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<図1>
  • 特開-スピーカ 図1
  • 特開-スピーカ 図2
  • 特開-スピーカ 図3
  • 特開-スピーカ 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135220
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】スピーカ
(51)【国際特許分類】
   H04R 29/00 20060101AFI20230921BHJP
【FI】
H04R29/00 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040316
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(72)【発明者】
【氏名】戸板 大樹
(57)【要約】      (修正有)
【課題】振動板を含む振動部の動作に異常が有るか否かを検知するスピーカを提供する。
【解決手段】スピーカは、振動部の中心線Oと垂直な面に投影した平面において、中心線Oを中心とする90度の角度範囲で、検知部20x1,20x2,20y1,20y2が設けられている。検知部20x1,20x2,20y1,20y2は、可動部に設けられた可動磁場発生素子21x1,21x2,21y1,21y2と、支持部に設けられた磁気センサ22x1,22x2,22y1,22y2とで構成されている。いずれかの検知部からの検知出力に異常があったときに、動作不良が生じていると判定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイスコイルおよび前記ボイスコイルとともに振動する振動板とを有する振動部と、前記ボイスコイルに磁束を与える磁気回路部が固定された支持部と、が設けられたスピーカにおいて、
前記振動部の動きを検知する複数の検知部が設けられており、
前記振動部の振動方向に延びる中心線と垂直な面に投影した平面で見たときに、複数の前記検知部によって、前記振動部の異なる場所の動きが検知されることを特徴とするスピーカ。
【請求項2】
前記平面でみたときに、前記中心線を中心とする180度の角度で位置する2か所の動きが前記検知部で検知される請求項1記載のスピーカ。
【請求項3】
前記平面でみたときに、前記中心線を中心とする90度の角度で位置する4か所の動きが前記検知部で検知される請求項2記載のスピーカ。
【請求項4】
前記検知部が、前記振動部に設けられて可動磁場を発生する可動磁場発生素子と、前記支持部に設けられて前記可動磁場を検知する磁気センサと、を有している請求項1ないし3のいずれかに記載されたスピーカ。
【請求項5】
前記平面で見たときに、それぞれの前記検知部を構成する前記磁気センサの中心と前記可動磁場発生素子の中心とが、前記中心線から延びる同一線上に位置している請求項4記載のスピーカ。
【請求項6】
前記検知部は、前記支持部に設けられた固定磁場発生部材を有しており、
前記可動磁場発生素子から発せられる可動磁場と、前記固定磁場発生部材から発せられる固定磁場とが、磁気センサによって、互いに交差する向きの磁場成分として検知される請求項4または5記載のスピーカ。
【請求項7】
前記検知部は、前記振動部に搭載された速度センサまたは加速度センサを有している請求項1ないし3のいずれかに記載のスピーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動部の複数個所の動作を検知する検知部を備えたスピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のMFB(モーションフィードバック)機能を有するスピーカは、ボイスコイルと振動板とを含む振動部の振動状態を検知するセンサが設けられ、前記センサからの検知出力に基づいて、ボイスコイルに与えるボイス電流がフィードバック制御される。
【0003】
特許文献1に記載されたスピーカは、基部にボイスコイルが巻かれたボビンを有し、ボビンの先端部がコーン形状の振動板に接着されており、ボビンの先端部に、ボビンの振動を検知する加速度センサが固定されている。さらに、ボビンには、加速度センサを設けることによる質量の配置バランスを解消するために、バランスリングが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-245293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたスピーカは、加速度センサで、ボビンの1か所の挙動を検知しているだけである。そのため、例えば、ボビンを含む振動部の一部に破損が生じたり、振動部に異物が付着するなどして、ボビンが傾きを生じながら振動し、あるいは振動中にローリングを生じたときなどに、加速度センサからの検知出力だけでは上記のような異常動作を検知することができない。
【0006】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、振動部の振動状態を検知する検知部を備え、さらに振動部の異状な動作を検知することができるスピーカを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ボイスコイルおよび前記ボイスコイルとともに振動する振動板とを有する振動部と、前記ボイスコイルに磁束を与える磁気回路部が固定された支持部と、が設けられたスピーカにおいて、
前記振動部の動きを検知する複数の検知部が設けられており、
前記振動部の振動方向に延びる中心線と垂直な面に投影した平面で見たときに、複数の前記検知部によって、前記振動部の異なる場所の動きが検知されることを特徴とするものである。
【0008】
本発明のスピーカは、前記平面でみたときに、前記中心線を中心とする180度の角度で位置する2か所の動きが前記検知部で検知されるものが好ましい。
【0009】
本発明のスピーカは、前記平面でみたときに、前記中心線を中心とする90度の角度で位置する4か所の動きが前記検知部で検知されることがさらに好ましい。
【0010】
本発明のスピーカは、例えば、前記検知部が、前記振動部に設けられて可動磁場を発生する可動磁場発生素子と、前記支持部に設けられて前記可動磁場を検知する磁気センサと、を有しているものである。
【0011】
この場合の本発明のスピーカは、前記平面で見たときに、それぞれの前記検知部を構成する前記磁気センサの中心と前記可動磁場発生素子の中心とが、前記中心線から延びる同一線上に位置していることが好ましい。
【0012】
さらに本発明のスピーカは、前記検知部が、前記支持部に設けられた固定磁場発生部材を有しており、
前記可動磁場発生素子から発せられる可動磁場と、前記固定磁場発生部材から発せられる固定磁場とが、磁気センサによって、互いに交差する向きの磁場成分として検知されるものが好ましい。
【0013】
本発明のスピーカは、前記検知部が、前記振動部に搭載された速度センサまたは加速度センサを有しているものであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスピーカは、振動部の振動方向に延びる中心線と垂直な平面に投影した平面で見たときに、複数の検知部によって振動部の異なる位置の動作が検知される。そのため、例えば、振動部に破損が生じ、または振動部に異物が付着するなどして、あるいは組立不良や部品不良などにより、振動部の振動に傾きやローリングなどが生じたときに、これを検知することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のスピーカの全体構造を示す斜視図、
図2図1に示されるスピーカをII-II線で切断した半断面図、
図3図1に示されるスピーカの中心部を、フェーズプラグを除去した状態で、図2に示されるIII-III矢視で見た平面図、
図4図3の一部を拡大した拡大部分平面図、
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1図2に示される本発明の第1実施形態のスピーカ1はZ1―Z2方向が前後方向であり、Z1方向が前方で、Z2方向が後方である。Z1方向とZ2方向のいずれかが主な発音方向である。また、Z1-Z2方向は振動部の振動方向である。図1に、中心線Oが示されている。中心線Oは振動部の中心(重心)を通り振動部の振動方向(Z1-Z2方向)に延びている。スピーカ1の主要部は、中心線Oを中心とするほぼ回転対称な構造である。図1には、中心線Oと垂直な平面内で互いに直交するX軸とY軸が示されている。X方向は第1方向で、Y方向は第2方向である。
【0017】
図1図2に示されるスピーカ1はフレーム2を有している。フレーム2は、非磁性材料または磁性材料で形成されており、前方(Z1方向)に向けて直径が徐々に広がるテーパ形状である。フレーム2の後方(Z2方向)に磁気回路部10が接着やねじ止めなどの手段で固定されている。フレーム2と磁気回路部10とで「支持部」が構成されている。
【0018】
磁気回路部10は、中心線Oを中心とするリング状の駆動用磁石11と、駆動用磁石11の前方に接合されたリング状の対向ヨーク12と、駆動用磁石11の後方に接合された後方ヨーク13を有している。後方ヨーク13にはセンターヨーク14が一体に形成されている。センターヨーク14は、駆動用磁石11と対向ヨーク12の内側に位置し、後方ヨーク13から前方(Z1方向)に隆起して形成されている。なお、センターヨーク14が後方ヨーク13と別体に形成され、後方ヨーク13とセンターヨーク14とが接合されていてもよい。センターヨーク14には、前後方向(Z1-Z2方向)に向けて貫通する中心穴15が形成されている。対向ヨーク12と後方ヨーク13およびセンターヨーク14は磁性材料、すなわち磁性金属材料で形成されている。
【0019】
センターヨーク14は円柱状であり、その外周面と、対向ヨーク12の内周面との間に、中心線Oを中心とする円筒形状の空間である磁気ギャップGが形成されている。磁気回路部10では、駆動用磁石11から発せられた駆動用磁束Fdが、対向ヨーク12から磁気ギャップGを横断してセンターヨーク14と後方ヨーク13を周回する。このスピーカ1は、磁気回路部10が「固定磁場発生部材」として機能し、磁気回路部10からの洩れ磁界が、図2図4に示されるように、磁気センサに対して中心線Oに向かう固定磁場H1として作用する。
【0020】
フレーム2の前方部分の内側に振動板3が設けられている。振動板3は円錐状のいわゆるコーン形状である。フレーム2の前端周囲部2aと振動板3の外周端3aは、弾性変形可能なエッジ部材4を介して接合されている。エッジ部材4と前端周囲部2aおよびエッジ部材4と外周端3aとは接着剤で固定されている。フレーム2の中腹部の内面に内周固定部2bが形成されており、断面がコルゲート形状の弾性変形可能なダンパー部材5の外周部5aが内周固定部2bに接着剤により固定されている。
【0021】
図2に示されるように、フレーム2の内部にボビン6が設けられている。ボビン6は、中心線Oを中心とする円筒形状である。振動板3の内周端3bはボビン6の外周面に接着剤で固定されており、ダンパー部材5の内周部5bも接着剤によってボビン6の外周面に固定されている。ボビン6の後方(Z2方向)に向く後端部では、その外周面にボイスコイル7が設けられている。ボイスコイル7を構成する被覆導線は、ボビン6の外周面において所定のターン数で巻かれている。ボイスコイル7は、磁気回路部10の磁気ギャップG内に位置している。
【0022】
振動板3とボビン6は、エッジ部材4とダンパー部材5の弾性変形により、フレーム2に対して(支持部に対して)前後方向(Z1-Z2方向)に振動自在に支持されている。振動板3およびボビン6とボイスコイル7が、フレーム2を含む「支持部」に対して前後方向に振動する「振動部」を構成している。Z1-Z2方向は、「振動部」の振動方向である。また、エッジ部材4とダンパー部材5も「振動部」の一部を構成している。
【0023】
図3に示されるように、スピーカ1には、振動部の振動を検知する4組の検知部(振動検知部)20x1,20x2,20y1,20y2が設けられている。中心線Oと垂直な平面に投影した平面で見たときに、4組の検知部20x1,20x2,20y1,20y2は互いに重なることなく、中心線Oを中心として等角度間隔に配置されている。図3の平面図には、中心線Oを通り第1方向(X方向)に延びる第1検知中心線Dxと、中心線Oを通り第2方向(Y方向)に延びる第2検知中心線Dyが示されている。第1検知中心線Dxと第2検知中心線Dyは、中心線Oで直交している。
【0024】
第1検知中心線Dx上には、検知部20x1と検知部20x2が位置している。検知部20x1と検知部20x2は、中心線Oを中心とする180度の角度配置で設けられている。第2検知中心線Dy上には、検知部20y1と検知部20y2が位置している。検知部20y1と検知部20y2は、中心線Oを中心とする180度の角度配置で設けられている。その結果、検知部20x1,20x2,20y1,20y2は、中心線Oを中心とする90度の角度配置で設けられている。また、中心線Oから検知部20x1までの距離、中心線Oから検知部20x2までの距離、中心線Oから検知部20y1までの距離、および中心線Oから検知部20y2までの距離は、全て同じである。
【0025】
検知部20x1は、振動部に固定された可動磁場発生素子21x1と、支持部に固定された磁気センサ22x1とで構成されている。検知部20x2は、振動部に固定された可動磁場発生素子21x2と支持部に固定された磁気センサ22x2とで構成されている。検知部20y1は、振動部に固定された可動磁場発生素子21y1と、支持部に固定された磁気センサ22y1とで構成されている。検知部20y2は、振動部に固定された可動磁場発生素子21y2と支持部に固定された磁気センサ22y2とで構成されている。
【0026】
可動磁場発生素子21x1,21x2,21y1,21y2は磁石である。図1図3に示されるように、可動磁場発生素子21x1,21x2,21y1,21y2は、リング状の固定部材23に固定され、図2に示されるように、固定部材23が、ボビン6のZ1側の前端部に固定されている。固定部材23は合成樹脂材料などの非磁性材料で形成されている。
【0027】
可動磁場発生素子21x1,21x2,21y1,21y2の着磁方向は、いずれも中心線Oを中心とする仮想円の接線方向である。可動磁場発生素子21x1の着磁方向は、第1検知中心線Dxと直交する向きであり、図3において図示右側の端部がN極で左側の端部がS極である。可動磁場発生素子21x2の着磁方向は、第1検知中心線Dxと直交する向きであり、図3において図示左側の端部がN極で右側の端部がS極である。可動磁場発生素子21y1の着磁方向は、第2検知中心線Dyと直交する向きであり、図3において図示下側の端部がN極で上側の端部がS極である。可動磁場発生素子21y2の着磁方向は、第2検知中心線Dyと直交する向きであり、図3において図示上側の端部がN極で下側の端部がS極である。
【0028】
可動磁場発生素子21x1,21x2のN極の端部とS極の端部との中心、すなわち可動磁場発生素子21x1,21x2を図示左右方向に二分する中心が、中心線Oから延びる第1検知中心線Dx上に位置している。可動磁場発生素子21y1,21y2のN極の端部とS極の端部との中心、すなわち可動磁場発生素子21y1,21y2を図示上下方向に二分する中心が、中心線Oから延びる第2検知中心線Dy上に位置している。
【0029】
図2に示されるように、磁気回路部10のセンターポール14の上端部に、嵩上げ部材25が固定されている。嵩上げ部材25は非磁性材料で形成されていることが好ましい。図2図3に示されるように、嵩上げ部材25の上面25aは中心線Oと垂直な平面である。この上面25aの4か所にプリント配線基板26が固定されており、それぞれのプリント配線基板26の上に磁気センサ22x1,22x2,22y1,22y2が実装されている。磁気センサ22x1,22x2,22y1,22y2は、パッケージ内に検知素子が内蔵されている。磁気センサ22x1,22x2に内蔵された検知素子の検知点は、ほぼ第1検知中心線Dx上に位置し、磁気センサ22y1,22y2に内蔵された検知素子の検知点は、第2検知中心線Dy上に位置している。可動磁場発生素子21x1と磁気センサ22x1の第1検知中心線Dx上での対向距離と、可動磁場発生素子21x2と磁気センサ22x2の第1検知中心線Dx上での対向距離、および可動磁場発生素子21y1と磁気センサ22y1の第2検知中心線Dy上での対向距離と、可動磁場発生素子21y2と磁気センサ22y2の第2検知中心線Dy上での対向距離は、全て等距離である。
【0030】
図3に示されるように、それぞれのプリント配線基板26に配線材27の端末部が固定されている。プリント配線基板26に設けられた複数の導電層を介して、配線材27の端末部と、磁気センサ22x1,22x2,22y1,22y2の端子とが導通されている。配線材27は、センターヨーク14の中心穴15内を通過して、磁気回路部10よりも後方(Z2方向)に延び出ている。
【0031】
磁気センサ22x1,22x2,22y1,22y2のそれぞれには、固定磁場発生部材である磁気回路部10で発生した駆動用磁束Fdの漏れ磁束である固定磁場H1が、中心線Oに向かう方向に作用する。また、磁気センサ22x1,22x2,22y1,22y2のそれぞれには、可動磁場発生素子21x1,21x2,21y1,21y2から発生する可動磁場H2が、中心線Oを中心とする円の接線方向に作用する。すなわち、磁気センサ22x1,22x2,22y1,22y2のそれぞれには、固定磁場H1と可動磁場H2が互いに交差する方向に作用する。
【0032】
4組の検知部20x1,20x2,20y1,20y2の動作を説明するために、図4には、検知部20y2が代表して示されている。磁気センサ22y2には、固定磁場発生部材である磁気回路部10からの漏れ磁束である第2方向(Y方向)に向く固定磁場H1と、可動磁場発生素子21y2から発生する第1方向(X方向)に向く可動磁場H2とが、X-Y平面内で互いに交差する(直交する)磁場成分として作用する。このスピーカ1は、磁気回路部10が「固定磁場発生部材」として機能しているが、磁気センサ22y2の直近で例えばプリント配線基板26上に磁気回路部10とは別個の固定磁石が設けられ、この固定磁石から発せられる磁場のうち、第2方向(Y方向)に向く成分が、固定磁場H1として、磁気センサ22y2に作用してもよい。
【0033】
磁気センサ22y2は、パッケージ内に検知素子として少なくとも1つの磁気抵抗効果素子が内蔵されている。磁気抵抗効果素子は、固定磁性層とフリー磁性層を有するGMR素子またはTMR素子である。GMR素子またはTMR素子は、固定磁性層の磁化の向きが固定され、フリー磁性層の磁化の向きが外部から作用する磁場に応じて変化し、固定磁性層の固定磁場の向きとフリー磁性層の磁化の向きとの相対角度の変化に応じて電気抵抗値が変化する。
【0034】
磁気センサ22y2に内蔵された磁気抵抗効果素子のフリー磁性層に、固定磁場H1と可動磁場H2が作用すると、フリー磁性層の磁化の向きが、固定磁場H1と可動磁場H2の合成ベクトルである検知磁場Hdの向きに倣って変化する。固定磁場H1の強度はほぼ一定であり、可動磁場H2の強度が可動磁場発生素子21y2の前後方向(Z1-Z2方向)への移動に応じて変化するため、検知磁場Hdのベクトルの角度θは、ボビン6の前後方向の動きに伴って変化する。磁気抵抗効果素子の電気抵抗値の変化を検知することで、検知磁場Hdの角度θの変化を知ることができ、可動磁場発生素子21y2の前後方向の位置の変化を知ることができる。
【0035】
磁気センサは、検知磁場Hdのベクトルの角度θの変化を検知するものに限られない。例えば、複数の磁気抵抗効果素子を用いて、固定磁場H1の強度と可動磁場H2の強度を別々に検知し、固定磁場H1の強度と可動磁場H2の強度の比を検知することで、ボビン6の前後方向の位置を検知することができる。または、磁気センサが2個のホール素子を備えたものであってもよい。一方のホール素子が、第1方向(X方向)の磁場強度の変化を検知できる指向性を有し、他方のホール素子が、第2方向(Y方向)の磁場強度の変化を検知できる指向性を有するものとする。この2つのホール素子により、第2方向に向く固定磁場H1の強度と、第1方向に向く可動磁場H2の強度を検知することができ、2つの強度の比から、可動磁場発生素子21y2の前後方向での位置の変化を検知することができる。
【0036】
なお、他の3か所に設けられた検知部20x1,20x2,21y1を構成する磁気センサ22x1,22x2,22y1の構成および検知動作は、図4に示された検知部20y2の構成および検知動作と同じである。
【0037】
図1図2に示されるように、支持部では、嵩上げ部材25の前方にフェーズプラグ28が固定されている。
【0038】
次に、スピーカ1の発音動作を説明する。
発音動作では、オーディオアンプから出力されたオーディオ信号に基づいてボイスコイル7にボイス電流が与えられる。磁気回路部10から発せられる駆動用磁束Fdがボイスコイル7を横断するため、駆動用磁束Fdとボイス電流とで励起される電磁力により、ボビン6と振動板3を含む振動部が前後方向に振動して、ボイス電流の周波数に応じた音圧が発生し、前方(Z1方向)または後方(Z2方向)に向けて音が発せられる。
【0039】
スピーカ1に接続された図示しない制御部では、4つの磁気センサ22x1,22x2,22y1,22y2からの検知出力に基づいてフィードバック制御が行われる。磁気センサ22x1,22x2,22y1,22y2のそれぞれから検知磁場Hdの平面内での角度θの変化に基づく検知出力を得ることにより、あるいは、固定磁場H1の強度と可動磁場H2の強度の比を得ることにより、制御部では、振動板3を含む振動部の前後方向の位置およびその変化を知ることができる。例えば、制御部では、ボイス電流の印加により想定される振動部の前後方向の理想的な位置およびその変化と、磁気センサの検知出力から判定される振動部の実際の位置およびその変化とのずれ量が演算され、ずれ量がしきい値を超えたら、ずれ量を補正する補正信号(オフセット信号)が生成される。ボイスコイル7に与えられるボイス電流に前記補正信号が重畳され、このフィードバック制御により、スピーカ1による発音の歪みや音ずれなどが補正され、さらには、振動板3が前後方向に過振動するのが防止される。
【0040】
前記フィードバック制御は、4つの磁気センサ22x1,22x2,22y1,22y2から得られる検知出力の少なくとも1つを参照することにより実行できる。ただし、4つの磁気センサ22x1,22x2,22y1,22y2から得られる検知出力の全てを使用してフィードバック制御を行うことにより、スピーカ1の発音品質をさらに向上させることができる。
【0041】
前記フィードバック制御と平行して、制御部では、4つの磁気センサ22x1,22x2,22y1,22y2から得られる検知出力を監視し、いずれかの検知出力に異常が生じるか否かを判定する。この監視と判定は、スピーカ1が発音動作しているときに常に継続して行われてもよいし、期間を空けて定期的に行なわれてもよい。
【0042】
4つの磁気センサ22x1,22x2,22y1,22y2から得られる検知出力で振動部の前後の位置を検知できるが、いずれかの検知出力で判定されるボビン6の移動量が、他の検知出力で判定される移動量よりも極端に大きいときは、異常値を示した検知部に近い位置で振動部の破損が生じている可能性があると判定できる。この現象は、振動板3とエッジ部材4との接合部やエッジ部材4と前端周囲部2aとの接合部に部分的な剥がれが生じているとき、または、ボビン6とダンパー部材5との接合部やダンパー部材5と内周固定部2bとの接合部に部分的な剥がれが生じているときなどに発生する。
【0043】
4つの磁気センサ22x1,22x2,22y1,22y2のいずれかの検知出力で判定されるボビン6の移動量が、他の検知出力で判定される移動量よりも極端に小さいときは、異常値を示した検知部に近い位置で振動部に、ある態度の質量を有する異物が付着している可能性があると判定できる。この現象は、振動板3とボビン6とエッジ部材4またはダンパー部材5のいずれかの箇所に異物が付着しているときなどに発生する。
【0044】
4つの磁気センサ22x1,22x2,22y1,22y2から得られる検知出力の3つまたは全てが、継続して互いにばらばらで不安定となると、振動部に大きな破損が発生し、または質量の大きな異物が付着しているなどして、振動部がローリングしている可能性があると判定できる。
【0045】
スピーカ1の発音動作中に、制御部において前記異常が発生したと判定されたら、スピーカ1のボイスコイル7へのボイス電流の供給を中止し、使用者にスピーカ1が故障状態であると認識させることができる。またはスピーカ1から所定周波数の警告音を発生させてもよい。また、前記異常の程度が規定値以下のときは、ボイスコイル7に与えられるボイス電流のうちの振動部の振幅が大きくなる低音の周波数領域の信号をカットし、または減衰させて、発音動作を継続させてもよい。さらに、スピーカ1の組立工程後の検査工程で、ボイスコイル7に検査用の電流を印加し、4つの磁気センサ22x1,22x2,22y1,22y2からの検知出力に異常があるいか否かを判定することも可能である。この検査により組立不良や部品不良を出荷前に発見できる。
【0046】
前記実施形態のスピーカ1では、それぞれの磁気センサ22x1,22x2,22y1,22y2において、磁気回路部10からの洩れ磁束による固定磁場H1と、可動磁場発生素子21x1,21x2,21y1,21y2からの洩れ磁束による可動磁場H2の、相対的な強度の比に基づいて振動部の位置の変化を検知している。そのため、外部ノイズの影響を受けにくい高精度なフィードバック制御を行なうことができ、また、外部ノイズの影響を受けることなく、いずれかの検知出力に異常があるか否かを高い精度で検知することができる。
【0047】
図3に示されるように、前記スピーカ1では、中心線Oと垂直な面に投影した平面で見たときに、可動磁場発生素子21x1,21x2,21y1,21y2が中心線Oを中心とする90度の角度配置で設けられているため、可動磁場発生装置が搭載されているボビン6の質量の偏りが生じなくなり、ボビン6が、質量の偏りの影響を受けることなく、前後方向に動作できる。また、スピーカ1に、中心線Oに対して180度の角度で配置された2か所のみに検知部20x1,20x2を設けてもよいし、中心線に対して90度の角度で配置された2か所のみに検知部20x1,20y1を設けてもよい。この場合に、必要に応じて、ボビン6に、2個の可動磁場発生素子との質量のバランスを維持するバランサを固定することが好ましい。あるいは、中心線Oに対して120度の角度で配置された3か所に検知部を設けてもよい。ただし、前記実施形態のスピーカ1のように、4か所の検知部20x1,20x2,20y1,20y2を設けると、振動部の動作異常を発見できる確率が高くなる。
【0048】
本発明のスピーカ1に設けられる検知部は、固定磁場H1と可動磁場H2の双方を検知する磁気抵抗効果素子を備えたものに限定されるものではない。例えば、支持部の複数箇所に磁気センサまたはホール素子が設けられ、振動部に複数の可動磁場発生素子が搭載されて、それぞれの磁気センサまたはホール素子により、可動磁場H2の強度のみが検知されるものであってもよい。
【0049】
また、検知部として、ボビン6その他の振動部の複数箇所に速度センサまたは加速度センサを搭載して、これらセンサを有する部分での前後方向の動作状態を検知してもよい。または、支持部の複数箇所に光学センサが設けられ、それぞれの光学センサで振動部の異なる位置での動作が検知できるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 スピーカ
2 フレーム
3 振動板
6 ボビン
7 ボイスコイル
10 磁気回路部(固定磁場発生部材)
11 駆動用磁石
12 対向ヨーク
13 後方ヨーク
14 センターヨーク
20x1,20x2,20y1,20y2 検知部
21x1,21x2,21y1,21y2 可動磁場発生素子
22x1,22x2,22y1,22y2 磁気センサ
25 嵩上げ部材
28 フェーズプラグ
Fd 駆動用磁束
H1 固定磁場
H2 可動磁場
Hd 検知磁場
O 中心線
図1
図2
図3
図4