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特開2023-135581レーザー照射装置、およびそれを用いた表面荒らし処理方法
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  • 特開-レーザー照射装置、およびそれを用いた表面荒らし処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135581
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】レーザー照射装置、およびそれを用いた表面荒らし処理方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/352 20140101AFI20230921BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20230921BHJP
【FI】
B23K26/352
B23K26/064 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111635
(22)【出願日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2022040021
(32)【優先日】2022-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】510138741
【氏名又は名称】フェニックス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147706
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】郷田 哲也
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AB01
4E168DA13
4E168DA26
4E168DA43
4E168EA08
4E168EA13
4E168EA25
4E168JA17
4E168JA25
(57)【要約】
【課題】複数のレーザー光源からのレーザー光源を狭い照射範囲内に均一な間隔で照射することが容易なレーザー照射装置を提供する。
【解決手段】レーザー照射装置10を、互いに平行なレーザー光線Lを放射する複数のレーザー光源12と、平行に放射された各レーザー光線Lを屈折させ、各レーザー光線L間の間隔の比を維持しつつ各レーザー光線Lを集光するレンズ16とで構成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行なレーザー光線を放射する複数のレーザー光源と、
平行に放射された前記各レーザー光線を屈折させ、前記各レーザー光線間の間隔の比を維持しつつ前記各レーザー光線を集光するレンズとを備える
レーザー照射装置。
【請求項2】
互いに平行なレーザー光線を放射する複数のレーザー光源と、
平行に放射された前記各レーザー光線を屈折させ、ひとつの方向のみにおいて前記各レーザー光線を集光するシリンドリカルレンズとを備える
レーザー照射装置。
【請求項3】
前記レンズで集光された前記各レーザー光線を屈折させ、前記各レーザー光線間の縦方向および横方向の間隔の比が互いに異なるように集光するシリンドリカルレンズをさらに備える
請求項1に記載のレーザー照射装置。
【請求項4】
互いに平行なレーザー光線を放射する複数のレーザー光源と、
平行に放射された前記各レーザー光線を屈折させ、前記各レーザー光線間の間隔の比を維持しつつ前記各レーザー光線を集光するレンズとを備えるレーザー照射装置を用いて、
ひとつの前記レーザー光源から放射された前記レーザー光線が他の前記レーザー光源から放射された前記レーザー光線の照射跡を避けられるように、あるいは、前記照射跡に対して一部が重なるように前記レーザー照射装置を前記各レーザー光線の配列方向に対して斜めに移動させながら部材の表面に前記レーザー光線を照射して前記表面を荒らす
表面荒らし方法。
【請求項5】
互いに平行なレーザー光線を放射する複数のレーザー光源と、
平行に放射された前記各レーザー光線を屈折させ、前記各レーザー光線間の間隔の比を維持しつつ前記各レーザー光線を集光するレンズとを備えるレーザー照射装置を用いてCFRPを処理する表面荒らし方法であって、
前記各レーザー光源は、移動しながらパルス点灯で前記レーザー光線を放射することを特徴とする
表面荒らし方法。
【請求項6】
前記パルス点灯におけるベース出力は、ゼロよりも大きいことを特徴とする
請求項5に記載の表面荒らし方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材の表面を荒らして同表面の接着性を向上させるためのレーザー照射装置およびそれを用いた表面荒らし処理方法に関する。
【0002】
接着剤を用いて部材を接着する際、前処理として当該部材の表面を荒らすことが一般に行われている。この「荒らし」処理には、例えば、サンドペーパーを使用する方法や、サンドブラスト、ウォーターブラスト、あるいはケミカル処理といった手法が一般的に用いられている。
【0003】
しかし、サンドペーパーの使用は接触式であることによって起因する品質のバラツキがあり、サンドブラストは粉塵による作業環境の問題があり、ウォーターブラストやケミカル処理は排水設備が必要になるといったように、それぞれ問題があった。
【0004】
そこで、これらの問題を解決すべく、非接触式であることによって品質のバラツキを抑えることができ、かつ、作業環境の問題や排水設備が不要なレーザー光線を用いた荒らし処理が開発されている。
【0005】
例えば特許文献1には、短波長あるいは長波長のレーザー光線を金属等の部材の表面に照射することによって当該部材の表面を荒らす技術が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62-103317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、部材の表面の接着性を向上させるために当該部材の表面を荒らす際、複数のレーザー光源1から複数のレーザー光線Lを放射して、これらレーザー光線Lを狭い照射範囲に均一な間隔で照射しようとしたとき、例えば、図13に示すように、各レーザー光源1を照射範囲に対して互いに異なる角度となるように配置するのには極めて高い精度が要求され、これらレーザー光源1を配置する筐体の制作が極めて難しいという問題があった。
【0008】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数のレーザー光源からのレーザー光源を狭い照射範囲内に均一な間隔で照射することが容易なレーザー照射装置、およびそれを用いた表面荒らし処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一局面によれば、
互いに平行なレーザー光線を放射する複数のレーザー光源と、
平行に放射された前記各レーザー光線を屈折させ、前記各レーザー光線間の間隔の比を維持しつつ前記各レーザー光線を集光するレンズとを備える
レーザー照射装置が提供される。
【0010】
本発明の他の局面によれば、
互いに平行なレーザー光線を放射する複数のレーザー光源と、
平行に放射された前記各レーザー光線を屈折させ、ひとつの方向のみにおいて前記各レーザー光線を集光するシリンドリカルレンズとを備える
レーザー照射装置が提供される。
【0011】
好適には、
前記レンズで集光された前記各レーザー光線を屈折させ、前記各レーザー光線間の縦方向および横方向の間隔の比が互いに異なるように集光するシリンドリカルレンズをさらに備える。
【0012】
本発明の他の局面によれば、
互いに平行なレーザー光線を放射する複数のレーザー光源と、
平行に放射された前記各レーザー光線を屈折させ、前記各レーザー光線間の間隔の比を維持しつつ前記各レーザー光線を集光するレンズとを備えるレーザー照射装置を用いて、
ひとつの前記レーザー光源から放射された前記レーザー光線が他の前記レーザー光源から放射された前記レーザー光線の照射跡を避けられるように、あるいは、前記照射跡に対して一部が重なるように前記レーザー照射装置を前記各レーザー光線の配列方向に対して斜めに移動させながら部材の表面に前記レーザー光線を照射して前記表面を荒らす
表面荒らし方法が提供される。
【0013】
本発明の別の局面によれば、
互いに平行なレーザー光線を放射する複数のレーザー光源と、
平行に放射された前記各レーザー光線を屈折させ、前記各レーザー光線間の間隔の比を維持しつつ前記各レーザー光線を集光するレンズとを備えるレーザー照射装置を用いてCFRPを処理する表面荒らし方法であって、
前記各レーザー光源は、移動しながらパルス点灯で前記レーザー光線を放射することを特徴とする
表面荒らし方法が提供される。
【0014】
好適には、
パルス点灯におけるベース出力は、ゼロよりも大きい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るレーザ照射装置によれば、各レーザー光源から互いに平行なレーザー光線を放射し、その後、レンズで各レーザー光線間の間隔の比を維持しつつ集光するようになっており、各レーザー光線が互いに平行となるようにすればよい。これにより、複数のレーザー光源からのレーザー光源を部材の表面における狭い範囲内に均一な間隔で照射することが容易なレーザー照射装置を提供できた。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明が適用された実施形態に係るレーザー照射装置10を示す図である。
図2】レーザー光源保持部材14の表面におけるレーザー光源12の配置形状を示す図である。
図3】レーザー光源12から放射された直後の各レーザー光線Lの位置関係を示す図(a)、および、レンズ16で集光されて照射面を照射するときの各レーザー光線Lの位置関係を示す図(b)である。
図4】シリンドリカルレンズ18を追加使用した場合における、レーザー光源12から放射された直後の各レーザー光線Lの位置関係を示す図(a)、および、レンズ16で集光されて照射面を照射するときの各レーザー光線Lの位置関係を示す図(b)である。
図5】各レーザー光源12から照射されるレーザー光線Lの強度波形を示すグラフである。
図6】移動させない状態のレーザー照射装置10から照射されたレーザー光線Lによる部材Sの表面Tにおける照射パターン(縦方向に延びる照射跡A )の一例を示す図である。
図7】部材Sの縦方向にレーザー照射装置10の走査(移動)を行った場合における、レーザー光線Lの照射跡Aを示す図である。
図8】部材Sの横方向にレーザー照射装置10の走査(移動)を行った場合における、レーザー光線Lの照射跡Aを示す図である。
図9】部材Sの斜め方向にレーザー照射装置10の走査(移動)を行った場合における、レーザー光線Lの照射跡Aを示す図である。
図10】シリンドリカルレンズ18のみを使用した場合における、レーザー光源12から放射された直後の各レーザー光線Lの位置関係を示す図(a)、および、シリンドリカルレンズ18で集光されて照射面を照射するときの各レーザー光線Lの位置関係を示す図(b)である。
図11】変形例1で、部材Sの斜め方向にレーザー照射装置10の走査(移動)を行った場合における、レーザー光線Lの照射跡Aを示す図である。
図12】変形例2で、移動させない状態のレーザー照射装置10から照射されたレーザー光線Lによる部材Sの表面Tにおける照射パターン(縦方向に延びる照射跡A )の一例を示す図である。
図13】従来技術に係るレーザー照射装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(レーザー照射装置10の構成)
以下、図面を用いて、本発明が適用されたレーザー照射装置10の構成について説明する。なお、本発明が適用されたレーザー照射装置10は、例えば、本実施形態のようにCFRP(炭素繊維強化プラスチック)材Sの表面Tを荒らす処理に使用してもよいし、CFRP材に限らず、金属やその他の部材の表面を荒らす処理に使用してもよい。
【0018】
図1に示すように、レーザー照射装置10は、大略、レーザー光源12と、レーザー光源保持部材14と、レンズ16と、シリンドリカルレンズ18と、冷却部材20とを備えている。
【0019】
レーザー光源12は、所定の波長・波形のレーザー光線Lを発生・放射する部材であり、本実施形態では複数のレーザーダイオード(半導体レーザー)が使用されている。なお、レーザー光源12はこれに限定されるものではなく、例えば、より高出力のレーザー光線Lを発生させることのできるレーザー加工機を使用してもよい。
【0020】
レーザー光源保持部材14は、各レーザー光源12から放射されたレーザー光線Lが互いに平行となるように各レーザー光源12を保持する役割を有する部材である。各レーザー光源12で発生した熱を効率的に逃がすため、レーザー光源保持部材14の材料としては、例えば、銅やアルミニウムが用いられる。
【0021】
なお、本明細書全体を通して、「平行」とは、垂直方向と水平方向のいずれのビーム角も半値で±3°以内に収まる範囲をいう。
【0022】
なお、本実施形態では、図2に示すように、レーザー光源保持部材14の表面において、複数のレーザー光源12が互いに所定の間隔で碁盤目状に配置されている。なお、レーザー光源12の配置形状はこれに限定されず、千鳥状等であってもよい。
【0023】
レンズ16は、平行に放射された各レーザー光線Lを屈折させ、各レーザー光線L間の間隔の比(つまり、各レーザー光源12の配置間隔の比)を維持しつつ各レーザー光線Lを集光する役割を有している。例えば、レーザー光源12から放射された直後の各レーザー光線Lの位置関係が図3(a)のようであった場合、レンズ16で集光されて照射面を照射するときの各レーザー光線Lの位置関係は図3(b)のようになる。なお、本実施形態では、レンズ16として平凸レンズを使用しているが、上記役割を果たすことのできるものであれば、他の種類のレンズ16を使用してもよい。
【0024】
シリンドリカルレンズ18は、レンズ16で集光された各レーザー光線Lをさらに屈折させ、各レーザー光線L間の縦方向および横方向の間隔の比が互いに異なるように集光する役割を有している。例えば、レーザー光源12から放射された直後の各レーザー光線Lの位置関係が図4(a)のようであった場合、レンズ16およびシリンドリカルレンズ18で集光されて照射面を照射するときの各レーザー光線Lの位置関係は図4(b)のように例えば縦方向の間隔の比が短くなる。
【0025】
なお、シリンドリカルレンズ18は、本発明に必須の構成要素ではなく、各レーザー光線L間の縦方向および横方向の間隔の比を変化させる必要がなければ、このシリンドリカルレンズ18を設ける必要はない。
【0026】
冷却部材20は、各レーザー光源12で発生した熱を、レーザー光源保持部材14を介して受け取って逃がす役割を有している。冷却部材20の冷却方式としては、例えば、空冷方式や水冷方式が考えられる。
【0027】
(レーザー照射装置10を用いた表面荒らし処理の例)
次に、本実施形態に係るレーザー照射装置10を用いた部材S(CFRP材)の表面荒らし処理の例について説明する。各レーザー光源12から照射されるレーザー光線Lの強度波形は、図5に示すように、パルス状に形成されている(パルス点灯)。ベース電流(ベース出力)Bから電流値が増加し、然る後、再びベース電流Bまで減少してくる1回のパルスサイクルで、部材Sの表面Tに1つの凹所が形成されるようになっている。また、各パルスサイクルは、所定の時間的間隔で発生し、各パルスサイクルでそれぞれレーザー光線Lが照射される。
【0028】
このとき、ベース電流Bは、ゼロではなく、CFRP材の樹脂が蒸発しない程度の温度となるような電流強度であることが望ましい。この理由は以下の通りである。CFRPに含まれている炭素繊維は、当該炭素繊維の周囲にある樹脂よりも接着剤に対する密着性が悪い。このため、CFRP材の表面にレーザー光線Lを照射することによって樹脂を完全に取り除いてしまい、炭素繊維だけを露出させてしまうと、他のCFRP材との接着性が低下するという問題が発生する。
【0029】
反面、CFRP材の樹脂には、金型から剥がれた際の離型剤等が残っており、この離型剤等を取り除かないと同じく他のCFRP材との接着性が低下する。
【0030】
したがい、離型剤等は除去できるが樹脂は残存するような温度となるように、ベース電流Bの値をゼロ以外に設定するのが望ましい。
【0031】
なお、単にベース電流Bの電流値だけでなく、パスルのピーク電流の大きさ等、他のパラメータについても、処理するCFRP材に使用されている樹脂の種類や色によって調整される。さらに言えば、CFRP材における炭素繊維が一方向に並べられているか、あるいは、炭素繊維が互いに交差するように並べられているかによっても上記調整を実施する必要がある。
【0032】
次に、表面荒らし処理を行う際のレーザー照射装置10の部材Sに対する走査(移動)方向について説明する。図6には、移動させない状態のレーザー照射装置10から照射されたレーザー光線Lによる部材Sの表面Tにおける照射パターン(縦方向に延びる照射跡A )の一例を示す。
【0033】
このような照射パターンにおいて、部材Sに対するレーザー照射装置10の走査(移動)方向が図中「縦方向」である場合、レーザー光線Lの照射跡Aは図7に示すようになり、隣り合う照射跡Aとの隙間が大きくなる。
【0034】
逆に、部材Sに対するレーザー照射装置10の走査(移動)方向が図中「横方向」である場合、レーザー光線Lの照射跡Aは図8に示すようになり、同じく隣り合う照射跡Aとの隙間が大きくなる。
【0035】
これらに対し、部材Sに対するレーザー照射装置10の走査(移動)方向を「各レーザー光線Lの配列方向(つまり、縦方向および横方向)に対して斜め」方向にすると、図9に示すように隣り合う照射跡Aとの隙間を狭くでき、効率よく部材Sの表面Tを処理できる。なお、どの程度の角度Xをもってレーザー照射装置10の走査(移動)方向を設定するかについては、各レーザー光線Lの照射位置の配置と、個々のレーザー光線Lの照射範囲(後述)によって調整する必要がある。すなわち、ひとつのレーザー光源12から放射されたレーザー光線Lが他のレーザー光源12から放射されたレーザー光線Lの照射跡Aを避けられるように、あるいは、照射跡Aに対して当該レーザー光線Lの一部が重なるようにレーザー照射装置10を各レーザー光線Lの配列方向に対して斜めに移動させればよい。
【0036】
また、レーザー照射装置10を用いた部材S(CFRP材)の表面荒らし処理に際しては、部材Sの表面Tの位置をどの程度までレンズ16の焦点(あるいは、レンズ16とシリンドリカルレンズ18との複合焦点)に近づけて配置するかも重要な要素である。すなわち、部材Sの表面Tを単位面積当たりの強度が強い光で処理する必要があれば、表面Tをできるだけ焦点に近い位置に設定する必要があるが、この場合、レーザー光線Lによる照射範囲は狭くなるので、表面T全体を処理するのに要する時間は長くなる。
【0037】
逆に、部材Sの表面Tを単位面積当たりの強度が強い光で処理する必要がなければ、表面Tを焦点から離して設定することにより、レーザー光線Lによる照射範囲を広くできるので、表面T全体を処理するのに要する時間を短くできる。
【0038】
(レーザー照射装置10の特徴)
本実施形態に係るレーザー照射装置10によれば、各レーザー光源12から互いに平行なレーザー光線Lを放射し、その後、レンズ16で各レーザー光線L間の間隔の比を維持しつつ集光するようになっているので、レーザー光源保持部材14では各レーザー光線Lが互いに平行となるように各レーザー光源12を配置すればよい。これにより、複数のレーザー光源12からのレーザー光線Lを部材Sの表面Tにおける狭い範囲内に均一な間隔で照射することが容易なレーザー照射装置10を提供できる。
【0039】
また、レンズ16で集光された各レーザー光線Lを屈折させ、各レーザー光線L間の縦方向および横方向の間隔の比が互いに異なるように集光するシリンドリカルレンズ18をさらに設けることにより、部材Sの表面Tにおける複数のレーザー光源12からのレーザー光線Lの照射位置を自在に設定できる。
【0040】
(変形例1)
上述した実施形態では、レンズ16とシリンドリカルレンズ18とを組み合わせて使用していたが、ひとつの方向において各レーザー光線Lを集光する必要がない場合には、レンズ16を使用することなく、シリンドリカルレンズ18のみを使用してもよい。シリンドリカルレンズ18のみを使用すると、図10に示すように、互いに隣り合うレーザー光線Lの間隔は、ひとつの方向(図中、縦方向)においてはレーザー光源12の配置間隔のままで変化がなく、ひとつの方向に直交する方向(図中、横方向)においては当該間隔が狭まる。なお、間隔を狭める度合いについては、例えば図3図4に例示したように、間隔を狭める方向に隣り合うレーザー光線Lが互いに重なり合わない程度に狭めてもよいし、図10に示すように、互いに重なり合うように狭めてもよい。
【0041】
また、シリンドリカルレンズ18のみを使用する場合においても、上述のように、部材Sに対するレーザー照射装置10の走査(移動)方向を「各レーザー光線Lの配列方向(つまり、縦方向および横方向)に対して斜め」方向にするのが有効である。さらに言えば、シリンドリカルレンズ18のみを使用する場合は、「ひとつの方向」においてレーザー光線Lの間隔が狭められないので、図11に示すように、レンズ16を使用する場合に比べてより広い範囲を照射することができる。なお、図11においても、間隔を狭める方向に隣り合うレーザー光線Lが互いに重なり合うように狭めた例を示している。
【0042】
(変形例2)
間隔を狭める方向に隣り合うレーザー光線Lが互いに重なり合うように狭めて、さらに、各レーザー光源12が並べられた方向(例えば、縦方向)に対して平行・直交にシリンドリカルレンズ18を配置するのではなく、当該方向に対してあえて角度をつけて斜めに配置してもよい。シリンドリカルレンズ18をこのように配置すると、図12に示すように、各レーザー光線Lで1本の線状光SLにすることができる。この線状光SLが延びる方向に対して直交する方向に部材Sの表面Tを走査することにより、より広い範囲を一度に走査できる。
【0043】
各レーザー光源12が並べられた方向(例えば、縦方向)に対するシリンドリカルレンズ18の配置方向の角度によって、線状光SLの各位置におけるレーザー光線Lの強度の差が大きくなったり、小さく(均一に)なったりする。この強度の差ができる限り小さく(均一に)なるように、各レーザー光源12が並べられた方向(例えば、縦方向)に対するシリンドリカルレンズ18の配置方向の角度を調整するのが好適である。
【0044】
なお、隣り合う各レーザー光線L同士を一部重なり合わせることにより、重なり合う部分により大きなエネルギーで照射できるが、線状光SLの端部では重なり合う部分が少なくなる。そこで、例えば、レーザー照射装置10がひとつの部材Sに対して2回目の走査を行う際には、線状光SLの端部が1回目の走査範囲と少し重なり合うようにするのが部材Sの表面Tに与えるエネルギーの均一化において好適である。
【0045】
(変形例3)
また、上述した実施形態では、レーザー光源保持部材14によって各レーザー光源12からのレーザー光線Lが互いに平行となるように設定されていたが、レーザー光源12とレンズ16やシリンドリカルレンズ18との間に平行化レンズ(図示せず)を配置することによって、各レーザー光線Lが互いに平行となるようにしてもよい。各レーザー光源12にそれぞれ対応する複数の平行化レンズを用意してもよいし、複数のレーザー光源12をまとめてひとつの平行化レンズで対応してもよい。つまり、各レーザー光線Lが互いに平行となるようにすればよい
【0046】
(変形例4)
CFRP材Sの表面Tに隙間無く照射を行いたい場合、各レーザー光源12にはDC点灯のような連続点灯をさせるのが好適であるが、当該表面Tの一部を残して照射したい場合には、各レーザー光源12にはパルス点灯のような間欠点灯をさせるのが好適である。
【0047】
間欠点灯の周期は一定であってもよいし、プログラム等によって間欠点灯の周期を変更させてもよい。
【0048】
(変形例5)
平行なレーザー光線Lを放射するレーザー光源12は、例えば日亜化学製NUBM31レーザーダイオードバンクのような半導体レーザー等に反射ミラーやレンズを組み合わせたレーザー光源モジュールであってもよい。また、この半導体レーザーには蛍光体を組み合わせたSLD社製LaserLight SMDや、放熱性能で優位なVCSELレーザーを用いてもよい。
【0049】
(変形例6)
また、表面荒らし処理を行う部材がCFRPでなく金属や樹脂などの場合、レーザー光源12を上述のようなパルス点灯でなく連続点灯として処理を行ってもよい。
【0050】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0051】
10…レーザー照射装置、12…レーザー光源、14…レーザー光源保持部材、16…レンズ、18…シリンドリカルレンズ、20…冷却部材
L…レーザー光線、A…(レーザー光線Lによる)照射跡、SL…線状光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13