理は、前記徐変処理によって徐変された前記操作変数の値を入力として前記操作量を算出する処理である転舵制御装置である。
【0006】
上記構成では、選択処理によって選択される制御用車速が変更される場合、変更に伴って制御用車速が変化する。そしてこれにより、操作変数の値が大きく変化するおそれがある。そこで上記構成では、制御用車速が変化することに起因した操作変数の値の変化を徐変する。これにより、制御用車速の変更に起因して操舵系の操作量が急激に変化することを抑制できる。そのため、制御用車速の変更に起因して運転者に違和感を与えることを抑制できる。
【0007】
2.前記選択処理によって選択される前記制御用車速が変更されることを検知する変更検知処理を実行するように構成され、前記徐変処理は、前記変更検知処理によって前記変更が検知されることをトリガとして前記操作変数の値の変化を徐変する処理である上記1記載の転舵制御装置である。
【0008】
上記構成では、変更検知処理によって変更が検知されることをトリガとして操作変数の値の変化が徐変される。そのため、制御用車速が変更されていないにもかかわらず徐変処理によって操作変数の値の変化が徐変されることを抑制できる。
【0009】
3.前記操舵角の変化速度を示す変数である角速度変数の値を取得する角速度取得処理を実行するように構成され、前記徐変処理は、前記変更前の前記制御用車速に応じた前記操作変数の値から前記変更後の前記制御用車速に応じた前記操作変数の値への徐変速度を、前記角速度変数の値に応じて可変設定する処理であって且つ、前記角速度変数の値の大きさが大きい場合の前記徐変速度を前記角速度変数の値の大きさが小さい場合の前記徐変速度以上とする処理を含む上記1または2記載の転舵制御装置である。
【0010】
操舵角速度の大きさが大きい場合には、運転者が操舵を所望の状態に迅速に変化させることを希望している。そして、所望の状態は、徐変処理の終了時の状態に対応すると考えられる。そのため、操舵角速度の大きさが大きい場合に漸減速度を大きくすることにより、操舵角速度の大きさが大きい場合に所望の状態により迅速に到達させることができる。したがって、運転者が操舵感に抱くフィーリングを良好なものとすることができる。
【0011】
4.前記車両の走行速度である車速を取得する車速取得処理を実行するように構成され、前記徐変処理は、変更前の前記制御用車速に応じた前記操作変数の値から前記変更後の前記制御用車速に応じた前記操作変数の値への徐変速度を、前記車速に応じて可変設定する処理であって且つ、前記車速が大きい場合の前記徐変速度を前記車速が小さい場合の前記徐変速度以上とする処理を含む上記1~3のいずれか1つに記載の転舵制御装置である。
【0012】
車速が大きい場合には小さい場合と比較して、操作変数の変化速度が大きいわりに運転者に違和感を与えにくい傾向がある。そこで上記構成では、車速が大きい場合に徐変速度を大きくすることにより、運転者に違和感を与えることを抑制しつつ極力早期に操作変数の値を変更後の制御用車速に応じた値とすることができる。
【0013】
5.前記車両の走行速度である車速を取得する車速取得処理と、前記車速取得処理によって所定のタイミングで取得された前記車速を固定車速として記憶保持する記憶処理と、を実行するように構成され、複数の前記制御用車速は、前記車速取得処理によって都度取得される前記車速と、前記固定車速とを含み、前記徐変処理は、前記選択処理によって選択された車速が前記固定車速から都度取得される前記車速へと変更される場合に前記変更前の前記制御用車速に応じた前記操作変数の値から前記変更後の前記制御用車速に応じた前記操作変数の値へと徐変する処理を含む上記1~4のいずれか1つに記載の転舵制御装置である。
【0014】
固定車速から都度取得される車速へと変更される場合には、制御用車速が大きく変化する傾向がある。そのため、固定車速から都度取得される車速へと変更されることによって制御用車速を徐変させない場合には、操作変数の値が急変することから、運転者に違和感を生じさせやすい。そのため、上記構成では、徐変処理の利用価値が特に大きい。
【0015】
6.前記操舵角を保持する保舵状態であるか否かを判定する保舵判定処理を実行するように構成され、前記選択処理は、前記保舵判定処理によって前記保舵状態ではないと判定されている状態から前記保舵状態であると判定される状態へ移行するタイミングを前記所定のタイミングとして、前記制御用車速を都度取得される前記車速から前記固定車速へと変更する保舵時処理と、前記保舵時処理を実行しているときに前記保舵判定処理によって前記保舵状態であると判定されている状態から前記保舵状態でないと判定される状態へ移行する場合に、前記制御用車速を前記固定車速から都度取得される前記車速へと変更する保舵解除処理と、を含む上記5記載の転舵制御装置である。
【0016】
保舵状態において、車速の加減速によって操作変数の値が変化すると、運転者にとって意図しない操舵となるおそれがある。そこで、上記構成では、保舵状態においては、固定車速に基づき操作変数を算出する。そして、保舵状態が解消されると、保舵解除処理によって、制御用車速を都度取得される車速に切り替える。これにより、車速に応じた適切な操作変数の値を算出できる。
【0017】
7.舵角変数の値の大きさと上限値との差が所定以下の状態である境界状態であるか否かを判定する境界判定処理を実行するように構成され、前記舵角変数は、前記転舵角を示す変数であり、前記選択処理は、前記境界判定処理によって前記境界状態ではないと判定されている状態から前記境界状態であると判定される状態へ移行するタイミングを前記所定のタイミングとして、前記制御用車速を都度取得される前記車速から前記固定車速へと変更するエンド用処理と、前記エンド用処理を実行しているときに前記境界判定処理によって前記境界状態であると判定される状態から前記境界状態ではないと判定されている状態へ移行する場合に、前記制御用車速を前記固定車速から都度取得される前記車速へと変更するエンド解除処理を含む上記5または6記載の転舵制御装置である。
【0018】
境界状態において、車速の加減速によって操作変数の値が変化すると、運転者にとって意図しない操舵となるおそれがある。そこで、上記構成では、境界状態においては、固定車速に基づき操作変数の値を算出する。そして、境界状態が解消されると、エンド解除処理によって、制御用車速を都度取得される車速に切り替える。これにより、車速に応じた適切な操作変数の値を算出できる。
【0019】
8.複数の前記制御用車速は、前記車両の第1の車輪の速度である第1車輪速度、および前記車両の第2の車輪の速度である第2車輪速度を含み、前記選択処理は、前記第1車輪速度を前記制御用車速として選択している状態で前記車両の車輪速度のいずれかに異常が検知される場合、前記第2車輪速度を前記制御用車速として選択する処理を含む上記1~4のいずれか1つに記載の転舵制御装置である。
【0020】
上記構成では、車両の車輪速度のいずれかに異常が検知される場合、第2車輪速度を選択する。これにより、第2車輪速度を制御用車速として操作変数の値を算出できる。そして、制御用車速を第1車輪速度から第2車輪速度に変更することによる操作変数の値の急変は、徐変処理によって抑制される。
【0021】
9.前記操舵系は、前記転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータを含み、前記操作量は、前記転舵アクチュエータの操作量であり、前記操作変数は、前記転舵角の目標値である目標転舵角である上記1~8のいずれか1つに記載の転舵制御装置である。
【0022】
上記構成によれば、徐変処理によって、制御用車速の変更による目標転舵角の急変を抑制できる。
10.前記徐変処理は、前記変更後の前記制御用車速に応じて前記操作変数算出処理が出力する前記目標転舵角を補正する処理を含む上記9記載の転舵制御装置である。
【0023】
上記構成では、操作変数算出処理が出力する目標転舵角を補正することから、目標転舵角の急変を確実に抑制できる。
11.前記徐変処理は、前記選択処理によって前記制御用車速が変更される場合、前記操作変数算出処理が前記目標転舵角を算出するために用いる前記制御用車速を前記変更前の前記制御用車速から前記変更後の前記制御用車速へと徐々に変化させる処理を含む上記9記載の転舵制御装置である。
【0024】
上記構成では、変更前の制御用車速から変更後の制御用車速に徐々に変化させることによって、制御用車速の変更による目標転舵角の急変を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1の実施形態にかかる車両の構成を示す図である。
図2】同実施形態にかかる転舵制御装置が実行する処理の一部を示すブロック図である。
図3】同実施形態にかかる転舵制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図4】同実施形態にかかる転舵制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図5】第2の実施形態にかかる転舵制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図6】第3の実施形態にかかる転舵制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図7】第4の実施形態にかかる転舵制御装置が実行する処理の一部を示すブロック図である。
図8】同実施形態にかかる転舵制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1の実施形態>
以下、転舵制御装置の第1実施形態を図面に従って説明する。
「前提構成」
図1に示すように、車両の操舵装置10は、ステアバイワイヤ式の操舵装置である。操舵装置10は、反力アクチュエータArと、転舵アクチュエータAtとを備えている。本実施形態の操舵装置10は、ステアリングホイール12と、転舵輪44との間の動力伝達路が機械的に遮断された構造を有している。
【0027】
ステアリングホイール12には、ステアリングシャフト14が連結されている。反力アクチュエータArは、ステアリングホイール12に操舵反力を付与するためのアクチュエータである。操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール12の操作方向と反対方向へ向けて作用する力をいう。操舵反力をステアリングホイール12に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。反力アクチュエータArは、減速機構16、反力モータ20、および反力用インバータ22を備えている。
【0028】
反力モータ20は、3相のブラシレスモータである。反力モータ20の回転軸は、減速機構16を介して、ステアリングシャフト14に連結されている。
一方、転舵シャフト40は、図1中の左右方向である車幅方向に沿って延びる。転舵シャフト40の両端には、それぞれタイロッド42を介して左右の転舵輪44が連結されている。転舵シャフト40が直線運動することにより、転舵輪44の転舵角が変更される。
【0029】
転舵アクチュエータAtは、減速機構56、転舵モータ60、および転舵用インバータ62を備えている。転舵モータ60は、3相のブラシレスモータである。転舵モータ60の回転軸は、減速機構56を介してピニオンシャフト52に連結されている。ピニオンシャフト52のピニオン歯は、転舵シャフト40のラック歯54に噛み合わされている。ピニオンシャフト52とラック歯54が設けられた転舵シャフト40とによって、ラックアンドピニオン機構50が構成されている。転舵モータ60のトルクは、転舵力としてピニオンシャフト52を介して転舵シャフト40に付与される。転舵モータ60の回転に応じて、転舵シャフト40は図1中の左右方向である車幅方向に沿って移動する。
【0030】
操舵装置10は、転舵ECU70を備えている。
転舵ECU70は、ステアリングホイール12を制御対象とする。転舵ECU70は、制御対象の制御量としての操舵反力を制御すべく、反力アクチュエータArを操作する。図1には、反力用インバータ22への操作信号MSsを記載している。また、転舵ECU70は、転舵輪44を制御対象とする。転舵ECU70は、制御対象の制御量としての転舵輪44の転舵角を制御すべく、転舵アクチュエータAtを操作する。図1には、転舵用インバータ62への操作信号MStを記載している。
【0031】
転舵ECU70は、制御量を制御すべく、トルクセンサ80によって検出される、ステアリングシャフト14への入力トルクである操舵トルクThを参照する。また、転舵ECU70は、回転角センサ82によって検出される反力モータ20の回転軸の回転角θaを参照する。また、転舵ECU70は、反力モータ20に流れる電流iu1,iv1,iw1を参照する。電流iu1,iv1,iw1は、反力用インバータ22の各レッグに設けられたシャント抵抗の電圧降下量として定量化されている。転舵ECU70は、制御量を制御すべく、回転角センサ84によって検出される転舵モータ60の回転軸の回転角θbを参照する。また、転舵ECU70は、転舵モータ60に流れる電流iu2,iv2,iw2を参照する。電流iu2,iv2,iw2は、転舵用インバータ62の各レッグに設けられたシャント抵抗の電圧降下量として定量化されている。
【0032】
転舵ECU70は、また、制動ECU90から出力される車輪速度ωwa~ωwdを参照する。制動ECU90は、車輪速度センサ100によって検出される右側の転舵輪44の車輪速度ωwaを取得する。また、制動ECU90は、車輪速度センサ102によって検出される左側の転舵輪44の車輪速度ωwbを取得する。また、制動ECU90は、車輪速度センサ104によって検出される右側の車輪46の車輪速度ωwcを取得する。また、制動ECU90は、車輪速度センサ106によって検出される左側の車輪46の車輪速度ωwdを取得する。
【0033】
転舵ECU70は、PU72、記憶装置74および周辺回路76を備えている。PU72は、CPU、GPU、およびTPU等のソフトウェア処理装置である。ここで、周辺回路76は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路、電源回路、およびリセット回路等を含む。転舵ECU70は、記憶装置74に記憶されたプログラムをPU72が実行することにより制御量を制御する。
【0034】
「制御」
図2に、転舵ECU70によって実行される処理の一部を示す。
車速算出処理M10は、車輪速度ωwa~ωwdに基づき車速Vを算出する処理である。
【0035】
操舵角算出処理M12は、回転角θaを入力として、ステアリングホイール12の回転角である操舵角θhを算出する処理である。操舵角算出処理M12は、回転角θaを、たとえば、車両が直進しているときのステアリングホイール12の位置であるステアリング中立位置からの反力モータ20の回転数をカウントすることにより、360°を超える範囲を含む積算角に換算する処理を含む。操舵角算出処理M12は、換算して得られた積算角に減速機構16の回転速度比に基づく換算係数を乗算することで、操舵角θhを演算する処理を含む。なお、操舵角θhは、たとえば、ステアリング中立位置よりも右側の角度である場合に正、左側の角度である場合に負としてもよい。
【0036】
ピニオン角算出処理M14は、回転角θbを入力として、ピニオンシャフト52の回転角度であるピニオン角θpを算出する処理である。ピニオン角算出処理M14は、たとえば、車両が直進しているときの転舵シャフト40の位置であるラック中立位置からの転舵モータ60の回転数をカウントすることにより、360°を超える範囲を含む積算角に換算する処理を含む。ピニオン角算出処理M14は、換算して得られた積算角に減速機構56の回転速度比に基づく換算係数を乗算することで、ピニオンシャフト52の実際の回転角であるピニオン角θpを演算する処理を含む。なお、ピニオン角θpは、たとえば、ラック中立位置よりも右側の角度である場合に正、左側の角度である場合に負としてもよい。転舵モータ60と、ピニオンシャフト52とは、減速機構56を介して連動する。このため、転舵モータ60の回転角θbと、ピニオン角θpとの間には相関関係がある。この相関関係を利用して転舵モータ60の回転角θbからピニオン角θpを求めることができる。また、ピニオンシャフト52は、転舵シャフト40に噛合されている。このため、ピニオン角θpと転舵シャフト40の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θpは、転舵輪44の転舵角を反映する値である。
【0037】
操舵反力指令値演算処理M16は、操舵トルクTh、車速V、およびピニオン角θpを入力として、ステアリングホイール12に加えるべき操舵反力に応じた、操舵反力指令値Tr*を算出する処理である。操舵反力指令値演算処理M16は、ピニオン角θpの大きさがその最大値付近となる場合、操舵反力指令値Tr*の大きさを特に大きくする処理を含む。これは、運転者がステアリングホイール12を、ピニオン角θpが増加する方向に変位させることを妨げることを狙ったものである。操舵反力指令値Tr*は、実際には反力モータ20に対する指令値である。操舵反力指令値Tr*に減速機構16による減速比に応じた係数を乗算した値が、操舵反力となる。
【0038】
反力操作処理M18は、操舵反力指令値Tr*、電流iu1,iv1,iw1、および回転角θaを入力として、反力用インバータ22に対する操作信号MSsを出力する処理である。反力操作処理M18は、操舵反力指令値Tr*に基づきdq軸の電流指令値を算出する処理を含む。また、反力操作処理M18は、電流iu1,iv1,iw1および回転角θaに基づき、dq軸の電流を算出する処理を含む。そして、反力操作処理M18は、dq軸の電流が指令値となるように、反力用インバータ22を操作すべく操作信号MSsを算出する処理を含む。
【0039】
目標ピニオン角算出処理M20は、操舵角θhおよび車速Vを入力として、目標ピニオン角θp*0を算出する処理である。
オフセット量算出処理M22は、操舵角θhおよび車速Vを入力として、目標ピニオン角θp*0のオフセット量Δθpを算出する処理である。
【0040】
オフセット処理M24は、目標ピニオン角θp*0からオフセット量Δθpを減算することによって、目標ピニオン角θp*を算出する処理である。
ピニオン角フィードバック処理M26は、ピニオン角θpを目標ピニオン角θp*にフィードバック制御すべく、転舵モータ60のトルクの指令値である転舵トルク指令値Tt*を算出する処理である。
【0041】
転舵操作処理M28は、転舵トルク指令値Tt*、電流iu2,iv2,iw2、および回転角θbを入力として、転舵用インバータ62に対する操作信号MStを出力する処理である。転舵操作処理M28は、転舵トルク指令値Tt*に基づきdq軸の電流指令値を算出する処理を含む。また、転舵操作処理M28は、電流iu2,iv2,iw2および回転角θbに基づき、dq軸の電流を算出する処理を含む。そして、転舵操作処理M28は、dq軸の電流が指令値となるように、転舵用インバータ62を操作すべく操作信号MStを算出する処理を含む。
【0042】
図3に、目標ピニオン角算出処理M20の手順を示す。図3に示す処理は、記憶装置74に記憶されたプログラムをPU72がたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって各処理のステップ番号を表現する。
【0043】
図3に示す一連の処理において、PU72は、まず、操舵角速度ωhおよび車速Vを取得する(S10)。操舵角速度ωhは、操舵角θhの1階の時間微分値である。操舵角速度ωhは、PU72によって、操舵角θhに基づき算出される。そしてPU72は、フラグFが「1」であるか否かを判定する(S12)。フラグFが「1」である場合、目標ピニオン角θp*0の算出に用いる車速Vを固定車速V0とすることを意味する。また、フラグFが「0」である場合、目標ピニオン角θp*0の算出に都度更新される車速Vを用いることを意味する。
【0044】
PU72は、フラグFが「0」であると判定する場合(S12:NO)、操舵角速度ωhの絶対値が閾値ωhL以下である状態が所定時間継続したか否かを判定する(S14)。この処理は、運転者がステアリングホイール12を固定するいわゆる保舵状態であるか否かを判定する処理である。PU72は、所定時間継続したと判定する場合(S14:YES)、フラグFに「1」を代入して且つ、固定車速V0にS10の処理において取得した車速Vを代入する(S16)。
【0045】
一方、PU72は、フラグFが「1」であると判定する場合(S12:YES)、操舵角速度ωhの絶対値が閾値ωhHよりも大きいか否かを判定する(S18)。閾値ωhHは、閾値ωhL以上の値である。閾値ωhHは、閾値ωhLよりも大きい値とすることが望ましい。PU72は、閾値ωhH以下であると判定する場合(S18:NO)と、S16の処理を完了する場合と、には、制御用車速Vcに固定車速V0を代入する(S20)。
【0046】
一方、PU72は、閾値ωhHよりも大きいと判定する場合(S18:YES)、フラグFに「0」を代入する(S22)。PU72は、S22の処理を完了する場合と、S14の処理において否定判定する場合と、には、制御用車速VcにS10の処理において取得した最新の車速Vを代入する(S24)。
【0047】
PU72は、S20,S24の処理を完了する場合、操舵角θhに所定量Δを加算した値を、目標ピニオン角θp*0に代入する(S26)。ここで、PU72は、所定量Δを、操舵角θhおよび制御用車速Vcに応じて可変設定する。この処理は、たとえば、記憶装置74にマップデータが記憶された状態で、PU72によって、所定量Δをマップ演算する処理とすればよい。ここでマップデータは、操舵角θhおよび制御用車速Vcを入力変数として且つ、所定量Δを出力変数とするデータである。なお、マップデータとは、入力変数の離散的な値と、入力変数の値のそれぞれに対応する出力変数の値と、の組データである。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれかに一致する場合、対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とする処理とすればよい。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値の補間によって得られる値を演算結果とする処理とすればよい。また、これに代えて、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値のうちの最も近い値に対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とする処理としてもよい。
【0048】
なお、PU72は、S26の処理を完了する場合、図3に示す一連の処理を一旦終了する。
図4に、オフセット量算出処理M22の処理の手順を示す。図4に示す処理は、記憶装置74に記憶されたプログラムをPU72がたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。
【0049】
図4に示す一連の処理において、PU72は、まずピニオン角θp、操舵角速度ωh、および車速Vを取得する(S30)。操舵角速度ωhは、PU72によって、操舵角θhに応じて算出される。
【0050】
PU72は、フラグFが「1」から「0」に切り替わったときであるか否かを判定する(S32)。換言すれば、PU72は、目標ピニオン角θp*0の算出のための入力が、固定車速V0から都度更新される最新の車速Vに切り替わったときであるか否かを判定する。PU72は、切り替わったときであると判定する場合(S32:YES)、目標ピニオン角θp*から目標ピニオン角θp*0を減算した値を、オフセット量初期値Δθpbに代入して且つ、オフセット量Δθpにオフセット量初期値Δθpbを代入する(S34)。
【0051】
PU72は、S34の処理を完了する場合と、S32の処理において否定判定する場合と、には、操舵角速度ωhの大きさに応じて減少量ベース値Δ0を算出する(S36)。PU72は、操舵角速度ωhの大きさが大きい場合の減少量ベース値Δ0を、小さい場合の減少量ベース値Δ0以上とする。この処理は、たとえば、記憶装置74にマップデータが記憶された状態でPU72によって減少量ベース値Δ0をマップ演算することによって実現できる。ここで、マップデータは、操舵角速度ωhの絶対値を入力変数として且つ、減少量ベース値Δ0を出力変数とするデータである。
【0052】
次にPU72は、車速Vに応じてゲインGを算出する(S38)。PU72は、車速Vが大きい場合のゲインGを、小さい場合のゲインG以上とする。この処理は、たとえば、記憶装置74にマップデータが記憶された状態でPU72によってゲインGをマップ演算することによって実現できる。ここで、マップデータは、車速Vを入力変数として且つ、ゲインGを出力変数とするデータである。
【0053】
次に、PU72は、減少量ベース値Δ0にゲインGを乗算した値を、オフセット減少量Δ1に代入する(S40)。そして、PU72は、オフセット減少量Δ1が、下限値ΔLよりも小さいか否かを判定する(S42)。PU72は、車速Vに応じて下限値ΔLを算出する。PU72は、車速Vが大きい場合の下限値ΔLを、小さい場合の下限値ΔL以上とする。この処理は、たとえば、記憶装置74にマップデータが記憶された状態でPU72によって下限値ΔLをマップ演算することによって実現できる。ここで、マップデータは、車速Vを入力変数として且つ、下限値ΔLを出力変数とするデータである。
【0054】
PU72は、下限値ΔLよりも小さいと判定する場合(S42:YES)、オフセット減少量Δ1に下限値ΔLを代入する(S44)。PU72は、S44の処理を完了する場合と、S42の処理において否定判定する場合と、には、オフセット量初期値Δθpbが正であるか否かを判定する(S46)。PU72は、正であると判定する場合(S46:YES)、オフセット量Δθpからオフセット減少量Δ1を減算した値とゼロとのうちの大きい方を、オフセット量Δθpに代入する(S48)。一方、PU72は、オフセット量初期値Δθpbがゼロ以下であると判定する場合(S46:NO)、オフセット量Δθpにオフセット減少量Δ1を加算した値とゼロとのうちの小さい方を、オフセット量Δθpに代入する(S50)。
【0055】
なお、PU72は、S48,S50の処理を完了する場合、図4に示す一連の処理を一旦終了する。
「本実施形態の作用および効果」
PU72は、制御用車速Vcが固定車速V0から都度更新される車速Vに切り替えられる場合、目標ピニオン角θp*を、固定車速V0から定まる値から、都度更新される車速Vに応じて定まる値へと徐々に変化させる。これにより、ピニオン角θpが急激に変化することを抑制できる。したがって、転舵輪44の転舵角が急変することを抑制できる。
【0056】
以上説明した本実施形態によれば、さらに以下に記載する作用および効果が得られる。
(1-1)PU72は、フラグFが「1」から「0」に切り替わることをトリガとして、目標ピニオン角θp*の変化を徐変させた。換言すれば、制御用車速Vcが変更されたことをトリガとして、目標ピニオン角θp*の変化を徐変させた。これにより、制御用車速Vcが変更されていないにもかかわらず目標ピニオン角θp*の変化速度が低減されることを抑制できる。
【0057】
(1-2)操舵角速度ωhの大きさが大きい場合には、運転者が操舵を所望の状態に迅速に変化させることを希望している。そして、所望の状態は、オフセット量Δθpがゼロとなる状態に対応すると考えられる。そこで、PU72は、オフセット量Δθpの減少速度を、操舵角速度ωhに応じて設定した。これにより、操舵角速度ωhの大きさが大きい場合に所望の状態により迅速に到達させることができる。したがって、運転者が操舵感に抱くフィーリングを良好なものとすることができる。
【0058】
(1-3)車速Vが大きい場合には小さい場合と比較して、目標ピニオン角θp*の変化速度が大きいわりに運転者に違和感を与えにくい傾向がある。そこでPU72は、車速Vが大きい場合にオフセット量Δθpの減少速度を大きくすることにより、運転者に違和感を与えることを抑制しつつ極力早期に目標ピニオン角θp*を変更後の制御用車速Vcに応じた値とすることができる。
【0059】
(1-4)PU72は、操舵角速度ωhの大きさが所定時間にわたって小さい場合、運転者がステアリングホイール12を固定している保舵状態と判定する。そしてPU72は、保舵状態と判定する場合、固定車速V0に応じて目標ピニオン角θp*を算出する。これにより、運転者がステアリングホイール12を固定している状態にもかかわらず、目標ピニオン角θp*が変化することを抑制できる。
【0060】
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0061】
図5に、本実施形態にかかる目標ピニオン角算出処理M20の手順を示す。図5に示す処理は、記憶装置74に記憶されたプログラムをPU72がたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。なお、図5において、図3に示した処理に対応する処理については、便宜上、同一のステップ番号を付与してその説明を省略する。
【0062】
図5に示す一連の処理において、PU72は、フラグFが「0」であると判定する場合(S12:NO)、ピニオン角θpの大きさがエンド閾値θpthH以上であるか否かを判定する(S14a)。エンド閾値θpthHは、ピニオン角θpの取り得る大きさの最大値に応じて設定されている。エンド閾値θpthHは、所定領域内の値である。所定領域は、操舵反力指令値Tr*を、ピニオン角θpが増加する方向に変位させることを妨げることを狙った値に設定されるときのピニオン角θpの領域である。PU72は、エンド閾値θpthH以上であると判定する場合(S14a:YES)、S16の処理に移行する。一方、PU72は、エンド閾値θpthH未満であると判定する場合(S14a:NO)、S24の処理に移行する。
【0063】
一方、PU72は、フラグFが「1」であると判定する場合(S12:YES)、ピニオン角θpの大きさが、解除閾値θpthLよりも小さいか否かを判定する(S18a)。解除閾値θpthLは、エンド閾値θpthH以下である。解除閾値θpthLは、エンド閾値θpthH未満であることが望ましい。PU72は、解除閾値θpthLよりも小さいと判定する場合(S18a:YES)、S22の処理に移行する。一方、PU72は、解除閾値θpthL以上であると判定する場合(S18a:NO)、S20の処理に移行する。
【0064】
本実施形態において、図4のS32の処理は、図5の処理によって定まるフラグFの値を入力とする処理である。
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0065】
上述したように、車速算出処理M10は、車輪速度ωw1~ωw4に基づき車速を算出する処理である。ここで、車輪速度ωw1~ωw4のいずれか1つに異常が生じる場合、制動ECU90がその旨を転舵ECU70に通知する。その場合、車速算出処理M10は、通知前とは異なる処理によって、車速Vを算出する。
【0066】
図6に、車速算出処理M10の手順を示す。図6に示す処理は、記憶装置74に記憶されたプログラムをPU72がたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。
【0067】
図6に示す一連の処理において、PU72は、車輪速度ωw1~ωw4を取得する(S70)。PU72は、S70の処理において新たに車輪速度ωw1~ωw4を取得する際、1輪の検出値が無効である旨の判定が制動ECU90によってなされたか否かを判定する(S72)。この処理は、制動ECU90が、車輪速度ωw1~ωw4のいずれか1つに異常がある旨を転舵ECU70に通知したか否かの処理となる。PU72は、無効判定がないと判定する場合(S72:NO)、車速Vに、車輪速度ωwTを代入する(S74)。車輪速度ωwTは、車輪速度ωw1~ωw4のうちの3番目に大きい値である。一方、PU72は、無効判定がなされたと判定する場合(S72:YES)、車速Vに車輪速度ωwSを代入する(S76)。車輪速度ωwSは、車輪速度ωw1~ωw4のうちの2番目に大きい値である。
【0068】
PU72は、S74,S76の処理を完了する場合、車速Vが車輪速度ωwTと車輪速度ωwSとのいずれか一方から他方に切り替わったときであるか否かを判定する(S78)。図6には、切り替わったときである場合に論理Hとなる論理式を例示した。
【0069】
PU72は、切り替わったときであると判定する場合(S80:YES)、フラグFに「0」を代入する(S82)。これに対し、PU72は、切り替わったときではないと判定する場合(S80:NO)、フラグFに「1」を代入する(S84)。
【0070】
なお、PU72は、S82,S84の処理を完了する場合には、図6に示す一連の処理を一旦終了する。
以上説明した本実施形態によれば、さらに以下に記載する作用および効果が得られる。
【0071】
(3-1)車輪速度ωw1~ωw4のいずれかに異常がある場合、PU72は、車輪速度ωwTに代えて車輪速度ωwSを選択する。そして、PU72は、車輪速度ωwTが車速Vとされる状態と車輪速度ωwSが車速Vとされる状態との2つのうちの一方から他方に切り替えられることをトリガとして、目標ピニオン角θp*を徐変させた。これにより上記切り替えに起因した目標ピニオン角θp*の変化を抑制できる。
【0072】
<第4の実施形態>
以下、第4の実施形態について、第3の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0073】
図7に、本実施形態にかかる転舵ECU70によって実行される処理の一部を示す。図7に示す処理のうち、図2に示した処理に対応する処理については、便宜上、同一の符号を付している。
【0074】
本実施形態では、目標ピニオン角算出処理M20が、ピニオン角フィードバック処理M26の入力となる目標ピニオン角θp*を算出する処理となる。
一方、オフセット量算出処理M22aは、車速Vのオフセット量ΔVを算出する処理である。また、オフセット処理M24aは、車速算出処理M10が出力した車速からオフセット量ΔVを減算した値を、車速Vとして出力する処理である。そして、オフセット処理M24aが出力する車速Vが、操舵反力指令値演算処理M16および目標ピニオン角算出処理M20の入力となる。
【0075】
図8に、オフセット量算出処理M22aの手順を示す。図8に示す処理は、記憶装置74に記憶されたプログラムをPU72がたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。なお、図8において、図4に示した処理に対応する処理については、便宜上、同一のステップ番号を付与してその説明を省略する。
【0076】
図8に示す一連の処理において、PU72は、S32の処理において肯定判定する場合、S34aの処理に移行する。PU72は、S34aの処理において、車速Vの今回値「V(n)」から前回値「V(n-1)」を減算した値をオフセット量初期値ΔVbに代入するとともに、オフセット量ΔVにオフセット量初期値ΔVbを代入する。PU72は、S34aの処理を完了する場合、S36の処理に移行する。
【0077】
また、PU72は、S42の処理において否定判定する場合と、S44の処理を完了する場合と、には、オフセット量初期値ΔVbが正であるか否かを判定する(S46a)。PU72は、正であると判定する場合(S46a:YES)、オフセット量ΔVからオフセット減少量Δ1を減算した値とゼロとのうちの大きい方を、オフセット量ΔVに代入する(S48a)。一方、PU72は、オフセット量初期値ΔVbがゼロ以下であると判定する場合(S46a:NO)、オフセット量ΔVにオフセット減少量Δ1を加算した値とゼロとのうちの小さい方を、オフセット量ΔVに代入する(S50a)。
【0078】
なお、PU72は、S48a,S50aの処理を完了する場合、図4に示す一連の処理を一旦終了する。
以上説明した本実施形態によれば、さらに以下に記載する作用および効果が得られる。
【0079】
(4-1)PU72は、オフセット処理M24aが出力する車速Vを、操舵反力指令値演算処理M16および目標ピニオン角算出処理M20への入力とした。これにより、車輪速度ωwTが車速Vとされる状態と車輪速度ωwSが車速Vとされる状態との2つのうちの一方から他方への切り替えに起因した目標ピニオン角θp*の急変を抑制できる。さらに、同切替に起因した操舵反力指令値Tr*の急変を抑制できる。
【0080】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1]操作変数算出処理は、目標ピニオン角算出処理M20に対応する。操作変数は、目標ピニオン角θp*に対応する。操作量は、転舵トルク指令値Tt*に対応する。選択処理は、図3のS12~S24の処理、図5のS12,S14a,S16,S18a,S20~S24の処理、および図6のS72~S76の処理に対応する。徐変処理は、図2のオフセット量算出処理M22の一部およびオフセット処理M24と、図7のオフセット量算出処理M22aの一部およびオフセット処理M24aと、に対応する。操作量算出処理は、ピニオン角フィードバック処理M26に対応する。操作処理は、転舵操作処理M28に対応する。[2]変更検知処理は、S32の処理に対応する。[3]角速度取得処理は、S30の処理に対応する。角速度変数は、操舵角速度ωhに対応する。徐変速度は、オフセット減少量Δ1によって定まる減少速度に対応する。[4]車速取得処理は、S30の処理に対応する。徐変速度は、オフセット減少量Δ1によって定まる減少速度に対応する。[5]車速取得処理は、図3のS10の処理に対応する。記憶処理は、S16の処理に対応する。[6]保舵判定処理は、S14の処理に対応する。保舵時処理は、図3のS20の処理に対応する。保舵解除処理は、図3のS24の処理に対応する。[7]境界判定処理は、S14aの処理に対応する。エンド用処理は、図5のS20の処理に対応する。エンド解除処理は、図5のS24の処理に対応する。[8]第1車輪速度は、車輪速度ωwTに対応する。第2車輪速度は、車輪速度ωwSに対応する。選択処理は、S72の処理に対応する。[9]転舵アクチュエータは、転舵アクチュエータAtに対応する。[10]図2の処理に対応する。[11]図7の処理に対応する。
【0081】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0082】
「角速度取得処理について」
・オフセット量Δθp,ΔVの漸減速度を算出する入力となる角速度変数としては、操舵角速度ωhに限らない。たとえば、目標ピニオン角θp*の変化速度であってもよい。またたとえば、ピニオン角θpの変化速度であってもよい。またたとえば、反力操作処理M18が操舵角θhをその目標値にフィードバック制御する処理を含む場合、同目標値の変化速度であってもよい。
【0083】
「車速取得処理について」
・オフセット量Δθp,ΔVの漸減速度を算出する入力となる車速としては、上記実施形態において例示した変数の値に限らない。たとえば、車輪速度ωwa~ωwdの平均値であってもよい。
【0084】
「徐変処理について」
・S42,S44の処理を設けなくてもよい。
・オフセット量Δθp,ΔVの漸減速度を角速度変数の値および車速Vに応じて算出する処理としては、図4および図8に例示した処理に限らない。たとえば、S36~S40の処理に代えて、角速度変数の値および車速Vを入力変数とし、オフセット減少量Δ1を出力変数とするマップデータを用いてオフセット減少量Δ1をマップ演算する処理を含めてもよい。
【0085】
・オフセット量Δθp,ΔVの漸減速度を角速度変数の値および車速に応じて算出することは必須ではない。たとえば、角速度変数の値および車速の2つの変数に関しては、それらのうちのいずれか1つの変数のみに基づき漸減速度を算出してもよい。またたとえば、それら2つの変数に関しては、いずれにも依存することなく漸減速度を算出してもよい。これはたとえば、オフセット量初期値ΔθpbをNで除算した値をオフセット減少量Δ1とすることで実現できる。さらに、漸減速度を固定値としてもよい。
【0086】
「境界判定処理について」
・舵角変数の値の大きさと上限値との差が所定以下の状態である境界状態であるか否かを判定する境界判定処理としては、S14aの処理に限らない。たとえば、操舵角θhの大きさが所定値以上であるか否かを判定する処理であってもよい。すなわち、操舵角θhに応じて目標ピニオン角θp*0が定まることから、操舵角θhに応じてピニオン角θpが定まる。したがって、操舵角θhは、転舵角を示す舵角変数である。
【0087】
「第1車輪速度、第2車輪速度について」
・第1車輪速度、および第2車輪速度としては、車輪速度ωwa~ωwdのうちの2番目に大きい値と3番目に大きい値とに限らない。たとえば、車輪速度ωwa~ωwdのうちの3番目に大きい値と4番目に大きい値とであってもよい。
【0088】
「操作量算出処理について」
・上記実施形態では、ピニオン角フィードバック処理M26が、ピニオン角θpを目標ピニオン角θp*にフィードバック制御するための操作量として転舵トルク指令値Tt*を算出する処理としたが、これに限らない。たとえば、ピニオン角θpの時間変化方向とは逆方向のトルクであるダンピングトルクを算出して、これを転舵トルク指令値Tt*に加える処理を含めてもよい。この処理は、ピニオン角θpの時間変化であるピニオン角速度と、目標ピニオン角θp*の時間変化である目標ピニオン角速度との少なくとも1つをさらに入力とする処理とすればよい。さらに、車速Vを入力に含めることによって、車速Vに応じてダンピングトルクを可変設定してもよい。
【0089】
・ピニオン角フィードバック処理M26に代えて、転舵シャフト40の移動量の検出値を目標値にフィードバック制御する処理を用いてもよい。この場合、上記実施形態に対して、ピニオン角θpに関する制御量等は、転舵シャフト40の移動量に関する制御量等に置き換えられることになる。
【0090】
・操作量算出処理が、ピニオン角θp等、転舵角を示す量をフィードバック制御するための操作量を算出する処理に限らない。たとえば、転舵角を示す量を目標値へと開ループ制御するための操作量を算出する処理であってもよい。またたとえば、開ループ制御のための操作量とフィードバック制御のための操作量との和を算出する処理であってもよい。
【0091】
「操作変数について」
・「操作量算出処理について」の欄に記載したように、転舵シャフト40の移動量をフィードバック制御する場合、移動量の目標値を操作変数とすればよい。
【0092】
「操作変数算出処理について」
・目標ピニオン角算出処理M20を、制御用車速Vcに加えて、ヨーレートセンサの検出値に応じて舵角比を可変設定する処理としてもよい。
【0093】
「操作処理について」
・転舵モータ60の制御手法としては、dq軸の電流フィードバック処理に限らない。たとえば、転舵モータ60として直流モータを採用して且つ、駆動回路をHブリッジ回路とする場合、単に転舵モータ60を流れる電流を制御すればよい。
【0094】
「転舵制御装置について」
・転舵制御装置としては、転舵アクチュエータAtを操作する装置と反力アクチュエータArを操作する装置とが一体となった装置に限らない。たとえば、転舵アクチュエータAtを操作する装置と反力アクチュエータArを操作する装置とを互いに通信可能な各別の筐体に収容された装置としてもよい。
【0095】
・転舵制御装置としては、PU72と記憶装置74とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶する記憶装置等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0096】
「転舵アクチュエータについて」
・転舵アクチュエータAtとして、たとえば、転舵シャフト40の同軸上に転舵モータ60を配置するものを採用してもよい。またたとえば、ボールねじ機構を用いたベルト式減速機を介して転舵シャフト40に連結するものを採用してもよい。
【0097】
「操舵系について」
・操舵角と転舵角との関係を変更可能な操舵系としては、ステアリングホイール12と転舵輪44との動力の伝達が遮断された操舵系に限らない。たとえば、ステアリングホイール12と転舵輪44との動力伝達を可能とするギアを、可変ギアとすることによって、操舵角と転舵角との関係を変更可能な操舵系を構成してもよい。
【符号の説明】
【0098】
10…操舵装置
12…ステアリングホイール
14…ステアリングシャフト
16…減速機構
20…反力モータ
22…反力用インバータ
40…転舵シャフト
42…タイロッド
44…転舵輪
46…車輪
52…ピニオンシャフト
56…減速機構
60…転舵モータ
62…転舵用インバータ
70…転舵ECU
80…トルクセンサ
82,84…回転角センサ
90…制動ECU
100,102,104,106…車輪速度センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8