(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135074
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】落水検知システムおよびそれを備える船舶
(51)【国際特許分類】
B63C 9/00 20060101AFI20230921BHJP
G08B 21/08 20060101ALI20230921BHJP
G08B 25/10 20060101ALI20230921BHJP
G08B 25/04 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
B63C9/00 Z
G08B21/08
G08B25/10 A
G08B25/04 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040092
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷹野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠
【テーマコード(参考)】
5C086
5C087
【Fターム(参考)】
5C086AA22
5C086BA23
5C086CA06
5C086CB27
5C086DA08
5C086DA14
5C086FA02
5C086FA06
5C086FA18
5C087AA02
5C087AA25
5C087AA32
5C087AA37
5C087BB20
5C087BB74
5C087DD03
5C087DD16
5C087EE07
5C087EE14
5C087FF01
5C087FF04
5C087GG06
5C087GG19
5C087GG66
5C087GG67
(57)【要約】
【課題】落水者が救助活動の状況を確認し易い落水検知システムおよびそれを備えた船舶を提供する。
【解決手段】落水検知システムは、船舶100に搭乗する使用者が携帯するフォブFと、フォブを携帯している使用者の落水を検出する落水検知機能を有する通信ユニット60とを含む。通信ユニットは、船舶に装備され、フォブと無線通信し、落水が検出された使用者が携帯するフォブに対して、救助の意思を表す救助意思通知を送信する機能をさらに有する。フォブは、救助意思通知を受信すると、救助意思通知を使用者に伝達する伝達装置を有している。落水検知システムは、船舶に装備され、使用者によって操作可能な入力装置をさらに含んでもよい。この場合、通信ユニットは、入力装置から救助意思通知指令が入力されると、落水が検出された使用者が携帯するフォブに対して、救助意思通知を送信する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に搭乗する使用者が携帯するフォブと、
前記フォブを携帯している使用者の落水を検出する落水センサと、
前記船舶に装備され、前記フォブと無線通信し、前記落水センサによって落水が検出された使用者が携帯する前記フォブに対して、救助の意思を表す救助意思通知を送信する通信ユニットと、を含み、
前記フォブは、前記救助意思通知を受信すると、当該救助意思通知を使用者に伝達する伝達装置を有している、落水検知システム。
【請求項2】
前記船舶に装備され、使用者によって操作可能な入力装置をさらに含み、
前記入力装置から救助意思通知指令が入力されると、前記通信ユニットは、前記落水センサによって落水が検出された使用者が携帯する前記フォブに対して、前記救助意思通知を送信する、請求項1に記載の落水検知システム。
【請求項3】
前記フォブは、使用者によって操作可能な入力装置をさらに有し、
前記船舶上の使用者が携帯するフォブの前記入力装置から救助意思通知指令が入力されると、前記通信ユニットは、前記落水センサによって落水が検出された使用者が携帯する前記フォブに対して、前記救助意思通知を送信する、請求項1または2に記載の落水検知システム。
【請求項4】
前記伝達装置は、音、光および振動のうちの少なくとも一つ以上を発生することにより、前記救助意思通知を使用者に伝達する、請求項1~3のいずれか一項に記載の落水検知システム。
【請求項5】
前記フォブは、マイクロフォンおよびスピーカを有し、前記通信ユニットとの間の無線通信によって音声信号を授受する通話機能を備えている、請求項1~4のいずれか一項に記載の落水検知システム。
【請求項6】
前記通信ユニットは、一つのフォブと別のフォブとの間のフォブ間通話を中継する、請求項5に記載の落水検知システム。
【請求項7】
前記通信ユニットは、携帯電話機との間の無線通信によって音声信号を授受できるように構成されており、前記フォブと前記携帯電話機との間のフォブ/携帯電話機間通話を中継する、請求項5または6に記載の落水検知システム。
【請求項8】
前記船舶に備えられ、マイクロフォンおよびスピーカを有する固定通話装置をさらに含み、
前記通信ユニットは、前記固定通話装置と前記フォブとの間の通話を中継する、請求項6~7のいずれか一項に記載の落水検知システム。
【請求項9】
前記落水センサは、前記フォブが周期的に発生する周期信号を受信する周期信号受信機を含み、前記周期信号受信機による前記周期信号の受信状態に基づいて使用者の落水を検出する、請求項1~8のいずれか一項に記載の落水検知システム。
【請求項10】
船体と、
請求項1~9のいずれか一項に記載の落水検知システムと、を含む、船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、落水検知システムおよびそれを備える船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、船舶のヘルムエリアに配置される送受信機と乗船者が保持するフォブとの間の無線通信を用いて乗船者の落水を検出するワイヤレスランヤードシステムを開示している。送受信機が周期的に送信する問合せ信号に対してフォブが応答信号を返さなくなると、乗船者の落水が検知され、警報が発生される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/0255104A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
船上の乗船者は、落水者を捜索して、その救助を行う。落水者はその救助の様子を確認できれば安心するであろうが、落水者から船舶までの距離が長いときには、救助の様子を目視確認できない場合もあり得る。
【0005】
そこで、この発明の一実施形態は、落水者が救助活動の状況を確認し易い落水検知システムおよびそれを備えた船舶を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一実施形態は、船舶に搭乗する使用者が携帯するフォブと、前記フォブを携帯している使用者の落水を検出する落水センサと、前記船舶に装備され、前記フォブと無線通信し、前記落水センサによって落水が検出された使用者が携帯する前記フォブに対して、救助の意思を表す救助意思通知を送信する通信ユニットと、を含む、落水検知システムを提供する。前記フォブは、前記救助意思通知を受信すると、当該救助意思通知を使用者に伝達する伝達装置を有している。
【0007】
この構成によれば、船舶に装備された通信ユニットからフォブに対して救助意思通知を送信でき、これを受信したフォブが、当該救助意思通知を使用者に伝達する。それにより、落水者に対して、救助意思が伝達されるので、落水者は、救助活動の状況を容易に知ることができる。
【0008】
一つの実施形態では、前記落水検知システムは、前記船舶に装備され、使用者によって操作可能な入力装置をさらに含む。前記入力装置から救助意思通知指令が入力されると、前記通信ユニットは、前記落水センサによって落水が検出された使用者が携帯する前記フォブに対して、前記救助意思通知を送信する。
【0009】
この構成によれば、船舶に装備された入力装置の操作によって、救助意思通知を落水者のフォブに送信できる。それにより、船舶上の使用者による救助意思通知を落水者に伝達することができるので、落水者は、救助活動の状況を知ることができる。
【0010】
一つの実施形態では、前記フォブは、使用者によって操作可能な入力装置をさらに有する。前記船舶上の使用者が携帯するフォブの前記入力装置から救助意思通知指令が入力されると、前記通信ユニットは、前記落水センサによって落水が検出された使用者が携帯する前記フォブに対して、前記救助意思通知を送信する。
【0011】
この構成によれば、船舶上の使用者が携帯するフォブが有する入力装置の操作によって、救助意思通知を落水者のフォブに送信できる。それにより、船舶上の使用者による救助意思通知を落水者に伝達できるので、落水者は、救助活動の状況を知ることができる。しかも、船舶上の使用者は、自身が携帯しているフォブの入力装置を操作することにより、速やかに、救助意思を通知できる。
【0012】
一つの実施形態では、前記伝達装置は、音、光および振動のうちの少なくとも一つ以上を発生することにより、前記救助意思通知を使用者に伝達する。この構成により、音、光または振動による信号によって、落水者は、救助意思を容易に確認できる。
【0013】
一つの実施形態では、前記フォブは、マイクロフォンおよびスピーカを有し、前記通信ユニットとの間の無線通信によって音声信号を授受する通話機能を備えている。この構成により、落水者は、フォブを用いて通話することができ、それによって、救助活動の状況を容易に把握でき、かつ自身の状況を会話によって伝えることができる。
【0014】
一つの実施形態では、前記通信ユニットは、一つのフォブと別のフォブとの間のフォブ間通話を中継する。この構成により、落水者のフォブと船舶上の使用者のフォブとの間で通話することができるので、落水者は救助活動の状況を容易に把握でき、かつ自身の状況を会話によって伝えることができる。
【0015】
一つの実施形態では、前記通信ユニットは、携帯電話機との間の無線通信によって音声信号を授受できるように構成されており、前記フォブと前記携帯電話機との間のフォブ/携帯電話機間通話を中継する。この構成により、落水者のフォブと携帯電話機との間で通話が可能であるので、落水者は救助活動の状況を容易に把握でき、かつ自身の状況を会話によって伝えることができる。携帯電話機との通話が可能であることにより、通話の相手が船舶上の使用者に限られなくなるので、落水者は、救助活動の状況を一層容易に確認できる。
【0016】
一つの実施形態では、前記落水システムは、前記船舶に備えられ、マイクロフォンおよびスピーカを有する固定通話装置をさらに含む。前記通信ユニットは、前記固定通話装置と前記フォブとの間の通話を中継する。この構成により、船舶に備えられた固定通話装置と落水者のフォブとの間の通話が可能であるので、落水者は救助活動の状況を容易に把握でき、かつ自身の状況を会話によって伝えることができる。
【0017】
一つの実施形態では、前記落水センサは、前記フォブが周期的に発生する周期信号を受信する周期信号受信機を含み、前記周期信号受信機による前記周期信号の受信状態に基づいて使用者の落水を検出する。落水センサは、フォブに対して周期的に問合せ信号を送信し、フォブがその問合せ信号に応答して応答信号を送信してもよい。この場合、フォブが送信する応答信号は、周期的に発生する周期信号の一例であり得る。
【0018】
この発明の一実施形態は、船体と、前述のような特徴を有する落水検知システムと、を含む、船舶を提供する。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、落水者が救助活動の状況を確認し易い落水検知システムおよびそれを備えた船舶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、この発明の一実施形態に係る船舶の構成例を説明するための図である。
【
図2】
図2は、操船システムの構成例を説明するためのブロック図である。
【
図3】
図3は、フォブの構成例を説明するためのブロック図である。
【
図4】
図4は、通信ユニットの落水検知機能の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図5】
図5は、落水検知に際して操船システムにおいて実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
図1は、この発明の一実施形態に係る船舶100の構成例を説明するための図である。船舶100は、船体101と、船体101に装備された推進機の一例としての船外機1とを含む。この例では、2機の船外機1が、船体101の船尾2に取り付けられており、船体101の左右方向に並んでいる。
【0023】
船体101は、外殻によって区画された居住空間を提供する船室3と、船室3の後方に配置されたデッキ4とを有している。船舶100は、操船ステーションST(操船エリア)を備えている。
図1には一つの操船ステーションSTが船室3内に備えられている例を示す。ただし、複数の操船ステーションが船体101に設けられる場合もある。
【0024】
操船ステーションSTには、この実施形態では、ステアリングホイール31、アクセルレバー33およびジョイスティック36が備えられている。ステアリングホイール31は操舵のための操作子であり、アクセルレバー33は推進力調節のための操作子である。ジョイスティック36は、操舵および推進力調節のための操作子である。通常の操船は、ステアリングホイール31およびアクセルレバー33の操作によって行われる。ジョイスティック36による操船は、主として、離着岸時や、釣りポイントなどにおいて、船舶100の方位および/または位置を精密に調整するときに利用される。むろん、ジョイスティック36による操船が、低速航走時の船舶100の方位および/または位置の調整に限られるわけではなく、中高速での巡航の際の操船にも用いられてもよい。
【0025】
操船ステーションSTは、操船者が操船を行うための領域、すなわち操船エリアである。
図1の例では、操船ステーションSTには、操船者が着座するドライバーシート30が設けられている。ただし、操船ステーションSTにドライバーシート30が設けられない場合もある。
【0026】
船舶100に乗船する乗員(乗船者)は、それぞれ、フォブFを携帯することを求められる。フォブFは、典型的には、乗員に身に付けられて携帯される。フォブFは、たとえば手首、首、ベルトまたは衣服に装着されるように構成されていてもよい。乗員は、操船者と同乗者とに区分されてもよく、操船者が携帯する操船者フォブ(operator fob)Foと同乗者が携帯する同乗者フォブ(passenger fob)Fpとが準備されてもよい。符号Mは、乗員が携帯する携帯電話機である。
【0027】
図2は、船舶100に備えられた操船システム102の構成例を説明するためのブロック図である。操船システム102は、前述の操船ステーションSTおよびフォブFを含む。操船ステーションSTは、この実施形態では、ステアリングホイール31、リモコンユニット32およびジョイスティックユニット35を備えている。
【0028】
リモコンユニット32は、2機の船外機1にそれぞれ対応する2つのアクセルレバー33を有している。ジョイスティックユニット35は、前後左右(すなわち、360度の全方位)に傾倒させることができ、かつ軸まわりに回す(ツイストする)ことができるジョイスティック36を備えている。
【0029】
操船ステーションSTは、上記のほかに、メインスイッチ41、オールスイッチ42、個別スイッチ43、ゲージ46、ディスプレイ47等を備えている。メインスイッチ41は、操船システム102の電源をオン/オフするために操船者によって操作される操作子である。オールスイッチ42は、全ての船外機1を始動し、または停止するために操船者によって操作される操作子である。個別スイッチ43は、個々の船外機1を始動し、または停止するために操船者によって操作される操作子であり、船外機1の数だけ設けられている。ゲージ46は、個々の船外機1の運転状態を表示する計器である。ゲージ46は、この実施形態では、表面に入力装置の一例としてのタッチパネル46aを備えており、マンマシンインタフェースを提供している。ディスプレイ47は、各種の情報を表示する表示装置である。ディスプレイ47は、この実施形態では、表面に入力装置の一例としてのタッチパネル47aを備えており、マンマシンインタフェースを提供するマルチファンクションディスプレイである。この実施形態では、ディスプレイ47は、さらに、マイクロフォン47bおよびスピーカ47cを備えており、これらを用いた通話機能を提供するように構成されている。すなわち、ディスプレイ47は、船舶100に装備された固定通話装置としての機能を提供する。
【0030】
操船システム102は、システム全体の制御のための操船コントローラ50と、船外機1への指令信号を生成する推進機コントローラ55とを含む。操船コントローラ50と推進機コントローラ55とは、船内ネットワーク56を介して通信可能に接続されている。船内ネットワーク56は、典型的には、CAN(Control Area Network)である。
【0031】
船内ネットワーク56には、リモコンユニット32およびジョイスティックユニット35が接続されている。さらに、ゲージ46およびディスプレイ47も船内ネットワーク56に接続されている。ステアリングホイール31は推進機コントローラ55に接続されている。具体的には、ステアリングホイール31の操作角信号が操舵信号ライン59を介して推進機コントローラ55に入力されている。また、メインスイッチ41は、推進機コントローラ55に接続されており、推進機コントローラ55に対して、電源オン/オフ指令信号を入力する。さらに、オールスイッチ42および個別スイッチ43も、推進機コントローラ55に接続されており、推進機コントローラ55に対して推進機始動指令信号および/または推進機停止指令信号を入力する。
【0032】
推進機コントローラ55は、制御信号ライン58を介して、各船外機1のコントローラである船外機ECU21(電子制御ユニット、船外機コントローラ)に接続されている。推進機コントローラ55は、各船外機1に対して、転舵指令、推進力指令などを送信する。推進力指令は、この実施形態では、船外機1のシフト位置を指令するシフト指令と、船外機1の出力(推進力の大きさ)を指令する出力指令とを含む。また、推進機コントローラ55は、各船外機1の船外機ECU21から、様々な検出信号を受信する。受信する検出信号には、各船外機1の状態を表す信号、たとえば、各船外機1のシフト位置を表すシフト位置信号、エンジン回転速度を表すエンジン回転速度信号などが含まれていてもよい。
【0033】
船外機1は、エンジン船外機または電動船外機のいずれの形態であってもよい。
図2には、エンジン船外機の例を示す。船外機1は、船外機ECU21、エンジン11、シフト機構12、プロペラ13、転舵機構14などを備えている。エンジン11が発生する動力が、シフト機構12を介してプロペラ13に伝達される。転舵機構14は、船外機1が発生する推進力の方向を左右に変化させる機構であり、船外機1のボディを船体101(
図1参照)に対して左右に旋回させる。シフト機構12は、前進位置、後進位置およびニュートラル位置のうちのいずれかのシフト位置を選択可能に構成されている。前進位置のとき、エンジン11の回転が伝達されることによってプロペラ13が正転方向に回転する。後進位置のとき、エンジン11の回転が伝達されることによってプロペラ13が逆転方向に回転する。ニュートラル位置のとき、エンジン11とプロペラ13との間の動力伝達が遮断される。
【0034】
船外機1は、さらに、スタータモータ15、燃料噴射装置16、スロットルアクチュエータ17、点火装置18、シフトアクチュエータ19、転舵アクチュエータ20などを備えており、これらは船外機ECU21によって制御される。スタータモータ15は、エンジン11を始動するための電動モータである。燃料噴射装置16は、エンジン11内で燃焼される燃料を噴射する装置である。スロットルアクチュエータ17は、エンジン11のスロットルバルブを作動させる電動アクチュエータ(典型的には電動モータを含む。)である。点火装置18は、エンジン11の燃焼室内の混合気に点火する装置であり、典型的には、点火プラグおよび点火コイルを含む。シフトアクチュエータ19は、シフト機構12を作動させるためのアクチュエータである。転舵アクチュエータ20は、転舵機構14の駆動源であり、典型的には、電動モータを含む。転舵アクチュエータ20は、電動ポンプ式の油圧装置を含んでいてもよい。
【0035】
操船コントローラ50は、プロセッサ51(演算装置)、メモリ52、通信インタフェース53などを含む。操船コントローラ50は、メモリ52に格納されたプログラムを実行することにより、様々な機能処理ユニットとして作動する。メモリ52には、さらに各種のデータが格納されている。通信インタフェース53に船内ネットワーク56が接続されている。それにより、操船コントローラ50は、推進機コントローラ55と通信することができる。さらにまた、操船コントローラ50は、リモコンユニット32およびジョイスティックユニット35と通信することができる。また、操船コントローラ50は、ゲージ46と船内ネットワーク56を介して通信し、タッチパネル46aからの入力信号を受信し、かつゲージ46に表示データを送信する。また、操船コントローラ50は、ディスプレイ47と船内ネットワーク56を介して通信し、タッチパネル47aからの入力信号を受信し、かつディスプレイ47へ表示指令信号を送信する。
【0036】
操船システム102は、前述のフォブFと通信する通信ユニット60をさらに含む。通信ユニット60は、船内ネットワーク56を介して操船コントローラ50と接続されている。フォブFは、前述のとおり、操船者が保持する操船者フォブFoと、同乗者が保持する同乗者フォブFpとを含んでいてもよい。通信ユニット60は、プロセッサ61、メモリ62および送受信機63を備えている。たとえば、通信ユニット60は、一定時間間隔(たとえば1秒間隔)で全てのフォブFに対して問合せ信号を送信する。各フォブFは、問合せ信号を受信すると、応答信号を送出する。応答信号は通信ユニット60によって受信される。各フォブFは、当該フォブFを識別するための識別情報を含む応答信号を送出する。それにより、通信ユニット60は、個々のフォブFからの応答信号を識別することができる。
【0037】
通信ユニット60のメモリ62には、予め、乗員が携帯するフォブFの識別情報が登録されている。通信ユニット60のプロセッサ61は、送受信機63が各フォブFから受信する識別情報(以下「受信識別情報」という。)とメモリ62に登録されている識別情報(以下「登録識別情報」という。)とを比較する。その比較結果に基づいて、プロセッサ61は、登録識別情報にそれぞれ該当する受信識別情報が漏れなく受信されたかどうかを調べ、それに基づいて、落水者の有無を判断する。いずれかの登録識別情報に対応する受信識別情報がなければ、落水者が生じた可能性があるので、プロセッサ61は、操船コントローラ50に、落水者発生を表す落水通知を送信する。落水通知は、たとえば、対応する受信識別情報の存在しない登録識別情報を含む。このように、通信ユニット60は、この実施形態では、落水センサとしての機能を有する。符号64は、送受信機63のアンテナである。通信ユニット60の送受信機63から周期的に問合せ信号が発生し、各フォブFがそれに応答して応答信号を送出するので、各フォブは、応答信号を周期的に発生することになる。この周期的に発生する応答信号、すなわち周期信号を受信する送受信機63は、周期信号受信機の一例である。
【0038】
このように、乗員が携帯するフォブFと、通信ユニット60の落水センサとしての機能部分と、通信ユニット60のその他の機能部分とにより、落水検知システムの基本部分が構成されている。すなわち、この実施形態では、操船システム102は、落水検知システムを含む。そして、船舶100は、船体101(
図1参照)と、落水検知システムとを含む。
【0039】
通信ユニット60は、この実施形態では、フォブFと他のフォブFとの間の通信を中継する機能を有している。この通信は、データ通信のほか、音声信号の通信も含む。すなわち、通信ユニット60は、フォブFと他のフォブFとの間での音声通話(フォブ間通話)を中継する機能を有している。
【0040】
通信ユニット60は、さらに、ディスプレイ47と、フォブFとの間の通信を中継する機能を有している。この通信は、データ通信のほか、音声信号の通信も含む。すなわち、通信ユニット60は、固定通話装置としての機能を有するディスプレイ47と、フォブFとの間の通話を中継する機能を有している。
【0041】
通信ユニット60は、また、携帯電話機MとフォブFとの間の通信を中継する機能を有しており、より具体的には、携帯電話機MとフォブFとの間の音声通話(フォブ/携帯電話機間通話)を中継する機能を有している。通信ユニット60は、船上の乗員が携帯する携帯電話機MとフォブFとの間の音声通話を直接中継してもよいし、携帯電話網の基地局を介する携帯電話機Mとの音声通話をフォブFに中継してもよい。
【0042】
また、通信ユニット60は、携帯電話機Mと固定通話装置としてのディスプレイ47との間の音声通話を中継する機能を有していてもよい。
【0043】
通信ユニット60は、さらに、落水者が発生したときに、落水者が携帯するフォブFに向けて、救助意思通知を送信する機能を有している。より具体的には、この実施形態では、ゲージ46のタッチパネル46aまたはディスプレイ47のタッチパネル47aの操作によって、使用者は、救助意思通知指令を入力することができる。この救助意思通知指令は、通信ユニット60に与えられる。救助意思通知指令が発せられると、通信ユニット60は、落水者のフォブFを特定し、当該落水者のフォブFに向けて、救助意思通知を送信する。
【0044】
また、次に説明するように、この実施形態では、フォブFは、救助意思通知指令を入力するための入力装置を備えている。この入力装置の操作によっても、使用者は、救助意思通知指令を入力できる。この救助意思通知指令は通信ユニット60に与えられ、通信ユニット60は、それに応答して、落水者のフォブFに向けて、救助意思通知を送信する。
【0045】
図3は、フォブFの構成例を説明するためのブロック図である。フォブFは、携帯可能な防水型ハウジング70内に送信機71、受信機72、プロセッサ73、メモリ74および伝達装置75を格納して構成されている。フォブFは、さらに、通話機能を提供するためのマイクロフォン76およびスピーカ77を備えている。フォブFは、さらに、使用者が救助意思通知指令を入力するための入力装置としての救助意思通知ボタン78を備えている。
【0046】
プロセッサ73は、メモリ74に格納されたプログラムに従って作動する。
【0047】
具体的には、プロセッサ73は、受信機72が操船システム102の通信ユニット60からの問合せ信号を受信すると、応答信号を送信機71から通信ユニット60に向けて送信させる処理を実行する。応答信号は、通信ユニット60における落水検知処理のために用いられる。応答信号には、当該フォブFの識別情報が含められる。船舶100側の通信ユニット60が周期的に問合せ信号を発生することにより、送信機71は、周期的に応答信号を生成することになる。
【0048】
また、プロセッサ73は、受信機72が船舶100の通信ユニット60から救助意思通知を受信すると、伝達装置75を駆動して、その救助意思通知を使用者に伝達する。
【0049】
伝達装置75は、音、光および振動のうちの少なくとも一つを発生することによって、救助意思通知を使用者に伝達するように構成されている。より具体的には、伝達装置75は、ブザー音、音声メッセージ、表示、およびバイブレーションのうちの一つ以上を発生してもよい。とりわけバイブレーション(振動)による通知は、周囲の環境の影響を受けにくいので好ましい。具体的には、風切り音、エンジン音、スピーカ音などによって、音による通知が伝わり難い場合でも、バイブレーションによる通知は有効性が高い。また、直射日光や雨の影響で表示による通知が伝わり難い場合でも、バイブレーションによる通知は有効性が高い。
【0050】
また、プロセッサ73は、救助意思通知ボタン78が操作されると、送信機71から、救助意思通知を通信ユニット60に向けて送信させる。
【0051】
また、プロセッサ73は、受信機72が通信ユニット60からの音声通話を受信すると、音声通話機能を実行するように構成されている。すなわち、プロセッサ73は、受信機72が受信する音声信号をスピーカ77によって音響化し、マイクロフォン76から入力される音声を音声信号に変換して送信機71から通信ユニット60に向けて送出させる。したがって、通信ユニット60によって中継される音声通話が可能である。
【0052】
図4は、船体101に装備される通信ユニット60の落水検知機能(落水センサとしての機能)の一例を説明するためのフローチャートである。通信ユニット60のプロセッサ61は、登録識別情報に該当する全てのフォブFに関して、周期的に問合せ信号を送出し、問合せ信号を送出する度に、
図4の処理を実行する。プロセッサ61は、フォブFからの応答信号を受信したかどうかを判断する(ステップS1)。応答信号を受信すると(ステップS1:YES)、プロセッサ61は、当該フォブFに対応する落水フラグをオフとし(ステップS2)、当該フォブFを携帯する乗員が落水していないことをメモリ62に記録する。フォブFからの応答信号を受信しないときには(ステップS1:NO)、プロセッサ61は、未受信状態が所定回数連続したかどうかを判断する(ステップS3)。所定回数連続していなければ(ステップS3:NO)、プロセッサ61は、落水フラグをオフとする(ステップS2)。未受信状態が所定回数連続すると(ステップS3:YES)、プロセッサ61は、当該フォブFに対応する落水フラグをオンとし(ステップS4)、当該フォブFを携帯する乗員が落水していることをメモリ62に記録する。さらに、プロセッサ61は、操船コントローラ50に対して落水通知を送信する(ステップS5)。前述のとおり、落水通知は、該当するフォブFの登録識別情報を含む。
【0053】
通信ユニット60がフォブFに向けて送信する問合せ信号およびフォブFが通信ユニット60に向けて送信する応答信号の到達距離は、フォブFが船上に存在するときに通信ユニット60およびフォブFの間での通信が確保されるように設定されることが好ましい。それにより、船上に存在するフォブFに関しては、落水フラグをオフとすることができる。
【0054】
図5は、落水通知に関連する操船システム102における処理例を説明するためのフローチャートであり、所定の制御周期で繰り返される処理の一例を示す。操船コントローラ50は、通信ユニット60からの落水通知を受けて乗員の落水を検知すると(ステップS11:YES)、落水発生の警告表示を指令する。この指令は、ディスプレイ47および/またはゲージ46に与えられ、それにより、ディスプレイ47および/またはゲージ46に、落水発生の警告表示が行われる(ステップS12)。
【0055】
警告表示は、救助意思通知に関する問合せを含んでいてもよい。より具体的には、警告表示は、「落水者発生。救助開始を落水者に通知しますか。(Man overboard! Want to notify start of rescue to the person?)」のようなメッセージを含んでいてもよい。また、このような警告表示に加えて、問合せに対する回答ボタン、たとえば、「はい(Yes)」ボタンおよび「いいえ(No)」ボタンが表示され、タッチパネル47a,46aの操作による回答が可能な状態とされる。
【0056】
操船コントローラ50は、ディスプレイ47の入力装置であるタッチパネル47aまたはゲージ46の入力装置であるタッチパネル46aから、救助意思通知指令が入力されるかどうかを判断する(ステップS13)。具体的には、上記の問合せに対して「はい(Yes)」ボタンが操作されるかどうかを調べる。救助意思通知指令が入力されると(ステップS13:YES)、操船コントローラ50は、通信ユニット60により、落水者のフォブFに向けて、救助意思通知指令を送信させる。救助意思通知指令を受信したフォブFでは、前述のとおり、伝達装置75によって、落水者に救助意思が伝達される。
【0057】
この処理例では、操船コントローラ50による制御によって救助意思通知が落水者のフォブFに送信される例を示したが、通信ユニット60のプロセッサやディスプレイ47などが同様の制御処理を実行してもよい。
【0058】
以上のように、この実施形態によれば、フォブFを携帯する乗員が落水すると、そのフォブFに対して、通信ユニット60から、救助意思通知を送信することができる。そして、落水者のフォブFは、救助意思通知を受信して、伝達装置75によって落水者に伝達する。それにより、それにより、落水者に対して、救助意思が伝達されるので、落水者は、救助活動の状況を容易に知ることができる。
【0059】
救助意思通知は、この実施形態では、ゲージ46の入力装置であるタッチパネル46aおよび/またはディスプレイ47の入力装置であるタッチパネル47aの操作によって、通信ユニット60から送信される。したがって、船舶100に装備された入力装置の操作によって、救助意思通知を落水者のフォブFに送信できる。それにより、船舶100上の使用者による救助意思通知を落水者に伝達することができるので、落水者は、救助活動の状況を知ることができる。
【0060】
また、この実施形態では、船上の使用者が携帯するフォブFの救助意思通知ボタン78を操作すると、通信ユニット60から、落水者のフォブFに向けて、救助意思通知が送信される。それにより、船舶100上の使用者による救助意思通知を落水者に伝達できるので、落水者は、救助活動の状況を知ることができる。しかも、船舶100上の使用者は、自身が携帯しているフォブFの入力装置である救助意思通知ボタン78を操作することにより、速やかに、救助意思を通知できる。
【0061】
また、この実施形態では、フォブFは、マイクロフォン76およびスピーカ77を有し、船舶100の通信ユニット60との間の無線通信によって音声信号を授受する通話機能を備えている。したがって、落水者は、フォブFを用いて通話することができ、それによって、救助活動の状況を容易に把握でき、かつ自身の状況を会話によって伝えることができる。
【0062】
落水者はフォブFの通話機能を用いることにより、船上の使用者のフォブFとの間で通話できる。また、落水者はフォブFの通話機能を用いることにより、船舶100に装備されたディスプレイ47(固定通話装置の一例)との間で通話することができる。さらに、落水者はフォブFの通話機能を用いることにより、携帯電話機Mとの間で通話することができる。したがって、落水者は救助活動の状況を容易に把握でき、かつ自身の状況を会話によって伝えることができる。携帯電話機Mとの通話を利用することにより、通話の相手が船舶100上の使用者に限られなくなるので、落水者は、救助活動の状況を一層容易に確認できる。
【0063】
以上、この発明の一実施形態について説明してきたが、以下に例示するとおり、この発明は、さらに他の形態で実施することもできる。
【0064】
前述の実施形態では、推進機としてエンジンを原動機とする船外機1について主として説明したが、他の構成の推進機を用いてもよい。たとえば、電動モータを原動機とする推進機(電動推進機)が用いられてもよい。推進機は、船外機1の他にも、船内機、船内外機、ジェット推進機などの他の形態を有していてもよい。電動推進機における推進力の無効化は、典型的には、電動モータの停止である。
【0065】
前述の実施形態では、船尾2に2機の推進機(船外機1)が備えられる例を示したが、推進機の数および配置はこれに限られない。船尾2に、1機の推進機または3機以上の推進機が配置されてもよい。また、船首付近にバウスラスタが備えられてもよい。
【0066】
また、前述の実施形態では、船舶100に備えられる通信ユニット60と無線通信するフォブFを用いて乗員の落水が検知されているが、船舶100に備えられるランヤードスイッチと乗員とを結合するランヤードケーブルを用いて乗員の落水が検知されてもよい。
【0067】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 船外機、46 ゲージ、46a タッチパネル、47 ディスプレイ、47a タッチパネル、47b マイクロフォン、47c スピーカ、50 操船コントローラ、56 船内ネットワーク、60 通信ユニット、61 プロセッサ、62 メモリ、63 送受信機、70 防水型ハウジング、71 送信機、72 受信機、73 プロセッサ、74 メモリ、75 伝達装置、76 マイクロフォン、77 スピーカ、78 救助意思通知ボタン、100 船舶、101 船体、102 操船システム、F フォブ、M 携帯電話機