(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135685
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】N-ビニルラクタム系重合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 26/06 20060101AFI20230922BHJP
C08L 39/04 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C08F26/06
C08L39/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040885
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】池元 結衣
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BJ001
4J002EU026
4J002FD206
4J002GB00
4J002GB01
4J002GJ00
4J002GQ00
4J002HA04
4J100AB16Q
4J100AE03Q
4J100AE04Q
4J100AJ02Q
4J100AL03Q
4J100AL08Q
4J100AL09Q
4J100AL62Q
4J100AM15Q
4J100AN03Q
4J100AQ06P
4J100AQ08P
4J100AQ19Q
4J100AQ26Q
4J100BA31Q
4J100CA01
4J100CA04
4J100DA01
4J100JA43
4J100JA50
4J100JA61
(57)【要約】
【課題】
加熱による架橋反応でゲル化物の発生を抑制可能な耐熱性の高いN-ビニルラクタム系重合体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
ラジカル重合開始剤の存在下、アルコール化合物を水に対して、0.5質量%~10質量%含んだ水性溶媒中で、N-ビニルラクタムを含む単量体成分の重合反応を行うことで得られるN-ビニルラクタム系重合体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合開始剤の存在下、
アルコール化合物を水に対して、0.5質量%~10質量%含んだ水性溶媒中で、
N-ビニルラクタムを含む単量体成分を重合する工程を含む、
N-ビニルラクタム系重合体の製造方法。
【請求項2】
前記アルコール化合物の含有量が、
前記単量体成分に対して2.5質量%~30質量%である、
請求項1に記載のN-ビニルラクタム系重合体の製造方法。
【請求項3】
前記ラジカル重合開始剤の使用量が、
前記単量体成分に対して0.08質量%~0.5質量%である、
請求項1または請求項2に記載のN-ビニルラクタム系重合体の製造方法。
【請求項4】
前記アルコール化合物がイソプロパノールである請求項1~3のいずれかに記載のN-ビニルラクタム系重合体の製造方法。
【請求項5】
前記N-ビニルラクタム系重合体のK値が60~95である
請求項1~4のいずれかに記載のN-ビニルラクタム系重合体の製造方法。
【請求項6】
主鎖末端基に水酸基を有し、K値が60~95であるN-ビニルラクタム系重合体を含み、
単量体の含有量が100ppm以下である、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、N-ビニルラクタム系重合体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
N-ビニルラクタム系重合体、例えばポリビニルピロリドンは、水溶性で安全な機能性ポリマーとして、幅広い分野で用いられている。例えば、化粧品、医農薬中間体、食品添加物、感光性電子材料、粘着付与剤等の用途や、種々の特殊工業用途(例えば、中空糸膜の製造)に用いられている。
【0003】
高分子量のポリビニルピロリドンの製造方法として、γ-ブチロラクトンの含有量が500ppm以下であるN-ビニルピロリドンを用いること、および/または、前記N-ビニルピロリドンとして、アセチレンを原料とせずに得られたN-ビニルピロリドンを用いることを特徴とすることが報告されている。(特許文献1参照)
しかし、上記方法によって得られたポリビニルピロリドンは、200℃を越える高温で使用すると変性し、水への不溶成分が生成するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者が鋭意検討したところ、ナトリウム等の金属イオンを含まず、耐熱性の高いN-ビニルラクタム系重合体を得る方法には、改善の余地があることが分かった。
【0006】
そこで本開示では、加熱による架橋反応でゲル化物の発生を抑制可能な耐熱性の高いN-ビニルラクタム系重合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本開示のN-ビニルラクタム系重合体は、主鎖末端基に水酸基を有し、K値が60以上、95以下であり、残存モノマー量が100ppm以下である。また、本開示のN-ビニルラクタム系重合体の製造方法は、ラジカル重合開始剤の存在下、アルコール化合物を水に対して、0.5質量%~10質量%含んだ水性溶媒中で、N-ビニルラクタムを含む単量体成分を重合する工程を含む製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、加熱による架橋反応でゲル化物の発生を抑制可能な耐熱性の高いN-ビニルラクタム系重合体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態を詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
なお、これ以降の説明において特に記載がない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を、それぞれ意味し、範囲を示す「A~B」は、A以上B以下であることを示す。また、本開示において、「(メタ)アクリレ-ト」は、「アクリレ-ト」または「メタクリレ-ト」を意味し、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」または「メタクリル」を意味する。
【0010】
〔N-ビニルラクタム系重合体の製造方法〕
本開示のN-ビニルラクタム系重合体の製造方法は、ラジカル重合開始剤の存在下、アルコール化合物を水に対して、0.5質量%~10質量%含んだ水性溶媒中で、N-ビニルラクタムを含む単量体成分を重合する工程を含む。
<単量体成分>
本開示のN-ビニルラクタム系重合体の製造方法は、N-ビニルラクタムを必須とする単量体成分を重合する工程(以下、重合工程とも言う)を含む。N-ビニルラクタムは、ラクタム環を有する単量体であり、例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニル-4-ブチルピロリドン、N-ビニル-4-プロピルピロリドン、N-ビニル-4-エチルピロリドン、N-ビニル-4-メチルピロリドン、N-ビニル-4-メチル-5-エチルピロリドン、N-ビニル-4-メチル-5-プロピルピロリドン、N-ビニル-5-メチル-5-エチルピロリドン、N-ビニル-5-プロピルピロリドン、N-ビニル-5-ブチルピロリドン、N-ビニル-4-メチルカプロラクタム、N-ビニル-6-メチルカプロラクタム、N-ビニル-6-プロピルカプロラクタム、N-ビニル-7-ブチルカプロラクタム等が挙げられる。
N-ビニルラクタムの中でも、重合性が良好であり、得られる重合体の高温での耐熱性が向上することから、N-ビニル-2-ピロリドン、及び/又は、N-ビニルカプロラクタムを必須単量体とすることが好ましい。
【0011】
本開示のN-ビニルラクタム系重合体の製造方法、特に前記重合工程は、N-ビニルラクタム以外の単量体(以下、その他の単量体と称する)を併用してもよい。その他の単量体としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸のアルキルエステル(メチルアクリレート、エチルアクリレート等)、メタクリル酸のアルキルエステル(メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等)、アクリル酸のアミノアルキルエステル(ジエチルアミノエチルアクリレート等)、メタクリル酸のアミノアルキルエステル、アクリル酸とグリコールとのモノエステル、メタクリル酸とグリコールとのモノエステル(ヒドロキシエチルメタクリレート等)、アクリル酸のアルカリ金属塩、メタクリル酸のアルカリ金属塩、アクリル酸のアンモニウム塩、メタクリル酸のアンモニウム塩、アクリル酸のアミノアルキルエステルの第4級アンモニウム誘導体、メタクリル酸のアミノアルキルエステルの第4級アンモニウム誘導体、ジエチルアミノエチルアクリレートとメチルサルフェートとの第4級アンモニウム化合物、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルスルホン酸のアルカリ金属塩、ビニルスルホン酸のアンモニウム塩、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸塩、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸塩、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸塩、酢酸ビニル、ビニルステアレート、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルカルバゾール、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N,N-メチレンビスアクリルアミド、グリコールジアクリレート、グリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、グリコールジアリルエーテル等が挙げられる。
【0012】
得られる本開示のN-ビニルラクタム系重合体を、例えば、中空糸膜の製造に使用した場合に、中空糸膜の生産性、及び、性能が向上することから、N-ビニルラクタムとその他の単量体の合計(以下、全単量体成分)を100質量%とした場合、N-ビニルラクタムの使用割合は50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%であることが最も好ましい。従って、全単量体成分におけるその他の単量体の使用割合は、50質量%未満が好ましく、20質量%未満がより好ましく、10質量%未満がさらに好ましく、0質量%が最も好ましい。
【0013】
なお、上記全単量体成分中のその他の単量体等の使用割合を計算するときは、その他の単量体が酸基の塩を有する場合は当該酸基の塩を対応する酸基として(酸換算)、アミノ基の塩を有する場合には当該アミノ基の塩を対応するアミノ基として(アミン換算)、計算するものとする。全単量体成分由来の構造単位に対するその他の単量体に由来する構造等を計算する場合、本開示のN-ビニルラクタム系重合体の全質量に対する、アルコール化合物由来の構造単位を計算する場合も同様に、該当する場合には酸換算、アミン換算で計算するものとする。
【0014】
<ラジカル重合開始剤>
単量体の重合に際しては、ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。本開示の製造方法、特に前記重合工程では、ラジカル重合開始剤として、アゾ系重合開始剤、及び/又は、有機過酸化物を用いることが好ましい。アゾ系重合開始剤とは、アゾ結合を有し、熱等によりラジカルを発生する化合物を言う。
【0015】
本開示で使用可能なアゾ系重合開始剤としては、特に限定されないが、2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン二塩酸塩、2,2’-ビス(2-イミダゾリン-2-イル)[2,2’-アゾビスプロパン]二塩酸塩、2,2’-ビス(2-イミダゾリン-2-イル)[2,2’-アゾビスプロパン]二硫酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’-アゾビス-(プロパン-2-カルボアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス[N-(2-ヒドロキシエチル)-2-メチルプロパンアミド]、4,4’-アゾビス-4-シアノバレリン酸、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)等が例示される。これらの中でも、高分子量のN-ビニルラクタム系重合体を効率よく製造できる傾向にあることから、また、得られる重合体の高温での色調が良好になる傾向にあることから、10時間半減温度が30℃以上90℃以下であるものが好ましく、より好ましくは10時間半減温度が40℃以上70℃以下であるものである。具体的には、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)が好ましく、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)がより好ましく、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)が最も好ましい。また、カルボキシル基を有するアゾ系重合開始剤(2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]等)は、着色に悪影響を及ぼすことがあるので、所望により使用する場合にはなるべく少ない量を使用することが好ましく、使用しないことがより好ましい。
【0016】
本開示で使用可能な有機過酸化物としては、ターシャリーブチルヒドロペルオキシド、ジターシャリーブチルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ターシャリーヘキシルヒドロペルオキシド、p-メンタンヒドロペルオキシド等のアルキルヒドロペルオキシド;ターシャリーブチルペルオキシアセテート、ジスクシノイルペルオキシド、過酢酸等が例示される。これらの有機過酸化物の中でも、10時間半減温度が30℃以上180℃以下のものが好ましく、より好ましくは10時間半減温度が40℃以上170℃以下のものである。
【0017】
本開示の製造方法、特に前記重合工程で使用するラジカル重合開始剤は、上記アゾ系重合開始剤、上記有機過酸化物から選択される1種または2種以上を必須とすることが好ましいが、その他のラジカル重合開始剤を併用しても構わない。そのような開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素等が例示される。
本発明で使用するラジカル重合開始剤は、上記アゾ系重合開始剤であることが好ましい。
【0018】
上記ラジカル重合開始剤の使用量(複数種使用する場合はその総量)は、特に言及する場合を除き、全単量体成分に対して、0.08質量%~0.5質量%であることが好ましい。より好ましくは0.09質量%~0.45質量%であり、更に好ましくは0.1質量%~0.4質量%である。
上記ラジカル重合開始剤の使用量が前述の範囲であると重合体の分子量の調整が容易となる傾向にあり、不純物量が少なく、加熱時の着色がより抑えられる傾向にあるという点で好ましい。
【0019】
重合開始剤の反応系(重合釜)への添加方法としては、特に限定はされないが、重合開始時に一括添加する量が、重合開始剤の全使用量の50質量%以上であることが好ましい。特に好ましくは80質量%以上であり、全量を一括添加することが最も好ましい。重合開始剤は連続的もしくは段階的に添加しても良い。重合開始剤を連続的に添加する場合、その滴下速度は変えてもよい。
【0020】
重合開始剤は、溶媒に溶解せずにそのまま添加してもよいが、後述する溶媒に溶解して反応系(重合釜)へ添加することが好ましい。
【0021】
<アルコール化合物>
本開示のN-ビニルラクタム系重合体の製造方法は、アルコール化合物を含む水性溶媒中で、N-ビニルラクタムを必須とする単量体成分を重合する工程を含むことが好ましい。前記重合工程は、アルコール化合物を含む水性溶媒中で、N-ビニルラクタムを必須とする単量体成分を重合する工程であることが好ましい。アルコール化合物を用いることにより、本開示のN-ビニルラクタム系重合体の耐熱性が向上する傾向にある。アルコール化合物としては、イソプロパノール、イソブタノール、グリセリン等の、第2級アルコールを用いることが好ましい。より好ましくは、イソプロパノールである。
【0022】
本開示では、特に限定されないが、好ましくは上記アルコール化合物が連鎖移動剤として機能する。上記のアルコール化合物であると、本開示のN-ビニルラクタム系重合体の主鎖末端にアルコール化合物に由来する構造が効率的に導入される傾向にある。N-ビニルラクタム系重合体を高温に加熱すると、架橋反応が進行し、不溶な成分が発生する場合がある。特に限定されないが、アルコール化合物に由来する構造を主鎖末端に導入することにより、本開示のN-ビニルラクタム系重合体を例えば200℃以上の高温に加熱した際に、耐熱性が向上する傾向にある。
本開示のN-ビニルラクタム系重合体は、上記の通り、高温時に於けるゲル化を抑制することが可能になる。
【0023】
上記アルコール化合物は、重合開始前に反応容器(重合釜)に添加してもよい(初期仕込みという)し、全部またはその一部を重合中に反応容器(重合釜)に添加してもよいが、重合開始前に全量を反応容器(重合釜)に添加する(初期仕込みする)態様が好ましい。この態様により、上記アルコール化合物が効率よく反応するので、主鎖末端にアルコール化合物に由来する構造を効率よく導入できるばかりでなく、上記アルコール化合物の残存量を少なくすることができる。なお、本発明において「重合開始前」とは、重合反応が開始する前を表す。上記アルコール化合物は、重合中に反応系(重合釜)へ実質的に連続的に添加する場合は、例えば、実質的に連続的に添加する量を全使用量の50質量%以上とすることができる。
N-ビニルラクタムの使用量の5モル%が重合(N-ビニルラクタムの転化率が5%)の時点で、アルコール化合物の使用量の50%以上が反応系(重合釜)に添加されていることが好ましく、80%以上が反応系(重合釜)に添加されていることがより好ましく、90%以上が反応系(重合釜)に添加されていることがさらに好ましい。また、N-ビニルラクタムの使用量の50モル%が重合(N-ビニルラクタムの転化率が50%)の時点で、アルコール化合物の使用量の80%以上が反応系(重合釜)に添加されていることが好ましく、90%以上が反応系(重合釜)に添加されていることがより好ましく、100%が反応系(重合釜)に添加されていることがさらに好ましい。
【0024】
反応系における上記アルコール化合物の存在量は、水に対して、0.5質量%~10質量%含んだ水性溶媒であることが好ましい。より好ましくは0.6質量%~8質量%であり、更に好ましくは0.7質量%~5質量%である。なお、水性溶媒とは、水を含む溶媒をいう。
上記アルコール化合物の存在量が、前述の範囲であると、本開示のN-ビニルラクタム系重合体の耐熱性が向上する傾向にある。
前記重合工程における前記アルコール化合物の使用量は、水の使用量100質量%に対し、0.5質量%~10質量%であることが好ましく、0.6質量%~8質量%であることがより好ましく、0.7質量%~5質量%であることがさらに好ましい。なお、重合工程において、水とアルコール化合物以外の任意の溶剤を使用しても良いが、重合工程で使用する溶剤の全量100質量%に対し、水とアルコール化合物の合計の使用量が80質量%以上になることが好ましく、90質量%以上になることがより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。
【0025】
上記アルコール化合物の添加量(総量)は、特に言及する場合を除き、全単量体成分に対して、2.5質量%~30質量%であることが好ましい。より好ましくは2.6質量%~20質量%、更に好ましくは2.7質量%~18質量%である。
上記アルコール化合物の添加量が、全単量体成分に対して2.5質量%以上であると、本開示のN-ビニルラクタム系重合体の耐熱性が向上する傾向にある。また、上記アルコール化合物の添加量が、全単量体成分に対して30質量%以下であると、本開示のN-ビニルラクタム系重合体の分子量を大きくできる傾向にあるため好ましい。
【0026】
<還元剤>
本開示の製造方法、特に前記重合工程では、限定されないが、例えば、N-ビニルラクタム系重合体の分子量を調整するために、還元剤を用いてもよい。使用可能な還元剤は、特に限定されないが、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3-メルカプトプロピオン酸オクチル、2-メルカプトエタンスルホン酸、n-ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ブチルチオグリコレート等の、チオール化合物;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタン等の、ハロゲン化物;上記アルコール化合物以外の水酸基含有化合物;亜リン酸、亜リン酸塩、次亜リン酸、次亜リン酸塩、およびこれらの水和物等;亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸、およびその塩等の重亜硫酸塩(水に溶解して重亜硫酸塩を発生する化合物を含む)等の、低級酸化物およびその塩等が挙げられる。これらの塩は、ナトリウム等の金属塩、アンモニウム塩または有機アミン塩である。上記還元剤は、2種以上用いてもよい。
ナトリウム塩等の金属塩をなるべく低減することが、中空糸膜の製造等の特殊工業用途や、半導体洗浄等の電材用途で用いる場合には好ましい。
【0027】
<還元性化合物>
本開示の製造方法、特に前記重合工程では、重合開始剤の分解触媒等として作用する還元性化合物として、重金属イオン(あるいは重金属塩)を使用してもよい。本発明で重金属とは、比重が4g/cm3以上の金属を意味する。重金属の中でも鉄および/または銅が好ましく、上記還元性化合物として、モール塩(Fe(NH4)2(SO4)2・6H2O)、硫酸第一鉄・7水和物、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸銅(I)および/またはその水和物、硫酸銅(II)および/またはその水和物、塩化銅(II)および/またはその水和物等の重金属塩等を用いてもよい。
【0028】
上記重金属イオンを使用する場合、例えば、0.1~10ppmの範囲で使用することもできるが、中空糸膜の製造等の特殊工業用途や、半導体洗浄等の電材用途で用いる場合には使用しない方が好ましい。
【0029】
<その他の添加剤>
本開示の製造方法、特に前記重合工程では、重合反応の促進やN-ビニルラクタムの加水分解の防止等を目的として、アンモニアおよび/またはアミン化合物を用いてもよい。アンモニアやアミン化合物は、重合反応において、助触媒として機能する。すなわち、アンモニアおよび/またはアミン化合物が反応系に含まれると、含まれない場合に比較して、重合反応の進行がより一層促進される。また、塩基性pH調節剤としても機能しうる。なお、アンモニアは臭気の原因となり、また着色にも影響を及ぼすため、量を抑えて用いることが好ましい。アンモニアを用いるときは、常温にて気体状の単体としてそのまま用いてもよいし、水溶液(アンモニア水)として用いてもよい。アンモニアおよび/またはアミン化合物の添加は、任意の適切な方法で行うことができ、例えば、重合初期より反応容器内に仕込んでおいてもよいし、重合中に反応容器中に逐次添加してもよい。
【0030】
アミン化合物としては、任意の適切なアミン化合物を採用し得る。具体的には、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンが挙げられる。上記アミンは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0031】
上記第1級アミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、アリルアミン、イソプロピルアミン、ジアミノプロピルアミン、エチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、3-(2-エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-(ジエチルアミノ)プロピルアミン、3-(ジブチルアミノ)プロピルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、t-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、3-(メチルアミノ)プロピルアミン、3-(ジメチルアミノ)プロピルアミン、3-メトキシプロピルアミンが挙げられる。上記第1級アミンは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
上記第2級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、N-メチルエチルアミン、N-メチルプロピルアミン、N-メチルイソプロピルアミン、N-メチルブチルアミン、N-メチルイソブチルアミン、N-メチルシクロヘキシルアミン、N-エチルプロピルアミン、N-エチルイソプロピルアミン、N-エチルブチルアミン、N-エチルイソブチルアミン、N-エチルシクロヘキシルアミン、N-メチルビニルアミン、N-メチルアリルアミン等の脂肪族第2級アミン;N-メチルエチレンジアミン、N-エチルエチレンジアミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N-メチルトリメチレンジアミン、N-エチルトリメチレンジアミン、N,N’-ジメチルトリメチレンジアミン、N,N’-ジエチルトリメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン等の脂肪族ジアミンおよびトリアミン;N-メチルベンジルアミン、N-エチルベンジルアミン、N-メチルフェネチルアミン、N-エチルフェネチルアミン等の芳香族アミン;N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-プロピルエタノールアミン、N-イソプロピルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N-イソブチルエタノールアミン等のモノアルカノールアミン;ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン等のジアルカノールアミン;ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、N-メチルピペラジン、N-エチルピペラジン、モルホリン、チオモルホリン等の環状アミン;が挙げられる。上記第2級アミンは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの第2級アミンのうち、ジアルカノールアミンおよびジアルキルアミンが好ましく、ジアルカノールアミンがより好ましく、中でもジエタノールアミンが特に好適である。
【0033】
上記第3級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリブタノールアミン等のトリアルカノールアミンが挙げられる。上記第3級アミンは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの第3級アミンのうち、トリアルカノールアミンが好ましく、中でもトリエタノールアミンが特に好適である。
【0034】
上記アンモニアおよびアミン化合物を使用する場合の使用量は、両者の合計で、N-ビニルラクタム100質量部に対して0.01質量部以上が好ましく、0.02~1質量部がより好ましい。上記範囲であれば、反応速度が向上する傾向にあり、反応中のpHの低下に伴うN-ビニルラクタムの加水分解や着色を抑制する効果が得られる。
【0035】
なお、上記重金属塩として銅塩を用い、さらに上記アンモニアを用いる場合、銅のアンミン錯塩が形成し得る。銅のアンミン錯塩としては、例えば、ジアンミン銅塩([Cu(NH3)2]2SO4・H2O、[Cu(NH3)2]Cl等)、テトラアンミン銅塩([Cu(NH3)4]SO4・H2O、[Cu(NH3)4]Cl2等)が挙げられる。
<重合溶媒>
本発明のN-ビニルラクタム系重合体の製造方法は、N-ビニルラクタムを必須とする単量体成分と上記アルコール化合物を必須に含む水性溶媒中で重合する方法である。上記アルコール化合物以外は、水を用いる。
【0036】
本開示において水性溶媒とは、水とアルコール化合物を含む混合溶媒を表す。水とアルコール化合物以外に、グリセリン;ポリエチレングリコール;ジメチルホルムアルデヒド等のアミド類;ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類等を混合してもよいが、水とアルコール化合物からなることが好ましい。
【0037】
重合工程は、好ましくは、重合終了後の固形分濃度(溶液のうちの不揮発分の濃度である)が、重合溶液100質量%に対して10~80質量%となるように行うことが好ましく、15~70質量%がより好ましく、20~60質量%がさらに好ましい。
【0038】
<その他の重合条件>
重合の際の温度は好ましくは70℃以上であり、より好ましくは75~110℃であり、さらに好ましくは80~105℃である。重合時の温度が上記範囲であれば、残存単量体成分が少なくなり、重合体の分散性が向上する傾向にある。なお、重合時の温度は、重合反応の進行中において、常に一定に保持する必要はなく、例えば、室温から重合を開始し、適当な昇温時間または昇温速度で設定温度まで昇温し、その後、設定温度を保持するようにしてもよいし、単量体成分や開始剤等の滴下方法に応じて、重合反応の進行中に経時的に重合温度を変動(昇温または降温)させてもよい。
【0039】
重合時のpHとしては、不純物あるいは副生成物の発生を抑制する観点から、6以上が好ましく、7以上がより好ましく、11以下が好ましい。
【0040】
反応系内の圧力としては、常圧(大気圧)下、減圧下、加圧下のいずれであってもよいが、得られる重合体の分子量の点では、常圧下、または、反応系内を密閉し、加圧下で行うことが好ましい。また、加圧装置や減圧装置、耐圧性の反応容器や配管等の設備の点では、常圧(大気圧)下で行うことが好ましい。反応系内の雰囲気としては、空気雰囲気でもよいが、不活性雰囲気とするのが好ましく、例えば、重合開始前に系内を窒素等の不活性ガスで置換することが好ましい。
【0041】
重合時間は、30分以上、5時間以下であることが好ましい。重合時間が長くなると、重合液の着色が大きくなる傾向にある。重合終了後、重合液に残存する単量体を低減する目的等で、熟成工程(重合後、加温・保温条件下で保持する工程をいう)を設けてもよい。熟成時間は通常、1分以上、4時間以内である。熟成時間中に、更に重合開始剤(ブースター)を添加すれば、重合液に残存する単量体を低減できることから好ましい。
【0042】
重合後期においては、単量体の添加終了時間よりも、開始剤の滴下終了時間を遅らすことが、重合液に残存する単量体を低減することができることから好ましい。より好ましくは1~120分遅らせることであり、5~60分遅らせることがさらに好ましい。
【0043】
<有機酸の添加>
本開示では、重合反応終了後、反応液に有機酸またはその水溶液を添加することが好ましい(以下、有機酸添加工程とも言う)。この際、重合反応時の反応温度を維持して行うことが好ましい。これにより、残存するN-ビニルラクタムが、酸によって加水分解されるので、未反応の単量体量(すなわち、反応液中における単量体の残存量)を低減することができる。例えば、単量体がN-ビニル-2-ピロリドンであるならば、酸によって2-ピロリドンへと加水分解される。
【0044】
残存単量体量を低減するのに使用可能な有機酸として好ましいものは、有機酸添加時の反応液温度より高い沸点(例えば100℃以上)を有するカルボン酸であり、具体的には、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アスパラギン酸、クエン酸、グルタミン酸、フマル酸、リンゴ酸、マレイン酸、フタル酸、トリメリト酸、ピロメリト酸等が挙げられる。これらの有機酸は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
有機酸の使用量は、重合反応時のN-ビニルラクタムの使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、重合後の反応液のpHが好ましくは5以下、より好ましくは3以上、4以下になるようにすればよい。具体的には、有機酸の使用量は、N-ビニルラクタムの使用量に対して、好ましくは100ppm以上、30,000ppm以下、より好ましくは500ppm以上、20,000ppm以下である。
【0045】
<残存モノマー量>
本開示のN-ビニルラクタム系重合体の製造方法によると、未反応で残存するモノマー量を少なくすることが可能なため好ましい。残存モノマー量は、得られた本開示のN-ビニルラクタム系重合体に対して、100ppm以下であることが好ましい。より好ましくは50ppm以下であり、更に好ましくは10ppm以下である。残存モノマー量が、前述の範囲であると、不純物量が少なく、加熱時の着色が抑制され、臭気も抑制される傾向にあるという点で好ましい。
【0046】
<単量体由来の不純物量>
本開示のN-ビニルラクタム系重合体の製造方法によると、単量体由来の不純物量を少なくすることが可能なため好ましい。単量体由来の不純物は、例えば、単量体がN-ビニル-2-ピロリドンであるならば、2-ピロリドンである。単量体由来の不純物量は、得られた本開示のN-ビニルラクタム系重合体に対して、5000ppm以下であることが好ましい。より好ましくは3000ppm以下であり、更に好ましくは2000ppm以下であり、特に好ましくは1500ppm以下である。単量体由来の不純物量が、前述の範囲であると、加熱時の着色が抑制され、臭気も抑制される傾向にあるという点で好ましい。
<耐熱性向上剤の添加>
本開示では、重合反応終了後、耐熱性向上剤を添加することが好ましい(以下、耐熱性向上剤添加工程とも言う)。これにより、耐熱性がさらに向上する。耐熱性向上剤は、乾燥前の重合体溶液に添加してもよく、乾燥後の重合体乾燥物に添加してもよい。
【0047】
本開示のN-ビニルラクタム系重合体中の耐熱性向上剤の含有量は、N-ビニルラクタム系重合体100質量%に対して0.01~10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.05~8質量%である。これによりN-ビニルラクタム系重合体は耐熱性により優れることとなる。より好ましくは0.05~5質量%であり、更に好ましくは0.08~3質量%である。
【0048】
耐熱性向上剤としては、耐熱性を向上させるものであれば特に制限されないが、例えば、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アルコール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、過酸化水素等が挙げられる。好ましくはフェノール系酸化防止剤、アルコール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、過酸化水素、リン系酸化防止剤及びヒンダードアミン系酸化防止剤からなる群より選択される少なくとも1種である。例えば、特開2020-37619に記載の酸化防止剤が挙げられる。
中でも、フェノール系酸化防止剤として、BHT、ヒドロキノン、トコフェロール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニル=アクリラート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼンが好ましく、ヒドロキノンが特に好ましい。
【0049】
<乾燥工程>
重合工程で得られたN-ビニルラクタム系重合体溶液から、N-ビニルラクタム系重合体を得るには、乾燥する工程を行っても良い。乾燥工程は、粉体化等を行う工程であり、粉砕工程も含む。乾燥や粉砕は、公知の一般的方法で行えばよく、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、流動床乾燥、ドラム乾燥、ベルト式乾燥等により、粉末を得ることができる。常圧で加熱乾燥する場合は、乾燥温度は100~200℃程度、乾燥時間は0.2~180分程度が好ましい。減圧下で乾燥する場合は、減圧度に応じて乾燥温度を適宜選択すればよい。K値が60以上のN-ビニルラクタム系重合体溶液を乾燥する場合は、ドラム乾燥が好ましい。
【0050】
<その他の工程>
本開示の製造方法は、重合工程を必須とし、任意で、前記有機酸添加工程、耐熱性向上剤添加工程、乾燥工程等を含んでも良いが、その他の工程を任意で含んでも良い。例えば、精製工程、脱塩工程、濃縮工程、希釈工程、pH調整工程等を含んでいてもよい。反応液(重合液)を陽イオン交換樹脂で処理することにより、得られるN-ビニルラクタム系重合体溶液の色調を改善することができる。陽イオン交換樹脂で処理する工程は、重合中(重合工程と並行して)または重合後に行うことができる。重合反応中における陽イオン交換樹脂による処理は、任意の適切な方法で処理し得る。好ましくは、単量体成分の重合反応が行われている反応容器中へ陽イオン交換樹脂を添加することにより行う。具体的には、例えば、重合反応が行われている反応容器中へ陽イオン交換樹脂を添加して微細に懸濁させ、その後に濾過する方法が挙げられる。陽イオン交換樹脂による処理の時間は、任意の適切な時間を採用し得る。好ましくは1分~24時間であり、より好ましくは3分~12時間であり、さらに好ましくは5分~2時間である。本開示の製造方法は、上記その他の工程を1つも含まなくても良いが、1つまたは2つ以上を含んでも良い。
【0051】
〔N-ビニルラクタム系重合体〕
本開示のN-ビニルラクタム系重合体は、N-ビニルラクタムに由来する構造単位を必須として含んでいる。N-ビニルラクタムに由来する構造単位とは、N-ビニルラクタムがラジカル重合して形成される構造単位であり、N-ビニルラクタムの重合性炭素炭素二重結合が、炭素炭素単結合になった構造である。本開示のN-ビニルラクタム系重合体は、特に限定されないが、例えば前記本開示のN-ビニルラクタム系重合体の製造方法で製造することができる。
【0052】
本開示のN-ビニルラクタム系重合体に含まれる全単量体成分由来の構造単位(N-ビニルラクタムに由来する構造単位と、その他の単量体に由来する構造単位の総量)100質量%中のN-ビニルラクタムに由来する構造単位の割合(質量%)は、得られる重合体を例えば中空糸膜の製造に使用した場合に中空糸膜の生産性、及び、性能が向上する傾向にあることから、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが最も好ましい。従って、その他の単量体に由来する構造単位の割合(質量%)は、50質量%未満であることが好ましく、20質量%未満であることがより好ましく、10質量%未満であることがさらに好ましく、0質量%であることが最も好ましい。
【0053】
本開示のN-ビニルラクタム系重合体は、高温で熱処理するといった加熱促進試験を行っても、架橋反応の進行によるゲル化物の生成量が少ないという特徴を有している。具体的には、例えば窒素通気下260℃で60分加熱した際のゲル化物の生成量は、本開示のN-ビニルラクタム系重合体に対して、3質量%以下であることが好ましい。より好ましくは2質量%以下であり、更に好ましくは1質量%である。最も好ましくは0質量%である。
ゲル化物の生成量が、前述の範囲であると、例えば、中空糸膜等の各種の用途に用いる際に、水で洗い流す工程で水に不溶な成分が残らないため好ましい。
本開示のN-ビニルラクタム系重合体は、アルコール化合物由来の構造単位(水酸基を含む構造単位)を有していることが好ましい。本開示のN-ビニルラクタム系重合体の全質量100質量%における、アルコール化合物由来の構造単位の割合(質量%)は、2.5質量%~30質量%以下であることが好ましい。より好ましくは2.6質量%~20質量%、更に好ましくは2.7質量%~18質量%である。
ここで、アルコール化合物由来の構造単位とは、例えば、アルコール化合物から水酸基の結合している炭素原子に結合している水素原子を一つ取り除いた構造単位が挙げられ、イソプロパノールを例に挙げると、-C(CH3)2-OHで表される。この構造単位が上記範囲であれば、N-ビニルラクタム系重合体の耐熱性が向上する傾向にあるため好ましい。本開示のN-ビニルラクタム系重合体の全質量における、アルコール化合物由来の構造単位の割合(質量%)は、1HNMR、MALDI-TOF等により定量することができる。
本開示のN-ビニルラクタム系重合体を前記本開示のN-ビニルラクタム系重合体の製造方法で製造した場合、アルコール化合物由来の構造単位を効率よく導入することが可能となり、主鎖末端に水酸基を効率よく導入することが可能となる。
本開示のN-ビニルラクタム系重合体のフィケンチャー法によるK値は、60~95が好ましく、65~93がより好ましく、更に好ましくは70~90である。本開示の製造方法は、高分子量のN-ビニルラクタム系重合体を、高温で加熱した際の耐熱性が向上する傾向にある。K値が上記範囲であれば、例えば、中空糸膜用途で使用する際に、孔の大きさを適切にでき、孔の表面への被覆力が高い傾向にあるという点で好ましい。
フィケンチャー法によるK値は、以下の測定方法によって求めることができる。K値が20未満である場合には5質量%(g/100ml)溶液の粘度を測定し、K値が20以上の場合は1質量%(g/100ml)溶液の粘度を測定する。試料濃度は乾燥物換算する。K値が20以上の場合、試料は1.0gを精密に計りとり、100mlのメスフラスコに入れ、室温で蒸留水を加え、振とうしながら完全に溶かして蒸留水を加えて正確に100mlとする。この試料溶液を恒温槽(25±0.2℃)で30分放置後、ウベローデ型粘度計を用いて測定する。溶液が2つの印線の間を流れる時間を測定する。数回測定し、平均値をとる。相対粘度を測定するために、蒸留水についても同様に測定する。2つの得られた流動時間をハーゲンバッハ-キュッテ(Hagenbach-Couette)の補正に基づいて補正する。
【0054】
【0055】
上記式中、Zは濃度Cの溶液の相対粘度(ηrel)、Cは濃度(質量%:g/100ml)である。
相対粘度ηrelは次式により得られる。
【0056】
【0057】
本開示のN-ビニルラクタム系重合体の重量平均分子量(Mw)は、200,000~2,000,000が好ましく、300,000~1,800,000がより好ましく、更に好ましくは500,000~1,600,000、更により好ましくは800,000~1,500,000である。本開示の製造方法は、高分子量のN-ビニルラクタム系重合体を、高温で加熱した際の耐熱性が向上する傾向にある。重量平均分子量(Mw)が上記範囲であれば、例えば、中空糸膜用途で使用する際に、孔の大きさを適切にでき、孔の表面への被覆力が高い傾向にあるという点で好ましい。
N-ビニルラクタム系重合体の重量平均分子量(Mw)は、実施例記載の測定方法によって求めることができる。
【0058】
〔N-ビニルラクタム系重合体組成物〕
本開示のN-ビニルラクタム系重合体組成物(以下本開示の組成物とも言う)は、本開示のN-ビニルラクタム系重合体を含む。本開示の組成物におけるN-ビニルラクタム系重合体の含有量は、特に制限されないが、例えば本開示の組成物100質量%に対し、0.1質量%以上、100質量%以下である。本開示の組成物は、N-ビニルラクタム系重合体のみを含んでいても良いが、任意のその他の成分を含んでも良い。
【0059】
本開示の組成物は、N-ビニルラクタムの含有量が、N-ビニルラクタム系重合体に対して、100ppm以下であることが好ましい。より好ましくは50ppm以下であり、更に好ましくは10ppm以下である。
【0060】
本開示の組成物は、単量体の含有量が、N-ビニルラクタム系重合体に対して、100ppm以下であることが好ましい。より好ましくは50ppm以下であり、更に好ましくは10ppm以下である。前記単量体は、前記重合工程等の製造時に使用したN-ビニルラクタムおよびその他の単量体であっても良い。本開示の組成物は、製造後に未反応で残存する単量体量(残存モノマー量)が、上記範囲であることが好ましい。本開示の組成物において、単量体は任意成分であり、単量体の下限量は0ppmである。
【0061】
本開示の組成物は、単量体由来の不純物量の含有量が、N-ビニルラクタム系重合体に対して、5000ppm以下であることが好ましい。より好ましくは3000ppm以下であり、更に好ましくは2000ppm以下であり、特に好ましくは1500ppm以下である。単量体由来の不純物としては、前記のとおりである。本開示の組成物において、単量体由来の不純物は任意成分であり、単量体由来の不純物の下限量は0ppmである。
【0062】
本開示の組成物は、特に限定されないが、アミン化合物、有機酸、耐熱性向上剤、溶剤などを含んでいても良い。
【0063】
〔N-ビニルラクタム系重合体の用途〕
本開示のN-ビニルラクタム系重合体および/または本発明の組成物は、特に限定されないが、中空糸膜の製造助剤、半導体用洗浄剤、接着剤や粘着剤用添加剤、電子部品製造用助剤、洗剤添加剤、化粧料用添加剤、増粘剤、インク添加剤、顔料分散剤、無機粒子の分散剤、塗料組成物用添加剤、表面処理剤、樹脂改質剤、無機物質のバインダー、セラミックバインダー、無機組成物用添加剤、繊維処理剤、機能性繊維用添加剤等の各種用途に使用することができる。
【実施例0064】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0065】
<N-ビニルラクタム系重合体の固形分の測定>
底面の直径が約5cmの秤量缶(質量W1(g))に、約1gの重合体を量り取り(質量W2(g))、150℃の定温乾燥機中において1時間静置し、乾燥させた。乾燥後の秤量缶+重合体の質量(W3(g))を測定し、以下の式より固形分を求めた。
固形分(質量%)=((W3(g)-W1(g))/W2(g))×100
<N-ビニルラクタム系重合体のK値の測定>
重合体に脱イオン水を添加して、固形分換算で1質量%の濃度になるように希釈し、その溶液の粘度を25±0.2℃において、ウベローデ型粘度計を用いて測定した。溶液が2つの印線の間を流れる時間を測定した。数回測定し、平均値をとった。相対粘度を測定するために、脱イオン水についても同様に測定した。2つの得られた流動時間をハーゲンバッハ-キュッテ(Hagenbach-Couette)の補正に基づいて補正した。
【0066】
【0067】
上記式中、Zは濃度Cの溶液の相対粘度(ηrel)、Cは濃度(%:g/100ml)である。
相対粘度ηrelは次式により得た。
【0068】
【0069】
<N-ビニルラクタム系重合体の重量平均分子量(Mw)の測定>
重合体の重量平均分子量について、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により下記の条件で測定して求めた。
装置:東ソー製 HLC-8320GPC
検出器:RI
カラム:昭和電工株式会社製 Shodex KD-806M(2本)、KD-G 4A
カラム温度:40℃
流速:0.8ml/min
検量線:Polystyrene Standards
溶離液:N,N-ジメチルホルムアミド(0.1%LiBr含有)
<N-ビニルラクタム系重合体のpHの測定>
重合体に脱イオン水を添加して、固形分換算で5質量%の濃度になるように希釈し、その溶液のpHを測定した。
【0070】
<N-ビニルラクタム系重合体のN-ビニルピロリドン及び2-ピロリドンの定量>
以下の条件で、液体クロマトグラフにより定量分析した。
装置:資生堂「NANOSPACE SI-2」
カラム:資生堂「CAPCELLPAK C18 UG120」、20℃
溶離液:LC用メタノール(和光純薬工業株式会社製)/超純水=1/24(質量比)、1-ヘプタンスルホン酸ナトリウム 0.04質量%添加
流速:100μL/min
<N-ビニルラクタム系重合体の耐熱性の評価>
底面の直径が5.4cmのアルミカップ(アズワン アルミカップ(60mL) No.107)に、5gの重合体溶液(固形分約20%の乾燥前の重合体溶液、又は、乾燥後に固形分換算で20質量%の濃度になるように脱イオン水で希釈した重合体溶液)を量り取り、250℃の乾燥機(ヤマト科学株式会社製 角形真空定温乾燥器 型式:DP33)中において20分間静置し、乾燥させた。得られた乾燥物をミキサーで粉砕し、固形分換算で1質量%の濃度になるように脱イオン水で希釈し、溶解性を評価した。不溶物がない場合は〇、ゲル化物等の不溶物(溶け残り)がある場合は×とした。
【0071】
<実施例1>
マックスブレンド型攪拌翼(SUS304製)、温度計、還流管、ジャケットを備えた1L反応器(SUS304製)に、N-ビニルピロリドン(株式会社日本触媒製、以下、VPとも称する)を160部、イソプロパノールを1.8部、脱イオン水を633部仕込み、ジエタノールアミン0.02部を添加して、単量体水溶液をpH8.3に調整した。この単量体水溶液を250rpmで撹拌しながら、200ml/分で30分間窒素置換を行い溶存酸素を除去した。次いで、窒素導入を30ml/分にし、250rpmで撹拌しながら、反応器の内温が70℃になるように加熱した。液温を70℃に安定させた後、2、2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(以下、「V-59」とも称する)0.31部をイソプロパノール3.0部に溶解した重合開始剤溶液を添加し、重合を開始した。重合開始剤溶液を添加した後、重合反応による内温の上昇が認められた時点から、ジャケット温度を内温に合わせて昇温(内温+0.3~2℃)して反応を行った。内温が最高温度に達した後、温度低下が認められた。その後、ジャケット温度を調節して内温を90℃に維持した。
重合開始剤溶液を添加してから3時間反応を継続した後、マロン酸0.14部を脱イオン水2.4部に溶解した酸水溶液を添加して、反応液をpH4以下に調整し、90℃で90分間内温を維持した。
次いで、ジエタノールアミン0.2部を脱イオン水2.9部に溶解したアルカリ水溶液を添加して、反応液をpH6~7に調整し、90℃で30分間内温を維持した。このようにして、約20%のポリビニルピロリドンを含有する重合体溶液を得た。
得られたポリビニルピロリドン水溶液を加熱面密着型乾燥機で乾燥した。加熱面密着型乾燥機として、回転ドラムを有するドラムドライヤー(カツラギ工業製)を用いた。該ドラムドライヤーにフィードロールを取り付け、フィードロールへ重合体溶液を供給した。フィードロールと回転ドラム間に滞留する重合体溶液の液量は一定になるように供給量を調整した。回転ドラムには蒸気を導入し、該ドラムの伝熱面の温度を140℃にした。また、回転ドラムは40秒で1周するように定速回転させ、フィードロールの外周部の周速を回転ドラムの外周部の周速となるようにフィードロールを回転させた。
回転ドラムにおいて重合体溶液の供給部から20~30秒ドラム回転した位置にあるスクレーパーで乾燥物をかきとることにより、シート状のポリビニルピロリドン乾燥物を得た。得られたシート状乾燥物をミキサーで目開き500μmのJIS標準篩を通過するまで粉砕し、粉末状のポリビニルピロリドン(重合体乾燥物)を得た。
【0072】
<実施例2>
初期仕込みのイソプロパノールを13.0部、脱イオン水を622部に変更した以外は、実施例1の通りにして重合し、約20%のポリビニルピロリドンを含有する重合体溶液を得た。次いで、実施例1の通りにして乾燥し、粉末状のポリビニルピロリドンを得た。
【0073】
<実施例3>
初期仕込みのイソプロパノールを21.0部、脱イオン水を614部に変更した以外は、実施例1の通りにして重合し、約20%のポリビニルピロリドンを含有する重合体溶液を得た。次いで、実施例1の通りにして乾燥し、粉末状のポリビニルピロリドンを得た。
【0074】
<比較例1>
初期仕込みのイソプロパノールを0部(入れない)、脱イオン水を635部に変更した以外は、実施例1の通りにして重合し、約20%のポリビニルピロリドンを含有する重合体溶液を得た。次いで、実施例1の通りにして乾燥し、粉末状のポリビニルピロリドンを得た。
【0075】
実施例1~3、比較例1で得られた粉末状のポリビニルピロリドンのK値、Mw、pH、N-ビニルピロリドン及び2-ピロリドンの定量評価を行った。また、乾燥前の重合体溶液の耐熱性評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0076】
【0077】
表1中のIPAはイソプロパノール、VPはN-ビニルピロリドン、2Pyは2-ピロリドンを表す。
【0078】
<実施例4>
実施例2で得られた粉末状のポリビニルピロリドンに、耐熱性向上剤としてヒドロキノンを、ポリビニルピロリドンに対して1%添加して、粉体混合した。得られた粉体を用いて、以下の通り、耐熱性評価を行ったところ、不溶物は見られなかった。(判定〇)また、色調も変化なく良好であった。
一方、比較例1で得られた粉末状のポリビニルピロリドンを用いて、同様の耐熱性評価を行ったところ、ゲル化物の不溶物が観察された。(判定×)また、茶変が確認された。
実施例2で得られた粉末状のポリビニルピロリドンを用いて、同様の耐熱性評価を行ったところ、不溶物は見られなかった(判定〇)が、少しの茶変が観察された。
<N-ビニルラクタム系重合体(粉体)の耐熱性の評価>
底面の直径が5.4cmのアルミカップ(アズワン アルミカップ(60mL)No.107)に、1gの粉末状の重合体を量り取り、240℃の乾燥機(ヤマト科学株式会社製角形真空定温乾燥器型式:DP33)中において10分間静置し、乾燥させた。得られた乾燥物を、固形分換算で1質量%の濃度になるように脱イオン水で希釈し、溶解性を評価した。不溶物がない場合は〇、ゲル化物等の不溶物(溶け残り)が確認される場合は×とした。
【0079】
以上の結果より、N-ビニルラクタムもしくは水に対し、ある一定範囲のアルコール化合物を含む溶媒で重合することにより、得られたN-ビニルラクタム系重合体は、高温下においても変性せず、耐熱性が高くなることが明らかとなった。また、耐熱性向上剤を添加すると、さらに耐熱性が高くなることが明らかとなった。