(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135159
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】歯科用接着性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/30 20200101AFI20230921BHJP
A61K 6/62 20200101ALI20230921BHJP
【FI】
A61K6/30
A61K6/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040224
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸 裕人
(72)【発明者】
【氏名】森本 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 修平
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA10
4C089BC02
4C089BD01
4C089BD06
4C089BD10
4C089BD11
4C089BD20
4C089BE03
4C089BE06
4C089CA03
4C089CA08
(57)【要約】
【課題】充填材料の充填前の段階での硬化が不要で容易に硬化し、かつ、様々な充填材料に適用可能な1液型の歯科用接着性組成物を提供する。
【解決手段】光硬化型の充填材料を歯質に接着するための1液型の歯科用接着性組成物であって、1質量部~40質量部の(a1)酸性基含有重合性単量体、を含む100質量部の(A)重合性単量体と、0.1質量部~50質量部の(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーと、0.1質量部~10質量部の(C)光重合開始剤と、1質量部~50質量部の(D)水と、10質量部~300質量部の(E)有機溶媒と、を含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化型の充填材料を歯質に接着するための1液型の歯科用接着性組成物であって、
1質量部~40質量部の(a1)酸性基含有重合性単量体、を含む100質量部の(A)重合性単量体と、
0.1質量部~50質量部の(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーと、
0.1質量部~10質量部の(C)光重合開始剤と、
1質量部~50質量部の(D)水と、
10質量部~300質量部の(E)有機溶媒と、
を含有する
歯科用接着性組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の歯科用接着性組成物であって、
前記(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーは、下記一般式(1)で表される構造単位(X)5~80mol%と、下記一般式(2)で表される構造単位(Y)15~90mol%と、下記一般式(3)で表される構造単位(Z)0~50mol%と、を有する
歯科用接着性組成物。
【化1】
(一般式(1)中、R
1及びR
2は、水素原子又はメチル基を表し、nは1~15の整数を表す。)
【化2】
(一般式(2)中、R
3は、水素原子又はメチル基を表し、R
4は、下記一般式(2-1)で表される総炭素数1~15の基を表す。)
【化3】
(上記式中、pは0~5の整数を表し、R'はアルキル基を表す。)
【化4】
(一般式(3)中、R
5は、水素原子又はメチル基を表し、Lはリン酸二水素モノエステル基{-O-P(=O)(OH)
2}又はホスホノ基{-P(=O)(OH)
2}を表し、mは1~15の整数を表す。)
【請求項3】
請求項1又は2に記載の歯科用接着性組成物であって、
一般式(2)中、R3が水素原子の場合、R4は総炭素数が1~15の基であり、R3がメチル基の場合、R4は総炭素数が4~15の基を表す、
歯科用接着性組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の歯科用接着性組成物であって、
前記(C)光重合開始剤が(c1)ビスアシルフォスフィンオキサイドを含む
歯科用接着性組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の歯科用接着性組成物であって、
前記(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーは、前記一般式(1)で示される構造単位(X)20~80mol%を含む
歯科用接着性組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の歯科用接着性組成物であって、
前記(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーは、前記一般式(3)で示される構造単位(Z)5~50mol%を含む
歯科用接着性組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の歯科用接着性組成物であって、
スチレンを標準として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定された前記(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーの重量平均分子量が、1000以上50000以下である
歯科用接着性組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の歯科用接着性組成物であって、
10質量部~30質量部の平均一次粒子径が1nm~20nmのヒュームドシリカを更に含有する、
歯科用接着性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用接着性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
齲蝕等により損傷を受けた歯牙の修復には、コンポジットレジンと呼ばれる硬化性の充填材料が用いられている。このような充填材料は、歯牙を構成する歯質に対する接着性がほとんど無い。このため、充填材料は、通常、接着材を介して歯質に接着される。一般的な接着材は、高い接着力を得るために、予め硬化させておく必要がある。
【0003】
充填材料の接着に利用可能な接着材として、光照射によって硬化可能な光硬化型接着材が知られている(例えば、特許文献1参照)。光硬化型接着材は、充填材料の充填の前に、口腔内での光照射によって硬化させる必要がある。光硬化型接着材の硬化のためには、数秒から数十秒の間の光照射が必要となる。
【0004】
このため、光硬化型接着材では、治療の長時間化や、光照射に伴う発熱などによって患者への負担が大きくなる。また、光硬化型接着材は、光照射時に口腔内に露出しているため、患者の唾液や血液などによる汚染を受けることがある。このため、充填材料の充填前の段階での光照射が不要な接着材が求められる。
【0005】
特許文献2には、光照射による硬化が不要な接着材が開示されている。この接着材は、2液型であり、つまり第1剤と第2剤とを混合することにより化学重合型の硬化が進行するように構成されている。しかしながら、この接着材では、治療中に第1剤と第2剤とを混合するための手間及び時間がかかる。
【0006】
また、特許文献3には、光照射が不要な1液型の歯科用接着材が開示されている。この接着材では、充填材料の充填後に、充填材料の硬化の際に照射された光によって光重合型の硬化が進行するとともに、充填材料から芳香族アミンが供給されることで、化学重合型の硬化が進行するため、別途接着材を硬化するための手間や時間をかける必要がない。しかしながら、この接着材は、芳香族アミンを含む充填材料以外の充填材料には適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-137960号公報
【特許文献2】特開2018-027913号公報
【特許文献3】特開2020-138911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、迅速で、かつ患者への負担の小さい歯牙の治療を実現するために、充填材料の充填前の段階での光照射が不要で容易に硬化し、かつ汎用的に使用可能な1液型の接着材が求められる。しかしながら、現状、このような構成の接着材としては、汎用の充填材料に対応しないものしか知られていない。
【0009】
上記の事情に鑑み、本発明の目的は、充填材料の充填前の段階での硬化が不要で容易に硬化し、かつ、様々な充填材料に適用可能な1液型の歯科用接着性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一実施形態に係る歯科用接着性組成物は、光硬化型の充填材料を歯質に接着するための1液型である。
上記歯科用接着性組成物は、1質量部~40質量部の(a1)酸性基含有重合性単量体、を含む100質量部の(A)重合性単量体と、0.1質量部~50質量部の(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーと、0.1質量部~10質量部の(C)光重合開始剤と、1質量部~50質量部の(D)水と、10質量部~300質量部の(E)有機溶媒と、を含有する。
【0011】
本発明の一実施形態に係る歯科用接着性組成物は、光照射により硬化が進行する1液型の光硬化型接着材に用いられる。
本発明の一実施形態に係る歯科用接着性組成物では、(A)重合性単量体において、(a1)酸性基含有重合性単量体が含まれることで、歯質との接着性が向上する。また、(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマー(以下、単に「(B)ポリマー」ともいう。)がラジカル重合性基を含むことで、歯科用接着性組成物の硬化性及び充填材料との接着性が向上する。また、(B)ポリマーが液体状であることで、歯質及び充填材料とのなじみがよくなり、歯面への浸透性及び充填材料との相溶性が向上する。これにより、本発明の一実施形態に係る歯科用接着性組成物は、歯面及び充填材料に対して高い接着性を示す。
【0012】
本発明の一実施形態に係る歯科用接着性組成物を硬化させる場合、元々ある程度の重合度を持った(B)ポリマーに対して重合が進行することで、モノマー成分から構成される歯科用接着性組成物に比べて、未結合箇所が少なく、少ないラジカルで容易に硬化させることができる。これにより、充填材料を透過する少量の光を利用して硬化可能な歯科用接着性組成物が得られる。したがって、充填材料の充填前の段階での硬化が不要で容易に硬化し、かつ、充填材料の組成によらず様々な充填材料に適用可能な接着材を実現することができる。
また、硬化の際に、(a1)酸性基含有重合性単量体が、(C)光重合開始剤の作用によりラジカル重合するとともに、(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーと共重合することで、歯面及び充填材料に対して接着性を有する接着成分が一体として硬化され、より高い接着強度を有する接着層が得られる。
【0013】
上記(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーは、下記一般式(1)で表される構造単位(X)5~80mol%と、下記一般式(2)で表される構造単位(Y)15~90mol%と、下記一般式(3)で表される構造単位(Z)0~50mol%と、を有してもよい。
【化1】
(一般式(1)中、R
1及びR
2は、水素原子又はメチル基を表し、nは1~15の整数を表す。)
【化2】
(一般式(2)中、R
3は、水素原子又はメチル基を表し、R
4は、下記一般式(2-1)で表される総炭素数1~15の基を表す。)
【化3】
(上記式中、pは0~5の整数を表し、R
'はアルキル基を表す。)
【化4】
(一般式(3)中、R
5は、水素原子又はメチル基を表し、Lはリン酸二水素モノエステル基{-O-P(=O)(OH)
2}又はホスホノ基{-P(=O)(OH)
2}を表し、mは1~15の整数を表す。)
【0014】
構造単位(X)に含まれるラジカル重合性基により、歯科用接着性組成物の硬化性及び充填材料との接着性がさらに向上される。また、構造単位(Z)が酸性基を含有することで歯質との接着性がさらに向上される。そして、構造単位(Y)はエチレングリコール鎖を含んでもよい特定のアルキル基を有することで、歯質及び充填材料とのなじみがより良好となり、歯面への浸透性及び充填材料との相溶性が向上されやすい。これにより、本発明の一実施形態に係るポリマーを含む歯科用接着性組成物は、歯面及び充填材料に対してさらに高い接着性を示す。
【0015】
上記一般式(2)中、R3が水素原子の場合、R4は総炭素数が1~15の基であり、R3がメチル基の場合、R4は総炭素数が4~15の基を表してもよい。
これにより、(B)が適度な流動性を有する液体状となり、本発明の一実施形態に係る歯科用接着性組成物を歯科用接着材として歯面に塗布した際に歯面と密着しやすくなり、また、充填材料とも相溶しやすいことで、接着強度のより高い接着層を形成することができる。
【0016】
上記(C)光重合開始剤は、(c1)ビスアシルフォスフィンオキサイドを含んでもよい。
単分子開裂型の高活性の光重合開始剤である(c1)ビスアシルフォスフィンオキサイドの作用によって少量の光によっても硬化がより十分に進行し、より重合度が高くなることで、より接着強度の高い接着層が得られる。
【0017】
上記(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーは、上記一般式(1)で示される構造単位(X)20~80mol%を含んでもよい。
これにより、歯科用接着性組成物の硬化性及び充填材料に対する接着性をより良好なものとすることができる。
【0018】
上記(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーは、上記一般式(3)で示される構造単位(Z)5~50mol%を含んでもよい。これにより、歯質に対する接着性をより良好なものとすることができる。
【0019】
スチレンを標準として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定された上記ポリマーの重量平均分子量が、1000以上50000以下であってもよい。
これにより、適度な粘度が得られることで、歯面及び充填材料との密着性が向上し、より高い接着強度が得られる。
【0020】
上記歯科用接着性組成物は、10質量部~30質量部の平均一次粒子径が1nm~20nmのヒュームドシリカを含んでもよい。
フィラーとして上記ヒュームドシリカを含むことにより、より高い接着強度の接着層が得られる。また、平均一次粒子径の小さいヒュームドシリカを用いることにより、添加量を多くしてもヒュームドシリカが沈降しにくくなる。したがって、ヒュームドシリカの添加量を多くすることによって、更に接着強度の高い接着層を形成することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、充填材料の充填前の段階での光照射が不要で容易に硬化し、かつ、様々な充填材料に適用可能なポリマー及びこれを含む歯科用接着性組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る接着性組成物を用いて充填材料を歯牙に接着する過程を模式的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施するための形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、「x~y」との数値範囲にはx及びyが含まれるものとし、つまり「x~y」は「x以上y以下を意味するものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
【0024】
<全体構成>
本発明の一実施形態の歯科用接着性組成物(以下、単に接着性組成物と呼称する。)は、齲蝕等により損傷を受けた歯牙を修復するために利用可能である。より詳細に、接着性組成物は、歯牙の損傷部に充填される歯科用充填材料(以下、単に充填材料と呼称する。)を、当該損傷部の表面を構成する歯質に接着するために利用可能である。
【0025】
本実施形態に係る歯科用接着性組成物は、1液型として構成され、(a1)酸性基含有重合性単量体を含む(A)重合性単量体と、(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーと、(C)光重合開始剤と、(D)水と、(E)有機溶媒と、を含有する。
【0026】
本実施形態に係るポリマーを含む接着性組成物は、塗布された歯牙の凹状の損傷部に、接着性組成物を硬化させることなく充填材料が充填される。
図1は、歯牙の損傷部に接着性組成物を介して充填材料が充填された状態を模式的に示す部分断面図である。
図1に示す状態では、未硬化の接着性組成物と未硬化の充填材料とが直接接触している。
【0027】
図1に示す状態から充填材料の硬化のために光照射が行われると、充填材料を透過した照射光の一部が接着性組成物に入射し、光重合型の硬化が進行する。
【0028】
一般的な光硬化型の歯科用接着材では、接着性成分などがモノマーとして含まれ、高い接着強度を得るために、十分な量のラジカルを供給して、各種モノマーを十分に重合させ硬化させる必要がある。このような接着材において、充填材料を透過した照射光を利用して重合を進行させた場合、光が届きにくい内部においては光重合開始剤によるラジカルが不十分であるため、残留モノマーが存在し、接着強度が低下する。
これに対して、本発明の歯科用接着性組成物では、ラジカルが不十分な環境下においても、モノマーが(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーと重合することで、分子量が急速に増大し硬化する。そのため、充填材料を透過した照射光によって、接着性組成物中のモノマーを十分に硬化させることが可能である。
【0029】
このような本実施形態に係る接着性組成物は、特殊な構成の充填材料ではなく、一般的な光硬化型の充填材料に広く適用可能であり、一液型の光照射不要な歯科用接着材として適用可能である。
【0030】
したがって、本実施形態に係る接着性組成物を迅速かつ十分に硬化させることができるため、患者への負担を抑えつつ高い接着強度の接着層が得られる。
【0031】
<詳細構成>
本発明の一実施形態の歯科用接着性組成物は、(A)重合性単量体と、(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーと、(C)光重合開始剤と、(D)溶媒と、(E)水と、を含有する、いわゆる、1液型として構成される。
【0032】
[(A)重合性単量体]
(A)重合性単量体は、1分子中に少なくとも1つのラジカル重合性不飽和基を有する化合物である。本実施形態に係る接着性組成物では、(A)重合性単量体がラジカル重合することによって硬化する。(A)重合性単量体は、少なくとも(a1)酸性基含有重合性単量体を含む。
【0033】
・(a1)酸性基含有重合性単量体
(a1)酸性基含有重合性単量体は、光照射により後述する(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーと共重合可能なモノマーであり、1分子中に、重合性不飽和基に加え、少なくとも1つの酸性基を含む酸性の重合性単量体として構成される。(a1)酸性基含有重合性単量体は、歯質の脱灰効果を有するとともに、歯質に対する接着成分としてはたらくことで、充填修復材の歯質に対する接着性を良好なものとする。
【0034】
本実施形態に係る接着性組成物においては、(A)重合性単量体を100質量部としたとき、(a1)酸性基含有重合性単量体の配合割合を1質量部~40質量部とし、5質量部~35質量部とすることが好ましく、10質量部~30質量部とすることがより好ましい。これにより、接着性組成物では、歯質に対する十分な接着強度、及び高い接着耐久性が得られやすくなる。
【0035】
(a1)酸性基含有重合性単量体に含まれる重合性不飽和基としては、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アクリルアミド基、メタアクリルアミド基、スチリル基などが挙げられる。これらの中でも、充填材料との接着性の観点から重合性不飽和基は、アクリロイル基及び/又はメタアクリロイル基であることが好ましい。
【0036】
(a1)酸性基含有重合性単量体に含まれる酸性基としては、該基を有す重合性単量体の水分散媒又は水懸濁液が酸性を呈す基であり、典型的には、リン酸二水素モノエステル基{-O-P(=O)(OH)2}、リン酸水素ジエステル基{(-O-)2P(=O)OH}、カルボキシル基(-COOH)、ホスホノ基{-P(=O)(OH)2}、スルホ基(-SO3H)、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、酸無水物基{-C(=O)-O-C(=O)-}、酸ハロゲン化物基{-C(=O)X、但しXはハロゲン原子を表す。}であり、これにより、光照射による硬化の際に、(a1)酸性基含有重合性単量体と(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーが良好に共重合し、高い接着強度を有する接着層が得られる。
【0037】
水に対する安定性が高く、歯面のスメア層の溶解や歯牙脱灰を緩やかに実施できるため、酸性基として、リン酸二水素モノエステル基、リン酸水素ジエステル基、及び/又はカルボキシル基を有する化合物であることが好ましく、リン酸二水素モノエステル基及び/又はリン酸水素ジエステル基を有する化合物であることが最も好ましい。
【0038】
好適に使用できる酸モノマーを例示すれば、リン酸二水素モノエステル基またはリン酸水素ジエステル基を有するものとして、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニルハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、モノ(2-メタクリロキシエチル)アシッドホスフェート、ビス(2-メタクリロキシエチル)アシッドホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルプロパン-2-ジハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルプロパン-2-フェニルハイドロジェンホスフェート、ビス[5-{2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニル}ヘプチル]ハイドロジェンホスフェート等が挙げることができる。
【0039】
また、カルボキシル基を有する酸モノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸、4-(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、1,4-ジ(メタ)アクリロイルオキシピロメリット酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等を挙げることができる。
【0040】
ホスホノ基を有する酸モノマーとして、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルホスホン酸、6-(メタ)アクリロイルヘキシルホスホン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホン酸等が挙げられる
【0041】
スルホ基を有する酸モノマーとして、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、p-ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルスルホン酸等を挙げることができる。
【0042】
これら酸モノマーは単独で、又は複数種を混合して使用することができる。
【0043】
・(a2)酸性基非含有重合性単量体
(A)重合性単量体は、接着性組成物における歯質に対する接着性及び接着耐久性の観点から(a1)酸性基含有重合性単量体以外に、酸性基を含まない(a2)酸性基非含有重合性単量体を更に含むことが好適である。
【0044】
(a2)酸性基非含有重合性単量体は、1分子中に、酸性基を含まず、かつ、1つ以上の重合性不飽和基を含む化合物であれば公知の化合物を特に制限無く用いることができる。ここで、重合性不飽和基としては、(a1)酸性基含有重合性単量体に含まれる重合性不飽和基と同様のものも挙げられるが、接着性の観点からは、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アクリルアミド基、メタアクリルアミド基などが好ましい。
【0045】
(a2)酸性基非含有重合性単量体の好適な具体例としては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、グリジジル(メタ)アクリレート、2-シアノメチル(メタ)アクリレート、ベンジルメタアクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート等の単官能性重合性単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2'-ビス[4-(メタ)アクリオイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'-ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'-ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシエトキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'-ビス{4-[2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2,4-トリメチルヘキサン、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、ウレタンジ(メタ)アクリレート、エポキシジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート等の多官能性重合性単量体;フマル酸モノメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン、α-メチルスチレン、α-メチルスチレンダイマー等のスチレン、α-メチルスチレン誘導体;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物を挙げることができる。特に、歯質への浸透性や各成分の相溶性の観点で単官能性重合性単量体を含むことが好ましく、機械強度の向上や耐久性の向上の観点で多官能性重合性単量体を含むことが好ましい。
【0046】
好適に使用される単官能性重合性単量体を具体的に例示すると、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、グリジジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0047】
好適に使用される多官能性重合性単量体を具体的に例示すると、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2'-ビス{4-[2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ]フェニル}プロパン、トリエチレングリコールジメタクリレート、2,2-ビス[(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン]、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2,4-トリメチルヘキサン、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、トリメチロールプロパントリメタクリレートが挙げられる。
【0048】
(a2)酸性基非含有重合性単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。(a2)酸性基非含有重合性単量体は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。2種以上を組み合わせて使用する場合には、(a2)酸性基非含有重合性単量体の配合割合は、(A)重合性単量体の合計質量を基準とする。
【0049】
(a2)酸性基非含有重合性単量体の配合割合は、特に制限されるものではないが、(A)重合性単量体100質量部に対して、(a1)酸性基含有重合性単量体を除いた量となる。(a1)酸性基含有重合性単量体に由来する接着性向上効果も十分に確保する観点からは、(a2)酸性基非含有重合性単量体の配合割合は、(A)重合性単量体100質量部に対して、60質量部~99質量部とし、75質量部~95質量部とすることが好ましく、70質量部~90質量部とすることがより好ましい。
【0050】
[(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマー]
本発明の一実施形態のラジカル重合性基含有液体状ポリマー(以下、単に「(B)ポリマー」とも称する)は、ラジカル重合性不飽和基を含有する液体状のポリマーである。液体状とは、常温(15~30℃)下で流動性を有する性状を意味する。即ち、本実施形態に係るポリマーは、典型的には、固体状でなく、不定形に流れ動く性質を有する。(B)ポリマーが液体状であることで、歯面への浸透性及び充填材料のモノマーとの相溶性が向上し、歯面及び充填材料に対する密着性を良好なものとすることができる。
本実施形態に係る接着性組成物では、充填材料の光照射による硬化とともに、(B)ポリマーのラジカル重合性基がラジカル重合することによって硬化する。
また、一般に歯科用接着性組成物に含まれるポリ低級(メタ)アクリレート等の高分子量ポリマーは、アセトンに対しては溶解性を示すが、親水性の高いエタノールに対して溶解性が低く、不均一に分散されることで、十分な接着強度が得られない。一方で、(B)ラジカル重合性基含液体状ポリマーは、エタノールに対して良好な溶解性を示し、均一に分散されることで、高い接着強度が得られる。このような本実施形態に係る接着性組成物は、生体体毒性の低いエタノールを使用でき、治療に好適に用いられる。
【0051】
(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーの配合割合は、(A)重合性単量体100質量部に対して、0.1~50質量部であり、1質量部~20質量部とすることが好ましい。この範囲を満足することにより、歯科用接着性組成物の硬化性及び充填材料に対する高い接着性を発揮することができる。
【0052】
本発明の一実施形態のラジカル重合性基含有液体状ポリマーは、構造単位(X)と、構造単位(Y)と、構造単位(Z)と、を有することが好ましい。
以下、構造単位(X)~(Z)について、説明する。
【0053】
・構造単位(X)
構造単位(X)は、下記一般式(1)で表され、ラジカル重合性不飽和基を有する(メタ)アクリル系モノマーに由来する構造単位である。構造単位(X)は、ラジカル重合により歯科用接着性組成物中のモノマー及び充填材料中のモノマーと重合し、歯科用接着性組成物の硬化性及び充填修復材に対する接着性を良好にする。
【化5】
(一般式(1)中、R
1及びR
2は、水素原子又はメチル基を表し、nは1~15の整数を表す。)
【0054】
構造単位(X)の含有量は、歯科用接着性組成物の硬化性及び充填修復材に対する接着性の観点から、ラジカル重合性基含有液体状ポリマー100mol%に対して、5~80mol%とすることが好ましく、20~80mol%とすることが特に好ましい。
【0055】
構造単位(X)は、例えば、以下に説明する合成法I及び合成法IIにより得られる。構造単位(X)を確実に得るために、合成法Iが好ましい。
【0056】
合成法Iでは、下記一般式(4)または(5)で表される(メタ)アクリレートを共重合成分の一つとして用いて合成したポリマーに、塩基を作用させてプロトンを引き抜き、Eを脱離させ、構造単位(X)を得る。
【化6】
(一般式(4)および(5)中、Eはアニオン性脱離基を表し、R
6、R
7、R
8及びR
9は、水素原子又はメチル基を表し、p及びqは1~15の整数を表す。)
【0057】
アニオン性脱離基として、ハロゲン原子やアルキルまたはアリールスルホニルオキシ基などが好ましく、臭素原子、塩素原子、p-トルエンスルホニルオキシ基が特に好ましい。
具体的には、合成原料の入手の容易さから、2-((3-ブロモ-2-メチルプロパノイル)オキシ)エチルメタクリレート、2-((3-ブロモ-2-メチルプロパノイル)オキシ)エチルアクリレート、2-((3-ブロモプロパノイル)オキシ)エチルメタクリレート、2-((3-クロロ-2-メチルプロパノイル)オキシ)エチルメタクリレート、2-((3-クロロ-2-メチルプロパノイル)オキシ)エチルアクリレート、2-((3-クロロプロパノイル)オキシ)エチルメタクリレートなどを挙げることができる。
【0058】
脱離反応を誘起させる塩基としては、無機塩基及び有機塩基のどちらを使用してもよい。
好ましい無機化合物塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられ、有機化合物塩基としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt - ブトキシドのような金属アルコキシド、トリエチルアミン、ピリジン、ジイソプロピルエチルアミンのような有機アミン化合物等が挙げられる。
【0059】
合成法IIでは、水酸基を含む(メタ)アクリレートを共重合成分の一つとして用いて合成したポリマーに、(メタ)アクリル酸クロリドや(メタ)アクリル酸無水物などを反応させ、構造単位(X)を得る。
【0060】
・構造単位(Y)
構造単位(Y)は、下記一般式(2)で表され、アルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーに由来する構造単位であり、アルキル基はエチレングリコール鎖を含んでもよい。構造単位(Y)を含むことで、歯質及び充填材料とのなじみをよくすることができ、歯面への浸透性や充填材料のモノマーとの相溶性を向上させ、歯面及び充填材料に対する密着性が良好な接着層が形成される。
【化7】
(一般式(2)中、R
3は、水素原子又はメチル基を表し、R
4は、下記一般式(2-1)で表される総炭素数1~15の基を表す。)
【化8】
(上記式中、pは0~5の整数を表し、R'はアルキル基を表す。)
【0061】
構造単位(Y)の含有量は、歯面への浸透性及び充填材料との相溶性の観点から、ラジカル重合性基含有液体状ポリマー100mol%に対して、15~90mol%であることが好ましく、20質量部~80質量部であることが特に好ましい。
【0062】
歯面への浸透性及び充填材料のモノマーとの相溶性をより向上させる観点から、一般式(2)中、R3が水素原子の場合、R4は総炭素数が1~15の基であり、R3がメチル基の場合、R4は総炭素数が4~15の基を表すことが好ましい。これにより、本実施形態に係るポリマーは、適度な流動性を有する液体状とすることができ、歯面及び充填材料への密着性が向上する。
【0063】
特に、ポリマーの性状を液体状とする観点から、一般式(2)で示される構造単位(Y)が、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸へプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸‐2‐メトキシエチル、(メタ)アクリル酸‐2‐エトキシエチル、及び(メタ)アクリル酸‐2‐(2‐メトキシエトキシ)エチルから選ばれるモノマー由来の構造であることが好ましい。
【0064】
・構造単位(Z)
構造単位(Z)は、下記一般式(3)で表され、酸性基を含有する(メタ)アクリル系モノマーに由来する構造である。(Z)の酸性基Lは歯質の脱灰効果を有するとともに、歯質に対する接着成分としてはたらくことで、充填修復材の歯質に対する接着性を良好なものとする。
即ち、構造単位(Z)は、上記(a1)酸性基含有重合性単量体と同様の作用を有する。構造単位(Z)は、接着性組成物の硬化時に(a1)酸性基含有重合性単量体と共重合することで、形成可能であるため、(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーは、構造単位(Z)を含まなくてもよく、構造単位(X)及び構造単位(Y)のみから構成されてもよい。
【化9】
(一般式(3)中、R
5は、水素原子又はメチル基を表し、Lはリン酸二水素モノエステル基{-O-P(=O)(OH)
2}又はホスホノ基{-P(=O)(OH)
2}を表し、mは1~15の整数を表す。)
【0065】
構造単位(Z)の含有量は、歯面に対する高い接着性、さらには高い接着耐久性が得られやすいという観点から、(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマー100mol%に対して、0~50mol%であることが好ましく、5~50mol%であることがさらに好ましく、10mol%~40mol%であることが特に好ましい。
【0066】
水に対する安定性が高く、歯面のスメア層の溶解や歯牙脱灰を緩やかに実施できるため、Lがリン酸二水素モノエステル基{-O-P(=O)(OH)2}であることが好ましい。
【0067】
リン酸二水素モノエステル基を有する構造単位(Z)としては、具体的には、2-(ホスホノオキシ)エチルメタクリレート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート等が挙げられる。
【0068】
ホスホノ基を有する構造単位(Z)としては、具体的には、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルホスホン酸、6-(メタ)アクリロイルヘキシルホスホン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホン酸等が挙げられる。
【0069】
(ポリマーの分子量)
本発明の一実施形態のラジカル重合性基含有液体状ポリマーの重量平均分子量は、1000以上50000以下であることが好ましく、2000以上20000以下であることがより好ましい。重量平均分子量は、スチレンを標準として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される。重量平均分子量が上記範囲であることで、適度な粘度となり、歯科用接着材料として歯面に塗布したときに、塗布した被膜が流れることなく形成され、歯牙治療の際の操作が容易となる。また、塗布後に所望の厚みを確保でき、塗布後に溶媒除去をするためエアブローを行っても、被膜が均一に保たれることで、接着強度の高い接着層が形成できる。
【0070】
[(C)光重合開始剤]
(C)光重合開始剤は、光照射を受けて(A)重合性単量体のラジカル重合を開始させる化合物である。これにより、本実施形態に係る接着性組成物では、光重合型の硬化を進行させることが可能となる。
【0071】
例えば、(C)光重合開始剤としては、カンファーキノン等のα-ジケトン類や、アシルホスフィンオキサイド類等が使用できる。
【0072】
特に、接着性組成物は、(C)光重合開始剤として、(c1)ビスアシルフォスフィンオキサイドを含むことが好ましい。
【0073】
・(c1)ビスアシルフォスフィンオキサイド
(c1)ビスアシルフォスフィンオキサイドは、単分子開裂型の高活性の光重合開始剤
である。このため、(c1)ビスアシルフォスフィンオキサイドは、少量の光によっても
(A)重合性単量体の光重合型の硬化を進行させることができる。(c1)ビスアシルフォスフィンオキサイドの配合割合は、(A)重合性単量体100質量部に対して、0.1質量部~10質量部とし、0.5質量部~8質量部とすることが好ましい。この範囲を満足することにより、高い重合活性、接着性を発揮することができる。(c1)ビスアシルフォスフィンオキサイドは、下記の式で表される化合物である。
【0074】
【0075】
上記式中、RC1は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、アシル基、又はアシルオキシ基を表す。RC2~RC11は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、アシル基、又はアシルオキシ基を表す。
【0076】
式で表される(c1)ビスアシルフォスフィンオキサイドとしては、例えば、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、(2,5,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。(c1)ビスアシルフォスフィンオキサイドは、上記のようなビスアシルフォスフィンオキサイド及びその誘導体を含むものとする。
【0077】
[(D)水]
水としては、貯蔵安定性、生体適合性及び接着性の観点で有害な不純物を実質的に含まない事が好ましく、例としては脱イオン水、蒸留水等が利用できる。水の配合割合は、(A)重合性単量体100質量部に対して、1質量部~50質量部とし、10質量部~20質量部とすることが好ましい。
【0078】
[(E)有機溶媒]
有機溶媒としては、公知の有機溶媒であればいずれも制限無く用いることができるが、通常は、沸点が100℃未満の揮発性の高い有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒の配合割合は、(A)重合性単量体100質量部に対して、10質量部~300質量部とし、30質量部~200質量部とすることが好ましい。
【0079】
具体的に、有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル、蟻酸エチル等のエステル類;トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等のハイドロカーボン系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等の塩素系溶媒;トリフルオロエタノール等のフッ素系溶媒等が挙げられる。これらの中でも、生体安全性、溶解性及び保存安定性等の理由で、アセトン、エタノール、イソプロピルアルコール等が特に好ましく使用される。有機溶媒としては、1種又は2種以上の有機溶媒を組み合わせて使用することもできる。
【0080】
[その他の成分]
接着性組成物は、必要に応じて、上記の成分以外の各種添加剤などの成分が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、(F)フィラー、重合禁止剤、化学重合開始剤、多価金属化合物、着色剤、光重合促進剤などが挙げられ、特にフィラー及び重合禁止剤が含まれていることが好ましい。
【0081】
・(F)フィラー
フィラーは、接着性組成物を硬化して得られる接着層における機械的強度や操作性を向上させるために配合される。フィラーとしては、特に制限はなく、公知の無機フィラー、有機フィラー、無機-有機複合フィラーを用いることができる。
【0082】
無機フィラーとしては、例えば、石英、無定形シリカ、ヒュームドシリカ、シリカジルコニア、クレー、酸化アルミニウム、タルク、雲母、カオリン、ガラス、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム等が挙げられる。更に、これら無機フィラーは、表面処理することが好ましい。これにより、重合性単量体とのなじみをよくし、機械的強度や耐水性を向上させることが容易になる。表面処理の方法は公知の方法で行えばよく、表面処理剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が好適に用いられる。
【0083】
無機フィラーとしては、ヒュームドシリカがより好ましい。これにより、硬化後により高い接着強度の接着層が得られる。ヒュームドシリカの平均一次粒子径は1nm~20nmであることが好ましい。このように、接着性組成物では、平均一次粒子径が小さいヒュームドシリカを用いることにより、添加量を多くしてもヒュームドシリカが沈降しにくくなる。したがって、接着性組成物では、ヒュームドシリカの添加量を多くすることによって、更に接着強度の高い接着層を形成することが可能となる。
【0084】
無機フィラーを配合する場合、その配合量は、(A)重合性単量体100質量部に対して、10質量部~30質量部とすることが好ましい。10質量部以上とすることで、より高い接着強度が得られ、30質量部以下とすることで、歯科用接着剤として適度な流動性が確保され、操作性に優れる。
【0085】
以上より、本実施形態に係る接着性組成物は、(A)重合性単量体100質量部に対して、10質量部~30質量部の平均一次粒子径が1nm~20nmのヒュームドシリカを含有することがさらに好ましい。これにより、さらに接着強度の高い接着層を形成することができる。
【0086】
この他、接着性組成物は、有機フィラーとして、(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマー以外のポリマーを含んでもよい。有機フィラーとしては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート・エチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・ブチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・スチレン共重合体等の非架橋性ポリマー、又は、メチル(メタ)アクリレート・エチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体、(メタ)アクリル酸メチルとブタジエン系単量体との共重合体等の(メタ)アクリレート重合体などが挙げられる。
【0087】
有機フィラーを配合する場合、その配合量は(A)重合性単量体100質量部に対して、0.01~10質量部とすることが好ましい。
【0088】
尚、フィラーとしては、上記で挙げた物質を、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0089】
・重合禁止剤
重合開始剤および重合性単量体を含む本実施形態の歯科用接着性組成物には、必要に応じて一般的な歯科用材料に使用できる公知の重合禁止剤を配合することもできる。これにより、接着性組成物の保管中における重合反応の進行が抑制され、安定的に長期保管可能とする。重合禁止剤としては、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。重合禁止剤としては、上記で挙げた物質を、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
重合禁止剤の配合量は、歯科用接着性組成物に含まれる(A)重合性単量体100質量部に対して、0.0001質量部~10質量部とすることが好ましい。
・光重合促進剤
上記光重合開始剤は光重合促進剤を組み合わせて用いることが好ましい。このような光重合促進剤としては、芳香族第三級アミン化合物が好適に用いられる。芳香族第三級アミン化合物としては4-ジメチルアミノ安息香酸、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸ラウリル、3-ジメチルアミノ安息香酸、3-ジメチルアミノ安息香酸エチル、ジメチルアミノ-p-トルイジン、ジエチルアミノ-p-トルイジン、p-トリルジエタノールアミン等が挙げられる。光重合促進剤としては上記で挙げた物質を、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
光重合促進剤の配合量は歯科用接着性組成物に含まれる(A)重合性単量体100質量部に対して、0.1質量部~10質量部とすることが好ましい。
【実施例0090】
以下に本発明を、実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものでは無い。
【0091】
<物質の略称>
まず、以下に、実施例及び比較例において使用した物質の略称について説明する。
[(A)重合性単量体]
・(a1)酸性基含有重合性単量体
MDP:10-メタクリルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
SPM:モノ(2-メタクリロキシエチル)アシッドホスフェートとビス(2-メタクリロキシエチル)アシッドホスフェートの1:2混合物
・(a2)酸性基非含有重合性単量体
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
Bis-GMA:2,2'-ビス{4-[2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ]フェニル}プロパン
[(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマー]
以下、(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーの合成に用いた化合物を示す。
・構造単位(X)のモノマー
BrMPMA:2-((3-ブロモ-2-メチルプロパノイル)オキシ)エチルメタクリレート
BrMPA:2-((3-ブロモ-2-メチルプロパノイル)オキシ)エチルアクリレート
BrPMA:2-((3-ブロモプロパノイル)オキシ)エチルメタクリレート
・構造単位(Y)のモノマー
MA:メチルアクリレート(東京化成工業社製)
DMA:ドデシルメタクリレート(東京化成工業社製)
TDMA:トリデシルメタクリレート(東京化成工業社製)
MMA:メチルメタクリレート(東京化成工業社製)
・構造単位(Z)のモノマー
PM1:2-(ホスホノオキシ)エチルメタクリレート(P-1M(共栄社化学社製)を水/ジクロロメタンで精製したもの)
PA1:2-(ホスホノオキシ)エチルアクリレート(P-1A(共栄社化学社製)を水/ジクロロメタンで精製したもの)
・その他の使用した化合物
THF:テトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬社製)
TEA:トリエチルアミン(富士フイルム和光純薬社製)
DIPE:ジイソプロピルエーテル(富士フイルム和光純薬社製)
AIBN:アゾビス(イソブチロニトリル)(富士フイルム和光純薬社製)
[(C)光重合開始剤]
BTPO:フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド
CQ:カンファーキノン
[その他の成分]
・(F)フィラー
DM-30:平均1次粒径7nm、ジメチルジクロロシラン処理のシリカ粒子(株式会社トクヤマ製)
DM-20:平均一次粒子径12nm、表面処理剤:ジメチルジクロロシラン(株式会杜トクヤマ製)
・重合禁止剤
BHT:ジブチルヒドロキシトルエン
・光重合促進剤
DMBE:4-ジメチルアミノ安息香酸エチル
・その他のポリマー
PMMA:ポリメチルメタクリレート(重量平均分子量1000000)
【0092】
<(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーP1~P7及び参考ポリマーP8>
[(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマー及び参考ポリマーP8の合成]
(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーP1~P7及び参考ポリマーP8(以下、単に「ポリマーP1~P8」等とも称する。)を以下の方法により合成した。各ポリマーの成分、配合割合は、下記の表1に示すとおりである。
【0093】
まず、構造単位(X)のモノマーの合成を行った。
3-ブロモイソ酪酸(東京化成工業社製);1.7g(15mmol)を200mLなす型フラスコに秤量した。さらにTHF100mLを添加し、続いて1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド(東京化成工業社製);3.5g(18mmol),4-ジメチルアミノピリジン(富士フイルム和光純薬社製);0.1g(1mmol)及び2-ヒドロキシエチルアクリレート(新中村化学工業社製);1.3g(10mmol)を添加した。6時間後、エバポレーターを用いて除媒し、さらに酢酸エチル(100mL)を添加した。酢酸エチル層を、水(100mL)を用いて3回洗浄した。酢酸エチル層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥させ、エバポレーターにて酢酸エチルを減圧留去した。得られた化合物を80℃、1時間、酸素バブリングしつつ乾燥させ、BrMPMA;2.2g、収率75%にて得た。
なお、BrMPAの合成の際は、2-ヒドロキシエチルメタクリレートの代わりに2-ヒドロキシエチルアクリレート(東京化成工業社製)を用いた。
【0094】
次に、以下の方法により、ポリマーP1~P8の合成を行った。
(1)合成法(i)により、ポリマーP1の合成を行った。
まず、以下の反応式に示すように、重合性基前駆体ポリマーP1'の合成を行った。
BrMPA;266mg(1mmol)、PA1;588mg(3mmol)、AIBN;164mg(1mmol)を100mLなす型フラスコに秤量した。窒素置換を行った後、THF/水(8/2)混合溶媒20mLを添加し、続いてMA;537μl(6mmol)を系内に添加した。オイルバスを用いて24時間、65℃にて加熱攪拌を行った。HPLCにてモノマーの消失を確認し、エバポレーターにてTHFを減圧留去した。得られた粗生成物をエタノール/ドライアイスバス下、DIPE/THF(9/1)混合溶媒20mLを用いて再沈殿を行った後、真空乾燥を行い、重合性基前駆体ポリマーP1'を得た。
【化11】
【0095】
次に、ポリマーP1の合成を行った。
重合性基前駆体ポリマーP1'をジクロロメタン20mLに溶解させ、TEA2mLを添加した。室温にて6時間撹拌した後、1N塩酸20mLを添加し洗浄操作を行った。さらに2回,1N塩酸20mLにて、ジクロロメタン層の洗浄を行った。ジクロロメタン層を硫酸マグネシウムにて乾燥させ、エバポレーターにてジクロロメタンを減圧留去及び真空乾燥することで1.09g(収率85%)のポリマーP1を得た。1H-NMR測定より組成比は構造単位(X)(mol%):構造単位(Y)(mol%):構造単位(Z)(mol%)=10:59:31(=x:y:z)であり、GPC測定より重量平均分子量Mw=4200であった。
【0096】
(2)合成法(ii)により、ポリマーP2の合成を行った。
まず、以下の反応式に示すように、重合性基前駆体ポリマーP2'の合成を行った。
AIBN;164mg(1mmol)を100mLなす型フラスコに秤量した。窒素置換を行った後、THF/水(8/2)混合溶媒15mLを添加し、続いてMA;538μl(6mmol)を系内に添加した。続いて、反応系を、オイルバスを用いて65℃に加熱した。PM1;210mg(1mmol)及びBrMPMA;834mg(3mmol)のTHF/水(8/2)混合溶媒5mL溶液を、シリンジポンプを用いて3時間かけて滴下した。滴下終了後さらに65℃にて21時間反応を行い、HPLCにてモノマーの消失を確認し、エバポレーターにてTHFを減圧留去した。得られた粗生成物をエタノール/ドライアイスバス下、ジイソプロピルエーテル/THF(8/2)20mLを用いて再沈殿を行った後、真空乾燥を行い、重合性基前駆体ポリマーP2'を得た。
【化12】
【0097】
次に、ポリマーP2の合成を行った。
合成法1と同様の方法にて、重合性基前駆体ポリマーP2'をポリマーP2へ変換し、1.08g(収率82%)のP2を得た。1H-NMR測定より組成比は構造単位(X)(mol%):Y構造単位(Y)(mol%):Z構造単位(Z)(mol%)=30:60:10(=x:y:z)であり、GPC測定より重量平均分子量Mw=4300であった。
【0098】
(3)合成法(i)または(ii)と同様の方法を用いてポリマーP3~P5の合成を行った。なお、メタクリレートモノマーとアクリレートモノマーの共重合性の違いから、メタクリレートモノマーもしくはアクリレートモノマーのみを用いた場合は合成法(i)を、メタクリレートモノマーとアクリレートモノマーを併用した場合は合成法(ii)を用いた。用いたモノマー、組成比、性状、重量平均分子量及び収率を表2に示す。
【0099】
(4)合成法(iii)により、ポリマーP6,P7の合成を行った。合成法(iii)では、AIBN;82mg(0.5mmol)を用いたこと以外は、合成法(i)と同様の方法を用いた。
【化13】
(5)合成方法(i)により、ポリマーP8の合成を行った。尚、ポリマーP8の性状は固体であり、本願発明の(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーでない例である。
【0100】
[(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマーの分析]
得られたポリマーの性状及び重量平均分子量及び収率を表1に示す。本実施形態のポリマーは重合性基前駆体を重合性基へ変換しているため、保護・脱保護の工程がなく工程数が少ない。そのため、精製によるロスが少なく、いずれも収率が高かった。
重量平均分子量は、以下の方法により測定した。
【0101】
1H-NMR測定;日本電子株式会社製JNM-ECAII(400MHz)を測定装置として用いた。測定溶媒として重クロロホルムを用い、測定サンプルを100倍希釈して測定を行った。
GPC測定;日本ウォーターズ社製Advanced Polymer Chromatographyを測定装置として用いた。また、カラムにはACQUITY APCTMXT45(1.7μm)及びACQUITY APCTMXT125(2.5μm)を用い、カラム温度は40℃とした。展開溶媒にはTHFを用い、流量は0.5ml/分とした。検出器にはフォトダイオードアレイ検出器210nmを用いた。また、測定溶媒としてTHFを用い、測定サンプルを100倍希釈して測定を行った。
【0102】
【0103】
<実施例1~24および比較例1~8>
実施例1~24および比較例1~8の接着性組成物を調製し、接着強度の評価を行った。
【0104】
[歯科用接着性組成物の調製]
下記の組成にて、実施例1~24および比較例1~8に係る接着性組成物を調製した。各接着性組成物の成分及び配合割合は、下記の表2~4に示すとおりである。なお、表中の「↑」は、「同上」を意味する。
【0105】
[接着性組成物の評価]
次に、得られた接着性組成物について「引張接着強度」を評価した。
【0106】
以下の通り、歯質に対する接着強度を測定した。
屠殺後24時間以内に抜去した牛前歯を、注水下、耐水研磨紙P600で研磨し、唇面に平行かつ平坦になるように、象牙質平面を削り出した被着体を準備した。
次に、上記被着体の研磨面に、直径3mmの穴を開けた両面テープを貼り付けた。続いて、各実施例および各比較例で調製した歯科用接着性組成物を研磨面のうち両面テープの穴から露出している接着面に塗布し、5秒間エアブローして乾燥させた。直径8mmの穴が設けられた厚み0.5mmのパラフィンワックスを、パラフィンワックスの穴と、両面テープの穴とが同心円となるように歯科用接着性組成物が塗布された接着面に貼り付けて模擬窩洞を作製した。この模擬窩洞に歯科用コンポジットレジン(エステライトユニバーサルフロー、トクヤマデンタル社製)を充填してポリエステルフィルムで軽く圧接した後、可視光線照射器(エリパー、3M ESPE社製)を用い、光照射10秒による光硬化を行った。その後、あらかじめ研磨したSUS304製丸棒(直径8mm、高さ18mm)をレジンセメント(エステセムII、トクヤマデンタル社製)で接着し、評価用試料(サンプル)を作製した。なお、使用したコンポジットレジンは、カンファーキノンおよびアミン化合物を含む光重合性の組成物である。
この試験サンプルを37℃の水中にて24時間浸漬した後に万能試験機(AG-I型、島津製作所社製)を用い、クロスヘッドスピード1mm/分で、測定サンプルが破断するまで試験サンプルに荷重を加え、最大荷重から下記式を用いて接着強度を求めた。
接着強度(MPa)=最大荷重(N)/被着面積(mm2)。
測定は、接着強度測定用のサンプルを水中から引き上げて約1日以内に実施した。各実施例及び各比較例について、4個のサンプルの測定値を平均し、測定結果とした。
【0107】
表2,3に示す実施例1~24は本発明の構成を満足するよう配合された歯科用接着性組成物を用いたものである。いずれの場合においても、接着試験結果は良好であった。
【0108】
比較例1~8に係る接着性組成物は、各成分が本発明で示される構成を満たさない例である。
表4に示す比較例1~6の接着性組成物はそれぞれ(a1)酸性基含有重合性単量体、(B)ラジカル重合性基含有液体状ポリマー、(C)光重合開始剤、(D)水を含まないため、良好な接着強度が得られなかったと考えられる。また、比較例3、4は(B)成分の代わりに固体状のポリマーを配合した場合であるが、接着性組成物の歯面との馴染みが悪く、低い接着強度を示したと考えられる。
比較例7は(B)成分の配合量が0.1質量部未満であるため、配合の効果が十分に生じず、良好な接着強度が得られなかったと考えられる。また、比較例8は(B)成分の配合量が50質量部を超えるため、歯面との馴染みが低下し、良好な接着強度が得られなかったと考えられる。
【0109】
【0110】
【0111】