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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135134
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20230921BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20230921BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20230921BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20230921BHJP
   B60W 10/11 20120101ALI20230921BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
F02D29/02 K
F02D45/00 345
F02D45/00 360A
F02D29/00 C
B60W10/06
B60W10/11
B60W10/00 104
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040185
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】的場 保憲
(72)【発明者】
【氏名】相澤 一成
(72)【発明者】
【氏名】明石 郁実
(72)【発明者】
【氏名】山本 賢宏
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 和也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 嘉紀
【テーマコード(参考)】
3D241
3G093
3G384
【Fターム(参考)】
3D241AC01
3D241AC15
3D241AC18
3D241AD02
3D241AE01
3D241AE30
3G093AA05
3G093BA04
3G093DA01
3G093DA05
3G093DB09
3G093EA02
3G093EA03
3G093EB03
3G093FB02
3G384BA02
3G384BA03
3G384CA25
3G384CB09
3G384DA44
3G384EB02
3G384ED07
3G384FA01Z
3G384FA06Z
3G384FA08Z
3G384FA28Z
3G384FA56Z
3G384FA58Z
3G384FA73Z
3G384FA79Z
3G384FA85Z
(57)【要約】
【課題】混合気の燃焼の安定性を確保できる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン本体および吸気通路を有するエンジンと、エンジンの出力回転を変速しつつ車輪に伝達する変速機とを備えた車両において、予め設定された変速スケジュールに従って変速機の段位を変更可能な変速機制御部と、吸気通路に堆積している凝縮水の量である堆積凝縮水量を推定する凝縮水量推定部と、凝縮水量推定部により推定された堆積凝縮水量が所定の判定量以上であるか否かを判定する判定部とを設け、判定部により堆積凝縮水量が判定量以上であると判定された場合に、変速機制御部に、変速スケジュールに関わらず変速機の段位を高くする強制シフトアップ制御を実施させる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン本体および当該エンジン本体に導入される吸気が流通する吸気通路を有するエンジンと、エンジンの出力回転を変速しつつ車輪に伝達する変速機とを備えた車両を制御する制御装置において、
予め設定された変速スケジュールに従って前記変速機の段位を変更可能な変速機制御部と、
前記吸気通路に堆積している凝縮水の量である堆積凝縮水量を推定する凝縮水量推定部と、
前記凝縮水量推定部により推定された前記堆積凝縮水量が所定の判定量以上であるか否かを判定する判定部とを備え、
前記変速機制御部は、前記判定部により前記堆積凝縮水量が前記判定量以上であると判定された場合に、前記変速スケジュールに関わらず前記変速機の段位を高くする強制シフトアップ制御を実施する、ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置において、
前記変速機制御部は、前記堆積凝縮水量が前記判定量以上で且つエンジン回転数が所定の判定回転数以上の場合に前記強制シフトアップ制御を実施し、前記堆積凝縮水量が前記判定量以上で且つエンジン回転数が前記判定回転数未満の場合は前記変速スケジュールに従って前記変速機の段位を変更する、ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の制御装置において、
エンジントルクを制御するトルク制御部を備え、
前記トルク制御部は、前記堆積凝縮水量が前記判定量以上で且つエンジン回転数が前記判定回転数よりも高い所定の第2判定回転数以上の場合、エンジントルクを低下させる、ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両の制御装置において、
前記トルク制御部は、前記強制シフトアップ制御の実施後にエンジン回転数が前記第2判定回転数以上になったときにエンジントルクを低下させ、前記強制シフトアップ制御が実施されていない状態でエンジン回転数が前記第2判定回転数以上になったときはエンジントルクの低下を禁止する、ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の車両の制御装置において、
前記吸気通路に堆積している凝縮水の状態を推定する凝縮水状態推定部を備え、
前記変速機制御部は、前記堆積凝縮水量が前記判定量以上で且つ前記凝縮水状態推定部によって前記凝縮水の少なくとも一部が液体であると推定された場合に、前記強制シフトアップ制御を実施する、ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両の制御装置において、
前記エンジン本体を冷却する冷却水の温度である冷却水温を検出する水温センサと、
前記吸気通路を流通する吸気の温度である吸気温を検出する吸気温センサとを備え、
前記凝縮水状態推定部は、前記水温センサおよび前記吸気温センサの各検出値に基づいて前記凝縮水の状態を判定する、ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと変速機とを備える車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるエンジンでは、停車時に吸気通路において水が凝縮して堆積する場合がある。これに対して、例えば、特許文献1には、エンジンと自動変速機とが搭載された車両であって、吸気通路内に堆積している水を除去するために、停車時に自動変速機を中立状態とした後、エンジン回転数を一時的に上昇させるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6155951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構成では、吸気通路内に堆積している水をエンジン本体に導入することで吸気通路から除去するようにしている。そのため、この構成では、吸気通路内に多量の水が堆積している状態でエンジンが始動されたときに、堆積していた多量の水が一気に燃焼室に流入して燃焼室内での混合気の燃焼が不安定になるおそれがある。このように、特許文献1の構成では、混合気の燃焼の安定性を確保する点で改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、混合気の燃焼の安定性を確保できる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、エンジン本体および当該エンジン本体に導入される吸気が流通する吸気通路を有するエンジンと、エンジンの出力回転を変速しつつ車輪に伝達する変速機とを備えた車両を制御する制御装置において、予め設定された変速スケジュールに従って前記変速機の段位を変更可能な変速機制御部と、前記吸気通路に堆積している凝縮水の量である堆積凝縮水量を推定する凝縮水量推定部と、前記凝縮水量推定部により推定された前記堆積凝縮水量が所定の判定量以上であるか否かを判定する判定部とを備え、前記変速機制御部は、前記判定部により前記堆積凝縮水量が前記判定量以上であると判定された場合に、前記変速スケジュールに関わらず前記変速機の段位を高くする強制シフトアップ制御を実施する、ことを特徴とする。
【0007】
この構成では、吸気通路に堆積している凝縮水量が判定量以上であって多量の凝縮水が吸気通路からエンジン本体に流入するおそれのあるときに、シフトアップが行われて変速機の段位が高段位に切り替えられる。シフトアップが行われるとエンジン回転数は低下する。エンジン回転数が低下すると吸気通路からエンジン本体への吸気の流量が低下し、吸気とともにエンジン本体に流入する凝縮水の量も低下する。従って、この構成によれば、多量の凝縮水が吸気通路からエンジン本体に流入するおそれがあるときに、このエンジン本体に流入する凝縮水の量を確実に低減できる。そして、凝縮水の流入によって燃焼室での混合気の燃焼が不安定になるのを防止できる。
【0008】
上記構成において、好ましくは、前記変速機制御部は、前記堆積凝縮水量が前記判定量以上で且つエンジン回転数が所定の判定回転数以上の場合に前記強制シフトアップ制御を実施し、前記堆積凝縮水量が前記判定量以上で且つエンジン回転数が前記判定回転数未満の場合は前記変速スケジュールに従って前記変速機の段位を変更する(請求項2)。
【0009】
この構成では、堆積凝縮水量が判定量以上で、且つ、エンジン回転数が判定回転数以上と高く吸気の流量が大きいことで吸気とともにエンジン本体に流入する凝縮水の量が大きくなりやすいときに、上記の強制シフトアップ制御が実施されてシフトアップが行われる。そのため、エンジン本体に多量の凝縮水が流入するのを確実に防止できる。また、堆積凝縮水量が判定量以上であっても、エンジン回転数が判定回転数未満であることでエンジン本体に流入する凝縮水の量が少なく抑えられるときには、変速スケジュールに従って変速機が制御される。そのため、多量の凝縮水がエンジン本体に流入するのを防止しつつ、運転者の予期せぬタイミングで変速段が切り替わる機会を少なく抑えて良好な運転を確保できる。
【0010】
上記構成において、好ましくは、エンジントルクを制御するトルク制御部を備え、前記トルク制御部は、前記堆積凝縮水量が前記判定量以上で且つエンジン回転数が前記判定回転数よりも高い所定の第2判定回転数以上の場合、エンジントルクを低下させる(請求項3)。
【0011】
この構成によれば、エンジン回転数が第2判定回転数以上と非常に高いことで変速段が最高段位あるいはこれに近い段位である可能性が高いとき、つまり、さらなるシフトアップによるエンジン回転数の低下が困難である可能性が高いときに、エンジントルクが低下され、これによりエンジン回転数が低減される。そのため、多量の凝縮水がエンジン本体に流入しやすい場合においてエンジン回転数をより確実に低減でき、多量の凝縮水がエンジン本体に流入するのをより確実に防止できる。
【0012】
上記構成において、好ましくは、前記トルク制御部は、前記強制シフトアップ制御の実施後にエンジン回転数が前記第2判定回転数以上になったときにエンジントルクを低下させ、前記強制シフトアップ制御が実施されていない状態でエンジン回転数が前記第2判定回転数以上になったときはエンジントルクの低下を禁止する(請求項4)。
【0013】
この構成では、強制シフトアップ制御が行われていない状態でエンジン回転数が第2判定回転数以上になったとき、つまり、運転者からの急加速等の要求に応じてエンジン回転数が急激に上昇した場合に、エンジントルクの低下が禁止される。そのため、運転者の要求に合った運転を実現できる。
【0014】
上記構成において、好ましくは、前記吸気通路に堆積している凝縮水の状態を推定する凝縮水状態推定部を備え、前記変速機制御部は、前記堆積凝縮水量が前記判定量以上で且つ前記凝縮水状態推定部によって前記凝縮水の少なくとも一部が液体であると推定された場合に、前記強制シフトアップ制御を実施する(請求項5)。
【0015】
この構成によれば、吸気通路に堆積している凝縮水の少なくとも一部が液体であることで当該凝縮水がエンジン本体に導入されやすいときに、強制シフトアップ制御が実施される。そのため、凝縮水のエンジン本体への導入を確実に防止できる。また、凝縮水のすべてが固体である場合、つまり、凝縮水が氷の状態で吸気通路の壁面に付着しておりエンジン本体に流入しないと考えられる場合に強制シフトアップ制御が実施されないことで、運転者の予期せぬタイミングでシフトアップが行われる機会を少なく抑えることができる。
【0016】
上記構成において、好ましくは、前記エンジン本体を冷却する冷却水の温度である冷却水温を検出する水温センサと、前記吸気通路を流通する吸気の温度である吸気温を検出する吸気温センサとを備え、前記凝縮水状態推定部は、前記水温センサおよび前記吸気温センサの各検出値に基づいて前記凝縮水の状態を判定する(請求項6)。
【0017】
吸気通路に堆積した凝縮水の温度は、吸気の温度やエンジン本体の温度によって変化する。これより、上記構成によれば、凝縮水の状態を精度よく判定できる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の車両の制御装置によれば、混合気の燃焼の安定性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る車両の概略構成を示したシステム図である。
図2】吸気マニホールドの概略斜視図である。
図3図2のIII-III線における概略断面図である。
図4】車両の制御系統を示したブロック図である。
図5】凝縮水流入抑制制御の手順を示したフローチャートである。
図6】インマニ凝縮水量の推定手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る制御装置が適用された車両Vの概略構成を示したシステム図である。図2は後述するエンジン1の吸気マニホールド37の概略斜視図である。図3図2のIII-III線における概略断面図である。
【0021】
本実施形態に係る車両Vは、走行用の駆動源としてエンジン1を有する。本実施形態では、エンジン1は、図1の紙面と直交する方向に直列に配設された4つの気筒4を有する直列4気筒エンジンである。車両Vには、エンジン1の出力回転を変速しつつ車輪70に伝達する変速機60が設けられている。変速機60は複数のギア段(段位)を有する多段変速機60である。本実施形態では、変速機60は、8つの段位(8段のギア)を有するつまり8速(8段変速)の変速機である。変速機60は自動変速機であり、後述するコントローラ100によってその段位が変更される。
【0022】
(エンジンの構成)
エンジン1は、複数の気筒4が形成された4サイクルのエンジン本体10と、エンジン本体10に導入される吸気が流通する吸気通路30と、エンジン本体10から排出される排気ガスが流通する排気通路40とを備える。
【0023】
エンジン本体10は、図1の紙面に垂直な方向に並ぶ4つの気筒4(図1ではそのうちの一つのみを示す)を有する。エンジン本体10は、複数の気筒4が形成されたシリンダブロック2と、シリンダブロック2の上面に取り付けられたシリンダヘッド3とを備える。各気筒4には、それぞれピストン5が往復摺動可能に収容されている。各ピストン5は、コネクティングロッドを介してクランク軸7と連結されている。ピストン5の往復運動に応じて、クランク軸7はその中心軸回りに回転する。各ピストン5の上方には燃焼室6が区画されている。
【0024】
シリンダブロック2には、クランク角センサSN1および水温センサSN5が取り付けられている。クランク角センサSN1は、クランク軸7の回転角度つまりエンジン回転数を検出する。水温センサSN5は、シリンダブロック2及びシリンダヘッド3の内部を流通する冷却水の温度である冷却水温を検出する。つまり、シリンダブロック2およびシリンダヘッド3には冷却水が流通するウォータジャケットW(図3)が形成されており、水温センサSN2はウォータジャケットWを流通する冷却水の温度を検出する。
【0025】
シリンダヘッド3には、各燃焼室6とそれぞれ連通する吸気ポート8および排気ポート9が形成されているとともに、各吸気ポート8をそれぞれ開閉する吸気弁18および各排気ポート9をそれぞれ開閉する排気弁19が組み付けられている。吸気弁18および排気弁19は、シリンダヘッド3に設けられた動弁機構によって開閉駆動される。シリンダヘッド3には、燃料配管17を介して燃料タンク(不図示)から供給された燃料を燃焼室6内に噴射するインジェクタ16と、燃焼室6内の燃料と空気の混合気に点火を行う点火プラグ15とが、各気筒4につき1つずつ取り付けられている。
【0026】
シリンダブロック2の下面には、クランク軸7を収容するクランクケース11が固定されている。クランクケース11の下面にはオイルパン21が固定されている。
【0027】
オイルパン21には、エンジン本体10の各部を潤滑する潤滑油が貯留されている。オイルパン21内の潤滑油は、オイルポンプ23により潤滑油通路22を介して各部に圧送される。潤滑油通路22には、潤滑油通路22の内側を流通する潤滑油つまりオイルパン21内の潤滑油の温度である油温を検出する油温センサSN6と、当該潤滑油の圧力である油圧を検出する油圧センサSN7が設けられている。
【0028】
吸気通路30は、各吸気ポート8と連通するようにエンジン本体10の一側面に接続されている。吸気通路30は、上流側から順に、エアクリーナ31、スロットルバルブボディ32、サージタンク36および吸気マニホールド37を有する。
【0029】
エアクリーナ31は、吸気中の異物を除去する。スロットルバルブボディ32は、吸気が流通する通路を区画するバルブケース34と、バルブケース34の内側の通路つまり吸気通路30を開閉して当該通路を通って燃焼室6に流入する吸気の流量を変更するスロットル弁33と、スロットル弁33を開閉駆動するスロットルモータ35とを有する。サージタンク36は、内側に所定の空間を備えるタンクである。吸気マニホールド37は、サージタンク36内の吸気を各燃焼室6に分配する。吸気マニホールド37は、サージタンク36と各気筒4とをそれぞれ個別に連通する複数の独立吸気通路37Aを有する。本実施形態では、吸気マニホールド37は4つの独立吸気通路37Aを有する。
【0030】
図2および図3に示すように、4つの独立吸気通路37Aは、気筒4の配列方向(気筒配列方向)に並んでいる。サージタンク36は、エンジン本体10の外側面における吸気ポート8の開口部分よりも下方に位置している。吸気マニホールド37(各独立吸気通路37A)は、サージタンク36から上方に湾曲しながら延びている。
【0031】
吸気通路30には、これを流通する吸気の流量である吸気量を検出するエアフローセンサSN2、吸気の圧力であるインマニ圧を検出するインマニ圧センサSN3および吸気の温度であるインマニ温を検出するインマニ温センサSN4が設けられている。エアフローセンサSN2はエアクリーナ31とスロットルバルブボディ32との間に取り付けられている。インマニ圧センサSN3、インマニ温センサSN4は、サージタンク36に取り付けられている。インマニ温センサSN4は、請求項の「吸気温センサ」に相当する。
【0032】
エンジン1には、燃焼室6からクランクケース11に漏出した未燃焼混合気であるブローバイガスを吸気通路30に戻すためのPCVシステム50が設けられている。PCVシステム50は、クランクケース11と吸気通路30とを連通するPCV通路51と、クランクケース11とPCV通路51の連結部分に設けられてPCV通路51を開閉するPCVバルブ52とを有する。PCV通路51は、吸気通路30のうちのサージタンク36に接続されている。つまり、吸気通路30には、PCV通路51が接続されてブローバイガスが導入されるブローバイガス導入部51Aが設けられている。PCVバルブ52は、吸気通路30内の圧力がクランクケース11内の圧力よりも低下すると開弁してブローバイガスの吸気通路30への流入を許容する。
【0033】
(制御系統)
車両Vの制御構成を、図4のブロック図に基づいて説明する。車両Vは、コントローラ(制御装置)100によって統括的に制御される。コントローラ100は、CPU、ROM、RAM等から構成される。
【0034】
コントローラ100には、車両Vに搭載された各種センサからの検出信号が入力される。上記で説明したセンサSN1~SN7に加え、車両Vには、アクセルペダル80の踏み込み量であるアクセル開度を検出するアクセル開度センサSN8と、車両Vの速度つまり車速を検出する車速センサSN9と、車両Vの走行環境の大気圧を計測する大気圧センサSN10とが設けられている。これらのセンサSN1~SN10によって検出された情報(エンジン回転数、吸気量、インマニ圧、インマニ温、水温、油温、油圧、アクセル開度、車速、大気圧)等はコントローラ100に逐次入力される。コントローラ100は、上記各情報に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつ車両Vの各部を制御する。つまり、コントローラ100は、点火プラグ15、インジェクタ16、スロットルモータ35(スロットル弁33)および変速機60等と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
【0035】
(凝縮水流入抑制制御)
吸気通路30を流れる吸気には水分が含まれている。特に、ブローバイガスは比較的多量の水分を含んでおり、本実施形態では、上記のようにブローバイガスが吸気通路30に導入されることで吸気通路30内に比較的多量の水が導入される。吸気通路30に導入された水は、停車つまりエンジン1の停止等に伴って吸気通路30等の温度が低くなると凝縮して吸気通路30内に溜まる。本実施形態では、図3のX付近、つまり、サージタンク36付近に凝縮水が溜まる。比較的多量の凝縮水が吸気通路30に溜まっている状態でエンジン1が再始動されると、多量の凝縮水が一気にエンジン本体1に導入されるおそれがある。多量の凝縮水がエンジン本体1に導入されると、燃焼室6内の温度が過剰に低下して混合気の燃焼が不安定になるおそれがある。
【0036】
そこで、本実施形態のエンジン1では、吸気通路30内の凝縮水がエンジン本体1(燃焼室6)に流入するのを抑制するための凝縮水流入抑制制御を実施する。吸気通路30に堆積している凝縮水は吸気とともにエンジン本体1に導入される。これより、吸気量(吸気の流量)が大きいときには、エンジン本体1に導入される凝縮水の量が大きくなりやすい。また、エンジン回転数が高いほど吸気量は大きくなる。これより、本実施形態では、凝縮水抑制制御として、エンジン回転数を強制的に低下させて吸気量を低下させる制御を実施する。この凝縮水抑制制御について次に説明する。
【0037】
コントローラ100は、所定のプログラムが実行されることで、機能的に、判定部101、凝縮水量推定部102、凝縮水状態推定部103、変速機制御部104およびトルク制御部105を具備するように動作する。
【0038】
判定部101は、凝縮水流入抑制制御を実施する条件つまりエンジン回転数を強制的に低下させる条件が成立するか否かの判定を行う。凝縮水量推定部102は、吸気通路30に液体または固体で堆積している凝縮水の量である凝縮水量を推定する。凝縮水状態推定部103は、吸気通路30に堆積している凝縮水の状態(全て液体であるか、液体と固体の混合状態であるか、全て固体であるか)を推定する。変速機制御部104は、変速機60の動作を制御する。トルク制御部105は、エンジン1の出力トルクであるエンジントルクを制御(変更)する。
【0039】
図5は、コントローラ100により実施される凝縮水流入抑制制御の手順を示したフローチャートである。
【0040】
コントローラ100(凝縮水量推定部102)は、吸気通路30(サージタンク36)に堆積している液体・固体(液体または固体)の水の量であるインマニ凝縮水量を推定する(ステップS1)。図6は、コントローラ100(凝縮水量推定部102)により実施されるインマニ凝縮水量の推定手順を示したフローチャートである。このインマニ凝縮水量は請求項の「堆積凝縮水量」に相当する。
【0041】
コントローラ100は、まず、吸気通路30に流入するブローバイガスの流量(単位時間あたりの流入量)であるPCV流量を算出する(ステップS21)。クランクケース11の圧力と吸気通路30の圧力との差が大きいほどPCV流量は大きくなる。クランクケース11の圧力は大気圧とほぼ同じである。これより、コントローラ100は、大気圧センサSN10により検出された大気圧と、インマニ圧センサSN3により検出されたインマニ圧つまり吸気通路30(サージタンク36)の圧力とに基づき、インマニ圧と大気圧との差が大きいほどPCV流量が大きくなるようにPCV流量を算出する。
【0042】
次に、コントローラ100は、吸気通路30に導入される水分の量(単位時間あたりの導入量)を算出する。本実施形態では、吸気通路30に導入される水分は主としてブローバイガス由来である。これより、コントローラ100は、ブローバイガスが吸気通路30に導入されることに伴って吸気通路30に導入される水の量、つまり、ブローバイガスとともに吸気通路30に導入される水の量であるPCV流入水蒸気量を、吸気通路30に導入される水分の量として算出する(ステップS22)。PCV流量が多いほどPCV流入水蒸気量は大きくなる。また、オイルパン21内の温度が高いほど、オイルパン21から蒸発してブローバイガスに混入される水の量は多くなることでPCV流入水蒸気量は大きくなる。これより、コントローラ100は、ステップS21にて算出したPCV流量と、油温センサSN6により検出された油温つまりオイルパン21内の潤滑油の温度とに基づき、PCV流量が大きいほど、また、油温が高いほどPCV流入水蒸気量が大きくなるようにPCV流入水蒸気量を算出する。
【0043】
次に、コントローラ100は、PCV流入水蒸気量のうち液体または固体の状態にある水の量である流入凝縮水量を算出する(ステップS23)。コントローラ100は、飽和水蒸気特性を利用して流入凝縮水量を算出する。具体的に、吸気通路30を流通する吸気の温度が低いほど、吸気通路30内に液体または固体で存在する水の量は多くなる。これより、コントローラ100は、インマニ温センサSN4により検出されたインマニ温に基づいて、インマニ温が低いほど流入凝縮水量が多くなるように流入凝縮水量を算出する。
【0044】
次に、コントローラ100は、吸気通路30に堆積している液体・個体の凝縮水のうちエンジン本体1に導入される水の量(単位時間あたりの導入量)であるシリンダ持ち去り量を算出する(ステップS24)。吸気通路30に存在する水は液体または気体の状態でエンジン本体1に導入される。吸気通路30に堆積している凝縮水が固体を含んでおり液体の水が少ない場合および水の気化量が少ない場合は、エンジン本体1に導入される水の量は極めて少なくなる。これより、コントローラ100は、吸気通路30に堆積している凝縮水が固体を含んでいる場合は、シリンダ持ち去り量を0(ゼロ)として算出する。一方、吸気通路30に堆積している凝縮水が液体のみの場合は、コントローラ100は、吸気通路30に堆積している液体・個体の凝縮水のうち液体の状態でエンジン本体1に導入される水の量(以下、適宜、シリンダ吸い込み液体水量という)と、堆積している液体・個体の凝縮水のうち気化して気体の状態でエンジン本体1に導入される水の量(以下、適宜、シリンダ吸い込み気体水量という)とをそれぞれ算出し、これらの合計値をシリンダ持ち去り量として算出する。
【0045】
ここで、後述するように、コントローラ100は、吸気通路30に堆積している液体・個体の凝縮水が、全て液体状態であるか、液体と固体の混合状態であるか、全て固体状態であるかを判定しており、1演算サイクル前の当該判定に基づいて、シリンダ持ち去り量を0とするか、シリンダ吸い込み液体水量およびシリンダ吸い込み気体水量を算出してこれらの合計値をシリンダ持ち去り量として算出するかを決定する。
【0046】
吸気通路30に堆積している凝縮水が液体のみの場合において、吸気通路30に堆積している凝縮水の量が多いほど、また、吸気の流量が大きいほど、エンジン本体1に導入される液体の水の量は多くなる。これより、コントローラ100は、1演算サイクル前に算出したインマニ凝縮水量(つまり吸気通路30に堆積している液体の水の量)と、エアフロ―センサSN2により検出された吸気量とに基づき、インマニ凝縮水量が大きいほど、また、吸気量が大きいほどシリンダ吸い込み量が大きくなるようにシリンダ吸い込み量を算出する。
【0047】
吸気通路30に堆積している凝縮水が液体のみの場合において、吸気通路30を流通する吸気の温度が高いほど、また、吸気通路30に堆積している凝縮水の量が大きいほど、吸気通路30にて気化してエンジン本体1に導入される水の量は大きくなる。また、吸気の流量が大きいほど、エンジン本体1に導入される気体の水の量も大きくなる。これより、コントローラ100は、インマニ温センサSN4により検出されたインマニ温、1演算サイクル前に算出したインマニ凝縮水量、エアフロ―センサSN2により検出された吸気量とに基づき、インマニ温が高いほど、インマニ凝縮水量が大きいほど、また、吸気量が大きいほどシリンダ吸い込み気体水量が大きくなるようにシリンダ吸い込み気体水量を算出する。
【0048】
コントローラ100は、吸気通路30に堆積している液体・個体の凝縮水が全て液体状態であると判定された場合には、上記のようにシリンダ吸い込み液体水量とシリンダ吸い込み気体水量とを算出し、これらの合計値をシリンダ持ち去り量として算出する。
【0049】
次に、コントローラ100は、上記の流入凝縮水量とシリンダ持ち去り量とに基づいてインマニ凝縮水量を算出する(ステップS25)。具体的に、コントローラ100は、流入凝縮水量からシリンダ持ち去り量を引いた値を積算し、この積算値をインマニ凝縮水量として算出する。
【0050】
インマニ凝縮水量を算出した後、コントローラ100は、吸気通路30に堆積している液体・固体の水、つまり、ステップS1にて算出したインマニ凝縮水量に対応する水の状態であるインマニ凝縮水量状態を推定する(ステップS2)。具体的に、コントローラ100は、上記のように、吸気通路30に堆積している液体・固体の水が、全て液体状態であるか、液体と固体の混合状態であるか、全て固体状態であるかを推定する。
【0051】
コントローラ100は、吸気通路30に堆積している液体・固体の水の温度を推定し、この温度に基づいてインマニ凝縮水量状態を判定する。具体的に、コントローラ100は、吸気通路30に堆積している液体・固体の水の温度が0度よりも高い所定の第1温度以上の場合は、当該水がすべて液体状態にあると推定し、上記温度が0度よりも低い所定の第2温度未満の場合は、当該水がすべて個体状態にあると推定し、その他の場合は、当該水が液体と固体の混合状態にあると推定する。
【0052】
ここで、エンジン本体10の温度が高いほど、吸気通路30内の温度ひいては吸気通路30に堆積している液体・固体の水の温度は高くなる。また、吸気通路30を流通する吸気の温度が高いほど、吸気通路30に堆積している液体・固体の水の温度は高くなる。また、車速が低いほど、走行風による吸気通路30の冷却量が低くなることで吸気通路30の温度は高くなり、吸気通路30に堆積している液体・固体の水の温度は高くなる。これより、コントローラ100は、水温センサSN5により検出された冷却水温と、インマニ温センサSN4により検出された吸気温と、車速センサSN9により検出された車速とに基づき、冷却水温が高いほど、吸気温が高いほど、車速が高いほど吸気通路30に堆積している液体・固体の水の温度が高くなるように当該温度を推定する。
【0053】
次に、コントローラ100(判定部101)は、ステップS1で算出したインマニ凝縮水量が予め設定された判定量以上であるか否かを判定する(ステップS3)。この判定がNOであってインマニ凝縮水量が判定量未満と少ない場合、コントローラ100(変速機制御部104)は、凝縮水抑制制御を実施せず、通常制御を実施する(ステップS11)。
【0054】
通常制御の実施時、コントローラ100(変速機制御部104)は、変速機60を予め設定された変速スケジュールに従って制御する。つまり、コントローラ100は、変速機60の段位を、予め設定されてコントローラ100に記憶されている段位にする。具体的に、通常制御時の変速機60の段位は、車速とアクセル開度とに応じて変更されるようになっており、コントローラ100には、車速とアクセル開度とについて予め設定された変速段の段位がマップ等で記憶されている。ステップS11において、コントローラ100は、上記のマップ等から、車速センサSN9により検出された車速およびアクセル開度センサSN8により検出されたアクセル開度に対応する段位を抽出し、変速機60の段位をこの抽出した段位に設定する。
【0055】
また、通常制御の実施時、コントローラ100(トルク制御部105)は、エンジントルクを、通常のエンジントルクになるように制御する。具体的に、コントローラ100は、クランク角センサSN1により検出されたエンジン回転数とアクセル開度とに基づいてエンジン1に要求されるエンジントルクである要求エンジントルクを逐次算出している。通常制御の実施時は、コントローラ100は、エンジントルクがこの要求エンジントルクになるように、スロットル弁33およびインジェクタ16を制御する。つまり、要求エンジントルクが実現されるように、スロットル弁33の開度を変更するとともに、インジェクタ16から噴射される燃料の量を変更する。
【0056】
また、ステップS3の判定がNOの場合、コントローラ100は、制限開始フラグを0にして(ステップS12)、処理を終了する(ステップS1に戻る)。
【0057】
制限開始フラグは、凝縮水抑制制御を実施すると1とされ、上記のように通常制御が実施されると0とされるフラグである。なお、エンジン1が停止すると制御開始フラグは0とされる。
【0058】
ステップS3に戻り、ステップS3の判定がYESであってインマニ凝縮水量が判定量以上の場合、コントローラ100(判定部101)は、ステップS2にて推定された吸気通路30に堆積している液体・固体の水の状態が、全て液体であるという状態と液体と固体が混合しているという状態のいずれかであるか否か、つまり、吸気通路30に堆積している液体・固体の水の少なくとも一部が液体であるか、当該水がすべて個体であるかを判定する(ステップS4)。
【0059】
このステップS4の判定がNOであって、吸気通路30に堆積している液体・固体の水が全て固体であると判定した場合、コントローラ100はステップS11に進み通常制御を実施するとともにステップS12にて制限開始フラグを0にする。
【0060】
一方、ステップS4の判定がYESであって、吸気通路30に堆積している液体・固体の水の少なくとも一部が液体であると判定した場合、コントローラ100は、エンジン回転数が第2回転数未満である、あるいは、制限開始フラグが1であるという特定条件が成立するか否かを判定する。第2回転数は予め設定されてコントローラ100に記憶されている。例えば、第2回転数は5000rpm程度に設定される。第2回転数は、請求項の「第2判定回転数」に相当する。
【0061】
ステップS5の判定がNOであって特定条件が非成立の場合、コントローラ100は、ステップS11に進み通常制御を実施するとともにステップS12にて制限開始フラグを0にする。なお、特定条件が非成立の場合とは、エンジン回転数が第2回転数以上であり且つ制限開始フラグが0である場合であり、エンジン始動後に凝縮水抑制制御が実施されることなくエンジン回転数が第2回転数以上の回転数まで上昇した場合である。
【0062】
一方、ステップS5の判定がYESであって特定条件が成立する場合、コントローラ100は、エンジン回転数が第2回転数以上であるか否かを判定する(ステップS6)。
【0063】
ステップS6の判定がNOであってエンジン回転数が第2回転数未満の場合、コントローラ100は、さらに、エンジン回転数が第1回転数以上であるか否かを判定する(ステップS9)。第1回転数は、第2回転数よりも低い値に予め設定されてコントローラ100に記憶されている。例えば、第1回転数は4000rpm程度に設定される。第1回転数は、請求項の「判定回転数」に相当する。
【0064】
ステップS9の判定がNOであってエンジン回転数が第1回転数未満の場合、コントローラ100はステップS11に進み通常制御を実施するとともにステップS12にて制限開始フラグを0にする。
【0065】
一方、ステップS9の判定がYESであってエンジン回転数が第1回転数以上(且つ第2回転数未満)の場合、コントローラ100(変速機制御部104)は、シフトアップを行う(ステップS10)。つまり、コントローラ100は、通常シフトスケジュールに従わずに強制的に変速機60の段位を現在の段位から1つ高い段位に変更する。シフトアップが行われると、エンジン回転数は低下する。ステップS10の後は、コントローラ100は、制限開始フラグを1に設定して(ステップS8)処理を終了する(ステップS1に戻る)。ここで、ステップS10のシフトアップを行う制御は、請求項の「強制シフトアップ制御」に相当する。
【0066】
ステップS6に戻り、ステップS6の判定がYESであってエンジン回転数が第2回転数以上の場合、コントローラ100は、エンジントルクを低下させるトルク制限を実施する(ステップS7)。つまり、コントローラ100(トルク制御部105)は、エンジントルクが、上記の要求エンジントルクではなく現在のエンジントルクよりも低いトルクになるようにスロットル弁33(スロットルモータ35)およびインジェクタ16を制御する。本実施形態では、エンジントルクが現在のエンジントルクに対して予め設定された所定値分低くなるようにスロットル弁33およびインジェクタ16が制御される。なお、現在のエンジントルクから上記の所定値を引いた値が要求エンジントルクよりも大きい場合は、エンジントルクは要求エンジントルクに制御される。エンジントルクが低下すると、エンジン回転数は低下する。ステップS7の後は、コントローラ100は、制限開始フラグを1に設定して(ステップS8)、処理を終了する(ステップS1に戻る)。
【0067】
このように、本実施形態では、特定条件の非成立時で、吸気通路30に堆積している液体・固体の水の量であるインマニ凝縮水量が判定量以上であり、且つ、当該水の少なくとも一部が液体である場合において、エンジン回転数が第1回転数以上になると、強制的にシフトアップが行われ、これによりエンジン回転数が低減される。また、上記場合において、エンジン回転数が第2回転数以上まで上昇すると、エンジントルクの低下が行われ、これによりエンジン回転数が低減される。また、特定条件の成立時であって、吸気通路30に堆積している液体・固体の水の量であるインマニ凝縮水量が判定量以上であり、且つ、当該水の少なくとも一部が液体である場合において、強制的なシフトアップやエンジントルクの低下が実施されない状態でエンジン回転数が第2回転数以上まで上昇したときは、強制的なシフトアップやエンジントルクの低下は禁止される。
【0068】
(作用等)
以上のように、上記実施形態に係るエンジンでは、特定条件の非成立時で、吸気通路30に堆積している液体・固体の水の量であるインマニ凝縮水量が判定量以上であり、且つ、当該水の少なくとも一部が液体である場合において、エンジン回転数が第1回転数以上になると、強制的にシフトアップが行われ、これによりエンジン回転数が強制的に低減される。そのため、インマニ凝縮水量が判定量以上であって多量の凝縮水が吸気通路30からエンジン本体1に流入するおそれのあるときに、吸気通路30からエンジン本体1への吸気の流量を低下させることができ、吸気とともにエンジン本体1に流入する凝縮水の量を低減できる。従って、凝縮水の流入によって燃焼室での混合気の燃焼が不安定になるのを防止できる。
【0069】
特に、エンジン回転数が第1回転数以上と高く吸気の流量が大きいことで吸気とともにエンジン本体1に流入する凝縮水の量が大きくなりやすいときに、強制的にシフトアップが行われる。そのため、吸気とともにエンジン本体1に多量の凝縮水が流入するのを確実に防止できる。また、エンジン回転数が第1回転数未満であることでエンジン本体1に流入する凝縮水の量が少なく抑えられるときには、強制的なシフトアップが行われず通常制御が実施されるので、運転者の予期せぬタイミングで変速段が切り替わる機会を少なく抑えて良好な運転を確保できる。
【0070】
また、特定条件の非成立時で、エンジン回転数が第2回転数以上になると、エンジントルクが低減されて、これによりエンジン回転数が強制的に低減される。そのため、変速機60の段位が最高段位となること等に伴ってシフトアップによるエンジン回転数の低減が困難になる一方で、インマニ凝縮水量が判定量以上であって多量の凝縮水が吸気通路30からエンジン本体1に流入するおそれが依然としてあるときにも、吸気通路30からエンジン本体1への吸気の流量をさらに低下させることができる。従って、吸気とともにエンジン本体1に流入する凝縮水の量をより低下させることができ、この凝縮水の流入によって燃焼室での混合気の燃焼が不安定になるのを確実に防止できる。
【0071】
また、上記実施形態では、吸気通路30に堆積している液体・固体の水の少なくとも一部が液体である場合に強制的なシフトアップまたはエンジントルクの低下が実施される。そのため、吸気通路30に堆積している液体・固体の水の少なくとも一部が液体であることで当該凝縮水がエンジン本体1に導入されやすいときに、この凝縮水のエンジン本体1への導入を確実に防止できる。そして、凝縮水のすべてが固体である場合、つまり、凝縮水が氷の状態で吸気通路30の壁面に付着しておりエンジン本体1に流入しないと考えられる場合には、強制的なシフトアップやエンジントルクの低下が禁止されるので、運転者の予期せぬタイミングでシフトアップやエンジントルクの低下が行われる機会を少なくして良好な運転を確保できる。
【0072】
また、上記実施形態では、特定条件の成立時であって、吸気通路30に堆積している液体・固体の水の量であるインマニ凝縮水量が判定量以上であり、且つ、当該水の少なくとも一部が液体である場合において、強制的なシフトアップやエンジントルクの低下が実施されない状態でエンジン回転数が第2回転数以上まで上昇したときには、強制的なシフトアップやエンジントルクの低下が禁止される。つまり、運転者により急加速等が行われて強制的なシフトアップやエンジントルクの低下が実施される前にエンジン回転数が第2回転数以上まで急上昇したときは、インマニ凝縮水量やこれに対応する水の状態に関わらず、強制的なシフトアップやエンジントルクの低下は禁止される。そのため、運転者が急加速等を行ったにも関わらずエンジン回転数の上昇が抑制されることで運転者が違和感を覚えるのを防止できる。
【0073】
また、上記のように、エンジン本体10の温度が高いほど、吸気通路30内の温度ひいては吸気通路30に堆積している液体・固体の水の温度は高くなる。また、吸気通路30を流通する吸気の温度が高いほど、吸気通路30に堆積している液体・固体の水の温度は高くなる。これに対応して、上記実施形態では、水温センサSN5により検出された冷却水温と、インマニ温センサSN4により検出された吸気温とに基づき、冷却水温が高いほど、また、吸気温が高いほど、吸気通路30に堆積している液体・固体の水の温度が高くなるように当該温度を推定する。そのため、吸気通路30に堆積している液体・固体の水の温度および当該水の状態を精度よく推定できる。
【0074】
また、上記のように、車速が低いほど走行風による吸気通路30の冷却量が低くなることで吸気通路30の温度は高くなり、吸気通路30に堆積している液体・固体の水の温度は高くなる。これに対応して、上記実施形態では、さらに、車速センサSN9により検出された車速とに基づき、車速が高いほど吸気通路30に堆積している液体・固体の水の温度が高くなるように当該温度を推定する。そのため、吸気通路30に堆積している液体・固体の水の温度および当該水の状態をより確実に精度よく推定できる。
【0075】
(変形例)
上記実施形態では、吸気通路に堆積している液体・固体の水の少なくとも一部が液体の場合に、強制的なシフトアップおよびエンジントルクの低下を実施する場合を説明したが、当該水の状態に関わらずインマニ凝縮水量が判定量以上であれば強制的にシフトアップを実施するあるいはエンジントルクを低下させるように構成してもよい。
【0076】
また、上記実施形態において強制的にエンジントルクを低下させる制御は省略してもよい。また、上記特定条件の成立時に強制的なシフトアップおよびエンジントルクの低下を禁止する制御は省略してもよい。つまり、特定条件の成立時であっても強制的なシフトアップおよびエンジントルクを実施するように構成してもよい。
【0077】
また、吸気通路に堆積している液体・固体の水の量であるインマニ凝縮水量や、当該水の温度および当該水の状態の推定手順は上記に限られない。
【0078】
また、エンジンの具体的な構成は上記に限られない。例えば、エンジンの気筒数は上記に限られない。また、排気通路を流通する排気の一部をEGRガスとして吸気通路に還流させるEGR装置を有するエンジンに上述した制御が適用されてもよい。EGR装置を有するエンジンでは、EGRガスに含まれる水分が吸気通路にて凝縮・堆積しやすい。そのため、このようなエンジンに上述した制御が適用されれば、凝縮水がエンジン本体に導入されることに伴って混合気の燃焼が不安定になるのを効果的に防止できる。
【符号の説明】
【0079】
1 エンジン
10 エンジン本体
30 吸気通路
60 変速機
101 判定部
102 凝縮水量推定部
103 凝縮水状態推定部
104 変速機制御部
105 トルク制御部
SN4 インマニ温センサ(吸気温センサ)
SN5 水温センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6