IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

特開2023-135310半芳香族ポリアミド樹脂組成物、およびその成形体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135310
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】半芳香族ポリアミド樹脂組成物、およびその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/06 20060101AFI20230921BHJP
   C08L 25/16 20060101ALI20230921BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
C08L77/06
C08L25/16
C08L9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040456
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土井 悠
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 功
(72)【発明者】
【氏名】植田 浩佑
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC083
4J002BB212
4J002CL031
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】成形体の引張破断強度および曲げ強度の低下を抑制しつつ、十分に高い破断伸びを有する成形体を得ることができ、かつ高温下での高い流動性を有する半芳香族ポリアミド樹脂組成物およびその成形体を提供すること。
【解決手段】上記半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド樹脂(A)と、のオレフィン重合体(B1)と、スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)と、を含む。前記オレフィン重合体(B1)の前記不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位の平均含有量は、0.01質量%以上5.0質量%以下であり、前記オレフィン重合体(B2)は、前記オレフィン重合体(B1)と前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の合計含有量は、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)、前記オレフィン重合体(B1)および前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の合計質量に対して10質量%以上30質量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査型熱量計(DSC)により測定される融点が280℃以上330℃以下である半芳香族ポリアミド樹脂(A)と、
オレフィン重合体(B1)と、
スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)と、
を含む半芳香族ポリアミド樹脂組成物であって、
前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来する成分単位と、ジアミンに由来する成分単位とを含み、
前記ジカルボン酸に由来する成分単位は、前記ジカルボン酸に由来する成分単位の総モル数に対して、45モル%以上のテレフタル酸に由来する成分単位を含み、
前記ジアミンに由来する成分単位は、前記ジアミンに由来する成分単位の総モル数に対して、50モル%以上100モル%以下である炭素原子数4以上18以下の直鎖状アルキレンジアミンに由来する成分単位と、0モル%以上50モル%以下である炭素原子数4以上18以下の分岐状アルキレンジアミンに由来する成分単位とを含み、
前記オレフィン重合体(B1)は、
不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性された、変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)を含み、
前記オレフィン重合体(B1)の前記不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位の平均含有量は、0.01質量%以上5.0質量%以下であり、
前記オレフィン重合体(B1)と前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の合計含有量は、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)、前記オレフィン重合体(B1)および前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の合計質量に対して10質量%以上30質量%以下である、
半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)は、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)、およびスチレン-エチレン/プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)からなる群より選ばれるスチレン系熱可塑性エラストマーである、請求項1に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記オレフィン重合体(B1)と前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の含有質量比(B1/B2)は、0.01<B1/B2<99を満たす、請求項1または2に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)の前記不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位の含有量は、0.05質量%以上5.0質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)は、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性された変性エラストマー(B2-1)を含み、
前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の前記不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位の平均含有量は、0.05質量%以上5.0質量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)の密度は、0.800g/cm以上0.890g/cm未満である、請求項1~5のいずれか一項に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記オレフィン重合体(B1)と前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)との含有質量比(B1/B2)は、0.08<B1/B2<8.0を満たす、請求項1~6のいずれか一項に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
前記ジアミンに由来する成分単位は、
前記ジアミンに由来する成分単位の総モル数に対して、85モル%以上100モル%以下である前記炭素原子数4以上18以下の直鎖状アルキレンジアミンに由来する成分単位と、0モル%以上15モル%以下である前記炭素原子数4以上18以下の分岐状アルキレンジアミンに由来する成分単位とを含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
前記炭素原子数4以上18以下の直鎖状アルキレンジアミンは、1,6-ジアミノヘキサンである、
請求項1~8のいずれか一項に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
無機充填材(C)をさらに含む、
請求項1~9のいずれか一項に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を成形してなる、
成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半芳香族ポリアミド樹脂組成物、およびその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、成形材料として、種々の半芳香族ポリアミド樹脂組成物が知られている。例えば特許文献1には、<A>テレフタル酸およびヘキサメチレンジアミンから誘導された単位40乃至90重量%と、<B>ε-カプロラクタムから誘導された単位0乃至50重量%と、<C>アジピン酸およびヘキサメチレンジアミンから誘導された単位0乃至60重量%とを含有し、上記<B>および/または<C>が全体のうち少なくとも10重量%となり、コポリアミドが0.5重量%より少ないトリアミン分を含有する部分芳香族(半芳香族)コポリアミドが開示されている。特許文献1によれば、上記部分芳香族コポリアミドは、機械的強度を維持しつつ、加熱成形性を良好にすることができたとされている。
【0003】
また、特許文献2には、ヘキサンメチレンテレフタルアミド単位を所定の分量含む結晶性コポリアミドに、ポリオレフィン系エラストマーおよびジエン系エラストマーから選択される変性または未変性のエラストマーを所定の分量含ませたポリアミド樹脂組成物が開示されている。特許文献2によれば、上記ポリアミド樹脂組成物は、機械的特性、耐熱性および成形性に優れているとされている。
【0004】
これらの文献に記載された半芳香族ポリアミド樹脂は、金属より格段に軽量であり、優れた機械的強度、耐熱性を有することから、例えば、自動車用部品を構成する樹脂材料として好適に用いられ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2-41318号公報
【特許文献2】特開平5-98152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、高い機械的強度を有するものの、柔軟性が低く、破断伸びが低いという問題があった。破断伸びが低いと、成形体を組み付けする際などに破損しやすい。これに対し、特許文献2に記載のようにエラストマーを配合すると、成形体の破断伸びをある程度高めることはできるものの、より十分に破断伸びを高めることはできなかった。また、非芳香族ポリアミドを用いたポリアミド樹脂組成物も、成形体の破断伸びが高いという特徴を有する。しかし、非芳香族ポリアミド樹脂組成物には、成型時の高温下における流動性が低いという問題があった。上記流動性が低いと、成形条件や製品形状の制約が大きくなってしまう。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、より十分に高い破断伸びを有する成形体を得ることができ、かつ高温下での高い流動性を有する半芳香族ポリアミド樹脂組成物およびその成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の半芳香族ポリアミド樹脂組成物およびその成形体に関する。
【0009】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、示差走査型熱量計(DSC)により測定される融点が280℃以上330℃以下である半芳香族ポリアミド樹脂(A)と、オレフィン重合体(B1)と、スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)と、を含む半芳香族ポリアミド樹脂組成物であって、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来する成分単位と、ジアミンに由来する成分単位とを含み、前記ジカルボン酸に由来する成分単位は、前記ジカルボン酸に由来する成分単位の総モル数に対して、45モル%以上のテレフタル酸に由来する成分単位を含み、前記ジアミンに由来する成分単位は、前記ジアミンに由来する成分単位の総モル数に対して、50モル%以上100モル%以下である炭素原子数4以上18以下の直鎖状アルキレンジアミンに由来する成分単位と、0モル%以上50モル%以下である炭素原子数4以上18以下の分岐状アルキレンジアミンに由来する成分単位とを含み、前記オレフィン重合体(B1)は、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性された、変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)を含み、前記オレフィン重合体(B1)の前記不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位の平均含有量は、0.01質量%以上5.0質量%以下であり、前記オレフィン重合体(B1)と前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の合計含有量は、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)、前記オレフィン重合体(B1)および前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の合計質量に対して10質量%以上30質量%以下である。
【0010】
本発明の成形体は、上記半芳香族ポリアミド樹脂組成物を成形してなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より十分に高い破断伸びを有する成形体を得ることができ、かつ高温下での高い流動性を有する半芳香族ポリアミド樹脂組成物およびその成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
【0013】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値および上限値として含む範囲を意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよい。
【0014】
変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)を含むオレフィン重合体(B1)は、ポリアミド樹脂組成物に用いることで成形体の破断伸びを高める。しかし、本発明者らの知見によれば、オレフィン重合体(B1)のみを用いただけでは、成形体の破断伸びを十分に高めることはできなかった。
【0015】
これに対して本発明者らは、変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)を含むオレフィン重合体(B1)と、スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)とを組み合わせたところ、オレフィン重合体(B1)またはスチレン系熱可塑性エラストマー(B2)を単独で使用した場合よりも、成形体の破断伸びが高くなることを見出した。この理由は明らかではないが、以下のように考えられる。
【0016】
上述のように、変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)を含むオレフィン重合体(B1)を用いることで、成形体の破断伸びを高めることができる。そして、スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)にも成形体の破断伸びを高める効果がある。これらを併用することで、オレフィン重合体(B1)の相の中に、スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の相が分散した構造が形成され、または、スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の相の周りに、オレフィン重合体(B1)の相が分散した構造が形成されると考えられる。そして、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の存在下では、これらの構造が安定して存在しやすくなると考えられる。これにより、オレフィン重合体(B1)またはスチレン系熱可塑性エラストマー(B2)を単独で使用した場合よりも、両者が持つ破断伸びを高める効果が十分に高まり、成形体の破断伸びが十分に高くなると考えられる。
【0017】
さらに、本発明では、半芳香族ポリアミド樹脂(A)をこれらと併用することで、ポリアミド樹脂組成物の高温下における流動性を高めることができる。また、弾力性に優れるスチレン系熱可塑性エラストマー(B2)を、オレフィン重合体(B1)と併用することで、成形体の引張破断強度および曲げ強度もより高めることができる。
【0018】
以下、本発明の構成について説明する。
【0019】
1.半芳香族ポリアミド樹脂組成物
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド樹脂(A)と、オレフィン重合体(B1)と、スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)とを少なくとも含む。
【0020】
1-1.半芳香族ポリアミド樹脂(A)
半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来する成分単位[a]と、ジアミンに由来する成分単位[b]とを含む。
【0021】
(ジカルボン酸に由来する成分単位[a])
ジカルボン酸に由来する成分単位[a]は、テレフタル酸に由来する成分単位を含む。テレフタル酸に由来する成分単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位[a]の総モル数に対して、45モル%以上であり、50モル%以上90モル%以下が好ましく、50モル%以上80モル%以下がより好ましい。
【0022】
ジカルボン酸に由来する成分単位[a]は、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分に由来する単位(a-2)や炭素原子数4以上20以下の脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位(a-3)をさらに含んでもよい。
【0023】
テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸の例には、イソフタル酸、2-メチルテレフタル酸およびナフタレンジカルボン酸などが含まれる。これらの中でも、イソフタル酸が好ましい。
【0024】
脂肪族ジカルボン酸は、例えば、炭素原子数4以上20以下のアルキレン基を有する脂肪族ジカルボン酸である。上記炭素原子数は、6以上12以下であることが好ましい。そのような脂肪族ジカルボン酸の例には、アジピン酸、アゼライン酸およびセバシン酸が含まれる。これらの中でも、アジピン酸およびセバシン酸が好ましい。
【0025】
テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分に由来する単位(a-2)と炭素原子数4以上20以下の脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位(a-3)の合計含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位[a]の総モル数に対して、0モル%以上55モル%以下であり、10モル%以上50モル%以下であることが好ましく、20モル%以上50モル%以下であることがより好ましい。
【0026】
例えば、ジカルボン酸に由来する成分単位[a]が、少量の脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位(a-3)を含有することにより、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の成形性をさらに向上させることができる。特に、脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位の含有量が55モル%以下であり、テレフタル酸に由来する成分単位の含有量が45モル%以上である半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、吸水率が低く、融点も280℃以上となりやすい。このような半芳香族ポリアミド樹脂(A)から得られた成形体は、吸水による寸法変化が少なく、耐熱性も十分に高めることができる。
【0027】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、上記成分単位以外に、少量のトリメリット酸あるいはピロメリット酸のような三塩基性以上の多価カルボン酸に由来する成分単位をさらに含有していてもよい。このような多価カルボン酸に由来する成分単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位[a]の総モル数に対して、通常、0モル%以上5モル%以下とすることができる。
【0028】
(ジアミンに由来する成分単位[b])
ジアミンに由来する成分単位[b]は、炭素原子数4以上18以下の直鎖状アルキレンジアミンに由来する成分単位(b-1)を含む。
【0029】
直鎖状アルキレンジアミンの例には、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカンおよび1,12-ジアミノドデカンが含まれる。これらの中でも、1,6-ジアミノヘキサン、1,8-ジアミノオクタン、1,10-ジアミノデカンおよび1,12-ジアミノドデカンが好ましく、1,6-ジアミノヘキサンがより好ましい。
【0030】
炭素原子数4以上18以下の直鎖状アルキレンジアミンに由来する成分単位(b-1)の含有量は、ジアミンに由来する成分単位[b]の総モル数に対して、50モル%以上100モル%以下であり、85モル%以上100モル%以下であることが好ましく、90モル%以上100モル%以下であることがより好ましい。
【0031】
ジアミンに由来する成分単位[b]は、炭素原子数4以上18以下の分岐状アルキレンジアミンに由来する成分単位(b-2)をさらに含んでいても良い。なお、分岐状アルキレンジアミンの炭素原子数は、特に限定しない限り、主鎖アルキレン基の炭素原子数と側鎖アルキル基の炭素原子数との合計である。
【0032】
炭素原子数4以上18以下の分岐状アルキレンジアミンの例には、1-ブチル-1,2-ジアミノ-エタン、1,1-ジメチル-1,4-ジアミノ-ブタン、1-エチル-1,4-ジアミノ-ブタン、1,2-ジメチル-1,4-ジアミノ-ブタン、1,3-ジメチル-1,4-ジアミノ-ブタン、1,4-ジメチル-1,4-ジアミノ-ブタン、2,3-ジメチル-1,4-ジアミノ-ブタン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、2,5-ジメチル-1,6-ジアミノ-ヘキサン、2,4-ジメチル-1,6-ジアミノ-ヘキサン、3,3-ジメチル-1,6-ジアミノ-ヘキサン、2,2-ジメチル-1,6-ジアミノ-ヘキサン、2,2,4-トリメチル-1,6-ジアミノ-ヘキサン、2,4,4-トリメチル-1,6-ジアミノ-ヘキサン、2,4-ジエチル-1,6-ジアミノ-ヘキサン、2,3-ジメチル-1,7-ジアミノ-ヘプタン、2,4-ジメチル-1,7-ジアミノ-ヘプタン、2,5-ジメチル-1,7-ジアミノ-ヘプタン、2,2-ジメチル-1,7-ジアミノ-ヘプタン、2-メチル-4-エチル-1,7-ジアミノ-ヘプタン、2-エチル-4-メチル-1,7-ジアミノ-ヘプタン、2,2,5,5-テトラメチル-1,7-ジアミノ-ヘプタン、3-イソプロピル-1,7-ジアミノ-ヘプタン、3-イソオクチル-1,7-ジアミノ-ヘプタン、2-メチル-1,8-ジアミノオクタン、1,3-ジメチル-1,8-ジアミノ-オクタン、1,4-ジメチル-1,8-ジアミノ-オクタン、2,4-ジメチル-1,8-ジアミノ-オクタン、3,4-ジメチル-1,8-ジアミノ-オクタン、4,5-ジメチル-1,8-ジアミノ-オクタン、2,2-ジメチル-1,8-ジアミノ-オクタン、3,3-ジメチル-1,8-ジアミノ-オクタン、4,4-ジメチル-1,8-ジアミノ-オクタン、3,3,5-トリメチル-1,8-ジアミノ-オクタン、2,4-ジエチル-1,8-ジアミノ-オクタン、および5-メチル-1,9-ジアミノ-ノナンが含まれる。これらの中でも、炭素原子数1~2の側鎖アルキル基を1~2個有すると共に、主鎖の炭素原子数が4~10である分岐状アルキルジアミンが好ましく、2-メチル-1,5-ジアミノペンタンがより好ましい。
【0033】
炭素原子数4以上18以下の分岐状アルキレンジアミンに由来する成分単位(b-2)の含有量は、0モル%以上50モル%以下であり、0モル%以上15モル%以下であることが好ましく、0モル%以上10モル%以下であることがより好ましい。
【0034】
このように、ジアミンに由来する成分単位[b]が、二種類の特定のアルキレンジアミンに由来する成分単位を上記のような量で含有することにより、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点を、成形時に半芳香族ポリアミド樹脂組成物がガス焼けを引き起こさない程度にまで低下させることができる。また、成形時の半芳香族ポリアミド樹脂組成物の溶融流動性を高めたり、成形体の高温下でのクリープ耐性を高めたりすることができる。
【0035】
ジアミンに由来する成分単位[b]が、炭素原子数4以上18以下の直鎖状アルキレンジアミンに由来する成分単位(b-1)と炭素原子数4以上18以下の分岐状アルキレンジアミンに由来する成分単位(b-2)の両方を含む場合、炭素原子数4以上18以下の直鎖状アルキレンジアミンに由来する成分単位(b-1)の含有量が99モル%以下であると、成形時の溶融流動性をより高めることができる。また、炭素原子数4~18の分岐状アルキレンジアミンに由来する成分単位(b-2)の含有量が50モル%以下であると、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の結晶化速度が遅くなりにくく、耐熱性が十分になりやすい。
【0036】
ジカルボン酸に由来する成分単位[a]と、ジアミンに由来する成分単位[b]とで構成される繰り返し単位の例には、下記式[I-a]で表される繰り返し単位が含まれる。下記式中、Rは、炭素原子数4以上18以下のアルキレン基である。
【化1】
【0037】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)を構成する繰り返し単位の全部が上記[I-a]で表される繰り返し単位である必要はなく、上記のようなテレフタル酸に由来する成分単位(a-1)の一部が他のジカルボン酸成分で置き換わった繰り返し単位をさらに含んでいてもよい。
【0038】
テレフタル酸成分以外のジカルボン酸に由来する成分単位の例には、上述の通り、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位(a-2)や脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位(a-3)が含まれる。
【0039】
テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位(a-2)を有する繰り返し単位は、イソフタル酸に由来する成分単位を有する繰り返し単位であることが好ましく、下記式[I-b]で表すことができる。下記式中、Rは、上述の通りである。
【化2】
【0040】
脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位(a-3)を有する繰り返し単位は、下記式[II]で表すことができる。下記式中、Rは、上述の通りであり、nは、通常4以上20以下の整数を表し、6以上12以下の整数であることが好ましい。
【化3】
【0041】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)を構成する繰り返し単位は、ジアミンに由来する成分単位[b]として炭素原子数4以上18以下の直鎖状アルキレンジアミンに由来する成分単位(b-1)と炭素原子数4以上18以下の分岐状アルキレンジアミンに由来する成分単位(b-2)とを有してもよい。このとき、分岐状アルキルジアミンに由来する成分単位を有する繰り返し単位は、2-メチル-1,5-ジアミノペンタンに由来する成分単位を有する繰り返し単位であることが好ましく、下記式[III]で表すことができる。下記式中、Rは、その45モル%以上100モル%以下がp-フェニレン基であるという条件下で、p-フェニレン基、m-フェニレン基およびアルキレン基などの2価の炭化水素基である。
【化4】
【0042】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の、濃硫酸中25℃の温度で測定される極限粘度[η]は、通常は、0.5dl/g以上3.0dl/g以下であり、0.5dl/g以上2.8dl/g以下であることが好ましく、0.6dl/g以上2.5dl/g以下であることがより好ましい。
【0043】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の極限粘度[η]は、以下のようにして測定することができる。半芳香族ポリアミド樹脂(A)0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解させて、試料溶液とする。得られた溶液の、25℃±0.05℃の条件下での流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して測定し、下記式に基づき算出する。
[η]=ηSP/(C*(1+0.205ηSP))
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
ηSP=(t-t)/t
【0044】
また、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点は、多くの場合、330℃を超えない。即ち、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点は、通常は、280℃以上330℃以下であり、290℃以上305℃以下であることが好ましい。このような半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、耐熱性が特に優れていると共に、吸水率が低く、成形体のアニールによる後結晶化が少ない。
【0045】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度は、通常は80℃以上であり、90℃以上150℃以下であることが好ましい。
【0046】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)は、例えば、示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル社製)を用いて測定することができる。
【0047】
具体的には、約5mgの半芳香族ポリアミド樹脂(A)を測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで350℃まで加熱する。樹脂を完全融解させるために、350℃で3分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却する。30℃で5分間置いた後、10℃/minで350℃まで2度目の加熱を行う。この2度目の加熱における吸熱ピークの温度(℃)を結晶性ポリアミド樹脂の融点(Tm)とし、ガラス転移に相当する変位点をガラス転移温度(Tg)とする。
【0048】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。例えば、ジカルボン酸に由来する成分単位[a]として、テレフタル酸に由来する成分単位(a-1)を含み、それ以外の成分単位(a-2)または(a-3)を含まない半芳香族ポリアミドと、テレフタル酸に由来する成分単位(a-1)とそれ以外の成分単位(a-2)または(a-3)とを含む半芳香族ポリアミド樹脂とを組み合わせてもよい。
【0049】
また、半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、ジアミンに由来する成分単位[b]として、直鎖状アルキレンジアミンに由来する成分単位(b-1)を含み、分岐状アルキレンジアミンに由来する成分単位(b-2)を含まない半芳香族ポリアミド(A1)と、直鎖状アルキレンジアミンに由来する成分単位(b-1)と分岐状アルキレンジアミンに由来する成分単位(b-2)とを含む半芳香族ポリアミド樹脂(A2)とを組み合わせたものでもよい。これらの含有比(A2/A1)は、特に制限されないが、例えば0/100~100/0(モル比)、好ましくは50/50~100/0(質量比)とすることができる。
【0050】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸成分とジアミン成分との重縮合により製造することができる。具体的には、半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、テレフタル酸を含むジカルボン酸成分と、直鎖状アルキレンジアミンを含むジアミン成分とを水性媒体中に配合し、次亜リン酸ナトリウムなどの触媒の存在下に、加圧しながら加熱してポリアミド前駆体を製造し、次いでこのポリアミド前駆体を溶融混練することにより製造することができる。なお、ポリアミド前駆体を製造する際には、安息香酸のような分子量調整剤を配合することもできる。
【0051】
1-2.オレフィン重合体(B1)
オレフィン重合体(B1)は、変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)を含む。
【0052】
1-2-1.変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)
変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)は、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたエチレン・α-オレフィン共重合体である。すなわち、変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)は、不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位を含む。変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)の変性部位(不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位)は、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の分子末端基(例えばアミノ基)と相互作用しやすいため、両者は相溶性が良好である。
【0053】
不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位は、カルボン酸基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基およびケトン基などのヘテロ原子を含む官能基を有する。中でも、不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位は、カルボン酸基を有することが好ましく、無水マレイン酸基であることがより好ましい。
【0054】
変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)の不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位の含有量(変性量)は、オレフィン重合体(B1)の不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位の平均含有量(平均変性量)が後述する範囲となるように設定されればよく、変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)に対して、0.05質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。変性量が0.05質量%以上であると、半芳香族ポリアミド樹脂(A)と十分に相互作用しうるので、相溶性を高めることができる。また、5.0質量%以下であると、相互作用が過剰となることによる溶融粘度の過剰な増大を抑制して高温下の流動性が低下しにくくなる。同様の観点から、変性量は、変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)に対して0.1質量%以上3.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上2質量%以下であることがさらに好ましい。
【0055】
変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)の不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位の含有量は、変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)調製時の仕込み比から算出するか、または、NMR法で測定することができる。
【0056】
H-NMR測定の場合、例えば、核磁気共鳴装置(日本電子(株)製ECX400型)を用い、溶媒は重水素化オルトジクロロベンゼンとし、試料濃度は20mg/0.6mL、測定温度は120℃、観測核はH(400MHz)、シーケンスはシングルパルス、パルス幅は5.12μ秒(45°パルス)、繰り返し時間は7.0秒、積算回数は500回以上とする条件である。基準のケミカルシフトは、テトラメチルシランの水素を0ppmとするが、他にも、重水素化オルトジクロロベンゼンの残存水素由来のピークを7.10ppmとしてケミカルシフトの基準値とすることでも同様の結果を得ることができる。官能基含有化合物由来のHなどのピークは、常法によりアサインしうる。
【0057】
13C-NMR測定の場合、例えば、測定装置として核磁気共鳴装置(日本電子(株)製ECP500型)を用い、溶媒としてオルトジクロロベンゼン/重ベンゼン(80/20容量%)混合溶媒、測定温度は120℃、観測核は13C(125MHz)、シングルパルスプロトンデカップリング、45°パルス、繰り返し時間は5.5秒、積算回数は1万回以上、27.50ppmをケミカルシフトの基準値とする条件である。各種シグナルのアサインは常法を基にして行い、シグナル強度の積算値を基に定量を行うことができる。
【0058】
変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)のJIS K7112:1999に準拠して測定される密度は、0.800g/cm以上0.890g/cm未満であることが好ましい。変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)の密度が0.800g/cm以上であると、得られる成形体の強度が損なわれにくく、0.890g/cm未満であると、得られる成形体に適度な柔軟性を付与し、破断伸びを高めうる。変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)の密度は、同様の観点から、0.830g/cm以上0.890g/cm未満であることがより好ましく、0.850g/cm以上0.890g/cm未満であることがさらに好ましく、0.860g/cm以上0.890g/cm未満であることが最も好ましい。密度は、原料であるエチレン・α-オレフィン共重合体の合成時のエチレンやα-オレフィンの組成や重合温度、水素濃度などによって調整できる。
【0059】
変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)のMFR(Melt Flow Rate)は、ASTM D1238による190℃、2.16kg荷重における測定値が、0.05g/10分以上であることが好ましい。上記MFRが、0.05g/10分以上であると、半芳香族ポリアミド樹脂組成物の高温下での流動性をより高めることができる。上記MFRの上限値は、特に限定されないが、20g/10分以下であることが好ましい。
【0060】
変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)は、上述の通り、原料としてのエチレン・α-オレフィン共重合体を、不飽和カルボン酸またはその誘導体でグラフト変性させて得られる。
【0061】
(エチレン・α-オレフィン共重合体)
原料としてのエチレン・α-オレフィン共重合体は、エチレンと炭素原子数3以上20以下のα-オレフィンとの共重合体とすることができる。エチレン・α-オレフィン共重合体における、エチレンに由来する成分単位の含有量は、例えば、70モル%以上99.5モル%以下であり、80モル%以上99モル%以下であることが好ましい。
【0062】
α-オレフィンの例には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセンなどが含まれる。これらの中でも、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンが好ましい。これらのα-オレフィンは、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。エチレン・α-オレフィン共重合体における、α-オレフィンに由来する成分単位の含有量は、0.5モル%以上30モル%以上であり、1モル%以上20モル%以下であることが好ましい。
【0063】
(不飽和カルボン酸またはその誘導体)
不飽和カルボン酸の例には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸が含まれる。不飽和カルボン酸の誘導体の例には、酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩が含まれ、具体的には、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジエチルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸-N-モノエチルアミド、マレイン酸-N,N-ジエチルアミド、マレイン酸-N-モノブチルアミド、マレイン酸-N,N-ジブチルアミド、フマル酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸-N-モノブチルアミド、フマル酸-N,N-ジブチルアミド、マレイミド、N-ブチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウムなどが含まれる。これらの中でも、無水マレイン酸が最も好ましい。
【0064】
(グラフト変性)
グラフト変性は、従来公知の種々の方法で行うことができる。例えば、エチレン・α-オレフィン共重合体を押出機を用いて溶融させ、グラフトモノマーを添加してグラフト共重合させる溶融変性法で行ってもよいし、エチレン・α-オレフィン共重合体を溶媒に溶解させ、グラフトモノマーを添加してグラフト共重合させる溶液変性法で行ってもよい。いずれの場合にも、グラフトモノマーを効率よくグラフト共重合させるためには、ラジカル開始剤の存在下で反応を行うことが好ましい。
【0065】
ラジカル開始剤の例には、有機ペルオキシド、有機ペルエステルなどが含まれ、具体的には、ベンゾイルペルオキシド、ジクロルベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ペルオキシドベンゾエート)ヘキシン-3、1,4-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ラウロイルペルオキシドなどの有機ペルオキシド、tert-ブチルペルアセテート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、tert-ブチルペルベンゾエート、tert-ブチルペルフェニルアセテート、tert-ブチルペルイソブチレート、tert-ブチルペル-sec-オクトエート、tert-ブチルペルピバレート、クミルペルビバレート、tert-ブチルペルジエチルアセテートなどの有機ペルエステル、アゾイソブチロニトリル、ジメチルアゾイソブチレートなどのアゾ化合物が含まれる。これらの中では、ジクミルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ペルオキシベンゾエート)ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,4-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンなどのジアルキルペルオキシドが好ましい。ラジカル開始剤は、原料としてのエチレン・α-オレフィン共重合体の質量に対して、通常、0.001質量%以上1質量%以下の割合で用いられる。
【0066】
1-2-2.未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-2)
オレフィン重合体(B1)は、未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-2)を含んでもよい。未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-2)は、グラフト変性されていないエチレン・α-オレフィン共重合体である。未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-2)は、半芳香族ポリアミド樹脂組成物に、良好な溶融流動性を付与することができる。そのため、変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)単独で用いるよりも、未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-2)をさらに組み合わせることで、半芳香族ポリアミド樹脂組成物の溶融流動性をより高めることができる。
【0067】
未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-2)の密度およびMFRは、変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)の密度の範囲と同様とすることができる。
【0068】
未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-2)は、そのような密度を有するものであればよく、特に制限されないが、変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)の原料として用いられるエチレン・α-オレフィン共重合体と同様でありうる。すなわち、未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-2)の組成や密度、MFRは、変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)の原料であるエチレン・α-オレフィン共重合体の組成や密度、メルトフローレートと同様の範囲でありうる。未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-2)は、変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)の原料であるエチレン・α-オレフィン共重合体と同じであってもよいし、異なってもよい。
【0069】
1-2-3.物性
オレフィン重合体(B1)全体の不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位の平均含有量(平均変性量)は、0.01質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。平均含有量が0.01質量%以上であると、半芳香族ポリアミド樹脂(A)への分散性を高めやすく、5.0質量%以下であると、オレフィン重合体(B1)と半芳香族ポリアミド樹脂(A)との相互作用が過剰となることによる溶融粘度の過剰な増大が抑制され高温下の流動性が低下しにくいため、成形性が損なわれにくい。オレフィン重合体(B1)の、不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位の平均含有量は、同様の観点から、0.05質量%以上5.0質量%以下がより好ましく、0.10質量%以上3.0質量%以下であることがさらに好ましく、0.10質量%以上2.0質量%以下であることが特に好ましく、0.30質量%以上2.0質量%以下であることが最も好ましい。
【0070】
オレフィン重合体(B1)は、不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する官能基が、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の末端基と反応したり、相互作用したりする。そのため、オレフィン重合体(B1)の上記官能基を有する成分単位の平均含有量が一定以上であると、半芳香族ポリアミド樹脂(A)とオレフィン重合体(B1)とが結合したり、相互作用したりすることで、得られる成形体の破断伸びを高めやすい。なお、上記官能基を有する成分単位の平均含有量を5.0質量%以下とすることで、樹脂組成物の溶融流動性が低下しにくくなる。
【0071】
オレフィン重合体(B1)の不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位の平均含有量は、測定によって求めてもよいし、樹脂組成物の調製に用いるオレフィン重合体(B1)の組成から算出して求めてもよい。
【0072】
例えば、オレフィン重合体(B1)の、不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位の平均含有量は、NMR法により測定することができる。測定条件は、後述する実施例と同様とすることができる。
【0073】
オレフィン重合体(B1)の不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位の平均含有量は、オレフィン重合体(B1)を構成する変性または未変性のエチレン・α-オレフィン共重合体の不飽和カルボン酸などに由来する成分単位の含有量(変性量)をxi(質量%)、オレフィン重合体(B1)中の変性または未変性のエチレン・α-オレフィン共重合体の含有量をMi(質量部)としたとき(iは、2以上の整数)、下記式(1)から求めることができる。
式(1):平均含有量(平均変性量)(質量%)=(Σxi*Mi/ΣMi)×100
【0074】
例えば、オレフィン重合体(B1)が、変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)(不飽和カルボン酸に由来する成分単位の含有量:x1(質量%))をM1(質量部)と、未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-2)(不飽和カルボン酸に由来する成分単位の含有量:x2(質量%))をM2(質量部)とを含む場合、オレフィン重合体(B1)の不飽和カルボン酸に由来する成分単位の平均含有量(平均変性量)={(x1*M1+x2*M2)/(M1+M2)}×100として求めることができる。なお、オレフィン重合体(B1)が1種類の変性エチレン・α-オレフィン共重合体のみからなる場合、オレフィン重合体(B1)の平均変性量は、変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)の変性量と同じになる。
【0075】
オレフィン重合体(B1)の不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位の平均含有量は、変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)の不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位の含有量や、変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)と未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-2)の含有比などによって調整することができる。
【0076】
オレフィン重合体(B1)の平均密度は、0.800g/cm以上0.890g/cm未満であることが好ましく、0.830g/cm以上0.890g/cm未満であることがより好ましく、0.850g/cm以上0.890g/cm未満であることがさらに好ましく、0.860g/cm以上0.890g/cm未満であることが最も好ましい。
【0077】
オレフィン重合体(B1)の平均密度は、測定(例えば、JIS K7112:1999に準拠した方法)によって求めることが好ましい。なお、オレフィン重合体(B1)を構成する変性または未変性のエチレン・α-オレフィン共重合体が2種類以上ある場合は、以下の式に基づいて算出してもよい。
【0078】
オレフィン重合体(B1)を構成する変性または未変性のエチレン・α-オレフィン共重合体の密度をdi(質量%)、オレフィン重合体(B1)中の変性または未変性のエチレン・α-オレフィン共重合体の含有量をMi(質量部)としたとき(iは、2以上の整数)、下記式(2)から求めることができる。
式(2):平均密度(g/cm)=ΣMi/Σ(Mi/di)
(di:各重合体の密度、Mi:各重合体の含有量(質量部)、i:重合体種の数)
【0079】
オレフィン重合体(B1)のMFRは、ASTM D1238による190℃、2.16kg荷重における測定値が、0.05g/10分以上であることが好ましい。上記MFRが、0.05g/10分以上であると、半芳香族ポリアミド樹脂組成物の高温下での流動性をより高めることができる。上記MFRの上限値は特に限定されないが、20g/10分以下であることが好ましい。
【0080】
1-3.スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)
スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)は、半芳香族ポリアミド樹脂組成物に配合されることにより、得られる成形体の引張破断伸び、引張破断強度、曲げ強度、曲げ弾性率、流動性等を高める。
【0081】
スチレン系熱可塑性エラストマーの例には、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)、及びスチレン-エチレン/プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)などが含まれる。これらのうち、流動性と破断伸びを高める観点から、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)が好ましい。
【0082】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)やオレフィン重合体(B1)との相溶性を高める観点から、スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)は、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたスチレン系熱可塑性エラストマー(以下、変性エラストマー(B2-1)とする)を含むことが好ましい。上記変性エラストマー(B2-1)は、不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位を含む。
【0083】
1-3-1.変性エラストマー(B2-1)
変性エラストマー(B2-1)の不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位の含有量(変性量)は、スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位の平均含有量(平均変性量)が後述の範囲となる程度であればよい。上記含有量(変性量)は、例えば、変性エラストマー(B2-1)の質量に対して、0.05質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.10質量%以上3.0質量%以下であることが好ましく、0.10質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましく、0.30質量%以上2.0質量%以下であることが特に好ましい。上記含有量(変性量)が、0.05質量%以上であると、変性エラストマー(B2-1)が変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)と十分に相互作用することができるため、相溶性を高めることができる。また、5.0質量%以下であると、上記相互作用が過剰となることによる溶融粘度の過剰な増大を抑制して溶融流動性が低下しにくくなる。上記含有量(変性量)は、変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)と同様にして、変性エラストマー(B2-1)調製時の仕込み比から算出するか、またはNMR法で測定することができる。
【0084】
変性エラストマー(B2-1)のMFRは、ASTM D1238による190℃、2.16kg荷重における測定値が、0.1g/10分以上50g/10分以下であることが好ましく、0.2g/10分以上20g/10分以下であることがより好ましい。上記MFRが0.1g/10分以上であると、半芳香族ポリアミド樹脂組成物の高温下における流動性をより高めることができ、50g/10分以下であると、得られた樹脂組成物を射出成形しやすくすることができる。
【0085】
変性エラストマー(B2-1)は、未変性のスチレン系熱可塑性エラストマーを、不飽和カルボン酸またはその誘導体でグラフト変性させて得られる。
【0086】
スチレン系熱可塑性エラストマーにおける、スチレンに由来する成分単位の含有量は、20モル%以上80モル%以下であることが好ましく、30モル%以上65モル%以下であることがより好ましい。
【0087】
(不飽和カルボン酸またはその誘導体)
不飽和カルボン酸またはその誘導体は、上述したものと同様である。
【0088】
(グラフト変性)
グラフト変性は、従来公知の種々の方法で行うことができる。例えば、未変性のスチレン系熱可塑性エラストマーを押出機を用いて溶融させ、グラフトモノマーを添加してグラフト共重合させる溶融変性法で行ってもよい。グラフトモノマーを効率よくグラフト共重合させる観点から、ラジカル開始剤の存在下で反応を行うことが好ましい。ラジカル開始剤については、上述と同様である。
【0089】
1-3-2.未変性エラストマー(B2-2)
エラストマー(B2)は、未変性エラストマー(B2-2)を含んでもよい。未変性エラストマー(B2-2)は、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されていないスチレン系熱可塑性エラストマーである。未変性エラストマー(B2-2)は、半芳香族ポリアミド樹脂組成物に、良好な溶融流動性を付与することができる。
【0090】
未変性エラストマー(B2-2)は、例えば変性エラストマー(B2-1)の原料として用いられるスチレン系熱可塑性エラストマーを用いることができる。すなわち、未変性エラストマー(B2-2)の組成やメルトフローレートは、変性エラストマー(B2-1)の原料であるスチレン系熱可塑性エラストマーの組成やメルトフローレートと同様の範囲でありうる。なお、未変性エラストマー(B2-2)は、変性エラストマー(B2-1)の原料であるスチレン系熱可塑性エラストマーと異なってもよい。
【0091】
1-3-3.物性
スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位の平均含有量(平均変性量)は、スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)に対して0.05質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。上記平均含有量(平均変性量)が0.05質量%以上であると、スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)が半芳香族ポリアミド樹脂(A)と十分に相互作用することができるため、相溶性を高めることができる。また、5.0質量%以下であると、スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)と半芳香族ポリアミド樹脂(A)との相互作用が過剰となることによる溶融粘度の過剰な増大を抑制して溶融流動性が低下しにくいため、成形性が損なわれにくい。上記平均含有量(平均変性量)は、上述と同様に、式(1)により求めることができる。
【0092】
スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する成分単位の平均含有量は、変性エラストマー(B2―1)の変性量や、変性エラストマー(B2―1)と未変性エラストマー(B2―2)の含有比などによって調整することができる。
【0093】
オレフィン重合体(B1)とスチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の含有質量比(B1/B2)は、0.01<B1/B2<99を満たすことが好ましい。B1/B2が0.01超であると、成形体に適度な柔軟性を付与でき、破断伸びを高めうる。B1/B2が99未満であると、成形体の強度が損なわれにくい。成形体の破断伸び、引張破断強度および曲げ強度をより高め、かつ半芳香族ポリアミド樹脂組成物の流動性をより高める観点から、0.05≦B1/B2≦10を満たすことがより好ましく、0.08≦B1/B2≦8を満たすことがさらに好ましく、0.09≦B1/B2≦6を満たすことがさらに好ましく、0.01≦B1/B2≦3を満たすことが特に好ましく、0.05≦B1/B2≦1を満たすことが最も好ましい。特に、オレフィン重合体(B1)に対するスチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の含有量が多くなると、スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)に含まれる芳香環とポリアミドの芳香環の相互作用がより働くと考えられ、流動性と破断伸びがより十分に高まりやすくなる。このような観点からは、B1/B2≦3を満たすことが好ましく、B1/B2≦1を満たすことがより好ましい。
【0094】
1-4.他の成分
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分の例には、無機充填材、有機充填材、有機難燃剤、滑剤、酸化防止剤(耐熱安定剤)、熱安定剤、耐候性安定剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、顔料、染料、天然油、合成油およびワックスなどの添加剤が含まれる。また、他の耐熱性樹脂がさらに含まれてもよい。
【0095】
[無機充填材(C)]
無機充填材(C)は、繊維状、粉状、粒状、板状、針状、クロス状、マット状の形状を有する無機充填材でありうる。
【0096】
繊維状の無機充填材の例には、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維およびホウ素繊維が含まれる。これらの中でも、ガラス繊維が特に好ましい。ガラス繊維を使用することにより、成形性が向上すると共に、無機充填材を含有する成形体の強度(弾性率)などの機械的特性および熱変形温度などの耐熱特性が向上する。
【0097】
繊維状の無機充填材の平均長さは、通常は、0.1mm以上20mm以下であり、0.3mm以上6mm以下であることが好ましい。繊維状の無機充填材のアスペクト比は、通常は10以上2000以下、30以上600以下であることが好ましい。
【0098】
繊維状の無機充填材の他、粉末状、粒状、板状、針状、クロス状、マット状の形状を有する他の充填材を使用することもできる。そのような他の充填材の例には、シリカ、シリカアルミナ、アルミナ、炭酸カルシウム、二酸化チタン、タルク、ワラストナイト、ケイソウ土、クレー、カオリン、球状ガラス、マイカ、セッコウ、ベンガラ、酸化マグネシウムおよび酸化亜鉛などの粉状或いは板状の無機化合物、チタン酸カリウムなどの針状の無機化合物が含まれる。これらの充填材は、2種以上混合して使用することもできる。
【0099】
他の充填材の平均粒径は、通常0.1μm以上200μm以下であり、1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0100】
繊維状の充填材や他の充填材は、シランカップリング剤やチタンカップリング剤で処理して使用することもできる。
【0101】
無機充填材(C)は、繊維状の充填材と他の充填材の少なくとも一方を含むことが好ましく、繊維状の充填材とタルクの少なくとも一方を含むことがより好ましい。
【0102】
[有機充填材]
有機充填材の例には、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンテレフタルアミド、ポリパラフェニレンイソフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、ジアミノジフェニルエーテルとテレフタル酸(イソフタル酸)との縮合物およびパラ(メタ)アミノ安息香酸の縮合物などの全芳香族ポリアミド、ジアミノジフェニルエーテルと無水トリメリット酸または無水ピロメリット酸との縮合物などの全芳香族ポリアミドイミド、全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリイミド、ポリベンツイミダゾールおよびポリイミダゾフェナントロリンなどの複素環含有化合物、ならびに、ポリテトラフルオロエチレンなどから形成されている粉状、板状、繊維状またはクロス状物などの二次加工品が含まれる。
【0103】
[有機難燃剤]
有機難燃剤は、臭素化スチレンモノマーから製造した下記式[IV]で表される成分単位を主要構成成分とするポリ臭素化スチレン、ポリエチレンエーテルの臭素化物、ポリスチレンの臭素化物などの有機難燃剤を配合することができる。下記式において、mは1以上5以下の数である。
【化5】
【0104】
ポリ臭素化スチレンは二臭素化スチレン単位を60重量%以上含有しているものが好ましく、70重量%以上含有しているものが特に好ましい。二臭素化スチレン以外に一臭素化スチレンおよび/または三臭素化スチレンを40重量%以下、好ましくは30重量%以下共重合したポリ臭素化スチレンであってもよい。
【0105】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物において、上記有機難燃剤以外に酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、酸化スズ、酸化鉄、酸化亜鉛、硝酸亜鉛の中から選ばれた少なくとも1種の難燃助剤を使用することができる。特にアンチモン酸ソーダ、とりわけ550℃以上の高温で熱処理した実質的に無水のアンチモン酸ソーダが好ましい。
【0106】
[滑剤(D)]
滑剤(D)は、半芳香族ポリアミド樹脂組成物の溶融混練時の流動性をより高め、離型抵抗を低減することができる。
【0107】
滑剤(D)として、高級脂肪酸やその金属塩、エステルまたはアミドを用いることができる。
【0108】
高級脂肪酸は、炭素数8以上であり、炭素数8以上40以下の脂肪酸であることが好ましい。脂肪酸は、モノカルボン酸であることが好ましい。高級脂肪酸の例には、オクチル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、セバシン酸などの飽和の脂肪酸や、エルカ酸、オレイン酸、リシノール酸などの不飽和の脂肪酸が含まれる。これらのうち、モンタン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、およびベヘン酸が好ましい。
【0109】
高級脂肪酸金属塩は、上記高級脂肪酸の金属塩である。金属塩を形成する金属元素の例には、ナトリウム、カリウムなどの第1族元素(アルカリ金属);カルシウム、マグネシウム、バリウムなどの第2族元素(アルカリ土類金属);亜鉛、アルミニウムなどの第3族元素が含まれ、好ましくはカルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩である。そのような高級脂肪酸金属塩の例には、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12-ヒドロキシステアリン酸アルミニウム、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸亜鉛、ベヘン酸マグネシウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸アルミニウムが含まれる。これらのうち、モンタン酸金属塩および12-ヒドロキシステアリン酸金属塩が好ましい。
【0110】
高級脂肪酸エステルは、上記高級脂肪酸とアルコール(好ましくは炭素数8以上40以下の脂肪族アルコール)とのエステル化物である。脂肪族アルコールの例には、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ラウリルアルコールが含まれる。高級脂肪酸エステルの例には、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニルが含まれる。
【0111】
高級脂肪酸アミドの例には、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリルアミド、エチレンビスオレイルアミド、N-ステアリルステアリルアミド、N-ステアリルエルカアミドが含まれる。
【0112】
[酸化防止剤(E)]
酸化防止剤(E)の例には、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤が含まれる。
【0113】
リン系酸化防止剤の例には、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、トリフェニルホスファイト、2-エチルヘキシル酸ホスフェート、ジラウリルホスファイト、トリ-iso-オクチルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリラウリル-ジ-チオホスファイト、トリラウリル-トリ-チオホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、1,1,3-トリス(2-メチル-ジ-トリデシルホスファイト-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、4,4′-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチル)トリデシルホスファイト、4,4′-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチル-ジ-トリデシル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)4,4′-ビスフェニレンジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリデシルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2′-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ソルビット-トリス-ホスファイト-ジステアリル-モノ-C30-ジオールエステルおよびビス(2,4,6-トリ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが含まれる。これらの中でも、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイトおよびビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイトなどのペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト系のリン系酸化防止剤、ならびに、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)4,4′-ビスフェニレンジホスファイトが含まれる。
【0114】
フェノール系酸化防止剤の例には、3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニル]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール、n-オクタデシル-3-(4′-ヒドロキシ-3′,5′-ジ-tert-ブチルフェノール)プロピオネート、スチレン化フェノール、4-ヒドロキシ-メチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,5-ジ-tert-ブチル-ハイドロキノン、シクロヘキシルフェノール、ブチルヒドロキシアニゾール、2,2′-メチレン-ビス-(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2′-メチレン-ビス-(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4′-イソ-プロピリデンビスフェノール、4,4′-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、1,1-ビス-(4-ヒドロオキシ-フェニル)シクロヘキサン、4,4′-メチレン-ビス-(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,6-ビス(2′-ヒドロオキシ-3′-tert-ブチル-5′-メチルメチルベンジル)4-メチル-フェノール、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロオキシ-5-tert-ブチル-フェニル)ブタン、1,3,5-トリス-メチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロオキシ-ベンジル)ベンゼン、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロオキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロオキシフェニル)イソシアヌレート、トリス[β-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル-オキシエチル]イソシアネート、4,4′-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2′-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4′-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、およびN,N′-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチルフェノール-4-ヒドロキシシンナムアミド)が含まれる。
【0115】
アミン系酸化防止剤の例には、4,4′-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-β-ナフチルアミン、N,N′-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ-β-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N′-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、アルドール-α-ナフチルアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジハイドロキノンのポリマーおよび6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンが含まれる。
【0116】
硫黄系酸化防止剤の例には、チオビス(β-ナフトール)、チオビス(N-フェニル-β-ナフチルアミン)、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、ドデシルメルカプタン、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルイソプロピルキサンテート、ジラウリルチオジプロピオネートおよびジステアリルチオジプロピオネートが含まれる。
【0117】
[他の耐熱性樹脂]
他の耐熱性樹脂の例には、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PPE(ポリフェニルエーテル)、PES(ポリエーテルスルフォン)、PEI(ポリエーテルイミド)、LCP(液晶ポリマー)およびこれらの樹脂の変性物が含まれる。特にポリフェニレンスルフィドが好ましい。
【0118】
1-5.半芳香族ポリアミド樹脂組成物の組成
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物において、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の含有量は、(A)、(B1)、および(B2)の合計質量に対して70質量%以上90質量%以下であることが好ましく、70質量%以上85質量%以下であることがより好ましく、73質量%以上83質量%以下であることがさらに好ましく、73質量%以上80質量%以下であることが特に好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂(A)の含有量が70質量%以上であると、成形体の強度や耐熱性を高めやすく、ポリアミド樹脂組成物の高温環境下での流動性をより高めることができる。上記含有量が90質量%以下であると、成形体の強度や耐熱性が損なわれにくい。
【0119】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物において、オレフィン重合体(B1)の含有量は、後述するオレフィン重合体(B1)と、スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)との合計含有量の範囲となるように適宜調整されうるが、(A)、(B1)、および(B2)の合計質量に対して1質量%以上25質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。オレフィン重合体(B1)の含有量が1質量%以上であると、得られる成形体の破断伸びをより高めることができ、15質量%以下であると、成形体の強度をより高めることができる。
【0120】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物において、スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の含有量は、後述するオレフィン重合体(B1)と、スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)との合計含有量の範囲となるように適宜調整されうるが、(A)、(B1)、および(B2)の合計質量に対して1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、1質量%以上25質量%以下であることがより好ましい。オレフィン重合体(B1)の含有量が1質量%以上であると、得られる成形体の破断伸びをより高めることができ、25質量%以下であると、成形体の強度をより高めることができる。
【0121】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物において、オレフィン重合体(B1)とスチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の合計含有量は、(A)、(B1)、および(B2)の合計質量に対して10質量%以上30質量%以下であり、15質量%以上30質量%以下であることが好ましく、17質量%以上27質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上27質量%以下であることがさらに好ましい。上記オレフィン重合体(B1)とスチレン系熱可塑性エラストマー(B2)合計含有量が一定以上であると、得られる成形体の破断伸びをより高めることができる。上記オレフィン重合体(B1)とスチレン系熱可塑性エラストマー(B2)合計含有量が一定以下であると、成形体の強度をより高めることができる。また、半芳香族ポリアミド樹脂組成物の溶融粘度を、より成型しやすい粘度にして、流動性を高め、安定して成形しやすくすることができる。
【0122】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、上述の通り、無機充填材(C)、滑剤(F)および酸化防止剤(G)をさらに含んでもよい。
【0123】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物において、無機充填材(C)の含有量は、(A)、(B1)および(B2)の合計質量に対して0質量%以上200質量%以下とすることができ、0.01質量%以上100質量%以下であることが好ましく、1質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。無機充填材(C)の含有量が0.01質量%以上であると、成形体の強度を高めやすく、100質量%以下であると、樹脂組成物の溶融流動性が損なわれにくい。
【0124】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物において、滑剤(D)の含有量は、(A)、(B1)および(B2)の合計質量に対して、0.01質量%以上1.0質量%以下とすることができ、0.05質量%以上0.5質量%以下であることが好ましく、0.06質量%以上0.4質量%以下であることがより好ましい。滑剤(F)の含有量が0.06質量%以上であると、半芳香族ポリアミド樹脂組成物の溶融混練時の流動性をより高めることができ、0.4質量%以下であると、得られる成形体の機械的強度が損なわれにくく、ブリードアウトによる外観不良などを生じにくい。
【0125】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物において、酸化防止剤(E)の含有量は、(A)、(B1)および(B2)の合計質量に対して0質量%以上2質量%以下とすることができ、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上1.0質量%以下であることがより好ましい。酸化防止剤(E)の含有量が0.1質量%以上であると、成形体の熱劣化などを抑制しやすく、5質量%以下であると、着色などを生じにくい。
【0126】
1-6.半芳香族ポリアミド樹脂組成物の製造方法
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、任意の方法で製造することができる。例えば、本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、オレフィン重合体(B1)およびスチレン系熱可塑性エラストマー(B2)を準備する工程と、準備したオレフィン重合体(B1)およびスチレン系熱可塑性エラストマー(B2)と、半芳香族ポリアミド樹脂(A)とを溶融混練する工程と、必要に応じてさらに造粒若しくは粉砕する工程とを経て製造することができる。
【0127】
また、溶融混練する工程の前に、少なくとも半芳香族ポリアミド樹脂(A)、オレフィン重合体(B1)およびスチレン系熱可塑性エラストマー(B2)を混合する工程をさらに行ってもよい。混合方法としては、例えばヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー若しくはタンブラーブレンダーなどでありうる。
【0128】
2.成形体
本発明の成形体は、本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を成形してなる。
【0129】
すなわち、上記のようにして調製した半芳香族ポリアミド樹脂組成物を用いて、通常の溶融成形法、例えば圧縮成形法、射出成形法または押し出し成形法などにより、所望の形状の成形体を製造することができる。
【0130】
例えば、本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を、シリンダ温度が半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点以上、たとえば300℃以上350℃以下程度に調整された射出成形機に投入して溶融状態にして、所定の形状の金型内に導入することにより成形体を製造することができる。
【0131】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を用いて製造される成形体の形状は、特に制限はなく、用途に応じて種々の形状をとりうる。
【0132】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、各種成形体、好ましくは自動車内外装部品、エンジンルーム内部品および自動車電装部品を形成するための樹脂としても好適である。本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物から得られる成形体の例には、ラジエータグリル、リアスポイラー、ホイールカバー、ホイールキャップ、カウルベント・グリル、エアアウトレット・ルーバー、エアスクープ、フードバルジ、フェンダーおよびバックドアなどの自動車用外装部品;シリンダーヘッド・カバー、エンジンマウント、エアインテーク・マニホールド、スロットルボディ、エアインテーク・パイプ、ラジエータタンク、ラジエータサポート、ウォーターポンプ・インレット、ウォーターポンプ・アウトレットなどのウォーターポンプ筐体、ウォータージャケットスペーサー、サーモスタットハウジングなどのサーモスタット筐体、クーリングファン、ファンシュラウド、オイルパン、オイルフィルター・ハウジング、オイルフィラー・キャップ、オイルレベル・ゲージ、タイミング・ベルト、タイミング・ベルトカバーおよびエンジン・カバーなどの自動車用エンジンルーム内部品;フューエルキャップ、フューエルフィラー・チューブ、自動車用燃料タンク、フューエルセンダー・モジュール、フューエルカットオフ・バルブ、クイックコネクター、キャニスター、フューエルデリバリー・パイプおよびフューエルフィラーネックなどの自動車用燃料系部品;シフトレバー・ハウジングおよびプロペラシャフトなどの自動車用駆動系部品;スタビライザーバー・リンケージロッドなどの自動車用シャシー部品;ウインドーレギュレータ、ドアロック、ドアハンドル、アウトサイド・ドアミラー・ステー、アクセルペダル、ペダル・モジュール、シールリング、軸受、ベアリングリテーナー、ギアおよびアクチュエーターなどの自動車用機能部品;ワイヤーハーネス・コネクター、リレーブロック、センサーハウジング、エンキャプシュレーション、イグニッションコイルおよびディストリビューター・キャップなどの自動車用エレクトロニクス部品;汎用機器(刈り払い機、芝刈り機およびチェーンソーなど)用燃料タンクなどの汎用機器用燃料系部品;ならびにコネクターおよびLEDリフレクタなどの電気電子部品、建材部品、各種筐体、外装部品などが含まれる。
【0133】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物の成形体は、良好な強度と破断伸びとを有する。したがって、自動車用燃料タンク、クイックコネクター、ベアリングリテーナー、汎用機器用燃料タンク、フューエルキャップ、フューエルフィラーネック、フューエルセンダー・モジュール、ホイールキャップ、フェンダーまたはバックドア、各種筐体、外装部品などに好適である。各種筐体、外装部品としては、小型筐体、外装成形品、携帯電話筐体が挙げられ、特に携帯電話筐体として好ましく使用することができる。また、本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物が電子回路を相互に連結するコネクター製造用の樹脂としても好ましく用いられる。
【実施例0134】
以下、実施例を参照して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例の記載に限定されない。
【0135】
1.構成材料
1-1.半芳香族ポリアミド樹脂(A)
<半芳香族ポリアミド(PA-1)の調製>
1,6-ジアミノヘキサン2800g(24.1モル)、テレフタル酸2184g(13.2モル)、アジピン酸1572g(10.8モル)、触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物5.67g(5.4×10-2モル)、分子量調整剤として安息香酸36.5g(0.30モル)、およびイオン交換水409mlを内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温した。このとき、オートクレーブの内圧を3.02MPaまで昇圧した。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低次縮合物を抜き出した。その後、低次縮合物を室温まで冷却後、粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥した。得られた低次縮合物の水分量は3000ppm、極限粘度[η]が0.15dl/gのポリアミド前駆体5440gを得た。
【0136】
次いで、このポリアミド前駆体を乾燥させ、二軸押出機を用いてシリンダー設定温度330℃で溶融重合して半芳香族ポリアミド(PA-1)を得た。
【0137】
得られた半芳香族ポリアミド(PA-1)の組成は、ジカルボン酸に由来する成分単位中のテレフタル酸に由来する成分単位の含有量は55モル%、アジピン酸に由来する成分単位の含有量は45モル%であり、ジアミンに由来する成分単位中の1,6-ジアミノヘキサンに由来する成分単位の含有量は100モル%であった。また、半芳香族ポリアミド(PA-1)の極限粘度[η]は1.0dl/gであり、融点Tmは310℃であった。
【0138】
1-2.その他のポリアミド樹脂(A’)
<ポリアミド(PA-2)>
ナイロン6(アミラン CM1017、東レ株式会社製)を用いた。ポリアミド(PA-2)の融点Tmは225℃であった。
【0139】
半芳香族ポリアミド(PA-1)の極限粘度[η]は以下の方法で測定した。
【0140】
[極限粘度[η]]
得られた半芳香族ポリアミド樹脂の極限粘度[η]は以下のようにして測定した。半芳香族ポリアミド樹脂0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解させた。得られた溶液の、25℃±0.05℃の条件下での流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して測定し、「数式:[η]=ηSP/(C(1+0.205ηSP))」に基づき算出した。
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
ηSP=(t-t)/t
【0141】
半芳香族ポリアミド(PA-1)、およびポリアミド(PA-2)の融点Tmは、以下の方法で測定した。
【0142】
[融点Tm]
半芳香族ポリアミド(PA-1)、およびポリアミド(PA-2)の融点Tmは、示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル株式会社製)を用いて以下のように測定した。
【0143】
約5mgの半芳香族ポリアミド(PA-1)またはポリアミド(PA-2)を測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで350℃まで加熱した。樹脂を完全融解させるために、350℃で3分間保持した後、10℃/minで30℃まで冷却した。そして、30℃で5分間置いた後、10℃/minで350℃まで2度目の加熱を行った。この2度目の加熱における吸熱ピークの温度(℃)をポリアミドの融点(Tm)とした。
【0144】
1-2.オレフィン重合体(B1)
(重合体(B1-1))
<変性エチレン・1-ブテン共重合体(PO-1-1)の調製>
Ti系触媒を用いて、エチレン・1-ブテン共重合体(PO-2-1)を調製した。
エチレン・1-ブテン共重合体(PO-2-1)は、エチレン含有量が81モル%であり、密度は0.861g/cmであり、MFR(ASTM D 1238、190℃、2.16kg荷重)は0.5g/10分であった。
【0145】
上記調製したエチレン・1-ブテン共重合体(PO-2-1)100質量部、無水マレイン酸1.2質量部、および過酸化物(パーヘキシン-25B、日本油脂株式会社製)0.06質量部をヘンシェルミキサーで混合し、得られた混合物を230℃に設定した65mmφの一軸押出機で溶融グラフト変性して、変性エチレン・1-ブテン共重合体(PO-1-1)を得た。
【0146】
<変性エチレン・1-ブテン共重合体(PO-1-2)の調製>
Ti系触媒を用いて、エチレン・1-ブテン共重合体(PO-2-2)を調製した。
エチレン・1-ブテン共重合体(PO-2-2)は、エチレン含有量が85モル%であり、密度は0.870g/cmであり、MFR(ASTM D 1238、190℃、2.16kg荷重)は0.6g/10分であった。
【0147】
上記調製したエチレン・1-ブテン共重合体(PO-2-2)100質量部、無水マレイン酸1.2質量部、および過酸化物(パーヘキシン-25B、日本油脂株式会社製)0.06質量部をヘンシェルミキサーで混合し、得られた混合物を230℃に設定した65mmφの一軸押出機で溶融グラフト変性して、変性エチレン・1-ブテン共重合体(PO1-2)を得た。
【0148】
1-3.スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)
<変性スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン共重合体(B2)>
変性スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン共重合体(タフテックM1913、旭化成株式会社製)を用いた。
【0149】
オレフィン重合体(B1)、およびスチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の組成および物性を表1に示した。
【0150】
【表1】
【0151】
各共重合体の変性量、密度およびMFRは、それぞれ以下の方法で測定した。
【0152】
[変性量]
各共重合体の無水マレイン酸に由来する成分単位の含有量(変性量)(質量%)は、NMR法にて測定した。測定条件は、下記の通りである。
測定装置:核磁気共鳴装置(ECP500型、日本電子(株)製)
観測核: 13C(125MHz)
シーケンス: シングルパルスプロトンデカップリング
パルス幅: 4.7μ秒(45°パルス)
繰り返し時間: 5.5秒
積算回数: 1万回以上
溶媒: オルトジクロロベンゼン/重水素化ベンゼン(容量比:80/20)混合溶媒
試料濃度: 55mg/0.6mL
測定温度: 120℃
ケミカルシフトの基準値:27.50ppm
【0153】
[密度]
密度は、密度勾配管を用いて、JIS K7112:1999に準拠し、温度23℃で測定した。
【0154】
[MFR]
MFRは、ASTM D1238に準拠し、190℃で2.16kgの荷重にて測定した。
【0155】
1-4.他の成分
<無機充填材(C)>
タルク(平均粒子径1.6μm)
【0156】
<滑材(D)>
モンタン酸ナトリウム
【0157】
<酸化防止剤(E)>
フェノール系酸化防止剤
【0158】
2.半芳香族ポリアミド樹脂組成物の調製
(実施例1~5、および比較例1~11)
表2~4に示される組成となるように、半芳香族ポリアミド樹脂(A)、オレフィン重合体(B1)、スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)、無機充填材(C)、滑材(D)および酸化防止剤(E)を、タンブラーブレンダーにて混合した後、30mmφのベント式二軸スクリュー押出機を用いて310℃のシリンダー温度条件で溶融混練した。その後、混練物をストランド状に押出し、水槽で冷却させた。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットして、ペレット状の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を得た。
【0159】
得られた半芳香族ポリアミド樹脂組成物の、引張破断強度および引張破断伸び率、曲げ強度および曲げ弾性率、ならびに射出流動性をそれぞれ以下の方法で評価した。
【0160】
[引張破断強度、引張破断伸び率]
得られたポリアミド樹脂組成物を、下記の射出成形機を用いて、下記成形条件で成形して、厚み3.2mmのASTMダンベル型試験片Type Iを得た。
(成形条件)
成形機: 東芝機械株式会社製 EC75N-2A
シリンダー温度: 320℃(実施例1~5、比較例1~4)、250℃(比較例5~11)
金型温度: 50℃
射出設定速度: 100mm/sec
得られた試験片を、温度23℃、窒素雰囲気下で24時間放置した。次いで、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で引張試験を行い、引張破断強度(MPa)および引張破断伸び率(%)を測定した。
【0161】
[曲げ強度、曲げ弾性率]
得られた半芳香族ポリアミド樹脂組成物を、下記の成形条件で射出成形し、長さ:127mm、幅:12.7mm、厚さ:3.2mmの試験片を作製した。
成形機: 東芝機械株式会社製 EC75N-2A
シリンダー温度: 320℃(実施例1~5、比較例1~4)、250℃(比較例5~11)
金型温度: 50℃
得られた試験片を、温度23℃、窒素雰囲気下で24時間放置した。次いで、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で曲げ試験機:NTESCO社製 AB5、スパン51mm、曲げ速度5mm/分で曲げ試験を行い、曲げ強度(MPa)および曲げ弾性率(MPa)を測定した。
【0162】
[流動長試験(射出流動性)]
幅10mm、厚み0.5mmのバーフロー金型を使用し、以下の条件で射出を行い、金型内の樹脂の流動長(mm)を測定した。
射出成型機: 株式会社ソディックプラステック製 ツパールTR40S3A
射出圧力設定値: 2000kg/cm
シリンダー設定温度: 320℃(実施例1~5、比較例1~4)、250℃(比較例5~11)
金型温度: 50℃
【0163】
実施例1~5の評価結果を表2に示し、比較例1~4の評価結果を表3に示し、比較例5~11の評価結果を表4に示した。
【0164】
【表2】
【0165】
【表3】
【0166】
【表4】
【0167】
表2に示されるように、半芳香族ポリアミド(A)、オレフィン重合体(B1)およびスチレン系熱可塑性エラストマー(B2)を含み、オレフィン重合体(B1)とスチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の合計含有量を、(A)、(B1)および(B2)の合計100質量部に対して10~30質量部とした実施例1~5では、いずれも引張破断伸び、および流動性が高いことがわかった。オレフィン重合体(B1)とスチレン系熱可塑性エラストマー(B2)とを混合することで、オレフィン重合体(B1)の相の中に、スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の相が分散した構造が形成され、または、スチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の相の中に、オレフィン重合体(B1)の相が分散した構造が形成され、引張破断伸び、および流動性を顕著に高めることができたと考えられる。
【0168】
特に、オレフィン重合体(B1)の含有量に対してスチレン系熱可塑性エラストマー(B2)の含有量の割合が高い実施例3~5では、破断伸び、および流動性がより高いことがわかった。
【0169】
これに対し、表3および表4に示されるように、オレフィン重合体(B1)またはスチレン系熱可塑性エラストマー(B2)のどちらか一方しか含まない比較例1~11では、引張破断伸び、および流動性の両方を高めることはできなかった。特に、半芳香族ポリアミド(A)を含まない比較例5~11では、破断伸びを高めることができたものの、流動性が著しく低下し、オレフィン重合体(B1)およびスチレン系熱可塑性エラストマーを用いても流動性は向上しなかった(比較例11)。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物の成形体は、良好な強度、破断伸び、および高温下の流動性を有する。そのため、半芳香族ポリアミド樹脂組成物の、各種筐体、外装部品などへの適用可能性を広げ、半芳香族ポリアミド樹脂組成物のさらなる普及に寄与することが期待される。