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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135051
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】スプール式電磁弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/06 20060101AFI20230921BHJP
【FI】
F16K31/06 305M
F16K31/06 305L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040062
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】八十田 徳志
(72)【発明者】
【氏名】古野 貴広
(72)【発明者】
【氏名】河原 寛之
【テーマコード(参考)】
3H106
【Fターム(参考)】
3H106DA08
3H106DA25
3H106DB02
3H106DB13
3H106DB23
3H106DB32
3H106DC09
3H106DD05
3H106EE48
3H106GC01
3H106KK03
(57)【要約】
【課題】作動油の流れる方向を多方向に切り換えることができるスプール式電磁弁を提供する。
【解決手段】本発明にかかるスプール式電磁弁100は、油路に配置されて作動油の流れる方向を切り換えるスプール式電磁弁であって、双方向にステップ送りされるロッド103を含む電磁部101と、複数の出力ポート109A、109B、109C、109Dを配列したスリーブ105と、ロッドに押圧されて移動するスプール107と、スプールの先端端面121に形成され軸方向に延びる供給穴117と、スプールの側面に形成され供給穴に連通する出力穴119と、出力穴の両脇に形成されたランド123、125とを備え、ロッドに押圧されてスプールがステップ送りされることにより、出力穴から複数の出力ポートのいずれかに作動油の流れる方向を切り換えることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油路に配置されて作動油の流れる方向を切り換えるスプール式電磁弁であって、
双方向にステップ送りされるロッドを含む電磁部と、
複数の出力ポートを配列したスリーブと、
前記ロッドに押圧されて移動するスプールと、
前記スプールの先端端面に形成され軸方向に延びる供給穴と、
前記スプールの側面に形成され前記供給穴に連通する出力穴と、
前記出力穴の両脇に形成されたランドとを備え、
前記ロッドに押圧されて前記スプールがステップ送りされることにより、前記出力穴から前記複数の出力ポートのいずれかに作動油の流れる方向を切り換えることを特徴とするスプール式電磁弁。
【請求項2】
前記スリーブには、前記複数の出力ポートよりも前記電磁部に近い側および遠い側にそれぞれドレンポートが配列されていて、
前記スプールは、前記ランドのさらに両脇に外側小径部を有し、
前記出力穴と連通していない前記出力ポートは、前記外側小径部を介して前記ドレンポートと連通することを特徴とする請求項1に記載のスプール式電磁弁。
【請求項3】
前記ランドは、前記出力穴と連通していない出力ポートを塞ぐ軸方向の長さを有していることを特徴とする請求項1に記載のスプール式電磁弁。
【請求項4】
前記電磁部は、
円筒状のコイルと、
前記コイルの内側に配置された可動鉄心と、
前記可動鉄心に挿通され前記スプールに当接する前記ロッドと、
前記コイルが励磁されたときに該可動鉄心と前記ロッドとを係合するロック機構とを備え、
前記ロック機構は、
前記ロッドの外周を転動して楔となる複数の転動体と、
前記可動鉄心に固定され、前記転動体が接触する二つの内向する傾斜面を含んだ係合部材とを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のスプール式電磁弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油路に配置されて作動油の流れる方向を切り換えるスプール式電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
一例として油圧装置は、油路を流れる作動油を媒体として加工母機に動力を伝達する。油路は、タンクの作動油を送り出す油圧ポンプなどを含む油圧源から加工母機まで接続されていて、その途中に作動油の流れる方向を切り換えるスプール式電磁弁が配置されている。なお加工母機は、油圧シリンダや油圧モータなどを含む油圧駆動のアクチュエータである。
【0003】
特許文献1には、スプール位置検出器付き電磁弁を備えた油圧装置が記載されている。この電磁弁は、電磁部と油圧部とを備える。電磁部は、電磁コイルと、可動鉄心と、ロッドと、固定鉄心とを有する。油圧部は、スプールと本体(スリーブ)を有する。
【0004】
可動鉄心は、電磁コイルの励磁により本体に対して移動する。ロッドは、可動鉄心に一体的に固定されている。スプールは、ロッドに当接しロッドに押圧されて移動することにより、作動油の流れを制御する。またスプールの端部付近には、スプールを電磁部に向かって付勢するスプリングが設けられている。本体には、1つの供給ポートと、供給ポートの両脇に配置された一対の出力ポートとが配置されている。また一対の出力ポートは、スプールの一対のランドによってそれぞれ開閉される。
【0005】
この電磁弁では、通電時には電磁コイルが励磁されることで生じる吸引力によって、可動鉄心が固定鉄心に吸引されて、スプリングの付勢力に抗して油圧部に向かって移動する。そしてスプールは、可動鉄心に一体的に固定されたロッドに押圧されて移動し、一方のランドが一方の出力ポートからずれることにより出力ポートが開かれて供給ポートと連通する。このとき他方の出力ポートは、他方のランドによって閉じられている。
【0006】
一方、電磁弁は、非通電時にはスプリングの付勢力によってスプールが電磁部に向かって押されて、他方の出力ポートが開かれて供給ポートと連通する。このとき一方の出力ポートは、一方のランドによって閉じられている。このように引用文献1の電磁弁では、通電時、非通電時で作動油の流れる方向を2方向に切り換えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-183784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし特許文献1に記載の電磁弁では、通電時、非通電時で作動油の流れる方向を3方向以上の多方向に切り換えることができない、という問題があった。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑み、作動油の流れる方向を多方向に切り換えることができるスプール式電磁弁を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明にかかるスプール式電磁弁の代表的な構成は、油路に配置されて作動油の流れる方向を切り換えるスプール式電磁弁であって、双方向にステップ送りされるロッドを含む電磁部と、複数の出力ポートを配列したスリーブと、ロッドに押圧されて移動するスプールと、スプールの先端端面に形成され軸方向に延びる供給穴と、スプールの側面に形成され供給穴に連通する出力穴と、出力穴の両脇に形成されたランドとを備え、ロッドに押圧されてスプールがステップ送りされることにより、出力穴から複数の出力ポートのいずれかに作動油の流れる方向を切り換えることを特徴とする。
【0011】
上記構成では、電磁部のロッドが双方向にステップ送りされることで、スプールは、ロッドに押圧されて移動してステップ送りされる。そして、スリーブに配列された複数の出力ポートの位置とスプールの出力穴の位置を合わせる(厳密には、出力ポートがランドの間の溝(小径部分)に位置するようにスプールを移動させる)ことにより、スプールの供給穴に連通する出力穴からスリーブの複数の出力ポートのいずれかに作動油の流れる方向を切り換えることができる。特に、スリーブに出力ポートを3つ以上配列することにより、作動油の流れる方向を3方向以上の多方向に切り換えることができる。なお、出力ポートのピッチ(間隔)とスプールの送りのピッチ(1回の動作で送るストローク)を合わせることにより、動作の制御を簡潔かつ迅速に行うことが可能である。
【0012】
上記のスリーブには、複数の出力ポートよりも電磁部に近い側および遠い側にそれぞれドレンポートが配列されていて、スプールは、ランドのさらに両脇に外側小径部を有し、出力穴と連通していない出力ポートは、外側小径部を介してドレンポートと連通するとよい。
【0013】
これにより、スプールをステップ送りして、スプールの出力穴と複数の出力ポートのいずれか1つが連通したとき、出力穴と連通していない残りの出力ポートは、スプールの外側小径部を通ってドレンポートと連通することになる。このため、油圧駆動のアクチュエータから残りの出力ポートに作動油が戻されたとしても、ドレンポートからタンクに作動油が戻されて、背圧が立たないように大気圧とすることができる。
【0014】
上記のランドは、出力穴と連通していない出力ポートを塞ぐ軸方向の長さを有しているとよい。
【0015】
これにより、スプールをステップ送りして、スプールの出力穴と複数の出力ポートのいずれか1つが連通したとき、出力穴と連通していない残りの出力ポートを、ランドによって塞ぐことができるため、背圧を維持することもできる。なおランドの外径も、出力穴と連通していない出力ポートを塞ぐことができるように適宜設定されている。
【0016】
上記の電磁部は、円筒状のコイルと、コイルの内側に配置された可動鉄心と、可動鉄心に挿通されスプールに当接するロッドと、コイルが励磁されたときに可動鉄心とロッドとを係合するロック機構とを備え、ロック機構は、ロッドの外周を転動して楔となる複数の転動体と、可動鉄心に固定され、転動体が接触する二つの内向する傾斜面を含んだ係合部材とを含むとよい。
【0017】
上記構成では、コイルの励磁時、非励磁時の可動鉄心の動きに合わせて、ロック機構の転動体が係合部材に当接してロッドとの間に挟まることで楔として機能して、可動鉄心とロッドを係合させる。このようなロック機構によって、可動鉄心の動きに合わせて可動鉄心とロッドとの係合と解除を繰り返し、ロッドを少しずつ繰り出すことで大きな移動距離を得る、いわゆるステップ送りを行うことができる。したがって上記構成によれば、電磁部のロッドに当接するスプールを、ステップ送りすることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、作動油の流れる方向を多方向に切り換えることができるスプール式電磁弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態におけるスプール式電磁弁の全体構成図である。
図2図1の電磁部のロック機構について説明する図である。
図3】ロック機構の動作を説明する図である。
図4】ロック機構の動作を説明する図である。
図5図1のスプール式電磁弁の各動作を説明する図である。
図6図1のスプール式電磁弁の変形例の要部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態におけるスプール式電磁弁100の全体構成図である。スプール式電磁弁100は、不図示の油路に配置されて作動油の流れる方向を切り換える電磁弁である。油路は、タンクの作動油を送り出す油圧ポンプなどを含む油圧源から加工母機まで接続されていて、その途中にスプール式電磁弁100が配置される。なお加工母機は、油圧シリンダや油圧モータなどを含む油圧駆動のアクチュエータである。
【0022】
スプール式電磁弁100は、電磁部101を備える。電磁部101は、ロッド103を含み、ロッド103を少しずつ繰り出すことで大きな移動距離を得る、いわゆるステップ送りを可能とする構成を有する(後述)。
【0023】
スプール式電磁弁100はさらに、ほぼ筒状のスリーブ105と、スリーブ105の内側に摺動可能に支持されたスプール107とを備える。スリーブ105は、作動油を出力する複数の出力ポート109A、109B、109C、109Dと、タンクに作動油を戻すドレンポート111T、113Tとを有する。これらの各ポートは、スリーブ105の側面131に配列されている。また、スリーブ105の先端端面133には、作動油が供給される供給ポート115が位置している。
【0024】
スプール107は、電磁部101によってステップ送りされるロッド103とともに移動する。スプール107は、供給穴117と、出力穴119とを有する。供給穴117は、スプール107の先端端面121に形成され軸方向に延びる止まり穴である。出力穴119は、スプール107の側面に形成されていて供給穴117に連通している。
【0025】
またスプール107は、複数の異径の段差であるランド123、125と外側小径部127、129とを有し、これらの段差によって、スリーブ105の出力ポート109A、109B、109C、109Dを開閉する。またドレンポート111T、113Tは、出力ポート109Aよりも電磁部101に対し軸方向に近い側、出力ポート109Dよりも電磁部101に対し軸方向に遠い側にそれぞれ配列されている。
【0026】
ランド123、125は、出力穴119の両脇に形成されている。ランド123、125の間には、出力穴119に通じる小径部分としての溝135が形成されている。また外側小径部127、129は、ランド123、125のさらに両脇に形成されている。
【0027】
スプール式電磁弁100はさらに、スプリング137を備える。スプリング137は、スリーブ105の内側に収容されていて、図示のように供給ポート115が形成された内壁139に当接した状態で、スプール107の外側大径部141を電磁部101に向かって押し付けている。このように、スプール107は、スプリング137によって電磁部101に向かって付勢されることにより、電磁部101側の端面143がロッド103に当接した状態となる。
【0028】
以下、電磁部101について説明する。図中では、2つの電磁部(第1電磁部106a、第2電磁部106b)が両方非励磁の状態を示している。本実施形態にかかる電磁部101には左右の区別はなく、以下に「左右」の言葉を用いて説明するときは単にロッド103の長手方向に沿った左右である。
【0029】
電磁部101は、第1電磁部106aおよび第2電磁部106bを利用して、ロッド103を双方向に能動的に移動させることが可能になっている。詳しくは、電磁部101は、ハウジング102の内部の中央に固定鉄心104が配置されていて、固定鉄心104の左右にそれぞれ第1電磁部106aおよび第2電磁部106bが配置されている。このとき、中央の固定鉄心104は電磁部106a、106bで共有している。電磁部106a、106bは対向して配置されていて、後述する可動鉄心210やロック機構300a、300bの配置や動作方向も逆向きになっている。
【0030】
第1電磁部106aおよび第2電磁部106bは同じ構造をしているため、代表して第1電磁部106aの構造について説明する。なお、以下の電磁部101に関する説明において各要素を左右で呼び分ける必要がある場合には、第1電磁部106a側の部材については符号にaの枝番を付し、第2電磁部106b側の部材については符号にbの枝番を付す。
【0031】
第1電磁部106aは、主な要素として、ハウジング102の内側にてロッド103を巻回するように配置された円筒状のコイル200と、コイル200の内側に配置された可動鉄心210とを備えている。可動鉄心210は、円筒状の磁性体であって、内側にロッド103が挿通されている。可動鉄心210は、コイル200が励磁されると磁束が通り、ロッド103と共に中央の固定鉄心104側に吸引されるように移動する。
【0032】
中央の固定鉄心104の内部には、可動鉄心210を初期位置へと付勢するリターンスプリング212が配置されている。上記コイル200が励磁されたとき、可動鉄心210はリターンスプリング212の付勢力に抗して固定鉄心104側に移動する。そして、コイル200が非励磁となると、可動鉄心210はリターンスプリング212によって初期位置へと押し戻され、ストッパ214に当接する。ストッパ214の裏側には永久磁石204が配置されていて、磁力によって初期位置の可動鉄心210をストッパ214に密着させた状態に保持することが可能になっている。
【0033】
ロッド103は、長手方向の中央に、固定鉄心104の狭隘部108を通過可能な小径部12が設けられている。小径部12以外の範囲は、狭隘部108を通過不能な太さの大径部14a、14bになっている。そして、これら小径部12と大径部14a、14bの段差の部分が、ロッド103のストローク範囲を規制する衝止部16a、16bとなっている。衝止部16a、16bが固定鉄心104の狭隘部108に干渉したとき、ロッド103は片側に突出してそれ以上移動することのできない状態、いわゆるストローク端の状態となる。
【0034】
図2は、図1の電磁部101のロック機構300aについて説明する図である。上述した可動鉄心210とロッド103との間には、ロック機構300aが備えられている。ロック機構300aは、コイル200が励磁されたときに可動鉄心210とロッド103とを係合する機構であり、ロッド103の上を転動して楔となる2以上の転動体302(ローラ)と、転動体302の姿勢を保持する保持器304と、可動鉄心210に固定された係合部材310とを備えている。
【0035】
係合部材310は、可動鉄心210の内側にはめ込まれたリング状の部材であり、内面に転動体302を収容するくぼみが形成されている。このくぼみは、二つの内向する傾斜面を備えている。二つの内向する傾斜面のうち、可動鉄心210の初期位置側(移動元側)を元側傾斜面314、可動鉄心210が励磁されて移動する側(移動先側)を先側傾斜面312と称する。転動体302は、先側傾斜面312または元側傾斜面314に当接してロッド103との間に挟まることによって楔として機能し、可動鉄心210とロッド103を係合させる。
【0036】
可動鉄心210内には、保持器304を介して転動体302を元側傾斜面314に付勢する内部弾性体216が備えられている。また可動鉄心210の外には、コイル200が非励磁であって可動鉄心210が初期位置にあるときに転動体302を先側傾斜面312に付勢する外部弾性体218が備えられている。一例として、内部弾性体216および外部弾性体218は、共にコイルスプリングで構成することができる。外部弾性体218は必要なストロークが短いため、例えば内部弾性体216よりも短い寸法に設定することができる。
【0037】
外部弾性体218の付勢力は、内部弾性体216よりも大きく設定されている。この構成によって、可動鉄心210がストッパ214に接触した初期位置にいるとき、転動体302は外部弾性体218によって係合部材310の先側傾斜面312とロッド103とに押し付けられる。これにより、ロッド103が第2電磁部106bに向かって移動しようとしたときにロックし、ロッド103の移動を規制することができる。
【0038】
図2中の白矢印は、ロック機構300aに対してロッド103が相対的に移動可能であることを示していて、白矢印にバツがついている方向は相対的に移動不可能であることを示している。上記の通り、ロック機構300aは、コイル200が非励磁で可動鉄心210が初期位置にいるとき、ロッド103が第2電磁部106bに向かって移動する方向に係合する(規制する)ワンウェイクラッチとして機能する。すなわちロック機構300a、300bは、他方の電磁部の可動鉄心210が初期位置に戻ろうとするときには、ロッド103が戻らないようにロックする。特に、外部弾性体218が転動体302を先側傾斜面312に付勢することから、ロック機構300aは可動鉄心210とロッド103とをより確実に係合することが可能になっている。
【0039】
図1に示したように、第1電磁部106aと第2電磁部106bは対向して配置されていることから、ロック機構300a、300bは非励磁のときにはいずれも内側方向(相手方の電磁部に向かう方向)へのロッド103の移動を規制する。したがって、当該電磁部101は、電力や制御を必要とすることなく、何もしていないときはロッド103の移動をロックすることが可能になっている。
【0040】
図3および図4は、ロック機構300aの動作を説明する図である。図3(a)は、ロッド103が第1電磁部106a側にストローク端(初期位置)になった状態を示している。このとき、ストローク端のロッド103に外力が作用し、ロッド103が第2電磁部106b側に押し戻されそうになると、上述したロック機構300aが作用し、ロッド103の移動が規制される。
【0041】
図3(b)は、ロック機構300aの拡大図である。可動鉄心210が初期位置にあるとき、上記したようにロック機構300aはロッド103が第2電磁部106bに向かって移動する方向には係合する。すなわち、白矢印の大きさで示すように、外部弾性体218による付勢力のほうが内部弾性体216の付勢力よりも大きいため、上記初期位置では転動体302が先側傾斜面312に押し付けられていて、ロッド103を第2電磁部106b側に送ろうとすると可動鉄心210とロッド103が係合する。反対に、転動体302は、ロッド103が第2電磁部106bから第1電磁部106aに向かって移動してくる方向には係合しない。
【0042】
しかしながら図3(c)に示すように、コイル200が励磁されて可動鉄心210が図中右側に若干移動すると、外部弾性体218のストロークが届かなくなるためその付勢力が弱まり、内部弾性体216から受ける付勢力が相対的に大きくなる。すると内部弾性体216が保持器304を介して転動体302を元側傾斜面314に付勢する。したがってロック機構300aはロッド103と係合し、可動鉄心210と共にロッド103が移動する。
【0043】
すなわち、当該電磁部101では、可動鉄心210の位置によって、ロック機構300aの係合方向を切り替えることが可能になっている。このときの切り替わる位置は、内部弾性体216と外部弾性体218の付勢力が拮抗する位置である。これによって、当該電磁部101は、より簡潔な構成でロッド103の移動規制を達成していて、全体構成の小型化と低廉化を図ることが可能になっている。
【0044】
そして、図4(a)に示すように、コイル200を励磁させて可動鉄心210を移動させると、第1電磁部106aのロック機構300aはロッド103と係合する一方(実線の白矢印にバツをつけて示している)、第2電磁部106bのロック機構300bはロッド103と係合しない(破線の白矢印にバツをつけて示している)。これにより、可動鉄心210が第2電磁部106bに向かって移動するにしたがってロッド103を送ることができる。
【0045】
図4(b)に示すようにコイル200を非励磁とすると、第1電磁部106aの可動鉄心210の初期位置への戻り方向に対して、ロック機構300aはロッド103と係合しない(破線の白矢印にバツをつけて示している)。一方、第2電磁部106bのロック機構300bは、コイル200が非励磁であって可動鉄心210が初期位置にあるため、第1電磁部106aの可動鉄心210が戻る方向にロッド103と係合する(実線の白矢印にバツをつけて示している)。これによって、可動鉄心210は、ロッド103を送った位置に残したまま、初期位置まで戻ることができる。したがって第1電磁部106aのコイル200の励磁と非励磁を繰り返すことによって、ロッド103を図示右方向に徐々に送る、ステップ送りをすることが可能となる。
【0046】
当該電磁部101の重要な動作として、対向配置された2つの電磁部106a、106bのうち、励磁/非励磁を繰り返した方はロッド103を送り出し、非励磁を維持した方はロッド103の戻りを規制する。これによって、双方向に能動的にロッド103を移動させることが可能となっている。したがって、スプール式電磁弁100では、電磁部101のロッド103が双方向にステップ送りされることで、ロッド103に当接するスプール107を、ロッド103とともに移動させてステップ送りすることが可能となる。また当該電磁部101であれば、従来のアクチュエータにあったロッド103が初期位置まで一度に戻る動作が生じないため、衝撃緩和の構成が必要なく、ロッド103のストロークに応じてサイズアップすることもなく、全体構成の小型化と低廉化を図ることができる。
【0047】
図5は、図1のスプール式電磁弁100の各動作を説明する図である。スプール式電磁弁100では、図5(a)に示す電磁部101の電磁部106a、106bのうち、励磁/非励磁を繰り返した電磁弁106bがロック機構300bによりロッド103との係合と解除を繰り返し、ロッド103を図中左方向に送り出す。また、非励磁を維持した電磁部106aは、ロック機構300aによりロッド103との係合と解除を繰り返し、係合時にロッド103の戻りを規制する。
【0048】
これにより、スプール式電磁弁100では、図5(a)に示すようにロッド103を図中左方向に徐々に送る、ステップ送りが可能となる。またスプール107は、スプリング137によって電磁部101に向かって付勢されている。このため、スプール107は、その端面143がステップ送りされたロッド103に当接した状態で図中左側に移動する。
【0049】
ここでスプール式電磁弁100では、各出力ポート109A、109B、109C、109Dのピッチ(間隔)とスプール107の送りのピッチ(1回の動作で送るストローク)が合わせられている。一例として図5(a)では、ロッド103に当接したスプール107の移動によって、スリーブ105に配列された出力ポート109Aがスプール107のランド123、125の間の溝135に位置している。
【0050】
これにより、スプール式電磁弁100では、図5(a)に示すように、供給ポート115から供給された作動油がスプール107の供給穴117から出力穴119を通って、さらにスリーブ105の出力ポート109Aから出力される。
【0051】
一方、出力穴119と連通していない残りの出力ポート109B、109C、109Dは、スプール107の外側小径部129を通ってドレンポート113Tと連通する。このため、スプール式電磁弁100では、油圧駆動のアクチュエータから残りの出力ポート109B、109C、109Dに作動油が戻されたとしても、ドレンポート113Tからタンクに作動油が戻されて、背圧が立たないように大気圧とすることができる。
【0052】
図5(b)に示すスプール式電磁弁100では、図5(a)に示す状態から励磁/非励磁を繰り返した電磁弁106aがロック機構300aによりロッド103との係合と解除を繰り返し、ロッド103を図中右方向に1ピッチだけ送り出す。また、非励磁を維持した電磁部106bは、ロック機構300bによりロッド103との係合と解除を繰り返し、ロッド103の戻りを規制する。
【0053】
これにより、スプール式電磁弁100では、ロッド103を図5(a)に示す状態から図中右方向に1ピッチだけ送り出すことが可能となる。このため、スプール107は、ステップ送りされたロッド103に当接した状態でロッド103に押圧されて、スプリング137の付勢力に抗して図中右側に移動する。このスプール107の移動によって、スリーブ105に配列された出力ポート109Bがスプール107のランド123、125の間の溝135に位置する。
【0054】
これにより、スプール式電磁弁100では、図5(b)に示すように、供給ポート115から供給された作動油がスプール107の供給穴117から出力穴119を通って、さらにスリーブ105の出力ポート109Bから出力される。
【0055】
一方、出力穴119と連通していない出力ポート109Aは、スプール107の外側小径部127を通ってドレンポート111Tと連通する。さらに、出力穴119と連通していない出力ポート109C、109Dは、スプール107の外側小径部129を通ってドレンポート113Tと連通する。このため、スプール式電磁弁100では、油圧駆動のアクチュエータから残りの出力ポート109A、109C、109Dに作動油が戻されたとしても、ドレンポート111T、113Tからタンクに作動油が戻されて、背圧が立たないように大気圧とすることができる。
【0056】
図5(c)に示すスプール式電磁弁100では、図5(b)に示す状態から励磁/非励磁を繰り返した電磁弁106aのロック機構300aによってロッド103を図中右方向にさらに1ピッチだけ送り出している。また、非励磁を維持した電磁部106bは、ロック機構300bによってロッド103の戻りを規制する。
【0057】
これにより、スプール式電磁弁100では、ロッド103を図5(b)に示す状態から図中右方向に1ピッチだけ送り出すことが可能となる。このため、スプール107は、ロッド103に当接した状態でロッド103に押圧されて、スプリング137の付勢力に抗して図中右側に1ピッチだけ移動する。このスプール107の移動によって、スリーブ105に配列された出力ポート109Cがスプール107のランド123、125の間の溝135に位置する。
【0058】
これにより、スプール式電磁弁100では、図5(c)に示すように、供給ポート115から供給された作動油がスプール107の供給穴117から出力穴119を通って、さらにスリーブ105の出力ポート109Cから出力される。
【0059】
一方、出力穴119と連通していない出力ポート109A、109Bは、スプール107の外側小径部127を通ってドレンポート111Tと連通する。さらに、出力穴119と連通していない出力ポート109Dは、スプール107の外側小径部129を通ってドレンポート113Tと連通する。このため、スプール式電磁弁100では、油圧駆動のアクチュエータから残りの出力ポート109A、109B、109Dに作動油が戻されたとしても、ドレンポート111T、113Tからタンクに作動油が戻されて、背圧が立たないように大気圧とすることができる。
【0060】
なお図示は省略するが、ロッド103を図5(c)に示す状態から図中右方向にさらに1ピッチだけ送り出すと、スプール107も図中右側に1ピッチだけ移動する。このスプール107の移動によって、スリーブ105に配列された出力ポート109Dは、スプール107のランド123、125の間の溝135に位置する。そして、スプール式電磁弁100では、供給ポート115から供給された作動油がスプール107の供給穴117から出力穴119を通って、さらにスリーブ105の出力ポート109Dから出力される。
【0061】
一方、出力穴119と連通していない残りの出力ポート109A、109B、109Cは、スプール107の外側小径部127を通ってドレンポート111Tと連通する。このため、スプール式電磁弁100では、油圧駆動のアクチュエータから残りの出力ポート109A、109B、109Cに作動油が戻されたとしても、ドレンポート111Tからタンクに作動油が戻されて、背圧が立たないように大気圧とすることができる。
【0062】
したがってスプール式電磁弁100では、スプール107の供給穴117に連通する出力穴119からスリーブ105の複数(ここでは4つ)の出力ポート109A、109B、109C、109Dのいずれかに作動油の流れる方向を切り換えることができる。特に、スリーブ105に出力ポートを3つ以上配列することにより、作動油の流れる方向を3方向以上の多方向に切り換えることができる。また、スプール式電磁弁100では、各出力ポート109A、109B、109C、109Dのピッチとスプール107の送りのピッチを合わせているため、動作の制御を簡潔かつ迅速に行うことが可能である。
【0063】
図6は、図1のスプール式電磁弁100の変形例の要部を示す図である。図6(a)に示す変形例のスプール式電磁弁100Aは、スリーブ105Aに出力ポート109A、109B、109C、109Dに加え、出力ポート109E、109F~109Zを追加して配列した点で、上記のスプール式電磁弁100と異なる。
【0064】
ドレンポート113Tは、出力ポート109Zよりも電磁部101に遠い側に配置されている。またスプリング137は、図示のように内壁139に当接した状態で、スプール107の外側大径部141Aを電磁部101に向かって押し付けている。
【0065】
スプール式電磁弁100Aでは、図6(a)に示すように、供給ポート115から供給された作動油がスプール107Aの供給穴117から出力穴119を通って、さらにスリーブ105Aの出力ポート109Bから出力される状態になっている。
【0066】
一方、出力穴119と連通していない出力ポート109Aは、スプール107の外側小径部127を通ってドレンポート111Tと連通する。さらに、出力穴119と連通していない出力ポート109C~109Zは、スプール107の外側小径部129Aを通ってドレンポート113Tと連通する。このため、スプール式電磁弁100Aでは、油圧駆動のアクチュエータから残りの出力ポート109A、109C~109Zに作動油が戻されたとしても、ドレンポート111T、113Tからタンクに作動油が戻されて、背圧が立たないように大気圧とすることができる。
【0067】
したがってスプール式電磁弁100Aでは、ステップ送りされたロッド103に当接したスプール107Aが移動することにより、供給穴117に連通する出力穴119からスリーブ105の複数の出力ポート109A~109Zのいずれかに作動油の流れる方向を切り換えることができる。なお出力ポートの数は、電磁部101によってロッド103がステップ送りされる数に合わせて適宜設定することができる。
【0068】
図6(b)に示す変形例のスプール式電磁弁100Bは、上記のランド123、125よりもスプール107Bの軸方向に長いランド123A、125Aを有する(外側小径部127、129を有していない)点で、上記のスプール式電磁弁100と異なる。またスプリング137は、図示のように内壁139に当接した状態で、ランド125Aの端面145を電磁部101に向かって押し付けている。
【0069】
スプール式電磁弁100Bでは、図6(b)に示すように、供給ポート115から供給された作動油がスプール107Bの供給穴117から出力穴119を通って、さらにスリーブ105の出力ポート109Bから出力される状態になっている。
【0070】
一方、出力穴119と連通していない出力ポート109Aは、スプール107Bのランド123Aで塞がれてドレンポート111Tと連通していない。さらに出力穴119と連通していない出力ポート109C、109Dは、スプール107Bのランド125Aで塞がれてドレンポート113Tと連通していない。すなわちランド123A、125Aは、出力穴119と連通していない各出力ポート109A、109C、109Dを塞ぐ軸方向の長さを有している。なおランド123A、125Aの外径も、出力穴119と連通していない各出力ポート109A、109C、109Dを塞ぐことができるように適宜設定されている。
【0071】
したがってスプール式電磁弁100Bでは、スプール107Bをステップ送りして、スプール107Bの出力穴119と複数の出力ポート109A、109B、109C、109Dのいずれか1つが連通したとき、出力穴119と連通していない残りの出力ポートを、ランド123A、125Aによって塞ぐことができるため、背圧を維持することもできる。
【0072】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、油路に配置されて作動油の流れる方向を切り換えるスプール式電磁弁として利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
12…小径部、14a、14b…大径部、16a、16b…衝止部、100、100A、100B…スプール式電磁弁、101…電磁部、102…ハウジング、103…ロッド、104…固定鉄心、105、105A…スリーブ、106a…第1電磁部、106b…第2電磁部、107、107A、107B…スプール、108…狭隘部、109A、109B、109C、109D、109E、109F、109Z…出力ポート、111T、113T…ドレンポート、115…供給ポート、117…供給穴、119…出力穴、121…スプールの先端端面、123、123A、125、125A…ランド、127、129、129A…外側小径部、131…スリーブの側面、133…スリーブの先端端面、135…溝、137…スプリング、139…内壁、141、141A…外側大径部、143…スプールの端面、145…ランドの端面、200…コイル、204…永久磁石、210…可動鉄心、212…リターンスプリング、214…ストッパ、216…内部弾性体、218…外部弾性体、300a、300b…ロック機構、302…転動体、304…保持器、310…係合部材、312…先側傾斜面、314…元側傾斜面
図1
図2
図3
図4
図5
図6