IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トクヤマデンタルの特許一覧

特開2023-135158ポリマー及びこれを用いた歯科用接着性組成物
<>
  • 特開-ポリマー及びこれを用いた歯科用接着性組成物 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135158
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】ポリマー及びこれを用いた歯科用接着性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/00 20060101AFI20230921BHJP
   A61K 6/30 20200101ALI20230921BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20230921BHJP
   A61K 6/15 20200101ALI20230921BHJP
   C08F 290/12 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
C08F8/00
A61K6/30
A61K6/887
A61K6/15
C08F290/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040223
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】岸 裕人
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 修平
(72)【発明者】
【氏名】福留 啓志
【テーマコード(参考)】
4C089
4J100
4J127
【Fターム(参考)】
4C089AA10
4C089BE06
4C089CA03
4J100AL03Q
4J100AL04Q
4J100AL05Q
4J100AL08P
4J100AL08Q
4J100AL08R
4J100BA02Q
4J100BA05Q
4J100BA06Q
4J100BA08Q
4J100BA15P
4J100BA64R
4J100BA65R
4J100BB01P
4J100BB03P
4J100CA05
4J100CA31
4J100DA01
4J100HA11
4J100HA62
4J100HC05
4J100HC45
4J100HE08
4J100HE14
4J100JA03
4J100JA52
4J127AA01
4J127AA03
4J127BA041
4J127BA161
4J127BB041
4J127BB081
4J127BB221
4J127BC031
4J127BC131
4J127BD061
4J127BG061
4J127BG06Y
4J127BG171
4J127BG17X
4J127BG351
4J127BG35X
4J127CB281
4J127CB342
4J127CC191
4J127EA13
4J127FA45
(57)【要約】      (修正有)
【課題】充填材料の充填前の段階での硬化が不要で容易に硬化し、かつ、様々な充填材料に適用可能なポリマー及びこれを含む歯科用接着性組成物を提供する。
【解決手段】ポリマーは、それぞれ特定の一般式で表される、ラジカル重合性不飽和基を有する(メタ)アクリル系モノマーに由来する構造単位(X)5~80mol%と、アルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーに由来する構造単位(Y)15~90mol%と、酸性基を含有する(メタ)アクリル系モノマーに由来する構造単位(Z)5~50mol%と、を有する。構造単位(X)が、充填材料との接着性を向上させ、構造単位(Z)が、歯質との接着性を向上させ、構造単位(Y)が、歯質及び充填材料とのなじみをよくし、歯面への浸透性及び充填材料との相溶性を向上させる。これにより、本発明の一実施形態に係るポリマーを含む歯科用接着性組成物は、歯面及び充填材料に対して高い接着性を示す。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位(X)5~80mol%と、下記一般式(2)で表される構造単位(Y)15~90mol%と、下記一般式(3)で表される構造単位(Z)5~50mol%と、を有する
ポリマー。
【化1】
(一般式(1)中、R及びRは、水素原子又はメチル基を表し、nは1~15の整数を表す。)
【化2】
(一般式(2)中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、R4は、下記一般式(2-1)で表される総炭素数1~15の基を表す。)
【化3】
(上記式中、pは0~5の整数を表し、R'はアルキル基を表す。)
【化4】
(一般式(3)中、R5は、水素原子又はメチル基を表し、Lはリン酸二水素モノエステル基{-O-P(=O)(OH)}又はホスホノ基{-P(=O)(OH)}を表し、mは1~15の整数を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載のポリマーであって、
一般式(2)中、Rが水素原子の場合、R4は総炭素数が1~15の基であり、Rがメチル基の場合、R4は総炭素数が4~15の基を表す、
ポリマー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリマーであって、
前記ポリマーは、液体状の接着性ポリマーである、
ポリマー。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のポリマーであって、
スチレンを標準として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定された前記ポリマーの重量平均分子量が、1000以上50000以下である
ポリマー。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のポリマーであって、
前記一般式(3)中、Lがリン酸二水素モノエステル基{-O-P(=O)(OH)}である
ポリマー。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のポリマーであって、
前記一般式(2)で示される構造単位が、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)ヘキシル、(メタ)アクリル酸へプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸‐2‐メトキシエチル、(メタ)アクリル酸‐2‐エトキシエチル、及び(メタ)アクリル酸‐2‐(2‐メトキシエトキシ)エチルから選ばれるモノマー由来の構造である
ポリマー。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のポリマーと、重合性単量体と、溶媒と、水と、を含有する歯科用接着性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性を有するポリマー及び歯科用接着性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
齲蝕等により損傷を受けた歯牙の修復には、コンポジットレジンと呼ばれる硬化性の充填材料が用いられている。このような充填材料は、歯牙を構成する歯質に対する接着性がほとんど無い。このため、充填材料は、通常、接着材を介して歯質に接着される。一般的な接着材は、高い接着力を得るために、予め硬化させておく必要がある。
【0003】
充填材料の接着に利用可能な接着材として、光照射によって硬化可能な光硬化型接着材が知られている(例えば、特許文献1参照)。光硬化型接着材は、充填材料の充填の前に、口腔内での光照射によって硬化させる必要がある。光硬化型接着材の硬化のためには、数秒から数十秒の間の光照射が必要となる。
【0004】
このため、光硬化型接着材では、治療の長時間化や、光照射に伴う発熱などによって患者への負担が大きくなる。また、光硬化型接着材は、光照射時に口腔内に露出しているため、患者の唾液や血液などによる汚染を受けることがある。このため、充填材料の充填前の段階での光照射が不要な接着材が求められる。
【0005】
特許文献2には、光照射による硬化が不要な接着材が開示されている。この接着材は、2液型であり、つまり第1剤と第2剤とを混合することにより化学重合型の硬化が進行するように構成されている。しかしながら、この接着材では、治療中に第1剤と第2剤とを混合するための手間及びこれらを硬化するための時間がかかる。
【0006】
また、特許文献3には、光照射が不要な1液型の歯科用接着材が開示されている。この接着材では、充填材料の充填後に、充填材料の硬化の際に照射された光によって光重合型の硬化が進行するとともに、充填材料から芳香族アミンが供給されることで、化学重合型の硬化が進行することで、別途接着材を硬化するための時間を設ける必要がない。しかしながら、この接着材は、芳香族アミンを含む充填材料以外の充填材料には適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-137960号公報
【特許文献2】特開2018-027913号公報
【特許文献3】特開2020-138911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、迅速で、かつ患者への負担の小さい歯牙の治療を実現するために、充填材料の充填前の段階での光照射が不要で容易に硬化し、かつ汎用的に使用可能な接着材が求められる。しかしながら、現状、このような構成の接着材としては、汎用の充填材料に対応しないものしか知られていない。
【0009】
上記の事情に鑑み、本発明の目的は、充填材料の充填前の段階での硬化が不要で容易に硬化し、かつ、様々な充填材料に適用可能なポリマー及びこれを含む歯科用接着性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一実施形態に係るポリマーは、下記一般式(1)で表される構造単位(X)5~80mol%と、下記一般式(2)で表される構造単位(Y)15~90mol%と、下記一般式(3)で表される構造単位(Z)5~50mol%と、を有する。
【化1】
(一般式(1)中、R及びRは、水素原子又はメチル基を表し、nは1~15の整数を表す。)
【化2】
(一般式(2)中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、R4は、下記一般式(2-1)で表される総炭素数1~15の基を表す。)
【化3】
(上記式中、pは0~5の整数を表し、R'はアルキル基を表す。)
【化4】
(一般式(3)中、R5は、水素原子又はメチル基を表し、Lはリン酸二水素モノエステル基{-O-P(=O)(OH)}又はホスホノ基{-P(=O)(OH)}を表し、mは1~15の整数を表す。)
【0011】
本発明の一実施形態に係るポリマーは、ラジカル重合性不飽和基を有し、ラジカル重合する接着材に用いられる。
本発明の一実施形態に係るポリマーが歯科用接着性組成物として使用される場合、構造単位(X)が、充填材料との接着性を向上させ、構造単位(Z)が、歯質との接着性を向上させる。そして、構造単位(Y)が、歯質及び充填材料とのなじみをよくし、歯面への浸透性及び充填材料との相溶性を向上させる。これにより、本発明の一実施形態に係るポリマーを含む歯科用接着性組成物は、歯面及び充填材料に対して高い接着性を示す。
【0012】
本発明の一実施形態に係るポリマーを含む歯科用接着性組成物を硬化させる場合、元々ある程度の重合度を持ったポリマーに対して重合を進行させるため、モノマー成分から構成される歯科用接着性組成物に比べて、未結合箇所が少なく、少ないラジカルで容易に硬化させることができる。これにより、本発明の一実施形態に係るポリマーによれば、充填材料を硬化させる際に発生するラジカルを利用して硬化可能な歯科用接着性組成物が得られる。したがって、充填材料の充填前の段階での硬化が不要で容易に硬化し、かつ、充填材料の組成によらず様々な充填材料に適用可能な接着材を実現することができる。
【0013】
上記一般式(2)中、Rが水素原子の場合、R4は総炭素数が1~15の基であり、Rがメチル基の場合、R4は総炭素数が4~15の基を表してもよい。
これにより、流動性を有するポリマーが得られやすい。これにより、本発明の一実施形態に係るポリマーを含む歯科用接着性組成物を歯科用接着材として歯面に塗布した際に歯面と密着しやすく、また、充填材料と相溶しやすいことで、接着強度のより高い接着層を形成することができる。
【0014】
上記ポリマーは、液体状の接着性ポリマーであってもよい。
これにより、接着強度のより高い接着層を形成することができる。
【0015】
スチレンを標準として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定された上記ポリマーの重量平均分子量が、1000以上50000以下であってもよい。
これにより、適度な粘度が得られることで、歯面及び充填材料との密着性が向上し、より高い接着強度が得られる。
【0016】
前記一般式(3)中、Lがリン酸二水素モノエステル基{-O-P(=O)(OH)}であってもよい。
これにより、歯面との接着性が向上し、歯科用接着材として用いた場合、接着強度のより高い接着層を形成することができる。
【0017】
上記一般式(2)で示される構造単位(Y)が、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)ヘキシル、(メタ)アクリル酸へプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸‐2‐メトキシエチル、(メタ)アクリル酸‐2‐エトキシエチル、及び(メタ)アクリル酸‐2‐(2‐メトキシエトキシ)エチルから選ばれるモノマー由来の構造であってもよい。
これにより、構造単位(Y)は、歯面への浸透性及び充填材料に対する相溶性をさらに向上させることができ、歯面及び充填材料に対する良好な接着性が得られる。このため、歯科用接着材に該ポリマーを用いた場合、接着強度のより高い接着層を形成することができる。
【0018】
本発明の一実施形態に係る歯科用接着性組成物は、上記ポリマーと、重合性単量体と、溶媒と、水と、を含有する。
この歯科用接着性組成物では、上記のとおり、歯面及び充填材料に対する高い接着性が得られ、接着強度のより高い接着層を形成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、充填材料の充填前の段階での光照射が不要で容易に硬化し、かつ、様々な充填材料に適用可能なポリマー及びこれを含む歯科用接着性組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る接着性組成物を用いて充填材料を歯牙に接着する過程を模式的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施するための形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、「x~y」との数値範囲にはx及びyが含まれるものとし、つまり「x~y」は「x以上y以下を意味するものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
【0022】
<全体構成>
本発明の一実施形態のポリマーは、齲蝕等により損傷を受けた歯牙を修復するために利用可能である。より詳細に、本発明の一実施形態のポリマーは、歯科用接着性組成物(以下、単に接着性組成物と呼称する。)に含まれ、歯牙の損傷部に充填される歯科用充填材料(以下、単に充填材料と呼称する。)を、当該損傷部の表面を構成する歯質に接着するために利用可能である。
【0023】
本実施形態に係るポリマーは、構造単位(X)~(Z)を含み、歯質及び充填材料に対する接着性を有する。
【0024】
本実施形態に係るポリマーを含む接着性組成物は、塗布された歯牙の凹状の損傷部に、接着性組成物を硬化させることなく充填材料が充填される。図1は、歯牙の損傷部に接着性組成物を介して充填材料が充填された状態を模式的に示す部分断面図である。図1に示す状態では、未硬化の接着性組成物と未硬化の充填材料とが直接接触している。
【0025】
図1に示す状態から充填材料の硬化のために光照射が行われると、充填材料中の光重合開始剤の作用によって、ラジカルが発生し、光重合型の硬化が進行する。
【0026】
一般的な光硬化型の歯科用接着材では、接着性成分などがモノマーとして含まれ、高い接着強度を得るために、充分な量のラジカルを供給して、各種モノマーを充分に重合させ硬化させる必要がある。このような接着材において、充填材料を透過した照射光を利用して重合を進行させた場合、光が届きにくい内部においては残留モノマーが存在し、接着強度が低下する。
これに対して、上記ポリマーを接着性組成物に用いた場合、接着性成分が予め重合されていることで、わずかなラジカルでも重合が充分に進行し、接着性組成物を硬化させることができる。
【0027】
このような本実施形態に係るポリマーを含む接着性組成物は、光硬化型充填材料に必ず含まれる光重合開始剤より生成したラジカルを利用するため、特殊な構成の充填材料ではなく、一般的な光硬化型の充填材料に広く適用可能である。また、本実施形態に係るポリマーを含む接着性組成物を適用する充填材料は、ラジカルを発生させる化合物を含むものであれば、特に限定されず、化学重合型にも適用可能である。
【0028】
したがって、本実施形態に係るポリマーを用いることで、接着性組成物を迅速かつ充分に硬化させることができるため、患者への負担を抑えつつ高い接着強度の接着層が得られる。
【0029】
<詳細構成>
[ポリマー]
(構造単位(X))
構造単位(X)は、下記一般式(1)で表され、ラジカル重合性不飽和基を有する(メタ)アクリル系モノマーに由来する構造単位である。構造単位(X)は、ラジカル重合により充填材料と結合し、充填修復材に対する接着性を良好にする。
【化5】
(一般式(1)中、R及びRは、水素原子又はメチル基を表し、nは1~15の整数を表す。)
【0030】
構造単位(X)は、以下に説明する合成法I及び合成法IIにより得られる。構造単位(X)を確実に得るために、合成法Iが好ましい。
【0031】
合成法Iでは、下記一般式(4)または(5)で表される(メタ)アクリレートを共重合成分の一つとして用いて合成したポリマーに、塩基を作用させてプロトンを引き抜き、Eを脱離させ、構造単位(X)を得る。
【化6】
(一般式(4)および(5)中、Eはアニオン性脱離基を表し、R、R、R及びRは、水素原子又はメチル基を表し、p及びqは1~15の整数を表す。)
【0032】
アニオン性脱離基として、ハロゲン原子やアルキルまたはアリールスルホニルオキシ基などが好ましく、臭素原子、塩素原子、p-トルエンスルホニルオキシ基が特に好ましい。
具体的には、合成原料の入手の容易さから、2-((3-ブロモ-2-メチルプロパノイル)オキシ)エチルメタクリレート、2-((3-ブロモ-2-メチルプロパノイル)オキシ)エチルアクリレート、2-((3-ブロモプロパノイル)オキシ)エチルメタクリレート、2-((3-クロロ-2-メチルプロパノイル)オキシ)エチルメタクリレート、2-((3-クロロ-2-メチルプロパノイル)オキシ)エチルアクリレート、2-((3-クロロプロパノイル)オキシ)エチルメタクリレートなどを挙げることができる。
【0033】
脱離反応を誘起させる塩基としては、無機塩基及び有機塩基のどちらを使用してもよい。
好ましい無機化合物塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられ、有機化合物塩基としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt - ブトキシドのような金属アルコキシド、トリエチルアミン、ピリジン、ジイソプロピルエチルアミンのような有機アミン化合物等が挙げられる。
【0034】
合成法IIでは、水酸基を含む(メタ)アクリレートを共重合成分の一つとして用いて合成したポリマーに、(メタ)アクリル酸クロリドや(メタ)アクリル酸無水物などを反応させ、構造単位(X)を得る。
【0035】
(構造単位(Y))
構造単位(Y)は、下記一般式(2)で表され、アルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーに由来する構造単位であり、アルキル基はエチレングリコール鎖を含んでもよい。構造単位(Y)を含むことで、歯質及び充填材料とのなじみをよくすることができ、歯面への浸透性や充填材料のモノマーとの相溶性を向上させ、歯面及び充填材料に対する密着性が良好な接着層が形成される。
【化7】
(一般式(2)中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、R4は、下記一般式(2-1)で表される総炭素数1~15の基を表す。)
【化8】
(上記式中、pは0~5の整数を表し、R'はアルキル基を表す。)
【0036】
歯面への浸透性及び充填材料のモノマーとの相溶性をより向上させる観点から、一般式(2)中、Rが水素原子の場合、R4は総炭素数が1~15の基であり、Rがメチル基の場合、R4は総炭素数が4~15の基を表すことが好ましい。これにより、本実施形態に係るポリマーは、良好な流動性を有することで、歯面及び充填材料への密着性が向上する。
【0037】
特に、ポリマーの性状を液体状とする観点から、一般式(2)で示される構造単位(Y)が、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸へプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸‐2‐メトキシエチル、(メタ)アクリル酸‐2‐エトキシエチル、及び(メタ)アクリル酸‐2‐(2‐メトキシエトキシ)エチルから選ばれるモノマー由来の構造であることが好ましい。
【0038】
(構造単位(Z))
構造単位(Z)は、下記一般式(3)で表され、酸性基を含有する(メタ)アクリル系モノマーに由来する構造である。構造単位(Z)の酸性基(L)は歯質の脱灰効果を有するとともに、歯質に対する接着成分としてはたらくことで、充填修復材の歯質に対する接着性を良好なものとする。
【化9】
(一般式(3)中、R5は、水素原子又はメチル基を表し、Lはリン酸二水素モノエステル基{-O-P(=O)(OH)}又はホスホノ基{-P(=O)(OH)}を表し、mは1~15の整数を表す。)
【0039】
水に対する安定性が高く、歯面のスメア層の溶解や歯牙脱灰を緩やかに実施できるため、Lがリン酸二水素モノエステル基{-O-P(=O)(OH)}であることが好ましい。
【0040】
リン酸二水素モノエステル基を有する構造単位(Z)としては、具体的には、2-(ホスホノオキシ)エチルメタクリレート、6-(ホスホノオキシ)ヘキシル(メタ)アクリレート、10-(ホスホノオキシ)デシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0041】
ホスホノ基を有する構造単位(Z)としては、具体的には、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルホスホン酸、6-(メタ)アクリロイルヘキシルホスホン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホン酸等が挙げられる。
【0042】
(各構造単位(X)、(Y)、(Z)の比率)
本発明の一実施形態のポリマーは、構造単位(X)5~80mol%と、構造単位(Y)15~90mol%と、構造単位(Z)5~50mol%と、を有し、より好ましくは、(X)10~70mol%と、構造単位(Y)20~80mol%と、構造単位(Z)10~40mol%と、を有する。これにより、各構造単位の上記機能が低下することなく発揮され、構造単位(X)~(Z)の相乗効果により高い接着強度を有する接着層が得られる。
【0043】
(ポリマーの性状)
本発明の一実施形態のポリマーは、典型的には、液体状の接着性ポリマーである。液体状とは、常温(15~30℃)下で流動性を有する性状を意味する。即ち、本実施形態に係るポリマーは、典型的には、固体状でなく、不定形に流れ動く性質を有する。これにより、歯面への浸透性及び充填材料のモノマーとの相溶性が一層向上し、歯面及び充填材料に対する密着性がより良好となる。
【0044】
(ポリマーの分子量)
重量平均分子量は、スチレンを標準として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される。重量平均分子量が1000以上50000以下であることで、適度な粘度を有することで、歯科用接着材料として歯面に塗布したときに、塗布した被膜が流れることなく、所望の厚みを確保でき、塗布後に溶媒除去をするためエアブローを行っても、被膜が均一に保たれる。これにより、接着強度の高い接着層が形成できる。
さらに高い接着強度を得る観点から、ポリマーの重量平均分子量は、2000を超えることがより好ましく、20000未満であることがさらに好ましい。
【0045】
[歯科用接着性組成物]
本発明の一実施形態の歯科用接着性組成物は、上記ポリマーと、重合性単量体と、溶媒と、水と、を含有し、いわゆる、1液型として構成される。本発明の一実施形態の歯科用接着性組成物は、充填材料に含まれる光重合開始剤の作用を利用可能な構成であるため、光重合開始剤を含まない。したがって、本発明の一実施形態の歯科用接着性組成物は、一液型の光照射不要な歯科用接着材として適用可能である。
【0046】
(重合性単量体)
重合性単量体としては、公知の重合性単量体であればいずれも制限なく用いることができるが、歯質に対してさらに高い接着性及び接着耐久性が得られるという観点から、酸性基を含まない酸性基非含有重合性単量体をさらに含むことが好適である。
【0047】
酸性基非含有重合性単量体は、1分子中に、酸性基を含まず、かつ、1つ以上の重合性不飽和基を含む化合物であれば公知の化合物を特に制限無く用いることができる。重合性不飽和基としては、接着性の観点からは、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アクリルアミド基、メタアクリルアミド基などが好ましい。
【0048】
酸性基非含有重合性単量体の中でも、歯質に対する接着性及び接着耐久性の観点から多官能性重合性単量体が好適に使用される。好適に使用される多官能性重合性単量体を具体的に例示すると、2,2'-ビス{4-[2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ]フェニル}プロパン、トリエチレングリコールメタクリレート、2,2-ビス[(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン]、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2,4-トリメチルヘキサン、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、トリメチロールプロパントリメタクリレートが挙げられる。
【0049】
酸性基非含有重合性単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。酸性基非含有重合性単量体は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0050】
酸性基非含有重合性単量体の配合割合は、特に制限されるものではないが、ポリマーによる接着性向上効果をさらに確保する観点からは、酸性基非含有重合性単量体の配合割合は、ポリマー100質量部に対して、10質量部~10000質量部とすることが好ましく、さらに20質量部~5000質量部とすることが好ましい。
【0051】
(水)
水としては、貯蔵安定性、生体適合性及び接着性の観点で有害な不純物を実質的に含まない事が好ましく、例としては脱イオン水、蒸留水等が利用できる。水の配合割合は、ポリマー100質量部に対して、10質量部~1000質量部とし、20質量部~500質量部とすることが好ましく、50質量部~200質量部とすることが特に好ましい。
【0052】
(有機溶媒)
有機溶媒としては、公知の有機溶媒であればいずれも制限無く用いることができるが、通常は、沸点が100℃未満の揮発性の高い有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒の配合割合は、ポリマー100質量部に対して、10質量部~3000質量部とし、30質量部~1000質量部とすることが好ましい。
【0053】
具体的に、有機溶媒としては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。これらの中でも、生体安全性、溶解性及び保存安定性等の理由で、アセトン、エタノール、イソプロピルアルコール等が特に好ましく使用される。有機溶媒としては、1種又は2種以上の有機溶媒を組み合わせて使用することもできる。
【0054】
(その他の成分)
接着性組成物は、必要に応じて、上記の成分以外の各種添加剤などの成分を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、多価金属化合物、フィラー、着色剤、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ジブチルヒドロキシトルエンなどの重合禁止剤などが挙げられる。
【0055】
尚、本発明のポリマーは新規の構成を有するため、接着材以外にも幅広い用途に有用な可能性がある。つまり、本発明のポリマーの用途は接着材に限定されない。
【実施例0056】
以下に本発明を、実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものでは無い。
【0057】
<物質の略称>
まず、以下に、実施例及び比較例において使用した物質の略称について説明する。
[構造単位(X)のモノマー]
BrMPMA:2-((3-ブロモ-2-メチルプロパノイル)オキシ)エチルメタクリレート
BrMPA:2-((3-ブロモ-2-メチルプロパノイル)オキシ)エチルアクリレート
BrPMA:2-((3-ブロモプロパノイル)オキシ)エチルメタクリレート
[構造単位(Y)のモノマー]
MA:メチルアクリレート(東京化成工業社製)
DGMA:ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(東京化成工業社製)
BMA:ブチルメタクリレート(東京化成工業社製)
MMA:メチルメタクリレート(東京化成工業社製)
DMA:ドデシルメタクリレート(東京化成工業社製)
TDMA:トリデシルメタクリレート(東京化成工業社製)
[構造単位(Z)のモノマー]
PM1:2-(ホスホノオキシ)エチルメタクリレート(P-1M(共栄社化学社製)を水/ジクロロメタンで精製したもの)
PA1:2-(ホスホノオキシ)エチルアクリレート(P-1A(共栄社化学社製)を水/ジクロロメタンで精製したもの)
MDP:10-(ホスホノオキシ)デシルメタクリレート(新中村化学工業社製)
[その他のモノマー]
Bis-GMA:2,2'-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン(新中村化学工業社製)
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート(新中村化学工業社製)
AA:アクリル酸(東京化成工業社製)
ODMA:オクタデシルメタクリレート(東京化成工業社製)
[その他の化合物]
THF:テトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬社製)
TEA:トリエチルアミン(富士フイルム和光純薬社製)
DIPE:ジイソプロピルエーテル(富士フイルム和光純薬社製)
AIBN:アゾビス(イソブチロニトリル)(富士フイルム和光純薬社製)
【0058】
<実施例1~16、比較例1~5>
[ポリマーの合成]
実施例1~16及び比較例1~5に係るポリマー[1]~[21]を以下の方法により合成した。各ポリマーの成分、配合割合は、下記の表1に示すとおりである。
【0059】
まず、構造単位(X)のモノマーの合成を行った。
3-ブロモイソ酪酸(東京化成工業社製);1.7g(15mmol)を200mLなす型フラスコに秤量した。さらにTHF100mLを添加し、続いて1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド(東京化成工業社製);3.5g(18mmol),4-ジメチルアミノピリジン(富士フイルム和光純薬社製);0.1g(1mmol)及び2-ヒドロキシエチルアクリレート(新中村化学工業社製);1.3g(10mmol)を添加した。6時間後、エバポレーターを用いて除媒し、さらに酢酸エチル(100mL)を添加した。酢酸エチル層を、水(100mL)を用いて3回洗浄した。酢酸エチル層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥させ、エバポレーターにて酢酸エチルを減圧留去した。得られた化合物を80℃、1時間、酸素バブリングしつつ乾燥させ、BrMPMA;2.2g、収率75%にて得た。
なお、BrMPAの合成の際は、2-ヒドロキシエチルメタクリレートの代わりに2-ヒドロキシエチルアクリレート(東京化成工業社製)を用い、BrPMAの合成の際は、3-ブロモ酪酸(東京化成工業社製)を用いた。
【0060】
次に、以下の方法により、ポリマーの合成を行った。
(1)合成法(i)により、実施例1に係るポリマー[1]の合成を行った。
まず、以下の反応式に示すように、重合性基前駆体ポリマー[1]の合成を行った。
BrMPA;133mg(0.5mmol)、PA1;98mg(0.5mmol)、AIBN;164mg(1mmol)を100mLなす型フラスコに秤量した。窒素置換を行った後、THF/水(8/2)混合溶媒20mLを添加し、続いてMA;806μl(9mmol)を系内に添加した。オイルバスを用いて24時間、65℃にて加熱攪拌を行った。HPLCにてモノマーの消失を確認し、エバポレーターにてTHFを減圧留去した。得られた粗生成物をエタノール/ドライアイスバス下、DIPE/THF(9/1)混合溶媒20mLを用いて再沈殿を行った後、真空乾燥を行い、重合性基前駆体ポリマー[1]を得た。
【化10】
【0061】
次に、ポリマー[1]の合成を行った。
重合性基前駆体ポリマー[1]をジクロロメタン20mLに溶解させ、TEA2mLを添加した。室温にて6時間撹拌した後、1N塩酸20mLを添加し洗浄操作を行った。さらに2回,1N塩酸20mLにて、ジクロロメタン層の洗浄を行った。ジクロロメタン層を硫酸マグネシウムにて乾燥させ、エバポレーターにてジクロロメタンを減圧留去及び真空乾燥することで790mg(収率82%)のポリマー[1]を得た。H-NMR測定より組成比は構造単位(X)(mol%):構造単位(Y)(mol%):構造単位(Z)(mol%)=5:90:5(=x:y:z)であり、GPC測定より重量平均分子量Mw=1100であった。
【0062】
(2)合成法(ii)により、実施例2に係るポリマー[2]の合成を行った。
まず、以下の反応式に示すように、重合性基前駆体ポリマー[2]の合成を行った。
AIBN;164mg(1mmol)を100mLなす型フラスコに秤量した。窒素置換を行った後、THF/水(8/2)混合溶媒15mLを添加し、続いてMA;717μl(8mmol)を系内に添加した。続いて、反応系を、オイルバスを用いて65℃に加熱した。PM1;210mg(1mmol)及びBrMPMA;278mg(1mmol)のTHF/水(8/2)混合溶媒5mL溶液を、シリンジポンプを用いて3時間かけて滴下した。滴下終了後さらに65℃にて21時間反応を行い、HPLCにてモノマーの消失を確認し、エバポレーターにてTHFを減圧留去した。得られた粗生成物をエタノール/ドライアイスバス下、ジイソプロピルエーテル/THF(8/2)20mLを用いて再沈殿を行った後、真空乾燥を行い、重合性基前駆体ポリマー[2]を得た。
【化11】
【0063】
次に、ポリマー[2]の合成を行った。
合成法(i)と同様の方法にて、重合性基前駆体ポリマー[2]をポリマー[2]へ変換し、942mg(収率86%)のポリマー[2]を得た。H-NMR測定より組成比は構造単位(X)(mol%):構造単位(Y)(mol%):構造単位(Z)(mol%)=9:81:10(=x:y:z)であり、GPC測定より重量平均分子量Mw=3300であった。
【0064】
(3)実施例3~11、14~16及び比較例1~4に係るポリマー[3]~[11]、[14]~[20]の合成を行った。合成法(i)または(ii)と同様の方法を用いてポリマー[3]~[11]、[14]~[20]の合成を行った。なお、メタクリレートモノマーとアクリレートモノマーの共重合性の違いから、メタクリレートモノマーもしくはアクリレートモノマーのみを用いた場合は合成法(i)を、メタクリレートモノマーとアクリレートモノマーを併用した場合は合成法(ii)を用いた。
【0065】
(4)以下の反応式に示すように、実施例12,13及び比較例5に係るポリマー[12]、[13]、[21]の合成を行った。AIBN;82mg(0.5mmol)を用いたこと以外は、合成法(i)と同様の方法を用いた。
【化12】
【0066】
[ポリマーの分析]
得られたポリマーの性状、重量平均分子量及び収率を表1に示す。本実施形態のポリマーは重合性基前駆体を重合性基へ変換しているため、保護・脱保護の工程がなく工程数が少ない。そのため、精製によるロスが少なく、いずれも収率が高かった。
重量平均分子量は、以下の方法により測定した。
【0067】
1H-NMR測定;日本電子株式会社製JNM-ECAII(400MHz)を測定装置として用いた。測定溶媒として重クロロホルムを用い、測定サンプルを100倍希釈して測定を行った。
GPC測定;日本ウォーターズ社製Advanced Polymer Chromatographyを測定装置として用いた。また、カラムにはACQUITY APCTMXT45(1.7μm)及びACQUITY APCTMXT125(2.5μm)を用い、カラム温度は40℃とした。展開溶媒にはTHFを用い、流量は0.5ml/分とした。検出器にはフォトダイオードアレイ検出器210nmを用いた。また、測定溶媒としてTHFを用い、測定サンプルを100倍希釈して測定を行った。
【0068】
【表1】
【0069】
<実施例17~32および比較例6~11>
実施例17~32および比較例6~12の接着性組成物を調製し、接着強度の評価を行った。
【0070】
[歯科用接着性組成物の合成]
下記の組成にて、実施例17~32および比較例6~11に係る接着性組成物を調製した。なお、()内は重量部を表す。
組成:ポリマー(10)/Bis-GMA(6)/3G(4)/アセトン(60)/水(20)
重合性単量体として、Bis-GMA及び3Gを用いた。
【0071】
下記の組成にて、比較例12に係る歯科用接着性組成物を調製した。比較例12では、ポリマーを用いなかった。なお、()内は重量部を表す。
組成:MDP(4)/HEMA(6)/Bis-GMA(6)/3G(4)/アセトン(60)/水(20)
重合性単量体として、MDP、HEMA、Bis-GMA及び3Gを用いた。
【0072】
[接着性組成物の評価]
次に、得られたポリマーを含む接着性組成物について「引張接着強度」を評価した。
【0073】
以下の通り、歯質に対する接着強度を測定した。
屠殺後24時間以内に抜去した牛前歯を、注水下、耐水研磨紙P600で研磨し、唇面に平行かつ平坦になるように、象牙質あるいはエナメル質平面を削り出した被着体を準備した。
次に、これら2種類の被着体のそれぞれの研磨面に、直径3mmの穴を開けた両面テープを貼り付けた。続いて、研磨面のうち両面テープの穴から露出している接着面に、各実施例および各比較例で調製した歯科用接着性組成物を塗布し、5秒間エアブローして乾燥させた。
直径8mmの穴が設けられた厚み0.5mmのパラフィンワックスを、パラフィンワックスの穴と、両面テープの穴とが同心円となるように歯科用接着性組成物が塗布された接着面に貼り付けて模擬窩洞を作製した。この模擬窩洞に歯科用コンポジットレジン(エステライトユニバーサルフロー、トクヤマデンタル社製)を充填してポリエステルフィルムで軽く圧接した後、可視光線照射器(エリパー、3M ESPE社製)を用い、光照射10秒による光硬化を行った。その後、あらかじめ研磨したSUS304製丸棒(直径8mm、高さ18mm)をレジンセメント(エステセムII、トクヤマデンタル社製)で接着し、評価用試料(サンプル)を作製した。なお、使用したコンポジットレジンは、カンファーキノンおよびアミン化合物を含む光重合性の組成物である。この試験サンプルを37℃の水中にて24時間浸漬した後、万能試験機(AG-I型、島津製作所社製)を用いて、クロスヘッドスピード1mm/mmの条件で荷重を開始し、測定サンプルが破断するまで試験サンプルに荷重を加え、最大荷重から下記式を用いて接着強度を求めた。
接着強度(MPa)=最大荷重(N)/被着面積(mm)。
【0074】
実施例17~32に係る接着性組成物では、すべての実施例において良好な引張接着強度が得られた。
【0075】
比較例6~11に係る接着性組成物では、各成分が本発明で示される構成を満たさないようなポリマーを用いた例である。比較例6は、構造単位(Z)を有さない例であり、低い接着強度を示した。また、比較例7は、構造単位(X)を有さない例であり、低い接着強度を示した。比較例8~10は、Rがエタノール基(CHCHOH)である場合や、Rの総炭素数が0、18(即ちRがH、C1835)の場合の構造単位(Y)を有さない例であり、低い接着強度を示した。比較例11は、本発明のポリマーを用いない例であり、低い接着強度を示した。
【0076】
【表2】
図1