(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135425
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】水硬性硬化体の製造方法および炭酸化養生用セメント組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20230921BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20230921BHJP
C04B 24/04 20060101ALI20230921BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/06 Z
C04B24/04
C04B40/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040628
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】向 俊成
(72)【発明者】
【氏名】関 健吾
(72)【発明者】
【氏名】取違 剛
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢三
(72)【発明者】
【氏名】坂井 吾郎
(72)【発明者】
【氏名】森山 善範
(72)【発明者】
【氏名】坂田 昇
(72)【発明者】
【氏名】高村 尚
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PB03
4G112PB16
4G112RA02
(57)【要約】
【課題】作業性に優れ、製造時の炭酸ガス排出量が少なく、炭酸ガス固定化機能を有し、強度が良好な水硬性硬化体の製造方法および炭酸化養生用セメント組成物を提供する。
【解決手段】本発明の水硬性硬化体の製造方法は、水と、セメントと、水酸化カルシウムと、凝結遅延剤と、を含有するセメント組成物を、硬化および炭酸化養生し、水硬性硬化体を製造する、水硬性硬化体の製造方法であって、前記セメント組成物は、前記水酸化カルシウムを、前記セメントと前記水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、5質量部以上80質量部以下含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、セメントと、水酸化カルシウムと、凝結遅延剤と、を含有するセメント組成物を、硬化および炭酸化養生し、水硬性硬化体を製造する、水硬性硬化体の製造方法であって、
前記セメント組成物は、前記水酸化カルシウムを、前記セメントと前記水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、5質量部以上80質量部以下含有する、水硬性硬化体の製造方法。
【請求項2】
前記セメント組成物は、前記セメントおよび前記水酸化カルシウムを合計で270kg/m3以上600kg/m3以下含有し、
前記セメント組成物は、前記水を、前記セメントと前記水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、20質量部以上65質量部以下含有する、請求項1に記載の水硬性硬化体の製造方法。
【請求項3】
前記セメント組成物は、前記凝結遅延剤を、前記セメントと前記水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、0.010質量部以上1.000質量部以下含有する、請求項1または2に記載の水硬性硬化体の製造方法。
【請求項4】
前記セメント組成物は、前記凝結遅延剤を、0.05kg/m3以上2.00kg/m3以下含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の水硬性硬化体の製造方法。
【請求項5】
前記セメント組成物は、0kg/m3超50kg/m3以下の高炉スラグ微粉末をさらに含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の水硬性硬化体の製造方法。
【請求項6】
前記セメント組成物は、フライアッシュ、γ-C2S、ワラストナイトおよびメルヴィナイトの群から選択される1種以上を0kg/m3超50kg/m3以下含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の水硬性硬化体の製造方法。
【請求項7】
前記セメント組成物の練上がり直後のスランプ(S1)に対する、前記セメント組成物の練上がり直後のスランプ(S1)と60分経過後のスランプ(S2)との差の比であるスランプロス(|S1-S2|×100/S1)は、JIS A 1101:2005に準拠して測定して、30.0%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の水硬性硬化体の製造方法。
【請求項8】
水と、セメントと、水酸化カルシウムと、凝結遅延剤と、を含有する、炭酸化養生用セメント組成物であって、
前記水酸化カルシウムを、前記セメントと前記水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、5質量部以上80質量部以下含有する、炭酸化養生用セメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性硬化体の製造方法および炭酸化養生用セメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートに使用されているセメントは、製造時に原料の脱炭酸および焼成時の燃料より多量の炭酸ガス(二酸化炭素、CO2)を排出する。近年の気候変動抑制に対する関心の高まりを受けて、コンクリートの製造時における炭酸ガスの排出量を大きく削減することが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、製鋼スラグ粉末とポルトランドセメントにγ-C2S(γ-2CaO・SiO2;γビーライトともいう)を添加したコンクリート混錬物を硬化させ、脱型後にコンクリートを炭酸化養生して得られるプレキャストコンクリートが開示されている。特許文献1のプレキャストコンクリートでは、コンクリート表面においては炭酸ガスの吸収に伴う炭酸化養生が進み、コンクリート表面の強度は向上する。ただし、コンクリート内部においては、炭酸化が進みにくいことがある。
【0004】
また、炭酸ガスの排出量を削減する他の方法として、高炉水砕スラグ(以下、高炉スラグ微粉末ともいう)をセメントに混合した混合セメントをセメント組成物に用いる。しかしながら、高炉スラグ微粉末の量を増加させると、セメント組成物の硬化が遅くなり水硬性硬化体を脱型するまでの期間が長くなること、水硬性硬化体の十分な強度を得るためにセメント組成物の長時間の湿潤養生が必要になることなど、水硬性硬化体を製造する作業性が悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、作業性に優れ、製造時の炭酸ガス排出量が少なく、炭酸ガス固定化機能を有し、強度が良好な水硬性硬化体の製造方法および炭酸化養生用セメント組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 水と、セメントと、水酸化カルシウムと、凝結遅延剤と、を含有するセメント組成物を、硬化および炭酸化養生し、水硬性硬化体を製造する、水硬性硬化体の製造方法であって、前記セメント組成物は、前記水酸化カルシウムを、前記セメントと前記水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、5質量部以上80質量部以下含有する、水硬性硬化体の製造方法。
[2] 前記セメント組成物は、前記セメントおよび前記水酸化カルシウムを合計で270kg/m3以上600kg/m3以下含有し、前記セメント組成物は、前記水を、前記セメントと前記水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、20質量部以上65質量部以下含有する、上記[1]に記載の水硬性硬化体の製造方法。
[3] 前記セメント組成物は、前記凝結遅延剤を、前記セメントと前記水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、0.010質量部以上1.000質量部以下含有する、上記[1]または[2]に記載の水硬性硬化体の製造方法。
[4] 前記セメント組成物は、前記凝結遅延剤を、0.05kg/m3以上2.00kg/m3以下含有する、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の水硬性硬化体の製造方法。
[5] 前記セメント組成物は、0kg/m3超50kg/m3以下の高炉スラグ微粉末をさらに含有する、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の水硬性硬化体の製造方法。
[6] 前記セメント組成物は、フライアッシュ、γ-C2S、ワラストナイトおよびメルヴィナイトの群から選択される1種以上を0kg/m3超50kg/m3以下含有する、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の水硬性硬化体の製造方法。
[7] 前記セメント組成物の練上がり直後のスランプ(S1)に対する、前記セメント組成物の練上がり直後のスランプ(S1)と60分経過後のスランプ(S2)との差の比であるスランプロス(|S1-S2|×100/S1)は、JIS A 1101:2005に準拠して測定して、30.0%以下である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の水硬性硬化体の製造方法。
[8] 水と、セメントと、水酸化カルシウムと、凝結遅延剤と、を含有する、炭酸化養生用セメント組成物であって、前記水酸化カルシウムを、前記セメントと前記水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、5質量部以上80質量部以下含有する、炭酸化養生用セメント組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、作業性に優れ、製造時の炭酸ガス排出量が少なく、炭酸ガス固定化機能を有し、強度が良好な水硬性硬化体の製造方法および炭酸化養生用セメント組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0010】
本発明者らは、一般的にコンクリートと呼ばれている、セメント等と水の反応による水硬性硬化体の硬化過程において、水酸化カルシウム(消石灰)が炭酸ガスと反応することに着目し、多くの水酸化カルシウムをセメント組成物に含有させて、炭酸化養生で炭酸ガスを水硬性硬化体に固定することを検討した。一方で、多くの水酸化カルシウムをセメント組成物に含有させると、セメント組成物の水硬性硬化体としての凝結が早く進行するため、炭酸化養生を行っても炭酸ガスを水硬性硬化体の全体に十分に固定することが容易ではない、という作業性の問題を見出した。このような問題に対して、凝結遅延剤をセメント組成物に含有させると、水酸化カルシウムによる水硬性硬化体の凝結の進行を遅延できるため、多くの水酸化カルシウムをセメント組成物に含有させても、炭酸化養生によって炭酸ガスを水硬性硬化体の全体に十分に固定できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成させるに至った。
【0011】
まず、本発明の水硬性硬化体の製造方法について説明する。
【0012】
本発明の水硬性硬化体の製造方法は、水(W)と、セメント(OPS)と、水酸化カルシウム(CH)と、凝結遅延剤と、を含有するセメント組成物を、硬化および炭酸化養生し、水硬性硬化体を製造する、水硬性硬化体の製造方法であって、セメント組成物は、水酸化カルシウムを、セメントと水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、5質量部以上80質量部以下含有する。
より具体的には、本発明の水硬性硬化体の製造方法は、水と、セメントと、水酸化カルシウムと、凝結遅延剤と、を混合した生成物が、経時変化により硬化する。そして、主に硬化中及び硬化後の所定の時間、炭酸化養生する。
【0013】
水硬性硬化体の製造方法におけるセメント組成物は、水と、セメントと、水酸化カルシウムと、凝結遅延剤と、を含有する。また、セメント組成物や水硬性硬化体の所望の特性に応じて、セメント組成物は、骨材(細骨材、粗骨材)を含有してもよい。
【0014】
セメント組成物を構成するセメントは、ポルトランドセメントであることが好ましい。ポルトランドセメントには、普通ポルトランドセメント(OPC)の他、早強、超早強、中庸熱、低熱、耐硫酸塩等の種類があり、これらはJIS R 5210:2019に規定されている。セメント組成物においては、これら種々のポルトランドセメントの1種又は2種以上を配合するものを用いることができる。これらの中でも、普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントの1種又は2種を使用したものを用いることが好ましい。
【0015】
セメント組成物を構成する水酸化カルシウムは炭酸ガスと反応するため、水硬性硬化体中に炭酸ガスを固定化できる炭酸ガス固定化機能として働く。水硬性硬化体に固定化する炭酸ガス量を増加する観点から、本発明では、例えば、従来に硬化促進剤と使用されている場合と比べてより多量の水酸化カルシウムをセメント組成物に含有させる。このように、従来に比べて水酸化カルシウムを多量に含有しているため、製造直後から炭酸化養生されても炭酸ガスをより多く吸収することができる。また、炭酸化養生によって、水酸化カルシウムが炭酸ガスと反応して炭酸カルシウムとなり、炭酸カルシウムが水硬性硬化体の全体に生成されるため、水硬性硬化体の強度は、均一性があり、かつ高い。
【0016】
水酸化カルシウムは、比較的安価で入手し易いという利点がある。水酸化カルシウムは、例えば、アセチレンガスの製造工程から排出される副生生石灰を用いてもよい。これにより、廃棄物の有効利用を行うことができる。また、水酸化カルシウムは、粉体の形態で用いることが好ましい。
【0017】
水酸化カルシウムは、セメントの水和反応を促進させ、水硬性硬化体の凝結を早く進行させる。したがって、水とセメントと水酸化カルシウムとを混合した生成物は、水とセメントとを混合した場合と比較して、混合後に型枠などにコンクリートを打ち込む打設性などのワーカビリティ(作業性)が低下する。このような作業性の問題のためにセメント組成物に含有させる凝結遅延剤は、水硬性硬化体の品質を改善する効果に優れた水硬性硬化体用化学混和剤であり、水硬性硬化体の凝結や初期硬化の遅延を目的として用いられる。セメント組成物は凝結遅延剤を含有していることで、混合された生成物は、混合後も作業性をより長い時間良好に維持できる。
【0018】
凝結遅延剤には、例えば、珪弗化物を主成分として遅延作用を有する凝結遅延剤、従来よりも長時間の凝結遅延を目的としたオキシカルボン酸塩を主成分とする凝結遅延剤がある。リグニンスルホン酸塩やオキシカルボン酸塩は、セメント粒子表面に吸着し、セメントと水との接触を一時的に遮断することにより、初期水和反応を遅らせる。凝結遅延剤は、セメントの凝結反応を遅延させる種々の薬剤から選択することができる。凝結遅延剤として具体的には、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸塩、オキシカルボン酸塩、超微粒子アクリルポリマーエマルション、オキシカルボン酸系化合物、ポリヒドロキシカルボン酸、リグニンスルホン酸塩、及び、これらの成分を含む複合体(例えば、変性リグニンスルホン酸化合物とオキシカルボン酸化合物の複合体)のうちのいずれかを主成分とする薬剤を選択することができる。
【0019】
凝結遅延剤は、以下の試験に基づく混和剤と採用され、セメント組成物に含有される。
【0020】
凝結遅延剤としては、JIS A 6204:2011「コンクリート用化学混和剤」に従う混和剤であって、JIS A 1147:2019「コンクリートの凝結時間試験方法」に従うセメントの凝結時間の差分が、始発時間において+15分よりも大きく、または、終結時間において+0分よりも大きい特性を有するものを選択することが好ましい。更には、始発時間において+30分よりも大きく、かつ、終結時間において+0分よりも大きい特性を有する凝結遅延剤を選択することが好ましい。
【0021】
また、凝結遅延剤は、よりセメント等の凝結遅延の効果が優れたものとして、例えば、JIS A 1147:2019「コンクリートの凝結時間試験方法」に従うセメントの凝結時間の差分が、始発時間において+60分~+210分、かつ、終結時間において+0分~+210分となる凝結遅延剤を選択することが好ましい。
【0022】
一般的には、単位セメント量に対する比率で示される凝結遅延剤(水硬性硬化体用化学混和剤)の添加量は、本実施形態では、以下のような手順によって具体的な添加重量(kg/m3)を定めることが好ましい。なお、以下の手順は一例であって、添加量を定める手順は、これに限定されるものではない。
【0023】
まず、JIS R 5201:2015「セメント物理試験」に規定されるモルタルであって、質量配合がセメント(普通ポルトランドセメント):標準砂:水=1:3:0.5のモルタルにおいて、その単位セメント量に対して所定の試験重量比(X%)の凝結遅延剤を添加する。そして、JIS A 1147:2019「コンクリートの凝結時間試験方法」に規定される試験を行う。
【0024】
この凝結時間試験において、凝結時間の差分が、始発時間で+60分~+210分、かつ、終結時間で+0分~210分となった凝結遅延剤を選択する。
凝結遅延剤の添加量は、セメント(OPS)と水酸化カルシウム(CH)の合計の質量部に対する比率(Y%)で設定される。
換言すると、凝結遅延剤の添加量(Y%)は、水酸化カルシウム(CH)の質量部の比率(CH/(OPS+CH))に基づいて設定される。水酸化カルシウム(CH)の質量部の比率(CH/(OPS+CH))が大きいほど、凝結遅延剤の添加量(Y%)も大きく設定される。水酸化カルシウム(CH)の質量部の比率(CH/(OPS+CH))が小さいほど、凝結遅延剤の添加量(Y%)も小さく設定される。
本実施形態におけるセメント組成物に含有する凝結遅延剤の添加量は、凝結時間試験において用いた試験重量比(X%)に基づいて、試験重量比(X%)の倍数として設定してもよい。
凝結遅延剤の添加量(Y%)の好ましい範囲(下限、上限)は、以下の相当量である。
CH/(OPS+CH):6~20% 添加量(Y%):0.05倍以上、0.75倍以下
CH/(OPS+CH):20~40% 添加量(Y%):0.75倍以上、1.50倍以下
CH/(OPS+CH):40~60% 添加量(Y%):1.25倍以上、2.00倍以下
CH/(OPS+CH):60~80% 添加量(Y%):2.25倍以上、3.00倍以下
凝結遅延剤の添加量(Y%)のより好ましい範囲(下限、上限)は、以下のとおりである。
CH/(OPS+CH):6~20% 添加量(Y%):0.25倍以上、0.50倍以下
CH/(OPS+CH):20~40% 添加量(Y%):1.00倍以上、1.25倍以下
CH/(OPS+CH):40~60% 添加量(Y%):1.50倍以上、1.75倍以下
CH/(OPS+CH):60~80% 添加量(Y%):2.50倍以上、2.75倍以下
【0025】
上記、JIS A 1147:2019「コンクリートの凝結時間試験方法」に規定される試験で単位セメント量に対する試験重量比(X%)が、0.2%である場合、凝結遅延剤の添加量(Y%)の好ましい範囲(下限、上限)は、以下の相当量である。
CH/(OPS+CH):6~20% 添加量(Y%):0.01%以上、0.15%以下
CH/(OPS+CH):20~40% 添加量(Y%):0.15%以上、0.30%以下
CH/(OPS+CH):40~60% 添加量(Y%):0.25%以上、0.40%以下
CH/(OPS+CH):60~80% 添加量(Y%):0.45%以上、0.60%以下
凝結遅延剤の添加量(Y%)のより好ましい範囲(下限、上限)は、以下のとおりである。
CH/(OPS+CH):6~20% 添加量(Y%):0.05%以上、0.10%以下
CH/(OPS+CH):20~40% 添加量(Y%):0.20%以上、0.25%以下
CH/(OPS+CH):40~60% 添加量(Y%):0.30%以上、0.35%以下
CH/(OPS+CH):60~80% 添加量(Y%):0.50%以上、0.55%以下
本実施形態の一例として、凝結遅延剤の添加量は、セメントと水酸化カルシウムの合計の質量部に対して、上記の範囲で設定される。なお、試験重量比(X%)が不明な場合も概ね同様の範囲で設定し得る。
【0026】
一方、上述の凝結時間試験において、凝結時間の差分が比較的小さく、例えば、始発時間で+30分~+90分、かつ、終結時間で+0分~90分となった凝結遅延剤(混和剤)も選択することができる。
凝結遅延剤の添加量は、同様に、セメント(OPS)と水酸化カルシウム(CH)の合計の質量部に対する比率(Y%)で設定される。換言すると、凝結遅延剤の添加量(Y%)は、水酸化カルシウム(CH)の質量部の比率(CH/(OPS+CH))に基づいて設定される。水酸化カルシウム(CH)の質量部の比率(CH/(OPS+CH))が大きいほど、凝結遅延剤の添加量(Y%)も大きく設定される。水酸化カルシウム(CH)の質量部の比率(CH/(OPS+CH))が小さいほど、凝結遅延剤の添加量(Y%)も小さく設定される。
【0027】
このように、セメント組成物に添加される凝結遅延剤は、JIS A 1147:2019「コンクリートの凝結時間試験方法」に規定される試験により測定された凝結時間に、ある程度の遅れが生じていることが確認された化学混和剤であればよい。また、セメント組成物のセメントと水酸化カルシウムの合計の100質量部に対する添加量(Y%)は、確認された凝結時間の遅れの程度に応じて変更してもよく、例えば、添加重量比(%)の上限を、凝結時間の遅れが大きい凝結遅延剤ほど小さくし、凝結時間の遅れが小さい凝結遅延剤ほど大きくしてもよい。これにより、凝結時間の遅れが比較的大きい凝結遅延剤を用いる場合には、セメント組成物への凝結遅延剤の添加量を減らすことによって、構造物の施工コストの上昇を抑制することができる。
【0028】
また、セメント組成物に含まれる細骨材とは、JIS A 5308、JIS A 5005、JIS A 5002及びJIS A 5011で定義される骨材である。細骨材としては、例えば砕砂、砂、川砂、海砂、石灰砕砂、再生骨材、軽量骨材、重量骨材等が挙げられる。
【0029】
セメント組成物に含まれる粗骨材とは、JIS A 5308、JIS A 5005、JIS A 5002及びJIS A 5011で定義される骨材であり、粒の大きさにより上記の細骨材とは区別されるもので、5mmふるいを通るか否かで区分する。実用上、10mmふるいをすべて通り5mmふるいを重量で85%以上通るものを細骨材、5mmふるいに重量で85%以上とどまるものを粗骨材としている。
【0030】
セメント組成物に含まれる水酸化カルシウムは、セメントと水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、5質量部以上、好ましくは15質量部以上、より好ましくは20質量部以上である。セメントと水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、水酸化カルシウムが5質量部以上であると、炭酸化養生の初期段階から炭酸ガスを取り込むことができるので、水硬性硬化体に炭酸ガスを十分に固定化できる。
【0031】
また、セメント組成物に含まれる水酸化カルシウムは、セメントと水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、80質量部以下、好ましくは60質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。セメントと水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、水酸化カルシウムが80質量部以下であると、水硬性硬化体としての機能を十分に備えることができる。
【0032】
また、セメント組成物は、セメントおよび水酸化カルシウムを合計で270kg/m3以上600kg/m3以下含有し、水を、セメントと水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、20質量部以上65質量部以下含有することが好ましい。更には、セメント組成物は、セメントおよび水酸化カルシウムを合計で270kg/m3以上400kg/m3以下含有し、水を、セメントと水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、40質量部以上55質量部以下含有することがより好ましい。
【0033】
セメントおよび水酸化カルシウムの合計及び、セメントと水酸化カルシウムの合計量の質量部に対する、水の質量部の比率が上記範囲内であると、普通コンクリートとして一般的に流通し、JISによる生コンクリート規格と同等の性能を備えることができる。
【0034】
なお、セメントと水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、水が40質量部以上65質量部以下であると、作業性に優れた混合物を得ることができる。
【0035】
また、セメント組成物に含まれる凝結遅延剤は、セメントと水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、0.010質量部以上であることが好ましく、0.050質量部以上であることがより好ましく、0.100質量部以上であることがさらに好ましい。セメントと水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、凝結遅延剤が0.010質量部以上であると、水酸化カルシウムによる作業性の低下を十分に改善できる。
【0036】
また、セメント組成物に含まれる凝結遅延剤は、セメントと水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、1.000質量部以下であることが好ましく、0.500質量部以下であることがより好ましく、0.400質量部以下であることがさらに好ましい。セメントと水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、凝結遅延剤が1.000質量部以下であると、水硬性硬化体の凝結終結時間の過剰な遅延を抑制し、作業性を向上できる。
【0037】
また、セメント組成物に含まれる凝結遅延剤は、0.05kg/m3以上であることが好ましく、0.10kg/m3以上であることがより好ましく、0.30kg/m3以上であることがさらに好ましい。セメント組成物に含まれる凝結遅延剤が0.05kg/m3以上であると、水硬性硬化体の凝結を十分に遅延できることから、炭酸化養生によって炭酸ガスを水硬性硬化体の全体に十分に固定できるため、作業性をさらに向上できる。
【0038】
また、セメント組成物に含まれる凝結遅延剤は、2.00kg/m3以下であることが好ましく、1.80kg/m3以下であることがより好ましく、1.50kg/m3以下であることがさらに好ましい。セメント組成物に含まれる凝結遅延剤が2.00kg/m3以下であると、水硬性硬化体の凝結終結時間の過剰な遅延を抑制し、作業性を向上できる。
【0039】
また、セメント組成物は、0kg/m3超50kg/m3以下の高炉スラグ微粉末(BFS)をさらに含有してもよい。
【0040】
高炉スラグ微粉末はJIS A 6206:2013「コンクリート用高炉スラグ微粉末」に規定される微粉末である。高炉で、せん鉄と同時に生成する溶融状態の高炉スラグを水や空気によって急冷したものが高炉水砕スラグであり、その塩基度は1.60以上である。この高炉水砕スラグを乾燥・粉砕したもの、又はこれに、石膏を添加したものが、高炉スラグ微粉末である。ポルトランドセメントの一部を高炉スラグ微粉末で代替することにより、セメント製造段階での炭酸ガス排出量を低減させることができる。
【0041】
高炉スラグ微粉末の種類は、比表面積(cm2/g)によって次の4種類が存在するが、本発明においてはいずれを用いてもよい。
a)高炉スラグ微粉末3000:比表面積が2750以上3500未満
b)高炉スラグ微粉末4000:比表面積が3500以上5000未満
c)高炉スラグ微粉末6000:比表面積が5000以上7000未満
d)高炉スラグ微粉末8000:比表面積が7000以上10000未満
【0042】
また、セメント組成物は、フライアッシュ、γ-C2S、ワラストナイトおよびメルヴィナイトの群から選択される1種以上を0kg/m3超50kg/m3以下含有してもよい。セメント組成物が上記化合物の少なくとも1種を上記範囲内含むと、炭酸化養生で水硬性硬化体に固定する炭酸ガスの量をさらに増加できる。
【0043】
また、セメント組成物は、本発明の効果を奏する範囲内で、その他の添加物をさらに含有してもよい。その他の添加物としては、例えば、石炭灰、石灰石微粉末、大気中の炭酸ガスを固定した軽質炭酸カルシウムなどの炭酸化合物、減水剤、流動化剤などが挙げられる。
【0044】
また、セメント組成物の練上がり後の生成物については、JIS A 1101:2005「コンクリートのスランプ試験方法」によりスランプ(cm)が測定される。練上がり直後の生成物のスランプは、好ましくは8.0cm以上21.0cm以下、より好ましくは、下限が10.0cm以上、上限が18.0cm以下で便宜設定される。一般的に、セメント組成物の練上がり後の生成物のスランプは経時的に小さくなり、いわゆる作業性や流動性が低下する。特に、セメントに水酸化カルシウムを比較的多量に含有するので、練上がり後のスランプロスが大きい。上記のセメント組成物の練上がり直後のスランプ(S1)に対する、セメント組成物の練上がり直後のスランプ(S1)と60分経過後のスランプ(S2)との差の比であるスランプロス(|S1-S2|×100/S1)は、30.0%以下であることが好ましい。スランプロスは、セメント組成物に含有される凝結遅延剤により調整される。上記スランプロスが30.0%以下であると、良好な作業性が一定時間維持することができ実用性が向上し、炭酸化養生で水硬性硬化体に固定する炭酸ガスの量を増加できる。更に、スランプロスが20.0%以下であると、より良好な作業性をより長い時間維持することができ、炭酸化養生で水硬性硬化体に固定する炭酸ガスの量を増加できる。
【0045】
上記のセメント組成物は、硬化および炭酸化養生し、水硬性硬化体を製造する。例えば、セメント組成物は、型枠内に充填されて所定の形状に硬化された後、炭酸化養生される。セメント組成物は、炭酸化養生の前に完全に硬化されている必要はなく、例えば、自立可能に(型枠から外しても所定の形状を維持できる程度に)半硬化されていればよい。なお、セメント組成物は、プレキャストコンクリートのみならず、場所打ちとしても打設できる。
【0046】
炭酸化養生は、例えば、上記の半硬化体を二酸化炭素含有ガスに曝すことで実施することができる。二酸化炭素含有ガスにおける二酸化炭素の含有割合は、大気中の濃度である0.03%程度より多く、例えば1%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。これにより炭酸化養生が迅速に実施される。また、炭酸化養生に使用する炭酸ガスの供給源として、工場や施設から排出される燃焼排ガスを利用することができる。燃焼排ガスを炭酸化養生のチャンバー内に直接送り込んでもよいし、燃焼排ガスを他のガスと混合した混合ガスとしてチャンバー内に送り込んでもよい。
【0047】
炭酸化養生時の温度は特に限定されないが、15℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。また、炭酸化養生時の温度は、例えば70℃以下であることが好ましい。
【0048】
炭酸化養生の養生期間は、養生対象物の形状、養生条件等に応じて適宜設定してよい。例えば、養生期間は1~28日程度であればよい。炭酸化養生工程においては、未硬化成分の硬化反応が同時に進行してよい。
【0049】
上記水硬性硬化体の製造方法によって製造される水硬性硬化体は、そのまま残存型枠などの用途に供されてよく、必要に応じて成形、加工などを施してから具体的な用途に供されてもよい。水硬性硬化体は、現場打ち鉄筋コンクリート、有スランプコンクリート、ゼロスランプコンクリート、プレストレストコンクリートなどの用途に用いることができる。
【0050】
次に、本発明の炭酸化養生用セメント組成物について説明する。
【0051】
本発明の炭酸化養生用セメント組成物は、水と、セメントと、水酸化カルシウムと、凝結遅延剤と、を含有し、水酸化カルシウムを、セメントと水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して、5質量部以上80質量部以下含有する。セメントと水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対する上記水酸化カルシウムの質量部について、下限値は、好ましくは15質量部以上、より好ましくは20質量部以上であり、上限値は、好ましくは60質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。
【0052】
炭酸化養生用セメント組成物は、上記水硬性硬化体の製造方法におけるセメント組成物に好適に用いられる。こうした観点から、本発明の炭酸化養生用セメント組成物の含有成分や組成は、上記水硬性硬化体の製造方法におけるセメント組成物の含有成分や組成と同じであることが好ましい。
【0053】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本開示の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0054】
次に、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1~9)
表1に示す組成のセメント組成物を調製した。続いて、表1に示す組成のセメント組成物を直径10cm×高さ20cmの円柱型枠に打設し、20℃、2日間の前養生を行い、続いて、各固化体を炭酸化養生に供した。炭酸化養生の条件は、温度20℃、湿度50%RH、炭酸ガス濃度80%の大気圧環境とした。炭酸化養生を材齢28日で終了した。こうして、炭酸ガスを固定化した水硬性硬化体を得た。
【0056】
(比較例1~12)
表1に示す組成のセメント組成物を表2に示す組成のセメント組成物に変更した以外は上記実施例と同様にして、比較例1~12を行った。
【0057】
なお、表1~2において、Wは水、OPCは普通ポルトランドセメント、CHは水酸化カルシウム、凝結遅延剤はオキシカルボン酸塩系凝結遅延剤、Sは細骨材、Gは粗骨材、BFSは高炉スラグ微粉末、Fはフライアッシュである。また、W、OPC(N)、CH(C)、凝結遅延剤、S、G、BFS(B)、F、N+Cの単位はkg/m3である。また、C/(N+C)は、セメントと水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対する水酸化カルシウムの質量部である。W/(N+C)は、セメントと水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対する水の質量部である。凝結遅延剤/(N+C)は、セメントと水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対する凝結遅延剤の質量部である。C/Nは、セメント100質量部に対する水酸化カルシウムの質量部である。それぞれの材料の性状は以下の通りである。
【0058】
OPC :密度3.16g/cm3
CH :密度2.21g/cm3
凝結遅延剤:密度1.19g/cm3
S :密度2.64g/cm3
G :密度2.65g/cm3
BFS :密度2.91g/cm3
F :密度2.20g/cm3
【0059】
【0060】
【0061】
上記実施例および比較例のセメント組成物から得られた水硬性硬化体について、下記の測定および評価を行った。その結果を表3~4に示す。
【0062】
[1] スランプ
JIS A 1101:2005「コンクリートのスランプ試験方法」に沿って測定した。測定は、セメント組成物の練上がり直後(S1)、練上がり直後から30分後、練上がり直後から60分後(S2)に測定した結果をそれぞれのタイミングにおけるスランプとし、スランプ(S1)に対するスランプ(S1)とスランプ(S2)との差の比であるスランプロス(|S1-S2|×100/S1)を算出して、セメント組成物の練上がり直後からの継時的な変化を評価した。スランプの評価は、スランプロスが20.0%以下であった場合を○とし、スランプロスが20.0%より大きく30.0%以下であった場合を△、スランプロスが30.0%より大きいもしくは測定不可であった場合を×(不合格)とした。
【0063】
[2] 打設性(作業性)
打設性の評価は以下のようにして行った。練上がったセメント組成物について、練上がり直後から60分経過した後であっても型枠に採取可能であった場合を○とし、練上がり直後から60分経過した後に型枠への採取が不可能であった場合を×(不合格)とした。
【0064】
[3] 24時間以内の硬化の有無
練上がったセメント組成物を型枠内に打設し、24時間静置した。24時間後に型枠を取り外せるまで硬化している場合を○とし、硬化していない場合を×(不合格)とし、型枠への採取が不可能であった場合は「測定不可」(不合格)とした。
【0065】
[4] 水硬性硬化体1本あたりの炭酸ガス吸収量
上記実施例および比較例で得られた水硬性硬化体に対して、JIS A 1152:2018「コンクリートの中性化深さの測定方法」によって測定した炭酸化範囲について、炭酸ガス吸収量を測定した。
【0066】
[5] 圧縮強度
上記実施例および比較例のセメント組成物を用いて、JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に従い、所定の材齢において圧縮強度を測定した。
【0067】
【0068】
【0069】
上記のように、上記実施例では、セメント組成物は、水と、セメントと、水酸化カルシウムと、凝結遅延剤と、を含有し、セメントと水酸化カルシウムの合計量の100質量部に対して水酸化カルシウムを5質量部以上80質量部以下含有していた。そのため、製造時の炭酸ガス排出量が少なく、優れた炭酸ガス固定化機能を有し、セメント組成物を硬化および炭酸化養生した際の作業性が優れていた。また、セメント組成物を硬化および炭酸化養生して得られた水硬性硬化体について、多量の炭酸ガスを固定化し、強度についても優れていた。