(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135130
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】閉鎖系灌流システム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230921BHJP
【FI】
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040178
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】595040205
【氏名又は名称】株式会社東海ヒット
(74)【代理人】
【識別番号】100098936
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100098888
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 晴紀
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB01
4B029CC01
4B029CC02
4B029DG10
(57)【要約】
【課題】閉鎖系でも安定化した培養環境で培地交換と持続灌流を共に自動的に実施できる灌流システムの提供。
【解決手段】廃液系は、ポンプが培養容器内を吸引する方向で動作し、ピンチバルブで容器内液取出し用排出路のチューブ11、開放路のチューブ15を開放させると実現される。このとき、密閉容器は自然開放状態になるので、エアフィルターを介して開放路のチューブ15に外気が流入して密閉容器内に取入れられるのと並行して、密閉容器内の培地が容器内液取出し用排出路のチューブ11を通って廃液瓶に回収される。液供給系は、ポンプが培養容器内を吸引する方向で動作し、ピンチバルブで液供給路のチューブ3、液面維持用排出路のチューブ7を開放させると実現される、培養容器は密閉容器になっており、培地瓶から液供給路のチューブ3に流入した培地が密閉容器内に供給されるのと並行して、密閉容器内の気相を構成する空気が液面維持用排出路のチューブ7を通って廃液瓶に回収される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉型の培養容器と、前記培養容器への液体の供給と排出を行う給排部を備えた閉鎖系灌流システムにおいて、
前記給排部では、
液供給路と液面維持用液排出路とでなる液供給系と、
開放路と容器内液取出し用排出路とでなる廃液系とが、
系切替え手段を介して前記培養容器に切替え可能に連通しており、且つ、
前記液面維持用排出路と前記容器内液取出し用排出路が前記切替え手段よりも下流側で合流しており、その合流路にポンプが接続されていることを特徴とする閉鎖系灌流システム。
【請求項2】
請求項1に記載した閉鎖系灌流システムにおいて、
液供給路と液面維持用排出路と開放路と容器内液取出し用排出路の端部はパイプで構成され、それぞれのパイプが培養容器内に垂下されており、それぞれのパイプの垂下端部側の連通孔の高さは、液供給路>開放路>液面維持用排出路>容器内液取出し用排出路になっていることを特徴とする閉鎖系灌流システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載した閉鎖系灌流システムにおいて、
給排部では、ポンプの停止時に、廃液系を培養容器と連通させて、培養容器内の雰囲気を外部と同じにする雰囲気戻し系が実現されることを特徴とする閉鎖系灌流システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載した閉鎖系灌流システムにおいて、
開放路の開放口にはエアフィルターが設けられていることを特徴とする閉鎖系灌流システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載した閉鎖系灌流システムにおいて、
給排部は、複数の培養容器を直列の流れで連なって構成されており、
最上流側の培養容器には、液供給系の液供給路と、廃液系の容器内液取出し用排出路と、液面維持用連絡路が設けられ、
最も下流側の培養容器には、液供給系の液面維持用排出路と、廃液系の開放路と、容器内液取出し用連絡路が設けられ、
中間の培養容器には、液面維持用連絡路と、容器内液取出し用連絡路が設けられ、
隣り合う培養容器では、上流側の液面維持用連絡路と、下流側の容器内液取出し用連絡路を介して連絡されていることを特徴とする閉鎖系灌流システム。
【請求項6】
請求項5に記載した閉鎖系灌流システムにおいて、
液面維持用連絡路と容器内液取出し用連絡路は、それぞれ、液供給系の液面維持用排出路と廃液系の容器内液取出し用排出路と同じ構成で、隣り合う培養容器間での液体の移送が実施されることを特徴とする閉鎖系灌流システム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載した閉鎖系灌流システムにおいて、
系切替え手段はピンチバルブで構成されていることを特徴とする閉鎖系灌流システム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載した閉鎖系灌流システムにおいて、
ディッシュと、前記ディッシュを位置決めで下側から受けるディッシュアタッチメントと、前記ディッシュの上縁に装着された環状パッキンと、前記パッキンを介して上側から押圧することで前記ディッシュの上方開口を閉じる密閉蓋と、前記密閉蓋を前記ディッシュアタッチメントに対して押圧する押圧手段を備え、
前記ディッシュと前記密閉蓋との間の前記パッキンの圧潰を利用したシール構造により、密閉型の培養容器が実現されることを特徴とする閉鎖系灌流システム。
【請求項9】
請求項8記載した閉鎖系灌流システムにおいて、
シール構造を担う環状パッキンの上面は、断面視上方に向かって山状に隆起した上側輪郭を呈した凸状部になっており、前記凸状部が密閉蓋の下面側からの押圧により圧潰されることを特徴とする閉鎖系灌流システム。
【請求項10】
請求項8または9に記載した閉鎖系灌流システムにおいて、
シール構造を担う環状パッキンの下面は、断面視直線状の下側輪郭を呈した平面部になっており、前記平面部がディッシュの上縁の上端平面と当接した状態で装着されることを特徴とする閉鎖系灌流システム。
【請求項11】
請求項8から10のいずれかに記載した閉鎖系灌流システムにおいて、
シール構造を担う環状パッキンは、ディッシュの上縁側の外側面を囲むリブを備えて一体化されていることを特徴とする閉鎖系灌流システム。
【請求項12】
請求項8から11のいずれかに記載した閉鎖系灌流システムにおいて、
密閉蓋のディッシュに対向する面を透明な観察窓とすることで、前記ディッシュ内が顕微鏡観察可能に構成されることを特徴とする閉鎖系灌流システム。
【請求項13】
請求項12に記載した閉鎖系灌流システムにおいて、
密閉蓋はガラス板と前記ガラス板を保持する保持部で構成されており、前記保持部の領域を利用して押圧手段が構成されていることを特徴とする閉鎖系灌流システム。
【請求項14】
請求項8から13のいずれかに記載した閉鎖系灌流システムにおいて、
液供給路と液面維持用排出路と開放路と容器内液取出し用排出路の端部はパイプで構成され、密閉蓋に設けられたパイプ挿入孔には上側に外方に拡がったリブを有した円筒状パッキンが内嵌装着されており、
前記パイプが前記円筒状パッキンの筒内に圧入され前記密閉蓋を貫通して培養容器内に垂下される際に、前記パイプと前記密閉蓋との間の前記パッキンの圧潰を利用したシール構造により、密閉型の培養容器が実現されることを特徴とする閉鎖系灌流システム。
【請求項15】
請求項14に記載した閉鎖系灌流システムにおいて、
円筒状パッキンには下側にも外方に拡がったリブを有しており、密閉蓋の孔縁の上下面が上下のリブの間で挟持されていることを特徴とする閉鎖系灌流システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉型の培養容器への液体の供給と排出を行う給排部を備えた閉鎖系灌流システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示された顕微鏡観察用培養器では、培養容器を顕微鏡ステージに設置して使用するようになっている。
このような装置では、温度や湿度と言った培養環境を維持できるよう構成されており、灌流、培地の交換と言った作業は作業者が完全に手作業で行うか、或いは、ボタンの押下等によるマニュアル操作で行っていた。
最近では、長時間にわたって細胞等を所定の時間間隔で継続的に顕微鏡観察するようになってきており、本出願人はこれに対応して、先に特許文献2で、配管構成に特徴を有して、培養に必要な作業がプログラム動作で自動的に実施される灌流システムを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-259430号公報
【特許文献2】特開2020-031545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
而して、特許文献2の灌流システムでは開放系が想定されており、培養容器への液体の供給と排出を行う給排部の液供給系と廃液系でそれぞれポンプを接続して別々に動作させることで、培地交換と持続灌流を共に自動的に実施できていたが、閉鎖系では、その構造上の制限から、培養容器への液体の供給と排出を行う給排部の液供給系にのみポンプを接続して、容器から培地を押し出して廃液にしており、持続灌流だけが自動的に実施することが可能であった。
また、閉鎖系故に、長時間の培養では、例えば、CO2インキュベーター内での培養では、インキュベーター内の炭酸ガスの濃度と密閉容器内の炭酸ガスの濃度に差が出てきてしまったり、ポンプの動作により密閉容器の内部が加圧または陰圧状態になってその残圧が抜け難くなってしまったり等、培養環境が不安定化する。
【0005】
本発明は上記した従来の問題点に鑑みて為されたものであり、特許文献2の灌流システムの配管構成の特徴を生かしつつ、閉鎖系でも安定化した培養環境で培地交換と持続灌流を共に自動的に実施できるよう工夫された、新規且つ有用な灌流システムを提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、請求項1の発明は、密閉型の培養容器と、前記培養容器への液体の供給と排出を行う給排部を備えた閉鎖系灌流システムにおいて、前記給排部では、液供給路と液面維持用液排出路とでなる液供給系と、開放路と容器内液取出し用排出路とでなる廃液系とが、系切替え手段を介して前記培養容器に切替え可能に連通しており、且つ、前記液面維持用排出路と前記容器内液取出し用排出路が前記切替え手段よりも下流側で合流しており、その合流路にポンプが接続されていることを特徴とする閉鎖系灌流システムである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載した閉鎖系灌流システムにおいて、液供給路と液面維持用排出路と開放路と容器内液取出し用排出路の端部はパイプで構成され、それぞれのパイプが培養容器内に垂下されており、それぞれのパイプの垂下端部側の連通孔の高さは、液供給路>開放路>液面維持用排出路>容器内液取出し用排出路になっていることを特徴とする閉鎖系灌流システムである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載した閉鎖系灌流システムにおいて、給排部では、ポンプの停止時に、廃液系を培養容器と連通させて、培養容器内の雰囲気を外部と同じにする雰囲気戻し系が実現されることを特徴とする閉鎖系灌流システムである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載した閉鎖系灌流システムにおいて、開放路の開放口にはエアフィルターが設けられていることを特徴とする閉鎖系灌流システムである。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1から4のいずれかに記載した閉鎖系灌流システムにおいて、給排部は、複数の培養容器を直列の流れで連なって構成されており、最上流側の培養容器には、液供給系の液供給路と、廃液系の容器内液取出し用排出路と、液面維持用連絡路が設けられ、最も下流側の培養容器には、液供給系の液面維持用排出路と、廃液系の開放路と、容器内液取出し用連絡路が設けられ、中間の培養容器には、液面維持用連絡路と、容器内液取出し用連絡路が設けられ、隣り合う培養容器では、上流側の液面維持用連絡路と、下流側の容器内液取出し用連絡路を介して連絡されていることを特徴とする閉鎖系灌流システムである。
【0011】
請求項6の発明は、請求項5に記載した閉鎖系灌流システムにおいて、液面維持用連絡路と容器内液取出し用排出路は、それぞれ、液供給系の液面維持用排出路と廃液系の容器内液取出し用連絡路と同じ構成で、隣り合う培養容器間での液体の移送が実施されることを特徴とする閉鎖系灌流システムである。
【0012】
請求項7の発明は、請求項1から6のいずれかに記載した閉鎖系灌流システムにおいて、系切替え手段はピンチバルブで構成されていることを特徴とする閉鎖系灌流システムである。
【0013】
請求項8の発明は、請求項1から7のいずれかに記載した閉鎖系灌流システムにおいて、 ディッシュと、前記ディッシュを位置決めで下側から受けるディッシュアタッチメントと、前記ディッシュの上縁に装着された環状パッキンと、前記パッキンを介して上側から押圧することで前記ディッシュの上方開口を閉じる密閉蓋と、前記密閉蓋を前記ディッシュアタッチメントに対して押圧する押圧手段を備え、前記ディッシュと前記密閉蓋との間の前記パッキンの圧潰を利用したシール構造により、密閉型の培養容器が実現されることを特徴とする閉鎖系灌流システムである。
【0014】
請求項9の発明は、請求項8に記載した閉鎖系灌流システムにおいて、シール構造を担う環状パッキンの上面は、断面視上方に向かって山状に隆起した上側輪郭を呈した凸状部になっており、前記凸状部が密閉蓋の下面側からの押圧により圧潰されることを特徴とする閉鎖系灌流システムである。
【0015】
請求項10の発明は、請求項8または9に記載した閉鎖系灌流システムにおいて、シール構造を担う環状パッキンの下面は、断面視直線状の下側輪郭を呈した平面部になっており、前記平面部がディッシュの上縁の上端平面と当接した状態で装着されることを特徴とする閉鎖系灌流システムである。
【0016】
請求項11の発明は、請求項8から10のいずれかに記載した閉鎖系灌流システムにおいて、シール構造を担う環状パッキンは、ディッシュの上縁側の外側面を囲むリブを備えて一体化されていることを特徴とする閉鎖系灌流システムである。
【0017】
請求項12の発明は、請求項8から11のいずれかに記載した閉鎖系灌流システムにおいて、密閉蓋のディッシュに対向する面を透明な観察窓とすることで、前記ディッシュ内が顕微鏡観察可能に構成されることを特徴とする閉鎖系灌流システムである。
【0018】
請求項13の発明は、請求項12に記載した閉鎖系灌流システムにおいて、密閉蓋はガラス板と前記ガラス板を保持する保持部で構成されており、前記保持部の領域を利用して押圧手段が構成されていることを特徴とする閉鎖系灌流システムである。
【0019】
請求項14の発明は、請求項8から13のいずれかに記載した閉鎖系灌流システムにおいて、液供給路と液面維持用排出路と開放路と容器内液取出し用排出路の端部はパイプで構成され、密閉蓋に設けられたパイプ挿入孔には上側に外方に拡がったリブを有した円筒状パッキンが内嵌装着されており、前記パイプが前記円筒状パッキンの筒内に圧入され前記密閉蓋を貫通して培養容器内に垂下される際に、前記パイプと前記密閉蓋との間の前記パッキンの圧潰を利用したシール構造により、密閉型の培養容器が実現されることを特徴とする閉鎖系灌流システムである。
【0020】
請求項15の発明は、請求項14に記載した閉鎖系灌流システムにおいて、円筒状パッキンには下側にも外方に拡がったリブを有しており、密閉蓋の孔縁の上下面が上下のリブの間で挟持されていることを特徴とする閉鎖系灌流システムである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の閉鎖系灌流システムによれば、閉鎖系でも安定化した培養環境で培地交換と持続灌流を共に自動的に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態に係る閉鎖系灌流システムの供排部に着目したシステムブロック図である。
【
図8】
図1を変更した複数の密閉容器を直列化した場合の廃液系の動作説明図である。
【
図9】
図1を変更した複数の密閉容器を直列化した場合の液供給系の動作説明図である。
【
図10】
図1の密閉容器側を具体化した構造の斜視図である。
【
図14】
図11等に表された円環状パッキンの上面図、断面図および2方向の斜視図である。
【
図15】
図11等に表された円筒状パッキンの上面図、断面図および2方向の斜視図である。
【
図16】
図13に対応する、
図10とは別の密閉蓋を利用した場合の、上面図および断面図である。
【
図17】
図10とは別の密閉蓋を用いた場合の、密閉容器側の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態に係る顕微鏡観察可能な閉鎖系灌流システム1を図面にしたがって説明する。
なお、培養環境を維持するために、湿度や温度等その他の維持機構も備えているが、本発明の特徴は、給排部にあるので、その他の部分の図示や記載は適宜省略している。
【0024】
図1は、閉鎖系灌流システム1の供排部に着目したシステムブロック図である。供排部は、マイクロコンピュータを利用したプログラム動作による制御が実現されるようになっている。
培養容器は密閉容器になっており、細胞培養用に、灌流液が適量入れられて、下側が灌流液で構成された液相、上側が空気で構成された気相になっている。
供排部は、この密閉容器への灌流液の供給と密閉容器からの灌流液の排出を行っている。
流路は4つの矢印で示されているが、実際は4本の可撓性チューブで構成されており、中間部が2本ずつ1組になってピンチバルブの同じ側に取り付けられている。従って、ピンチバルブの動作により流路を切替えると、2つの流路が同時に開放・閉締される。
【0025】
それぞれのチューブの一端側はSUS製のパイプに連結されており、このパイプが密閉容器内に垂下した状態で入り込んで連通している。
同時に開放・閉締される一方の組で液供給系を構成しており、2本のチューブとそれに各別に連結されたパイプが、それぞれ、液供給路と液面維持用液排出路を担っている。
液供給路のチューブ3の一端側に接続されたパイプ5は、下部がハートカットされて舌片状になっている。この舌片状部分の基端がパイプの連通孔5aになっている。
液面維持用排出路のチューブ7の一端側に接続されたパイプ9は、下端が閉塞されて、周側に断面円形の横孔が形成されており、この横孔が連通孔9aになっている。
【0026】
他方の組で廃液系を構成しており、2本のチューブとそれに各別に連結されたパイプが、それぞれ、容器内液取出し用排出路と開放路を担っている。
容器内液取出し用排出路のチューブ11の一端側に接続されたパイプ13は、下端が閉塞されて、周側に断面円形の横孔が形成されており、この横孔が連通孔13aになっている。
開放路のチューブ15の一端側に接続されたパイプ17は、下端が開口されて、その開口が連通孔17aになっている。
それぞれのパイプの連通孔の高さは、液供給路>開放路>液面維持用排出路>容器内液取出し用排出路になっている。
【0027】
液供給系の液供給路のチューブ3の他端側には、針管が連結されており、この針管が培地瓶に針入して、培地瓶に収容されている培地の液相内に没入している。
また液面維持用排出路のチューブ7の他端側は、接続部(図示省略)を介して合流チューブ19の一端側に連なっており、合流チューブ19の他端側にも同様に針管が連結されており、この針管が廃液瓶に針入している。合流チューブ19には廃液瓶に至る途中でチューブポンプが取付けられている。
【0028】
廃液系の容器内液取出し用排出路のチューブ11の他端側は、接続部(図示省略)を介して合流チューブ19の一端側に連なっている。従って、液面維持用排出路と同様な廃液瓶への流路になっている。
開放路のチューブ15の他端側は開放口になっており、保護用のエアフィルターを介して、外部に対して開放されている。
【0029】
給排部は、このように構成されており、ポンプについては動作・停止のみの単純な制御、ピンチバルブについては切替えの制御のみで、培地交換・持続灌流・ガス交換・残圧抜けが実現できる。
液供給系と廃液系は、別ラインでコンタミは発生しない。
以下で、それぞれの系の動作モードについて説明する。
【0030】
図2に示すように、廃液系は、ポンプが培養容器内を吸引する方向で動作し、ピンチバルブで容器内液取出し用排出路のチューブ11、開放路のチューブ15を開放させると実現される。
密閉容器は自然開放状態になるので、エアフィルターを介して開放路のチューブ15に外気が流入して密閉容器内に取入れられるのと並行して、密閉容器内の培地が容器内液取出し用排出路のチューブ11を通って廃液瓶に回収される。
開放路の連通孔17aは、密閉容器内の持続灌流に必要な培地量に相当する高さ位置よりも高い位置にあり、容器内液取出し用排出路の連通孔13aはパイプ13の下端すれすれに位置しているので、パイプ13の下端を密閉容器の内底面に当接させることで、密閉容器内の培地を培養中の許容下限位置まで取り出すことができる。
連通孔13aを適当な高さの横孔にすることで、培地を吸引し過ぎるのが阻止されている。
【0031】
図3に示すように、液供給系は、ポンプが培養容器内を吸引する方向で動作し、ピンチバルブで液供給路のチューブ3、液面維持用排出路のチューブ7を開放させると実現される。
培養容器は密閉容器になっており、培地瓶から液供給路のチューブ3に流入した培地が密閉容器内に供給されるのと並行して、密閉容器内の気相を構成する空気が液面維持用排出路のチューブ7を通って廃液瓶に回収される。
液供給路の連通孔5aは、密閉容器内の持続灌流に必要な培地量に相当する高さ位置よりも高い位置にあり、液面維持用排出路の連通孔9aは、密閉容器内の持続灌流に必要な培地量に相当する高さ位置にあるので、持続灌流が可能になっている。
パイプ5が舌片状になっているので、液供給路のチューブ3に混入された空気が逃げ、培地のバブリングが阻止されている。
また、連通孔9aを適当な高さの横孔にすることで、培地量が上限維持される。
【0032】
持続灌流は、
図4に示すように、液供給系を実現させるだけで自動的に実施される。
密閉容器内では、培地の量を一定に維持しながら、培地瓶から新しい培地が上澄み液として供給され続け、並行して上澄み液よりも下側の古い培地が廃液され続ける。
培地交換は、
図5に示すように、廃液系を実現させた後に、ピンチバルブを切替えて、液供給系を実現させると、自動的に実施される。
密閉容器内では、先ず、培地が下限まで取り出され、その後に、培地瓶から新しい培地が持続灌流に必要な培地量に相当する上限位置まで供給される。それ以上はオーバーフロートとなって廃液される。
【0033】
閉鎖系で培養を行うと、培養容器が密閉容器になるので、長時間の培養では、例えば、CO
2インキュベーター内での培養では、インキュベーター内の炭酸ガスの濃度と密閉容器内の炭酸ガスの濃度に差が出てきてしまったり、ポンプの動作により密閉容器の内部が加圧または陰圧状態になってその残圧が抜け難くなってしまったり等、培養環境が不安定化する。
しかしながら、
図6に示すように、ポンプを停止すると共に、廃液系側の容器内液取出し用排出路のチューブ11、開放路のチューブ15を開通させると、密閉容器が自然開放状態になり、外気とガス交換されて、密閉容器内のガス雰囲気が外部のインキュベーター内のガス雰囲気と同じに戻る。
【0034】
また、
図7に示すように、ポンプの動作中は密閉容器が加圧状態や陰圧状態になるが、
密閉度が高くなるほど、それが残圧として残留してしまう。しかしながら、ポンプを停止すると共に、廃液系側の容器内液取出し用排出路のチューブ11、開放路のチューブ15を開通させると、密閉容器が自然開放状態になり、残圧が即時に抜ける。
このように、給排部では、ポンプの停止時に、廃液系を培養容器と連通させて、培養容器内の雰囲気を外部と同じにする雰囲気戻し系が実現される。
【0035】
上記では、1つの密閉容器だけを対象とする灌流システムになっているが、複数の密閉容器を対象とすることも可能である。
図8、
図9で示す給排部は、複数の密閉容器を直列の流れで連なって構成されており、最上流側の密閉容器には、液供給系の液供給路(チューブ3)と、廃液系の容器内液取出し用排出路(チューブ11)と、液面維持用連絡路が設けられている。
最も下流側の密閉容器には、液供給系の液面維持用排出路(チューブ7)と、廃液系の開放路(チューブ15)と、容器内液取出し用連絡路が設けられている。
そして、中間の密閉容器には、液面維持用連絡路と、容器内液取出し用連絡路が設けられ、隣り合う密閉容器では、上流側の液面維持用連絡路と、下流側の容器内液取出し用連絡路を介して連絡されている。
【0036】
液面維持用連絡路は、液供給系の液面維持用排出路(チューブ7、パイプ9)と同じチューブ・パイプ連結構造になっており、容器内液取出し用連絡路は、廃液系の容器内液取出し用排出路(チューブ11、パイプ13)と同じチューブ・パイプ連結構造になっている。従って、区別のために、それぞれパイプ9’、パイプ13’とする。
そして、液面維持用連絡路と容器内液取出し用連絡路は、1本のチューブ20の両端側でそれぞれ構成されており、隣り合う密閉容器どうしがこのチューブ20を介して連結されている。従って、隣り合う密閉容器間での培地の移送が可能になっている。
【0037】
図8に示すように、廃液系は、ポンプが動作し、ピンチバルブで容器内液取出し用排出路のチューブ11、開放路のチューブ15を開放させると実現される。
最も下流側の密閉容器はパイプ17が自然開放状態になり、外気が取入れ可能になるので、最も上流側の密閉容器はポンプ吸引されて、最初にパイプ13を介して培地が取出されて廃液瓶に回収される。
【0038】
この取出しにより陰圧になり、下流側で隣り合う中間の密閉容器からチューブ20を介して矢印方向に培地が吸引取出されて、最も上流側の密閉容器に移送される。この移送された培地は上記と同様に回収される。
このように、培地が順次移送され、最終的には、全ての密閉容器で培地が下限限界まで取り出されて廃液瓶に回収される。
【0039】
図9に示すように、液供給系は、ポンプが動作し、ピンチバルブで液供給路のチューブ3、液面維持用排出路のチューブ7を開放させると実現される。
最も上流側の密閉容器にパイプ5を介して培地が供給され続けるので、灌流用の適正な量を超えるオーバーフロー分は隣り合う下流側の密閉容器にチューブ20を介して移送される。
当該中間の密閉容器のオーバーフロー分もチューブ20を介して下流側で隣り合う中間容器に移送される。
このように、培地が順次移送される。最も下流側の密閉容器のオーバーフロー分は、パイプ9を介して取り出されて廃液瓶に回収される。最終的には、全ての密閉容器が、灌流用の適正な量の培地で満たされることになる。
【0040】
図10~
図13は、上記の密閉容器として利用可能な密閉型の培養容器を実現した構造を示す。
培養容器21の容器本体は市販の透明なディッシュ23になっている。このディッシュ23は底面が円形の浅い有底円筒状になっている。
ディッシュ23はアタッチメント25に装着される。このアタッチメント25はディッシュ23を2個装着できるタイプになっている。
【0041】
このアタッチメント25には装着用にフランジ付きの嵌込み穴25aが設けられており、ディッシュ23の底部を嵌込み穴25aに嵌込むことで位置決めされる。
アタッチメント25には嵌込み穴25aの直径方向で対向して一対のガイド筒25bが立ち上がっている。また、固定ネジの取付け用の雌孔25cが嵌込み穴25aの穴縁に沿って周方向に同じ間隔をあけながら3つ形成されている。雌孔25cとガイド筒25bは周方向でずれた位置にある。
【0042】
このディッシュ23の開口した上縁には円環状パッキン27が装着されている。この円環状パッキン27は本発明の特徴をなす特徴的な形状になっている。
図14に示すように、円環状パッキン27はシリコーン樹脂でなる一体成形品であり、上方視で表れる外輪郭と内輪郭はほぼ真円形を呈している。
また、周方向に直交する方向の断面視では、上側輪郭はほぼ左右対称で上方に向かって三角形の山状に隆起した角形状を呈しており、円環状パッキン27の上面はこの角形部分が環状に連なった凸状部29になっている。
【0043】
下側輪郭は直線状を呈しており、円環状パッキン27の下面はこの直線状部分が環状に連なった平面部31になっている。この平面部31は凸状部29の内側の傾斜面の下側に位置している。凸状部29の左右方向中心線とこの平面部31は直交している。
凸状部29の外側の傾斜面の下側にはリブ33が位置している。このリブ33は直状の円筒状をなしており、その軸方向上端面で凸状部29と連なっている。
【0044】
この円環状パッキン27がディッシュ23の上縁に装着されると、
図12、
図13に示すように、リブ33の内周面33aが径方向外方に向かって弾性的に拡開されてディッシュ23の外周面に圧接する。また、平面部31とリブ33の内周面33aとの境界の凹角部に、ディッシュ23の上端面と外周面との境界の凸角部が内側から当接する。平面部31はディッシュ23の上端面よりも大きくなっており、平面部31はディッシュ23の上縁を超えて内方に延出している。
【0045】
ディッシュ23の上方開口を閉じる密閉蓋35の本体37は透明なプラスチック製の円板で構成されており、ここに、上記した、パイプ5、9、13、17の垂下部分の下部が挿入される。本体37には、これらのパイプの挿入用に板厚方向に貫通する断面円形のパイプ挿通孔37a、37a……が所定位置に形成されている。
このパイプ挿通孔37aには、円筒状パッキン39が装着されている。
【0046】
図15に示すように、円筒状パッキン39はシリコーン樹脂でなる一体成形品であり、円筒状パッキン39は、直状円筒状の本体41の外周面の軸方向上端側と下端側にそれぞれ円環状に外方に拡がったリブ43、45が設けられている。
上側リブ43の上面43aと下面43bは全体が軸方向と直交する平面になっており、下側リブ45の上面45aと下面45bも全体が軸方向と直交する平面になっているが、下側では外周面側に傾斜が設けられてテーパ45cが付けられており、その分だけ、下面45bは上面45aよりも小さくなっている。
【0047】
この円筒状パッキン39が密閉蓋35のパイプ挿通孔37aに内嵌装着されると、
図12、
図13に示すように、本体41がパイプ挿通孔37aの内周面に当接する。また、上側リブ43の下面43bと本体37のパイプ挿通孔37aの穴縁の周囲の上面が当接し、下側リブ45の上面45aと本体37のパイプ挿通孔37aの穴縁の周囲の下面が当接して挟まれた状態になっている。
この円筒状パッキン39の孔に、この孔に挿通させるべきパイプが差し込まれるとパイプの外周面が円筒状パッキン39の孔周面の全体に対して隙間なく圧接されることになり、高い密閉度を確保できる。
【0048】
また、リブ43、45があることで、パイプを摺動させて垂下長さを調整する際に密閉蓋35の本体37から脱落するのを防止できると共に、パッキンとしての強度が向上している。
更に、円筒状パッキン39は下側リブ45側から本体37に差し込んで装着するため、先頭側にテーパ45cがあることで、装着し易くなっている。
【0049】
密閉蓋35の本体37をディッシュ23の上に載せると、ディッシュ23の開口が閉じられる。このとき、本体37の下面37bが円環状パッキン27の凸状部29に弾接して自重により僅かに凸条部29が圧潰される。
密閉蓋35の本体37には、ネジ挿通孔、ガイド孔も位置決めされて形成されており、ガイド孔にガイド筒25bが差し込まれて、パイプ5、……に連結されたチューブ3、……がガイド筒25bに通されてアタッチメント25の下面側に引き出される。
【0050】
更に、ネジ挿通孔に固定ネジ47が差し込まれてアタッチメント25側の雌孔25cに螺着されると、密閉蓋35がディッシュ23に対して押圧されて円環状パッキン27の凸状部29が大きく圧潰されてシール構造になる。このシール構造を介して、密閉蓋35がディッシュ23の開口が完全に閉じられて、密閉型の培養容器が実現される。
【0051】
ディッシュ23との接触面が凸条部29になっているので、小さい押圧力で円環状パッキン27が必要かつ十分に圧潰される。
また、ディッシュ23側とは平面部31で圧接されるので、各メーカーのサイズ違いにも幅広く対応可能になっている。
更に、リブ33をディッシュ23への取付け部として利用しており、取付け易くなっていると共に、パッキンとしての強度が向上している。
【0052】
密閉蓋35の本体37は透明になっているので、観察窓として利用して、ディッシュ23内が顕微鏡観察可能になっている。ディッシュ23の外側で固定ネジ47を利用してディッシュ23を密閉しており、密閉蓋35側が観察範囲を狭めることがなく、パイプ5、……のみ観察範囲に配置されているので、観察範囲を最大化できる。
なお、パイプ挿通孔37aは観察に支障が無い範囲で増設可能であり、例えば薬液投与用のものを更に加えてもよい。
【0053】
また、密閉蓋35側は円筒状パッキン39を装着した上でパイプ5、……を挿通させておき、ディッシュ23側は円環状パッキン27を装着しておき、その上で、アタッチメント25にディッシュ23を載せ、密閉蓋35で上記したように密閉するだけなので、簡易な設置作業で済む。従って、コンタミリスクを最小限に抑えることが可能になっている。
【0054】
密閉蓋35の本体37がプラスチック製の場合には、位相差観察ができないが、
図16に示すように、本体49のうち観察部49aを円形のガラス板で構成し、観察部49aの外周部を保持部49bで保持する構成にすれば、本体37と同じ外形を維持しながら、位相差観察が可能になる。
この場合でも、観察部49aと保持部49bの境界はディッシュ23の外側に位置するので、観察範囲を最大化できる。
【0055】
なお、
図12等では、円環状パッキン27が潰れておらず、円筒状パッキン39も薄肉化した状態で描かれていないが、製図上の制限から実際の状況と異なっていることは許容されたい。
【0056】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。例えば、密閉蓋35にパイプ挿入孔37aが4つ形成されているが、
図17に示すように2つでもよい。密閉型の培養容器としての使い方は、持続灌流だけを目的とする場合もあり、このような場合には2つになる。
また、ディッシュは現在市販の形状のものだけでなく、将来提供されるものでも、本発明と同じように密閉化を実現できるものであれば、本発明の範囲に含まれる。素材についても同様である。
【0057】
また、培養中の生体試料に外部から圧力を加えたり逆に圧力を引いたりする場合があるが、このような場合に特に密閉型の培養容器が重用される。この場合には、密閉蓋に内部と連通させる空気孔を設けて、この空気孔を介して、例えば、ピストン・シリンジ機構を用いて培養容器内に空気を押し入れたり、逆に培養容器内から空気を吸引したりする。ピストン・シリンジ機構のピストンの先側と培養容器との間は外部と遮断されているので、密閉状態が維持される。
このように、密閉蓋に形成する孔はパイプ挿通用には限定されず、極端に言えば、構造上は灌流に限定されないので、実施の形態に記載した顕微鏡観察可能な閉鎖系灌流システム以外の使い方も可能である。
【符号の説明】
【0058】
1…閉鎖系灌流システム
3…液供給路のチューブ 5…パイプ 5a…連通孔
7…液面維持用排出路のチューブ 9、9’…パイプ 9a…連通孔
11…容器内液取出し用排出路のチューブ 13、13’…パイプ
13a…連通孔 15…開放路のチューブ 17…パイプ
17a…連通孔 19…合流チューブ 20…チューブ
21…培養容器 23…ディッシュ 25…アタッチメント
25a…嵌込み穴 25b…ガイド筒 25c…雌孔
27…円環状パッキン 29…凸状部 31…平面部
33…リブ 33a…内周面 35…密閉蓋
37…本体 37a…パイプ挿通孔 37b…下面
39…円筒状パッキン 41…本体 43…上側リブ
43a…上面 43b…下面 45…下側リブ
45a…上面 45b…下面 45c…テーパ
47…固定ネジ 49…本体 49a…観察部
49b…保持部