(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135454
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】導水部材、及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
E21F 16/02 20060101AFI20230921BHJP
E01D 19/08 20060101ALI20230921BHJP
E04G 21/28 20060101ALN20230921BHJP
【FI】
E21F16/02
E01D19/08
E04G21/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040679
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】大久保 教典
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA01
2D059AA03
2D059GG43
(57)【要約】
【課題】コンクリート躯体表面や表層部を流れ伝っての水回り込みによる樋(導水路)の下方からの漏水を防止することができる、導水部材及びその施工方法を提供する。
【解決手段】本発明は、コンクリートの壁面に取り付けられる導水部材であって、前記コンクリートの壁面に対向する第1面と、前記第1面とは反対側の第2面を有する本体部と、前記コンクリートの壁面に形成された溝に挿入可能で、前記本体部の上端から延びる挿入部と、前記本体部の第2面の上端と下端との間に固定され、上部に開口を有し、水を受ける導水部と、前記本体部における前記導水部と前記下端との間を、前記コンクリートの壁面に固定するための固定部と、を備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの壁面に取り付けられる導水部材であって、
前記コンクリートの壁面に対向する第1面と、前記第1面とは反対側の第2面を有する本体部と、
前記コンクリートの壁面に形成された溝に挿入可能で、前記本体部の上端から延びる挿入部と、
前記本体部の第2面の上端と下端との間に固定され、上部に開口を有し、水を受ける導水部と、
前記本体部における前記導水部と前記下端との間を、前記コンクリートの壁面に固定するための固定部と、
を備えている、導水部材。
【請求項2】
前記挿入部は、前記第2面に対し、90度より大きい角度をなすように連結されている、請求項1に記載の導水部材。
【請求項3】
前記固定部は、前記本体部に形成された貫通孔に挿入され、前記コンクリートの壁面に固定されアンカーによって構成されている、請求項1または2に記載の導水部材。
【請求項4】
前記本体部の第1面と前記コンクリートの壁面との間に配置されるスペーサをさらに備えている、請求項1から3のいずれかに記載の導水部材。
【請求項5】
コンクリートの壁面に溝を形成するステップと、
請求項1から4のいずれかに記載の導水部材の挿入部を前記溝に係合させた状態で、前記本体部の第1面を前記コンクリートの壁面と対向させるステップと、
前記固定部により、前記本体部と前記コンクリートの壁面とを固定するステップと、
を備えている、導水部材の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
コンクリートの壁面に取り付けられる導水部材、及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート表面を流れ伝う水(漏水・雨水)を樋で受け、水平方向に導水を行う際、従来の工法ではコンクリート表面に対して止水板をアンカーで押し付け、流れ伝う水を樋で受ける構造となっている(特許文献1)。この場合、既設コンクリート表面が粗面(不陸)であることが一般的に多く、止水板とコンクリート表面とが密着しないことから本来の目的を果たせない事例が多くみられる。そこで、特許文献1では、樋材料の上部に止水シール部材を使用して、コンクリート表面との密着性を上げたり、
図4に示すようにカバー部材9で覆う処置がとられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、トンネル等の地下の構造躯体では、躯体表面が湾曲し平面ではないため、樋材料95の密着が難しく、また、常時地山に湧水がある為、コンクリートの打ち継ぎ目等から染み出してきた水は、躯体の表面或いは表層部を伝って樋の下方に回り込み、樋の下からの漏水が懸念される(
図4の矢印F参照)。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、コンクリート躯体表面や表層部を流れ伝っての水回り込みによる樋(導水路)の下方からの漏水を防止することができる、導水部材及びその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、コンクリートの壁面に取り付けられる導水部材であって、前記コンクリートの壁面に対向する第1面と、前記第1面とは反対側の第2面を有する本体部と、前記コンクリートの壁面に形成された溝に挿入可能で、前記本体部の上端から延びる挿入部と、前記本体部の第2面の上端と下端との間に固定され、上部に開口を有し、水を受ける導水部と、前記本体部における前記導水部と前記下端との間を、前記コンクリートの壁面に固定するための固定部と、を備えている。
【0007】
上記導水部材において、前記挿入部は、前記第2面に対し、90度より大きい角度をなすように連結することができる。
【0008】
上記導水部材において、前記固定部は、前記本体部に形成された貫通孔に挿入され、前記コンクリートの壁面に固定されアンカーによって構成することができる。
【0009】
上記導水部材においては、前記本体部の第1面と前記コンクリートの壁面との間に配置されるスペーサをさらに備えることができる。
【0010】
本発明に係る導水部材の施工方法は、上記導水部材において、コンクリートの壁面に溝を形成するステップと、上述したいずれかの導水部材の挿入部を前記溝に係合させた状態で、前記本体部の第1面を前記コンクリートの壁面と対向させるステップと、前記固定部により、前記本体部と前記コンクリートの壁面とを固定するステップと、を備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コンクリート躯体表面や表層部を流れ伝っての水回り込みによる樋(導水路)の下方からの漏水を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る導水部材が取り付けられたトンネルの斜視図である。
【
図2】
図1の導水部材が取り付けられたトンネルの壁面の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る導水部材及びその施工方法の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は本実施形態に係る導水部材が取り付けられたトンネルの斜視図、
図2は導水部材が取り付けられたトンネルの壁面の断面図である。
【0014】
<1.導水部材の概要>
図1に示すように、本実施形態に係る導水部材10は、トンネルの軸方向に延びるように形成され、図示例においてはトンネルの上半の下端部に、或いは上半打ち継ぎ目地部からの漏水がある場合は下半の上端部近傍に取り付けられている。
【0015】
図2に示すように、この導水部材10は、トンネルの壁面8に形成された溝81を利用して取り付けられる。この溝81は、トンネルの壁面8から斜め上方に延びており、トンネルの軸方向に延びている。より詳細には、この溝81が延びる方向、つまり溝81と鉛直方向Nとのなす角度θ1は、例えば、90度以上180度未満、好ましくは100度以上140度以下とすることができる。
【0016】
導水部材10は、第1面11及び第2面12を有する板状に形成された本体部1を有している。本体部1の第1面11はトンネルの壁面8と対向するように配置され、本体部1の上端には、斜め上方に延びる板状の挿入部2が連結されている。この挿入部2は、上述したトンネルの溝81に差し込まれる。したがって、本体部1と挿入部2とがなす角度θ2は、上述した角度θ1と概ね同じにすることができる。
【0017】
本体部1の第2面12には、断面L字状の導水部3が連結されている。導水部3は、本体部1の第2面12から水平に延びる板状の底壁部31と、底壁部31の先端から上方に延びる板状の側壁部32とを有しており、導水部3と本体部1とで水を受ける導水路30が形成される。底壁部31は、本体部1の上下方向の中間付近に設けられている。また、側壁部32の上端の位置は、概ね本体部1の上端と同じである。
【0018】
本体部1において、導水部3の下方には、軸方向(
図2が現す断面と交差方向)に所定間隔をおいて複数の貫通孔13が形成されている。各貫通孔13には、アンカー4が挿入され、ワッシャー91及びナット92も用いることで、トンネルの壁面8に形成された打設孔82に固定される。また、本体部1とトンネルの壁面8との間には円筒状のスペーサ5が配置されており、アンカー4は、スペーサ5を介して本体部1とトンネルの壁面8とを固定する。スペーサ5の材料は特には限定されないが、例えば、スペーサを弾性材料で形成すると、壁面8全体に湾曲や不陸がある場合でも導水部材10を適正に取り付けることができ、また本体部1と壁面8との間にシールを形成でき、両者の密着性を高めることができる。
【0019】
本実施形態では、一例として芯棒打込式のアンカー4が用いられる。このアンカー4は、先端部41が拡径可能になっており、後端部42に雄ネジが形成されている。打設方法については、後述する。
【0020】
導水部材10を構成する材料は特には限定されず、金属、樹脂材料などで構成することができる。樹脂材料としては、例えば、軟質又は硬質の塩化ビニル、ポリプロピレン、或いはこれらの再生材料などを用いることができる。特に軟質塩化ビニルを用いる場合には成型性に優れ加工が容易であることに加え、施工面でも壁面8の湾曲や不陸に対しての追従性が良く、腐食にも強いので好適である。
【0021】
<2.導水部材の施工方法>
次に、上記のように構成された導水部材10の施工方法について、
図3を参照しつつ説明する。まず、トンネルの壁面8に、軸方向に沿ってカッター作業などで上述した溝81を形成する。また、溝81の下方にアンカーの打設孔82を、軸方向に所定間隔をおいて形成する。なお、打設孔82は、この工程では穿孔せずに、次工程において導水部材10の挿入部2を溝81に差し込んで導水部材10を施工面に当てた状態で穿孔しても構わない。
【0022】
続いて、導水部材10の挿入部2を溝81に差し込むとともに、本体部1の貫通孔13を打設孔82に位置合わせする。また、本体部1とトンネルの壁面8との間にスペーサ5を配置する。そして、上述した芯棒打込式のアンカー4を、本体部1の貫通孔13に差し込み、スペーサ5を介して打設孔82に挿入する。次に、アンカー4の後端側に打撃を加えると、アンカー4の先端部41が拡径し、アンカー4が打設孔82に固定される。続いて、本体部1の貫通孔13から突出するアンカー4の後端部42にワッシャー91を取り付けた後、アンカー4の後端部42の雄ネジにナット92を取り付ける。こうして、アンカー4によって本体部1と壁面8とが固定されると、導水部材10のトンネル壁面への固定が完了する。
【0023】
<3.特徴>
上記のように構成された導水部材によれば、次の効果を得ることができる。
(1)本体部1の上端に連結された挿入部2がトンネルの壁面8に形成された溝81に挿入されているため、トンネルの壁面8や表層部を伝う水が、本体部1と壁面8との間に流れるのを抑制することができる。すなわち、本体部1の上端と壁面8との間が挿入部2によって塞がれるため、導水路30に水を誘導することができる。したがって、トンネルの壁面8を伝う水を確実に導水路30に集めることができる。
【0024】
(2)トンネルの壁面8に溝81を形成し、この溝81に挿入部2を挿入するとともに、アンカー4によって本体部1を壁面8に固定しているため、コーキング材などによる後処理が不要であり、施工性を高くすることができる。
【0025】
(3)例えば、本体部1において、導水路30の上側に貫通孔を形成し、この貫通孔を用いてトンネルの壁面8にアンカーを打設すると、この貫通孔から水がトンネルの壁面側に流れ、漏水が発生するおそれがある。これに対して、本実施形態の導水部材10は、本体部1において、導水路30よりも下方に貫通孔13を形成し、この貫通孔13を用いてトンネルの壁面8にアンカー4を打設している。そのため、貫通孔13に水が入る前に、導水路30で水を受けることができ、その結果、漏水を防止することができる。
【0026】
(4)本体部1とトンネルの壁面8との間にスペーサ5を配置しているため、本体部1がトンネルの壁面8に直接接することなく、本体部1を壁面8に固定することができる。したがって、例えば、壁面8に凹凸が形成され、本体部1と密着しがたい場合でも、本体部1を壁面8に安定的に固定することができる。
【0027】
<4.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。なお、以下の変形例は、適宜組み合わせることができる。
【0028】
(1)上記実施形態では、スペーサ5を介して本体部1をトンネルの壁面8に固定しているが、スペーサを用いることなく、本体部1をトンネルの壁面8に接するように固定することもできる。また、上述したアンカー4は、本発明の固定部の一例であり、本体部1を壁面8に固定できるのであれば、他の手段でもよい。その場合、貫通孔を形成することなく、本体部1を壁面8に固定できる手段を採用することもできる。
【0029】
(2)上記実施形態では、断面L字状の導水部3を用いているが、その形態は特には限定されない。すなわち、上部に開口を有し、本体部1の上端から、本体部1の第2面12を伝って下方に流れる水を受けることができればよい。したがって、例えば、本体部1とともに断面U字状の導水路を形成するような導水部を用いてもよい。また、導水部3の位置は特には限定されず、本体部1の上端と下端との間で、本体部1において、導水部3よりも下方に本体部1と壁面8とを固定するためのスペースが確保されていればよい。
【0030】
(3)導水路30の水は、種々の方法で導水路30から排出することができ、その方法は特には限定されない。例えば、トンネル進行方向に所定のピッチで設けた縦方向の樋を導水部3に形成し、この樋から水を排出し、導水部材10の下方に設けた排水路に流すことができる。
【0031】
(4)トンネルの壁面8に形成される溝81の角度θ1、及び本体部1に対する挿入部2の角度θ2は、上記のように90度以上であることが好ましいが、溝81に挿入部2を係合できるのであれば、90度未満であってもよい。
【0032】
(5)上記実施形態では、本発明の導水部材10をトンネルの壁面8に用いているが、これに限定されるものではなく、トンネル以外にも適用することができる。すなわち、漏水が発生し得るコンクリートの壁面であれば、本発明の導水部材を適用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 本体部
11 第1面
12 第2面
13 貫通孔
2 挿入部
3 導水部
4 アンカー
81 溝