(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013564
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】電子線照射装置
(51)【国際特許分類】
G21K 5/00 20060101AFI20230119BHJP
G21K 5/04 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
G21K5/00 S
G21K5/00 E
G21K5/04 E
G21K5/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117855
(22)【出願日】2021-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】503237806
【氏名又は名称】株式会社NHVコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】外村 英之
(57)【要約】
【課題】保護カバーの損傷を抑制できる電子線照射装置を提供する。
【解決手段】電子線照射装置10は、電子線が通過する開口窓部19を有する走査管16と、開口窓部19を塞ぐように設けられ電子線を透過させる窓箔20と、窓箔20の外部側を覆う着脱可能な保護カバー50と、窓箔20における走査管16の外部側の面20aが露出するとともに窓箔20を冷却するための冷却ガスが通る流路35と、流路35内の圧力を測定する測定部61と、測定部61の測定結果に基づいて保護カバー50が取付状態にあるか否かを検知し、保護カバー50が非取付状態であることを条件として窓箔20を介した電子線の出射を許可する制御装置41と、を備える。流路35は、開口窓部19を通過した電子線が通過する排出口34を有する。冷却ガスは、排出口34から流路35の外に排出される。保護カバー50は、排出口34を覆うことにより窓箔20の面20aを覆う。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を発生させる電子線発生部と、
前記電子線が通過する開口窓部を有する筐体部と、
前記開口窓部を塞ぐように設けられ、前記電子線を前記筐体部の内部から前記筐体部の外部に透過させる窓箔と、
前記窓箔の外部側を覆う、着脱可能な保護カバーと、
を備えた電子線照射装置であって、
前記窓箔における前記筐体部の外部側の面が露出するとともに前記窓箔を冷却するための冷却ガスが通る流路と、
前記流路内の圧力もしくは前記流路を通る前記冷却ガスの流量を測定する測定部と、
前記測定部の測定結果に基づいて前記保護カバーが取付状態にあるか否かを検知し、前記保護カバーが非取付状態であることを条件として前記窓箔を介した前記電子線の出射を許可する制御部と、を備え、
前記流路は、前記開口窓部を通過した前記電子線が通過する排出口を有し、
前記冷却ガスは、前記排出口から前記流路の外に排出され、
前記保護カバーは、前記排出口を覆うことにより前記窓箔における前記筐体部の外部側の面を覆う、電子線照射装置。
【請求項2】
前記保護カバーが取付状態にあるか否かに関する前記制御部の検知結果に基づく報知を行う報知部を備えた、請求項1に記載の電子線照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載された電子線照射装置は、電子線発生部からの電子線が通過する開口窓部を有する筐体部と、開口窓部を塞ぐように設けられ、電子線を筐体部の内部から筐体部の外部に透過させる窓箔と、窓箔の外部側を覆う着脱可能な保護カバーと、を備えている。電子線照射装置の通常使用時には、保護カバーを筐体部から取り外した状態とし、窓箔を介して筐体部の外部に出射された電子線を被照射物に照射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような電子線照射装置では、保護カバーを外し忘れた状態で電子線の照射を行ってしまうと、電子線が保護カバーに照射されて保護カバーが損傷するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する電子線照射装置は、電子線を発生させる電子線発生部と、前記電子線が通過する開口窓部を有する筐体部と、前記開口窓部を塞ぐように設けられ、前記電子線を前記筐体部の内部から前記筐体部の外部に透過させる窓箔と、前記窓箔の外部側を覆う、着脱可能な保護カバーと、を備えた電子線照射装置であって、前記窓箔における前記筐体部の外部側の面が露出するとともに前記窓箔を冷却するための冷却ガスが通る流路と、前記流路内の圧力もしくは前記流路を通る前記冷却ガスの流量を測定する測定部と、前記測定部の測定結果に基づいて前記保護カバーが取付状態にあるか否かを検知し、前記保護カバーが非取付状態であることを条件として前記窓箔を介した前記電子線の出射を許可する制御部と、を備え、前記流路は、前記開口窓部を通過した前記電子線が通過する排出口を有し、前記冷却ガスは、前記排出口から前記流路の外に排出され、前記保護カバーは、前記排出口を覆うことにより前記窓箔における前記筐体部の外部側の面を覆う。
【0006】
この構成によれば、流路に冷却ガスが供給されている場合、保護カバーが取り付けられているときよりも保護カバーが取り付けられていないときの方が、排出口から流路の外に排出される冷却ガスの量は多くなる。そのため、保護カバーが取り付けられている状態における流路内の圧力は、保護カバーが取り外されている状態における流路内の圧力よりも高くなる。また、保護カバーが取り付けられているときに流路を通る冷却ガスの流量は、保護カバーが取り付けられていないときに流路を通る冷却ガスの流量よりも少なくなる。従って、測定部が測定する流路内の圧力もしくは流路を通る冷却ガスの流量に基づいて、保護カバーが取付状態にあるか否かを検知できる。
【0007】
そして、制御部は、保護カバーが非取付状態であることを条件として窓箔を介した電子線の出射を許可する。従って、保護カバーを外し忘れた状態では、制御部は、電子線の出射を許可しない。このため、保護カバーに電子線が照射されることによる保護カバーの損傷を抑制できる。
【0008】
上記電子線照射装置において、前記保護カバーが取付状態にあるか否かに関する前記制御部の検知結果に基づく報知を行う報知部を備えた。
この構成によれば、報知部によって、制御部の検知結果に基づいた報知が可能となる。これにより、電子線の出射が許可されているか否かを作業者が認識しやすくなるため、作業性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電子線照射装置によれば、保護カバーの損傷を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態における電子線照射装置の概略構成図。
【
図2】同形態における電子線照射装置の一部を示す概略構成図。
【
図3】同形態における保護カバーが取り付けられた状態の電子線照射装置の一部を示す概略構成図。
【
図4】変更例における保護カバーが取り付けられた状態の電子線照射装置の一部を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、電子線照射装置の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合がある。また、各部分の寸法比率についても、実際と異なる場合がある。
【0012】
図1に示す本実施形態の電子線照射装置10は、走査型の電子線照射装置である。電子線照射装置10は、熱電子放出を行う例えばタングステン製のフィラメント11を備えている。フィラメント11は、電子線eを発生させる電子線発生部に該当する。フィラメント11は、フィラメント用電源12からの電源供給に基づく自身の加熱により電子を放出する。フィラメント11は、加速管13の上端側に設けられている。
【0013】
加速管13は、フィラメント11が配置される上端側が閉塞された筒状をなしている。加速管13は、自身の管軸方向に並設される複数の加速電極14を有している。加速電極14は、加速電極用電源15からの電源供給に基づき、フィラメント11から放出された電子を収束させつつ下方に向けて加速させるような電界を生じさせる。つまり、加速管13では、加速電極14にて生じる電界にて、管軸方向の下方に向く電子流、即ち電子線eが生じるようになっている。加速管13は、下端部に走査管16が接続されている。加速管13と走査管16とは互いに内部空間17が連通し、その内部空間17において電子線eが加速管13から走査管16側に進む。なお、走査管16は電子線照射装置10の筐体部に該当する。
【0014】
走査管16は、上端側が幅狭で、下方に向かうほど拡開する形状をなしている。走査管16は、その幅狭の上端部に走査コイル18が設けられている。走査コイル18は、自身への通電に基づき、加速管13にて生成された電子線eの向きを偏向する、即ち電子線eの走査を行う。
【0015】
(窓箔20の構成)
図1及び
図2に示すように、走査管16の下端部、即ち出射側の端部には、例えば略長方形状の開口窓部19が設けられている。開口窓部19には略長方形状の窓箔20が取り付けられている。窓箔20は、例えば、極めて薄い金属箔からなる。窓箔20の材料としては、例えばチタン系の金属材料が用いられる。窓箔20は、開口窓部19よりも一回り大きな形状をなし、開口窓部19を塞ぐように設けられている。
【0016】
窓箔20は、走査管16の下端部と、開口窓部19の周縁部に固定された取付枠19aとによって挟まれる態様で固定されている。取付枠19aは、走査管16の下端部に対して、図示しないボルトなどによって固定されている。取付枠19aは、窓箔20を透過した電子線eを通すための開口19bを有する。
【0017】
窓箔20は、電子線eを透過させつつも、開口窓部19を密閉するものである。つまり、加速管13と走査管16とに跨がる内部空間17は、密閉空間である。内部空間17は、例えば走査管16に接続された真空ポンプ21の駆動にて、少なくとも電子線eを生じさせる期間は真空状態とされる。
【0018】
(冷却ガス吐出装置31の構成)
図2に示すように、電子線照射装置10は、冷却ガス吐出装置31を有していてもよい。冷却ガス吐出装置31は、例えば、開口窓部19及び取付枠19aの外周を囲むように配置されている。冷却ガス吐出装置31は、少なくとも1つの吐出口32を有する。例えば、冷却ガス吐出装置31は、取付枠19aの外周に複数の吐出口32を有する。
【0019】
冷却ガス吐出装置31は、窓箔20を冷却するための冷却ガスを吐出口32から吐出する。なお、図中では、冷却ガスを一点鎖線の矢印で図示している。冷却ガスは、例えば空気である。なお、冷却ガスは、空気に限らず、例えば窒素ガスなどの気体であってもよい。
【0020】
(案内部材33の構成)
電子線照射装置10は、吐出口32から吐出された冷却ガスを窓箔20に案内する案内部材33を有していてもよい。案内部材33は、取付枠19aの開口19bよりも一回り大きい形状をなしている。案内部材33は、当該案内部材33と窓箔20との間に取付枠19aが配置される位置に配置されている。案内部材33は、窓箔20及び取付枠19aから電子線eの進行方向に離れた位置に配置されている。このため、窓箔20及び取付枠19aと案内部材33との間には空間Sp1がある。空間Sp1は、窓箔20、取付枠19a、冷却ガス吐出装置31及び案内部材33によって囲まれている。窓箔20における走査管16の外部側の面20aは、開口19bから空間Sp1に露出している。
【0021】
案内部材33は、例えば、吐出口32よりも外周で図示しないボルトなどにより冷却ガス吐出装置31に固定されている。そして、吐出口32は空間Sp1に開口している。このため、冷却ガスは、吐出口32から空間Sp1に吐出される。
【0022】
案内部材33は、開口窓部19を通過した電子線eが通過する排出口34を有する。開口窓部19、窓箔20、開口19b及び排出口34は、電子線eの進行方向に沿って、開口窓部19、窓箔20、開口19b、排出口34の順に並んでいる。吐出口32から空間Sp1に供給された冷却ガスは、案内部材33によって案内されることにより窓箔20の方へ流れる。その後、冷却ガスは、排出口34を通って空間Sp1の外部に排出される。
【0023】
(流路35の構成)
電子線照射装置10は、窓箔20を冷却するための冷却ガスが通る流路35を有する。流路35は、例えば、冷却ガス吐出装置31における冷却ガスが通る部分を含む。また、流路35は空間Sp1を含む。排出口34は、空間Sp1を囲む案内部材33が有するものであるため、流路35は排出口34を有する。冷却ガスは、排出口34から流路35の外に排出される。また、窓箔20における走査管16の外部側の面20aは、空間Sp1に露出しているため、流路35に露出している。なお、空間Sp1は、例えば流路35の終点に該当する。
【0024】
(遮蔽体Sの構成)
図1及び
図2に示すように、上記した電子線照射装置10の構成部材において、少なくともフィラメント11、加速管13及び走査管16は、遮蔽体Sによって囲われている。なお、
図1では、説明の便宜上、遮蔽体Sの図示を省略している。遮蔽体Sは、被照射物43に電子線eを照射する際に発生するX線を遮るためのものである。遮蔽体Sは、例えば鉛系の金属材料にて形成されている。
【0025】
遮蔽体Sは、フィラメント11、加速管13及び走査管16が内部に配置された第1構成体S1と、第1構成体S1の開口部Saを覆う第2構成体S2とを備えている。第2構成体S2は、第1構成体S1に対して着脱可能に構成されている。第1構成体S1と第2構成体S2とが連結された状態では、電子線照射装置10から出射される電子線eを被照射物43に照射する際に発生するX線が遮蔽体Sの外部に流出しないようになっている。なお、排出口34から流路35の外に排出された冷却ガスは、遮蔽体Sが有する図示しない排出口から遮蔽体Sの外部に排出される。
【0026】
(制御装置41の構成)
上記したフィラメント用電源12、加速電極用電源15、走査コイル18、真空ポンプ21及び冷却ガス吐出装置31は、制御装置41にて制御される。制御装置41は、各電源12,15を通じて電子線eの出力調整を行ったり、走査コイル18を通じて電子線eの走査制御を行ったり、真空ポンプ21を通じて加速管13及び走査管16の内部空間17の真空調整を行ったりする。また、制御装置41は、冷却ガス吐出装置31を通じて窓箔20への冷却ガスの供給を行う。例えば、制御装置41は、窓箔20への冷却ガスの供給中は、吐出口32から空間Sp1に吐出される冷却ガスの流量が一定となるように冷却ガス吐出装置31を制御する。
【0027】
なお、制御装置41は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って各種処理を実行する1つ以上のプロセッサ、または、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する、特定用途向け集積回路(ASIC)などの1つ以上の専用のハードウェア回路、または、それらの組み合わせ、を含む回路(circuitry)として構成し得る。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ即ちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0028】
(被照射物43への電子線eの照射)
図1に示すように、開口窓部19に装着された窓箔20を介して出射される電子線eは、例えば搬送装置42により搬送方向xに搬送される被照射物43に対して照射される。そして、電子線eによって被照射物43に所定処理を行う。なお、電子線照射装置10は、例えば、略長方形状をなす開口窓部19の長手方向が搬送装置42の搬送直交方向yに向くように配置されている。搬送方向x及び搬送直交方向yを含めた電子線eの所定走査が行われることにより、開口窓部19に対応した略長方形状の照射エリアAに電子線eが照射される。電子線eの被照射物43への照射効果としては、例えば素材の性質改善や機能付加、殺菌・滅菌等が期待できる。
【0029】
(保護カバー50の構成)
次に、窓箔20を保護するための保護カバー50について説明する。
図3に示すように、電子線照射装置10は、案内部材33に対して着脱可能な保護カバー50を備えている。
図3は、保護カバー50が装着された状態の電子線照射装置10の一部を示している。例えば、保護カバー50は、排出口34よりも一回り大きい形状をなしている。
【0030】
ここで、案内部材33の外面33aは、流路35の外壁面の一部を構成している。なお、外面33aは、空間Sp1を内側とした場合における案内部材33の外側の面である。保護カバー50は、外面33aに着脱可能に取り付けられて排出口34の全体を覆う。即ち、保護カバー50は、流路35の外壁面に着脱可能に取り付けられて排出口34の全体を覆う。
【0031】
電子線照射装置10は、保護カバー50を案内部材33に着脱可能に取り付けるための取付部材51を有していてもよい。取付部材51は、例えばボルトである。保護カバー50は、排出口34を塞ぐ態様で取付部材51によって案内部材33に固定される。保護カバー50が取付状態にあるとき、取付部材51は、流路35の外部に位置する。例えば、保護カバー50が取付状態にあるとき、取付部材51は、空間Sp1の外部に位置する。なお、保護カバー50は、取付部材51を取り外すことにより、案内部材33の外面33aから取り外すことができる。
【0032】
保護カバー50が案内部材33に装着された状態では、保護カバー50は窓箔20の外部側を覆っている。詳しくは、保護カバー50は、排出口34を覆うことにより窓箔20における走査管16の外部側の面20aを覆う。そして、保護カバー50における排出口34から空間Sp1に露出する部分、即ち排出口34から流路35に露出する部分は、電子線eの進行方向に窓箔20の面20aと対向する。これにより、保護カバー50により、窓箔20に対して外部側から接触できない状態となり、外部側からの接触による窓箔20の損傷を防止できるようになっている。
【0033】
(測定部61の構成)
また、電子線照射装置10は、流路35内の圧力を測定する測定部61を有する。測定部61としては、例えば電子圧力計が用いられる。測定部61は、流路35内の圧力を測定する。また、測定部61は、その測定結果に応じた信号を制御装置41に出力する。例えば、測定部61は、測定した流路35内の圧力値に応じた電気信号を出力する。測定部61による流路35内の圧力の測定のタイミング、及び、測定部61による電気信号の出力のタイミングは、任意に設定することができる。測定部61は、例えば、連続的に流路35内の圧力を測定する。そして、測定部61は、例えば、あらかじめ設定された時間ごとにその時点の測定結果に応じた電気信号を出力する。
【0034】
(制御装置41による保護カバー50が取付状態にあるか否かの検知)
制御装置41は、測定部61の測定結果に基づいて保護カバー50が取付状態にあるか否かを検知する。空間Sp1に冷却ガスが供給されている場合、保護カバー50が取り外されている状態から保護カバー50が取り付けられた状態になると、流路35内の圧力が上昇する。例えば、制御装置41は、保護カバー50が取付状態にあるかを判定するための閾値を持っている。閾値は、例えば、保護カバー50が取付状態にあるときの流路35内の圧力に応じた値である。制御装置41は、測定部61から入力された測定結果と閾値とを比較する。そして、制御装置41は、測定部61から入力された測定結果が閾値以下である場合には、保護カバー50は取付状態にないと判定する。即ち、制御装置41は、保護カバー50が非取付状態であることを検知する。一方、制御装置41は、測定部61から入力された測定結果が閾値よりも大きい場合には、保護カバー50が取付状態にあると判定する。即ち、制御装置41は、保護カバー50が取付状態にあることを検知する。制御装置41は、保護カバー50が非取付状態であることを条件としてフィラメント11からの電子線eの出力を許可する。
【0035】
(報知部62の構成)
また、電子線照射装置10は、保護カバー50の取付状態に関する制御装置41の検知結果に基づいて、保護カバー50が取付状態にある旨を報知する報知部62を備えていてもよい。報知部62は、例えば、制御装置41の制御によって動作するものである。報知部62は、ディスプレイ、スピーカー及び表示灯のうちの少なくとも1つを備え、ディスプレイの表示、スピーカーからの音出力、または、表示灯の点灯により、作業者に対して、保護カバー50が取付状態にある旨を報知する。
【0036】
本実施形態の作用について説明する。
図3に示すように、電子線照射装置10を使用しない状況では、作業者は、第2構成体S2を第1構成体S1から外して第1構成体S1の開口部Saを開けた状態として、保護カバー50を案内部材33の外面33aに取付部材51によって取り付ける。これにより、窓箔20の外部側が保護カバー50によって覆われる。また、保護カバー50によって排出口34が覆われる。なお、このとき、吐出口32から空間Sp1に冷却ガスが供給されている。
【0037】
保護カバー50が案内部材33の外面33aに取り付けられると、排出口34が覆われるため、保護カバー50が案内部材33の外面33aに取り付けられていない状態のときに比べて、流路35内の圧力が高くなる。測定部61が出力する測定結果も、流路35内の圧力に応じて変化する。制御装置41は、測定部61から入力される測定結果と閾値とを比較する。そして、制御装置41は、測定部61から入力された測定結果が閾値よりも大きい場合に、保護カバー50が取付状態にあると判定する。即ち、制御装置41は、保護カバー50が取付状態にあることを検知する。
【0038】
制御装置41は、保護カバー50が取付状態にあることを検知すると、フィラメント11からの電子線eの出力を許可しないように制御する。これにより、保護カバー50を取り付けた状態で、電子線eが出射されることが防止されるようになっている。
【0039】
また、報知部62の動作の一例を説明する。制御装置41によって保護カバー50が取り付けられていることが検知されている状況下において、作業者によって電子線eの出力操作がなされたとき、制御装置41は、報知部62としてのディスプレイに保護カバー50が取り付けられている旨を表示する。または、制御装置41は、報知部62としてのスピーカーから音出力を行う。または、制御装置41は、報知部62としての表示灯を点灯させる。これにより、作業者に対して、保護カバー50が取付状態にある旨が報知される。
【0040】
電子線照射装置10を使用するときには、
図2に示すように、作業者は、保護カバー50を案内部材33の外面33aから取り外した後、第1構成体S1の開口部Saを第2構成体S2にて閉塞する。この状態で吐出口32から空間Sp1に冷却ガスが供給されると、排出口34が保護カバー50によって覆われていないため、流路35内の圧力は、保護カバー50が案内部材33の外面33aに取り付けられている状態のときに比べて低くなる。測定部61が出力する測定結果も、流路35内の圧力に応じて変化する。制御装置41は、測定部61から入力される測定結果と閾値とを比較する。そして、制御装置41は、測定部61から入力された測定結果が閾値以下である場合に、保護カバー50が非取付状態にあると判定する。即ち、制御装置41は、保護カバー50が非取付状態にあることを検知する。制御装置41は、保護カバー50が非取付状態にあることを検知すると、フィラメント11からの電子線eの出力を許可する。
【0041】
本実施形態の効果について説明する。
(1)電子線照射装置10は、電子線eを発生させるフィラメント11と、電子線eが通過する開口窓部19を有する走査管16とを備える。また、電子線照射装置10は、開口窓部19を塞ぐように設けられ、電子線eを走査管16の内部から走査管16の外部に透過させる窓箔20と、窓箔20の外部側を覆う、着脱可能な保護カバー50とを備える。また、電子線照射装置10は、窓箔20における走査管16の外部側の面20aが露出するとともに窓箔20を冷却するための冷却ガスが通る流路35を備える。また、電子線照射装置10は、流路35内の圧力を測定する測定部61を備える。更に、電子線照射装置10は、測定部61の測定結果に基づいて保護カバー50が取付状態にあるか否かを検知し、保護カバー50が非取付状態であることを条件として窓箔20を介した電子線eの出射を許可する制御装置41を備える。流路35は、開口窓部19を通過した電子線eが通過する排出口34を有する。冷却ガスは、排出口34から流路35の外に排出される。保護カバー50は、排出口34を覆うことにより窓箔20における走査管16の外部側の面20aを覆う。
【0042】
この構成によれば、流路35に冷却ガスが供給されている場合、保護カバー50が取り付けられているときよりも保護カバー50が取り付けられていないときの方が、排出口34から流路35の外に排出される冷却ガスの量は多くなる。そのため、保護カバー50が取り付けられている状態における流路35内の圧力は、保護カバー50が取り外されている状態における流路35内の圧力よりも高くなる。従って、測定部61が測定する流路35内の圧力に基づいて、保護カバー50が取付状態にあるか否かを検知できる。
【0043】
そして、制御装置41は、保護カバー50が非取付状態であることを条件として窓箔20を介した電子線eの出射を許可する。従って、保護カバー50を外し忘れた状態では、制御装置41は、電子線eの出射を許可しない。このため、保護カバー50に電子線eが照射されることによる保護カバー50の損傷を抑制できる。
【0044】
(2)電子線照射装置10は、保護カバー50が取付状態にあるか否かに関する制御装置41の検知結果に基づく報知を行う報知部62を備えている。この構成によれば、報知部62によって、制御装置41の検知結果に基づいた報知が可能となる。これにより、電子線eの出射が許可されているか否かを作業者が認識しやすくなるため、作業性の向上を図ることができる。
【0045】
(3)報知部62は、保護カバー50が取付状態にあることが制御装置41で検知されているときに、保護カバー50が取付状態にある旨を報知する。この構成によれば、報知部62によって、保護カバー50が取付状態であることを作業者に報知可能となる。
【0046】
(4)電子線照射装置10は、保護カバー50を流路35の外面33aに取り付ける取付部材51を備える。保護カバー50が取付状態にあるとき、取付部材51は、流路35の外部に位置する。この構成によれば、取付部材51が流路35の内部に突出しない。そのため、取付部材51によって冷却ガスの流れが乱されることを抑制できる。
【0047】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・
図4に示すように、電子線照射装置10は、排出口34と保護カバー50との間をシールするシール部材71を備えてもよい。保護カバー50は、案内部材33の外面33aに着脱可能に取り付けられて排出口34の全体を覆う。シール部材71は、外面33aにおける排出口34の外周部分と保護カバー50との間に位置する。また、シール部材71は、排出口34を囲むとともに、外面33aにおける排出口34の外周部分及び保護カバー50の各々に密着する。シール部材71は、例えば、電子線eの進行方向から見て排出口34を囲む環状をなす。なお、この説明で使用される「環状」という用語は、ループ、即ち端部の無い連続形状、を形成する任意の構造、並びに、C字形のようなギャップを有する、全体としてループ形状をなす構図を指すことがある。「環状」の形状には、円形、楕円形、及び尖ったまたは丸い角を有する多角形が含まれるが、これらに限定されない。
【0048】
この構成によれば、保護カバー50が案内部材33の外面33aに取り付けられると、保護カバー50と外面33aとの間を冷却ガスが通り抜けることがシール部材71によって抑制される。従って、保護カバー50が外面33aに取り付けられてから、流路35内の圧力が制御装置41において保護カバー50が取付状態にあることを検知可能な圧力になるまでの時間を、電子線照射装置10がシール部材71を備えない場合よりも短くできる。よって、保護カバー50が取り付けられてから、制御装置41が保護カバー50が取付状態にあることを検知するまでに要する時間を短くできる。
【0049】
・取付部材51は、流路35の内部に突出していてもよい。
・上記実施形態では、閾値は、保護カバー50が取付状態にあるときの流路35の圧力に応じた値である。しかしながら、閾値は、例えば、保護カバー50が取り付けられた後の単位時間あたりの流路35内の圧力の増加量に基づく値であってもよい。この場合、制御装置41は、測定部61から入力される測定結果に基づいて単位時間あたりの流路35内の圧力の増加量を算出する。そして、制御装置41は、算出結果と閾値とを比較して、算出結果が閾値よりも大きい場合に、保護カバー50が取付状態にあると判定する。即ち、制御装置41は、保護カバー50が取付状態にあることを検知する。一方、制御装置41は、算出結果と閾値とを比較して、算出結果が閾値以下である場合に、保護カバー50が非取付状態にあると判定する。即ち、制御装置41は、保護カバー50が非取付状態であることを検知する。
【0050】
・上記実施形態では、測定部61は、流路35内の圧力を測定する。しかしながら、測定部61は、流路35を通る冷却ガスの流量を測定するものであってもよい。この場合においても、制御装置41は、測定部61の測定結果に基づいて保護カバー50が取付状態にあるか否かを検知する。この場合、保護カバー50が取付状態にあるかを判定するための閾値は、例えば、保護カバー50が取付状態にあるときの流路35を通る冷却ガスの流量に応じた値である。制御装置41は、測定部61から入力された測定結果と閾値とを比較する。そして、制御装置41は、測定部61から入力された測定結果が閾値以上である場合には、保護カバー50は取付状態にないと判定する。即ち、制御装置41は、保護カバー50が非取付状態であることを検知する。一方、制御装置41は、測定部61から入力された測定結果が閾値よりも小さい場合には、保護カバー50が取付状態にあると判定する。即ち、制御装置41は、保護カバー50が取付状態にあることを検知する。
【0051】
この構成によれば、流路35に冷却ガスが供給されている場合、保護カバー50が取り付けられているときよりも保護カバー50が取り付けられていないときの方が、排出口34から流路35の外に排出される冷却ガスの量は多くなる。そのため、保護カバー50が取り付けられているときに流路35を通る冷却ガスの流量は、保護カバー50が取り付けられていないときに流路35を通る冷却ガスの流量よりも少なくなる。従って、測定部61が測定する流路35を通る冷却ガスの流量に基づいて、保護カバー50が取付状態にあるか否かを検知できる。
【0052】
・保護カバー50は、取付状態にあるとき、排出口34の全体を覆っていなくてもよい。ただし、取付状態にある保護カバー50は、窓箔20を保護できる程度に排出口34を覆う。
【0053】
・窓箔20に用いる材料は上記実施形態の材料に限定されるものではなく、チタン系の金属材料以外の材料を用いてもよい。
・遮蔽体Sに用いる材料は上記実施形態の材料に限定されるものではなく、鉛系の金属材料以外のコンクリートなどを用いてもよい。
【0054】
・上記実施形態の報知部62は、保護カバー50が取付状態にあることが制御装置41で検知されているときに、保護カバー50が取付状態にある旨を報知する。しかしながら、これに限らず、報知部62は、保護カバー50が取付状態にあるか否かに関する制御装置41の検知結果に基づく報知を行うものであればよい。例えば、報知部62は、保護カバー50が非取付状態にあることが制御装置41で検知されているときに、保護カバー50が非取付状態にある旨(即ち電子線eの出射が許可されている旨)を報知するように構成されていてもよい。
【0055】
・上記実施形態の電子線照射装置10では、開口窓部19の開口方向を下向きとした構成、即ち、電子線eの進行方向を下方向の設定としていたが、上方向や水平方向、斜め方向であってもよい。
【0056】
・上記実施形態では、電子線照射装置10は、単一のフィラメント11から放出された電子から電子線eを形成し走査コイル18にて走査して照射エリアAの照射を行う走査型の電子線照射装置であるとした。しかしながら、電子線照射装置10は、照射エリアAに対応して複数のフィラメント11を用い走査コイル18を省略した態様のエリア型の電子線照射装置であってもよい。
【0057】
・今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0058】
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)電子線照射装置において、前記報知部は、前記保護カバーが取付状態にあることが前記制御部で検知されているときに、前記保護カバーが取付状態にある旨を報知する。
【0059】
この構成によれば、報知部によって、保護カバーが取付状態であることを作業者に報知可能となる。
(ロ)電子線照射装置において、前記保護カバーは、前記流路の外壁面に着脱可能に取り付けられて前記排出口の全体を覆うものであり、前記流路の外壁面における前記排出口の外周部分と前記保護カバーとの間に、前記排出口を囲み前記外周部分及び前記保護カバーの各々に密着するシール部材を備える。
【0060】
この構成によれば、保護カバーが流路の外壁面に取り付けられると、保護カバーと外壁面との間を冷却ガスが通り抜けることがシール部材によって抑制される。従って、測定部が流路内の圧力を測定する場合には、保護カバーが流路の外壁面に取り付けられてから、流路内の圧力が制御部において保護カバーが取付状態にあることを検知可能な圧力になるまでの時間を、電子線照射装置がシール部材を備えない場合よりも短くできる。また、測定部が流路を通る冷却ガスの流量を測定する場合には、保護カバーが流路の外壁面に取り付けられてから、流路を通る冷却ガスの流量が制御部において保護カバーが取付状態にあることを検知可能な流量になるまでの時間を、電子線照射装置がシール部材を備えない場合よりも短くできる。よって、保護カバーが取り付けられてから、制御部が保護カバーが取付状態にあることを検知するまでに要する時間を短くできる。
【0061】
(ハ)電子線照射装置において、前記保護カバーを前記流路の外壁面に取り付ける取付部材を備え、前記保護カバーが取付状態にあるとき、前記取付部材は、前記流路の外部に位置する。
【0062】
この構成によれば、取付部材が流路の内部に突出しない。そのため、取付部材によって冷却ガスの流れが乱されることを抑制できる。
【符号の説明】
【0063】
10…電子線照射装置
11…フィラメント(電子線発生部)
16…走査管(筐体部)
19…開口窓部
20…窓箔
20a…面
22…制御装置(制御部)
34…排出口
35…流路
50…保護カバー
61…測定部
62…報知部
e…電子線