(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135370
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】セラミック電子部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20230921BHJP
【FI】
H01G4/30 201C
H01G4/30 201K
H01G4/30 201D
H01G4/30 311D
H01G4/30 513
H01G4/30 516
H01G4/30 512
H01G4/30 517
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040534
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】増田 秀俊
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC01
5E001AC09
5E001AH01
5E001AJ01
5E082AB03
5E082BC35
5E082BC36
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082EE45
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082LL02
5E082PP03
5E082PP09
(57)【要約】
【課題】 絶縁信頼性を向上させることができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 セラミック電子部品は、チタン酸バリウムを含む誘電体層と、内部電極層とが交互に積層された積層チップを備え、前記内部電極層は、主成分元素と、前記主成分元素よりも含有量の少ない副元素とを含み、前記誘電体層は、複数の結晶粒を備え、前記複数の結晶粒のシェル部および粒界に前記副元素が偏析する偏析部が形成されており、前記内部電極層は、前記誘電体層との界面近傍に前記副元素を高濃度で含む高濃度層を備え、前記高濃度層において、前記内部電極層が延在する方向における前記副元素の濃度の変動範囲が、前記高濃度層全体における前記副元素の平均濃度の30%以下であることを特徴とする。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムを含む誘電体層と、内部電極層とが交互に積層された積層チップを備え、
前記内部電極層は、主成分元素と、前記主成分元素よりも含有量の少ない副元素とを含み、
前記誘電体層は、複数の結晶粒を備え、
前記複数の結晶粒のシェル部および粒界に前記副元素が偏析して前記副元素の濃度が前記誘電体層全体における濃度に対して1.5倍以上となっている偏析部が形成されており、
前記内部電極層は、前記誘電体層との界面近傍に、前記副元素の濃度が前記内部電極層全体における濃度に対して1.5倍以上となっている高濃度層を備え、
前記高濃度層において、前記内部電極層が延在する方向における前記副元素の濃度の変動範囲が、前記高濃度層全体における前記副元素の平均濃度の30%以下であることを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記内部電極層の前記高濃度層以外の低濃度層において、前記内部電極層が延在する方向における前記副元素の濃度の変動範囲が、当該低濃度層全体における前記副元素の平均濃度の30%以下であることを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記誘電体層において、前記誘電体層が延在する方向における前記副元素の濃度の変動範囲が、前記誘電体層全体における前記副元素の平均濃度の30%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記内部電極層全体における前記副元素の平均濃度は、前記誘電体層全体における前記副元素の平均濃度よりも大きいことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記副元素の濃度の大きさは、前記高濃度層、前記偏析部、前記低濃度層、前記誘電体層における前記偏析部以外の領域の順であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記高濃度層の前記副元素の濃度、前記偏析部の前記副元素の濃度、前記低濃度層の前記副元素の濃度、前記誘電体層における前記偏析部以外の領域の前記副元素の濃度のそれぞれの差異は、0.1at%以上、2at%以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記誘電体層の厚みは、1μm以下であり、
前記内部電極層の厚みは、1μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
前記内部電極層の前記主成分元素は、Niであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項9】
前記副元素は、Ag、As、Au、Co、Cr、Cu、Fe、In、Ir、Mg、Mo、Os、Pd、Pt、Re、Rh、Ru、Se、Sn、Te、W、Y、Zn、およびGeの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項10】
チタン酸バリウムを含む誘電体グリーンシート上に、主成分元素と前記主成分元素よりも含有量の少ない副元素とを含む内部電極パターンを形成することによって積層単位を形成する工程と、
前記内部電極パターンの表面を酸素プラズマによって酸化させる工程と、
複数の前記積層単位を積層することによって積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成する工程と、を含むことを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化に伴い、電子機器に搭載される積層セラミックコンデンサなどのセラミック電子部品についても、さらなる小型化が求められている。基本特性である容量値を大きくするためには、(1)誘電体層の誘電率を大きくする、(2)容量規定面積を大きくする、(3)誘電体層を薄くする、のいずれかの手段が考えられる。誘電率と素子サイズとが既定の場合、誘電体層が薄いほど1層あたりの容量値を大きくできることに加え、誘電体層および内部電極層を薄くすることにより、既定の厚さ内に積層する数を大きくすることが可能となるため、大容量化に有利となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
誘電体層が薄くなると、誘電体層に印加される電界強度が大きくなるため、絶縁信頼性が低下するおそれがある。セラミック電子部品において、素子の絶縁性は、誘電体の粒界およびシェルに偏析する副元素によって担保されることが多い。例えば、誘電体スラリに副元素を混ぜると、副元素の分散が不均一になり易い。副元素が過剰な部位では、リークパスが生成されて絶縁を弱める場合がある。副元素が不足する部位では、粒界およびシェルの抵抗を十分に高めることができず、所望の絶縁状態が得られない場合がある。過不足となる部位の位置はランダムに発生するため、副元素を均一に分散させることは困難であった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、絶縁信頼性を向上させることができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るセラミック電子部品は、チタン酸バリウムを含む誘電体層と、内部電極層とが交互に積層された積層チップを備え、前記内部電極層は、主成分元素と、前記主成分元素よりも含有量の少ない副元素とを含み、前記誘電体層は、複数の結晶粒を備え、前記複数の結晶粒のシェル部および粒界に前記副元素が偏析して前記副元素の濃度が前記誘電体層全体における濃度に対して1.5倍以上となっている偏析部が形成されており、前記内部電極層は、前記誘電体層との界面近傍に、前記副元素の濃度が前記内部電極層全体における濃度に対して1.5倍以上となっている高濃度層を備え、前記高濃度層において、前記内部電極層が延在する方向における前記副元素の濃度の変動範囲が、前記高濃度層全体における前記副元素の平均濃度の30%以下であることを特徴とする。
【0007】
上記セラミック電子部品の前記内部電極層の前記高濃度層以外の低濃度層において、前記内部電極層が延在する方向における前記副元素の濃度の変動範囲が、当該低濃度層全体における前記副元素の平均濃度の30%以下であってもよい。
【0008】
上記セラミック電子部品の前記誘電体層において、前記誘電体層が延在する方向における前記副元素の濃度の変動範囲が、前記誘電体層全体における前記副元素の平均濃度の30%以下であってもよい。
【0009】
上記セラミック電子部品において、前記内部電極層全体における前記副元素の平均濃度は、前記誘電体層全体における前記副元素の平均濃度よりも大きくてもよい。
【0010】
上記セラミック電子部品において、前記副元素の濃度の大きさは、前記高濃度層、前記偏析部、前記低濃度層、前記誘電体層における前記偏析部以外の領域の順であってもよい。
【0011】
上記セラミック電子部品において、前記高濃度層の前記副元素の濃度、前記偏析部の前記副元素の濃度、前記低濃度層の前記副元素の濃度、前記誘電体層における前記偏析部以外の領域の前記副元素の濃度のそれぞれの差異は、0.1at%以上、2at%以下であってもよい。
【0012】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層の厚みは、1μm以下であり、前記内部電極層の厚みは、1μm以下であってもよい。
【0013】
上記セラミック電子部品において、前記内部電極層の前記主成分元素は、Niであってもよい。
【0014】
上記セラミック電子部品において、前記副元素は、Ag、As、Au、Co、Cr、Cu、Fe、In、Ir、Mg、Mo、Os、Pd、Pt、Re、Rh、Ru、Se、Sn、Te、W、Y、Zn、およびGeの少なくとも1種であってもよい。
【0015】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、チタン酸バリウムを含む誘電体グリーンシート上に、主成分元素と前記主成分元素よりも含有量の少ない副元素とを含む内部電極パターンを形成することによって積層単位を形成する工程と、前記内部電極パターンの表面を酸素プラズマによって酸化させる工程と、複数の前記積層単位を積層することによって積層体を形成する工程と、前記積層体を焼成する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、絶縁信頼性を向上させることができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
【
図4】(a)はコアシェル粒子を例示する図であり、(b)は誘電体層の模式的な断面図であり、(c)は誘電体層の模式的な平面図である。
【
図5】(a)は、結晶粒と結晶粒との結晶粒界近傍において、STEM-EDSライン分析を行なった位置を示す図であり、(b)はSTEM-EDSライン分析の結果を表す図である。
【
図6】(a)は誘電体層と内部電極層との界面近傍において、STEM-EDSライン分析を行なった位置を示す図であり、(b)はSTEM-EDSライン分析の結果を表す図である。
【
図7】内部電極層における高濃度層および低濃度層を例示する図である。
【
図8】高濃度層の平面図において、副元素濃度を模様の濃淡で描いた図である。
【
図9】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
【
図10】(a)~(c)は積層工程を例示する図である。
【
図11】実施例1および比較例1,2のHALT試験結果を、累積故障率として表したワイブルプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。
図2は、
図1のA-A線断面図である。
図3は、
図1のB-B線断面図である。
図1~
図3で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0020】
積層チップ10は、積層構造とカバー層13とを備えている。積層構造は、誘電体層11と内部電極層12とが交互に積層された積層部分を含み、略直方体形状を有し、積層された複数の内部電極層12が、2端面に交互に露出するように形成された構造を有している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層構造において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層構造の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じであっても構わない。
【0021】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.110mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.1mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0022】
内部電極層12は、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属を主成分元素とする。内部電極層12の主成分元素として、Pt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。内部電極層12において、主成分元素の濃度は、90at%~99.99at%程度である。内部電極層12は、主成分元素に加えて、副元素を含んでいる。副元素は、特に限定されるものではないが、例えば、Ag、As(砒素)、Au、Co(コバルト)、Cr(クロム)、Cu、Fe(鉄)、In(インジウム)、Ir(イリジウム)、Mg(マグネシウム)、Mo(モリブデン)、Os(オスミウム)、Pd、Pt、Re(レニウム)、Rh(ロジウム)、Ru(ルテニウム)、Se(セレン)、Sn、Te(テルル)、W(タングステン)、Y(イットリウム)、Zn(亜鉛)、およびGe(ゲルマニウム)の少なくとも1種である。これらの副元素は、内部電極層12に存在しつつ誘電体層11にも拡散し、積層セラミックコンデンサ100の絶縁性を高める効果を発揮する。これらの副元素のうち、Au、Co、Cr、Fe、In、Mg、Sn、Y、Znは、絶縁性を高める効果を大きく発揮する。内部電極層12の厚さは、例えば、10nm以上、1000nm以下であり、20nm以上、500nm以下であり、50nm以上、300nm以下である。内部電極層12の厚さは、積層セラミックコンデンサ100の断面をSEMで観察し、異なる10層の内部電極層12についてそれぞれ10点ずつ厚みを測定し、全測定点の平均値を導出することによって測定することができる。
【0023】
誘電体層11は、例えば、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主相とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaおよびTiを含んでペロブスカイト構造を有する材料を用いることができる。例えば、BaTiO3(チタン酸バリウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaxSryTi1-zZrzO3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等を用いることができる。
【0024】
本実施形態において、例えば、1層あたりの誘電体層11の厚みは、0.05μm以上5μm以下であり、または0.1μm以上3μm以下であり、または0.2μm以上1μm以下である。誘電体層11の厚みは、積層セラミックコンデンサ100の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、異なる10層の誘電体層11についてそれぞれ10点ずつ厚みを測定し、全測定点の平均値を導出することによって測定することができる。
【0025】
図2で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該電気容量を生じる領域を、容量領域14と称する。すなわち、容量領域14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層12同士が対向する領域である。
【0026】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン15である。すなわち、エンドマージン15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン15は、電気容量を生じない領域である。
【0027】
図3で例示するように、積層チップ10において、積層チップ10の2側面から内部電極層12に至るまでの領域をサイドマージン16と称する。すなわち、サイドマージン16は、上記積層構造において積層された複数の内部電極層12が2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。サイドマージン16も、電気容量を生じない領域である。なお、上述した積層チップ10に含まれる積層構造は、容量領域14とサイドマージン16とが相当する。
【0028】
誘電体層11は、複数の結晶粒を含んでいる。複数の結晶粒のうち少なくとも一部は、コアシェル構造を有するコアシェル粒子30である。
【0029】
図4(a)で例示するように、コアシェル粒子30は、略球形状のコア部31と、コア部31を囲むように覆うシェル部32とを備えている。コア部31は、添加元素が固溶していないもしくは添加元素の固溶量が少ない結晶部分である。シェル部32は、添加元素が固溶しておりかつコア部31の添加元素濃度よりも高い添加元素濃度を有している結晶部分である。例えば、コア部31はチタン酸バリウムであり、シェル部32はチタン酸バリウムを主成分として、チタン酸バリウムに添加元素が固溶した構造を有している。添加元素の中には、内部電極層12から拡散してくる副元素も含まれる。なお、コア部31は、シェル部32よりも電気抵抗が低く、誘電率が高くなる傾向にある。シェル部32は、コア部31よりも電気抵抗が高く、誘電率が低くなる傾向にある。誘電体層11の絶縁性は、コア部31よりもシェル部32に支配される傾向にある。
【0030】
図4(b)は、誘電体層11の模式的な断面図である。
図4(b)で例示するように、誘電体層11は、主成分セラミックの複数の結晶粒17を備えている。これらの結晶粒17のうち、少なくとも一部が
図4(a)で説明したコアシェル粒子30である。複数の結晶粒17の間には、結晶粒界18が形成される。
【0031】
図4(c)は、誘電体層11の模式的な平面図である。
図4(c)で例示するように、誘電体層11は、平面視においても、複数の結晶粒17を備えている。これらの結晶粒17のうち、少なくとも一部が
図4(a)で説明したコアシェル粒子30である。複数の結晶粒17の間には、結晶粒界18が形成される。
【0032】
内部電極層12の副元素は、結晶粒界18およびシェル部32に偏析するようになる。具体的には、副元素の偏析部が現れる。偏析部とは、副元素濃度が誘電体層11の全体における副元素濃度に対して1.5倍以上となる部分のように定義することができる。偏析部は、結晶粒界18の全体に現れることもあれば、一部に現れることもある。
【0033】
図5(a)は、結晶粒17と隣接する結晶粒17との結晶粒界18近傍において、STEM(走査型透過型電子顕微鏡)-EDS(エネルギー分散型X線分光法)ライン分析を行なった位置を示す図である。一例として、誘電体層11の主成分はチタン酸バリウムであり、内部電極層12の主成分元素はNiであり、内部電極層12に添加した副元素はFeである。
【0034】
図5(b)は、STEM-EDSライン分析の結果を表している。一点鎖線は結晶粒界18を表している。
図5(b)に示すように、結晶粒17の内部では、Fe濃度およびNi濃度が低い値で略一定となっている。結晶粒界18に近づくと、Fe濃度およびNi濃度にピークが現れる。このように、結晶粒界18では、内部電極層12の主成分元素および副元素が偏析しやすくなっている。これらの濃度ピークは、所定の幅を有している。したがって、内部電極層12の主成分元素および副元素は、コアシェル粒子30のシェル部32にも偏析していると考えられる。
【0035】
積層セラミックコンデンサ100において、誘電体層11が薄いほど誘電体層11の1層あたりの容量値を大きくできることに加え、誘電体層11を薄くすることにより、既定の厚さ内に積層する数を大きくすることが可能となるため、大容量化に有利となる。
【0036】
しかしながら、誘電体層11が薄くなると,誘電体層11に印加される電界強度が大きくなるため、絶縁信頼性が低下するおそれがある。積層セラミックコンデンサ100において、素子の絶縁性は、内部電極層12から拡散してきて誘電体層11の結晶粒界18およびシェル部32に偏析する副元素によって担保されることが多い。従来手法のように焼成前の誘電体スラリに副元素を混ぜるだけでは、副元素の分散が不均一になりやすい。例えば、添加する副元素の粒子径を1nm~数10nmまで小さくすることが困難であるため、混ぜ方が不十分な場合には副元素の存在量が特定の場所に偏ってしまう。すなわち、少なくとも粒子径が数10nm以上の副元素の塊が、局所的に誘電体層11中に残るか、局所的に副元素の量が不足してしまうおそれがある。副元素が過剰な部位にはリークパスが生成し、絶縁を弱める場合がある。副元素が不足する部位では、結晶粒界18とシェル部32との間の抵抗を十分に高めることができず、所望の絶縁状態が得られない場合がある。副元素が過不足となる部位の位置はランダムに発生するため、所望の絶縁状態を得ることは困難であった。
【0037】
そこで、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100は、原子レベルでの副元素の拡散が可能となるため、絶縁信頼性を向上させることができる構造を有している。
【0038】
図6(a)は、STEM-EDSライン分析を行なった位置を示す図である。
図6(a)に示すように、誘電体層11と内部電極層12との界面付近において、誘電体層11から内部電極層12に向かってライン分析を行なった。
図6(a)において、黒太線で示した箇所が界面に相当する。この場合において、一例として、誘電体層11の主成分はチタン酸バリウムであり、内部電極層12の主成分元素はNiであり、内部電極層12に添加した副元素はFeである。
【0039】
図6(b)は、STEM-EDSライン分析の結果を表している。一点鎖線が誘電体層11と内部電極層12との界面を表している。
図6(b)に示すように、内部電極層12の内部では、Ni濃度が高い値で略一定となっており、Fe濃度が低い値で略一定となっている。誘電体層11と内部電極層12との界面に近づくと、Fe濃度にピークが現れる。このように、内部電極層12は、誘電体層11との界面近傍に、副元素を高濃度で含む高濃度層121を含む。高濃度層121は、副元素濃度が内部電極層12の全体における副元素濃度に対して1.5倍以上となっている層である。なお、副元素の濃度は、内部電極層12における主成分元素と副元素との合計に対する副元素の原子濃度である。
【0040】
図7で例示するように、内部電極層12は、誘電体層11との界面近傍(内部電極層12の表面から所定の厚さ範囲)に高濃度層121を備え、内部電極層12の厚み方向において2層の高濃度層121の間に、副元素濃度が低くなる低濃度層122を備える。
【0041】
図8は、高濃度層121の平面図において、副元素濃度を模様の濃淡で描いた図である。模様が濃いほど副元素の濃度が高いことを表し、模様が薄いほど副元素の濃度が低いことを表している。
図8で例示するように、副元素濃度に分布が見られるものの、全体として副元素濃度の差異が小さくなっている。具体的には、平面視した場合の高濃度層121の全体において各位置における副元素濃度の変動範囲(内部電極層12が延在する方向における副元素濃度の変動範囲)が、高濃度層121全体における副元素の平均濃度の30%以下となっている。すなわち、副元素の平均濃度をACとした場合に、各位置の副元素の濃度がAC±30%となっている。
【0042】
高濃度層121の各位置における副元素濃度とは、各位置における高濃度層121の厚さ方向の副元素濃度の平均値である。各位置とは、例えば、1μmの間隔で離れた各位置のことである。
【0043】
平面視した場合の高濃度層121の全体において各位置における副元素濃度の変動範囲が、高濃度層121全体における副元素の平均濃度の30%以下となっていることで、全体として副元素濃度の差異を小さくすることができ、副元素が略均一に分布することになる。この構成によれば、内部電極層12から副元素が誘電体層11に対して略均一に供給されるため、誘電体層11の面方向において副元素の供給状態が略均一になる。副元素は結晶粒界18を拡散するため、結晶粒界18およびシェル部32に効率よく供給される。比較的高速な粒界拡散を利用することができるため、焼成条件の調整のみで厚さ方向における副元素濃度の均一性を確保することができる。高濃度層121が副元素のバッファとして機能するため、誘電体層11への供給量の過不足が自動的に調整される。
【0044】
以上のことから、誘電体層11における副元素の分散が均一化されるため、過剰な副元素に起因する局所的なリークパスの発生が抑制される。また、副元素の不足箇所の発生も抑制されるため、所望の絶縁状態が得られることになる。したがって、誘電体層11の絶縁信頼性を向上させることができる。
【0045】
高濃度層121における副元素濃度の分布を均一化する観点から、平面視した場合の高濃度層121の全体において各位置における副元素濃度の変動範囲が、高濃度層121全体における副元素の平均濃度の30%以下になっていることが好ましく、20%以下になっていることがさらに好ましい。
【0046】
誘電体層11への副元素の供給を略均一にするためには、低濃度層122における副元素濃度も略均一になっていることが好ましい。例えば、平面視した場合の低濃度層122の全体において各位置における副元素濃度の変動範囲(内部電極層12が延在する方向における副元素濃度の変動範囲)が、低濃度層122全体における副元素の平均濃度の30%以下となっていることが好ましく、20%以下となっていることがより好ましく、10%以下となっていることがより好ましい。
【0047】
誘電体層11において副元素濃度を略均一に分布させる観点から、平面視した場合の誘電体層11の全体において各位置における副元素濃度の変動範囲(誘電体層11が延在する方向における副元素濃度の変動範囲)は、誘電体層11全体における副元素濃度の平均濃度の30%以下となっていることが好ましく、20%以下となっていることがより好ましく、10%以下となっていることがより好ましい。なお、誘電体層11の各位置における副元素濃度とは、各位置における誘電体層11の厚さ方向の副元素濃度の平均値である。副元素濃度は、副元素を含む全元素に対する副元素の原子濃度として算出することができる。各位置とは、例えば、1μmの間隔で離れた各位置のことである。
【0048】
内部電極層12の全体における副元素の平均濃度は、誘電体層11の全体における副元素の平均濃度よりも大きいことが好ましい。内部電極層12から誘電体層11に副元素を効率的に供給できるからである。
【0049】
副元素濃度は、高濃度層121、偏析部、低濃度層122、誘電体層11における偏析部以外の領域の順に大きいことが好ましい。内部電極層12から誘電体層11への副元素の供給を効率的に進め、且つ、絶縁に寄与する偏析部に十分な量の副元素を供給できるからである。
【0050】
高濃度層121の副元素濃度、偏析部の副元素濃度、低濃度層122の副元素濃度、誘電体層11における偏析部以外の領域の副元素濃度のそれぞれの差異は、0.1at%以上、2at%以下であることが好ましい。差異が小さすぎると作用が不十分になり,差異が大きすぎると濃度バランスが不安定になるからである。
【0051】
なお、誘電体層11が厚く形成されていると、内部電極層12から誘電体層11の中央部分まで副元素が十分に拡散せず、誘電体層11全体の絶縁性が十分に向上しないおそれがある。そこで、誘電体層11が薄く形成されている場合に、本実施形態の効果が顕著に発揮されることになる。例えば、誘電体層11の厚みが1μm以下である場合に、本実施形態の効果が顕著に発揮される。
【0052】
また、サイドマージン16は、内部電極層12からの距離が大きくなってしまうため、容量領域14と比較して偏析部の体積比率が小さくなる。また、エンドマージン15では、内部電極層12の数が減ってしまうため、エンドマージン15でも、容量領域14と比較して偏析部の体積比率が小さくなる。
【0053】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。
図9は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0054】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11、カバー層13、およびサイドマージン16を形成するための原料粉末を用意する。誘電体層11、カバー層13、およびサイドマージン16に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABO3の粒子の焼結体の形で含まれる。BaTiO3は、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiO3は、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11、カバー層13、およびサイドマージン16の主成分セラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0055】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加元素を添加する。添加元素としては、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、Cr、希土類元素(Y、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホロミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)およびYb(イッテルビウム))の酸化物、または、Co、Ni、Li(リチウム)、B(ホウ素)、Na(ナトリウム)K(、カリウム)もしくはSi(ケイ素)を含む酸化物、または、Co、Ni、Li、B、Na、KもしくはSiを含むガラスが挙げられる。
【0056】
例えば、セラミック原料粉末に添加元素を含む化合物を湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料を調製する。例えば、上記のようにして得られたセラミック材料について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上の工程により、原料粉末が得られる。
【0057】
(塗工工程)
次に、原料粉末作製工程で作製された原料粉末に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材51上に誘電体グリーンシート52を塗工して乾燥させる。基材51は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。
【0058】
(印刷工程)
次に、
図10(a)で例示するように、誘電体グリーンシート52上に、内部電極パターン53を成膜する。内部電極パターン53には、内部電極層12の主成分元素と副元素とが含まれている。これらの主成分元素および副元素は、粉末の状態で内部電極パターン53に含まれている。
図10(a)では、一例として、誘電体グリーンシート52上に4層の内部電極パターン53が所定の間隔を空けて成膜されている。内部電極パターン53が成膜された誘電体グリーンシート52を、積層単位とする。
【0059】
(酸化工程)
次に、内部電極パターン53の極最表面を酸素プラズマによって酸化して酸化膜56を形成する。極最表面とは、
図10(b)で例示するように、表面から1nm以下の厚さ領域のことである。これによって、極最表面において、内部電極層12の主成分元素および副元素が酸化して金属酸化物となる。なお、内部電極パターン53を大気に露出させるだけでは、極最表面の全体にわたって均一に酸化することは困難である。
【0060】
なお、酸素プラズマによる酸化処理に際し、プラズマのエネルギーが高すぎたり、処理時間が長すぎたりすると、極最表面よりも内部にまで酸化が進行し、焼成後の内部電極層12に電流が流れにくくなるおそれがある。そこで、適切な処理条件を設定し、電極の酸化を避けることが好ましい。
【0061】
(積層工程)
次に、誘電体グリーンシート52を基材51から剥がしつつ、
図10(c)で例示するように、積層単位を積層する。
【0062】
次に、積層単位が積層されることで得られた積層体の上下にカバーシート54を所定数だけ積層して熱圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。
図10(c)の例では、点線に沿ってカットする。カバーシート54は、誘電体グリーンシート52と同様に、原料粉末作製工程で作製された原料粉末に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合し、得られたスラリを使用して、ダイコータ法やドクターブレード法により、基材51上に塗工して乾燥させることで得ることができる。
【0063】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N2雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地層となる金属ペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成する。このようにして、積層セラミックコンデンサ100が得られる。
【0064】
(再酸化処理工程)
その後、N2ガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0065】
(めっき処理工程)
その後、めっき処理により、外部電極20a,20bに、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行ってもよい。
【0066】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の製造方法によれば、焼成工程で熱処理を行なうことで、熱拡散によって副元素が誘電体層11に供給される。内部電極パターン53の極最表面が酸化膜となっていることから、酸化物を主相とする誘電体層11も副元素が拡散しやすくなっている。したがって、位置ごとの拡散開始のタイムラグが小さくなる。一旦、副元素の拡散が開始されると、先に拡散した副元素が呼び水となり、続く副元素も拡散し易くなる。それにより、誘電体層11における副元素の分散が均一化されるため、過剰な副元素に起因する局所的なリークパスの発生が抑制される。また、副元素の不足箇所の発生も抑制されるため、所望の絶縁状態が得られることになる。したがって、誘電体層11の絶縁信頼性を向上させることができる。
【0067】
なお、上記各実施形態においては、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の電子部品を用いてもよい。
【実施例0068】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0069】
(実施例1)
チタン酸バリウムをセラミック成分の主成分として含む誘電体グリーンシートを準備し、その表面に導体ペーストを内部電極パターンとして印刷した。導体ペースト中の金属粉として、純Niではなく、1.0at%のFeを含む合金を用いた。この場合の濃度は、Fe/(Fe+Ni)のat%である。内部電極パターンの極最表面を酸素プラズマによって酸化させ、内部は酸化させなかった。内部電極パターンが形成された複数の誘電体グリーンシートを、あらかじめ準備したカバーシートの上に積層した。引き続き圧着、カット、外電電極用の金属ペーストの塗布、焼成を行い、積層セラミックコンデンサ素子を得た。
【0070】
得られた積層セラミックコンデンサについて、微細な結晶粒の状態を分析するため、1サンプルについて5点のSTEM-EDS分析を実施した。1μm程度の視野範囲で粒子の全景を確認した後、誘電体層と内部電極層との界面や誘電体層の結晶粒界の近傍を20nm□程度までの視野範囲で高倍率観察した。
【0071】
誘電体層の結晶粒界近傍のSTEM-EDS像を確認したところ、結晶粒界およびその近傍(シェル部)にFeおよびNiが偏析している様子が確認された。
【0072】
また、内部電極層と誘電体層との間の界面近傍のSTEM-EDS像を確認したところ、当該界面にFeが偏析している様子が確認された。また、内部電極層中に、界面近傍以外の領域にもFeが含まれている様子が確認された。内部電極層が延在する方向において副元素の濃度が内部電極層全体における濃度に対して1.5倍以上となっている高濃度層と定義されるFeの高濃度層の変動範囲は、当該高濃度層におけるFeの平均濃度に対して30%以下であった。また、内部電極層において当該高濃度層以外の低濃度層中のFe濃度の変動範囲は、当該低濃度層中のFeの平均濃度に対して30%以下であった。
【0073】
(実施例2)
副元素としてFeの代わりにAuを用いた。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0074】
実施例1と同様の手法で、STEM-EDS分析を実施した。誘電体層の結晶粒界近傍のSTEM-EDS像を確認したところ、粒界およびその近傍(シェル部)にAuおよびNiが偏析している様子が確認された。
【0075】
また、内部電極層と誘電体層との間の界面近傍のSTEM-EDS像を確認したところ、当該界面にAuが偏析している様子が確認された。また、内部電極層中に、界面近傍以外の領域にもAuが含まれている様子が確認された。内部電極層が延在する方向においてAuの高濃度層の変動範囲は、当該高濃度層におけるAuの平均濃度に対して30%以下であった。また、内部電極層において当該高濃度層以外の低濃度層中のAu濃度の変動範囲は、当該低濃度層中のAuの平均濃度に対して30%以下であった。
【0076】
(実施例3)
副元素としてFeの代わりにCrを用いた。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0077】
実施例1と同様の手法で、STEM-EDS分析を実施した。誘電体層の結晶粒界近傍のSTEM-EDS像を確認したところ、粒界およびその近傍(シェル部)にCrおよびNiが偏析している様子が確認された。
【0078】
また、内部電極層と誘電体層との間の界面近傍のSTEM-EDS像を確認したところ、当該界面にCrが偏析している様子が確認された。また、内部電極層中に、界面近傍以外の領域にもCrが含まれている様子が確認された。内部電極層が延在する方向においてCrの高濃度層の変動範囲は、当該高濃度層におけるCrの平均濃度に対して30%以下であった。また、内部電極層において当該高濃度層以外の低濃度層中のCr濃度の変動範囲は、当該低濃度層中のCrの平均濃度に対して30%以下であった。
【0079】
(比較例1)
比較例1では、副元素を導体ペーストに添加しなかった。すなわち、純Niの導体ペーストを内部電極パターンとして印刷した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0080】
(比較例2)
チタン酸バリウムをセラミック成分の主成分として含み、Feが添加された誘電体グリーンシートを準備し、その表面に導体ペーストを内部電極パターンとして印刷した。導体ペーストには純Niを用い、副元素を添加しなかった。すなわち、純Niの導体ペーストを内部電極パターンとして印刷した。誘電体グリーンシートに添加したFeの総量は、実施例1と等量になるようにした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0081】
実施例1と同様の手法で、STEM-EDS分析を実施した。Feは、内部電極層中では検出されなかった。
【0082】
内部電極層と誘電体層との間の界面近傍のSTEM-EDS像を確認したところ、当該界面のFe濃度の変動範囲は、当該界面全体におけるFeの平均濃度に対して50%程度であった。
【0083】
(比較例3)
比較例3では、内部電極パターンの極最表面に対する酸化を行なわなかった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0084】
実施例1と同様の手法で、STEM-EDS分析を実施した。内部電極層と誘電体層との間の界面近傍のSTEM-EDS像を確認したところ、当該界面にFeが偏析している様子が確認された。また、内部電極層中に、界面近傍以外の領域にもFeが含まれている様子が確認された。当該界面以外の内部電極層中のFe濃度の変動範囲は、当該界面以外の内部電極層中のFeの平均濃度に対して30%以下であった。しかしながら、当該界面のFe濃度の変動範囲は、当該界面におけるFeの平均濃度に対して40%程度であった。
【0085】
実施例1~3および比較例1~3のそれぞれについて、125C/18VのHALT試験(加速寿命試験)のHALT試験を実施した。リーク電流が1mAを超えるまでの時間をHALT寿命(故障時間)とした。HALT寿命が比較例1のHALT寿命に対して5倍以上となっていれば非常に良好「◎」と判定し、4倍以上5倍未満となっていれば良好「〇」と判定し、4倍未満であれば不良「×」と判定した。
【0086】
測定結果を表1に示す。表1に示すように、比較例2では比較例1よりもHALT寿命が若干は改善したが、改善幅が軽微であった。これは、内部電極層と誘電体層との間の界面のFe濃度の変動範囲が、当該界面全体におけるFeの平均濃度に対して50%程度と大きくなったからであると考えられる。比較例3では比較例1よりHALT寿命が若干は改善したが、改善幅が軽微であった。これも、内部電極層と誘電体層との間の界面のFe濃度の変動範囲が、当該界面全体におけるFeの平均濃度に対して50%程度と大きくなったからであると考えられる。
【表1】
【0087】
これらに対して、実施例1~3では比較例1よりもHALT寿命が大幅に改善した。これは、内部電極層と誘電体層との間の界面のFe濃度の変動範囲が、当該界面全体におけるFeの平均濃度に対して30%以下となって小さくなったからであると考えられる。なお、実施例1,2のHALT寿命が実施例3のHALT寿命よりも向上していることから、副元素としてFeまたはAuを用いることが好ましいことがわかる。
【0088】
図11は、実施例1および比較例1,2のHALT試験結果を、累積故障率として表したワイブルプロットである。横軸は、故障に至るまでの時間を示す。縦軸は、累積故障率を示す。副元素が内部電極と誘電体結晶粒界近傍の両方に均一に偏析した実施例1の状態が最も長寿命であることが確認された。次いで寿命が長いのは比較例2であるが、副元素の供給元が内部電極ではないため、その分布が不均一となり、誘電体層全体を均一に長寿命化することができなかったものと理解できる。副元素を含まない比較例1は最も短寿命であった。
【0089】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。