(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135416
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】生体インピーダンス測定方法及び筋疲労評価方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/053 20210101AFI20230921BHJP
【FI】
A61B5/053
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040611
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉原 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】坂上 友介
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA06
4C127DD03
4C127EE01
4C127GG15
(57)【要約】
【課題】筋出力の変動に起因した、生体インピーダンスの測定誤差を抑制する。
【解決手段】生体表面30に、少なくとも2つの電極10、20を、所定の間隔を空けて配置し、2つの電極10、20間に、第1の外部抵抗Rg1を並列接続したときに生じる第1の電圧V
1、及び第2の外部抵抗Rg2を並列接続したときに生じる第2の電圧V
2を測定し、第1の電圧V
1及び前記第2の電圧V
2の電圧比V
1/V
2に基づいて、生体表面30下の筋肉部位における2つの電極10、20間の生体インピーダンスZbを算出する生体インピーダンス測定方法において、少なくとも第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2の間の切り替えと同期するタイミングで、筋肉部位に対して所定の大きさの外部刺激を付与する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体表面に、少なくとも2つの電極を、所定の間隔を空けて配置し、
前記2つの電極間に、第1の外部抵抗を並列接続したときに生じる第1の電圧、及び第2の外部抵抗を並列接続したときに生じる第2の電圧を測定し、
前記第1の電圧及び前記第2の電圧の電圧比に基づいて、前記生体表面下の筋肉部位における前記2つの電極間の生体インピーダンスを算出する生体インピーダンス測定方法において、
少なくとも前記第1の外部抵抗及び前記第2の外部抵抗の間の切り替えと同期するタイミングで、前記筋肉部位に対して所定の大きさの外部刺激を付与することを特徴とする、生体インピーダンス測定方法。
【請求項2】
前記筋肉部位に対して前記外部刺激を繰り返し付与し、
繰り返し付与される前記外部刺激は、互いに同じ波形を有する電気パルス信号であることを特徴とする、請求項1に記載の生体インピーダンス測定方法。
【請求項3】
前記第1の外部抵抗及び前記第2の外部抵抗の間の切り替えは、第1の外部抵抗から第2の外部抵抗への切り替えと、第2の外部抵抗から第1の外部抵抗への切り替えとからなる工程を、所定周期で行うように構成され、
前記外部刺激は、少なくとも、前記第1の外部抵抗から前記第2の外部抵抗への切り替え、及び前記第2の外部抵抗から前記第1の外部抵抗への切り替えの双方と同期するように、前記所定周期を基本周期とした高次周期で付与されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の生体インピーダンス測定方法。
【請求項4】
前記第1の電圧及び前記第2の電圧の測定タイミングは、前外部刺激を付与するタイミングに対して位相がずれていることを特徴とする、請求項3に記載の生体インピーダンス測定方法。
【請求項5】
前記所定周期は、0.1Hz以上0.3Hz以下であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の生体インピーダンス測定方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の生体インピーダンス測定方法によって測定された生体インピーダンスの時間変化に基づいて、前記筋肉部位における局所的な筋疲労を評価することを特徴とする、筋疲労評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体インピーダンス測定方法及び筋疲労評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体インピーダンスを測定する方法として、生体表面に2つの電極を配置して、その電極間に流れる生体電気を用いる方法が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、生体表面に少なくとも2つの電極を配置して、その2つの電極間に第1の外部抵抗を並列接続したときに生じる第1の電圧と、第2の外部抵抗を並列接続したときに生じる第2の電圧とをそれぞれ測定することが開示されている。
【0004】
そして、前記特許文献1によると、第1の電圧および第2の電圧の測定結果から得られる電圧比に基づいて、生体表面下の筋肉部位における2つの電極間の生体インピーダンスを算出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記特許文献1に記載の方法で生体インピーダンスを高精度で測定するためには、第1の外部抵抗を並列接続した場合と、第2の外部接続を並列接続した場合とで、被験者が一定の筋出力を維持することが求められる。
【0007】
しかしながら、第1の外部抵抗を並列接続した場合の測定と、第2の外部接続を並列接続した場合の測定とを同時に行うことはできないため、被験者に筋疲労が生じてしまったり、被験者の姿勢に変化が生じたりした結果、前者の場合の測定と後者の場合の測定とで筋出力が一定に維持されず、変動してしまう可能性がある。筋出力の変動は、生体インピーダンスに測定誤差を招く要因となるため不都合である。
【0008】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、筋出力の変動に起因した、生体インピーダンスの測定誤差を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の生体インピーダンス測定方法は、生体表面に、少なくとも2つの電極を、所定の間隔を空けて配置し、前記2つの電極間に、第1の外部抵抗を並列接続したときに生じる第1の電圧、及び第2の外部抵抗を並列接続したときに生じる第2の電圧を測定し、前記第1の電圧及び前記第2の電圧の電圧比に基づいて、前記生体表面下の筋肉部位における前記2つの電極間の生体インピーダンスを算出し、少なくとも前記第1の外部抵抗及び前記第2の外部抵抗の間の切り替えと同期するタイミングで、前記筋肉部位に対して所定の大きさの外部刺激を付与することを特徴としている。
【0010】
ここで、外部刺激の付与は、第1の外部抵抗及び第2の外部抵抗の間の切り替えと同期するタイミングのみに行ってもよいし、その同期するタイミングに加えて、他のタイミングで追加して行ってもよい。
【0011】
また、本開示における「同期するタイミング」の語は、広義で用いられる。すなわち、本開示では、第1及び第2の外部抵抗の間の切り替えに際して外部刺激を付与すればよく、外部抵抗を切り替えるタイミングと、外部刺激を付与するタイミングとが完全に同時刻である必要はない。
【0012】
前記構成によれば、筋肉部位に対して所定の大きさの外部刺激を付与することで、測定対象の筋肉部位において、所定の大きさを有する筋出力を強制的に発生させることができる。ここで、外部刺激を付与するタイミングを第1の外部抵抗及び第2の外部抵抗の間の切り替えと同期させたことで、第1の外部抵抗が並列接続された場合と、第2の外部接続が並列接続された場合との間で筋出力の変動を抑制することができる。これにより、生体インピーダンスの測定誤差を抑制することができる。測定誤差の抑制は、生体インピーダンス測定の高精度化に資する。
【0013】
また、前記生体インピーダンス測定方法は、前記筋肉部位に対して前記外部刺激を繰り返し付与し、繰り返し付与される前記外部刺激は、互いに同じ波形を有する電気パルス信号であってもよい。
【0014】
前記構成によれば、繰り返し付与される外部刺激を同じ波形とすることで、筋出力の変動を抑制する上で有利になる。このことは、生体インピーダンスの測定誤差を抑制する上で有効である。
【0015】
また、前記第1の外部抵抗及び前記第2の外部抵抗の間の切り替えは、第1の外部抵抗から第2の外部抵抗への切り替えと、第2の外部抵抗から第1の外部抵抗への切り替えとからなる工程を、所定周期で行うように構成され、前記外部刺激は、少なくとも、前記第1の外部抵抗から前記第2の外部抵抗への切り替え、及び前記第2の外部抵抗から前記第1の外部抵抗への切り替えの双方と同期するように、前記所定周期を基本周期とした高次周期で付与されるとしてもよい。
【0016】
前記構成によれば、外部抵抗を切り替えに際して用いられる所定周期の高次周期で外部刺激を付与することで、少なくとも外部抵抗の切り替えと同期するタイミングで外部刺激を付与することができる。これにより、生体インピーダンスの測定誤差を抑制する上で有利になる。
【0017】
また、前記第1の電圧及び前記第2の電圧の測定タイミングは、前外部刺激を付与するタイミングに対して位相がずれていてもよい。
【0018】
また、前記所定周期は、0.1Hz以上0.3Hz以下であってもよい。
【0019】
また、本開示の筋疲労評価方法は、前記生体インピーダンス測定方法によって測定された生体インピーダンスの時間変化に基づいて、前記筋肉部位における局所的な筋疲労を評価することを特徴としている。
【0020】
前記構成によれば、生体インピーダンスの測定誤差の抑制に伴って、筋疲労を従来よりも高精度で評価することができるようになる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本開示によれば、筋出力の変動に起因した、生体インピーダンスの測定誤差を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、一実施形態における生体インピーダンスの測定方法及び筋疲労評価方法を模式的に示した図である。
【
図2】
図2は、第1及び第2の外部抵抗の切り替えタイミングと、外部刺激の付与タイミングとの関係を例示するタイムチャートである。
【
図4】
図4(a)、(b)及び(c)は、筋肉内の水分量と、生体インピーダンスの変化と、生体インピーダンスの変化率との関係を模式的に示したグラフである。
【
図5】
図5は、第1及び第2の外部抵抗の切り替えタイミングの別例と、その別例に対応した外部刺激の付与タイミングとの関係を例示する
図2対応図である。
【
図6】
図6は、生体インピーダンスの測定方法の変形例を示す
図1対応図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明は例示である。また、以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素に同一の参照符号を付す。
【0024】
<生体インピーダンスの測定方法>
図1は、本発明の一実施形態における生体インピーダンスの測定方法及び筋疲労評価方法を模式的に示した図である。また、
図2は、第1及び第2の外部抵抗の切り替えタイミングと、外部刺激の付与タイミングとの関係を例示するタイムチャートである。
【0025】
図1に示すように、生体表面30に、2つの電極10、20を所定の間隔を空けて配置する。ここでは、上腕部の表面に2つの電極10、20を貼り付けた例を示す。そして、電極10、20間に生じる電圧を、増幅器(電圧測定手段)40で増幅して測定する。また、2つの電極10、20の間に、第1の外部抵抗Rg1と、第2の外部抵抗Rg2とが並列に配置されている。そして、スイッチ(接続手段)SWによって、電極10、20間に、第1の外部抵抗Rg1が並列接続された状態と、第2の外部抵抗Rg2が並列接続された状態とに切り替えられる。
【0026】
なお、スイッチSWによる切り替えは、所定の第1周期T1で繰り返すように構成してもよい。そのように構成した場合、第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2の間の切り替えは、
図2に示すように、第1の外部抵抗Rg1から第2の外部抵抗Rg2への切り替えと、第2の外部抵抗Rg2から第1の外部抵抗Rg1への切り替えとからなる工程を、所定周期としての第1周期T1で繰り返し行うことになる。
【0027】
また、第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2のうちの一方は、その抵抗値を無限大としてもよい。例えば、第1の外部抵抗Rg1の抵抗値を有限の値とし、第2の外部抵抗Rg2の抵抗値を無限大とした場合、スイッチSWによる切り替えは、第1の外部抵抗Rg1によって電気回路が接続された状態と、第2の外部抵抗Rg2によって電気回路が遮断された状態との間の切り替えとみなすことができる。
【0028】
図3は、
図1に示した状態の等価回路図を示す。この等価回路図は、後述のパルス信号発生器50を除いた状態を表している。
【0029】
ここで、Vbは、2つの電極10、20間の生体表面30下にある筋肉部位(上腕筋)における筋電位である。この筋電位Vbは、上腕部30を運動したとき、すなわち、上腕筋に負荷をかけたときに発生する。
【0030】
また、Rb1及びRb2は、それぞれ、筋電位Vbを発生する信号源Sと、電極10、20との間の生体インピーダンスを示す。なお、生体インピーダンスについては、後述する筋疲労との関係を説明する際に詳述する。また、Rinは、増幅器40の入力抵抗を示す。2つの電極10、20間に生じた電圧は、増幅器40で増幅されて、出力電圧Voutとして計測される。
【0031】
図3に示した等価回路図において、2つの電極10、20間に、第1の外部抵抗Rg1を並列接続したときに生じる第1の電圧V
1は、下式(2)で与えられる。
【0032】
【0033】
また、2つの電極10、20間に、第2の外部抵抗Rg2を並列接続したときに生じる第2の電圧V2は、下式(3)で与えられる。
【0034】
【0035】
したがって、式(2)及び式(3)より、生体表面30下にある筋肉部位(上腕筋)における2つの電極10、20間の生体インピーダンスZb(=Rb1+Rb2)は、以下の式(1)より求めることができる。
【0036】
【0037】
式(1)より、生体表面30下にある筋肉部位(上腕筋)における2つの電極10、20間の生体インピーダンスZbは、第1の電圧V1と第2の電圧V2の電圧比(V1/V2)に基づいて算出することができる。
【0038】
すなわち、本実施形態に係る生体インピーダンス測定方法では、まず、2つの電極10、20間に、第1の外部抵抗Rg1を並列接続したときに生じる第1の電圧V1、及び第2の外部抵抗Rg2を並列接続したときに生じる第2の電圧V2を測定する。第1の電圧V1は、スイッチSWによって第2の外部抵抗Rg2から第1の外部抵抗Rg1へと切り替えられた状態で測定される。同様に、第2の電圧V2は、スイッチSWによって第1の外部抵抗Rg1から第2の外部抵抗Rg2へと切り替えられた状態で測定される。
【0039】
その後、各状態で測定された第1の電圧V1及び第2の電圧V2の電圧比V1/V2を算出することともに、算出された電圧比V1/V2を上式(1)に代入することで、生体表面30下の筋肉部位における2つの電極10、20間の生体インピーダンスZbを算出するようになっている。
【0040】
なお、本実施形態では、
図2に示したように、スイッチSWが作動することで、第1の外部抵抗Rg1が並列接続された状態と、第2の外部抵抗Rg2が並列接続された状態との間で切り替えられるようになっている。そのため、外部抵抗の切り替えを用いた場合に生体インピーダンスZbを高精度で算出するためには、第1の外部抵抗Rg1を並列接続した状態と、第2の外部抵抗Rg2を並列接続した状態とで測定状況が同じになるように、被験者が一定の筋出力を維持する必要がある。
【0041】
しかしながら、第1の外部抵抗Rg1を並列接続した場合の測定と、第2の外部抵抗Rg2を並列接続した場合の測定とを同時に行うことはできないため、被験者に筋疲労が生じてしまったり、被験者の姿勢に変化が生じたりした結果、前者の場合の測定と後者の場合の測定とで筋出力が一定に維持されず、変動してしまう可能性がある。筋出力の変動は、生体インピーダンスZbに測定誤差を招く要因となるため不都合である。
【0042】
そこで、生体表面30に、外部刺激発生器として、
図1に例示されるパルス信号発生器50を接続する。詳しくは、このパルス信号発生器50は、発生器本体51と、2つの刺激付与用電極52、53とを有している。これらの要素のうち、2つの刺激付与用電極52、53を、生体表面30に所定の間隔を空けて配置する。発生器本体51は、2つの刺激付与用電極52、53を通じて生体表面30に外部刺激を付与することができる。その外部刺激によって、2つの刺激付与用電極52、53の間にある筋肉部位を刺激するとともに、その筋肉部位に、外部刺激に応じた筋出力を発生させることができる。
【0043】
なお、外部刺激が付与される筋肉部位は、前記筋電位Vbの発生源となる筋肉部位(上腕筋)と同一の部位、又は、該筋肉部位の近傍の部位としてもよい。
【0044】
特に本実施形態では、
図2に示すように、少なくとも第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2の間の切り替えと同期するタイミングで、筋肉部位(上腕筋)に対して所定の大きさの外部刺激を付与するようになっている。これにより、第1の外部抵抗Rg1が並列接続した場合と、第1の外部抵抗Rg1に代えて第2の外部抵抗Rg2が並列接続された場合の双方で、略同一の筋出力を発生させることができる。
【0045】
なお、「同期するタイミング」の語は、第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2の間の切り替えが行われるタイミングt
bと、筋肉部位(上腕筋)に対して所定の大きさの外部刺激が付与されるタイミングt
aと、が完全に同時刻であることには限定されない。第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2の間の切り替えに際して、筋肉部位(上腕筋)に対して所定の大きさの外部刺激を付与すればよい。すなわち、
図2のΔTに示すように、2つの外部抵抗Rg1、Rg2の切り替えが行われるタイミングt
aと、外部刺激が付与されるタイミングt
bとをずらしてもよい。第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2の間の各切り替えに際してΔTが一定であることで、2種類のタイミングt
a、t
bが同期することになる。
【0046】
詳しくは、
図2に示すように、筋肉部位(上腕筋)に対して外部刺激を繰り返し付与する。ここで、繰り返し付与される外部刺激は、互いに同じ波形を有する電気パルス信号である。言い換えると、外部刺激は、本実施形態では一定のパルス幅およびデューティ比を有する繰り返しパルス信号V
pである。
【0047】
ここで、前述のように第1の外部抵抗Rg1から第2の外部抵抗Rg2への切り替えと第2の外部抵抗Rg2から第1の外部抵抗Rg1への切り替えとが第1周期T1で繰り返し行われる場合について考える。この場合、外部刺激は、少なくとも、第1の外部抵抗Rg1から第2の外部抵抗Rg2への切り替えと、第2の外部抵抗Rg2から第1の外部抵抗Rg1への切り替えとの両方と同期するように、前記第1周期T1を基本周期とした高次周期で付与される。
図2に示す例では、外部刺激は、第1周期T1を基本周期とした2次周期T2で付与される。なお、2次よりも高次の周期で外部刺激を付与してもよい。基本周期としての第1周期T1は、好ましくは0.4Hz以下、さらに好ましくは0.1Hz以上0.3Hz以下に設定される。
【0048】
また、外部刺激が付与されるタイミングt
aは、
図2に示すように、第1の電圧V
1又は第2の電圧V
2の測定タイミングt
cに対して位相がずれるように設定されている。詳しくは、外部刺激が付与されるタイミングt
aは、第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2の間の切り替えタイミングt
bを挟んで前記測定タイミングt
cよりも早いタイミングとなるように設定されている。
【0049】
言い換えると、本実施形態では、第1の電圧V
1又は第2の電圧V
2の測定タイミングt
cは、外部刺激が付与されるタイミングt
aよりも遅れるように設定されている。それと同時に、外部刺激が付与されてから第1の電圧V
1又は第2の電圧V
2が測定されるまでの期間(
図2では、タイミングt
aからt
cに至るまでの期間)内に、第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2の間の切り替えが行われるようになっている。
【0050】
このように、本実施形態に係る生体インピーダンス測定方法では、筋肉部位(上腕筋)に対して所定の大きさの外部刺激を付与することで、その筋肉部位(上腕筋)において、所定の大きさを有する筋出力を強制的に発生させる。ここで、
図1及び
図2に示したように、外部刺激を付与するタイミングt
aを、第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2の間の切り替えと同期させたことで、第1の外部抵抗Rg1が並列接続された場合と、第2の外部抵抗Rg2が並列接続された場合との間で筋出力の変動を抑制することができる。これにより、生体インピーダンスZbの測定誤差を抑制することができる。
【0051】
また、
図2を用いて説明したように、繰り返し付与される外部刺激を同じ波形とすることで、筋出力の変動を抑制する上で有利になる。このことは、生体インピーダンスZbの測定誤差を抑制する上で有効である。
【0052】
また、
図2を用いて説明したように、第1及び第2の外部抵抗Rg1、Rg2を切り替える周期(第1周期T1)の高次周期で外部刺激を付与することで、少なくとも外部抵抗Rg1、Rg2の切り替えと同期するタイミングで外部刺激が付与されるように構成することができる。これにより、生体インピーダンスZbの測定誤差を抑制する上で有利になる。
【0053】
また、
図2を用いて説明したように、第1の電圧V
1又は第2の電圧V
2の測定タイミングt
cは、第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2の間の切り替えタイミングt
bを挟んで外部刺激が付与されるタイミングt
aよりも遅れるように設定されている。このように設定することで、外部刺激が付与された直後、つまり筋電位が比較的大きく変動すると想定されるタイミングt
bではなく、筋電位の変動が収まったタイミングt
cにおいて第1の電圧V
1又は第2の電圧V
2を測定することが可能になる。これにより、生体インピーダンスZbの測定誤差を抑制する上で有利になる。
【0054】
<生体インピーダンスを用いた筋疲労評価方法>
ところで、筋肉に負荷をかけて筋疲労が生じると、血中の乳酸濃度が増加することがよく知られているが、筋肉内の水分も増加することが分かっている。そのため、疲労した筋肉部位における生体インピーダンスを測定すると、平常時よりも生体インピーダンスが減少していることが予測できる。
【0055】
本願発明者らが鋭意検討を重ねた結果、得られた知見によると、腕の肘曲げ運動のように、筋肉に一定でない負荷をかけたときの生体インピーダンスの変化は、血中乳酸濃度の変化や、筋肉の厚みの変化と、強い相関関係があることが分かった。すなわち、特定の筋肉の疲労は、筋肉内の水分量の変化として捉えることができ、これにより、生体インピーダンスの変化が、筋疲労を反映する指標になり得ることが分かった。
【0056】
したがって、筋肉に負荷をかけて筋疲労が生じると、筋肉内の水分量が変化し、筋肉内の水分量の変化を、生体インピーダンスの変化として捉えることによって、特定の筋肉の疲労を評価することができる。
【0057】
図4は、筋肉内の水分量の変化(
図4(a))と、生体インピーダンスの変化(
図4(b))と、生体インピーダンスの変化率(
図4(c))との関係を模式的に示したグラフである。ここで、時刻t
0において外部刺激の付与が開始されたものとする。
図4(a)、(b)に示すように、筋肉に負荷をかけて筋疲労が生じると、筋肉内の水分量が増加し(時刻t
0~t
1)、これに伴い、生体インピーダンスが減少する(時刻t
0~t
1)。
【0058】
その後、筋肉の疲労がピークに近づくにしたがって、筋肉内の水分量は、時刻t
0~t
1と比べて緩やかに増加するようになり(時刻t
1~t
2)、生体インピーダンスは相対的に緩やかに減少するようになる(時刻t
1~t
2)。その際、生体インピーダンスの単位時間あたりの変化量(変化率)は、
図4(c)に示すように、筋肉の疲労がピークに近づくにしたがって徐々に減少する(時刻t
1~t
2)。
【0059】
そして、時刻t2よりもさらに後の時刻t3で筋肉の疲労がピークに達し、その時刻t3で筋肉に負荷をかけるのを止めると、筋肉内の水分量は増加を停止し(時刻t3以降)、これに伴い、生体インピーダンスの減少も止まる(時刻t3以降)。これにより、生体インピーダンスの変化率は一定の値に保たれる(時刻t3以降)。
【0060】
すなわち、生体インピーダンスの時間変化を測定することにより、筋疲労が、時刻t0~t3の間で蓄積し、時刻t3でピークに達したことが分かる。これにより、筋肉に負荷をかけたとき(具体的には、パルス信号発生器50により外部刺激を付与したとき)に生じる筋疲労を評価することができる。
【0061】
なお、図示は省略するが、運動していない場合にも、生体インピーダンスは、筋疲労以外の要因で、時間変化する場合がある。そのため、生体インピーダンスの時間変化に基づいて、筋疲労を評価する場合、筋疲労以外の要因による時間変化と区別する必要がある。
【0062】
通常、運動していない場合の生体インピーダンスの時間変化量(傾き)は、運動した場合の生体インピーダンスの時間変化量(傾き)よりも小さい。典型的には、運動前の生体インピーダンスに対して、運動直後の生体インピーダンスが所定の割合以上変化した場合は、筋疲労によるものと考えられる。
【0063】
一方、生体インピーダンスの時間変化が、前記所定の割合以下の場合は、筋疲労によるものではないと考えられる。従って、運動後に算出した生体インピーダンスの時間変化量が、所定の値以上になったときを、筋疲労と判断することによって、筋疲労を正しく評価することができる。
【0064】
このように、生体インピーダンスの時間変化量は、外部刺激によってもたらされる筋疲労と結びついている。この外部刺激の付与を終了するタイミングに関し、本実施形態では、
図4(c)に示すように、外部刺激の付加を開始した以降のタイミングにおいて、生体インピーダンスの時間変化が所定の閾値Z
tを下まわったとき(時刻t
2以降のタイミング)、または、生体インピーダンスの時間変化が一定期間変化しなくなったとき(時刻t
3以降のタイミング)に、外部刺激の付与を終了してもよい。このように構成することで、筋疲労の過度の蓄積を抑制することができる。
【0065】
<他の実施形態>
以上、本開示を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。
【0066】
例えば、前記実施形態では、生体表面30に2つの電極10、20を配置したが、生体表面30にグランド電極を配置し、2つの電極10、20間に生じた電圧を、差動アンプ40によって測定してもよい。この場合も、2つの電極10、20間における生体インピーダンスは、前記の式(1)により求めることができる。また、第1の電圧V1、及び第2の電圧V2は、その差分をとって差動アンプ40で増幅されて測定されるため、外部からのノイズを除去することができる。これにより、生体インピーダンスZbをより精度よく測定することができる。
【0067】
また、前記実施形態では、筋繊維からなる筋肉部位(上腕筋)の筋疲労を評価するとき、2つの電極を筋繊維に沿って互いに近傍に配置したが、本開示は、そうした配置には限定されない。2つの電極を、筋繊維を取り囲むように、互いに近傍に配置してもよい。
【0068】
また、前記実施形態では、第1の電圧V1及び第2の電圧V2を測定するための2つの電極10、20とは別に、外部刺激としての電気パルス信号を付与するための2つの刺激付与用電極52、53を備えた構成とされていたが、本開示は、そうした構成には限定されない。2つの電極10、20の各々と、2つの刺激付与用電極52、53の各々とを共用してもよい。具体的に、2つの電極10、20のうちの一方と、2つの刺激付与用電極52、53のうちの一方とを一体的に構成し、及び/又は、2つの電極10、20のうちの他方と、2つの刺激付与用電極52、53のうちの他方とを一体的に構成してもよい。
【0069】
また、前記実施形態では、第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2の間の切り替えは、第1の外部抵抗Rg1から第2の外部抵抗Rg2への切り替えと、第2の外部抵抗Rg2から第1の外部抵抗Rg1への切り替えとからなる工程を、所定周期としての第1周期T1で繰り返すように構成されていたが、本開示は、そうした構成には限定されない。例えば、第1の外部抵抗Rg1から第2の外部抵抗Rg2への切り替えと、第2の外部抵抗Rg2から第1の外部抵抗Rg1への切り替えとのうちの一方のみを行うように構成してもよい。この場合、その一方の切り替えに際して後述の外部刺激を付与するように構成すればよい。
図5に示す例では、第1の外部抵抗Rg1から第2の外部抵抗Rg2への切り替えのみが行われるようになっており、その切り替えに際して外部刺激を付与するようになっている。この場合、外部刺激を付与するタイミングと前後して、第1電圧V
1及び第2電圧V
2を測定すればよい。
【0070】
また、前記実施形態では、外部刺激としての電気パルス信号を発生するパルス信号発生器50を用いた方法について説明したが、本開示は、そうした方法には限定されない。外部刺激として電気パルス信号を用いる代わりに、力学的な負荷を用いてもよい。
【0071】
図6は、外部刺激として力学的な負荷を用いた構成を例示する図である。この例では、外部刺激発生器として、前述のパルス信号発生器50の代わりに力学負荷発生器60を備えた構成とされている。この力学負荷発生器60は、力学的な負荷を発生させる発生器本体61と、発生器本体61に接続された荷重伝達手段62とを有している。
【0072】
このうち、発生器本体61は、例えばカムを回転させる回転機構によって構成されており、そのカム形状に対応した周期で荷重を発生させることができる。一方、荷重伝達手段62は、例えば発生器本体61のカムに巻き掛けられた牽引ベルトによって構成されており、被験者に握持させることで、発生器本体61が発生させた周期的な荷重を被験者の筋肉に伝達させることができる。このように構成された力学負荷発生器60を作動させることで、前述のパルス信号発生器50と同様に、人体に略一定の筋出力を発生させることができる。
【0073】
また、本開示は、生体インピーダンスの測定システムとして使用することもできる。すなわち、本開示に係る生体インピーダンスの測定システムは、生体表面に所定の間隔を空けて配置される少なくとも2つの電極と、それら2つの電極間に、第1の外部抵抗及び第2の外部抵抗を、それぞれ切り替え可能に並列接続する接続手段と、その接続手段により、2つの電極間に、第1の外部抵抗を並列接続したときに生じる第1の電圧V1、及び第2の外部抵抗を並列接続したときに生じる第2の電圧V2を測定する電圧測定手段と、第1の電圧V1及び第2の電圧V2の電圧比V1/V2に基づいて、生体表面下の筋肉部位における2つの電極間の生体インピーダンスを算出するインピーダンス算出手段とを備えている。
【0074】
また、本開示は、前記測定システムを備える筋疲労評価システムとして使用することもできる。すなわち、本開示に係る筋疲労評価システムは、前記生体インピーダンスの測定システムと、該測定システムが算出した生体インピーダンスの時間変化に基づいて、筋肉部位の局所的筋疲労を評価する評価手段とを備えている。
【符号の説明】
【0075】
10 電極
20 電極
30 生体表面
50 パルス信号発生器(外部刺激発生器)
51 発生器本体
52 刺激付与用電極
53 刺激付与用電極
60 力学負荷発生器(外部刺激発生器)
61 発生器本体
62 荷重伝達手段