(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135086
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】木製耐火被覆柱
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20230921BHJP
B27M 3/00 20060101ALI20230921BHJP
E04C 3/36 20060101ALN20230921BHJP
【FI】
E04B1/94 V
E04B1/94 R
B27M3/00 D
B27M3/00 N
E04C3/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040110
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】坂本 義仁
(72)【発明者】
【氏名】梅田 敏弘
【テーマコード(参考)】
2B250
2E001
2E163
【Fターム(参考)】
2B250AA02
2B250BA07
2B250CA04
2B250FA28
2B250GA03
2E001DE01
2E001EA05
2E001EA08
2E001FA02
2E001HB02
2E001HC01
2E001KA01
2E163FA02
2E163FA03
2E163FC22
2E163FF04
2E163FF06
(57)【要約】
【課題】木製材を耐火被覆あるいは燃え代層として活用するのに際し、その性能を十分に発揮させる木製耐火被覆柱を得ることを目的とする。
【解決手段】本発明に係る木製耐火被覆柱1は、鋼材または木材の柱3の外周を囲う耐火被覆材または燃え代材として木製材5を配置したものであって、
木製材5の耐火性能が、柱3の上方から下方に向けて、連続的に、または段階的に、または連続的と段階的が組み合わされた態様で、強化されていることを特徴とするものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材または木材の柱の外周を囲う耐火被覆材または燃え代材として木製材を配置した木製耐火被覆柱であって、
前記木製材の耐火性能が、柱の上方から下方に向けて、連続的に、または段階的に、または連続的と段階的が組み合わされた態様で、強化されていることを特徴とする木製耐火被覆柱。
【請求項2】
前記木製材の耐火性能の強化が、前記木製材の板厚を、柱の上方から下方に向けて、連続的に、または段階的に、または連続的と段階的が組み合わされた態様で増厚することで実現されていることを特徴とする請求項1に記載の木製耐火被覆柱。
【請求項3】
前記木製材の耐火性能の強化が、前記木製材の下方の所定の範囲のみ難燃処理をすることで実現されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の木製耐火被覆柱。
【請求項4】
前記木製材における柱側の面と前記柱の外面との間隔が、柱の下方から上方に向けて、連続的に、または段階的に、または連続的と段階的が組み合わされた態様で、広くなっており、
前記木製材の下地材として、軽鉄下地を前記木製材における前記柱側の面に沿わせて柱高さ方向に配置し、該軽鉄下地の上端が下端よりも外側に位置していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の木製耐火被覆柱。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材または木材の柱の外周を囲う耐火被覆材または燃え代材として木製材を配置した木製耐火被覆柱に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物では火災による倒壊及び延焼を防止するために主要構造部に耐火性能が要求され、鋼構造建物では鋼材が火災で高温になると強度が低下し倒壊の恐れがあるため耐火被覆がなされる。
一般に、耐火被覆材には不燃材が用いられるが、近年、木材を耐火被覆として活用する考案がなされている。
【0003】
特許文献1では、木製柱の周囲に、耐火材層、密閉された空気層および燃え代木材層が外側に向かって順に積層されている構成が示されている。ここでは、燃え代木材層および空気層により所定の断熱性能を確保しつつ、火災によって炭化した燃え代層を脱落させることで、耐火材層の性能を十分に発揮させるものである。
【0004】
特許文献2では、柱材とその外周部を長手方向に沿って覆う角筒状に一体成型され、かつ、難燃化処理された木材からなる鞘材を備えた耐火性構造部材(柱)が示されている。ここでは、難燃化処理された鞘材の内周部に芯材となる柱の全長または部分長を挿入し、鞘材の内周部に芯材の外周部を嵌合させ、耐火性構造部材を製造する工程が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-145654号公報
【特許文献2】特開2020-33858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
柱を鋼管あるいは形鋼を前提として検討すると、鉄骨工事後に、燃え代として一定の耐火性(柱の温度上昇抑制効果)を期待する木製材を施工する場合、所定の厚さが必要となるために重量が重くなっている。
【0007】
木製材は、火災時に表面が燃焼し、炭化が進行するために、木製材の荷重(自重)負担能力は、火災の進行とともに低下していく。そのため、一定以上炭化が進行すると自重を支えられなくなり、木製材が崩壊することになるが、荷重負担が大きい下部ほど早期に崩壊する。そのため、木製材は、高さ方向の全長に亘って炭化する以前に崩壊し、本来の耐火性能を十分に発揮できない可能性がある。例えば杉を素材とした厚さ60mmのCLTの場合、概ね40~50分程度で脱落する。脱落した木製材は、柱の下部に集積して燃焼しつづけるため、柱温度がより上昇しやすくなる危険がある。
【0008】
特許文献1および2では、柱断面方向で燃え代となる木材を一体化させることを述べているが、柱の高さ方法の接続について具体的に記載されていない。
一般に、木製材は定尺寸法になっているため、柱高さ全長に亘って接続部のない状態での施工は困難となる場合が多い。木製材に燃え代として一定の耐火性を期待する場合、木製材は所定の厚さが必要となるため、柱の高さ方向に積層することは可能であり、水平方向のずれ止めを適切に配置すればよい。しかし、前述の燃焼過程における木製材の下部崩壊については、上部と一体でない積層構造の場合、柱高さ全長に亘る材料よりも不利になる場合もある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、木製材を耐火被覆あるいは燃え代層として活用するのに際し、その性能を十分に発揮させる木製耐火被覆柱を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る木製耐火被覆柱は、鋼材または木材の柱の外周を囲う耐火被覆材または燃え代材として木製材を配置したものであって、
前記木製材の耐火性能が、柱の上方から下方に向けて、連続的に、または段階的に、または連続的と段階的が組み合わされた態様で、強化されていることを特徴とするものである。
【0011】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記木製材の耐火性能の強化が、前記木製材の板厚を、柱の上方から下方に向けて、連続的に、または段階的に、または連続的と段階的が組み合わされた態様で増厚することで実現されていることを特徴とするものである。
【0012】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記木製材の耐火性能の強化が、前記木製材の下方の所定の範囲のみ難燃処理をすることで実現されていることを特徴とするものである。
【0013】
(4)また、上記(1)乃至(3)に記載のものにおいて、前記木製材における柱側の面と前記柱の外面との間隔が、柱の下方から上方に向けて、連続的に、または段階的に、または連続的と段階的が組み合わされた態様で、広くなっており、
前記木製材の下地材として、軽鉄下地を前記木製材における前記柱側の面に沿わせて柱高さ方向に配置し、該軽鉄下地の上端が下端よりも外側に位置していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、耐火被覆あるいは燃え代層となる木製材に関し、柱の下部の耐火性を増厚あるいは難燃化処理によって高めたので、火災時に木製材が下部から崩壊し、柱が早期に加熱されることを防止でき、柱上部の木製材全体の炭化層を長時間保持し、耐火性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態1の木製耐火被覆柱の垂直断面図である。
【
図2】実施の形態1の木製耐火被覆柱の水平断面図である。
【
図4】実施の形態1の他の態様の説明図である(その1)。
【
図5】実施の形態1の他の態様の説明図である(その2)。
【
図6】実施の形態1の他の態様の説明図である(その3)。
【
図7】実施の形態1の他の態様の説明図である(その4)。
【
図8】実施の形態1の他の態様の説明図である(その5)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施の形態1]
本実施の形態を
図1~
図3に基づいて説明する。
図1は木製耐火被覆柱の垂直断面図、
図2は木製耐火被覆柱の水平断面図、
図3は
図2の破線で囲んだ部分の拡大図である。
実施の形態1に係る木製耐火被覆柱1は、
図1~3に示すように、柱3の外周を囲う耐火被覆材または燃え代材として木製材5を配置したものであって、木製材5の耐火性能が、柱3の上方から下方に向けて連続的に強化されているものである。
本例においては、木製材5を支持する軽鉄下地材7が設けられているが、後述するように軽鉄下地材7は必須ではない。
また、柱3と木製材5の間に、不燃性のボードを設置してもよい。
なお、
図1、
図2においては、柱3と木製材5と軽鉄下地材7以外は図示を省略している。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0017】
<柱>
木材でも鋼管あるいは形鋼でもよいが、本実施の形態では鋼管柱を例に挙げている。
また、柱3が木材の場合、木造建築用の柱材であればその種類は問わない。
【0018】
<木製材>
木製材5は、柱3の外周面を囲い、耐火被覆材または燃え代材として機能する。
木製材5は、CLT、集成材、無垢材でもよく、樹種も限定しない。
木製材5は、
図1に示すように、柱3上端の板厚がt1(例えば60mm)、柱下端の板厚がt2(例えば90mm)で、上端から下端にかけて板厚が厚くなるように内側面が連続的に傾斜した一枚の部材となっている。
【0019】
本実施の形態では、木製材5を支持するために木製材5の内面側に軽鉄下地材7を設けている。
また、本実施の形態では、
図2に示すように、木製材5における柱側の面と柱3の外面との間隔Sが、柱3の下方から上方に向けて、連続的に広くなっている。そこで、軽鉄下地材7を木製材5における柱側の面に沿わせて柱高さ方向に配置し、軽鉄下地材7の上端が下端よりも外側に位置しているようにしている。
【0020】
軽鉄下地材7は、本例のように変化する木製材5の板厚を考慮し、上方が外に開く形で設置するか、鉛直に設置してスペーサーをいれてもよい。
なお、木製材5における柱側の面と柱3の外面との間隔Sは、柱3の下方から上方に向けて、段階的に、または連続的と段階的が組み合わされた態様で広くしてもよい。
【0021】
軽鉄下地材7は、少なくとも上部はランナーに固定しないで嵌合状態とするとよく、それにより、軽鉄下地材7を木製材5とビス等によって締結することにより、軽鉄下地材7は木製材5の形状に略追従する。その際、部分的に隙間が空いていても問題はない。
なお、木製材5の厚さが60mm程度あれば、下地材がなくても十分に自立可能なため軽鉄下地材7を省略してもよい。
また、軽鉄下地材7に代えて、柱3に固定する不燃性のスペーサーによって木製材5を保持してもよい。
【0022】
断面方向の木製材5同士の接合方法は限定しないが、ピン、くさび、接着剤でもよく、望ましくは、
図3に示すように、鬼目ナットなどのめねじ部材9を一方の木製材5に嵌装しておき、他方の木製材5とボルト11で締結する。ボルト11を設ける部分には座ぐり13を施し、締結後に蓋15をする。蓋15の内部には、木製材5と同等以上の耐火性を有する充填材を施工してもよい。木製材5同士の接合面には、接着剤を併用するとよりよく、無機系接着剤でもよいが、炭化層を形成する酢酸ビニル系やゴム系の接着剤としてよい。
【0023】
<木製材の耐火性能>
木製材5の耐火性能は、柱3の上方から下方に向けて連続的に強化されている。
本実施の形態においては、
図1に示すように、木製材5の板厚を、柱3の上方から下方に向けて連続的に厚くして耐火時間が連続的に確保するようにしている。木製材5の板厚を厚くして耐火時間を確保しても、木製材5と柱3の間に、耐火被覆層、空気層、輻射反射層を任意に設けてよく、これらの組み合わせによって木製材5の所定の耐火時間を得るものとする。
【0024】
なお、木製材5の耐火性能を、柱3の上方から下方に向けて強化する態様としては
図1に限定されるものではなく、例えば以下に示す態様がある。
(a)
図4に示す態様は、上端から下方に向かう途中まで同一の板厚t1とし、途中から板厚が下方に向かって連続的に厚くなって下端の板厚がt2(t1<t2)となっている。つまり、木製材5の板厚を、木製材5の下部の部分で連続的に増厚した態様である。
【0025】
(b)
図5に示すように、木製材5の板厚を、上端から下方に向かう途中まで連続的に増厚し[t1→t3](t1<t3)、中間部の板厚を一定(t3)にし、さらに中間部より下方を、下方に向かって連続的に増厚した[t3→t2](t3<t2)態様
【0026】
(c)
図6に示すように、木製材5を3段積層し、下方に向かって木製材5の板厚を順次増厚した態様[t1→t3→t2](t1<t3<t2)
この態様は、本発明における、「耐火性能が柱3の上方から下方に向けて段階的に強化されている」ものに相当する。なお、本例では、中間部の板厚t3=(t1+t2)/2となっている。
なお、本態様において木製材5の積層数は3段に限られず、積層段数は2段でも4段以上でもよい。
【0027】
(d)
図7に示すように、木製材5を3段積層し、上2段の板厚をt1とし最下段の板厚をt1よりも厚いt2として増厚した態様
なお、本態様において、増厚していない木製材5の積層段数や増厚している木製材5の積層段数は特に限定されない。
例えば、
図8に示すように、木製材5を3段積層し、最上段の板厚をt1とし、中段および最下段の板厚をt2に揃えて増厚した態様も含まれる。
【0028】
木製材5を上下に積層する場合、千鳥目地としてもよいが、芋目地が好ましい。積層される木製材5の上下端面に穴を穿ち、ピンにより固定するとよい。ピンを用いない場合、断面を平面ではなく、相欠継のように段付き形状としてもよく、深目地を設けて、さらに目地に充填処理をしてもよい。目地材は耐火材を充填してもよく、その上にシーリング材を施工してもよい。
【0029】
耐火試験を行うと、加熱時間、木製材5の板厚によっては、試験終了まで炭化層が保持される場合もあるが、下層部の木製材5が残置された状態で上部が崩落する場合もある。
崩落した木製材5は炭化しており、燃焼を継続しているが、下層部の木製材5の加熱面側(外表面側)が炭化しつつ形状を保持して自立しているため、崩落した木製材5はその周囲で燃焼することになり、柱本体とは一定の距離が保持されている。特に、本実施の形態のように、上方を外側に開く形で軽鉄下地を配置していると、崩落時に、確実に外側に向かって落下していくため、柱3が直接加熱される危険が減少することになる。
【0030】
このように本実施の形態によれば、火災時に木製材5が下部から崩壊し、柱3が早期に加熱することを防止でき、木製材5を耐火被覆あるいは燃え代層として、その性能を十分に発揮させることができる。
【0031】
[実施の形態2]
実施の形態1では、木製材5の下部の耐火性を強化するために、板厚を増厚したが、所定の範囲を難燃処理してもよい。
すなわち、木製材5の下部の耐火性能を強化するのに、難燃処理のみの態様でもよいし、実施の形態1の板厚の増加に加えて難燃処理を行う態様でもよい。
【0032】
難燃処理は、塗布、浸漬、加圧注入など任意の方法でよく、加熱時に不燃性ガス(N2,H2O,CO2,SO3,NH3等)を発生して可燃性のガスを希釈するもの、薬剤中にハロゲンを含ませて可燃ガス中の水酸基(OH基)やアルデヒド基(CHO基)等の活性基の反応を抑制するもの、ZnCl,H3PO4等の薬剤で木製材5中のセルロースを水と炭素に分解するもの、木製材5中に不溶不融性無機化合物を生成させ、木製材5への熱の遮断と酸素の供給を遮るもののいずれでもよい。
【0033】
難燃処理の範囲は、木製材5の下部を必須とし、柱高さ方向に連続する1枚板とする場合、概ね高さの半分以下を難燃処理すればよい。また、板厚の全厚に対してではなく、板厚方向の一部の範囲としてもよく、上下方向で処理深さあるいは濃度を変化させ、下方を深く(濃く)、上方を浅く(薄く)するとよい。
また、板厚方向では、表面側とすると、表面からの燃焼が抑制される効果が期待できるが、裏面側とすると、裏面側の炭化層が維持されやすく、上部の木製材5が外側に崩落しやすくなる利点がある。
【0034】
木製材5は、火災終了時に脱落する方が柱3の温度が上がらなくなるため、加熱中に形状保持できていれば、その後崩壊させてよい。上下に木製材5を積層させる場合には、最下段を難燃処理するとよく、さらに板厚を増厚するとよりよい。
【0035】
本実施の形態によれば、実施の形態1と同様に、火災時に木製材5が下部から崩壊し、柱3が早期に加熱することを防止でき、木製材5を耐火被覆あるいは燃え代層として、その性能を十分に発揮させることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 木製耐火被覆柱
3 柱
5 木製材
7 軽鉄下地材
9 めねじ部材
11 ボルト
13 座ぐり
15 蓋