(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135411
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】弁付きグラフト形成基材
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20230921BHJP
【FI】
A61F2/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040595
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】505210115
【氏名又は名称】国立大学法人旭川医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】518383828
【氏名又は名称】バイオチューブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106024
【弁理士】
【氏名又は名称】稗苗 秀三
(74)【代理人】
【識別番号】100167841
【弁理士】
【氏名又は名称】小羽根 孝康
(74)【代理人】
【識別番号】100168376
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 清隆
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 武
(72)【発明者】
【氏名】武輪 能明
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康史
(72)【発明者】
【氏名】中山 泰秀
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA27
4C097BB01
4C097CC01
4C097DD14
4C097DD15
4C097EE16
4C097EE18
4C097EE19
4C097FF17
4C097MM03
4C097MM04
(57)【要約】
【課題】導管を所望の厚さに形成することのできる弁付きグラフト形成基材の提供。
【解決手段】柱状の基材本体6に本体側弁尖形成面9を設定する。補助基材7に補助側弁尖形成面10を設定する。補助基材7を基材本体6の端部に着脱自在に取り付ける。本体側弁尖形成面9と補助側弁尖形成面10との間を弁尖形成空間12とする。基材本体6及び補助基材7の外周側に筒状のカバー基材8を設ける。基材本体6及び補助基材7の外周面とカバー基材8の内周面との間を導管形成空間13とする。生体組織材料の存在する環境に設置して基材表面に結合組織を形成し、弁付きグラフトを形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織材料の存在する環境に設置して基材表面に結合組織を形成し、導管から半径方向内向きに膨出する複数の弁尖を有する弁付きグラフトを形成するための弁付きグラフト形成基材であって、
柱状の基材本体と、該基材本体の端部に着脱自在に取り付けられる補助基材とを備え、
前記基材本体及び前記補助基材に、弁尖厚さに対応する間隔をあけて対向する本体側弁尖形成面及び補助側弁尖形成面がそれぞれ設定され、該本体側弁尖形成面と補助側弁尖形成面との間が、外縁の侵入口から結合組織を侵入させて弁付きグラフトの弁尖を形成する弁尖形成空間とされ、
前記基材本体及び補助基材の外周側に筒状のカバー基材が設けられ、基材本体及び補助基材の外周面とカバー基材の内周面とが導管厚さに対応する間隔をあけて対向し、基材本体及び補助基材の外周面とカバー基材の内周面との間が、結合組織を侵入させて弁付きグラフトの導管を形成する導管形成空間とされたことを特徴とする弁付きグラフト形成基材。
【請求項2】
前記補助基材に、弁尖形成空間のうちの弁尖の先端部に対応する部位と基材外部とを連通する弁先孔が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の弁付きグラフト形成基材。
【請求項3】
前記弁尖形成空間が弁尖の閉鎖状態の形状に設定され、複数の弁尖の先端部に対応する部位と基材外部とを連通する共通の弁先孔が形成されたことを特徴とする請求項2に記載の弁付きグラフト形成基材。
【請求項4】
前記補助基材に、弁尖形成空間を導管形成空間と連通して弁尖形成空間への結合組織の侵入を促進する促進孔が形成されると共に、前記補助基材の端面から促進孔に至る範囲に、促進孔の内部に形成された結合組織を切断するための切断用スリットが形成されたことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の弁付きグラフト形成基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織材料の存在する環境に設置して基材表面に結合組織を形成し、導管から半径方向内向きに膨出する複数の弁尖を有する弁付きグラフトを形成するための弁付きグラフト形成基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
病気や事故で失われた細胞、組織、器官を、人工素材や細胞により再び蘇らせる再生医療の研究が数多くなされている。
【0003】
通常、身体には自己防衛機能があり、体内の浅い位置にトゲ等の異物が侵入した場合には、これを体外へ押し出そうとする。また、体内の深い位置に異物が侵入した場合には、その周りに繊維芽細胞が徐々に集まって、主に繊維芽細胞とコラーゲンからなる結合組織体のカプセルを形成して異物を覆うことにより、体内において異物を隔離することが知られている。この後者の自己防衛反応を利用して生細胞から生体由来組織を形成する技術として、生体内に異物としての基材を埋入して結合組織体を形成する技術が複数報告されている(特許文献1~3参照)。
【0004】
さらに、特許文献4は、生体内などに基材を配置して基材表面に結合組織を形成し、外管部から半径方向内向きに膨出する複数の弁葉を有する人工弁を形成するための人工弁形成基材を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-312821号公報
【特許文献2】特開2008-237896号公報
【特許文献3】特開2010-094476号公報
【特許文献4】WO2016/098877A1(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献4に記載の基材は、弁葉形成空間で所望の形状及び厚さの弁葉(弁尖)を形成することができるものの、基材本体及びカバー部材の周囲に形成された結合組織をそのまま外管部(導管)とするものであり、外管部(導管)を所望の厚さに形成することはできない。
【0007】
本発明は、導管を所望の厚さに形成することのできる弁付きグラフト形成基材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る弁付きグラフト形成基材は、生体組織材料の存在する環境に設置して基材表面に結合組織を形成し、導管から半径方向内向きに膨出する複数の弁尖を有する弁付きグラフトを形成するためのものであり、柱状の基材本体と、この基材本体の端部に着脱自在に取り付けられる補助基材とを備えたものである。さらに、その基材本体及び補助基材に、弁尖厚さに対応する間隔をあけて対向する本体側弁尖形成面及び補助側弁尖形成面をそれぞれ設定し、この本体側弁尖形成面と補助側弁尖形成面との間を、外縁の侵入口から結合組織を侵入させて弁付きグラフトの弁尖を形成する弁尖形成空間とし、また、基材本体及び補助基材の外周側に筒状のカバー基材を設け、基材本体及び補助基材の外周面とカバー基材の内周面とを導管厚さに対応する間隔をあけて対向させ、基材本体及び補助基材の外周面とカバー基材の内周面との間を、結合組織を侵入させて弁付きグラフトの導管を形成する導管形成空間としたものである。
【0009】
上記構成によれば、基材本体及び補助基材の外周側に筒状のカバー基材を設けて導管形成空間を構成するので、この導管形成空間に結合組織を侵入させて、所望の厚さの導管を形成することができる。しかも、基材本体及び補助基材とカバー基材との間に導管を形成するので、単に基材本体及び補助基材の外周側に導管を形成するよりも、その強度等の品質を高めることができる。
【0010】
また、基材本体及び補助基材に本体側弁尖形成面及び補助側弁尖形成面を設定するので、その両面間に構成される弁尖形成空間に、その外縁の侵入口から結合組織を侵入させて弁尖を形成しつつ、侵入口に、導管と弁尖の端部との接続部を形成することができる。
【0011】
これにより、弁尖の端部を高品質かつ所望の厚さの導管で支持した構造の弁付きグラフトを形成することができ、その弁尖が流体の圧力を受けて径方向に撓むことによって流路を開閉するようにすることができる。
【0012】
ここで、「結合組織」とは、通常は、コラーゲンを主成分とする組織であって、生体内に形成される組織のことをいうが、本明細書及び特許請求の範囲の記載においては、生体内に形成される結合組織に相当する組織が生体外の環境下で形成される場合のその組織をも含む概念である。
【0013】
また、「生体組織材料」とは、所望の生体由来組織を形成するうえで必要な物質のことであり、例えば、線維芽細胞、平滑筋細胞、内皮細胞、幹細胞、ES細胞、iPS細胞等の動物細胞、各種たんぱく質類(コラーゲン、エラスチン)、ヒアルロン酸等の糖類、その他、細胞成長因子、サイトカイン等の生体内に存在する各種の生理活性物質が挙げられる。この「生体組織材料」には、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物に由来するもの、又はこれと同等の人工材料が含まれる。
【0014】
また、「生体組織材料の存在する環境」とは、動物(ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物)の生体内(例えば、四肢部、肩部、背部又は腹部などの皮下、もしくは腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において、生体組織材料を含有する人工環境のことをいう。
【0015】
さらに、補助基材に、弁尖形成空間のうちの弁尖の先端部に対応する部位と基材外部とを連通する弁先孔を形成するようにしてもよい。
【0016】
この構成によると、弁先孔を介して弁尖形成空間と基材外部とを連通するので、導管形成空間及び侵入口を介して結合組織を基材外部から弁尖形成空間に侵入させるだけでなく、弁先孔を介して結合組織を基材外部から直に弁尖形成空間に侵入させることができ、その分、弁尖の形成に要する時間を短くすることができる。
【0017】
つまり、基材本体及び補助基材の外周側にカバー基材を設けるので、結合組織は、カバー基材の内側の導管形成空間に侵入した後、侵入口から弁尖形成空間に侵入する必要があり、その分、弁尖の形成に要する時間が長くなりやすい。これに対して、補助基材に弁先孔を形成して、弁尖形成空間と基材外部とを連通することにより、弁先孔からも結合組織を侵入させることができ、弁尖の形成が遅れるのを防止することができる。
【0018】
さらに、弁尖形成空間を弁尖の閉鎖状態の形状に設定し、複数の弁尖の先端部に対応する部位と基材外部とを連通する共通の弁先孔を形成するようにしてもよい。
【0019】
この構成によると、弁尖形成空間を弁尖の閉鎖状態の形状に設定するので、複数の弁尖形成空間の先端部を互いに近づけることができ、各弁尖形成空間の先端部に形成する弁先孔を一体化して共通化することができる。これにより、弁先孔の基材外部への開口を大きくすることができ、基材外部から弁先孔に結合組織を侵入させやすくして、高品質の弁尖をより確実に形成すると共に、その弁尖の形成に要する時間を短くすることができる。
【0020】
しかも、弁尖形成空間を弁尖の閉鎖状態の形状に設定することにより、弁尖を閉鎖状態に形成することができ、弁尖を開放状態に形成した場合と比較して、体内に移植した弁付きグラフトについて、弁尖の閉鎖の遅れなどに起因して逆流を生じさせる可能性を抑えることができる。
【0021】
さらに、補助基材に、弁尖形成空間を導管形成空間と連通して弁尖形成空間への結合組織の侵入を促進する促進孔を形成すると共に、補助基材の端面から促進孔に至る範囲に、促進孔の内部に形成された結合組織を切断するための切断用スリットを形成するようにしてもよい。
【0022】
この構成によると、補助基材に促進孔を形成するので、補助基材の外側の導管形成空間から内側の弁尖形成空間への結合組織の侵入を促進することができる。この場合、促進孔の内部に形成された結合組織によって、補助基材を挟んで弁付きグラフトの導管と弁尖とが連結されることになるが、補助基材に切断用スリットを形成するので、促進孔の内部に形成された結合組織を容易に切断することができる。これにより、弁付きグラフトを効率よく形成しつつ、その弁付きグラフトを損傷させることなく、弁付きグラフト形成基材から取り外すことができる。
【発明の効果】
【0023】
上記のとおり、本発明によると、基材本体及び補助基材の外周側に筒状のカバー基材を設けて導管形成空間を構成し、この導管形成空間に結合組織を侵入させて導管を形成するので、弁付きグラフトの導管を所望の厚さに形成すると共に、その強度等の品質を高めることができる。
【0024】
また、本体側弁尖形成面と補助側弁尖形成面との間の弁尖形成空間に、その外縁の侵入口を介して導管形成空間から結合組織を侵入させることにより、弁尖形成空間に弁付きグラフトの弁尖を形成しつつ、侵入口に、導管と弁尖の端部との接続部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係る弁付きグラフト形成基材の斜視図
【
図2】カバー基材を取り外した基材本体及び補助基材の斜視図
【
図5】(a)は基材本体の平面図、(b)はA-A断面図
【
図6】弁付きグラフト形成基材を用いて弁付きグラフトを形成する手順を説明する図
【
図7】弁付きグラフトの斜視図で、(a)は閉鎖状態を示し、(b)は開放状態を示す
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る弁付きグラフト形成基材を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【0027】
図1~
図5に示すように、弁付きグラフト形成基材1は、生体組織材料の存在する環境に設置して基材表面に結合組織2を形成し、導管3から半径方向内向きに膨出する複数の弁尖4を有する例えば心臓弁グラフトとして用いられる弁付きグラフト5を形成するためのものであり、柱状の基材本体6と、基材本体6の端部に着脱自在に取り付けられる補助基材7と、基材本体6及び補助基材7の外周側に設けられる筒状のカバー基材8と、を備えたものである。
【0028】
さらに、基材本体6及び補助基材7には、弁尖厚さに対応する間隔をあけて対向する本体側弁尖形成面9及び補助側弁尖形成面10がそれぞれ設定され、両弁尖形成面9、10の間が、外縁の侵入口11から結合組織2を侵入させて弁付きグラフト5の弁尖4を形成する弁尖形成空間12とされ、また、基材本体6及び補助基材7の外周面とカバー基材8の内周面とが導管厚さに対応する間隔をあけて対向し、その両面間が、結合組織2を侵入させて弁付きグラフト5の導管3を形成する導管形成空間13とされる。
【0029】
基材本体6は、例えばアクリル樹脂などの高分子材料よりなる円柱状とされ、その端部に、中央のY字形の仕切り壁14によって仕切られた3面の本体側弁尖形成面9が形成されている。各本体側弁尖形成面9は、仕切り壁14の壁面と、その下縁から基材中心軸方向に傾斜しつつ半径方向外側に向かって広がる曲面とからなり、閉鎖状態の弁尖4の上流面に対応する形状に設定される。
【0030】
本体側弁尖形成面9は、例えば、弁径(D)、弁閉鎖角(θ)、弁中心長(L)、交連部高さ(H)及び交連部間距離(a)の5変数を用いて、いわゆる非一様有理Bスプライン(NURBS)による補間処理をして設定することができる。ここで、弁径(D)は、基材本体6の外径に対応し、弁閉鎖角(θ)は、例えば20degで本体側弁尖形成面9の外縁における基材横断面に対する傾斜角に対応し、弁中心長(L)は、例えば13.5mmで仕切り壁14の下縁から本体側弁尖形成面9の外縁に至る長さに対応し、交連部高さ(H)は、例えば14.2mmで本体側弁尖形成面9の外縁から仕切り壁14の先端までの基材中心軸方向の高さに対応し、交連部間距離(a)は、仕切り壁14の厚さに対応する。
【0031】
仕切り壁14の半径方向外端縁には、切欠き15が形成され、互いに隣接する弁尖形成空間12を十分な厚さの空間で連続させて、弁付きグラフト5に、十分な厚さで所定の強度を有する交連部16を形成するようになっている。
【0032】
補助基材7は、例えばアクリル樹脂などの高分子材料からなる円柱状とされ、基材中央側の端面から基材外端側の端板17に至る範囲に形成されたY字形のスリット18の内面と、スリット18で3分割された基材中央側の端面とが、補助側弁尖形成面10を構成する。スリット18に仕切り壁14を挿入して、その壁先部19を端板17に形成された嵌合溝20に嵌め込むことにより、基材本体6の端部に補助基材7が取り付けられると共に、補助側弁尖形成面10が本体側弁尖形成面9に対向して弁尖形成空間12を構成する。
【0033】
補助側弁尖形成面10は、その面上の位置ごとに、本体側弁尖形成面9からの距離を例えば0.2mm~2.0mmの範囲に設定され、例えば血圧への耐力及び血行動態を考慮しつつ、弁尖4を所望の弁尖厚分布に形成するようになっている。
【0034】
スリット18の幅は、隣接する2つの弁尖形成空間12の各側端部の厚さと仕切り壁14の厚さの合計に等しく、このスリット18の幅に対応して、弁付きグラフト5の交連部16の幅が十分な大きさに設定され、所定の強度の交連部16が形成される。
【0035】
補助基材7の端板17には、仕切り壁14の壁先部19の中央部分を露出させるY字形の弁先孔21が形成され、この弁先孔21を例えば0.5mm以上の幅に設定して、弁尖形成空間12のうちの複数の弁尖4の先端部に対応する部位と基材外部とを共通の弁先孔21によって連通させている。
【0036】
補助基材7の周面には、弁尖形成空間12と導管形成空間13とを連通する促進孔22が形成され、導管形成空間13から弁尖形成空間12への結合組織2の侵入を促進するようになっている。さらに、端板17に開口して促進孔22に至る範囲に切断用スリット23が形成され、弁付きグラフト5を取り外す際に、切断用スリット23にメスなどを挿入し、促進孔22の内部に形成されて補助基材7の内外を連結する結合組織2を切断するようになっている。
【0037】
カバー基材8は、例えばアクリル樹脂などの高分子材料からなる円筒状とされ、その端部に形成された凹部24に、補助基材7の端板17から径方向外向きに突出する突起25を嵌合させることにより、基材本体6及び補助基材7の外周側に例えば2mm程度の一定の間隔をあけて取り付けられ、基材本体6及び補助基材7の外周面との間に導管形成空間13を構成する。カバー基材8には、ほぼ全面に広がるように侵入孔26が形成され、基材外部から導管形成空間13に結合組織2を容易に侵入させるようになっている。
【0038】
ここで、弁付きグラフト形成基材1の材料としては、生体に埋入した際に大きく変形することが無い強度(硬度)を有しており、化学的安定性があり、滅菌などの負荷に耐性があり、生体を刺激する溶出物が無いまたは少ない樹脂が好ましく、例えば、上記の通り、アクリル樹脂等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0039】
次に、上記のような弁付きグラフト形成基材1を用いて弁付きグラフト5を生産する方法について説明する。
【0040】
図6に示すように、この生産方法は、弁付きグラフト形成基材1を生体組織材料の存在する環境に設置する「設置工程」と、弁付きグラフト形成基材1の周囲に結合組織2を形成して、その結合組織2を弁尖形成空間12及び導管形成空間13に侵入させる「形成工程」と、前記環境から結合組織2で被覆された弁付きグラフト形成基材1を取り出す「取出工程」と、弁付きグラフト形成基材から結合組織2を導管3及び弁尖4を含む弁付きグラフト5として分離する「分離工程」と、からなる。
【0041】
<設置工程>
基材本体6の端部に補助基材7を取り付けた後、突起25に嵌め込むようにして、基材本体6及び補助基材7の外周側にカバー基材8を取り付け、弁付きグラフト形成基材1を組み立てる。さらに、組み立てた弁付きグラフト形成基材1を例えばヤギの皮下などの生体組織材料の存在する環境に設置する(
図6(a))。
【0042】
生体組織材料の存在する環境とは、動物の生体内(例えば、皮下や腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において生体組織材料が浮遊する溶液中等の人工環境内が挙げられる。弁付きグラフト形成基材1を人工環境内へ置く場合には、種々の培養条件を整えてクリーンな環境下で公知の方法に従って細胞培養を行えばよい。生体組織材料としては、ヤギ、イヌ、ウシ、ブタ、ウサギ、ヒツジ、ヒトなどの哺乳類動物由来のものや、鳥類、魚類、その他の動物由来のもの、又は人工材料を用いることもできる。
【0043】
<形成工程>
設置工程の後、例えば3か月程度の所定時間が経過することにより、弁付きグラフト形成基材1の周囲に結合組織2が形成されると共に、結合組織2が導管形成空間13の端部開口及びカバー基材8の侵入孔26から導管形成空間13に侵入する。さらに、導管形成空間13に侵入した結合組織2が侵入口11、スリット18及び促進孔22から弁尖形成空間12に侵入すると共に、弁先孔21を通って基材外部の結合組織2が直に弁尖形成空間12に侵入する(
図6(b))。
【0044】
この形成工程においては、弁先孔21を設けることにより、導管形成空間13を介する侵入に加えて、基材外部の結合組織2を直に侵入させる分、比較的に短時間で弁尖形成空間12に結合組織2が形成される。特に、複数の弁尖形成空間12を共通の弁先孔21で基材外部と連通させて、弁先孔21を大きくしているので、弁尖形成空間12への結合組織2の侵入がより促進される。結合組織2は、繊維芽細胞とコラーゲンなどの細胞外マトリックスで構成される。
【0045】
<取出工程>
所定時間の形成工程を経て、弁尖形成空間12及び導管形成空間13に結合組織2が十分に形成された後、結合組織2で被覆された弁付きグラフト形成基材1を生体組織材料の存在する環境から取り出す取出工程を行う。
【0046】
<分離工程>
カバー基材8の侵入孔26の内部に形成された結合組織2との間をメスなどで切断しながら、カバー基材8の外周面を覆う結合組織2を除去し、また、弁付きグラフト形成基材1の両端部の結合組織2を除去する。さらに、導管形成空間13の結合組織2を基材本体6及び補助基材7に残すようにピンセットなどで変形させて剥離しながらからカバー基材8を取り外す(
図6(c))。
【0047】
ここで、カバー基材8を取り外すことにより、導管3を構成する結合組織2が現れ、その表面には、カバー基材8の侵入孔26の内部に形成された結合組織2が突起状に残るが、導管3の外周面に突起があったとしても、血流などに影響を与えることがないので、特にこれを除去する必要はない。
【0048】
結合組織2で覆われた切断用スリット23にメスなどを挿入し、補助基材7の促進孔22の内部に形成された結合組織2を切断して、導管3及び弁尖4を構成する補助基材7の内外の結合組織2を分離する。さらに、外周面及び補助側弁尖形成面10から結合組織2を剥離しながら補助基材7を取り外した後、基材本体6の仕切り壁14の壁先部19を覆う結合組織2を除去すると共に、導管3及び弁尖4に突起として残った促進孔22の内部の結合組織2を切除する(
図6(d))。
【0049】
基材本体6の外周面及び本体側弁尖形成面9から剥離するように、基材本体6から結合組織2を分離することにより、弁付きグラフト5が得られる(
図6(e))。
【0050】
図7に示すように、弁付きグラフト形成基材1を用いて生産した弁付きグラフト5は、例えば、心臓から出る大動脈などの血管に移植して弁機能を付与するための心臓弁グラフトであり、内側を流れる流体の圧力によって、導管3から半径方向内向きに膨出する複数の弁尖4が内外に変位することにより、導管3の内側の流路を開閉するようになっている。
【0051】
弁尖4は、弁付きグラフト形成基材1のスリット18及び侵入口11に形成される交連部16及び弁元を導管3に接続され、流路の流れ方向が先端側から基端側に向かうとき、弁尖4と導管3との間に侵入しようとする流体の圧力によって、弁尖4が半径方向内向きに撓んで流路を閉じる(
図7(a))。一方、流路の流れ方向が基端側から先端側に向かうとき、弁尖4が流れによって半径方向外向きに撓んで流路を開く(
図7(b))。
【0052】
弁付きグラフト形成基材1を用いて生産した弁付きグラフト5は、その弁尖4を閉鎖状態の形状に形成されるので、自由状態が閉鎖状態であり、閉鎖の遅れに起因する逆流が生じるおそれを抑えることができる。
【0053】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、適宜変更を加えることができる。例えば、上記の形態では、特に三尖弁を例にして説明したが、二尖弁や四尖弁など、どのような尖数であってもよい。また、カバー基材8の侵入孔26や補助基材7の促進孔22及び切断用スリット23は、適宜省略することができる。また、弁尖孔は、共通のものだけでなく、各弁尖形成空間に対して1つの弁尖孔であってもよく、さらに、弁尖孔を省略することもできる。
【符号の説明】
【0054】
1 弁付きグラフト形成基材
2 結合組織
3 導管
4 弁尖
5 弁付きグラフト
6 基材本体
7 補助基材
8 カバー基材
9 本体側弁尖形成面
10 補助側弁尖形成面
11 侵入口
12 弁尖形成空間
13 導管形成空間
14 仕切り壁
15 切欠き
16 交連部
17 端板
18 スリット
19 壁先部
20 嵌合溝
21 弁尖孔
22 促進孔
23 切断用スリット
24 凹部
25 突起
26 侵入孔
D 弁径
θ 弁閉鎖角
L 弁中心長
H 交連部高さ
a 交連部間距離