(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135432
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】延伸装置、延伸方法、フィルム製造装置
(51)【国際特許分類】
B29C 55/06 20060101AFI20230921BHJP
【FI】
B29C55/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040649
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】吉田 涼
【テーマコード(参考)】
4F210
【Fターム(参考)】
4F210AJ08
4F210AK04
4F210AR06
4F210AR07
4F210AR08
4F210AR12
4F210QA03
4F210QC02
4F210QD13
4F210QD36
4F210QG01
4F210QG18
4F210QM03
4F210QM15
4F210QM20
(57)【要約】
【課題】フィルムを延伸する際のシワの発生を抑制すること。
【解決手段】延伸装置(101)は、第3搬送ロール(23)と所定の間隔を開けて原反(S)の搬送方向の下流側に配置された第4搬送ロール(24)との間で本加熱する本加熱部(120)を備え、第4搬送ロール(24)による原反(S)の抱き角が90°±10°である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなるフィルムを搬送させながら加熱延伸する延伸装置であって、
前記フィルムの搬送をガイドする第1ガイドロールと、
前記第1ガイドロールと所定の間隔を開けて前記フィルムの搬送方向の下流側に配置された第2ガイドロールと、
前記フィルムを前記第1ガイドロールと前記第2ガイドロールとの間で延伸させるための加熱を行う本加熱ヒータと、を備え、
前記第2ガイドロールによる前記フィルムの抱き角は、90°±10°である、延伸装置。
【請求項2】
前記第1ガイドロールよりも前記フィルムの搬送方向の上流側に配置され、前記フィルムを前記本加熱ヒータよりも低い温度に加熱する予熱ヒータを備えている、請求項1に記載の延伸装置。
【請求項3】
前記予熱ヒータによる加熱温度は、前記本加熱ヒータによる本加熱温度よりも、10℃~50℃低い、請求項2に記載の延伸装置。
【請求項4】
前記第2ガイドロールよりも前記フィルムの搬送方向の下流側に配置され、前記フィルムを前記本加熱ヒータよりも低い温度に加熱する緩和ヒータを備えている、請求項2または3に記載の延伸装置。
【請求項5】
前記緩和ヒータによる緩和温度は、前記本加熱ヒータによる本加熱温度よりも、10℃~50℃低い、請求項4に記載の延伸装置。
【請求項6】
前記本加熱ヒータ、前記予熱ヒータは、それぞれ前記フィルムの表側および裏側に設けられている、請求項2または3に記載の延伸装置。
【請求項7】
前記本加熱ヒータ、前記予熱ヒータ、前記緩和ヒータは、遠赤外線ヒータである、請求項4または5に記載の延伸装置。
【請求項8】
前記第1ガイドロールよりも前記フィルムの搬送方向の上流側に配置され、前記フィルムを前記第1ガイドロール側への搬送をガイドする第3ガイドロールと、
前記第2ガイドロールよりも前記フィルムの搬送方向の下流側に配置され、前記第2ガイドロールから送り出されたフィルムをさらに前記搬送方向の下流側への搬送をガイドする第4ガイドロールと、をさらに備え、
前記第1ガイドロールと前記第3ガイドロールとによって、前記フィルムを長手方向に張架し、
前記第2ガイドロールと前記第4ガイドロールとによって、前記フィルムを長手方向に張架する、請求項1~7の何れか1項に記載の延伸装置。
【請求項9】
前記第2ガイドロールの直径が150mm以上である、請求項1~8の何れか1項に記載の延伸装置。
【請求項10】
前記第2ガイドロールから送り出す前記フィルムの搬送速度が、前記フィルムを前記第1ガイドロールに送り出す前記フィルムの搬送速度に対して、+0.1%~+10%の速度差に設定されている、請求項1~9の何れか1項に記載の延伸装置。
【請求項11】
熱可塑性樹脂からなるフィルムを搬送させながら加熱延伸するフィルムの延伸方法であって、
前記フィルムの搬送をガイドする第1ガイドロールと、所定の間隔を開けて前記フィルムの搬送方向の下流側に配置された第2ガイドロールとの間で本加熱ヒータによって前記フィルムを本加熱する第1ステップと、
前記第1ステップによって本加熱された前記フィルムを、90°±10°の抱き角で前記第2ガイドロールが送り出す第2ステップと、を含む、延伸方法。
【請求項12】
請求項1~10の何れか1項に記載の延伸装置を備えた、フィルム製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はフィルムを延伸する延伸装置、延伸方法およびフィルム製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~8は、加熱しながらフィルムを延伸する延伸装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-083703号公報
【特許文献2】特開2002-120348号公報
【特許文献3】特開2009-233918号公報
【特許文献4】実開平04-081728号公報
【特許文献5】特開昭51-049267号公報
【特許文献6】特開昭58-128820号公報
【特許文献7】特開平10-235728号公報
【特許文献8】特開2016-060184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フィルムを加熱し、延伸する際にフィルムにシワが発生するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る延伸装置は、熱可塑性樹脂からなるフィルムを搬送させながら加熱延伸する延伸装置であって、前記フィルムの搬送をガイドする第1ガイドロールと、前記第1ガイドロールと所定の間隔を開けて前記フィルムの搬送方向の下流側に配置された第2ガイドロールと、前記フィルムを前記第1ガイドロールと前記第2ガイドロールとの間で延伸させるための加熱を行う本加熱ヒータと、を備え、前記第2ガイドロールによる前記フィルムの抱き角が90°±10°の装置である。
【0006】
本開示の一態様に係る延伸装置は、前記第1ガイドロールよりも前記フィルムの搬送方向の上流側に配置され、前記フィルムを前記本加熱ヒータよりも低い温度に加熱する予熱ヒータを備えた装置であってもよい。
【0007】
本開示の一態様に係る延伸装置は、前記予熱ヒータによる加熱温度が、前記本加熱ヒータによる本加熱温度よりも、10℃~50℃低い装置であってもよい。
【0008】
本開示の一態様に係る延伸装置は、前記第2ガイドロールよりも前記フィルムの搬送方向の下流側に配置され、前記フィルムを前記本加熱ヒータよりも低い温度に加熱する緩和ヒータを備えた装置であってもよい。
【0009】
本開示の一態様に係る延伸装置は、前記緩和ヒータによる緩和温度が、前記本加熱ヒータによる本加熱温度よりも、10℃~50℃低い装置であってもよい。
【0010】
本開示の一態様に係る延伸装置は、前記本加熱ヒータ、前記予熱ヒータが、それぞれ前記フィルムの表側および裏側に設けられた装置であってもよい。
【0011】
本開示の一態様に係る延伸装置は、前記本加熱ヒータ、前記予熱ヒータ、前記緩和ヒータが、遠赤外線ヒータである装置であってもよい。
【0012】
本開示の一態様に係る延伸装置は、前記第1ガイドロールよりも前記フィルムの搬送方向の上流側に配置され、前記フィルムを前記第1ガイドロール側への搬送をガイドする第3ガイドロールと、前記第2ガイドロールよりも前記フィルムの搬送方向の下流側に配置され、前記第2ガイドロールから送り出されたフィルムをさらに前記搬送方向の下流側への搬送をガイドする第4ガイドロールと、をさらに備え、前記第1ガイドロールと前記第3ガイドロールとによって、前記フィルムを長手方向に張架し、前記第2ガイドロールと前記第4ガイドロールとによって、前記フィルムを長手方向に張架する装置であってもよい。
【0013】
本開示の一態様に係る延伸装置は、前記第2ガイドロールの直径が150mm以上である装置であってもよい。
【0014】
本開示の一態様に係る延伸装置は、前記第2ガイドロールから送り出す前記フィルムの搬送速度が、前記フィルムを前記第1ガイドロールに送り出す前記フィルムの搬送速度に対して、+0.1%~+10%の速度差に設定されている装置であってもよい。
【0015】
本開示の一態様に係る延伸方法は、熱可塑性樹脂からなるフィルムを搬送させながら加熱延伸するフィルムの延伸方法であって、前記フィルムの搬送をガイドする第1ガイドロールと、所定の間隔を開けて前記フィルムの搬送方向の下流側に配置された第2ガイドロールとの間で本加熱ヒータによって前記フィルムを本加熱する第1ステップと、前記第1ステップによって本加熱されたフィルムを、90°±10°の抱き角で前記第2ガイドロールが送り出す第2ステップと、を含む方法である。
【発明の効果】
【0016】
本開示の一態様によれば、フィルムのシワの発生を低減する延伸装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本開示の一実施形態に係る延伸装置を備えたフィルム製造装置の概略構成の一例を示す模式図である。
【
図2】
図1に示すフィルム製造装置の機能ブロック図である。
【
図3】
図1に示す延伸装置を用いて延伸されたフィルムの外観図である。
【
図4】比較例における延伸されたフィルムの外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔実施形態1〕
以下、本開示の一実施形態について、詳細に説明する。本実施形態では、まず、本開示の延伸装置を備えたフィルム製造装置について説明する。
【0019】
(フィルム製造装置)
図1は、本実施形態に係るフィルム製造装置1の概略構成の一例を示す模式図である。フィルム製造装置1は、原反Sを加熱延伸して熱可塑性フィルム201を製造する。
図1は、原反Sの長さ方向に平行かつ、原反Sの幅方向に直交する面に直交する方向から見た図であり、原反Sの搬送の上流側を左側に、下流側を右側に示す。
図1において、搬送方向は原反Sの長さ方向である。
【0020】
フィルム製造装置1は、原反Sを加熱して延伸することで熱可塑性フィルム201を得る延伸装置101と、延伸装置101に原反Sを送り出すための第1ニップ部31と、延伸装置101から送り出された熱可塑性フィルム201を下流側に配置された巻取りロール(図示しない)に送り出すための第2ニップ部32とを含む。ここで、フィルム製造装置1によって熱可塑性フィルム201を製造するための原反Sとして、無色透明のポリイミドフィルムを用いる。なお、原反Sについては、ポリイミドフィルムに限定されるものではなく、熱可塑性樹脂からなるフィルムであれば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、およびポリエステルを含む群から選択された少なくとも1つを含む熱可塑性樹脂からなるフィルムであってもよい。
【0021】
延伸装置101は、
図1に示すように、原反Sの搬送の上流側から順に配された、第1搬送ロール21、第2搬送ロール22(第3ガイドロール)、第3搬送ロール(第1ガイドロール)23、第4搬送ロール(第2ガイドロール)24、第5搬送ロール(第4ガイドロール)25、第6搬送ロール26を含む。これらの搬送ロールは、それぞれ全て駆動源(駆動モータ等)から直接駆動力が伝わらない回転自在のロールである。また、これらの搬送ロールは、それぞれ所定の間隔を隔て配置されている。
【0022】
第1搬送ロール21と第2搬送ロール22は、原反Sの表面Saに接触し、第3搬送ロール23と第4搬送ロール24は、原反Sの裏面Sbに接触し、第5搬送ロール25と第6搬送ロール26は、原反Sの延伸後の熱可塑性フィルム201の表面201aに接触するように配置されている。ここで、第2搬送ロール22による原反Sの抱き角、第3搬送ロール23による原反Sの抱き角、第4搬送ロール24による熱可塑性フィルム201の抱き角、第5搬送ロール25による熱可塑性フィルム201の抱き角は、それぞれ約90°である。これにより、それぞれのロールとフィルム(原反S、熱可塑性フィルム201)との接触面積が適度に広く、フィルムを適切にグリップしながら、搬送するようになっている。ここで、抱き角は、ロールから次のロールへ向かうフィルム(原反S、熱可塑性フィルム201)の角度をいう。従って、抱き角が小さくなると、フィルムのロールへの巻き付きの度合いが大きくなり、すなわちフィルムとロールとの接触面積が大きくなり、フィルムのグリップ力が高くなるため、フィルムにキズが発生し易くなる。一方、抱き角が大きくなると、フィルムのロールへの巻き付きの度合いが小さくなり、すなわちフィルムとロールとの接触面積が小さくなり、フィルムのグリップ力が低くなるので、フィルムの搬送中に、シワが発生し易くなる。従って、抱き角は、フィルムにキズが発生しにくく、且つ、フィルムの搬送中に、フィルムにシワが発生しない角度にするのが好ましい。抱き角の好ましい角度についての詳細は後述する。
【0023】
なお、本実施形態では、原反S、原反Sを延伸した熱可塑性フィルム201を区別して説明する。具体的には、第3搬送ロール23と第4搬送ロール24との間で本加熱されて延伸されるまでを原反Sとして、本加熱されて延伸された原反Sを熱可塑性フィルム201とする。つまり、第4搬送ロール24までは原反Sとし、第4搬送ロール24から送り出されるのは熱可塑性フィルム201として説明する。
【0024】
延伸装置101は、第2搬送ロール22と第3搬送ロール23との間に、原反Sを表面Sa側から加熱する第1予熱ヒータ11aと、原反Sを裏面Sb側から加熱する第2予熱ヒータ11bと、が配置されている。第1予熱ヒータ11aと第2予熱ヒータ11bとによって、原反Sを本加熱する前に予備的に加熱する予熱部110を構成している。予熱部110による加熱温度は、後述する本加熱部120による加熱温度よりも低く設定されている。従って、予熱部110では、原反Sを延伸させるほど加熱しない。なお、予熱部110における加熱温度の詳細は後述する。
【0025】
第3搬送ロール23と第4搬送ロール24との間に、原反Sを表面Sa側から加熱する第1本加熱ヒータ12aと、原反Sを裏面Sb側から加熱する第2本加熱ヒータ12bとが配置されている。第1本加熱ヒータ12aと第2本加熱ヒータ12bとによって、原反Sを延伸するための本加熱を行う本加熱部120を構成している。本加熱部120における加熱温度の詳細は後述する。
【0026】
第4搬送ロール24と第5搬送ロール25との間には、熱可塑性フィルム201を表面201a側から加熱する緩和ヒータ13が配置されている。緩和ヒータ13によって、本加熱部120で本加熱されて延伸された熱可塑性フィルム201を、本加熱部120による加熱温度よりも低い温度に加熱する緩和部130を構成している。従って、緩和部130では、原反Sを延伸させるほど加熱しない。なお、緩和部130における加熱温度の詳細は後述する。
【0027】
第1予熱ヒータ11a、第2予熱ヒータ11b、第1本加熱ヒータ12a、第2本加熱ヒータ12b、緩和ヒータ13は、何れも遠赤外線ヒータである。なお、第1予熱ヒータ11a、第2予熱ヒータ11b、第1本加熱ヒータ12a、第2本加熱ヒータ12b、緩和ヒータ13は、何れも遠赤外線ヒータであることが好ましいが、これに限定されるものではなく、他の加熱用のヒータであってもよい。
【0028】
また、原反Sは、加熱ムラを低減するという観点から、表面Saおよび裏面Sbの両側から加熱するのが好ましい。具体的には、予熱部110において第1予熱ヒータ11aによって原反Sの表面Saを加熱し、第2予熱ヒータ11bによって原反Sの裏面Sbを加熱し、本加熱部120において第1本加熱ヒータ12aによって原反Sの表面Saを加熱し、第2本加熱ヒータ12bによって原反Sの裏面Sbを加熱するのが好ましい。また、第1予熱ヒータ11a、第2予熱ヒータ11bの何れか一方だけ、また、第1本加熱ヒータ12a、第2本加熱ヒータ12bの何れか一方だけを配置することで、原反Sを、表面Saまたは裏面Sbの何れか一方側から加熱するようにしてもよい。
【0029】
なお、本実施形態では、第1予熱ヒータ11a、第2予熱ヒータ11b、第1本加熱ヒータ12a、第2本加熱ヒータ12b、緩和ヒータ13を用いて原反Sおよび熱可塑性フィルム201を加熱する例について説明する。また、緩和部130では、緩和ヒータ13を一つだけ設けて、熱可塑性フィルム201の表面201a側から加熱しているが、これに限定されるものではなく、熱可塑性フィルム201の裏面201b側から加熱するヒータをさらに設けてもよい。
【0030】
(延伸装置101の各部における加熱温度)
本加熱部120における第1本加熱ヒータ12aおよび第2本加熱ヒータ12bは、本加熱部120における第3搬送ロール23と第4搬送ロール24との間に張架された原反Sの中央部の表面温度が原反Sのガラス転移温度(Tg)またはガラス転移温度(Tg)付近であるように、原反Sを加熱する。第1本加熱ヒータ12aおよび第2本加熱ヒータ12bによる加熱下で原反Sの中央部の表面温度は、原反Sのガラス転移温度(Tg)に対して、<摂氏20度低い温度から原反Sの軟化点(Tm)より摂氏20度高い温度まで>の範囲にあることが好ましい。ここで、ガラス転移温度(Tg)とは、セイコー電子工業(株)製DMS-200を用い、測定治具間隔20mm、周波数5Hzで、原反Sの動的粘弾性を測定し、貯蔵弾性率と測定温度との相関をプロットして、その変曲点の温度を意味する。また、変曲点の貯蔵弾性率から1/1000の貯蔵弾性率になった温度を軟化点(Tm)とする。
【0031】
予熱部110における第1予熱ヒータ11aおよび第2予熱ヒータ11bは、第2搬送ロール22と第3搬送ロール23との間に張架された原反Sの中央部の表面温度が、本加熱部120における第1本加熱ヒータ12aおよび第2本加熱ヒータ12bによって加熱された原反Sの表面温度よりも低くなるように、原反Sを加熱する第1予熱ヒータ11aおよび第2予熱ヒータ11bによる予熱温度は、第1本加熱ヒータ12aおよび第2本加熱ヒータ12bによる本加熱温度よりも、10℃~50℃低いことが好ましい。ここで、予熱温度が本加熱温度よりも10℃~50℃超えて低い場合、予熱効果がなく加熱温度ムラが発生し、シワの原因になる。一方、予熱温度が本加熱温度よりも10℃~50℃超えて高い場合、熱可塑性フィルム201を加熱し過ぎで原反Sが破断する場合がある。
【0032】
緩和部130における緩和ヒータ13は、第4搬送ロール24と第5搬送ロール25との間に張架された原反Sの中央部の表面温度が、本加熱部120における第1本加熱ヒータ12aおよび第2本加熱ヒータ12bによって加熱された原反Sの表面温度よりも低くなるように、原反Sを加熱する。緩和ヒータ13による緩和温度は、第1本加熱ヒータ12aおよび第2本加熱ヒータ12bによる本加熱温度よりも、10℃~50℃低いことが好ましい。ここで、緩和温度が本加熱温度よりも10℃~50℃超えて低い場合、緩和効果がなく加熱温度ムラが発生し、シワの原因になる場合がある。一方、緩和温度が本加熱温度よりも10℃~50℃超えて高い場合、熱可塑性フィルム201を加熱し過ぎで原反Sが破断する場合がある。
【0033】
(制御部)
図2は、フィルム製造装置1の機能ブロック図である。フィルム製造装置1では、制御部2によって、予熱部110、本加熱部120、緩和部130の加熱制御が行われる。具体的には、制御部2によって、予熱部110を構成する第1予熱ヒータ11aおよび第2予熱ヒータ11b、本加熱部120を構成する第1本加熱ヒータ12aおよび第2本加熱ヒータ12b、および緩和部130を構成する緩和ヒータ13の加熱制御が行われる。
【0034】
また、フィルム製造装置1では、制御部2によって、第1駆動モータ140、第2駆動モータ150の駆動制御が行われる。ここで、第1駆動モータ140は、第1ニップ部31の第1駆動ロール31bを駆動し、第2駆動モータ150は、第2ニップ部32の第2駆動ロール32bを駆動する。よって、制御部2によって、第1駆動モータ140を駆動制御することで、第1駆動ロール31bの回転速度の制御が行われ、第2駆動モータ150を駆動制御することで、第2駆動ロール32bの回転速度の制御が行われる。
【0035】
このように、第1ニップ部31の第1駆動ロール31bおよび第2ニップ部32の第2駆動ロール32bの回転速度を制御することで、原反Sを第3搬送ロール23に送り出す原反Sの搬送速度と、第4搬送ロール24から送り出す熱可塑性フィルム201の搬送速度を異ならせることができる。ここで、原反Sを第3搬送ロール23に送り出す原反Sの搬送速度よりも、第4搬送ロール24から送り出す熱可塑性フィルム201の搬送速度を大きくし、この場合の搬送速度の速度差によって、第3搬送ロール23と第4搬送ロール24との間において原反Sに搬送方向の張力が印加される。よって、第3搬送ロール23と第4搬送ロール24とによって原反Sが張架される。同時に、第3搬送ロール23と第4搬送ロール24との間において、第1本加熱ヒータ12aおよび第2本加熱ヒータ12bが原反Sを加熱する。この結果、第3搬送ロール23および第4搬送ロール24によって、原反Sが一軸延伸され、その延伸方向は搬送方向である。
【0036】
なお、上記の速度差によって、原反Sおよび熱可塑性フィルム201に搬送方向の張力が印加されるので、第2搬送ロール22と第3搬送ロール23とによって原反Sは長手方向(搬送方向)に張架され、第4搬送ロール24と第5搬送ロール25とによって熱可塑性フィルム201は長手方向(搬送方向)に張架された状態で搬送される。
【0037】
(延伸方法)
原反Sを加熱延伸して熱可塑性フィルム201を得るまでの工程について
図1を参照しながら以下に説明する。
【0038】
まず、第1ニップ部31から送り出された原反Sは、第1搬送ロール21から第2搬送ロール22を経て第3搬送ロール23まで搬送される。このとき、原反Sは、第2搬送ロール22と第3搬送ロール23との間で、予熱部110の第1予熱ヒータ11aおよび第2予熱ヒータ11bによって加熱(予備的な加熱)される。加熱された原反Sは、さらに、第3搬送ロール23から第4搬送ロール24まで搬送される。このとき、原反Sは、第3搬送ロール23と第4搬送ロール24との間で、本加熱部120の第1本加熱ヒータ12aおよび第2本加熱ヒータ12bによって加熱(本加熱)される(第1ステップ)。
【0039】
本加熱部120において、第3搬送ロール23までの原反Sの搬送速度よりも、第4搬送ロール24から送り出される熱可塑性フィルム201の搬送速度を速くすることで、第3搬送ロール23と第4搬送ロール24との間で原反Sに搬送方向の張力が印加され、原反Sは搬送方向に延伸され、熱可塑性フィルム201を得る。
【0040】
本加熱部120において得られた熱可塑性フィルム201は、第4搬送ロール24による抱き角が90°で第5搬送ロール25まで搬送される(第2ステップ)。第4搬送ロール24から搬送された熱可塑性フィルム201は、第4搬送ロール24と第5搬送ロール25との間で、緩和部130の緩和ヒータ13によって加熱(緩和用の加熱)される。緩和部130によって加熱された熱可塑性フィルム201は、第5搬送ロール25による抱き角が90°で第6搬送ロール26まで搬送される。第6搬送ロール26まで搬送された熱可塑性フィルム201は、第2ニップ部32によって図示しない巻き取りロールに搬送される。
【0041】
以下、延伸装置101を用いた場合の熱可塑性フィルム201に発生するシワの低減について説明する。ここで、
図3は、熱可塑性フィルム201の両端部201c側にシワがほとんど発生していない状態を示す平面図である。
図4は、熱可塑性フィルム201の両端部201c側にシワC1が発生した状態を示す平面図である。
【0042】
(シワ発生の低減(1))
延伸装置101では、原反Sを、本加熱部120における第1本加熱ヒータ12aおよび第2本加熱ヒータ12bによる本加熱前に、予熱部110における第1予熱ヒータ11aおよび第2予熱ヒータ11bによる加熱(予備的な加熱)を行う。これにより、原反Sを本加熱する際に、原反Sの急激な温度上昇を抑えて、本加熱時において急激な温度上昇に起因する原反Sの加熱ムラを防ぐことで、原反Sを延伸して得られる熱可塑性フィルム201にシワが発生し難くなる。
【0043】
また、延伸装置101では、本加熱後の原反Sを延伸して得られた熱可塑性フィルム201を、緩和部130における緩和ヒータ13によって加熱(緩和的な加熱)を行う。これにより、熱可塑性フィルム201の急激な温度降下を抑えて、急激な温度降下に起因する熱可塑性フィルム201の加熱ムラを防ぐことで、熱可塑性フィルム201にシワが発生し難くなる。
【0044】
このように、上記構成の延伸装置101では、原反Sの急激な温度上昇、熱可塑性フィルム201の急激な温度下降を抑えることができるので、急激な温度変化に起因する原反Sおよび熱可塑性フィルム201のシワの発生を低減することができる。
【0045】
(シワ発生の低減(2))
延伸装置101では、第4搬送ロール24(第2ガイドロール)による熱可塑性フィルム201の抱き角が90°である。ここで、原反Sは、第3搬送ロール23(第1ガイドロール)と第4搬送ロール24(第2ガイドロール)との間で第1本加熱ヒータ12aおよび第2本加熱ヒータ12bによって本加熱されるので、原反Sの搬送方向の下流側に配置されている第4搬送ロール24による熱可塑性フィルム201の抱き角が約90°であれば、加熱後の熱可塑性フィルム201に対して適切なグリップ力を与えることができる。熱可塑性フィルム201に適切なグリップ力が与えられれば、熱可塑性フィルム201を第4搬送ロール24に対して幅方向(搬送方向に直交する方向)に動かないようにして搬送できるので、熱可塑性フィルム201にシワが発生し難くなる。
【0046】
なお、延伸装置101では、第4搬送ロール24による熱可塑性フィルム201の抱き角は、90°であってもよいが、90°±10°の範囲であればよい。例えば、第4搬送ロール24による熱可塑性フィルム201の抱き角が80°よりも小さければ、第4搬送ロール24と熱可塑性フィルム201とが接触する面積が大きくなるので、第4搬送ロール24による熱可塑性フィルム201へのグリップ力が高くなり、熱可塑性フィルム201に傷が付きやすくなる。一方、抱き角が100°よりも大きければ、第4搬送ロール24と熱可塑性フィルム201とが接触する面積が小さくなるので、第4搬送ロール24による熱可塑性フィルム201へのグリップ力が低くなる。このため、熱可塑性フィルム201が搬送中に第4搬送ロール24に対して幅方向(搬送方向に直交する方向)に動くようになるため、例えば
図3に示すように、熱可塑性フィルム201の幅方向の両端部201c側にシワC1が発生し易くなる。従って、本加熱後の熱可塑性フィルム201をガイドする第4搬送ロール24におけるグリップ力が適切であれば、シワの発生や傷が無い、延伸された熱可塑性フィルム201を得ることができる。また、第1ガイドロールである第3搬送ロール23、第3ガイドロールである第2搬送ロール22、第4ガイドロールである第5搬送ロール25によるフィルム(原反S、熱可塑性フィルム201)の抱き角も、第2ガイドロールである第4搬送ロール24による熱可塑性フィルム201の抱き角と同様に、90°±10°の範囲であればよい。
【0047】
また、延伸装置101では、第4搬送ロール24による熱可塑性フィルム201の抱き角が90°であることを前提として、第4搬送ロール24の直径が150mm以上であることが好ましい。ここで、第4搬送ロール24の直径が150mmよりも小さければ、第4搬送ロール24と熱可塑性フィルム201とが接触する面積が小さくなり、第4搬送ロール24による熱可塑性フィルム201へのグリップ力が低くなり、例えば
図3に示すように、熱可塑性フィルム201の延伸方向に直交する両端部201c側にシワC1が発生し易くなる。
【0048】
なお、第4搬送ロール24の直径の上限は、延伸装置101の大きさ、延伸装置101を備えるフィルム製造装置の大きさ等に応じて適宜設定されるものとする。
【0049】
(シワ発生の低減(3))
延伸装置101では、第4搬送ロール24から送り出す熱可塑性フィルム201の搬送速度が、原反Sを第3搬送ロール23に送り出す原反Sの搬送速度に対して+0.1%~+10%の速度差となるように、第1ニップ部31の第1駆動ロール31bおよび第2ニップ部32の第2駆動ロール32bが駆動制御されている。これにより、第3搬送ロール23と第4搬送ロール24との間での原反Sへの張力が適切になるので、原反Sを適切に延伸させて熱可塑性フィルム201を得ることができる。しかしながら、上記速度差が+0.1%よりも小さければ、第3搬送ロール23と第4搬送ロール24との間での原反Sへの張力が小さくなるので、原反Sを搬送方向に適切に延伸することができない。また、上記速度差が+10%よりも大きければ、第3搬送ロール23と第4搬送ロール24との間での原反Sへの張力が大きくなりすぎるため、原反Sが搬送方向に破断する恐れがある。
【0050】
以上のように、上記構成のフィルム製造装置1によれば、上記構成の延伸装置101を備えていることで、加熱延伸後にシワの発生が低減された熱可塑性フィルム201を製造することができる。
【0051】
本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1 フィルム製造装置
2 制御部
11a 第1予熱ヒータ
11b 第2予熱ヒータ
12a 第1本加熱ヒータ
12b 第2本加熱ヒータ
13 緩和ヒータ
21 第1搬送ロール
22 第2搬送ロール(第3ガイドロール)
23 第3搬送ロール(第1ガイドロール)
24 第4搬送ロール(第2ガイドロール)
25 第5搬送ロール(第4ガイドロール)
26 第6搬送ロール
31 第1ニップ部
31a第1ニップロール
31b 第1駆動ロール
32 第2ニップ部
32a第2ニップロール
32b 第2駆動ロール
101 延伸装置
110 予熱部
120 本加熱部
130 緩和部
140 第1駆動モータ
150 第2駆動モータ
201 熱可塑性フィルム
201a 表面
201b 裏面
201c 両端部
C1 シワ
S 原反
Sa 表面
Sb 裏面