IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NatureArchitects株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-構造体 図1
  • 特開-構造体 図2
  • 特開-構造体 図3
  • 特開-構造体 図4
  • 特開-構造体 図5
  • 特開-構造体 図6
  • 特開-構造体 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135290
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】構造体
(51)【国際特許分類】
   F28F 7/02 20060101AFI20230921BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20230921BHJP
【FI】
F28F7/02
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040426
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】519366237
【氏名又は名称】NatureArchitects株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134094
【弁理士】
【氏名又は名称】倉持 誠
(72)【発明者】
【氏名】須藤 海
(72)【発明者】
【氏名】新谷 国隆
(72)【発明者】
【氏名】山口 総一郎
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本開示は構造体に関し、より詳しくは、熱交換等の用途に用いることが可能な構造体に関する。
【解決手段】本開示の一実施形態によれば、複数の第1の流路が互いに連通して形成される第1の流路空間12と、複数の第2の流路が互いに連通して形成される第2の流路空間14とを互いに隔てた状態で形成する隔壁構造10を含む構造体1が提供される。隔壁構造10は、互いに異なる複数の周期曲面が合成されて形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1の流路が互いに連通して形成される第1の流路空間と、複数の第2の流路が互いに連通して形成される第2の流路空間とを互いに隔てた状態で形成する隔壁構造を含む構造体であって、
前記隔壁構造は、互いに異なる複数の周期曲面が合成されて形成されている、構造体。
【請求項2】
前記複数の周期曲面は、それぞれ係数が乗じられた各々の前記周期曲面を表す関数の総和によって合成される、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記複数の周期曲面の合成比は、各々の前記周期曲面を表す関数に乗じられる前記係数の比によって定められる、請求項2に記載の構造体。
【請求項4】
前記周期曲面は三重周期極小曲面である、請求項1~3のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項5】
前記三重周期極小曲面は、Gyroid曲面、Schwarz・P曲面、Schwarz・D曲面、Fischer-Koch・S曲面およびLidinoid曲面のいずれか1を含む、請求項4に記載の構造体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の構造体を含む熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は構造体に関し、より詳しくは、熱交換等の用途に用いることが可能な構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ジャイロイドの周期極小曲面によって隔てられた2つの流路を有する気液分離装置が開示されている。また、特許文献2には、各種周期極小曲面によって隔てられた2つの流路を有する熱交換器が開示されている。特許文献1及び特許文献2は、それぞれ、2つの流路を隔てる隔壁に周期極小曲面を用いてその比表面積を大きくすることで、気液分離効率ないし熱交換効率の向上を図ることを意図している。
また、特許文献3には、ユニットセルの大きさが階層的に変化する三重周期極小曲面で形成された熱交換器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-155279号公報
【特許文献2】米国特許第10704841号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2020/0215480号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3に開示された構造は、いずれも、既知の周期極小曲面に基づいて形成されており、それらの熱交換特性等は概ねその周期極小曲面の形状に依存する。既知の周期極小曲面の種類には限りがあるため、既存の周期極小曲面で形成される構造が備えることができる熱交換特性等のバリエーションにも限りがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、複数の第1の流路が互いに連通して形成される第1の流路空間と、複数の第2の流路が互いに連通して形成される第2の流路空間とを互いに隔てた状態で形成する隔壁構造を含む構造体が提供される。隔壁構造は、互いに異なる複数の周期曲面が合成されて形成されている。
【0006】
本開示の他の特徴事項および利点は、例示的且つ非網羅的に与えられている以下の説明及び添付図面から理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の一実施形態に係る構造体を示す斜視図である。
図2図1に示した構造体の図示xz平面と平行なA-A線を通る平面に沿って切断した断面を示す図である。
図3図1に示した構造体の第1の流路空間に第1の流体を充填した状態を示す図である。
図4図1に示した構造体の第2の流路空間に第2の流体を充填した状態を示す図である。
図5】本開示の一実施形態に係る構造体の第1の変形例を示す斜視図である。
図6】本開示の一実施形態に係る構造体の第2の変形例を示す斜視図である。
図7】本開示の一実施形態に係る構造体の第3の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0009】
最初に、本開示の一実施形態に係る構造体1の全体構成について説明する。図1は、本開示の一実施形態に係る構造体を示す斜視図である。
【0010】
図1に示すように、本実施形態の構造体1は、互いに隔てられた2つの流路空間12,14を形成する隔壁構造10を含んでいる。本実施形態の説明においては、図1に示すように構造体1の横方向をx軸、奥行き方向をy軸、縦方向をz軸として座標系を定義する。
【0011】
隔壁構造10は、第1の流体を通す複数の第1の流路12a(図2参照)が互いに連通して形成される第1の流路空間12と、第2の流体を通す複数の第2の流路14a(図2参照)が互いに連通して形成される第2の流路空間14とを形成している。それらの2つの流路空間12,14は隔壁構造10によって互いに隔てられており、2つの流路空間12,14をそれぞれ流れる第1及び第2の流体が互いに混じることはない。本実施形態の隔壁構造10は、後述するように、それぞれ三重周期極小曲面の1つであるSchwarz・P曲面とGyroid曲面とを1:1の比率で合成して生成される周期曲面に基づいて、隔壁に所定の厚みを有するように形成されている。
【0012】
図1においては、図示と説明の明瞭のために、立方体形状の構造体1の各面において各流路空間が開放した状態で描画されているが、各流路空間は、第1及び第2の流体を構造体1内で流す方向に応じて、各面に表れる端部が閉鎖される。例えば、第1の流体を図1の構造体1内を図示左右方向(X軸方向)に流し、第2の流体を図1の構造体1内を図示上下方向(Z軸方向)に流す場合には、構造体1の図示X軸方向左側の面に表れる隔壁構造10の第1の流路空間12の各々の第1の流路12aは解放し、その他の面に表れる第1の流路12aの端部は壁面等によって閉鎖される。また、構造体1の図示Z軸方向の上下両側面に表れる隔壁構造10の第2の流路空間14の各々の第2の流路14aは解放し、その他の面に表れる各々の第2の流路14aの端部は壁面等によって閉鎖される。
【0013】
このように構成された本実施形態の構造体1によれば、図1の図示左側側面(YZ平面)から隔壁構造10の第1の流路空間12内に流入した第1の流体は、第1の流路空間12を通って、図1の図示右側側面において第1の流路空間12から外部に流出する。なお、第1の流体はこれとは逆方向に流すことも可能である。他方、図1の図示上側面(XY平面)から隔壁構造10の第2の流路空間14内に流入した第2の流体は、第2の流路空間内14を通って、図1の図示下側面において第2の流路空間14から外部に流出する。なお、第2の流体はこれとは逆方向に流すことも可能である。
【0014】
第1の流路空間12に流れる第1の流体と、第2の流路空間14を流れる第2の流体とに温度差がある場合、一方の流体が有する熱が、各流路空間12,14を隔てる隔壁構造10の壁を伝導して、他方の流体へ伝達する。これにより、一方の流体が他方の流体によって加熱され、逆に他方の流体が一方の流体によって冷却される熱交換が行われる。このように、本実施形態の構造体1は熱交換の用途として機能し得る。本例の構造体1は、例えば、各種工業用の熱交換器や、航空エンジン、発電プラント等で用いられる熱交換器にも適用可能である。
【0015】
次に、本実施形態の構造体1における各隔壁構造10について説明する。隔壁構造10は、互いに異なる複数の周期曲面を合成して生成される周期曲面に基づいて形成され、一定の厚みを占める壁によって構成することができる。その合成に用いられる周期曲面としては、例えば、三重周期極小曲面(以下、「TPMS」:Triply Periodic Minimal Surfaceとも称する。)を用いることができる。
【0016】
ここで、「極小曲面」は、その面積を局所的に最小化する表面であり、その表面は全ての点でゼロ平均曲率を有する。ゼロ平均曲率は、その表面上のすべての点で極小曲面の平均曲率がゼロであることを意味する。平均曲率は2つの主曲率の平均であり、主曲率は極小曲面の表面上の特定の点における法線曲率の最大値および最小値である。極小曲面の表面の各点の反対側には絶対値が等しく正負が反対である曲率を持つ点が存在するため、表面全体での平均曲率はゼロとなる。
【0017】
また、「三重周期極小曲面(TPMS)」は、表面が3つの異なる方向に周期的に繰り返される三重周期的な極小曲面である。三重周期最小曲面は、空間を互いに隔てられた2つの容積に分割する。互いに隔てられた2つの容積は互いに複雑に絡み合う2つの空間を形成し得るが、それらの2つの空間は互いに連通しない。三重周期極小曲面としては、例えばGyroid曲面、Schwarz・P曲面、Schwarz・D曲面、Fischer-Koch・S曲面、Lidinoid曲面が含まれるが、本実施形態において採用し得る三重周期極小曲面はこれらに限定されない。
【0018】
本実施形態で示した例では、隔壁構造10は、TPMSの一例であるSchwarz・P曲面と、同じくTPMSの一例であるGyroid曲面とを1:1の比率で合成することで生成された周期曲面に基づいて形成されている。
【0019】
ここで、Schwarz・P曲面は、下記の陰関数P(x,y,z)によって表現される。
P(x,y,z)=cos(x)+cos(y)+cos(z)
【0020】
また、Gyroid曲面は、下記の陰関数G(x,y,z)によって表現される。
G(x,y,z)=sin(x)cos(y)+sin(y)cos(z)+sin(z)cos(x)
【0021】
なお、陰関数による曲面は、三次元ユークリッド空間上の点(x,y,z)∈R上に定義された実数値を返す関数f:R→Rに対してf(x,y,z)=0を満たす点(x,y,z)の集合によって定義される。ここで、Rは実数全体の集合を示す。
【0022】
続いて、隔壁構造10に形成された第1の流路空間12及び第2の流路空間14の構成についてより詳しく説明する。図2は、図1に示した構造体の図示xz平面と平行なA-A線を通る平面に沿って切断した断面を示す図である。
【0023】
図2を参照すると、図2に示すxz平面に沿った断面においては、本実施形態の構造体1の隔壁構造10において、複数の第1の流路12aと複数の第2の流路14aとがx軸方向及びz軸方向に概ね互い違いに形成されている。これらの第1の流路12aは、互いに連通して複雑で入り組んだラビリンスを成す、第1の流体を通す第1の流路空間12を形成している。また、これらの第2の流路14aは、互いに連通して複雑で入り組んだラビリンスを成す、第2の流体を通す第2の流路空間14を形成している。
【0024】
図3図1に示した構造体の第1の流路空間に第1の流体を充填した状態を示す図であり、図4図1に示した構造体の第2の流路空間に第2の流体を充填した状態を示す図である。図3には、構造体1の隔壁構造10に形成された複数の第1の流路12aが互いに連通して形成された第1の流路空間12に第1の流体が通ることが示されている。また、図4には、構造体1の隔壁構造10に形成された複数の第2の流路14aが互いに連通して形成された第2の流路空間14に第2の流体が通ることが示されている。
【0025】
ここで、第1の周期曲面(Schwarz・P曲面)と第2の周期曲面(Gyroid曲面)とを合成して生成された周期曲面に基づいて隔壁構造10を生成する手法について説明する。
【0026】
一般に、陰関数によって表現される曲面に厚みtを持たせてシェル化させたとき、シェル化された陰関数は、
Shell(f(x,y,z),t)=|f(x,y,z)|-t
によって表現される。
【0027】
また、2以上の陰関数の合成は、それぞれ下記のように表現される。
・2つの陰関数f(x,y,z),f(x,y,z)の合成
h(x,y,z)=s(x,y,z)+s(x,y,z)
+s=1, s,s≧0
・3つの陰関数f(x,y,z),f(x,y,z),f(x,y,z)の合成
h(x,y,z)=s(x,y,z)+s(x,y,z)+s(x,y,z)
+s+s=1, s,s,s≧0
・n個の陰関数f(x,y,z),f(x,y,z),・・・,f(x,y,z)の合成
h(x,y,z)=s(x,y,z)+s(x,y,z)+・・・+s(x,y,z)
+s+・・・+s=1, s,s,・・・,s≧0
【0028】
上記各式から理解できるように、複数の周期曲面は、それぞれ係数が乗じられた各々の周期曲面を表す関数の総和によって合成される。さらに、複数の周期曲面の合成比は、各々の周期曲面を表す関数に乗じられる係数の比によって定められる。
【0029】
上記のようにn個の陰関数を合成する場合に、各々の陰関数の係数sの値をそれらの総和が1となる限りにおいて任意に調節することで、n個の異なる周期曲面を任意の比率で合成した周期曲面を形成することが可能である。本実施形態における隔壁構造10は、このようにして複数の異なる周期曲面を合成して生成された周期曲面に基づいて形成することが可能である。
【0030】
隔壁構造を構成する周期曲面の種類・形状が異なれば、隔壁構造が形成する第1及び第2の流路の形状や流路径等が異なるため、隔壁構造を例えば熱交換器に用いた場合には、熱交換特性、圧力損失特性、耐圧特性等が異なることとなる。より具体的には、周期曲面を表現する陰関数に表れるCos項とSin項との積の次元がそれに基づいて形成される隔壁構造の流路径に関係しており、周期曲面を表現する陰関数に表れるCos項とSin項との積の次数が高くなるほど流路径が小さくなる。そのため、Cos項とSin項との積の次数が低い陰関数で表現される周期曲面で構成される隔壁構造は流路径が比較的大きいことから流体流動性に優れ(圧力損失が少ない)、Cos項とSin項との積の次数が高い陰関数で表現される周期曲面で構成される隔壁構造は流路径が比較的小さいことから隣接する2つの異なる流体間の熱伝達特性に優れる(熱交換効率が高い)といった、互いに異なる特性を有する。
【0031】
本実施形態の構造体1の例では、隔壁構造10は、Cos項とSin項との積が1次式で表される周期曲面(Schwarz・P曲面)と、Cos項とSin項との積が2次式で表される周期曲面(Gyroid曲面)とを1:1の比率で合成して生成された周期曲面に基づいて形成されている。図1等を参照すると、本実施形態の隔壁構造10は、Schwarz・P曲面が成す格子状の構造を備えつつ、流路の断面形状はGyroid曲面が形成する流路の断面形状に近い形状を有していることがわかる。
【0032】
そのため、本実施形態の隔壁構造10は、1次式で表される周期曲面(Schwarz・P曲面)に基づいて形成される流路径が比較的大きいことに起因する、流体流動性に優れる(圧力損失が少ない)特性と、2次式で表される周期曲面(Gyroid曲面)に基づいて形成される流路径が比較的小さいことに起因する、隣接する2つの異なる流体間の熱伝達特性に優れる(熱交換効率が高い)特性との異なる2つの特性を合成比率に相関して備えている。したがって、本実施形態によれば、複数の異なる周期曲面を合成して生成された周期曲面に基づいて隔壁構造10を形成することにより、合成に用いた各々の周期曲面が備える特性とは異なる特性(例えば熱交換器の場合には、圧力損失、熱伝達率、耐圧、比重等の各種特性)を隔壁構造10からなる構造体1に付与することができる。
【0033】
[変形例]
次に、本実施形態の構造体1の変形例について説明する。
【0034】
<第1の変形例>
図5は、本開示の一実施形態に係る構造体の第1の変形例を示す斜視図である。
【0035】
本変形例に示す構造体1Aにおける隔壁構造20は、図1等に示した隔壁構造10と同じく、Schwarz・P曲面とGyroid曲面とを合成して生成される周期曲面に基づいて、隔壁に所定の厚みを有するように形成されている。ただし、本変形例における隔壁構造20を成す周期曲面は、Schwarz・P曲面とGyroid曲面とを3:7の比率で合成して生成されている。
【0036】
図1等に示した隔壁構造10と同様に、本変形例における隔壁構造20は、第1の流体を通す複数の第1の流路が互いに連通して形成される第1の流路空間22と、第2の流体を通す複数の第2の流路が互いに連通して形成される第2の流路空間24とを形成している。それらの2つの流路空間22,24は隔壁構造20によって互いに隔てられており、2つの流路空間22,24をそれぞれ流れる第1及び第2の流体が互いに混じることはない。隔壁構造20の各流路空間22,24の第1及び第2の流路の各面に表れる端部が、第1及び第2の流体を構造体1A内で流す方向に応じて閉鎖され得ること、及び本変形例の構造体1Aが熱交換の用途に用いることが可能なことは、構造体1に関して上述した通りである。
【0037】
図5を参照すると、本変形例の隔壁構造20は図1等に示した隔壁構造10と比較して、Schwarz・P曲面が成す格子状の構造を依然として備えつつ、流路の断面形状はGyroid曲面が形成する正弦波状の形状により近い形状を有していることがわかる。したがって本変形例の隔壁構造20は、図1等に示した隔壁構造10と比べて、2次式で表される周期曲面(Gyroid曲面)が備える特性をより強く備え得る。このように、複数の異なる周期曲面を合成する際にそれらの合成比率を変えて周期曲面を生成することにより、種々の異なる特性を呈する隔壁構造を形成することができる。
【0038】
<第2の変形例>
図6は、本開示の一実施形態に係る構造体の第2の変形例を示す斜視図である。
【0039】
本変形例に示す構造体1Bにおける隔壁構造30は、それぞれ三重周期極小曲面の1つであるGyroid曲面とSchwarz・D曲面とを1:1の比率で合成して生成される周期曲面に基づいて、隔壁に所定の厚みを有するように形成されている。本変形例の隔壁構造30は、Schwarz・D曲面が成すダイヤモンド結合形状の要素を残しつつ、流路の断面形状はGyroid曲面が形成する正弦波状の形状に近い形状を有している。
【0040】
隔壁構造30も、図1に示した隔壁構造10と同様に、第1の流体を通す複数の第1の流路が互いに連通して形成される第1の流路空間32と、第2の流体を通す複数の第2の流路が互いに連通して形成される第2の流路空間34とを形成している。それらの2つの流路空間32,34は隔壁構造30によって互いに隔てられており、2つの流路空間32,34をそれぞれ流れる第1及び第2の流体が互いに混じることはない。隔壁構造30の各流路空間32,34の第1及び第2の流路の各面に表れる端部が、第1及び第2の流体を構造体1B内で流す方向に応じて閉鎖され得ること、及び本変形例の構造体1Bが熱交換の用途に用いることが可能なことは、構造体1に関して上述した通りである。
【0041】
ここで、TPMSであるSchwarz・D曲面は下記の陰関数D(x,y,z)によって表現される。
D(x,y,z)=sin(x)sin(y)sin(z)+cos(x)cos(y)cos(z)
【0042】
本変形例における隔壁構造30は。図1等に示した隔壁構造10とは合成に用いた周期曲面の種類が異なることから、基本的な構造が隔壁構造10と相違している。また、上記の陰関数D(x,y,z)によって表現されるように、Schwarz・D曲面はCos項とSin項との積が3次式で表され、Schwarz・D曲面に基づいて形成される流路の流路径は、2次式で表されるGyroid曲面に基づいて形成される流路の流路径よりも小さい。そのため、2次式で表されるGyroid曲面と3次式で表されるSchwarz・D曲面とを合成して生成される周期曲面に基づいて形成される隔壁構造30の流路の流路径は、図1等に示した1次式で表されるSchwarz・P曲面と2次式で表されるGyroid曲面とを合成して生成される周期曲面に基づいて形成される隔壁構造10の流路の流路径に比べて概ね小さくなる。
【0043】
このように、本変形例の隔壁構造30は全体形状及び流路径が上述した隔壁構造10,20と異なるため、隔壁構造30からなる構造体1Bは、上述した隔壁構造10,20からなる構造体1,1Aとは異なる特性(例えば熱交換器の場合には、圧力損失、熱伝達率、耐圧、比重等の各種特性)を備え得る。また、本変形例の隔壁構造30を成す周期曲面は、その合成の基となるGyroid曲面及びSchwarz・D曲面のいずれとも異なるため、本変形例の構造体1Bはそれらに基づいて形成される隔壁構造からなる構造体とも異なる特性を備え得る。
【0044】
<第3の変形例>
図7は、本開示の一実施形態に係る構造体の第3の変形例を示す斜視図である。
【0045】
本変形例に示す構造体1Cにおける隔壁構造40は、それぞれ三重周期極小曲面の1つであるSchwarz・P曲面とGyroid曲面とSchwarz・D曲面とを1:1:1の比率で合成して生成される周期曲面に基づいて、隔壁に所定の厚みを有するように形成されている。本変形例の隔壁構造40は、Schwarz・P曲面が成す格子状形状の要素と、Gyroid曲面が形成する正弦波状形状の要素と、Schwarz・D曲面が成すダイヤモンド結合形状の要素とがミックスされた形状を有している。
【0046】
隔壁構造40も、図1に示した隔壁構造10と同様に、第1の流体を通す複数の第1の流路が互いに連通して形成される第1の流路空間42と、第2の流体を通す複数の第2の流路が互いに連通して形成される第2の流路空間44とを形成している。それらの2つの流路空間42,44は隔壁構造40によって互いに隔てられており、2つの流路空間42,44をそれぞれ流れる第1及び第2の流体が互いに混じることはない。隔壁構造40の各流路空間42,44の第1及び第2の流路の各面に表れる端部が、第1及び第2の流体を構造体1C内で流す方向に応じて閉鎖され得ること、及び本変形例の構造体1Cが熱交換の用途に用いることが可能なことは、構造体1に関して上述した通りである。
【0047】
本変形例の隔壁構造40も、全体形状及び流路径が上述した隔壁構造10,20,30と異なるため、隔壁構造40からなる構造体1Cは、上述した隔壁構造10,20,30からなる構造体1,1A,1Bとは異なる特性(例えば熱交換器の場合には、圧力損失、熱伝達率、耐圧、比重等の各種特性)を備え得る。また、本変形例の隔壁構造40を成す周期曲面は、その合成の基となるSchwarz・P曲面、Gyroid曲面及びSchwarz・D曲面のいずれとも異なるため、本変形例の構造体1Cはそれらに基づいて形成される隔壁構造からなる構造体とも異なる特性を備え得る。
【0048】
本実施形態及び各変形例の構造体の一部又は全部は、例えば、付加製造技術を用いて樹脂材料もしくは金属材料等によって形成することが可能である。付加製造技術としては、一例として、3D印刷技術、光硬化性樹脂を用いた光造形技術等を用いることができる。ただし、本実施形態の構造体の製造に付加製造技術を用いることは必須ではなく、構造体が他の製造技術(例えば、切削、モールド成形、射出成形、粉末圧縮成形、レーザー加工等)で製造できる形状である場合には、付加製造技術以外のこれらの製造技術を用いて製造してもよい。
【0049】
以上、開示の実施形態及び変形例を通じて本開示を説明したが、上述の実施形態及び変形例は、請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、本開示の実施形態及び変形例の中で説明されている特徴を組み合わせた形態も本開示の技術的範囲に含まれ得る。


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2022-04-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1の流路が互いに連通して形成される第1の流路空間と、複数の第2の流路が互いに連通して形成される第2の流路空間とを互いに隔てた状態で形成する隔壁構造を有する構造体