(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135362
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】アーク溶接装置、アーク溶接方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/073 20060101AFI20230921BHJP
B23K 9/10 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
B23K9/073 545
B23K9/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040525
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】高田 賢人
(72)【発明者】
【氏名】中俣 利昭
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA03
4E082AA04
4E082AB01
4E082BB00
4E082CA01
4E082DA01
4E082EC03
4E082EC13
4E082EE01
4E082EE05
4E082EF02
4E082EF07
4E082EF16
4E082FA04
(57)【要約】
【課題】溶接姿勢、溶接ワイヤの材質、2次側パワーケーブル長に応じて、電源の外部特性の傾き又は電子リアクトルのインダクタンスを調整し、溶接品質を向上させることができるアーク溶接装置を提供する。
【解決手段】
短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接する消耗電極式のアーク溶接装置は、パワーケーブルを介して溶接ワイヤに溶接電流を供給する電源回路と、該電源回路の出力特性を示す外部特性の傾き及びインダクタンスを設定する設定回路とを備え、設定回路は、溶接姿勢を示す溶接姿勢データと、溶接ワイヤの材質を示すワイヤ材質データと、パワーケーブルの長さを示すケーブル長データとを取得し、取得した溶接姿勢データと、ワイヤ材質データと、ケーブル長データとに基づいて、外部特性の傾き又はインダクタンスを調整する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接する消耗電極式のアーク溶接装置であって、
パワーケーブルを介して溶接ワイヤに溶接電流を供給する電源回路と、
該電源回路の出力特性を示す外部特性の傾き及びインダクタンスを設定する設定回路と
を備え、
前記設定回路は、
溶接姿勢を示す溶接姿勢データと、前記溶接ワイヤの材質を示すワイヤ材質データと、前記パワーケーブルの長さを示すケーブル長データとを取得し、
取得した前記溶接姿勢データと、前記ワイヤ材質データと、前記ケーブル長データとに基づいて、前記外部特性の傾き又は前記インダクタンスを調整する
アーク溶接装置。
【請求項2】
前記溶接姿勢データ、前記ワイヤ材質データ、及び前記ケーブル長データが入力された場合に、前記外部特性の傾き又は前記インダクタンスの調整方法に係るデータを出力するように学習された学習モデルに、取得した前記溶接姿勢データ、前記ワイヤ材質データ、及び前記ケーブル長データを入力して、前記調整方法に係るデータを出力する
請求項1に記載のアーク溶接装置。
【請求項3】
前記溶接姿勢データは、下向き姿勢、立ち向き姿勢又は横向き姿勢を示す情報を含み、
前記ワイヤ材質データは、鉄製又は非鉄金属製を示す情報を含む
請求項1又は請求項2に記載のアーク溶接装置。
【請求項4】
短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接する消耗電極式のアーク溶接方法であって、
溶接姿勢を示す溶接姿勢データと、溶接ワイヤの材質を示すワイヤ材質データと、溶接電流を電源回路から前記溶接ワイヤへ供給するパワーケーブルの長さを示すケーブル長データとを取得し、
取得した前記溶接姿勢データと、前記ワイヤ材質データと、前記ケーブル長データとに基づいて、前記電源回路の出力特性を示す外部特性の傾き及びインダクタンスを調整する
アーク溶接方法。
【請求項5】
短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接する消耗電極式のアーク溶接を行うために、パワーケーブルを介して溶接ワイヤに溶接電流を供給する電源回路の出力特性を示す外部特性の傾き及びインダクタンスを調整する処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、
溶接姿勢を示す溶接姿勢データと、前記溶接ワイヤの材質を示すワイヤ材質データと、前記パワーケーブルの長さを示すケーブル長データとを取得し、
取得した前記溶接姿勢データと、前記ワイヤ材質データと、前記ケーブル長データとに基づいて、前記外部特性の傾き及び前記インダクタンスを調整する
処理を前記コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極式のアーク溶接装置、アーク溶接方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
定電圧特性で動作する溶接電源の出力特性である外部特性の傾き及びインダクタンスを電子制御にて生成する溶接電源の出力制御方法が提案されている(例えば、特許文献1)。以下、電子制御にて生成されるインダクタンスを有するリアクトルを電子リアクトルと呼ぶ。特許文献1の出力制御方法によれば、所望の外部特性方向き及び電子リアクトルのインダクタンスを形成し、溶接状態を安定化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
外部特性の傾き又は電子リアクトルのインダクタンスは、溶接姿勢、溶接ワイヤの材質、2次側パワーケーブル長によって適正な値が異なる。従って、予め決定された外部特性の傾き又は電子リアクトルのインダクタンスでは溶接性能が低下することがある。作業者が設定電流及び設定電圧を微調整することによって安定した溶接を実現することも可能だが、時間とスキルを要する。
【0005】
本開示の目的は、溶接姿勢、溶接ワイヤの材質、2次側パワーケーブル長に応じて、電源の外部特性の傾き又は電子リアクトルのインダクタンスを調整し、溶接品質を向上させることができるアーク溶接装置、アーク溶接方法及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係るアーク溶接装置は、短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接する消耗電極式のアーク溶接装置であって、パワーケーブルを介して溶接ワイヤに溶接電流を供給する電源回路と、該電源回路の出力特性を示す外部特性の傾き及びインダクタンスを設定する設定回路とを備え、前記設定回路は、溶接姿勢を示す溶接姿勢データと、前記溶接ワイヤの材質を示すワイヤ材質データと、前記パワーケーブルの長さを示すケーブル長データとを取得し、取得した前記溶接姿勢データと、前記ワイヤ材質データと、前記ケーブル長データとに基づいて、前記外部特性の傾き又は前記インダクタンスを調整する。
【0007】
本開示の他の側面に係るアーク溶接方法は、短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接する消耗電極式のアーク溶接方法であって、溶接姿勢を示す溶接姿勢データと、溶接ワイヤの材質を示すワイヤ材質データと、溶接電流を電源回路から前記溶接ワイヤへ供給するパワーケーブルの長さを示すケーブル長データとを取得し、取得した前記溶接姿勢データと、前記ワイヤ材質データと、前記ケーブル長データとに基づいて、前記電源回路の出力特性を示す外部特性の傾き及びインダクタンスを調整する。
【0008】
本開示の他の側面に係るコンピュータプログラムは、短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接する消耗電極式のアーク溶接を行うために、パワーケーブルを介して溶接ワイヤに溶接電流を供給する電源回路の出力特性を示す外部特性の傾き及びインダクタンスを調整する処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、溶接姿勢を示す溶接姿勢データと、前記溶接ワイヤの材質を示すワイヤ材質データと、前記パワーケーブルの長さを示すケーブル長データとを取得し、取得した前記溶接姿勢データと、前記ワイヤ材質データと、前記ケーブル長データとに基づいて、前記外部特性の傾き及び前記インダクタンスを調整する処理を前記コンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、溶接姿勢、溶接ワイヤの材質、2次側パワーケーブル長に応じて、電源の外部特性の傾き又は電子リアクトルのインダクタンスを調整し、溶接品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係るアーク溶接装置の一構成を示す模式図である。
【
図2】本実施形態に係る調整回路等の構成例を示すブロック図である。
【
図3】外部特性の傾き及び電子リアクトルのインダクタンスの調整処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】外部特性の傾き及び電子リアクトルのインダクタンスの調整処理手順を示すフローチャートである。
【
図5】外部特性の傾き及び電子リアクトルのインダクタンスの調整方法を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の実施形態に係るアーク溶接装置、アーク溶接方法及びコンピュータプログラムの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0012】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
<アーク溶接装置の構成>
図1は、本実施形態に係るアーク溶接装置の一構成を示す模式図である。本実施形態に係るアーク溶接装置は、アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のガスシールドアーク溶接機であり、溶接電源1、溶接トーチ2及びワイヤ送給部3を備える。アーク溶接装置は、周期的に短絡期間とアーク期間とを繰り返して母材4を溶接する。
【0013】
溶接トーチ2は、銅合金等の導電性材料からなり、母材4へ溶接ワイヤ5を案内すると共に、アークの発生に必要な溶接電流Iwを供給する円筒形状のコンタクトチップを有する。コンタクトチップは、その内部を挿通する溶接ワイヤ5に接触し、溶接電流Iwを溶接ワイヤ5に供給する。溶接トーチ2は、コンタクトチップを囲繞する中空円筒形状をなし、シールドガスを噴射するノズルを有する。シールドガスは、例えば炭酸ガス、炭酸ガス及びアルゴンガスの混合ガス、アルゴン等の不活性ガス等である。
【0014】
溶接ワイヤ5は、例えばソリッドワイヤであり、消耗電極として機能する。溶接ワイヤ5には、鉄製のワイヤと、非鉄金属製のワイヤとがある。非鉄金属製の溶接ワイヤ5は、例えば、アルミニウム製、キュプロアルミニウム(CuAl)製、キュプロシリコン(CuSi)製などである。溶接ワイヤ5は、例えば、螺旋状に巻かれた状態でペールパックに収容されたパックワイヤ、あるいはワイヤリールに巻回されたリールワイヤである。
【0015】
ワイヤ送給部3は、溶接ワイヤ5を溶接トーチ2へ送給する送給ローラと、当該送給ローラを回転させる送給モータとを有する。ワイヤ送給部3は、送給ローラを回転させることによって、ペールパック又はワイヤリールから溶接ワイヤ5を引き出し、引き出された溶接ワイヤ5を溶接トーチ2へ供給する。ワイヤ送給部3による溶接ワイヤ5の送給は溶接電源1によって制御される。具体的には、送給モータは、溶接電源1の送給制御回路10から出力される送給制御信号Fcの値に相当する速度及び向きに送給ローラを回転させる。
【0016】
溶接電源1は、送給制御回路10と、電源回路11と、電流検出回路12と、電圧検出回路13と、出力電圧設定回路14と、出力特性設定回路(設定回路)15と、電流設定変化量算出回路16と、電流設定積分回路17と、電流誤差増幅回路18と、操作パネル19とを備える。
電源回路11は、2次側パワーケーブルを介して溶接トーチ2及び母材4に接続される。溶接電源1は、電源回路11に接続された第1電源端子及び第2負電源端子を備える。第1電源端子には、溶接トーチ2が接続される2次側パワーケーブル(往路)が接続される。第2電源端子には、母材4が接続される2次側パワーケーブル(復路)が接続される。なお、1次側パワーケーブルは、3相200V等の商標電源(外部電源)と、電源回路11とを接続するパワーケーブルである。
【0017】
送給制御回路10は、設定された所定の送給速度で溶接ワイヤ5を送給するための送給制御信号Fcをワイヤ送給部3へ出力する回路である。送給制御回路10は、設定された一定値の送給制御信号Fcを出力し、定速で溶接ワイヤ5を送給させてもよいし、正負の台形波状に変化する送給パターンの送給速度設定信号Frを出力し、溶接ワイヤ5を周期的に正逆送させてもよい。
【0018】
電流検出回路12は、例えば、溶接電源1から溶接トーチ2を介して溶接ワイヤ5へ供給され、アークを流れる溶接電流Iwを検出し、検出した電流値を示す電流検出信号Idを電流設定変化量算出回路16及び電流誤差増幅回路18へ出力する。
【0019】
電圧検出回路13は、溶接電圧Vwを検出し、検出した電圧値を示す出力電圧検出信号Vdを電流設定変化量算出回路16へ出力する。
【0020】
出力電圧設定回路14は、設定電圧を示す出力電圧設定信号Erを電流設定変化量算出回路16へ出力する。設定電圧は、例えば、作業者による操作パネル19の操作によって溶接電源1に設定された電圧である。なお、設定電流に応じた一元電圧を設定電圧としてもよい。
【0021】
出力特性設定回路15は、電源回路11の出力特性、特にアーク期間における外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスに係る設定信号を電流設定変化量算出回路16へ出力する回路である。出力特性設定回路15は、外部特性設定回路151と、インダクタンス設定回路152と、調整回路153とを備える。
【0022】
外部特性設定回路151は、電源回路11の出力特性の一つである外部特性の傾きを示す外部特性傾き設定信号Rrを電流設定変化量算出回路16へ出力する。溶接条件に応じた標準値としての外部特性の傾きが溶接電源1に設定され、外部特性設定回路151は、基本的に当該外部特性の傾き(標準値)を示す外部特性傾き設定信号Rrを出力する。ただし、後述するように調整回路153から外部特性の傾きの調整量を示す傾き調整値信号ΔRが出力されている場合、当該傾き調整値信号ΔRに基づいて調整された外部特性傾き設定信号Rrを電流設定変化量算出回路16へ出力する。
【0023】
インダクタンス設定回路152は、電源回路11の出力特性の一つである電子リアクトルLのインダクタンスを示すインダクタンス設定信号Lrを電流設定変化量算出回路16へ出力する。溶接条件に応じた標準値としてのインダクタンスが溶接電源1に設定され、インダクタンス設定回路152は、基本的に当該インダクタンス(標準値)を示すインダクタンス設定信号Lrを出力する。ただし、後述するように調整回路153からインダクタンスの調整量を示すインダクタンス調整値信号ΔLが出力されている場合、当該インダクタンス調整値信号ΔLに基づいて調整されたインダクタンスを電流設定変化量算出回路16へ出力する。
【0024】
調整回路153は、溶接姿勢を示す溶接姿勢データと、溶接ワイヤ5の材質を示すワイヤ材質データと、2次側パワーケーブルの長さを示すケーブル長データとを取得し、取得した溶接姿勢データと、ワイヤ材質データと、ケーブル長データとに基づいて、外部特性の傾き又は電子リアクトルLのインダクタンスを調整する回路である。出力特性設定回路15の構成及び処理の詳細は後述する。
【0025】
調整回路153には入力端子を介して姿勢検出回路154が接続される。姿勢検出回路154は着脱可能に入力端子に接続される構成が好ましい。姿勢検出回路154は、溶接姿勢を検出する回路である。姿勢検出回路154は、下向き姿勢、立ち向き姿勢、横向き姿勢を検知するための信号を調整回路153へ出力する。
下向き姿勢は、母材4よりも鉛直上方に溶接トーチ2が位置した状態で、概ね水平方向にわたる溶接部又は継手を溶接する姿勢である。溶接方向は略水平方向となる。
立ち向き姿勢は、母材4に対して略水平方向に溶接トーチ2が対向した状態で、概ね鉛直方向にわたる溶接部又は継手を溶接する姿勢である。溶接方向は略鉛直方向となる。
横向き姿勢は、母材4に対して略水平方向に溶接トーチ2が対向した状態で、概ね水平方向にわたる溶接部又は継手を溶接する姿勢である。溶接方向は略水平方向となる。
【0026】
姿勢検出回路154は、例えば溶接トーチ2に搭載されたジャイロセンサである。ジャイロセンサの情報から溶接姿勢、言い換えると溶接トーチ2の姿勢を特定することができる。ロボット溶接の場合、多関節マニピュレータを構成する各アームに設けられた回転角度センサを姿勢検出回路154として利用してもよい。各アームの角度情報から溶接トーチ2の溶接姿勢、言い換えると溶接トーチ2の姿勢を特定することができる。調整回路153は、姿勢検出回路154から出力される信号を受信し、溶接姿勢を示す溶接姿勢データとして取得する。
【0027】
なお、溶接姿勢データは、下向き姿勢、立ち向き姿勢及び横向き姿勢の3通りを峻別して示すデータでもよいし、下向き姿勢と、立ち向き姿勢及び横向き姿勢の2通りを峻別して示すデータでもよい。
また、溶接姿勢データは、水平面又は鉛直面に対する溶接トーチ2の姿勢を連続的に又は多段連続的に示すデータであってもよい。この場合、溶接姿勢データは下向き姿勢、立ち向き姿勢及び横向き姿勢の中間的な姿勢も示すことができる。
【0028】
また調整回路153には、操作パネル19が接続されている。作業者は操作パネル19を操作することによって溶接電源1に、溶接ワイヤ5の材質を示すワイヤ材質と、2次側パワーケーブルの長さを入力することができる。調整回路153は、操作パネル19を介して、溶接ワイヤ5の材質を示すワイヤ材質データと、2次側パワーケーブルの長さを示すケーブル長データとを取得する。
溶接ワイヤ5の材質には、鉄製と、非鉄金属製とが含まれる。2次側パワーケーブルは、溶接電源1と溶接トーチ2を接続するケーブル(往路)の長さと、溶接電源1と母材4とを接続するケーブル(復路)の長さのとの和である。なお、鉄製と、非鉄金属製とを示すワイヤ材質データは一例である。ワイヤ材質データは、溶接ワイヤ5の成分であって、溶接条件を左右するデータであれば特に限定されるものでは無い。
ケーブル長データは、実質的に2次側パワーケーブルの長さを示すデータで、その表現態様は限定されるものでは無い。例えば、ケーブル長データは、2次側パワーケーブルのインダクタンス、電気抵抗値等を示すデータが含まれる。
【0029】
なお、操作パネル19にて溶接姿勢の設定を受け付けるように構成してもよい。この場合、姿勢検出回路154は不要である。調整回路153は、操作パネル19を介して、溶接姿勢を示す溶接姿勢データを取得する。
【0030】
電流設定変化量算出回路16、電流設定積分回路17及び電流誤差増幅回路18は、電源回路11の外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスを電子的に変動させるための回路である。
【0031】
出力特性の電子制御について説明する。
溶接電源1の通電経路には、電気抵抗R及び電子リアクトルLが存在する。電気抵抗Rの抵抗値Rmは、溶接電源1の内部の配線及び外部の給電ケーブル等に起因する固定分の抵抗値を含めた電子的に形成される抵抗値である。電子リアクトルLのインダクタンスLmは、溶接電源1の内部に設けられたコイル及び給電ケーブルの引き回しに起因する固定分のインダクタンスを含めた電子的に形成されるインダクタンスである。通常、抵抗値Rmは0.01~0.3Ω、インダクタンスLmは20~500μHである。
【0032】
図1に示す溶接電源1は、電源回路11に電気抵抗R、電子リアクトルL、並びに溶接トーチ2及び母材4が直列接続された回路と等価であり、溶接トーチ2及び母材4における降下電圧を溶接電圧Vwとすると、電源回路11の出力電圧は、下記式を満たす。
E=Rm・i+Lm・di/dt+v・・・(1)
但し、
E:電源回路11の出力電圧
Rm:電気抵抗Rの抵抗値
Lm:電子リアクトルLのインダクタンス
i:溶接電流Iwの値
v:溶接電圧Vwの値
t:時間
【0033】
上記式(1)を整理すると、下記式(2)となる。
di/dt=(E-v-Rm・i)/Lm・・・(2)
【0034】
上記式(2)の両辺を積分すると、下記式(3)となる。
i=∫{(E-v-Rm・i)/Lm}・dt・・・(3)
【0035】
ここで、上記式(3)の左辺の電流値iを、電源回路11の出力を制御するための溶接電流制御設定値(Irc)に、出力電圧Eを、出力電圧設定値(Er)に、右辺の電流値iを、検出された溶接電流Iwの電流値(Id)に、電圧値vを、検出された溶接電圧Vwの電圧値(Vd)に、抵抗値(Rm)を外部特性の傾き設定値(Rr)、インダクタンス(Lm)を、インダクタンス設定値(Lr)にそれぞれ置換すると、上記式(3)は、下記式(4)で表される。
Irc=∫{(Er-Vd-Rr・Id)/Lr}・dt・・・(4)
但し、
Irc:溶接電流制御設定値
Er:出力電圧設定値
Rr:外部特性の傾き設定値
Lr:インダクタンス設定値
Vd:溶接電圧Vwの検出値
Id:溶接電流Iwの検出値
【0036】
電流設定変化量算出回路16は、上記各回路から出力され、入力された出力電圧検出信号Vd、電流検出信号Id、出力電圧設定信号Er、外部特性傾き設定信号Rr及びインダクタンス設定信号Lrに基づいて、電流設定値の単位時間当たりの変化量(Er-Vd-Rr・Id)/Lrを算出し、当該変化量を示す電流設定変化量信号ΔIrを電流設定積分回路17へ出力する。
【0037】
電流設定積分回路17は、電流設定変化量算出回路16から出力され、入力された電流設定変化量信号ΔIrを積分し、積分して得た溶接電流制御設定信号Ircを電流誤差増幅回路18へ出力する。溶接電流制御設定信号Ircが示す溶接電流Iwの設定値は、上記式(4)で表される。
以上の通り、電流設定変化量算出回路16及び電流設定積分回路17は、上記式(4)を演算する回路に相当する。
【0038】
電流誤差増幅回路18は、電流検出回路12から出力された電流検出信号Id(-)と、電流設定積分回路17から出力された溶接電流制御設定信号Irc(+)との差分を増幅し、当該差分を示す増幅された電流誤差増幅信号Eiを電源回路11へ出力する。
【0039】
電源回路11は、給電ケーブルを介して、溶接トーチ2のコンタクトチップ及び母材4に接続され、溶接電流Iwを供給する回路である。電源回路11は、3相200V等の商用電源を入力として、電流誤差増幅信号Eiに従ってインバータ制御による出力制御を行い、出力電圧Eを出力する。電源回路11は、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器を備える。電源回路11は、電流誤差増幅回路18から出力された電流誤差増幅信号Eiに従って、上記式(4)が満たされるように出力を制御する。
【0040】
このようにして、電源回路11は、アーク期間において、所要の外部特性の傾き及び電子リアクトルLを形成し、定電圧特性を実現する。なお、電流誤差増幅回路18は、電流検出信号Id及び出力電圧検出信号Vdに基づいて、短絡及びアークの発生を検出している。電流誤差増幅回路18は、アーク期間中、上記の通り定電圧特性を実現するための電流設定変化量信号ΔIrを出力し、短絡期間中は、定電流特性を実現するための電流設定変化量信号ΔIrを出力している。なお、短絡期間中は、図示しない定電流設定回路が溶接電流制御設定信号Ircを電流誤差増幅回路18へ出力するように構成してもよい。
【0041】
図2は、本実施形態に係る調整回路153等の構成例を示すブロック図である。
図2Aは、調整回路153のブロック図である。調整回路153は、演算装置153a、記憶部153b、入力部153c及び出力部153dを備える。
【0042】
演算装置153aは、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)等の1又は複数の演算装置153a、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の内部記憶装置、I/O端子、計時部等を有するプロセッサ又はコンピュータである。演算装置153aは、TPU(Tensor Processing Unit)、GPGPU(General-Purpose Computing on Graphics Processing unit)、又はAIチップ(AI用半導体)等の1又は複数の回路を備えてもよい。演算装置153aには、記憶部153bと、出力部153dと、出力部153dとが接続されている。
【0043】
演算装置153aは、記憶部153bが記憶するコンピュータプログラム(プログラム製品)135を実行することによって、本実施形態に係る出力特性調整処理を実施する。コンピュータプログラム155を実行することにより、演算装置153aは、
溶接姿勢、溶接ワイヤ5の材質と、2次側パワーケーブルのケーブル長に応じて、電源回路11の外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスを最適化する処理を実行する。なお、出力特性調整処理に係る各種処理機能部は、ソフトウェア的に実現しても良いし、一部又は全部をハードウェア的に実現しても良い。
【0044】
記憶部153bは、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリである。記憶部153bは、電源回路11の出力特性を調整するためのコンピュータプログラム155を記憶する。また、記憶部153bは、学習モデル156を記憶する。学習モデル156の詳細は後述する。
【0045】
コンピュータプログラム155は、プログラム提供サーバからネットワークを介して配信される態様でもよい。溶接電源1は通信にてプログラム提供サーバからコンピュータプログラム155を取得して記憶部153bに書き込む。コンピュータプログラム155は、フラッシュメモリ等の半導体メモリ、光ディスク、光磁気ディスク、磁気ディスク等の記録媒体6に読み出し可能に記録された態様でもよい。
【0046】
入力部153cは、姿勢検出回路154及び操作パネル19から出力された信号又はデータが入力する入力回路である。入力部153cは、入力された信号及びデータを適宜処理し、溶接姿勢データ、ワイヤ材質データ及びケーブル長データとして演算装置153aに与える。
【0047】
出力部153dは、演算装置153aによる演算処理によって得られた外部特性の傾きの調整量を示す傾き調整値信号ΔRと、インダクタンスの調整量を示すインダクタンス調整値信号ΔLとをそれぞれ外部特性設定回路151及びインダクタンス設定回路152へ出力する回路である。
【0048】
図2Bは学習モデル156の構成を示す概念図である。学習モデル156は、例えば深層学習による学習済みのニューラルネットワークを含む。学習モデル156は、溶接姿勢データ、ワイヤ材質データ、及びケーブル長データが入力される入力層156aと、これらのデータの特徴量を抽出する中間層156bと、外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスの調整方法を示す確度データを出力する出力層156cとを有する。
【0049】
出力層156cは、電源回路11の外部特性の傾きと、電子リアクトルLのインダクタンスの複数の調整方法に対応する複数のノードを有し、当該調整方法が適当であることの確からしさを示す確度データを出力する。例えば、外部特性の傾きが高くなるように調整すべきことを示す確度データを出力するノード、外部特性の傾きが低くなるように調整すべきことを示す確度データを出力するノード、外部特性の傾きの調整が不要であることを示す確度データを出力するノードを含む。
出力層156cは、インダクタンスの複数の調整方法に対応する複数のノードを有し、当該調整方法が適当であることの確からしさを示す確度データを出力する。例えば、電子リアクトルLのインダクタンスが大きくなるように調整すべきことを示す確度データを出力するノード、当該インダクタンスが小さくなるように調整すべきことを示す確度データを出力するノード、当該インダクタンスの調整が不要であることを示す確度データを出力するノードを含む。
【0050】
学習モデル156の各層は複数のノードを有する。各層のノードはエッジで結ばれている。各層は、活性化関数(応答関数)を有し、エッジは重みを有する。各層のノードから出力される値は、前の層のノードの値と、エッジの重みと、各層が持つ活性化関数とから計算される。エッジの重みは、学習によって変化させることができる。
【0051】
学習モデル156の生成方法を説明する。まず、さまざまな溶接姿勢データ、ワイヤ材質データ、ケーブル長データを組み合わせたデータと、当該データが示す条件における外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスの調整方法を示す教師データとを含む訓練データを用意する。教師データは、学習モデル156から出力されるデータの正解値である。
【0052】
そして、訓練データの溶接姿勢データ、ワイヤ材質データ及びケーブル長データが、ニューラルネットワークに入力された場合に、当該ニューラルネットワークから出力されるデータと、教師データが示すデータとの誤差(所定の損失関数又は誤差関数の値)が小さくなるように、誤差逆伝播法、誤差勾配降下法等を用いて、各エッジの重み係数を最適化することによって、学習モデル156を生成することができる。
【0053】
なお、学習モデル156の一例として時系列を考慮しないニューラルネットワークモデルを説明したが、RNN(Recurrent Neural Network)、LSTM(Long Short-Term Memory)、その他のニューラルネットワークにて学習モデル156を構成してもよい。決定木、ランダムフォレスト、SVM(Support Vector Machine)等のその他の機械学習アルゴリズムを用いた学習モデル156を用いてもよい。学習モデル156は、上記した複数のアルゴリズムを組み合わせて構成してもよい。
【0054】
<出力特性調整処理>
図3は、外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスの調整処理手順を示すフローチャートである。演算装置153aは、溶接姿勢データと、ワイヤ材質データと、ケーブル長データを取得する(ステップS11)。
【0055】
演算装置153aは、取得した溶接姿勢データ、ワイヤ材質データ及びケーブル長データを学習モデル156に入力することにって、外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスの調整方法に係る確度データを出力する(ステップS12)。
【0056】
演算装置153aは、学習モデル156から出力された確度データに基づいて、外部特性の傾きを調整する(ステップS13)。つまり、演算装置153aは、最も大きな確度データが出力されたノードに対応する外部特性の傾きの調整方法を選択し、外部特性の傾きを調整する。具体的には、本実施形態では、演算装置153aは、「外部特性の傾き:大」の確度が大きい場合、正の傾き調整値信号ΔRを外部特性設定回路151へ出力する。「外部特性の傾き:小」の確度が大きい場合、負の傾き調整値信号ΔRを外部特性設定回路151へ出力する。外部特性設定回路151は、調整回路153から出力された傾き調整値信号ΔRに基づいて外部特性の傾きを調整する。「外部特性の傾き:調整無し」の確度が大きい場合、演算装置153aは、外部特性の傾きを変更しない。
【0057】
演算装置153aは、学習モデル156から出力された確度データに基づいて、電子リアクトルLのインダクタンスを調整する(ステップS14)。つまり、演算装置153aは、最も大きな確度データが出力されたノードに対応する電子リアクトルLの調整方法を選択し、電子リアクトルLのインダクタンスを調整する。具体的には、演算装置153aは、「電子L:大」の確度が大きい場合、電子リアクトルLのインダクタンスを所定量大きくし、「電子L:小」の確度が大きい場合、電子リアクトルLのインダクタンスを所定量小さくする。インダクタンス設定回路152は、調整回路153から出力されたインダクタンス調整値信号ΔLに基づいて電子リアクトルLのインダクタンスを調整する。「電子L:調整無し」の確度が大きい場合、演算装置153aは、電子リアクトルLのインダクタンスを変更しない。
【0058】
そして、電流設定積分回路17及び電流設定積分回路17は、調整された外部特性の傾きと、電子リアクトルLのインダクタンスに応じた溶接電流制御設定値を求め、電源回路11の出力を制御する(ステップS15)。
【0059】
なお、外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスの変更は、短絡期間からアーク期間への切り替わりタイミング、又はアーク期間から短絡期間への切り替わりタイミングで行うとよい。
【0060】
<作用効果>
本実施形態に係る溶接電源1は、短絡期間とアーク期間を繰り返す溶接方法において、学習モデル156を利用し、溶接姿勢、溶接ワイヤ5の材質、2次側パワーケーブル長の情報に基づいて、溶接電源1の外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスを自動的に適正化し、安定した溶接ビードを形成できる等、溶接品質を向上させることができる。外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスの適正値は、特に溶接姿勢、溶接ワイヤ5の材質、2次側パワーケーブル長によって変動する。詳細は以下の通りである。
(1)溶接姿勢
立ち向き溶接又は横向き溶接の場合、溶融金属が垂れ落ち易くなる。このような場合、外部特性の傾きの絶対値及び電子リアクトルLのインダクタンスの絶対値を小さくして、短絡及びアーク周期を短くし、1周期における溶融金属の凝固時間を短くすることが望ましい。
(2)ワイヤ材質
非鉄金属製の溶接ワイヤ5においては、溶接中、アーク周辺に陰極点が這い回るため正確なアーク長情報を溶接電圧Vwから得られにくい。このような場合、外部特性の傾きの絶対値及び電子リアクトルLのインダクタンスの絶対値を大きくして、短絡及びアーク周期を長くすることが望ましい。
(3)2次側パワーケーブル長
2次側パワーケーブルが長くなると溶接電流Iwの変化量が小さくなる。特に、アーク期間の電流変化量が小さくなると短絡及びアーク周期が長くなりやすい。半自動溶接の場合は操作性が低下し、自動機溶接の場合は溶接速度を下げなければ安定した溶接ビードが形成できない。このような場合、電子リアクトルLのインダクタンスの絶対値を小さくし、短絡及びアーク周期を短くすることが望ましい。
【0061】
図4は、外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスの調整内容の概要を示す図表である。
図4は、学習モデル156を用いて得られる外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスの調整内容の概要又はおおよその傾向を示すものである。
溶接姿勢が立ち向き姿勢又は横向き姿勢である場合、外部特性の傾きの絶対値及び電子リアクトルLのインダクタンスが小さくなるように調整される。
溶接ワイヤ5が非鉄金属製である場合、外部特性の傾きの絶対値及び電子リアクトルLのインダクタンスが大きくなるように調整される。
2次側パワーケーブルのケーブル長が往復20m以上である場合、電子リアクトルLのインダクタンスが小さくなるように調整される。外部特性の傾きは調整されない。
【0062】
図5は、外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスの調整方法を示すタイミングチャートである。
図5のタイミングチャートは、上から順に、溶接電流Iw、溶接ワイヤ5の送給速度、溶接速度、設定電流の時間変化を示している。
【0063】
溶接条件が以下に示す条件(1)から条件(2)へ切り替わった際の調整例を
図5に示す。
【0064】
条件(1)
溶接姿勢:下向き、外部特性の傾き:-6.0V/100A、電子L値:130μH、設定電流/電圧:200A/23.0V、
溶接速度:60cm/分
条件(2)
溶接姿勢:立向き、外部特性の傾き:-3.0V/100A、電子L値:80μH、設定電流/電圧:200A/23.0V
溶接速度:60cm/分
【0065】
図5に示すように、アーク期間中の時刻t1で溶接姿勢が下向き姿勢から立ち向き姿勢に切り替わった場合、演算装置153aは、変更後の溶接姿勢に適した、外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスを求める。条件(2)では、溶接姿勢が立ち向き姿勢であるため、外部特性の傾きの絶対値及び電子リアクトルLのインダクタンスは共に小さく調整される。ただし、演算装置153aは、次ぎのアーク発生まで外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスを変化させない。
時刻t2でアークの発生を検知すると、演算装置153aは、外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスを条件(1)から条件(2)に示す値に切り替える。具体的には、演算装置153a、外部特性の傾きを-6V/100Aから-3V/100Aに変化させ、同時に電子リアクトルLのインダクタンスを130μHから80uHに変化させる。これにより、アーク期間の電流変化量が大きくなり短絡周波数が高くなるためアーク長が変化しにくく立向き溶接で安定した溶接ビードを形成することが可能になる。
【0066】
以上の通り、本実施形態に係るアーク溶接装置、アーク溶接方法及びコンピュータプログラム155によれば、溶接姿勢、溶接ワイヤ5の材質、2次側パワーケーブル長に応じて、溶接電源1の外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスを調整し、溶接品質を向上させることができる。
従って、溶接姿勢、ワイヤ材質、2次側パワーケーブル長の違いにより溶接性能が変化するような環境でも、自動的に外部特性の傾きと電子リアクトルLのインダクタンスを適正化し、安定した溶接結果を得ることができる。
溶接姿勢、ワイヤ材質、2次側パワーケーブル長の変化に応じた条件出しが不要でスキルレスの学習機能である。
【0067】
本実施形態によれば、学習モデル156を用いることにより、ルールベースに比べより的確に溶接電源1の外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスを調整することができる。
【0068】
なお、本実施形態では、溶接電源1の外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスの調整を所定量だけ増減させる制御を行う例を説明したが、学習モデル156が溶接電源1の外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスの調整量の大きさを示す情報を出力するように構成してもよい。例えば、学習モデル156に、溶接電源1の外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスの調整量の大きさに応じた複数のノードを設けるとよい。また、出力層156cは、外部特性の傾きの補正量を出力するノード、電子リアクトルLのインダクタンスの補正量を出力するノードを備えてもよい。
【0069】
本実施形態では、溶接電源1の出力特性設定回路15、特に調整回路153が外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスを調整する例を説明したが、溶接電源1の他の回路、外部サーバ、その他の情報処理装置が当該調整を実行するように構成してもよい。
【0070】
本実施形態では、機械学習により、外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスを調整する例を説明したが、
図4に示す図表に従って、ルールベースで外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスを調整するように構成してもよい。
具体的には、演算装置153aは、溶接姿勢が立ち向き姿勢又は横向き姿勢であるか否かを判定し、立ち向き姿勢又は横向き姿勢であると判定した場合、外部特性の傾きの絶対値を減少させると共に、電子リアクトルLのインダクタンスも減少させる。演算装置153aは、溶接ワイヤ5が非鉄金属製であるか否かを判定し、溶接ワイヤ5が非鉄金属製であると判定した場合、外部特性の傾きの絶対値を増加させると共に、電子リアクトルLのインダクタンスも増加させる。演算装置153aは、2次側パワーケーブルのケーブル長が所定長以上であるか否かを判定し、所定長以上であると判定した場合、電子リアクトルLのインダクタンスを減少させる。外部特性の傾きは調整しない。
【0071】
溶接姿勢変化は、溶接電流Iwの波形制御周期よりも遅いため、溶接姿勢の変化については、溶接姿勢の変化に応じてスロープを付けて徐々に外部特性の傾き及び電子リアクトルLのインダクタンスを変化させても良い。
【符号の説明】
【0072】
1:溶接電源、2:トーチ、3:ワイヤ送給部、4:母材、5:溶接ワイヤ、11:電源回路、12:電流検出回路、13:電圧検出回路、14:出力電圧設定回路、15:出力特性設定回路、16:電流設定変化量算出回路、17:電流設定積分回路、18:電流誤差増幅回路、19:操作パネル、151:外部特性設定回路、152、インダクタンス設定回路、153:調整回路153、154:姿勢検出回路、153a:演算装置、153b:記憶部、153c:入力部、153d:出力部、155:コンピュータプログラム、156:学習モデル