(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135254
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】低誘電正接、大粒子酸化チタン組成物
(51)【国際特許分類】
C01G 23/047 20060101AFI20230921BHJP
【FI】
C01G23/047
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040373
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】小澤 晃代
(72)【発明者】
【氏名】岸 美保
(72)【発明者】
【氏名】山下 大輔
【テーマコード(参考)】
4G047
【Fターム(参考)】
4G047CA01
4G047CA05
4G047CB08
4G047CB09
4G047CC02
4G047CD04
4G047CD07
(57)【要約】
【課題】粒子サイズが大きく、かつ誘電正接の低い誘電フィラーを提供する。
【解決手段】酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の酸化物とを含んでなる粒子状酸化物を含み、メジアン径が10~30μmであり、周波数200MHz~100GHzにおける誘電正接(tanδ)が1×10-3以下であることを特徴とする酸化チタン組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の酸化物とを含んでなる粒子状酸化物を含み、
メジアン径が10~30μmであり、
周波数200MHz~100GHzにおける誘電正接(tanδ)が1×10-3以下であることを特徴とする酸化チタン組成物。
【請求項2】
周波数200MHz~100GHzにおける比誘電率(ε)が10以上であることを特徴とする請求項1に記載の酸化チタン組成物。
【請求項3】
BET比表面積が0.5m2/g以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化チタン組成物。
【請求項4】
Si、Al及びWからなる群より選択される元素を酸化チタンに対して0.05~10重量%含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の酸化チタン組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の酸化チタン組成物と樹脂とを含むことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の樹脂組成物を含むことを特徴とする電子部品用材料。
【請求項7】
請求項6に記載の電子部品用材料を用いて作製されることを特徴とする電子部品。
【請求項8】
酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の酸化物とを含んでなる粒子状酸化物を含む酸化チタン組成物を製造する方法であって、
該製造方法は、酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物とを含む造粒物を製造する工程と、
該造粒物を1050~1300℃の温度で焼成する工程とを含む
ことを特徴とする酸化チタン組成物の製造方法。
【請求項9】
前記酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物とを含む造粒物を製造する工程は、酸化チタン、又は、酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物との混合物をスプレー造粒する工程であることを特徴とする請求項8に記載の酸化チタン組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電正接、大粒子酸化チタン組成物に関する。より詳しくは、高周波材料における誘電体フィラー等として利用可能な低誘電正接、大粒子酸化チタン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
日本を含む世界市場においてAI/IoT化が進んでおり、スマートフォンやタブレットなどの通信装置、IoT家電やAI/IoT技術を用いた製造装置の普及が進んでいる。これに伴って高周波信号(1GHz以上)を用いた情報伝送が増加しており、今後の自動運転車の稼働により高周波信号を用いた情報伝送の更なる増加が見込まれている。
高周波領域では従来の波長よりも伝送損失が大きいために、高周波信号の効率的な伝送のためには誘電正接の低い材料が必要とされる。しかしながら従来使用されていた誘電材料は、高周波領域では伝送損失が非常に大きく利用できないため、伝送損失の少ない誘電材料が求められている。特許文献1では各種の無機フィラーをガラス中に埋め込んだガラスフィラーが提案されている。特許文献2では一対の被着体の間に熱可塑性樹脂および誘電フィラーを含有する誘電加熱シートを備えた接着構造体が記載され、誘電フィラーの平均粒子径は0.1μm以上、30μm以下の範囲が好ましいと記載されている。また特許文献3ではエポキシ樹脂に、誘電率の調整用にチタン酸バリウム、酸化チタン等の誘電体粉末が添加された樹脂組成物が提案され、特許文献4では誘電体材料として体積平均粒子径、球形度、水分量、亜麻仁油吸油量が所定の範囲にある二酸化チタンからなる粒子材料が提案されている。更に二酸化チタン粒子の製造方法に関し、特許文献5では見かけ粒子が1~20μmの二酸化チタン凝集粒子の製造方法が報告されており、特許文献6では所定の硫酸チタニル水溶液を原料として含水酸化チタンを生成し、得られた含水酸化チタンを濾過、洗浄、焼成する、球状大粒子二酸化チタンの製造方法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-19055号公報
【特許文献2】国際公開第2019/031466号
【特許文献3】特開2020-105523号公報
【特許文献4】特開2021-127254号公報
【特許文献5】特開昭61-17422号公報
【特許文献6】特開2018-154527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のとおり、誘電体の材料について種々の提案がされているが、誘電正接が十分に低いものとはいえず、より誘電正接が低いフィラーが求められている。また高周波領域での信号の伝送損失を十分に低減するためには樹脂に高濃度で配合できることも重要であり、そのためには粒子径の大きいものが求められる。特許文献2~4には樹脂に添加する誘電フィラーとして酸化チタンが記載されているが、10μm以上の粒子径の酸化チタンを添加した例はない。特許文献5、6には酸化チタンの製造方法が記載されているが、製造されているのは粒子径の小さいものであり、10μm以上の粒子径の酸化チタンを製造した例はない。特に樹脂を射出成型する場合には10~30μm程度の粒子径の大きいフィラーが一般に使用されるが、そのような粒子サイズが大きく、かつ誘電正接の低い誘電フィラーは知られていない。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、粒子サイズが大きく、かつ誘電正接の低い誘電フィラーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、粒子サイズが大きく、かつ誘電正接の低い誘電フィラーについて検討し、酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物とを含む造粒物を製造し、該造粒物を1050~1300℃の温度で焼成することで粒子サイズが大きく、かつ誘電正接の低い酸化チタン組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の酸化物とを含んでなる粒子状酸化物を含み、メジアン径が10~30μmであり、周波数200MHz~100GHzにおける誘電正接(tanδ)が1×10-3以下であることを特徴とする酸化チタン組成物である。
【0008】
上記酸化チタン組成物は、周波数200MHz~100GHzにおける比誘電率(ε)が10以上であることが好ましい。
【0009】
上記酸化チタン組成物は、BET比表面積が0.5m2/g以下であることが好ましい。
【0010】
上記酸化チタン組成物は、Si、Al及びWからなる群より選択される元素を酸化チタンに対して0.05~10重量%含むことが好ましい。
【0011】
本発明はまた、本発明の酸化チタン組成物と樹脂とを含むことを特徴とする樹脂組成物でもある。
【0012】
本発明はまた、本発明の樹脂組成物を含むことを特徴とする電子部品用材料、及び、該電子部品用材料を用いて作製されることを特徴とする電子部品でもある。
【0013】
本発明は更に、酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の酸化物とを含んでなる粒子状酸化物を含む酸化チタン組成物を製造する方法であって、
該製造方法は、酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物とを含む造粒物を製造する工程と、該造粒物を1050~1300℃の温度で焼成する工程とを含むことを特徴とする酸化チタン組成物の製造方法でもある。
【0014】
上記酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物とを含む造粒物を製造する工程は、酸化チタン、又は、酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物との混合物をスプレー造粒する工程であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の酸化チタン組成物は、誘電正接の低い材料であり、かつ粒子サイズが大きいことから樹脂に高濃度で配合することが可能であり、樹脂材料の誘電正接を低下させる誘電フィラーとして好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1で得られた酸化チタン組成物のSEM観察結果を示した図である。
【
図2】実施例1で得られた酸化チタン組成物、比較例2及び3で得られた酸化チタンの粒度分布を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0018】
1.低誘電正接、大粒子酸化チタン組成物
本発明の酸化チタン組成物は、酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の酸化物とを含んでなる粒子状酸化物を含み、メジアン径が10~30μmであり、周波数200MHz~100GHzにおける誘電正接(tanδ)が1×10-3以下である。
酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の酸化物とを含んでなる粒子状酸化物は、酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の酸化物とを含むものである限りその形態は特に制限されず、酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の酸化物とが均一又は不均一に混合し、粒子状の形状となったものであってもよく、一方の酸化物の粒子に他方の酸化物が被覆したものであってもよい。
【0019】
本発明の酸化チタン組成物は、メジアン径が10~30μmであり、このように粒子径の大きいものであることで樹脂に配合した場合に粒子が凝集せずに均一に混合することができる。このため樹脂に高濃度で配合することができ、樹脂材料の誘電正接を効果的に低下させることができる。酸化チタン組成物のメジアン径は好ましくは、10~25μmであり、より好ましくは、10~22μmであり、更に好ましくは、10~20μmである。
酸化チタン組成物のメジアン径は後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0020】
本発明の酸化チタン組成物は、周波数200MHz~100GHzの高周波領域における誘電正接(tanδ)が1.0×10-3以下である。このように高周波領域における誘電正接が十分に低いことで、樹脂に配合した場合に樹脂の高周波領域における誘電正接を効果的に低下させることができる。酸化チタン組成物の周波数200MHz~100GHzの高周波領域における誘電正接は、9.0×10-4以下であることが好ましい。より好ましくは、8.0×10-4以下であり、更に好ましくは、6.0×10-4以下である。
酸化チタン組成物の誘電正接は後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0021】
本発明の酸化チタン組成物は、BET比表面積が0.5m2/g以下であることが好ましい。このようなBET比表面積を有するものであることで、樹脂の吸油量を減らすことができ、樹脂中に酸化チタン組成物を高濃度に配合させることができる。酸化チタン組成物のBET比表面積は、より好ましくは、0.4m2/g以下であり、更に好ましくは、0.3m2/g以下である。
酸化チタン組成物のBET比表面積は後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0022】
本発明の酸化チタン組成物は、周波数200MHz~100GHzにおける比誘電率(ε)が10以上であることが好ましい。上述したとおり、本発明の酸化チタン組成物は樹脂に高濃度で配合することが可能であるため、酸化チタン組成物がこのような比誘電率のものであると、本発明の酸化チタン組成物を樹脂に対して配合量を調整して配合することで樹脂の比誘電率を制御することができる。酸化チタン組成物の周波数200MHz~100GHzにおける比誘電率は、より好ましくは、12以上であり、更に好ましくは、15以上である。
酸化チタン組成物の比誘電率は後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0023】
本発明の酸化チタン組成物は、熱重量分析装置を用いて室温から200℃まで10℃/分で昇温させた際に測定される重量減少率が0.15%以下であることが好ましい。このような重量減少率のものであると、酸化チタン組成物表面の吸着水が少なく、誘電正接を低くすることができる。重量減少率はより好ましくは、0.1%以下であり、更に好ましくは、0.05%以下である。
【0024】
本発明の酸化チタン組成物は、(D90-D10)/D50が5以下であることが好ましい。このように粒度分布の狭いものであることで、樹脂中へ均一に分散させることができる。酸化チタン組成物の(D90-D10)/D50はより好ましくは、4以下であり、更に好ましくは、1以下である。
酸化チタン組成物の(D90-D10)/D50は、実施例に記載のメジアン径D50の測定方法と同様の方法でD90、D10を測定することで得るができる。
【0025】
上記粒子状酸化物は、酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素を含むものであればよく、これらの元素のうち1種を含むものであっても、2種以上を含むものであってもよい。
【0026】
本発明の酸化チタン組成物は、酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の酸化物を含むものであればよく、Si、Al及びWからなる群より選択される元素の酸化物の含有割合は特に制限されないが、該酸化物に含まれるSi、Al及びWからなる群より選択される元素の割合は、酸化チタン組成物に含まれる酸化チタン100質量%に対して0.05~10重量%となる割合であることが好ましい。Si、Al及びWからなる群より選択される元素をこのような割合で含むと、酸化チタン組成物がより誘電正接の低いものとなる。Si、Al及びWからなる群より選択される元素の割合は、より好ましくは、酸化チタン組成物に含まれる酸化チタン100質量%に対して0.05~8重量%であり、更に好ましくは、酸化チタンに対して0.1~5重量%である。
【0027】
本発明の酸化チタン組成物が含む酸化チタンは、アナタース型のものであっても、ルチル型のものであってもよく、これらの両方を含むものであってもよい。
【0028】
本発明の酸化チタン組成物は、酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の酸化物とを含んでなる粒子状酸化物を含む限り、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タングステンが挙げられる。
その他の成分の割合は酸化チタン組成物全体100質量%に対して5質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、3質量%以下であり、更に好ましくは、1質量%以下である。
【0029】
2.樹脂組成物、電子部品用材料、及び、電子部品
上述した通り、本発明の酸化チタン組成物は、樹脂に配合することで誘電正接を効果的に低下させることができる。また本発明の酸化チタン組成物の比誘電率が上述した範囲のものであれば配合量を調整して配合することで樹脂の比誘電率を制御することができる。このため、本発明の酸化チタン組成物を樹脂に配合して得られる樹脂組成物は、高周波領域の信号を使用する電子部品の材料として好適に用いることができる。
このような、本発明の酸化チタン組成物と樹脂とを含む樹脂組成物もまた本発明の1つであり、該樹脂組成物を含む電子部品用材料、及び、該電子部品用材料を用いて作製される電子部品もまた本発明の1つである。
【0030】
本発明の樹脂組成物が含む樹脂は本発明の酸化チタン組成物を配合することができるものである限り特に制限されず、例えば、エポキシ樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリスルホン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0031】
本発明の樹脂組成物が含む樹脂の割合は特に制限されず、求められる用途や特性に応じて適宜選択すればよいが、樹脂組成物100質量%に対して、10~95質量%であることが好ましい。より好ましくは、20~90質量%であり、更に好ましくは、20~80質量%である。
【0032】
本発明の樹脂組成物における本発明の酸化チタン組成物の配合割合は特に制限されないが、成型性等の樹脂材料として必要な特性を失うことなく、誘電正接を十分に低下させたり、比誘電率を調整する点から、樹脂組成物100質量%に対して、5~80質量%であることが好ましい。より好ましくは、樹脂組成物全体の10~80質量%であり、更に好ましくは、樹脂組成物全体の20~80質量%である。
【0033】
本発明の樹脂組成物は溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては特に制限されないが、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル類;キシレン、トルエン、シクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒;ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0034】
本発明の樹脂組成物における溶媒の含有量は特に制限されないが、樹脂組成物100質量%に対して、0~80質量%であることが好ましい。より好ましくは、0~60質量%であり、更に好ましくは、0~50質量%である。
【0035】
本発明の樹脂組成物は、本発明の酸化チタン組成物、樹脂、溶媒以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、本発明の酸化チタン組成物以外のフィラー、粘度調整剤、消泡剤、難燃剤等が挙げられる。本発明の樹脂組成物は、その他の成分を1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0036】
上記その他の成分の含有割合は、本発明の樹脂組成物100質量%に対して、10質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、5質量%以下であり、更に好ましくは、3質量%以下である。
【0037】
3.酸化チタン組成物の製造方法
本発明はまた、酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の酸化物とを含んでなる粒子状酸化物を含む酸化チタン組成物を製造する方法であって、該製造方法は、酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物とを含む造粒物を製造する工程と、該造粒物を1050~1300℃の温度で焼成する工程とを含むことを特徴とする酸化チタン組成物の製造方法でもある。
一般に粒子サイズの大きい酸化チタンを製造する場合、高温で焼成する合成法が知られているが、酸化チタンを高温で焼成すると酸素欠損が生じ、誘電正接が上昇してしまうため、粒径が大きく、かつ誘電正接の低い酸化チタンを得ることはできない。これに対し本発明の酸化チタン組成物の製造方法で製造することで、粒径が大きく、かつ誘電正接の低い、本発明の酸化チタン組成物を得ることができる。
【0038】
上記酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物とを含む造粒物を製造する工程は、酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物とを含む造粒物が製造される限りその方法は特に制限されない。
ここで酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物とを含む造粒物は、酸化チタンと、Si、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物からなる添加剤とを混合した後に造粒したものであってもよく、酸化チタンを造粒した後、Si、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物からなる添加剤を添加したものであってもよい。
【0039】
上記造粒工程で酸化チタンと、Si、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物からなる添加剤とを混合した後に造粒する場合、酸化チタンと添加剤とを混合する方法は、酸化チタンと添加剤とが混合されることになる限り特に制限されないが、酸化チタンを溶媒にリパルプし、そこに添加剤を添加する方法が好ましい。この方法を用いることで、酸化チタンと添加剤とを十分に混合することができる。
【0040】
上記造粒工程で酸化チタンを造粒した後、Si、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物からなる添加剤を添加する場合、添加剤を添加する方法は特に制限されないが、添加剤を溶媒に溶解又は分散させたものを造粒した酸化チタンに噴霧する方法が好ましい。この方法を用いることで、造粒した酸化チタン全体に均一に添加剤を添加することができる。
添加剤を溶媒に溶解又は分散させたものを造粒した酸化チタンに噴霧する場合、噴霧は1回のみ行ってもよく、噴霧と乾燥を複数回繰り返して行ってもよい。
【0041】
上記造粒工程に用いる酸化チタンは、アナタース型のものであっても、ルチル型のものであってもよく、これらの両方を含むものであってもよい。
【0042】
上記造粒工程に用いる酸化チタンのメジアン径は、0.005~0.1μmであることが好ましい。より好ましくは、0.01~0.08μmである。この範囲にある酸化チタンを上記造粒工程に用いることで、添加物との混合がより均一になり、当該造粒物を焼成することで、より誘電正接の低い酸化チタン組成物を得ることができる。
酸化チタンのメジアン径は、後述する実施例に記載の酸化チタン組成物のメジアン径の測定方法と同様の方法で測定することができる。
【0043】
上記造粒工程でSi、Al及びWからなる群より選択される元素の化合物を用いる場合、化合物としては特に制限されず、酸化物、塩化物、水酸化物、炭酸塩、塩酸塩、酢酸塩、金属酸塩等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0044】
上記造粒工程で使用する溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールの1種又は2種以上が挙げられる。これらの中でも水が好ましい。
【0045】
上記酸化チタン、又は、酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物との混合物を造粒する方法は特に制限されないが、スプレー造粒する方法が好ましい。スプレー造粒を用いることで、誘電フィラーに求められるサイズの粒子を効率的に得ることができる。
【0046】
上記Si、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物は、Si、Al及びWのいずれの元素の単体及び/又は化合物であってもよく、これらのうち1種の元素の単体及び/又は化合物を用いてもよく、2種以上の元素の単体及び/又は化合物を用いてもよい。
【0047】
上記酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物との造粒物を製造する工程において使用するSi、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物の量は特に制限されないが、該単体及び/又は化合物に含まれるSi、Al及びWからなる群より選択される元素の割合が、使用する酸化チタン100質量%に対して、0.05~10質量%となる量であることが好ましい。このような割合となるように使用することで、より誘電正接が低い酸化チタン組成物が得られる。Si、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物の使用量は、より好ましくは、該単体及び/又は化合物に含まれるSi、Al及びWからなる群より選択される元素の割合が使用する酸化チタン100質量%に対して、0.05~8質量%となる量であり、更に好ましくは、使用する酸化チタン100質量%に対して、0.1~5質量%となる量である。
【0048】
上記造粒工程に、酸化チタン、又は、酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物とを含むスラリーを供する場合、スラリー濃度は、150~300g/Lであることが好ましい。より好ましくは200~250g/Lである。このような濃度のスラリーを用いてスプレー造粒を行うことで、誘電フィラーに求められるサイズの粒子を効率的に得ることができる。
【0049】
上記酸化チタン組成物の製造方法では、造粒工程の後に造粒物を1050~1300℃の温度で焼成する工程を行う。酸化チタンは表面の水酸基や吸着水の影響により誘電正接が高くなるが、1050℃以上の温度で焼成することで表面の水酸基や吸着水が少なく、誘電正接の低い酸化チタン組成物を得ることができる。また焼成温度が高くなると、酸化チタン組成物の粒子径は大きくなるものの、酸素欠陥が生じ、誘電正接も高くなってしまう。1300℃以下の温度で焼成することで粒子径を大きくしつつ、酸素欠陥の生成を抑制することができる。更に焼成工程でSi、Al及びWからなる群より選択される添加元素の一部が酸化チタンにドープされて酸化チタンの酸素欠陥が補填される。これらにより、粒子径が大きく、かつ誘電正接の低い酸化チタン組成物を得ることができる。Si、Al及びWからなる群より選択される添加元素のうち、酸化チタンにドープしなかったものは酸化物となる。
焼成温度は、1050~1300℃であることが好ましい。より好ましくは、1050~1200℃であり、更に好ましくは、1050~1150℃である。
焼成する時間は、十分に焼成が行われる限り特に制限されないが、1~50時間であることが好ましい。より好ましくは、2~15時間であり、更に好ましくは、2~8時間である。
【0050】
上記酸化チタン組成物の製造方法は、酸化チタンとSi、Al及びWからなる群より選択される元素の単体及び/又は化合物との造粒物を製造する工程と、該造粒物を1050~1300℃の温度で焼成する工程とを含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、焼成工程で得られた焼成物を解砕する工程、分級する工程等が挙げられる。
【実施例0051】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」及び「wt%」とは「重量%(質量%)」を意味する。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0052】
<複素誘電率実部、誘電正接、比誘電率>
粉末の複素誘電率実部、誘電正接、比誘電率は、誘電率測定装置ADMS01Nc1(エーイーティ―社製)、および付属の1GHz共振器を用いて測定した。
<紫外可視分光光度計による評価>
試料の拡散反射スペクトルは、紫外可視近赤外分光光度計(JASCO、V-570)によって250~800nmの波長範囲を測定することにより行った。BaSO4をリファレンスとし、Kubelka-Munk関数により反射率を吸光度に変換した。得られたスペクトルの350nmの吸光度が1になるように250~800nmの波長範囲の値を規格化し、700nmの吸光度を読み取った。
<比表面積(BET-SSA)>
JIS Z8830(2013年)の規定に準じ、試料を窒素雰囲気中、230℃で60分間熱処理した後、比表面積測定装置(マウンテック社製、商品名「Macsorb HM-1220」)を用いて、比表面積(BET-SSA)を測定した。
【0053】
<TiO2純度 蛍光X線>
酸化チタン組成物中の添加元素の濃度は蛍光X線(リガク PrimusII)にてEZ SCanモードにて測定し、TiO2に対する重量%として求め、表1に酸化チタン組成物中の添加元素含有量/TiO2として記載した。
<酸化チタン組成物のメジアン径D50、(D90-D10)/D50>
メジアン径D50および(D90-D10)/D50は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所 型番LA-950)を用い以下のように測定した。すなわち、サンプル0.1gと0.025wt%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液60mLを加え、超音波ホモジナイザー(US-600、日本精機製作所社製)にて十分に分散した懸濁液を調製したものを試料とし、分散媒屈折率(1.33:0.025wt%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液)、試料屈折率2.75、流速50%、超音波分散1分間、透過率80~95%の条件で測定した。
<熱重量分析>
粉末の熱重量分析は示差熱・熱重量同時測定装置STA7300(日立ハイテクサイエンス社)を用い、10℃/分で室温から200℃まで昇温した際の重量を測定した。測定結果より、200℃における重量(X値)としたときの初期重量(Y値)に対する重量変化率を下記の式より求めた。
熱重量分析(%)=(Y-X)/Y*100
<電子顕微鏡観察>
粉末の電子顕微鏡写真は電界放出形走査電子顕微鏡JSM-7000F(日本電子株式会社)を用いて、観察した。
【0054】
実施例1
アナタース型酸化チタン(堺化学工業株式会社製、商品名「SSP-25」、比表面積270m
2/g)を純水にリパルプし、続いてシリカ(日産化学株式会社製 商品名「スノーテックス」)を酸化チタンに対しケイ素として2.3重量%を添加した。続いて、スプレー造粒による噴霧乾燥によって得た造粒物を1100℃で4時間焼成することで、メジアン径16.1μmの酸化チタン組成物を得た。得られた酸化チタンの走査電子顕微鏡写真を
図1、粒度分布を
図2に示した。粒度分布の(D90-D10)/D50の比は0.67であった。
【0055】
実施例2
実施例1のシリカ量を酸化チタンに対しケイ素として4.2重量%とした以外は実施例1と同様にして酸化チタン組成物を得た。
【0056】
実施例3
実施例1のシリカ量を酸化チタンに対しケイ素として7.5重量%とした以外は実施例1と同様にして酸化チタン組成物を得た。
【0057】
実施例4
アナタース型酸化チタン(堺化学工業株式会社製、商品名「SSP-25」、比表面積270m2/g)を純水にリパルプし、続いて、スプレー造粒による噴霧乾燥によって酸化チタン造粒物を得た。酢酸アルミニウム(関東化学株式会社)を1.74gを8mLのイオン交換水に懸濁させた。ビニール袋に酸化チタン造粒物10gを入れ、当該懸濁液を噴霧し、乾燥後に振り混ぜる操作を繰り返して全量を噴霧した後、1100℃で4時間焼成することで、メジアン径11.6μmの酸化チタン組成物を得た。
【0058】
実施例5
実施例4の酢酸アルミニウムをタングステン酸アンモニウムパラ五水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.593gに変更した以外は実施例4と同様にして酸化チタン組成物を得た。
【0059】
比較例1
シリカを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして酸化チタンを得た。
【0060】
比較例2
アナタース型酸化チタン(堺化学工業株式会社製、商品名「SSP-25」、比表面積270m
2/g)を1100℃で4時間焼成することで、メジアン径15.3μmの酸化チタン組成物を得た。粒度分布を
図2に示した。粒度分布の(D90-D10)/D50の比は11.25であった。
【0061】
比較例3
比較例2の焼成温度を1400℃にした以外は比較例2と同様に合成し、メジアン径40.3μmの酸化チタン組成物を得た。粒度分布を
図2に示した。粒度分布の(D90-D10)/D50の比は2.26であった。
【0062】
比較例4
シリカ(日産化学株式会社製 商品名「スノーテックス」)を乾燥させ、1100℃で4時間焼成した。この焼成したシリカがケイ素として4.7重量%となるように比較例1の酸化チタンとをビニール袋に入れて振りまぜて物理混合し、酸化チタン組成物を得た。
【0063】
比較例5
実施例1の焼成温度を1000℃とした以外は実施例1と同様にして酸化チタン組成物を得た。
【0064】
実施例1~5、比較例1~5における添加元素の種類と使用量、造粒の有無、焼成温度、及び得られた酸化チタン組成物又は酸化チタンの各種測定結果を表1に示す。
なお、紫外可視分光観察において、実施例1~3の酸化チタン組成物の400nm付近の吸収端の波長はそれぞれ426、426、400nmであり、比較例1の酸化チタンの吸収端433nmに比べて短波長側に約5~35nmのシフトが観察された。
【0065】
【0066】
表1に示したとおり、酸化チタンと添加元素であるSi、Al又はWとを含む造粒物を製造した後、1100℃で焼成した実施例1~5ではtanδが0.001未満、比誘電率が10以上でかつ、平均粒子サイズが10~30μmの範囲をもつ酸化チタン組成物が得られた。酸化チタンと添加剤とを含む造粒物の製造に関し、酸化チタンに添加剤を添加した後に造粒した場合(実施例1~3)だけでなく、酸化チタンを造粒した後に添加剤を添加した場合(実施例4、5)でも粒子径が大きく、低誘電正接であり、比誘電率の高い酸化チタン組成物が得られる結果となった。また
図2に示したとおり、そのようにして得られた酸化チタン組成物の粒度分布は非常にシャープであり、酸化チタン組成物を添加した樹脂組成物の成形性の点でも有利である。
一方、造粒せず1100℃程度で焼成すると焼結があまり進まず、粒子径が10μm未満となり(比較例2)、焼結を進ませようとさらに高温の1400℃で焼成するとメジアン径は35μm以上となり、誘電正接も非常に高くなった(比較例3)。焼成温度1000℃では熱重量分析による重量減少率が大きく、誘電正接が高く、誘電率も低い結果となった(比較例5)。
シリカを添加して造粒した実施例1~3の酸化チタン組成物は700nmでの吸光度が0.1以下と低い値であった。酸化チタンの500~700nm付近の吸収はチタンの3価に由来することが知られている。酸化チタンは通常焼結が進むと酸素欠陥を生じ、チタンの3価が生成し、700nm付近の吸光度が高くなる(比較例1参照)。酸化チタン中にチタンの3価が生じると導電性キャリアが生じ、電磁波を吸収するため誘電正接が高くなってしまう。シリカを添加して焼成した実施例1~3の酸化チタン組成物では700nm付近の吸光度が低く、また、比較例1の酸化チタンに比べて400nm付近の吸収端のシフトも確認されたため、ケイ素が酸化チタン中に一部ドープされることで酸素欠陥の生成を抑制していることがわかる。一方、酸化チタンを造粒して焼成し、その後にシリカを添加した比較例4では、誘電正接が高くなっており、単なる酸化チタンとシリカの物理混合では低い誘電正接を達成し得ないことが確認された。この結果から酸化チタンが焼結する際にシリカ等の所定の成分が共存することが非常に重要であることが確認され、本発明の酸化チタン組成物の製造方法を用いることで、誘電率が高く、誘電正接の低い10~30μmの酸化チタン組成物を合成できることが確認された。