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特開2023-135114ダッチトッピングの製造方法及びダッチトッピング用プレミックス粉
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135114
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】ダッチトッピングの製造方法及びダッチトッピング用プレミックス粉
(51)【国際特許分類】
   A21D 10/00 20060101AFI20230921BHJP
   A21D 13/40 20170101ALI20230921BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20230921BHJP
   A21D 2/14 20060101ALI20230921BHJP
   A21D 13/13 20170101ALI20230921BHJP
   A21D 13/22 20170101ALI20230921BHJP
【FI】
A21D10/00
A21D13/40
A21D2/18
A21D2/14
A21D13/13
A21D13/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040156
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】592019947
【氏名又は名称】鳥越製粉株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堤 優介
(72)【発明者】
【氏名】山下 貴志
(72)【発明者】
【氏名】渋田 隆伸
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DE10
4B032DG02
4B032DK02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK17
4B032DK18
4B032DK70
4B032DL01
4B032DL20
4B032DP23
4B032DP40
4B032DP55
4B032DP56
(57)【要約】
【課題】 製造が容易で、製造後直ちに使用でき、且つ、作り置きも可能であるダッチトッピングを提供する。
【解決手段】 穀粉、油脂、膨張剤、及び増粘剤を含むバッター状生地であり、且つ、イーストを含まないダッチトッピングを製造する。製造したダッチトッピングは、製造後直ちに使用でき、且つ、製造後24時間冷蔵庫に保管しても、品質の劣化がなく、使用できる。成形した下生地に、ダッチトッピングを塗布し、ホイロ工程を取り、その後、焼成し、ダッチブレッドを得る。得られたダッチブレッドのダッチトッピング部分は、全体的に細かく均一にひび割れており、明るい焼き色であり、ガリガリとしたサクみのある食感を有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉、油脂、膨張剤、及び増粘剤を含むバッター状生地であり、且つ、イーストを含まないダッチトッピングの製造方法。
【請求項2】
前記バッター状生地が、穀粉100質量部に対して、油脂6~16質量部、膨張剤2~7質量部及び増粘剤0.1~0.8質量部を含み、且つ、イーストを含まない、請求項1に記載のダッチトッピングの製造方法。
【請求項3】
前記油脂の一部又は全部が粉末状油脂である、請求項1又は2に記載のダッチトッピングの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の製造方法により得られるダッチトッピングを使用した、ダッチブレッド。
【請求項5】
穀粉、油脂、膨張剤、及び増粘剤を含む、ダッチトッピング用プレミックス粉。
【請求項6】
穀粉100質量部に対して、油脂6~16質量部、膨張剤2~7質量部及び増粘剤0.1~0.8質量部を含む、請求項5に記載のダッチトッピング用プレミックス粉。
【請求項7】
油脂の一部又は全部が粉末状油脂である、請求項5又は6に記載のダッチトッピング用プレミックス粉。
【請求項8】
請求項5~7のいずれかに記載のダッチトッピング用プレミックス粉を用いて、イーストを使用せずに製造される、バッター状生地であるダッチトッピングを使用した、ダッチブレッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダッチブレッド製造に用いるダッチトッピングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
リテイルベーカリーやホールセールベーカリーでは多種多様なパンが販売されており、ダッチブレッドもその一つである。ダッチブレッドは、パン表面が虎の体表のような模様にひび割れた外観を有しており、タイガーブレッドとも呼ばれる。このひび割れた外観は、下生地となるパン生地に、ダッチトッピングと呼ばれる生地を塗布することによって得られる。一般的なダッチトッピングは、イーストを含むバッター状の生地である。ダッチトッピングは、成形後の下生地に塗布してホイロ工程を取り、下生地と共に発酵させる、又は、予めダッチトッピングを下生地とは別に発酵させておき、ホイロ工程後の下生地に刷毛等で塗布する。一般的なダッチトッピングはイーストを使用し、発酵させる必要がある為、ダッチトッピングを製造直後に、ホイロ工程後の下生地に塗布することはできず、使用するまでに時間を要する。又、一般的なダッチトッピングは製造後に発酵が進み続ける為、作り置きが難しい。以上のことから、ベーカリーにおいて、手間とコストが掛かる商品となっている。
【0003】
ダッチトッピングの作り置きを可能にする技術として、特許文献1では、穀粉及び又は澱粉、流動状ショートニング、ゲル化剤、増粘剤、イースト及び水を含むドウ状生地であるダッチブレッド用トッピング剤が開示されている。従来のダッチトッピングはバッター状の生地であるが、特許文献1ではドウ状にしたダッチトッピングをリバースシーターでシート生地にし、メロンパンのメロン皮のようにすることで、作り置きを可能にしている。又、特許文献2では、α化した澱粉を含むダッチブレッドのトッピング生地用ミックスが開示されている。特許文献2も特許文献1と同様に、ダッチトッピングをシート状の生地にしている。しかしながら、これらの技術では、ダッチトッピングをドウ状の生地にして、さらにシート状の生地にする必要がある為、ダッチトッピングの製造に時間を要するという問題点がある。そこで、製造が容易で、製造後直ちに使用でき、且つ、作り置きも可能であるダッチトッピングが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-039345
【特許文献2】特開2021-145625
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、製造が容易で、製造後直ちに使用でき、且つ、作り置きが可能であるダッチトッピングの製造方法、ダッチトッピング用プレミックス粉、及びこれらにより得られるダッチトッピングを使用したダッチブレッドに関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、穀粉、油脂、膨張剤、及び増粘剤を含むバッター状生地であり、イーストを含まないダッチトッピングにより、本発明の課題が解決されることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本願の第1の発明は、穀粉、油脂、膨張剤、及び増粘剤を含むバッター状生地であり、且つ、イーストを含まないダッチトッピングの製造方法である。
【0008】
第2の発明は、第1の発明におけるバッター状生地が、穀粉100重量%に対して、油脂6~16重量%、膨張剤2~7重量%、及び増粘剤0.1~0.8重量%を含み、且つ、イーストを含まないダッチトッピングの製造方法である。
【0009】
第3の発明は、第1又は2の発明における油脂の一部又は全部が粉末状油脂である、ダッチトッピングの製造方法である。
【0010】
第4の発明は、第1~3のいずれかの発明により得られるダッチトッピングを使用した、ダッチブレッドである。
【0011】
第5の発明は、穀粉、油脂、膨張剤、及び増粘剤を含む、ダッチトッピング用プレミックス粉である。
【0012】
第6の発明は、第5の発明における穀粉100重量%に対して、油脂6~16重量%、膨張剤2~7重量%、及び増粘剤0.1~0.8重量%を含む、ダッチトッピング用プレミックス粉である。
【0013】
第7の発明は、第5又は6の発明における油脂の一部又は全部が粉末状油脂である、ダッチトッピング用プレミックス粉である。
【0014】
第8の発明は、第5~7のいずれかのダッチトッピング用プレミックス粉を用いて、イーストを使用せずに製造される、バッター状生地であるダッチトッピングを使用した、ダッチブレッドである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、製造が容易で、製造後直ちに使用でき、且つ、作り置きが可能なダッチトッピングを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ダッチブレッドとは、細かくひび割れた外観を有する、オランダ発祥のパンであり、そのひび割れた外観が虎の体表に類似することからタイガーブレッドとも呼ばれる。一般的な製法として、パン生地の上にバッター状の生地であるダッチトッピングを塗布して焼成することにより、ダッチブレッドが得られる。ダッチブレッドのダッチトッピング部分は細かいひび割れと、ガリガリしたサクみのある食感を有する。ダッチトッピングを塗布する下生地には制限は無いが、通常はソフトフランス生地が使用される。又、下生地にはフィリング等を包餡しても良い。
【0017】
一般的なダッチトッピングは、上新粉、砂糖、食塩、油脂、イースト、水を混合することにより得られる、バッター状の生地である。ダッチトッピングは、成形した下生地に塗布し、ホイロ工程を取る、又は予めダッチトッピングを発酵させておき、ホイロ工程を取った後の下生地に塗布する。ダッチトッピングは刷毛で下生地に塗布する、又は下生地を手に持ち、直接下生地をダッチトッピングに付着させる。本発明のダッチトッピングはイーストを添加しない為、ダッチトッピングの発酵の進行を考慮する必要は無く、任意のタイミングでダッチトッピングを下生地に塗布することができる。
【0018】
本発明において用いる穀粉の種類は制限されず、小麦粉、米粉、ライ麦粉、大麦粉等が使用できる。主原料としては米粉が望ましく、穀粉全量に対し、70重量%以上が米粉であることが望ましい。又、米粉は上新粉であることが望ましい。
【0019】
本発明において用いる油脂は、種類は制限されず使用できる。油脂の添加量は、望ましくは穀粉100重量%に対して、6~16重量%である。油脂の添加量が少ない場合、ダッチトッピングの流動性が悪く、綺麗な割れを有する外観にならず、ガリガリした食感が得られない。油脂の添加量が多い場合、焼成時の火抜けが悪くなり、ガリガリした食感が得られない。適度な流動性、外観、食感を得る為に、油脂の一部又は全部は、常温で粉末状であることが望ましく、さらに望ましくは油脂100重量%中、20重量%以上が粉末状である。又、粉末状油脂は、望ましくは粉末状ショートニングである。
【0020】
本発明において膨張剤は、食感と焼き色の調整及び、ダッチトッピングを任意のタイミングで使用できるようにする目的で、種類は制限されず使用できる。膨張剤の添加により適度にガリガリした食感が得られ、又、ダッチトッピングのpHをアルカリ側にすることで、適度な焼き色が得られる。イーストを使用せず膨張剤を使用することにより、ダッチトッピングの発酵工程を考慮する必要なく、製造後直ちに使用でき、又、遅効性の膨張剤により、長時間の冷蔵保管後であっても品質が劣化することなく使用できる。膨張剤の添加量は、望ましくは穀粉100重量%に対して、2~7重量%である。膨張剤の添加量が少ない場合、焼成時の火抜けが悪くなり、ガリガリした食感が得られず、焼き色は薄くなる。膨張剤の添加量が多い場合、ダッチトッピングを冷蔵保管中に過剰に反応が進み、焼き色は濃くなる。
【0021】
本発明に用いる増粘剤は、ダッチトッピングの流動性を調整する目的で使用される。増粘剤の種類は単一又は自由に組み合わせることができるが、望ましくはキサンタンガム又はグアーガムである。増粘剤の添加量は、望ましくは穀粉100重量%に対して、0.1~0.8重量%である。増粘剤の添加量が少ない場合、ダッチトッピングの保形性が劣り、下生地から流れ落ちる、又はダッチブレッド表面のひび割れ模様が十分に表れない。増粘剤の添加量が多い場合、ダッチトッピングの下生地への塗布が困難になり、ダッチブレッド表面のひび割れが大きく、焼き色は薄くなる。
【0022】
本発明のダッチトッピングの製造方法及びダッチトッピング用プレミックス粉には、必要に応じて副原料を使用することができる。副原料としては、糖類、無機塩類、乳製品、澱粉、食物繊維、蛋白、乳化剤、酵素、香料、着色料等が挙げられる。一般的なダッチトッピングでは、イーストにより砂糖が分解され適度な焼き色が得られる。本発明ではイーストを使用せず、砂糖の分解が進まない為、ぶどう糖を砂糖と併用することで、適度な焼き色が得られる。
【0023】
本発明において、ダッチトッピングはバッター状生地になるように水の添加量を調整する。添加する水は、季節を問わず冷却及び加熱をする必要は無く、水道水を使用することができる。ダッチトッピングのバッター状生地は、5~15℃で、B型粘度計で測定した粘度が50~150mPa・Sであることが望ましく、穀粉100重量%に対して、105~160重量%の水を添加することが望ましい。
【0024】
本発明により製造されたダッチトッピングは、製造後直ちに使用でき、又、使用した残りのダッチトッピングは冷蔵庫等で保管し、復温する必要が無く、任意のタイミングで再度使用することができ、製造から24時間経過後であっても、品質の劣化がないダッチブレッドを製造できる。
【0025】
本発明において、ダッチトッピングは以下の方法で製造される。
1)穀粉、油脂、膨張剤、増粘剤、及びその他の副原料を均一に混合する、又は、穀粉、油脂、膨張剤、増粘剤、及びその他の副原料を含むダッチトッピング用プレミックスに、任意の副原料を均一に混合する。混合方法は、製菓・製パン用ミキサー等を使用する、又はホイッパー等で手混ぜする。
2)1)で得られた混合物に水を添加し、均一に混合し、ダッチトッピング生地を得る。
3)2)で得られたダッチトッピング生地を成形した下生地に塗布し、ホイロ工程を取った後、蒸気焼成する、又はホイロ工程を取った後の下生地に塗布し、蒸気焼成する。
【実施例0026】
本発明を具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
表1に示す配合で均一に混合し、ダッチトッピングを得た。成形したソフトフランス生地50gにダッチトッピングを10g塗布し、温度32℃、湿度75%の条件で60分間ホイロ工程を取り、上火220℃下火220℃で20分間蒸気焼成し、ダッチブレッドを得た。
【0028】
得られたダッチブレッドは、10人のパネラーにより、各評価項目を5段階で評価し、平均点を求め、表1に示した。外観は、ダッチブレッド表面のひび割れの状態、焼き色の明るさを評価したものであり、ひび割れがあり、焼き色が付いている普通のダッチブレッドを3点とした。全体的に均一で細かくひび割れており、非常に明るい焼き色が付いているものを5点とし、ひび割れが少ない又は粗く、焼き色が極度に薄い又は濃いものを1点とした。食感は、ダッチブレッドのダッチトッピング部分を試食して評価したものであり、サクみのある食感を有する普通のダッチブレッドを3点とした。ガリガリとし、しっかりとしたサクみのある食感で、非常に口溶けが良いものを5点とし、サクみのない食感で、口溶けの悪いものを1点とした。
【0029】
【表1】
【0030】
実施例1~4、比較例1
実施例1~4は、ダッチブレッド表面のひび割れ及び焼き色が良好で、サクみのある食感が得られた。特に、油脂の一部を粉末ショートニングとした実施例1及び2は、優れた外観を有した。油脂の添加量が少ない比較例1では、ダッチトッピングの流動性が劣り、綺麗なひび割れが見られなかった。
【0031】
比較例2,3
膨張剤の添加量が少ない比較例2では、火抜けが悪く、サクみのない食感であり、焼き色は薄かった。膨張剤の添加量が多い比較例3では、焼き色が極端に濃くなり、又、ダッチトッピングが冷蔵保管中に膨張剤の反応が進み過ぎていた。
【0032】
比較例4,5
増粘剤を添加していない比較例4では、下生地に塗布したダッチトッピングが流れて、ダッチブレッド表面のひび割れ模様が十分に見られなかった。増粘剤の添加量が多い比較例5では、ダッチブレッド表面のひび割れ模様が粗く、焼き色は薄くなり、又、ダッチトッピングの粘性が強く、下生地への塗布が困難であった。
【0033】
副原料である糖類及び水の添加量について、表2に示す配合でダッチトッピングを作製し、表1に示す例と同様に評価を実施した。
【0034】
【表2】
【0035】
実施例5
ぶどう糖を添加していない実施例5では、実施例1と比較して焼き色はやや劣るが、ダッチブレッド表面のひび割れ、及び食感は良好なものが得られた。
【0036】
実施例6,7
水の添加量を減らした実施例6と、水の添加量を増やした実施例7を比較すると、どちらも良好な外観及び食感を有するダッチブレッドを得られたが、実施例7の方が細かく均一なダッチブレッド表面のひび割れが見られた。