(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135201
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】水処理装置および水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/48 20230101AFI20230921BHJP
【FI】
C02F1/48 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040290
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】小寺 博也
(72)【発明者】
【氏名】山東 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】蛯名 教介
【テーマコード(参考)】
4D061
【Fターム(参考)】
4D061DA02
4D061DA08
4D061DB05
4D061EB01
4D061EB04
4D061EB28
4D061ED20
4D061GC20
(57)【要約】
【課題】鉄イオンを含有する原水処理において、水酸化鉄の付着によるポンプや送水管の閉塞を簡便な方法で確実に防止できる水処理装置および水処理方法の提供。
【解決手段】鉄イオンを含有する原水を採水するポンプ2と、ポンプに2より採水される原水が流れる送水管3と、ポンプ2および送水管3に通電可能に接続される直流電源4と、ポンプ2および送水管3とは反対側の電位で直流電源4と通電可能に接続される導電性部材5と、を有する水処理装置1A;ポンプ2および送水管3と、原水に浸漬された導電性部材5との間に直流電流を流すことを特徴とする、水処理方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄イオンを含有する原水を採水するポンプと、
前記ポンプにより採水される原水が流れる送水管と、
前記ポンプおよび前記送水管のいずれか一方または両方に通電可能に接続される直流電源と、
前記ポンプおよび前記送水管のいずれか一方または両方とは反対側の電位で前記直流電源と通電可能に接続される導電性部材と、
を有する、水処理装置。
【請求項2】
前記導電性部材の少なくとも一部が、前記原水と接触する、請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
前記ポンプおよび前記送水管のいずれか一方または両方に流れる電流値を、下記(1)または(2)に制御する制御装置をさらに有する、請求項1または2に記載の水処理装置。
(1)前記ポンプおよび前記送水管のいずれか一方または両方が負電位である場合は、-0.55mA以上-0.07mA以下。
(2)前記ポンプおよび前記送水管のいずれか一方または両方が正電位である場合は、0.60mA以上1.00mA未満。
【請求項4】
前記ポンプおよび前記送水管のいずれか一方または両方の少なくとも一部の材質の抵抗率が、10000Ω・m以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項5】
前記導電性部材の少なくとも一部の材質の抵抗率が、10000Ω・m以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項6】
前記原水が地下水である、請求項1~5のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項7】
ポンプによって採水した原水が流れる送水管から供給される処理対象水を処理する水処理方法であって、
前記ポンプおよび前記送水管のいずれか一方または両方と、前記原水と少なくとも一部が接触した導電性部材との間に直流電流を流すことを特徴とする、水処理方法。
【請求項8】
前記ポンプおよび前記送水管のいずれか一方または両方流れる電流値を、下記(1)または(2)に制御する、請求項7に記載の水処理方法。
(1)前記ポンプおよび前記送水管のいずれか一方または両方が負電位である場合は、-0.55mA以上-0.07mA以下。
(2)前記ポンプおよび前記送水管のいずれか一方または両方が正電位である場合は、0.60mA以上1.00mA未満。
【請求項9】
前記原水が地下水である、請求項7または8に記載の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理装置および水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下水、井戸水等の種々の原水の水処理が行われている。地下水等には土壌由来の鉄等の金属がイオンの状態で存在している。鉄イオンを含む地下水が大気と接触すると、大気中の酸素が地下水等に溶け込み、鉄イオンが酸化される。このため、原水を汲み上げるポンプや原水が流れる送水管の内部に水酸化鉄が付着し、揚水量が低下することがある。この場合、ポンプや送水管を交換のために引き上げる必要があるため、工事費用の発生、装置の運転停止といった問題が発生する。
【0003】
水酸化鉄の付着には、土壌中に存在する好気性の鉄酸化細菌も関与している。鉄酸化細菌は2価の鉄イオンを3価の鉄イオンに酸化することで代謝エネルギーを獲得し、増殖する。
特に、酸素、硝酸態窒素といった電子受容体となる物質が地下水等に存在する場合、水中の酸化還元電位が高くなり、鉄酸化細菌にとって鉄イオンを酸化して代謝するのに適した水環境が提供される。鉄酸化細菌の代謝によって生成した3価の鉄イオンは、粘性のある水酸化鉄となる。このため、鉄酸化細菌の作用によってポンプや送水管の内部に水酸化鉄が付着しやすい。
【0004】
水酸化鉄の付着を抑制する手法は、いくつか提案されている。例えば、特許文献1~3、非特許文献1では、鉄酸化細菌の増殖を抑制するために、アルミニウム、マグネシウム、銅、銀等の殺菌性のある素材や薬品を用いることが提案されている。
他にも、特許文献4では地下水と空気との接触を妨げる接触防止剤を供給することで、鉄酸化細菌の増殖を抑制することが提案されている。特許文献5では培養液中の酸化還元電位を制御し、硫酸還元細菌を選択的かつ優先的に増殖させる手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-245457号公報
【特許文献2】特開2016-180274号公報
【特許文献3】特開平11-246309号公報
【特許文献4】特開2016-102336号公報
【特許文献5】特開2009-178145号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Preventing the growth of iron bacteria in water wells by copper and silver coating;Water Supply, Vol. 20, No.4, p.1195-1206(2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、殺菌性の化合物は原水を処理した後に得られる処理水の水質に影響を与える。このため、処理水を例えば飲用水として利用できないことがある。この一例のように、特許文献1~3、非特許文献1の手法では、処理水の用途が制限される。また、殺菌性の薬品や化合物を除去するための複雑な処理設備の設置、制御が必要となる。
また、特許文献4、5のいずれの手法をもってしても、原水中の鉄酸化細菌の増殖を充分に抑制できない。特許文献4の手法では原水がすでに酸素や硝酸態窒素を含む場合、鉄酸化細菌の増殖制御は困難である。特許文献5に関しては、原水には水源の地質および水質等の様々な要因が存在するため、酸化還元電位の制御で原水中の微生物増殖を制御することは困難である。大量に採水される原水全体の酸化還元電位の制御はさらに困難である。
以上の通り従来の手法では、原水と触れるポンプや送水管における水酸化鉄による閉塞を防止することは困難である。また、原水中の溶存酸素量が極めて少ない場合でも、ポンプや送水管の内部に水酸化鉄が付着し、閉塞することがある。
【0008】
本発明は、鉄イオンを含有する原水の処理において、水酸化鉄の付着によるポンプや送水管の閉塞を簡便な方法で確実に防止できる水処理装置および水処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]鉄イオンを含有する原水を採水するポンプと;前記ポンプにより採水される原水が流れる送水管と;前記ポンプおよび前記送水管のいずれか一方または両方に通電可能に接続される直流電源と;前記ポンプおよび前記送水管のいずれか一方または両方とは反対側の電位で前記直流電源と通電可能に接続される導電性部材と;を有する、水処理装置。
[2]前記導電性部材の少なくとも一部が、前記原水と接触する、[1]の水処理装置。
[3]前記ポンプおよび前記送水管のいずれか一方または両方に流れる電流値を、下記(1)または(2)に制御する制御装置をさらに有する、[1]または[2]の水処理装置。
(1)前記ポンプおよび前記送水管のいずれか一方または両方が負電位である場合は、-0.55mA以上-0.07mA以下。
(2)前記ポンプおよび前記送水管のいずれか一方または両方が正電位である場合は、0.60mA以上1.00mA未満。
[4]前記ポンプおよび前記送水管のいずれか一方または両方の少なくとも一部の材質の抵抗率が、10000Ω・m以下である、[1]~[3]のいずれかの水処理装置。
[5]前記導電性部材の少なくとも一部の材質の抵抗率が、10000Ω・m以下である、[1]~[4]のいずれかの水処理装置。
[6]前記原水が地下水である、[1]~[5]のいずれかの水処理装置。
[7]ポンプによって採水した原水が流れる送水管から供給される処理対象水を処理する水処理方法であって;前記ポンプおよび前記送水管のいずれか一方または両方と、前記原水と少なくとも一部が接触した導電性部材との間に直流電流を流すことを特徴とする、水処理方法。
[8]前記ポンプおよび前記送水管のいずれか一方または両方流れる電流値を、下記(1)または(2)に制御する、[7]の水処理方法。
(1)前記ポンプおよび前記送水管のいずれか一方または両方が負電位である場合は、-0.55mA以上-0.07mA以下。
(2)前記ポンプおよび前記送水管のいずれか一方または両方が正電位である場合は、0.60mA以上1.00mA未満。
[9]前記原水が地下水である、[7]または[8]の水処理方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鉄イオンを含有する原水処理において、水酸化鉄の付着によるポンプや送水管の閉塞を簡便な方法で確実に防止できる水処理装置および水処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】水処理装置の特徴部分の一例を示す概略構成図である。
【
図2】
図1の水処理装置によって水酸化鉄の付着を抑制することを説明する図である。
【
図3】水処理装置の特徴部分の他の一例を示す概略構成図である。
【
図4】実験例で使用した装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書における以下の用語の意味は以下の通りである。
「硝酸態窒素」とは、水中において硝酸イオンの形態で存在する窒素を意味する。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0013】
<原水>
一実施形態において、原水は二価の鉄イオンを含むものであれば特に限定されない。例えば、地下水、井戸水、湖沼水、河川水、工業排水、下水、排水等が挙げられる。ただし、原水はこれらの例示に限定されない。
原水中の二価の鉄イオンの含有量は、特に限定されない。例えば、0.1mgFe/L以上であると、水酸化鉄の付着が起きやすい水環境でポンプや送水管の閉塞を確実に防止することの技術的意義が大きくなる。鉄イオンの含有量の上限値は特に限定されないが、処理の簡便性の観点から、100mgFe/L以下が好ましく、50mgFe/L以下がより好ましい。鉄イオンの含有量が前記上限値を超える場合は、適宜、硝酸態窒素を減少させる前処理を実施すればよい。
鉄イオンの含有量は、吸光光度計(DR-2010 HACH社)を用いてFerroVer法により波長520nmの条件下で測定できる。
【0014】
原水は、二価の鉄イオン以外の種々の成分をさらに含み得る。原水中の成分は採水地によって異なるため、特に限定されない。例えば、硝酸態窒素の含有量が0.1mgN/L以上であると、二価の鉄イオンが酸化しやすい。このため、水酸化鉄の付着が起きやすい水環境でポンプや送水管の閉塞を確実に防止することの技術的意義が大きくなる。硝酸態窒素の含有量の上限値は特に限定されないが、処理の簡便性の観点から、100mgN/L以下が好ましく、50mgN/L以下がより好ましい。硝酸態窒素の含有量が前記上限値を超える場合は、適宜、硝酸態窒素を減少させる前処理を実施すればよい。
硝酸態窒素の含有量は、例えば、吸光光度計(HACH社)を用いてカドミウム還元法により波長500nmの条件下で測定できる。
【0015】
本発明者の検討によれば、原水中の溶存酸素量(DO)が極めて少ない場合、すなわち、例えば溶存酸素量が0.2mg/L以下の低酸素状態であっても、揚水や送水工程において大気中の酸素が水中に溶け込むため、また、硝酸態窒素の影響のため、水酸化鉄の付着によるポンプや送水管の閉塞が起きることがある。本発明によれば、溶存酸素量が0.2mg/L以下の低酸素状態であることの理由から鉄酸化細菌による影響を想定しにくい原水であっても、水酸化鉄の付着によるポンプや送水管の閉塞を効果的に抑制できる。
溶存酸素量は、例えば、隔膜電極式DO濃度計(DKK社)を用いて測定できる。
【0016】
<水処理装置>
図1は、一実施形態に係る水処理装置1Aの特徴部分の一例を示す概略構成図である。
水処理装置1Aは、鉄イオンを含有する原水(井戸水)を採水するポンプ2と;ポンプ2により採水される原水が流れる送水管3と;ポンプ2および送水管3の両方に通電可能に接続される直流電源4と;ポンプ2および送水管3の両方とは反対側の電位で直流電源4と通電可能に接続される導電性部材5と;を有することを特徴とする。水処理装置1Aは、直流電源4の正電位側が接地点Gと接続されている。
【0017】
水処理装置1Aにおいては、ポンプ2および送水管3が直流電源4の正電位に通電可能に接続される。また、導電性部材5が直流電源4の負電位に通電可能に接続される。よって、直流電源4によって電位差を付与すると、原水中で導電性部材5が犠牲電極として機能する。結果、水中では電子(e-)がポンプ2および送水管3から導電性部材5に向かって流れる。また、ポンプ2および送水管3はCathodeとなる。導電性部材5はAnodeとなる。
【0018】
すると、
図2のCathodeの表面に示すように、原水中に電子(e
-)が供給されるため、鉄酸化細菌による2価の鉄イオンから3価の鉄イオンへの酸化反応が阻害される。加えて、直流電源4によって電位差を付与すると、ポンプ2および送水管3では鉄酸化細菌による3価の鉄イオンから2価の鉄イオンへの還元反応も促進される。このため、水酸化鉄発生の原因となる3価の鉄イオン濃度を原水中の全体にわたって減少させることができる。
【0019】
したがって、水処理装置1Aによれば、ポンプ2や送水管3の内部に水酸化鉄が付着することを抑制でき、閉塞を効果的に防止できる。水処理装置1Aによれば、殺菌性の薬品や素材を使用する必要がなく、殺菌性の薬品や化合物を除去するための処理設備を設置する必要がない。このように、水酸化鉄の付着によるポンプや送水管の閉塞の問題を簡便な手法で解決できる。また、処理した原水を飲料水や生活用水等とした場合、処理水の安全性も確保できる。
【0020】
水処理装置1Aにおいては、ポンプ2および送水管3の両方が負電位であり、かつ導電性部材5が正電位である。ただし、一実施形態に係る水処理装置において、ポンプ2および送水管3は負電位に限定されず、また、導電性部材5は正電位に限定されない。
例えば、
図3に示すように、水処理装置1Bにおいては、ポンプ2および送水管3の両方が正電位であり、かつ導電性部材5が負電位である。水処理装置1Bによっても、直流電源4によって電位差を付与することで、ポンプ2や送水管3の内部に水酸化鉄が付着することを抑制でき、閉塞を効果的に防止できる。この効果が水処理装置1Bにおいても得られる理由は必ずしも明確ではない。直流電源4による電圧印加によって、原水中の鉄酸化細菌の増殖が抑制され、結果として水酸化鉄が付着しにくくなることが推測される。
【0021】
ポンプ2は、鉄イオンを含有する原水を採水し、送水管3に送ることができるものであれば特に限定されない。ポンプ2は市販品を用いてもよい。市販品のポンプ2として、例えば、渦巻ポンプ、多段渦巻ポンプ、タービンポンプ、ピストンポンプが挙げられる。ただし、ポンプ2はこれらの例示に何ら限定されない。
【0022】
送水管3は、ポンプ2により採水される原水が流れるものであれば特に限定されない。送水管3は市販品を用いてもよい。市販品の送水管3として、例えば、亜鉛めっき鋼管、炭素鋼鋼管、フランジ付き鋼管が挙げられる。ただし、送水管3はこれらの例示に何ら限定されない。
【0023】
直流電源4は特に限定されない。例えば、交流から直流へ変換する装置(コンバーター等)、乾電池、蓄電池等が挙げられる。ただし、直流電源4はこれらの例示に何ら限定されない。
【0024】
導電性部材5は、原水中で犠牲電極として機能し得るものであれば特に限定されない。導電性部材5は市販品を用いてもよい。市販品の導電性部材5として、例えば、SUS、銅合金、炭素鋼、亜鉛が挙げられる。ただし、導電性部材5はこれらの例示に何ら限定されない。
【0025】
ポンプ2、送水管3および導電性部材5の各素材は、導電性を示すものであれば特に限定されない。例えば、SUS、亜鉛、炭素鋼、銅合金が挙げられる。ただし、ポンプ2、送水管3および導電性部材5の各素材はこれらの例示に限定されず、種々の導電性の素材が使用され得る。
ポンプ2、送水管3および導電性部材5の各素材は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
ポンプ2、送水管3および導電性部材5の少なくとも一部の材質の抵抗率は、それぞれ、10000Ω・m以下であればよく、1.64×10-5Ω・m以下であることが好ましく、1.09×10-6Ω・m以下であることがより好ましい。
入手容易性を考慮すると、7.47×10-7Ω・m以下であることがさらに好ましい。抵抗率が前記上限値以下であると、直流電源4によって電位差を付与したときに、電流が流れやすく、また、電流値を制御しやすい。抵抗率の下限値は特に限定されない。
本発明における抵抗率は、25℃の条件下で、テスターによって測定される値である。
【0027】
水処理装置1A、水処理装置1Bは、ポンプ2および送水管3と、導電性部材5との間に流れる電流値Cを制御する制御装置(図示略)をさらに有してもよい。制御装置は特に限定されず、例えば、インターフェイス部(図示略)、記憶部(図示略)、処理部(図示略)、制御部(図示略)等を備えてもよい。また、事前に電圧値や電流値を設定して、抵抗値や電圧値が変化しないことを確認済みであれば、制御装置はなくてもよい。
【0028】
インターフェイス部は、電流値Cを測定可能な電流計(図示略)、直流電源4、原水の水温計(図示略)等の水処理装置1Aの種々の構成部品と制御部との間を電気的に接続するものである。
記憶部は、電流値C、直流電源4の電圧、ポンプ2、送水管3および導電性部材5の抵抗値、原水の温度、ポンプの稼働状況等を記憶するものである。
処理部は、ポンプ2、送水管3および導電性部材5の抵抗値と、実測値の電流値Cとから直流電源4で付与すべき電圧を算出するための演算を行うものである。
制御部は、ポンプ2、送水管3および導電性部材5の抵抗値と、処理部の算出結果等に基づいて、直流電源4で実際に付与する電圧の制御を行うものである。例えば、実測値の電流値Cが所望の電流値より低いとき、直流電源4で実際に付与する電圧を制御部4の指示によって高くする。また、実測値の電流値Cが所望の電流値より高いとき、直流電源4で実際に付与する電圧を制御部4の指示によって低くする。
【0029】
処理部、制御部は、専用のハードウエアによって実現されるものであってもよく、メモリおよび中央演算装置(CPU)を備えるものであってもよい。処理部、制御部の機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによってその機能を実現させるものであってもよい。
制御装置には、周辺機器として、入力装置、表示装置等が接続されていてもよい。入力装置としては、ディスプレイタッチパネル、スイッチパネル、キーボード等の入力デバイスが挙げられ、表示装置としては、液晶表示装置、CRT等が挙げられる。
【0030】
以上説明した水処理装置1A、水処理装置1Bにおいては、送水管3の二次側の処理設備の図示を省略している。送水管3の二次側の処理設備は、原水の水質や水処理後の処理水に求められる水質に応じて適宜選択し、決定すればよい。
水処理装置1A、水処理装置1Bは、任意の処理設備をさらに備えることができる。処理設備としては、例えば、膜ろ過処理装置、送水ポンプ、塩素添加設備、凝集設備、イオン交換装置、散気装置、砂ろ過設備、活性炭塔、生物処理設備が挙げられる。
【0031】
<水処理方法>
以下、水処理方法の一例について
図1を参照しながら説明する。
【0032】
水処理装置1Aの水処理運転の前に、
図1に示すように、送水管3と接続されたポンプ2を井戸水(原水)に浸漬する。ポンプ2および送水管3は直流電源4の負電位とあらかじめ接続しておく。また、直流電源4の正電位と接続した導電性部材5を井戸水に浸漬する。
【0033】
水処理装置1Aを用いた水処置方法は、ポンプ2および送水管3の両方と、導電性部材5との間に直流電流を流すことを特徴とする。直流電源4によって電位差を付与することで、ポンプ2および送水管3の両方と、導電性部材5との間に電流が流れる。このとき、井戸水中では電子(e-)がポンプ2および送水管3から導電性部材5に向かって流れる。また、ポンプ2および送水管3がCathodeとなる。導電性部材5がAnodeとなる。
【0034】
すると、
図2のCathodeの表面に示すように、原水中に電子(e
-)が供給されるため、鉄酸化細菌による2価の鉄イオンから3価の鉄イオンへの酸化反応が阻害される。加えて、直流電源4によって電位差を付与すると、ポンプ2および送水管3では鉄酸化細菌による3価の鉄イオンから2価の鉄イオンへの還元反応も促進される。このため、水酸化鉄発生の原因となる3価の鉄イオン濃度を原水中の全体にわたって減少させることができる。
【0035】
したがって、水処理装置1Aを用いた水処置方法によれば、ポンプ2や送水管3の内部に水酸化鉄が付着することを抑制でき、閉塞を効果的に防止できる。加えて、殺菌性の薬品や素材を使用する必要がなく、殺菌性の薬品や化合物を除去するための処理設備を設置する必要がない。このように、水酸化鉄の付着によるポンプや送水管の閉塞の問題を簡便な手法で解決できる。また、処理した原水を飲料水や生活用水等とした場合、処理水の安全性も確保できる。
【0036】
次に、水処理方法の他の一例について
図3を参照しながら説明する。
水処理装置1Bの水処理運転の前に、
図3に示すように、送水管3と接続されたポンプ2を井戸水(原水)に浸漬する。ポンプ2および送水管3は直流電源4の正電位とあらかじめ接続しておく。また、直流電源4の負電位と接続した導電性部材5を井戸水に浸漬する。
【0037】
水処理装置1Bを用いた水処置方法は、ポンプ2および送水管3の両方と、導電性部材5との間に直流電流を流すことを特徴とする。直流電源4によって電位差を付与することで、ポンプ2および送水管3の両方と、導電性部材5との間に電流が流れる。このとき、電流は正電位のポンプ2および送水管3から負電位の導電性部材5に向かって流れる。
【0038】
水処理装置1Bを用いた水処置方法によっても、ポンプ2や送水管3の内部に水酸化鉄が付着することを抑制でき、閉塞を効果的に防止できる。この効果が得られる理由は必ずしも明確ではない。直流電源4による電圧印加によって、井戸水中の鉄酸化細菌の増殖が抑制され、結果として水酸化鉄が付着しにくくなることが推測される。
【0039】
一実施形態において、ポンプ2および送水管3と、導電性部材5との間に流れる電流値Cを所定の範囲内に制御することが好ましい。ただし、地下水における鉄イオン、硝酸態窒素濃度が一定の場合、電流値を事前に設定すれば、安定的な水処理が可能である。この場合、電流値を制御する必要はなく、電流値の制御を省略できる。
電流値Cは、直流電源4によって付与する電位差によって制御できる。また、電流値Cは、実施例に記載の方法によって測定できる。
【0040】
図1に示す水処理装置1Aの場合、図示略の制御装置によって電流値Cを-0.55mA以上-0.07mA以下に制御することが好ましく、-0.50mA以上-0.10mA以下に制御することがより好ましく、-0.32mA以上-0.12mA以下に制御することがさらに好ましい。
水処理装置1Aを用いた水処置に際し、電流値Cが前記数値範囲の-0.07mA以下であると、ポンプ2、送水管3の内部への水酸化鉄の付着を抑制しやすい。電流値Cが前記数値範囲の-0.55mA以上であると、ポンプ2、送水管3、導電性部材5の電気化学的反応による腐食を抑制しやすい。また、水素ガスの発生や消費電力を抑制できる。
【0041】
図2に示す水処理装置1Bの場合、図示略の制御装置によって電流値Cを0.60mA以上1.00mA未満に制御することが好ましく、0.61mA以上0.75mA以下に制御することがより好ましく、0.62mA以上0.75mA以下に制御することがさらに好ましい。
水処理装置1Bを用いた水処置に際し、電流値Cが前記数値範囲の0.60mA以上であると、ポンプ2、送水管3の内部への水酸化鉄の付着を抑制しやすい。電流値Cが前記数値範囲の1.00mA未満であると、ポンプ2、送水管3、導電性部材5の電気化学的反応による腐食を抑制しやすい。また、酸素ガスの発生や消費電力を抑制できる。
【0042】
水処理装置1A、水処理装置1Bのそれぞれにおける電流値Cを比較すると、水処理装置1Aの方が電流値の絶対値の値が小さい。よって、電気化学的反応によるガスの発生や腐食を抑制し、消費電力を少なくする観点から、水処理装置1Aを用いる方が好ましい。
一実施形態においては、導電性部材を正電位に接続し、かつ、ポンプおよび送水管のいずれか一方または両方を負電位に接続することが好ましい。
【0043】
一実施形態において、交流電圧をコンバータで12V等の直流電圧に変換して使用してもよい。昇圧装置を用いずに交流電圧200V電源から得られる理論上の直流電圧は282Vである。昇圧装置があれば理論的にはいくらでも電圧を上げられるがエネルギーロスが大きくなる。0.07mA以上を流すことができる抵抗値は282V÷0.00007A=4.03×106Ωとなる。また、直流電圧12Vの場合に、0.07mA以上を流すことができる抵抗値は1.71×105Ωである。
そこで、ポンプ2および送水管3と、導電性部材5との間の抵抗値Rは4.05×106Ω以下が好ましく、3.00×106Ω以下がより好ましく、2.00×105Ω以下がさらに好ましい。抵抗値Rが前記上限値以下であると、直流電源4によって電位差を付与したときに、電流が流れやすく、また、電流値を制御しやすい。
【0044】
抵抗値Rの測定方法は、次の通りである。すなわち、ポンプ2および送水管3の両方と同素材の電極Aと、導電性部材5と同素材の電極Bを用意し、電極Aおよび電極Bの大きさを10mm×100mmとし、かつ、電極Aおよび電極Bを原水(井戸水)に10mm間隔で平行、かつ、同じ高さに浸漬した状態でテスターによって抵抗値Rを測定する。
【0045】
水処理方法では、ポンプ2によって採水した井戸水が流れる送水管3から供給される処理対象水を処理し、処理水を得る。処理水を得るに際しては、送水管3の二次側の処理設備によって、処理対象水を処理する。
送水管3の二次側の処理は、原水の水質や水処理後の処理水に求められる水質に応じて適宜選択し、決定すればよい。例えば、膜ろ過処理、塩素添加、凝集、イオン交換処理、砂ろ過設備、活性炭塔、生物処理設備のような種々の水処理手法を適用できる。処理対象水の処理は、これら例示に何ら限定されない。
【0046】
<他の実施形態例>
以上一実施形態例を示して一実施形態について説明したが、本発明は本明細書に開示の実施形態例に限定されず、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できる。本明細書に開示の実施形態は、その他の様々な形態で実施可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更が可能である。
【0047】
例えば、水処理装置1A、水処理装置1Bにおいては、ポンプ2および送水管3の両方が同じ電位に接続されている。すなわち、水処理装置1Aにおいては、ポンプ2および送水管3の両方が負電位に接続され、水処理装置1Bにおいては、ポンプ2および送水管3の両方が正電位に接続されている。ただし、他の一例においては、ポンプおよび送水管の両方が同じ電位に接続されている必要はない。ポンプおよび送水管の一方が正電位または負電位に接続されていればよい。
【0048】
他にも、水処理装置1A、水処理装置1Bにおいては、導電性部材5が井戸水の原水に浸漬されている。ただし、他の一例において導電性部材は原水に浸漬されている必要はない。導電性部材の少なくとも一部が、原水と接触していればよい。
【0049】
<処理水の用途>
本発明の一実施形態において得られる処理水の用途は特に限定されない。例えば、工業用水、飲用水が挙げられる。水処理装置1A等によれば、殺菌性の薬品や素材を使用する必要がなく、殺菌性の薬品や化合物を除去するための処理設備を設置する必要がない。よって処理水は、水質の安全性に優れ、飲用水として好適に利用できる。
【実施例0050】
以下、実験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載に限定されない。
【0051】
<原水>
原水として地下水を用いた。この地下水は、二価の鉄イオンを2.5mgFe/L含有し、溶存酸素量(DO)は0mg/Lであり、硝酸態窒素は2.5mgNO3
-N/Lであった。地下水の鉄濃度は、吸光光度計(DR-2010 HACH社)を用いてFerroVer法により波長510nmの条件下で測定した。硝酸態窒素濃度は、吸光光度計(HACH社)を用いてカドミウム還元法により波長500nmの条件下で測定した。DO濃度は、隔膜電極式DO濃度計(DKK社)を用いて測定した。
【0052】
<実験例1>
図4に示す装置を組み立てた。すなわち、地下水が連続的に通水されている水槽10に、ポンプ、送水管、導電性部材と同じ素材の一対のSUS電極11,12(SUS304)を浸漬した。直流電源13の正電位に一方のSUS電極11を接続し、負電位に他方のSUS電極12を接続した。水槽10は直径φ20mm、高さ120mm、容積50mlの容器である。また、各SUS電極の大きさは10mm×100mmであり、厚さは0.3mmである。
負電位に接続したSUS電極をポンプまたは送水管の表面として見立て、正電位に接続したSUS電極を導電性部材として見立てて犠牲電極とした。
地下水を容器の下方から上向きに100ml/minで連続的に供給した。各SUS電極に接続した直流電源によって2枚の電極に電圧を印加し、電流値Cが-0.75mAとなるように通電した状態で1週間にわたって地下水を通水した。1週間通水した後の電極における鉄の付着量を測定した。
【0053】
<実験例2~7>
電流値Cを以下の通り変更した以外は、実験例1と同条件下で1週間にわたって地下水を通水した。1週間通水した後の各例の電極における鉄の付着量を測定した。
各例の電流値Cは以下の通りとした。
実験例2の電流値C:-0.63mA。
実験例3の電流値C:-0.50mA。
実験例4の電流値C:-0.38mA。
実験例5の電流値C:-0.23mA。
実験例6の電流値C:-0.13mA。
【0054】
<実験例7>
実験例7では電圧を印加しなかった以外は、実験例1と同条件下で1週間にわたって地下水を通水した。1週間通水した後の電極における鉄の付着量を測定した。
【0055】
<実験例8~13>
正電位に接続したSUS電極をポンプまたは送水管の表面として見立て、負電位に接続したSUS電極を導電性部材として見立てて犠牲電極とした以外は、実験例1と同条件下で1週間にわたって地下水を通水した。1週間通水した後の各例の電極における鉄の付着量を測定した。
各例の電流値Cは以下の通りとした。
実験例8の電流値C:0.13mA。
実験例9の電流値C:0.25mA。
実験例10の電流値C:0.38mA。
実験例11の電流値C:0.50mA。
実験例12の電流値C:0.63mA。
実験例13の電流値C:0.75mA。
【0056】
<測定方法>
各例の測定方法は以下の通りである。
【0057】
(電流値C)
電流値Cは、以下の式によって求めた。
電流値C=直流電源の電圧V/(SUS電極間の抵抗値R)
電極として、大きさ10mm×100mm、厚さ0.3mmの一対のSUS電極を用いた。一対のSUS電極を、該SUS電極同士を約10mm離間させ、略平行かつ略同じ高さ(
図4と同様)に地下水に浸漬した状態で、SUS電極間の抵抗値Rをテスターによって測定した。
【0058】
(電極における鉄の付着量)
1週間通水した後の各例の一対のSUS電極のうち、ポンプまたは送水管と見立てた方のSUS電極を一枚、25℃の10%クエン酸水溶液100mlに浸漬した。24時間浸漬することで、表面の付着物をクエン酸水溶液に溶解した。その後のクエン酸水溶液に含まれる鉄濃度を測定した。鉄濃度は吸光光度計(DR-2010 HACH社)を用いてFerroVer法により波長510nmの条件で測定した。
得られた鉄濃度に基づいて、電極の表面積(20cm2)で除した値を鉄の付着量として算出した。
【0059】
図5は各例の電極における鉄の付着量をプロットして示す。
実験例1~6では、負電位に接続したSUS電極をポンプまたは送水管の表面として見立て、正電位に接続したSUS電極を導電性部材として見立てて犠牲電極とした。2対のSUS電極間に流れる電流値が-0.55mAから-0.07mAにおいて実験例7と比較して電極における鉄の付着量が明らかに低下した。電子を連続的に供給することで還元性の環境が提供された結果、鉄酸化細菌の増殖を抑制できたと考えられる。
実験例8~13では、正電位に接続したSUS電極をポンプまたは送水管の表面として見立て、負電位に接続したSUS電極を導電性部材として見立てて犠牲電極とした。2対のSUS電極間に流れる電流値が0.60mAから1.00mA未満において、実験例7と比較して電極における鉄の付着量が明らかに低下した。メカニズムは明確でないが、高い電流値を供給したことにより鉄酸化細菌に何らかの増殖阻害反応が起こったと推測される。