(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135055
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】電源切替装置、電源切替方法、電源システム、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20230921BHJP
【FI】
H02M3/155 H
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040067
(22)【出願日】2022-03-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000227205
【氏名又は名称】NECプラットフォームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(72)【発明者】
【氏名】小澤 亮太
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA14
5H730AS05
5H730BB13
5H730BB57
5H730BB98
5H730CC12
5H730DD04
5H730EE13
5H730EE58
5H730EE59
5H730FD01
5H730FD28
5H730FG05
5H730FG12
(57)【要約】
【課題】同期整流型の降圧スイッチングレギュレータを用いた電源システムにおいて、低負荷時に主入力電源からスタンドバイ入力電源に切り替えることで電源効率を改善する。
【解決手段】電源切替装置は、複数の電源電圧を切り替える電源切替部と、負荷に電力を供給する電源部を構成するスイッチングレギュレータのインダクタンス降下電圧に応じて電源切替部の切替制御を行う制御部と、を具備する。電源切替装置は、主入力電源電圧が電源部に供給されている状態で、インダクタンス降下電圧が予め定められた閾値以下になると、主入力電源電圧より低いスタンドバイ入力電源電圧に切り替える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電源電圧を切り替える電源切替部と、
負荷に電力を供給する電源部を構成するスイッチングレギュレータのインダクタンス降下電圧に応じて前記電源切替部の切替制御を行う制御部と、
を具備し、前記複数の電源電圧のうち第一の電源電圧が前記電源部に供給されている状態で、前記インダクタンス降下電圧が予め定められた第一の閾値以下になると、前記制御部は、前記第一の電源電圧より低い第二の電源電圧に切り替えるよう前記電源切替部を制御する、電源切替装置。
【請求項2】
前記第二の電源電圧が前記電源部を介して前記負荷に供給されている状態で、前記インダクタンス降下電圧が前記第一の閾値より小さい第二の閾値以上になると、前記制御部は、前記第二の電源電圧を前記第一の電源電圧に切り替えるよう前記電源切替部を制御する、請求項1に記載の電源切替装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電源部を構成する前記スイッチングレギュレータのインダクタンスの入力電圧と出力電圧を検知し、前記インダクタンスの前記入力電圧と前記出力電圧との差分を前記インダクタンス降下電圧として計算する、請求項1または請求項2に記載の電源切替装置。
【請求項4】
前記電源切替部は、前記第一の電源電圧の切り換えを行う第一のスイッチと、前記第二の電源電圧の切り換えを行う第二のスイッチより構成され、前記制御部は、前記第一のスイッチまたは前記第二のスイッチを択一的に導通させる、請求項1または請求項2に記載の電源切替装置。
【請求項5】
負荷に電力を供給する電源部を構成するスイッチングレギュレータのインダクタンス降下電圧を計算し、
前記インダクタンス降下電圧と予め定められた閾値を比較し、
第一の電源電圧が前記電源部へ供給されている状態において、前記インダクタンス降下電圧が前記閾値を上回っている場合には前記第一の電源電圧を継続して前記電源部へ供給し、
前記インダクタンス降下電圧が前記閾値以下になると、前記第一の電源電圧より低い第二の電源電圧に切り替えて前記電源部へ供給する、電源切替方法。
【請求項6】
複数の電源電圧を切り替える電源切替部と、
前記電源切替部により切り替えられた電源電圧を降下して負荷に供給するスイッチングレギュレータよりなる電源部と、
前記スイッチングレギュレータのインダクタンス降下電圧に応じて前記電源切替部の切替制御を行う電源切替制御部と、
を具備し、前記複数の電源電圧のうち第一の電源電圧が前記電源部に供給されている状態で、前記インダクタンス降下電圧が予め定められた閾値以下になると、前記電源切替制御部は、前記第一の電源電圧より低い第二の電源電圧に切り替えるよう前記電源切替部を制御する、電源システム。
【請求項7】
電源切替装置のコンピュータに、
負荷に電力を供給する電源部を構成するスイッチングレギュレータのインダクタンス降下電圧を計算させ、
前記インダクタンス降下電圧と予め定められた閾値を比較させ、
第一の電源電圧が前記電源部へ供給されている状態において、前記インダクタンス降下電圧が前記閾値を上回っている場合、前記第一の電源電圧を継続して前記電源部へ供給させ、
前記インダクタンス降下電圧が前記閾値以下になると、前記第一の電源電圧より低い第二の電源電圧に切り替えて前記電源部へ供給させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電源を切り替える電源切替装置、電源切替方法、電源システム、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のデジタル化の進展に伴い、複数の電源を切り替える電源システムが開発されており、コンピュータ、スマートフォン、デジタル家電、自動車の電子制御システム、IoT(Internet of Things)、クラウドコンピューティング、エッジコンピューティング、AI(Artificial Intelligence)などに活用されている。例えば、直流電圧を変換するDC/DCコンバータやスイッチングレギュレータを用いた電源回路が開発されており、インダクタ、キャパシタ、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)を用いたスイッチング素子からなる同期整流型の降圧スイッチングレギュレータが知られている。電源電圧の安定化や電力効率の向上を図った電源回路技術として、特許文献1乃至特許文献5が挙げられる。
【0003】
特許文献1は、電流モード同期整流降圧型のDC/DCコンバータを開示しており、スイッチング素子のオン/オフ制御を行う駆動回路と、矩形波信号を生成する発振器と、スイッチング素子に流れる電流を検出する出力電流検出部を備える。発振器は、出力検出電流が所定値以上のときには固定の発振周波数で矩形波信号を生成し、出力検出電流が所定値以下のときには低い発振周波数で矩形波信号を生成することにより、電源効率の向上を図っている。特許文献2は、負荷に電力を供給するリニアレギュレータと降下型のスイッチングレギュレータを備える電源システムにおいて、電源の出力電圧と負荷電流に基づいてリニアレギュレータおよびスイッチングレギュレータの何れかから負荷に電力を供給することにより、省電力化を図っている。特許文献3は、複数の直流電源ユニットを選択可能に搭載した情報処理装置を開示しており、各直流電源ユニットの稼働状態を制御する管理用プロセッサは各直流電源ユニットの出力電圧に基づく消費電力を算出し、消費電力に応じて何れの直流電源ユニットを稼働するか選択する。特許文献4は、パルス周波数変調(PFM)制御とパルス幅変調(PWM)制御を切り替えるスイッチング制御回路を開示しており、軽負荷時にはPFM制御動作を行い、重負荷時にはPWM制御動作を行う。特許文献5は、軽負荷時にインダクタに流れる逆流を阻止して電力効率の良好な同期整流型スイッチングレギュレータを開示しており、同期整流型スイッチングレギュレータを複数の並列トランジスタで構成して、軽負荷時には一部のトランジスタを動作させないよう制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-82609号公報
【特許文献2】特開2016-25748号公報
【特許文献3】特開2015-148914号公報
【特許文献4】特開2014-50308号公報
【特許文献5】特開2006-211760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
同期整流型スイッチングレギュレータにより電源電圧を降圧する場合、低負荷時にはインダクタ電流が逆流するため損失が発生し、負荷への供給電力が小さいため電源効率が大きく低下する。業務用の情報処理システムでは、就業中と終業後ではシステムの負荷が大きく異なる。就業中では、情報処理システムを利用しているため、システムの負荷が大きく、情報処理システムに搭載される電源の負荷が大きく、供給電力も大きい。一方、終業後では、情報処理システムに搭載される複数のディスプレイの電源を落とすことになるが、情報処理システムの電源を落とさない状態や、情報処理システムの電源を落としているが情報処理装置を電源供給用のコンセントから抜かずに制御部や発光ダイオード(LED)への給電を継続している状態がある。このような状態では、動作している電源の負荷は小さく、供給電力も小さいため、低負荷時の電源効率が低くなる。換言すれば、終業後のようなスタンドバイ状態において、情報処理システムに実際に必要は電力に比較して消費電力が多くなり、電源電圧が電源回路内で発生する熱などの無駄なエネルギーに変換されて消費されることになる。昨今、地球温暖化防止の観点から電子デバイスの省エネ化が求められており、更なる省エネ化を実現する製品の開発が求められている。
【0006】
同期整流型スイッチングレギュレータの低負荷時の電源効率改善方式として、低負荷時に電源を不連続モードに切り替える方式が挙げられる。この方式では、インダクタ電流がゼロ付近となり、インダクタ電流が逆流する寸前でスイッチングレギュレータの低負荷側のスイッチをオフにすることで、インダクタ電流の逆流を防止している。しかし、不連続モードでは、スイッチング電圧にリンギングが発生するため高調波ノイズを放出してしまう。高調波ノイズの発生により電源だけでなく周辺回路へも影響を及ぼし、誤動作の原因となる。また、低負荷時の電源効率改善方式として、不連続モードの導入以外にも、低負荷時にPFM制御方式を導入することが挙げられる。一般的なスイッチングレギュレータの制御方法として、スイッチのオン/オフを一定の周期で行うPWM制御方式が挙げられるが、PFM制御方式では、スイッチング周波数を低下させることで単位時間当りのスイッチング回数を減少させることができる。PFM制御方式は、インダクタの逆流電流を防止できる訳ではないが、スイッチング回数が減ることで損失が発生する回数を減少させることができるため、電源効率を改善することができる。しかし、PFM制御方式ではスイッチング周波数が減少するため、リップル電圧が大きくなってしまうという問題点がある。通常、情報処理システムの負荷となる電力供給先としてLSI回路が挙げられるが、LSI回路への給電には高い電圧精度が求められるため、PFM制御方式で発生するリップル電圧を許容できない。このため、電源効率を改善する手法として、PWM制御方式に代えてPFM制御方式を採用することはできない。
【0007】
上述のように、高調波ノイズや大きなリップル電圧を発生させることなく同期整流型の降圧スイッチングレギュレータの低負荷時の電源効率(エネルギー変換効率)を改善するとともに、情報処理システムのスタンドバイ状態などの軽負荷状態の電力損失を削減することが求められている。しかし、特許文献1乃至特許文献5ではシステムの電力損失を削減することができても、高調波ノイズやリップル電圧の発生を防止しつつ電源効率を改善することはできない。
【0008】
本発明は、上述の課題を解決する電源切替装置、電源切替方法、電源システム、およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様は、複数の電源電圧を切り替える電源切替部と、負荷に電力を供給する電源部を構成するスイッチングレギュレータのインダクタンス降下電圧に応じて電源切替部の切替制御を行う制御部と、を具備する電源切替装置である。複数の電源電圧のうち第一の電源電圧が電源部に供給されている状態で、インダクタンス降下電圧が予め定められた第一の閾値以下になると、制御部は、第一の電源電圧より低い第二の電源電圧に切り替えるよう電源切替部を制御する。
【0010】
本発明の第二の態様は、負荷に電力を供給する電源部を構成するスイッチングレギュレータのインダクタンス降下電圧を計算し、インダクタンス降下電圧と予め定められた閾値を比較し、第一の電源電圧が電源部に供給されている状態において、インダクタンス降下電圧が閾値を上回っている場合には第一の電源電圧を継続して電源部へ供給し、インダクタンス降下電圧が閾値以下になると、第一の電源電圧より低い第二の電源電圧に切り替えて電源部へ供給する、電源切替方法である。
【0011】
本発明の第三の態様は、複数の電源電圧を切り替える電源切替部と、電源切替部により切り替えられた電源電圧を降下して負荷に供給するスイッチングレギュレータよりなる電源部と、スイッチングレギュレータのインダクタンス降下電圧に応じて電源切替部の切替制御を行う電源切替制御部と、を具備する電源システムである。複数の電源電圧のうち第一の電源電圧が電源部に供給されている状態で、インダクタンス降下電圧が予め定められた閾値以下になると、電源切替制御部は、第一の電源電圧より低い第二の電源電圧に切り替えるよう電源切替部を制御する。
【0012】
本発明の第四の態様は、電源切替装置のコンピュータに、負荷に電力を供給する電源部を構成するスイッチングレギュレータのインダクタンス降下電圧を計算させ、インダクタンス降下電圧と予め定められた閾値を比較させ、第一の電源電圧が電源部へ供給されている状態において、インダクタンス降下電圧が閾値を上回っている場合には第一の電源電圧を継続して電源部へ供給させ、インダクタンス降下電圧が閾値以下になると、第一の電源電圧より低い第二の電源電圧に切り替えて電源部へ供給させる、プログラムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、同期整流型の降圧スイッチングレギュレータを用いた電源システムにおいて、低負荷時に主入力電源からスタンドバイ入力電源に切り替えるときの電源効率を改善することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電源切替機能を適用した電源システムの通常時の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る電源切替機能を適用した電源システムの低負荷時の構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る電源システムに搭載される電源部の内部回路を示す回路図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る電源システムに搭載される入力電源切替部の内部回路を示す回路図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る電源切替方法の処理過程を示すフローチャートである。
【
図6】本発明を適用した電源システムのブロック図である。
【
図7】本発明に係る電源切替装置の最小構成を示すブロック図である。
【
図8】本発明に係る電源切替方法の処理過程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、同期整流型スイッチングレギュレータで構成される電源と搭載している各種のシステムに適用されるものであり、入力電源電圧としてシステム制御用の主入力電源と小電力用のスタンドバイ入力電源を備える場合、低負荷時に主入力電源からスタンドバイ入力電源へ切り替えることにより、低負荷時に発生するインダクタ電流の逆流を抑止または減少させて低負荷時の電源効率を改善する。低負荷時に無駄な消費電力を低下することができ、特に、スタンドバイ状態が長くなるシステムにおいて本発明を効果的に適用できる。つまり、本発明を導入することにより、高調波ノイズや大きなリップル電圧を発生させることなく、同期整流型の降圧スイッチングレギュレータの低負荷時の電源効率(エネルギー変換効率)を改善することができ、スタンドバイ状態などの軽負荷状態にある情報処理システムの電力損失を削減することで、更なる省エネを実現する電子製品の開発に貢献することができる。
【0016】
特に、本発明は情報処理システムに適用されるものであり、負荷に電力を供給する電源部の前段に入力電源切替部を設けて、システム全体に電力を供給する主入力電源と制御回路などの小電力回路へ給電を行うスタンドバイ入力電源を切り替えており、スタンドバイ入力電源は電源部の出力電圧よりも高く、かつ、主入力電源よりも電圧が低く設定されている。電源部は入力電源電圧を降圧して負荷に電力を供給するものであり、入力電源切替部は入力電源切替制御部により制御されている。通常状態では、主入力電源から電源部へ電力供給がなされており、電源部から負荷へ電力が供給されている。また、電源部は同期整流型の降圧スイッチングレギュレータにより構成される。入力電源切替制御部は、電源部のインダクタンス降下電圧をセンシングしており、センシングにより読み取ったインダクタンス降下電圧が予め定められたスタンドバイ入力電源への切替えを判定するための閾値(以下、入力電源切替閾値と称する)を下回った場合、電源部から電力供給を受ける負荷が低負荷状態であると判定し、入力電源切替部によって電源部の入力電源を主入力電源からスタンドバイ入力電源へ切り替えるか、或いは、スタンドバイ入力電源を電源部への入力電源として継続して使用する。一方、インダクタンス降下電圧が入力電源切替閾値を上回ると、電源部から電力供給を受ける負荷が低負荷状態ではないと判定し、入力電源切替部によって電源部の入力電源をスタンドバイ入力電源から主入力電源へ切り替えるか、或いは、主入力電源を電源部への入力電源として継続して使用する。このように、低負荷時に主入力電源よりも電圧値が低いスタンドバイ入力電源から電源部へ電力供給を行ことにより、低負荷時における同期整流型の降圧スイッチングレギュレータの効率を向上させることができる。
【0017】
上述のように、電源部を構成する同期整流型の降圧スイッチングレギュレータの一部である出力インダクタの両端をセンシング点として、電源部が負荷へ供給する電力の大きさ(負荷状態)を判定する。入力電源切替制御部にて負荷状態の判定を行うため、センシング点と入力電源切替制御部を負荷センス線で接続する。後述するように、入力電源切替制御部は演算部と記憶部を有しており、センシング値と予め定めた閾値を比較することで負荷状態を判定する。負荷状態の判定結果に応じて、電源部への入力電源を切り替える。ここで、インダクタのインダクタンスをL、入力電圧をVin、出力電圧をVout、スイッチング周期をTswとすると、降圧スイッチングレギュレータ(降圧コンバータ)におけるインダクタのリップル電流Irは下記のように表される。
Ir=(Vin-Vout)×Tsw/L (1)
数式(1)において、Vin以外のパラメータを一定としてVinを下げるとインダクタのリップル電流Irは小さくなる。従って、低負荷時に同期整流型の降圧スイッチングレギュレータの入力電源をスタンドバイ入力電源に切り替えることにより、電源部のインダクタ電流の逆流を防止し、或いは、逆流電流を減少させて、低負荷時の電源効率を向上させることができる。
【0018】
次に、本発明に係る電源切替装置、電源切替方法、およびプログラムについて実施形態とともに添付図面を参照して詳細に説明する。
図1及び
図2は、本発明の一実施形態に係る電源切替機能を適用した電源システムのブロック図を示す。特に、
図1は主入力電源を選択した通常時の電源システムの構成を示し、
図2はスタンドバイ入力電源を選択した低負荷時の電源システムの構成を示す。電源システムは、電圧値V1の主入力電源1と電圧値V2のスタンドバイ入力電源2を具備しており、電圧値V1は電圧値V2よりも高く設定されている(V1>V2)。入力電源切替部3において、主入力電源1は接点Aに接続され、スタンドバイ入力電源2は接点Bに接続されており、端子Cは接点A又は接点Bに接続される。入力電源切替部3にて選択された電圧値V1又は電圧値V2が電源部4へ供給される。電源部4は、同期整流型の降圧スイッチングレギュレータで構成されており、電圧値V2は電圧値V3に降圧される。つまり、複数の電圧値V1乃至V3には「V1>V2>V3」の関係が成立する。電源部4の出力電圧は負荷部5に供給される。入力電源切替制御部6は演算部7と記憶部8を有しており、入力電源切替部3について切替制御を行う。記憶部8は、入力電源を切り替えるための閾値を予め格納している。電源部4は、負荷部5の消費電力を監視しており、負荷部5の稼働状態などに応じた負荷情報を有している。入力電源切替制御部6は、記憶部8に格納された閾値と電源部4から伝達された負荷情報を比較して入力電源切替部3の切替制御を行う。記憶部8は、半導体メモリなどの記憶媒体で構成してもよい。この場合、閾値を事前に設定して記憶部8に記憶してもよいが、抵抗分圧などによって基準電圧を設定し、その基準電圧値を閾値としてもよい。
【0019】
電源部4と入力電源切替制御部6との間には極性の異なる2本の負荷センス線が配線されており、正極性(+)の負荷センス線9と負極性(-)の負荷センス線10が設けられている。また、電源部4と入力電源切替制御部6との間には出力電圧値(V3)を伝達する出力電圧センス線11が設けられている。
【0020】
図3は、電源部4の内部回路を示す回路図である。電源部4は、インダクタL1、L2、キャパシタC1、C2、スイッチS1、S2(例えば、MOSFET)より構成され、電源制御部12はスイッチS1、S2のオン/オフ(導通/非導通)制御を行っている。スイッチS1のソースはインダクタL1とキャパシタC1の接点に接続され、ドレインはインダクタL2に接続される。スイッチS2のソースはスイッチS1のドレインとインダクタL2との接点に接続され、ドレインは接地される。電源制御部12は、スイッチS1、S2のゲートを介してオン/オフ制御を行う。例えば、スイッチS1がオン、スイッチS2がオフの場合にはインダクタL2にd1方向の電流が流れる。通常の負荷状態(軽負荷以外の状態)では、スイッチS1がオフ、スイッチS2がオンのときもインダクタL2にはd1方向に電流が流れるよう設計されている。一方、軽負荷時において出力電流がリップル電流の半分を下回ると、逆流電流がd2方向に流れる。
【0021】
図4は、入力電源切替部3の内部回路を示す回路図である。入力電源切替部3は、スイッチ31、32を具備する。スイッチ31のドレインは接点Aに接続され、ソースは端子Cに接続される。スイッチ32のソースは接点Bに接続され、ドレインは端子Cに接続される。入力電源切替制御部6は、スイッチ31、32のゲートを介してオン/オフ(導通/非導通)制御を行う。
図4では、スイッチ31、32にMOSFETを適用しているが、これに限定されるものではない。例えば、スイッチ31、32としてトランジスタやリレーなどのスイッチング素子を用いてもよい。主入力電源1から電源部4へ給電する場合、入力電源切替制御部6は、スイッチ31をオン、スイッチ32をオフとする。スタンドバイ入力電源2から電源部4へ給電する場合、入力電源切替制御部6は、スイッチ31をオフ、スイッチ32をオンとする。
【0022】
次に、本発明の一実施形態に係る電源切替方法について詳細に説明する。
図5は、本発明の一実施形態に係る電源切替方法の処理過程(電源切替処理)を示すフローチャートである(ステップS101~S110)。ここで、電圧値V1、V2、V3について閾値が設定されており、主入力電源切替閾値をV1th、スタンドバイ入力電源切替閾値をV2th、電源部4の出力電圧V3が正常に出力されていることを確認するための出力電圧閾値をV3thとしており、V1th>V2thの関係がある。
図5の電源切替処理は、入力電源切替制御部6が電源部4から情報を取得して入力電源切替部3を制御する過程を示している。
【0023】
外部からの開始指令に応じて
図5の電源切替処理が開始される。最初に、電源部4の入力電源として主入力電源1が選択されて、負荷部5へ給電が行われているものとする。入力電源切替制御部6は、出力電圧センス線11を介して電源部4の出力電圧V3の電圧値を取得する(S101)。入力電源切替制御部6は、電源部4の出力電圧V3が予め設定した出力電圧閾値V3thを上回っているか判定する(S102)。電源部4の出力電圧V3が出力電圧閾値V3th以下の場合(S102、NO)には、フローはステップS101へ戻る。
【0024】
電源部4の出力電圧V3が出力電圧閾値V3thを上回っている場合(S102、YES:V3>V3th)、入力電源切替制御部6は、電源部4のハイサイドスイッチ(スイッチS1)がオンとなるタイミングで負荷センス線9を用いてチョークコイル(インダクタL2)の入力電圧Viを取得し、負荷センス線10を用いてチョークコイル(インダクタL2)の出力電圧Voを取得し、チョークコイルの入力電圧Viと出力電圧Voの差分であるインダクタンス降下電圧Vd(Vd=Vi-Vo)を演算部7により計算する(S103)。
【0025】
入力電源切替制御部6は、電源部4の入力電源が主入力電源1であるか否か判定する(S104)。電源部4の入力電源が主入力電源1である場合(S104、YES)、インダクタンス降下電圧Vdが主入力電源切替閾値V1thを上回っているか判定する(S105)。インダクタンス降下電圧Vdが主入力電源切替閾値V1thを上回っている場合(S105、YES:Vd>V1th)、電源部4に接続される負荷部5は低負荷ではないと判定し、電源部4の入力電源の切替は行わず、フローはステップS103へ戻る(S106)。一方、インダクタンス降下電圧Vdが入力電源切替閾値V1th以下の場合(S105、NO)、電源部4に接続される負荷部5は低負荷であると判定し、電源部4の入力電源の切換えを行って、フローはステップS103へ戻る(S107)。この場合、入力電源切替制御部6は、入力電源切替部3の接続を接点Aから接点Bに変更して、電源部4の入力電源を主入力電源1からスタンドバイ入力電源2へ切り替える。
【0026】
ステップS104において、電源部4の入力電源が主入力電源1でない場合(S104、NO)、入力電源切替制御部6はインダクタンス降下電圧Vdがスタンドバイ入力電源切替閾値V2thを上回っているか判定する(S108)。インダクタンス降下電圧Vdがスタンドバイ入力電源切替閾値V2thを上回っている場合(S108、YES:Vd>V2th)、電源部4に接続される負荷部5は低負荷でないと判定し、電源部4の入力電源を切り替えて、フローはステップS103へ戻る(S109)。この場合、入力電源切替制御部6は、入力電源切替部3の接続を接点Bから接点Aに変更して、電源部4の入力電源をスタンドバイ入力電源2から主入力電源1に切り替える。一方、インダクタンス降下電圧Vdがスタンドバイ入力電源切替閾値V2th以下の場合(S108、NO)、電源部4に接続される負荷部5は低負荷であると判定し、電源部4の入力電源の切り換えは行わず、フローはステップS103へ戻る(S110)。
【0027】
上述の電源切替処理により、適切なタイミングで主入力電源1とスタンドバイ入力電源2を切り替えることができ、かつ、無駄なスイッチング回数を削減して高調波ノイズの発生を抑制することができる。
【0028】
次に、インダクタに流れるリップル電流の低減効果について説明する。同期整流型の降圧スイッチングレギュレータを用いた電源部では、インダクタの両端の電圧を検出して電源部に接続される負荷の状況を判定する。つまり、インダクタの入力電圧と出力電圧の差分を計算しているが、通常、入力電圧が出力電圧よりも高くなるので差分は正の値となる。しかし、インダクタの入力電圧と出力電圧との差分が負の値となる場合には、電源部の入力電圧が出力電圧よりも小さい場合であり、インダクタを流れる電流が逆流している状態である。同期整流型の降圧スイッチングレギュレータにおけるハイサイドスイッチがオンとなるタイミングでインダクタの両端の電圧を検出し、入力電圧と出力電圧の差が大きければ負荷電流は大きくなり、入力電圧と出力電圧の差が小さければ負荷電流は小さくなる。
【0029】
同期整流型の降圧スイッチングレギュレータのインダクタのインダクタンスをL、インダクタの入力電圧をVin、インダクタの出力電圧をVout、ハイサイドスイッチのオン時間をTonとすると、インダクタのリップル電流Irは下記のように表される。
Ir=(Vin-Vout)×Ton/L (2)
数式(2)において、Vin以外のパラメータを一定とし、Vinを下げてゆくと、インダクタのリップル電流Irは小さくなる。従って、低負荷時に同期整流型の降圧スイッチングレギュレータの入力電源を小電力のスタンドバイ入力電源に切り替えることで、電源部のインダクタ電流の逆流を防止し、或いは、インダクタの逆流電流を減少して、低負荷時の電源効率を向上することができる。
【0030】
次に、本発明を適用した電源システムについて説明する。
図6に示す電源システムでは、2種類の電源を所定条件で切り換える機能を具備しており、第1の電源P1(例えば、主入力電源1の電圧値V1の供給源)と第2の電源P2(例えば、スタンドバイ入力電源2の電圧値V2の供給源)とを切り替えている。
図6の電源システムは、電源切替部30、電源部40(降圧スイッチングレギュレータ)、負荷50、電源切替制御部60を具備する。電源部40は電源切替部30により選択された電圧をインダクタで降下した出力電圧V3を負荷50へ供給する。
【0031】
まず、電源切替部30は第1の電源P1を選択して、その電圧値V1を電源部40へ供給するものとする。電源部40のインダクタの両端には電圧差が発生するため、インダクタの入力電圧と出力電圧との差分であるインダクタンス降下電圧Vdを検知する。電源切替制御部60は、電源部40からインダクタンス降下電圧Vdを示す数値を取得する。電源切替制御部60は、インダクタンス降下電圧Vdと予め設定した電源切替閾値Vthとを比較し、Vd>Vthの場合、大きな電流がインダクタを流れることを示しているため、負荷50は低負荷でないと判定して、電源切替を行わず、第1の電源P1と電源部40との接続を維持する。一方、インダクタンス降下電圧Vdが電源切替閾値Vth以下の場合、小さな電流がインダクタを流れていることを示しているため、負荷50は低負荷であると判定する。この場合、電源切替制御部60は電源切替部30を制御して、第1の電源P1から第2の電源P2へ切り替える。これにより、第2の電源P2が電源切替部30を介して電源部40と接続される。
【0032】
次に、本発明に係る電源切替装置の最小構成について説明する。
図7は、電源切替装置100のブロック図であり、
図6に示す電源切替部30と電源切替制御部60に相当する。電源切替装置100は、電源切替部110と制御部120を具備しており、電源切替部110には第1の電源P1の電圧値V1と第2の電源P2電圧値V2が供給されており、その内の一方の電源電圧を選択して電源部へ供給する。電源部を構成する降圧スイッチングレギュレータにはインダクタが設けられており、インダクタンス降下電圧Vdの数値が制御部120へ伝達される。或いは、制御部120はインダクタの両端の電圧値を検知して、その差分をインダクタンス降下電圧Vdとして計算してもよい。制御部120はインダクタンス降下電圧Vdと予め設定した電源切替閾値Vthとを比較して、電源切替部110を制御する。電源切替部110が第1の電源P1の電圧値V1を選択している状態で、インダクタンス降下電圧Vdが電源切替閾値Vth以下になると、制御部120は電源部には低負荷が接続されていると判定し、電源切替部110を制御して、第1の電源P1の電圧値V1から第2の電源P2の電圧値V2(V1>V2)へ切り替える。これにより、電源部には低負荷に応じた小電力の第2の電源P2の電圧値V2が供給される。
【0033】
次に、本発明に係る電源切替方法の処理過程について説明する。
図8は、電源切替処理のフローチャートであり(ステップS201~S204)、上述のように、第1の電源P1の電圧値V1と第2の電源P2の電圧値V2を切り替えている。最初に、第1の電源P1の電圧値V1が電源部に供給されているものとする。電源切替処理が開始されると、電源部(降圧スイッチングレギュレータ)のインダクタンス降下電圧を計算する(S201)。インダクタの入力電圧Viと出力電圧Voを検知して、インダクタンス降下電圧Vd(Vd=Vi-Vo)を計算する。次に、インダクタンス降下電圧Vdと電源切替閾値Vthを比較する(S202)。インダクタンス降下電圧Vdが電源切替閾値を上回っている場合(S202、YES:Vd>Vth)、電源部から電力供給を受ける負荷が低負荷でないと判定し、第1の電源との接続を維持する(S203)。一方、インダクタンス降下電圧Vdが電源切替閾値Vth以下の場合(S202、NO)、電源部から電力供給を受ける負荷が低負荷であると判定し、第1の電源P1から第2の電源P2へ切り替える(S203)。これにより、電源部には低負荷に応じた小電力の第2の電源P2の電圧値V2が供給される。
【0034】
上述の実施形態において、入力電源切替制御部6、電源切替制御部60、電源切替装置100などにはコンピュータシステムが組み込まれており、電源切替処理はプログラムとしてコンピュータ読取可能記憶媒体に格納されており、コンピュータ(或いは、CPU又はGPUなどのプロセッサ)がプログラムを読み出して実行することにより一定の条件下で複数の電源を切り替える処理過程が実施される。コンピュータ読取可能記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどをいう。また、コンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータがプログラムを実行するようにしても良い。さらに、コンピュータシステムとは、オペレーティングシステム(OS)やなどのソフトウェアやプロセッサを具備するハードウェアを含むものとする。
【0035】
上記プログラムは、インターネットや通信回線のような伝送媒体を介してコンピュータシステムに伝送される。また、上記プログラムは、上述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、上述した機能をコンピュータシステムにすでに記憶されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(又は、差分プログラム)であっても良い。
【0036】
最後に、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、2種類以上の電源を切り替えるように構成することも可能である。また、入力電源切替部3の回路構成は
図4の構成に限定されるものでなく、電源部4の回路構成も
図3の構成に限定されるものではない。
図1及び
図2では、入力電源切替部3、電源部4、入力電源切替制御部6を個別に示したが、これらを一体化して入力電源切替機能付きの電源部としてもよい。電源切替処理は
図5や
図8に示した処理過程に限定されるものではなく、電源部を構成する降圧スイッチングレギュレータのインダクタンス降下電圧のレベルに応じて入力電源を切り替えるようにしてもよい。本発明は、添付した特許請求の範囲に定義される技術的範囲内での種々の変形例や設計変更及び改造を包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、複数の入力電源を切り替えて電源部で降圧して負荷に供給するものとして説明したが、電源部は同期整流型の降圧スイッチングレギュレータに限定されるものではなく、他のスイッチングレギュレータを用いたスイッチング電源にも適用可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 主入力電源
2 スタンドバイ入力電源
3 入力電源切替部
4 電源部
5 負荷部
6 入力電源切替制御部
7 演算部
8 記憶部
9、10 負荷センス線
11 出力電圧センス線
12 電源制御部
P1 第1の電源
P2 第2の電源
30 電源切替部
40 電源部
50 負荷
60 電源切替制御部
100 電源切替装置
110 電源切替部
120 制御部