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特開2023-135090イオン伝導性固体状組成物および固体状二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135090
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】イオン伝導性固体状組成物および固体状二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/056 20100101AFI20230921BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230921BHJP
【FI】
H01M10/056
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040116
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社AESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】上川 優貴
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM07
5H029AM12
5H029AM16
5H029BJ13
5H029CJ22
5H029HJ01
(57)【要約】
【課題】高いイオン伝導性と高い成形加工性とを兼ね備え、かつ、リチウム金属表面にて高い耐酸化/還元分解性を有する界面皮膜を形成することにより、固体電解質の酸化分解または還元分解の防止を可能とする、イオン伝導性固体状組成物を提供すること。このようなイオン伝導性固体状組成物を利用した、エネルギー密度が高く、かつサイクル寿命が長い固体状二次電池を提供すること。
【解決手段】イオン伝導性非晶質無機物質と、主鎖および/または側鎖にフッ素原子を有するイオン伝導性高分子物質と、を少なくとも含む、イオン伝導性固体状組成物であって、該イオン伝導性固体状組成物の表面の少なくとも一部が、フッ化リチウムで被覆されている、イオン伝導性固体状組成物ならびにイオン伝導性固体状組成物を含む固体状電解質と、正極と、負極と、を少なくとも含む、固体状二次電池を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性非晶質無機物質と、主鎖および/または側鎖にフッ素原子を有するイオン伝導性高分子物質と、を少なくとも含む、イオン伝導性固体状組成物であって、
該イオン伝導性固体状組成物の表面の少なくとも一部が、フッ化リチウムで被覆されている、イオン伝導性固体状組成物。
【請求項2】
該イオン伝導性非晶質無機物質が、該イオン伝導性固体状組成物の質量を基準として80%以上含まれている、請求項1に記載のイオン伝導性固体状組成物。
【請求項3】
該イオン伝導性固体状組成物のイオン伝導度が、1×10-2[S・m-1]以上である、請求項1または2に記載のイオン伝導性固体状組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のイオン伝導性固体状組成物を含む固体状電解質と、正極と、負極と、を少なくとも含む、固体状二次電池。
【請求項5】
該固体状電解質と該負極との界面の少なくとも一部が、フッ化リチウムで被覆されている、請求項4に記載の固体状二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性固体状組成物、ならびに固体状二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解質は、従来の非水電解液と比較して二次電池に様々な優位性をもたらす。たとえば、固体電解質は、高い難燃性を有し、リチウムイオン二次電池に高い安全性をあたえることができる。また、固体状電解質は、幅広い充放電レート条件において、高いエネルギー密度、良好な充放電サイクル安定性、および、電気化学的安定性の優位性を提供することができる。そこで、電解液を使用せず、固体電解質のみを使用した全固体電池の実用化が進められている。ところが、全固体電池の実用化には様々な課題がある。
【0003】
第一に、電解質と電極の接触状態に関する課題である。無機固体電解質層表面および電極表面のナノスケールの凹凸に起因して、無機固体電解質層表面と電極表面の界面には微細な細孔が存在する。当該界面細孔により2つの問題が生じうる。当該界面細孔は、固体電解質層/電極界面の抵抗を増大させる。また、当該界面細孔は、固体電解質層/電極界面のリチウム流束を不均一化させ、固体電解質層/電極接触部におけるリチウム濃度および電流密度を集中させ、リチウムデンドライトの生成を増大させる。無機硫化物や酸化物等の無機固体電解質は、室温で高いイオン伝導性(>10-4S/cm)を有するが、この高いイオン伝導性を効率よく利用できない場合がありうる。
【0004】
第二に、無機硫化物や酸化物等の無機固体電解質の薄膜状電解質層への加工性に関する課題である。過剰な厚さを有する固体電解質層は、固体電解質の電子抵抗に起因する固体電解質層の電気抵抗を増大させる。固体電解質層内部における固体電解質粒子間の空孔体積および空孔直径の増大は、リチウムデンドライトの形成を増大させる。また、非イオン伝導性高分子結着剤を固体電解質粒子間に添加すると、固体電解質層のイオン伝導性および電子伝導性が低下する。一方、無機または有機高分子化合物を利用した高分子電解質は、電解質層/電極界面の空隙および薄膜状電解質層形成に関する前記の課題を改善し得る。しかしながら高分子電解質は、無機固体電解質と比較して、イオン伝導度に劣る。
このように、大型全固体電池の製造や、大型全固体電池の利用(たとえば電動車両)の実現には、固体電解質層のイオン伝導性を犠牲にすること無く、リチウムの析出の発生を抑制し、かつ良好な固体電解質層/電極界面の形成および薄膜状電解質層を形成可能な程度の弾塑性を有する固体電解質が必要となる。
【0005】
第三に、無機硫化物や酸化物等の無機固体電解質は、リチウム金属負極および正極の作動電圧と比較して、狭い耐酸化還元安定電位域を有するため、無機固体電解質は、リチウム金属負極および正極の表面において充放電中に容易に酸化分解あるいは還元分解されうる。無機固体電解質の酸化分解物または還元分解物は、極めてイオン伝導性が低く、充放電サイクル中にリチウムイオン二次電池の抵抗の上昇を引き起こす虞がある。
【0006】
このような課題を解決すべく、これまでに種々の全固体電解質が提案されている。たとえば、特許文献1は、前記の第一の課題を解決し得る固体電解質として、無機固体電解質とイオン液体の複合物が提案されている。特許文献2には、前記の第二の課題を解決し得る成形加工性に優れた固体電解質として、無機固体電解質とイオン伝導性高分子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-82091号公報
【特許文献2】特開2018-515893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1や特許文献2にて提案されている全固体電解質は、前記の一部の課題を解決しうるが、前記の三つの課題をすべて解決するような全固体電解質の提案が強く要望されている。そこで、本発明は、高いイオン伝導性と高い成形加工性とを兼ね備え、かつ、リチウム金属表面にて高い耐酸化/還元分解性を有する界面皮膜を形成することにより、固体電解質の酸化分解または還元分解の防止を可能とする、イオン伝導性固体状組成物を提供することを目的とする。さらに本発明は、このようなイオン伝導性固体状組成物を利用した、エネルギー密度が高く、かつサイクル寿命が長い固体状二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の実施形態は、イオン伝導性非晶質無機物質と、主鎖および/または側鎖にフッ素原子を有するイオン伝導性高分子物質と、を少なくとも含む、イオン伝導性固体状組成物である。該イオン伝導性固体状組成物の表面の少なくとも一部が、フッ化リチウムで被覆されていることを特徴とする。
該イオン伝導性非晶質無機物質が、該イオン伝導性固体状組成物の質量を基準として80%以上含まれていることが好ましい。
また、該イオン伝導性固体状組成物のイオン伝導度が、1×10-2[S・m-1]以上であることが好ましい。
【0010】
さらに本発明の二の実施形態は、前記のイオン伝導性固体状組成物を含む固体状電解質と、正極と、負極と、を少なくとも含む、固体状二次電池である。
該固体状電解質と該負極との界面の少なくとも一部が、フッ化リチウムで被覆されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のイオン伝導性固体状組成物は、高いイオン伝導性と高い成形加工性とを兼ね備える。また本発明のイオン伝導性固体状組成物は、リチウム金属表面にて高い耐酸化/還元分解性を有する界面皮膜を形成することができるため、これを利用した固体電解質の酸化分解または還元分解を防止することが可能である。さらに本発明のイオン伝導性固体状組成物を利用した固体状二次電池は、エネルギー密度が高く、かつサイクル特性に優れ、長い寿命を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を以下に説明する。一の実施形態のイオン伝導性固体状組成物は、イオン伝導性非晶質無機物質と、主鎖および/または側鎖にフッ素原子を有するイオン伝導性高分子物質と、を少なくとも含み、該イオン伝導性固体状組成物の表面の少なくとも一部が、フッ化リチウムで被覆されていることを特徴とする。
【0013】
本明細書において、イオン伝導性とは、電荷がイオン(アニオンまたはカチオン)の移動によって輸送される現象のことである。また固体状組成物とは、2以上の物質の混合物である複合材料であって、常温の温度範囲において固体または半固体(ゲル状)であるものを指す。すなわち、イオン伝導性固体状組成物は、常温の温度範囲において、固体または半固体の中をアニオンまたはカチオンが移動することにより電荷が輸送される環境を作ることができる複合材料のことである。
一の実施形態のイオン伝導性固体状組成物は、イオン伝導性非晶質無機物質と、主鎖および/または側鎖にフッ素原子を有するイオン伝導性高分子物質と、を含む。本明細書において非晶質物質とは、結晶質ではない、ということであり、具体的には固体を構成する原子や分子に規則性のある配列が認められない物質を指す。本明細書では非晶質物質を無定形物質、アモルファス等を称することがある。また、無機物質は、有機物質以外のすべての物質のことである。一の実施形態においてイオン伝導性非晶質無機物質とは、アニオンまたはカチオンが移動することにより電荷が輸送されるような特性を有する、無定形の無機物のことである。イオン伝導性非晶質無機物質の例として、ペロブスカイト(たとえば、LixLa(2/3)-xTiO、0≦x≦0.67)、リチウム超イオン伝導体化合物(たとえば、Li2+2xZn1-xGeO、0≦x≦1;Li14ZnGe16)、チオリシコン(登録商標)化合物(たとえば、Li4-x1-y、AはSi、GeまたはSn、BはP、Al、Zn、Ga;Li10SnP12)、ガーネット(たとえば、LiLaZr12、LiLa12、MはTaまたはNb)、ナシコン型リチウムイオン伝導体(たとえば、Li1.3l0.3Ti1.7(PO)、酸化ガラスまたはガラスセラミック(たとえば、LiBO-LiSO、LiO-P、LiO-SiO)、硫化物ガラスまたはガラスセラミック(たとえば、75LiS-25P、LiS-SiS、LiI-LiS-B)、リン酸塩(たとえば、Li1-xAlGe2-x(PO(LAGP)、Li1+xTi2-xAl(PO))、α-ヨウ化銀(α-AgI)、ヨウ化リチウム(LiI)K-プリデライト(K1.5Mg0.75Ti7.2516)、Na-β-アルミナ(NaO・11Al)、安定化ジルコニア(たとえばZr0.85Ca0.15)O)、ナシコン(NaZrSiPO12)、酸化ビスマス((Bi0.750.25)、Li3.6Si0.60.4、LiPSCl、AgSI、およびAgWOが挙げられ、これらの無機物質のうち2以上を組み合わせて用いることができる。イオン伝導性非晶質無機物質は、それ単独で1に近い輸率を有し、好ましくは0.9以上、さらに好ましくは0.99以上の輸率を有する。
【0014】
一の実施形態のイオン伝導性固体状組成物は、イオン伝導性非晶質無機物質のほかに、主鎖および/または側鎖にフッ素原子を有するイオン伝導性高分子物質を含む。本明細書において高分子物質とは、分子量が大きい分子であって、分子量が小さい分子から実質的または概念的に得られる単位の多数回の繰り返しで構成した構造を有する物質、であると定義される。本明細書では、高分子物質のことを単に高分子と称することがあり、ほかには高分子化合物、ポリマー等と称することがある。一の実施形態において用いられる高分子物質は、主鎖および/または側鎖にフッ素原子を有し、かつ上記のイオン伝導の性質を有する。一の実施形態で用いるイオン伝導性高分子物質は、線状、分岐状、網状、櫛形状、ブラシ状のいずれの形状を有していても良い。このような形状の高分子物質の主鎖あるいは側鎖のいずれか、あるいはそれらの両方にフッ素原子を有していることが好ましい。イオン伝導性高分子物質の主鎖または側鎖を構成する主構造は、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミン、ポリアミド、ポリアラミド、ポリウレタン、ポリエーテル、アクリル樹脂、ポリシロキサン、またはエポキシ樹脂等を挙げることができ、これらの2以上の構造を併せ持つ共重合体構造を有していても良い。またこれらの構造を有する高分子物質を2以上選択して混合して用いることもできる。一の実施形態で用いるイオン伝導性高分子物質は、上記の構造を有する主鎖および/または側鎖の一部にフッ素原子が存在している。このほか、イオン伝導性高分子物質の主鎖および/または側鎖の末端には、シアノ、チオール、アミド、アミノ、スルホン酸、エポキシ、カルボキシルまたはヒドロキシル基から選択される基が置換していても良い。主鎖および/または側鎖にフッ素原子を有するイオン伝導性高分子物質として、パーフルオロポリエーテル(PFPE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂や、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン-四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等のフッ素化樹脂共重合体を好適に用いることができる。
【0015】
イオン伝導性高分子物質は、500g/モル-50,000g/モル、好ましくは1,000g-40,000g/モル、さらに好ましくは100g/モル-10,000g/モルの範囲の数平均分子量を有することが好ましい。
イオン伝導性高分子物質は、-50℃以下のガラス転移温度、好ましくは-70℃以下のガラス転移温度を有している。すなわちイオン伝導性高分子物質は、常温でガラス状または無定形であることが好ましい。また、イオン伝導性高分子物質は、室温付近の、比較的低い融点を有していることが好ましい。イオン伝導性高分子物質の融点は、150℃以下、好ましくは100℃以下、さらに好ましくは50℃以下である。
【0016】
一の実施形態において、イオン伝導性固体状組成物中のイオン伝導性非晶質無機物質の含有比は、イオン伝導性固体状組成物の質量を基準として80%以上、好ましくは90%以上であることが好ましい。
一の実施形態のイオン伝導性固体状組成物は、イオン伝導性非晶質無機物質と、イオン伝導性高分子物質とを、上記の含有比となるように混合することにより製造することができる。これらの成分は、好ましくは溶媒等を用いることなく混合することにより製造することができる。これらの成分の混合は、たとえばボールミル、遊星ミキサ、押出機、ニーダ、混練機等の機械を用いて行うことができる。場合によっては、イオン伝導性高分子物質と、適切な溶媒とを混合して溶液または懸濁液を得て、この液体にイオン伝導性非晶質無機物質を添加して混合することにより、一の実施形態のイオン伝導性固体状組成物を得ることもできる。この際、用いた溶媒は適切な方法で蒸発させて除去しても良く、イオン伝導性固体状組成物中にそのまま残存させても良い。得られるイオン伝導性固体状組成物は、粘土状固体、ペースト状固体、ゲル状固体等、あらゆる固体形状のものであって良い。
【0017】
一の実施形態のイオン伝導性固体状組成物に、適切な量の電解質を添加することにより、イオン伝導性固体状電解質を形成することができる。イオン伝導性固体状組成物に添加することができる電解質は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF)、ヘキサフルオロアンチモン酸リチウム(LiSbF)、テトラフェニルほう酸リチウムトリス(1,2-ジメトキシエタン)(LiB(C)、過塩素酸リチウム(LiClO)、リチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、1-エチル-3メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニルイミド)(EMIFSI)、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(MPPYFSI)等のような、ある程度のサイズのアニオン径を有するリチウム塩を用いることが好ましい。電解質として、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム等のカリウム塩、またはトリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム等のナトリウム塩を用いることもできる。イオン導電性固体状組成物中の電解質の濃度は、0.5-10モル%、好ましくは0.8-5モル%、さらに好ましくは1.0-3モル%程度とすることができる。一の実施形態のイオン伝導性固体状組成物に、適切な量の電解質を加えて得られたイオン伝導性固体状電解質は、1×10-2[S・m-1]以上のイオン伝導度を有する。イオン伝導性固体状電解質のイオン伝導度は高いことが好ましい。
【0018】
一の実施形態のイオン伝導性固体状組成物は、このほか、イオン伝導性高分子物質中にイオン伝導性非晶質無機物質をほぼ均一に分散させるための分散剤や、イオン伝導性固体状組成物の機械的強度を調節するための各種薬剤(たとえば可塑剤、強化剤)、イオン伝導性固体状組成物の性質を改善するための各種薬剤(たとえば耐熱剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤)を適宜加えることができる。一の実施形態のイオン伝導性固体状組成物と、電解質と、必要に応じて他の薬剤とを含む、固体状電解質は、好ましくは膜形状に形成する。膜とは、所定の面積を有する概ね平面構造を有する比較的薄い層のことである。固体状電解質の面積や厚さは、後述する固体状二次電池の用途や所望の出力等に応じて適宜定めることができる。たとえば、固体状電解質の厚さは、10μm-1,000μmまでの範囲で、所望のものとすることができる。固体状電解質の大きさを適宜変更することにより、2mAh/cm-5mAh/cmの範囲の面積容量を有する固体状電解質を得ることが好ましい。
【0019】
一の実施形態において、イオン伝導性固体状組成物の表面の少なくとも一部が、フッ化リチウムで被覆されていることが好ましい。一の実施形態のイオン伝導性固体状組成物に、上記の電解質を適切な量添加して、これをイオン伝導性の固体状電解質として使用し、後述する固体状二次電池を形成することができる。この固体状二次電池を充放電すると、特に充電時に、一の実施形態のイオン伝導性固体状組成物に含まれているイオン伝導性高分子物質が負極表面付近で還元分解し、フッ化リチウム(LiF)を生成する。生成したLiFは、固体状電解質の負極側表面上の少なくとも一部を被覆し、良質な固体電解質界面(Solid Electrolyte Interface、SEI)を形成する。一の実施形態のイオン伝導性固体状組成物を含む固体状電解質の表面の少なくとも一部にSEIが存在することにより、イオン伝導性固体状電解質が電子的に絶縁されるので、見かけ上の耐久性が獲得されることになる。
【0020】
本発明の二の実施形態は、一の実施形態のイオン伝導性固体状組成物を含む固体状電解質と、正極と、負極と、を少なくとも含む、固体状二次電池である。
二の実施形態で用いる固体状電解質は、一の実施形態のイオン伝導性固体状組成物に電解質を添加したものである。ここで電解質は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF)、ヘキサフルオロアンチモン酸リチウム(LiSbF)、テトラフェニルほう酸リチウムトリス(1,2-ジメトキシエタン)(LiB(C)、過塩素酸リチウム(LiClO)、リチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、1-エチル-3メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニルイミド)(EMIFSI)、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(MPPYFSI)等のようなリチウム塩あるいは、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム等のカリウム塩、またはトリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム等のナトリウム塩の中の1つまたは2以上を組み合わせて用いることができる。二の実施形態の固体状二次電池は、電解質としてリチウム塩を用いた場合は「固体状リチウム二次電池」であり、カリウム塩を用いた場合は「固体状カリウム二次電池」であり、ナトリウム塩を用いた場合は「固体状ナトリウム二次電池」となる。
【0021】
二の実施形態において用いる正極とは、アルミニウム箔等の金属箔である正極集電体に、正極活物質を含む混合物を塗布または圧延および乾燥して正極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。すなわち正極は、正極集電体と、その両面または片面に塗布された正極活物質を含む正極活物質層とから構成される。二の実施形態において、正極活物質層は、正極活物質と、バインダーとを含むことが好ましい。正極活物質とは、電気エネルギーを発生させる反応に関与する物質のうち正極に用いられるものである。またバインダーとは、一般には粒子形状の正極活物質同士を電気的に接触させるために、正極活物質粒子を結着させるための物質である。
【0022】
二の実施形態において用いる正極活物質は、好ましくはリチウム・ニッケル系複合酸化物を正極活物質として含む。リチウム・ニッケル系複合酸化物とは、一般式LiNiMe(1-y)(ここでMeは、Al、Mn、Na、Fe、Co、Cr、Cu、Zn、Ca、K、Mg、およびPbからなる群より選択される、少なくとも1種以上の金属である。)で表される、リチウムとニッケルとを含有する遷移金属複合酸化物である。特にリチウム・マンガン系複合酸化物を含むことが好ましい。リチウム・マンガン系複合酸化物は、たとえばジグザグ層状構造のマンガン酸リチウム(LiMnO)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn)等を挙げることができる。また正極活物質は、特に、一般式LiNiCoMn(1-y-z)で表される層状結晶構造を有するリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を含む。ここで、一般式中のxは1≦x≦1.2であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数であり、yの値が0.5以上である。なお、マンガンの割合が大きくなると単一相の複合酸化物が合成されにくくなるため、1-y-z≦0.4とすることが望ましい。高容量の電池を得るためには、y>1-y-z、y>zとすることが特に好ましい。この一般式を有するリチウム・ニッケル系複合酸化物は、すなわちリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物(以下、「NCM」と称することがある。)である。NCMは、電池の高容量化を図るために好適に用いられるリチウム・ニッケル系複合酸化物である。たとえば、一般式LiNiCoMn(1.0-y-z)において、x=1、y=0.8、z=0.1の複合酸化物を「NCM811」と称し、x=1、y=0.5、z=0.2の複合酸化物を「NCM523」と称する。
なお、固体状二次電池の正極として、硫黄を用いることも可能である。
【0023】
正極活物質とともに正極活物質層を形成するバインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を挙げることができる。
【0024】
また正極活物質層には、場合により導電助剤が含まれていても良い。場合により用いられる導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メソポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。その他、正極活物質層には、増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
【0025】
二の実施形態において用いる負極とは、銅箔等の金属箔である負極集電体に、負極活物質を含む混合物を塗布または圧延および乾燥して負極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。すなわち負極は、負極集電体と、その両面に塗布された負極活物質を含む負極活物質層とから構成される。二の実施形態において、負極活物質層は、負極活物質と、バインダーとを含むことが好ましい。負極活物質とは、電気エネルギーを発生させる反応に関与する物質のうち負極に用いられるものである。またバインダーとは、一般には粒子形状の負極活物質同士を電気的に接触させるために、負極活物質粒子を結着させるための物質である。
【0026】
二の実施形態において用いる負極活物質は、炭素系活物質を含む。炭素系活物質は、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、またはこれらの任意の混合物であることが好ましい。ここで黒鉛とは、六方晶系六角板状結晶の炭素材料であり、石墨、グラファイト等と称されることがある。天然黒鉛および人造黒鉛は、非晶質炭素による被覆を有する天然黒鉛、および非晶質炭素による被覆を有する人造黒鉛を含む。ここで、非晶質炭素とは、部分的に黒鉛に類似するような構造を有していてもよい、微結晶がランダムにネットワークした構造をとった、全体として非晶質である炭素材料のことである。非晶質炭素として、カーボンブラック、コークス、活性炭、カーボンファイバー、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソポーラスカーボン等が挙げられる。人造黒鉛を用いる場合、層間距離d値(d002)が0.33nm以上のものであることが好ましい。人造黒鉛の結晶の構造は、一般的に天然黒鉛よりも薄い。人造黒鉛を非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池用負極活物質として用いる場合は、リチウムイオンが挿入可能な層間距離を有している必要がある。リチウムイオンの挿脱が可能な層間距離はd値(d002)で見積もることができ、d値が0.33nm以上であれば問題なくリチウムイオンの挿脱が行われる。二の実施形態において、炭素系活物質は、概ね均一のまたは不揃いの大きさを有する粒子の形態であることが好ましい。
負極活物質は、炭素系活物質のほか、ケイ素およびケイ素含有活物質、スズおよびスズ含有活物質を用いることができる。また、固体状二次電池の負極として、リチウム金属およびリチウム合金化金属を用いることも可能である。
【0027】
炭素系活物質、ケイ素系活物質、スズ系活物質等の負極活物質は、バインダーにより粒子同士を結着させることで電気的な接触を良好にすることもできる。バインダーは、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸の金属塩、ポリ(メタ)アクリル酸のアルキルエステルまたはそれらの任意の混合物を含むことが好ましい。バインダーとして好適な化合物は、たとえば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸カリウム;ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチルであり、これらの任意の混合物であっても良い。バインダーの含有量は、負極活物質層の固形分総量に対して、2質量%以上10質量%未満であることが好ましい。バインダーの含有量が多すぎると、活物質表面がバインダーに覆われる部分が多くなるため、イオン伝導性や電子伝導性が低下するおそれがある。また、バインダーの含有量が少なすぎると、負極活物質粒子同士の電気的接触が適切に行われないおそれがある。
【0028】
バインダーの成分として、上記の化合物のほか、さらにセルロースの誘導体であるカルボキシメチルセルロース(「CMC」と称する。)、またはカルボキシメチルセルロースの金属塩(たとえば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム)が含まれていることが特に好ましい。カルボキシメチルセルロースまたはカルボキシメチルセルロースの金属塩は、上記のバインダー化合物を安定化させる役割を果たし、負極活物質の電気的接触をも安定化させる。バインダーの成分としてCMCまたはCMCの金属塩をさらに添加する場合、CMCまたはCMC金属塩の含有量は、負極活物質層の固形分総量に対して0.05質量%以上1.5質量%以下、特に0.08質量%以上0.8質量%以下、さらに0.15質量%以上0.30質量%以下であることが好ましい。
【0029】
負極活物質層は、さらに導電助剤を含んでいても良い。導電助剤は、電極の抵抗を低減するための材料である。導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メソポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。二の実施形態において、導電助剤としてカーボンナノチューブ(「CNT」と称する。)用いることが特に好ましい。CNTは、炭素原子の六員環ネットワーク(グラフェン)が単層または多層の同軸管構造を有する物質のことであり、シングルウォールカーボンナノチューブ(単層、「SWNT」と称する。)とマルチウォールカーボンナノチューブ(多層、「MWNT」と称する。)がある。いずれのCNTを用いてもよいが、特に実施形態では、SWNTを導電助剤として用いることが好ましい。
【0030】
導電助剤としてCNTを用いる場合、CNTの含有量は、負極活物質層の固形分総量に対して、0.01質量%以上1質量%以下、特に0.03質量%以上0.8質量%以下、さらに0.1質量%以上0.5質量%以下であることが好ましい。
【0031】
その他、負極活物質層には、増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
【0032】
二の実施形態の固体状二次電池は、一の実施形態のイオン伝導性固体状組成物を含む固体状電解質が、セパレータの役割を果たすため、通常はセパレータを構成部材として含まない。ただし、上記したように、一の実施形態のイオン伝導性固体状組成物を得る際に、溶媒を用いた場合等、セパレータを用いたほうが良い場合は、セパレータを構成部材として含むことができる。セパレータは、たとえばポリオレフィンフィルムを用いることができる。ポリオレフィンとは、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、へキセンなどのα-オレフィンを重合または共重合させて得られる化合物のことであり、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセンのほか、これらの共重合体を挙げることができる。セパレータとしてポリオレフィンフィルムを用いる場合は、電池温度上昇時に閉塞される空孔を有する構造、すなわち多孔質あるいは微多孔質のポリオレフィンフィルムであれば特に好都合である。ポリオレフィンフィルムがこのような構造を有していることにより、万一電池温度が上昇しても、セパレータが閉塞して(シャットダウンして)、イオン流を寸断することができる。すなわち一軸延伸ポリオレフィンフィルムは、電池の加熱時に収縮して孔が塞がるため、正負極間の短絡を防ぐことが可能となる。シャットダウン効果を発揮するためには、多孔質のポリエチレン膜を用いることが非常に好ましい。
【0033】
また、架橋されたフィルムをセパレータとして用いることができる。多孔質または微孔質ポリオレフィンフィルムは加熱時に収縮する性質を有するため、電池の過熱時にはフィルムが収縮してシャットダウンする。しかしながらフィルムの熱収縮率が大きすぎると、フィルムの面積が大きく変化してしまい、かえって大電流の流れを生じることにもなりかねない。架橋されているポリオレフィンフィルムは、熱収縮率が適切であるため、過熱時にも、大きく面積を変化させることなく孔を塞ぐ分だけ収縮することができる。
【0034】
二の実施形態において場合により用いられるセパレータは、該セパレータの片面または両面に耐熱性微粒子層を有していてもよい。この際、電池の過熱を防止するために設けられた耐熱性微粒子層は、耐熱温度が150℃以上の耐熱性を有し、電気化学反応に安定な無機微粒子から構成される。このような無機微粒子として、シリカ、アルミナ(α-アルミナ、β-アルミナ、θ-アルミナ)、酸化鉄、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウムなどの無機酸化物;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、スピネル、マイカ、ムライトなどの鉱物を挙げることができる。
【0035】
二の実施形態の固体状二次電池は、液体状の電解質は含まないことが好ましい。ただし固体状電解質のイオン伝導性や導電性を向上させることを目的として、固体状電解質中に少量の非水電解質が含まれていても良い。非水電解質は、イオン性物質を有機溶媒に溶解させた電気伝導性のある物質のことである。上記の正極と負極とが重ね合わせられ、それらの間に固体状電解質が配置され、これと場合により非水電解質を含む固体状電解質二次電池素子が、二の実施形態の固体状二次電池の主構成部材の一単位である。通常は、複数の正極と複数の負極とが複数の固体状電解質を介して重ね合わされてできた積層物が組み合わされて固体状二次電池が形成されている。二の実施形態において、場合により用いることができる液体状の電解質は、主に非水電解液であって、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジ-n-プロピルカーボネート、ジ-t-プロピルカーボネート、ジ-n-ブチルカーボネート、ジ-イソブチルカーボネート、またはジ-t-ブチルカーボネート等の鎖状カーボネートと、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)等の環状カーボネートとを含む混合物であることが好ましい。液体状の電解質は、このようなカーボネート混合物に、上記のような、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF)、ヘキサフルオロアンチモン酸リチウム(LiSbF)、テトラフェニルほう酸リチウムトリス(1,2-ジメトキシエタン)(LiB(C)、過塩素酸リチウム(LiClO)、リチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、1-エチル-3メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニルイミド)(EMIFSI)、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(MPPYFSI)等のようなリチウム塩あるいは、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム等のカリウム塩、またはトリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム等のナトリウム塩を溶解させたものである。
【0036】
液体状の電解質は、このほか、添加剤として上記の環状カーボネートとは異なる環状カーボネート化合物を含んでいてもよい。添加剤として用いられる環状カーボネートとしてビニレンカーボネート(VC)が挙げられる。また、添加剤として、ハロゲンを有する環状カーボネート化合物を用いることもできる。これらの環状カーボネートも、固体状二次電池の充放電過程において正極ならびに負極の保護被膜を形成することができる化合物である。特に、ジスルホン酸化合物またはジスルホン酸エステル化合物のような硫黄を含む化合物による、リチウム・ニッケル系複合酸化物を含有する正極活物質への攻撃を防ぐことができる化合物である。ハロゲンを有する環状カーボネート化合物として、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ジクロロエチレンカーボネート、トリクロロエチレンカーボネート等を挙げることができる。ハロゲンを有し不飽和結合を有する環状カーボネート化合物であるフルオロエチレンカーボネートは特に好ましく用いられる。
【0037】
また、液体状の電解質は、添加剤としてジスルホン酸化合物をさらに含んでいてもよい。ジスルホン酸化合物とは、一分子内にスルホ基を2つ有する化合物であり、スルホ基が金属イオンと共に塩を形成したジスルホン酸塩化合物、あるいはスルホ基がエステルを形成したジスルホン酸エステル化合物を包含する。ジスルホン酸化合物のスルホ基の1つまたは2つは、金属イオンと共に塩を形成していてもよく、アニオンの状態であってもよい。ジスルホン酸化合物の例として、メタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,3-プロパンジスルホン酸、1,4-ブタンジスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、ビフェニルジスルホン酸、およびこれらの塩(メタンジスルホン酸リチウム、1,2-エタンジスルホン酸リチウム等)、およびこれらのアニオン(メタンジスルホン酸アニオン、1,2-エタンジスルホン酸アニオン等)が挙げられる。またジスルホン酸化合物としてはジスルホン酸エステル化合物が挙げられ、メタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,3-プロパンジスルホン酸、1,4-ブタンジスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、またはビフェニルジスルホン酸のアルキルジエステルまたはアリールジエステル等の鎖状ジスルホン酸エステル;ならびにメチレンメタンジスルホン酸エステル、エチレンメタンジスルホン酸エステル、プロピレンメタンジスルホン酸エステル等の環状ジスルホン酸エステルが好ましく用いられる。メチレンメタンジスルホン酸エステル(MMDS)は特に好ましく用いられる。
【0038】
固体状電解質と、正極と、負極とを含む二の実施形態の固体状二次電池は、通常は、外装体で封止される。封止とは、固体状二次電池素子の少なくとも一部が外気に触れないように、外装体材料により包まれていることを意味する。固体状二次電池の外装体は、ガスバリア性を有し、固体状二次電池素子を封止することが可能な筐体か、あるいは柔軟な材料から構成される袋形状のものである。外装体は、アルミニウム缶や、アルミニウム箔とポリプロピレン等を積層したアルミニウムラミネートシートなどを好適に使用することができる。すなわち外装体は、固体状二次電池を外部に露出させない材料であればいかなるものを使用してもよい。外装体の最外層にポリエステル、ポリアミド、液晶性ポリマーなどの耐熱性の保護層を有し、最内層にポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー、マレイン酸変性ポリエチレンなどの酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレンなどの酸変性ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PETとPENのブレンド、PETとPEIのブレンド、ポリアミド樹脂、ポリアミド樹脂とPETのブレンド、キシリレン基含有ポリアミドとPETのブレンドなどからなる熱可塑性樹脂から構成されたシーラント層を有するラミネートフィルムを用いることができる。外装体は、これらのラミネートフィルムを1枚または複数枚組み合わせて接着または溶着し、さらに多層化したものを用いて形成してもよい。ガスバリア性金属層としてアルミニウム、スズ、銅、ニッケル、ステンレス鋼を用いることができる。金属層の厚みは30~50μmであることが好ましい。特に好適には、アルミニウム箔と、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリマーとの積層体であるアルミニウムラミネートを使用することができる。
二の実施形態の固体状二次電池は、コイン型電池、ラミネート型電池、巻回型電池など、種々の形態であってよい。
【0039】
二の実施形態において、固体状電解質負極との界面の少なくとも一部が、フッ化リチウムで被覆されていることが好ましい。一の実施形態のイオン伝導性固体状組成物に、上記の電解質を適切な量添加して、これをイオン伝導性の固体状電解質として使用した二の実施形態の固体状二次電池を充放電すると、特に充電時に、一の実施形態のイオン伝導性固体状組成物に含まれているイオン伝導性高分子物質が負極表面付近で還元分解し、フッ化リチウム(LiF)を生成する。生成したLiFは、固体状電解質の負極側表面上の少なくとも一部を被覆し、良質な固体電解質界面(Solid Electrolyte Interface、SEI)を形成する。一の実施形態のイオン伝導性固体状組成物を含む固体状電解質の表面の少なくとも一部にSEIが存在することにより、イオン伝導性固体状電解質が電子的に絶縁されるので、見かけ上の耐久性が獲得されることになる。
【実施例0040】
以上、本発明の実施形態について説明した。以下には本発明の実施例を説明する。上記実施形態ならびに以下に記載する実施例は、いずれも本発明を例示的説明したに過ぎず、本発明の技術的範囲を特定の実施形態あるいは具体的実施例の構成に限定する趣旨ではない。
[実施例1]
(イオン導電性非晶質無機物質の調製)
イオン導電性非晶質無機物質として、LiPSCl粒子を調製した。
アルゴンが充填されたグローブボックス内で、75gの10mmジルコニアボールを80mLジルコニア製容器の中に入れた。続いて、10.0gのLiPSCl(NEI Co.)を入れ、容器を密閉した。容器をグローブボックスから取り出し、ボールミルに固定し、混合物を500rpmで24時間粉砕し、硫化物ガラス微粒子(LiPSCl粒子)を得た。
【0041】
(イオン伝導性固体状電解質の調製)
イオン伝導性高分子物質として市販のパーフルオロポリエーテル(PFPE、分子量約1,000g/モル)を用いた。不活性雰囲気下のグローブボックス内で、45.45gのPFPEと、市販のリチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)4.55gを混合した。次いで、80mLのジルコニア製カップに、このPFPEとLiTFSIの混合物0.2gと、75gの10mmジルコニアボールと、上記のように得られた1.8gの硫化物ガラス微粒子を充填した。粉砕時間全体にわたり不活性雰囲気下に留まるように、ジルコニア製カップを密閉した。ジルコニア製カップをボールミルに固定し、370rpmで2時間混合し、イオン導電性固体状電解質を得た。
【0042】
(固体状二次電池の作製)
固体状二次電池セルは以下のように作製した。2枚のリチウム金属負極(直径約1センチ)の間に、上記のように得られたイオン伝導性固体状電解質(直径1cm、厚さ約0.75mm)を配置した。組み立てられた積層物を2つのステンレス鋼ディスクの間に挟み、ステンレス鋼ディスクをボルトにて固定した。ステンレス製タブを両側に取り付け、石英ガラス製容器に密閉し、リチウム金属/イオン伝導性固体状電解質/リチウム金属の固体状二次電池セルを得た。
【0043】
(固体状二次電池セルのサイクル充放電試験)
固体状二次電池セルを25℃の雰囲気下に静置し、50μA/cm2の電流密度にて1時間ごとに転極させ、当該サイクルを200サイクル実施した。
【0044】
(固体状電解質表面のフッ化リチウムの存在の確認)
サイクル充放電試験終了後、固体状二次電池セルを分解し、イオン伝導性固体状電解質の負極側表面にフッ化リチウムが存在するか否かを、X線光電子分光法によるF1sスペクトルにより確認した。
【0045】
(固体状電解質表面の硫化リチウムの存在の確認)
サイクル充放電試験終了後、固体状二次電池セルを分解し、イオン伝導性固体状電解質の負極側表面に硫化リチウム(LiS)が存在するか否かを、X線光電子分光法によるS2pスペクトルにより確認した。なお、LiSは、固体状二次電池のサイクル充放電試験中に、硫化物ガラス微粒子(LiPSCl粒子)が還元分解することにより生成しうる物質である。LiSは、10-13S・cm-1という極めて低いイオン伝導性を有する物質である。サイクル充放電試験後のイオン伝導性固体状電解質の表面にLiSの存在が認められる場合は、固体状電解質と負極との界面の抵抗が増大していることが考えられる。
【0046】
[比較例1]
実施例1において、イオン伝導性固体状電解質にPEPFを添加しないこと以外は、実施例1と同様に固体状二次電池セルを作成した。実施例1と同条件にてサイクル充放電試験を行い、その後、固体状二次電池セルを分解して、イオン伝導性固体状電解質の負極表面にフッ化リチウムが存在するか否かを、X線光電子分光法によるF1sスペクトルにより確認した。また、イオン伝導性固体状電解質の負極表面に硫化リチウムが存在するか否かを、X線光電子分光法によるS2pスペクトルにより確認した。
【0047】
【表1】
【0048】
本発明のイオン伝導性非晶質無機物質とイオン伝導性高分子物質との組み合わせを使用したイオン伝導性固体状電解質は、これを用いた固体状二次電池のサイクル充放電後に表面上にLiFの生成が認められる一方、LiSの生成はほとんど認められなかった。本発明のイオン伝導性固体状組成物は、固体状電解質と負極との界面に良質なSEIを形成し、非晶質無機物質の還元分解を防ぐことができる。本発明の固体状二次電池は、充放電サイクルに伴う高抵抗化や容量劣化を防ぐことができ、寿命の長い電池となりうることがわかる。