(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135294
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びその成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230921BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230921BHJP
C08K 5/521 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/04
C08K5/521
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040430
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】小俣 有輝
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002BB031
4J002BB121
4J002BC031
4J002BC061
4J002BD041
4J002BD151
4J002BF021
4J002BG061
4J002BK001
4J002BN061
4J002BN151
4J002BP031
4J002CB001
4J002CF161
4J002CG001
4J002CH071
4J002CH091
4J002CK021
4J002CL001
4J002CM041
4J002CN011
4J002CN031
4J002DA026
4J002EW047
4J002FD137
4J002FD206
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】黒鉛の配合、エラストマーの配合による難燃性の低下が抑制され、優れた難燃性を発現する難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】膨張黒鉛(B)を10質量%以上含む樹脂組成物において、該樹脂組成物中に存在する該膨張黒鉛(B)の最大粒子径が50μmを超えることを特徴とする樹脂組成物。膨張黒鉛(B)は膨張開始温度が250℃以上であることが好ましく、樹脂組成物は更にリン系難燃剤を含んでいてもよい。この樹脂組成物を成形してなる成形品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張黒鉛(B)を10質量%以上含む樹脂組成物において、該樹脂組成物中に存在する該膨張黒鉛(B)の最大粒子径が50μmを超えることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
膨張黒鉛(B)の膨張開始温度が250℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
更にリン系難燃剤を含む請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性に優れた樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器、携帯機器は、近年日常生活に欠かすことのできないものとなっているが、これらの機器には通常、高度な演算処理を実行する集積回路等(CPU)が取り入れられている。
昨今のCPUの高速化に伴い、従来よりもCPUの放熱量が増加していること、また製品設計の小型薄肉化、高密度化により、CPUと製品筐体や基盤が直接触れることで熱伝搬が高まっていることなどから、これらの機器の筐体や基盤を構成する樹脂材料にはより高度な難燃性が求められている。
従来、筺体や基盤の構成材料としての樹脂組成物として、熱伝導性や難燃性を高めるために黒鉛を配合すると共に、難燃剤を配合したものが提案されている(特許文献1,2)。
【0003】
また、筐体とCPUなどが直接触れると、外部の衝撃がそのまま伝わり破損の原因になることから、筺体や基盤には緩衝性が求められることもある。
従来、この対策としてエラストマーなどを配合して緩衝性を持たせた樹脂組成物が提案されている(特許文献3,4)。
【0004】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の樹脂組成物では、黒鉛の配合のためにむしろ難燃性が低下する場合が多い。また、特許文献3,4のように、緩衝性付与のために配合されるエラストマーは、一般的に延焼しやすいものであるため、エラストマーに起因して難燃性が低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-43949号公報
【特許文献2】特開2015-189783号公報
【特許文献3】特開2006-16587号公報
【特許文献4】特開2002-167458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであり、本発明の目的は、黒鉛の配合、エラストマーの配合による難燃性の低下が抑制され、優れた難燃性を発現する樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ね、黒鉛として膨張黒鉛を用い、樹脂組成物中の黒鉛の最大粒子径が所定値以上となるようにすることで、黒鉛を配合することによる難燃性の低下やエラストマーを含むことによる難燃性の低下を抑制することができることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0008】
[1] 膨張黒鉛(B)を10質量%以上含む樹脂組成物において、該樹脂組成物中に存在する該膨張黒鉛(B)の最大粒子径が50μmを超えることを特徴とする樹脂組成物。
【0009】
[2] 膨張黒鉛(B)の膨張開始温度が250℃以上であることを特徴とする[1]に記載の樹脂組成物。
【0010】
[3] 更にリン系難燃剤を含む[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
【0011】
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、黒鉛の配合、エラストマーの配合による難燃性の低下が抑制され、優れた難燃性を発現する樹脂組成物が提供される。
本発明の樹脂組成物は、熱伝導性の向上のために、黒鉛の配合量を多くしたり、緩衝性付与のためにエラストマーを配合しても、十分な難燃性を発現することができるため、本発明の樹脂組成物は、難燃性と共に、熱伝導性、緩衝性が要求される電子機器、携帯機器の筺体や基盤の構成材料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これらの説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定はされない。
【0014】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、膨張黒鉛(B)を10質量%以上含み、該樹脂組成物中に存在する該膨張黒鉛(B)の最大粒子径が50μmを超えることを特徴とする。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、膨張黒鉛(B)と樹脂主原料(R)を必須成分として含み、任意成分としての他の成分を含むものである。
【0015】
<樹脂主原料(R)>
本発明の樹脂組成物に含まれる樹脂主原料(R)としては、汎用プラスチック、エンジニアリングプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックなどが挙げられるが、何らこれらに特に限定されず、熱可塑性樹脂全般が使用可能である。
【0016】
汎用プラスチックの具体例として、アクリル樹脂(PMMA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリウレタン(PUR)、AS樹脂及びゴム強化樹脂などが挙げられる。
【0017】
エンジニアリングプラスチックの具体例として、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)及び環状ポリオレフィン(COP)などが挙げられる。
【0018】
スーパーエンジニアリングプラスチックの具体例として、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、非晶ポリアリレート(PAR)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド(PI)及びポリアミドイミド(PAI)などが挙げられる。
【0019】
これらの樹脂は使用用途や樹脂組成物に求められる機械物性に応じて2種以上を併用しも構わない。
これら樹脂の中でもゴム強化樹脂(S)を用いることが、以下の通り機械物性面の設計の利便性から好ましい。
また、樹脂主原料(R)は以下に示す軟質材(エラストマー)を含有してもよい。
【0020】
<ゴム強化樹脂(S)>
上記の通り、樹脂主原料(R)の中でも、ゴム強化樹脂(S)を用いた場合、硬質樹脂に由来する特性を保持しつつ、得られる成形品の耐衝撃性を高めることができる。このようなゴム強化樹脂(S)としては、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン-アクリル酸エステル(ASA)樹脂、アクリロニトリル-エチレン・α-オレフィン-スチレン(AES)樹脂、またはこれら以外のゴム質重合体を用いたものや、これらをさらに硬質樹脂に添加した熱可塑性樹脂組成物等が挙げられる。
これらゴム強化樹脂(S)は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。更にはその他の熱可塑性樹脂と併用してもよい。
【0021】
<軟質材>
本発明の樹脂主原料(R)は熱可塑性樹脂に緩衝性、柔軟性を付与させる目的で軟質材を含んでいてもよい。
軟質材としては、樹脂主原料(R)として他の樹脂との相溶性の観点などから、スチレン系熱可塑性エラストマー、スチレン-オレフィン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマー、アクリル系ブロック共重合体などが挙げられる。
【0022】
スチレン-オレフィン系熱可塑性エラストマーは、ポリスチレンからなる重合体ブロック(ハードセグメント)と、ポリオレフィンからなる重合体ブロック(ソフトセグメント)とを有するブロック共重合体またはランダム共重合体である。例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)などが挙げられる。
【0023】
アクリル系ブロック共重合体としては、アクリル酸エステル由来の構造単位を含有する重合体ブロック(b1)を1個以上、及びメタクリル酸エステル由来の構造単位を含有する重合体ブロック(b2)を1個以上有するブロック共重合体などが挙げられる。
【0024】
これらの軟質材は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0025】
樹脂主原料(R)として軟質材を用いる場合、難燃性と軟質感のバランスの観点から、樹脂組成物中の軟質材の含有量は10~80質量%特に20~40質量%とすることが好ましい。
【0026】
<膨張黒鉛(B)>
膨張黒鉛(B)は、黒鉛の結晶構造の層間が拡張される材料であり、例えば、黒鉛以外の物質が黒鉛の層間内に侵入して形成された黒鉛層間化合物である。膨張黒鉛は、例えば、黒鉛材料を酸(硫酸、硝酸等)に浸漬させることで得ることができる。膨張黒鉛は、酸処理を行って得られる膨張可能な黒鉛(Expandable graphite)を示し、膨張黒鉛を熱処理して得られる膨張化黒鉛(Expanded graphite)と区別されるが、本発明で用いる膨張黒鉛(B)は膨張可能な黒鉛(Expandable graphite)である。
【0027】
本発明で用いる膨張黒鉛(B)は鱗片状黒鉛の黒鉛層間に酸をインターカレーションしたものが好ましい。層間にインターカレーションされた酸は熱を加えることにより液体から気体化する。この際に層間を広げるように膨張し体積として200倍以上になるといわれている。
膨張黒鉛を含む樹脂組成物からなる成形品が接炎すると、延焼部が加熱されることで膨張する。この膨張部分が断熱・空気遮断層となり燃焼を阻害して難燃効果が得られると考えられる。このような現象から、例えばハロゲン系の難燃剤を使用せずとも十分な難燃効果が得られる。
【0028】
膨張黒鉛が膨張を開始する温度に特に制限は無いが、180℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、250℃以上が更に好ましく、300℃以上が特に好ましく、310℃以上がとりわけ好ましく、320℃以上が最も好ましい。膨張黒鉛(B)の膨張開始温度の上限には特に制限はないが通常400℃以下である。
膨張開始温度は酸が気化する温度であるから、熱質量分析(TGA)において連続昇温下で急激な質量現象が確認できた温度と定義できる。
【0029】
本発明の樹脂組成物では、樹脂組成物中に存在する膨張黒鉛(B)の最大粒子径の下限が50μmを超えることで良好な難燃性が得られる。樹脂組成物中の膨張黒鉛(B)の最大粒子径は好ましくは100μm以上、より好ましくは150μm以上、更に好ましくは200μm以上である。最大粒子径の上限に関しては特に制限は無いが、得られる樹脂成形品の外観等を考慮する必要が生じた場合は、800μm以下、特に500μm以下、とりわけ300μm以下であることが好ましい。
【0030】
本発明において、膨張黒鉛(B)の最大粒子径は、樹脂組成物の製造に用いられる膨張黒鉛(B)の最大粒子径ではなく、樹脂組成物中に存在する膨張黒鉛(B)の最大粒子径である。
この樹脂組成物中の膨張黒鉛(B)の最大粒子径は次の手順により測定することができる。
樹脂組成物を用いて成形された樹脂成形品を、膨張黒鉛(B)が露出するように切断する。次に、膨張黒鉛(B)の径が把握できるまで切断面を研磨もしくは更なる切削をする。そして、走査電子顕微鏡(SEM)又は光学顕微鏡を用いて切断面を観察し、観察像から任意の50個程度の膨張黒鉛(B)の径を測定して、その中で最大であった粒子径を樹脂組成物中の膨張黒鉛(B)の最大粒子径とする。
なお、樹脂配合前の膨張黒鉛に関しても、走査電子顕微鏡又は光学顕微鏡を用いて膨張黒鉛(B)の最大粒子径を測定することができる。または膨張黒鉛の製造者が提供するカタログ値などを参照することもできる。
【0031】
樹脂組成物中の膨張黒鉛(B)の最大粒子径が50μmを超える樹脂組成物を製造する方法としては、以下のような工夫を行う方法が挙げられる。
(1) 膨張黒鉛(B)として、平均粒子径や最大粒子径の大きいもの、例えば好ましくは平均粒子径50μm以上、最大粒子径150μm以上、より好ましくは平均粒子径200μm以上、最大粒子径200μm以上のものを用い、これを樹脂主原料(R)に配合して樹脂組成物を製造する。
(2) 樹脂組成物の製造工程において、膨張黒鉛(B)が過度に切断されたり粉砕されたりしないように、混練条件を緩和する。例えば、混練時の温度を若干高くして混練中の樹脂主原料(R)の粘度を下げる。或いは、押出機による溶融混練時、膨張黒鉛(B)はサイドフィードして過度な剪断力がかからないようにする。
(3) 溶融混練時の粘度の低い樹脂主原料(R)を用いる。後述のリン系難燃剤を配合することでも樹脂主原料(R)の溶融混練時の粘度を低下させる効果が期待できる。
【0032】
本発明の膨張黒鉛(B)の樹脂組成物中の含有量は、10質量%以上である。樹脂組成物中の膨張黒鉛(B)の含有量が10質量%以上であれば、所望の難燃性と熱伝導性を得ることができる。膨張黒鉛(B)の含有量の上限に関しては特に制限は無いが、成形加工性、樹脂成形品の外観等を考慮した場合、30質量%未満が好ましく、23質量%未満がより好ましく、13質量%未満が更に好ましい。
【0033】
<リン系難燃剤>
本発明の樹脂組成物は難燃剤を含むことで更なる難燃性の向上効果を得ることができる。
用いる難燃剤に特に制限は無いが、非ハロゲン系の難燃剤が近年の環境問題の観点から好ましい。非ハロゲン系難燃剤としてはリン系難燃剤が挙げられ、例えば、モノホスフェート化合物、ホスフェートオリゴマー化合物、ホスホネートオリゴマー化合物、ホスホニトリルオリゴマー化合物、ホスホン酸アミド化合物、およびホスファゼン化合物などがある。
樹脂組成物がリン系難燃剤を含む場合、その含有量は3~30質量%が好ましく、3~25質量%以上がより好ましく、3~20質量%が更に好ましく、3~13質量%が特に好ましい。
膨張黒鉛(B)を含有する本発明の樹脂組成物にリン系難燃剤を配合する場合、比較的少ない配合量でも目的とする難燃性が得られることから、耐熱性の低下などの弊害を抑制できる。
【0034】
<他の成分>
本発明の樹脂組成物が含有し得る他の成分としては、熱可塑性樹脂組成物に通常用いられる各種添加剤が挙げられる。
添加剤としては、例えば公知の酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、安定剤、離型剤、着色剤(顔料、染料等)、炭素繊維、ガラス繊維、ウォラストナイト、炭酸カルシウム、シリカ、タルク等の充填材、臭素系難燃剤、三酸化アンチモン等の難燃助剤、フッ素樹脂等のドリップ防止剤、抗菌剤、防カビ剤、シリコーンオイル、カップリング剤などが挙げられる。
これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の樹脂組成物がこれらの添加剤を含有する場合、その含有量は樹脂組成物100質量%中に20質量%以下、特に5質量%以下であることが好ましい。
【0035】
なお、本発明で用いられる必須成分や任意成分には、何れも、品質に問題がなければ、重合工程や加工工程、成形工程等の工程回収品、市場から回収されたリサイクル品を用いることができる。
【0036】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物は膨張黒鉛(B)と樹脂主原料(R)を必須成分として含み、必要に応じて配合されるリン系難燃剤、その他の成分を混合、混練して製造される。各成分を混合、混練する方法は特に制限はなく、一般的な混合、混練方法を何れも採用することができ、例えば、押出機、バンバリーミキサー、混練ロール等にて混練した後ペレタイザー等で切断しペレット化する方法等が挙げられる。ただし、この混練に際しては、必要に応じて、膨張黒鉛(B)が切断又は粉砕されないように、前述の工夫を施すことが好ましい。
また、押出機で混練する際、一般的には異物の除去としてメッシュスクリーンが設置されるが、最大粒子径の大きい膨張黒鉛(B)が捕捉されないように、本発明においては非設置で混練することが好ましい。
【0037】
「成形品」
本発明の樹脂組成物を成形することにより本発明の成形品を得ることができる。
本発明の成形品は、本発明の樹脂組成物を公知の成形方法によって成形加工して得られる。成形方法としては、例えば、射出成形法、プレス成形法、押出成形法、真空成形法、ブロー成形法等が挙げられる。
【実施例0038】
本発明をさらに具体的に説明するため、以下に実施例及び比較例を挙げて説明するが、これら実施例は本発明を制限するものではない。
【0039】
[測定・評価方法]
以下の実施例における各種の測定・評価方法は以下の通りである。
【0040】
<燃焼性>
UL94規格(20mm垂直燃焼試験)に準拠して試験片(厚さ1.0mm又は2.0mm)を準備し、UL94規格の規定によるランクV-0、V-1に該当するかどうかを判定した。
【0041】
<樹脂組成物中の膨張黒鉛の最大粒子径>
樹脂成形品を、膨張黒鉛が露出するように切断した。次に、膨張黒鉛の径が把握できるまで切断面を更に切削した。この表面を光学顕微鏡を用いて観察し、観察像から任意の50個の膨張黒鉛の径を測定して、その中で最大であった粒子径を樹脂組成物中の最大粒子径とした。
【0042】
[樹脂主原料(R)]
以下の実施例及び比較例では、樹脂主原料(R)として以下のものを用いた。
ASA:テクノUMG(株)製 ASA樹脂 AXSレジン A600N(商品名)
AS:テクノUMG(株)製 AS樹脂 ASレジン S100N(製品名)
PC:帝人(株)製 ポリカーボネート樹脂 パンライトL-1225WX(製品名)
【0043】
[膨張黒鉛(B)]
以下の実施例及び比較例では、膨張黒鉛(B)として以下のものを用いた。
B-1:富士黒鉛工業(株)製 EXP50S300(商品名)
平均粒子径:300μm、膨張開始温度 330℃
B-2:NeoGraf Solutions, LLC製 220-50N(商品名)
平均粒子径:300μm、膨張開始温度 220℃
B-3:富士黒鉛工業(株)製 EXP―200S(商品名)
平均粒子径:70μm、膨張開始温度 190℃
b-4:膨張黒鉛B-3をロールミルで微細に粉砕したもの。
【0044】
[難燃剤]
以下の実施例及び比較例では、難燃剤として以下のものを用いた。
リン系難燃剤:大八化学工業(株)製 芳香族縮合リン酸エステルPX-200(商品名)
【0045】
[軟質材]
以下の実施例及び比較例では、軟質材としては以下のものを用いた。
SEBS:JSR(株)製 SEBS DYNARON 8300P(製品名)
【0046】
[実施例1~7及び比較例1~6]
表1に示す割合(質量部)で各原料を混合し、混合物を32mm軸押出機((株)プラスチック工学研究所社製)を用いて、樹脂温度180℃の条件で溶融混練後ペレット化し、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。尚、膨張黒鉛(B)はサイドフィードから供給し、スクリーンメッシュは設置しなかった。
得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを東芝機械エンジニアリング(株)社製EC40N-1Aを用いて成形温度180℃で射出成形して、前述の方法で樹脂成形品中の膨張黒鉛(B)の最大粒子径を求めた。
また、UL94規格(20mm垂直燃焼試験)に準拠して試験片(厚さ1.0mm又は2.0mm)を成形し、燃焼性の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0047】
【0048】
表1より、樹脂組成物中の膨張黒鉛(B)の最大粒子径が50μmを超える実施例1~7では、2mm厚みの試験片において燃焼性V-1以上を、また1mm厚みの試験片においてV-0以上の優れた難燃性を得ることができることが分かる。
これに対して、樹脂組成物中の膨張黒鉛(B)の最大粒子径が50μm以下の比較例1や、膨張黒鉛(B)の含有量が少ない比較例2~5や、膨張黒鉛(B)を含まない比較例6では難燃性に劣る。