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特開2023-135274ガス除去装置、ガス除去方法及び動物細胞培養システム
<図1>
  • 特開-ガス除去装置、ガス除去方法及び動物細胞培養システム 図1
  • 特開-ガス除去装置、ガス除去方法及び動物細胞培養システム 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135274
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】ガス除去装置、ガス除去方法及び動物細胞培養システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230921BHJP
【FI】
C12M1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040401
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000229519
【氏名又は名称】日本ハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(72)【発明者】
【氏名】小園 正樹
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 亮
(72)【発明者】
【氏名】西山 泰孝
(72)【発明者】
【氏名】米北 太郎
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029CC01
4B029DA04
4B029DF03
4B029DG06
(57)【要約】
【課題】動物細胞の大量培養を効率的に行うことができるガス除去装置、ガス除去方法及び動物細胞培養システムを提供する。
【解決手段】ガス除去装置14は、動物細胞を培養するための培養槽12に取り付け可能に構成され、動物細胞の代謝によって培養槽12の内部に生じた老廃物のうちのガス化物質を、アルカリ性又は酸性の溶液を通液させたガス透過膜28を用いて捕捉する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物細胞を培養するための培養槽に取り付け可能に構成され、前記動物細胞の代謝によって前記培養槽の内部に生じた老廃物のうちのガス化物質を、アルカリ性又は酸性の溶液を通液させたガス透過膜を用いて捕捉するガス除去装置。
【請求項2】
動物細胞を培養するための培養槽の内部において前記動物細胞の代謝によって生じた老廃物のうちのガス化物質を除去するためのガス除去方法であって、アルカリ性又は酸性の溶液を通液させたガス透過膜を用いて該ガス化物質を捕捉することを特徴とするガス除去方法。
【請求項3】
培養槽において動物細胞を培養するための動物細胞培養システムであって、前記動物細胞の代謝によって前記培養槽の内部に生じた老廃物のうちのガス化物質を、アルカリ性又は酸性の溶液を通液させたガス透過膜を用いて捕捉するガス除去部を備える、動物細胞培養システム。
【請求項4】
前記培養槽の内部にファインバブルを供給可能な空気供給部を備える、請求項3に記載の動物細胞培養システム。
【請求項5】
前記動物細胞の代謝によって生じた老廃物のうちの乳酸を、限外ろ過膜を用いた除去、吸着剤を用いた吸着、又は、乳酸除去能力を持つ微生物若しくは細胞の代謝によって除去する阻害物質除去部を備える、請求項3又は請求項4に記載の動物細胞培養システム。
【請求項6】
前記培養槽の内部に収容された培養液に栄養素を添加すると共に、該培養液のPHを調整するための添加部を備える、請求項3から請求項5の何れか1項に記載の動物細胞培養システム。
【請求項7】
前記ガス透過膜を用いて捕捉した前記ガス化物質の回収槽を備え、前記回収槽は、微生物培養のための微生物培養槽に窒素を供給可能に構成されていることを特徴とする、請求項3から請求項6の何れか1項に記載の動物細胞培養システム。
【請求項8】
前記回収槽は、前記微生物培養槽と一体で構成されている、請求項7に記載の動物細胞培養システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ガス除去装置、ガス除去方法及び動物細胞培養システムに関する。
【背景技術】
【0002】
有用物質の生産や代替タンパク質等の食品としての利用を目的とする動物細胞の大量培養には効率的な生産が求められる。このため、動物細胞を培地に対して高密度で生育させることが好ましい。しかしながら、高密度で培養しようとすると、培地の酸性化が進みやすくなると共に、動物細胞の代謝により生じる老廃物が蓄積しやすくなり、また、培地中の栄養分や酸素が枯渇しやすくなるため細胞の生育が阻害されやすくなる。したがって、動物細胞を高密度で大量培養して効率性を高めるためには、培地の環境、すなわち、培養環境が大きく変化することを抑制する必要がある。
【0003】
特許文献1には、老廃物を除去する方法として、透析を利用した細胞培養システムが開示されている。細胞培養システムは、成分調整液槽と、培養槽を有する細胞培養装置と、これらの間においてチューブを介して培養液を送液する送液回路と、を備える。ここでは、チューブの成分調整液槽側には、培養液成分調整膜が配置され、培養槽側には細胞等と培養液とを分離するフィルタが配置されている。このため、フィルタを通過して成分調整液槽側へと吸引された培養液は、培養液成分調整膜によって老廃物がろ過され、ろ過された培養液が成分調整液槽へと戻される。このようにして老廃物がろ過された培養液を培養槽へと戻す透析方法では、成分調整液の量は、培養槽内の培養液の5倍から10倍以上の量が必要とされる。この結果、成分調整液槽を培養槽、すなわち、細胞培養装置に対してかなり大きく構成する必要があるため、大量培養するために細胞培養装置及び成分調整液槽を配置しようとすると、配置スペースの確保が困難になると共に生産コストが増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/122528号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような課題を考慮して、動物細胞の大量培養を効率的に行うことができるガス除去装置、ガス除去方法及び動物細胞培養システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、動物細胞を培養するための培養槽に取り付け可能に構成され、動物細胞の代謝によって培養槽の内部に生じた老廃物のうちのガス化物質を、アルカリ性又は酸性の溶液を通液させたガス透過膜を用いて捕捉するガス除去装置である。
【0007】
また、本開示の別の態様は、動物細胞を培養するための培養槽の内部において動物細胞の代謝によって生じた老廃物のうちのガス化物質を除去するためのガス除去方法であって、アルカリ性又は酸性の溶液を通液させたガス透過膜を用いてガス化物質を捕捉することを特徴とするガス除去方法である。
【0008】
さらに、本開示の別の態様は、培養槽において動物細胞を培養するための動物細胞培養システムであって、動物細胞の代謝によって培養槽の内部に生じた老廃物のうちのガス化物質を、アルカリ性又は酸性の溶液を通液させたガス透過膜を用いて捕捉するガス除去部を備える動物細胞培養システムである。
【0009】
また、本開示の他の態様として、動物細胞培養システムは、培養槽の内部にファインバブルを供給可能な空気供給部を備えてもよい。
【0010】
さらに、本開示の他の態様として、動物細胞培養システムは、動物細胞の代謝によって生じた老廃物のうちの乳酸を、限外ろ過膜を用いた除去、吸着剤を用いた吸着、又は、乳酸除去能力を持つ微生物若しくは細胞の代謝によって除去する阻害物質除去部を備えてもよい。
【0011】
また、本開示の他の態様として、動物細胞培養システムは、培養槽の内部に収容された培養液に栄養素を添加すると共に、培養液のPHを調整するための添加部を備えてもよい。
【0012】
さらに、本開示の他の態様として、動物細胞培養システムは、ガス透過膜を用いて捕捉したガス化物質の回収槽を備え、回収槽は、微生物培養のための微生物培養槽に窒素を供給可能に構成されてもよい。
【0013】
また、本開示の他の態様として、回収槽は、微生物培養槽と一体で構成されてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本開示の一態様に係るガス除去装置によれば、動物細胞を培養するための培養槽に取り付けることによって、動物細胞の代謝によって培養槽の内部に生じた老廃物のうちのガス化物質をアルカリ性又は酸性の溶液を通液させたガス透過膜を用いて捕捉することができる。このため、培養槽内に老廃物が蓄積すること及び老廃物の蓄積による培地のPHの変動を抑制又は防止することができる。
【0015】
さらに、本開示の一態様に係るガス除去方法によれば、培養槽の内部において動物細胞の代謝によって生じた老廃物のうちのガス化物質をアルカリ性又は酸性の溶液を通液させたガス透過膜を用いて捕捉することができる。このため、培養槽内に老廃物が蓄積すること及び老廃物の蓄積による培地のPHの変動を抑制又は防止することができる。
【0016】
また、本開示の一態様に係る動物細胞培養システムによれば、動物細胞の代謝によって生じた老廃物のうちのガス化物質を、アルカリ性又は酸性の溶液を通液させたガス透過膜を用いて捕捉するガス除去部を備える。このため、高密度で動物細胞を培養する場合であっても培養槽内に老廃物が蓄積すること及び老廃物の蓄積による培地のPHの変動を抑制又は防止することができる。また、培地のPHを中和するためにアルカリ性又は酸性の溶液を培養槽に追加する必要がないため、培地の成分が希釈されて、培地内の栄養素の濃度が低下することを抑制することができる。これらによって、植物細胞や微生物とは異なり細胞壁に覆われていないために培地変化の影響を受けやすい動物細胞を効率的に培養することができる。
【0017】
さらに、本開示の一態様に係る動物細胞培養システムによれば、培養槽に接続され、培養槽の内部にファインバブルを供給可能な空気供給部を備える。このため、動物細胞の培養に必要な酸素を供給しながら、培地内に含まれるガス化物質をファインバブルに取り込んで培地の外側へ放出することを促進することができる。これによって、ガス化物質のガス透過膜への移動を促進し、老廃物を効果的に除去することができる。
【0018】
また、本開示の一態様に係る動物細胞培養システムによれば、動物細胞の代謝によって生じた老廃物のうちのガス化しない乳酸のような低分子化合物を、限外ろ過膜を用いた除去、吸着剤を用いた吸着、又は、乳酸除去能力を持つ微生物若しくは細胞の代謝によって除去する阻害物質除去部を備える。このため、培養槽内に老廃物が蓄積すること及び老廃物の蓄積による培地のPHの変動を抑制又は防止することができる。
【0019】
さらに、本開示の一態様に係る動物細胞培養システムによれば、培養槽に接続され、細胞培養液に栄養素を添加すると共に、PHを調整するための添加部を備える。このため、不足する栄養素を補充し、培地内の栄養素の濃度が低下することを抑制又は防止することができる。また、老廃物の蓄積による培地のPHの変動を抑制又は防止することができる。
【0020】
また、本開示の一態様に係る動物細胞培養システムによれば、ガス透過膜によって捕捉されたガス化物質の回収槽を備え、回収槽は、微生物培養のための微生物培養槽に窒素を供給可能に構成されている。このため、捕捉したガス化物質に含まれる窒素を微生物培養に使用することができ、ガス化物質を効率的に処理することができる。
【0021】
また、本開示の一態様に係る動物細胞培養システムによれば、回収槽は、微生物培養槽と一体で構成されている。このため、回収槽と微生物培養槽とを別個に構成する必要がなく、ガス化物質を効率的に処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、第1実施形態に係る動物細胞培養システムのブロック図を示す。
図2図2は、第2実施形態に係る動物細胞培養システムのブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係るガス除去装置、ガス除去方法及び動物細胞培養システムを説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。理解を容易にするために、図の縮尺を変更して説明する場合がある。
【0024】
(第1実施形態)
図1には、一例として、動物細胞培養システム10のブロック図を示す。動物細胞培養システム10は、動物細胞(図示省略)を内部に収容し、これを培養するための培養槽12を備える。また、動物細胞培養システム10は、動物細胞の代謝によって生成された老廃物のうちのガス化物質を除去するためのガス除去装置14と、空気供給部としての空気供給機16と、老廃物を除去するための阻害物質除去部としての除去器18と、除去したガス化物質を取り出して回収するための回収槽としてのアンモニア回収槽20と、培養液中に栄養素を添加する添加部としての添加装置22を備える。
【0025】
ここで、動物細胞とは、哺乳動物細胞を含む動物の組織を構成するものを意味し、培養方法や接着細胞、浮遊細胞等であることによって限定されない。また、培養する動物細胞は単一種類の細胞に限定されない。このため、目的の細胞を生育させるための物質を産生する複数の細胞を混合させた共培養としてもよい。さらに、動物細胞の培養は、動物以外の細胞との共培養とされてもよい。
【0026】
培養槽12は、例えば、有底筒形状を有するガラス製の槽とされている。培養槽12の内部には、動物細胞を培養するための培養液CMが収容される。培養液CMは、培養対象とする動物細胞が生育可能な溶液成分、温度、PH等の環境条件を有する溶液とされている。培養液CMが収容された培養槽の底部には、培養対象とする動物細胞が収容される。なお、以下の説明では、培養槽の底部に動物細胞が収容されるとして説明するが、これに限らず、培養槽の内部に、例えば、攪拌翼を取り付け、細胞を培養液中に浮遊させてもよい。このため、培養槽12は、培養液CMの成分に対して不活性であり、かつ、動物細胞に対する毒性を有しておらず、さらに、減菌処理に対して耐性を有する材料で構成されている。また、培養槽12の容積及び形状は、培養対象となる動物細胞及び培養に必要な培養液CMの量等によって設定される。なお、培養槽は、ガラスに限らず、例えば、合成樹脂、ステンレス鋼等が使用されてもよい。
【0027】
培養液CMは、培養槽12の所定の位置(深さ)まで注入され、その中に動物細胞が収容される。このため、培養槽12中の培養液CMの液面よりも上方側の部分は、ヘッドスペースHSとされており、気体(主に空気)が存在する。培養槽12の上部には、その内部から動物細胞及び培養液CMを取り出すための開口部24が形成され、開口部24には蓋26が脱着可能に取り付けられている。このため、培養液CM中へのコンタミネーション(混入)を抑制又は防止することができる。とりわけ、培養槽12を大きくした場合にコンタミネーションの抑制又は防止効果を高めることができる。なお、ここでは、培養槽12には蓋26が取り付けられているものとして説明するが、これに限らず、例えば、蓋を設けない培養槽がクリーンルームに配置される等他の態様で培養槽が設けられてもよい。
【0028】
培養槽12の上方側には、ガス透過膜28を有するガス除去装置14が取り付けられている。ガス除去装置14は、ガス透過膜28が配置されている部分をヘッドスペースHSに露出させるように培養槽12に取り付けられている。ガス除去装置14は、溶液タンク30と、溶液タンク30に収容されたアルカリ性又は酸性のストリッピング溶液SSが循環するガラス製の循環パイプ32と、ストリッピング溶液SSを循環させるための循環ポンプ34と、ヘッドスペースHS側の循環パイプ32の内部に配置されたガス透過膜28と、を有する。ガス透過膜28は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド膜、シリコン中空糸ガス分離膜等によって構成されている。ガス透過膜28がヘッドスペースHSに対して露出するように、循環パイプ32は、ガス透過膜28が配置されている位置において、上方側の部分がヘッドスペースHSに対して開放された開放部36が形成されている。ヘッドスペースHSには、動物細胞の代謝によって生成される老廃物のうちのガス化物質が蓄積される。具体的には、動物細胞の代謝によってアンモニア、炭酸、硫化水素、メタン等のガスが生成され、ヘッドスペースHS中に蓄積される。このため、ガス除去装置14は、ヘッドスペースHS中のこれらのガスをガス透過膜28に接触させることによって捕捉するように構成されている。なお、ストリッピング溶液SSを循環させるためにガラス製の循環パイプ32が用いられているとして説明するが、これに限らず、例えば、テフロン(登録商標)やポリエチレンといった合成樹脂等で構成された非金属管、又は、耐腐食性に優れた金属管が用いられてもよい。
【0029】
循環パイプ32の内部でストリッピング溶液SSを循環させることによって、ガス透過膜28にはストリッピング溶液SSが含まれる(通液する)。ガスは、ヘッドスペースHSに対して露出しているガス透過膜28に接触する、又は、ガス透過膜28を通過することによってガス透過膜28に通液しているストリッピング溶液SSに溶解する。ストリッピング溶液SSは、溶解しようとするガスの成分に応じて決定される。ここでは、ガス透過膜28は、ヘッドスペースHS内のアンモニアを溶解するために用いられており、ストリッピング溶液SSには、硫酸が用いられている。なお、ここでは、ストリッピング溶液SSとして硫酸が用いられているとして説明するが、これに限らず、アンモニアを分解することができる塩酸等の他の酸性の溶液が用いられてもよい。
【0030】
なお、以下では、ガス除去装置14は、ヘッドスペースHS内のアンモニアを除去するために使用されるものとして説明するが、これに限らず、動物細胞の代謝によって生成された炭酸、硫化水素等の他のガスを除去するために用いられてもよく、複数の種類のガスを除去するために複数のガス除去装置が設けられてもよい。この場合、ストリッピング溶液は、ガスの成分に応じて強アルカリ性又は弱アルカリ性の溶液がそれぞれ使用されてもよい。
【0031】
ストリッピング溶液SS、ここでは硫酸が収容された溶液タンク30には、加熱装置38が配置されており、アンモニアを溶解してから溶液タンク30へ戻された硫酸アンモニウムを加熱し、アンモニアを放出させることができる。溶液タンク30は、アンモニア回収槽20とチューブ31を介して接続されており、分離されたアンモニアをアンモニア回収槽20へ放出することができる。
【0032】
培養槽12には、培養液CMに空気を供給するための空気供給機16が接続されている。空気供給機16は、エアポンプ40と、培養槽12の底部に配置され、エアポンプ40から供給される空気をマイクロバブル又はナノバブルといったファインバブルを生成して培養液CM中に排出する曝気装置42と、を備える。これによって、培養液CM中の動物細胞に酸素を供給することができる。また、ファインバブルの形態で動物細胞に酸素を供給することによって、細胞壁に覆われていないために急激な環境変化の影響を受けやすい動物細胞に対して気泡が触れたときの影響を抑制することができる。
【0033】
培養液CM中に排出されたファインバブルは、培養液CM中を上昇して培養液CMの液面からヘッドスペースHS側へ放出される。このとき、気泡の細かいファインバブルは、培養液CM中に溶存している老廃物のうちのガス化物質であるアンモニア、炭酸、硫化水素、メタン等がガス化することを促進し、これらのガスがヘッドスペースHS側にあるガス透過膜28へ接触することを促進する。
【0034】
培養槽12には、動物細胞が培養液CM中に排出した乳酸等の低分子量の物質を除去するための除去器18が接続されている。除去器18は、培養液CMをろ過する本体部44と、培養槽12から培養液CMを取り込む吸入管46と、培養液CMを吸い上げて本体部44へ送るための吸上げポンプ48と、培養液CMを培養槽12へ還流するための放出管50と、を有する。
【0035】
本体部44には、吸入管46から取り込んだ培養液CMをろ過するための限外ろ過膜52が取り付けられている。限外ろ過膜52は、その膜透過性が培養液CM中の老廃物の分子量に対応して孔径が設定された半透性の膜によって構成されている。限外ろ過膜52には、中空糸形状、平膜形状が用いられる。このため、老廃物のうちの乳酸のように低分子量の物質が限外ろ過膜52を透過し、高分子である栄養成分(タンパク質)等を残存させることができる。なお、以下の説明では、低分子量の物質は、限外ろ過膜52を用いて除去されるとして説明するが、これに限らず、吸着剤を用いて低分子量の物質が吸着されてもよい。さらに、本体部に替えて乳酸除去能力を持つ微生物又は細胞の培養槽を配置し、これらの微生物又は細胞の代謝によって乳酸が除去されてもよい。
【0036】
培養槽12には、培養液CMに栄養素を添加すると共に、培養液CMのPHを調整するための添加装置22が接続されている。添加装置22は、培養液CMの成分濃度及びPHを計測するためのセンサ54と接続されており、計測された培養液CMの成分濃度に基づいて必要となる栄養素を培養液CMに添加することができる。この添加は、例えば、サンプリングポート等から培養液CMの成分をサンプリングし、分析装置等で分析した後や(いずれも図示省略)、一定時間経過毎といった任意のタイミングですることができる。添加する栄養素の分量は、バルブ56の開閉によって調整される。また、計測された培養液CMのPHに基づいて、PH調整のためのアルカリ性若しくは酸性の水溶液を培養液CMに注入することができる。これによって、培養液CM中の栄養素が減少することやPHの変化による環境変化を抑制又は防止することができる。
【0037】
アンモニア回収槽20は、微生物培養のための微生物培養槽58と一体で構成されている。このため、アンモニア回収槽20に供給されるアンモニアを用いて微生物の窒素源として使用することができる。このため、回収したアンモニアを微生物培養に使用することができ、ガス化物質を効率的に処理することができる。また、アンモニア回収槽20と微生物培養槽58とを一体で構成することによって、ガス化物質を効率的に処理することができる。なお、ここでは、アンモニア回収槽20と微生物培養槽58とは一体で構成されているとして説明したが、これに限らず、アンモニア回収槽と微生物培養槽は別個に構成されてもよい。
【0038】
なお、培養槽には、上記の構成に加えて、空気の給気/排気ポートや、温度センサ等が配置されてもよい。
【0039】
続いて、本実施形態に係るガス除去装置14及びガス除去方法を用いた動物細胞培養システム10の作用及び効果について、以下に説明する。
【0040】
本実施形態に係る動物細胞培養システム10によれば、動物細胞を培養するための培養槽12にガス除去装置14を取り付け、動物細胞の代謝によって生じた老廃物のうちのアンモニアガスを、硫酸のストリッピング溶液SSを通液させたガス透過膜28を用いて捕捉することができる。このため、培養液CM中にアンモニアが蓄積すること及びアンモニアの蓄積による培養液CMのPHの変動を抑制又は防止することができる。また、培養液CMのPHを中和するために酸性の水溶液を培養槽12に追加する必要がないため、培養液CMが希釈されて、培養液CM中の栄養素の濃度が低下することを抑制することができる。このように、高密度で動物細胞を培養する場合であっても培養環境の変化の影響を受けやすい動物細胞を効率的に培養することができる。
【0041】
さらに、本実施形態に係る動物細胞培養システム10によれば、培養槽12に接続され、培養槽12の内部にファインバブルを供給可能な空気供給機16を備える。このため、動物細胞の培養に必要な酸素を供給することができる。また、気泡の細かいファインバブルは、培養液CM中に溶存しているアンモニアをガス化し、このアンモニアガスをガス透過膜28の側へ送り出すことを促進することができる。さらに、ファインバブルの形態で動物細胞に酸素を供給することによって、細胞壁に覆われていないために急激な環境変化の影響を受けやすい動物細胞に対して気泡が触れたときの影響を抑制することができる。
【0042】
また、本実施形態に係る動物細胞培養システム10によれば、培養槽12に接続され、動物細胞の代謝によって生じた老廃物のうちの乳酸を、限外ろ過膜52を用いて除去する除去器18を備えており、老廃物のうちのガス化しない乳酸のような低分子化合物を除去することができる。このため、培養液CM中に老廃物が蓄積すること及び老廃物の蓄積による培養液CMのPHの変動を抑制又は防止することができる。
【0043】
さらに、本実施形態に係る動物細胞培養システム10によれば、培養槽12に接続され、培養液CMに不足する栄養素を添加すると共に、PHを調整するための添加装置22を備える。このため、培養液CM中の栄養素の濃度が低下することを抑制することができる。また、老廃物の蓄積による培養液CMのPHの変動を抑制又は防止することができる。
【0044】
また、本実施形態に係る動物細胞培養システム10によれば、ガス透過膜28によって捕捉されたガス化物質のアンモニア回収槽20を備え、アンモニア回収槽20は、微生物培養のための微生物培養槽58に窒素を供給可能に構成されている。このため、捕捉したガス化物質に含まれる窒素を微生物培養に使用することができ、ガス化物質の処分を効率化することができる。
【0045】
さらに、本実施形態に係る動物細胞培養システム10によれば、アンモニア回収槽20は、微生物培養槽58と一体で構成されている。このため、捕捉したガス化物質を処分するためのスペースを確保する必要がなく、ガス化物質を効率的に処分することができる。
【0046】
以上の説明のとおり、本実施形態に係る動物細胞培養システム10によって、動物細胞の大量培養を効率的に行うことができる。
【0047】
(第2実施形態)
以下、図2を用いて第2実施形態に係る動物細胞培養システム70について説明する。第1実施形態と同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0048】
本実施形態に係る動物細胞培養システム70によれば、ガス除去装置14のガス透過膜72は、循環パイプ74に取り付けられて培養液CM中に配置されている、すなわち、培養液CMに浸けられている。このため、循環パイプ74の内部で循環するストリッピング溶液SSを通液させたガス透過膜72にガス化物質を含んだ培養液CMを直接接触させることができる。ガス化物質は、気液平衡によってガス化と溶液への移行とが発生する。このようなガス化物質は、培養液CMをガス透過膜72に直接接触させることによって、効率的に除去することができる。さらに、ファインバブルを使用することによって、ガス化物質を除去する効率性をさらに向上させることができる。
【0049】
また、本実施形態に係る動物細胞培養システム70によれば、動物細胞の代謝によって培養液CM中に排出されたアンモニア等のガス化物質をガス透過膜72中のストリッピング溶液SSに溶解させることによって、捕捉することができる。このため、培養液CM中にアンモニアが蓄積すること及びアンモニアの蓄積による培養液CMのPHの変動を抑制又は防止することができる。
【0050】
以上、動物細胞培養システム10、70の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。当業者であれば、上記の実施形態の様々な変形が可能であることを理解できると考えられる。
【符号の説明】
【0051】
10 動物細胞培養システム
12 培養槽
14 ガス除去装置
16 空気供給機(空気供給部)
18 除去器(阻害物質除去部)
20 アンモニア回収槽(回収槽)
22 添加装置(添加部)
28 ガス透過膜
52 限外ろ過膜
58 微生物培養槽
70 動物細胞培養システム
72 ガス透過膜
CM 培養液
SS ストリッピング溶液(溶液)
図1
図2