(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135073
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】操船システムおよびそれを備える船舶
(51)【国際特許分類】
B63C 9/00 20060101AFI20230921BHJP
B63H 21/21 20060101ALI20230921BHJP
B63H 21/22 20060101ALI20230921BHJP
B63H 25/42 20060101ALI20230921BHJP
B63H 25/04 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
B63C9/00 Z
B63H21/21
B63H21/22 Z
B63H25/42 G
B63H25/42 B
B63H25/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040091
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷹野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠
(57)【要約】
【課題】落水した操船者と船舶との距離を開き難くできる操船システムおよびそれを備えた船舶を提供する。
【解決手段】操船システム102は、操船者が携帯する操船者フォブFoと、船舶100に装備され、操船者フォブと無線通信し、操船者フォブとの通信状態に基づいて操船者の落水を検出する落水検知機能を有する通信ユニット60とを含む。操船システムは、さらに、船舶に装備され、推進機としての船外機1を制御する操船コントローラ50を備える。操船コントローラ50は、操船者の落水が検出されると、船舶を一定の位置に保持するように船外機1を制御する定点保持制御を実行する。操船者フォブからの遠隔操作によって、定点保持制御を中止できるように構成されていてもよい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操船者が携帯する操船者フォブと、
船舶に装備され、前記操船者フォブと無線通信する通信ユニットを備え、前記操船者フォブと前記通信ユニットとの通信状態に基づいて操船者の落水を検出する落水センサと、
前記船舶に装備され、推進機を制御するコントローラであって、前記落水センサが操船者の落水を検出すると、前記船舶を一定の位置に保持するように前記推進機を制御する定点保持制御を実行する、コントローラと、
を含む、操船システム。
【請求項2】
前記コントローラは、前記落水センサが操船者の落水を検出すると、前記船舶を減速するように前記推進機を制御する減速制御を実行し、前記減速制御の後に前記定点保持制御を実行する、請求項1に記載の操船システム。
【請求項3】
前記推進機は、エンジンと、前記エンジンによって駆動されるプロペラと、前記エンジンと前記プロペラとの動力伝達経路に介装されたクラッチと、を含み、
前記コントローラは、前記落水センサが操船者の落水を検出すると、前記減速制御を実行し、前記減速制御の後に前記クラッチを遮断状態に制御し、その後に前記定点保持制御を実行する、請求項2に記載の操船システム。
【請求項4】
前記コントローラは、前記操船者フォブと通信する通信ユニットを含み、
前記操船者フォブは、使用者によって操作される解除操作子と、前記解除操作子の操作に応じて定点保持解除指令を前記コントローラの通信ユニットに送信する送信機と、を含み、
前記コントローラは、前記通信ユニットが前記操船者フォブから定点保持解除指令を受信すると、前記定点保持制御を中止する、請求項1~3のいずれか一項に記載の操船システム。
【請求項5】
前記コントローラは、前記操船者フォブと通信する通信ユニットを含み、
前記操船者フォブは、使用者によって操作される操船操作子と、前記操船操作子の操作に応じて操船指令を前記コントローラの通信ユニットに送信する送信機と、を含み、
前記コントローラは、前記通信ユニットが前記操船者フォブから操船指令を受信すると、当該操船指令に応じて、前記船舶の位置および方位の一方または両方を変更するために前記推進機を制御する、請求項1~4のいずれか一項に記載の操船システム。
【請求項6】
前記操船指令が、前記定点保持制御における目標位置および目標方位の一方または両方を変更するための指令である、請求項5に記載の操船システム。
【請求項7】
前記コントローラは、前記操船者フォブと通信し、操船に関わる前記船舶の情報を前記操船者フォブに送信する通信ユニットを含み、
前記操船者フォブは、前記通信ユニットから送信される情報を受信する受信機と、前記受信機が受信した情報を使用者に通知する通知装置とを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の操船システム。
【請求項8】
前記コントローラの通信ユニットが前記操船者フォブに送信する情報は、前記推進機の故障状態を表す情報を含む、請求項7に記載の操船システム。
【請求項9】
前記通知装置は、ブザー音、音声メッセージ、表示、およびバイブレーションのうちの一つ以上によって使用者への通知を行う、請求項7または8に記載の操船システム。
【請求項10】
操船者が船舶から落水したことを検出する落水センサと、
前記船舶に装備され、推進機を制御するコントローラであって、前記落水センサが操船者の落水を検出すると、前記船舶を一定の位置に保持するように前記推進機を制御する定点保持制御を実行するコントローラと、を含む操船システム。
【請求項11】
使用者によって携帯され、前記定点保持制御を解除するための解除指令を前記コントローラに送信する携帯デバイスをさらに含み、
前記コントローラは、前記携帯デバイスから前記解除指令を受信すると、前記定点保持制御を中止する、請求項10に記載の操船システム。
【請求項12】
使用者によって携帯され、使用者によって操作される操船操作子を含み、前記操船操作子の操作に応じて操船指令を前記コントローラに送信する携帯デバイスをさらに含み、
前記コントローラは、前記携帯デバイスから操船指令を受信すると、当該操船指令に応じて、前記船舶の位置および方位の一方または両方を変更するために前記推進機を制御する、請求項10または11に記載の操船システム。
【請求項13】
前記操船指令が、前記定点保持制御における目標位置および目標方位の一方または両方を変更するための指令である、請求項12に記載の操船システム。
【請求項14】
船体と、
前記船体に装備される推進機と、
請求項1~13のいずれか一項に記載の操船システムと、を含む、船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、操船システムおよびそれを備える船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、船舶のヘルムエリアに配置される送受信機と操船者が保持する操船者フォブとの間の無線通信を用いて操船者の落水を検出するワイヤレスランヤードシステムを開示している。送受信機が周期的に送信する問合せ信号に対して操船者フォブが応答信号を返さなくなると、操船者の落水が検知される。操船者の落水検知に応答して、エンジンの回転速度がアイドル回転速度へと減速され、かつギヤシステムがニュートラル位置へとシフトされ、推進力の発生が停止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/0255104A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
操船者の落水が検知されたときに船舶の推進機の推進力発生を停止することにより、落水した操船者から船舶が離れていくことを抑制できる。ただし、船舶の周囲の潮流や風等の外乱による船舶の移動は避けられないので、それによって、落水した操船者と船舶との距離が開く場合がある。
【0005】
そこで、この発明の一実施形態は、落水した操船者と船舶との距離を開き難くできる操船システムおよびそれを備えた船舶を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一実施形態は、操船者が携帯する操船者フォブと、船舶に装備され、前記操船者フォブと無線通信する通信ユニットを備え、前記操船者フォブと前記通信ユニットとの通信状態に基づいて操船者の落水を検出する落水センサと、前記船舶に装備され、推進機を制御するコントローラとを含む、操船システムを提供する。前記コントローラは、前記落水センサが操船者の落水を検出すると、前記船舶を一定の位置に保持するように前記推進機を制御する定点保持制御を実行する。
【0007】
この構成によれば、操船者フォブを携帯する操船者が落水し、それが落水センサによって検出されると、コントローラは、定点保持制御を実行する。それにより、推進機は、船舶を一定の位置に保持するように制御されるので、船舶の移動を抑制できる。したがって、落水した操船者と船舶との距離が開き難いので、落水した操船者は、船舶に戻りやすい。
【0008】
一つの実施形態では、前記コントローラは、前記落水センサが操船者の落水を検出すると、前記船舶を減速するように前記推進機を制御する減速制御を実行し、前記減速制御の後に前記定点保持制御を実行する。この構成によれば、操船者の落水が検出されると、船舶を減速した後に定点保持制御が実行されるので、船舶をスムーズに減速し、その後に、船舶を一定の位置に保持できる。
【0009】
一つの実施形態では、前記推進機は、エンジンと、前記エンジンによって駆動されるプロペラと、前記エンジンと前記プロペラとの動力伝達経路に介装されたクラッチと、を含む。前記コントローラは、前記落水センサが操船者の落水を検出すると、前記減速制御を実行し、前記減速制御の後に前記クラッチを遮断状態に制御し、その後に前記定点保持制御を実行してもよい。
【0010】
この構成では、推進機はエンジン(内燃機関)を備えたエンジン推進機である。減速制御の後にクラッチを遮断状態とすることにより、船舶をスムーズに減速し、その後に推進力の発生しない状態とすることができる。そして、その後に、定点保持制御によって、船舶の移動を抑制できる。
【0011】
減速制御は、具体的には、エンジンの回転速度を減速する制御であり、船舶をスムーズに減速させることができる減速度でエンジン回転速度を減速することが好ましい。
【0012】
クラッチの一例は、前進位置、ニュートラル位置および後進位置を含む複数のシフト位置を有するシフト機構(典型的にはギヤ機構を含む。)である。シフト位置が前進位置のとき、プロペラは、船舶を前進させる方向の推進力を発生する。シフト位置が後進位置のとき、プロプラは、船舶を後進させる方向の推進力を発生する。シフト位置がニュートラル位置のとき、シフト機構は動力伝達経路を遮断する遮断状態となり、エンジンの動力はプロペラに伝達されない。
【0013】
一つの実施形態では、前記コントローラは、前記操船者フォブと通信する通信ユニットを含む。前記操船者フォブは、使用者によって操作される解除操作子と、前記解除操作子の操作に応じて定点保持解除指令を前記コントローラの通信ユニットに送信する送信機と、を含む。前記コントローラは、前記通信ユニットが前記操船者フォブから定点保持解除指令を受信すると、前記定点保持制御を中止する。
【0014】
この構成によれば、状況に応じて、使用者(典型的には操船者)は、操船者フォブからの遠隔操作によって、定点保持制御を中止させることができる。具体的には、落水した操船者が、定点保持制御を中止することにより、船舶との距離が開きにくくできると判断したり、船舶に戻りやすくなると判断したりする場合があり得る。したがって、状況に応じて定点保持制御の継続/中止を遠隔操作によって選択できるようにすることで、操船者は船舶に戻りやすくなる。
【0015】
前記コントローラの通信ユニットは、前記落水センサの通信ユニットと共用されてもよく、これとは別の通信ユニットであってもよい。
【0016】
一つの実施形態では、前記コントローラは、前記操船者フォブと通信する通信ユニットを含む。前記操船者フォブは、使用者によって操作される操船操作子と、前記操船操作子の操作に応じて操船指令を前記コントローラの通信ユニットに送信する送信機と、を含む。前記コントローラは、前記通信ユニットが前記操船者フォブから操船指令を受信すると、当該操船指令に応じて、前記船舶の位置および方位の一方または両方を変更するために前記推進機を制御する。
【0017】
この構成によれば、使用者(典型的には操船者)は、操船者フォブからの遠隔操作によって推進機を制御でき、それによって、船舶の位置および/または方位を変更することができる。したがって、操船者フォブを携帯して落水した操船者は、船舶との距離および/または船舶の向きを、状況に応じて適切に定めることができる。たとえば、操船者は、操船者フォブからの遠隔操作によって、船舶との距離が開かないように、または船舶との距離を縮めるように、船舶を移動させることができる。また、たとえば、操船者は、操船者フォブからの遠隔操作によって、船舶に戻りやすいように船舶の方位を変更することができる。
【0018】
一つの実施形態では、前記操船指令が、前記定点保持制御における目標位置および目標方位の一方または両方を変更するための指令である。この構成によれば、定点保持制御の機能を利用して、船舶の位置および/または方位を変更することができるので、操船者フォブからの遠隔操作に関するコントローラの制御を複雑にすることなく、遠隔操船機能を実現できる。
【0019】
一つの実施形態では、前記コントローラは、前記操船者フォブと通信し、操船に関わる前記船舶の情報を前記操船者フォブに送信する通信ユニットを含む。前記操船者フォブは、前記通信ユニットから送信される情報を受信する受信機と、前記受信機が受信した情報を使用者に通知する通知装置とを含む。
【0020】
この構成によれば、操船者フォブを利用する通信によって、操船に関わる船舶の情報を、操船者フォブを介して使用者(典型的には操船者)に通知できる。したがって、たとえば操船者は、操船エリアを離れているときにも、操船に関わる船舶の情報を知ることができるので、船上での行動の自由度が高い操船システムを提供できる。
【0021】
一つの実施形態では、前記コントローラの通信ユニットが前記操船者フォブに送信する情報は、前記推進機の故障状態を表す情報を含む。この構成によれば、使用者(典型的には操船者)に故障状態を表す情報が操船者フォブを介して通知できるので、この通知を受けた使用者は、適時に故障に対する対処を行うことができる。加えて、使用者は、操船エリアを離れているときにも故障状態を表す情報の通知を受けることができるので、対処に関する判断を操船エリアに戻る前から行うことができる。また、使用者は、状況に応じて、操船エリアに戻る前から、または操船エリアに戻ることなく、必要な対処を始めることができる。
【0022】
一つの実施形態では、前記通知装置は、ブザー音、音声メッセージ、表示、およびバイブレーションのうちの一つ以上によって使用者への通知を行う。これらのなかでも、とりわけバイブレーションによる通知は、周囲の環境の影響を受けにくいので好ましい。具体的には、風切り音、エンジン音、スピーカ音などによって、音による通知が伝わり難い場合でも、バイブレーションによる通知は有効性が高い。また、直射日光や雨の影響で表示による通知が伝わり難い場合でも、バイブレーションによる通知は有効性が高い。
【0023】
この発明の一実施形態は、操船者が船舶から落水したことを検出する落水センサと、前記船舶に装備され、推進機を制御するコントローラとを含む、操船システムを提供する。前記コントローラは、前記落水センサが操船者の落水を検出すると、前記船舶を一定の位置に保持するように前記推進機を制御する定点保持制御を実行する。
【0024】
この構成によれば、操船者が落水し、それが落水センサによって検出されると、コントローラは、定点保持制御を実行する。それにより、推進機は、船舶を一定の位置に保持するように制御されるので、船舶の移動を抑制できる。したがって、落水した操船者と船舶との距離が開き難いので、落水した操船者は、船舶に戻りやすい。
【0025】
一つの実施形態では、前記操船システムは、使用者によって携帯され、前記定点保持制御を解除するための解除指令を前記コントローラに送信する携帯デバイスをさらに含む。前記コントローラは、前記携帯デバイスから前記解除指令を受信すると、前記定点保持制御を中止する。
【0026】
この構成によれば、状況に応じて、使用者は、携帯デバイス(フォブおよびその他携帯可能なデバイス)からの遠隔操作によって、定点保持制御を中止させることができる。具体的には、落水した操船者が、定点保持制御を中止することにより、船舶との距離が開きにくくできると判断したり、船舶に戻りやすくなると判断したりする場合があり得る。したがって、状況に応じて定点保持制御の継続/中止を選択できるようにすることで、操船者は船舶に戻りやすくなる。
【0027】
一つの実施形態では、前記操船システムは、使用者によって携帯され、使用者によって操作される操船操作子を含み、前記操船操作子の操作に応じて操船指令を前記コントローラに送信する携帯デバイスをさらに含む。前記コントローラは、前記携帯デバイスから操船指令を受信すると、当該操船指令に応じて、前記船舶の位置および方位の一方または両方を変更するために前記推進機を制御する。
【0028】
この構成によれば、使用者は、携帯デバイスからの遠隔操作によって推進機を制御でき、それによって、船舶の位置および/または方位を変更することができる。したがって、落水した操船者は、船舶との距離および/または船舶の向きを、状況に応じて適切に定めることができる。たとえば、操船者は、携帯デバイスからの遠隔操作によって、船舶との距離が開かないように、または船舶との距離を縮めるように、船舶を移動させることができる。また、たとえば、操船者は、携帯デバイスからの遠隔操作によって、船舶に戻りやすいように船舶の方位を変更することができる。
【0029】
一つの実施形態では、前記操船指令が、前記定点保持制御における目標位置および目標方位の一方または両方を変更するための指令である。この構成によれば、定点保持制御の機能を利用して、船舶の位置および/または方位を変更することができるので、携帯デバイスからの遠隔操作に関するコントローラの制御を複雑にすることなく、遠隔操作機能を実現できる。
【0030】
この発明の一実施形態は、船体と、前記船体に装備される推進機と、前述のような特徴を有する操船システムと、を含む、船舶を提供する。
【発明の効果】
【0031】
この発明によれば、落水した操船者と船舶との距離を開き難くできる操船システムおよびそれを備えた船舶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、この発明の一実施形態に係る船舶の構成例を説明するための図である。
【
図2】
図2は、操船システムの構成例を説明するためのブロック図である。
【
図3】
図3は、操船者フォブの構成例を説明するためのブロック図である。
【
図4】
図4は、通信ユニットの落水検知機能の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図5】
図5は、通信ユニットからの落水通知に関連する操船コントローラの処理例を説明するためのフローチャートである。
【
図6】
図6は、操船者フォブからの遠隔操作による操船に関する操船コントローラの処理例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0034】
図1は、この発明の一実施形態に係る船舶100の構成例を説明するための図である。船舶100は、船体101と、船体101に装備された推進機の一例としての船外機1とを含む。この例では、2機の船外機1が、船体101の船尾2に取り付けられており、船体101の左右方向に並んでいる。
【0035】
船体101は、外殻によって区画された居住空間を提供する船室3と、船室3の後方に配置されたデッキ4とを有している。船舶100は、操船ステーションST(操船エリア)を備えている。
図1には一つの操船ステーションSTが船室3内に備えられている例を示す。ただし、複数の操船ステーションが船体101に設けられる場合もある。
【0036】
操船ステーションSTには、この実施形態では、ステアリングホイール31、アクセルレバー33およびジョイスティック36が備えられている。ステアリングホイール31は操舵のための操作子であり、アクセルレバー33は推進力調節のための操作子である。ジョイスティック36は、操舵および推進力調節のための操作子である。通常の操船は、ステアリングホイール31およびアクセルレバー33の操作によって行われる。ジョイスティック36による操船は、主として、離着岸時や、釣りポイントなどにおいて、船舶100の方位および/または位置を精密に調整するときに利用される。むろん、ジョイスティック36による操船が、低速航走時の船舶100の方位および/または位置の調整に限られるわけではなく、中高速での巡航の際の操船にも用いられてもよい。
【0037】
操船ステーションSTは、操船者が操船を行うための領域、すなわち操船エリアである。
図1の例では、操船ステーションSTには、操船者が着座するドライバーシート30が設けられている。ただし、操船ステーションSTにドライバーシート30が設けられない場合もある。
【0038】
船舶100に乗船する乗員は、それぞれ、フォブFを携帯することを求められる。フォブFは、典型的には、乗員に身に付けられて携帯される。フォブFは、たとえば手首、首、ベルトまたは衣服に装着されるように構成されていてもよい。乗員は、操船者と同乗者とに区分され、操船者が携帯する操船者フォブ(operator fob)Foと同乗者が携帯する同乗者フォブ(passenger fob)Fpとが準備される。フォブFは、この実施形態では、少なくとも送信機能を有する電子デバイスである。
【0039】
図2は、船舶100に備えられた操船システム102の構成例を説明するためのブロック図である。操船システム102は、前述の操船ステーションSTおよびフォブFを含む。操船ステーションSTは、この実施形態では、ステアリングホイール31、リモコンユニット32およびジョイスティックユニット35を備えている。
【0040】
リモコンユニット32は、2機の船外機1にそれぞれ対応する2つのアクセルレバー33を有している。ジョイスティックユニット35は、前後左右(すなわち、360度の全方位)に傾倒させることができ、かつ軸まわりに回す(ツイストする)ことができるジョイスティック36を備えている。ジョイスティックユニット35は、この例では、さらに、ジョイスティックボタン37を備えている。ジョイスティックボタン37は、ジョイスティック36を用いる制御モード(操船モード)、すなわち、ジョイスティックモードを選択するときに操船者によって操作される操作子である。この例では、ジョイスティックユニット35は、さらに、位置/方位保持系の制御モード(自動操船のための制御モードの例)を設定するために操船者によって操作されるモード設定ボタン38を備えている。より具体的には、船舶100の位置および船首方位を保持する定点保持モード(Stay Point)、船舶100の位置を保持し船首方位は保持しない位置保持モード(Fish Point)、船首方位を保持し位置の保持は行わない方位保持モード(Drift Point)をそれぞれ設定するための複数のモード設定ボタン38が設けられている。
【0041】
操船ステーションSTは、上記のほかに、メインスイッチ41、オールスイッチ42、個別スイッチ43、アプリケーションパネル45、ゲージ46、ディスプレイ47等を備えている。メインスイッチ41は、操船システム102の電源をオン/オフするために操船者によって操作される操作子である。オールスイッチ42は、全ての船外機1を始動し、または停止するために操船者によって操作される操作子である。個別スイッチ43は、個々の船外機1を始動し、または停止するために操船者によって操作される操作子であり、船外機1の数だけ設けられている。アプリケーションパネル45は、たとえば、自動操船のためのアプリケーションプログラムを開始するための複数のスイッチを備えている。具体的には、経路保持系(オートパイロット系)の制御モード(自動操船のための制御モードの例)を開始するためのモード設定スイッチ45aが含まれていてもよい。経路保持系の制御モードは、具体的には、前進中に船首方位を保持する船首保持モード(Heading Hold)、前進中に船首方位を保持し、かつ直進する進路を保持する直進保持モード(Course Hold)、予め設定した通過点を通る経路に従う通過点追従モード(Track Point)、予め設定した経路パターンに従うパターン航走モード(Pattern Steer)のうちの少なくとも一つを含んでいてもよい。パターン航走モードの経路パターンは、ジグザグパターン、スパイラルパターンなどである。ゲージ46は、個々の船外機1の運転状態を表示する計器である。ディスプレイ47は、各種の情報を表示する表示装置である。ディスプレイ47は、この実施形態では、表面に入力装置の一例としてのタッチパネル47aを備えており、マンマシンインタフェースを提供するマルチファンクションディスプレイである。
【0042】
操船システム102は、システム全体の制御のための操船コントローラ50と、船外機1への指令信号を生成する推進機コントローラ55とを含む。操船コントローラ50と推進機コントローラ55とは、船内ネットワーク56を介して通信可能に接続されている。船内ネットワーク56は、典型的には、CAN(Control Area Network)である。
【0043】
船内ネットワーク56には、リモコンユニット32およびジョイスティックユニット35が接続されている。さらに、アプリケーションパネル45、ゲージ46およびディスプレイ47も船内ネットワーク56に接続されている。ステアリングホイール31は推進機コントローラ55に接続されている。具体的には、ステアリングホイール31の操作角信号が操舵信号ライン59を介して推進機コントローラ55に入力されている。また、メインスイッチ41は、推進機コントローラ55に接続されており、推進機コントローラ55に対して、電源オン/オフ指令信号を入力する。さらに、オールスイッチ42および個別スイッチ43も、推進機コントローラ55に接続されており、推進機コントローラ55に対して推進機始動指令信号および/または推進機停止指令信号を入力する。
【0044】
推進機コントローラ55は、制御信号ライン58を介して、各船外機1のコントローラである船外機ECU21(電子制御ユニット、船外機コントローラ)に接続されている。推進機コントローラ55は、各船外機1に対して、転舵指令、推進力指令などを送信する。推進力指令は、この実施形態では、船外機1のシフト位置を指令するシフト指令と、船外機1の出力(推進力の大きさ)を指令する出力指令とを含む。また、推進機コントローラ55は、各船外機1の船外機ECU21から、様々な検出信号を受信する。受信する検出信号には、各船外機1の状態、とくに各船外機1のシフト位置を表すシフト位置信号が含まれていることが好ましい。推進機コントローラ55が各船外機ECU21から受信する各船外機1の状態を表す信号には、各船外機1のエンジン11が稼働中(運転中)かどうかを表す信号、たとえば、エンジン回転速度を表すエンジン回転速度信号が含まれていてもよい。
【0045】
船外機1は、エンジン船外機または電動船外機のいずれの形態であってもよい。
図2には、エンジン船外機の例を示す。船外機1は、船外機ECU21、エンジン11、シフト機構12、プロペラ13、転舵機構14などを備えている。エンジン11が発生する動力が、シフト機構12を介してプロペラ13に伝達される。転舵機構14は、船外機1が発生する推進力の方向を左右に変化させる機構であり、船外機1のボディを船体101(
図1参照)に対して左右に旋回させる。シフト機構12は、前進位置、後進位置およびニュートラル位置のうちのいずれかのシフト位置を選択可能に構成されている。前進位置のとき、エンジン11の回転が伝達されることによってプロペラ13が正転方向に回転する。後進位置のとき、エンジン11の回転が伝達されることによってプロペラ13が逆転方向に回転する。ニュートラル位置のとき、エンジン11とプロペラ13との間の動力伝達が遮断される。
【0046】
船外機1は、さらに、スタータモータ15、燃料噴射装置16、スロットルアクチュエータ17、点火装置18、シフトアクチュエータ19、転舵アクチュエータ20などを備えており、これらは船外機ECU21によって制御される。スタータモータ15は、エンジン11を始動するための電動モータである。燃料噴射装置16は、エンジン11内で燃焼される燃料を噴射する装置である。スロットルアクチュエータ17は、エンジン11のスロットルバルブを作動させる電動アクチュエータ(典型的には電動モータを含む。)である。点火装置18は、エンジン11の燃焼室内の混合気に点火する装置であり、典型的には、点火プラグおよび点火コイルを含む。シフトアクチュエータ19は、シフト機構12を作動させるためのアクチュエータである。転舵アクチュエータ20は、転舵機構14の駆動源であり、典型的には、電動モータを含む。転舵アクチュエータ20は、電動ポンプ式の油圧装置を含んでいてもよい。
【0047】
操船コントローラ50は、プロセッサ51(演算装置)、メモリ52、通信インタフェース53などを含む。操船コントローラ50は、メモリ52に格納されたプログラムを実行することにより、様々な機能処理ユニットとして作動する。メモリ52には、さらに各種のデータが格納されている。通信インタフェース53に船内ネットワーク56が接続されている。それにより、操船コントローラ50は、推進機コントローラ55と通信することができる。さらにまた、操船コントローラ50は、リモコンユニット32およびジョイスティックユニット35と通信することができる。また、操船コントローラ50は、ゲージ46と船内ネットワーク56を介して通信し、ゲージ46に表示データを送信する。また、操船コントローラ50は、ディスプレイ47と船内ネットワーク56を介して通信し、タッチパネル47aからの入力信号を受信し、かつディスプレイ47へ表示指令信号を送信する。
【0048】
操船システム102は、前述のフォブFと通信する通信ユニット60をさらに含む。通信ユニット60は、船内ネットワーク56を介して操船コントローラ50と接続されている。フォブFは、前述のとおり、操船者が保持する操船者フォブFoと、同乗者が保持する同乗者フォブFpとを含む。通信ユニット60は、プロセッサ61、メモリ62および送受信機63を備えている。たとえば、通信ユニット60は、一定時間間隔(たとえば1秒間隔)で全てのフォブFに対して問合せ信号を送信する。各フォブFは、問合せ信号を受信すると、応答信号を送出する。応答信号は通信ユニット60によって受信される。各フォブFは、当該フォブFを識別するための識別情報を含む応答信号を送出する。それにより、通信ユニット60は、個々のフォブFからの応答信号を識別することができる。
【0049】
通信ユニット60のメモリ62には、予め、乗員が携帯するフォブFの識別情報が登録されている。通信ユニット60のプロセッサ61は、送受信機63が各フォブFから受信する識別情報(以下「受信識別情報」という。)とメモリ62に登録されている識別情報(以下「登録識別情報」という。)とを比較する。その比較結果に基づいて、プロセッサ61は、登録識別情報にそれぞれ該当する受信識別情報が漏れなく受信されたかどうかを調べ、それに基づいて、落水者の有無を判断する。いずれかの登録識別情報に対応する受信識別情報がなければ、落水者が生じた可能性があるので、プロセッサ61は、操船コントローラ50に、落水者発生を表す落水通知を送信する。落水通知は、たとえば、対応する受信識別情報の存在しない登録識別情報を含む。メモリ62には、操船者フォブFoの識別情報と同乗者フォブFpの識別情報とを区別して登録することができる。したがって、プロセッサ61は、操船者の落水と同乗者の落水とを区別でき、それに応じて、操船者の落水か同乗者の落水かを区別する情報を落水通知に含めることができる。このように、通信ユニット60は、この実施形態では、落水センサとしての機能を有する。符号64は、送受信機63のアンテナである。
【0050】
図3は、操船者フォブFoの構成例を説明するためのブロック図である。操船者フォブFoは、携帯可能な防水型ハウジング70内に送信機71、受信機72、プロセッサ73、メモリ74および通知装置75を格納して構成されている。
【0051】
操船者フォブFoは、さらに、操船システム102(とくに船外機1)を遠隔操作するための操作子を備えている。具体的には、操船者フォブFoは、定点保持制御を開始/解除するための開始/解除ボタン90(解除操作子の一例)を備えている。定点保持制御の開始を指令するための開始ボタンと、これとは別に定点保持制御を解除(中止)するための解除ボタンとが備えられてもよい。開始ボタンは備えられなくてもよいが、少なくとも解除ボタンは備えられることが好ましい。操船者フォブFoは、さらに、操船システム102に操船指令を与えるための操船ボタン(操船操作子の一例)を備えている。操船ボタンは、具体的には、位置変更ボタン80と、方位変更ボタン85とを含む。位置変更ボタン80は、船舶100の位置を変更するための操作ボタンであり、たとえば、前後左右にそれぞれ船舶100の位置を変更するためのボタン81~84を含む。方位変更ボタン85は船舶100の方位を変更するための操作ボタンであり、たとえば右旋回ボタン85Rと左旋回ボタン85Lとを含む。
【0052】
プロセッサ73は、メモリ74に格納されたプログラムに従って作動する。
【0053】
具体的には、プロセッサ73は、受信機72が操船システム102の通信ユニット60からの問合せ信号を受信すると、応答信号を送信機71から通信ユニット60に向けて送信させる処理を実行する。応答信号は、通信ユニット60における落水検知処理のために用いられる。応答信号には、当該操船者フォブFoの識別情報が含められる。
【0054】
また、プロセッサ73は、開始/解除ボタン90の操作に応答して、定点保持開始/解除指令を送信機71から操船システム102の通信ユニット60に向けて送信させる。開始ボタンおよび解除ボタンが個別に設けられるときには、開始ボタンの操作に応答して定点保持開始指令が発せられ、解除ボタンの操作に応答して定点保持解除指令が発せられる。
【0055】
さらに、プロセッサ73は、操船ボタンの操作に応答して、操船指令を送信機71から操船システム102の通信ユニット60に向けて送信させる。より具体的には、プロセッサ73は、位置変更ボタン80が操作されると、船舶100の位置を変更させるための位置変更指令を送信機71から送出させる。また、プロセッサ73は、方位変更ボタン85が操作されると、船舶100を旋回させるための方位変更指令を送信機71から送出させる。位置変更ボタン80および方位変更ボタン85の両方が同時に操作されてもよく、その場合には、プロセッサ73は、位置変更指令および方位変更指令の両方を送信機71から送出させる。
【0056】
この実施形態における操船者フォブFoは、定点保持解除指令や操船指令を通信ユニット60に向けて送信する携帯デバイスの一例である。
【0057】
この実施形態では、操船者フォブFoは、通信ユニット60から操船に関わる船舶100の情報を受信して、使用者(典型的には操船者)に通知するように構成されている。通知される情報は、具体的には、船外機1の運転状態を表す情報、より具体的には故障情報を含む。操船コントローラ50は、推進機コントローラ55から船外機1の故障が通知されると、通信ユニット60から操船者フォブFoに向けてその故障を表す故障情報を送信させる。この故障情報は、操船者フォブFoの受信機72によって受信される。故障情報が受信されると、プロセッサ73は、通知装置75を駆動して、使用者(典型的には操船者)に故障の情報を通知する。通知装置75は、ブザー音、音声メッセージ、表示、およびバイブレーションのうちの一つ以上を発生する。とりわけバイブレーションによる通知は、周囲の環境の影響を受けにくいので好ましい。具体的には、風切り音、エンジン音、スピーカ音などによって、音による通知が伝わり難い場合でも、バイブレーションによる通知は有効性が高い。また、直射日光や雨の影響で表示による通知が伝わり難い場合でも、バイブレーションによる通知は有効性が高い。
【0058】
通知装置75は、少なくとも故障の発生を使用者に伝達するように構成されている。通知装置75は、故障の状況を表す情報を使用者に伝達するように構成されていることが好ましい。故障の状況を表す情報とは、故障の種類、故障箇所等の情報であってもよい。
【0059】
同乗者フォブFpは、操船者フォブFoと同様な形態を有していてもよい。ただし、同乗者フォブFpには、遠隔操作のための操作子は備えられておらず、対応する機能も備えられていない。また、同乗者フォブFpは、通知装置75を備えている必要もない。端的には、同乗者フォブFpは、使用者の落水検知のための構成および機能を備え、操船のための構成および機能は備えていない。
【0060】
図4は、船体101に装備される通信ユニット60の落水検知機能(落水センサとしての機能)の一例を説明するためのフローチャートである。通信ユニット60のプロセッサ61は、登録識別情報に該当する全てのフォブFに関して、周期的に問合せ信号を送出し、問合せ信号を送出する度に、
図4の処理を実行する。プロセッサ61は、フォブFからの応答信号を受信したかどうかを判断する(ステップS1)。応答信号を受信すると(ステップS1:YES)、プロセッサ61は、当該フォブFに対応する落水フラグをオフとし(ステップS2)、当該フォブFを携帯する乗員が落水していないことをメモリ62に記録する。フォブFからの応答信号を受信しないときには(ステップS1:NO)、プロセッサ61は、未受信状態が所定回数連続したかどうかを判断する(ステップS3)。所定回数連続していなければ(ステップS3:NO)、プロセッサ61は、落水フラグをオフとする(ステップS2)。未受信状態が所定回数連続すると(ステップS3:YES)、プロセッサ61は、当該フォブFに対応する落水フラグをオンとし(ステップS4)、当該フォブFを携帯する乗員が落水していることをメモリ62に記録する。さらに、プロセッサ61は、操船コントローラ50に対して落水通知を送信する(ステップS5)。前述のとおり、落水通知は、該当するフォブFの登録識別情報を含み、かつ当該フォブFが操船者フォブFoか同乗者フォブFpかを区別するためのフォブ種別情報を含む。
【0061】
通信ユニット60がフォブFに向けて送信する問合せ信号およびフォブFが通信ユニット60に向けて送信する応答信号の到達距離は、フォブFが船上に存在するときに通信ユニット60およびフォブFの間での通信が確保されるように設定されることが好ましい。それにより、船上に存在するフォブFに関しては、落水フラグをオフとすることができる。
【0062】
図5は、通信ユニット60からの落水通知に関連する操船コントローラ50の処理例を説明するためのフローチャートであり、操船コントローラ50が所定の制御周期で繰り返す処理の一例を示す。操船コントローラ50は、通信ユニット60からの落水通知を受けて落水を検知すると(ステップS11:YES)、全ての船外機1の推進力を無効にするための推進力無効化制御(ステップS12,S13)を実行する。そして、操船コントローラ50は、その推進力無効化制御の後に、定点保持制御(ステップS14)を実行する。
【0063】
推進力無効化制御は、全ての船外機1の推進力発生を停止する制御である。推進力無効化制御は、この実施形態では、エンジン11の回転速度を減速する減速制御(ステップS12)と、減速制御の後に実行されるシフト制御(ステップS13)とを含む。
【0064】
減速制御は、船舶100の急減速を回避しながらスムーズに停止状態へと導くために、エンジン11の回転速度を徐々に減速(たとえばアイドル回転速度まで減速)するための制御である。したがって、減速制御におけるエンジン回転速度の減速度は、船舶100をスムーズに減速させることができる値に設定される。このような減速制御のための指令が、操船コントローラ50から推進機コントローラ55へと与えられ、推進機コントローラ55は、指令された減速制御を実現するための出力指令を時系列的に船外機1に与える。
【0065】
シフト制御(ステップS13)は、全ての船外機1のシフト位置をニュートラル位置にする制御である。操船コントローラ50は、減速制御(ステップS12)の後に、全ての船外機1のシフト位置をニュートラル位置にするためのシフト指令を推進機コントローラ55に与える(ステップS13)。それに応じて、推進機コントローラ55が操船コントローラ50からのシフト指令を船外機ECU21に伝達することにより、船外機1のエンジン回転速度およびシフト位置が制御される。それにより、船舶100がスムーズに減速し、シフト位置がニュートラル位置となって、船舶100に推進力が与えられない状態へと導かれる。
【0066】
定点保持制御(ステップS14)は、具体的には、船舶100の位置および船首方位を保持する定点保持モード(Stay Point)を設定する制御であってもよい。操船コントローラ50は、制御モードを自動的に定点保持モードに遷移させる(ステップS14)。そして、操船コントローラ50は、船舶100の現在位置を定点保持制御の目標位置に設定し、船舶100の現在方位を定点保持制御の目標方位に設定する。したがって、推進力無効化制御(ステップS12,S13)の終了時の船舶100の位置および方位を保持するための定点保持制御が自動的に開始される。操船コントローラ50は、落水検知が通知されたときの船舶100の位置および方位を記録し、その記録された位置および方位、すなわち落水検出時の位置および方位を、定点保持制御の目標位置および目標方位にそれぞれ設定してもよい。
【0067】
操船コントローラ50は、落水が検知されなければ(ステップS11:NO)、推進力無効化制御および定点保持制御をいずれも行わない。
【0068】
図6は、操船者フォブFoからの遠隔操作による操船に関する操船コントローラ50の処理例を説明するためのフローチャートである。操船者の落水が検知されると定点保持制御が自動的に開始されることは前述のとおりである。この定点保持制御の開始の後、操船コントローラ50は、定点保持開始/解除指令が与えられるかどうかを判断する(ステップS21)。前述のように操船者フォブFoの開始/解除ボタン90が操作されると、定点保持開始/解除指令が操船者フォブFoから送信される。この定点保持開始/解除指令が通信ユニット60によって受信されて、操船コントローラ50に与えられる。定点保持開始/解除指令を受けると、操船コントローラ50は、定点保持制御の実行中かどうかを判断する(ステップS22)。実行中であれば(ステップS22:YES)、操船コントローラ50は、定点保持制御を解除する(ステップS23)。実行中でなければ(ステップS22:NO)、操船コントローラ50は、定点保持制御を開始する(ステップS24)。したがって、操船者フォブFoからの遠隔操作によって、定点保持制御を中止したり、再開したりすることができる。
【0069】
一方、操船者の落水が検知されているときに、操船者フォブFoから操船指令が通信ユニット60によって受信される場合がある。受信された操船指令が操船コントローラ50に与えられると(ステップS25)、操船コントローラ50は、定点保持制御の実行中かどうかを判断し(ステップS26)、実行中でなければ、定点保持制御を開始する(ステップS27)。さらに、操船コントローラ50は、操船指令に応じて、定点保持制御の目標位置および/または目標方位を変更する(ステップS28)。操船コントローラ50は、変更後の目標位置および/または目標方位を達成するための転舵指令および推進力指令を推進機コントローラ55に与える。それに応じて推進機コントローラ55が船外機1を制御する。それにより、船舶100の位置および方位の少なくとも一方が変動し、操船者フォブFoからの操船指令に応じた位置および方位に船舶100を制御できる。
【0070】
以上のように、この実施形態によれば、操船者フォブFoを携帯する操船者が落水し、それが通信ユニット60の落水検知機能によって検出されると、操船コントローラ50は、定点保持制御を自動的に開始する。それにより、船外機1は、船舶100を一定の位置に保持するように制御されるので、船舶100の移動を抑制できる。したがって、落水した操船者と船舶100との距離が開き難いので、落水した操船者は、船舶100に戻りやすい。
【0071】
また、この実施形態では、操船コントローラ50は、操船者の落水が検知されると、船舶100を減速(具体的にはエンジン回転速度を減速)する減速制御を実行し、その後に、定点保持制御を開始する。したがって、船舶100をスムーズに減速させた後に、船舶100を一定の位置に保持できる。
【0072】
また、この実施形態では、船外機1は、エンジン11を有するエンジン推進機であり、減速制御の後にシフト位置がニュートラル位置に制御されて、エンジン11とプロペラ13との間の動力伝達経路が遮断される。そして、その後に、定点保持制御が開始される。減速制御の後にシフト位置をニュートラル位置(遮断状態)とすることにより、船舶100をスムーズに減速し、その後に推進力の発生しない状態とすることができる。そして、その後に、定点保持制御によって、船舶100の移動を抑制できる。
【0073】
また、この実施形態では、操船コントローラ50は、通信ユニット60を介して操船者フォブFoと通信することができる。すなわち、通信ユニット60は、操船コントローラ50の通信ユニットとしての機能を兼ねている。操船者フォブFoは、解除操作子としての開始/解除ボタン90を備えており、開始/解除ボタン90が操作されると、定点保持開始/解除指令が通信ユニット60に向けて送信される。操船コントローラ50は、定点保持制御の実行中は、定点保持開始/解除指令を定点保持解除指令として解釈し、定点保持制御を実行していないときには、定点保持開始/解除指令を定点保持開始指令として解釈する。したがって、落水した操船者は、状況に応じて、操船者フォブFoからの遠隔操作によって、定点保持制御を中止したり、再開したりすることができる。具体的には、落水した操船者が、定点保持制御を中止することにより、船舶100との距離が開きにくくできると判断したり、船舶100に戻りやすくなると判断したりする場合があり得る。したがって、状況に応じて定点保持制御の継続/中止を遠隔操作によって選択できるようにすることで、操船者は船舶100に戻りやすくなる。
【0074】
なお、前述のとおり、この実施形態では、通信ユニット60は、遠隔操船のための通信ユニットと、落水検知機能のための通信ユニットとに共用されているが、これらは別の通信ユニットであってもよい。
【0075】
また、この実施形態では、操船者フォブFoは、操船ボタンとしての位置変更ボタン80および方位変更ボタン85を備えており、その操作に応答して、操船指令を通信ユニット60に向けて送信する。通信ユニット60は、受信した操船指令を操船コントローラ50に引き渡し、操船コントローラ50は、それを受けて船舶100の位置および方位の一方または両方を変更するように船外機1を制御する。したがって、操船者フォブFoを携帯して落水した操船者は、船舶100との距離および/または船舶100の向きを、状況に応じて適切に定めることができる。たとえば、操船者は、操船者フォブFoからの遠隔操作によって、船舶100との距離が開かないように、または船舶100との距離を縮めるように、船舶100を移動させることができる。また、たとえば、操船者は、操船者フォブFoからの遠隔操作によって、船舶100に戻りやすいように船舶100の方位を変更することができる。
【0076】
より具体的には、この実施形態では、操船コントローラ50は、操船指令に応じて、定点保持制御のための目標位置および目標方位の一方または両方を変更する。こうして、定点保持制御の機能を利用して、船舶100の位置および/または方位を変更することができるので、操船者フォブFoからの遠隔操作に関する操船コントローラ50の制御を複雑にすることなく、遠隔操作機能を実現できる。
【0077】
さらに、この実施形態では、操船コントローラ50は、通信ユニット60を介して操船者フォブFoと通信し、操船に関わる船舶100の情報(とくに故障情報)を操船者フォブFoに送信する。そして、操船者フォブFoは、受信した情報を通知装置75によって使用者に通知する。それにより、操船者フォブFoを利用する無線通信によって、操船に関わる船舶100の情報(とくに故障情報)を、操船者フォブFoを介して操船者に通知できる。したがって、たとえば操船者は、操船ステーションSTを離れているときにも、操船に関わる船舶100の情報を知ることができるので、船上での行動の自由度が高い操船システム102を提供できる。
【0078】
また、故障情報が操船者フォブFoを介して操船者に通知されることにより、この通知を受けた使用者(典型的には操船者)は、適時に故障に対する対処を行うことができる。加えて、使用者は、操船ステーションSTを離れているときにも故障状態を表す情報の通知を受けることができるので、対処に関する判断を操船ステーションSTに戻る前から行うことができる。また、使用者は、状況に応じて、操船ステーションSTに戻る前から、または操船ステーションSTに戻ることなく、必要な対処を始めることができる。
【0079】
以上、この発明の一実施形態について説明してきたが、以下に例示するとおり、この発明は、さらに他の形態で実施することもできる。
【0080】
前述の実施形態では、推進機としてエンジンを原動機とする船外機1について主として説明したが、他の構成の推進機を用いてもよい。たとえば、電動モータを原動機とする推進機(電動推進機)が用いられてもよい。推進機は、船外機1の他にも、船内機、船内外機、ジェット推進機などの他の形態を有していてもよい。電動推進機における推進力の無効化は、典型的には、電動モータの停止である。
【0081】
前述の実施形態では、船尾2に2機の推進機(船外機1)が備えられる例を示したが、推進機の数および配置はこれに限られない。船尾2に、1機の推進機または3機以上の推進機が配置されてもよい。また、船首付近にバウスラスタが備えられてもよい。
【0082】
また、前述の実施形態では、船舶100に備えられる通信ユニット60と無線通信する操船者フォブFoを用いて操船者の落水が検知されているが、操船ステーションSTに備えられるランヤードスイッチと操船者とを結合するランヤードケーブルを用いて操船者の落水が検知されてもよい。この場合でも、操船者の落水の検知に応答して、定点保持制御を自動的に開始することにより、落水した操船者と船舶100との距離を開き難くすることができる。
【0083】
また、前述の実施形態では、落水検知のための操船者フォブFoが遠隔操船のための携帯デバイスとしての機能を備えているが、操船者フォブFoとは別の携帯デバイスによって遠隔操船を行うように操船システムを設計してもよい。
【0084】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 船外機、11 エンジン、12 シフト機構、13 プロペラ、14 転舵機構、17 スロットルアクチュエータ、19 シフトアクチュエータ、20 転舵アクチュエータ、21 船外機ECU、31 ステアリングホイール、32 リモコンユニット、33 アクセルレバー、50 操船コントローラ、55 推進機コントローラ、56 船内ネットワーク、60 通信ユニット、71 送信機、72 受信機、75 通知装置、80,81~84 位置変更ボタン、85 方位変更ボタン、85L 左旋回ボタン、85R 右旋回ボタン、90 開始/解除ボタン、100 船舶、101 船体、102 操船システム、F フォブ、Fo 操船者フォブ、Fp 同乗者フォブ、ST 操船ステーション